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2023年5月5日金曜日

物価上回る賃金上昇へあと一歩だ 20兆円程度の需要積み増しが必要 緊縮・引き締めなら景気は腰折れ―【私の論評】米国は消費税なしで成り立っている!問題の多い消費税制はいずれ廃止すべき(゚д゚)!


高橋洋一



 「物価高に賃金上昇が追いつかない」という状況が続いている。物価上昇はどこまで続くのか。そして賃金上昇が物価を逆転するのはいつで、どんな政策が必要なのか。元内閣参事官で嘉悦大教授の高橋洋一氏が読み解いた。高橋氏は、財務省の財政緊縮・増税路線に飲み込まれずに、政府が20兆円規模の需要拡大策を実施し、日銀が金融緩和を継続することが不可欠だと指摘する。

積極財政路線を警戒する財務省

 まず、足下の経済環境をみておこう。内閣府の2022年10~12月期四半期別国内総生産(GDP)速報(2次速報値、前年同期比)によれば、物価(GDPデフレーター)は1・2%上昇、雇用者報酬は同1・8%減だった。

 失業率は22年10月~23年2月で2・5%程度だ。ただし、この失業率の数字は雇用調整助成金により見かけ上、低めに出ていると考えたほうがいい。

 いろいろと批判もあったが、安倍晋三・菅義偉政権で有効需要100兆円にもなるコロナ対策を行い、日銀が金融緩和を継続したために、マクロ経済は底抜けをしなかった。

 筆者が常に強調しているNAIRU(インフレを加速しない最低の失業率、2%半ば程度)を達成するまでには至っていないが、その近くにあるのは間違いない。失業率はややNAIRUより高めで、インフレ率はインフレ目標を安定的に達成する水準よりやや低いという状況だ。

 ここで、インフレ率を消費者物価(除く生鮮食品)でみると、例えば今年3月は前年同月比3・1%なので、高いという意見もあるだろう。しかし、1月の4・2%をピークとして徐々に低下するものと見込まれる。GDPデフレーターが2%には達していないことからわかるように、まだ成長の好循環が起こるような状態にはなっていない。

 これは、やはり内閣府が発表した昨年10~12月期の四半期別GDP速報でのGDPギャップ(総需要と供給力の差)をみてもわかる。そこでは、10兆円程度とされているが、内閣府の推計は供給力の天井が過小推計になっている。これを筆者が補正すると、総需要が20兆円程度積み増されれば、半年後くらいに、失業率が実質的なNAIRUになり、GDPデフレーターでみたインフレ率が2%になる公算が大きい。その場合、賃金上昇率はインフレ率を1~2%程度上回るようになるだろう。

 要するに、今はあと一歩の状況だ。ここで、増税や利上げを行うと、せっかく良くなってきた経済を腰折れさせてしまう。

 岸田文雄政権の内閣支持率は上がっている。岸田首相は襲撃事件を乗り越え、さらに5月の先進7カ国(G7)広島サミットを成功裏に終えた後に衆院解散・総選挙に踏み切る可能性もささやかれている。

 たしかに、外交で岸田政権は覚醒した感がある。3月のウクライナ訪問のタイミングは見事としかいいようがないものだった。しかし、ここで自信を持って「防衛増税」や「異次元少子化対策増税」を打ち出してしまうと、経済は腰折れしてしまう。

 21年10月の衆院選の前に、当時の矢野康治財務事務次官が月刊「文芸春秋」で「バラマキ批判」論文を寄稿した。筆者は増税路線を仕掛けてきたのだと受け止めた。

 今回も齋藤次郎元事務次官が同誌に論文を寄稿し、同じように仕掛けているとみている。日銀総裁も黒田東彦(はるひこ)氏から植田和男氏に代わったので、財政政策・金融政策ともに緊縮・引き締めを行いやすい環境だ。

 岸田政権がそれをこらえて経済運営するのか、できないのか。それによって物価がマイルドに上がり、賃金がそれを上回るかどうかが決まるだろう。

高橋洋一(たかはし・よういち) 元内閣参事官・嘉悦大教授。1955年東京都出身。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒。博士(政策研究)。80年大蔵省(現財務省)入省。理財局資金企画室長、米プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉純一郎内閣、第1次安倍晋三内閣で経済政策のブレーンを務める。菅義偉内閣で内閣官房参与。「『日本』の解き方」は夕刊フジで月~金曜連載中。

【私の論評】米国は消費税なしで成り立っている!問題の多い消費税制はいずれ廃止すべき(゚д゚)!

上の記事で高橋洋一氏が指摘していること、全く正しいです。日本人の賃金が上がるかどうかは、岸田首相の決断一つにかかっています。

これに対しては、付け加えることもないので、もう導入されてから30年以上もたつ消費税であり、消費税があるのが当たり前になってしまった現在、消費税そのものの是非について語ることはほとんどなくなりましたが、今日はあらためて、それについて述べようと思います。

今から34年前の1989年に消費税が導入されました。それと同時に国は「法人税と所得税」の最高税率を引き下げた。さらに相続税の最高税率も引き下げています。

消費税導入の初日、ネクタイの買い物をする竹下登首相夫妻=1989年4月1日、東京都中央区

消費税の導入前は「法人税や所得税」という、儲かったところから税金を徴収していました。しかし、消費税導入後は赤字企業からも徴収します。その結果滞納も増えています。当然の結果です。

税率が上がれば、さらに格差は広がります。2012年に経団連(日本経済団体連合会)が消費税19%を提言しています。

このときの提言は、「消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%へ引き上げ、その後、2017~2025年度の間、税率を毎年1%ずつ引き上げ、最終的に19%とする」というものでした。

昨年10月、岸田総理が「消費税には触れない」と発言しており、今すぐの「増税」はない。しかし経団連や財務省の説明は、「国の基礎財政を維持するためには消費税率を上げる必要がある」としています。

現在、最も税収が多いのが消費税です。これが「19%」になれば、国民の税負担は単純に倍になります。

そしてトヨタが過去最高の業績を上げても輸出還付金が貰えるように、輸出大企業への還付金も倍になります。消費税率が上がれば、輸出大企業の税負担は減り、国民の税負担が増すのです。そうして、払えなくなる企業や個人もでてくことになります。

しかし、所得税のように「持っている人に課税」すれば無理なく徴収できるはずです。
「ある人から取って、ない人にまわす」これがアダム・スミスの租税原則です。アダム・スミスはイギリスの経済学者で、18世紀の市民革命期の租税思想を代表した人です。この人の考え方は、現在でも通じるものです。

以下にアダム・スミスの4大原則をあげておきます
■アダム・スミスの4大原則
〔1〕公平性の原則:各人の能力に応じて、公平に租税を負担すること。
〔2〕明確性の原則:租税は恣意的であってはならない。支払の時期、方法、金額は明確でなければならない。
〔3〕便宜性の原則:納税者が支払うのに、納税者の便宜をはかること。
〔4〕最小徴税費の原則:徴税のための費用が租税を上回ると“暴政”を招くので、徴税費は少ないほど良い。

アダム・スミスの像

「税負担は能力に応じて払いなさい」「能力の高い人は高い負担、能力の低い人は低い負担」というのがアダム・スミスの考え方です。

ドイツのワイマール憲法にも、税金は資力に応じて払うべきとありますし、フランス革命のきっかけは徴税問題です。

ところが消費税は「ないところから取って、あるところにまわす」。これを、あるところから取るようになれば、ある程度は下にもまわるはずです。

財務省や国会議員が「消費税を廃止したら国が立ち行かなくなる」と言いますが、この理屈は間違っています。消費税がなくても国は成り立ちます。

たとえば、米国には消費税がありません。消費税の原案を考えたのは米国人のシャウプ博士ですが、米国は熟考の末、消費税を導入しませんでした。消費税がなくても米国が立ち行かなくなってなどいません。

消費税導入前に一番税収が多かったのは「所得税と法人税」です。これは「儲かった人から取る」税金の双璧をなしていました。日本も消費税を廃止して、消費税導入前に戻せば良いのです。

しかしこのようなことを言うと、「日本は少子高齢化が進んでいるので、税収はどんどん減る。だから消費税を取らないと立ち行かなくなる」等という人もいますが、これは事実なのでしょうか。

しかし、少子高齢化が進めば、税収が減るが人口も減る。だから、やっていけないというのは間違いです。人口が減れば支出も減ります。だからバランスが取れることになります。

それに、「消費税」という税金の徴収が多ければ、物価が上がります。社会保険などの上限は決まっているので、高額所得者の負担金は減りますが、サラリーマンなど中間層から下の人の負担割合が増えていきます。だから所得格差が広がるのです。

低所得者層の負担が増えれば、当然、不景気になります。消費税は、「わずか少数の富裕層」がますます豊かになるだけです。人口の比率は、圧倒的に中間層から下の割合のほうが多いです。

「消費税」の負担が増えれば国民の税負担が増えて、世の中が不景気になります。逆に、消費税導入前のように、「儲けた人や企業に課税」するという、「法人税」や「所得税」の徴収が多ければ、本来の「税の基本概念」の通り、金持ちから貧乏人に健全に金が動くことになるのです。

さらに「消費税」のなかで、最も悪いのは「還付金」という制度です。この制度があるため、消費税は実質上「輸出企業への優遇税制」になっています。


税の基本概念は「富める者から、苦しんでいる者への分配」です。例えば、儲かっているクルマ屋さんがいたとします。そこが「利益の中から税金を納めて」、苦しんでいる他の会社や人を助ける。助けてもらって立ち直った人は、助けてくれたクルマ屋さんからクルマを買うことになります。そうやって「経済を循環させる」のが基本です。

しかし消費税は、赤字の会社からも「無理やり税金を徴収」するものです。

そうして「消費者から10%取りなさい」とは、消費税法の条文のどこにも書いていません。実は消費税は「消費者とは無関係」の税金なのです。

スーパーやコンビニなどで買い物をすると、10%消費税が乗ってきます。あれは自分が払っている消費税だと思っている人が99%でしょう。しかし、これは「消費税」ではないのです。「消費税」は、そういう税金ではありません。

コンビニやスーパーなどで物を買うと、10%消費税が乗ってきます。例えば、税率が10%上がったため100円のコーラが「110円」になったとしたら、普通、「10円分は国に納める」と思いますが、実はこれは消費税率が上ったことを「理由」に値上げされているのです。

「消費税」は、こういった“マヤカシ的”な説明のされ方をします。消費者が支払うのは商品代金であり、実際は消費税の納税義務は事業者にあります。しかし、事業者は10%を国に支払っていない。

消費税は、小売りの商品1個にかける税金ではなく、事業者が「1年間の総売上高×10%」から「1年間に仕入れた額×10%を引いた」その“残り”に対して10%かけた金額を納税します。

事業者が差し引くことが出来るのは、物品の仕入れだけではない。工場の建設費や社用車を買った、社員のユニホームを買った、家賃を払ったなど、いろんなものをそこから差し引くことが出来ます。

そこではじめて「10%」という数字が法律で出てくるわけで、「消費者から10%取りなさい」というのは条文のどこにも書いていないのです。

例えば、社屋を新築して工務店に多額の工賃を払ったとすると、「払った分は引ける」わけですから、その年は「消費税を国に納めなくてもいい」ということも起こり得るのです。

お店側も、「お客さんから預かって納めるだけだから楽だ」という単純な性質のものでなく、非常に煩雑な計算をして税額が決まるのです。

消費税率は10%だから、我々が払ったものはそっくり税務署・国に入るかのように感じますが、実は違うのです。「自分の税金」がどこに行ったかなど本当は正確には分かりません。

事業者は消費税など預かっていませんし、合法的に納税額をコントロールすることが出来るのです。

要するに、国民から10%の消費税を払わせているように思わせているだけで、純粋な商品代金なんです。これはマヤカシと言われても仕方ないと思います。このような事を言うと、半信半疑の人もいるかもしれませんが、現実に消費税は「値増し販売」であるという裁判の判決も出ています。

実際過去に「消費税がおかしい」と裁判所に訴えた人がいます。平成2年3月26日に東京地裁で行われた裁判で判決が出ています。

その判決には「消費者が払っていると思っているのは錯覚ですよ。あれは“消費税”という税金ではありません。あれは“物価の一部”です」と書かれています。

要するに、我々消費者が「税金」だと思って支払っていた「10%」は、商品代金の一部であって消費税ではないのです。つまり、値引き販売ならぬ「値増し販売」が行われているのです。

先にも述べたように、消費税の原案は、米国人のシャウプ博士が考えたものです。皆さんは「付加価値税」という名前を聞いたことがあるかもしれません。これは、英国などでも課されている税金です。英語では 「VAT(Value Added Tax)」です。これを最初に考えたのが、米国のシャウプ博士です。

昭和24年 (1949)商店主と税金について語るシャウプ博士(右眼鏡の人物)(福岡県福岡市)

シャウプ博士は戦後の1950年(昭和25年)に来日して日本の税制を考えたときに、初めて日本に「付加価値税」っていう税金を導入しようとしました。彼が作った税制は、今の消費税と全くスタイルが同じです。ただ、違うのは消費者が払う「間接税」ではなくて「直接税」ということです。

今、日本にある「法人事業税」という税金を変えて、税金を作ろうとしたわけですが、日本の国会で通ったものの、4年間塩漬けになって結局は廃案になりました。廃案になった最大の理由は「赤字会社への課税」という部分でした。当時の財界が猛反対したためです。当時は、輸出産業より、戦後復興・内需拡大が優先されていたからです。

消費税が現状のようになってしまったのは、フランス政府が自国の輸出企業を支援するために、「直接税」だった付加価値税を、無理やり消費税という「間接税」にしたことで、錯覚を起こしやすい税金にしてしまったことによります。

フランスは輸入が多くて、輸出が少ない国です。クルマのルノーもなかなか売れません。それで悩んで考えた末に、「一生懸命やっている輸出企業を応援しようじゃないか」となり。応援するにはどうしたらいいかということになり「税金を低くすこと」になったのです。

しかし、当時「GATT(関税及び貿易に関する一般協定)」という協定で法人税を下げることが禁止されている。「じゃあ、間接税ならいいんじゃないか」ということで、本来、シャウプ博士が考えた「直接税」であった付加価値税を「間接税」として導入したのです。これは「大企業に還付金を与えるために考え出したもの」です。

このようなことを言うと、消費税は「輸出企業応援税制」だから、消費税を廃止したら大企業の国際競争力がなくなるではないかという声が聞こえてきそうです。しかし、はっきり言いますが「消費税を廃止したら、大企業の国際競争力がなくなる」は“屁理屈”です。

その理由は先程もあげたように「米国」です。米国にはそもそも消費税がありません。「輸出企業応援政策」がなくても、国際貿易ができています。日本でも同じはずです。

「消費税を上げると国際競争力が高まる!」と言うのは“大企業と財務省”だけです。世界では「法人税の下げ止まり競争を止めましょう」という流れになってきています

「消費税を上げて、法人税を下げろ」を言うのは、大企業と財務省だけです。消費税を上げると、国際競争力ではなく、還付金により間違いなく大企業の「資金繰りが楽」になります。

「法人税が高いと国際競争力がなくなる。法人税は上げられない」などという声を聞くこともありますが、現在法人税は下げ過ぎです。

世界的には「法人税の下げ止まり競争を止めましょう」という議論が起こっています。日本では、消極的ですが、この考え方の方がスタンダードになってきています。

理想的には、やはり消費税を廃止して、導入前の高い法人税率に戻すこと。そうすれば、景気も良くなります。無論、それとともに、現状の日本では、上の記事で高橋洋一氏が語っているように、総需要が20兆円程度積み増する必要があります。これに消費税増税などを用いるのは、本末転倒です。

輸出企業は、消費税制によって「輸出還付金」等という、ぬるま湯に浸かっています。しかし、還付金がなければ「努力して世界で売れる商品を作り続ける」しか生き残る術はありません。最近、企業の国際競争力が落ちてきたなどといわれていますが、その背景にはこのようなこともあります。

消費税制で還付金制度を設ける方式にするのか、従来並に法人税が高いのか、どちらが発展するか等、答えは明白です。それは、なぜ昔はSONYなどの企業が世界の最先端を行っていたのに、現在は米国GAFAなどに後塵を拝しているような状況になっているかを考えればすぐにわかります。

それにしても「財務省や政治家」のような国民の幸せを考える側の人が、なぜ「消費税」に賛成するのでしょうか。それは、おそらく国民に喜んでもらうより「大企業に喜んでもらう」ほうが何かと都合が良いからだと思います。

あとは教育でしょう。有名大学の教授の多くが「大企業が強い国が経済大国」という考えななのです。官僚は、学生の頃からこのような教育されているのでしょう。

このような見方に対して、大企業の経営者や財務官僚は、「法人税率が高いと、日本を出て海外に拠点を移す」と言いますが、これも屁理屈に過ぎません。

法人税率が高いと、確かに安い税金は魅力的だと考える企業はあるでしょう。しかし、政府の統計にもありますが、海外に本社機能を移転するのは「人件費が安い」「莫大な工場用地を確保できた」という理由が圧倒的です。

それに、日本の証券取引所で株式を上場している企業が、税金が安いからという理由だけで「節税のため、本社は○○国です」と言って通すのでしょうか。私はそのようなことはないと思います。少なくと、本社機能は日本に残すと思います。

興味深いことには、「税金が安いから他の国に出る」ということを、最も許さないと考えているのは財務省なのです。財務省はさまざまな法律を作って、「税金が理由で日本を離れようとする企業」に規制を設けて防御しています。

ただ、これも本当に矛盾しています。平成年間には、デフレであろうがなかろが、財務省は消費増税を繰り返し、日銀は金融引き締めばかりを行っていました。そのため、デフレ・円高がすすみ、日本で製品を組み立てるよりは、中国などで製品を組み立てそのから輸出したほうが、はるかにコストが安くなるため、多くの企業が生産拠点を海外に移しました。国内産業の空洞化が進展しました。

結局のところ、財務官僚は増税によって、自ら他省庁への資金の差配力を増し権力を巨大化し、輸出企業を味方につけ、結局天下り先で優雅な生活を送りたいだけなのでしょう。

そのため、国民が苦しもうが、政府が国民の支持を失い、政権が安定せずに、短期政権になったすることなどはお構いなしで、増税するのでしょう。それが、財務省の増税の本当の理由ですから、そのようなことは口が避けても言えないのでしょう。まだ、そのくらいの恥じらいはあるようです。

しかし、その本音は隠して、さまざまな屁理屈をつけて結局は増税するので、さまざまな矛盾が噴出するのでしょう。消費税には他にも問題点があります。ここで述べるとまた長くなるので、いずれ機会を改めて掲載しようと思います。


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2021年10月19日火曜日

「分配公約」だらけの衆院選、より切実なのは成長戦略だ 規制改革や公務員改革が不十分…第三極に活躍の余地も― 【私の論評】本気で分配や所得倍増をしたいなら、その前に大規模な金融緩和をすべき(゚д゚)!

「分配公約」だらけの衆院選、より切実なのは成長戦略だ 規制改革や公務員改革が不十分…第三極に活躍の余地も 
高橋洋一 日本の解き方

 19日公示の衆院選で、主な争点や勝敗ライン、野党共闘について考えてみたい。

 自民党と立憲民主党の選挙公約をみると、ともに「分配」を打ち出している。自民党は「成長と分配の好循環」、立憲民主党は「分配なくして成長なし」と似通った表現だ。


 分配政策をどのようにやるかといえば、自民は非正規雇用の人や学生などへの経済的支援や、賃上げに積極的な企業への税制支援を挙げている。立民は年収1000万円程度以下の所得税を一時的に実質免除、消費税を5%に時限減税、低所得者への12万円給付としている。

 財源について自民では特に言及せず、立民では所得税の最高税率引き上げ、金融所得課税強化、法人税に累進税率導入としている。

 岸田文雄首相は「成長なくして分配はない」と指摘し、金融所得課税を当面見直さないことも発言した。こうしてみると、同じ分配政策でも、その程度は自民の方が少なそうだ。

 そもそもなぜ分配政策なのか、筆者には疑問だ。というのは、3年ごとに調査されている再分配後のジニ係数(所得格差を示す指標)でみると、ここ30年間では2005年が最も高く、それ以降低下している。つまり、近年分配は、なされているのだ。日本の再分配後のジニ係数は経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも標準的だ。

 世界でみると、富の偏在は1990年代以降拡大傾向であったが、2010年代にはおおむね横ばいになっている。

 こうした状況を考えると、今の日本で分配政策の優先順位はそれほど高くない。むしろ、岸田首相が「成長なくして分配はない」と言うように、成長の方がより切実だ。

 成長戦略をみてみよう。自民は、大胆な危機管理投資と成長投資、金融緩和、積極財政、成長戦略を総動員といい、立民は中長期的な研究・開発力の強化、グリーンや医療などで新たな地場産業創出を盛り込んだ。ともに投資を強調しているが、自民はマクロ経済政策も動員するとしているのに対し、立民はマクロ経済政策の発想がうかがえない。

 自民も立民も規制改革の視点が欠けており、成長戦略からはやや遠くなっている。

 「分配」を自民まで言い出したので、立民は、左派としての立ち位置の確保に苦慮しているようだ。規制改革や公務員改革が言えないので、生産性向上の施策が欠けて、政策論争としては苦しいだろう。一方、自民も左に寄ったので、規制改革や公務員改革が不十分になっている。そのあたりに、第三極の活躍の余地が出ている。

 岸田政権の勝敗ラインは、自民と公明党合わせて過半数の233議席だ。

 野党共闘は、9月30日に立民の枝野幸男代表と共産党の志位和夫委員長が限定的な閣外協力で一致した。立民の支持団体である連合は閣外協力に反対しているが、両党は衆院220選挙区で一本化や候補者調整を行った。これは自公にかなりの脅威だろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】本気で分配や所得倍増をしたいなら、その前に大規模な金融緩和をすべき(゚д゚)!

岸田総理、分配を重視するとか、所得倍増計画を実施する、さらには新しい資本主義ということも語っていますが、一体何をしたいのかわかりません。

分配に関しては、総裁選の最中には「分配なくして成長なし」ということも言っていました。これは、ありえないないことです。「成長なくして分配なし」というのではあれば、筋は通ります。

しかしそもそも、「分配から成長へ」というのは無理です。これは、民主党政権のときに非難を受けて、わかりきった話です。岸田総理は民主党政権のときの政策に戻ると言っているようなものです。

そのせいでしょうか最近では、「成長なくして分配なし」と語っています。

また、「新しい資本主義」ということも語っていますが、これに関しては何をしたいのか皆目検討もつきません。

個別具体的なところでは、「賃上げに積極的な企業への税制支援」や「看護師・介護士・保育士などの所得向上のため、報酬や賃金の在り方を抜本的に見直す」ということなどを掲げているようですが、これの何が正しいのか理解に苦しみます。

岸田総理の所信表明演説では、「規制改革」という言葉が一つもありませんでした。「規制改革」という言葉、最初に所信表明演説にでたのは、1979年の大平政権で出た言葉でした。その後の政権においても、この言葉は必ずありました。もちろん菅政権までずっとあり続けました。

今回は入っていなかったのでかなりの衝撃でした。いういまのところ「規制改革をやらない」ことを「新しい資本主義」と呼んでいるにしか考えられません。

さすがに、自民党の公約集には少し出ていますが、それでも従来から比較するとウェイトはかなり減っています。官僚は大喜びでしょうが、今後特に伸びることが期待できる産業が「規制改革」よっては起こりそうもないといことで、市場関係者はがっかりしたことでしょう。

これでは、令和版の所得倍増計画も実行できないでしょう。実質経済成長率を高めるような、規制改革がないと賃金を上げるのは難しいです。それとともに、需要の話では、マクロ経済政策でインフレ目標を高めたりしないと無理です。しかし、それはせずに「インフレ目標2%を厳守」などと言い出し、2%近傍になったとたんに、緊縮財政・増税、金融引締すべきなどと言い出しかねません。

過去においては、実質賃金ベースでは30年間ほどで1%くらいしか伸びなかったのですが、これを繰り返すことになりかねません。1%くらいしか伸びないと、倍増するのに75年程度かかります。

インフレ目標2%に固執することなく、いっとき4%くらいに上げて、需要の方でも高圧経済気味にすれば、簡単に名目賃金上昇率を5%くらいにできます。名目賃金上昇率の目標を5%にすると所得倍増が13年~14年間で達成できます。これは、過去賃金がほとんど上がらなかった日本にとっては良い目標になります。

まさに米国はその局面に来ていて、月次ですが物価が4%~5%上昇しています。 

ここで当面4%〜5%であっても良いと割り切ってしまうべきなのです。日本にあてはめれば「インフレ目標2%が達成できないから引き下げろ」と言わずに、逆に4%に上げてしまえば良いのですよ。

もっと言えば、2%くらい簡単にクリアできるから、4%にすれば、達成率が半分でも2%になるでしょうということです。 

「4%まで踏んでいいのだ」ということになると、思いきり踏めますから、そうなると所得倍増計画も達成できる可能性が出てくるのです。

しかし、インフレ目標4%などというと、「ハイパーインフレ」になると目をむく人もいますが、それは最近このブログでも解説したように、現在の世界は過去のようにインフレになりにくい状態になっているので、4%を5年、10年と継続するのではなく、数年であればハイパーインフレになる心配はありません。

それに、これに関しては世界中で様々な実例があります。このブログだと、英国の事例を随分前にあげたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【五輪閉会式】景気後退、将来への懸念は消えず 政争の予感も―【私の論評】イギリスの今日の姿は、明日の日本の姿である!!
この記事の「五輪」とは今年、「東京五輪」のことではありません。2012年のロンドン五輪のことです。ちなみに、この時は現在の英国首相のボリス・ジョンソン氏は、ロンドン市長であり、直接ロンドン五輪に関わっていました。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部引用します。 

大失敗した、英国の増税策の概要をみ。2010年5月に発足したキャメロン保守党・自由民主党連立政権はさっそく付加価値税率17・5%を11年1月から20%に引き上げる緊縮財政政策を決定しました。他にも銀行税を導入するほか、株式などの売却利益税の引き上げ、子供手当など社会福祉関連の予算削減にも踏み切りました。

他方で法人税率を引き下げ、経済成長にも一応配慮しましたた。こうして国内総生産(GDP)の10%まで膨らんだ財政赤字を15年度までに1%台まで圧縮する計画でしたが、このまま低成長と高失業が続けば達成は全く困難な情勢です。

窮余の一策が、中央銀行であるイングランド銀行(BOE)による継続的かつ大量の紙幣の増刷(量的緩和)政策に踏み切りました。BOEといえば、世界で初めて金(きん)の裏付けのない紙幣を発行した中央銀行だ。
上のグラフを良く見てほしいです。BOEは11年秋から英国債を大量に買い上げ、ポンド札を金融市場に流し込みました。マネタリーベース(MB)とは中央銀行が発行した資金の残高のことです。BOEは08年9月の「リーマン・ショック」後、米連邦準備制度理事会(FRB)に呼応して量的緩和第1弾に踏み切りましたが、インフレ率が上昇したのでいったんは中断していました。
インフレ率は5%前後まで上昇しましたが、そんなことにかまっておられず、今年5月にはリーマン前の3・7倍までMB(マネタリー・ベース)を増やしました。そうして、この事実は、このブログでも以前紹介したように、反リフレ派がいう、「不況だかといって大量に増刷すれば、ハイパーインフレになる」というおかしげな理論が間違いであることを裏付ける格好のケーススタディーとなっていました。
幸いというか、全く当たり前のことですが、インフレ率は需要減退とともにこの5月には2・8%まで下がりました。国債の大量購入政策により、国債利回りも急速に下がっています。

しかもポンド札を大量に刷って市場に供給するので、ポンドの対米ドル、ユーロ相場も高くならずに推移し、ユーロ危機に伴う輸出産業の競争力低下を防いでいます。それでも、イギリス経済は、未だ不況のままで、先日もこのブログで述べたように、EUの不況もあり、結局ロンドンは地元観光客も、EUの観光客も例年に比較しても少なく、閑古鳥が鳴いていたという状況で、経済波及効果はほとんどありませんでした。 
ただし、この時イギリスが金融緩和に踏み切っていなければ、イギリス経済ははるかにひどい状態になっていたでしょう。そうして、これによって金融緩和政策の実施により一時的にインフレ率が4%〜5%になっても、その後すぐにハイパーインフレになることはないということが実証されました。

ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏が、以下のようなことを語っています。

ポール・クルーグマン氏
インフレ懸念論は大間違いだときっぱり言い切るぼくらに対して,イギリスが反例に出されることがあった――「イギリスは高失業率な上にあちこちで経済停滞がみられるけれど、インフレ率は上がりっぱなしじゃないか!」なんてね。これはたんに一度っきりの特別な出来事(ポンドの下落、付加価値税の引き上げ、一次産品の値上がり)が続いただけで、インフレはやがて低くなっていくよ、と反論しても、バカにされたっけ。
これは、不況時であっては、増刷するべしというクルーグマンらの主張に対して、そんなことをすれば、ハイパーインフレになるだけで、不況から脱することはできないとする人々から、良くイギリスが引き合いに出されていたことに対するクルーグマンの反証です。

その後、イギリスの事例のようなことが世界中で何度もあっても、ハイパーインフレになることはありませんでした。そのため、インフレ懸念論は世界中から姿を消しました。

ただし、例外もありました。それは日本です。日本では、リーマンショック後もイギリスも含めたほとんどの諸国が大規模な金融緩和を下にも関わらず、日銀はそうしませんでした。そのため、日本はリーマンショックが長引き、震源地の米国や、その影響をもろに被った英国が回復した後も、長い間深刻なデフレと円高に悩まされました。無論賃金もあがりませんでした。

岸田首相をはじめ、日本の政治家は財務省のレクチャーなどは受けずに、以上のようなことを自分で勉強すべきです。他の人からレクチャーを受ければ良いという人もいるかもしれませんが、それだけでは不十分です。やはり、特に雇用や賃金に関しては、自分が納得するまで理解すべきです。これをするには、難しい数学や、経済理論を学ばなくてもできます。

それが、できているのは、安倍元首相、高市早苗政調会長とその他若干の例外的な人たちだけです。残念なことです。

分配や賃上げの前に、金融緩和を考えるべきです。金融緩和なしに、分配、賃上げはできません。

過去30年間、日本人の賃金があがらなかったのは、日銀の金融政策の間違いによるものです。日銀が過去のほとんどの期間を金融引締に走ったがために、日本人の賃金は上がらなかったのです。それは、過去に日本の日銀のように金融引締を継続しなかった中央銀行が存在している他国では、賃金が倍増しているという事実からも明らかです。

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2019年10月15日火曜日

消費税12%への増税は数年内に来る! 海外の“反緊縮”の流れ無視して世論誘導を図る「総動員体制」―【私の論評】仰天電撃解散で、菅内閣樹立!安倍総理は財務大臣となり財務省改革を(゚д゚)!

消費税12%への増税は数年内に来る! 海外の“反緊縮”の流れ無視して世論誘導を図る「総動員体制」

悲願の増税を果たした財務省。これで打ち止めではないのか

  10月から消費税率が10%に引き上げられたが、財務省はこれで満足するはずもない。次の引き上げは、どのような形やタイミングを狙ってくるのか。

 これまでの消費税の歴史は、1989年4月に3%で創設され、97年4月に5%に、2014年4月に8%、そして19年10月に10%となった。30年間で3回、計7%の消費増税である。次は12%への増税を数年のうちに狙ってくるだろう。

 安倍晋三首相は消費税率について「今後10年は上げる必要はない」と述べたが、首相退陣後5年もたてば、その発言の効力はなくなるので、財務省は気にしていないだろう。

 10年くらいのスパンで考えると、自公政権は1度や2度は必ず弱くなり、その間に政権交代もあり得るかもしれない。そのときが財務省の狙い目である。政権運営に不慣れなところをつき、民主党時代の与野党合意による消費増税と同じ夢をもう一度と願っているだろう。

 現在のような長期政権も財務省にとっては増税の狙い目だ。政権運営のためには、財務省の予算作成能力は欠くことのできないものだからだ。

 財務省はマスコミや経済界に対してアメとムチを持っており、その能力を侮ることはできない。安倍政権は、経済産業省の官僚をうまく使うことで財務省の官僚に取り込まれないようにしてきたが、財務省は安倍首相の盟友である麻生太郎財務相を取り込んで、1つの政権下で2回という消費増税を成し遂げた。

 短期政権が続くと、財務省もかなり困るだろう。しかし、今回、軽減税率によってマスコミの頂点に立つ新聞を取り込んだので、マスコミをフル稼働し財政再建・財政緊縮(増税)キャンペーンを続けるだろう。

 財政再建・財政緊縮(増税)の思想は、成功した経営者と親和性があるので、一定の社会的な理解を得やすいだろう。

 ただし、海外では、過度な緊縮思想による経済運営は危険だとの意見が多くなっている。財務省お得意の論法は、「海外ではこうなっている」という事例を用いて世論を誘導することだが、おそらく海外での思想の変化には言及せず、欧州では消費税の税率が20%以上と高くなっていることを強調するだろう。

 そこでは、欧州以外では10%程度の国が多いという事実や、欧州の場合、国土が小さく、国を超えた人の移動が比較的自由なために、所得税では十分に対応できないので、結果として消費税に頼らざるを得ないという事実は無視される。

 こうした財務省の論法のおかしな点が報じられることは少ない。一般的なマスコミで重用されている学者、エコノミストや経済評論家は、税に関する知識などで財務省に依存している人も多いので要注意だ。

 筆者は既存のマスコミへの露出度合は大きくないが、ネット社会では引き続き指摘していくつもりだ。

 しかしながら、財務省は今後、軽減税率を新聞から書籍やネットメディアにも拡大してまでも、こうした自由な言論を抑えてくる恐れもゼロでない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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ブログ冒頭の、高橋洋一の記事で「欧州以外では10%程度の国が多いという事実や、欧州の場合、国土が小さく、国を超えた人の移動が比較的自由なために、所得税では十分に対応できないので、結果として消費税に頼らざるを得ないという事実」ということが言われています。

これは、事実ですが、さらにEUと日本の違いがあります。それは、EUでは低所得層に対する支援が行き届いているということがあります。

このことを無視して「ヨーロッパの先進国に比べれば日本の消費税はまだ全然安い」消費税推進派の人たちは、よくこう言います。というより、このことを最大の武器にしてきました。

消費税の最大の欠点は、「低所得者ほど負担が大きくなる」ということです。年収200万円の人は、年収のほとんどを消費に使うので、年収に対する消費税の負担割合は、限りなく10%に近くなります。


一方、年収1億円の人はそのすべてを消費に回すことはあまりありません。2割を消費に回すだけで十分に豊かな生活ができます。2000万円の消費に対する消費税は200万円です。

そうすると年収1億円に対する消費税の負担割合は、2%に過ぎません。つまり、年収200万円の人からは年収の10%を徴収し、年収1億円の人からは年収の2%しか徴収しないのが、消費税なのです。このように間接税というのは、低所得者ほど打撃が大きいのです。

EUの先進国は、間接税の税率は高いですが、低所得者に対する配慮が行き届いています。EUでは、低所得者に対して様々な補助制度があります。

英国では生活保護を含めた低所得者の支援額はGDPの4%程度です。フランス、ドイツも2%程度あります。が、日本では0.4%程度なのです。当然、低所得者の生活状況はまったく違ってきます。

日本では、低所得者の所得援助というと「生活保護」くらいしかありません。しかも、その生活保護のハードルが高く、本当に生活に困っている人でもなかなか受けられるものではありません。

日本では、生活保護基準以下で暮らしている人たちのうちで、実際に生活保護を受けている人がどのくらいいるかという「生活保護捕捉率」は、だいたい20~30%程度とされています。

生活保護というと不正受給ばかりが取り沙汰されますが、本当は「生活保護の不受給」の方がはるかに大きな問題なのです。英国、フランス、ドイツなどの先進国では、要保護世帯の70~80%が所得支援を受けているとされています。

EUの先進国では、片親の家庭が、現金給付、食費補助、住宅給付、健康保険給付、給食給付などを受けられる制度が普通にあります。また失業者のいる家庭には、失業扶助制度というものがあり、失業保険が切れた人や、失業保険に加入していなかった人の生活費が補助されるのです。この制度は、英国、フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデンなどが採用しています。

たとえばドイツでは、失業手当と生活保護が連動しており、失業手当をもらえる期間は最長18か月だけれど、もしそれでも職が見つからなければ、社会扶助(生活保護のようなもの)が受けられるようになっているのです。

他の先進諸国でも、失業手当の支給が切れてもなお職が得られない者は、失業手当とは切り離した政府からの給付が受けられるような制度を持っています。

また貧困老人に対するケアも充実しています。たとえばドイツでは年金額が低い(もしくはもらえない)老人に対しては、社会扶助という形でケアされることになっています。

フランスでも、年金がもらえないような高齢者には、平均賃金の3割の所得を保障する制度があり、イギリスにも同様の制度があります。

さらに住宅支援も充実しています。フランスでは全世帯の23%が国から住宅の補助を受けています。その額は、1兆8千億円です。またイギリスでも全世帯の18%が住宅補助を受けています。その額、2兆6千億円です。 日本では、住宅支援は公営住宅くらいしかなく、その数も全世帯の4%に過ぎません。支出される国の費用は、わずか2000~3000億円程度です。先進諸国の1~2割に過ぎないのです。

またヨーロッパ諸国では、軽減税率も細やかな配慮があります。日本でも、今回2019年10月の増税からは、軽減税率が適用されることになっています。が、軽減税率と言っても8%に据え置かれるだけですから、たった2%の軽減しかないのです。

一方、イギリス、フランスなどでは、軽減税率が細かく設定され、食料品や生活必需品は極端に税率が低いなどの配慮がされています。イギリス、フランスの付加価値税の軽減税率は次の通りです。
●英国の付加価値税の税率・標準税率20%
・軽減税率5%  家庭用燃料・電力の供給、高齢者・低所得者を対象とした暖房設備防犯用品等、チャイルドシート、避妊用品など
・軽減税率0% 食料品(贅沢品以外)、上下水道、出版物(書籍・新聞・雑誌)、運賃、処方に基づく医薬品、医療用品、 子ども用の衣料・靴、女性用衛生用品など

●フランスの付加価値税の税率
・標準税率20%
・軽減税率10% 惣菜、レストランの食事、宿泊費、旅費、博物館などの入場料
・軽減税率5.5% 水、非アルコール飲料、食品(菓子、チョコレート、マーガリン、キャビアを除く)、書籍、演劇やコンサート料金、映画館入場料
・軽減税率2.1% 演劇やコンサートの初演(140回目まで)、処方のある医薬品、雑誌や新聞
・非課税  医療、学校教育、印紙や郵便切手
ただし、私自身は、軽減税率には反対です。このような複雑なことをせず、減税、給付金、補助金などで対応すべきと思います。

とはいいながら、このように、軽減税率も含めてEU諸国は低所得者に手厚い配慮をした上での「高い消費税」なのです。しかし、日本では低所得者の配慮などほとんど行わないまま、名ばかりの軽減税率はあるものの、複雑で混乱を生じさせているだけです。

そうして、消費税をガンガン上げています。 最近、国際機関から「日本の貧困率、貧富の格差は先進国で最悪のレベル」という発表が時々されます。それは、こういう日本のお粗末な政策が数値としてはっきり示されているのです。

「日本の場合は深刻な少子高齢化社会になっているので、イギリス、フランス、ドイツなどとは状況が違う」と思っている人もいるでしょう。ところが、実は少子化という現象は、日本だけのものではありません。むしろ、欧米の方が先に少子化になっていたのです。日本の少子化というのは1970年代後半から始まりました。一方、欧米では1970年代前半から少子化が始まっていました。

そして1975年くらいまでは、欧米の方が日本よりも出生率は低かったのです。つまり、40年以上前から少子高齢化というのは、先進国共通の悩みだったのです。

ところが、この40年の間、欧米諸国は子育て環境を整えることなどで、少子化の進行を食い止めてきました。1970年代の出生率のレベルを維持してきたのです。だから、日本ほど深刻な少子高齢化にはなっていません。

一方、日本では、待機児童問題が20年以上も解決されないなど、少子化対策をまったくおざなりにしてきました。そのために、1970年代から出生率はどんどん下がり続け、現在、深刻な少子高齢化社会となっているのです(下グラフ参照)。これを見ても、日本の経済政策がいかに愚かだったかわかるはずです。



そんなところに、安倍政権が出現して、いっときは3本の矢の政策を打ち出し、増税も二度も先送りして、日本経済は随分回復しました。特に、雇用はかなり改善しまた。しかし、14年の8%増税に続き、今年10月には10%増税が実行されてしまいしました。

これでは、また日本はデフレだった頃の昔の日本に戻ることになってしまいます。 こういう愚かな日本の政治状況を、何の改革もせずに、ただただ消費税を上げるだけでは、日本は完全に壊れてしまうはずです。

それを財務省は実行しようとしているのです。そのような財務省の暴走はいずれ誰かが止めなければなりません。

今後、日本がデフレに舞い戻り、経済がかなり悪化した場合には、内閣支持率が下がり、今後の選挙では議席数をかなり減らし、安倍総理の念願である改憲どころではなくなるかもしれません。

このままだと、安倍政権は、民主党よりはましな政権として、そうして安倍総理は消費税を二度増税した総理として歴史に刻まれることになってしまいます。そうして、政権は完璧にレームダックになってしまうでしょう。

では、今後安倍政権はどうすべきなのでしょうか。一つのシナリオを考えてみます。

安倍首相が消費税の5%への減税を宣言します。さらには、 軽減税率の適用をやめ、低所得層への補助金・給付金制度を打ち出します。そうして、総辞職。電撃的に自民党総裁選を行い、一気に菅内閣を樹立。

菅官房長官が総理に?

そうして、その後の組閣で、麻生氏は財務大臣以外の大臣となり、安倍総理は、財務大臣に就任して、本格的な財務省改革を行うことを宣言するのです。

人心一新、過去の増税の単なる延期等ではなく財務省改革、景気回復までの政策を公約に総選挙を断行するのです。そうすれば大勝もありえます。ここまでやるシナリオなら多くの支持を集めることができるでしょう。経済も良くなり、憲法改正もできます。安倍晋三氏は偉大な宰相として、歴史に名を留めることになるでしょう。

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2019年7月28日日曜日

ジョンソン新英首相、EU離脱は「とてつもない経済好機」―【私の論評】ブレグジットの英国より、日本のほうが経済が落ち込むかもしれない、その理由(゚д゚)!

ジョンソン新英首相、EU離脱は「とてつもない経済好機」

ボリス・ジョンソン氏

ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)英首相は27日、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット、Brexit)について、テリーザ・メイ(Theresa May)前首相の下では「有害な天気事象」として扱われていたが英国にとって「とてつもなく大きな経済好機だ」と主張した。

 ジョンソン氏は中部マンチェスターで行った演説で、「英国民がEU離脱の是非を問う国民投票で反対票を投じた相手はEUだけではない。英国政府にも反対を突き付けたのだ」と述べ、離脱派が勝利した地域に新たな投資を行うと明言。EU離脱後に向けて貿易協定交渉を推し進め、自由貿易港を設置して景気浮揚を図ると確約した。

 さらに、財政難にある100自治体を支援するため、36億ポンド(約4800億円)を投じて基金「タウンズ・ファンド(Towns' Fund)」を設置し、そうした自治体に必要な交通輸送網の改良やブロードバンド接続の向上を実施していくと約束した。

 またジョンソン氏は、EU離脱について「英議会が主権をEUから取り戻すだけではない。われわれの都市や州や町の自治が強化されるということだ」と述べ、「EU離脱は、とてつもなく大きな経済好機だ。英国はこれまで何十年も(EUに)許可されなかったことを実行できるようになる」と強調した。

【私の論評】ブレグジットの英国より、日本のほうが経済が落ち込むかもしれない、その理由(゚д゚)!

英国では、ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)氏が保守党党首選挙を制し、メイ首相に代わって新首相に就任しました。前外相のジョンソン氏が、現外相のジェレミー・ハント氏に勝利しました。10月31日に期限が迫る欧州連合(EU)離脱など、ジョンソン氏には取り組むべき問題が山積しています。

それについては、他のサイトでもかなり詳しく掲載されていますので、そちらを参照していただきたいと思います。

確かにジョンソン新首相の前途は多難です。しかし、明るい材料もあります。

それは、まずは過去の保守党政権が一貫して緊縮的な財政運営を行ってきたのに対し、ジョンソン氏は所得減税、社会保障負担の軽減、教育・治安対策・インフラ関連予算の拡充などを掲げて拡張的な財政運営にかじを切る方針だということです。

ケン・ローチ監督が引退宣言を撤回して作り上げ、カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた
 『わたしは、ダニエル・ブレイク』には、イギリス政府の緊縮財政政策に対する痛烈な批判が
 込められている。

また、ジョンソン氏はEU離脱後もEUと緊密な通商関係を継続するとともに、より多くの国や地域と自由貿易協定を結ぶことを目指しています。ジョンソン氏が財務相に選んだサジド・ジャビド前内相、貿易相に選んだエリザベス・トラス前副財務相は、いずれも自由主義経済の信奉者として知られています

最大の貿易パートナーであるEUとの関係が、これまでほど緊密でなくなる可能性があることや、英国が離脱できずにいる間に、EUが日本や南米南部共同市場(メルコスール)などとの通商協議をまとめた点は英国に分が悪いです。ただしこれまでも、そしてこれからも、英国が世界有数の自由貿易志向国家であることに変わりはないです。

ジョンソン氏も無秩序な形での合意なき離脱を望んでいる訳ではないです。やむなく選択する場合も、国民生活や経済活動への打撃を小さくするため、EUとの間で最低限の取り決めをし、通関業務の簡素化や中小企業への支援強化など、準備作業を加速する方針です。

様々な閣僚ポストで改革を実践してきたマイケル・ゴーブ元環境・食糧・農村相を合意なき離脱の準備を担当する閣僚に任命しました。

EU側は英国への影響緩和を目的とした措置に否定的ですが、EU加盟国である隣国アイルランドへの影響の大きさを考えれば、既存ルールの暫定適用など、緊急避難的な対応には応じる可能性もあります。

企業側の対応も万全とは言えないです。合意なき離脱対応によるコスト負担も発生するでしょう。ただ、今年3月末に合意なき離脱の予行演習が行われており、一通りの準備作業と頭の体操はできています。無論、どんなに準備をしても物流の混乱は避けられないでしょうし、想定外の問題も発生するでしょうが、合意なき離脱の影響を軽減することは可能です。

合意の有無はさておき、離脱確定後は手控えられていた設備投資が再開し、先に述べた通り、財政政策も拡張的となります。EUとの経済・貿易関係に大きな亀裂が入ったり、金融システムに混乱が生じたりしない限り、英国の景気拡大に弾みがつく可能性があります。特にイングランド銀行は、危機に陥ったときはすぐに金融緩和に踏み切るということを過去にも実践してきました。

こうなると、思い出されるのは、2016年に米国でトランプ大統領が誕生した後の株式市場の活況と米国経済の好調ぶりです。トランプ氏の型破りなパーソナリティーや保護主義的な政策を不安視する声も多かったのですが、大規模な減税と財政出動で景気拡大を後押しし、ドル高けん制発言や中央銀行の独立性を度外視した発言のため株高があがり、さらにその後は経済がよくなりました。特に雇用の回復には目を見張るものがありました。

では、ジョンソン氏は公約通り拡張的な財政運営を行うことが可能なのでしょうか。英国は欧州債務危機でEU諸国が導入した財政協定への署名を拒否したのですが、EUの一員として財政規律を順守する必要があります。ところが、離脱後はその財政規律の束縛からも解放されることになります。

野放図な財政拡張は調達金利の上昇を招く可能性もありますが、世界的な低金利環境下で、ある程度は許容されるはずです。英中央銀行のイングランド銀行(BOE)も、離脱後は財政ファイナンスを禁じられたEU条約の対象から外れます。財政政策との協調も視野に入れた柔軟な金融政策運営が可能になります。

折しも、離脱協議の長期化で延長されたマーク・カーニーBOE総裁の任期は来年1月に迫っており、現在、後任の人選が進められています。総裁の任命権は財務相にあり、次は新政権の意向に沿った人物となりそうです。

後継候補として、ジョンソン氏がロンドン市長時代に経済アドバイザーを務めたジェラルド・ライオンズ氏、元BOE副総裁のアンドリュー・ベイリー氏、元インド準備銀行(中銀)総裁のラグラム・ラジャン氏などの名前が挙がっています。

マスコミではトランプ氏とジョンソン氏は様々な共通点が報道されていますが、それらの大部分は些細なことに過ぎません。最大の共通点は、経済活性化を重視した拡張的な財政運営に関する考え方です。ジョンソン氏の金融政策に対する姿勢は未知数ですが、積極的に介入する素地は整うことになります。

強硬離脱派首相の誕生に不安が先行しますが、トランプ氏がまともな経済政策を実行して、経済を良くし、特に雇用をかなり良くしたように、ジョンソン氏も積極財政、金融緩和策などの、まともな経済対策で、ブレグジットをソフトソフトランディングさせ、それだけにとどまらず英国経済をさらに発展させることに期待したいです。

さて、日本を振り返ると、10月より消費税が10%になります。デフレから抜けきっていない、この時期に緊縮財政をするとは経済政策としては悪手中の悪手です。

この状況は、実はロンドンオリンピック直前の英国と似ています。英国は、ロンドンオリンピックの直前に付加価値税(日本の消費税に相当)を大幅にあげ、大失敗しています。

それについては、このブログでも何度か掲載しています。そのうちの一つの記事のリンクを以下に掲載します。
景気後退…消費増税「回避」待ったなし!? 専門家「4月に判断しないと間に合わない」―【私の論評】ロンドンオリンピック直前に消費税増税した英国の大失敗に学べ(゚д゚)!
ロンドンオリンピックのビーチバレーの試合
詳細は、この記事をご覧いただくもとして、この記事の結論部分をいかに引用します。 
英国は量的緩和政策で景気が回復基調に入ったにもかかわらず、「付加価値税」の引き上げで消費が落ち込み、再び景気を停滞させてしまいました。 
その後、リーマン・ショック時の3.7倍の量的緩和を行っても、英国経済が浮上しなかった教訓を日本も学ぶべきです。

このようなことを主張すると、英国の財政は日本よりも良い状況だったからなどという人もいるかもしれませんが、日本の財政は負債のみでなく、資産にも注目すれば、さほどではないどころか、英国よりもはるかに良い状況にあります。

それについては、昨年のIMFのレポートでも裏付けられています。このレポートの内容を掲載した記事を以下の【関連記事】の一番最初に掲載しておきます。

これを知れば、増税など絶対にすべきでないことは明らかです。
さて、ボリス・ジョンソン氏はこれまでの保守党とはうってかわって、EUの軛(くびき)から離れて、積極財政を実行しようとしています。イングランド銀行も、EUの軛から離れれば、かなり自由に金融緩和ができます。

そうなると、経済的にはブレグジットは意外とソフトランディングできるかもしれません。短期的には、いろいろ紆余曲折があるものの、中長期的には英国経済は良くなる可能性も大です。

これに対して、日本は10月から現在の英国とは真逆に、緊縮財政の一環である、増税をします。さらには、日銀は緩和は継続しているものの、イールドカーブ・コントロールにより、引き締め傾向です。

こうなると、英国はブレグジットをソフト・ランディングさせ、中長期的には経済がよくなるものの、日本は増税で個人消費が落ち込み、再びデフレに舞い戻り、経済が悪化するでしょう。 まさに、ブレグジットした英国よりも、増税で日本の景気のほうがおちこむかもしれません。

それこそ、緊縮財政で『わたしは、ダニエル・ブレイク』で描かれた当時の英国社会のようになってしまうかもしれません。

安倍総理は、任期中には10%以上に増税することはないと明言しました。これ以上の増税は今後はないでしょうが、それにしても10%の増税は国内経済に甚大な悪影響を及ぼすことは、確実です。

そうなった場合、安倍総理は、増税見送りや凍結ではなく、まずは減税による積極財政を実行すべきです。次の選挙で是非公約に掲げて実行していただきたいです。

【関連記事】

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2018年3月28日水曜日

叩きたいあまり、反安倍以外のコメントはボツ 官僚を上げたり下げたり…ご都合主義なメディアの人々―【私の論評】政治とは政党と官僚との化かし合いという現実を忘れるな(゚д゚)!

叩きたいあまり、反安倍以外のコメントはボツ 官僚を上げたり下げたり…ご都合主義なメディアの人々  高橋洋一 日本の解き方



 左派系メディアでは、天下り問題で文部科学省の事務次官を引責辞任した前川喜平氏が正義のヒーローのように扱われている。今回の決裁文書の改竄(かいざん)問題でも、佐川宣寿前国税庁長官を官邸の圧力の被害者のように印象づける動きや、デモで「官僚がんばれ」という人までいる。結論ありきのコメントを求めるメディアも含め、そこにはご都合主義があるように筆者には思えるのだが、いかがなものだろうか。

 ちょうど1年前であるが、文科省による組織的な天下り斡旋(あっせん)が問題になっていた。天下り斡旋は、国家公務員法違反である。これは文科省の調査報告書にも書かれているが、その法律は第1次安倍晋三政権時に成立したものだ。筆者はその企画に関わったが、当時、安倍首相が国会を延長してまでも成立に執念を燃やしたものだ。当然のことながら、天下りの主要路を断たれた官僚からは怨嗟(えんさ)の声があがった。

 実は、筆者はそこで退官したが、この流れをくむ公務員改革は続き、自民党政権末期に、自公と民主が歩み寄って、内閣人事庁などの公務員改革基本法の骨子ができ、第2次安倍政権になって、内閣人事局創設に至った。これらの公務員改革を当時のマスコミは絶賛し、天下りを批判した。1年前の文科省による天下り斡旋についても、マスコミは非難し、その首謀者である前川氏も批判されていた。

 ところが、左派系メディアは、加計学園問題で「総理の意向」と書かれた文科省文書の存在を認めた前川氏が安倍政権批判を始めると、手のひらを返したように持ち上げ始めた。ちなみに前川氏は、メディアで問題とされた新国立競技場の高額発注の責任者でもあった。


 今回の財務省による決裁文書の改竄も、公文書改竄という刑法にも触れうる問題である。それなのに、「佐川氏が忖度(そんたく)せざるをえなくなった」「内閣人事局があるから官僚が萎縮していた」など問題の本質からずれるコメントが目立った。

 政治家から指示があれば、それは刑法違反の共犯にもなりかねないので問題だ。しかし、政治家で決裁文書のことを知っている人はまずおらず、知らなければ指示はできないだろう。

 そこで、忖度とか内閣人事局の問題とかで、なんとか官邸が問題だということに持っていこうとしているのだろう。

 筆者は元財務キャリアで、官邸勤務経験もあるので、官邸への忖度があったのではないかというコメントをしばしばメディアから求められる。しかし、本コラムで書いているように、「財務キャリアが官邸に忖度することはまず考えられない」と言うと、メディアでは使えないコメントして扱われる。メディアはまず結論ありきで、それに合った人のコメントしか扱わないと思った方がいいだろう。

 安倍政権を叩きたいあまり、「反安倍」の人には手のひら返しでも無条件に賛同する一方、エビデンスに基づく客観的な話でも、「反安倍に使えない」と断定して無視するのは、おかしいと思う。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】政治とは政党と官僚との化かし合いという現実を忘れるな(゚д゚)!

官僚の果たしている役割とは何かといえば、政府の仕事を実行する事です。また、それを実行するための専門技術・能力を持っているのが官僚です。官僚制と言った場合は、政府全体の体型を指します。

官僚は、執行する側の人間ですから法律通りに前例通りに運営する事が至上命題です。これを、国民に代わり、「シビリアンコントロール」したり、官僚の命題である「法律」を新規に作ったり、改正したりするのが国民の負託と、立法権を持つ「政治家」です。

政治家は官僚をコントロールする為に官僚組織の長として君臨しますが、官僚のもう一つの指名「素人である政治家を補佐する」というものがあります。

素人であ政治家が国家百年の計を乱さないように、補佐するのも官僚の仕事なんですが、政治家が馬鹿だと、いわゆる官僚のレクチャーにより、官僚の都合の良いように政治家は洗脳されてしまいます。管理監督するはずの政治家が管理監督される側の官僚に管理監督されてしまうということがしばしば行われています。ただし、この方は政治家は楽であることはいうまでもありません。

この一番酷い事例は、財務省による増税路線でしょう。復興税、税と社会保障の一体改革による消費税の目的税化など、これらは理論的には破綻しています。

まずは、東日本大震災のような大きな自然災害があったときに、復興税で復興事業を実施するなどということは、古今東西に例をみません。

通常は、償還期間が100年程度の復興債で実施します。なぜなら、復興による工事により再建されたり新たなつくられるインフラなどは、震災を受けた世代だけではなく、後々の世代も使用するものだからです。負担を世代間で平等にわかちあうという趣旨で復興債を用いるのが普通です。

しかし、財務官僚は、ご説明資料などを用いて、政治家にレクチャーし、あたかも復興税がまともな政策であるかのように洗脳し、結局復興税を導入してしまいました。

税と社会保障の一体化による消費税の目的税化なども同じです。そもそも、税の目的税化など不可能です。たとえば、自衛隊が、税を払った人は防衛し、そうでない人は防衛しないとか、税を多めに払った人を優先的に防衛するなどということはできません。社会保険制度も同じことです。

こんなわかりきったことを曲げて財務省は、消費税を増税するために、これを正当化するご説明資料を作成し、政治家にレクチャーし洗脳しました。そのため、現状では、消費税を上げる必要性など全くないのですが、増税はしなければいけないと思い込む政治家がほとんどです。

証人喚問された元財務相理財局長だった佐川氏

ブログ冒頭の記事で高橋氏が批判している前川氏には、他にも多くの問題がありました。たとえば、前川氏は、平成27年9月に安保法制に反対した学生団体「SEALDs(シールズ)」などが国会前で行った集会に参加していたことを明かしていました。

前川氏は2時間近くに及ぶ講演の終盤近くになって、「ここだけ内緒の話ですけど」と前置きして「2年前の9月18日、国会前にいたんです」と切り出した。

前川氏は「集団的自衛権を認めるという解釈は成り立たない。立憲主義に反する」と主張。デモに参加した動機について「今日行かなきゃ、もうないと思ったんですね。その日は安保法制が参議院で成立した日ですから」と語りました。

当時、前川氏は文科省の審議官で翌年の6月、事務次官に就任した。公務員で、しかも省庁事務方のトップを担い、加計学園問題でも参考人招致を受け、今も積極的に発言している前川氏が、従来から安倍政権に批判的だったことを自ら認めた形です。人事院規則では国家公務員は政治的行為ができない事になっています。

一般職国家公務員の政治的行為の制限について

このようなことをして、平気の平左で、しかも自分から告白するような人物である、前川氏など、全く信用できないことはこのことだけでも、明らかです。

官僚は法律・体制の維持、その中での仕事の迅速制を追求します。政治家は法律の改正と、政策を実行するために官僚が立てた計画の変更することが仕事の本筋です。そのため、ある意味で政治家と官僚は、利益は相反する事ところがあります。

余程、政治家が自覚を持ち、勉強して動かないと良い意味でも悪い意味でも、官僚の専横を許してしまうことがあります。

また官僚は各省庁の組織の一員なので、政府の利益より、組織の利益を優先させたり、さらに悪い官僚の場合は、個人の利益を優先させたりすることになります。

これをシビリアンコントロールで排除するのが政治家の仕事なのですが、これができないと、全体的には政府全体が悪い方向へ行く場合もあります。

特に、三権分立の補完や監視が上手く行っていないとそうなります。ただし、官僚制そのものは民間でも広く使われている制度であるため、一概に官僚制度だけが悪いとはいえません。

では、日本の政治のどこが間違いなのでしょうか。それは、いくつもあるかもしれませんが、その中でも最大のものは立憲主義に基づいてた運営が行われていないということでしょう。

立憲主義の前提となるのが、政党の近代化です。それについては、以前このブログにも何度か掲載したことがあります。その典型的な記事のリンクを以下に掲載します。
立民、「首相の解散権制約」の不毛 民進“分裂騒動”の責任押し付けたいだけ 宇佐美典也氏緊急寄稿―【私の論評】立憲主義の立場からも首相の解散権は正しい(゚д゚)!
立憲民主党の枝野代表、実は彼こそ立憲主義とは何かを最も知らない人物かもしれません

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、近代政党に関する部分のみを以下に引用します。
近代政党には、三つの要素があります。 
綱領、組織、議員です。
明確な理念をまとめた綱領がある。綱領に基づいて全国組織が形成されます。全国の政党支部が議員を当選させます。その議員たちは政策の内容で競い合い、自由で民主的な議論で党首を決めます。選ばれた党首は直属のシンクタンクとスタッフを有し、全国組織に指令を下します。この条件に当てはめると、自民党は近代政党ではありません。無論、他の野党も、近代政党とは言い難い状況にあります。
自民党が有する最大のシンクタンクは官僚機構(実体は財務省主計局)ですが、ヨーロッパの政党は官僚機構に対抗できるシンクタンクを自前で揃えています。 
イギリスなどでは、自前でブレーンを用意して勉強した政治家だけが、党の出世階段を上ります。政治の世界の実体は、政党と官僚は化かし合いです。
イギリスの政党は、近代政党ですが、それでも失敗することもあります。たとえば、過去のイギリスでは、付加価値税(日本の消費税にあたる)を増税したのですが、その後若者雇用を忠信に雇用情勢がかなり悪化したため、イングランド銀行(イギリスの中央銀行、日本の日銀にあたる)が大規模な金融緩和を実施したのですが、景気はなかなか回復しませんでした。

そのような失敗もあることはあるのですが、時々NHKBSのワールドニュースを見ている限りにおいては、日本の国会よりもはかにまともな国会運営がなされています。

政党が近代化されていれば、日本でも政治家が官僚に恒常的に化かされるということはないかもしれません。

それにしても、日本でいますぐまともな政策を立案できるシンクタンクを機能させることは無理かもしれません。いまのところ、やはり政治家には官僚に化かされない程度の知識を身につけることが最優先課題だと思います。

私達、有権者はそのような政治家を選ぶべきです。そのために、官僚にいつも化かされてばかりの、政治家は選挙で投票しないことです。

特に、増税を手放しで賛成するような政治家には絶対に投票すべきではありません。しかし、そうなると、今の日本ではほとんど投票すべき政治がいなくなってしまうという恐ろしい現実もあります。

ただし、政治はそもそもが、「政党と官僚」の化かしあいということを理解すべきです。これを理解していないと、そもそも政治の本質がわからなくなります。

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2017年4月23日日曜日

日本郵政 豪物流事業の業績悪化で巨額損失計上か―【私の論評】財務省御用達人材が、東芝、日本郵政を駄目にした(゚д゚)!

日本郵政 豪物流事業の業績悪化で巨額損失計上か



日本郵政はおととし買収したオーストラリアの物流企業について業績が悪化していることから資産価値を見直し、数千億円規模の損失の計上を検討していることがわかりました。

日本郵政は、傘下の日本郵便を通じて、おととし海外での物流事業を強化するためオーストラリアの物流最大手「トール・ホールディングス」をおよそ6200億円で買収しました。

関係者によりますと、トールは鉄鉱石など資源の価格の下落を背景にオーストラリアでの物流事業が伸び悩み、業績が悪化していることから、日本郵政はこの会社の資産価値を見直し、来月発表する予定の昨年度の決算で数千億円規模の損失の計上を検討しているということです。

日本郵政は昨年度の決算で最終的な利益を3200億円と予想していましたが、損失を計上すれば業績の大幅な下方修正を行うことになります。

日本郵政は「トールの業績が計画に達していないことから、損失の計上をするかどうかを含め現在検討中だ」とコメントしています。

海外企業の買収については、東芝がアメリカの原子力事業の拡大を狙って買収したウェスチングハウスをめぐって巨額の損失を計上したばかりで、買収にあたって企業の価値をどう判断するかが問われています。

トール・ホールディングスとは

日本郵政が傘下の日本郵便を通じて買収したトール・ホールディングスは、1888年に創業されたオーストラリア最大手の物流企業です。

企業向けの物流サービスから家庭向けの宅配事業まで総合的な物流事業を展開しています。また、オーストラリア国内だけでなくアジアを中心に日本を含む世界50か国以上に1200か所の拠点があり、事業の地域も世界各地に広がっています。

日本郵政は、年々、郵便物の取り扱いが減少し、国内の事業環境が厳しくなる中で、新たな活路を見いだそうと、これまで手がけていなかった国際物流の事業に参入するためトールを買収しました。しかし、買収後、鉄鉱石などの資源価格が大きく下落した影響で、オーストラリア国内の景気が低迷し、トールの業績も悪化。去年4月から12月までの9か月間の決算では、営業利益は前の年に比べて163億円の減益となりました。

このため、日本郵政は、ことしに入ってトールの会長と社長をともに交代させたほか、経営の効率化を進めるために、人員の削減も行って業績の立て直しを図っています。

巨額損失招く「のれん」とは

日本企業が海外の企業を買収したものの、当初、見込んだ成果が上がらずに巨額の損失を計上するケースが相次いでいます。

こうしたケースでは、実際の事業による損失ではなく、「のれん」と呼ばれるブランド力や事業の将来性など形のない資産の価値が減ったため、企業の会計上、損失として計上することが要因となっています。

のれんは、当時の買収額と、買収した企業の純資産の差額で計算されます。日本郵政が買収したトールの場合は、買収額は6200億円だった一方で、去年12月末時点の純資産から算出した、のれんは3860億円でした。

しかし、日本郵政は、業績の悪化や将来の事業の成長性が当初の見込みどおりにならないと判断し、のれんの金額を引き下げて決算で損失として計上する見通しとなっているのです。

特に、買収額が大きくなった場合は、その分、のれんの額も大きくなるため、買収したときの見込みどおりに買収先の企業の価値が高くならなければ、損失として計上する額も巨額になるリスクがあります。このため、買収にあたって、いかに買収先企業の事業の将来性などの形のない資産価値を見極めるかが大きな課題となります。

海外企業買収で相次ぐ巨額損失

最近、日本企業が海外の企業を買収したあとに巨額の損失を計上するケースが相次いでいます。

経営再建中の東芝は、2006年にアメリカの原子力事業会社、ウェスチングハウスを6200億円で買収しましたが、今月11日に発表した去年4月から12月までの9か月間の決算で、ウェスチングハウスがさらに買収した別の企業の分も合わせて7166億円の損失を計上しました。

キリンホールディングスは、2011年にブラジルの大手飲料メーカーを3000億円で買収しましたが、業績の低迷が続き、おととし1140億円の損失を計上し、結局、ことし2月には会社をオランダのビール大手のグループ会社におよそ770億円で売却しました。

楽天は、2013年に買収した動画配信サイトを手がけるアメリカの子会社について、競合する他社との競争が激しくなった結果、去年の決算で200億円を超える損失を計上しています。

【私の論評】財務省御用達人材が、東芝、日本郵政を駄目にした(゚д゚)!

トール社買収は結局日本郵政の「高すぎる買い物」、「ガバナンスが欠如」を露呈しました。もし、日本郵政が純粋な民間企業だったとしたら、ステークホルダーからの猛反発に遭い、おそらくこの買収は実現しなかったことでしょう。

日本郵政の社長は、元東芝の社長であった西室泰三氏です。東芝も西室氏のころから危なくなりました。日本郵便は事業や投資に関しては、官僚だけの素人集団です。これでは先行きかなり厳しいです。ちなみに西室氏が日本郵政社長になった当時の日経はかなり高く評価していましたが、どうしてそうなるのか理解できません。以下にその紙面を掲載します。


郵政民営化を簡単に振り返ると、小泉政権の時に民営化法成立し、民営化が実施されました。ところが、民主党政権になって民営化を否定し実質上「再国有化」されました。

郵政民営化のときには西川氏が本当に民間会社にするつもりで、大量の民間人を引き連れてきました。ところが、再国有化されると、西川氏とその仲間の多量の民間人は追いだされ、財務省御用達の西室氏だけがトップで来て、周りはほぼ官僚だけとなりました。これでは、海外投資業がうまくいくはずがありません。

官僚だけでは、海外投資事業などかうまいかないのは当然のことで、これは以前にもこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】あまりにヒドい政府の“日本再生戦略”―【私の論評】今の政府や政治家は、自分の頭の上のハエを追えない人が、他人の世話を焼いているようなもの、自分がやるべきことに専念せよ!!

この記事は、まだ民主党政権だった頃の2012年7月24日のものです。この記事では、かつて携帯電話のチャンピオンだったNOKIAが、スマホやタブレットPCのプロトタイプを開発し、市場に出す準備をしていながら、AppleのiPhoneやiPadに先を超され、辛酸を舐めることになったことを例に出し、民間企業でさえこのように大失敗をするのに、役人にはこのようなことは全く不可能であることを主張しました。

以下に、一部を引用します。
民間企業ですら、このような失敗をすることがあるわけですから、政府が成長する産業を見極めることなどほとんど不可能です。特に自由主義経済下では、そのようなことは誰もわからないというのが事実です。いろいろなタイプの企業が種々様々な工夫をして、その結果いずれかの事業がその時々の市場に適合うして、それが産業として伸びて行くというのが普通です。 
本来自由主義経済下の政府の役割は、こんなことをすることではありません。政府の役割は、新産業などが生まれやすいように、経済活動が活発になるように、法律を整えるだとか、規制を撤廃するとか、逆に規制を強化するとか、さらに、公共工事をするとか、安全保証などをして、いわゆるインフラ(基盤)を整えることです。このインフラづくりが政府の本命の仕事です。このインフラ上で活動して、成果をあげるのが、民間企業営利企業、非営利企業、その他の組織ということです。間違っても、政府が、インフラの上にのっかって、様々な事業を展開するようなことがあってはなりません。 
それを大規模に行ってきたのが、旧ソ連邦をはじめとする社会主義国であり、部分的に行ってきたのが、自由主義陣営による高福祉国家でした。旧ソ連邦をはじめとする、社会主義国家は、今日では全滅しました。また、ソ連邦に脅威を感じて高福祉国家をめざした国々は、その本家本元のイギリスでも財政負担があまりにも大きくなりすぎたので、取りやめました。一部まだ続けている国もありますが、それは、スウェーデンなどの人口数百万の比較的規模の小さい国々だけです。
旧ソ連邦に関しては、その破綻は、すでに1950年代にアメリカの経済学者が予測していました。統計資料などからみて、その頃のソビエトの経済はいたって簡単で、いわゆる、投入物=生産物という具合で、付加価値がほとんどなく、戦後のソビエトの繁栄は、結局戦後に敗戦国からの資源などを大量に投入し、大量の生産物を得ていたというだけであって、このようなことは長くつづくはずがないと予測したのです。まさに、その通りになりました。
社会主義国の時代のソ連といういうと、私が覚えているのは、アイロンです。当時アイロンは、ソ連の独占国営企業がつくって市場に投入していて、ソ連国内では、輸入ものでないかぎり、ほぼすべて同じものが使われていました。しかも、確か、崩壊する直前のものでも、30年前につくられたそのままです。 
計画経済なので、顧客ニーズやウォンツなどとは全く関係なく、政府による来年はいくつ必要になるであろうという予測のもと、それに従って生産して、市場に投入していただけだったのです。競争も何もないため、結局30年にわたって、モデルチェンジも行われなかったのだと思います。 
政府がインフラづくりだけでなく、実際に産業活動をしても、できるのは、このようなことだけです。ソ連邦の計画経済ほどは規模は大きくありませんが、政府が、重点施策を実行して、投資をするのも、結局は社会主義国政策と同じようなものであり、結局失敗します。
ほぼ官僚出身者だけの郵政は、かつての共産主義のようなものです。郵政が海外事業などにも成功するというのなら、かつての共産主義もことごとく成功したはずです。しかし、皆さんご存知のように共産主義はことごとく失敗しました。

さて、西室泰三氏を財務省御用達というのは、西室氏がかつて財政審会長だったからです。西室市は、東芝の社長の時に原子力への集中と称して米WH社買収も実施しました。それがのちのち東芝の命取りになりました。日本郵政でも豪トール社買収は西室時代の負の遺産です。というわけで西室氏は海外買収では地雷ばかり踏んでいます。

西室泰三氏
当時は国民新党も共同歩調をとっていました。そうして郵政は「再国有化」のまま上場してしまいました。マスコミなどは民主党政権下でも「民営化」には変わりなしとしていましたが、これは似て非なるモノであり、民主党政権以降の郵政はとてもじゃありませんが、民間企業と呼べるような代物ではありません。

財政審といえば、最近新たな動きがありました。経団連の榊原定征会長が、財務相の諮問機関である財政審(財政制度等審議会)の会長に就任しました。経団連の会長が財政審会長に就くのは、2001年1月から2年間務めた今井敬氏以来、実に16年ぶりのことです。

予算編成に大きな影響を与える財政審ですが、財務省のこの人事にはどのような思惑があるのでしょうか。

財政審会長に就任した経団連の榊原定征会長
まず、今井氏が就任した'01年当時を振り返ります。財務省(旧大蔵省)は、'90年代後半に次々と明るみに出た官僚の接待スキャンダル(例えば、ノーパンしゃぶしゃぶ)で、世間から猛烈な批判を浴びていました。そのなかで、旧大蔵省は、中央省庁等改革基本法により金融庁と財務省に解体され、'01年1月に「財務省」へ名称が変更になりました。

ちなみに、この名称変更は旧大蔵官僚には最大の「屈辱」でした。省庁の前に掛かる看板は、当時の大臣が揮毫するのが通例ですが、大蔵官僚出身で「最後の大蔵大臣」となる宮沢喜一氏はそれを拒み、コンピュータの楷書体になったといわれているほどです。

そのような財務省の誕生とともに、経済財政諮問会議が設置されました。'01年4月に発足した小泉政権では、竹中平蔵氏が経済財政担当相に就任しました。このとき官邸には、竹中氏管轄の経済財政諮問会議を軸に、財務省から予算編成方針を奪い取るという思惑がありました。

一方、財務省はこうした新しい動きに対抗。財界で圧倒的に顔がきき、ある意味で竹中氏よりも「上手」といえる経団連会長を財政審のリーダーに据えたのです。

しかし、この財務省の思惑は小泉政権にねじ伏せられました。竹中氏は、小泉首相の強い支援を受け、新しい経済財政諮問会議を舞台に「骨太の方針」を打ち出し、事実上予算編成方針を財務省から奪い取ることに成功したのです。その結果、小泉政権下では、財務省の「悲願」である消費増税をうかがう機会は一切封じられてしまったのです。

ようやく財務省が本格的に消費増税を進めはじめたのは、民主党へと政権交代した'09年以降です。民主党政権発足当初から財務副大臣、財務大臣を歴任し、「財務省色」に染まり切った野田佳彦氏が総理になると、'12年3月に消費増税法案の提出にこぎ着けました。

野田佳彦氏
こうした歴史を振り返ると、今回経団連会長という「大物」を据えるところには、財務省の「危機感」が見え隠れします。というのも、安倍政権が長期化して、さらなる消費増税の機運が遠のいているからです。

安倍政権下で'14年4月から消費税率を8%へと引き上げると、それまで復調の兆しを見せていた経済は腰折れしてしまいました。その結果増税への否定的な世論が高まり、再増税は'19年10月まで延長されているのが現状です。

こうした世間の変化に、財務省は危機感を持ち、消費増税の際に頼りになる経団連の力を持ち出してきたのです。経団連は自民党に政治献金を行うなど、「蜜月」関係を保っています。

一方で財務省と経団連は、法人税を減税する代わりに、消費増税路線に同調すると融通していてもおかしくない関係にあります。つまり、安倍政権にとって、経団連の存在はひとつの「圧力」になるのです。

これから安倍政権は消費増税路線で財務省に押し切られてしまうのかどうか、正念場であるともいえます。

こうしてみると、東芝や郵政の問題にまで、なにやら財務省が影を落としているよう見られます。

ブログ冒頭でも、かつて財政審会長だった西室氏は、東芝の社長の時に原子力への集中と称して米WH社買収も実施しました。それがのちのち東芝の命取りになりました。日本郵政でも豪トール社買収は西室時代の負の遺産です。というわけで西室氏は海外買収では地雷ばかり踏んでいます。

西室氏は当然のことながら、東芝の社長時代から、増税派でした。無論これは、財務省の意向に沿ってのことでしょう。というより、財務省の官僚からご説明資料などで増税の必要性を刷り込まれて、すっかりデフレの最中でも、増税が必須と思い込んでしまったのでしょう。

言い方は、悪いですが、この程度の頭なので、東芝で海外投資に失敗し、郵政においてはこの程度の頭の社長と、官僚出身者だけの組織で、海外への投資事業が失敗したのは必然なのです。

さて、現在の財政審会長である、経団連の榊原定征会長はどうなのでしょうか。これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「賃金上昇でも消費伸びない」 経団連見解は消費増税スルー…財務省路線に乗り続けるのか―【私の論評】スロートレードの現状では企業にとって内需拡大が望ましいはず(゚д゚)!
経団連の榊原定征会長
詳細は、この記事をご覧いただものとして、この記事では、東レ株式会社相談役最高顧問でもある、榊原氏が、8%の消費税増税により消費が低迷している事実は全く無視して、「賃金上昇でも消費伸びない」という発言をしていることについて掲載しました。以下に結論部分のみを掲載します。
日本は、貿易立国だなどとする人々もいますが、それは事実ではありません。実際、20年ほど前までは、日本のGDPに占める割合は8%に過ぎませんでした。現在は、11%程度です。 
日本は、昔から内需大国だったのです。スロートレードの現在、大企業は輸出の伸びはあまり期待できないわけですから、日本の内需が拡大したほうが良いはずです。 
中小企業も、財務省からの補助金があったにせよ、まずは内需が伸びないようでは死活問題です。補助金があっても、内需が低迷すれば、中小企業は成り立ちません。 
増税すれば、個人消費が低迷して内需は低迷します。これは、決してすべての企業にとって良いはずはありません。 
これを考えれば、経団連などの企業の団体こそ、消費税延期、消費税減税、さらなる量的金融緩和を主張すべきです。とにかく、日本国内の内需を拡大する方向にもっていくべきであると主張するのが当然です。ましてや、デフレを放置したり、デフレスパラルにどっぷりと再びはまることになる消費税増税などとんでもないです。
やはり、榊原氏も財務省御用達人材と呼ぶにふさわしいです。榊原氏は、どちらかといえば、炭素繊維などにより、東レの業績を向上させていますが、これは炭素繊維という素材産業ということで、海外企業の買収などの事業とは性格を異にします。

しかしながら、現在の東レは、3Q経常6.7%減益になっています。炭素・繊維事業等の不振が響いたようです。以下に、東レの第三四半期連結損益概要を掲載しておきます。

当第3四半期の売上高は5,352億円、前年同期比で3パーセントの減収となり、営業利益は379億円と、11.8パーセントの減益となりました。経常利益は394億円と、前年同期比で6.7パーセントの減益。四半期純利益は235億円と、12.2パーセントの減益となりました。

榊原氏がこの減益そのものに関係するかいなかはわかりません。

しかし、財務省御用達の証しと言っても良い財政審会長を勤めた西室泰三氏が、東芝と日本郵政を窮地に追い込むきっかけを作ったこと、それに、財務省御用達の野田総理の民主党、のだ政権末期には支持率が、10%を割り6.6%にまで落ちたことは記憶にとどめておくべきでしょう。

そもそもノキアのような企業でも窮地に追い込まれるような、民間の市場の厳しさに、財務官僚等が太刀打ちできるはずがありません。財務官僚は、本来国民の信託を受けた政党による政府の定めた目標に従い、それを実行するのが筋です。

この原則を忘れた財務省に鉄槌を下し、これからも消費増税延期路線で押し切るように安倍総理には頑張って頂きたいです。

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