2018年4月11日水曜日

米中貿易戦争、習氏がトランプ氏に「降伏宣言」 外資規制緩和など要求丸のみ―【私の論評】元々中国に全く勝ち目なし、米国の圧勝となる(゚д゚)!


習近平とトランプ

 米中貿易戦争で、中国の習近平国家主席がトランプ米大統領に「降伏宣言」した。外資の規制緩和や知的財産の保護など、米国側の要求を丸のみした形だ。トランプ政権は口約束で終わらせないように「具体的行動を」とクギを刺した。

 10日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は、前日比428・90ドル高の2万4408・00ドルと大幅続伸した。

 11日午前の東京市場は午前9時現在、24円77銭高の2万1819円09銭と小幅続伸して取引が始まった。円相場は、1ドル=107円前半と円安基調で推移した。

 習主席は10日の講演で「中国の市場環境はこれから大幅に改善し、知的財産は強力に保護される。中国の対外開放は全く新しい局面が開かれる」と述べ、市場開放に向けて努力する姿勢を表明。外資による金融機関の設立で制限を緩和するほか、自動車分野などでも外資の出資比率の制限を緩和するとした。

 トランプ政権が問題視する対中貿易赤字について「貿易黒字を追求しない」として輸入拡大に努力するとし、自動車などの関税を大幅に引き下げる意向を示したほか、知的財産の侵害についても「外資企業の中国における合法的な知的財産を守る」と強調した。

 少なくとも言葉のうえではトランプ政権が問題視していた点に「満額回答」した形だ。

 トランプ氏はツイッターで「習主席による思いやりのある言葉」と満足げにつぶやいた。

 ただ、サンダース米大統領報道官は習氏の発言について「正しい方向への一歩だが、単なる美辞麗句ではなく具体的に行動を起こしてほしい」と要求。中国が市場開放を具体化するまで交渉を続け、関税引き上げなど制裁発動の手続きも進める考えを示した。

 貿易戦争はさらに攻防が続きそうだ。

【私の論評】元々中国に全く勝ち目なし、米国の圧勝となる(゚д゚)!

中国の「対米報復関税」により、本格的に勃発するとされていた米中貿易戦争。両国間だけでなく日本にも影響必至と報じられていますが、制裁が長期化すれば、むしろ首が締まるのは中国です。一体それはなぜなのか。本日はこれをメインに掲載します。

アメリカのトランプ政権が3月末に海外からの輸入鉄鋼・アルミニウム製品に高い関税をかけたことに対して、中国は4月2日から報復措置として、アメリカ産品128品目に最大25%の上乗せ関税をかけました。

これに対して、日本のメディアは「貿易戦争」が勃発すると騒いでいますが、本当にそうなるのでしょうか。よく知られているように、中国はアメリカにとって最大の貿易赤字国です。

2017年のアメリカのモノの貿易赤字7,962億ドルのうち、対中赤字は3,752億ドルで過去最大、約半分を占めています。ちなみに、これまでアメリカにとって2位の貿易赤字国だった日本は、メキシコに抜かれて3位になっています。



中国のアメリカへの輸出は、同国のアメリカからの輸入の3倍もの規模になります。2016年の中国のアメリカへの輸出額は3,897億ドルでしたが、アメリカからの輸入は1,344億ドルしかありません。今回の中国側の報復関税では、そのアメリカからの輸入のうち、30億ドルが対象になっているだけです。したがって、もしも貿易戦争が起こった場合、圧倒的に不利になるのは中国側です。

しかも、アメリカが制裁対象にしているのは鉄鋼やアルミニウムなど、中国が最大の生産国となっている品目です。2017年の世界の鉄鋼生産量は16億9,122万トンでしたが、そのうちの約半分、8億3,173万トンを中国が生産しています。明らかに過剰生産であり、不当廉売によって世界各国の鉄鋼業界が悲鳴を上げている状態であることは、言うまでもありません。

言うまでもなく、世界最大の鉄鋼消費国も中国で、2017年の鉄鋼需要は7億7,000万トンとダントツですが、6,000万トン、約7.5%も過剰生産していることがわかります。しかも、インフラ建設もピークに達し、その需要は年々低下すると予想されています。

そのことは、中国の経済成長率が年々下落していることや、「一帯一路」によって、過剰生産された鉄鋼を他国へ振り向けようとしていることからも理解できるというものです。

一方、世界2位の鉄鋼消費国はアメリカです。2018年のアメリカの予想鉄鋼需要は1億1,000万トンと見込まれています。アメリカの年間鉄鋼生産量は8,164万トン(2017年)ですから、約3,000万トン分を自国で生産するか、輸入すれば良いことになります。

そして、輸入先は中国以外にも数多くあります。中国の不当廉売によって被害を受けている他国から鉄鋼を買えば良いだけです。すでに鉄鋼価格は世界的に低下していましたから、中国製鉄鋼に関税をかけたからといって、鉄鋼価格の上昇によるインフラ懸念も少ないはずです。

一方、中国が報復措置として輸入制限をかけた128のアメリカ産品のうち、代表的なものが豚肉と大豆です。

中国は豚肉消費量においても生産量においても世界1位ですが、近年では豚飼養頭数が減り、生産量が消費量を下回っているため、輸入に頼ってきました。2016年には162万トンを輸入に頼っていますが、アメリカからはその8分の1にあたる21万トンを輸入しています。輸入先の1位はドイツ、2位がスペインで、アメリカは3位にすぎません。

しかもアメリカの豚肉生産量は1,132万トン(2016年)であり、そのうちの21万トンというのは、アメリカ国内生産の2%にも満たない数量です。

アメリカにとってはさほどの打撃にならない一方、むしろ中国にとっては大きな打撃になる可能性が高いでしょう。というのも、食料価格の高騰は人民の不満につながるからです。シカゴ大学の趙鼎新教授は、1989年の天安門事件は、食料品価格の急騰が発端だったと分析しています。中東で起きたジャスミン革命も、食料価格の高騰が原因でした。

中東で起きたジャスミン革命は食料価格の高騰が原因だった

また、大豆についてはたしかにアメリカが世界の生産量1位で、1億トンを生産しているため、アメリカ農家も中国の輸入規制を非常に警戒しています。しかし、一方の中国は1,100万トンの生産しかないにもかかわらず、消費量は9,500万トンで、8,400万トンを輸入に頼らざるをえない状況なのです。

アメリカからの輸入大豆は中国での流通量の3分の1を占めているとされています。中国がこれほど大豆を必要とする理由は、搾油用に加えて、家畜飼料のためです。

しかも、2018年の生産量は、アメリカでは増産見込みであるものの、アルゼンチンやブラジルなどでは減産が見込まれ、世界全体では減少すると見込まれています。一方、消費は中国をはじめとする世界全体で増加すると見込まれています。

そのため、中国がアメリカからの大豆を輸入規制すれば、中国国内での需要に供給が追いつかず、大豆の価格高騰、さらには豚肉などの畜産物の価格高騰につながる可能性が非常に高いと言えます。

鉄鋼・アルミは世界的な供給過剰状態にあり、アメリカのみならず、欧米でも中国産鉄鋼への強い反発があります。このような状態であるからこそ、アメリカは中国産鉄鋼・アルミに高関税をかけたわけです。

一方、中国は自国で供給不足にあり、世界的にみても供給過剰ではないアメリカ産の農産物、畜産物に報復関税をかけたということになります。しかも、工業製品は生産調整が容易であるのに対して、農業・畜産物は天候や病害などによって生産は不安定です。

すでに中国の食料自給率は8割台で食料輸入国に転落していますが、一人っ子政策を廃止したことや、高齢化社会による働き手不足によって、ますます食料自給率が下がっていくことは目に見えています。

食糧問題はこれからの中国の最大のリスクとされてきました。その自らのウイークポイントにかかわるような産品に対して制裁措置を行うというのは、それしか手段がなかったということの表れです。そのため、そう長くは対米制裁措置を継続できないでしょうし、制裁が長期化すれば、むしろ首が締まるのは中国のほうなのです。

ちなみに、この米中の「貿易戦争」については、日本や台湾も通商国家、貿易国ですから、「被害が避けられない」という恨み節もよく聞かれます。しかし、日台にとって「利益だ」という声も多いです。私の見解としては、長期戦として長引いたほうが、中国以外の国にとっても「百利あって一害なし」だと思っています。

3月8日、トランプ米大統領は記者会見で、鉄鋼とアルミニウムにそれぞれ
25%と10%の関税を課す輸入制限を実施することを正式に発表

そうはいつても、鉄鋼・アルミの問題は日本にもかなり悪影響があるのではとみるむきもありますが、高品質の日本製品を制限して困るのは米産業界なのです。ほうっておけばよいのです。どうしても制限対象から日本を外してくれ、と安倍首相が頼み込むなら、トランプ氏は待ってましたとばかり、為替条項付きの日米貿易協定の交渉開始を言い出すに決まっています。

日本の円安政策に歯止めをかけ、日本車の輸出攻勢をかわしたい。そればかりではない。円安に頼るアベノミクスは制約を受ける。日本は米国との利害が共通する分野に議題を合わせる。中国の鉄鋼などの過剰生産を厳しく批判して、トランプ氏に同調すればよいのです。

この米中貿易戦争について、多くの海外メディアや日本のメディアは、トランプ大統領こそ元凶だとしています。中国は「トランプ大統領は保護主義に走っている、中国は自由貿易を守ろうとしている」と主張し、これに賛同する識者も少なくありません。

しかし、中国における鉄鋼産業は国営企業が中心です。習近平は国営企業は潰さず、「国際市場において、より強く、より大きくする」と述べています。つまり、中国という国家を後ろ盾にした国営企業の存在感を国際市場において高めていくと宣言しているのです。どんなに赤字でも国が資金援助し、その国家の支援をもとに国営企業の国際競争力を強めていくと主張しているのです。

はたしてそれは「自由貿易」と言えるのでしょうか。国家が介入しない民間企業が主役の資本主義市場に、中国という強大な国家の力を背景とした国営企業が乗り込み、不当な廉売によって市場を奪っていく。

これのどこが「自由貿易」といえるでしょうか。しかも中国は国内の民間企業、外資系企業に対して中国共産党の指導を強めるとしています。中国こそが経済統制に走り、自由経済の脅威となっているのです。今回の「貿易戦争」には、そうした背景があることを認識すべきです。

いずれにせよ、アメリカに対して勇ましく対抗措置を打ち出した中国ですが、このことが習近平政権の命脈を断つことにつながる可能性が非常に高い状況でした。

中国の王外相は「(貿易戦争は間違いなく誤った処方箋であり、他国と自国に
損害を与えるだけだ」との考えを示し、実際に米国が追加関税に
踏み切った場合には「同様の措置を取る用意がある」と表明していた

このような状況を理解したからこそ、習近平は10日の講演で「中国の市場環境はこれから大幅に改善し、知的財産は強力に保護される。中国の対外開放は全く新しい局面が開かれる」と述べ、市場開放に向けて努力する姿勢を表明したのです。

さらに、外資による金融機関の設立で制限を緩和するほか、自動車分野などでも外資の出資比率の制限を緩和するとしたのです。

そうして、これには最近の日米による北に対する制裁が苛烈さを増し、とどまるところを知らないということも大きく影響しているとみられます。

先日このブログにも掲載したように日本は、戦後一度も艦艇を差し向けたことがない黄海に海自の艦艇を派遣して監視活動にあたっています。米国は、制裁をさらに強化するため、今後米沿岸警備隊を半島付近に派遣することを検討しています。

最近まで、トランプ政権は、オバマが中国が南シナ海や、その他の地域で中国が何をしようが、結局のとろ「戦略的忍耐」で何も具体的な行動を起こさなかったのとは対照的に北朝鮮に対して制裁でかなりの圧力をかけています。

ご承知の通り、トランプ大統領は先月、レックス・ティラーソン国務長官を更迭し、後任にマイク・ポンペオCIA(中央情報局)長官を指名しました。続いて、ハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も解任し、後任にジョン・ボルトン元国連大使を内定した。

マイク・ポンペオ氏(左)とジョン・ボルトン氏(右)

ポンペオ氏は、『正恩氏排除=斬首作戦』に賛成しています。CIA内に初の北朝鮮専門部隊『朝鮮ミッションセンター』をつくりました。結果、正恩氏の隣に協力者を構築し、反正恩一派が結成されたようです。朝鮮人民軍の一部は命乞いを始め、クーデターを計画し始めたとされています。正恩氏が一番憎む男だです。

ボルトン氏は、対北先制攻撃を公言しています。ジェームズ・マティス米国防長官は3月末、国防総省でボルトン氏を迎えた際、『あなたは“悪魔の化身”だと聞いている』といいました。イラク戦争(2003年~11年)時にも、北朝鮮とイランへの攻撃を強硬に主張しました。

正恩氏の父、金正日(キム・ジョンイル)総書記は2週間も地下に隠れて震えていたとされています。『ボルトン』という言葉は、北朝鮮では『死神』と同じです。

トランプ氏はこれは2人を抜擢することによって、『戦争内閣』を構築したのです。ポンペオ、ボルトン両氏を信頼し、対北朝鮮政策の最終形を組み立てているのです。米国が要求する『核・ミサイル開発』放棄は、ボルトン氏がいう『リビア方式』です。

正恩氏はこれに対して『武装解除だ』と激しく拒否しています。しかし、米国の要求を飲まなければ、5月の米朝首脳会談は、正恩氏への『死刑宣告=宣戦布告の場』になることになります。

この圧力に耐えきれなくなった金正恩は、平昌で微笑み外交をはじめ、最近でははじめて北朝鮮を出て、中国まで赴き習近平主席と会談を行っています。

この有様をみて、習近平も恐れをなしたとみえます。まずは、トランプ氏に対して、「敵対」するつもりはないことを表明せざるをえなくなったのでしょう。

そもそも、トランプ政権は、北朝鮮など前哨戦にすぎず、中国こそが本当の敵である捉えているようです。だからこそ、昨年は北朝鮮に対して具体的に軍事作戦をとることもなく、中国の動向を探っていたようです。

中国に明確に対峙するという戦略を採用したからこそ、北に対して明確な態度をとることができるようなったのです。そうして、北が米国の要求を飲まなければ、間髪を入れず北に対して軍事攻撃を開始するでしょう。

ブログ冒頭の記事には掲載されていませんが、中国は保持する米国債を売却する等の報復措置に出ることを予測する専門家もいます。

しかし、中国当局は米国債を売却できないでしょう。なぜなら、売却によって債券価格が大幅に下落するため、同様に中国当局にも巨額な損失をもたらすことになるからです。そもそも、中国の元は、中国が米国債を大量に持っていること、ドルを大量に保有しているということが信用の裏付けになっています。

米国債を大量に売却すれば、元の価値を毀損するだけになります。最近は外貨不足が目立ってきた中国ですが、そうなるとますますドルが寄り付かなくなり、元の信用はガタ落ちになることでしょう。

米中貿易戦が勃発すれば、政治制度が異なる両国の中で中国は最も大きな代価を支払うとことになります。中国の現在の政治制度では、経済成長を維持しつづけることのみが政権の統治の正当性を保証しています。

したがって、米中貿易戦でホワイトハウスから追われることを心配しないトランプ氏に対して、中国共産党政権はこの貿易戦で中南海を失うことにもなりかねないです。

中南海

しかし、米国にはリスクが全くないわけではありません。中国からの輸入を減らせば、国民の日常生活に必要な生活用品や電化製品などの価格が上昇し、これによって米国のインフレ率も約0.5%上がる可能性もあまりす。

このような状況が現れれば、トランプ氏がやならなければならないことは、ウォルマートの前で価格上昇を抗議する国民に対して「価格上昇は一時的な物だ。安価の商品はすぐベトナム、タイ、インド、マレーシアから米国に入ってくる」と言い聞かせ、納得させることです。それは、さほど難しいことではないはずです。

米中貿易戦争においては、米国が必ず勝つでしょう。中国がアップル社のiPhoneを中国で組み立てることは大した脅威ではありません。米国にとって脅威なのは、中国がiPhoneのようなスマートフォン技術の研究開発に成功し、その技術を掌握することです。

中国に対して米国は、「目には目を、歯には歯を」という戦略を採るべきです。例えば、中国当局が米国製品の輸入、米国企業の投資を禁止すれば、米国も同様な政策を採るべきです。米国も同様に中国製品の輸入と中国企業の投資を禁止すべきです。

この戦略を採れば、米国製造業の先端技術と機密技術が中国当局に流れることがなくなります。実に、米国連邦議会はすでに、中国企業による米国企業の買収について審議しています。

現在、米国の工業から農業、しかもハリウッド映画産業まであらゆる産業で中国企業を見かけることができます。米中経済・安全保障検討委員会(U.S.-China Economic and Security Review Commission)がその役割を担っています。

トランプ大統領も中国企業による買収案に否定的な姿勢を示しています。以上のようなことから、米中貿易戦争が本格的に勃発すれば、負けるのは中国共産党政権です。

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2018年4月10日火曜日

米朝首脳会談“日本開催”浮上 日米首脳会談で電撃提案か、官邸関係者「日米に大きなメリット」―【私の論評】北朝鮮問題は、マスコミ報道等とは全く異なる形で収束するかもしれない〈その2〉(゚д゚)!

米朝首脳会談“日本開催”浮上 日米首脳会談で電撃提案か、官邸関係者「日米に大きなメリット」


 ドナルド・トランプ米大統領と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の首脳会談をめぐり、官邸周辺で「日本開催案」が浮上している。「北朝鮮の完全非核化」と「拉致問題」をセットで交渉できるためだ。開催地をめぐっては、米ワシントンや、北朝鮮・平壌(ピョンヤン)、第三国が検討されているが、トランプ氏のペースで正恩氏と向き合える「唯一の周辺国」が日本なのだ。注目すべき、正恩氏のメッセージとは。安倍晋三首相は17、18日(米国時間)の日米首脳会談で電撃提案するのか。


 「日米双方にとって、メリットが大きい。実際、政府内でも『日本開催案』を主張する外交担当者が複数いる。トランプ氏が乗ってくる可能性も低くないとみている」

 官邸関係者は、夕刊フジにこう語った。

 これまで、首脳会談の候補地としては、両国の首都とともに、軍事境界線にある板門店(パンムンジョム)、中国・北京、スイス・ジュネーブ、ロシア・モスクワ、スウェーデン・ストックホルムなどが検討された。

 ただ、日米情報関係者は「両首脳とも、交渉の主導権を握りたいので、相手の首都は避けたいはずだ。トランプ政権は、『従北・反米』である韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権を信用していないので、板門店も嫌がるだろう」と語る。

 北京やモスクワも、簡単ではない。

 正恩氏は先月末、電撃訪中して中国の習近平国家主席と会談した。最悪だった中朝関係は緩和したが、米中は貿易戦争に突入しつつある。米露も外交官追放合戦があるうえ、トランプ氏は「ロシア・スキャンダル」から解放されていない。

 このため、米朝と良好な関係を維持しているモンゴルのウランバートルや、第三国であるスウェーデンのストックホルムは有力候補地といえる。

こうしたなか、「日本開催」を説く識者がいる。元内閣参事官で嘉悦大教授の高橋洋一氏は、夕刊フジ連載「日本の解き方」(3月14日発行)で、こう主張した。

 《米朝首脳会談を日本でやることを提案してもいい。日本にも(北朝鮮が)核ミサイルや通常兵器を使わないことを約束させるためだ》《米国と日本は、安全保障で米国、経済(協力)は日本と役割分担して、対北朝鮮交渉にあたってもいい。検証可能な非核化、拉致事件解決と経済協力をセットにもできる》

 これには、安倍首相とトランプ氏の強固な信頼関係がベースにある。

 前出の官邸関係者は「北朝鮮は『平壌開催』を提案したが、安倍首相は日朝首脳会談(2002年)での、北朝鮮の盗聴などを体験している。日米首脳会談で『平壌開催はダメだ』と、トランプ氏に説くだろう。正恩氏が訪中したことで『第三国開催は可能』『米国に有利な場所がいい。日本も候補地だ』と持ちかければいい」という。

 電撃的な、米朝首脳会談の「日本開催案」をどう考えるべきか。

 朝鮮半島情勢に精通する元公安調査庁調査第2部長の菅沼光弘氏は「画期的なアイデアだ。日本が、アジアと世界の平和と安定に、大きな役割を果たすことになる」といい、続けた。

 「正恩氏は3月30日、訪朝したIOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長と平壌で会談した。北朝鮮側は、2020年東京五輪に『必ず参加する』と表明した。あれはメッセージだ。正恩氏は本音では、日本に敵対的感情を持っていないのではないか。正恩氏には身の安全が重要。『日本は安全だ』と信用させられるかがポイントだ。ともかく、安倍首相は日米首脳会談で『日本開催』を打診すべきだ」

【私の論評】北朝鮮問題は、マスコミ報道等とは全く異なる形で収束するかもしれない〈その2〉(゚д゚)!

米朝首脳会談日本開催については、鈴木 衛士(すずき えいじ)氏がアゴラに日本に誘致せよということで、記事を寄稿していましたが、今回ZAKZAKは報道しましたが、大手報道機関は今までのところ全く報道していません。

大手報道機関は、そもそも一昨年の米大統領選挙報道では全くトランプ氏が大統領になることを予想できませんでした。米朝会談に関しても、その二の舞いを舞う可能性が高いと思います。

あるいは、日本で開催ということになると、安倍総理の評価が嫌がおうでも高まるので、報道しないのかもしれません。いずれにしても、北朝鮮問題について正しく報道されていない可能性が高いです。これは、しっかり認識しておくべきでしょう。

今のところ、政府内でそのような動きがあるということだけではありますが、これは多いにありそうなことです。それだけトランプ大統領の安倍総理大臣に対する信頼は大きいものなのです。

米朝会談の日本開催の可能性に関して、このブログに掲載したことはありませんが、北朝鮮問題が、マスコミ報道等とは全く異なる形で収束するかもしれないことについては、このブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
トランプ氏、5月に正恩氏「死刑宣告」 北の魂胆見抜き「戦争内閣」構築 ―【私の論評】北朝鮮問題は、マスコミ報道等とは全く異なる形で収束するかもしれない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、米朝会談においては、米国は北が核を完全に放棄した上、さらに十分に査察も受け入れるといういわゆる「リビア方式」を主張することになるでしょう。以下に「リビア方式」に関する部分をこの記事から引用します。
 リビア方式とは、「アラブの狂犬」こと、リビアの独裁者、カダフィ大佐が03年、核放棄に合意し、査察団を受け入れ、06年に国交正常化した方法だ。「北朝鮮が先にすべての核兵器と核物質などを放棄し、その後に制裁解除などの補償を行う」というもの。 
 ちなみに、カダフィ氏は11年、「ジャスミン革命」で、反政府勢力に捕まり、命乞いをするも、射殺された。

核放棄後に殺害されたリビアのカダフィ大佐

 正恩氏は間違いなく、自分をカダフィ氏に重ねて震えている。この間、何があったか。以下、複数の日米情報当局関係者から入手した情報だ。
 
 「中朝首脳会談(3月26日)は、ボルトン氏起用に慌てた正恩氏が、習近平国家主席に泣きついた結果だ。習氏に、リビア方式を否定してもらった。さらに、『韓米の平和・安定雰囲気の醸成=米韓合同軍事演習の中止・在韓米軍撤退』などを主張した。だが、手は震え、顔は哀れなほど、強張っていた」 
 当たり前だ。正恩氏は最近まで「中国は千年の敵」と公言していた。屈辱的な命乞いといえる。さらに情報は続く。
金正恩(左)と習近平(右)

 「北朝鮮は水面下で、5月の米朝首脳会談の開催場所としてフィンランドを提示している。2つ理由がある。1つは、ロシアの領空だけを飛んでいける。安心だ。
 
もう1つは、亡命準備だ。フィンランド滞在中、万が一、北朝鮮国内でクーデターが起きたら、正恩氏はロシアに亡命するという情報がある」 
 そして、結論はこうだ。 
 「日米主導で進めてきた経済制裁が効いている。北朝鮮の人民と軍部は飢餓状態だ。数十万人の餓死者が出る恐れがある。正恩氏はまだ、圧力に屈して『核放棄の意思』を伝えたことを人民や軍の末端に隠している。公表すれば、人民と軍の怒りが爆発する」 
この記事では5月の米朝首脳会談での開催場所としてフィンランドを提示しているという情報を受けて書かれています。

いずれにせよ、金正恩は、金王朝存続のためには、核を手放すことはできないのですが、それでは米国は絶対に金王朝存続を認めないのははっきりしています。

また、日米が厳しい対北制裁を実行したし、今後も緩めることはないということも大きな脅威となりました。日本の報道機関はあまり報道しませんが、日本の海自は第二次世界大戦後一回も踏み入ったことのない黄海にまで護衛船を派遣して、監視活動にあたっています。


さらに、トランプ大統領は、この監視活動を強化するために、米国の沿岸警備隊を派遣することも検討しています。

これだけ、制裁が強化されると、北朝鮮への物流はどんどん細り、核開発どころか、食糧に関しては何とか自給自足ができているようですが、必要最低限の燃料すら確保できなくなるのは目にみえています。そのような状態に陥り、人民や軍の不満が高まれば、リビアのカダフィ大佐のように追い込まれる可能性が高まるばかりです。

であれば、亡命ということ大いにあり得ませす。そうして、米朝会談がフィンランドもしくは、ロシア・モスクワ、スウェーデン・ストックホルムで開催される場合には、金正恩がロシアに亡命する可能性が高いとみるべきでしょう。

日本での開催ということになれば、日米朝首脳会談ということになります。そうして、拉致被害者問題の解決も具体的に動き始めることになるでしょう。

金正恩が、北朝鮮にとどまり続けた上で金王朝を温存したいと考えるのなら、日米の要求は受け入れざるを得ないでしょう。そうしなければ、制裁がさら苛烈なものになるか、米国に攻撃されることになります。どちらになっても勝ち目はありません。

金正恩としては、北朝鮮にとどまりつづけるなら、日米と中露の狭間でバランスを図り、それこそ、ロシアとスウェーデンの狭間で、翻弄されたフィンランドのような運命をたどることになるかもしれません。

そうして、私は金正恩は、それが可能かどうかは別にして、金王朝を最終的にはイギリスの王室もしくは、日本の皇室のような形で温存したいと考えているのではないか思います。実際、正恩の祖父である、金日成は日本の皇室などをモデルとして、実質上の金王朝を設立しようとしたものと考えられます。それは、現在も道半ばなのだと思います。

であれば、北朝鮮の体制がどうなろうと、金王朝が残ることが目的なので、日米が王朝を認めれば、意外と素直に日米の要求を飲むかもしれません。ただし、日米としては、北朝鮮の核放棄は当然のこととして、ある程度の民主化、政治と経済の分離、法治国家化などは譲れない線となります。

ここで、北朝鮮が譲歩しなければ、米国は軍事攻撃をすることになるでしょう。最初は核関連施設の爆撃、その後様子をみて北朝鮮に進駐ということになるでしょう。

いずれにせよ、北朝鮮問題はマスコミが報道しているような内容で決着がつくのではなく、まったく予測できないような方向で決着するのは確かなようです。

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2018年4月9日月曜日

政権交代で中国の一帯一路を封印したいマレーシア―【私の論評】ナジブとマハティールの戦いは「アジア的価値観」と「西欧的自由民主主義」の相克という枠組みで捉えよ(゚д゚)!

政権交代で中国の一帯一路を封印したいマレーシア

中国に身売りしかねないナジブ首相に立ち向かうマハティール元首相

下院解散で、事実上の選挙戦がスタートしたマレーシア。与党連合(国民戦線)は野党支持層が厚い
選挙区に数週間前から早々に、ブルーの与党連合統一の旗を張り巡らせ、猛追する野党阻止を狙う

 60年ぶりの歴史的政権交代が期待されるマレーシアの総選挙(下院=定数222、5年に1回実施。総選挙(投開票日)は5月5日前後で政府が最終調整=前回記事で独自報道)は、与党優勢が伝えられている。

 一方で、2008年に与党連合(国民戦線)が歴史的に苦戦を強いられた戦い「TSUNAMI(津波)選挙」が再び起こるのか、と内外の注目を浴びている。

現首相のナジブ 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 首相のナジブは7日に下院を解散し、津波の再来を警戒する中、「史上最悪のダーティーな選挙を展開するだろう」(元首相のマハティール)と見られ、残念ながら筆者も全く同感だ。

野党に30日間の活動停止

 ナジブは、公務員の給与所得値上げなどのバラマキ公約、さらには与党に有利な「選挙区割りの改定法案」、メディア封じ込めの「反フェイクニュース法案」を下院解散直前の数日間で強行採決。

 さらに、マハティールが代表を務めるマレーシア統一プリブミ党への“締めつけ”を強化。政府は解散直前の5日になって突如、プリブミ党が党登録時の書類に不備があると、書類再提出を指示し、30日間の活動停止を言い渡した。
元首相のマハティール

 30日間の間に再提出しなければ、同党は”永久追放”されると見られている。政府は野党連合(希望同盟)に対しても、野党連合の統一旗の使用やマハティールの顔写真を選挙活動に使用することも禁止した。

 選挙戦活動に圧力がかけられる中、マハティールは「ナジブよ、逮捕したかったら、してみろ!」と自分の政党のロゴが入ったTシャツを着用し、打倒ナジブのシュプレヒコールを全開させている。

 こうした事態に、米国国務省はナジブの非民主的な強権発動に異例の非難声明を発表。さらに、民主化を後押しする宗主国の英国のメディアなど欧米のメディアは、ナジブ糾弾の辛辣な報道を活発化させている。

 一方、事実上の選挙戦に火蓋が切られたマレーシアでは「次期首相には誰がふさわしいか?」を聞いた最新の世論調査(政府系シンクタンク調査。3月23日から26日まで)が実施された。

 その結果、過半数の61%が、野党連合を率いる92歳のマハティールに再び、国の舵取りを握ってほしい、と願っていることが6日、明らかになった。ちなみに、ナジブへの続投への期待は、39%だった。

 昨年末、実施された各種世論調査では、ナジブが少なからず優位に立っていたが、ここに来て、マハティール人気が急上昇。

 「独裁開発者」としての過去の首相時代のイメージから、「人民、民主(ラクヤット=マレー語)」をキーワードに、民衆の頼れるリーダーへとソフトにイメージチェンジした。首相時代より人気が出ているのは、何とも皮肉だ。

 そんな国民の期待を背負う、マハティールは、22年という歴代最長の首相在任を経て、政界を勇退した。

 本来ならば、悠々自適な余生を過ごしているはずが、ナジブ側による暗殺に警戒しながら、歴史的な政変を起こそうとしている。老骨に鞭打つ決意の背景には、いったい何があるのか――。

ナジブと中国の蜜月関係

 誰もが納得する理由は、本人も公言している国際的なスキャンダルとなったナジブや一族が関わる政府系ファンド1MDBの巨額公的不正流用疑惑にメスを入れることだ。



 しかし、本当にマハティールがメスを入れたいのは1MDBが発端となって明らかになりつつある「ナジブと中国の蜜月関係」のようだ。

 その矛先は、マレーシアを重要拠点とする中国の国家主席、習近平提唱の経済構想「一帯一路」にある。マハティール率いる野党が政権交代を実現すれば、マレーシアにおける中国の一帯一路戦略は見直しされるだろう。

 本来、マレーシアでは外国諸国との経済協力は経済企画庁(EPU)が直接の担当省。しかし、一帯一路プロジェクトに関しては、ナジブ直属の総理府がイニシアティブを取っている。

 ナジブと習の独裁的なトップダウンな指揮の下、一帯一路プロジェクトが展開されていることが問題視されているのだ。

ナジブ(左)と習近平(右)

 マレーシアでの一帯一路プロジェクトが、ナジブ設立の1MDBの巨額債務を救済するために始まったことをマハティールは決して見逃すことができないのだ。

 一方、中東からの石油に依存している中国としても、マラッカ海峡を封鎖される危険性(マラッカジレンマ)に備え、マレー半島における拠点づくりは最重要課題となっている。

 中国にとっても地政学的に極めて重要拠点となるマレーシアを取り込むため、借金返済を目論むナジブと習が「利害を一致」させ、一帯一路を通じてチャイナマネーが大量流入している。

 最も顕著な例は、1MDB傘下のエドラ・グローバル・エナジー社が所有する発電所の全株式約99億リンギ(1リンギ=約28円)分を中国の原子力大手、中国広核集団に売却したことだ。

 しかも、中国広核集団は、同資産に加え1MDBの負債の一部の60億リンギを肩代わりした。まさに、一帯一路の下での「1MDB救済プロジェクト」にほかならない。

発電所の全株式を中国に売却

 国の安全保障の根幹である発電所を外資に売り渡す国家戦略にも驚かされるが、ナジブは借金返済のため、「発電所は外資上限49%」というマレーシアの外資認可規制を無視し、中国企業に100%身売りしてしまった。

 そのような状況の中、マハティールは一帯一路のインフラ整備に伴い中国政府から巨額の債務を抱え、財政難にあえぐスリランカと同じ徹を踏まないと誓っている。

 中国マネーの流入は国内政策に悪影響を与え、中国経済への依存は、南シナ海を含め、国や地域の安全保障にも大きな影をもたらすことにもなるからだ。

 こうしたことから、マレーシアと中国との関係改善は、今回の選挙の大きな争点の1つになっている。

 マレーシアでは、一帯一路の関連プロジェクトが鉄道、電力、工業団地、不動産、港湾などのインフラ整備投資を中心に約40件ほど進んでおり、IT分野を始め、製造業、教育、農林水産、観光など幅広い事業に及んでいる。

 中でも、習肝いりの一帯一路の目玉プロジェクト、「東海岸鉄道プロジェクト」は、首都クアラルンプール郊外とマレーシアの北部・ワカフバルを縦断する総距離約600キロを結ぶ一大プロジェクト。2025年完成を目指している。

 問題は、スリランカと同様だ。中国は“低利融資”と言うものの「年利約3.3%で550億リンギ」の総経費を、中国輸出入銀行から借入。

 当然、他の諸国の一帯一路と同様、建設会社は中国交通建設などで、政府は「雇用も資材も、外国と国内の内訳は半々」と模範解答するが、他の様々な一帯一路プロジェクトと同様、「実態は資材だけでなく、労働者もほぼ100%が中国から投入されている」(建設関連企業幹部)と見られている。

 しかも、その労働者は建設現場からの外出を禁じられ、彼らの消費はマレーシア経済に何の貢献もしない。

 中国との「利害一致」と言うが、中国一強プロジェクトにほかならない。

中国のための東海岸鉄道

 ナジブは「東海岸鉄道は開発途上の東部地域の経済成長率を底上げする」と豪語する。しかし、マハティールは「借金を抱え込み、地元の経済や企業をさらに疲弊させるだけ」と同プロジェクトの中止を公約に掲げている。

 マラッカ・ジレンマを克服したい中国にとって、東海岸鉄道プロジェクトはその生命線となるが、マレーシアにはほとんど利益がもたらされないとうわけだ。

 こうした反論にナジブは、「東海岸鉄道など中国との開発プロジェクト(一帯一路関連)を中止せよとは、野党は頭がおかしい!」と激怒する。

 さらに、「中国は最大の貿易相手国。主要輸出品のパーム油だけでなく、ツバメの巣やムサンキング(果物の王様、ドリアン)も大量に輸入しているんだ(「中国がドリアン爆買い マレーシア属国化への序章」)」「中国なくして、国民の暮らしは良くならない」とまで言う。

 まるで中国に憑りつかれたかのように“中国賛歌”をまくし立てている。

 マレーシアの建国の父といわれるマハティールがなぜ、92歳にして現職首相に対して歴史的な政変を起こそうとしているのか。独立国家としてのマレーシアの存亡に対する危機感がある。

 中でも、ナジブの中国との蜜月が、彼の愛国心を傷つけ、その怒りが最高潮に達したのが、マレーシア国産車の「プロトン」の中国企業への身売りだった。

 「プロトンの父」と言われたたマハティールは日本の三菱自動車と資本・技術提携し、東南アジア初の国産車を導入させた。

 この売却が、ナジブとの対決姿勢を決定的なものとした。余談だが、ナジブは「財政難」を理由に、マハティールがアジアで日本に次いでマレーシアに誘致したF1レースからも昨年、撤退。

 さらに、マハティールが経済発展の成長のシンボルとして、肝いりで日本のハザマに施工させた、かつては世界最高峰のビルでマレーシアのランドマーク、ペトロナスツインタワーを超える高さのビル建設計画も進めている。

中国資本で建設が進むフォレスト・シティ

 ナジブの目玉プロジェクトであるクアラルンプールの新国際金融地区 「TRX」で建設中の別の超高層タワー(写真下)は、すでにペトロナスツインタワーを建設途中でその高さを抜いてしまった。



 ドミノ倒しのようにバサッ、バサッと、”マハティール・レガシー”を次から次へと、ぶっ壊すナジブ。

 そして、東海岸鉄道プロジェクトだけでなく、TRXに建築予定の超高層タワーやダイヤモンド・シティ、さらにはイスカンダル地帯に建設される大規模開発、それらすべてが一帯一路にも関連する中国の大手企業による開発だ。

 中でも、 4つの人工島を建設して、約80万人が居住する大型高級住宅街、教育施設、オフィスを構える都市開発計画「フォレスト・シテイ」は、中国の大手不動産「碧桂園」が開発、 2035年の完成を目指す。

都市開発計画「フォレスト・シティー」立体パース

 建設にあたり租税恩典も与えられ、買手の約80%が中国本土からの「大陸人」だと言われている。

 マハティールは、「チャイナマネーの大量流入で、国内企業は衰退の一途を辿るだけでなく、新たな1MDBのような巨額な債務を抱えることになる。さらに、マレーシアの最も価値ある土地が外国人に専有され、外国の土地になってしまうだろう」と話す。

 そこには、建国の父・20世紀最後の独裁開発指導者としてではなく、ラクヤット(民衆)のために立ち上がり、新たなレガシー(遺産)を築きたいという気持ちもあるのかもしれない。

(取材・文  末永 恵)

【私の論評】ナジブとマハティールの戦いは「アジア的価値観」と「西欧的自由民主主義」の相克という枠組みで捉えよ(゚д゚)!

中国がマレーシアなどの国々に影響力を及ぼすことができるのは、金の力だけではありません。やはり、客家(はっか)と客家人ネットワークを理解しなければ、これは理解できないでしょう。

客家人とは、原則漢民族であり、そのルーツを辿ると古代中国(周から春秋戦国時代)の中原や中国東北部の王族の末裔であることが多いです。歴史上、戦乱から逃れるため中原から南へと移動、定住を繰り返していきました。

客家人の住居「福建土楼」

移住先では原住民から見て“よそ者”であるため、客家と呼ばれ、原住民との軋轢も多数ありました。原住民と、客家人の争いを土客械闘といいます。

中国の政治において最も重要なファクターは「客家人ネットワーク」だと言われます。「アジアのユダヤ人」とも言われる彼等は、中国、シンガポール、台湾、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、米国などの中枢に強固な繋がりを持つ華僑ネットワークを形成しています。

客家は、孫文、鄧小平、宋美齢、江沢民、習近平、李登輝、蔡英文、李光耀など、アジアを中心として多くのキーパーソンを排出しています。

さて、昨日はシンガポールの独裁者であった故リー・クアンユー氏のことをこのブログに掲載ましましたが、このシンガポール、そうしてマレーシアも中国語の通じる華人の多い地域です。

マレーシアの首都クアラルンプールにある中華レストラン「客家飯店」

街で買い物をしても、日本人であったとしても普通に中国語で対応されます。マレーシアの最南端に位置する都市ジョホールバルでは街じゅうのいたるところに中国語を見かけます。華人には中国語で話しかけた方が、心を開いてくれる気がします。

日本から来られる方の中には、“中国人”に関してネガティブなイメージからか、中国語のアレルギーのようなものを感じる人がいるかもしれません。

中国語を読み書き話す人を見ると「中国人かな?」と思ってしまいますが、当人たちの多くは自分たちのことを大陸の中国人とは分けて考えています。

人それぞれなので一概にはいえませんが、大陸の人たちとは往往にして気質が異なります。人種としての分類では彼らは『マレーシアン・チャイニーズ』です。彼らの多くは、自分たちは、大陸の人とは違うといいます。はっきり言うと、大陸の中国人を軽蔑しているからかもしれません。

マレーシアでは、中華系の人々(華人)は人口の25%を占めると言われています。人口比は25%でも、一人あたりの平均GDPはマレー系の人々より5割近く高いです。

商取引では英語でももちろん問題ないですが、中国語が流暢にできるならそのほうが歓迎される場面があります。

表向きは英語で対応しているものの「裏で所属の部下と話しているのは中国語」という場面もあります。そのような場合は、両方できるほうが何かと有利に話を運べます。

中国語といえば、北京語(マンダリン)を想像します。たしかに華人は基本的に北京語ができます。それでも母語としての中国語はというと、地域によって人口が変わります。肌感覚にはなりますが以下のような感じなります。
クアラルンプール(Kuala Lumpur):広東語
イポー(Ipoh):広東語
ペナン(Penang):福建語(閩南語)
ジョホール・バル(Johor Bahru):北京語
中国語ができる人はマレーシアでも普通に生活ができます。医療を受けるにしても薬局で必要な薬を買うにしても便利です。

マレーシアの中華系の人は中国語(普通語・北京語)が基本的に話せます。もちろん読み書きもしっかりできます。学校で習うのは簡体字。50歳以上の人は繁体字を好んで用いることもあります。

中学生は公育語がマレー語になるため、当人たちは覚えることを結構苦しんでいるようですが、マレー語もできるようになります。これらの言語がどれもかなり高いレベルです。

家で中国語が話されている家庭が最も有利なようです。インターナショナルスクールでも中国語の授業はありますが、授業だけで中国語を習得するのは無理です。

マレーシアの首都クアラルンプール

マルチリンガルの子どもたちも多いです。家政婦さんとはマレー語、両親とは中国語、学校では英語という具合です。それぞれのことばを瞬時に切り替えます。

非中華系でも、たとえば地元のインド系の方たちも多少中国語がわかる場合があります。インド系だからといっても油断は禁物です。中国語でひどいことを言ってしまえば通じてしまいます。

ちなみにシンガポールはというと、英語で教育を受けている背景のためか、30歳くらいよりも若い年齢の華人は、中国語はあまりうまくないです。マレーシアとは対照的です。

英語と中国語は、両言語とも性質がずいぶんと違いますから、環境的に二つ同時にマスターできる可能性の高い地域は、世界でもマレーシアだけかもしれません。

最近の、マレーシアン・チャイニーズは経済的に余裕ができてきたためか、LCCなどを使って世界各地を旅行する人も増えて来ました。日本にも大勢来ています。

さて、昨日このブログに掲載したお隣の国シンガポールの、独裁者であった故リー・クアンユー氏も華人でした。そうして、数多い華人の中でも、先に掲載した客家人でした。

昨日の記事にもあるように、氏は客家系華人の4世にあたるといいます。曽祖父のリー・ボクウェン(李沐文)は、同治元年(1862年)に清の広東省からイギリスの海峡植民地であったシンガポールに移民しました。本人は自分のことを「実用主義者」「マラヤ人」と称している。また、自らを不可知論者としています。

昨日のブログでは、石平氏の『なぜ中国は民主化したくてもできないのか』という書籍の書評を紹介させていただきました。

この書籍では、石平氏は、長く独裁を続けた毛沢東や改革開放経済の道を開いた鄧小平に比肩する実績も、カリスマ性もない習氏がなぜやすやすと“独裁体制”を築けたのかという問に対して、"中国民衆の中に「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統があるからだ"と断じています。

中華思想では、天から命じられた天子(皇帝)は中国だけでなく全世界唯一の統治者なのです。そうして、中華秩序を失えば王朝も崩壊するという歴史を中国の民衆は身に染みて知っているのです。

そうして、昨日の記事では、故リー・クアンユー氏が、西洋の自由民主主義は「アジア人」には向いていないとは述べていたことを掲載しました。リー・クアンユー氏は、さらに「アジア人は、個人の利益よりも集団の利益を上に置く考え方に慣れている。生来、権力者に対して従順で、こうした傾向はアジアの歴史に深く根差す"アジア的価値観なのだ"と主張していました。と主張したことも掲載しました。

そうして、私は石平氏の言う"中国民衆の中に「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統"とリー・クアンユー氏の言う"アジア的価値観"とは本質的に同じものであると考えました。

私は、アジア一帯に住む華人のうちでも、特に客家人はこうした社会通念や伝統を強く継承しているのではないかと思います。

マレーシアの、現首相ナジブ氏と、元首相のマハティール氏の経歴を調べてみると、両方とも生粋のマレー人のようです。しかし、上でも述べたように、マレーシアには華人も大勢いて、その中には客家人も存在していて、特に経済界では幅を効かせています。

そのような客家人にナジブ氏は大きく影響されたのだと思います。一方、マハティール氏は、西洋の自由民主主義に親和的な立場をとっているのだと思います。

昨日は、"現在のアジアではリー・クアンユーのいう「アジア的価値観」すなわち中国の民衆のなかにある「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統と、西洋的自由民主主義とが相克しているのです。

ナジブとマハティールの戦いは、この相克の枠組みでとらえるとかなり理解しやすくなります。そうして、私は無論マハティールを支持します。

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2018年4月8日日曜日

【書評】『なぜ中国は民主化したくてもできないのか』石平著―【私の論評】なぜシンガポールは中国に先駆けて皇帝を擁立できたのか(゚д゚)!

【書評】『なぜ中国は民主化したくてもできないのか』石平著


 国家主席の任期制限(2期10年)を廃止してまで、皇帝のごとき絶対権力者の座を手に入れようとする中国の習近平国家主席。長く独裁を続けた毛沢東や改革開放経済の道を開いたトウ小平に比肩する実績も、カリスマ性もない習氏がなぜやすやすと“独裁体制”を築けたのか?

 著者は、中国民衆の中に「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統があるからだと断じる。中華思想では、天から命じられた天子(皇帝)は中国だけでなく全世界唯一の統治者。中華秩序を失えば王朝も崩壊するという歴史を民衆は身に染みて知っているのだ。(KADOKAWA・1400円+税)

【私の論評】なぜシンガポールは中国に先駆けて皇帝を擁立できたのか(゚д゚)!

この書籍を読む前から、私がこの書籍のタイトルや書評などから、思い浮かべたのはあのシンガポールの独裁体制と、リー・クアンユーの「アジアで独裁は当たり前」という発言でした。

リー・クアンユー(英語: Lee Kuan Yew, 繁体字: 李光耀、日本語読み:り こうよう、 1923年9月16日(旧暦8月6日) - 2015年3月23日)は、シンガポールの政治家、初代首相です。首相退任後、上級相、内閣顧問を歴任しました。

初代首相就任以降、長期にわたり権威主義的政治体制、いわゆる「開発独裁」を体現し、独裁政権下ながらシンガポールの経済的繁栄を実現しました。

それについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【野口裕之の軍事情勢】中国の代弁者に堕ちたシンガポール ―【私の論評】リー・クアンユー氏が語ったように「日本はゆっくりと凡庸になる」ことはやめ、アジアで独裁は当たり前という概念を根底から覆すべき(゚д゚)!

リー・クアンユー

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事よりリー・クアンユー氏の 「アジアで独裁は当たり前」という発言の趣旨などが含まれている部分を少し長いですが、下に引用します。
リーは資本主義と強権政治とを結び付けた政治家の嚆矢(こうし:物事のはじめという意味)でした。彼の人民行動党は、中国共産党に比べればまったくもって暴力的ではないとはいえ、事実上の独裁政党として国を統治してきました。

シンガポールの活発な経済、物質的豊かさ、効率のよさという面に目を向けると、独裁主義は資本主義よりもうまく機能する、世界にはそうした地域が存在するのだ、という多くの人の考えを裏打ちするかのように見えます。

しかしリー政権は、民主主義を形だけ維持するために選挙を実施しておきながら、反体制派については脅しや財政的な破綻で対処する選択をしました。リーに立ち向かった勇気ある男女は、膨大な額の賠償を請求されて破産に追い込まれました。

しかし、リーは決して、西洋の自由民主主義が誤りだとは主張しませんでした。ただ「アジア人」には向いていないとは述べていました。アジア人は、個人の利益よりも集団の利益を上に置く考え方に慣れていると主張しました。生来、権力者に対して従順で、こうした傾向はアジアの歴史に深く根差す「アジア的価値観」なのだと主張していました。

しかし、シンガポールが民主化を進めていたら、今よりも効率を欠き、繁栄を欠き、平和でもない社会となっていたでしょうか。韓国と台湾は1980年代に不十分とはいいなが民主化され、それぞれの独裁的資本主義に終止符を打ちました。それ以降、両国は非常に繁栄しています。ご承知のように、民主主義が日本経済に悪影響を及ぼしたということも全くありません。

リーは終始一貫して、シンガポールのような多民族社会では、高い能力を持つ官僚が上から調和を押し付けることを前提としなければならないと述べていました。エリートを厚遇することで、汚職がはびこる余地を最小限まで狭めました。 
しかしそれには副作用もありました。シンガポールは効率的で汚職も比較的少ないかもしれないのですが、一方で不毛な土地となってしまいました。知的な業績や芸術的な成果が生まれにくい国となってしまいました。 
わずか人口540万人の小規模な都市国家で、ある一時期有効であったにすぎない政策が、より大きく、より複雑な社会にとって有益なモデルとなるとは到底考えられません。 
資本主義と強権政治を組み合わせた国家資本主義を目指した中国の試みは、大規模な富の偏りを伴う腐敗の巨大システムを生み出しました。またプーチンは、自らの政策の社会的失敗、経済的失敗を覆い隠すため、極めて好戦的な国家主義に頼らざるをえなくなりました。

それを思うと、シンガポールの滑らかに流れるハイウェー、摩天楼が林立するオフィス街、磨き上げられたショッピングモールを賞賛せずにはいられません。しかしリーの遺産を評価する際は、金大中・元韓国大統領がリーに向けて書いた言葉に注意を払う必要があります。 
「最大の障壁は文化的な性向ではなく、独裁的指導者やその擁護者が示す抵抗だ」。
金大中・元韓国大統領

さて、長期の独裁政権を率いてきたリー・クァンユーからみれば、確かに過去の日本は自ら円高・デフレ政策をとり、日銀は金融引き締めを、政府は緊縮財政政策を取り続け、それこそ日本国民を塗炭の苦しみに追いやりつつ、中国の経済発展に力強く寄与してきたと当然看破していたと思います。全く、日本の政治家や官僚は無能と映っていたことでしょう。 
また、軍事的に見ても、憲法典にある9条にもとづき、どんな場合にも戦力を行使すべきでないという愚かな言説がまかり通っており、これはあたかも、国連憲章でも認められ、西欧では人権と同じく自然権される集団的自衛権をなきものにするごときものであり、確かに生前のリー・クアンユー氏からみれば、日本はいずれ経済的にも、軍事的にも、凡庸な国になるのは必定と見えたと思います。
アジアのそれぞれの国の典型的な顔立ち クリックすると拡大します
そうして、晩年のリー・クアンユーからみれば、デフレであるにもかかわらず、金融緩和の効果がまだ十分に出ないうちに、8%増税を決めざるを得なかった安倍政権、中国の脅威がはっきりしているにもかかわらず、安保法制の改定に拒絶反応を示す日本の野党や左翼の有様をみて、やはり西洋の自由民主主義は「アジア人」には向いていないとの確信を深めたことでしよう。
日本の政権与党が独裁政権であれば、自国経済が疲弊するデフレ・円高政策などそもそも最初から絶対に実行させず、誰が反対しようが鶴の一声で金融緩和、積極財政を行い、無用なデフレ・円高など発生させなかったと考えたことでしょう。にもかかわらず、平成14年には、8%増税をして、さらに 10%増税をするのが当然とする日本の識者や、マスコミの有様をみて、その馬鹿さ加減呆れはてたと思います。
そうして、シンガポールは無論のこと、国連憲章でも認められ、西欧の自由主義的価値観からも、人権と同じように、自由権として、認められてるいる集団的自衛権など、最初から何の躊躇もなく行使する道を選ぶのが当たり前と考えたことでしょう。それすら、すぐに実行できない日本の状況にも呆れ果てたことでしょう。 
リー・クアンユーからすれば、アジアにおいは、人権は制限するのは当たり前としても、集団的自衛権を自由に行使することを制限するのが当然とする、日本の野党や左翼の存在や与党の中にもそのような者が存在する日本の状況をみて、やはり、アジア人である日本人にも西洋の自由主義など全く理解できず、土台無理であるとさらに自信を深めたことでしょう。 
ところで、リー・クアンユー氏は、今年の3月23日に亡くなっています。安部総理は、昨年の12月に10%増税を阻止することを公約の大きな柱として、衆院を解散して、選挙をすることを決定し、それを実行して、選挙で大勝利をしています。 
これは、戦後初で総理大臣が財務省(旧大蔵省)に真正面から挑み、勝利したということで、一部の識者からは高く評価されいます。そうして、安部総理はこの選挙のときにも、集団的自衛権行使を含む、安保法制の改正を公約に盛り込んでいました。 
この有様を見て、リー・クアンユー氏はひょっとすると、日本は独裁政権でなくとも、まともな国に変わるかもしれないと思ったかもしれません。しかし、これは何とも言えません。なにしろ、亡くなったのが、3月(ブログ管理人注:2015年)ですから、この状況を把握していなかったかもしれません。
さて、この「 アジアにおいは、人権は制限するのは当たり前」「アジアで独裁は当たり前」という発言ですが、最近の韓国の様子をみていると、確かにこれは正鵠を射ているといわざるをえません。

しかし、日本は引用した文章にもあるように、例外となるかもしれません。そうして、リー・クアンユーの「アジアて独裁は当たり前」という発言は、やはり中国民衆の中に「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統によるものなのでしょう。

リー・クアンユー氏の自叙伝によると、氏は客家系華人の4世にあたるといいます。曽祖父のリー・ボクウェン(李沐文)は、同治元年(1862年)に清の広東省からイギリスの海峡植民地であったシンガポールに移民しました。本人は自分のことを「実用主義者」「マラヤ人」と称している。また、自らを不可知論者としています。

不可知論といは、事物の本質は認識することができないとし、人が経験しえないことを問題として扱うことを拒否しようとする立場です。現代の哲学で言えば、哲学用語で言う現象を越えること、我々の感覚にあらわれる内容を越えることは知ることができない、として扱うことを拒否する立場です。
リー・クアンユー氏自身が、華人の中に「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統を強く受け継いでおり、この社会通念、伝統からはみ出ることなく、シンガポールを改革し、自らが経験しえなかった「アジア人による西洋の自由民主主義」を否定したのでしょう。
そうして、アジア人は、個人の利益よりも集団の利益を上に置く考え方に慣れていると主張しました。生来、権力者に対して従順で、こうした傾向はアジアの歴史に深く根差す「アジア的価値観」なのだと主張していました。
ここでいう、「アジア人」「アジア的価値観」などのアジアは、「皇帝を求める」社会通念や伝統を求める中華人ならびに歴史的にもそれに大きく影響受けた人々と解釈できます。
リーは資本主義と強権政治とを結び付けた政治家の嚆矢であり、それは鄧小平も認識していたことでしょう。そうして、リーは皇帝のごとき絶対権力者の座を手に入れようとする中国の習近平国家主席大陸中国よりも先に、自らから皇帝になり、シンガポールを経済的に繁栄させました。
習近平皇帝

さて、「皇帝を求める」社会通念や伝統を強く受け継いだ人々も多いからこそ、シンガポールではリー・クアンユーの独裁体制を続けることが可能になったのでしょう。それは、石平氏が主張しているように、中国でも同じことです。
そうして、アジアにおいては、中国、シンガポールだけではありません。アジアの中の国々には、どこの国にいっても華人を先祖に持つ人々が大勢います。これらの人々には「皇帝を求める」社会通念や伝統を強く受け継いでいる人も多いです。
だから、アジアにおいてはリー・クアンユーが指摘するように、「アジア人による西洋の自由民主主義」が根付かず、結局皇帝を求める声が大きくなる可能性もあります。
先にも掲載したように、韓国と台湾は1980年代に不十分とはいいなが民主化され、それぞれの独裁的資本主義に終止符を打ちました。それ以降、両国は非常に繁栄しています。ご承知のように、民主主義が日本経済に悪影響を及ぼしたということも全くありません。
しかし、最近韓国は北朝鮮や中国に接近しています。これは、韓国にもリー・クアンユーが主張する「アジア的価値観」が根付いているからでしょう。
アジアの中で、韓国のように「アジア的価値観」から逃れられず、せっかく根付きはじめた、西洋的自由主義民主主義体制から離れようとする国もででくる可能性があります。
日本、インド、台湾などの国々では、何とか西洋的自由民主主義体制に踏みとどまり、「アジア的価値観」と対峙しています。
私自身は、西洋的自由民主主義は日本でもまだしっかりと根付いていないし、それに未来永劫これを信奉する必要もなく、いずれ日本独自のやり方を追求すべきであるとは思います。
しかし、それは今ではないと思っています。まずは、西洋的価値観を受け入れつつ、日本の魂は失わず、「アジア的価値観」と対峙し、そこから完璧に決別すべきと思います。

現在のアジアではリー・クアンユーのいう「アジア的価値観」、中国の民衆のなかにある「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統と、西洋的自由民主主義との相克しているのです。

これを理解せず、さらになぜシンガポールは中国に先駆けて皇帝を擁立できたのかも理解せず、単に中国と対峙するというだけでは、「アジア的価値観」に対抗することはできません。

日本としては、「アジア的価値観」に頼らなくても、まずは西欧的自由民主主義で日本は十分やっていけることを世界に向かって、今まで以上に証明してみせることが当面の大きな課題になることでしょう。そのためにも、まずは「アジア的価値観」と完璧に袂を分かつ必要があるのです。

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2018年4月7日土曜日

妄想丸出しで安倍政権の足引っ張るだけの政治家は市民活動家に戻れ ―【私の論評】本当に必要なのは財務省解体からはじまる政治システム改革だ(゚д゚)!

妄想丸出しで安倍政権の足引っ張るだけの政治家は市民活動家に戻れ 

ケント・ギルバート ニッポンの新常識


チャート、写真はブログ管理人挿入 以下同じ


 米国の民主主義の特徴は、共和党と民主党という二大政党が政権交代を繰り返してきたことだ。

 1853年以降に就任した歴代大統領は、全員が二大政党いずれかの所属である。上下両院の連邦議員や州知事、州議会議員なども、大半が二大政党に所属している。

 大戦後の70年余だけで、両党間の政権交代は9回起きた。1981年から93年まで共和党政権が12年間続いたが、米国では2期8年という大統領の任期満了時に政権政党も入れ替わる場合が多い。両党とも、米国の国益のために政権を担う。

 日本では、55年11月に自由党と日本民主党が保守合同し、自由民主党(自民党)が発足して以来、90%以上の期間は自民党政権だった。

 自民党総裁以外の人物が首相を務めた期間は、保守合同から今日までの62年5カ月弱のうち、計約5年9カ月、9%強に過ぎない。戦後の日本は自民党内の派閥間で事実上の政権交代を繰り返してきた。無責任野党が日本の国益を主張する姿を見た記憶がないから、当然の結果ともいえる。

 私は東京に80年から住んでいる。古い記憶をたどると、昔は「日本の政治は優秀な官僚が動かすから、誰が首相でも同じ」といわれていた。

 最近は、財務省や防衛省で公文書の改竄(かいざん)や隠蔽が発覚したり、座右の銘は「面従腹背」と公言する人が教育行政の官僚トップだった事実などから、官僚の非常識さが世間にバレた。

 2012年12月、自民党の安倍晋三総裁が、民主党から3年3カ月ぶりに政権を取り戻した。この政権交代後、多くの日本国民は、日経平均株価の上昇や失業率低下といった日本経済の好転と、G7サミットなど外交における安倍首相のリーダーシップを目撃した。

 安全保障法制整備や、国際組織犯罪防止条約(TOC条約・パレルモ条約)加盟など、重要案件を次々に成立させ、70年間1ミリも進まなかった憲法改正もいよいよ現実味を帯びてきた。もはや、「誰が首相をやっても同じ」と考える日本人は絶滅したはずだ。

 優先順位第1位が「憲法改正阻止」である無責任野党と左派メディアは、安倍政権にダメージを与えて退陣に追い込むことを狙っている。国防や外交、経済など日本の国益は彼らの眼中になく、まるで外国勢力の手先として行動しているかのようだ。

 やる気も能力もないのに、民主党時代に閣僚などを経験した人々は、政権与党の重責は割に合わないと考えたのだろう。政権奪還の意欲は感じられず、妄想丸出しで安倍政権の足を引っ張る活動に専念している。

 有権者の力で彼らを「市民活動家」に戻すことは、日本の国益と彼らの幸福につながる。

 ■ケント・ギルバート 米カリフォルニア州弁護士、タレント。1952年、米アイダホ州生まれ。71年に初来日。著書に『儒教に支配された中国人・韓国人の悲劇』(講談社+α新書)、『トランプ大統領が嗤う日本人の傾向と対策』(産経新聞出版)、『日本覚醒』(宝島社)など。

【私の論評】本当に必要なのは財務省解体からはじまる政治システム改革だ(゚д゚)!

米国の2大政党制について、その歴史を簡単にふりかえっておきます。建国期、連邦党と民主共和党が形成され、二大政党が並び立つ政党制度が始まった。しかし、連邦党はすぐに凋落し、二大政党制度を形成するに至りませんでした。1828年までは民主共和党の実質的な一党支配が続きます。

民主共和党の崩壊後、民主党とホイッグ党が実質的に最初の二大政党制度を成立させました。しかし、ホイッグ党は南北戦争以前に消滅しました。その代わりに共和党が出現し、今日のアメリカの民主党と共和党による二大政党制度に繋がっています。

これらの歴史をチャート化すると以下のようになります。


以下に米国の二大政党の特徴をあげておきます。

共和党

共和党は、主に、上中流階級、エリート、実業家、そしてプロテスタントのアングロ=サクソン系を支持基盤とします。

1854年に共和党が結成された時、共和党は奴隷制度の拡大に反対しました。1860年の大統領選挙でエイブラハム・リンカーンが当選するまで共和党の綱領は、ホームステッド法による西部入植の推進、国内開発事業、大陸横断鉄道の建設、保護関税、そして、奴隷制度の封じ込めなどを含むようになりました。1880年代、共和党は実業志向で社会的に保守的になり、そうした傾向は今日まで続いています。

19世紀後半の綱領の重要項目として、関税を通じてのアメリカの実業の保護、強力な通貨、低い税率、そして国際貿易の促進が掲げられました。19世紀後半から20世紀初頭の大統領職は主に共和党で占められました。

民主党がアメリカ政治を支配した1930年代から1940年代の後、1953年から1993年の40年間のうち28年間を共和党が支配しました。1968年にリチャード・ニクソンが大統領に当選し、共和党は連邦政府の権限を縮小して、州に権限を返すことを目的としたニュー・フェデラリズムを導入しました。

1980年、ロナルド・レーガンの当選で共和党は決定的な勝利を得ました。宗教的保守派、南部の白人、裕福な郊外居住者、そして、若年層の保守派は犯罪、ポルノ、薬物に対する厳罰化、妊娠中絶の反対、減税、防衛費の増大を支持しました。

概して共和党は実業の利益を支持し、防衛費を増大させ、宗教団体が主導する社会事業、社会保障の民間化、妊娠中絶の規制を支持します。1980年代から、妊娠中絶の反対と学校における祈祷の支持から宗教的保守派の支持を集めるようになりました。

民主党

民主党は主に、貧困者、低中流階級、人種的少数派、宗教的少数派、女性、そして労働組合を政治基盤とします。概して民主党の綱領は積極的な政府事業、公共部門、積極的差別是正措置、性と生殖に関する権利、同性愛者の権利、そして、銃規制を標榜します。

共和党の綱領では、強力な民間部門、実業と軍需の利益、銃を保持する権利、そして減税を標榜しています。概して共和党は積極的差別是正措置のような権利に基づく政策に消極的であり、福祉と政府主導の計画に歴史的に反対してきました。

1829年のアンドリュー・ジャクソン大統領の就任以来、ジェームズ・ブキャナン大統領が退任する1861年まで民主党は全国的の政治を支配しました。初期の時代、民主党は合衆国銀行に反対し、州権と奴隷制度を支持し、農民と地方の独立を尊重しました。

1860年に奴隷制度問題が民主党を分裂させた結果、何度か全国的な成功を収めることはありましたが、1932年にフランクリン・ルーズベルトが選出されるまで完全に力を取り戻すことはありませんでした。

19世紀後半のグローヴァー・クリーブランド大統領の下で民主党はより都市化し革新的になり、ウッドロウ・ウィルソン大統領、フランクリン・ルーズベルト大統領、ハリー・トルーマン大統領を通じて革新主義の立場をとりました。

民主党はフランクリン・ルーズベルト政権下でニュー・ディールを推進し、福祉国家への転換を目指しました。1960年代までに民主党は教育や都市再生といった社会的な分野で広範な政府の介入を支持しました。

さらに1980年代までに民主党は支持基盤を女性や黒人に拡大しました。さらに1990年代から2000年代にかけて、民主党はさらにヒスパニック系にも支持基盤を広げました。民主党はますますリベラルになり、強力な環境保護、積極的差別是正措置、同性愛者の権利、性と生殖に関する権利、銃規制、医療保険の拡充、そして労働者の権利を支持しています。

政治の継続性の原則

ただこのような民主党と共和党の違いは、より幅広い層の支持を集めるために不明瞭になっています。つまり、両党はともに中道寄りになる傾向を示しています。

実際、米国では二大政党間で政権交代があったにしても、6割〜7割は前政権と同じ政策をとります。政党の独自性を出すのは、残りの4割〜3割です。これは、政治の継続性の原則と呼ばれ、政権交代による政治的混乱を防ぐものとされています。

米国の政治というと、この二大政党制が注目されるのですが、政党の近代化が行われているということも注目すべきです。

政党の近代化

近代政党には、三つの要素があります。綱領、組織、議員です。そうして、米国の二大政党もこの要素に基づき、近代化されています。

まずは、明確な理念をまとめた綱領があります。綱領に基づいて全国組織が形成されています。全国の政党支部が議員を当選させます。その議員たちは政策の内容で競い合い、自由で民主的な議論で党首を決めます。

選ばれた党首は直属のシンクタンクとスタッフを有し、全国組織に指令を下します。この条件に当てはめると、自民党は近代政党ではありません。かつての政権与党であった民主党もそうでした。

無論、他の野党も、近代政党とは言い難い状況にあります。公明党と共産党は近代政党に近いといえますが、まともなシンクタンクを有してはいません。

自民党が有する最大のシンクタンクは官僚機構(実体は財務省主計局)ですが、米国の二大政党は官僚機構に対抗できるシンクタンクを自前で揃えています。 このシンクタンクは数も種類も多いです。そうして、このシンクタンクが様々な政策案を立案します。

このようなシンクタンクが充実しているので、官僚は政府の示す目標に従い、実行する手段を専門家的立場から、自由に選択して、政府の目標を達成するため迅速に行動することができます。執行に専念できるわけです。

米国では政党系シンクタンクが政策案を立案し政治家が決め、官僚がそれを実行する

日本のように官僚が政策や目標案を定めて、それを政治家が了承し、官僚が実行するというやりかたは良くないのはわかりきっています。会社で金を使う人が、金の管理をしていたらどういうことになるかは、はっきりしています。このようなことは元来すべきではないのです。

政治家は、このシンクタンクの政策案をもとに国会で発議し、法案を成立させます。さらに、自前でブレーンを用意して勉強した政治家だけが、党の出世階段を上ります。その時々で、政策案を選定するにしても、まともに選定するためには、選定能力が必要不可欠です。それには、論理的思考、水平的思考のほかに特に統合的思考が必要不可欠です。

企業の経営者や、政治家には特にこの統合的思考が重要です。これを欠いている人は、他の能力がいくら優れていたにしても、本来は経営者や政治家になるべきではありません。なれば、企業の従業員や国民が不幸になるだけではなく、自分自身が不幸になります。今の政治家をみていると、幸福で自信に満ちてい人は少ないように見受けられます。

政権交代があった場合には、負けた政党の政治家はシンクタンクに入り、次に与党となる時期を待ちます。その間は、シャドーキャビネットを築き、再び政権を担うを準備を行います。

このような準備をするわけですから、野党としても妄想などに基づいて、与党を批判することもあまりないわけです。

政治システムの改革が最大の課題

だからといって、米国政治が何から何まで良いとは申しませんし、米国では中には桁外れに悪い政治家も存在するわけですが、それにしても、第二次安倍政権の以前のように誰かが総理大臣になれば、すぐに総理大臣おろしがはじまり、短期政権に終わるとか、野党が万年野党で、政権を担う気概も何もないとかということは、さすがに米国においてはありません。

この違いは、個々の政治家の資質の問題ではありません。やはり本当に必要なのは、まずは政党の近代化などの政治システム改革ではないでしょうか。

確かに、妄想丸出しで安倍政権の足引っ張るだけの政治家には、問題があることは確かです。しかし、政治家の資質の問題にだけにしていても、何の解決にもなりません。

経営学の大家である、ドラッカー氏は「頻繁に同じような問題が起こり続けるときは、それは最早個々の人間の資質の問題ではなく、システムの問題である」としています。

ドラッカー氏

日本の政治も同じであり、本当に必要なのは政治システム改革であり、それなしにいくら政治家個々人を叩いても何の解決にならないと思います。とはいっても、政党の近代化など実現するためには時間もかかります。まずは、できることから始めるべきと思います。

それにはたとえば、単純な省庁再編などではなく、まずは財務省を解体すべきです。官僚が日本国の政策の目標を定めるのではなく、それは政治家が行うことを目指す、そうしていずれ政策案はシンクタンクにまかせるようにするのです。今は、まずは財務省の息の根を止めるべきです。

そのためには、財務省を単純に分割するのではなく、財務省をいくつかに分割した上で、各省庁の下部に編入するというやり方を採用すべきです。そうでないと、この省庁は、分割して他省庁につけると、他省庁を植民するという性癖があります。これを防ぎ、過去の大蔵省の悪いDNAの部分(計画立案と執行の両方を行うこと等)を根こそぎに消滅させるのです。

そこから日本の政治システム改革の夜明けがはじまります。そうして、政治システム改革をしたほうが、本当は官僚も執行に専念できて、仕事がやりやすくなるはずです。政策案を立案したい官僚は本来、シンクタンクのスタッフになるべきなのです。政策を定めたい官僚は、本来政治家になるべきなのです。

政策案の立案と、執行を両方とも実行するのは困難です。近代的な企業ではあれば、計画と執行は完璧に分離されています。企業ですら、商法や会社法などで、これは禁じられているにもかかわらず、政治の世界ではなぜか現在に至るまで許容されてきました。本当は困難なことを日本の官僚は日々実行しているのです。

そこから、様々な欺瞞や矛盾が出てきているのが、現在の姿なのです。これでは、日本の政治が永遠に良くなるはずはありません。官僚にとっても、政治家にとっても不幸なことです。そうして、最も不幸なのは国民です。

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2018年4月6日金曜日

安倍晋三首相、米皮切り相次ぎ首脳会談 北の包囲網突破許さず 「戦略描いたのは日本。置き去りではない」―【私の論評】アジアの平和と安定の脅威は日本のマスコミと野党(゚д゚)!

安倍晋三首相、米皮切り相次ぎ首脳会談 北の包囲網突破許さず 「戦略描いたのは日本。置き去りではない」


 安倍晋三首相は17日からの訪米を皮切りに、夏にかけて首脳会談ラッシュに突入する。狙いは、国際社会との対話に動き始めた北朝鮮が試みる包囲網突破の阻止だ。対北圧力路線の旗振り役として、非核化だけでなくミサイル問題の解決についても北朝鮮が具体的な行動を取らない限り圧力継続が重要と訴え、包囲網維持を呼びかける。同時に拉致問題の解決に向けた協力の確約取り付けも目指す。

 「米政府内には『シンゾーからトランプ大統領に言ってもらった方がいい』という声が多い。首相が発言することが多くて負担が重くなってしまう…」

 日本政府関係者は日米首脳会談を前にこう語る。自身のスタッフにさえあまり耳を貸さないトランプ氏だが、首相の話はきちんと聞くため、米政府も首相に頼っているのだ。


 今月の日米首脳会談はトランプ氏就任後、6度目となるが、日本側は「これまでで最も重要な会談」と位置づける。5月末までにトランプ氏と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の会談が予定されているからだ。

 首相はトランプ氏に対し、北朝鮮の「非核化」のあり方を具体的に説明し、核開発のための猶予を与えずに短期間で実行させる重要性についてクギを刺す。日本にとって脅威の中・短距離ミサイルの廃棄も不可欠であることをすり込む考えだ。拉致問題についてもトランプ氏から金氏に直接、解決を迫るよう要請する。

 米国と綿密なすり合わせの後、首相は日米連携をテコに韓国や中国、ロシアと対北包囲網堅持を確認する。特に韓国は日米と連携を取っているが、いつ中朝にすり寄ってもおかしくない。北朝鮮の非核化を話し合う6カ国協議の「日米韓対中朝露」の構図が「日米対中韓朝露」に変化すれば、包囲網の効力は低下しかねない。

 こうした事態を避けるため、首相は5月上旬に東京で開催する日中韓サミットで、韓国の文(ムン)在(ジェ)寅(イン)大統領、中国の李克強首相とそれぞれ会談し、圧力路線継続の一致を目指す。5月下旬には訪露してプーチン大統領と会談するほか、6月上旬のカナダでの主要7カ国(G7)首脳会議でも協力を呼びかける。

 北朝鮮が米韓中との首脳会談に加え、近く朝露首脳会談を行うとの臆測もあり、「日本置き去り」論は根強い。しかし、北朝鮮が対話を求めるほどに追い詰められたのは、日本が圧力路線を主導したからだ。

 日米はトランプ政権発足以降、(1)軍事力を含むすべての選択肢はテーブルの上にある(2)最大限の圧力をかける(3)北朝鮮側から話し合いを求めてくる状況を作る-の3方針を主導してきた。いずれも日本が提案し、米国が国連などで主張し日本が支持する形を取ってきた。

 外務省幹部は「実は日本がこれまでの戦略を描いてきた。決して置き去りになっていない」と断言する。首相の一連の外国訪問は置き去りではないことを証明する狙いもありそうだ。(田北真樹子)

【私の論評】アジアの平和と安定の脅威は日本のマスコミと野党(゚д゚)!

電撃的だった中朝首脳会談

平昌オリンピックにおいて、北朝鮮による華々しい「微笑み」外交が繰り広げられ、その後の電撃的な中朝首脳会談の背後で、北朝鮮をめぐる軍事的緊張は確実に高まってきています。こう書いても、いまや話半分にしか聞いてくれないことが多いかもしれません。

それも理解できなくもありません。昨年来、マスコミでは、トランプ政権がいまにも北朝鮮を攻撃するかのような憶測が事あるたびに報じられてきましたが、軍事行動が起こらないまま1年が過ぎたからです。

狼少年ではありませんが、半島危機は起こらないのではないのかという奇妙な楽観論がいまの日本を覆いつつあるようです。しかし、この1年のあいだに危機は確実に進行しています。

その危機の実情を理解してもらうためには、まず、なぜこの1年間、トランプ政権が軍事行動を起こさなかったのか、ということの説明から始める必要がありそうです。

そもそも、北朝鮮に対してトランプ政権はどのように考えているのでしょうか。特にその中でも、米軍関係者はどのように考えているのでしょう。

米軍側は、北朝鮮だけを見ているわけではありません。北朝鮮有事はあくまで前哨戦に過ぎず、本丸は中国であり、ロシアが連動してくると考えているようです。

米軍は、アジア太平洋方面において2つの大きな脅威に直面しています。短期的には北朝鮮。長期的には中国が自国の利益を確保するために軍事力を使おうとしていることです。

北朝鮮の脅威は、軍事だけといえます。経済力がないため、中国に比べればそれほど難しくはありません。この北朝鮮の問題を混乱させているのがロシアです。ウクライナ問題でもロシアは事態を混乱させる方向で動いていました。

中国は経済力をもっているため、中国に対して軍事は重要ですが、それ以上に外交、情報、経済などの分野で中国を抑止していくことが重要です。とくに中国は、他国が他の問題に気を取られているあいだにいろいろと手を打ってくるので注意が必要です。

金正恩朝鮮労働党委員長を筆頭とする北朝鮮の体制を崩壊させたとしても、米軍は、中国が軍事的増強を続けているため、これから10〜20年はアジアの緊張が続くものとみるべきでしょう。特にこのブログでも何度か掲載しているように、台湾を巡る米中の争いはアジアに新たな火種となるのは間違いないです。

3月22日、トランプ米大統領は中国への高関税措置に署名した

トランプ米政権が国防予算を大幅に増やしたことから、半島危機に備え本気で対応しようとしているのは間違いないでしょう。

その上で、安倍晋三政権は外交で、北朝鮮の暴発を阻止する努力を続けています。アジア紛争のリスクは実は、安倍批判が強い日本のメディアの論調にあるかもしれません。

その中でも、「(北朝鮮問題で)日本は置き去りにされている」マスコミの論調は、最低、最悪と言って良いかもしれません。その尻馬に乗って、森友問題などでとにかく倒閣に結びつけようとする野党も大問題です。

安倍総理は、ブログ冒頭の記事のように、これからも様々な外交活動をしますが、それ以前にかなりの外交努力を継続してきています。そのため、トランプ大統領にも外交では頼られる存在になることができたのです。

安倍総理の経済制裁の強化は、正しい路線です。この制裁に日米が本気でとりくんだからこそ、金正恩は焦りに焦り、それまでとはうってかわって、平昌五輪での融和路線を打ち出し、中朝首脳会談をも実現させたのです。

経済制裁はときに大きな効果をもたらすことがあります。これに関しては、実例があります。80年代後半、各国が次々に制裁に踏み切ると、国際的に孤立した南アの白人政権は、黒人との融和をめざさざるをえなくなりました。

国連が一連の経済制裁を解除したのが93年、南アでの初の黒人政権が誕生したのは、94年のことでした。経済制裁があの南アの白人を動かしたのです。

ダーバンビーチ条例第37節に基づき、この海水浴場は白人種集団に属する者専用とされる」と
英語アフリカーンス語ズールー語で併記された1989年撮影の標識 アパルトヘイトの象徴

日米の本気の経済制裁がなければ、そもそも、韓国と北朝鮮との南北会談も実現せず、相変わらず北は、ミサイル発射実験を継続していたかもしれません。

国民も安倍外交の成果や、半島危機の実態を正しく理解することが必要です。これから、半島危機で日本がうまく立ち回れないとすれば、残念ながら最大の要因はマスコミや野党が倒閣のために安倍政権の足を引っ張ることでしょう。

そもそも、安倍政権がここ数年以内で、崩壊することにでもなれば、日本経済は再びデフレスパイラルのどん底に落ち込み、さらに外交面では世界から置き去りにされることでしょう。これがどれだけ、日本経済や外交・安全保障に悪影響を与えるかは明らかです。さらに、安倍晋三というパートナーを失った米国は外交経験の浅いトランプ氏では中国との対決に苦しむことになります。

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2018年4月5日木曜日

希望の党と民進党が元サヤに収まり、立民が合流しない奇妙な状態 野党に政権を委ねられない不幸―【私の論評】景気回復への道を明示することができない連合も野党も今のままでは凋落していくだけ(゚д゚)!

希望の党と民進党が元サヤに収まり、立民が合流しない奇妙な状態 野党に政権を委ねられない不幸

代議士会に臨む希望の党の玉木雄一郎代表=3月29日午後、国会内

 希望の党が民進党との合流に向け、分党について協議すると報じられた。民進党も新党結成構想について全会一致で了解を得たという。衆院で野党第1党の立憲民主党を含め、展望はあるのだろうか。説明を追加

 希望と民進の協議に関する報道を見たとき、筆者はエープリルフールの冗談かと思ったくらいだが、関係者は「新しい民主党」に真剣なようだ。その時点で、一般人と感覚がずれていると思う。

 今からわずか半年前、昨年10月の総選挙で、小池百合子都知事が立ち上げた当初の希望の党は台風の目となり、その人気目当てに民進は分裂した。

昨年10月、希望の党の立ち上げ 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 いち早く駆け込んだ人は希望、入りたかったが小池氏が「排除」したので入れなかった人が立民、そのままの人が民進-と大ざっぱに分けられる。このときの分裂は、結局選挙目当てが最大の動機だったのは間違いない。

 ところが、小池氏が、「排除」発言で大きくこけて、希望は伸びなかった。総選挙後に希望は、創設者だが既に人気がなくなった小池氏を「排除」した。「排除」の過程で、希望と立民をかろうじて分けていた、リアルな安全保障や憲法改正について、どちらも変わらなくなっていった。

 変節は有権者に見透かされており、次期総選挙では希望の消滅は確実との見方もある。そのような情勢で、希望と民進の合流話が出てきているのだが、やはりこれも「選挙互助会」を作りたいということだ。半年の間に、こうした分裂や再編を繰り返せば、有権者の信頼を失うだけだろう。

 それでも、希望と民進は合流するだろう。というのは、両者は今のままではじり貧だからだ。衆議院の勢力をみると、希望51、民進12(党籍を持っている無所属)、立民55である。ここで、希望と民進が合流すれば、立民を抜いて衆院で野党第1党になる。

 そうなると、立民はどうするのか。財務省による文書改竄(かいざん)問題などでは野党6党で一致団結している。野党6党とは、立民、希望、民進、共産、自由、社民の各党だが、共産を除く5党は、一般の有権者から見れば、もはや政策の違いがわかりにくい。

 希望と民進の合流がうまくいけば、その次には立民も合流してもおかしくない。民進分裂の原因であった小池氏がもういないので、元の鞘に収まっても不思議ではない。

 とはいえ、立民は合流話に乗らないだろう。というのは、小池氏の「排除」発言によって、結果として勢いを増したので、「排除」した側の希望には乗れないからだ。昨年の総選挙の際、希望と立民について「偽装分裂」との見方もあり、やはりそうだったのかといわれないためという理由もあるだろう。

 となると、似たもの同士の希望と立民が合流しないという、政治的には奇妙な状態となる。

 政策はどうでもよく目先の選挙だけで右往左往する野党に、有権者はとても政権を委ねられない。これは日本の民主主義にとって不幸なことだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】景気回復への道を明示することができない連合も野党も今のままでは凋落していくだけ(゚д゚)!

希望、立民、民進党の行動を考えるには、やはり労組の動きを理解しないと十分に理解できないと思います。

その中でも、連合とこれらの党の関係を理解すべきです。連合(正式名称:日本労働組合総連合会)は、1960年代後半から繰り返し志向されてきた社会党系の日本労働組合総評議会(総評=社会党右派を中心に中間派・左派を含む)、民社党系の全日本労働総同盟(同盟)、中間派だった中立労働組合連絡会議(中立労連)、全国産業別労働組合連合(新産別)の労働4団体の統一によって結成されたものです。

但し、1986年の「日本社会党の新宣言」採択まで長くマルクス・レーニン主義を掲げ、自衛隊違憲・解消、日米安保反対、非武装中立、日の丸・君が代反対、脱原発を主張した社会党系の総評(公務員労組中心、日教組・自治労など)と、民主社会主義と反共を掲げ、自衛隊や日米安保、日の丸・君が代、原発に賛成していた民社党系の同盟(民間労組中心)とは水と油の関係であり、基本政策のすり合わせをしないままに行われた統一でもありました。

当該4団体等による「労働戦線統一」の動きは、1982年12月14日の全日本民間労働組合協議会(全民労協。初代議長は竪山利文・電機労連委員長)の結成により大きく進展しました。

全民労協が1986年11月の第5回総会で翌年秋の連合体移行を確定したことを受け、まず同盟が1987年1月の第23回年次大会で解散方針を決定し、総評、中立労連、新産別の3団体も秋までに「連合」への合流を決定しました。


1989年11月21日、東京厚生年金会館で日本労働組合総連合会の結成大会を開き、初代会長に情報通信産業労働組合連合会(情報通信労連)委員長・山岸章を選出しました。 総評系産別を加えて78産別、組合員約800万人を結集させ、労働4団体等の統一を完成させました。なお、山岸は“労働戦線統一の功績”により2000年4月に勲一等瑞宝章を受章しました。

山岸章氏

他方、連合の発足を「労働界の右翼的再編」「反共・労使協調路線」と攻撃する日本共産党系の「統一労組懇」等は、これに対抗して連合結成と同じ1989年11月21日に全国労働組合総連合(全労連)を、総評左派系(社会党左派系)の一部は12月9日に全国労働組合連絡協議会(全労協)を結成しました。

さて、この連合は昨年衆院選で特定の政党を支援せず、立憲民主党や希望の党(結党メンバーを除く)、無所属で戦った民進党出身者らを個別に推薦し、このうち99人が当選しました。


しかし選挙戦では連合傘下の産別労組のうち、自治労など左派色の強い旧総評系が立憲民主党、自動車総連など旧同盟系が希望の党の支援を目立たせるなど、組織に長年潜んでいた対立構図も浮き上がりました。

希望の党で当選した民進党出身の衆院議員は「連合から推薦を受けたが自治労などはほとんど現場で動かなかった」と打ち明けています。

立民、希望、民進3党がそれぞれ地方組織をどう構築するのかも見通せず、高い集票力を持つ連合の組織力は宙に浮いたままです。今年の通常国会では連合が強いこだわりを持つ「働き方改革」の関連法案も審議される見通しで、神津氏らは焦りを募らせています。

希望の党は小池元代表の「排除発言」だけでコケたというわけではない。その背後になは何が?

さて、ここであれだけ台風の目になった希望の党がなぜ選挙戦中でコケてしまったのか、もう一度振り返っておきます。ブログ冒頭の記事では、小池氏が、「排除」発言で大きくコケてしまったとありますが、無論表面的にはそのような面もありますが、それだけではありません。

何と言っても、まずは、希望の党の公約に示された経済政策があまりにもお粗末であったことと、希望の党が改憲勢力でもあることから、希望の党が躍進すれば、国会で改憲勢力がさらに大きな勢力を占めることに危機を抱いた、マスコミが選挙戦途中から希望の党を徹底的に叩きはじめたことの両方によるでしょう。

それでも、経済政策がまともであれば、いくらマスコミが叩いたとしても、保守派などでも擁護する人がでてきた可能性がありますが、あまりに酷い経済政策であったためその動きもなかったことが致命的になったと考えられます。

その、希望の党の経済政策を以下にあげておきます。

希望の党の政策集『私たちが目指す「希望への道」』には、消費税増税について「凍結する」と明記しているのですが、同時にこう書いていたのです。
「金融緩和と財政出動に過度に依存せず、民間活力を引き出す『ユリノミクス』を断行する」「日銀の大規模金融緩和は当面維持した上で、円滑な出口戦略を政府日銀一体となって模索する」。
大規模な金融緩和によって現在の景気回復があるのに、その金融緩和を止める方向を模索するというのです。しかも「財政出動」にも否定的です。仮にこうした「緊縮財政」政策が採用されたら、日本は再び不景気へと転落し、再びデフレスパイラルのどん底に沈みことが予想される内容でした。

特にひどいのが「内部留保」課税でした。政策集には「300兆円もの大企業の内部留保に課税することにより、配当機会を通じた株式市場の活性化、雇用創出、設備投資増加をもたらす」とあります。

内部留保とは、そもそも法人税(国税)と事業所税(地方税)を払った後の残りです。これに課税するのは二重課税であり、租税原則に反するものです。

しかもこの内部留保は、必ずしも現金として手元に残っているわけではなく、設備拡充や技術開発などの再投資に回されている場合が多です。ただし内部留保が積み上がり、現預金の比率が高くなってきていることも事実ではありました。このため、麻生財務大臣のように「金利のつかない金を貯めて何をするのか。給与や設備投資に回したらどうか」と問題視する声もありました。

そもそも企業が設備投資を拡大しないのは、2014年に消費税を8%にあげて個人消費を縮小させてしまったからです。よって政府がなすべきことは個人消費を拡大する政策、つまり消費税減税と、日銀による更なる金融緩和による環境整備であるはずです。

ところが希望の党は、大企業に対して「設備投資を拡大しないのなら内部留保に課税するぞ」と恫喝する政策を打ち出したのです。内部留保を積み上げる大企業に対して罰金を課そうという発想は社会主義特有のものであり、極めて恐ろしいものでした。これでは、保守層は反対にまわるのも無理はありませんでした。

もしこの内部留保課税が具体化するならば、優良企業は国外へと逃げ出すことになったでしょう。そしてそれは、雇用環境の悪化をもたらすだけでした。これでは、『私たちが目指す「希望への道」』ならぬ、『私たちが目指す「地獄への道」』と言っても良いような内容でした。

希望の党の公約。特に経済政策を読み込むと、それは恐ろしい内容だった

枝野幸男代表の「立憲民主党」の選挙公約における経済政策も、金融政策や財政政策には見るべきものがありませんでした。「所得税・相続税、金融課税を含め、再分配機能の強化」と、金持ちに対する税金を上げて、その一部を貧困層に配る典型的な「社会主義政策」が掲載されているぐらいでした。

企業や金持ちに対する課税強化では、景気は回復しません。そして景気が回復しなければ、福祉を充実させる財源も捻出できません。立憲民主党は、民主党政権時代になぜ景気が低迷したのか、なぜ社会保障を充実させることができなかったのか、まったく学んでいないようでした。

現在の希望の党、立憲民主党、民進党とも、希望の党がなぜ勢いを失ってしまったのかその根本原因を全く理解していないようです。そうして、最初から筋悪の「森友問題」に拘泥し、政局においてすらも何の成果もあげられていません。労働者の生活を脅かす増税キャンペーンを長年にわたって行ってきた財務省に矛先を向ければ、まだ何とかなったのかもしれませんが、とにかく「疑惑」の追求で決定打に欠いて、ワイドショー民にすら飽きられて埋没してしまいました。

デフレ期には、適切な金融政策と政府による財政出動、そして民間企業の活動を阻害する「規制」の緩和で自由な企業活動を支援し、個人消費を拡大することこそが景気回復への道であるはずです。そうして、景気回復によって一番の受益者になるのは、他ならぬ労働組合を組織している労働者でもあることに気づくべきです。

この点について、野党だけではなく、連合自体も気づくべきです。そうして、景気回復への道を明示することができない連合も野党も今のままでは凋落していくだけになることでしょう。無論今の野党に政権を担わせることもできません。

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