2018年7月30日月曜日

元官僚の筆者も驚いた「霞ヶ関ブローカー」の暗躍と文科省の腐敗―【私の論評】雇用・外交を蔑ろにすれば、安倍政権は評価されなくなる(゚д゚)!


やっぱり解体的出直しが必要だ

髙橋 洋一

久々に現れた霞ヶ関ブローカー

また、文科省の局長クラスが逮捕された。息子の「裏口入学」で話題となった佐野太・前科学技術学術政策局長は収賄罪で逮捕され起訴されたが、今度逮捕されたのは、川端和明・前国際統括官。容疑は収賄である。

佐野氏の起訴とともに、佐野氏へ接待をしていたコンサルタント会社元役員の谷口浩司氏も起訴されていたが、同氏は川端氏への接待も行っていたと報道されている。

チャート・写真はブログ管理人挿入 以下同じ

佐野氏と川端氏は、旧科学技術庁に1年違いで入省した先輩後輩の関係であった。両氏を接待していた谷口氏は、いわゆる「霞ヶ関ブローカー」といわれる人で、両氏以外にも、経産省や総務省官僚らとの繋がりもあったと噂されている。

まだ残っていたのか…

2000年以降、国家公務員になった人からみれば、今回の文科省の2局長の接待事件は、まるで違う世界のような出来事であろう。筆者ですら、旧時代の悪いものを見せられた気がする。

筆者は、海外勤務が終わって帰国した後、小泉政権の中で、郵政民営化や政策金融改革を行いながら、公務員制度改革も準備を進めていた。小泉政権では政治リソースを郵政民営化に使ってしまったので、公務員改革ができなかったが、その後を継いだ第一安倍政権では、その一部である天下り規制を、国家公務員法の改正として行うことが出来た。国家公務員改革委基本法は、その後の自公政権や民主党政権でもできなかったが、第二次安倍政権になってようやく成就した。

こうした歴史を見てきた人からみれば、まだこんな古典的な接待が、そして霞ヶ関ブローカーが残っていたのか、と驚くしかない

この文科省2局長は、筆者と同世代であるので、当然「国家公務員倫理規定」は知っていたはずだ。もっとも文科省では、昨年初めに組織的天下り問題が発覚したから、そうした規定に鈍感なのかもしれない。文科省の報告書(http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/04/19/1382987_04.pdf)によれば、前川喜平前文科事務次官らが中心となって天下りが行われたということになっている。天下りもまた、かなり古典的な手法である。文科省は、接待、天下りという、他省では絶滅した旧来の官僚の得意技が今でも横行しているのだろうか。

前川喜兵衛

ちなみに、前川氏の天下り斡旋も今回の二局長の接待も、それぞれ国家公務員法違反、国家公務員倫理規定違反である。収賄となれば、二局長は刑法違反にもなる。

それにしても、報道によれば、二局長は霞ヶ関ブローカーと家族ぐるみの付き合いを行っていたという。これは、さすがに驚いた。この家族は、そんな接待攻勢を何とも思わなかったのか。家族の弱いところを聞き出して、そこをじわじわと突いていくのは、霞ヶ関ブローカーの手口であるが、その手に易々と乗ってしまったのだろうか。

そういえば、佐野氏の息子は東京医科大学の試験直前に、セブ島に旅行していたというSNSが出回っている。このセブ島旅行にも、霞ヶ関ブローカーが関与しているという噂もある。佐野氏関係では、佐野氏、東京医大の前理事長臼井正彦氏、谷口氏が密談している音声も報道された(http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3430300.htm?1532866636353)。

佐野氏が収賄を否定しているので、贈賄側からの情報がリークされたのだろう。佐野氏が職務権限なしで争っても、文科省職員が「官房長がこわかった」と法廷証言すれば有罪になりうるだろう。

こうした「霞ヶ関ブローカー」は、政治家との繋がりもあり、谷口氏は野党議員2名との関係もあるとされている。はたして野党は「モリカケ」のようにこの問題を追及することができるのだろうか。

谷口氏との関係を指摘されている吉田統彦(左)衆議院議員 
立憲民主党  羽田雄一郎(右) 参議院議 国民民主党

筆者はこの関係者の構図を見て、かなり以前にあった話を思い出した。それは20年前の「大蔵省スキャンダル事件」のことだ。あのときも、今回のような「霞ヶ関ブローカー」が存在し、大蔵省幹部に食い込んで、次々と交友関係を拡大していた。

当時は、金融機関の大蔵省担当者、いわゆる「MOF担」が接待のキーパーソンであったが、それ以外にも外資系情報機器メーカーの得体の知れない人物などが、大蔵省内を闊歩して、幹部室に入り浸っていた。筆者も、ある幹部から急に幹部室に呼ばれ、その「霞ヶ関ブローカー」を紹介されたこともある。そうした人たちは、大蔵省の過剰接待が問題になった時、自分たちの持っている情報を捜査当局に提出して捜査に協力したので、誰も起訴されなかった。

今回、谷口氏は起訴されているが、多くの情報を捜査当局に提供しただろうから、これからはその情報の一部がリークされ、霞ヶ関や政界(今のところ、経産省、総務省、野党)にもスキャンダルが波及する可能性がある。

また、今回谷口氏が接待という手法を採っていたというのも、驚かされる。かなり古典的な手法だからだ。20年前の大蔵省スキャンダル事件が起こったことで、国家公務員倫理法が1999年に作られ、2000年4月から施行された。同法に基づき国家公務員倫理規定(http://www.jinji.go.jp/rinri/new/kitei170401.htm)が制定され、利害関係者との接待は禁止され、利害関係者との飲食は届け出ることされている。

筆者は、その当時海外勤務であったが、この倫理規定をしっかりと頭にいれたことを思い出す。同時に省庁再編が行われたので、つくづく新しい時代になったと実感したものだ。

なにをすればいいのか

筆者は、予算と権限をもっている官僚が利益を受けるという意味では、天下りと賄賂は同じであると考える。組織的な天下りを行っていたのと、個人で賄賂をもらうのはまったく同じ構造である、ということだ。

組織的な天下りと接待・賄賂が可能であるのは、文科省が大学などの教育機関に対して、文科省が絶大な予算と権限を持っていることを示している。

これは、大学関係者であれば、誰でも知っている。国立大学なら運営交付金、私立大学なら私学助成金なしでは経営は覚束ない。学校運営のすべてについて、箸の上げ下ろしまで、微に入り細に入り、規制でがんじがらめである。文科省は教育関係者からみれば、紛れもなく「お上」であり、意見できる相手ではなく、従わざるを得ない。

本コラムでも、加計学園問題について、学部新設の許認可制度は別として、大学の認可申請すら、文科省が拒否するのは、行政不服審査でも行われたら文科省が負けるのは確実であると指摘した。他省庁では滅多に見れない強権行政である。

なお、特区で行ったのは、認可申請アシストにすぎず、文科省が学部新設の許認可を一切手放さなかったのは、権限に対する並々ならぬ執着のあらわれであろう。

文科省に関する話題は、筆者のような大学教員だと、正直に言えば指摘しにくい。国立大の場合、大学事務局には文科省からの出向者が多いし、教授の中にも天下りが多い。私立大学でも、そこまではないが、程度の差である。それと、大学に対して、文科省は絶対的な権力者である。大学を生かすも殺すも、文科官僚のさじ加減で決まっていると言っても過言でない。

そのため、「大学は文科省の一部局」になっているというのは、決して大げさな表現ではなく、実態そのものである。

2004年までは、国立大学は文科省に置かれている「施設等機関」であり、まさしく「文科省の一部局」だった。そのときには、文科官僚は普通の人事異動によって国立大事務局にいた。その後、国立大学は「独立行政法人」になったが、文科省との関係は従来と同じで、今では文科省から国立大学法人へ「出向」という形にかわっているだけだ。

今後の対応として「官僚の中抜きシステム」も必要ではないか。

日本の財政が危機であるという煽り文句と文科行政の悪弊が組み合わされると大変なことになる。なぜなら「財政が厳しいので、文科行政の資金は選択と集中を行う」という議論が起こり、ますます文科省の権限が強化されることになりかねないからだ。しかも、選択と集中を行うのが文科官僚なので、さらに酷いことになる。

やっぱり解体的出直しが必要だ
今回のような文科省の不祥事が起こると、教育無償化のような資金を要する新たな政策が非難される。

しかし、資金の配分は官僚を経由しなければならないとは限らない。例えば、バウチャー制度なら、事実上官僚抜きで、学生に直接バウチャー(クーポンのようなものだと思ってくれればいい)を配れる。文科省官僚にすべてを任せる今の仕組みがおかしいだけだ。官僚に不要な仲介をさせずに、国民が直接行政の対象になるような制度作りが求められている。

その具体例として、筆者が第一安倍政権にいたときの体験を話そう。私立大学を含めて大学は外部資金が必要なので、寄付金を税控除する仕組み(当時の菅総務大臣が発案した「ふるさと納税」と同様に、寄付先を地方自治体から大学に変えて、税控除するもの)を税制改正要求した。残念ながら、このときは文科省が望んでいないとされたため、日の目を見なかった。

その一方で文科省は、こうした外部資金を拒否しつつ、国立大学法人に対する運営交付金を毎年絞っていった。私学への助成金でも同じだった。と同時に、大学への助成金について、選択と集中という名のもとで、官製競争化を進めていった。

これらによって、文科省は大学への有利な立場をますます高めていった。当然であるが、少なくなった資金を大学は競うように得ようとするから、文科省と大学の関係において、文科省がますます強くなったわけだ。

これではますます文科省に頭が上がらなくなる。そうした構図をなくすためにも、教育機関には文科省に頼らない外部資金が必要である。それとともに、前日のようなバウチャー制度も必要である。これらが導入されれば、文科省はかなりスリムになるだろう。その上で、官僚経由の補助金では、選択と集中をやめて機械的に割り振る、などを実現すればいい。そもそも官僚に「選択と集中」ができるはずなく、せいぜい官僚の裁量を増やすだけで、いい結果はみえないからだ。

教育制度は国の根幹なので、文科省は不要というわけではない。しかし、大学などの教育機関を文科省の一部局と思うような体質であってはならなず、解体的な出直しが必要だ。

最後に、学者として少し愚痴を言っておこう。筆者は、今年度科研費として「天下りの実証分析」をテーマにした研究を申請したが、あまりに「挑戦的」すぎたのか、やはりというか、落選だった。

申請内容は、研究者2名、研究期間3年、研究費490万円。仮に採択されても申請額×0.6が実際の交付額なので、2名、3年、300万円で、一人あたり50万円/年というもの。内容は筆者が役人時代に公務員改革制度の中で、ほとんど利用していないデータがあるので、それらを活用して、公共選択論アプローチで実証分析を行う、というものである。とはいえ、あきらめてはいない。来年度は、「天下リと接待の実証分析」をテーマにして、再提出するつもりである。

【私の論評】雇用・外交を蔑ろにすれば、安倍政権は評価されなくなる(゚д゚)!

ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事にもあるとおり、第一次安倍政権においては、バウチャー制度が検討されていました。しかし、これは上の記事もあるとおり、日の目をみずに安倍第一次政権は崩壊しました。

これは具体的にどのようなものだったのか以下に掲載します。

安倍第一次政権は「抜本的な教育改革」の実現を発足前から重視して生まれた内閣でした。

安倍首相が首相になる前に書いたあの『美しい国へ』(文春文庫)では、首相は1章を割いて「教育の再生」を論じていますし、政権発足後は教育担当の首相補佐官を任命(山谷えり子参院議員)、 10月には「教育再生会議」を発足させています。

その安倍政権が目指す「安倍教育改革」はどのようなものだったのでしょうか。

それは学校と学校のあいだの競争、教師と教師のあいだの競争。

この競争によって学校はよくなり、教師の向上心も上昇する……これが、安倍政権が考える教育改革の根幹です。そして、学校間競争を生むためにバウチャー制度や学校選択制などが、教師間競争を生むために免許更新制や成果報酬制度を導入しようとしていました。

このような大胆かつ壮大な教育制度改革の基礎となるのが、「新・教育基本法」というわけです。ご存知のように、この基本法にはバウチャー制度などは取り入れられませんでしたて。
安倍首相はアメリカの教育制度にも関心があり、特にアメリカの一部で行われている「教育バウチャー制度」を高く評価していました。

以下に安倍総理の著書『美しい国へ』からバウチャー制度に関する部分を引用します。
……期待されるのが教育バウチャー制度である。バウチャーとは、英語でクーポン券みたいなもののことをいう。アメリカでは、私立学校の学費を公費で補助する政策をスクール・バウチャーという。それによって、保護者はお金のあるなしにかかわらず、子どもを公立にも私立にも行かせることができる。
いったい、安倍総理はどうのような教育を目指していたのでしょうか。

ノーベル経済学賞を受賞した有名な経済学者フリードマンが教育バウチャ-制度の提唱者といわれています。

彼もまた、アメリカにおける教育の競争原理の導入を考えていました。そこで彼が提案したのが、親にバウチャーという券を配るというものでした。

子どもの通わせる学校を選んだ親は、配られたバウチャーをその学校に渡して通学します。学校は集めたバウチャーを当局に換金してもらい、学校の予算にする。これが、フリードマンの考えでした。

この制度は、公立・私立問わず、競争原理によって評判のいい学校だけが残り、教育の質が向上するものだということで評価が高まり、アメリカの一部の地方で実施されるに至りました。

お金がない家庭でも私立学校に通えること、そしてその動きに対抗し生徒の流出を防ごうと公立学校は努力をするため、結果的に教育の質が高まる、というところに安倍首相が評価する点があったようです。

当時の第一次安倍政権が考えていた、バウチャー制度の概要を以下に掲載します。

アメリカの場合は高校などを想定していますから、親にバウチャーを発行するというものですが、こちらの場合は大学を想定しているので、バウチャーは親ではなく大学生本人に発行します。

こうなると確かに、競争原理が働くことになります。大学側も少しでも多く学生を集めようということで、真剣になるてじょうし、官僚に不要な仲介をさせずに、国民が直接行政の対象になるような制度となったに違いありません。

さらに安倍政権・自民党独自の案として、「教員免許の更新制導入」というものがありました。これは、平成19年6月の改正教育職員免許法の成立により、平成21年4月1日から教員免許更新制が導入されました。

教員免許は、一度とったら死ぬまで更新されません。そのため、一度公立学校の教師になったら、よほどな不祥事を犯さない限りは教師を辞めさせられることはないのが現在の制度です。

しかし、それでは教師には緊張感をもたせることができず、自らの質の向上を図ることができない……こうしたことから、安倍首相や自民党は教員免許を更新制にし、「ダメ教師にはやめていただく」(『美しい国へ』から)ことにしよう、というわけです。

これができてからは、従来は能力の極端に低い教員であっても、どうすることもできなかったのですが、今では、現場から異動させることができるようになりました。

安倍晋三氏は、この内閣を「美しい国づくり内閣」と命名し、小泉純一郎の構造改革を加速させ、補強していく方針を表明しました。しかし、この内閣は結局崩壊しました。

崩壊の原因としては、やはり経済政策にみるべきものがなく、「教育」「構造改革」だけでは、多くの国民に納得が得られることはなかったためと考えられます。私自身は、「教育」などに興味はあったものの、第一次安倍政権に関してはあまり関心がありませんでした。

ただし、第一次安倍内閣は短期間であったにもかかわらず、かなりのことをやり遂げたということは評価に値します。

以下に第一次安倍政権で成立した主な法案を掲載します。
2006年(平成18年)12月15日成立 - 教育基本法改正
2006年(平成18年)12月15日成立 - 防衛庁設置法等改正(防衛庁・省昇格法)
2007年(平成19年)4月19日成立 ‐ 海洋基本法
2007年(平成19年)5月14日成立 - 日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)
2007年(平成19年)5月15日成立 - イラク復興支援特別措置法改正
2007年(平成19年)5月25日成立 - 児童虐待防止法改正
2007年(平成19年)5月25日成立 - パートタイム労働法改正
2007年(平成19年)6月27日成立 - 学校教育法・教育職員免許法及び教育公務員法・地方教育行政の組織及び運営に関する法律改正(教育改革関連三法)
2007年(平成19年)6月30日成立 - 日本年金機構法、国民年金法改正(社会保険庁改革関連法)
2007年(平成19年)6月30日成立 - 厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律(年金時効撤廃特例法)
2007年(平成19年)6月30日成立 - 国家公務員法改正(公務員制度改革関連法)
第二次安倍内閣に関しては、最初に金融緩和、積極財政などを打出したため、私は、特に経済政策を支持するようになり、結果として安倍政権を支持し今日に至っています。

結局のところ、まずは国民生活基本である経済を良くしなければ、国民の支持は得られないということです。

現状の安倍政権は、アベノミクスで経済を良くしつつ、憲法改正などにも取り組んでいます。

そうして、第一次安倍内閣のときには、成立した法案などみていると確かにかなり仕事をしていたのは間違いありません。にもかかわらず、当時は現在のようには支持率はあまり高くはありませんでした。特に若者からの支持は今日ほどはありませんでした。

現状の若い世代の内閣支持率の高さに応えるためにも、現在の安倍政権は安易な財政再建路線はとるべきではありません。それは、財務官僚をはじめとする官僚を喜ばすだけです。国民が喜ぶことはありません。現在の安倍政権の真価は雇用の回復と外交にありました。特に若者からの絶大な支持は、雇用の劇的な回復でした。今後よりそれを強化すべきです。次は雇用の質を改善していくべきです。

バウチャー制度などの教育改革や公務員の汚職撲滅も、雇用が良いのは当たり前という水準で、今度はさらに雇用の質(さらなる失業率の低下、実質賃金上昇、働き方改革など)を改善したうえで実行すれば、実行しやすいし、さらに評価も高まることになります。

雇用を蔑ろにして、教育改革や、公務員の汚職撲滅等に積極的に取り組んだとしても、第一次安倍内閣のときのようにあまり評価されることはないでしょう。

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2018年7月29日日曜日

【正論8月号】日本のマスコミが報じないトランプ・ロシア疑惑の真実 ~リベラルたちの“国家犯罪” オバマ・クリントン・ゲート―【私の論評】日本メディアのトランプ・安倍報道は最初から色眼鏡でみて疑え(゚д゚)!

【正論8月号】日本のマスコミが報じないトランプ・ロシア疑惑の真実 ~リベラルたちの“国家犯罪” オバマ・クリントン・ゲート


国際政治学者 藤井厳喜


トランプ大統領 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 ※この記事は、月刊「正論8月号」から転載しました。ご購入はこちらへ。

 今、アメリカでとんでもない事が起きている!

 しかし日本のマスコミはこれを一向に報道しようとしない。このアメリカ政治の歴史的大事件のあらすじを本稿では述べてみたいと思う。

 現在のアメリカでは、ウォーターゲート事件を上回る、米国憲政史上最大とも思われるスキャンダルが爆発している。ウォーターゲート事件で時のニクソン大統領は辞任に追い込まれた。しかし、この政治スキャンダルで追及されているのはトランプ大統領ではなく、オバマ前大統領やその政権の関係者、そしてヒラリー・クリントン前大統領候補(元国務長官)などのリベラル勢力なのである。

実体のなかったロシア・ゲート

 日本ではいまだに、所謂「ロシア・ゲート問題」でトランプ政権が揺さぶられていると思っている人が非常に多い。ところが今やロシア・ゲート問題などは全く存在しないことが誰の目にも明らかになっている。2016年の選挙中に所謂「ロシア・ゲート問題」が騒がれ出してから、丸2年経つ。トランプ政権発足後に、モラー特別検察官が任命されてから1年以上経つが、トランプ陣営がロシア側と共謀していた事実は何一つ見つかっていない。モラー特別検察官の捜査は完全な空振りであった。

 実は今年の2月16日に、モラー特別検察官はロシア人13人とロシア企業3社を詐欺・身分盗用・不正送金などの罪で起訴している。ところがこの折に開かれた記者会見で、モラー特別検察官の捜査を監督する立場にあるロッド・ローゼンスタイン(Rod Rosenstein)副司法長官が、「ロシアの違法工作はあったが、それに加担したアメリカ国民は一人もいなかった」と明言しているのである。勿論、このアメリカ国民にはトランプ本人や、トランプ陣営の要人も含まれている。つまり反トランプ色の強い司法省の責任者が、「長い時間をかけて捜査をしましたが、所謂トランプ陣営のロシア・ゲート事件は存在しませんでした」と明言したに等しいのだ。こういった単純明快な事実関係すら報道されていないのが日本のメディアの実情である。

モラー特別検察官

 それでいまだに筆者自身、時々、講演会などで「ロシア・ゲートでトランプ政権はもつのですか?」というような質問を受けることが多いのである。「ロシア・ゲートなど全く存在しません」と回答すると、質問者はあっけにとられている。そこで言葉を足して「安倍首相のモリカケ問題と一緒で、反対勢力は騒いでいますが、全く実体は存在しなかったのです」と言うと、どうやらみんな納得してくれるようである。

反トランプ・クーデターを仕掛けた「ディープ・ステイト」

 一連の流れを現在の時点から総括してみると、以下のようなことが分かってきている。

 先ず、恐らくオバマ大統領を含むオバマ政権の要人、そして司法省を中心とするリベラル派の官僚達は2016年の大統領選挙でトランプに脅威を感じていた。何としてもトランプ当選を阻み、ヒラリー・クリントン候補を当選させるのが、彼らの共通の使命感となった。ヒラリーを当選させる為には、2016年の6月には既に大問題になっていた所謂「e-mail問題」を隠蔽しなければならない。これはヒラリー・クリントンがオバマ政権第1期で国務長官を務めていた時に、国務省の機密扱いのメールまで個人サーバで扱っていたという明らかな法律違反問題である。実は法律の規定通りに判断すれば、機密情報を私用サーバで扱っていたというだけで重罪に値するのである。ところが、時のロレッタ・リンチ司法長官とコミーFBI長官は、明らかにヒラリーを政治的に支持する立場から、彼女を起訴せずに、事実上、“無罪放免”してしまったのである。これが第1のオバマ政権の大きな罪である。

機密情報を私用サーバで扱っていたヒラリー・クリントン氏

 そして第2の罪は、当選に向かってばく進していたトランプ候補の足を引っ張ったことである。その謀略として用いられたのがロシア・ゲートという仕掛けであり罠であった。あたかもトランプ陣営とロシア政府が関係があるかのような噂を流し、それによってトランプ候補にダメージを与え、当選を阻もうとしたのである。それをヒラリー・クリントン陣営や民主党が行なっただけではなく、司法省とFBIも行なったというところが最大の問題点である。つまり特定の候補の当選を阻む為に、本来、厳正に中立でなければならない連邦政府、特に司法省やFBIが、選挙に直接介入してしまったのである。現在では、違法なプロセスにより許可を得て、トランプ陣営を情報監視していた事実や、FBIが直接トランプ陣営にスパイを送り込んでいた事実まで明らかになっている。

 オバマ政権は、自らと同じ民主党のヒラリー・クリントン候補を当選させる為に、公的権力を利用して、大統領選挙戦そのものに直接、干渉していたのである。これは、オバマ大統領自身の指示によるもので、それにロレッタ・リンチ司法長官やコミーFBI長官が従ったものではないのか。であるとすれば、それは大統領の犯罪そのものであり、ウォーターゲート事件などをはるかに上回るアメリカ憲政史上最悪の政治スキャンダルの1つである。

 大統領が自分の仲間を選挙で当選させる為に、司法省やFBIという政府機関を使ったというのであれば、法の支配も民主政治もあったものではない。まるで発展途上国の独裁政治と少しも変わらないではないか。実際、この事件の実態が明らかになるにつれ、アメリカの愛国者たちは「アメリカもバナナ共和国になってしまった」と嘆いている。「バナナ共和国」とは、法の支配もデモクラシーも存在しないラテンアメリカの独裁国を皮肉ったアメリカの俗語である。アメリカももう、バナナ共和国を笑ってはいられないわけだ。

 ここで「ディープ・ステイト(Deep State:深層国家)」という言葉が登場してくる。これは、トランプ政権を支持している保守派の人達が好んで使う言葉である。ディープ・ステイトとは、謂わば、国家の中の国家とでもいうべき存在で、この場合は、連邦政府内におけるリベラル派官僚やリベラル政治家の暗黙の組織であり、常にリベラルな国家解体的な政策を推進し、保守的な政策の実行に抵抗している。連邦政府内では司法省や環境省や国務省内で彼らの影響力は著しく、またFBI、CIA、NSAなどの情報機関の中心部にも彼らは浸透している。ディープ・ステイトはトランプ候補の当選を阻むために、積極的に抵抗と妨害を続け、トランプ当選後は彼を弾劾や辞職に追い込むべく活動している。ディープ・ステイト派官僚が行なう情報リークと大手マスコミが一体となってアメリカ社会にアンチ・トランプ・ムードを蔓延させているのである。

 ディープ・ステイト派官僚のいう「リベラルな政策」とは、民主国家アメリカを解体させるような政策である。彼らは移民法の厳格な執行や、社会福祉詐欺の取締りを妨害し、環境条例の規制緩和に反対している。コミー前FBI長官やモラー特別検察官やローゼンスタイン副司法長官などはディープ・ステイトのこの目に見える氷山の一角に過ぎないのだ。


 ディープ・ステイトというような具体的な抵抗組織があるかどうかはともかくとして、事実上、連邦政府内のリベラル派官僚はトランプの当選を阻む為に、そして当選後はトランプを辞職に追い込むべく、様々な謀略を巡らしてきたのは否定の出来ない事実である。

リベラルメディアの堕落

 ウォーターゲート事件では、ニューヨークタイムズを始めとする大手リベラル派マスコミはこれを「権力の犯罪」として鋭く糾弾した。ニクソン大統領はこれに抵抗できず、大統領弾劾を待たずに辞職する道を選んだ。しかし現在、オバマ政権による選挙干渉と権力犯罪が明らかになったにも関わらず、リベラル派マスコミは一向に声を挙げようとしない。現在のアメリカでは、デモクラシーの基礎を成す法治主義、言い換えれば「法の支配」そのものが危機に瀕しているのである。時の政権が、自らのお仲間(クローニー)を当選させる為に、政府機関を使って策謀することが許されるならば、法の支配は最早、ないも同然である。そしてこのデモクラシーを危機に陥れる権力犯罪の責任が厳しく糾弾されなければならない。追求の矛先は当然、オバマ前大統領自身にも向かうことになるだろう。にも関わらず、リベラル派マスコミは、このデモクラシーの根幹を揺るがす権力犯罪に対して、沈黙を保つのみである。それだけではなく、有りもしないロシア・ゲート事件をいまだに騒ぎ立てている。保守派の権力犯罪は許せないが、リベラル派の権力犯罪なら許すとでもいうのだろうか。それではそもそも法の下の平等も、そして法治主義そのものも否定することになるのだ。アメリカのリベラル派メディアの堕落はここまで来ている。

「ヌーネス・メモ」が暴いた 恐るべき権力犯罪

 米下院情報委員会のデビン・ヌーネス委員長(Devin Nunes:共和党・カリフォルニア)は2018年1月18日に委員会として、FBIや司法省の不正行為を調査した結果を1つのメモにまとめた。これは、下院情報委員会のメンバーが司法省やFBIの内部機密文書を査読し、その調査結果をまとめたものである。

米下院情報委員会のデビン・ヌーネス委員長

 文書自体は機密扱いされているため、査読した下院情報委員会のメンバーも、その内容について公にすることが出来ずにいたが、ヌーネス委員長が調査内容に基づいてメモを作成したのである。このメモ自体も当初は、機密扱いであったが、これをトランプ大統領が2月2日に機密解除することによって一般に公開された。ヌーネス委員長は、デモクラシーと法の支配を守るために、FBIや司法省の違法行為を鋭く追及する立場である。

 ヌーネス・メモの本文は、たった3ページと3分の1ほどの簡潔なものであるが、その意味するところは重大である。以下、ヌーネス・メモの要点を紹介しよう。

 ●2016年の米大統領選挙の際にFBIがトランプ陣営を情報監視していた。

 ●直接の情報監視の対象となったのは、トランプ大統領候補の外交問題アドバイザーであったカーター・ペイジ(Carter Page)氏である。

 ●当然、FBIと司法省は、何故、カーター・ペイジ氏とトランプ陣営を情報監視しなければならないかの理由を外国情報監視裁判所(FISC)に申請しなければならない。その申請理由が説得力のあるものであれば、FISCは情報監視許可を出すことになる。

 ●ところが、FBIと司法省が提出した「証拠」は、実は「スティール・レポート」と呼ばれているものであった。この「スティール・レポート」はイギリスの対外諜報機関MI6の元ロシア課に所属していたクリストファー・スティール氏が執筆したものであった。ところがスティール氏をカネで雇い、トランプ候補を中傷するレポートを書かせていたのは、ヒラリー・クリントン陣営と米民主党全国委員会なのであった。(初期にクリストファー・スティール氏に反トランプのレポートを依頼したのは、共和党大統領予備選におけるトランプのライバル候補であったと言われている。)

クリストファー・スティール氏

 ●司法省とFBIは、誰が「スティール・レポート」を書かせたかという、その出所を隠蔽したまま「スティール・レポート」の内容を客観的な証拠と見せかけて、FISCの裁判官達を騙して、トランプ陣営の盗聴・情報監視許可を入手していたのであった。

 ●「スティール・レポート」の内容は、全くのガセネタであり、トランプ陣営とロシア側が共謀しているという全く根拠のない偽情報であった。

 「ヌーネス・メモ」を詳しく読んでいくと、次のような事実も分かる。

 ●司法省とFBIが、上記の外国情報監視裁判所に出した申請書を見ると、2016年9月23日にYahoo!ニュースが報じた情報が引用されている。これはトランプ陣営とロシア側の共謀を主張するものであった。著者はマイケル・イシコフで、カーター・ペイジ氏が2016年7月にモスクワを訪問したことを取り上げている。このニュースが謂わば、傍証であるということで、外国情報監視裁判所に提出されたのであるが、このYahoo!ニュースの情報源になっていたのがクリストファー・スティール氏自身なのであった。だからYahoo!ニュース自身は傍証にもならず、情報源は同じクリストファー・スティールだということが確認された。

 ●実はクリストファー・スティール自身が、2016年9月に他のメディアともコンタクトしていた事実が明らかになっている。スティールは、FBIの情報提供者として認知されていたが、そういった人物はマスコミとコンタクトし、情報を提供することは禁止されている。スティール自身は10月30日に、情報提供者不適格ということで排除された。

 ●スティールは情報提供者として排除される前も排除された後も、司法省次官補のブルース・オア(Bruce Ohr)とコンタクトを続けていた。スティールは2016年9月の時点でオア次官補に対して、トランプに対する極端な嫌悪感を伝え、「トランプの大統領当選を何としても阻まなければならない」と語っている。

 ●しかもこのオア氏の夫人は、フュージョンGPS社の職員であった。フュージョンGPS社はヒラリー・クリントン陣営とクリストファー・スティールを繋いだ仲介機関である。フュージョンGPS社がスティールを直接雇い「スティール・レポート」を書かせた。ヒラリー・クリントン陣営と米民主党全国委員会は、弁護士事務所を通じて、フュージョンGPS社に代価を支払い、その資金がスティールに渡されていた。

 単純化していうならば、ヒラリー・クリントン陣営とFBI幹部が、トランプ追い落としの為に共謀して、違法なトランプ陣営の情報監視を行なっていたのである。これを実証した動かぬ証拠が「ヌーネス・メモ」なのである。

 尚、これに反論する為に、下院情報委員会の民主党委員が、2018年2月24日にメモを公開した。執筆したのは、アダム・シフ下院議員である。これは10ページのメモであり、表面上はヌーネス・メモに反論するものである。しかし、2月25日のウォール・ストリート・ジャーナルによれば、このシフ・メモは詳細に読めば、ヌーネス・メモを裏付けるものでしかない。つまり「スティール・レポート」こそがFBIがトランプ陣営を情報監視する主要な証拠として提出されており、しかもそのスティール・レポートを誰が書かせたかは隠蔽されていたのである。シフ・メモはこの2つの事実を覆すものではない。

副司法長官自身が否定した ロシア・ゲートの存在

 所謂「ロシア・ゲート」でロシア人13人とロシア企業3社を起訴したのを受け、ローゼンスタイン副司法長官が2月16日に行った発表の中で、重要なのは次の様な事実である。

 ●複数のロシア人やロシア企業が2016年のアメリカ大統領選挙に影響を与えようとしたのは事実。

 ●しかし、これらロシア人の犯罪行為に、実情を知りながら加わったアメリカ国民は一人もいなかった。

 ●又、ロシアのこの違法工作によって、アメリカ大統領選挙の結果が変えられることもなかった。

 ●更に、プーチン大統領やロシア政府がこういった政治工作にかかわった証拠は何一つ発見されていない。

 中でも最も重要なのは、「実情を知りながらロシアの情報工作に参加したアメリカ人はいなかった」という点であろう。記者会見でも副長官はこの点を強調していた。この言葉をそのままに受け取れば、当然「ロシア側とトランプ陣営が共謀した選挙活動はなかった」という結論になる。というか、それ以外の結論を下すことは不可能である。

 モラー特別検察官の任務は「トランプ陣営がロシア政府と共謀して、大統領選挙の結果を歪めたのではないか」という疑惑の捜査だが、「そういった事実はなかった」ということが起訴を通じて明らかになったのである。「ロシア・ゲート」なるものが全く存在しないことを、モラー特別検察官とローゼンスタイン副長官が証明してみせたのだから、皮肉な結果である。ちなみにローゼンスタイン副長官は、コミーFBI長官などと共に、トランプの大統領選当選を妨害しようとした司法省高官の一人であり、モラー特別検察官と共謀していると批判されている。要するに、「ロシア・ゲート」は最早、完全に終わったのである。

 勿論、今後、別の事実が発見され、新たなる人物が起訴されるという天文学的な可能性は存在する。しかし、それ以上の可能性を議論することは神学論争になってしまうだろう。

反撃に出たトランプ陣営

 ロシア・ゲートが存在しないことは明らかになっても、モラー特別検察官などはトランプ大統領の個人弁護士マイケル・コーヘン氏に嫌がらせ的な捜査をして、トランプへの抵抗を続けている。しかし最早、勝負あったというべきだろう。

 トランプ陣営は反転攻勢に出ている。2018年5月21日、トランプ大統領は、自らの陣営が2016年の大統領選挙で、FBIによって、政治目的のために情報監視されていたかどうか調査するよう司法省に正式に命じた。焦点は、オバマ政権関係者がそのような要請をFBIに行なったかどうかである。状況を考えれば、オバマ大統領自身がトランプ陣営へのスパイ行為を命じた可能性が疑われる。もしセッションズ司法長官やローゼンスタイン副長官が大統領命令に従わなかったら、トランプは彼らを更迭する事が出来る。

 6月14日、司法省のマイケル・ホロウィッツ監察官はヒラリー・クリントンのメール問題で、報告書を提出した。報告書でコミーFBI長官やリンチ司法長官の判断ミスを指摘したが、違法行為はなかったと結論づけたのだが、早速、翌15日、トランプは「ホロウィッツ監察官の捜査は完全に偏っており、結論は間違っている」と批判した。監察官自身は司法省の役人であり、司法省やFBIを弁護する立場に終始している。

 それにしても、ウォーターゲート事件を上回るこれだけの大事件を一切、報道しない日本のマスコミとは一体何なのだろうか?

■ふじい・げんき 昭和27年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。米クレアモント大学大学院を経て、ハーバード大学大学院博士課程修了。著書に『日米対等』(祥伝社)

【私の論評】日本メディアのトランプ・安倍報道は最初から色眼鏡でみて疑え(゚д゚)!

オバマ・クリントンゲート事件に関して、これほどまとめて報道されたのはブログ冒頭の記事以外においては、日本おいては皆無だと思います。そのため、今回はこの記事を掲載させていただくことにしました。

ブログ冒頭の記事の内容に関しては、このブログでも過去に掲載したきたものも多いです。ただし、このブログでの紹介は、断片的なものを何度も掲載してきたため、上の記事のようにまとまったものではありませんでした。

それにしても、私自身はブログで何度かこの件について事実を調べつつ掲載してきたので、ロシア・ゲートなる疑惑は、虚構に過ぎないということはしっかりと把握していましたが、そうではない人も大勢いるということを改めて知り、驚いています。

ヒラリー・クリントン陣営とFBI幹部が、トランプ追い落としの為に共謀して、違法なトランプ陣営の情報監視を行なっていたのは、昨年の暮あたりには明らかになっていました。これを実証した動かぬ証拠が「ヌーネス・メモ」なのです。

最近は、ロシア・ゲートについてはほとんどテレビで報道しなくなったので、この件については日本のマスコミもロジア・ゲート疑惑は虚構に過ぎないことを理解してのことかとも思っていたのですが、そうではないようです。

私自身は、ニュースの入手先は、テレビや新聞ではなく、ネットによるものがほとんどあり、米国に関することは、保守系も含む米国のサイトも直接見ているので、やはり日本国内の一般の人とは感覚が少し違うということに改めて思い知らされました。

まさに、藤井厳喜氏が語るように、「安倍首相のモリカケ問題と一緒で、反対勢力は騒いでいますが、全く実体は存在しなかったのです」であり、そのことがほとんど日本国内では報道されていないのです。これについては、つい最近もこのブログに掲載したばかりです。その記事のリンクを以下に掲載します。
米ロ会談が酷評でも支持率上昇のトランプ―【私の論評】日米マスコミの報道は鵜呑みにできない、特に総理と大統領関連の報道はそうだ(゚д゚)!
ベルギーの首都ブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、
北大西洋理事会の会合の会場に到着したドナルド・トランプ米大統領(2018年7月11日)

 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分のみ以下に引用します。
そもそも、このブログでも過去に何度か述べているように、米国のマスコミはリベラル派が牛耳っています。新聞はすべてが、リベラル派です。テレビ局では唯一フォックスTVだけが、保守派で他はリベラルです。 
報道する時の視点はすべてリベラル派の視点からによるものです。米国のマスコミの報道だけを見ていると、それは米国の半分だけみていることになり、もう半分の保守派についてはスルーすることになります。 
それは、日本の安倍総理の報道も、産経新聞などを見ることなく、朝日新聞やテレビ報道を真に受けていれば、とんでもないことになると同じことです。 
日米双方とも、マスコミの大部分は偏向しているとみなすべきです。そもそも、両方ともトランプ大統領の登場を予測できませんでした。そんなマスコミを単純に信じ込むことはできません。
ニューズウィーク日本版は、今年の3月5日以下のような記事を掲載していました。
トランプ、習近平を「終身国家主席」と賞賛 「米国でもいつか試したい」
トランプ米大統領は3日、中国共産党が国家主席の任期撤廃案を明らかにしたことに関し、無期限で任期を務められることになるとして習近平国家主席を称賛した。CNNが報じた。 
撤廃されれば、習氏は2023年以降も続投できることになる。 
CNNによると、フロリダ州での非公式な資金集めイベントでトランプ大統領は「習氏はいまや終身大統領、終身大統領だ。そして、習氏は偉大だ」と発言。「そして、習氏にはそれが可能だった。素晴らしいことだ。われわれもいつか試してみなくてはならないだろう」と述べ、支援者から拍手を浴びたもようだ。 
トランプ大統領が米大統領の任期延長について発言したものか、冗談だったのかは不明。ホワイトハウスからのコメントは得られていない。 
民主党下院議員のロー・カンナ氏はツイッターで「これが冗談だったのかどうかにかかわらず、習氏のように終身大統領(国家主席)となることに言及するのは、米国の大統領が明らかにした心情として最も米国的らしくないものだ」と述べた。 
米国の大統領は、ルーズベルト大統領が1932年以降4回選出された以外は、慣例的に2期(1期は4年)が最長となっていた。1951年の憲法改正後、任期は最長2期と定められた。
このCNNの報道は日本版ニューズウィークばかりではなく多くのメディアが引用していました。

トランプ大統領は、習の「終身国家主席」は、「すばらしい!」といっています。ところがその一方で、対中強硬派を政権につけ、貿易戦争を大々的に開始しました。トランプ大統領の行動を見れば『主席任期撤廃』を期に反中に旋回しています。トランプ氏の本心はどちらなのでしょうか。

その本心に近づくには、10年前のトランプ氏の著書が役立つかもしれません。

トランプ大統領は、ビジネス本の分野でのベストセラー作家でした。10年前に出版されたロバート・キヨサキとの共著『あなたに金持ちになってほしい』を読むとトランプ氏がビジネスの世界で「自分を表現する」ことに特別の価値観を認めている人物であることがわかります。


私も耳にしたことがあるが、従業員なのに「まるで会社が自分のものであるかのような働きぶりだ」と評判の立つ人がいる。自分が会社のオーナーであるかのように、その成功を唯一の目的に一途に働く人たちだ。自分のビジネスを持ちたいと思ったら、一つの目的に向かって献身することが必要だ。例えば、ビジネスオーナーには労働時間に制限はない。何日も休まずに働くことさえある。それに、最終的な責任はすべてオーナーにかかってくる。 
私はそういう責任を負うのが好きだ。自信が湧いてくるからだ。疲れるどころか、エネルギーを与えてくれる。そういうプレッシャーを楽しめないという人もいるが、そういう人は従業員のままでいた方がいい。 
もちろん、自分のビジネスを持つことには、誰の目にも明らかなご褒美がついてくる。それは説明するまでもないだろう。一度自分のビジネスを持つと、他人のために働く生活に戻るのはむずかしくなる。どう考えてみても、この二つの世界は違う。 
だからこそ、自分の船の船長であり続けるために、あれほど一生懸命に働こうという気にもなるのだ。自分のビジネスを持てば、あなたは毎日自分に向かってこんなふうに言うことができる。「すべては私から始まる―今、ここで、今日!」これは実にすばらしい気分だ。 
自分のビジネスを持つのは木を育てるようなものだ。ビジネスも季節の変化や嵐を乗り越え、美しい夏の日や冬の猛吹雪を経験して生きる生命体だ。それは成長を続けるものであり、文字通り自分自身を表現するものでもある。私が、自分のやることの品質管理に細心の注意を払っている理由の一つがここにある。 
自分を表現するものが何かあったら、自分の知るかぎり、あるいは達成できるかぎりそれを最良のものにしておきたい。そうすれば、自分に対するハードルをどんどん高くすることができるし、決して退屈しなくてすむ。そのことは保証してもいい。
トランプ氏にとって勤勉はとても重要な価値なのです。ビジネスの目的は、金を稼ぐことではなく、「木を育てる」ようなものなのです。金はその結果としてついてくるのです。これは典型的なピューリタニズムの原理です。3度の結婚、派手な女性関係、贅沢な生活などは、トランプの上っ面で、本質はとても真面目で仕事を通じて社会に貢献したいという信念を持っている人物なのです。

さらにトランプ氏は、自由という価値を重視しています。
会社勤めをしていて退屈な仕事があったとしても、会社をやめる以外にできることはほとんどない。でも、自分のビジネスならば自分でコントロールすることができるし、それはより多くの自由があることを意味する。「自由」というのはなかなか興味深い言葉だ。 
なぜなら、自由にはふつう代価が伴うからだ。ビジネスオーナーのほとんどは従業員よりも何時間も多く働いているが、他人のために働く方がましだと言う起業家に私はお目にかかったことがない! ただの一度も……。 
「自分を表現する」という話は、特に芸術や文学に関して、みんなどこかで聞いたことがあるだろう。ビジネスでも自己表現が可能だ。私はビジネスも一つの芸術だと思っている。鍛錬、技術、忍耐力など、ビジネスと芸術には多くの共通点がある。表現の自由もその一つで、それこそが、ビジネスオーナーであることが特にすばらしい理由だ。 
自分がやりたいことについてビジョンが湧けば、私はそれに取り組み、実現させる。もちろん、土地の用途規制などその地域の規則には従わなければいけないが、アイディアやそれを実現するためのパワーは私の中にあって、誰にも邪魔されることはない。こういうのはすごく気分がいい! 
人がインスピレーションを受けるのには、何らかの理由がある。インスピレーションはやる気を起こす源だ。インスピレーションが湧き上がっても、それに注意を向けないでいると、人は欲求不満に陥る。インスピレーションを持っていて、それをもとに勤勉に、集中してやり続けることができる人には、自分のビジネスを持つことを考えてみるように勧める。 
ほかのことをやるより大きな見返りがあるし、「自分でまいた種を自分で刈り取る」という古いことわざはここにも当てはまり、きっと大きな収穫を得ることになるだろう。これは考えてみるだけの価値がある。
インスピレーションに基づいて、「自分に対するハードルをどんどん高く」しているうちに、トランプ氏は、アメリカ合衆国大統領になってしまったのです。

第三者的に冷静に観察すると、トランプ氏の主張は、国内的には米国人に勤勉さを取り戻すことを訴えています。そして、勤勉さに相当する報酬が得られるシステムを構築しようとしています。外交面では、米国にとって、直接的な利害関係のない問題には関与しないという非介入主義です。

しかし、直接的な利害関係のある問題には関与するということです。勤勉であり、自由を愛するトランプ氏は、中国の価値観とは真っ向から対立することになります。

そもそも、中国は民主化されておらず、政治と経済も分離されておらず、法治国家化すらされていません。典型的なピューリタニズムの原理に基づき行動する典型的な米国の保守層に属するトランプ氏はもともと、中国とは価値観を共有することはできません。

トランプ氏にとっては、ピューリタニズム的な勤勉が報われるような社会にしたいとこですが、それを邪魔するのが、中国なのです。中国による、知的財産権の侵害はもとより、中国にの現体制化における米国との貿易は、そもそも米国の勤労者にとって不利益をもたらすものであるというのが、トランプ大統領の考えです。

 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(マックス・ヴェーバー著、
大塚 久雄訳、岩波文庫)の中の挿入画 ピューリタニズム的な勤勉の原点が掲載されている

そうして、トランプ氏の典型的なピューリタニズムの原理に基づく行動こそが本来米国の富を築いてきたのですが、この原理にもとづく行動は、現代の米国のリベラル派からすれば、過去に戻るというだけであって、せっかく長年かけてリベラルが気づいてきた社会に逆行するものでしかないわけです。

ただし、米国ではリベラル派がマスコミはもとより、政治や学問の世界、ありとあらゆるところで、主流派となったので、本来米国の人口の半分近くを占めるはずのビューリタニズム的な勤勉をバックボーンとする保守層の考えはごく最近まですっかりかき消されてきたといのが現実でした。

半分の人々の考えを無視するというのは、とても民主的なやり方ではありません。かといつて、保守が主流となってしまうというのも、民主的ではないです。保守とリベラルがどこまで、価値観を共有できるかが鍵です。

トランプ政権下では、米国が外交面で内政面でも本格的にチェンジ(変化)する可能性が大です。

以上のようなことを日本のマスコミは全く無視しています。日本のメディアによるトランプ大統領報道、安倍総理報道は最初から色眼鏡でみて疑うくらいが丁度良いです。

2018年7月28日土曜日

陸自が地対艦ミサイルで米海軍戦車揚陸艦を撃沈 リムパックで初の地対艦ミサイル演習を実施、米軍の狙いとは?―【私の論評】軍事の「新・三種の神器」でチャイナの妄想を抑え込む日本(゚д゚)!

陸自が地対艦ミサイルで米海軍戦車揚陸艦を撃沈 リムパックで初の地対艦ミサイル演習を実施、米軍の狙いとは?

陸上自衛隊の地対艦ミサイル(対艦誘導弾)システム「12式地対艦誘導弾」
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

6月27日からホノルル周辺海域を中心に開催されている多国籍海軍合同演習「RIMPAC(リムパック)-2018」で、RIMPAC史上初めて陸軍部隊による洋上の軍艦を攻撃する演習(SINKEX)が実施された。この演習こそ、前々回の本コラムで紹介した、中国海軍の目の前で実施したかった自衛隊によるパフォーマンスであった。

(参考)「リムパック不参加の中国海軍に見せたかったもの」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53537

RIMPACで初めて実施された地対艦ミサイル演習

 7月14日に実施されたSINKEXは日本、米国、オーストラリアの3カ国による合同演習である。内容は、オアフ島の隣にあるカウアイ島内に陣取った陸上自衛隊ミサイル部隊ならびにアメリカ陸軍ミサイル部隊が、オーストラリア空軍のP-8ポセイドン哨戒機の上空からの誘導により、カウアイ島北55海里沖洋上に浮かぶアメリカ海軍退役軍艦「Rachine」を、それぞれ地対艦ミサイルを発射して撃沈するというものだ。

ちなみに陸上自衛隊はメイドインジャパンの12式地対艦ミサイルシステムを使用し、アメリカ陸軍はノルウェー製の対艦ミサイルを米陸軍のミサイル発射車両から発射した。


中国の「積極防衛戦略」とは

 今回、初めて地対艦ミサイル演習を実施した最大の理由は、南シナ海と東シナ海における中国の海洋戦力の拡張に、アメリカ海軍を中心とする同盟諸国海軍が伝統的海洋戦力(各種軍艦と航空機)だけで対抗することが困難な状況になりつつあるからである。

 現在、中国海軍が依拠している防衛戦略(ただし核戦略は別レベルである)は「積極防衛戦略」と称されており、アメリカ軍などでは「接近阻止・領域拒否戦略」(A2AD戦略)とも呼称されている。この防衛戦略を一言で言うならば、東シナ海や南シナ海から中国に(核攻撃以外の)軍事的脅威を加えようとする外敵(主としてアメリカ海軍、それに海上自衛隊をはじめとするアメリカの同盟国海軍)を、中国本土沿岸からできるだけ遠方の海上で撃破して中国に接近させないというアイデアである。このように接近を阻止するための目安として中国海軍戦略家たちが設定しているのが、第一列島線と第二列島線という概念である。

第一列島線と第二列島線(白:日米海軍拠点、赤:中国海軍拠点)

 「積極防衛戦略」を推し進めるためには、どうしても海軍力と航空戦力の強化に最大の努力を傾注することが必要となる。なぜならば、中国に接近を企てる外敵は、軍艦や軍用機によって海洋を押し渡ってくることになるからである。そのため、中国海軍は次から次へと軍艦の建造に邁進し、海軍と空軍は戦闘機や爆撃機をはじめとする航空戦力の強化も猛スピードで推し進めた。

ただし、中国軍戦略家たちは、そのような伝統的な海洋戦力だけで、強大なアメリカ海軍やその弟分である海上自衛隊を迎え撃とうとはしなかった。なぜならば、軍艦や軍用機の開発、建造・製造、それに乗組員や整備要員の養成には長い時間がかかるからである。そこで、多数の軍艦や軍用機を生み出しそれらの要員を鍛え上げ、強力な伝統的海洋戦力を構築するのと平行して、比較的短時間で大量に生産することができ、運用要員の育成も容易な、様々な種類の対艦ミサイルの開発にも努力を傾注した。

要するに、中国沿海域に押し寄せてくるアメリカ海軍や海上自衛隊の高性能軍艦や航空機に対して、伝統的な海洋戦力で対決するだけでなく、場合によっては中国本土からあるいは本土上空から各種対艦ミサイルを発射して、アメリカ海軍艦艇や海上自衛隊艦艇を撃破し、中国沿岸域、あるいは第一列島線、さらには第二列島線への接近を阻止してしまおうというわけである。

実際に、中国人民解放軍は、中国本土内から発射する多種多様の地上発射型対艦ミサイル(地対艦ミサイル)や、敵の攻撃を受けることのない中国本土上空の航空機から発射する対艦ミサイル(空対艦ミサイル)、それにやはり敵の攻撃を受けることのない中国本土沿海域の軍艦から発射する対艦ミサイル(艦対艦ミサイル)をずらりと取り揃えている。そのため、第一列島線を超えて中国沿岸に接近を企てる敵艦艇は、多数の対艦ミサイルによる集中攻撃を被る恐れが極めて高い状況になっている。そして、対艦ミサイルとともに、接近してくる航空機を撃破するための各種防空ミサイルの配備も伸展している。

アメリカ側にも必要となった「接近阻止戦略」

このような中国軍の「積極防衛戦略」に立脚した接近阻止態勢に対して、アメリカ海軍(そしてその同盟軍)としては、正面切って空母艦隊をはじめとする艦艇や航空機を突っ込ませるのは自殺行為に近い。そこで、アメリカ軍やシンクタンクの戦略家の間で、別の方法が真剣に検討され始めているのだ。

それは、こちらから中国沿海に接近して攻撃するというアメリカの伝統的な「攻撃による防御」戦略ではなく、中国海軍が設定した第一列島線上で中国海洋戦力の接近を待ち構え、中国軍艦艇や航空機の第一列島線への接近を阻止する方法だ。いわば、中国の戦略を真逆にした「接近阻止戦略」を実施しようというアイデアである。
アメリカ軍が評価する日本の地対艦ミサイル能力

では、アメリカ軍は第一列島線でどのような戦力で待ち受けるのか。

まずは、第一列島線周辺海域に様々な軍艦を展開させ、第一列島線上にいくつかの航空拠点を確保して航空戦力を配備し、第一列島線周辺海域に空母艦隊を展開させて航空打撃力を準備する、といった伝統的海軍戦略にのっとった方策が考えられる。

一方、中国の戦略を真逆にした「接近阻止戦略」では、第一列島線上に地対艦ミサイル部隊を展開させて、接近してくる中国艦艇を地上部隊が撃破するというオプションが加わることになる。

ところが、このような「敵をじっと待ち受ける」受動的な、すなわち専守防衛的な戦略はアメリカ軍は伝統的に取ってこなかった。そのため、専守防衛的な兵器である地対艦ミサイルシステムをアメリカ軍は保有していない。

地対艦ミサイルを投入しての「接近阻止戦略」が必要であると考え始めたアメリカ海軍や海兵隊それに陸軍の戦略家たちは、地対艦ミサイルの威力を目に見える形でペンタゴンやホワイトハウスに提示する必要に迫られている。そこで登場したのが、陸上自衛隊の地対艦ミサイル連隊である。かねてより地対艦ミサイルに特化した部隊を運用している世界でも稀な陸上自衛隊の地対艦ミサイル連隊に、日本が独自に開発し製造している高性能12式地対艦ミサイルシステムをRIMPAC-2018に持ち込んでもらい、大型艦を撃沈するパフォーマンスを実施してもらったというわけだ。

おそらく、今回のSINKEXを皮切りに、アメリカ陸軍でも、アメリカ海兵隊でも、地対艦ミサイル部隊の創設へと舵を切っていくことになるものと思われる。それに対して、陸上自衛隊は四半世紀前から地対艦ミサイル運用に特化した地対艦ミサイル連隊を保有しているし、日本独自に開発製造している地対艦ミサイルシステムを手にしている。そのため、現在アメリカ軍戦略家たちが検討している中国に対する「接近阻止戦略」(拙著『トランプと自衛隊の対中軍事戦略』参照)を推進して行くに当たって、日本の地対艦ミサイル技術やノウハウは、アメリカにとっても大いに有益なものとなることは必至だ。

【私の論評】軍事の「新・三種の神器」でチャイナの妄想を抑え込む日本(゚д゚)!

4月7日創立された水陸機動団

自衛隊は米軍から多くを学んでいます。例えば離島防衛を担う「水陸機動団」の今春の創設に向け、陸自は米海兵隊をモデルに装備調達や戦力編成を進めていました。とはいえ、自衛隊も米軍から一方的に学ぶばかりではありません。中国の海洋進出への対処に際し、米軍の司令官に「自衛隊から学びたい」と言わしめた能力と装備が自衛隊にあります。

「列島線防衛の新しい方策を検討すべきで、(米陸上部隊に)艦艇を沈める能力の強化を指示した。米軍の統合軍の能力を高めるため、陸上自衛隊からさまざまなことを学びたい」

米太平洋軍のハリー・ハリス司令官(当時)は昨年5月17日、都内で講演し、米陸上部隊が対艦攻撃能力を持つ必要性を強調しました。陸自に学びたいと述べたハリス氏が念頭に置いていたとみられるのが「12式地対艦誘導弾(SSM)」でした。

現駐韓大使 当時米太平洋軍の司令官だったハリー・ハリス氏

12式地対艦誘導弾の詳細は車両搭載型の対艦ミサイルで、発射後はあらかじめプログラムされたコースに沿って低空を飛び、海上の敵艦艇を狙い撃ちます。車両搭載型なので、敵に見つかりにくい山陰などに展開して発射することができます。12式の射程は約200キロ。旧型の「88式」は射程約150キロといわれています。

SSM(88式)は冷戦期に開発されました。旧ソ連による北海道への上陸侵攻に備え、日本沿岸に接近した敵艦艇を内陸からSSMで迎え撃つという運用が想定されていました。

SSM(88式)

ところが南西諸島での中国の脅威が顕在化し、現在ではSSMの主な用途は離島防衛にシフトしました。防衛省はこれまで空白域だった南西諸島への部隊配備を進めており、一昨年3月の与那国島を皮切りに、今後は沖縄県の宮古島、石垣島、鹿児島県の奄美大島にも部隊を置く予定で、SSMが配備されれば周辺を航行する外国軍艦への牽制と抑止の効果は大きいです。ハリス氏が語った構想は、こうした陸上からの対艦攻撃能力を南シナ海まで拡大し、中国の進出を封じ込めようというものです。

SSMには厳しい評価が下された時代もありました。航空機などが得た敵艦の位置情報をリアルタイムで共有する仕組みがなかったことなどから、著名な軍事評論家から「宝の持ち腐れ」と酷評されたこともあり、冷戦終結後にはその役割が疑問視されました。

しかし、離島防衛という新たな役割を与えられ、かつての“弱点”も克服が進みつつあります。防衛省は昨年度予算から、SSMと海空自衛隊の航空機などをつなぐ「戦術データ交換システム」の取得を開始。導入されれば、海自のP3C哨戒機や空自の早期警戒管制機AWACS、米軍などのレーダー情報をリアルタイムで共有することができるようになり、離島防衛に適した一体的な運用が可能になります。射程をさらに延ばした12式の後継ミサイルの研究開発も昨年度から予算化されています。

日本が導入したF-35

日本は、SSMの配備と同時に、ステルス戦闘機F-35を導入、さらに、2月27日には、三菱重工と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が鹿児島県種子島宇宙センターで、大型ロケット「H2A」を用いて、光学偵察衛星の軌道投入に成功しました。

日本が最近見せた軍事面での「新・三種の神器」はいずれも中国をターゲットとしたものです。日本防衛省は現在、地対艦ミサイルの新部隊の冲縄本島への配備を検討しています。宮古島に配備されたミサイルと連携し、中国海軍が太平洋に出るための重要な通路となる宮古海峡に対して火力の全面的カバーを形成します。

情報収集衛星光学6号機を搭載し、打ち上げに成功したH2Aロケット38号機

中国は、米国を頂点とする戦後秩序に挑戦し、世界の半分を中国の覇権を及ぼし、米国とともに世界を二分するというとてつもない妄想を抱いています。

韓国があてにならない現在、中国の野望を砕くための最前線基地は否応なく日本となってしまいました。米国は、軍事面で中国に脅威を与えつつ、貿易戦争では実際に中国経済を弱体化させつつあります。日本は、さらに防衛費を増やし、中国の妄想を封じ込め、米国とともに、中国を弱体化させ、二度と日本に対して野心を抱けなくなるようにすべきです。

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2018年7月27日金曜日

日仏安全保障関係は新たな段階に―【私の論評】日本はフランスとの連携を強化し、対中国囲い込み戦略を強化すべき(゚д゚)!


岡崎研究所 

 7月13日(日本時間14日)、フランスを訪問中の河野太郎外務大臣は、フランスのフロランス・パルリ軍事大臣とともに、「日本国の自衛隊とフランス共和国の軍隊との間における物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とフランス共和国政府との間の協定」(略称:日・仏物品役務相互提供協定(日仏ACSA))に署名した。この協定は、日仏両国の国内手続きを経て、発効する。



 この日仏ACSAにより、自衛隊とフランス軍との間で、物品・役務の提供が円滑かつ迅速にできるようになる。具体的には、災害や共同訓練、国連PKO(平和維持活動)の際に、物資や食糧、燃料、弾薬等及びサービスを相互に融通できるようになる。この協定は、自衛隊とフランス軍との間の緊密な協力を促進し、国際社会の平和構築や安全保障に積極的に寄与するのに役立つものである。

参考:外務省「日・仏物品役務相互提供協定(日仏ACSA)の署名」平成30年7月14日
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_006238.html

 日本は、既に、米国、英国、豪州とACSAを締結している。今回、フランスと締結したことで、日仏間の安全保障関係がより緊密になるとともに、日米豪英仏が共に行う多国間の共同軍事演習等もより円滑にやりやすくなる。

 7月14日、フランスの革命記念日の軍事パレードに、日本国の代表として、陸上自衛隊が初めて参加して、共に行進をした。フランス全土や世界中から集まった人々が、フランス軍とともに、シャンゼリゼ大通りを行進する自衛隊員に声援と拍手をおくった。フランス政府及びフランス国民は、自衛隊の参加、フランスとの国際協力を積極的に評価した。

7月14日、フランスの革命記念日の軍事パレードに、日本国の
代表として、陸上自衛隊が初めて参加して、仏軍と共に行進

 今年は、日仏国交160周年の節目の年であり、文化的行事として、同日、パリ市内では、「ジャポニズム」の開会式も、河野外務大臣出席のもとに開催された。が、意外にも、フランスの一般の人々は、陸上自衛隊が革命記念日の軍事パレードに参加していることは知っていても、日仏交流160周年のことはそれ程知られていなかった。日仏交流の観点からも、フランス人が関心を持ち団結を示し熱くなる革命記念日の軍事パレードに、少人数でも日本の自衛隊が参加したことには、日本の存在を示すのに大きな意義があった。

 もう一つ、自衛隊のフランス訪問が重要だった理由は、今年が第一次世界大戦終結1918年から丁度100周年にあたる年だからだ。日本は、フランスとともに戦い、戦勝国の五大国の一員として、戦後処理や戦後の国際秩序の構築に務めた。革命記念日の前日等にパリの軍事学校内で開催された光のショーのタイトルは、「1918年、新世界」であり、フランスの歴史にとって、第一次世界大戦が重要であることは明らかだった。

 ACSAが日仏関係のみならず、多国間の安全保障協力にとっても重要だと上記したが、今年のフランス外交を振り返っても、その事は明白である。本年1月、マクロン大統領は、インドに国賓として招かれ、仏印共同声明では、仏印防衛協力の強化も謳われた。4月には、米国にもマクロン大統領は国賓として訪問した。さらに、5月、豪州にもマクロンは赴き、ターンブル首相との間で、インド太平洋地域の安全保障協力で仏豪両国が協力することを約束した。

 このようなフランス外交の流れは、日本外交の方向性と一致する。

 今年1月26日に東京で開催された日仏外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を受けて、今回のACSA署名に至った。その間、2月には、フランスの軍艦が東京晴海に寄港し、海上自衛隊がホストした。このように、海上でも陸上でも日仏の軍事関係者が協力する時代に、今回のACSAは必要不可欠なものなのだろう。

【私の論評】日本はフランスとの連携を強化し、対中国囲い込み戦略を強化すべき(゚д゚)!

日仏ACSA締結を期に、日仏安全保障関係は新たな段階に入ったのは間違いありません。これは、フランス国内で、中国への幻想崩し、習政権警戒論が頭をもたげていることに無関係てはないでしょう。

以下に、中国共産党政権とフランスとの関係を簡単にたどっておきます。

フランスのドゴール政権は独自外交を掲げて1964年、対中国交を樹立しましたた。しかし、ミッテラン政権は天安門事件への対応を批判し、台湾に武器供与を決め、対中関係が悪化。

シャルル・ド・ゴール

2008年にはサルコジ仏大統領がチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世と会談するなど曲折をたどりましたが、近年は原発建設などで両国関係は深まっていました。

中国の最高指導者となった鄧小平氏は1920年、16歳で勤労学生としてフランスに滞在し、中国共産党の欧州支部結成に参加。第一副首相だった75年にフランスを訪問し、共産党指導者として初めて西側を訪問しました。

鄧小平


フランスは長く米国に対抗する「独自外交」を志向したせいでしょうか、中国には好意的でした。国交樹立は1964年で、米国より15年も早いです。周恩来、鄧小平ら共産党指導者が若いころ、フランスに留学した縁もあるののでしょう。2年前、中国企業がドイツのロボット大手クーカを買収し、技術移転への警戒が広がった時もフランス国内反応は比較的鈍いものでした。

しかし今年の中国による憲法改正で、空気ががらりと変わりました。2月末、中国共産党が憲法改正案を発表すると、仏紙ルモンドはただちに「習皇帝の即位」という表題の社説を掲載。習氏は「あくなき個人権力の追求者」に成り下がったとこきおろしました。月刊誌キャピタル(電子版)も「習氏は政治自由化への期待を完全に裏切った」と断じ、権力の一極集中を進め、民主主義に逆行する習政権を批判しました。

習近平皇帝

ことさら厳しい批判は、習政権への失望の大きさを物語っています。欧州がトランプ米政権発足に戦々恐々としていた昨年1月、習氏が世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で行った演説は強い希望を抱かせました。習氏は「反グローバル化」や保護主義を批判し、「米国第一」を牽制しました。この時、ルモンド紙は習氏を「自由貿易の旗手」と手放しでたたえました。



欧州は歴史的経験から、中国は「いつか手を組める相手になる」と期待していたようです。米欧への対抗心を向きだしにするロシアとは違うと見ていたようです。

この「誤算」は、東西冷戦崩壊後の経験に由来します。欧州連合(EU)は旧ソ連圏の中・東欧を加盟国として迎え入れ、自由経済圏に組み込むことで安定化と民主化に成功しました。

ロシアではソ連消滅後の経済混乱でオリガルヒ(新興寡占資本家)が台頭し、プーチン大統領が「大国復活」を掲げて強権を握ったのですが、中国は天安門事件後、改革開放を突っ走り、集団指導体制を敷きました。外交でも、米欧に対抗意識をあらわにするロシアとは異なり、台湾やチベットなど特定問題以外は融和路線をとりました。

中国は世界貿易機関(WTO)に加盟し、世界第2の経済大国になりました。欧州は、中国にも中産階級が増えれば必然的に民主化圧力に抗えなくなると期待しました。英仏独は人権問題に踏み込まず、「北京詣で」を競いました。

この苦い経験を踏まえ、今年4月20日付け仏紙フィガロは中国への強い警戒感を打ち出しました。
中国は最初、西欧の援助が必要な途上国だという顔をした。次に、WTOルールを守る友好的な貿易大国の顔を見せた。西欧がそれを信じている間、ものすごい勢いで先端技術を横領した。習政権が示す次の顔。それは欧州に『一帯一路』で貿易覇権を広げ、徐々に植民地化することだ。
独裁に進む中露両国が連携を強めないよう、欧州はロシアとの関係改善を急ぐべきだと踏み込みました。

習近平の皇帝化を目指す前から、フランスの一部には警戒感がありました。

日本、フランス両政府は昨年1月に、パリで開かれた2+2(外務・防衛閣僚協議)で、南シナ海で軍事膨張をひた走る中国を「念頭」に、緊張を高める一方的な行動への強い反対を表明し、自制を求めましたが、わが国のみならず、フランス政府の「念頭」に浮かぶ中国の不気味な影は今後ますます膨らむことでしよう。

一昨年夏には、仏国防相がEU(欧州連合)加盟国に、「航行の自由」を確保すべく、南シナ海に海軍艦艇を定期的に派遣するよう呼び掛けたましたが、背景にはフランスの太平洋権益が中国に脅かされ始めた危機感も横たっています。

太平洋のフランス領

フランスは1100万平方キロに達する世界第2位のEEZ(排他的経済水域)を有する「海洋国家」ですが、海外領土が広大なEEZを稼いでいます。太平洋にも4カ所あり、50万人ものフランス国民が暮らしています。一部には軍事基地が置かれています。

ところが、中国は海洋鉱物・漁業資源を求め、仏海外領土周辺の南太平洋島嶼国家への札束外交攻勢だけでなく、「独立後」をにらみ太平洋に点在する仏海外領土へも手を突っ込んでいます。中国の影がヒタヒタと押し寄せる現実に、フランス軍は米軍や豪州軍、ニュージーランド軍に加え、自衛隊との軍事演練を加速・活発化させています。 

フランスの中国への姿勢は習近平が皇帝になることにより、明らかに変わりました。今はフランス全体に中国に対する強い警戒感があります。

こうした中国を警戒するフランスは、このブログにも掲載した「ぶったるみドイツ」とは違います。

つい最近もドイツは、中国との自由貿易を推進しようとし、李克強首相とメルケル首相が会談をしました。さらには、緊縮財政により主力戦闘機ユーロファイターが4機しか稼働しないという有様で、対中国貿易戦争をはじめたばかりのトランプ大統領に、防衛費を4%にしろと言われています。

これでは、「ぶったるみドイツ」といわれても致し方ないです。これに関しては、トランプは各国のNATO首脳に対して防衛費を増大するように提言したことと、日本とEUが中国は締結できないEPA(経済連携協定)を締結したということ、さらに米EU、車除く工業製品の関税撤廃目指すことで合意したため、かなりの牽制になったものとみられます。

EUとの貿易戦争を回避したことで、トランプ大統領は力を集中して対中国貿易戦争に専念することができるようになりました。その一方、欧州特にドイツと連携して米国との貿易戦争に優位に立とうとした中国の企みは完璧に失敗に終わりました。習近平は益々の窮地に陥ったことでしょう。

それにしても、「ぶったるみドイツ」はいつどこで綻びをみせるかわかったものではありません。日本は、フランスとの結びつけを強化することにより、ドイツを牽制しそうしてEUに対して協力するととも、対中国囲い込み戦略を強化していべきです。

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2018年7月26日木曜日

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トランプ大統領とユンケル欧州委員長

 トランプ米大統領と欧州連合(EU)の行政執行機関、欧州委員会のユンケル委員長は25日、今後、貿易を巡る協議を進めていく間は新たな関税を導入しないことで合意した。トランプ大統領が輸入自動車への関税導入の意向を示して高まっていた米EU間の緊張は緩和し、貿易戦争は土壇場で回避された。

 両首脳はこの日ホワイトハウスで会談し、EUが米国産液化天然ガス(LNG)と大豆の輸入を拡大するほか、双方が自動車を除く工業製品の関税を引き下げることで合意した。ユンケル委員長は会談後の共同記者会見で、交渉が続く間、米国とEUは「他の関税を留保」すると発言。また米鉄鋼・アルミニウム輸入関税と、それに対抗してEUが導入した報復関税を「しかるべき時に」再検討するとした。

 トランプ大統領は共同会見で、「非常に重要な記念すべき日となった」と発言。「われわれはたった今から交渉をスタートさせる。ただ、交渉がどこに向かうかは承知している」と語った。また、米とEUの通商関係が「新たな局面」に入ったと成果を誇った。

 米国とEUの貿易戦争が回避されるとの楽観的見方から、米株価と米国債利回りは上昇した。

工業製品の関税「ゼロ」へ

 トランプ大統領は、両首脳が工業製品の関税「ゼロ」に向けて取り組むことでも同意したと述べた。また、米国とEUは米鉄鋼・アルミ輸入関税およびEUの報復関税の「解決」と、世界貿易機関(WTO)改革も目指すとした。

 両首脳は3時間近くにわたった会談後、ホワイトハウスのローズガーデンで短く会見したが質疑応答は行わなかった。

 ユンケル委員長は共同会見後にワシントンでスピーチし、「われわれは交渉を続けている限り、他の関税を導入しないことで合意した。今日、この合意に達したことに満足している」と語った。

 ロブ・ポートマン米上院議員(共和、オハイオ州)は関税を巡る緊張を緩和させた米EU首脳を称賛。「農業だけでなく、米経済全般の懸念の一部解消に寄与するだろう。喜ばしいことだ」とした上で、「これは最初の一歩だ。われわれは詳細を詰める必要がある」と述べた。また、この数週間はEUやメキシコ、カナダ、中国との間に進展の兆候が見られず、前途に光明を見いだすのが難しかったと語った。

自動車が鍵

 しかし、米国とEUが自動車と自動車部品の貿易に関する立場の違いを克服できなければ、休戦は短期間に終わる可能性がある。トランプ大統領は5月、米国と中国との協議で合意の枠組みが示された数日後にこの枠組みを捨て去り、追加関税発動の方向に動いた経緯がある。

  米シンクタンク、大西洋評議会の世界ビジネス・経済プログラム担当アソシエートディレクター、マリー・カスペレック氏は電話インタビューで、「彼らは非常に前向きなことだとアピールしたが、私にとっては今回の発表は現在においてはそれほど大きなことではない。これは一種の準停戦だからだ」と発言。「鉄鋼・アルミ関税が続く限り、EUは高官級の交渉には応じないだろう」と指摘した。

 トランプ大統領はEUからの輸入車への米関税率が2.5%であるのに対し、EUが米国車に10%の輸入関税を課しているのは高過ぎるとし、またEUの対米貿易黒字1500億ドル(約16兆6200億円)についても批判している。

 25日の米EU首脳の合意は、米国の貿易相手が米産品の輸入を拡大すると提案することにより、トランプ政権をなだめ、貿易戦争を回避し得るということを示す心強い証拠となった。国際通貨基金(IMF)は貿易戦争が起これば、久しぶりに力強い伸びを示している世界経済の成長を阻害しかねないと警告している。

 米ゼネラル・モーターズ(GM)やトヨタ自動車など主要自動車メーカーが加盟する米国自動車工業会(AAM)は声明で、「今日の発表は、貿易障壁を解消するのに一段と効果的なアプローチが関税引き上げではなく、交渉であることを証明した」と歓迎の意を表明した。

【私の論評】基軸通貨国米国が貿易赤字になりがちであることにトランプ大統領は気づいたか?一方習近平は益々の窮地に(゚д゚)!

トランプ大統領は貿易赤字を問題としているようですが、このブログに過去何度か掲載してきたように、貿易赤字をあたかも家計の赤字のように捉えて、赤字そのものが問題であると捉えるのは完璧な間違いです。トランプ大統領をはじめ、米国の政治家はこのことをしっかり理解すべきでしょう。

そもそも、多くの国では、景気が良くなると貿易赤字が増えることが知られています。これは、景気が良いと他国からの輸入が増えるからです。貿易赤字そのものを問題とするのではなく、赤字の原因を個別でみて判断すべきであって、赤字そのものを問題にすべきではないのです。

それに米国は他国と違い、米ドルが基軸通貨国であるということ自体が、貿易赤字になりやすいことの原因の大きな一つになっています。

米国の財政赤字と経常収支赤字といういわゆる「双子の赤字」は、米国および国際経済上の懸案事項としてしばしば挙げられてきたものです。

トランプ政権に限らず、米国の過去の政権は経常収支赤字の解消のために財政赤字の縮小を目指すべきだとされたり、逆に主な貿易相手国(それこそ、日本など)に内需拡大政策を取らせて、貿易相手国の経常収支黒字を縮小させようと画策したりしていました。

しかし、ここで注意しなければならないのは、米国は基軸通貨国であり、国際貿易決済手段として、米国のみならず世界中にの国々に対して基軸通貨・ドルを供給する立場であるということです。

世界貿易があまりお大きくなかったうちはまだ良かったのでしょうが、現在のように貿易が拡大した場合、貿易国における各経済主体は決済手段としてのドルやドル建て資産をあるていど貯蓄することになります。

であれば、貿易額が大きくなればなるほど、各国は取引及び貯蓄手段としてのドルの供給が必須になってきます。

ドルおよびドル建て資産を世界の国々に供給するためには、米国が財政赤字および経常収支赤字になってしまうというのは当然の理屈です。

実際、アジア通貨危機、ロシア通貨危機(1997)、アルゼンチン通貨危機(2001)後において米国は、経常収支赤字すなわち世界へのドル・ドル建て資産供給の拡大を余儀なくされています。


もし米国が経常収支赤字に抵抗し、その縮小を本気で目指したら、世界貿易は崩壊を余儀なくされることになります。なぜなら世界貿易は、米国の基軸通貨供給に依存しているからです。

もし一時的に米国の経常収支改善と世界貿易堅調が見かけ上維持されていたように見えても、それは途上国等の借入過剰による不安定化を意味する可能性が高いです。アジア通貨危機やアルゼンチン通貨危機はその意味で、基軸通貨の過少供給に遠因があると考えることが出来ます。そのため、通貨危機から世界貿易を守るには基軸通貨の追加供給が必要なのです。

これは世界を一国と考え、基軸通貨を自国通貨と考えた場合でもまったく同じ議論が出来ます。自国通貨は、(中央銀行で紙幣や当座預金が”負債”として扱われていることからもわかるように)厳密には政府債務です。信用創造によって通貨を供給し、それ自体が貯蓄手段となる通常の政府債務も同質です。

民間債務も、信用創造によって通貨を供給し、同時に貯蓄手段となっています。こうした経済全体の債務(および債務としての通貨)は、経済全体の貯蓄欲求を満たし、それ以上の通貨が流通することを助けています。もし経済全体で債務不足になれば、通貨流通とそれによる財取引は滞ることになります。

このように考えると、基軸通貨国の米国は、財政金融的に見て、世界に対する中央銀行・財務省として機能していることがわかります。米国の財政赤字(ベースマネーの供給原資であり、信用創造によるマネーサプライ供給手段でもある)、および経常収支赤字は、世界貿易のために十分な赤字である必要があるというわけです。

こうした貯蓄手段としての貨幣供給は、世代重複モデル(貯蓄を行う現役世代と貯蓄の切り崩しを行う引退世代で形成される)においては、長期的に維持する必要があることが知られています。



これが現実的な想定なら、米国の累積経常収支赤字や累積財政赤字は、長期的にも清算される必要がないのです。むしろ維持されなければならないものなのです。

さて、ここで問題になるのは「世界がドルを基軸通貨として備蓄するインセンティブはどこにあるか」ということになります。

「各国で使われているから」というのももちろん理由にはある程度なるのですが、「そもそもなぜ各国が基軸通貨として使うことを決意したか」という根源を訪ねる必要があります。

ここで助けになるのは、ネオ・チャータリズム(ネオ・カルタリズム)[新貨幣国定主義]の考え方です。

ネオ・チャータリズムにおいては、納税を政府の財源調達手段ではなく、貨幣の最終需要を決定するための方策に過ぎないとしています。

というのは、なぜ日本国内の人々が日本円を求め、日本円で決済するのかという根源を辿ると、日本円によって納税することが求められているからであるというところに行きつくからです。実際、日本円が最初に普及したのも、日本円が納税手段として認められているという経緯があったからです。

もしこれが納税手段として使えないなら、日本円は偉人の絵を描いた少し変わった紙切れに過ぎず、交換価値も貯蔵価値も持ちえないでしょう。この意味で、政府の発行する通貨というのは「それを使って後に納税をして良い」という意味で、政府にとって(会計上の形式ではなく)本質的に負債としての意味を持つことになります。なぜなら、通貨によって政府が民間から財やサービスを買い入れる代わりに、その通貨による納税を認めるという貸借の関係が成り立っているからです。

ここでは、発行と納税のバランスが成立する必要性は必ずしも存在しないことに注意すべきです。むしろ政府にとって通貨の供給とは、取引を円滑にし貯蓄手段を与えるために行うことなのであり、回収する必要性はないどころか逆に十分に流通する必要があるからです。

こうして本来的に(日銀を含めた)政府財政は赤字になる必要があり、経済が拡大していくのに合わせて累積的に赤字を追加していく必要があるのです。そしてこれは、すでに説明したように、長期的にも償還される必要もありません。

さて、米国に対する明示的な納税システムが存在しない中では、基軸通貨ドルにとっての最終需要とは何なのでしょうか。

これは長らく世界最大であり、今でも世界最大級である米国の輸出(すなわち財の供給)に依存するのでしょう。

世界最大(級)の経済国による財の供給……これなくして、ドルの基軸通貨としての地位はあり得なかったでしょう。ただし、米国の経済はかなり大きく、輸出がGDPに占める割合はほんの数%にすぎません。いかに米国の経済そのものが大きいか改めて実感します。だからこそ、ドルが基軸通貨になれたともいえます。

しかし、逆に言えば、米国の世界に対する財供給が相対的に小さくなっていくなら、基軸通貨としてのドルの最終需要も不安定化していく可能性があります。

そうした中で、他の輸出大国(あるいは輸出地域)の通貨を国際取引通貨化していく「基軸通貨の『分権化』」が目指されているのだと理解すべきでしょう。

しかし、ドルの最終需要が不安定化していくからといって、拙速に財政赤字・経常収支赤字縮小を目指せば、世界貿易ひいては世界経済の致命的なクラッシュをもたらすことになります。

長期的に米国の経常収支赤字縮小が必要だとしても、基軸通貨の分権化に歩調を合わせる形で、漸進的に進めていく必要があるでしょう。

現在のところは、米国の経常収支が赤になるのは当然のこととし、その上で米国としては、赤字が妥当なものかどうかを分析するべきでしょう。

以上のようなことを考えると、米EU、車除く工業製品の関税撤廃目指すのは当然のことといえます。

トランプ大統領も米国が基軸通貨国であることを認識しはじめたのかもしれません。

ただし、中国への対応は据え置きです。これは、当然といえば当然です。そもそも、以前のこのブログに掲載したように、中国は他国と経済連携協定(EPA)を締結する事ができないような国です。

日本とEUとの経済連携協定(EPA)の署名を終えてトゥスク欧州理事会議長(右)と
握手を交わすユンケル欧州委員会委員長。中央は安倍晋三首相=17日午後、首相官邸

簡単にいうと、中国はEPAが締結できるような日本などの先進国などとは異なり、民主化も、政治と経済の分離も、法治国家化もなされていません。そのような中国は、他のそれらが整っている国々と貿易をすれば、そもそも最初から自由貿易にはなりません。

実際に中国は「自由貿易ルール違反のデパート」ともいえます。知的財産権侵害は商品や商標の海賊版、不法コピーからハイテクの盗用まで数えればきりがありません。おまけに、中国に進出する外国企業には技術移転を強要し、ハイテク製品の機密をこじ開けるようなことをしています。共産党が支配する政府組織、金融機関総ぐるみでWTOで禁じている補助金を国有企業などに配分し、半導体、情報技術(IT)などを開発しています。

トランプ大統領は、このような中国が、米国を頂点とする戦後秩序に真っ向から挑戦することを宣言したため、貿易戦争を挑んだのです。

EUとの貿易戦争を回避したことで、トランプ大統領は力を集中して対中国貿易戦争に専念することができるようになりました。その一方、欧州特にドイツと連携して米国との貿易戦争に優位に立とうとした中国の企みは完璧に失敗に終わりました。習近平は益々の窮地に陥ったことでしょう。

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2018年7月25日水曜日

米ロ会談が酷評でも支持率上昇のトランプ―【私の論評】日米マスコミの報道は鵜呑みにできない、特に総理と大統領関連の報道はそうだ(゚д゚)!

米ロ会談が酷評でも支持率上昇のトランプ

「命運が尽きた」と言われながらも支持層は盤石

ベルギーの首都ブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、
北大西洋理事会の会合の会場に到着したドナルド・トランプ米大統領(2018年7月11日)

 西欧訪問やロシアのプーチン大統領との会談を終えた米国のドナルド・トランプ大統領が米国主要メディアから酷評を浴びている。政界でも民主党側はもちろん共和党の一部からも批判が起きた。

 だが、その一方で米国民一般のトランプ大統領支持は5割に近い水準を保ち、共和党支持者の間では一段と高くなっている。激しく糾弾されるトランプ大統領と、支持層を堅く保つトランプ大統領と、まるで2人の人物が存在するかのようだ。

根拠が薄弱な米国メディアのトランプ評

 欧州を訪問し、ロシアのプーチン大統領と会談したトランプ大統領の言動に対して、米国のメディアや民主党系識者たちからは以下のような非難がぶつけられた。

「トランプ大統領は西欧との同盟を破壊する」

「敵であるはずのロシアと手を結ぼうとする」

「トランプ氏は無知で衝動的であり、政策がない」

 トランプ批判の先頭に立つニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストの記事は、このような非難に満ちていた。その筆致はまるでトランプ大統領の命運が尽きたと断じているようでもあった。

 このようにトランプ大統領を切り捨てる論評は、そのほとんどがトランプ大統領のメディアとのやりとりや、トランプ氏自身のツイッターでの発信が根拠となっている。トランプ大統領が正式に発表した政策や決定を基にしているのではなく、記者が個人的な感想を述べるという次元の記事が多いのが実状だ。

 確かにトランプ氏の言動は既成の政治リーダーとは、まったく異なる。単純明快だが、粗雑である。ごく平均的な米国人たちが日ごろ口にするような言葉で、難しい国際問題や国内問題を平易に説明しようとする。そうした言葉遣いは、政治やメディアの世界のエリートとされる層をいらだたせ、怒らせ、反発させる。

 日本でのトランプ評も、米側のそんな傾向に依拠するところが多い。実際に、いまだに以下のようなトランプ評が見受けられる。

「トランプ氏は不動産業出身だから大統領職はまともには務まらない」

「大統領としての行政や統治も、みな損得のディールなのだ」

「トランプ氏の最近の言動はみな中間選挙目当てである」

 だが、こうしたトランプ評は根拠が薄弱であり、明らかに事実と異なる部分もある。まず「不動産業だから」という批判は、不動産業への差別意識だともいえる。かつて1981年に共和党のロナルド・レーガン大統領が登場したとき、民主党側の政治家やメディアは「しょせん彼は映画俳優だったから」と見下す言葉を浴びせた。映画俳優という職業への偏見だった。しかし、現実にはレーガン大統領は米国の政治史でも最高レベルの国民の人気を得る国家指導者として名を残した。

 トランプ大統領は政策や理念ではなく金銭上の損得だけを考えて「ディール」している、中間選挙で共和党の勝利を得るために目先の人気取りだけで動いている──といった批判も、裏付けとなる事実があるわけではない。

国民の支持を得ているトランプ大統領の政策

 米国メディアは、以上のようにトランプ大統領を徹底的に「浅薄、無知、無思慮、無政策、無思想な人物」として描き、「ドン・キホーテのように孤立して奇矯な人物」というレッテルを貼ろうとしている。

 だが現実のトランプ大統領は、決してそうではない。

 私は、2015年6月にトランプ氏が大統領選への立候補を宣言したときから大統領選キャンペーン中の彼の言動を追い、トランプ氏が大統領に就任してからも、その政策や演説を取材してきた。また、トランプ大統領の支持層にも接してきた。その体験を踏まえて彼を眺めると、どうしても異なるトランプ像がみえてくる。

 今、話題になっているトランプ大統領の欧州への防衛政策やロシアへの態度に焦点を当てて説明しよう。

 今回の欧州訪問で北大西洋条約機構(NATO)の首脳会談に出席したトランプ大統領は、NATOの欧州側加盟国に防衛費の増額を強く要求した。加盟各国は最低限、GDP(国内総生産)2%の防衛費支出をするという約束を守れ、という要求だった。

 トランプ氏のこの要求は、NATOを壊す動きだとして広く報道された。トランプ氏はきわめて衝動的であり、米欧同盟の破壊につながるという批判も多かった。

 しかし実際には、トランプ氏は「NATO諸国の防衛費負担の増大」を2016年4月の大統領候補として初の外交演説で第1の公約として挙げていた。当時から一貫して変わらない「公正な負担を」という政策なのだ。国民から広く支持を得ている政策であり、オバマ前政権もこの政策を推していた。

 また、トランプ大統領は「NATO体制の維持と強化」も政策として掲げてきた。昨年(2017年)末から今年初頭にかけてトランプ政権が発表した「国家安全保障戦略」や「国家防衛戦略」でも、大統領として明言している。米国が主体となって進めるNATOの維持や強化は、今回のNATO首脳会議での共同声明でも確認された。トランプ大統領はNATO堅持を主張した上で公正な負担を求めているのだ。

 ロシア政策にしても、トランプ大統領は前記の「国家安全保障戦略」や「国家防衛戦略」の中で、ロシアをはっきりと米国主導の国際秩序を侵食し、破壊することを企図する危険国家として位置づけてきた。トランプ大統領はプーチン大統領と握手はしても、ロシアのクリミア奪取を許してはいない。ロシアへの経済制裁もまったく緩めていないのだ。

 トランプ政権のロシアへの基本姿勢は、軍事力の強化によっても明らかだといえる。トランプ大統領は2017年9月の国連演説で「原則に基づく現実主義」という理念を掲げ、国家主権に基づく「力による平和」という政策を語った。それとともに、潜在敵であるロシアや中国の膨張を抑えるために、軍事力を大幅に強化し始めた。トランプ政権の2018年度の国防予算は、前年度から13%増加し、GDPの4%ほどに達している。

トランプ大統領はもう1人いる?

 だが、反トランプのメディアはそうした政策をほとんど取り上げない。その代わりにトランプ大統領の自由奔放な発言、放言、失言を引き出して、集中砲火を浴びせる。 

 それでも、米国一般のトランプ支持は揺らがない。大手世論調査機関で唯一、毎日、大統領支持率の調査を実施するラスムセン社の発表では、トランプ大統領への一般米国民の支持率は45%以上であり、ときには50%近くにもなる。この支持率はこの数カ月間、上昇傾向にある。

 さらにトランプ大統領への支持の特色は、本来の支持層の支持がきわめて堅固であり、しかも増加の動きをみせている点である。ごく最近でもその支持率は85%以上の高い水準にある。「命運が尽きた大統領」というイメージとはほど遠いといってよい。

 7月24日の報道でも、トランプ・プーチン会談の最中と直後の7月中旬に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCテレビが共同で実施した全米世論調査では、トランプ大統領への支持率が前回の44%から45%に上昇したという。ネット・メディアの「ザ・ヒル」の同時期の世論調査では共和党支持層のトランプ大統領への支持率は88%という記録破りの数字を出したという。

 こうした諸点をみてくると、米側の反トランプメディアや日本側のいわゆる識者の多くが描くのとは異なる「もう1人のトランプ大統領」を、私はどうしても実感させられるのである。

【私の論評】日米マスコミの報道は鵜呑みにできない、特に総理と大統領関連の報道はそうだ(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事にもでている、米国の調査会社ラスムッセン社が毎日行っている世論調査で、今年2月27日にはトランプ大統領の業績を支持する者が50%となりこの内35%が「強く支持」していました。一方不支持率は48%で「強く不満を持つ」は39%でした。

トランプ大統領の支持率が50%になるのは昨年6月中旬以来のことです。その後30%台にまで転落していたのですが昨年暮れ以降上昇機運にありました。

この50%という支持率が高いのかどうかですが、オバマ前大統領の第一期目の同時期の支持率が43%であったのと比較すると、かなり良い数字だと考えざるを得ません。

その原因ですが、時期的に見るとトランプ大統領に大きな影響力を持っていた超保守派のスティーブ・バノン前主席戦略官が暴露本「炎と怒り」に、大統領の娘イバンカさんや娘婿クシュナー氏を批判する発言を引用されて、ホワイトハウスから完全に放逐されたことと重なります。

暴露本「炎と怒り」

その後トランプ大統領の口から「アメリカ・ファースト」という言葉も出なくなり、政策的にも移民に同情的だったり、今年3 月のフロリダの高校での銃乱射事件でも銃規制強化を提案したり柔軟な姿勢が見えるようになったことが支持を拡大した可能性が大きいです。

ただ、同時期に発表されたCNNの世論調査ではトランプ大統領への支持は35%で過去最低と並んだとされました。片やラスムッセン社がトランプ大統領は「評価されている」としたのに対して「最低水準」という結果はどうして生まれたのでしょうか。

トランプ大統領の支持率を伝えるCNNの画面

同じ疑問を米国でも持ったようで、ワシントンの保守系のニュースサイト「デイリー・コーラー」が分析を試みていました。

同サイトはまず回答者について調べた結果、CNNの場合「民主党支持者」33%「共和党支持者」23%「その他」44%となっていることに着目した。通常米国国民の内共和党を支持する者は37%とされているので、14%ほど民主党寄りの回答者が多かったのではないかと指摘しました。

次に、回答者の選び方もCNNが「18歳以上の成年男女」としたのに対してラスムッセンは「投票すると回答した有権者」だった。大統領選挙の投票率は通常50%前後なので、世論調査の対象としては「投票する」とした有権者の方が正確を期せるといいます。

さらに、CNNの調査は調査員が電話で尋ねる方法をとりますが、この場合回答者が調査員の意向をしんしゃくする場合があるのでラスムッセンのように録音メッセージで機械的に行う方が好ましく「CNNは調査のデータをねじ曲げ(skewing)た」と「デイリー・コーラー」は断じています。

CNNが「ねじ曲げた」かどうかはともかく、ラスムッセン社の世論調査は一昨年の大統領選の際にトランプ候補とクリントン候補の得票差をほぼ正確にとらえていたことで評価されており、いまトランプ大統領が上り調子であるという調査結果は素直に受け入れても良いと認識すべきと思います。

実際、ブログ冒頭の記事にも「大手世論調査機関で唯一、毎日、大統領支持率の調査を実施するラスムセン社の発表では、トランプ大統領への一般米国民の支持率は45%以上であり、ときには50%近くにもなっている」とあります。そうして、この支持率はこの数カ月間、上昇傾向にあります。

CNNといえば、昨年ドナルド・トランプ米大統領の上級顧問がロシア疑惑で連邦議会の調査を受けているという記事を米CNNが撤回し、CNNは26日、関わった記者3人の辞職を発表していました。

CNNを辞職したのは、記事を担当したトマス・フランク記者、調査報道部門編集者でピュリツァー賞受賞経験もあるエリック・リクトブラウ氏、調査報道部門の責任者のレックス・ハリス氏。

米国のCNNや他の報道機関の報道でも、トランプ大統領に関する報道は偏向しているとみるべきでしょう。やはり、ラスムッセン社の世論調査などを参照すべきです。

日米マスコミのトランプ報道は鵜呑みにできない

そもそも、このブログでも過去に何度か述べているように、米国のマスコミはリベラル派が牛耳っています。新聞はすべてが、リベラル派です。テレビ局では唯一フォックスTVだけが、保守派で他はリベラルです。

報道する時の視点はすべてリベラル派の視点からによるものです。米国のマスコミの報道だけを見ていると、それは米国の半分だけみていることになり、もう半分の保守派についてはスルーすることになります。

日本のメディアの安倍総理報道も鵜呑みにできない

それは、日本の安倍総理の報道も、産経新聞などを見ることなく、朝日新聞やテレビ報道を真に受けていれば、とんでもないことになると同じことです。

日米双方とも、マスコミの大部分は偏向しているとみなすべきです。そもそも、両方ともトランプ大統領の登場を予測できませんでした。そんなマスコミを単純に信じ込むことはできません。

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