2018年11月25日日曜日

台湾、選挙で与党敗北 習近平指導部は圧力路線に自信―【私の論評】大敗の要因は、大陸中国の暗躍だけでなく蔡総統がマクロ経済対策に無知・無関心だったこと(゚д゚)!


台湾地方統一戦を終え記者の質問に答える蔡英文総統=24日,新北市

台湾の統一地方選で与党・民主進歩党が敗北したことで、中国の習近平指導部は「一つの中国」原則を認めない蔡英文政権に軍事・外交圧力をかけ続ける強硬路線への自信を深め、さらに攻勢に出る可能性がある。

 「だれが県・市長になろうとも大陸(中国)の政策と決意を変えることはできない。しっかり選ぶがいい」。中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は投票当日24日付の社説で結果に無関心を装ってみせた。

ただ実際は、習指導部にとって台湾世論への宣伝工作は最重要課題の一つであり、当面の狙いは2020年の総統選での民進党政権の下野だ。そのために「アメとムチ」を駆使し、統一圧力を強めてきた。

 16年の蔡政権発足後、中国当局は一貫して対話を拒否。台湾と外交関係があったパナマやドミニカ共和国など5カ国と国交を結び、「断交ドミノ」で孤立感を強めさせた。台湾周辺海域で演習を活発化し軍事圧力をかける一方、中国で生活する台湾人に修学や就職、生活面で便宜を図る31項目の優遇措置を公表し、世論に揺さぶりをかけてきた。

 中国の世論工作部隊が地方選に介入しているとの民進党の主張に対し、中国側は「何の具体的な証拠もない」(環球時報)と反論。ただ米国の対台湾窓口機関、米国在台湾協会のモリアーティ会長は、中台が同じ言語を使っているため「台湾はフェイクニュースによる被害が最も著しい」と現地メディアに語った。

 台湾への接近を強めるトランプ米政権の出方も中国は注視している。北京の政治研究者は「経済の下押し圧力が強まり対米関係も不透明な中で、台湾政策は当面慎重にならざるをえない」と指摘する。一方、今月末に始まる20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせた米中首脳会談の後に、台湾政策の変化が表れる可能性にも言及した。

【私の論評】大敗の要因は、大陸中国の暗躍だけでなく蔡総統がマクロ経済対策に無知・無関心だったこと(゚д゚)!

今回の台湾の統一地方選で与党・民主進歩党が敗北したことについて、多くのメディアや、識者が中国の暗躍について述べています。それは上の記事にも掲載されています。

私も当然のことながら、今回の選挙に関連して、大陸中国の暗躍はあったものと思います。ただし、敗因のすべてが大陸中国の暗躍によるものという考えには賛同できません。

今回の敗北には、もう1つの大きな要因があります。それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
統一選前に台湾で政治不信増大 中国共産党もアプローチに困惑―【私の論評】台湾に限らず、日本も含めてアジアの政治家はマクロ経済政策を疎かにすべきではない(゚д゚)!
民主進歩党(左)のシンボル・カラーは緑、国民党(右)のそれは青
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事は9月のものであり、この時点での台湾などの正当支持率などに関する部分を以下に引用します。

 日本では、台湾の選挙といえば、緑か青のどちらが勝ったかで、台湾の人々の対中国観をはかろうとするのだが、対外政策が選挙の中心に来るケースは極めて稀で、実際はそうではないことの方が多い。 
 では、人々は何を気にしているのかといえば、当然のこと自分たちの生活の改善である。 
 その意味で蔡英文総統が誕生した当初には、民進党政権に大きな期待が寄せられた。 
 だが、結果的に民進党は人々の期待に応えられなかったといってもよいだろう。
 そのことは各種の世論調査に顕著だが、その一つ、台湾民意基金会の調査結果によれば、7月の政党支持率は、民進党が25・2%、国民党が20・7%だった。
 2016年に行われた同じ調査では、民進党への支持が51・6%であったことを考慮すれば、緑に対する失望の大きさは明らかと言わざるを得ない。 
 ちなみに国民党の支持率は18・9%だったので、2ポイント程度伸びた計算になるが、民進党が失った支持を取り込めたとはとても言えないのが現実である。 
 緑と青に代わって拡大したのは無党派で、49・6%となった。 
 焦った民進党は選挙を前に慌てて基本月給や時給を引き上げる政策を打ち出したが、効果を期待する声は少ない。 
 台湾住民の貯蓄率はずっと下降傾向にあるが、昨年は過去5年間で最低になるなど、家計の厳しさを示す数字は枚挙に暇がない。

台湾の個人消費の伸び率

 だが、繰り返しになるが国民党にも決め手がない。かねてから指摘される人材不足と内紛で満身創痍状態だからだ。 
 興味深いのはこうした台湾の状況に中国共産党も戸惑っていることだ。 
 かつて民進党の支持基盤の南部の農家から果物を“爆買い”して揺さぶりをかけたり、観光客を制限して蔡政権のプレッシャーをかけてきたが、いまは何処に向けて何を発して良いのか分からなくなっているという。

この中で、「人々は何を気にしているのかといえば、当然のこと自分たちの生活の改善である」としていますが、これはどの国も当然のことです。多くの国の国民の最大の関心事は自分たちの暮らしぶりが良くなっているか、悪くなっているかです。

国益や、安全保障などはどうしても二の次になります。それは、当然といえば、当然です。自分たちの暮らし向きが少なくとも悪くなっていない状態であれば、台湾の国民も安全保障などに関心を持ったかもしれません。

そうして、自分たちの暮らし向きをどうはかるかといえば、経済の状況です。その中ではも、経済成長であり雇用です。特に雇用は重要です。これらは、政府のマクロ経済政策である、財政政策と中央銀行の金融政策に大きく左右されます。

このブログ記事では、蔡英文総統のマクロ経済政策についても述べています。その部分を以下に引用します。

では、蔡英文総統の経済政策とはどのようなものなのでしょうか。以下にこの記事から引用します。
蔡政権の経済政策として特徴的なのは、「新南向政策」です。これは、蔡総統就任後の2016年に打ち立てられた政策で、経済発展が著しいASEAN10ヵ国、南アジア6ヵ国、オーストラリアとニュージーランド、計18ヵ国との関係を強化し、台湾の経済発展を目指すといった政策です。この政策では、下記4つの軸を主軸として、経済成長を目指すとしています。  
(1)経済貿易協力
(2)人材交流
(3)資源の共有
(4)地域の連携


しかし、これは経済政策といえるのでしょうか。これは、どちらかというと、外交政策のようなものです。

それ以前に、国民の暮らし向きを良くするというのならは、まずは雇用を良くすため、金融緩和政策を実行すべきです。さらに、経済成長を促すというのなら、積極財政を実施すべきです。

私自身は、台湾経済について熟知しているわけではないので、詳しいことは言えませんが、それにしても、国民の暮らしぶりを良くするというのなら、まずは金融緩和と積極財政をするべきであるのは間違いないと思います。

ただし、積極財政と一言でいっても、減税、給付金、公共工事など様々な方法があります。さらには、主に実行してから効果があるまでのラグとの兼ね合いで、金融緩和策との組み合わせは様々なものがあります。

その時々での、経済・雇用の状況と、政府や中央銀行の能力との兼ね合いでベストな方法と期間と、組み合わせを考えて、政府が財政・金融政策の目標と期間を設定すべきです。

無論その目標に従い、台湾の財政部(日本の財務省に相当)、中華国民中央銀行(日本の日本銀行に相当)が専門家的な立場から、方法を選定し実行することになります。

蔡英文総統は、それ公表して、実際に実行して、その結果を国民に判断してもらうということを実行していないようです。おそらく、マクロ経済政策は、財政部、中華国民中央銀行まかせになっているのでしょう。

大胆なマクロ政策を実行するためには、やはり政府が目標を定め、それを実行させるということでなければ、官僚はどこの国でも、保守的・保身的ですから、なかなかまともなマクロ経済政策はできません。

通常は、このようなマクロ政策が根底にあり、さらに外交政策があるというのが当たり前なのですが、蔡英文総統は、経済政策として外交政策のようなものしか公表していません。

これでは、経済の舵とりがうまくいくはずはありません。その結果として、国民の暮らしぶりをどの面でも良くすることはできず、結局多くの国民の支持を失うとともに、そこに大陸中国の暗躍も相まって、今回の選挙で大敗したのだと考えられます。

どうも、アジアの国々のリーダーはマクロ経済に疎いようです。その中でも、台湾の蔡英文総統や、韓国の文在寅大統領などの左派は疎いようです。


雇用を激減させた文在寅大統領

文在寅大統領は、金融緩和をせずに最低賃金だけ上げるという愚策中の愚策を実行し、その結果雇用が激減して韓国はとんでもないことになっています。ちなみに、これは立憲民主党の枝野氏の主張する経済対策と同じです。

そのため、文在寅大統領の支持率は9月に初めて、50%を切りました。






今後文在寅大統領が、まともなマクロ経済対策を打ち出し、実際に雇用を改善したり、経済成長を達成することがなければ、支持率はますます下がっていくことでしょう。

デフレから完璧に脱却したとは言い難い日本においては、安倍政権が今のところ、来年10月から消費税を10%にあげるとしています。消費税を上げるというのは、マクロ財政政策の中の緊縮財政の一手法です。あげてしまえば、個人消費がかなり落ち込み、また経済が落ち込むのは目に見えています。

おそらく、予定通りにあげた場合、今回蔡英文政権のように、国民の支持を失い、最初は地方選挙で負けて、その後は国政選挙でも負けて、安倍政権はレイムダックになってしまうことでしょう。その結果、安倍総理は憲法改正に取り組む機会を失ってしまうでしょう。

そんな事態に陥ることを安倍総理が望んでいるはずもなく、私はおそらく、安倍総理は来年は増税凍結もしくは見送りを公約として、衆参同時選挙を実行するのではないかと期待しています。

さて、台湾ですが、日本としては台湾が大陸中国に飲み込まれることは避けたいところです。であれば、蔡英文総統は、今からでも遅くはないので、まともなマクロ経済対策を熟考して、実行して、国民に実際に雇用や経済がかなり良くなり、暮らし向きが良くなりつつあるところをみてもらうようにすべきです。

そのような政策を打ち出せば、市場が好感して、まずは台湾の株価が上がりはじめることでしょう。その後雇用や経済がよくなれば、国民の支持率が上がってくるはずです。日本でも、まさに、安倍氏がアベノミクスを打ち出すと、安倍氏が総理になる前から、株価が上がり始めました。そうして、その後支持率も上下はあったものの、落ちてはいません。

台湾が、大陸中国に飲み込まれることを良しとしない日米は、台湾にマクロ経済対策の方法をアドバイスし、さらに経済対策に資金が足りないというのであれば、それも支援しても良いではないかと思います。

とにかく、蔡英文総統は一刻もはやく、金融緩和策、積極財政策を打ち出し、台湾経済を良くすべきです。そのようにして、実際に経済が上向けば、国政選挙では敗北することなく、いずれ地方統一戦で勝利できるようになるでしょう。

何より、トランプ政権のように雇用を劇的に改善し、経済成長することができれば、人々の暮らしぶりも良くなり、大陸中国への魅力も消え失せ、台湾の独立を保つことができます。

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2018年11月24日土曜日

トランプ氏激怒!? 「ゴーン斬り」に隠れた国際事情…米仏一触即発か―【私の論評】仏国有会社ルノーの日産買収が成就すれば、中国を増長させる(゚д゚)!


トランプ大統領

日産自動車は22日、代表取締役会長、カルロス・ゴーン容疑者(64)=金融商品取引法違反容疑で逮捕=の会長職を解いた。20年近い「ゴーン支配」は終わった。東京地検特捜部の捜査で、豪腕経営者による異常な守銭奴ぶりが明らかになっている。ただ、今回の「ゴーン斬り」には、単なる経済事件と思えない、国際的要因が絡んでいるとの指摘もある。ドナルド・トランプ米政権が、ゴーン容疑者率いるフランス自動車大手ルノーを警戒・激怒していたとの分析、米仏関係の悪化、米中経済戦争との関わりに迫った。

 《フランスの自動車大手ルノー、「アメリカの制裁に関係なくイランでの活動を継続」》

 イランのニュースサイト「Pars Today」(日本語版)は今年6月16日、このようなニュースを報じた。

 ルノーの最高責任者(CEO)のゴーン容疑者が、定時株主総会で、「わが社はイランでの活動の縮小を迫られても、イランからは撤退しない」と発言したという内容だった。

 トランプ大統領は前月、オバマ政権下で締結されたイラン核合意を「ひどい内容だ」として、離脱と経済制裁再開を発表した。だが、合意6カ国のうち、米国と距離がある中国とロシアだけでなく、NATO(北大西洋条約機構)の同盟国であるフランスと英国、ドイツも核合意を維持した。

ルノーにとってイランは、フランス、ブラジルに次ぐ、第3の販売市場という。ゴーン容疑者の発言は、約15%を保有する筆頭株主であるフランス政府の方針に沿ったものだが、日米情報当局関係者は「トランプ政権が、ゴーン容疑者とルノー、フランス政府に激怒し、警戒を強めても不思議ではない」と語る。

 現時点で、米メディアは「ゴーン容疑者逮捕」のニュースを淡々と伝えている。ただ、米国とフランスは最近、関係が悪化している。

 エマニュエル・マクロン仏大統領は今月6日、欧州の自主防衛のため、「欧州軍」創設を提案した。ドイツのメルケル首相も「欧州軍創設構想に取り組むべきだ」と賛同した。

 これに対し、トランプ氏はツイッターで「侮辱的な話だ」「欧州軍は、米国に対抗する欧州自衛の軍だ」「欧州側はまず(NATO分担金支払いの)義務を果たせ」などと激しく反発した。

 第一次世界大戦終結100年の記念式典が11日、パリで開催されたが、米国と欧州の安全保障をめぐる亀裂が鮮明となった。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「トランプ政権が、ゴーン容疑者の逮捕で、ルノーによる『日産支配』が弱まることを好感している可能性がある」といい、続けた。

 「当初、トランプ氏とマクロン氏の関係は良かったが、最近、米仏関係は完全にこじれている。加えて、米中経済戦争が激化していたなか、ゴーン容疑者は『中国は最も成長性のあるEV(電気自動車)市場だ』といい、ルノー・日産グループによる中国への投資を拡大していた。トランプ政権には『親中派』と映ったかもしれない。ルノーの取締役会は20日、ゴーン容疑者の会長兼最高経営責任者(CEO)職の解任を先送りした。これは、仏政府による対日戦略とともに、対米戦略とも言えそうだ」

ルノーは日産株の43%を保有する一方、日産はルノー株を15%しか保有していない。収益力や企業規模で大きく上回る日産が、資本関係ではルノーの下に置かれている。仏政府は、ルノーによる子会社化で日産への支配権を強めようとしていた。

 これは、日本側だけでなく、トランプ政権も警戒していたはずだ。

 トランプ氏は2年後の大統領再選を目指して、雇用改善や経済再生に取り組んでいる。もし、関係が悪化している仏政府が、米国内に多数の工場を持ち、多くの雇用を生み出している日産への支配権を強めることは、懸念材料を残すことになる。

 ゴーン容疑者の逮捕を受け、日産はルノーとの提携関係について、持ち株比率を含め、提携のあり方を検討するという。日本政府も「日産の独立性」を守る立場とみられ、トランプ政権にも好都合なのだ。

 前出の藤井氏は「9月の日米首脳会談後に出た共同声明で、『日米両国は、第三国の非市場志向型の政策や慣行から、日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する』と明記された。トランプ政権としては、ゴーン容疑者の逮捕を受けて、日産が非市場志向型の中国から、米国に投資を振り向け、雇用もつくってくれると期待しているかもしれない」と語った。

【私の論評】仏国有会社ルノーの日産買収が成就すれば、中国を増長させる(゚д゚)!

フランス大統領のマクロンは日産を買収して工場や本社をフランスに移転したい意図をもっているようです。雇用や生産を日本から奪う計画のようですが、日本のマスコミは相変わらずピンボケで、これを伝えません。

日本の企業が外国に買収されるとは最終的に工場も本社も資本も一切を奪いつくすということです。日産を買収したルノーはフランス政府が出資する国有企業で、吸収されると日産はフランス政府の所有物になるのです。

ルノーというと、一時フランスの国営企業だった時代があります。創業者のルイ・ルノーが第二次世界大戦のときにナチスに協力したために処刑され、会社も国営化されてルノー公団になりました。この時に商品のラインナップも高額車中心から大衆車中心に変わりました。

詳しくはウィキペディアご覧になってください。1945年から1990年までは公団(≒国営企業)で、その後は国有化され、1996年には民営化されたことにはなっていますが、未だに国が株を所有していて、未だに完璧に民営化されているわけではありません。

それどころか、2015年仏政府は、ルノー株を買い増すと発表しました。フランスの自動車大手ルノーが2015年5月30日開いた株主総会で、株式を2年以上保有した株主に2倍の議決権を与える新ルールの導入が決まりました。

ルノーをめぐる関係は以下のような図式となりました。



この新ルール採用を後押ししたマクロン仏経済産業デジタル相は「長期保有の株主を優遇する資本主義を守れた」と歓迎しました。このマクロン仏経済産業デジタル相こそ、今日のマクロン仏大統領です。

筆頭株主である仏政府の経営への影響拡大を恐れるルノー・日産自動車連合は同ルール採用に反対したのですが、仏政府が導入を後押ししました。

発端は仏政府が同年5月8日、ルノー株を買い増すと発表したことでした。国内産業や雇用保護を目的に2014年に制定した通称「フロランジュ法」を適用する狙いでした。同法は株式を2年以上持つ株主に2倍の議決権を与えると定めてあります。

ただ株主総会で投票者の3分の2が反対すれば適用されません。ルノー経営陣は株主総会に現行制度存続を求める議案を提出したのですが、仏政府はルノー株を一時的に買い増して否決に持ち込んだのです。

仏政府のルノーへの議決権は従来の15%から28%に増えることになりまし。かたや日産はルノー株を15%保有しながら議決権はゼロ。すでに大株主の座にある仏政府の影響力がさらに増すことは健全なことではありません。そうして関係者が懸念するのは、ルノーを通じて仏政府が日産の経営に影響を及ぼす事態です。

例えば日産が13年に発表したルノー工場での日産車の生産計画。欧州景気の悪化が続く中、国内の雇用確保を仏政府がルノーに強く訴えたことで日産が「支援」に動いたとされます。28%の議決権を持った仏政府が、日産が望まない事業対応をルノー・日産連合に求める可能性も否定できません。

ルノーが43.4%の日産株を、日産が議決権の無い15%のルノー株を保有する持ち合いの姿は、ゴーン元会長が、「アライアンスの成功の象徴」と賞賛していました。仏政府の議決権増に対応して日産に15%の議決権を与えるとの対抗案も浮上する。その場合は提携バランスに影響を及ぼしかねず、ルノーの日産への持ち株比率をどうするかも焦点となっていました。

これは何のことはない、フランス政府もっといえば、当時のマクロン仏経済産業デジタル相の日産乗っ取り計画の一環で行われたものです。無論これは、フランスでは合法であり、フランス人の中にはこのマクロンの行為を愛国的なものと評価する人も多く存在すると思います。

マクロン大統領

しかし、日産の幹部らは、あの時のマクロンへの怨嗟を忘れていなかったのです。この時の思いが、ゴーン会長退陣劇につながったのでしょう。

米国や各国は外国企業や政府の買収を監視し、審査したうえで拒否できる制度になっています。

ところが日本は外国政府が日本企業を買収する行為を禁止しておらず、ルノー買収に関してもあまり問題にしてきませんでした。

これだと例えば人民日報が朝日新聞を買収することもできるし(もう実質的にそうしているのかもしれないですが)、サムスンがソニーを買収して本社をソウルに移転する事もできることになります。

外国政府は敵対する国を滅ぼそうとするのであって、「トモダチ」でも無ければ、ビジネスでもありません。

外国政府や外国企業が日本企業を買収して、資産を奪うのを問題とすら思ってこなかった日本のマスコミや国会は異常です。

ところが、世界にはそれを大問題とする人物がいます。それは、他ならぬ米国のトランプ大統領です。

それについては、以前のブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日産ゴーン逮捕で日米英による「フランス切り捨て」加速か…マクロン大統領への報復―【私の論評】ゴーンの逮捕劇は、米国による対中冷戦Ⅱと無関係ではない(゚д゚)!
工場を見学するカルロス・ゴーン容疑者
以下にこの記事より引用します。
 そもそも、日米は「国家が企業を支援するのはフェアではない」というスタンスだ。それは日米首脳会談やアジア太平洋経済協力(APEC)などでも繰り返し確認されていることであり、たとえば、9月の日米首脳会談後に発表された共同声明には、以下のような文言がある。
9月の日米首脳会談
 「日米両国は、第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する。したがって我々は、WTO改革、電子商取引の議論を促進するとともに、知的財産の収奪、強制的技術移転、貿易歪曲的な産業補助金、国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処するため、日米、また日米欧三極の協力を通じて、緊密に作業していく」 
 これは主に中国を想定したものではあるが、必ずしも中国のみが対象というわけではなく、フランスのルノーも該当するということだろう。政府が筆頭株主である企業が提携関係にある他国の企業を支配しようという動きは、この文言に該当するのだと思われる。 
 仮に日産が日の丸資本に戻れば、欧州連合(EU)離脱の渦中で開発と生産の拠点があるイギリスとしては、「フランスよりこっちにおいで」という話がしやすいし、製造業を復権させたいアメリカにとっても同様にメリットがある。特に、マイク・ペンス副大統領の出身母体であるラストベルトにとって日本企業の誘致は必須であるため、日産と三菱自の生産工場の拡大などは願ったり叶ったりだ。また、フォード・モーターやゼネラルモーターズ(GM)も提携先を探しており、その選択肢としてもいい候補となるだろう。 
 つまり、日産のリスタートを機に、日米英としてはウィンウィンの関係を構築できるわけだ。そして、その裏にはフランスへの反発がある。
日米からみれば、仮にも自由主義陣営フランスによる私企業の国有企業化による歪み、さらには国有企業を通じて、外国企業を買収しようという試みは、中国の無法な振る舞いを助長するようなものであり、許容できるようなものではないです。

仮に、日産が仏国有企業に買収されてしまうようなことがあれば、日米はそれを見逃したと中国はみなすことになります。それを根拠にして中国は世界中の外国企業を買収しようとしたり、それができないのなら、技術の買収を活発化させるかもしれません。

そんな、中国の将来の巨大な大市場に目がくらみ、中国の姑息なやり口にのってしまう愚かな国々もでてくるかもしれません。

それでも、いずれ米国の対中国冷戦Ⅱは、中共を崩壊させることになりますが、それにしても、それまでの期間が伸びたり、手間が増えることは否めません。

そのようなことをさせるわけにはいきません。ここは、日本も、ルノーによる日産の買収を100%できないようにするように法改正などすべきです。また、日米英協同で、フランスというかマクロンに痛い目にあわせることも検討すべきです。

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2018年11月23日金曜日

E・ルトワックが断言「“米中冷戦”は中国の現政権崩壊で終わる」―【私の論評】中共崩壊はすでに既成事実、日本はそれに備えなければならない(゚д゚)!

E・ルトワックが断言「“米中冷戦”は中国の現政権崩壊で終わる」


「文藝春秋」編集部


エドワード・ルトワック氏

「日本には戦略がない。日本人は戦略的思考が弱い」――しばしばこう言われるが、世界的な戦略家、エドワード・ルトワック氏は、これに真っ向から反論する。

「私の目からすれば、日本人は柔軟でありながら体系的な思考も可能で、戦略下手どころか、極めて高度な戦略文化を持っています」

 米戦略国際問題研究所上級顧問として米国政府のアドバイザーも務めてきたルトワック氏は、イスラエル軍、米軍などでの豊富な現場経験と古今東西の歴史的教養を併せ持つ、いわば「戦略のプロ中のプロ」。そのルトワック氏が、最新著『日本4.0』(文春新書)で、ユニークな日本論を展開している。

 「この国の400年の歴史を振り返れば、まず戦乱の世が続いていたところで、徳川家康という大戦略家が『江戸幕府』という世界で最も精妙な政治体制をつくりあげ、内線を完璧に封じ込めました」(日本1.0=「江戸システム」)

「続いて幕末期、西洋列強の脅威に直面した日本は、従来の『江戸システム』を捨て去り、見事に新しい『明治システム』を構築しました」(日本2.0=包括的な近代化を達成した「明治システム」)

「そして1945年の敗戦後、日本はまた新しい『戦後システム』を構築しました。米国は帝国陸・海軍の再建を禁じましたが、日本は『これからは軍ではなく経済に資金を回そう』と、軽武装路線に転換し、世界でも有数の経済大国となったのです」(日本3.0=弱点を強みに変えた軽武装・経済重視の「戦後システム」)

 その上で、ルトワック氏は、「今、日本は、また新たなシステムを構築する必要に迫られている」と断言する。



 「激変する東アジア情勢に、もはや従来のシステムでは対応できないからです。戦後システムの基盤であった『日米同盟』を有効に活用しつつも、自前で眼前の危機にすばやく実践的に対応できるシステムが必要です。私はそれを、江戸、明治、戦後に続く『日本4.0』と名付けたいと思います」

 では、激動の東アジア情勢は、今後どう展開し、そこで日本はいかなる戦略(「日本4.0」)を描くべきなのか。

 「私の著書『日本4.0』ではまだ明らかにしていませんでしたが、すでに米中は、長期的な対立関係に入っています。かつての米ソのような新たな『冷戦』と言っても過言ではありません。米中冷戦がいつ終わるかは分かりませんが、中国の現政権が崩壊することによって終わることだけは確かです。ということは、日本もこれに長期的に対応していくしかない」

 さらに朝鮮半島に関しては、「北朝鮮の核は、実は日本にとってポジティブな意味ももっている。だから日本は現状では焦る必要はない」とまで指摘するのだ。

 今後の東アジア情勢をめぐるルトワック氏の最新知見の全貌は、「文藝春秋」12月号掲載の「米中冷戦 日本4.0が生き残る道」で読むことができる。


【私の論評】中共崩壊はすでに既成事実、日本はそれに備えなければならない(゚д゚)!

私自身は、文藝春秋は読んでいませんが、『日本4.0』は読んでいますので、本日はこれについて、あまりネタバレしない程度に掲載します。

この書籍は、日本の戦略学の研究者である奥山真司さんの翻訳によるものですが、元々は奥山さんがルトワックにインタビューしたものを書籍としてまとめたものです。語っている言葉がベースになっているので、ルトワックの著書の中でも抜群に読みやすいです。戦略論に興味のある方はおすすめです。

ルトワックの新書はこれで3作目です。

ちなみに前2作についても以前このブログの中で扱いました。
中国不法漁船を爆破 インドネシアが拿捕して海上で 「弱腰」から「見せしめ」に対応―【私の論評】ルトワックが示す尖閣有事の迅速対応の重要性(゚д゚)!
この書籍では、『中国4.0』について掲載しました。
ルトワック博士の緊急警告! 先制攻撃か降伏か 日本が北朝鮮にとるべき選択肢―【私の論評】日本が戦争できる国に変貌することが、アジアに平和をもたらす(゚д゚)!
この記事では、『戦争にチャンスを与えよ』について掲載しました。

もはや新書はシリーズ化しているとも言っても良いかもしれません。今後が楽しみです。今回のタイトルは『日本4.0 国家戦略の新しいリアル』です。



この書籍、一気に読める内容でした。ルトワック自身の著書ではなかなかこうはいきません。

頭がホットなうちに、その直面するリアルを記しておきましょう。

ルトワックの新書はこれで3冊目と書きました。『中国4.0 暴発する中華帝国』『戦争にチャンスを与えよ』そして今回の『日本4.0 国家戦略の新しいリアル』です。

どれもその出版時に置かれた世界情勢のもとて書かれているので、現代の日本が置かれている状況とそれに対する日本が取るべき処方箋が語られています。日本のお花畑な思考に慣れている人にとっては、毒気が強い内容であるかもしれませんが、それだけ世界の現実は厳しいというものを知ることができるでしょう。

これらの書籍を読めば、最早日本は自身でリスクを取らないといけない世界に生きているということを知ることになるでしょう。

ブログ冒頭の記事に、『日本1.0』から『日本3.0』については掲載されていますので、『日本4.0』について簡単に説明します。

『日本4.0』は、北朝鮮をはじめとした周辺国からの危機の時代に対処する日本のあり方です。

ルトワックはこう語ります。
抑止のルールの外側に出ようとする国家に対して必要なのは、「抑止」ではなく防衛としての「先制攻撃」である。
 日本は、先制攻撃するしないは別にして、「先制攻撃」しようと思えばいつでも出来る状態にしておかなければならないというのことです。

これまでとは時代が違うということをしっかり認識しなければならない言葉でもあります。

よく言われることですが、日本にリアリズムが本当に必要だと感じます。この本の中でも随所に感じられました。右翼、右派、中道、左派、左翼である前に、まずはリアリストであらねばならないということです。

この書籍で面白かったのは、日本に核兵器は必要ないという主張です。日本は核兵器を毛嫌いする平和主義者ばかりですが、その一方でしっかり軍備を整えるべき、憲法9条を改正すべきと主張する人に核配備をすべきという言う人も多いです。

しかし、ルトワックのリアリズムからすれば、9条を改正し自衛隊をまともな軍隊組織にすることは当然なのですが、それてせも核兵器は必要ないというのです。ルトワックは、核兵器は相手の核しか抑止できないとしています。それとと同時に、それがわかっている相手で無いと持っていても意味が無いといいます。

要するに、正気で無い相手に対しては、核抑止論は全く意味がなく、必要なのは相手の核を無効にするための先制攻撃能力だというのです。

先制攻撃能力はよく日本でも言われるようになりましたが、まだまだ及び腰です。しかし、このような論議がもっと出てくるならば、少しずつでも変わってくるのではないでしょうか。

また、ルトワックは日本にはイージスアショアの配備の計画がありますが、これもあまり意味は無いと語っています。無論、全く意味が無いわけでは無いですし、配備しても良いのですが、これが完成するのは残念ながら今から5年から6年先ということです。現在の危機には全く対応できないわけです。ルトワックは今ある航空兵器をさっさと改修し、先制攻撃に必要な武装をしろと言います。

やるべきこと、できることをやる。まさにこれがリアリズムでしょう。

リアリズムとはリスクをしっかり引き受けることです。そうすることが、逆に効率的で無駄を食わないということが、この本の中の米軍の特殊部隊の話を元に語られていました。

米軍の特殊部隊というと、最新兵器を持った優れた戦士の集まりというイメージがありますが、実際にはあまり有効に機能していない面も多いようです。しかもお金がかかるだけとルトワックは批判しています。

というのも、リスクを負って作戦を実行せず、実行するための準備、調査に膨大な時間と労力をかけ、結局、犠牲を出さないようにするために効果的な作戦を実行することができず、ショボくて馬鹿馬鹿しいような作戦を実行してしまい、結局、金だけかかって失敗しているも作戦がたくさんあるとしています。

たとえば特殊部隊の任務中の犠牲率は、アメリカの都市で夜中まで働いているコンビニの従業員が強盗に遭う確率よりも低いそうです。なぜでしょうか。

 彼ら特殊部隊は「前実行可能性調査」、「実行可能性調査」、そしてさらなる計画の検討などを経て、計画を作り込みながらも、しばしば直前になって実行をキャンセルしたりするからだそうです。

この事例を見ただけで、米軍最強と思っている我々も、どこか勘違いをしているように思えました。どうも米軍さえも、軍の官僚化というか、組織の肥大化で、日本の財務省の腐敗構造と同じようなものになっている面があるようです。

となると、時々、軍事評論家などが米軍の組織や武装を例にあげて、「これを参考にして日本にも同じような組織を作るべきだ」というようなことを言いますが、これはひょっとすると大きな間違いを犯しているのかもしれません。米軍もリスクを回避して失敗しているのですから。

日本はもっとリスクに対して耐性を持つべきで、ルトワックの言う「作戦実行メンタリティ」を身につけるべきでしょう。これについては、ルトワックの著書にもあまり詳しく書かれてはいないので、ここで述べてもネタバレにはならないし、これを予め理解していると、この書籍がさらに理解しやすくなるので詳細を掲載します。

「作戦実行メンタリティ」には、私は大きくわけて3つの特徴があります。

まず一つ目の特徴が、「安上がりに行う」という点です。

これはルトワックの戦略アドバイスとしてデビュー作の『クーデター入門』から首尾一貫していて、あらゆる軍事作戦では「最小の労力で最大の効果を上げることが大事だ」という、当然といえば当然の考えから来ています。

今回の『日本4.0』では、これが北朝鮮を空爆するための日本のF-15の改装の提案につながっいて、「イスラエルが30年前に自国のF-15を改装して地上攻撃型にできたので、日本もたくさん持っている空対空戦闘用のF-15を改造すべきだ」というアドバイスにつながっているようです。

しかもこれには数年かけて多額な資金を投入する必要はなく、すでに国際的に流通している機材(増槽や空対地ミサイルなど)を購入して改造するだけで、短期間で安価に十分な能力を得られる、というのです。

逆にいえば、このような即興的なことができない軍隊は、そのメンタリティとして非効率な官僚的な考えに毒されているいる、ということです。

このような指摘は、軍事組織としての肥大化を憂慮した『ペンタゴン:知られざる巨大機構の実体』という訳本の中でも繰り返し説かれているところであり、装備の性能の高さや調達面での公平性を厳格に求めすぎてしまうがゆえに、それに関わる余計なプロセスが膨れ上がってしまうことを問題視しているのです。

二つ目の特徴が「リスクを恐れない」ということです。

この例として、ルトワックはイスラエルのモサドの犯行といわれるイランの核科学者に対する暗殺作戦を、アメリカがバルカン半島介入で戦争犯罪人としてセルビア人のムラディッチを捕らえるのにリスクを恐れるあまりに失敗して中止した、「アンバーライト作戦」と対比して説明しています。

また、ルトワックは指摘しておりませんが、リスクを恐れない利便性という意味では、タイの警察が捜査などの連絡用にLINEを活用としていることなどもヒントになりそうです。ネットではLINEのセキュリティの脆弱性が指摘されて久しいですが、情報漏えいというリスクを恐れなければ、たしかにLINEグループのようなチャット機能は非常に利便性が高いわけです。

もちろん自衛隊は「ミルスペック(軍用品の調達規格の総称)」の要求や「情報保全」というリスクの観点から、LINEを部隊の活動に採用することはないでしょうが、利便性や効率性を最優先するという面では「スマホ使ってLINEで連絡」というのは、一つの大きなヒントとなります。

三つ目の特徴が、「すぐ実行する」です。

このメンタリティを示す良い題材としてルトワックが使うのが、2013年にフランスのオランド政権下で実行されたマリへの武力介入案件(セルヴァル作戦)です。この際にフランス軍は大統領に一言も文句を言わず、伝染病予防のためのワクチンを隊員に射たなければならないから待ってくれなどと言わずにすぐに実行しているわけですが、この即応性というものを評価しているわけです。

「いや、それは武力行使をいとわないフランスの話で、平和国家の日本では無理でしょう」

という反応は当然かもしれませんが、ここで逆にわれわれが考えなければならないのは、政治面を含めて、そのような実行の決断をできないことや、それに対処するための即応能力を持てていないことこそが、大きなリスクでもあることを認識すべきときにきているのです。

これだけテクノロジーの進歩や情勢変化の速い国際環境の中で、このようなメンタリティを持たないままで良いなどとはとても言い切れないところが、逆に日本の置かれた厳しさというものを感じさせてくれます。

果たして日本政府や自衛隊、さらには組織などに属するわれわれ日本人一般は、上記のような「最も利便性の高いことを余計なプロセスを経ずにリスクを恐れずにすぐ実行する」というメンタリティを持つことができるのでしょうか。

それともそれを持たずに「座して死を待つ」状態で良いのでしょうか。

日本のように「成熟した」組織文化を持った国や個人のレベルではなかなか難しいでしょうが、国際情勢が厳しいものとなりつつある時に、われわれにはこの国内の文化的な面を変えるべきか、変えてはいけないのか、それともはじめから変えられないのか、という問題としてますます問われてくるように思えてなりません。

そういう意味で、ルトワックの「作戦実行メンタリティ」という概念は、自衛隊だけではなく、これからものごとを成していくあらゆる人々にとって忘れてはならない有益なヒントをくれる概念であることは間違いないです。

最近のニュースでいえば、日産の幹部らがこのメンタリティをもっていたならば、カルロス・ゴーンを迎える必要もなく、自分たちで日産を立ち直らせることができたと思います。

この本、中身にどんどん触れてここに書いてしまうとネタバレすると思いますので、このあたりでやめておこうと思います。ぜひ手にとって読んでください。

さて、ルトワック氏は、「“米中冷戦”は中国の現政権崩壊で終わる」と語っているわけですが、私はこの考えに賛成ですし、このブログにもそのように何度か掲載してきました。

その理由について、再度以下に掲載しておきます。ここでは、ルトワック氏の言葉や考えではなく、100%私の言葉、考えを掲載します。

現在の中国は、ご存知のように、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされていません。いないどころか、これに取り組もうという気さえありません。

日本の明治維新が、西洋列強に追いつくため、日本を富ませ強くするために、これらについても欧米列強なみに推し進めようとしていたのとは対象的です。

この中国が、これらを推し進めとすれば、どうなることでしょうか。民主化を推し進めると、建国以来毎年平均2万件の暴動が起こり、2012年あたりからは10万件を超えたともいわれています。

このようなところで、民主化を推し進めれば、確実に人民の憤怒のマグマは、各地で大噴火して、それは中共を直撃してとんでもないことになります。この直撃を避けるためにこそ、中共は日本を悪魔にしたてて、歴史を修正して、人民の憤怒のマグマを日本に向けているのです。これが崩れれば、中共は崩壊するしかありません。

中国では、政治と経済は不可分に結びついていますし、それを中共の幹部らは、当たり前のことと思っています。今更政治と経済をはっきり分離してしまえば、それを前提として成り立っている中国共産党がなりたたなくなります。

法治国家化については、そもそも中国では憲法が共産党の下に位置づけられていて、これもまとにすれば、中共の根底を揺るがすことになります。

これらを推し進めると、結局中国共産党が、中国統治の正当性を失うことになり、崩壊するしかありません。

かといって、これを推進しなければ、米国の知的財産権を筆頭とする様々な要求に応えることはできません。

であれば、米国は中国共産党が崩壊するまで、冷戦Ⅱを続けるしかなくなります。
“米中冷戦”は中国の現政権崩壊で終わるのです。ただし、現政権においては習近平は就寝主席となったため、今すぐにも崩壊するというわけではありません。短くて10年長ければ、20年以上もかかるかもしれません。

最後に、この本の中で目をひいたルトワックの言葉を置いておきます。これまでで述べたこととはちょっと趣が違いますが、日本にとって大切なメッセージでもあると思います。
私は日本の右派の人々に問いたい。あなたが真の愛国者かどうかは、チャイルドケアを支持するかどうかでわかる。民族主義者は国旗を大事にするが、愛国者は国にとって最も大事なのが子どもたちであることを知っているのだ。
愛国者は国とってもっとも大事なのが子どもたちであることを知っている

全くそのとおりだと思います。子どもとは、私達の未来なのです。それも、間近な未来なのです。たとえ、どのような仕事をしていたとしても、何に興味があろうと、政治信条がどのようなものであれ、子どもたちにとって良い国、社会をつくることこそが、私達大人の最大の任務なのです。 「先制攻撃能力」「作戦実行メンタリティ」もこれなしには、無意味になるのです。それを忘れた時、国は滅ぶのだと思います。まさに、中国はその状況にあります。

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シュライバー米国防次官補単独会見 米、中国海軍と海警、海上民兵の一体運用による尖閣奪取を警戒

シュライバー米国防次官補
【ワシントン=黒瀬悦成】シュライバー米国防次官補が21日、産経新聞との単独会見で東シナ海での中国海警局の公船や漁船に乗り込んだ海上民兵に対して厳しく対応していく姿勢を打ち出したのは、これらの勢力が実質的に中国人民解放軍の指揮下にあり、「非軍事組織」を装いつつ中国軍と事実上一体となって尖閣諸島(沖縄県石垣市)の奪取に動くことを強く警戒しているためだ。

 日本の海上保安庁に相当する中国海警局は7月、中央軍事委員会の傘下にある人民武装警察部隊(武警)に編入された。軍の指導機関である軍事委の傘下に入ったことで、沿岸警備とは別に中国海軍と連携した軍事行動をとる恐れがあるとの懸念が強まっている。

 また、米海軍大学校のアンドリュー・エリクソン教授は軍事専門誌で、中国の海上民兵が「人民解放軍の指揮命令系統に組み込まれ、国家主導の作戦で運用されている多数の証拠がある」と指摘。エリクソン氏は、これらの海上民兵をウクライナの分離独立派を支援するロシア軍要員「緑の小人」にちなんで「青い小人」と名付け、米国としてもその実態を白日の下にさらすべきだと訴える。

 さらに、米議会の超党派政策諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」が14日に発表した年次報告書によると、中国海軍は今年、原子力潜水艦やフリゲート艦を尖閣諸島の接続水域に初めて侵入させ、軍用機の訓練飛行を頻繁に実施するなど、尖閣をめぐる日本の主権と施政権を否定する行動を繰り返している。

 日中首脳は10月の首脳会談で東シナ海を「平和・協力・友好の海」とすることを確認したが、中国による行動は発言とは正反対といえる。米国防当局者によると、マティス国防長官は10月、シンガポールでの魏鳳和国防相との会談で、この問題に関する米国の懸念を明確に伝えたという。

 北朝鮮問題に関しては、「交渉は外交官に任せる」として国務省主導の非核化協議を支援する立場を打ち出す一方、「北朝鮮との間では幾つかの信頼醸成措置が取られたものの、北朝鮮は通常兵力を全く削減していない」と指摘し、「北朝鮮は引き続き重大な脅威だ」と訴え、米韓同盟に基づく米軍駐留の必要性を強調。在韓米軍の削減をめぐる議論は「現時点で一切行われていない」とした。

 非核化協議を進展させる狙いから中止されている米韓の大規模合同演習を来年春以降に再開するかについては「北朝鮮の交渉態度が誠実かどうか次第だ」と指摘。これに関し国防総省は21日、今後の演習に関し、規模を縮小して実施するなどの選択肢を検討しているとする声明を発表した。◇

 ランドール・シュライバー米国防次官補 西部オレゴン州出身。海軍情報士官として湾岸戦争(1991年)などに参加後、ハーバード大で修士号(公共政策)取得。ブッシュ(子)政権下の2003~05年に国務次官補代理(東アジア・太平洋問題担当)を務めるなどした後、コンサルタント会社「アーミテージ・インターナショナル」をリチャード・アーミテージ元国務副長官らと共同設立した。アジア地域を専門とする政策研究機関「プロジェクト2049研究所」の代表も務めた。18年1月から現職。

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海上民兵
昨日は海警については掲載したので、本日は海上民兵について掲載します。

海上民兵について、上の記事では詳細については掲載されていません。これは、どのような存在なのか、今一度振り返っておきます。

海上民兵は過去にすでに尖閣諸島付近に姿を現しています。2016年8月5日に尖閣諸島周辺に200~300隻にも上る中国漁船接続水域に現れました。その後、5日間にわたってこの海域にとどまり操業を続ける様子を、警戒にあたった海上保安庁の航空機がしっかりと映像に捉えていました。

「視界の及ぶ限り延々と中国漁船が浮かんでいました。この漁船団とともに最大で15隻もの中国海警局の公船が一体となって、日本の領海への侵入を繰り返していたのです。警戒にあたる巡視船の基本は、マンツーマンディフェンスですが、これほどの数だと、対応しきれません」(海上保安庁幹部)

現場からはさらに驚くべき動きが伝えられました。

「尖閣諸島周辺海域に押しかけた中国漁船に多数の海上民兵が乗船していたというのです。その数は100人を下らない。多くは漁船の船長として、乗組員である一般の漁民らを指揮していたと見られています」(同前)

今回だけでなく、近年、尖閣周辺に入り込む中国漁船に海上民兵が乗船するのは、もはや日常の光景と化しています。

「尖閣周辺の上空で毎日欠かさず警戒にあたる海上自衛隊の哨戒機P─3Cが捉えた中国漁船の写真には、海上民兵と思しき軍服を着た人物が乗り込み、船体には軍の識別番号、甲板には20mm連装機関銃を搭載した様子まで映っていた」(防衛省関係者)

そもそも海上民兵とは、漁民や民間の船会社の船員などのうち、軍事的な訓練を施され、必要に応じて漁船などで軍の支援活動をする者たちをいいます。漁業繁忙期には漁にいそしみ、漁閑期には国防を担うことで日当を政府からもらう、パートタイムの軍人というべきかもしれません。民兵(Min Bing)の略である、MBのワッペンや記章が付いた軍服を着て活動します。

中国民兵の肩章

中国国防法22条には、「人民の武装力は中国人民解放軍および予備部隊、人民武装警察部隊、民兵組織によって構成される」と謳われ、民兵は軍を所掌する中央軍事委員会の指導下にありますが、彼らはフルタイムで軍務に従事するわけではありません。その数は10万人以上とも言われるますが、正確には判明していません。

この海上民兵が米軍や自衛隊関係者の間で大きく注目されています。近年、急激に活動を活発化させているからです。

「2009年に海南島沖の公海上で米海軍の音響測定艦インペッカブルが、中国の海上民兵が乗り込んだトロール漁船などから執拗に妨害を受けるということがありました。

南シナ海で中国が進める人工島の埋め立て作業にも海南島などの海上民兵が動員され、さらに2015年から米軍が始めた『航行の自由』作戦に参加したイージス艦が、海上民兵が乗る武装漁船によって取り囲まれるという事態が二度にわたり起きたことを米太平洋艦隊の司令官が2016年5月に明らかにしています。

海上民兵は単なる半漁半軍の集団ではなく、米中の軍事的緊張の最前線に躍り出る存在となったのです」(同前)

その海上民兵たちの拠点となる漁村は、東シナ海および南シナ海に面した浙江省から福建省、広東省、海南省にかけての海岸線沿いに複数点在しています。日本の公安当局はその実態の把握に躍起となっています。

「浙江省や福建省などでは海軍の教育施設で海軍兵士と一緒に30日ほどの軍事訓練を受けており、その活動は海軍艦船への燃料や弾薬の補給から偵察、修理、医療など幅広く行います。なかには、機雷の設置や対空ミサイルの使用に習熟した民兵もおり、敵国艦船への海上ゲリラ攻撃を仕掛けるよう訓練された部隊もあるようです」(公安関係者)

この他にも中国が西沙諸島や南沙諸島などに作った人工島をあわせて新設した三沙市への移住を海上民兵に対して促すこともあるといいます。

1日あたり35元から80元(約500~1200円)の居住手当が支払われるといいますが、移住先の人工島で漁業などに従事させることで、中国領であるとの既成事実を作り上げようといしているのかもしれません。

以上のようなことから、海上民兵を日本の屯田兵のようなものとみなすことができると思う人もいるかもしれません。しかし、それは全くの間違いです。日本の屯田兵は、当時自他ともに自国領土とされる北海道に展開されていました。

屯田兵は、国境係争地等や他国領土、領海に配置されたことはありません。それは、あくまで軍隊が行っていました。屯田兵はあくまで、自国領地を守るという意味合いで設置されたものであって、中国の海上民兵とは全く異なるものです。

さて、このような海上民兵と闘うためにはどうすれば良いのでしょうか。

中国が尖閣諸島に多数の「漁民」を軽武装で上陸させてくる可能性があります。実際には民兵であるこれら「漁民」は人民解放軍の指揮下にある「漁船」で上陸し、日本側が出動させるヘリコプターに対してフレア・ガン(照明弾や発煙弾を発射する信号銃)を一斉発射して撃退することでしょう。

このような、尖閣攻撃は、中国側が日本のなまぬるい対応を事前に知っているためにその可能性が高くなってきました。

日本側は憲法上の規制などで尖閣に侵入してくる中国の軍事要員に対しても警察がヘリで飛来して、違法入国で逮捕し、刑事犯として扱おうとする対応を明らかにしています。だから中国側の偽装漁民はフレア・ガンでまずそのヘリを追い払うわけです。ヘリがフレア・ガンに弱いことはよく知られています。この場合、米軍の介入も難しくなります。

フレア・ガンを撃つ女性

日本に必要なのは、尖閣諸島を、重要施設が集中している「東京都千代田区」と同じにみなし、そこへの侵略は本格的な軍事作戦で撃退することです。日本側はいまその軍事反撃ができないことを内外に広報しているような状態であり、中国の侵略をかえって誘発する危険を高くしています。

日本は自国の防衛のために現実的かつ本格的な軍事作戦を遂行する意思や能力があることを示さねばならなりません。そのことこそが中国の軍事的な侵略や威嚇への抑止となります。

幸いなことに現在、トランプ大統領の安倍晋三首相への信頼度は高いです。トランプ大統領は、安倍氏をいまの世界で最高水準の指導者とみなし、日本をアメリカにとって第一の同盟国とみています。

現在トランプ政権では、対中国冷戦Ⅱを本気で実行している段階です。トランプ政権下では日本は中国に対して強い措置をとる際に従来のように米国政府にいちいち了解を求める必要はもうなくなりました。

2018年からは、米国はこれまでと異なる対中政策をとりはじめ、その結果、まったく新たな米中関係が始りました。この変化は日本にとっても、プラスが多いです。

もし中国が海上民兵を主体に尖閣上陸しようとした場合、日本が武力も含めて何らかの措置を講じ、海上民兵尖閣から排除した場合、米国は日本を同盟国としてさらに信頼することになるでしょう。

一方、世界の中で、中国、北朝鮮、韓国とごく一部の国を除いて、日本が海上民兵を排除したとしても、ほんどの国がそれを当然とみなし、非難する国はないでしょう。避難するどころか、中国の侵略や干渉に悩まされている国々からは賞賛の声があがることでしょう。

そうして、国内でも中国が武装海上民兵を尖閣に上陸させた場合、それを迅速に排除すれば、政府に対する信頼はますます深まるでしょう。野党は、大反対するかもしれませんが、これはかえって多数の国民から反発を買うことになるでしょう。

その逆に、海上民兵にやすやすと尖閣を奪取された場合、政府の支持率はかなり落ちることになるでしょう。これは、特に最近の政府の韓国に対する厳しい対応に対して、国民やマスコミなどから反対の声が起こらないことからも容易に推察できます。

もし、尖閣がやすやすと海上民兵に奪取された場合、普段野党は親中派・媚中派のようであるにもかかわらず、途端にあたかも反中派になったように、倒閣のために政府を大批判し、マスコミもこれに迎合し、これでもかこれでもかと政府の不手際を批判することになるでしょう。

その挙句の果てに、中国から大目玉を喰らって、意気消沈するなどの喜劇が発生するかもしれません。

このよなことにならないためにも、日本は法改正して、海保と海自が連携行動出来るようにすれば良いのです。当然海保の巡視艇は、中国の海警船並に、兵器を搭載します。敵の海警船と、我が巡視艇同士でも、砲撃戦が出来るようにしておくのが急務です。ことが大きくなったら海自の潜水艦やイージス艦が出て行けば良いのです。

また、予め中国に対して、海上民兵は軍事組織とみなすとはっきりと伝えておくことも重要です。

肝腎なことは、「中国は尖閣だけでなく、沖縄諸島を略奪することを企図している」ことをはっきりと表明していることです。これに対応するには妙案などありません。昨日もこのブログに示したように、迅速に行動することです。

いずれにせよ、トランプ政権になり冷戦Ⅱが始まってからは、日米の関係性からいって、日本は以前よりはるかに尖閣対応がやりやすくなったのは確かです。オバマ政権時代までには考えられないような対応ができるようになりました。

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2018年11月21日水曜日

米国で報告された尖閣周辺の「危ない現状」―【私の論評】尖閣有事には、各省庁が独自に迅速に行動しないと手遅れになる(゚д゚)!

米国で報告された尖閣周辺の「危ない現状」

中国の攻勢がエスカレート、高まってきた軍事衝突の危険性

古森 義久

訓練中に空母「遼寧」に着艦するJ15戦闘機

中国は尖閣諸島を奪取するために軍事力を土台とする攻勢を強め、日本領海に艦艇を侵入させるほか、新たに人民解放軍直属の潜水艦や軍用機の投入による日本領土侵食を開始した──。 

 11月中旬、米国議会の諮問機関がこんな報告を公表した。中国のこの動きは、尖閣諸島での日本の施政権を否定し日中両国間の軍事衝突の危険を高めるとともに、米国の尖閣防衛誓約へのチャレンジだともいう。 

 こうした中国の動向は、最近の日本への融和的な接近とは対照的である。中国当局は米国からの圧力を弱めるために日本への微笑外交を始めている。だが、米国議会の諮問機関による報告は、実際の対日政策の攻勢的な特徴は変えていないことを明示するといえそうである。

2016年11月に尖閣諸島沖の領海に侵入した中国公船の「海警2502」。中国側の尖閣への
攻勢はこのときよりさらにエスカレートしている。海上保安庁提供(2016年11月6日撮影)

日本に対する軍事力攻勢を拡大

 米国議会上下両院の超党派の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」は11月14日、2018年度の年次報告書を議会に提出した。米中経済安保調査委員会は、米中両国の経済関係が米国の国家安全保障に及ぼす影響の調査と研究を主目的とする委員会である。

 同委員会の2018年度の年次報告書は、日本に関連して「中国は、米国と日本など同盟諸国との絆を弱め、その離反を図る一方、尖閣諸島への軍事的攻勢を強め、米国の日本防衛、尖閣防衛の誓約にチャレンジしている」と述べていた。

 また、米中安全保障関係に関するこの1年間の新たな主要な動きの1つとして中国側の尖閣攻勢の拡大を挙げ、この動きが米中安保関係での米国への挑戦になると総括していた。

 さらに同報告書は、尖閣をめぐる新たな動向として中国人民解放軍の原子力潜水艦や軍用機が出動してきたことを指摘し、日本に対する軍事力攻勢の増加を強調していた。中国軍は東シナ海での軍事的存在を拡大し強化してきた、ともいう。
中国潜水艦が尖閣近海に初めて侵入

 尖閣諸島に関して同報告書の記述で最も注目されるのは、“中国と日本との軍事衝突の危険性”が高まってきたとする警告だった。その点について同報告書は次のように述べていた。

・東シナ海での中国と日本との間の緊張が高まり、事故や読み違い、対立拡大の恐れが強まった。

 同報告書は、中国側の軍事的エスカレーションによって尖閣諸島をめぐる情勢が緊迫してきていると述べる。その主な内容は以下のとおりである。

・中国側の潜水艦など海軍艦艇が、尖閣諸島の日本側の領海や接続水域へ顕著に侵入するようになった。中国は、日本の尖閣諸島の施政権を否定する方法として軍事的な要素を強めてきた。

・2018年1月、中国海軍の原子力潜水艦とフリゲート艦が、尖閣諸島の日本側の接続水域に侵入した。日本側からの再三の抗議を受けて接続水域を出た後、潜水艦は中国国旗を掲げた。中国潜水艦の尖閣近海への侵入は初めてである。国旗の掲揚は日本の施政権への挑戦が目的だとみられる。

・2018年全体を通じて、中国軍は尖閣付近での軍用機の訓練飛行をそれまでになく頻繁に実施するようになった。中国軍機は日本の沖縄と宮古島の間の宮古海峡を通り抜け、対馬付近も飛行した。中国空軍のこの長距離飛行訓練は日本領空にきわめて近く、軍事衝突の危険が高い。

・2018年全体を通じて中国の公艇は平均して毎月9隻の割で尖閣諸島の日本領海に侵入してきた。この隻数は2017年よりわずかに少ないが、潜水艦やフリゲート艦など海軍艦艇の侵入は今年が初めてとなる。全体として中国側の日本側に対する攻勢は激しくなった。

・中国の尖閣諸島に対するこうした攻勢は、明らかに日本が持つ尖閣の主権と施政権への挑戦であり、とくに施政権を否定する意図が明白である。同時に日米安保条約によって尖閣の防衛を誓っている米国に対しても挑戦を強めてきたといえる。

 以上のような中国の具体的な動向は、習近平政権が最近、日本に対してみせている融和的な姿勢とは明らかに異なっている。

 中国側の尖閣に対する動向をみるかぎり、日本領土を奪取し日米同盟を敵視するという年来の対日政策はなにも変わっていないことになる。とすると、いまの習近平政権が安倍晋三首相らにみせる友好的な態度はみせかけだけだという結論になりそうだ。

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さて、上の記事には掲載されていない中国側の変化があります。それは、中国海警局の所属が変わったことです。

従来の中国海警局は13年7月、中国の行政府である国務院の傘下にあった複数の海上法執行機関が統合されて発足したものです。

その目的は、分散していた海上法執行機関を一元的な指揮命令系統の下に置くことで効率的な運用を可能にすることや、予算や装備、人員などを統一的に管理・整備することで法執行力を大幅に強化することなどにあったと考えられます。

この時期の中国海警局はあくまで国務院の管理の下に置かれた非軍事の行政組織であり、所属船舶は公船と位置付けられまし。

中国の武警は純然たる軍事組織

他方、中国海警局が新たに編入された武警は、人民解放軍および民兵と並んで中国の「武装力量」(軍事力)に位置付けられた明確な軍事組織です。今年に入って武警の大幅な改革が実行され、従来の国務院と共産党中央軍事委員会による二重指導が解消されました。

これによって武警は人民解放軍と同様、中央軍事委員会による統一的かつ集中的な指導の下に置かれることになりました。7月の組織改編では、国境管理や要人警護、消防任務、金鉱探査、水利建設などを担っている非軍事部門が国務院などへ所属替えとなり、国防任務に資源を集中するためのスリム化が図られました。

同時に、国務院に所属していた中国海警局が、「武警海警総隊」として武警に編入され、「海上の権益擁護と法執行」を任務として遂行することになったのです。また、この「武警海警総隊」は、対外的な呼称として「中国海警局」の名称を引き続き使用し、関連する法規については機が熟したときに整備するとの方針が示されました。

武警は「国防法」において明確に軍事力の構成要素とされており、中央軍事委員会の一元的な指揮の下に置かれていることや、隊員が現役軍人の身分を有して階級制度も実行されていることなどから、国際的な基準に照らしても明らかに軍隊です。

中国海警局は、これまでの国務院による指揮から離れ、武警に編入されたことにより、武警海警総隊として軍事組織の一部となりました。その当然の帰結として、武警海警総隊に所属する船舶は軍艦となり、尖閣諸島周辺海域で日本の公船と対峙することになったのです。

これまでのところ、武警海警総隊が尖閣諸島周辺海域で活動させている船舶に、外見上の大きな変化は見られません。船体は白い塗装のままであり、対外的な呼称である「中国海警局」との表示も継続して使用されています。日本の領海に侵入する頻度や隻数にも目立った変化はないです。

しかしながら、これらの船舶はもはや中国の公船ではなく軍艦であることから、尖閣諸島周辺海域における中国の軍事的プレゼンスが大幅に強化されたと言わざるを得ないです。中国が「中国海警局」を対外的な呼称として使い続けたり、武警海警総隊の位置づけや任務などに関する法規の制定を先送りにしたりしていることなどから、武警海警総隊の設立がもたらす影響は外部から見えにくいです。

しかし中国は、少なくとも国内向けには、尖閣諸島周辺海域における自国の軍事的プレゼンスの確立という成果をアピールすることが可能となりました。

今後は、武警海警総隊が着実に能力を強化していくことが予想されます。法執行機関であった中国海警局は、一定程度の軽火器を装備していましたが、その使用は法執行に必要な範囲に限定されていました。

他方で軍事組織である武警は、有事における防衛作戦などに対応できる重火器を含む多様な武器を装備し、それを使用する訓練も行ってきており、中国海警局とは比較にならない強力な戦闘力を有しています。

武警の装備や戦闘ノウハウが、武警海警総隊によって次第に共有されることになるでしょう。また、人民解放軍と共に中央軍事委員会による統一的な指揮の下に置かれることで、今後は海軍と武警海警総隊の連携も強化されていくとみられます。

近年、中国海軍の艦船が尖閣諸島への接近を強めていますが、今後は武警海警総隊と海軍の艦船が密接に連携した行動をとることで、日本側に難しい対応を迫る場面も想定されます。

このように尖閣諸島周辺海域で軍事的プレゼンスを高めている中国に対して、日本は海上自衛隊の艦船を前面に立てて対抗すべきです。日本が海上自衛隊の艦船を現場海域へ進出させることは、中国に対して日本側の覚悟を示すことになり、国際社会にも日本の意図をはっきりと示すことになります。

現在、米国が中国に対して冷戦Ⅱを挑んでいることから、この日本の対応は米国からも歓迎されることでしょう。日本が日本の領土を自前で守る姿勢を見せれば、トランプ政権は高く評価することでしょう。そうして、このことで、中国が日本を世界に向けて非難することでもあれば、米国は真っ先にこれを排除する動きに出るでしょう。

北朝鮮や韓国を除いた、多くの国々がこの動きに賛同し、日本の行動を賞賛することになるでしょう。

日本としては、中国が尖閣諸島周辺海域で軍事的プレゼンスを強化している実態を国際社会に広く訴えると同時に、仮に事態がエスカレートしても、その事態にすぐに対応できるようにし、日本に対する国際的な支持を得られるようにすべきです。

これについては、ルトワック氏の戦略が役に立つと思います。それについては以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

日本の“海軍力”はアジア最強 海外メディアが評価する海自の実力とは―【私の論評】日本は独力で尖閣の中国を撃退できる(゚д゚)!


ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」

この記事には、米国の戦略家ルトワック氏が、尖閣有事の際の、対処法を掲載しています。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この中でルトワック氏は、対処法で一番重要なのは、迅速性であるとしています。それに関する部分のみ以下に掲載します。
"
人民解放軍がある日、尖閣に上陸した。それを知った安倍総理は、自衛隊トップに電話をし、「尖閣を今すぐ奪回してきてください!」という。自衛隊トップは、「わかりました。行ってきます」といい、尖閣を奪回してきた。

こういう迅速さが必要だというのです。なぜ? ぐずぐずしていたら、「手遅れ」になるからです。ここで肝に銘じておくべきなのは、
「ああ、危機が発生してしまった。まずアメリカや国連に相談しよう」
などと言っていたら、島はもう戻ってこないということだ。ウクライナがそのようにしてクリミア半島を失ったことは記憶に新しい。(p152)
安倍総理は、「人民解放軍が尖閣に上陸した」と報告を受けたとします。「どうしよう…」と悩んだ総理は、いつもの癖で、アメリカに相談することにしました。そして、「国連安保理で話し合ってもらおう」と決めました。そうこうしているうちに3日過ぎてしまいました。尖閣周辺は中国の軍艦で埋め尽くされ、誰も手出しできません。

米軍は、「ソーリー、トゥーレイト」といって、動きません。国連は、常任理事国中国が拒否権を使うので、制裁もできません。かくして日本は、尖閣を失いました。習近平の人気は頂点に達し、「次は日本が不法占拠している沖縄を取り戻す!」と宣言するなどという悪夢のようなことにもなりかねません。こんなことにならないよう、政府はしっかり準備しておくべきです。
"

同時に、様々な事態を想定した自衛隊と海上保安庁との連携行動についての準備を強化することで、中国側の冒険主義的な行動に対する抑止力を向上させるべきです。人民解放軍と武警海警総隊の連携が深化することにより、尖閣諸島をめぐる中国の行動は、選択肢が広がり、迅速性も高まることになります。

海上保安庁と自衛隊のみならず、関連省庁が一体となることなく、それぞれの省庁独自に、尖閣諸島をめぐって想定される様々な事態を具体的に検討し、それぞれのケースに応じた迅速な対応策を事前に策定しておく必要があります。

このような場合、内閣府や関連各省庁が緊密に連絡をとりあいながら、一致団結して、事に対処するなどという呑気な事を言っていては、迅速な行動はできないでしょう。それこそ、各省庁の縦割り行政が悪い方向に出て、迅速な行動ができず、手遅れになることは必定です。

尖閣有事となったときには、予め防衛省や、各省庁の動きを定めておき、各省庁や内閣への報告などは、最低限にし、そのマニュアルに下がつて各省庁が迅速動くのです。

無論、これは防衛省や海上保安庁だけではなく、外務省であれば、すぐに予め用意しておいた、コンテンツをもとに、国連やその他国際社会で、中国を徹底的に糾弾するのです。他の省庁も、たとえば、中国に対する各種の制裁をすぐに発動するとか、とにかく、他省庁と連絡協議したり、上に判断を仰ぐことなく、すぐに行動できるようにしておくのです。

そうすれば、中国側は、日本の迅速な対応に拒まれ、結局何もできないうちに、なし崩しになって終わってしまうということになると思います。

こうした、迅速な初期対応が終わった後に、その後の対応に関して、各機関が綿密に共同して行動すれば、良いということです。とにかく迅速さが一番ということだと思います。多少拙速であったにしても、中国側に既成事実を作られるよりは、遥かに良いということです。

このように、各省庁が自己完結的に動き、迅速に事態に対応できるようにしておくのです。この体制を築いておかなけば、中国は南シナ海のようにサラミ戦術で尖閣に最初は少人数で上陸して、少しずつ人員を増やし、構築物も最初は控えめに構築し、それでも日本が非難するだけで実行動をしなければ、増長して、だんだん規模を拡大し、終いには尖閣を軍事基地化し、沖縄侵攻のための橋頭堡にするでしょう。

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2018年11月20日火曜日

日産ゴーン逮捕で日米英による「フランス切り捨て」加速か…マクロン大統領への報復―【私の論評】ゴーンの逮捕劇は、米国による対中冷戦Ⅱと無関係ではない(゚д゚)!

日産ゴーン逮捕で日米英による「フランス切り捨て」加速か…マクロン大統領への報復

渡邉哲也/経済評論

工場を見学するカルロス・ゴーン(一番手前) 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

カリスマ経営者から容疑者へ――ルノー・日産自動車・三菱自動車工業の会長を兼務するカルロス・ゴーン容疑者と日産代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者の逮捕が株式市場に動揺を与えている。昨日、ルノー株は一時、前日比15%安まで急落し、日産と三菱自も夜間取引で終値の8%安まで下落した。

 周知の通り、ルノーはフランス政府が15%の株式を保有しており、そのルノーが日産に43.4%出資、日産がルノーに15%出資という構図になっている。ゴーン容疑者の逮捕を受けて、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が「フランス政府はルノーの株主として、ルノーと日産の提携関係の安定性を注意深く見守っていく」と述べるなど、国際的に余波が広がっている状況だ。

 そもそも、フランス政府が支援することで経営を立て直したルノーに対して、日産側は連合関係の見直しを求めていたが、フランス側が拒否し、政府がルノーの筆頭株主になったという経緯がある。3社連合の関係見直しが叫ばれるなか、つい先日も、アニエス・パニエルナシェ経済・財務副大臣が「フランス政府が持つルノー株を売る計画はない」と語っており、フランスとしては自国の生産拠点を拡大する意向を示していた。

記者会見に臨む日産西川広人社長

 しかし、急転直下の逮捕劇で事態は大きく動いたといえる。今回の不正発覚は内部通報によるものであり、日産はすぐにプレスリリースを発表した上、西川広人社長が記者会見を開いて経緯を説明した。この流れを見る限り、今回の件は裏で相当な時間をかけて動いていたのだろう。逮捕容疑である金融商品取引法違反のほかに特別背任罪と脱税の疑いも指摘されており、有罪となれば実刑という見方も強い。

 本来、有価証券報告書の虚偽記載は日産という企業全体の責任が問われる問題でもあるが、検察当局との司法取引も取り沙汰されており、企業としての責任は限定的になるとみられる。また、これを機に連合関係の見直しが進む可能性が高く、日産は再び“日の丸資本”となるかもしれない。

 フランスに反発する日米英のメリット

 そもそも、日米は「国家が企業を支援するのはフェアではない」というスタンスだ。それは日米首脳会談やアジア太平洋経済協力(APEC)などでも繰り返し確認されていることであり、たとえば、9月の日米首脳会談後に発表された共同声明には、以下のような文言がある。

9月の日米首脳会談

 「日米両国は、第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する。したがって我々は、WTO改革、電子商取引の議論を促進するとともに、知的財産の収奪、強制的技術移転、貿易歪曲的な産業補助金、国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処するため、日米、また日米欧三極の協力を通じて、緊密に作業していく」

 これは主に中国を想定したものではあるが、必ずしも中国のみが対象というわけではなく、フランスのルノーも該当するということだろう。政府が筆頭株主である企業が提携関係にある他国の企業を支配しようという動きは、この文言に該当するのだと思われる。

 仮に日産が日の丸資本に戻れば、欧州連合(EU)離脱の渦中で開発と生産の拠点があるイギリスとしては、「フランスよりこっちにおいで」という話がしやすいし、製造業を復権させたいアメリカにとっても同様にメリットがある。特に、マイク・ペンス副大統領の出身母体であるラストベルトにとって日本企業の誘致は必須であるため、日産と三菱自の生産工場の拡大などは願ったり叶ったりだ。また、フォード・モーターやゼネラルモーターズ(GM)も提携先を探しており、その選択肢としてもいい候補となるだろう。

 つまり、日産のリスタートを機に、日米英としてはウィンウィンの関係を構築できるわけだ。そして、その裏にはフランスへの反発がある。

 米国を敵視するマクロンへの“報復”も?

 かねてマクロン大統領は、中国、ロシアに加えてアメリカを敵対視する動きを見せている。第1次世界大戦終結100年の記念式典では、ドナルド・トランプ大統領らが出席するなか、「ナショナリズムは愛国心への裏切りだ」などと自国の利益優先主義を痛烈に批判した。また、欧州独自の防衛体制と安全保障の一貫として「欧州軍」の創設をうたっているが、これには北大西洋条約機構(NATO)を率いる立場のトランプ大統領が「侮辱的な話だ」と反発するなど、大きな国際問題になっている。

 そのように、アメリカを敵国扱いするマクロン大統領に対する“報復”として、今後は“フランス切り捨て”が始まると言ったら言い過ぎだろうか。

 いずれにせよ、大物経営者の逮捕という事態はショックではあるが、日本としてはチャンスにもなり得るわけだ。ルノーとの関係見直しを踏まえた財政的支援などを含め、適切な対応が待たれる。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

【私の論評】ゴーンの逮捕劇は、米国による対中冷戦Ⅱと無関係ではない(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事にもでてきた、9月の日米首脳会談後に発表された共同声明を以下に再掲します。
 日米両国は、第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する。したがって我々は、WTO改革、電子商取引の議論を促進するとともに、知的財産の収奪、強制的技術移転、貿易歪曲的な産業補助金、国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処するため、日米、また日米欧三極の協力を通じて、緊密に作業していく。
これを簡単にわかりやすくざっくり、解釈すると
“どこの国”とは言わないが、日本、米国、以外の“とある国”が、国家ぐるみで市場経済を無視した強引な手段を使って不公正な行いをしている。それに対抗するために、日本は米国に協力しろ。
ということです。

確かに、どこの国とは言っていませんが、「日米以外の第三国」、「知的財産の収奪」、「国有企業によって 創り出される歪曲化」

こういうキーワードを拾っていくと該当する国は一つしかありません。そう中国です。ただし、「国有企業」ということでは、当然ながらフランスも含まれていると考えるべきです。

また、これと符合するように米Newsweekの記事では米国商務長官が、先に締結された新しい北米自由貿易協定に中国との貿易協定締結を阻止する「毒薬条項(ポイズンピル)」が盛り込まれており、日本や欧州連合(EU:当然フランスも含まれる可能性がある)などとの貿易協定にも取り入れる可能性がある、と述べています。

敢えてツッコミを入れるとすれば、「“可能性がある”も何も既に共同声明に盛り込まれてるではないか」と指摘したいところですが、それはさておき、この「毒薬条項」が日米共同声明に盛り込まれたということは何を意味するのでしょうか。

それは、米国の「対中冷戦Ⅱに本気で取り組むし、国有企業に関しては、フランスにも問題がある、フランス等にも制裁するかもしれないから、日本も協力しろよ」という強い決意に対し、日本政府は「分かりましたー! 米国に全力でついていきます!!」と宣言したということです。つまり、国を挙げて中国との貿易戦争と、国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処すると宣言したわけです。

いわゆる主要メディアでは今回の日米首脳会談について、物品貿易協定(TAG)の話に終始していましたが、こちらの方がよほど大きなトピックかもしれません。

日本政府、特に安倍首相は「共通の価値観」を有する同盟国として、米国との友好関係を重視してきました。そして、その共通の価値観とは、いわゆる「民主主義」、「自由」、「平等」、「公正」というような言葉に代表される価値観です。

そのような価値観に従うのであれば、本来中国が不公正な手法で経済を活性化させ、市場を席巻することは容認しがたいということです。特に「自由」といった場合、多くの人は勘違いすることもあるのですが、「自由」には責任が伴うものであり、その責任を中国は果たしていません。

経営学の大家ドラッカーは「自由」について以下のように述べています。
 自由とは楽しいものではない。幸福、安心、平和、進歩のいずれでもない。それは選択の責任である。権利ではなく義務である。真の自由は何かからの自由ではない。それでは特権にすぎない。 
 自由とは、行なうことと行なわないこと、ある方法で行なうことと他の方法で行なうこと、ある信条を持つことと逆の信条を持つことからの選択である。楽しいどころか重荷である。それは、自らの行動と社会の行動にかかわる選択の責任である。
共同声明に用いられらている「自由」とは無論ドラッカーの言う「自由」に近いものです。何もかも手前勝手な中国の振る舞いを許容する言葉ではありません。

今回の宣言で米国は、名指しこそしていませんが、どう考えても中国は市場の公平さを歪ませ、貿易の不均衡を生むとし、それに対抗する措置を日米欧で協力して行っていく方針を打ち出したのです。無論、フランスによる私企業の国有企業化による歪みについても、意識しています。

当然中国はこれに対し、自らの経済政策の正当性と、日米の措置が自由貿易の理想に反するものだと批判するでしょう。フランスも当然そうすることでしょう。

中国のビルの壁にかかれている「社会主義核心価値観」

日本や米国、そして欧州諸国のグローバリズム的な政策により、多くの企業が中国との関わりを昔より大きくしています。

中国産の商品が世界を席巻しているという面だけではなく、中国の人件費の高騰から今では東南アジア諸国などに工場が移りつつあるものの、多くの民間企業が中国国内に工場を留めたまま。そしてその膨大な人口に裏付けされた巨大な市場に多くの企業が前のめりに進出をしているのが現状です。

そのような中で政府はその方針をグローバリズム的政策から反グローバリズム的な政策へと転換すると明言したのです。これは、日本にとっても中国が市場の公平さを歪ませ、貿易の不均衡を生み、明らかに日本にとって不利益であることと、米国は日本の最大の同盟国でもあるからです。

そうして、フランスの国営企業であるルノーと日本の日産は提携関係あることから、日本は非市場志向型の政策の被当事者であるといえるわけです。

民間企業の多くはこれから中国政府、フランス政府と日米の新たな方針の狭間で揺れ動くことになるでしょう。

このような重大な方針転換を日本政府は「外務省HP」において公表したりしているものの、その重要性を知ってか知らずか日本のメディアは、一切報じません。そのためもあるのでしょうか、今回のカルロス・ゴーン氏逮捕劇に関しては、多くの当事者が表面的にしかとらえていないようです。

今回の事件の背後には、ブログ冒頭の記事で渡辺氏が主張するように、マクロン大統領への報復の一環として、日産ゴーン逮捕で日米英による「フランス切り捨て」加速している側面があることをあまり理解していないようです。

安倍総理塗膜論大統領

日米からみれば、仮にも自由主義陣営フランスによる私企業の国有企業化による歪みは、中国の無法な振る舞いを助長するようなものであり、許容できるようなものではないです。

ところが、米国がペンス副大統領の演説にもあるように、冷戦Ⅱに本気で取り組むことをはっきり主張したにもかかわらず、安倍総理の訪中に嬉々として、随行し日中友好にほくそえんでいるような財界人や、それを手配した政治家などが存在しているわけですから、これを理解できないのは、むりからぬところなのかもしれません。

安倍総理としては、訪中に積極的に日本の財界人を随行させたわけではなく、自民党の有力政治家が随行を手配したので、無下にもできず、許容しただけでしょう。共同声明ではっきりと、宣言した事柄に背くことはできないでしょう。要するに、中国とは自己責任で商売しろということです。

ここではっきり断言しておきます。今回のカルロス・ゴーン氏逮捕は、表面上は冷戦Ⅱとは無関係のようにもみえますが、これははっきりと何らかの関係があります。そうして、これからも日本国内でこのようなことは十分にあり得ます。

日中友好でぬか喜びしていると、ある日突然カルロス・ゴーン氏のような目にあう経営者がでてくるかもしれません。

あるいは、日中友好ということで善行をしたつもりが、中国に対して米国の高度技術や、日本の高度技術を提供して、中国に利益をもたらしたという理由で、米国から制裁を受ける企業がでてくるかもしれません。

国際的に活動する企業や人は今後、この点に配慮しなければ、それこそ第二のカルロス・ゴーンになる可能性もあります。

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2018年11月19日月曜日

【瓦解!習近平の夢】ペンス氏、「中国共産党」への宣戦布告 講演で宗教弾圧を指摘―【私の論評】日本も世界の"信教の自由"に貢献すべき(゚д゚)!


ペンス副大統領

 「国際社会は一体となって、各地の残虐行為をやめさせなければならない」

 キリスト教カトリックの総本山バチカン(ローマ法王庁)が声明を出すなど、これまで70年近く、対立する関係にあったのが、“無神論者”の集団、中国共産党が統治する中国だった。

 世界各国のカトリック教会において、司教の任命権はバチカン、すなわちローマ法王にある。だが、中国政府はそれを「内政干渉だ」と拒絶し、共産党の主導で、バチカンとは独立した形でカトリック団体を設立し、独自に司教の任命を行っていた。

 一方、キリスト教に帰依する中国国内の人民たちは、中国政府の監視や干渉から逃れて活動する教会、いわゆる「地下教会」へ通っていた。信者数が増え、規模が大きくなった地下教会に対して、中国政府は、見せしめ的にカトリックの神父や、プロテスタントの牧師を拘束したり、教会や関連施設を破壊するなどの弾圧を続けていた。

 そのようななかで、今年9月下旬、「バチカンが中国と司教任命権問題で暫定合意」という衝撃のニュースが世界を駆けめぐったのだ。しかも、習近平政権が、ウイグル、チベット民族などへの宗教弾圧をますます強めていることを、人権団体やジャーナリストが、数々の証拠とともに告発していた最中の、いわば「あり得ない合意」だった。

 中国のキリスト教信者数は、政府の公式統計によると、プロテスタントが3800万人、カトリックが600万人とされている。ここに「地下教会」へ通う信者も含めると、総計で2倍強の9000万人以上と推測されている。

 習政権は4月、『宗教白書』という文書を発表したが、ここには、「宗教の中国化を進める」と記されていた。地下教会を含む宗教組織を、今後、共産党の管理下に置き、党を支持するよう誘導していく算段であることが分かる。

 事実「宗教情報員」システムも稼働している。中国統一戦線工作部に任命された情報員の主な仕事は、宗教活動を含む一般住民の生活と、「隠れた危険」をはらむ思想や活動を、各地区の宗教事務局に適宜報告することだ。情報員にはわずかながら報酬も支払われるが、反対に報告を怠ると罰金が科される。これはまさに、毛沢東時代の文化大革命と同じ、チクリ社会であり恐怖政治の幕開けである。

 それにしても、なぜバチカンが暫定合意したのか?

 「欧州でカトリック教徒の教会離れ、信者減が顕著に進んでいたから」との解説もあるが、“無神政党”に乗っ取られるとの危機感がなければおかしい。

 マイク・ペンス米副大統領は10月4日、ワシントンのハドソン研究所で講演し、「邪悪な中国共産党」との戦いを呼びかけた。ペンス氏は敬虔(けいけん)なカトリック信者でもある。「(宗教を含む)自由と民主」「法の下の平等」「人権」という価値観を持たない、習政権への宣戦布告である。

 日本の政財官界もいい加減、「神の存在なき隣国」との付き合い方を、抜本的に見直すべき時に来ているはずだ。=おわり(ノンフィクション作家・河添恵子)

【私の論評】日本も中国の"信教の自由"に貢献すべき(゚д゚)!

米国の国務省は5月29日、各国の信教の自由に関する2017年版報告書を発表しました。報告書では特に北朝鮮について、宗教活動に携わった人々が処刑・拷問・殴打・逮捕の対象になるなど、「苛酷な状態」に置かれていると指摘されています。


北朝鮮では、宗教の自由を侵害する事例が昨年だけで1304件発生しており、政治活動や宗教活動が理由で政治犯収容所に拘束されている人々が、約8~12万人に上るとの推計も示されています。

「宗教の自由問題」担当の特別大使として、2月からトランプ政権の国務省に加わったサム・ブラウンバック氏は、同日の記者会見で、「米朝首脳会談でも、信教の自由の問題が議論のテーマになる」との見通しを示しました。

自身もローマ・カトリック信者であるサム・ブラウンバック氏

トランプ大統領は5月3日、信仰に関する新しい部署「信仰・機会イニシアチブ」をホワイトハウスに設置する大統領令に署名しました。

9日付クリスチャン・トゥデイによると、トランプ氏は、「この部署の役割は、宗教団体が平等に政府の基金に預かり、信条を実践する権利を平等に持つことを保証するものです。この措置を取る理由は、多くの問題や大きな課題を解決する上で、信仰の方が政府よりも力強いことをわれわれは知っているからです。神よりも力強い存在はありません」と述べています。

米国や他国における信教の自由を守ろうとするトランプ氏の決意の表れとも捉えられます。

今回発表された報告書の中では、チベット仏教徒、ウイグルのイスラム教徒、法輪功の学習者などに対して、中国政府が行っている宗教弾圧についても言及されています。

5月30日付大紀元時報では、「中国は憲法で、国民には宗教と信仰の自由があると定めているが、中国共産党の利益にならない宗教を『脅威』と定め、支配と統制を行っている」「中国共産党政府は『愛国的な宗教活動』だけを認めており、登録されていない宗教の信仰者に対しては拷問、心身の虐待、拘束、不当な有罪判決を下している」と報じられました。

トランプ米政権は、世界の宗教の自由を保護する立場を強く打ち出しており、7月25~26日に宗教の自由を推進する閣僚級会合を開催しました。


米ワシントンD.C.で80か国の外相が出席した閣僚会議が中心となる、宗教の自由週間では、Bitter Winterが司会を務めるディスカッションが開幕イベント(上 写真)となり、中国で行われているウイグル族、法輪功、全能神教会への弾圧について話し合いました。

この会議において、弾圧されている各宗教の当事者に取材したレポーターによると、それぞれが口をそろえて述べていたことは、「アジアの大国である日本への期待」でした。アジアの多くの国が中国の経済力に依存している中、日本を頼りにしている人権活動家が多いことがうかがえます。https://jp.bitterwinter.org/tag/ministerial-to-advance-religious-freedom/

また、このレポーターによば、中国や北朝鮮で、「信教の自由」を求めて中国共産党や金正恩政権の弾圧に耐える人々の話に触れることで、「信教の自由」がいかに大切なものであるかを実感できるとしています。

ペマ・ギャルポ氏

日本に亡命しているチベット人学者のペマ・ギャルポ氏は、「宗教がなければ、善悪の区別ができません。善悪の区別がないところに、正義はありません」と述べました。日本人へのメッセージを求めると、「日本の方には、現在、どれほどの自由を享受できているのかを認識するとともに、他の国で自由を奪われて苦しんでいる人々にも関心を持っていただきたい」と述べました。

そもそも、中国や北朝鮮の独裁政権が国民を拘束して拷問したり、あらゆる自由を奪ったりしているのは、人間を「機械」としか見ていないためです。その背景には、神も仏も信じない「無神論国家」であることがあります。日本としても、アジアに信教の自由を広める動きを後押しする必要があります。

日本国憲法20条には「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する」とあります。信教の自由は具体的には、(1)内心における信仰の自由、(2)宗教活動の自由、(3)宗教結社の自由の3つを意味します。

つまり、たとえ反社会的な内容であっても、個々人の心の中で信仰し、行動として表さない限りにおいては何ら制約を受けません。そして、布教活動を始めとする宗教活動や宗教団体を結成することに対しても自由が与えられています。

ただし、宗教活動が反社会的であったり犯罪行為を伴う場合は、その自由も制約を受けざるを得ないことはいうまでもありません。また、宗教団体の信教の自由と個人のそれとを同等に論じることはできないです。個人の自由を基本とする現行の憲法下では、宗教団体を構成する個人の信教の自由がまず優先されると考えられます。

このような日本では、たしかに特定の宗教に属している個人を弾圧するなどということはありません。

また、昔から八百万の神として、神々を受け入れ、他国に比較すると、互いに過激な摩擦を起こすこともなく、他国にみられる宗教戦争もなく、長い間過ごしてきたという伝統もあります。

そのような日本は、信教の自由を強く主張できると思います。だからこそ、先にも掲載したように、弾圧されている各宗教の当事者口をそろえて「アジアの大国である日本への期待」を述べたのでしょう。

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