中国湖北省武漢市で発生した新型肺炎による中国本土の死者数は、2002年11月から03年7月にかけて中国広東省と香港を中心に広がった重症急性呼吸器症候群(SARS)による中国本土の死者数349人を上回った。本土以外ではフィリピンに続いて香港でも死者が出た。
思い出すのは、SARS流行時の香港のパニックぶりだ。筆者はSARS発生時、親しくしていた香港人家族の子供を約1カ月間、預かった。それ以上の規模で本土人が持ち込む、より強力なウイルスは、かつてない脅威となると察する。
本コラムの趣旨からすれば、新型ウイルス流行が及ぼす経済への悪影響について触れざるをえないが、もとより人の命はカネよりも重い。連日のように訪日中国人の旅行消費が減ったり、中国の現地工場の生産に支障をきたすと騒ぎ立てる国内メディアとは一線を画したい。景気上の懸念がちらついてか、米トランプ政権のように中国人の入国禁止など思い切った隔離政策に逡巡(しゅんじゅん)しているように見える安倍晋三政権の対応に違和感を覚える。その前提で、経済への衝撃を考えてみよう。
参考になるのは、SARS流行時の香港と広東省の経済動向だ。グラフはSARSの流行前から消滅時にかけての香港の個人消費と広東省の省内総生産(GDP)の前年同期比の増減率推移である。香港では、ふだんは喧騒に包まれている繁華街に出かける人の数が少なくなったと聞いた。広東省は上海など長江下流域と並ぶ「世界の工場」地帯で、生産基地が集積している。
香港の個人消費は、SARS発症前の01年後半から前年比マイナスに落ち込んでいる。これは米国発のドットコム・バブル崩壊の余波と9・11米中枢同時テロを受けた米国のカネ、モノ、人への移動制限による影響のようだ。
低調な消費トレンドが、SARSの衝撃で03年半ばにかけて下落に加速がかかった。しかし、SARS騒ぎが収まると、個人消費は猛烈な勢いで上昇に転じた。
対照的に広東省の生産はSARSの影響が皆無のように見える。むしろ、流行時の02年秋以降から生産は目覚ましい上昇基調に転じている。
今回への教訓はシンプルだ。本来、景気は循環軌道を描くわけで、基調が問題なのだ。弱くなっているときに新型ウイルスという経済外の災厄に国民や市民、企業が巻き込まれても、災厄自体は一過性で、基本的な景気のサイクル軌道が破壊されることはない。
もちろん、新型ウイルスが猛威を振るう期間が長期化すれば話は別だ。置くべき焦点は経済政策の失敗だ。日本の場合、デフレ下での消費税増税を繰り返し、新型ウイルス以前から個人消費を押し下げている。この災厄は人災なのだ。今後確実視されるマイナス成長を新型ウイルスのせいにするような政府御用の論調にだまされるな。(産経新聞特別記者・田村秀男)
【私の論評】今のままだと、新型肺炎が日本で終息しても、個人消費は落ち込み続ける(゚д゚)!
マイナス成長を新型ウイルスのせいというか、増税のせいでなくて他のせいにするような政府御用の論調はすでにありました。
内閣府が昨年11月11日発表した10月の景気ウオッチャー調査で、景気の現状判断DIが前月から10.0ポイントの大幅低下となりました。その原因として、消費増税と台風の影響で家計関連の落ち込みが大きかったとしています。
さすがに、消費税増税の直後だったので、この落ち込みの原因として、台風だけにするにはどう考えても無理があるので、台風以外に消費税増税もあげたのでしょう。
野菜も含めた生鮮食品の価格が、天候の影響を受けやすいのは事実です。野菜不足による価格の高騰は、日々スーパーなどで買い物を行う人たちにとっては大きな関心事でしょう。ただ、これが一国の経済全体にどれくらいのインパクトを持つかを考えてみてほしいものです。
ちなみに、このときには企業部門も雇用部門もいずれも低下した。現状判断DI指数の水準は36.7と東日本大震災後の2011年5月以来の低水準となりました。
台風は確かに一時的に、経済に悪影響を与えます。一時経済が停滞するでしょうが、台風被害からの復興で、工事が増え、経済は上向きます。それで、帳消しになってしまうか、場合によっては台風がなかったときよりも景気が良くなったりします。台風のせいにするのは、無理があります。
2014年の4月の増税の悪影響は2015年にも続いていましたが、これを猛暑による野菜高騰のせいにする、愚鈍な経済学者や民間エコノミストらが大勢いました。
野菜も含めた生鮮食品の価格が、天候の影響を受けやすいのは事実です。野菜不足による価格の高騰は、日々スーパーなどで買い物を行う人たちにとっては大きな関心事でしょう。ただ、これが一国の経済全体にどれくらいのインパクトを持つかを考えてみてほしいものです。
レタスの価格指数 |
2015年の日本の個人消費は年間約300兆円。そのうちに生鮮野菜が占める割合は、6兆円、つまりおよそ2%ほどです。さらにこれは、GDP全体からすれば約1%の割合でしかありません。その程度の範囲内で消費が減ったとしても、GDPに及ぼす影響はマイナス0.1%ポイント未満でしょう。
野菜価格の高騰は、家計への影響度が大きいし、普段からスーパーなどで買い物をしている主婦などの実感にも訴えやすいです。「猛暑日が続いているため」といったロジックも、実際に肌身で猛暑を感じていると、「たしかに今年の夏は暑いからな…」などと思わず頷いてしまいそうになります。
しかし、誰にでもアクセスできるデータを見るだけでも、「天候不順により、食品の価格が高騰して消費が低迷した。だから景気が停滞しているのだ」という議論がいかにメチャクチャなものであるかは簡単にわかります。
経済のごく一部を占めるだけの野菜価格の議論を経済全体の議論にすり替える経済学者、そして、それをもっともらしく報じるメディア―こうした滑稽な構図は、おそらく日本でしかお目にかかることができないのではないでしょうか。
それにもかかわらず、このようなバカげたニュースが恥ずかしげもなく報じられたのは、「消費増税のせいで景気が停滞した」と思われたくない人々がいるからなのかもしれないです。
「個人消費が落ち込んだのは天候不順という不可測の事態によるものであり、消費増税の影響ではない。したがって、10%への増税もスケジュールどおりに進めるべきだ」―そんな世論をつくるために流されたデマ情報なのではなかったのか、そう勘ぐりたくなるほどでした。
私たちの庶民感覚を利用し、消費増税の負の影響から目を逸らすための情報操作があるのだとしたら、それは悲しむべきことです。そうした情報に流されないためには、一人ひとりが最低限のリテラシーを身につけるほかないでしょう。
私たちの庶民感覚を利用し、消費増税の負の影響から目を逸らすための情報操作があるのだとしたら、それは悲しむべきことです。そうした情報に流されないためには、一人ひとりが最低限のリテラシーを身につけるほかないでしょう。
事の発端は同年7月20日、日銀のエコノミストが示唆に富んだあるレポートを公表したことでした。同レポートの試算によれば、2014年度のGDPは、政府公表値よりも30兆円多く、1.0%減の大幅なマイナス成長とされていた経済成長率は、実際にはプラス2.4%だったのではないかとされていました。
現行GDP統計と日銀の試算による実質GDP(兆円,年度) |
GDP統計は経済官庁である内閣府が公表する、いわば「経済の通信簿」であり、経済政策にとっては最も基本的な判断材料になります。その数値が正確でない可能性を指摘する論文が、金融政策を担う日本銀行から公表されたわけです。
GDPとは、日本全体で生み出されたモノやサービスなどの経済的な付加価値の合計であるが、「そもそも日本経済全体の付加価値を測定することなど、どうすればできるのか?」と思う人もいるかもしれないです。その疑問は部分的には正しいです。
以下のグラフは、FRBとECB、日銀それぞれのリーマンショック以前と以後の実際にバランスシートの規模の推移を示しているもので、中央銀行のバランスシートの規模とは、まさに各国の中央銀行が行っている金融緩和政策の“規模感”を如実に確認できるものです。
GDPとは、日本全体で生み出されたモノやサービスなどの経済的な付加価値の合計であるが、「そもそも日本経済全体の付加価値を測定することなど、どうすればできるのか?」と思う人もいるかもしれないです。その疑問は部分的には正しいです。
ニュースなどで報じられるGDPは、たいていの場合、さまざまな基礎統計に基づいた推計値です。四半期のGDP速報値が出るのはおよそ1ヵ月半後ですが、そもそもこの時点では十分な基礎統計データが揃っているわけではない。すべてのデータが揃うまでには約2年、場合によってはそれ以上の時間がかかるのです。
GDPに推計値を使うのはどの国でも同じような事情なのですが、以前から日本では、GDP統計の作成プロセスに問題が指摘されています。基礎統計の使い方や推計方法、また、Eコマースのような新形態のサービス業の動向を把握できていないことなどが言われており、実際、日本のGDP推計には大きな測定誤差があるのです。
このような事情は、プロの投資家や経済政策の担い手たちにとっては「常識」です。件の論文も、いわゆるその道のプロが読めば、純粋にGDP統計の問題点を整理するために書かれたものに過ぎないことはすぐにわかる内容でした。
GDPに推計値を使うのはどの国でも同じような事情なのですが、以前から日本では、GDP統計の作成プロセスに問題が指摘されています。基礎統計の使い方や推計方法、また、Eコマースのような新形態のサービス業の動向を把握できていないことなどが言われており、実際、日本のGDP推計には大きな測定誤差があるのです。
このような事情は、プロの投資家や経済政策の担い手たちにとっては「常識」です。件の論文も、いわゆるその道のプロが読めば、純粋にGDP統計の問題点を整理するために書かれたものに過ぎないことはすぐにわかる内容でした。
しかし、これを取り上げた経済メディアは、「内閣府のGDP統計を日銀が批判。さらに内閣府側も日銀に再反論」といったセンセーショナルな対立構図を前面に出して報じたのです。
これも経済メディアのかなり恣意的な歪曲だと言わざるを得ないです。2014年の実質GDP成長率が公式統計のマイナス1.0%ではなくプラス2.4%だったのだとすれば、やはり消費増税のマイナス影響は皆無であり、日本経済は盤石な成長を示していたことになるからです。
これも経済メディアのかなり恣意的な歪曲だと言わざるを得ないです。2014年の実質GDP成長率が公式統計のマイナス1.0%ではなくプラス2.4%だったのだとすれば、やはり消費増税のマイナス影響は皆無であり、日本経済は盤石な成長を示していたことになるからです。
これもまた、さらなる増税を望む一部の人々には「非常に都合がいい材料」ですが、それを考えると、あの報道の異常なセンセーショナリズムには、どこか奇妙な違和感を覚えずにはいられませんでした。
ただしこれには後日談があります。2016年12月8日に再度、新たな推計方法に基づいた数値が発表されたのです。それによれば、2014年度の実質GDP成長率はマイナス0.4%だったのです。
ただしこれには後日談があります。2016年12月8日に再度、新たな推計方法に基づいた数値が発表されたのです。それによれば、2014年度の実質GDP成長率はマイナス0.4%だったのです。
やはり消費増税があった2014年に、日本経済はマイナス成長を示していたのです。GDP統計のフレームワークについて見直しが必要なことは私も認めますし、その改善が急がれるのは事実ですが、まずはおかしな議論に惑わされないことが先決です。
ちなみに、このブログでは過去に何度かとりあげたように、リーマン・ショック時に、日本銀行以外の世界の他の中央銀行は、景気の低迷に直面し、それに対処するため、大規模な金融緩和政策を実行しました。
ところが、日銀は実行しませんでした。そのため何が起こったかというと、リーマン・ショックの震源地である米国や、その悪影響を多大に被った英国は無論のこと、EUや中国なども速く経済を立ち直らせることができたのですが、本来リーマン・ショックにはあまり関係のなかった日本は、一人負けの状態となり、長い間超デフレと超円高に悩まされました。
基軸通貨国である、米国が大規模な金融緩和をし、日銀が金融緩和をしなければ、相対的に円が少なくなり、円の価値が上昇して、超円高になるのは当然のことでした。それに、デフレであるにもかかわらず、金融緩和をしなかったのですから、デフレが続くのも当たり前のことでした。
当時、私はリーマン・ショックのことを、このブロクでは日銀ショックと呼んでいたくらいです。実際、日本以外の国々では、いわゆる日本のリーマン・ショックのように、景気が長い間落ち込むことはなかったので、「リーマン・ショック」なる言葉は存在しません。これは、和製英語です。他国では、これを「リーマンブラザース破綻に伴う経済の落ち込み」等と称しています。
このグラフからは、リーマンショック後、FRBとECBがそれぞれ自行のバランスシートを一気に3倍と2.5倍に増やしているのに対し、日本銀行は1.4 倍しかバランスシートを拡大させていないということがわかります。
しかし、これに関しては日本のメディアはほとんど報道していません。消費税増税による悪影響や、日銀の金融政策の大失敗に関しては、日本ではなぜかまともに報道されません。
なぜこのようなことがまかり通りるのでしょうか。新型ウィルスの悪影響は相当大きいとは思います。しかし、第二次世界大戦と比較すれば、そこまで酷くないとは思うでしょう。
ただ、あの第二次世界大戦であってさえ、統計上は年度ペースでみていれば、多くの国々で後の歴史学者は第二次世界大戦があったことさえ気づかないだろうと、あの経営学の大家ドラッカー氏が述べていました。
簡単にいうと戦争中は、各国が戦争のために、兵器などを大量に製造し、戦後は復興、復旧のためものすごい勢いで、生活物資などを増産するため、年度ベースでみると戦争の形跡など見当たらなくなってしまうのです。
日本も例外ではありませんでした。日本は確かに、原爆を2発も落とされ、主要都市はことごとく爆撃され、とんでもない状態になりましたが、それでも統計上は終戦直後には、国富の70%が残り、そこからスタートしたのであり、良くいわれているように戦後のやけのヶ原でのゼロからのスタートではなかったのです。
大都市や中核都市は焼け野原になっていても、地方での農産物や、製造の基盤は残っており、そこからのスタートであり、決してゼロではなかったのです。そのような物資や基盤を求めて、終戦後しばらくの間は北海道への他地区からの移入が続きました。
しかし、日本の場合は他の先進国では見られなかった特殊な現象がありました。それは、軍部による様々な物資の莫大な隠匿でした。それは、金塊から、米、小麦粉、砂糖、塩、医療品、衣服など様々な膨大な隠匿物資があったことです。
NHKスペシャル「東京ブラックホール」で紹介された、旧日本軍による隠匿物資 |
これらは、戦争中は戦争継続という意味合いで、まだ理解できますが、戦争が終わっても隠匿していたのは理解できないところです。これは、はっきり言うと犯罪です。
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このように、様々な物資が隠匿されたため、終戦直後の多くの国民の生活はかなり貧しいものでしたが、それら隠匿物資も、米軍に摘発されたり、闇市で売られるようになったり、その闇市が日本の警察によって摘発されるなどして、市場に出回るようになりました。そうして、ご存知のように日本は驚異の高度成長を遂げることになるのです。
日本の軍人というか、陸軍省等実体は役人ですから、何やら日本の役人には、物資を隠匿するような習性が元々あったようです。そのような習性は、現在の財務省の官僚や、日銀の官僚などに今でも色濃く受け継がれているようです。
特に財務省は、増税しないと財政破綻するなどとしながら、日本国政府は膨大な金融資産を抱えています。その金融資産の大きな部分は複雑怪奇な特別予算として組まれており、これは従来から財務省による埋蔵金といわれています。
昨年の、消費税10%への引きあげの大失敗もマスコミは報道せずに、景気の落ち込みのほとんどを新型肺炎のせいにすることでしょう。まさに、財務省の走狗です。
しかし、そのようなことをしても、事実は変わりません。日本で、新型肺炎が終息してもなお、急激に消費が上向くことなく、経済は悪くなります。それは日本の財政政策である増税が間違っているということです。そのこと自体は変えようがないのです。
そのことが、日銀ショックや戦後の隠匿物資のように、明々白々になる前に、日本政府としては、増税による悪影響を取り除くべく、何らかの対処をしなければならなのです。
無論政府は、増税による景気の悪化が予め予想されたため、特別予算を組みましたが、その施行は4月からです。さらに、規模的に小さすぎます。秋には、オリンピックが終了し、ポイント還元セールも終了することからこのブログでも、指摘したように確実に景気が落ち込みます。
それに、プラスさらに新型肺炎です。その他、米中貿易戦争も継続中ですし、ブレグジットなどもあります。中東の危機も再び勃発することもあり得ます。現状のままでは、新型肺炎が日本で終息しても、個人消費は増えず、景気が落ち込み続けることになるのは確実です。
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