2021年3月3日水曜日

台湾産「自由パイナップル」が中国の圧力に勝利、日本も支援―【私の論評】中国の恫喝に対応するため、同志国はさらなる協調をせよ(゚д゚)!

 台湾産「自由パイナップル」が中国の圧力に勝利、日本も支援

中国から突然禁輸を通告されたパイナップルを宣伝する台湾の蔡英文総統(3月3日)

<中長期的には、輸出の中国依存を脱却しなければいつまた突然禁輸措置を突きつけられるかわからない>

台湾の市民と企業は、収穫の開始直前に中国税関から無期限の禁輸措置を受けた国内のパイナップル生産者を一丸となって支援している。

地元のバイヤーだけでなく、日本などの近隣諸国が、今年中国市場向けに生産したパイナップル4万トン以上を「ものすごい勢いで」買ってくれた、と台湾の陳吉仲(チェン・ジィゾン)農業委員会(農林水産省)主任委員は、2日に語った。

3月1日から台湾産パイナップルの輸入を停止するという中国税関総局の通知を台湾政府が受けたのは、禁輸開始3日前の2月26日のことだった。理由は、昨年以来、台湾産農産物からさまざまな有害生物が発見されたからだという。

台湾行政院農業評議会(COA)は、2020年に中国向けの輸出貨物6200件のうち13件に有害生物がいたという報告を受け、対処していた。そして同評議会は、中国政府が昨年10月に改正輸入規則を導入して以降、有害生物の苦情は受けていない、と述べた。

台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、行き場を失ったパイナップルに対処する政権の計画を発表するフェイスブックの投稿で、土壇場で禁輸を通知した中国政府のやり方を「不意打ち」と非難した。蔡政権閣僚をふくむ政府当局者は、与党民主進歩党の支持者が多い南部の農民をターゲットにした中国による政治的な動きとみて、批判している。

 いち早く日本が反応

COAのデータによると、台湾から輸出されるパイナップルのほぼすべてが中国向けで、台湾の年間産出量41~43万トンの約10%を占めている。昨年は4万1000トン以上が中国に輸出された。

台湾政府の計画では、余った5万トンものパイナップルの60%を日本、アメリカ、シンガポールなどに輸出し、残りの40%は国内加工食品メーカーに地元産パイナップルの使用を奨励することで消費するつもりだった。

しかし、蔡政権が主導し、有名人や大企業が支援を呼びかけを始めると、パイナップルの需要は急増した、と陳主任委員は語った。

中国政府の通知から約96時間後の2日正午までに、海外市場への5000トンを含む4万1687トンのパイナップルが売れた、と陳は記者らに語った。この数字は昨年の中国への販売量を上回っている。

世界で最も厳しい食品輸入基準のある日本も、最も速く反応した国のひとつだった。台湾政府のパイナップル推進キャンペーンの初日に、日本からの受注は62%増加した、と陳は言い、今年の対日輸出量は前代未聞の5000トンに達すると予測した。

台湾政府はまた、国外在住の台湾市民からの需要の増加にも対応しようとしている。そのなかには、今のところ台湾からの生の果物の輸入を許可していない国が含まれている。

陳は記者会見で、パイナップルの輸入を停止するという中国政府の「一方的な」決定は「国際貿易の規則に矛盾している」と述べた。だが農業委員会は、世界貿易機関(WTO)に対する仲裁の申し立てを検討する前に、中国の関税当局とのさらなるコミュニケーションを試みるだろうと、言った。

他の農産物の中国への輸出は影響を受けていない。

今回は「危機をチャンスに変える」ことに成功したが、そもそも台湾政府は、単一の輸出先に依存しすぎる状態を避けるために積極的に他の市場を開発していたと、陳は言う。

蔡政権は、16カ国の市場に目を向けている。そのひとつであるアメリカでは、2019年から20年の間に台湾産果物の輸入量が210%増加した。

2月28日に高雄市を訪問した蔡総統は、農業が盛んな台湾南部のパイナップル生産者の懸念を和らげようとした。「パニックに陥らないでください、政府があなた方を守ります」と、彼女は人々に語りかけた。

蔡政権は、台湾のパイナップル産業の損失を補填するために、3580万ドルの支援を約束。また、市場でパイナップルがだぶついて値段が下がり、農家が大きな損失を被らないように、現在の市場価格を維持することを約束した。

 自由パイナップルに支援を

一方、台湾の外交部(外務省)は、今回の中国によるパイナップル禁輸を、かつてオーストラリアからのワイン輸入を制限した中国政府の反ダンピング(不当販売)措置のようなものとみている。あのときはオーストラリア産ワインに200%の追加関税が上乗せされた。

台湾政府はオーストラリアの「自由ワイン」を支持しようと呼びかける国々に加わった。今回、台湾の呉釗燮(ジョセフ・ウー)外交部長(外相)は台湾の「自由パイナップル」に同様の支援がほしい、とツイッターに書き込んだ。

「中国による台湾産パイナップルの輸入禁止措置は、ルールに基づく自由で公正な貿易の前に効力を失った。台湾のパイナップルの品質は最高で、最も厳しい国際認証基準を満たしている。われわれは、中国政府に決定の取り消しを求める!」と、外交部はツイートした。

経済を利用した抑圧だという台湾の非難に対して、中国の国務院台湾事務弁公室は、パイナップルの禁輸は、中国の独自の農産物を保護するために「必要」だったと発表。台湾側は、中国の信用を落とすためにこの問題を「故意に歪曲」している、と中国の当局者は述べた。

蔡が総統に就任して以来、政府の経済計画は「新南向政策」に基づいている。その目標は、中国市場への依存を解消し、そのかわりに南アジア、東南アジアのパートナー国と貿易および安全保障を構築し、それをオーストラリア、ニュージーランドまで拡大することだ。

台湾の行政院財政部(財務省)によると、昨年の台湾からの輸出の40%以上が中国と香港向けで、輸出総額3452億ドルのうち1514億ドルを占めた。

【私の論評】中国の恫喝に対応するため、同志国はさらなる協調をせよ(゚д゚)!

中国依存の危険に関しては、我が国をはじめ世界中の国々が今回のコロナ禍で再認識しました。特にマスクが一斉に姿を消したことは、私達の記憶にも新しいところです。

マスクをはじめ、どのような製品・サービスであろうと、中国にだけ過度に頼ることは本当に危険です。今回のパイナップルをめぐる出来事もその認識を強める結果となりました。

サプライチェーンに関しては、企業レベルにとどまらず国レベルでもその脆弱性を考える必要があることが明らかになったと思います。マスクや医療用ガウンなど個人防護具(Personal Protective Equipment)の不足は、感染拡大で通常時の50倍の需要が発生したことが主な要因でしたが、多くの輸出制限措置も取られました。

また、中国のオーストラリアへの措置のように、国家として政治的目的で「経済的恫喝」(economic coercion)を使うケースもあります。

貿易取引が経済的恫喝に使われる点は、1945年にアルバート・ハーシュマン(Albert O. Hirschman)が『国力と外国貿易の構造』(National Power and the Structure of Foreign Trade)の中で説明しています。

アントン・ドストラー将軍の軍事裁判にて通訳を務めるハーシュマン。(1945年)

ハーシュマンは、貿易が「供給効果」(supply effect)とともに「影響力効果」(influence effect)を生み出すと指摘しています。供給効果は、貿易により経済厚生が増大し国が豊かになる効果ですが、影響力効果は、貿易が依存関係を作り、それが政治的目的のために利用される効果です。これら両効果は相互に排他的なものではありません。

この影響力効果の基礎となる「依存」は、貿易を行う2カ国に同時に発生しますが、ハーシュマンは、依存が「非対称的」と主張しました。具体的には、1938年のドイツとブルガリアの貿易の例を引き、ブルガリアにとっては輸出の52%、輸入の59%がドイツであったのですが、ドイツにとってブルガリアとの貿易は、輸入の1.5%、輸出の1.1%にすぎなかったとし、ドイツが一方的に「影響力効果」を行使し得る関係を描きました。

ナチスドイツ総統ヒトラー

『国力と外国貿易の構造』は1930年代にナチス・ドイツが東・南東ヨーロッパに貿易と政治的影響力を拡大するさまを分析したもので、中国を扱うものではありませんが、その分析枠組みは今日の中国の「経済的恫喝」を考えるうえで示唆に富んでいます。世界最大の貿易大国となった中国は各国に強い「影響力効果」を有しています。

中国も自らの力を認識。習近平主席は2020年4月10日の党中央財経委員会での演説で「産業の質を高めて世界の産業チェーンのわが国への依存関係を強め、外国による人為的な供給停止に対する強力な反撃・威嚇力を形成する」と表明。実際には「反撃」にとどまらず、オーストラリアのCOVID-19発生源調査、日本の尖閣諸島、ノルウェーの劉暁波へのノーベル平和賞授与、韓国のTHAAD配備等に関連して「経済的恫喝」の先制攻撃を繰り返している点は広く知られているところです。

われわれはいかに対応したらいいのでしょうか。ハーシュマンは、貿易のメリットを生かしつつ、「影響力効果」を減らすため、貿易規制権限を各国から国際機関に移管することを主張しました。実際に国際社会はその後、GATT締結、WTO設立と貿易規制権限を国際組織に移管していきました。

しかし、国際ルールは完全でも網羅的でもありません。中国はこの隙間を利用し、自らの措置をオーストラリアのダンピングに対する対抗措置、検疫や環境に関連した措置などと主張、「経済的恫喝」とは認めません。日本が主権を有する尖閣諸島に関連して中国が2010年に行った日本向けレアアースの輸出停止も、中国は環境問題が理由と主張しました。

こうした状況に鑑みれば、WTOというの機能の強化は無論のこと、同志国の連携強化も必要であり、たとえば「自由連合基金」等を設けるべきです。

同基金では、同志国が共同して中国の「経済的恫喝」を認定し非難する枠組みをつくるべきです。そうして、この基金は中国等の貿易による損失を被った国に対してその補填をするのです。

これは「抑止力」としても有効です。同志国で真剣に議論が行われるだけでも一定の抑止的効果があります。さらに、基金による補填ということで、中国が経済力を背景とする恫喝を和らげることができます。

米国と台湾は昨年9月4日、新型コロナウイルス禍に伴うサプライチェーン(供給網)の再構築に向け、自由や民主主義など価値観を共有する「同志国」に協力を呼び掛けました。

チェコ上院議長らの台湾訪問に合わせ、米国が主催したフォーラムには、台湾やチェコ、日本、欧州連合(EU)、カナダの代表らが出席しました。

米国の台湾窓口機関、米国在台協会(AIT)台北事務所のブレント・クリステンセン所長(大使に相当)は、会議に集う全員が表現や信条の自由といった共通の価値観でつながっているとした上で、「こうした共通の価値観は将来の供給網を再構築する上での道しるべになる。経済や業界、企業が安全な供給網を構築するには、われわれ全員による協調的な取り組みが必要だ」と訴えました。

台湾の呉ショウ燮外交部長(外相に相当)は、中国を念頭に「法の支配や自由、民主主義、透明性を尊重しない国」が主要産業を牛耳れば何か起こるかをコロナ禍で思い知ったとした上で、「今後われわれは他の同志国と協力して、強制、搾取、拡張主義ではなく、共同繁栄につながる相互の産業関係を確立していく。台湾と欧州、アジア、北米の民主主義国との間に、一層緊密な協力関係を築く上で大いなる可能性がある」と述べました。

いじめっこに声を上げるのは勇気がいります。自分が直接いじめられていなければなおさらです。しかし、いじめは成功すれば繰り返されます。今日のオーストラリアとの連帯は、明日の日本を守ることなのです。

ハーシュマンは『国力と外国貿易の構造』を書いた34年後の1979年に「非対称性を超えて」(Beyond Asymmetry)という小論を記しました。その中で、貿易から生じる依存は非対称で大国が有利だが、小国が経済的懲罰を甘んじて受けるのか、自由のために戦うのか、その意志や士気も影響すると述べています。同志国が連帯して意志を示すことは、いじめの抑止への重要な一歩です。

脆弱性克服のためにできることは他にもあります。重要物資が1カ国へ過度に依存している場合、その分散や、国内生産能力の強化も有効です。

また、日豪印、日アセアンでもサプライチェーン強化の議論が始まっていますが、米国等とも協力しこの動きを拡大することは意義があります。アセアンやインドへの企業立地の促進には、インフラ整備を含めた投資環境の改善も必要で、日本がそのために協力できます。

また、石油等と同様に、重要物資の戦略備蓄の強化も大切です。さらに、GATT第20条(b号)では生命・健康に影響する場合には自由貿易原則の例外として貿易制限が認められますが、それゆえに危機時に重要物資の入手が困難になります。

輸出制限措置を制約するような国際ルールの変更、あるいは、そうした例外措置を用いないという同志国の合意は、危機時の重要物資の調達の安定性を高めまする。オタワグループを含め、そうした動きがすでにみられることは心強いです。

  昨年日本を含むWTO有志国で構成された、オタワグループの閣僚級会合が
  テレビ会議形式で開催され、牧原経済産業副大臣が参加。


ただし、サプライチェーン強化が偽装した保護主義とならないよう注意を払う必要もあります。すべての工場を国内回帰という政策は、国力を弱めます。米国でよく聞く「経済安保は国を守る」(Economic security is national security)という主張は正しい(ハーシュマンの言う影響力効果)です。

しかし、経済成長は国力を高め国防費の増加を支え、国の安全も高めます。その意味で、「経済も国を守る」(Economy is also national security)(ハーシュマンの言う供給効果)という指摘は正しいです。

日本は経済安保のさらなる強化が必要ですが、米国内で一部見られる経済安保に名を借りた保護主義は、経済を弱めることで安全保障も毀損することになります。そうした落とし穴を避け、適切な経済安保政策で貿易相手国からの影響力効果をコントロールしつつ、貿易が生む供給効果で国を豊かで強くすることこそ重要です。私達は、改めてハーシュマンの知恵に学ぶ必要があります。

今回の、台湾のパイナップルに関しては、日本をはじめとして各国の協力があって、結局中国に対する圧力に勝利することができましたが、もっと基幹的な産業の製品などにおいて同じような恫喝を受けた場合、とんでもないことになりそうです。

たとえば、EUであれば、リチュウム電池は製造しておらず、すべて中国からの輸入にたよっています。これは、輸入先を増やすとともに、EU内でも製造できるようにすべきでしょう。レアアースに関しては、日本では代替品もできてはいますが、やはり中国だけではなく、他国からも輸入できる体制を整えるべきでしょう。

日本は、ほぼすべての産業の技術が集積しており、中国からの輸入等が途絶えても、コストを無視すれば、自国内ですべて製造できます。その点は心強いです。そうして、それは、日本は中国・インド・米国などを覗けは1億人以上もの人口を有する国だからです。

他の人口が数千万人以下の国々では、自国にない技術に関しては、同志国の間で補い合うべきです。

今後中国は今回の台湾のパイナップルにとどまらず、様々な恫喝をかけてくるでしょう。それに負けないためにも、同志国は協調する道を選ぶべきです。


中国は米大統領選の混乱をついて台湾に侵攻するのか―【私の論評】中国は台湾に侵攻できない(゚д゚)!

2021年3月2日火曜日

険悪化する欧露関係、「本当のロシア」に対峙せよ―【私の論評】日本が対ロシア経済援助をする意味と意義(゚д゚)!

 険悪化する欧露関係、「本当のロシア」に対峙せよ

岡崎研究所

 2月13日付の英Economist誌が「EUは本当のロシアに対峙しなければならない。宥和は機能していない」との記事を掲載し、EUの対ロ外交のあり方を論じている


 エコノミスト誌の記事はロシアに対して大変厳しいものであるが、プーチン政権の自業自得といってよいと思われる。ナヴァリヌイに対する毒殺未遂、その帰国直後の拘束、執行猶予判決の実刑化、ナヴァリヌイ釈放要求デモに対する取り締まりなど、ロシアの現状は西側のパートナーになりうる国ではなく、西側との対決を選んだ国であるとの判断は正しい判断であると思われる。

 この論説のきっかけになったのはEUの外交責任者、ボレルのロシア訪問である。ロシアのラブロフ外相はボレルに恥をかかせるために共同記者会見を利用したとしか考えられない。その上、ボレルがモスクワ訪問中にEU3か国(ドイツ、ポーランド、スウェーデン)の外交官追放措置を、ボレルに事前に通報することなく突然発表した。このようなロシアの振る舞いはEU=ロシア関係を今後難しいものにしていくだろう。EUの中では、バルト諸国やポーランドなど東側の国がロシアに厳しく、独仏伊西など西側の国がロシアに甘いという分裂があるが、今後、東側諸国の意見がより強く反映した政策になっていく可能性が強い。ドイツ、スウェーデン、ポーランドは自国の外交官追放に対し、ロシアの外交官を追放する措置をすぐにとった。

 プーチンのロシアは、国際法を無視するという点で、習近平の中国と同じである。中ロは最近ますます共同戦線をはっている。プーチン政権は、改正憲法で、憲法は国際法より上位の法であると勝手に規定し、ロシアをならずもの国家にしてしまっている。こういうロシアの変化は、当然、日ロ関係にも影響を与える。メドヴェージェフは改正憲法でロシアの領土を譲渡してはならないことになったので、日ロ間の領土交渉は終わったとの趣旨の発言をしている。こんな政権を相手に条約を結んでも意味がない。ロシアとの外交関係のあり方を真剣に再考すべき時期が来ているのではないかと考える。日ソ共同宣言に違反するロシアの言動は厳しくとがめ、覚悟を持って、本当のロシアに日本も対峙していくべきであろう。

 ロバート・コンクエストの「The Great Terror」には、大きな衝撃を受けた。この点、プーチンはネオスターリン主義者であり、プーチンとの関係で日ロの諸問題を話し合いで進展させることはほぼ不可能と考えられる。プーチンは2036年まで政権の座に居られることに改正憲法でなっているが、ロシア国内での反プーチンのデモなどを見ると、そういうことにはならないだろう。ポスト・プーチンをにらんで、対ロ外交は考えていかざるを得ない。

【私の論評】日本が対ロシアを経済援助をする意味と意義(゚д゚)!

安倍前首相には首相在任中に、果たせなかった目標がいくつかあります。それは、憲法改正、拉致問題解決、そして北方領土返還です。

プーチン露大統領と安倍元首相


安倍氏はロシアのプーチン大統領と良好な関係を維持してきました。しかし、領土問題に関しては、「一歩も前進しなかったばかりか、後退した」と言っても過言ではありません。

ロシアでは2020年7月1日、憲法改正の是非を問う国民投票が実施された。その結果、プーチン大統領の任期延長が可能となり、最長で36年まで長期化する可能性が出てきました。

また、「ロシア領土の割譲に向けた行為は認めない」と憲法に明記されました。ただ「隣国との国境画定は例外とする」ともあり、北方領土交渉は例外とも解釈できます。しかし、大方のみかたでは難しくなったと見られています。

このような厳しい状況の中、菅新首相は「長期独裁政権」となるプーチン・ロシアと、どう付き合っていくべきでしょうか。

日本ではよく、「プーチンが何を考えているか、わからない」といういわれているようですが、実は、彼が何を考えているのかは明白です。

日本に関して、プーチン氏の頭の中にあるのは、「金が欲しい」「でも領土は返したくない」「できれば日本から食い逃げしたい」の3つです。

安倍氏が首相に再就任したのは、2012年12月でした。13年、「私の代で領土問題を解決する」と気合が入っていたこともあって、同氏はロシアとの関係改善を猛烈な勢いで行っていました。

ところが、当時は「島を返せ!」とはあまり言わず、日ロ間のビジネス発展に力が注がれていました。

14年3月、ロシアがクリミアを併合し、転機が訪れました。日本は米国、欧州の「対ロシア制裁」に参加し、日本政府や企業は、経済(金儲け)の話ができなくなってしまいました。


そうして、日本政府高官ができるのは、「4島返還」の話だけになってしまいました。ロシア側は「金は欲しいが、島は返したくない」ので、日ロ関係は悪化し続けていきました。

次に転機が訪れたのは、16年5月でした。ソチでプーチン氏と会った安倍首相は、「8項目の協力プラン」を提案しまし。つまり、日本政府は北方領土問題の話を止め、再び金儲けの話を始めたのです。

プーチン氏は大満足で、同年12月に訪日を果たしました。これで、日ロ関係は劇的に良くなりました。

安倍時代最後の転機は18年11月でした。シンガポールでプーチン氏と会談した安倍首相は「日ソ共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる」ことを提案しました。これは日本にとって「大きな譲歩」でした。

安倍首相は「日ソ共同宣言を基礎とする」としたことで、これまで日本政府の基本方針だった「4島一括返還論」を捨て去り、「2島返還論」にシフトしたのでした。にもかかわらず、プーチン氏は安倍首相の大胆な決断を評価していません。

繰り返しますが、プーチン氏の頭の中は、「金が欲しい」「でも領土は返したくない」「できれば日本から食い逃げしたい」なのです。元々4島はもちろん、2島返還もしたくないのです。

この後、日ロ関係は再び悪化していきました。プーチン氏は「島を返せば、米軍が来るだろう」と言い、19年3月には、「日本が日米安保から離脱しなければならない」と発言しました。それ以後、日ロ関係は良好とは言えない状態が続いています。

ここまで第二次安倍政権時代の日ロ関係の流れを見てきた。

以上から、日露関係は以下の法則があることがわかります。

法則1、北方領土の話をすると、日ロ関係は悪化する。

法則2、金儲けの話をすると、日ロ関係は改善される。

では、日ロ関係をどうすべきなのでしょうか。それなら、断交してかまわないと、少なからず、そう考える人がいると考えられます。

私自身も、確かに平時ならそれもありだと思います。ところが、現在はとても平時とはいえません。

無論、現在はコロナ禍であるということもありますが、それ以前に中国は2012年11月、ロシアと韓国に「反日統一共同戦線」構築を提案したという事実があります。

この時中国は、「日本には尖閣だけでなく、沖縄の領有権もない」と宣言しています。この宣言は、なぜか日本ではほとんど報道されることもなく、ご存知の方も少ないでしょうが、これは日本にとっては、中国による宣戦布告と言っても過言ではありません。これを受けて安倍内閣は、米国、ロシア、韓国との関係改善に取り組み始めました。

安倍首相は15年4月、米議会で「希望の同盟」演説を行い、日米関係を強固なものにしました。15年12月の慰安婦合意によって、日韓関係は一時的にですが、良くなりました。先に述べたように日ロ関係も改善されました。

このあたりの動きについては、日本では中国による反日統一共同戦線」構築の提言が報道されなかったなので、なぜ安倍前総理がこの時期に米・韓国・ロシアなどとの関係改善を急いだのか多く人々には理解されなかったかもしれません。

プーチン訪日時、物事を戦略的に見る中国は、日ロ接近を嘆きました。

中国国営新華社通信は日ロ会談に関する論評で「安倍首相はロシアを抱き込み、中国に対する包囲網を強化したい考えだが、中ロ関係の土台を揺るがすのは難しく、もくろみは期待外れとなる」と反発。(時事通信2016年12月16日)
この時、日本政府関係者は誰も、「中国包囲網を強化したい」とは言っていませんでしたが、中国は戦略的危機感を持ったのです。中国は、日ロ接近を恐れているのです。

プーチン大統領は北方領土を返す気がないが、中国に対抗するために、ロシアと付き合うというのが、現状の正しい姿勢です。では、菅政権はどうロシアと付き合うべきなのでしょうか。

これは、「法則2、金儲けの話をすると、日ロ関係は改善される」が答えになります。菅首相は前安倍政権が約束した「8項目の協力プラン」を、ゆっくりとでもいいので、進めていくべきです。無論現状は、大規模な支援ができる状況ではありません。しかし、全く切らないで、いざというときには交渉の材料にできるようにはしておくべきです。

ここまで書いても「ロシアと組むのは嫌だ」という人は多いでしょう。長い日露関係史からいって何度も裏切られ、危険な目にあってきた日本人がロシアを嫌がるのは当然といえば当然かもしれません。

ただし、現在のロシアは昔のロシアとは違います。あの広大な領土に日本より2千万人くらい多い、1億二千万人の人口しか存在しません。下の地図の赤い部分は、ロシア極東地区ですが、ここの人口は、 2016年の調査によると約620万人に過ぎません。 民族的にロシア人とウクライナ人がこの地域の主要民族となっています。
この地域に接する黒龍江省だけでも人口は、3800万人です。ロシアと中国は現状では経済的には中国が圧倒的に上であり、現在のロシアのGDPは、日本の1/5程度に過ぎません。そのため中露国境は、中国人が越境して、ロシア領内でビジネスをすることが多く、国境が曖昧になり、国境融解と呼ばれている程です。

こうした状況にロシアが、脅威を抱いていないということはあり得ませんが、現状は中国のほうが圧倒的に国全体としては、国力が強いので、ロシアは中国と事を荒立てたくないので、友人同士のように振る舞っていますが、その実、かつては中露国境紛争で激しく衝突したという経緯もあり、互いに敵愾心を持っているのは疑いの余地はありません。

さらに、上記のようにEUは、ロシアに敵対しており、中国に対してはどうなのか疑問符がつく米国のバイデン政権もEUとの同盟関係を重視しているため、ロシアに対しては厳しいでしょう。

そうなると、ロシアに手を差し伸べる国は、当面中国と日本だけということになりますが、プーチンとしては、中国に恩を売られるのは良しとしないでしょう。となると、当面は日本がかなり有力ということになります。

日本が援助の手を差し伸べることにより、中国を牽制することができます。これは、結果として、日本をはじめとする中国と対峙する先進国にとっては良いことです。

そうして、世界一の戦略家ともいわれるエドワード・ルトワック氏は、著書『自滅する中国』(芙蓉書房出版)の中で、日本が生き残るためには、ロシアとの関係が「極めて重要」と断言しています。

もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、むしろそれが決定的なものになる可能性がある。(『自滅する中国』188p)
感情的にロシアが嫌いなのは、日本人としては当然のことと思います。しかし、中国に尖閣、沖縄、台湾を奪わせないために、中国の海洋進出をこれ以上許さないためにも、日本はロシアと「組む」べきなのです。

そうすれば、中国としては、ロシアに備えなければならず、国境に多数の兵力を割くことになります。ロシアというと、先程も述べたように、経済的には日本の1/5であり、東京都と同程度のGDPに過ぎなく、単独では米国を除いたNATOともまともに対峙できません。現在のロシアができるのは、クリミア併合が精一杯というところでしょう。

とはいいながら、ロシアはソ連の核兵器や軍事技術の継承者であり、軍事的には侮れないところがあり、中国としては軍事的にも心理的にもロシアの存在は重荷になるはずです。

北方領土については、日本がある程度援助したところで、現在のロシアには石油・天然ガス産業くらいしか育っておらず、将来発展する産業もないですし、米国やEUから経済制裁を受けている現状では、いずれ必ず経済的にかなり行き詰まり、八方塞がりになることは明らかです。

その時には、プーチン政権が退陣せざるを得ないくらいに追い詰められるのは目に見えています。

そうなれば、ロシアは北方領土どころではなくなります。それどころか、極東地域そのものが、中国の脅威にさらされることになります。その時が交渉のやり時でしょう。この時には、日本に経済援助が切り札になります。経済援助を打ち切るか、継続するかが、鍵になります。

また、それ以前にも、ロシアがはっきりと中国に対峙する道を選ばなければ、経済援助を打ち切るという手もあります。とにかく、日本側が援助という外交カードを握るのが重要なことです。

その時は、20年後とか、30年後というよりは、もっと早く来るでしょう。

【関連記事】

習近平4月訪日…先に「延期しよう」と切り出せず神経戦する日中―【私の論評】中国が「反日統一戦線共同戦線」構想を取り消さない限り、日中戦争は継続中であると心得よ(゚д゚)!

【国難突破】習政権が目論む“情報洗脳的世界支配” 日米連携で中国「情報謀略網」解体を―【私の論評】2012年から日中は戦争状態!なるべく多くの国々と同盟関係になることが日本を守る(゚д゚)!

ロシア統一地方選の結果をいかに見るべきか―【私の論評】日本が本気で北方領土返還を狙うというなら、今は中国弱体化に勤しむべき(゚д゚)!

中国の属国へと陥りつつあるロシア―【私の論評】ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方であり、いずれ、中国に向かって大きく噴出する(゚д゚)!

中国、ウクライナの軍用エンジン技術に触手 訴訟警告で米中対立―【私の論評】日本の製造業は、モトール・シーチを対岸の火事ではなく、他山の石と捕らえよ(゚д゚)!

2021年3月1日月曜日

ドナルド・トランプがCPAC2021で基調講演―【私の論評】トランプは未だ意気軒昂(゚д゚)!

 ドナルド・トランプがCPAC2021で基調講演

CPACで演説するトランプ氏

<引用元:ニューヨーク・ポスト 2021.2.28

ドナルド・トランプ前大統領は、2月28日の保守政治活動会議(CPAC)で6週間弱前にホワイトハウスを去ってから初の公の場での演説を行い、2024年の出馬の可能性をちらつかせバイデン政権を強く非難した。

トランプはオーランドで舞台に上がるとスタンディングオベーションで迎えられ、「我々の運動・・・は始まったばかりだ」と宣言した。

「私は今日みなさんの前に立ち、我々が4年前にともに始めた驚くべき旅はまだまだ続いていくと宣言します」とトランプは熱狂的な聴衆に語った。

「誇りある勤勉なアメリカの愛国者の運動は始まったばかりです。そして最後に我々が勝利します!」とトランプは述べた。

トランプは共和党で影響力を保つ意向であることを明言しながら、2024年の大統領選への出馬をほのめかした。

民主党について言及して「私は彼らを3度目に打ち負かそうと決意するかもしれません」と述べると、参加者からは割れるような喝采が起こった。

トランプはまた「強くタフな」共和党が選出されるよう取り組むと述べ、新政党を始める計画だという噂を「フェイクニュース」だと一蹴した。

「我々には共和党があり、団結してかつてないほど強力になろうとしています」とトランプは話した。

「我々は新党を始めません。『彼は全く新しい党を始めようとしている』と言い続ける人たちがいます。我々には共和党があり、団結してかつてないほど強力になろうとしています。私は新党を始めません。それはフェイクニュースでした。フェイクニュースです。違うのです。それが華々しいことになるでしょうか?新党を始めて票を分けましょう、では決して勝てません。いいえ、我々はそのようなつもりはありません」

トランプがその後、2020年大統領選に「不正があった」という主張を繰り返すと、聴衆から「あなたが勝った!」という声援が沸き起こりました。


トランプは、米国最高裁判所は結果に異議を唱える訴訟で「行動する勇気を持たなかった」と主張し、「彼らは自分たちが国に対して行ったことを恥ずべきです。正しい判断をするための根性も勇気もありませんでした」と続けた。

また後任の大統領を狙い撃ちし、バイデン大統領は「現代の歴史上の大統領の中で最も悲惨な最初の月」だったと主張した。

「我々全員がバイデン政権は悪くなると知っていましたが、どれほど悪くなるかは誰も知りませんでした」とトランプは述べた。

「南部国境での新たな悲惨な危機ほど良い例はありません。わずか1カ月の短期間でアメリカ・ファーストからアメリカ・ラストになってしまいました」とトランプは続けた。

トランプはバイデンの移民政策が次の2つの連邦選挙で民主党の足を引っ張ることになると主張した。

「我々は1つの国です。世界の問題を被る余裕はありません。喜んで―喜んで助けたいという気持ちは山々です。それはできないことです。それで彼らはみな約束と愚かな言葉のためにやって来ているのです」とトランプは語った。

前大統領はまたパンデミックの中での米国の学校再開を呼びかけ、バイデンは「アメリカの生徒たちを教員組合に売り渡した」と非難した。

「ジョー・バイデンは恥ずべきことにアメリカの若者を裏切りました。そして彼は残酷にも子供たちを家庭に閉じ込めています。そうする理由は全くありません。彼らは外に出たいのです」とトランプは語った。

「彼らは次世代のアメリカ人から彼らにふさわしい未来を騙し取っています。彼らは本当にこの未来に値します。彼らは成長しようとしていますが、傷を負おうとしています・・・こうした若者の精神的肉体的健康は限界点に達しつつあります」とトランプは続けた。

「アメリカのお母さん、お父さん、そして子供たちのために、私はジョー・バイデンに学校の再開を今すぐに行うよう要求します」とトランプが語ると喝采が起こった。

またトランプは自政権のコロナウイルス・ワクチン準備の取り組みを自賛し、「彼らの手柄にさせてはなりません。彼らは我々の計画に従っているに過ぎません」と述べた。

トランプは、前大統領が何も残さなかったので全国ワクチン配布計画を開発するために「ゼロから着手」していたという主張についてバイデン政権を非難した。

「バイデンは我々にワクチンがなかったと言いました。今私は、彼がそう言ったのは一体何が起こっているのかを分かっていなかったからだと本当に思います」とトランプはジョークを飛ばした。

また「ビッグテック」を非難し、独占の解消と「公平な競争」が取り戻されることを求めた。

「ツイッター、グーグル、そしてフェイスブックのようなビッグテックの巨人は、保守派の意見を黙らせる時はいつでも大きな制裁で罰するべきです」とトランプは述べた。

トランプは、共和党が2022年の中間選挙で多数を取り戻し2024年にホワイトハウスを勝ち取ることを願う中、オーランドでの年に1回の4日間の会議の最後を締めくくって全国の注目を取り戻した。

トランプは「民主党はアメリカに対する率直な軽蔑を基盤としている」と述べ、チャック・シューマー上院多数党院内総務、ナンシー・ペロシ下院議長、そして民主党を非難しながら、共和党を団結させるために演説を利用した。

「我々の党はアメリカ人に対する愛と、これが神に祝福された並外れた国だという信念を基盤としています」

「我々は偉大なアメリカ国旗を尊重します!」とトランプが語ると、聴衆からは「あなたを愛している」という掛け声が長時間続いた。

前大統領は聴衆の熱愛を受けるのは「名誉」だと述べ、共和党のことを「罪のない命を守ることと」アメリカ建国者の「ユダヤ・キリスト教の価値観をアップロードすることに全力で取り組んでいる」と表現した。

会場に登場したトランプの金ピカの像

「我々は自由思想を歓迎し・・・そして左翼の暴挙を拒否し、『キャンセル・カルチャー』を拒否します。我々は法と秩序を信じており・・・『警察の資金を断ち切る』ことはありません」と彼は述べた。

また「トランピズム」という言葉が現れたことを指摘し、減税、強固な国境、憲法修正第二条の保護、そして「非常に長い利用されていた忘れ去られたた男女に対する支持」と同様に、「私が考え出したものではなかったが意味するところはとても大きい」と述べた。

同時に前大統領は反トランプの共和党を追及し、「スタンドプレーをする」議員を名指しで批判した。その多くは下院と上院でトランプ弾劾に賛成した人々だった。

「ワシントンの共和党エスタブリッシュメントのトップは、バイデン、ペロシ、シューマーと民主党に反対することにエネルギーを注ぐべきです。私は彼らの一部にこう言ったことがあります。『オバマ時代、そして今はバイデン時代に、私に対する攻撃と同じだけのエネルギーを彼らを攻撃することに費やせば、実際に成功するだろう』と」

トランプが自分に反対する共和党議員を「RINO」つまり「名ばかりの共和党」と呼ぶと、聴衆は彼らに向けてブーイングを浴びせた。

「彼らを全員追い出せ」とトランプは述べた。

トランプがミッチ・マコーネル上院少数党院内総務からの推薦を指摘すると、聴衆のブーイングの声がさらに強まった。

「民主党は常に協力し合っていて、グループの中にミット・ロムニーはいません。共和党にとって幸運なことに、民主党はひどい政策です。おめでとうございます。ですから我々には共和党があります」とトランプは語った。

「しかし、共和党が協力し合わなければ、我々を取り巻くRINOが共和党とアメリカの労働者を破壊し国自体を破壊するでしょう」

「今はこれまで以上にタフで強く、精力的な、鋼のような勇気を持つ共和党指導者が求められる時代です。我々には強いリーダーシップが必要です」とトランプは語った。

トランプの待望の演説までには、共和党の大統領有望候補者ら―ジョシュ・ホーリー上院議員やテッド・クルーズ上院議員など―が週末にかけて前座を務め、かつての最高司令官を待つCPACの聴衆に勢いをつけた。

1月20日に退任してから、トランプはフロリダ州マーアラゴのリゾートで過ごしており、自身と共和党の政治の舞台での復帰に向けた下準備をする中で元陣営幹部や共和党議員らと面談していた。

トランプはCPACの演説の最後をこう締めくくった。「我々はまず下院を取り戻し、共和党大統領がホワイトハウスに勝利の帰還を果たすでしょう。それは誰になるでしょうね?」

【私の論評】トランプは未だ意気軒昂(゚д゚)!

CPAC2021の会場

CPAC(シーパック)は"The Conservative Political Action Conferenc"の略であり、守政治活動協議会または保守政治行動会議と訳されます。 American Conservative Union (ACU).が主催し、100を超える他組織が参画し、全米の保守主義の活動家・政治家が出席する、年に1度のスピーチ討論会です。

まずは、以下にこの演説を日本語に翻訳した、動画を掲載します。


この演説で、「バイデン現大統領は、アメリカ第1主義をアメリカ最後主義に転換させた」と語り、バイデン現大統領の就任からの1ヶ月を歴代大統領の中で史上最悪のスタートだとしました。

特に、バイデン大統領の移民政策や新型コロナウイルス感染拡大への対応を改めて批判する一方、ワクチン開発は「私たちの業績だ」と強調しました。

また共和党支持者への演説で、「私たちは一緒に信じられないほどの旅に乗り出し、現在、米国の将来のための歴史的な闘争の真っ只中にいる」とし、自身と支持者らが4年前に始めた「素晴らしい旅」は「決して終わってなどいない」と強調しました。

さらに、「自分は米国で新党を結成する気はなく、共和党に留まるであろう」と強調しました。

そして、「われわれは勝利し、米国はかつてないほど強く偉大な国になるだろう」と述べて、2022年の中間選挙で共和党の主導権奪還に向け、大きな役割を果たす姿勢を強調しました。

さらに「私自身が3度目の民主党の打倒を決意するかもしれない」と言明し、昨年の大統領に勝っていたとの主張を繰り返しつつ、24年大統領選に出馬する可能性を示唆しました。

米大統領選では、民主党が黒人や若者に有権者登録を呼び掛ける中、トランプが共和党支持者らに不在者投票を促さなかったことが700万票もの差で同氏がバイデン氏に敗北する要因になったとみられています。

選挙の日程は投票日当日までの数日間ではなく、実際の投票日1日のみとするべきだと主張。また「不在者投票には正当な理由が必要だ」と述べました。

さらに、もう1つの敗因となった郵便投票の廃止や、投票所での身分証明書の提示義務付けなどを提案しました。

これに先立ち、米上院の共和党最有力者の1人である上院野党指導者ミッチ・マコーネル氏は、数週間前に上院でトランプが今年1月6日の議事堂襲撃に関与したことを鋭く批判していました。

CPACで演説するポンペオ前国務長官

その一方で、トランプが党の指名争いに勝った場合、共和党は2024年の選挙でトランプを支持する、と表明しています。

トランプは、今年1月6日の米議事堂襲撃事件で支持者を騒乱へと煽動した罪に問われています。

しかし、こうした中トランプ弾劾法案は、米国上院での総議席の3分の2を得られず、否決されました。

トランプは、共和党内で同氏の弾劾に賛同した造反議員ら全員を名指しし、特に下院ナンバー3のリズ・チェイニー氏に対して強い怒りを示しています。

ひさしぶりのトランプ演説ですが、未だ意気軒昂です。今後の展開が楽しみです。今後も既存の政治家の枠を大きくはみ出た行動で、米国政界をリードしていくのは間違いないようです。

このトランプ演説に関しては、翻訳や、様々な見方が、報道されるようになると思います。今後もこのブログでは、そうした内容も取り上げていきます。よろしくお願いします。

【関連記事】

バイデン政権、中国融和の兆し―【私の論評】バイデン政権は、かなり短命になる可能性も(゚д゚)!

トランプ弾劾裁判は政治的駆け引きの舞台に過ぎない―【私の論評】退任した大統領を弾劾する米民主党は、相当追い詰められているとみべき(゚д゚)!

中国の台頭を招くバイデン政権の外交安全保障政策に備えよ―【私の論評】日本のやるべきことは、トランプ政権時代と変わらない!仲間を増やすことと潜水艦隊の強化(゚д゚)!

バイデン政権、ウイグル族大量虐殺を追認 相次ぐ対中強硬発言の背景にトランプ氏の“置き土産” 石平氏「撤回すれば猛批判」―【私の論評】トランプの置き土産は、厳しい中国対応だけではない(゚д゚)!

バイデン政権、対中強硬派のキャンベル氏を起用―【私の論評】対中国強硬派といわれるカート・キャンベル氏の降伏文書で、透けて見えたバイデンの腰砕け中国政策(゚д゚)!

2021年2月28日日曜日

バイデン政権、中国融和の兆し―【私の論評】バイデン政権は、かなり短命になる可能性も(゚д゚)!

 バイデン政権、中国融和の兆し




【まとめ】

バイデン政権が「中国ウイルス」「武漢ウイルス」の呼称禁止。
・米大学が「孔子学院」との接触を報告する義務づけも撤回。
・バイデン大統領の実際の行動はすでに習近平政権への融和路線。

アメリカのバイデン政権が中国への融和を示すような動きをあいついでとった。

アメリカ新政権の中国への姿勢や態度は日本でもきわめて関心度が高い。その新政権は登場から5週間ほど、新任の高官たちは議会の公聴会などでみな中国をアメリカの競合相手と呼び、中国側の軍事拡張や不公正な経済慣行、さらには人権弾圧への批判的な言辞を述べる。

その発言を集めると、バイデン政権も中国にはなかなか強硬な態度をとるかのようにもみえる。日本の識者たちももっぱらバイデン政権の対中政策は強硬になるとの見方が多いようだ。だがその判断の根拠となるのはみな言葉だけのようである。

ところがバイデン政権が実際の公式の行動として中国発の新型コロナウイルスを「中国ウイルス」や「武漢ウイルス」と呼ぶことを公式に禁止した事実は日本では意外と知られていないようだ。 

それだけではない。
 
バイデン政権は同時にアメリカの各大学が中国共産党の対外宣伝教育機関の「孔子学院」との接触を米側公的機関に報告することを義務づけたトランプ前政権の行政命令をも撤回した。

両方とも中国への融和や忖度を思わせる措置である。単なる言葉ではなく、実際の行政措置という行動なのである。

「バイデン政権はトランプ前政権と同様の対中強硬策をとる」と断言する向きは直視すべき現実だろう。

この二つの措置はいずれもトランプ政権の政策の逆転だった。しかもその逆転に対してアメリカ国内ではすでに激しい反対論も生まれてきたのである。

バイデン大統領は2021年1月26日、新型コロナウイルスのアメリカ国内での大感染の結果、アジア系米人への差別や憎悪が生まれているとして、その種の差別を取り締まる大統領令を出した。

その行政令に付随した覚書でバイデン大統領は「このウイルスの起源の地理的な場所への政治指導者の言及がこの種の外国人嫌悪を生んだのだ」と述べ、連邦政府としては「中国ウイルス」とか「武漢ウイルス」という呼称を使うことを禁ずることを宣言した。政府関連の文書でのその種の用語の禁止だった。

同覚書の「政治指導者」とは明らかにトランプ前大統領やその閣僚らを指していた。トランプ氏は2020年春から率先して「中国ウイルス」という呼称を使っていたからだ。

トランプ政権の方針を逆転させたこの措置には保守系の政治学者ベン・ワインガルテン氏が大手雑誌ニュースウィーク最新号への寄稿で「国際的な感染症を発生地名で呼ぶことはごく普通であり、その禁止は隠蔽の責任を隠す中国政府を喜ばし、米国の国家安全保障への脅威となる」と激しく反対した。

さらに注目されるのはアメリカ国内での孔子学院に関するバイデン政権の動きである。バイデン政権が孔子学院に関するトランプ前政権の規制の行政令を撤回したのだった。

その措置も「中国ウイルス」という用語の禁止令が出たのと同じ1月26日だった。

トランプ政権は孔子学院がアメリカの多数の大学で講座を開くのは中国共産党の独裁思想の拡散やスパイ活動のためだとして刑事事件捜査の対象としてきた。

トランプ政権はその政策の一環としてアメリカ国内の各大学に対して、もし孔子学院との接触や契約があれば政府当局に報告することを行政命令で義務づけてきた。



孔子学院が中国共産党の直轄機関として対外的に中国政府の共産主義独裁の思想や人権抑圧の統治の正当化の理論を広げる政治プロパガンダの拡散だけでなく、アメリカ側へのスパイ活動、ロビー工作、アメリカ国内の中国人留学生の監視など違法活動にもかかわっている、というのがトランプ政権の認識だった。だからその活動を最大限に規制するという方針を打ち出していたのだがバイデン政権はそのトランプ政権の行政命令をなくす措置をとったのだった。

この措置もコロナウイルスの呼称の措置も同政権は当初はあえて公表しなかっためアメリカ国内一般に情報が広がるのが遅れていた。

その結果、2月中旬になってまず議会の共和党側ではバイデン政権の孔子学院に関する措置への強い反対が表明された。

  マルコ・ルビオ上院議員やマイケル・マコール下院議員が以下の趣旨の声明を出したのだ。

 「孔子学院のアメリカ国内での活動はアメリカの高等教育機関や学生への危険な洗脳、影響力行使の工作だと証明されているのにバイデン政権の規制撤回の措置はそんな工作の黙認につながる

マルコ・ルビオ上院議員

 ルビオ議員はとくに「バイデン大統領は言葉では中国を『戦略的競争相手』などと批判するが、実際の行動ではすでに習近平政権への融和の道を歩み始めた」と厳しく論評した。

 こうした展開はバイデン政権の中国に関する言葉ではなく実際の行動として注視すべきだろう。

 バイデン政権の対中態度はちょうど日本の古い表現の「衣の下から鎧がみえる」の反対だともいえそうだ。「鎧の下から衣がみえる」という感じなのだ。 

表面だけは共和党の抗議や一般国民からの反発を懸念して中国に対しては強硬な批判や糾弾の言葉を述べる。だがその強固にみえる鎧の下からはソフトな衣がちらつく。そして本音はどうも鎧よりも衣、中国への融和や協調のようなのである。

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

【私の論評】バイデン政権は、かなり短命になる可能性も(゚д゚)!

昨年の、大統領選を振り返ってみると、政策の争点は突き詰めれば、新型コロナウイルス対策と経済回復のどちらを重視するかというものでした。コロナに感染し入院してもすぐに退院して、大規模集会で経済回復を訴えたトランプ氏と、マスク着用を呼び掛けて遊説でも「密」を徹底的に避けたバイデン氏の水と油のような違いをそのまま反映しまし。

米メディアが発表した投票所での出口調査によると、経済よりもコロナ対策を重視すると答えたのは51%、経済重視は42%であり、24万人が死亡したコロナの方が当然ながら米国民の喫緊の課題でした。

そのコロナ対策ではバイデン氏の方が良いと判断したのは53%であり、トランプ氏の43%に差を付けました。こうした数字から明らかになるのは、新型コロナウイルスの感染症が米国を襲ったことで票がバイデン氏に集まり当選したという事情が浮かびます。このため、コロナがなければ、米国の地合いは「トランプ再選」だったのだろう、との思いが生じます。

驚くべきことは、トランプ氏が、7300万超という共和党候補としては過去最高の票を獲得したことです。これは前回2016年の大統領選より約1千万票多いです。リベラル・メディアでは、コロナ対策の失敗だけではなく国際協調を無視した外交・通商や人種・民族を差別するような言動、自らを批判する報道機関を「フェイクニュース」と決めつける手法として、取り上げられ、徹底的に糾弾されたトランプ氏ですが、それを膨大な数の米国民が拒否していないのです。

昨年CPACで演説したトランプ氏、今年も予定されている

バイデン氏は約8000万票という大統領選史上最高の票を得たされていますが、トランプ氏との票差は総投票数と比べて僅差です。現職だから本来は勝って当然だと言えばそうなのですが、トランプ氏が集めた票は、膨大な数のトランプ支持者の存在を証明しています。

今回トランプ氏は郊外票や高齢者票をコロナ対策の失政を理由に失い、バイデン氏に敗れたのかもしれません。しかし、米メディアによると、トランプ氏は前回2016年に比べて、白人女性で2%、黒人男性、黒人女性で4%、中南米系で3%票を上積みしたと報告されています。白人男性票を5%減らしたことでそうした上積みは帳消しとなったようです。それにしても、女性、黒人、中南米系で票を本当に増やしたとすれば、「女性蔑視、人種・民族差別主義者」というトランプ氏のイメージは崩れます。

トランプ氏へのこうした評価は経済政策の実績が背景にあります。実際コロナが始まる前の米国は、オバマ政権時代の景気刺激策とトランプ政権の大型減税策で成長率は先進国の中でトップでした。日本や欧州が1%前後で推移していたのに対して、米国は2%を超え18年には3%の成長を記録した。これは国際通貨基金(IMF)が発表した米国経済の成長見通しを上回りました。

失業率も50年ぶりの低い水準で、富裕層のみならず中間層の所得も着実に増えていました。昨年1月にコロナ禍が始まる前まで、大方の予想はトランプ氏の再選であり、その理由は好調な経済だったことが思い起こされます。

米国の選挙では大きなインパクトを持たないものの、外交での成果もありました。中国への強硬姿勢や北米自由貿易協定(NAFTA)の改定、そしてイスラエルとアラブ諸国の正常化合意などは、トランプ嫌いの民主党も評価していました。

今回の大統領選では、誰に投票するかを投票日の前1カ月以内に決めた人は13%で、1週間前以内は5%だ。そして1カ月前以内に決めた51%、1週間前以内の54%がトランプ氏に投票したという。これはコロナにもかかわらずトランプ氏が展開した遊説の勢い、さらにトランプ陣営の戸別訪問の威力を示したものといえます。

仮定の話になりますが、この猛烈なトランプ氏の追い上げを考えると、あと1週間、あるいは3日間の時間があれば、トランプ氏は再選をもぎ取っていた可能性があると思います。

そしてメディアがあれだけ非難したトランプ氏の人格も大きな影響を与えていないようです。出口調査では大統領に求めるのは「強い指導力」が33%、「良い判断力」24%に続いて「国民統合」は19%です。人格よりも強さが大統領の資質と判断しているようです。

こうした事実から読み取るべきは、バイデン氏は支持基盤が限定された弱い大統領になるという見通しです。だからこそ、トランプ氏は敗北を認めずに抵抗を徹底し、今後の共和党を率いるリーダーとして影響力を行使し続けるつもりでしょう。

バイデン氏の弱さを象徴するのが、有権者は何を目的に投票したのかという調査です。投票者の中で相手候補を倒すために投票したという人は24%いるのですが、そのうちバイデン氏への投票者が68%を占めています。

つまり、バイデン氏への投票のうちのかなりが「トランプ憎し」の票であってバイデン氏本人を支持したものではないということです。この傾向はペンシルべニアなど激戦州はさらに強いようです。

ということは、バイデン氏へ票を投じた人々の間で、トランプ氏という「敵」がホワイトハウスから退場するとともに、バイデン氏に対し、急速に関心をなくし、その支持もしぼんでしまう可能性があります。「悪役」の後に登場した大統領としては、ニクソン大統領の後のフォード氏やカーター氏を思い起こすのですが、彼らも役割を終えた段階で、ホワイトハウスから1期だけで消えていきました。

もう一つバイデン氏の悩みの種は民主党内の足並みの乱れでい。オカシオコルテス下院議員を中心とした左派グループです。

左派グループは今回の大統領選で顕著となった若者の民主党への投票を自らの功績として「政策や人事で左派の主張を取り入れなければ、次回選挙で若者は背を向ける」と警告しています。

こうした難局の中で誕生したバイデン大統領は、大統領権限でかなりの行動の自由がある外交に活路を見いだすのかもしれません。バイデン氏は長く上院外交委員長を務め外交を得意とし、優秀な専門家が側近として多数ついています。同盟を重視し、中国との対決は「管理された競争」に移行し、経済制裁・金融制裁も含めて経済安全保障政策を軍事圧力や外交とコーディネートして履行すると期待されています。トランプ時代の予測不能外交との決別は国際社会が望むものではあります。

ところが、内政という足場が弱ければ、外交力も衰えます。中国、ロシア、イランなどの地政学パワーが基盤の弱いバイデン政権を揺さぶってくるでしょう。弱い大統領の誕生とは、国際社会の混乱の深まりに直結してしまうものです。

最後に今回も的確性で話題となった世論調査による事前予測について考えてみます。

確かに事前の世論調査が示したバイデン氏がトランプ氏に対して全米で10ポイント、激戦州で5~7ポイントもリードしているという予測は、選挙結果と異なりました。ただ、これらの数字は調査時点での有権者の判断を示したもので、終盤の猛烈なトランプ氏の追い上げは当然反映していません。

こうした世論調査の数字を基にさらに精緻に各州の動向を分析した政治専門サイトなどは、10月下旬の段階でバイデン氏とトランプ氏の獲得州をほぼ完全に当てました。激戦州の動向もこれらのサイトの予想通りとなりました。こうしたことから、2016年のような当落が予想と反対の結果が出るという屈辱的な失敗は回避できたようです。

しかし、世論調査が白人ブルーカラーや中南米系の意向をとらえきれていないという問題は依然残ったままです。世論調査で正直に思いを答えないという心理の背景には、メディアや世論調査機関などいわゆるエリート体制に対する怒りというものが存在するのからかもしれません。これはトランプ支持者の全容が隠れたままである現状をあらためて見せつけました。

トランプ氏が2024年の大統領選に再出馬するかどうかは分からないです。しかし、7300万票という過去の共和党政治家が得たことがない支持者を握り、トランプ氏は得意のメディアを駆使する戦術で米政治・社会で影響力を持ち続けるでしょう。ホワイトハウスという桎梏から逃れて、より奔放にまた効果的にバイデン氏や民主党を攻撃するはずです。

大統領選挙直前に、保守系のタブロイド紙「ニューヨーク・ポスト」ジョー・バイデンの家族に関するスキャンダル記事を掲載しました。




ポスト紙は独自に入手したEメールやテキストを引用し、バイデンの長男のハンター・バイデンが、父親の影響力を利用し、ウクライナと中国で事業を行っていたと指摘した。同紙はさらに、バイデン候補がそこから利益を得たと主張しました。

これに関する真偽は、現在もはっきりとはしていませんが、以前から各方面で噂されていたのは事実です。これが解明され、明らかにこれが事実ということになれば、バイデン政権が大きく揺らぐのは間違いありません。

また、不正選挙疑惑もありました。これに関しては、州レベルの訴訟では、トランプ陣営が勝訴しているものも多数あります。米国連邦最高裁では受理して審議中の大統領選挙不正の訴訟が20件以上あります。これは、日本では全く報道されていません。

バイデン大統領は、「トランプ」という巨大な敵に阻まれ「短命」に終わるでしょう。それどころか、年内に終わる可能性すらあると思います。

不正選挙の裁判に関しては、州レベルのものでは、トランプ陣営が勝利しているものも多数あります。さらに、米国連邦最高裁では受理して審議中の大統領選挙不正の訴訟が20件以上あります。これらについては、日本では全く報道されていません。

ただし、いずれの裁判で、不正疑惑が認定されたとしても、それでバイデン政権が終焉することはありません。なぜなら、1月6日に議会で正式な手続きを経て大統領になったバイデンを司法がやめさせることはできません。米国の三権分立においては、司法は議会の決定したことを覆すことはできません。

ただし、バイデンを弾劾裁判にかけるということは、共和党の発議でできます。そうして、その発議の有力な根拠にはなりえます。これに加えて、共和党側の独自の調査で、弾劾に値する何らかの証拠をあげることができて、民主党側に多数の造反者がでれば、バイデンの弾劾は成り立つ可能性はあります。

そうして、これはあながちあり得ないことではありません。なぜなら、民主党はペロシ下院議員の提案により、最初から無理筋のトランプ弾劾裁判を実行したからです。

すでに、退任した大統領を弾劾裁判にかけるという、前代未聞の出来事は、着せずして、弾劾裁判のハードルを下げたといえます。共和党としては、バイデンの弾劾裁判がやりやすくなったともいえます。

ただし、バイデンが大統領を辞任すれば、左翼のカマラ・ハリスが大統領になります。そうなると、共和党側もかえってやっかいなことになります。共和党としては、バイデンと、カマラ・ハリスの両方を同時に辞任に追い込むことが課題となるでしょう。

今後の状況を見極めて、共和党側はこれも視野にいれているでしょう。特に、次回の中間選挙で共和党が多数派に返り咲けば、実行する可能性は十分あると思います。条件が整えば、それ以前にも弾劾手続きに入る可能性は十分あると思います。

弾劾されるかどうかは、別にしても、米国共和党そうして、日本をはじめとする同盟国は、様々な方法を駆使して、バイデン政権が中国に対して宥和的な政策をとらないように、牽制していくべきです。

【関連記事】

トランプ弾劾裁判は政治的駆け引きの舞台に過ぎない―【私の論評】退任した大統領を弾劾する米民主党は、相当追い詰められているとみべき(゚д゚)!


2021年2月27日土曜日

米英と中国の間で加熱するメディア戦争―【私の論評】先進国が中国とのメディア戦争に勝利するには、北京冬季オリンピックに不参加を早めに明確に意思表示すること(゚д゚)!

 米英と中国の間で加熱するメディア戦争

岡崎研究所

 2月4日、英国の放送規制当局であるオフコム(Ofcom:Office of Communications情報通信庁)は、中国の海外向けテレビ放送(CGTN:China Global Television Network)の英国国内での放送免許を取り消した。


 もともと中国は、極めて活発に対外宣伝活動を展開しており、CNNやアルジャジーラを真似して、テレビでの発信も強化していた。中国国営テレビ(CCTV)の英語ニュースは2000年から活動を開始し、英国でも18年間放送していた。中国は2016年12月、海外向け放送事業を整理統合してCGTNという名称にし、海外24時間テレビ放送を更に拡充させた。

 CGTNは、北京の本部以外に、海外拠点をロンドン(欧州統括)、米国ワシントン、ケニア・ナイロビ(アフリカ統括)に設置し、更に全世界に70以上の支局を有する。英語以外に、フランス語、スペイン語、ロシア語、アラビア語放送もしており、現在100カ国以上で8500万人の視聴者がいる。インターネットでも見ることができる。そして近年、習近平政権の下で共産党の指導が強められていた。

 英国の放送規制当局オフコムは、テレビに公正性、正確性、プライバシー保護などを厳しく求めてきた。英国国内で、中国、イラン、ロシアのテレビが放送免許を得ていたが、様々な処分を受けてきた。2012年には、イランのテレビ局「プレスTV」が英国国内の放送免許を取り消され、2019年には、ロシアのテレビ局「RT(ロシア・トゥデイ)」が、公平性に違反したとして、数十万ポンドの罰金を課された。

 昨年5月、オフコムは、香港の民主化運動についてのCGTNの放送が、中国共産党以外の見解を伝えなかったため、公平性ルールに違反したと指摘した。また昨年7月には、CGTNが、その番組の素材取得に関連してルールに違反したと指摘した。英国の元ジャーナリスト等が中国で逮捕され、強制自白させられ、それがCGTNで放映されたことも問題視されていた。

 今回のオフコムによるCGTNの放送免許取消し決定は、中国にとり大きな痛手だ。人権擁護NGOが、CGTNの放送倫理違反と党派的性格を英放送規制当局に訴えていたことが功を奏した。

 このオフコムの決定に対し、2月5日、北京のCGTN(CCTV)本部に加え、中国外交部王文斌報道官も強く反発した。CGTN本部は、オフコムの決定に遺憾と反対を表明し、CGTN放送は、「客観性、理性、バランスの原則に基づき全世界でニュース報道を展開」との声明文を出した。外交部の王報道官は、「CGTNが中国共産党の支配を受けているというオフコムの指摘は正しいのではないか」との記者の質問に対して、「中国は共産党が指導する社会主義国家である、中国のメディアの属性は、英国側にとっても一貫して明確だ」、「英国側が今になって中国メディアの属性について語り、CGTNの英国での活動を妨害するのは、完全に政治的策動だ」と答えた。王報道官は事実を述べたのだが、これではCGTNの放送内容の「公正性」等を西側の人々に説得することはできない。

 約1年前、中国の活発な対外宣伝活動は、米国でも警戒され、国務省は規制を強化した。昨年3月2日、ポンペオ国務長官(当時)は、中国の公的な5つのメディア機関―ー新華社、CGTN、中国国際ラジオ、『チャイナ・デイリー』(英字新聞)、『人民日報』―ーを「外国ミッション」(大使館、総領事館と同様、スパイ活動も行う機関)と指定し、米国駐在人数を計100人に限定すると発表した。もともと彼らは中国の公用旅券をもって海外赴任していると言われるほど、中国共産党の保護を受けているらしい。

 NGO「セーフガード・ディフェンダーズ」の働きかけが、今回のオフコムの決定に大きな影響を与えているといわれているが、当NGOは、米国、カナダの放送規制当局にもCGTNの問題を同様に訴え、調査結果を待っており、今後の展開が注目される。

 欧米諸国や日本では、中国の宣伝活動はある程度警戒され、CGTNの成果にも一定の限界があるだろうが、途上国ではかなり成果を挙げているとの見方もある。各国が連携して、中国の宣伝活動を観察・分析し、然るべく対応していく必要があるだろう。

 中国国内(一般の家庭や事業所)では、中国当局が許可しないため、米CNN、英BBC、仏TV5、日本のNHKなどの視聴はできない。外国人向け高級ホテル、外国人駐在員向け高級アパートでは視聴できるが、あくまでも例外である。中国国内で外国のテレビに認めない権利を、中国のテレビは外国で享受し、それを失うと声高に文句を言い、対抗措置をほのめかす。実際、今回、中国当局は、2月12日、英BBCの国際放送「ワールドニュース」の中国国内での放映を許可しないことを発表した。実質的に、対抗措置とみて良いだろう。

【私の論評】先進国が中国とのメディア戦争に勝利するには、北京冬季オリンピックに不参加を早めに明確に意思表示すること(゚д゚)!

上の記事では、中国では外国人向け高級ホテル、外国人駐在員向け高級アパートでは海外放送の視聴できるが、あくまでも例外であるとしていますが、これでさえ当局に規制を受けています。

2019年12月に中国の武漢で原因不明の肺炎が広がっているとSNSでいち早く警鐘を鳴らしていた武漢の医師・李文亮さんが去くなってから2月7日で1年を迎えました。中国のSNSでは哀悼と称賛の声が広がっていましたが、中国国内では李さんの功績を伝える報道はほとんど見られませんでした。

故・李文亮医師と妊娠5ヵ月の妻・付雪潔、5歳の息子

李さんは、世界でいちばん最初に気が付いた人でした。そのタイミングでは新型コロナではなくて、SARSっていう、前に流行ったものがもう1回流行ったのではという疑いを持たれていて、その後亡くなられました。

サイト上の李さんについて書かれた内容は削除されていませんでしたが、1年経過した現在では、中国国内では李さんの功績を伝えるテレビ・新聞報道は全くみられません。たとえば、中国では、先程述べたように、外国人向け高級ホテル、外国人駐在員向け高級アパートでは海外放送の視聴でき、NHKの国際放送も視聴することができます。そのため、中国の在留邦人や観光・ビジネスで訪れた日本人は、これを視聴することが多いです。

そのNHKの国際放送のなかで、この李さんに関してのニュースを伝えたところ、中国国内ではその部分だけ突然画面が消えて、何も見えず、画面が真っ黒になったということが、視聴した複数の日本人から伝えられているのです。これは、当然のことながら、中国内の国内メディアでは全く報じられていないことを示しているといえます。

中国内ホテルでNHK国際放送が見れなくなり画面が真っ黒になったテレビ

なぜそのようなことができるかといえば、中国内の独特のシステムによるとされています。中国内の海外の放送は、世界の各国がリアルタイムでそのまま家庭に届けているのですが、中国では検閲官がその海外番組を見ていて、例えば日本からNHK国際放送を送信する際に意図的に10秒とか15秒とか中国内での放送を遅らせていて、これを放送用語では「ディレイ」といいます。

そのため検閲官が中国内で放送される、10秒から15秒くらい先に見て、これはまずいと思ったらスイッチを押すと、そこから先は見られなくなるのです。中国ではそういうシステムができているのです。

中国では、このようなことを平然とするのですから、中国の海外向けテレビに公正性、正確性、プライバシー保護など求めるのは最初から間違いなのかもしれません。私は、中国の報道はすべて、そのように見なしています。

中国の報道は、最初からフェイクもしくは、何らかの意図があるものと捉えており、ほとんど信用していません。

このブログでも以前掲載したように、米国の大手世論調査専門機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が昨年10月6日に発表した世界規模の世論調査報告によると、多くの先進国における反中感情は近年ますます強まり、歴代最悪を記録しました。

同調査によると、反中感情を持つ14か国とその割合は、高い順番から日本(86%)、スウェーデン(85%)、豪州(81%)、デンマーク・韓国(75%)、英国(74%)、米国・カナダ・オランダ(73%)、ドイツ・ベルギー(71%)、フランス(70%)、スペイン(63%)、イタリア(62%)となっています。また、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、イタリア、韓国、豪州、カナダの9か国の反中感情は、同機関が調査を始めてからの15年間で、過去最悪となっています。

この調査は、先進国対象であり、先進国では中国への風当たりは厳しいものがあるようです。心配なのはやはり発展途上国です。発展途上国においては、先進国の海外向け放送で、中国の悪辣さの報道を強化すべきです。無論、わざわざ悪辣さを強調する必要はないのてすが、中国が実際に海外で行っている行動をそのまま報道すれば良いのです。

一番周知できるのは、やはり冬季オリンピック不参加でしょう。もう、EUや米国は参加しないようです。冬季オリンピックでは、EUと米国を除くと、ほとんど参加国がないという状況になります。

そうなると、いくら中国が冬季オリンピックを開催しようにも、事実上開催不能ということになります。

日本としては、間近に東京五輪が迫っているので、あまり中国を荒立てなくないという気遣いからでしょうか、未だに北京オリンピック不参加を表明していません。

しかし、米国にもジェノサイド認定され、ウイグル人を弾圧は明確な事実と世界から非難されている中国でのオリンピックには日本は参加できません。参加すれば、米英をはじめとする世界中の国々に誤ったメッセージを与えてしまいます。そのようなことを避けるためにも、もうそろそろ、日本も不参加を表明すべきです。というより、いずれ表明せざるを得なくなるでしょう。であれば、遅延することなく早めにそうすべきです。

22日、オタワにある議会外で、ウイグル族などイスラム教徒への中国の行動を非難する人々

そうして、先進国等は北京五輪の代替大会として、2022年に世界の各地で分散してでも、大会を開催すれば良いと思います。個人的には、その中に、日本の札幌等も含まれていると良いと思います。

いずれにしても、北米、英国、EUや日本などの先進国が、北京冬季五輪に参加しないということなれば、世界中のいかなる国でも、その理由や背景が報道されることになります。

そうなれば、中国は報復のため、東京オリンピックに不参加ということになるかもしれませんが、不参加国は中国、北朝鮮等と、限定されたものになるでしょう。

であれば、たとえ限定的でも開催して、コロナ後最初の開催国として、国際世界で存在感を枡にすることこそ、日本の国益に資するものと考えます。

多くの国が早い時期に、北京五輪不参加を決めれば、これに勝る中国に対するネガティブキャンペーンはありません。

【関連記事】

中国・新疆ウイグル自治区で「ジェノサイドの可能性」 米報告書―【私の論評】ウイグル問題は、トランプ政権がバイデン政権に突きつけた踏み絵(゚д゚)!


米海軍の太平洋「最恐」兵器?、巡航ミサイル原潜オハイオ―【私の論評】オハイオにも弱点はあるが、それを日本の通常型潜水艦で補えば無敵となる(゚д゚)!

牙を剥く中国、「海警法」のとんでもない中身―【私の論評】未だに尖閣、台湾を含む第一列島線を確保できない中国の焦り(゚д゚)!

2021年2月26日金曜日

各国で激化する宇宙開発競争、軍事予算と表裏一体の側面も 日本は豪印との協力が現実的 韓国も候補だが… ―【私の論評】日本では、宇宙開発を「研究開発」主体から、「宇宙ビジネス」へと高めていくことが必要不可欠(゚д゚)!

 各国で激化する宇宙開発競争、軍事予算と表裏一体の側面も 日本は豪印との協力が現実的 韓国も候補だが… 

高橋洋一 日本の解き方

母船からつり下げられ火星に着陸する探査車パーシビアランスの想像図)

 米航空宇宙局(NASA)の探査車が火星に着陸した。中国やアラブ首長国連邦(UAE)も火星に探査機を投入しているが、各国が宇宙開発を積極的に進める背景と、日本の技術力や資金力の現状はどうか。

 火星には、これまでにも、米国、欧州宇宙機関(ESA)、ロシア、インドが探査してきた。今回、中国とUAEがこれらの国に加わることになる。中国は、今年5月に搭載している探査車を火星に着陸させることを目指しており、成功すれば、米国に次いで2番目となる。

 なぜ、宇宙開発をするのかという素朴な問いに答えるのは案外と難しい。なぜ山に登るのかと聞かれて、そこに山があるからだと答えた人がいるが、それに似ている。意味がないようにみえるが、フロンティアスピリット(開拓者精神)が答えだ。もちろん宇宙開発には目先の利益は考えられないが、開発の過程でさまざまな技術が生み出されて、日常生活に応用される。どのような応用が出てくるのか分からないから、基本的にはフロンティアスピリットに委ねつつ研究開発をするのだが、実務上いろいろな名目も考えられている。その一つが、軍事だ。

 正直にいえば、世界の大国は、軍事を隠すために宇宙開発をしているのか、宇宙開発のスピルオーバー(余剰)分野として軍事が主力なのか、判然としないのが実情で、軍事予算と宇宙開発予算はかなり連動している。実際、軍事開発は国力を上げるし、その逆に国力があれば軍事もついてくる。

 宇宙開発をリードしている米国、中国、ロシア、インドはいずれも軍事大国だが、欧州のESAも主要メンバー国は北大西洋条約機構(NATO)の欧州国とかなり重複している。

 それぞれの軍事支出を、ストックホルム国際平和研究所の2019年データから見ると、米国が7318億ドル(約77兆円)で国内総生産(GDP)比3・4%、中国が2611億ドル(約28兆円)で同1・9%、ロシアが651億ドル(約7兆円)で同3・9%、インドが711億ドル(約8兆円)で同2・4%、ESAメンバー国が2503億ドル(約26兆円)で同1・4%だ。ちなみに日本は476億ドル(約5兆円)で同0・9%だ。

 宇宙開発当局の予算をみても、軍事費の格差ほどではないものの日本は貧弱だ。ちなみにNASAとESAの予算は、それぞれ日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)予算の10倍、2・5倍になっている。

 欧州諸国は、軍事同盟をベースとしつつ、宇宙開発で協力して、ESAを運営している。ESAは有人飛行をやらないので、日本と似ている。

 日本も単独で宇宙開発予算を確保するのが大変なので、そろそろ国際協力も視野に入れたほうがいい。その場合、クアッドで連携をとっているインドがパートナーとなるのが一番現実的だろう。それに、昨年7月オーストラリア宇宙庁とJAXAは協力覚書を結んだので、オーストラリアもいい。本来であれば、韓国も候補であるが、日韓間では軍事情報包括保護協定(GSOMIA)でも問題になったので絶望的だ。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本では、宇宙開発を「研究開発」主体から、「宇宙ビジネス」へと高めていくことが必要不可欠(゚д゚)!


日本の宇宙開発は予算も少なく、他国と比較して遅れているようにも報道されることがありますが、それは「はやぶさ2」のことを全く無視しているのではないかと思います。

日本の「はやぶさ2」をはじめとする宇宙航空技術は世界有数の水準にあると言って良いと思います。これだけの技術水準を軍事は無論宇宙ビジネスに転用すれば、かなりの水準のものになるのは確かです。

小惑星でのクレーター作製に世界で初めて成功した「はやぶさ2」

「はやぶさ2」は2014年13月に打ち上げられ、4年という時間をかけて果てしなく遠くに存在する小惑星リュウグウに到着し、その後は1年半にわたってリュウグウの探査を行い、2度にわたるサンプル採取にも成功しました。はやぶさ2の功績によって太陽系の誕生の秘密が解き明かされるかもしれないです。

「はやぶさ2」の難易度の高いミッションを遂行することで、日本の宇宙機が持つ高い信頼性を世界中に示したと同時に、はやぶさ2が無事に地球にサンプルを持ち帰ったことで、日本の小惑星探査は世界をリードしていることを示したと言えます。

将来的には、はやぶさ2が採用したサンプル採取の手法は宇宙資源の開発における「スタンダード」な手法になるかもしれないです。つまりは日本の宇宙開発技術の潜在価値は予測できないほど大きく、前途も途方もなく大きいといえます。

「はやぶさ2」が成し遂げたことは消えることのない偉業であり、将来的には世界中で小惑星探査ブームが起きるかもしれないです。

「はやぶさ2」のような小惑星の地下物質を持ち帰るプロジェクトは、難易度が高く、これと同じようなことをするには米国などは20年はかかるともいわれています。

従来のように小惑星の地面にドリルで穴を掘る方法は、重力が非常に小さいため、反動で探査機が浮いたり動いたりします。

一方、人工クレーターで地下物質を地表に噴出させれば、①観測で地表・地下物質の性質の違いがある程度分かり、②採取・帰還して地球で詳細分析できます。

さらには、③人工クレーター形成時やその後の状況の観測によって、小惑星の固さ、岩石の大きさ、内部構造など、小惑星の様々な情報が得られます。

「はやぶさ2」のブロジェクトでは、世界初の画期的なこの一連の探査手法を確立できたのです。

ただし、今後日本も宇宙開発に取り組むためは、様々な改革が必要になるでしょう。

日本の宇宙機器産業に携わっている従業員数をご存知でしょうか。実は、日本では1万人を下回る規模で、日本の自動車産業就業人口が534万人ということと比較すると著しく少ないと感じます。


関係者数が非常に少ない背景のひとつには、日本の宇宙分野の実に9割が官需により成り立っているという事実があります。宇宙用の製品は、一度打ち上げたら修理が難しいことから非常に高い信頼性が求められる一方で、需要自体が少なく一品モノが多いです。

まさに、超高品質な製品の少量生産が求められることから、対応できる企業が限られ、参入障壁が非常に高くなっており、宇宙分野へ新規参入する企業は少ないのです。日本では、三菱電機/重工、NEC、IHIエアロスペースが有名どころでしょう。

そのため、宇宙関係が集まる場に出席してもすでに見知った顔が多く、定期的に開催される親戚の集まりのような空気感になることから「宇宙村」という自虐的な単語が関係者から発せられることがしばしばあるのです。

もちろん日本の宇宙ビジネスも海外の発展を指をくわえて傍観しているというわけではなく、日本から新たな宇宙ビジネスの種も続々と生まれてきています。そもそも「宇宙村」を生んだ背景には、日本だけではどうしようもなかった国際政治的な要因が少なからずあります。

日本は1970年に初めての人工衛星「おおすみ」を打ち上げて以降、米国からの技術供与も受けながら、衛星開発能力を高めてきました。日本は日本の衛星開発能力を高めるために、日本の企業に限定して衛星製造を発注してきていました。

日本初の人工衛星「おおすみ」の組立作業

しかし、日本が着実に経験を積み、商用化できるレベルまであと少しと迫った1989年、米国は、商用に資する衛星の調達先を国内に限ることは不当な貿易制限であり、人工衛星の調達は国際調達であるべきだと迫ったのです。

これはすなわち、商用衛星を政府が調達する場合、その時点で日本よりも力のある米国の衛星メーカーも入札に含めなければならず、日本の衛星メーカーが受注することが困難になることを示していました。事実、その後しばらく、気象衛星「ひまわり」はアメリカの衛星メーカーが受注することになりました。

この事態を危惧した日本政府は、日本の衛星メーカーに衛星受注の機会を与えるために、”商用”ではない”研究開発”のための人工衛星を企画し、国内メーカーに限定した入札を行えるように配慮しました。これが、日本の宇宙産業が”商用”すなわちビジネスよりも、”研究開発”に注力せざるを得なかった事情の顛末です。

2001年にこの制約は解除されたものの、この一件で日本は世界に対し大きな後れを取りました。1990年以降、2009年までに行われた国際競争入札15機のうち、日本は落札できたのはわずか3機のみでした。

この約10年の間に、欧米諸国の衛星メーカーでは商用衛星のための競争力(設計の共通化によるコスト低減、納期短縮など)を着々と高めて来ました。他方日本の衛星メーカーは政府から守られる形で、”研究開発”の名を冠するために、コストや納期を後回しにしました、オンリーワンの衛星を作り続けていたのです。

他業種への展開に向けては、徐々に潮目が変わる予兆もありますが、「宇宙村」の村人は村から飛び出し、自ら市場を開拓しなければならないのです。もちろん、金額の大きいビジネスであるため、民間企業単独での脱却は難しく、政府の関与は不可避ですが、政府の資金援助の仕方は十分に考慮される必要があります。(各国政府の宇宙施策についてはこちら)。

また、宇宙ビジネスの発展のためには宇宙産業界隈の変化だけでは不足です。なぜならば、宇宙を利用しようと他産業が思わなければ話が前に進まないからです。

宇宙ビジネスが他産業の既存の課題を解決する種を持っている可能性があるにもかかわらず、
宇宙ビジネス≒ロケット、宇宙ビジネス≒ロマンと言ったイメージはなかなか払拭できず、距離を置かれてしまうことが多いようです。

そのイメージを払拭するためには何か衝撃的な宇宙ビジネスのインパクトを生み出すか、宇宙ビジネスがどのようなものかということを他産業の人にとって親しみやすい言葉で丁寧に届けていくしかないでしょう。

一般に知られていない、すでに実用化されている宇宙ビジネスを以下にあげておきます。

農業×宇宙

たとえばデータを用いた農業が進んでいるオランダでは、例えばDacomという会社が衛星データを使って、顧客の畑情報の「見える化」を行っている。衛星データだけでなく、地上で取れるデータや気象データを組み合わせて、効率的に農業が行えるように支援しています。

これは、テレビドラマ「下町ロケット」でも、その内容が知られるようになりました。

  ドラマ『下町ロケット』(TBS、2018年10月~2019年1月放送)の撮影から。
  クボタの農業機械がドラマ内で使用された。

私の親戚の人でも、こうした宇宙ビジネスに携わっている人もいますが、衛星データ+ドローンによるデータ+気象データできめ細かいデーターの取得により、効率的に農業が行えるような支援事業をしています。

漁業×宇宙

漁業においては、衛星から得られる海の情報をサービス提供している会社もあります。Raymarineは衛星データを用いて、海面温度の情報などを提供します。漁師はそれをみて効率的に漁場にたどり着きます。

貿易(船)×宇宙

宇宙から察知が出来て嬉しいのは魚の動きだけではなく、船の動きもまた同じです。国際海事機関(IMO)のデータによれば、世界における貿易の約90%は海上輸送で行われています。そこでSpireは特定の地域における船の位置を宇宙から網羅的に把握することで、どこかで海難事故が発生したことを早い段階で察知したり、危険物を運んでいる船の情報提供、違法漁船の検知などといったトラッキングデータを提供しています。Spireが提供する船舶トラッキング情報Credit : Spire

さらに、船の燃費代は40日間の航海で1億円を超えることはざらであり、今後もしも効率的な船の航路を算出することができれば、大幅なコストダウンにつなげられるというメリットがあります。

現在は実用化されていませんが、今後航空機のトラッキングシステムの登場が期待されています。

エネルギー(金融)x宇宙

上から俯瞰的に見るということは、視点を変えれば他国の領空を衛星が周回することもあるということです。つまり、各国が本来であれば自国しか把握し得ないであろうことも宇宙から見れば分かることがこれから増えてくるでしょう。

その代表例として、石油の貯蔵量があげられます。世界中の石油の貯蔵量が分かることで、投資家は生産量を正確に把握し、今後の石油価格を予想する目安にできるのだ。データを提供する企業としては「Orbital insight」「Ursa Space Systems」「BlackSky」などが上げられます。

今後様々な産業が宇宙ビジネスと結びつく可能性が大です。政府が宇宙開発をすることも大切なことですが、まずは宇宙開発を「研究開発」の分野に留めるのではなく、「宇宙ビジネス」へと高めていくことが、日本の宇宙開発を発展させるためには必要不可欠です。

そうして、日本は宇宙ビジネスで成功する可能性は大きいです。なぜなら、ほとんどすべての産業技術を蓄積しているのが日本だからです。たとえば、工作機械や素材産業は、世界のトップ水準にあります。

あらゆる技術の結晶ともいえる潜水艦でも、日本は通常型潜水艦で、その静寂性は世界一です。米国は、原潜を作る能力はありますが、それに特化し、もはや通常型潜水艦は製造できない状況です。

中国は、おもいっきり背伸びをしていますが、様々な技術分野で未だに遅れているところがあり、技術水準が日本のようにすべての産業が一定レベル以上にはなっておらず、優れているところがあると思えば、極端に劣っているところもあり、極端に凸凹であるというのが実情です。

その象徴が、現代の海洋戦で雌雄を決するといわれている、現在最先端をいっている日米の対潜哨戒能力です。現状では、中国のそれは著しく劣っています。

日本では、あるりとあるゆる産業が宇宙産業と提携し、新たな宇宙ビジネスを生み出せる可能性は非常に高いです。

【関連記事】

米海軍の太平洋「最恐」兵器?、巡航ミサイル原潜オハイオ―【私の論評】オハイオにも弱点はあるが、それを日本の通常型潜水艦で補えば無敵となる(゚д゚)!

激しさ増す豪中対立、民主主義国は結束を―【私の論評】外国でも独善的な振る舞いをした中国が待つ末路は、毛沢東時代の図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国に戻ること(゚д゚)!


2021年2月25日木曜日

悪質「組織ぐるみ」の総務省接待 なぜ全額自腹にしなかったか悔やむだろう―【私の論評】民間と比較すると、あまりに杜撰な官庁の利害関係者接待に対する備え(゚д゚)!

 悪質「組織ぐるみ」の総務省接待 なぜ全額自腹にしなかったか悔やむだろう


 どうしても飲食したいなら、自腹で割り勘なら接待にならないのでいい

率直にいえば、20年以上前には、どこの省庁でもよく見られた許認可官庁と対象業者間の関係だ。なお、1998年に発覚した大蔵省スキャンダルでは、大蔵省官僚4名が収賄の疑いで逮捕されたほか、内部調査の結果、112人が処分を受けた。

1998年に発覚した大蔵省スキャンダルでは官僚がノーパンしゃぶしゃぶで
接待をうけていたことが発覚した。写真はブログ管理人挿入(以下同じ)



この大蔵省スキャンダルを契機として、1999年に国家公務員倫理法が公布、2000年に施行された。

ざっくり公務員の感覚をいえば、それ以前の接待は収賄の対象で、その相場はおおむね100万円。100万円を超えると、収賄で逮捕されるが、それ以下ならまあ許されるという感覚だった。実際、大蔵省スキャンダルでは公務員も何人か逮捕されているが、それらは100万円以上の接待を受けていた。もっとも、100万円という当時の相場は、官僚側が勝手に思っていた数字であり、何も根拠もない。実際には、社会通念で変わりうるので、今なら50万円とかもっと低いかもしれない。

100万円未満はいいとなると、社会通念とずれるので、国家公務員倫理法が作られ、5000円以上の利益供与があれば届け出ること、特に飲食では1万円以上を届け出るとされた。ということは、100万円未満の接待でも、1万円以上は事実上禁止だ。どうしても飲食したいなら、自腹で割り勘なら接待にならないのでいいとなった。

 今回の接待問題、組織ぐるみという点ではかなり悪質

筆者は、国家公務員倫理法の施行時に海外にいたので、帰国したら浦島太郎になると思い、国家公務員倫理法・倫理規定の資料を何度も読み返した記憶がある。

国家公務員倫理法の施行により、かつての接待はなくなったとされていたが、今回の総務省接待問題は、それに反し組織ぐるみという点ではかなり悪質だ。

しかも、自腹を切らないという点でセコい。今回総務省の処分を退職後ということで免れた人もいるが、飲み会の誘いは断らないということで有名だという。毎回自腹で断らないなら立派だが、おごってもらう接待を断らないというなら、何を言っているのかわけわからない。

かつて「飲み会を断らない」と豪語していた今回処分を受けた山田真貴子内閣広報官(60)

ある人は、本件は贈収賄の可能性があるので、菅首相の息子にも責任があるといっていた。総務省内部調査では、一人当たりの接待額は10万円程度なので、100万円というかつての相場ではないといっても、これで贈収賄の立件は難しいだろう。

ある人は、首相の息子に誘われたら官僚は断れないと批判したが、利害関係者であっても会食がいけないのではない。おごってもらう接待がいけないのであって、自腹で割り勘であれば事後に会食事実を役所に報告しておけばいい。

処分を受けた官僚のうち高ランクの者は、これ以上の出世は難しいだろう。ただ飯が高くついた。今回処分を受けた者の中には、一部自腹を切っていたが、なぜ全額自腹にしなかったのかを悔やむだろう。そして、公務員を退職しても、すぐには天下りも難しい。しかし、ほとぼりが冷めるのをまって、それなりのところに再就職できるだろう。

++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。

【私の論評】民間と比較すると、あまりに杜撰な官庁の利害関係者接待に対する備え(゚д゚)!

接待は、企業対企業、企業対監督官庁の間でも、つきものとも言って良いくらいのものです。この接待に関しては、かなり厳しいところもあります。

私の会社でも、これはかなり厳しい方だったと思います。入社したばかりの頃、新入社員研修で教えられたことの一つに、接待に関する対応の仕方がありました。

それは、取引先などから接待の誘いがあった場合どう対処すべきかというものでした。社員の場合は、自分で判断しないで、GM(ゼネラルマネジャー、一般の会社だと部長にあたる)に必ず報告せよというものでした。

その新人教育の内容は今でもなんとなく、一部は覚えいます。それはスイカを売るたとえ話です。講師が一般的なスーパーなどで売られているスイカの原価率等を示したうえで、「あなた方がスイカを100個売るとして、99個スイカを売ったとして、それで良しとしますか?」と質問しました。

ほとんどの人は「良くない」と答えました。講師は「そのとおりです。スーパーなどでは、利益率が少ないので、最後の一個を売りきらないと利益は出ないのです」、そうして講師はこう続けました「利益率が少ないのに、さらに取引先の接待を受け、仕入れのときに判断が鈍ればそれだけで損をしてしまうこともあり得るのです」、「だからこそ、先程述べたように取引先からの接待を受けたときに、GMに報告しないと教えているのです」。

私自身は、新人教育で教えられた通りに、接待に誘われた場合は、必ずGMに報告しました。ある職位以上になると、接待の誘いはかなりありましたが、必ず報告しました。

最近はQRコードで割り勘もできるのだが、総務省の役人は知らない?

それでも、接待になりそうな場合も時折ありました。たとえば、何かのイベントがあって、イベント会場でも酒を含む飲食があり、その後取引先から一緒に飲みに行こうととの誘いがあり、流れで取引先と一緒に飲みにいかざるをえない時もありました。

その場合には、取引先と自分の分を含めて、飲食店に取引先には悟られないようにして、飲食店に飲食代を現金で払う旨を伝えて、飲食が終了する前に自腹で払うようにしていました。

このようなことが何回もあったので、それが習性になり、取引気ではない人、たとえば大学の先生等と飲むときも、自腹ではらってしまうことが何度かありました。

取引先ではない、利害関係のない人と飲む機会もありましたが、そのようなときに、聞いていると、なかにはこのようなことに酷い緩い会社もあって、たとえば、取引先の企業の人間が病気で入院したときにわざわざ入院したことを知らせる人間がいたそうです。それは、暗に見舞いを請求しているということです。

企業によっては、在職中には社内の人間に年賀状を出すことすら禁止している会社もあるそうです。年賀状を出せるということは、その人間の住所を知っているということですから、当然のことながら、お中元やお歳暮等を送ることができるわけで、そうなると人事のときなどに情実が入るため禁止しているそうです。

こんな話も聞いたことがあります。ある大手スーバーの店のGM(店長)が、取引先の園芸店に行って、その店に青々とした竹が植えてあったので、その竹をポンと叩いて「この竹青々としていて、いい竹ですね」と取引先に話したそうです。

その日、家に帰ってくると、自宅の庭にその竹が植わっていたので、驚いて、その竹の代金を自腹で払ったそうです。その取引先は、竹をよこせと、店長が言ったと、忖度したようです。

そのときには、いずれの会社でもこのようなことはあるのだと、改めて再認識しました。

その自分からみると、今回の役人どもの態度は、自腹を切らないという点でセコすぎると思います。

高橋洋一氏は、冒頭の記事の最後で「処分を受けた官僚のうち高ランクの者は、これ以上の出世は難しいだろう。ただ飯が高くついた。今回処分を受けた者の中には、一部自腹を切っていたが、なぜ全額自腹にしなかったのかを悔やむだろう。そして、公務員を退職しても、すぐには天下りも難しい。しかし、ほとぼりが冷めるのをまって、それなりのところに再就職できるだろう」としていますが、そのとおりです。

人事の原理原則からみても、処分を受けた官僚のうち高ランクの者は、これ以上の出世が難しいのも当然のことです。

経営学の大家ドラッカーは人事について以下のように語っています。
貢献させたいのならば、貢献する人たちに報いなければならない。つまるところ、企業の精神は、どのような人たちを昇進させるかによって決まる」(『創造する経営者』)
ドラッカーは、組織において真に力のあるコントロール手段は、人事の意思決定、特に昇進の決定だといいます。

それは組織が信じているもの、望んでいるもの、大事にしているものを明らかにします。

人事は、いかなる言葉よりも雄弁に語り、いかなる数字よりも明確に真意を明らかにします。

「強みによる人事」チャート クリックすると拡大します

組織内の全員が、息を潜めて人事を見ています。小さな人事の意味まで理解しています。意味のないものにまで意味を付けます。この組織では、気に入られることが大事なのでしょうか。

“業績への貢献”を企業の精神とするためには、誤ると致命的になりかねない“重要な昇進”の決定において、真摯さとともに、経済的な業績を上げる能力を重視しなければならないのです。

致命的になりかねない“重要な昇進”とは、明日のトップマネジメントが選び出される母集団への昇進のことです。それは、組織のピラミッドが急激に狭くなる段階への昇進の決定です。

そこから先の人事は状況が決定していきます。しかし、そこへの人事は、もっぱら組織としての価値観に基づいて行なわれます。
重要な地位を補充するにあたっては、目標と成果に対する貢献の実績、証明済みの能力、全体のために働く意欲を重視し、報いなければならない。(『創造する経営者』)
今回処分された、官僚は高橋洋一氏が述べているように、公務員を退職しても、すぐには天下りも難しいでしょう。しかし、ほとぼりが冷めるのをまって、それなりのところに再就職でしょう。しかし、本来このような不祥事をしなかった場合のランクの高いところは無理でしょう。それでも、再就職できるだけましと思うべきでしょう。

それにしても、このようなことをみるにつけ、ドラッカー氏が主張していたように、統治の部分を除いてそれ以外の部分は政府の外に出すべきと言う考えは妥当だと思います。

そうでないと、このような問題はときがたてばまたぶり返すこになります。どのような組織でも、統治と実行を同じ組織が担うと、今回のような不祥事はもとより様々な腐敗が生じるのです。

【関連記事】

ノーベル経済学賞に米大学の2人 「電波オークション」で貢献―【私の論評】電波オークションは、テレビ局にとっても、政府にとっても打ち出の小槌ではなくなった(゚д゚)!

高橋洋一氏「批判ありきのマスコミを官僚が誘導する構図だ」 新著『マスコミと官僚の「無知」と「悪意」』で霞が関の実態解き明かす―【私の論評】この書籍を読んで「日本の解き方」読めば正しい認識を持った上で、様々な議論に参加できる(゚д゚)!

菅首相、行革で10億円切り込む!? 日本学術会議任命見送り、朝日「学問の自由脅かす暴挙」産経「侵害には当たらない」―【私の論評】人事の本質を理解しない野党は、ますます勢力を弱める(゚д゚)!

学術会議問題 甘利氏「軍事研究抑制声明」に疑問 「日本の研究者は中国の研究に参加するなと言うべきだ」 今井議員とフジ番組でバトル―【私の論評】日本学術会議の人事問題の本質は「第二次中央省庁再編」への布石(゚д゚)!

マスコミ洗脳し財政危機煽る…財務省の災いは日本の好機だ 脱緊縮政策が経済に福となる―【私の論評】財務省は、現在の大企業に比較しても格段に遅れた時代遅れの組織(゚д゚)!

2021年2月24日水曜日

孔子廟に敷地無償提供は違憲 最高裁―【私の論評】この判決は、今後沖縄が進むべき道を示した(゚д゚)!

 孔子廟に敷地無償提供は違憲 最高裁


 儒教の祖、孔子を祭る「孔子廟(びょう)」を設けるため、那覇市が公園内の敷地を無償で提供していることが憲法の「政教分離の原則」に違反するかが争われた住民訴訟の上告審で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は24日、違憲と判断した。那覇の孔子廟は宗教性が軽微とはいえず、無償提供は特定の宗教に便宜を提供していると評価されてもやむを得ないと認定した。

 政教分離に関し最高裁が違憲と判断したのは3例目。差し戻し後の1、2審判決はいずれも無償提供を違憲と指摘していた。

 最高裁は平成22年、違憲と判断した空知太(そらちぶと)神社訴訟の判決で、宗教的施設に公有地を無償提供する是非について「施設の性格や無償提供の経過と態様、一般人の評価などを考慮し、社会通念に照らし判断すべきだ」との判断枠組みを示していた。

【私の論評】今回の最高裁判決、沖縄の治外法権状況を是正する方向に舵をきるべき(゚д゚)!

孔子廟

孔子廟というと、あまりご存知の方は多くは無いかと思いますが、中国春秋時代の思想家で論語で有名な儒教の創始者、孔子を祀っている霊廟のことです。

中国などの外国から琉球に帰化した人たちの多くは、那覇の久米村に住んで久米三十六姓と呼ばれていました。 そして1676年にこの孔子廟を完成させお参りをしていましたが、第二次大戦で消失。

旧霊廟があった場所も国道が通り同じ場所での再建もかなわず、改めて波之上に1975年再建されました。 そして2013年、那覇市久米の松山公園の隣に新しく建設されたのがこの孔子廟です。

日本では最南端の孔子廟でもあり、当事の琉球が中国と密な交流関係が有ったことを忍ばせてくれる場所でも有ります。

普段は正門が閉まっていますが、両側の入口は開いているので自由に入って参観することができます。

儒教の祖・孔子を祭る「孔子廟(びょう)」のため、那覇市が公園内の土地を久米崇聖会に無償で提供していることが憲法の政教分離の原則に違反するかが争われた住民訴訟の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部は2018年4月18日に、一審那覇地裁に続いて違憲との判断を示し、市が使用料を請求しないことは違法だとしていました。

大久保正道裁判長は、廟の管理団体について、営んでいる祭礼行事の内容を踏まえ宗教団体だと認定。土地の無償使用は「特定の宗教に便宜を提供し、援助していると評価されてもやむを得ない」と述べました。

その上で、原告の市民(91)が監査請求した2014年4~7月の使用料を請求すべきだと指摘しました。2017年4月の一審判決は使用料を約180万円と算定しましたが、高裁支部は額を示しませんでした。

判決によると、故翁長雄志氏が市長だった11年、市内の松山公園に廟の設置を許可して土地使用料の全額免除を決め、14年に更新した。

判決を受け城間幹子市長は「主張が認められず残念だ。判決内容を確認し対応する」とコメントしました。土地は当時から現在まで、無償で提供され続けています。

那覇市の孔子廟の公園使用料を那覇市が無料としていたことが違法であるとして市民団体が裁判に訴えていました。孔子廟をめぐる訴訟においての主な主張は以下のようなものです。


今回の最高裁の判決は、原告の市民側の主張をみとめたわけです。今回この判決が出たことは良かったと思います。

この問題の本質を簡単にいうと、首里士族由来の出自を持つ那覇市長・翁長雄志氏(当時)が、久米士族由来の出自を持つ仲井眞弘多県知事(当時)などといった有力者が属する宗教的血縁団体に対して公有地を無償で提供した構図です。

旧支配階級内部での馴れ合い行政の産物であり、王朝時代(封建時代)の支配構造を引きずった沖縄の時代錯誤を象徴するものでした。

それは政治的保守派による行政の「私物化」でもなければ、政治的左派の支持を得た翁長雄志氏による中国派に対する優遇策でもありません。久米崇聖会には仲井眞弘多元知事だけでなく、各界の人士が会員となっており政治的にはむしろ中立です。中国とのパイプもありますが、会としての姿勢はどちらかといえば台湾寄りです。

今回の案件で政治的イデオロギーを問題とすべきではないかもしれません。最大の問題は沖縄に残る封建制の残滓が、県民や国民の諸権利・諸権益を踏みにじるかたちで露出したところにあります。

したがって、歴史的な観点からすると、那覇市の対応は、孔子廟設置に用地を無償で提供することにより、封建制下における久米人の特権的立場を復活させたことになります。

そうして、このようなことは、中国の沖縄工作をやりやすくするものでもあります。

今回の判決においては、「政教分離」という日本国憲法の条文に照らしてその違法性を明らかにした裁判所の判断並びに原告・弁護団の弁論は、沖縄社会に今も根強く残る非近代的要素をあぶり出すと同時に、今後沖縄が進むべき方向性を示したものであるといえます。

沖縄では、沖縄以外の人からみると、信じがたいことが平気でまかり通っているところがあります。たとえば、基地反対派が道路でまるで検問のような交通妨害してみたり、防衛省の役人や、警察などに乱暴狼藉を働いてみたりと、枚挙に暇がありません。


この判決の延長線上に、基地反対派の横暴による治外法権を是正する方向に進んでいただきたいものです。

【関連記事】

中国、漁船群の尖閣領海侵入を予告 「日本に止める資格ない」— 【私の論評】日本の潜水艦のステルス性、哨戒・掃海能力が中国を遥かに凌駕している限り、中国の列島線等単なる妄想に過ぎない!(◎_◎;)

「沖縄独立」に中国暗躍! 外交、偽情報、投資で工作…米有力シンクタンク“衝撃”報告書の中身―【私の論評】国民の支持を失い、米国からも否定されれば、安倍政権が窮地に!親中派議員と官僚を成敗せよ(゚д゚)!

コロナ禍に動く中国の“軍事謀略” 米中対立激化、台湾排除…国内で権力闘争も 河添恵子氏が緊急寄稿 ―【私の論評】尖閣問題は、単なる領土問題ではなく、コロナ後の世界新秩序における日本の地位を決める(゚д゚)!

日本保守党・百田代表「政府の怠慢」「制裁が足りない」初出席の拉致集会で政府批判 「日朝国交正常化推進議連」の解散も要求―【私の論評】日本とイスラエルの拉致被害者扱いの違いと国民国家の責任

日本保守党・百田代表「政府の怠慢」「制裁が足りない」初出席の拉致集会で政府批判 「日朝国交正常化推進議連」の解散も要求 まとめ 百田尚樹代表は、国民大集会で日本政府の北朝鮮による拉致問題への対応を「怠慢」と批判し、経済制裁の強化を求めた。 他の政党や超党派の「日朝国交正常化推進議...