南シナ海で水中の物体に衝突した米原潜。難易度の高い水中環境で活動中だったという |
米国防当局者は7日、コネティカットの事故について詳しい情報は示さず、南シナ海で潜航中に物体に衝突し、多数の乗組員が負傷したと述べるにとどめた。
海軍によると、負傷の程度はいずれも軽かった。コネティカットは8日、自力で米領グアムの海軍基地にたどり着いたという。
海軍報道官はCNNに対し、潜水艦の前部が損傷したと述べ、「完全な調査と分析」を行う方針を明らかにした。
コネティカットは米海軍が保有する3隻のシーウルフ級潜水艦のひとつ。1998年に就役した同艦は排水量9300トン、全長約107メートルを誇り、原子炉1基を動力とする。乗組員は海軍要員140人。
コネティカットの船体は最新のバージニア級攻撃型潜水艦よりも巨大で、米国の他の攻撃型潜水艦に比べ多くの兵器を搭載できる。米海軍の説明文書によると、この中には魚雷最大50発とトマホーク巡航ミサイルも含まれる。
艦齢は20年を超えるが、就役中にシステムの更新が施されており、技術的にも高度な艦とされる。
海軍はコネティカットについて「極めて静粛かつ高速であり、高度なセンサーを搭載している」と述べている。
それでは、どのようにして南シナ海でコネティカットに問題が発生したのか。
海軍はコネティカットが何に衝突したのか明らかにしていないが、専門家からは、南シナ海の環境は同艦の高度なセンサーにとっても難易度が高いとの声が上がっている。
英ロンドン大キングスカレッジのアレッシオ・パタラーノ教授は、「雑音の多い環境ではソナーで捉えきれないほど小さな物体だった可能性もある」との見方を示す。
米海洋大気庁(NOAA)によると、海軍の艦船は水中で周囲の物体を探知するのに「パッシブソナー」を使う。「アクティブソナー」が発信音を送り、反響音が戻ってくるまでの時間を記録するのに対し、「パッシブソナー」は自らに向かってくる音だけを探知する。
これにより潜水艦は静粛性を保って敵から身を隠すことできるが、その反面、他の装置や複数のパッシブソナーを頼りに、進路上にある物体の場所を三角測量で割り出す必要が出てくる。
南シナ海は世界で最も混雑した海上交通路や漁場の一つとなっているため、水上の船が発するあらゆる種類の雑音の影響で、その下の潜水艦に危険をもたらしかねない物体が覆い隠される場合もあるという。
「事故が起きた場所によっては、一種のノイズ干渉(通常は上方の船舶から来る)がセンサーやセンサーの操作に影響を与えた可能性もある」(パタラーノ氏)
しかも、南シナ海の潜水艦にとって問題になりうるのは船舶だけではない。そう語るのは米海軍の元大佐で、米太平洋軍統合情報センターの作戦責任者を務めたこともあるカール・シュスター氏だ。
シュスター氏は「この海域は音響環境が非常に悪い」と述べ、水の性質そのものが問題を引き起こす可能性にも言及した。
また、潜水艦の下にある何かが問題を引き起こした可能性もある。
「あの海域の環境や海底は、ゆっくりとだが確実に変化している」とシュスター氏は指摘。「絶えず海底地形の地図を作っておく必要がある海域だ。地図に記載されていない海底の山に衝突することもありうる」と語っている。
この地域で潜水艦がらみの事故が起きるのは今年2度目。4月にはインドネシアの潜水艦がバリ海峡で沈没し、乗組員53人全員が亡くなった。
インドネシア当局は「自然や環境面の要因」によって事故が起きたとしつつも、これ以外の詳細は明らかにしていない。
メンテナンス中のシーウルフ級攻撃型原潜 巨大さがよくわかる |
あらゆる分野で仮想敵であるソ連海軍の原子力潜水艦を凌駕する超高性能艦として設計されましたが、冷戦終結による必要性の低下や高額な建造費などによって当初29隻だった建造数は大幅に縮小され、結局同型艦2隻・準同型艦1隻の計3隻で建造は終了しました。
米海軍最後の冷戦型攻撃原潜となった本級は、静粛性、氷海行動力、弾量を重視し、「聖域」内への積極的攻勢すら可能な、あらゆる面でソ連原潜を凌駕する超高性能艦とするべく設計されました。
ロサンゼルス級と比較してみると、減少した運用深度を取り戻すべく高張力鋼HY-110を採用し、氷海行動力も当初から盛り込まれた点で対照を成しますが、一方で水上艦用原子炉から発展したS6W型を搭載する点は引き継がれています。
また、イギリス海軍での運用実績に学んで、ポンプジェット・プロパルサーを制式としては初めて装備し、キャヴィテーションを起こさずに20ktで航走可能になりました。魚雷発射管室内の弾庫の容量も根本的に見直され、冷戦後期から米原潜が悩まされてきた搭載兵器量の問題はついに解決されました。
米国には、オハイオ級の攻撃型原潜もありますが、この潜水艦はとにかく巨大です。この潜水艦は特殊部隊シールズを乗せることができるだけでなく、巡航ミサイルのトマホークを1隻で最大154発、水中から連射することができます。軍事機密なのか、詳細は発表されていなのですが、シーウルフ級はこれを上回るのは確かです。
2017年のシリアの攻撃の時に駆逐艦2隻で発射したトマホークの数が59発ですからその規模がとんでもないことがわかります。
1997年から就役するアメリカ海軍有する世界最強の攻撃型原子力潜水艦シーウルフ級 |
南シナ海において、シーウルフ型攻撃原潜が、緒戦で攻撃に出れば、中国軍は手も足も出ないです。同時に中国側としては、いくらミサイル戦力や海軍力、宇宙サイバー戦能力を充実させても、米海軍の虎の子のシーウルフ型原子力潜水艦を発見し攻撃するASW(対潜水艦戦闘能力)が欠如している現状ではいかんともし難いです。
上の記事では、"海軍はコネティカットについて「極めて静粛かつ高速であり、高度なセンサーを搭載している」と述べている"としていますが、このブログで掲載してきたように、原潜は構造上どうしても騒音が出るため、静寂性には難点があるのですが、それでもシーウルフ型は原潜としては、静寂性か高く、対潜哨戒能力の低い中国がこれを発見するのはかなり難しいです。
一方中国の原潜や通常型潜水艦は、現状でも静寂性は劣ります。さらに、攻撃力も米攻撃型原潜に比較すれば、かなり低いです。特にシーウルフ型とは比較の対象にもなりません。
深海に留まり続け、中国の動きを偵察し、人工島と本土を結ぶ補給線を脅かす米巨大攻撃型潜水艦の存在は中国にとっては、脅威そのものです。もし南シナ海で、米海軍と軍事衝突という事態になれば、米巨大攻撃型潜水艦が、緒戦で中国軍の艦艇、ミサイル基地、空軍基地、監視衛星の地上施設などを破壊し尽くした後に、空母打撃群の波状攻撃にあえば、勝ち目は全くありません。そこに、強襲揚陸艦で米海兵隊員が多数乗り込んできた場合どうなるでしょうか。
そこまでしなくても、複数の米潜水艦が南シナ海を包囲して、中国艦艇や航空機を近づけないようにすれば、南シナ海の中国軍基地には水・食糧・燃料その他を補充できなくなってお手上げになります。
中国軍側からみると、何の前触れもなくある日突然、多くの艦艇、潜水艦、環礁上の基地が、どこから攻撃されたかもわからないうちに、撃沈、撃破され、無力の状態になったところに、さらに空母打撃群によるミサイル、航空機の波状攻撃を受けることになります。
これは、中国にとって悪夢です。中国としては、オハイオ級の攻撃型原潜等が南シナ海に潜んでいることは予期していたかもしれません。しかし、米海軍の世界一の巨大潜水艦が潜んでいることまでは、予期していなかったかもしれません。
以上のことから、私は今回の潜水艦事故は事実だったのでしょうが、それを理由に米海軍は南シナ海にシーウルフ級を潜航させている事実を中国に知らしめて、米軍の本気度を示したものとと推察しています。中国海軍は、対潜哨戒能力が低いので、シーウルフ級が南シナ海に潜航している事実を今回始めて知ったのではないかと思います。
もともと潜水艦の行動は、公表しないのが普通であり、潜水艦が沈没して多数が死亡した場合などの例外を除いて、公表しないか、公表しても場所や潜水艦の種別や負傷者や被害の程度などまでは、公表しないのが普通です。
それを今回の事故では、潜水艦の種別、具体的な潜水艦名、負傷者数のほか、さらにご丁寧に、7日の事故の後に、コネティカットが8日、自力で米領グアムの海軍基地にたどり着いたことまで公表しています。
これでは、いかに対潜哨戒能力が低く、シーウルフ級の行動を探知できない中国海軍であっても、海図とコンパスがあれば、大体どの海域で事故にあったのか、類推できます。