会計学やファイナンス論からいえば、政府の財政状況をみるには、連結された政府のバランスシート(貸借対照表)において、資産を考慮したネット債務額で判断するしかない。であれば、政府のバランスシートの右側に過ぎない借金残高だけを見るのはまったくナンセンスだ。
この話は、本コラムの読者なら、筆者が初めて政府の連結バランスシートを作成した1995年以来、一貫して主張してきたことをご存じだろう。経済学でも、「統合政府」といい、古くから知られた考え方だ。
この国際標準の考え方から、日本政府の財政状況をみておこう。分かりやすくするために、大ざっぱな概数で説明する。
連結政府のバランスシートでは、資産1500兆円(うち日銀保有国債500兆円)、負債2000兆円(うち日銀マネタリーベース分が500兆円)だ。ただし、負債のうち日銀マネタリーベースは形式負債なので考慮する必要はなく、ネット債務額はほぼゼロとなり、財政状況が悪いとはいえない。
政府(財務省)は「借金1000兆円」というが、それは連結バランスシートの一部でしかなく、しかも資産を考慮しないグロスなので、会計的には何を言っているのか分からないくらいだ。
ここで、借金1000兆円ではなく、日銀保有国債を除いて考えれば、500兆円になるので、今の1000兆円というよりましだ。この方法は、借金をきちんと理解する第一歩としては評価できる。
ちなみに、2017年3月、当時の安倍晋三政権で経済財政諮問会議に招待されたノーベル経済学賞学者のジョセフ・E・スティグリッツ教授も同様な話をしているが、ほとんど報道されなかった。
ちなみに、本コラムでは、今は政府の基礎的財政収支(PB)で財政をみることも批判している。グロス債務対GDP比の変化は、「PB赤字対GDP比」と、「『前期のグロス債務対GDP比』に『金利から成長率を引いたもの』をかけたもの」との和になる。この意味で、PBは、グロス債務の動きを記述するための道具だ。
ネット債務対GDP比はどう決まるか。結論を簡単に言えば、前述の式から、中央銀行によるマネー増加対GDP比を引けばいいことになる。これは、国債残高から日銀保有国債を除くことに対応している。
財政といえば、昨年公表された矢野康治財務事務次官による月刊誌の論考は、会計への無知を露呈したものだった。
本来なら財務省自身が、矢野論文を撤回し、会計的に正しく見なければいけない。せめて、財政制度審議会の専門家が議論すべきだが、今のメンバーでは難しいだろう。であれば、国会での議論を大いに期待したいものだ。これまで、財務省の意見をうのみにしてきたマスコミも焦るだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
日本銀行は、普段から通常業務として、市場に出回っている国債を売り買いしています。もしも、国債を購入する銀行が減ってきて、国債の価格が不安定になってくれば、日本銀行は安定化を目指して市場で売られている国債を買い増すことになります。
万一、とてつもない天変地異や戦争などで国民が困窮し、税金が1円たりとも納入されなかったとしても、そうして仮にそのとき政府が発行する国債を購入する民間銀行が一切なかったとしても、「最後の貸し手」である日本銀行が国債を購入して政府にお金を貸します。この「最後の貸し手」という機能は法律でしっかりと定められていますし、先進諸国ならどこの国の中央銀行にもある当たり前の機能です。
たとえば、記憶に新しいところでは、バブル崩壊後、コスモ信用組合や北海道拓殖銀行、山一證券などいろんな金融機関が相次いで破綻したときに、日本銀行は、「日銀特融」という制度で無担保・無制限の融資を行って預金者たちの預金を全額守ったりしています。そうしなければ、日本経済が大パニックになるからです。それを踏まえれば、もしも政府が破綻の危機にさらされることがあるとしたなら、そのときに日銀特融を発動しないわけがありません。
しかも、日本銀行は日本政府の子会社です。これは民間企業でも同じですが、親会社と子会社の間のおカネの貸し借りは、連結決算で「相殺」されます。つまり借金が存在しないことになるのです。驚かれるかもしれませんが、これは紛れもない事実です。一応、政府は日銀が保有する国債について利子を払い続けていますが、日銀の決算が終わると、「国庫納付金」として日銀から政府に返還されています。
つまり国債の利子が、政府→日銀→政府と行って帰ってくるのです。要するに、実質的にいうと、政府が日銀からおカネを借りても利子がつかないのです。
ちなみに、アベノミクスにおいては、日銀は年間80兆円もの国債を買い続けました。「預金取扱機関」が保有する国債が、「日本銀行」に移転されていったのです。
そうして政府の負債は事実上、減少し続けたことになります。なぜなら、預金取扱機関が保有する国債というのは、政府が過去に借りたおカネの借用証書ですが、それを政府の子会社である日本銀行が買い取るということは、実質的に「借金は棒引きされた」ことになるからです。
たとえばあなたが、隣のおじさんに100万円借りていたら借金ですが、その借用証書をあなたの(大金持ちで、かつ、絶対に別れることがないと決まっている)配偶者が買い取ってくれたら、その借金は実際上、事実上、帳消しになります。それと同じように、日銀が国債を買い取れば、政府の借金は事実上、「帳消し」になります。
もっとも単純な政府の資金調達の方法に「日銀直接引き受け」とか「ヘリコプターマネー」とか呼ばれているものがあります。これは、日銀が政府に資金を直接融資するという方法です。
日本銀行は、「銀行の銀行」であり、各銀行は日本銀行のなかに口座を持っています。その口座に入っている預金を「日銀当座預金」といいますが、これはちょうど、私たちが普通の銀行に「口座」を持っていて、そのなかに「預金」があるのと同じです。
銀行は、この日銀当座預金を引き出して現金に換えたり、銀行同士の支払いなどに使ったりしているわけです。そして政府もまた、日銀に口座を持っています。
日本銀行の役割 |
「ヘリコプターマネー」の場合、政府が借用証書を書いて日銀に渡し、日銀はそれと引き換えに、政府の日銀当座預金にその金額を書き込みます。一応、「日銀が政府におカネを貸している」という体裁にはなっていますが、前にお話ししたように日銀は政府の子会社ですから、事実上の借金ではありません(正式の会計手続きでは、「連結決算」で「相殺」されるということになります)。
つまり、借金が棒引きされて存在しないことになります。だから結局は、ただ単に政府が「貨幣をつくり出し、それを使う」ということにほかなりません。
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