2022年6月25日土曜日

太平洋関与へ5カ国連携 日米豪などグループ設立―【私の論評】グループ結成は南太平洋の島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きを強める中国を牽制するため(゚д゚)!

太平洋関与へ5カ国連携 日米豪などグループ設立

 米国、日本、オーストラリア、ニュージーランドと英国は24日、太平洋地域への関与強化に向けた協力枠組み「青い太平洋におけるパートナー(PBP)」を立ち上げた。米ホワイトハウスが発表した。太平洋の島嶼(とうしょ)国などを民主主義の5カ国が連携して支援。中国への対抗を念頭に、ルールに基づく自由で開かれた地域秩序を後押しする。

 5カ国はPBPを通じ、気候変動や海洋安全保障など地域各国が抱える課題の解決に協力し、外交的な関与を強化する。中国が南太平洋のソロモン諸島と協定を結ぶなど、海洋進出を強めており、地域諸国が過度に中国に傾斜するのを防ぐ狙いもある。

ホワイトハウス

 ホワイトハウスは声明で「太平洋地域の繁栄と強靭(きょうじん)性、安全を支え続ける」と表明し、5カ国の協力強化の重要性を強調した。

 米政府によると、5カ国の高官が23、24両日、米首都ワシントンで太平洋諸国の代表団と会合を開いた。会合にはフランス、欧州連合(EU)もオブザーバー参加した。会合を受けて24日に立ち上げたPBPについて「包摂的で非公式なメカニズム」と位置付けた。

 PBPは「地域主義や主権、透明性、説明責任」を重視するとした。会合では運輸や海洋保護、保健衛生、教育分野も議論した。

 米国の太平洋関与をめぐっては、国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官が23日の講演で、多国間で開放的な「太平洋の地域主義」を支えると表明していた。

 バイデン米大統領が5月下旬に訪日した際には、日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」の首脳会合が開かれ、違法漁業を取り締まる新たな仕組みの発足で合意した。中国漁船による乱獲が一部で問題視されていた。

【私の論評】グループ結成は南太平洋の島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きを強める中国を牽制するため(゚д゚)!

米国家安全保障会議(NSC)報道官は4月19日、NSCのキャンベル・インド太平洋調整官らが同月18日にホノルルで、日本やオーストラリア、ニュージーランド(NZ)の政府高官と会談し、中国が南太平洋の島国ソロモン諸島と締結した安全保障協定について、懸念を共有したと発表しました。

キャンベル・インド太平洋調整官

安保協定をめぐっては、ソロモンでの中国の軍事拠点構築につながるとして、米国や豪州、NZが警戒を強めていました。中国外務省の汪文斌・副報道局長は19日の記者会見で、協定に最近、署名したと発表した。ソロモン側は沈黙していましたが、ロイター通信によると、ソロモンのソガバレ首相も現地時間の20日、国会で追及され、両国外相が協定に調印していたと認めました。

これに先立ち、NSC報道担当官は19日、中国・ソロモン安保協定は「透明性に欠け、性格も不明だ」と懸念を表明しました。地域との協議もほとんどない状態で中国が協定締結を進めたと非難した上で、「この地域との強固な関係に対する米国の関与が変わることはない」と述べ、引き続きソロモンなどとの関係強化を図っていく考えを示しました。

その後中国は、南太平洋を中心にした10カ国との安全保障協定の締結を提案しましたが、反対意見が出て合意に至りませんでした。

ミクロネシアのデイヴィッド・パニュエロ大統領は、中国と南太平洋を中心にした10カ国との外相会議に先立ち、周辺国に書簡を送り、「協定案への反対」を表明していたといいます。

オーストラリアの公共放送ABCによると、中国の王毅国務委員兼外相は先月 30日、訪問先のフィジーで開いた外相会議で、安全保障や警察、貿易、データ通信で協力する新たな協定案を示しました。

習氏も「中国と太平洋島嶼(とうしょ)国の運命共同体を構築したい」という書簡を寄せていたのですが、一部の国の合意を得られず提案をいったん棚上げしました。

フィジーのジョサイア・ヴォレンゲ・バイニマラマ首相兼外相は会議後の記者会見で、「これまで通り、各国のコンセンサスを最優先する」と述べました。10カ国すべての賛同が得られていないことを示唆しました。


中国外務省の趙立堅報道官は30日、「各国はより多くの共通認識に達することを目指して努力することに同意した」と語りました。今後も協議を継続する意向を示したかたちですが、現実には簡単ではありません。

南太平洋の島嶼国をめぐっては、中国と西側諸国の駆け引きが続いています。

中国は4月にソロモン諸島と、安全保障協力に関する2国間の協定を締結しました。ソロモン政府が要請すれば中国が海軍艦艇を寄港させたり、軍の部隊や警察を派遣したりできる内容です。

これに対し、日本や米国、オーストラリアは「中国の軍事拠点化につながりかねない」と懸念しています。

バイデン氏は訪日中の先月23日、インド太平洋地域で台頭する中国に対抗する、新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を宣言しました。フィジーはIPEFへの参加を明らかにしています。

こうしたなか、米国は台湾シフトを強化しています。

ダックワース上院議員が率いる訪問団が先月30日、台湾入りしましまた。蔡英文総統らと31日にも会談しインド太平洋地域の安全保障や経済貿易関係について、話し合いました。

米大使館のSNSによると、ダックワース氏は米陸軍のパイロットとして勤務中の2004年、ヘリの墜落で両脚を失った「イラク戦争の英雄」です。

ダックスワーク氏(左)の表敬訪問を受けた蔡英文相当(右)

米台接近に、中国は軍事的威嚇を仕掛けてきました。

台湾国防部は30日、中国軍の戦闘機「殲16」や早期警戒機「空警500」など軍用機計30機が同日、台湾南西部の防空識別圏(ADIZ)に進入したと発表しました。

南太平洋は、台湾有事の際に、米国とオーストラリアの海軍艦船が通過する重要な地域です。中国はこれを阻止するため、軍事拠点化を狙っていまます。

米国もIPEFで、太平洋島嶼国を自由主義圏の枠組みに入れ、軍事、経済両面でつなぎ留める考えです。今回の協定合意失敗は、中国にブレーキがかかったかたちで、習氏の焦りにつながるでしょう。

ダックワース議員は、アジアや軍事問題にも精通し、民主党内でも影響力もあります。バイデン政権と議会が一致しているという米国意思を示すもので、連動した動きです。中国は今後、島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きは強まるでしょう。警戒を緩めるべきでないです。

だかこそ、今回米国、日本、オーストラリア、ニュージーランドと英国は太平洋地域への関与強化に向けた協力枠組み「青い太平洋におけるパートナー(PBP)」を立ち上げたのです。

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2022年6月24日金曜日

金融緩和への奇妙な反対論 マスコミではいまだ「日銀理論」の信奉者、デフレの責任回避の背景も―【私の論評】財政・金融政策は意見ではなく、原理原則を実体経済に適用することで実行されるべきもの(゚д゚)!

日本の解き方


 デフレ脱却のための金融緩和政策については、かつて日銀内にも否定する声が強くあった。ここにきて「円安の副作用」を批判する声もあるが、こうした反対論は筋が通っているのか。

 かつて日銀内には、いわゆる「日銀理論」があった。これは、1990年代前半の「岩田・翁論争」で明らかになったものだ。当時学者で後に日銀副総裁になった岩田規久男氏と、当時日銀官僚だった翁邦雄氏の間で行われた。

日銀

 岩田氏はマネーサプライ(通貨の供給量)の管理は可能としたのに対し、翁氏は「できない」と主張した。論争は、経済学者の植田和男氏が「短期では難しいが長期では可能」といい、一応収まった。

 2000年代に入ると、日銀はマネタリーベース(中央銀行が供給する通貨量)の量的緩和政策を採用し、リーマン・ショック以降は世界の中央銀行でも量的緩和政策を導入したので、基本的には岩田氏の主張の通りだった。

 日銀は白川方明(まさあき)総裁体制で量的緩和を否定していたが、黒田東彦(はるひこ)総裁体制になって再び量的緩和政策を実施することとなった。そもそも日銀理論は、金利は操作できるが量は操作できないというが、量と金利は裏腹という経済理論から見れば奇妙奇天烈なものだった。

 しかし、日銀理論は形をかえてしぶとく生き延びた。名目金利はゼロ以下にはならないと言い、それで量的緩和を「実施しても効果がない」と主張した。筆者らは、経済理論では「金利」は名目金利から予想インフレ率を引いた実質金利なのでゼロ制約はないとし、各国のデータから量的緩和で実質金利をマイナスにできると指摘した。

 すると、反対派は今度は急に効果があるとし「ハイパーインフレになる」と言い出した。石は普段は動かないが、動き出すと止まらないといういわゆる「岩石理論」だ。筆者らはこれに対し、ハイパーインフレの数量的な定義を持ちだし、実施されている量的緩和からはハイパーインフレが起こらないと再反論をした。

 量的緩和について、「効果がない」から「ハイパーインフレになる」とは、まったくお粗末だが、マスコミは相変わらず、日銀理論を信じている人が少なくないようだ。かつては日銀自身が日銀理論を唱えていたので、日銀に取材しなければ記事を書けない人たちにとっては、日銀理論を否定することは自己否定になるからだろう。

 日銀理論の背景にあるのが、日銀官僚の責任回避だった。量の管理はできないのだから、デフレも日銀の責任ではないというものだ。効果がないとか、効果が出すぎてハイパーインフレになるというのも責任回避の表れだ。量の管理ができないというのは、金融政策ができないというのに等しいが、そこまでして責任回避したいものかと思った。

 官僚制の欠陥は「無謬性(むびゅうせい=間違いを起こさないという考え方)」と「責任回避」であるが、かつての日銀はその典型だった。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】財政・金融政策は意見ではなく、原理原則を実体経済に適用することで実行されるべきもの(゚д゚)!

上の記事で髙橋氏が語っていることは、意見ではありません。事実というか、原理もしくは原則です。あるいは、そこから導かれた見解です。何やら、日銀官僚等が主張することと違うことをいうと、髙橋氏と日銀官僚の意見が異なり、その時々で金融政策は意見の対立によって決まるのではないかと思ってしまう人もいるかもしれません。

金融政策は「意見」ではなく、原理原則を実体経済に適用すべきものである

そのわかりやすい事例が、財政を巡る自民党内の組織です。岸田首相に近い財政健全化推進本部(本部長:額賀福志郎、最高顧問:麻生太郎)と、安倍元首相に近い財政政策検討本部(本部長:西田昌司、最高顧問:安倍晋三)があります。前者は財政再建路線、後者は積極財政路線であり、両者は基本的な方向が異なっています。自民党内で二つの本部があるのはかなり異様です。

このような派閥のバトルで財政が決まるというのですから、財政はその時々で、派閥の力が強いほう、すなわち派閥の意見によって決まると思われても仕方ないです。

本来財政も金融政策も、その時々の意見や、派閥力学の均衡で決めるべきものではありません。もっと簡単で誰にでも理解できる原理原則を実体経済に適用することによって現実的に決められるべきものです。そうして、財政政策検討本部に所属している議員らは、そのことは十分承知なのでしょうが、岸田総理がこのような体制にしてしまったので、現状では財政政策検討本部に属しているのでしょう。

一方、財政健全化推進本部に属している議員らは、自分たちの考えも、財政政策検討本部の議員らの考えも意見であり、自分たちの意見を通したいと考えているのでしょう。

財政政策は元来派閥の争いで決めるべきではない

原理原則とは誰もが単純に理解できるものでなければ、原理原則になり得ません。ただし、原理原則が成立するまでには、科学的検証はもとより、様々な経験や失敗があり、その上に原理原則が成立し、高校や大学の教科書などにも記載されているのです。

そうして、財政政策の原理原則も簡単です。景気が悪ければ、積極財政と金融緩和を、景気が良ければ、緊縮財政と金融引締をするというものです。

そうして、景気の状況を見分ける原理原則も簡単です。一番重要なのは、失業率です。たとえば、景気が悪い時には失業率があがります。そうなれば、積極財政や金融緩和を行います。それで失業率が下がり始めますが、ある時点になれば、積極財政や金融緩和をしても、物価は上がるものの、失業率は下がらなくなります。その時点になったことが、はっきりすれば、積極財政や金融緩和をやめれば良いのです。

反対に景気が過熱してはっきりとしたインフレ状況の場合は、緊縮財政、金融引締を行います。そうすると、物価が下がり始めます、しかしこれも継続していると、やかで物価は下がらず、失業率が上がっていく状況になります。そうなれば、緊縮財政、金融引締をやめます。

基本的には、政府の財政政策と日銀(日本の中央銀行)の金融政策の基本です。さらに、もう一つあげておきます。それはデフレへの対処です。日本人は平成年間のほんどとはデフレであったため、デフレと聴いてもさほど驚かなくなってしまいましたが、デフレは景気・不景気を繰り返す通常の経済循環から逸脱した状況です。デフレが異常であるというのは、疑う余地のない原理原則です。

これを是正するためには、大規模な積極財政、大規模な金融緩和をして一刻もはやくデフレ状況から抜け出すというのが、これまた原理原則です。

これが、財政政策、金融政策の原理・原則です。これ以外の原理・原則はありません。古今東西いずれの国でも、これを原理・原則としない国はありません。最近の日本などがその例外でしょう。

 ただ、EUなどでも、2010年前後には、景気が悪い時には、景気よりも財政再建すべきなどという論文が出され、それに従う国もありましたが、その論文そのものが間違いであることがわかりましたし、それを適用した国で財政政策が失敗したことが明らかになったたため、景気よりも財政再建を重視する国はすぐになくなりました。固執し続けているのは日本だけです。

以上のような原理原則は、高校の「経済社会」の教科書にも掲載されていることですし、マクロ経済のテキストでも原理・原則として扱われていることです。読めば誰にでも理解できます。

安倍総理が提唱した「アベノミックス」は原理原則に基づいたものであり、当たり前のことを言ったものです。これに対してかつてエコノミストの浜矩子氏は「アベノミックスには新しいものは何もない、アホノミックスだ」と述べました。原理原則といわれるものには、新しいものなどありません。すべて検証されつくして、疑う余地のないものだから、原理原則となっているのです。

浜矩子氏が何を言いたかったのか、理解に苦しみますが、「アベノミックスには新しいものは何もない」という発言自体は正しいです。「アベノミックス」を持ち出すまでもなく、日本では財政政策の原理原則が無視されていることが問題なのです。

無論原理原則だけでは、実際の財政政策、金融緩和政策を行うのは難しいです。財政政策というと、一昔前の政治家、ひょっとすると今でも「公共工事」をすることだと考える政治家も多かったようですが、そのような単純なものではありません。その他にも、減税や給付金制度などもあります。

本来財政政策の目標など政府が定めて、その目標を達成するために財務省が専門家的立場から手段や期間などを選び、実行するというのが、財政政策の原理・原則ですが、日本ではなぜか財務省の財務官僚が政治組織のようにふるまい、財政政策の目標設定も関与し、とにかく隙きあらば緊縮財政、増税をしようとするのですから、異常です。

日銀も同じことです。日本国の金融政策の目標は政府が定めて、その目標を実現するために、日銀が自由にその方法選んで実行するのが、国際標準の中央銀行の独立性というものです。日本ではこの中央銀行の独立性が間違って認識されているようで、白川総裁までは、上の記事にもあるように、奇妙奇天烈、摩訶不思議な理論で、とくにかく金融引締ばかりを繰り返しました。

財務官僚と、日銀官僚の誤謬によって、日本は平成年間のほとんどの期間が深刻なデフレに見舞われました。

世の中で原理・原則といわれるものを無視すれば、とんでもないことになります。実際日本は、財政・金融政策の原理原則が無視されて、30年以上もデフレが続き、賃金も上がらないというとんでもない状況に見舞われました。


経営学の大家ドラッカー氏は、マネジメントに関する原理原則を語り、それに関する著作を多く残しました。

マネジメントを一言で言い表すならば「人と社会のお役に立つこと」です。ドラッカーはマネジメントの原理原則は「成果を中心に置くということ」としました。マネジメントの原理原則とは、人に指示命令することでもなく、人を支配することでもなく、人を操作することでもなく、「責任が中心に据える」ものなのです。

ドラッカー氏はこれ以外にも様々なマネジメント上の原理・原則を語っています。企業などで、日々起こる事柄のほとんどはこの原理原則を適用できます。適用できないもはごくわずかです。

私は、この原理原則を知って以来、会社のことであまり悩むことはなくなりました。そのようなことよりも、この原理原則をどのように現実問題に適用するかに集中するようになりました。

テレビや新聞などで様々な問題などが日々報道されますが、この原理原則を知っているのとそうでないのとでは随分違うと思います。無論原理原則は、ノウハウなどではないので、すぐに実践できるということはありませんが、ほぼすべての問題に考える緒を与えてくれます。

ドラッカーの人生の原理・原則

この原理原則を知らずに、長時間悩んだりしている人をみると非常に気の毒に感じます。ただ、残念なことに、米国の経営学会ではドラッカーはほとんど忘れられているそうです。現在の経営学の主流は因果関係に力点を置くものがほとんどであり、それが原因で忘れ去られたようです。

しかし、ドラッカーのマネジメント上の原理原則は、原理原則であるがゆえに今でも十分に役立つと思います。考え方や意見などは変わるものですが、原理原則はよほどのことがないと変わりようがないからです。そうして、米国の社会の分断はドラッカー流の見方が忘れ去られことも大きな原因の一つではないかと思います。

多くの人が原理原則に基づいたドラッカー流の見方ができれば、米国ではあのような深刻な根深い分断は起こらないと思います。

日本でも、特に財政・金融政策には原理原則に立ち返り、まともな政策ができるようにすべきです。

そのためには、原理原則をわきまえた有力な人に議員になってもらわなければなりません。参院選では個人を選ぶこともできます。これを活用して、原理原則をわきまえた人に一票を投じるべきと思います。

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2022年6月23日木曜日

すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進―【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない!主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!

すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進

岡崎研究所

 6月7日付のウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、「中国海軍の大躍進:カンボジアでの基地は北京の世界的軍事野望の最新のしるしである」との社説を掲載し、警鐘を鳴らしている。


 このWSJの社説は、時宜を得た問題提起をしているいい社説である。中国海軍が大躍進しているというのはその通りである。東シナ海、南シナ海での中国海軍の活動に加え、世界的に中国海軍が基地のネットワークを作ろうとしている。大西洋に接する西アフリカにまで軍事基地を作ろうとしている。

 WSJの社説が特に警笛を鳴らすのは、米中の海軍力の戦略バランスが、中国に優位に働いている点と、中国が世界的に基地のネットワークを秘密裡に、段階的に構築している点である。前者については、中国が現在の355隻から2030年までに460隻に増強する計画があるのに対して、米海軍は、現在の297隻から27年には280隻にまで減少すると言われている。日本がそれを補填する海軍力を増強できるかは、今後の動きに関わってくる。

 中国の海のネットワーク化は、着実に進んでいる。まずは主要な港湾を、スリランカやギリシャ、イタリア等でおさえ、中東のアラブ首長国連邦(UAE)等とも関係を深め、さらにはアフリカのジブチやケニア、モーリタニアにまで及んでいる。

 最近では、ソロモン諸島と安全保障協定を結び、その他の南太平洋の島嶼諸国とも同様の協定を締結しようとしている。中国は、最初は、民間経済やインフラ整備から各国に介入し、次第に警察の治安部隊、軍事的関与にまで触手を伸ばす。

 中国が何を目的としているかについては、政治的影響力の強化、軍事的影響力の強化、及び制裁を課された場合の資源確保などであろう。中国のこの動きには十分注意していく必要がある。太平洋諸国については、日本も、豪州や米国と協力して、中国に対抗していく必要があろう。

日本にも求められる海軍力の増強

 タイ湾の海域については、カンボジアでの基地建設について関心国と意見交換をしていく必要もある。タイやベトナムがカンボジアでの中国海軍基地を歓迎しないことはほぼ明らかであり、実りのある話し合いになる可能性がある。

 タイ湾からインドに向かう海域については、ミャンマーがあり、中国が進出してくる可能性が高い。中国は、既にミャンマーの軍事政権に対しては、相当の武器供与をしている。日本は、自由で開かれたインド・太平洋構想の推進の観点から、インドともこの問題で協力の余地がないか、考えたらよい。

 この問題については、外交面でやれることも案外あるのではないかと思われるが、より大きい問題は、海軍力の増強である。米海軍が相対的に力を落とす中、日本の海軍力も強化すべきであろう。日本の防衛予算は増額が必須であるが、それをどこに振り向けていくかについて、このWSJ社説の問題提起を考慮すべきであろう。

【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない、主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!

上のような記事を読むと、またかという感じがします。

2020年9月に米国防総省は「中国の軍事力についての年次報告書」を公開し、中国の海軍力はアメリカを凌駕し、「世界最大の海軍を保有している」と発表しています。

また米海軍大学校やランド研究所などのシミュレーションでも、中国が台湾に侵攻した場合、中国海軍が勝つという結果が出たことが、ニュースとして報じられました。

それ以来、米海軍が中国軍に負けるという記事がマスコミ等でいくつも掲載されるようになりました。上の記事もこのような背景から掲載されたものと考えられます。

しかし、ここで考えなくてはならないのは、国防総省等がなぜこうした発表を行うのかということです。

彼らがやっている戦力分析やシミュレーションの目的はただひとつ、連邦議会に対してもっと艦船を購入してくれるように説得することにあるのです。


国防総省のいう「世界一の海軍」とは艦船の数などを指しているのです。しかし、実際には2020年おいても、上の表の通り、米軍の艦艇数は、中国のそれを上回っています。ただ国防省は、米軍は艦艇を世界中に振り向けなければならないのに対して、中国はインド太平洋地域にだけ配置すれば良く、そうすると中国のほうが米国を上回るというのです。

しかも、中国の艦艇製造速度は早く、いずれ全体の艦艇数でも中国が米国を上回るとしています。ただし、最近は中国の艦艇製造数もひところよりはかなり減りましたし、米国はトランプが大統領の時代に艦艇数を増やすことを決めました。

しかし、もうすでに何十年も前から、海軍力の意味は変わってきています。昔から、「艦艇には2種類しかない、水上艦艇と潜水艦である。水上艦艇はそれが空母であれ、何であれ、ミサイルや魚雷などの標的に過ぎない。しかし潜水艦は違う。現代の本当の海軍の戦力は潜水艦である」と言われています。

実際、1982年のフォークランド紛争において、イギリスは1隻の原潜を南大西洋で潜航させていたのですが、このたった1隻によってアルゼンチン海軍は敗北しました。原潜からの魚雷が、アルゼンチン海軍最大の軍艦「へネラル・ベルグラノ」を沈めたのです。

ところが米国防省などがシミュレーションを行うときは、原潜を考慮に入れることはありません。これを入れてしまうと、ゲームそのものの目的を潰してしまうことになるからです。原潜だけでなく、総合的な海軍力でいえば、米国が圧倒的であることは疑いがないです。

特にその中でも、米海軍はASW(対潜水艦戦闘力)が中国海軍をはるかに凌駕しており、その中でも対潜哨戒力は、中国を圧倒しています。さらに、米軍の攻撃型原潜は、いまや水中の武器庫と化しており、巡航ミサイル、対空ミサイル、対艦ミサイル、魚雷などありとあらゆる武装を格納しています。

たとえば、攻撃型原潜オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

その中国海軍と米海軍が戦えば、米軍が圧倒するのは疑いがないです。よって、台湾有事においては、米海軍攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、それで解決できます。大型のものを3隻派遣して、交代制で24時間常時台湾近海に1隻を潜ませ、中国海軍が台湾に侵攻しようとすれば、魚雷、ミサイルですべての艦艇、多くの航空機を撃沈することができます。

それどころか、巡航ミサイルで中国のレーダー基地、監視衛生の地上施設なども叩くことができます。

それでも仮に、中国軍が陸上部隊を台湾に上陸させることができたにしても、攻撃型原潜で陸上部隊への補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。

中国海軍が多くの艦艇を持ち、さらに世界中に基地のネットワークを作ろうと、いざ米海軍と海戦ということになれば、米軍は圧倒的に勝利しかつほとんど被害を被ることはないでしょう。一方中国海軍は壊滅的な打撃を受けることになります。

ただ、このようなストーリーでは面白みもないですし、米海軍も艦艇の予算を得ることもしにくくなります。だからこそ、攻撃型原潜抜きで戦えは、艦艇数の多い中国海軍に、米海軍はまけてしまうというストーリーで耳目を惹きつけ、さらにドローンの脅威などで味付けすれば、多くの人々の耳目を惹きつけ予算を獲得しやすくなります。

ドローンであろうと、偵察衛星であろうと、水中に潜む潜水艦を発見できなければ無意味です。潜水艦への攻撃は潜水艦が発見できてはじめて可能になります。その能力が日米は中露をはるかに凌駕しているのです。これにより、日米と中露が海戦を行えば、中露にはまったく勝ち目がありません。中露は日本の海上自衛隊と単独と戦っても勝ち目はないでしょう。

現在の技術では監視衛生で水中の潜水艦は発見できないし、中露のドローンも対潜哨戒力は低い

米国防省の報告書や、さらにこれらを根拠とするマスコミ報道を真に受ける必要はありませんが、ただそうはいっても米国防総省としては、中国海軍への対抗措置として新たな試みに挑戦し続けるべきです。新たに攻撃型原潜を増やすとか、水上艦艇でも必要なものを増やすとか、メンテナンスのための工廠を増やすなど、現実的な予算の要求をすべきと思います。

日本も米国並にASW(対潜水艦戦闘力)が強く、特に対潜哨戒能力は米軍とならび世界トップクラスです。これは、冷戦中に米国の要請によって、オホーツク海のロシア原潜の行動を監視することによって得た能力です。

日本の場合は、米国のように攻撃力の強い、攻撃型原潜はありませんが、ステルス性に優れた通常型潜水艦があります。この潜水艦も米国の攻撃型原潜には及ばないものの、通常型としては十分な攻撃力があります。現在22体制で運用されており、日本は専守防衛はできます。

中国海軍が日本に侵入しようとして、陸上部隊を送ってきた場合などは、これらを撃沈できますし、たとえ陸上部隊が上陸したとしても、潜水艦隊で包囲して補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。そのため、中露や北などが、日本に上陸しようとしても、なかなかできません。よって、日本は独立を維持することはできます。

マスコミで喧伝されてはいますが、中国にとっては台湾や尖閣諸島に武力で侵攻して、略奪するようなことは、簡単なことではないのです。

ただ、日本でもなぜか米国のように、日本防衛といういうと、水上艦艇、航空機、陸上兵力による防衛ばかりが議論され、潜水艦はでてきません。日本も潜水艦なしで、中国と対峙するとなると、かなり分が悪いです。これは、日米というか、いずれの国でも、昔から潜水艦の行動は隠密にされるのが普通だからかもしれません。

日米ともに、自国のASWの能力や、潜水艦隊の実力を国民に正しく啓蒙すべきでしょう。特に日本では、中国の軍事力の拡大の脅威を盲目的に信じて、中国には到底勝てないと思い込む人も多く、「中国に頭を下げるべき」とか「攻め込まれたら、戦え戦え正義のために戦えだけではだめだ」などという言葉を真に受ける人もいるようです。これでは、いたずらに中国のプロパガンダに加担することになってしまいかねません。

尖閣危機、台湾危機を一方的に煽る人もいますが、一方的に煽るのではかえって中国のプロパガンダに加担することにもなりかねません。なぜなら、それによって尖閣も台湾もすぐに簡単に中国によって侵略されしまうと信じ込む人が増えるからです。

実際、台湾も尖閣もいつ中国に奪取されてもおかしくないと考える人は多いです。しかし、あれだけ何回も長期間わたって尖閣や台湾を脅しているのはどうしてでしょうか。中国が台湾や尖閣を奪取できるだけの軍事力があるなら遠の昔に奪取しているはずです。

それどころか、中国海軍のロードマップでは、2020年には、第二列島線まで、確保する予定だったはずですが、現状では第一列島線すら確保はできていません。なぜできないのでしょうか。

かといって、日本の海自の海軍力はアジア最強であって、中国など全く脅威ではないと主張するのも問題です。バランスが重要だと思います。

そうして、最近のこのブログで述べたように、日本の潜水艦隊の運用は専守防衛にかなり傾いており、ロシアがウクライナにしたように中国が日本の国土にミサイルなどを直接打ち込めば、国土は破壊され、多くの国民の生命や財産が失われる可能性は否定できません。独立が維持できても、国土が破壊されてしまえば、悲惨なことになります。できることなら、こうしたことも防ぐべきです。

これを防ぐためには、先日もこのブログに掲載したように、日本も攻撃型原潜を持つことも検討すべきです。ある程度大型で、巡航ミサイルなども多数搭載できる攻撃型原潜があれば、敵基地攻撃もできます。

さらに、日本がタイやカンボジアなどを含む、アジア太平洋地域全体の安全保障に関与したり、日本のシーレーン全体の安全保障も関与するというのなら、攻撃型原潜の保有も必須となるでしょう。なぜなら、これらも日本の安全保障のテリトリーに加えるというのなら、長時間潜水でき、かつ大量の兵器を格納できる原潜が必要になるからです。

それとともに、日本はいたずらに中国の軍事的脅威だけに注目することなく、地政学的戦いにも注力すべきです。

米国と中国の真の戦場は、経済とテクノロジーの領域にあります。なぜなら、軍事的には中国はいまだ米国に対抗できる力がなく、外交戦略においては、中国に対峙しているのは、米国一国ではなく、すでにより広範な反中国同盟だからです。

さらに、米国も中国を武力で追い詰めれば、中国の核兵器の使用を誘発し、中国が核を使えば米国もそれに報復することになり、エスカレートして終末戦争になることは避けたいと考えているからです。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

「中国製造2025」の段階を示すダイアグラム

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえば過去に英国がアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

現状では台湾にすら武力侵攻は難しい中国です。中国としては、軍事力ではない他の分野で日本に対抗しようとするのは、当然です。そうした日本が中国と対峙するのは米国と同じく「地政学的戦争」になるのは明らかです。

日本では、岸田文雄政権が看板政策に掲げる経済安全保障推進法が先月11日の参院本会議で可決、成立しました。半導体など戦略的に重要性が増す物資で供給網を強化し、基幹インフラの防護に取り組む体制を整える。2023年から段階的に施行します。

どの程度実効的な措置がとれるのかが課題です。

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2022年6月22日水曜日

「原潜保有」提起 国民・玉木代表、中露北の脅威にディーゼル型潜水艦では不十分 「相当なコストが…必要か疑問」世良氏が指摘―【私の論評】日本の最新鋭潜水艦と原潜は別物、用途で使い分けるべき(゚д゚)!

「原潜保有」提起 国民・玉木代表、中露北の脅威にディーゼル型潜水艦では不十分 「相当なコストが…必要か疑問」世良氏が指摘

国民・玉木代表

 日本周辺で、中国やロシア、北朝鮮の軍事活動が活発化して安全保障上の脅威が高まるなか、国民民主党の玉木雄一郎代表が「原子力潜水艦保有の検討」を提起した。日本を標的とする潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)搭載の原潜に対応するには、自衛隊のディーゼル型潜水艦では不十分だと主張している。日本が原潜を保有する実現性はあるのか。

 「原子力潜水艦を保有するなど、適度な抑止力を働かせていくことを具体的に検討すべきだ」「(日本が)攻撃を受ける可能性があるのは、発射地点が分からないSLBMだ」

 玉木氏は14日、国会内で取材に応じ、こう指摘した。原潜保有は安全保障リスクに対処するうえで有効だという。

 日本の抑止力強化では、米国の核兵器を共同運用する「核共有」も議論されるが、玉木氏は「抑止力を強めることに貢献しない」と否定した。ロシアのウクライナ侵攻でドローン攻撃が多用されている現状を挙げ、長射程ミサイルに限定せず、抑止力と反撃力を強化する手段を議論すべきだと主張した。

 原潜保有については、昨年9月の自民党総裁選でも4候補が激論を交わした。

 高市早苗政調会長は「国際環境や最悪のリスクなどを考えると、長距離に対応はできるものはあっていい」と前向きな見解を示し、河野太郎広報本部長も「日本が持つのは非常に大事」と、コストなども含めて検討を進めるべきと強調した。

 一方、岸田文雄首相は「原子力技術は大事だが、日本の安全保障の体制を考えた場合、どこまで必要なのか」と疑問を呈し、野田聖子こども政策担当相も「非核三原則を堅持する国だということを明確にしたい」と述べていた。

 日本の原潜保有を、識者をどう分析するか。

 軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「日本の防衛戦略から考えれば、必ずしも原潜保有が必要かは疑問だ。原潜は高速で長距離を長期間、潜水航行できる。一方、日本の通常動力潜水艦は静粛性で勝る。日本は有事では海峡などで静かに敵潜水艦を待ち受けて迎撃する戦略で、長距離航行の能力はさほど必要ない。原潜保有には相当なコストもかかる。原潜に対抗するには原潜という発想は疑問がある」と指摘した。

【私の論評】日本の最新鋭潜水艦と原潜は別物、用途で使い分けるべき(゚д゚)!

日本の通常型潜水艦の強みはなんといっても静寂性(ステルス性)です。この静寂性は世界一であり、ほとんど無音と言っても良いくらいです。この静寂性という強みがあるため、上の記事では世良光弘氏が、日本の原潜保有に疑問を呈しているのだと思います。

進水式直前の「はくげい」

防衛省は2021年10月14日(木)、川崎重工神戸工場(神戸市中央区)において、新規建造された潜水艦の命名式および進水式を実施しました。「はくげい」と命名されたこの艦は、たいげい型潜水艦の2番艦にあたります。

「はくげい」は全長84.0m、幅9.1m、深さ10.4m、基準排水量3000t、乗員は約70名、主機関はディーゼル電気推進で、軸出力は6000馬力です。起工は2019年1月25日で、今後、艤装や各種試験を実施したのち、2023年3月に引き渡しの予定です。

たいげい型潜水艦は、ディーゼル推進の通常動力型潜水艦としては世界最大級であり、なおかつ建造時から女性自衛官の勤務を想定して相応の設備を有しているのが特徴です。

防衛省・海上自衛隊の説明によると、従来のそうりゅう型潜水艦と比べて探知能力が大幅に向上しているほか、静粛性も増しているとのこと。外観形状はそうりゅう型とほぼ変わらないものの、主機関にはディーゼルエンジンとリチウムイオン電池を組み合わせたディーゼル電気推進が採用されています。

なお、「はくげい」は漢字では「白鯨」と書き、白いマッコウクジラを意味するとのこと。この名称を海上自衛隊で用いるのは初めてです。

米アナリストや元哨戒機乗員によると、かつて最高の静粛性を誇った米原潜が、今は一番雑音がうるさい」そうです。2月12日、オホーツク海においてロシア海軍艦艇が、アメリカ海軍最新型バージニア級原潜を探知し、米海軍当局もそれを認めたことからも、この発言は裏付けらています。

深海を航行する潜水艦を探知するには、潜水艦が発する雑音を探知するしかないです。

最近オホーツク海に配備されたロシア海軍原潜の、弾道ミサイル搭載ボレイ級、巡航ミサイル搭載ヤ―セン級原潜は、アメリカ原潜ロサンゼルス級よりも静粛だと言われています。

ロシアはかなりの予算をかけることで潜水艦の高度な研究が可能になり、原子炉、蒸気タービン、モーター、プロペラに接続する動力伝達などの静粛性を高めました。

中国原潜も多額の予算と米国でのスパイ戦の成果などで、凄まじい速度で進化し静粛性が高まっているとされてます。

潜水艦を推進させるスクリューや船体の建造には、多くのデジタル技術が使用されます。

そこまで静かになった中露潜水艦を発見するには、海自の最新鋭潜水艦「たいげい」型レベルのソナーが必要になります。

海中の潜水艦が発する音には、原子炉、蒸気エンジン、スクリューなどの作動音があり、それが海中を伝播します。「たいげい」型の最新ソナー「ZQQ-8」高性能ソナーシステムは、艦首アレイのコンフォーマル化でこれまでの球形ソナー以上に正確性が向上します。

さらに、その他に2カ所ある側面アレイの開口拡大により、艦側面の探知能力が向上、曳航アレイの指向性も向上しています。この計4か所の異なるソナーの探知情報を自動統合化することで、探知能力は凄まじく強力になっています。

なので、「たいげい」は新型ソナーの性能を試すために、実際に中露の新鋭潜水艦を待ち伏せしプロペラ音などを収音する活動を行うでしょう。

また、潜水艦の装備としてまず潜望鏡を思い浮かべる人も多いでしょう。潜水艦がソナーで水上航行中の敵艦を発見すると、そこから潜望鏡の出番となります。

ソナーで敵艦を発見した場合、その艦艇は本当に敵なのか、艦番号や艦影を目視して確認しないと攻撃に移れません。その時に潜望鏡を海面に出して敵艦を目視します。しかし、その潜望鏡が敵水上艦から発見される可能性があるので、出来る限り短時間で目視確認をしないといけません。

そうなると、潜望鏡の光学レンズで敵艦を見ている艦長の目だけが頼りとなってしまいます。

そのため、「おやしお型」までは潜望鏡にフィルムカメラ装着して撮影し、艦内で現像して写真に焼いて確認をしていましたが、それでは時間がかかり過ぎです。今はビデオカメラで撮影可能になり、デジタル画像ですぐに確認できるようになりました。

「たいげい」の新しい潜望鏡は外観から見た感じでは、カラー、高感度モノクロ、赤外線の撮像、レーザー測距、ESM装置が備わっているようです。

さらに、「たいげい」型にはリチウムイオン電池が搭載されています。防衛省は「たいげい」型を『リチウムイオン電池を新たに搭載することにより、従来型潜水艦に比べ水中の持続力や速力性能などを大幅に向上した潜水艦』と発表してます。リチウムイオン電池は鉛蓄電池と比べ蓄える電気容量が数倍多く、充電時間が短いからです。

従来の潜水艦は頻繁に浮上してディーゼル機関を回し充電していた。浮上航行中の潜水艦は一番脆弱です。その点、リチウムイオン電池なら数日から数週間は潜水可能といわれ、さらに充電時間が短く、浮上航行充電時間が短くてすみます。

ロシア海軍のヤーセン型原子力潜水艦

中露の原子力潜水艦は、原子力潜水艦の構造上どうしてもある程度は騒音が出るため、日米はこれを発見しやすいです。一方日本の「たいげい」のような最新鋭潜水艦の場合は、ほとんど無音に近いです。これを発見するのは相当難しいです。

この「静寂性」を活用して、日本の潜水艦は中露に発見されることなく、偵察や情報収集活動ができます。また、海戦になった場合は、日本の潜水艦は敵に発見されることなく、多くの官邸を撃沈できるでしょう。

ただ、日本の潜水艦にも欠点はあります。それは、原潜は理論上は無限に航行できますし、駆動力も大きく、水中の武器庫といわれるくらい、多数の多様な兵器を搭載できます。通常型潜水艦の場合は、そうはいきません。

オハイオ潜水艦は今はもう核ミサイルを搭載していないですが、米海軍のすべての潜水艦と同様、原子力を動力とします。現在の呼称は「巡航ミサイル搭載原子力潜水艦(SSGN)」で、原子炉によってタービン2基に蒸気を送り、その力でプロペラを回すことで推進します。

米海軍によると、その航続距離は「無制限」。連続潜航能力の唯一の制約となるのは、乗組員の食料を補給する必要性のみです。

オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

         トマホークミサイルが2018年の試験で米海軍の潜水艦から発射される様子。
         オハイオ級巡航ミサイル潜水艦はトマホーク154基を搭載できる

トマホーク1基では、爆発力の高い弾頭を最大1000ポンド(約450キロ)搭載可能です。SSGNなら多くの火力を迅速に運搬できます。154基のトマホークは甚大な打撃を正確に与えることができる。いかなる米国の敵もその脅威を無視できません。

日本の最新鋭潜水艦は、ステル性に優れているため、日本近海に潜み敵が日本を攻撃しようと企てた場合、その状況を偵察したり、あるいは艦艇を攻撃することができます。いわゆる専守防衛にはうってつけです。そもそも、日本近海には日本の潜水艦が無音で潜んでいるので、日本を攻撃しようとした場合これらに阻まれることになります。

一方、日本の潜水艦は武装には限りがあり、米国の攻撃型原潜のように水中の武器庫と呼ばるほどの大きな攻撃力はないですし、原潜ほど長時間の単独航行もできません。

日本の潜水艦は海洋上の重要水路、さらには中国や北朝鮮の海軍基地や港の外側に長期間にわたって居続けることができます。また、関心を寄せている他の場所でも何週間も海上交通を監視することができます。議論の中心となるべきは、海自がより広範囲の地域をカバーするためにさらに多くの攻撃型原潜を持つべきかどうかでしょう。

日本の潜水艦と攻撃型原潜などの原潜は別物と考えたほうが良いでしょう。それぞれの利点をいかしつつ、日本の防衛にあたらせるというのがベストでしょう。

日本が原潜を持つとすれば、当面は核を搭載した戦略型の潜水艦ではなく、戦術型の攻撃型原潜になるでしょう。

攻撃型原潜に米国と同様にトマホークなどを多数搭載できれば、戦略型原潜に近いことができます。いわゆる敵基地攻撃ができますし、たとえば、日本が核で攻撃されて、壊滅状態になったとしても、攻撃型原潜は水中に潜み、敵に攻撃を加えることができます。

日本が専守防衛だけではなくインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛までを考えた場合は、攻撃型原潜が必要になります。

日本にはすでに優れた通常型の22隻の潜水艦があります。これらによっても、専守防衛的な防衛などは十分にできます。海戦においては、中露に十分対応できます。中露を艦艇や潜水艦の日本の海域への侵入を防ぐことができます。

日本は、これらの国々の侵攻を阻止し、日本国の独立を維持することができます。ただし、専守防防衛だけでは、ウクライナのようになってしまいます。

日本の国土に多数のミサイルを打ち込まれれば、国土は破壊され、多くの国民の人命、財産が失われます。それを防ぐためにも、攻撃型原潜も必要になる場合もあり得ます。

日本が攻撃型原潜を持つかどうかの判断は、日本の潜水艦と原潜は別物であるという観点は外せないです。

日本が攻撃型原潜を持つか否かの議論は、専守防衛に傾いた日本の海軍力の是正つながる可能性もあると思います。

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2022年6月21日火曜日

「円安・物価高」のデタラメ報道 GDPギャップにも言及せず 「国際経済常識」に外れた滑稽さ―【私の論評】自民党内最大派閥の領袖安倍氏に表立って反抗できない大企業のサラリーマン社長のような岸田総理は、積極財政に舵を切る(゚д゚)!

日本の解き方


金融政策の本質を理解していない鈴木財務大臣の発言

 為替の円安をめぐっては、「輸入価格の上昇で家計や中小企業の負担が大きい」と強調する報道が目立つ。また、「米国が利上げしているのに、日銀は金融緩和を継続している」と批判したり、「以前に比べると円安メリットは限定的」といった報道や分析もみられる。

 こうした論調には、経済全体をとらえるマクロ経済の視点がないものが多い。家計の負担が大きい、中小企業が大変というが、その一方、史上最高の収益を得ている大企業も多い。

 米国は利上げしているので、円安是正のため日本も利上げすべきだというのも、マクロ経済の基本ができていない議論だ。金融政策にはインフレ目標がある。それはインフレ率(と表裏一体の失業率)のコントロールを目標とするもので、為替水準を目標とするものではない。

 米国においてインフレ率が高くなっているのは、バイデン政権発足直後の大型財政出動によりGDPギャップ(総需要と総供給の差)が解消されたことによるものだ。

 しかし、日本では依然大きなGDPギャップ(デフレギャップ)が残っている。そのため、エネルギー価格などは上昇しているが、物価の基調を示すエネルギー・生鮮食品を除く消費者物価指数は4月時点で対前年同月比0・8%上昇に過ぎない。ほとんどのマスコミの報道で、このGDPギャップについて言及されない。


 また、日本の報道はエネルギー価格の上昇と円安を混同しているものばかりだ。米国はドル高なのに高いインフレで、日本は円安なのにそれほどインフレでない。エネルギー価格は国際要因なので共通だが、為替は国内物価への影響が少ないのだ。実際、消費者物価指数で、円安が押し上げ効果を持つとされる輸入競合品のウエートは25%程度しかない。

 「円安メリットは限定的」との意見にも根拠がない。円高時に海外拠点に移行したからというが、輸出は減っても海外投資収益が増えているはずだ。円安で国内総生産(GDP)が減少するといった議論もあるというが、内閣府などの国内機関や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関の経済モデルと真逆な結論だ。

 自国通貨安は、自国経済にはプラスだが隣国はマイナスという意味で、古今東西「近隣窮乏化」として知られている。通貨安は輸出主導の国内エクセレントカンパニーに有利で、輸入主導の平均的な企業には不利だが全体としてプラスになるので、どんな国でも自国通貨安はGDPのプラス要因になる。

 もし国際経済常識を覆すなら世紀の大発見だ。いずれにしても、最近まで「通貨安戦争」とあおっていたマスコミが手のひら返しするのは滑稽だ。日本にとって、エネルギー価格の上昇はGDPのマイナス要因だが、円安はプラス要因だ。両者を峻別することが必要だ。

 国際通貨基金(IMF)などの国際機関で、世界経済見通しが発表されているが、日本経済の落ち込みは軽微だ。それは円安になっているからだ。円安を不幸中の幸いとして、円安是正よりGDPプラスの効果を生かすべきだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】自民党内最大派閥の領袖安倍氏に表立って反抗できない大企業のサラリーマン社長のような岸田総理は、積極財政に舵を切る(゚д゚)!

鈴木財務大臣は4月15日閣議後の会見で、円安の進行を巡り、輸入品の高騰などを踏まえて「悪い円安ということが言えるのではないか」と述べました。

「円安が進んで輸入品等が高騰をしている。そうした原材料を価格に十分転嫁できないとか、買う方でも、賃金が伸びを大きく上回るような、それを補うような所に伸びていないという環境。そういうことについては、悪い円安ということが言えるのではないかと思っております」

財務大臣ですらこのような発言をするのですから、マスコミや野党が誤った発言をするのも無理はないのかもしれません。

ただ、心配なのは政治がどう動いていくかということです。

野党第1党の立憲民主党は、物価上昇を奇貨として岸田文雄政権批判を強め、日銀にインフレ対策(金融引き締め)を要求しています。他方、物価高対応という面では岸田政権の財政出動(財政拡大)は不十分だとしています。まさに「金融引き締め」と「財政拡大」を同時に求めるという、相矛盾した支離滅裂な批判です。

党首討論会に臨む(左から)立憲民主党の泉健太代表、自民党総裁の岸田文雄首相、公明党の山口那津男代表=21日午後、東京都千代田区

しかし、米国同様にインフレ対策が参院選の争点化するなか、日銀が利上げなどの金融引締に走れば、景気は腰折れし、株価は暴落することになるでしょう。

ただ、岸田政権としては、財政対応が不十分であるという野党の批判によって、政府・自民党はさらなる財政支出の「大義」を得たことになるともいえます。

参院選後に積極財政・金融緩和の両方を実施できるという環境が整ったともいえます。これを岸田氏がどうとらえるかはわかりませんが、いずれにせよ岸田首相が再度の財政刺激策にかじを切る可能性が高まってきました。

岸田政権にはそのようなことはできないし、できるとすれば増税だと思う人も多いようです。しかし、総理が全ての政策を決めると思っている人が多いようですが、確かに安倍総理時代には、安倍氏が自民党内の3分の2を押さえており強い総理であり、官邸主導の政治を行うことができましたが、岸田さんは第五派閥で、大企業に例えるといわばサラリーマン社長のような存在です。安倍政権と岸田政権においては、同じ自民党政権とはいっても全く体制が違うのです。

安倍元総理は、今や自民党内最大派閥の領袖ですし、麻生、安倍、茂木の主要三派が手を組んでいるので、岸田さんは逆らえないです。逆に党が政策を決定しており、総理時代よりも安倍氏は自由に動けます。

そのことを考えると、今後岸田総理が何を言おうと、基本的には政府日銀連合軍方式で、政府が国債を大量発行し、日銀がそれを買い取るという形で、大型の景気対策を実施したり、防衛費を増大したりすることでしょう。

16日仙台市内で講演する安倍総理

自民党の安倍晋三元首相は17日、「日本銀行が行う金融緩和政策は当然続けないといけない。米国のように金融を引き締めれば景気がガンと悪くなる。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁がやっていることは間違いない」と強調し、大規模な金融緩和の継続を訴えました。仙台市内で講演しました。

安倍氏は昨今の物価高について、ウクライナ情勢などに起因するとの認識を示し、「日本が本来目指す物価高とは違う。景気が良くなって、需要が増え、モノの値段が上がって、給料が上がる中で、値段が上がっていく状況ではない」と説明。その上で「(秋に予定される)臨時国会を迎えた時には思い切った財政政策、金融政策をやっていくべき。金利が低い状況では、財政政策は基本的に大きな効果を上げていく」と語りました。

自民が参院選公約で国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に防衛費を増やす方針を明記したことについては「国家意志を示している」と強調。中国がこの30年で軍事費を約40倍に増強したことに言及し、「軍事バランスを、よりバランスの取れた状況に変えていくことが大切だ。ウクライナはロシアと軍事バランスがとれていなかった」と指摘しました。

自衛隊の厳しい運用状況を巡り「機関銃の弾からミサイル防衛のミサイルまで圧倒的に足りない。飛行機の部品を確保するために、なんとか使える飛行機をバラバラにして、他の戦闘機の部品にしていく、いわゆる『共食い』をやっています。こんなことは止めないといけない」と内実を明かしながら、防衛予算を増額すべき理由を説明しました。

防衛費をGDP比で考える理由については「それぞれの国の経済力、実力に見合った防衛努力をしていこうということだ。攻められたとき、努力していない国のため、手を差し伸べる国は世界中どこにもない」と述べました。

これだけ、自民党内最大派閥の領袖安倍氏が語っているわけですから、大企業のサラリーマン社長のような岸田総理が、これまた大企業の財務部長のような財務省のいうことだけを聴いて安倍氏に逆らうようなことはとてもできないでしょう。

そうなれば、安倍派等からそっぽを向かれて、まともな国会運営もできなくなってしまうでしょう。これは、財務省からそっぽを向かれるよりも大変なことです。

秋に予定される臨時国会において、岸田総理は財務省の必死の抵抗にあってもなお、大型補正予算案を出さざるを得なくなるでしょう。

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2022年6月20日月曜日

トランプの対中関税で続くインフレ圧力―【私の論評】内需超大国米国こそTPPに加入しメリットを享受すべき(゚д゚)!

トランプの対中関税で続くインフレ圧力

岡崎研究所

 米国では、8%を超えるインフレを受けて、政権内外で、トランプが2018年に導入した対中制裁関税(3000億ドル超の産品に掛けている)を引き下げるよう求める声が高まっているようだ。ワシントン・ポスト紙の5月30日付け社説‘It’s time for Biden to lift Trump’s China tariffs’は、米国内のインフレ抑圧のためにバイデンはトランプの対中制裁関税を撤廃する時だ、と主張する。正論だ。


 トランプの関税は、米中貿易関係を改善したというよりも、米国の消費者、生産者双方にコストを掛けることになった。競争力のない一部の米企業とその労働者は保護から利益を得たかもしれないが、経済的に理屈に合わない政策であったことは最初から分かっていた。それが4年も続いている。

 バイデンもトランプ関税を批判してきたが、それをそのままにしてきた。それではトランプと同じ政策になる。制裁関税の撤廃は中国と取引し、もっと早く撤廃すべきだった。ピーターソン国際経済問題研究所の試算によれば、対中制裁関税の撤廃はインフレを直ちに0.3%下げ、潜在的には向こう1年で1%以上インフレを下げる効果があるという。

 しかし、撤廃の議論はなかなか動いていない。米通商代表部(USTR)は5月3日、対中制裁関税を見直す作業を始めると発表した。イエレン財務長官などがインフレ抑圧のために当該関税撤廃を求めている。

 それでも、政権内部の意見は割れている。タイ通商代表、ビルサック農務長官、国家安全保障会議(NSC)のサリバン等は撤廃に反対、他方イエレン、ライモンド商務長官などは産業界、消費者の利益を考え、撤廃に賛成の主張をしていると言われる。

中間選挙でも争点となる可能性

 バイデンは、5月31日付けのウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿‘My Plan for Fighting Inflation’でも関税撤廃には触れていない。撤廃すれば中間選挙でトランプ勢力に攻撃材料を与えることになることを恐れているのだろう。秋の中間選挙に向けて、経済は大きなイシューになる様相が強まっている。

 バイデン政権は難しい立場に追い込まれている。バイデンは政権の経済閣僚等のインフレ対策に不満を募らせているという。

 上記ワシントン・ポスト社説は、「中国は未だ公正な貿易をしていない。主要産業への補助金等中国政府の反競争的政策は、知財保護になっておらず、更に悪いことに外国企業の市場参入を難しくしている。中国を変化させる最善の方法は、米の対中依存を下げるために他の国々との貿易連携を強化することだ」と指摘したうえで、環太平洋経済連携協定(TPP)を高く評価、先般バイデンが発表したIPEFは内容が乏しくTPP加盟の代替にはならないと言う。

 こんなに多くのところで支持されているTPPにつきバイデンが動こうとしないのは、理屈が分からない。もっと果敢に動くことが望まれる。

【私の論評】内需超大国米国こそTPPに加入しメリットを享受すべき(゚д゚)!

米国は東南アジア諸国連合(ASEAN)との特別首脳会議を通じ、アジアとの経済関係を強化するため近く発表する「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を説明して引き込みを狙っていました。しかし米国が自国の市場開放に消極的なため魅力が薄いと判断する国も多く、10カ国のうちIPEFに当初から加入するのはシンガポールとフィリピンのみの見通しでした。共同声明もIPEFに言及しませんでした。


米国は、日本など11カ国による環太平洋連携協定(TPP)から脱退し、代わりにインド太平洋地域で経済的な関係を強める枠組みとしてIPEFを提唱。今回の首脳会議に合わせて訪米した各国の閣僚らに、米通商代表部(USTR)のタイ代表と商務省のレモンド長官が説明しました。

IPEF以前もこのブログで述べたように、「貿易」「供給網」「インフラ、脱炭素」「税、反汚職」の四本柱ですが、ルール整備が主体とみられ、経済連携協定で一般的な関税の引き下げは想定していません。米国が自国の産業や雇用の保護を優先して市場開放に消極的なためで、各国にとっては米国への輸出を増やすという実利は薄いです。

アジア地域ではTPPや、日中韓など15カ国による地域的な包括的経済連携(RCEP)が既に発効しており、9割以上の品目の関税撤廃で合意済みです。各国にとっては輸入が増えて国内産業が厳しい競争にさらされるリスクがある一方、海外に輸出を増やすチャンスもあります。

このため、ASEAN各国には、IPEFへの期待よりもRCEPなどの活用を優先する動きが広がっています。

米国はバイデン大統領の訪日に合わせてIPEFを公表しましたが、既に貿易活発化や幅広い取引ルールを定めた協定がある中、米国主導の枠組みがどこまで割り込めるかは未知数です。


世の中にはいろいろな芸人がいるが、中でもTPP芸人という興味深いカテゴリーがあります。かつて、民主党政権時代に「TPPは亡国の協定」とか、「国民皆保険がなくなる」とか、「日本の農業が壊滅する!」とか、面白いことを言って拍手喝さいを受けた芸人たちです。

安倍政権が誕生し、2013年にTPPへの参加を表明すると、この芸人たちは「表明した瞬間にすべてはアメリカの思い通り決まっている!」などと言っていました。この時はファンたちと大いに盛り上がったものですが、それも今となってはなつかしい楽しい思い出です。残念ながら一発芸人の命は短いです。TPP芸人バブルは完全に弾けてしまいました。

もちろん、日本の国益を守るためにTPPについて警戒すべき点があったことは事実だ。ISD条項やラチェット条項が本来とは違う意味でつかわれたりしたらこれは一大事です。

ISD条項とは事後的な法律の変更などにより、対外投資が水泡に帰した場合、その賠償を請求できる権利を明記した条です。1989年に日本は支那と投資協定を結んだのですが、そこにもISD条項は入っています。支那のように法律をコロコロ変える国と取引する場合は必須の条項です。

米国にもこの種の芸人たちは存在するのでしょうか。本当に困ったものです。関税撤廃や削減をを軸とした自由貿易協定への米国内での強いアレルギーがあるのは間違いないようですが、それにしても、関税の撤廃・削減はマイナス面だけではなく、米国も域内でそのような恩恵を得られるということを米国TPP 芸人たちは忘れているのでしょうか。

そうして、もう一ついえることは、米国の産業が貿易で成り立っているわけではないことを、米国のTPP芸人たちは理解していないのかもしれません。

輸出はGDPを押し上げ、輸入は逆にGDPを押し下げる要素であるが、それぞれ、日本では実質GDP全体のうち、輸出が約17%、輸入が約15%を占めています。

米国は、この比率はさらに低いです。この意味するところは、日米ともに輸出や輸入がGDPに占める割合は他国から比較すれば、かなり低く、両国とも内需大国なのです。世の中では、貿易が強い国が、良い国であるような認識がありますが、それは逆の側面からみると、外国の景気に左右されやすいということです。内需大国の日米はそうではないのです。


内需大国は、外需大国よりは、貿易によって影響を受ける度合いは低いです。カリフォルニア州の経済は、世界の国と比較しても第5位に相当する大きな規模です。 2017年時点での州内総生産額(GDP) は約2兆7460億ドルであり、アメリカ合衆国のGDPの13%に相当します。ウクライナのGDPは四国と同じくらいです。東京と韓国も同じくらいです。

米国は日本よりもさらに内需大国です。このような国が、たとえ貿易で関税を撤廃したり、削減したりしても、さぼと大きな影響を受けることはありません。もし受けるようなことがあれば、何らかの保護政策をしつつ、転換をはかるようなことは十分にできます。であれば、なぜ米国が TPPに加入しないのか、理解に苦しみます。

加入したほうが、米国にとってメリットが大きいですし、米国は、早急にTPP に復帰して、中国との「地政学的戦い」に本格的に挑むべきです。

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2022年6月19日日曜日

日銀の金融緩和策、「現状において変えるべきでない」-岸田首相―【私の論評】現在日銀が利上げすべきと主張する人は、金融政策の本質を何もわかっていない(゚д゚)!

日銀の金融緩和策、「現状において変えるべきでない」-岸田首相

中小企業の金利負担に考慮が必要、日本は他国より物価高抑制
財政は国際社会や市場の信認が重要、健全化の旗「掲げ続ける」

  岸田文雄首相は19日、円安抑制に向けて日本銀行の金融緩和政策を転換するべきだとの意見に対し、中小企業の金利負担への影響も考慮する必要があると述べ、「現状においては変えるべきではない」と語った。午前のフジテレビの番組で述べた。

岸田総理

  金融政策運営は「為替にも影響を与えるが、中小企業の金利等の負担にも影響を与える。こうしたことも考えなければならない」とし、景気全体の動向も考えた上で総合的に判断するべきものだとの見解を示した。その上で、「急速な円安によって物価に影響が出ている。ここが問題だ」とし、エネルギーや食料品に特化した物価対策をしっかり行うことが取るべき政策だと主張した。

  日銀は17日の金融政策決定会合で、現行の長短金利操作付き量的・質的金融緩和の維持を賛成多数で決めた。海外の中央銀行がインフレ高進に対応するために金融引き締めに踏み出している中で、外国為替市場では24年ぶりとなる一時1ドル=135円台まで円安が進行。事前の市場では金融緩和政策の修正観測が広がっていた。

  岸田首相は19日午後には「令和国民会議」(令和臨調)の発足大会に参加し、財政の持続可能性について「国際社会やマーケットの信頼をつなぎ留めることができる財政政策を日本が維持できるかが大変重要なポイントになる」と指摘。今後も「財政健全化の旗はしっかり掲げ続けていかなければならない」と述べるとともに、「経済成長あっての財政再建という考え方も大事にしたい」と語った。

【私の論評】現在日銀が利上げすべきと主張する人は、金融政策の本質を何もわかっていない(゚д゚)!

他の発言は別にして、日銀の金融緩和策、「現状において変えるべきでない」という発言は正しいです。財政健全化に関する発言はいただけませんが、金融政策に関する発言は全く正しいです。岸田首相にはぜひともこうした姿勢を崩さず、来年の日銀総裁人事に取り組んでいただきたいものです。

そもそも、世の中で識者と言われるような人でさえ、どうして通貨安になったり通貨高になったりするのか、その要因が理解できていません。特に長期的にはどのように決まっていくのか、全く理解していません。

為替は簡単に言ってしまうと、以下のような数式で決まります。

世界中に出回っている円の総金額➗世界中に出回っているドルの総金額=(単位:円/ドル)

中短期では、他の要素もあります。ただ、長期的にはこの方向に向かって円ドル相場が決まります。


日本が金融緩和を継続し、米国が利上げなどで金融引き締め的な姿勢をとれば、円安になるのは当然です。要するに、ある国の金融緩和の度合いが強いほど、他国に比較すると通貨安になります。

そうして、このブログにも掲載したように、円安になると日本はGDPが伸びる傾向にあります。というより、ある国が通貨安になるとその国経済は伸び、他国に比較して有利になります。これについては、高橋洋一氏が動画でわかりやすく説明しています。その動画を以下に掲載します。


世界的なコストプッシュインフレに対し、質素倹約や節電を説く「アドバイザー」が増えています。しかし、そのような事は、賢明な日本国民は誰に言われなくても実行します。問題は豊かな消費生活ができる所得環境をいかに造るかということです。財政出動で資金循環を拡大し、国民所得を増やす事が第一です。

しかも上の動画でもわかるように、円安は日本経済にとってプラスです。しかし、円安によって輸入価格が押し上げられているのは確かで、その対策として、消費税やガソリン税の減税や高コストに苦しむ中小企業への給付金等を実施すべきなのです。輸入品の価格の上昇は、所得が伸びなければそれ以外の価格の下落を招き、デフレに戻る危険性あります。

世の中には為替戦争などという言葉があり、意図的に自国の通貨を安くして有利にすることができると考える人もいるようですが、そんなことは不可能でしょう。なぜなら自国通貨を安くするために、自国内の経済とは無関係に緩和を続けていれば、国内は大インフレになります。だから自ずと、金融緩和政策をやめざるを得なくなります。

ただ、 以前もこのブログで述べたように、4月時点ではコアコアCPIが未だ0.8%の日本では、金融緩和を継続する必要があるのです。

上記で述べたような一連の事柄を知らずに、ただただ日銀は利上げせよと主張する人もいますが、これは良いリスマス試験紙になります。要するに今回利上げせよと主張するような人はまるで金融政策というものを理解していないということです。

緩和継続を支持する与党に対し、立憲民主、共産両党が見直しを求めています。国会は15日に閉会し、与野党は事実上の選挙戦に突入しました。

「欧州中央銀行が来月の利上げ方針を決定して、日本だけが金利においては取り残されている状況でさらに円安が進む。この状況をいつまで岸田政権は放置するのか」。立憲民主党の泉健太代表は10日の会見で、金融緩和を維持する政府・日銀の対応を批判しました。 

立憲民主党代表 泉健太氏

円安は輸入価格の上昇をもたらすことから、同党は物価高を「岸田インフレ」と称し、国会で首相や日銀の黒田東彦総裁の姿勢をただしてきました。参院選公約では「異次元の金融緩和」は円安進行と「悪い物価高」をもたらす、として政府・日銀の共同声明見直しを求めました。

立憲民主党、代表がこのような発言をして、円安そのものを争点にしているようですが、かなり無理があります。円安を容認した上で、中小企業やそれらの勤労者に対する支援を強化すべきとという主張をするならわかりますが、円安そのものを争点にするというのでは、ワイドショー民とあまりレベルは変わりません。共産党も似たようなものです。

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2022年6月18日土曜日

宗谷岬と伊豆諸島周辺を航行 ロシア海軍の艦艇―【私の論評】日米英はオホーツク海で大演習を行い、スターリンが関特演で味わった以上の恐怖をプーチンに味合わせるべき(゚д゚)!

宗谷岬と伊豆諸島周辺を航行 ロシア海軍の艦艇


 ロシア海軍の艦艇が、北海道の宗谷岬沖と太平洋の伊豆諸島周辺をそれぞれ航行していて、自衛隊が警戒監視を行っている。

 防衛省によると、17日午前、宗谷岬の北およそ40kmのオホーツク海で、ロシア軍のフリゲートやミサイル護衛哨戒艇など、あわせて9隻を海上自衛隊が確認した。

 9隻はその後、宗谷海峡を抜け、日本海に入った。

 一方、15日に北海道沖で確認され、太平洋を南下していた別のロシア軍艦艇7隻は、17日までに、伊豆諸島の須美寿島と鳥島の間を南西に通過した。

 日本近海でのロシア軍の活発な動きに、自衛隊は警戒を続けている。

【私の論評】日米英はオホーツク海で大演習を行い、スターリンが関特演で味わった以上の恐怖をプーチンに味合わせるべき(゚д゚)!

極東ロシアは上の地図をご覧いただいてもわかるように、面積は広大ですが、人口は650万人程度にすぎません。ロシアにとっての重要部分ではありません。産業は育っておらず、隣接する中国の東北部に比べれば人口は20分の1でGDPの格差はそれ以上です。陸軍の兵力でも、瀋陽方面の中国陸軍に比べてロシア極東部の陸軍は弱体です。

日本と比べても、極東ロシアは経済面でも貧弱です。そもそもロシア全体のGDPが韓国よりも若干下回る程度であり、一人あたりのGDPは中国と似たりよったりの1万ドル(日本円で百万円)前後であり、比較の対象にはならない程お粗末です。

ちなみに、一人あたりのGDPは、一人あたりの収入と近似できますが、日本では百万円前後の賃金の人など、一部の非正規雇用の人だけだと思います。軍事的にも貧弱です。たとえ日本を攻めようとしても、従来からいわれているようにロシア軍の揚陸作戦能力が乏しいことから、日本に軍隊を送るにしても、逐次投入するしかなく、そうなると個別撃破されてしまうことになります。

この理屈を理解しない人もいるようですが、今回ウクライナの黒海岸にロシア軍はほとんど上陸できず、揚陸艦も撃沈されてしまったことからも明らかです。

海軍ではカムチャツカ半島に基地を置く原子力潜水艦が何隻も戦略核ミサイルを抱えてオホーツク海に潜っていますが、これは米国向けのものです。海上艦のほうはお粗末で、駆逐艦クラス以上の軍艦は7隻程度しかなく、海上自衛隊の陣容の10分の1程度です。日本海岸には海上自衛隊の主要な潜水艦基地があり、数と質でロシア海軍の潜水艦を圧倒しています。

特に、中露は日米に対して対潜哨戒能力(潜水艦を発見する能力)がかなり劣っているため、ロシアには日本のステル性(静寂性)に優れた潜水艦を発見することは難しいです。一方日本の対潜初回能力は米軍と並び世界トップクラスであるため、ロシアの潜水艦を日本が探知するのは比較的容易です。

ASW(Anti Submarine Warfare:対潜水艦戦闘力)に劣ったロシア海軍は、海戦においては日米の敵ではありません。現在のロシア海軍は単独で日本の海自と戦っても、勝つことはできません。一方的に敗北するだけです。

しかも有事になるとロシアの艦船は宗谷海峡と津軽海峡は日本の潜水艦が潜んでいることもあり、危なくて通れなくなるので、太平洋方面での作戦やウラジオストクから補給を受けるカムチャツカの基地の維持も難しくなります。

さて、以上を前提に最近のロシア軍の極東における行動を振り返っておきます。

ロシアは、陸続きのモンゴルと中国と北朝鮮以外、つまり日本と米国に対しては、海を隔てて向き合っています。したがって、極東方面の防衛は海軍力と空軍力に頼ることになるわけですが、この脆弱性がウクライナとの戦争によって露わになっています。

下院副議長セルゲイ・ミロノフ氏

当然のことながらが、ロシア側はこのような実情をおくびにも出さないです。それどころか、4月1日には、下院副議長のミロノフが「ロシアは北海道への主権を有するという専門家もいる」と、日本に対して脅迫じみた内容をSNSに投稿したほか、同14日には日本海において、キロ級潜水艦2隻から核弾頭も搭載可能な最新式の巡航ミサイル「カリブル」を発射して、わが国をけん制しました。

ロシア版のトマホーク級巡航ミサイル「カリブル」は、射程距離が2,000km以上あり、ロシア軍が黒海などに展開する艦船や潜水艦から発射されている主力ミサイルです。ロシアは5月末までに、弾道ミサイルや巡航ミサイルなどを航空機や地上発射機や潜水艦を含む艦艇などから1,000発以上発射したと見られるが、米国防情報局(DIA)の関係者は「ロシアのミサイルの命中率は、40%にも達しない」と分析しており、巡航ミサイルについては、約10%がウクライナにより撃墜されているとしています。

 また、6月3日から10日まで、太平洋において40隻以上の艦艇と約20機の航空機による大規模な演習を実施すると発表して、北海道南東沖から北方四島南方海上にミサイル発射に関わる航行警報海域を設定し、数隻の艦艇を北海道根室沖で活動させたり、6月7日には日本海でロシア空軍機による威力偵察と見られる活動を実施しています。

この40隻というのが実態としてどのような艦艇なのか不明ですが、根室沖に姿を現したのは、駆逐艦「ウダロイI級(DD-543:8,500トン級)」1隻、フリゲート「ステレグシチーI・II」級(FF-333,335,337,339:2,200トン級)」4隻の5隻です。

その後、これらの艦艇は千葉県沖まで南下し、新たにウダロイ級の駆逐艦(DD-548)とミサイル観測支援艦「マーシャル・クルイロフ(AGM-331):2万3,700トン級」と合流しました。おそらく、このクラスの艦艇がこの40隻の主力なのでしょう。

このウダロイI級は1980年代に建造された旧式艦です。ステレグシチー級フリゲート艦は、2000年以降に建造されたものでウダロイ級よりは新しく、前出の巡航ミサイル「カリブル」が8基のほか、ハープーン級の対艦ミサイルが8発搭載可能であり、小型艦ながらそれなりの対地、対艦攻撃能力があります。 

しかし、ウダロイ級もステレグシチー級も防御能力の観点からすれば、脆弱な艦艇といえる。特に、対空防御能力という点からみると、ウダロイI級は射程12km程度の対空ミサイル(SAM)「キンジャール」を装備していますが、これでは日米両軍が保有するほとんどの空対艦ミサイル(ASM)でスタンド・オフ(SAM射程圏外からの)攻撃が可能であり、ステレグシチー級フリゲートに至ってはSAMを保有しておらず、両艦ともに対空防御能力は極めて脆弱です。

また、6月7日夜間、ロシア軍機と推定される4機がロシア沿海方面から真っすぐに北海道へ向けて飛来し、うち2機については本邦領空手前で反転して北海道西方で旋回飛行を行い、残りの2機については北上して樺太方面へ消え去りました。

ただ2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降、わが国に接近してきたロシア軍機は、今回のものを除き、5月24日に中国の爆撃機(H-6)4機と合同パトロールと称する示威行動を実施した、戦略爆撃機(Tu-95)2機とこの際偵察活動を実施した電子偵察機(IL-20)1機の3機のみという閑散ぶりです。 近年のロシア軍機の活動においては異常に少ないです。 

ちなみに、今回と同様にロシアが親露派武装勢力を前面に出してウクライナに対してハイブリッド戦争を仕掛けた2014年の同時期、わが国はG7で取り決めた経済制裁に踏みきりましたが、この際、これに反発したロシアは連日、戦略爆撃機などを本邦周辺に飛行させてわが国を威嚇しました。 

今回と同時期の2014年2月24日~6月10日の間、わが国周辺に飛来したロシア軍機は、戦略爆撃機(Tu-95)22機、対潜哨戒機(IL-38,Tu-145)12機、電子偵察機(IL-20)19機、早期警戒管制機(A-50)1機の延べ54機である。単純に比較すれば今回はこの8分の1(戦略爆撃機は10分の1)程度です。

以上のことから、極東ロシア軍は、かなり脆弱化しているとみられます。現在のロシア軍による日本への挑発行為は、今の極東ロシア軍にできる精一杯の虚勢に過ぎず、わが国に脅威を与えるような活動とは程遠いです。

ある程度の準備期間を経て、満を持してウクライナに侵攻したロシア軍でさえ、あの体たらくです。ましてや、日米に比して貧弱で駆逐艦以上の戦闘艦艇に至っては海上自衛隊の10分の1程度の太平洋艦隊です。

ロシア空軍は、日常の活動などを見ても航空機の稼働率がおそらく30%(空自は90%を超える)に満たず、パイロットの操縦訓練(飛行時間は空自の半分以下)も全く航空自衛隊とは比較にならないような低練度の空軍の飛行部隊や海軍航空部隊の現状で、通常戦力ではとても日米の軍事力に太刀打ちできるはずはないです。さらに、最初にも述べたように、海戦においては日米に勝ち目はありません。当の軍人たちが、誰よりもそれを熟知しているでしょう。

 「核兵器搭載可能な巡航ミサイルの発射」とか、「太平洋で40隻以上の艦艇による大演習」などというロシア側の虚勢を張ったプロパガンダなどに惑わされるべきではありません。 

我々は、極東ロシア軍を等身大に見るべきです。わが国は今こそ、強気の姿勢で政治的にも軍事的にもロシアに対して存在感を発揮し、強力プレッシャーをかけるべきです。政治的には、硬軟両面の姿勢でロシアに対して外交的な揺さぶりをかけるべきです。

また、軍事的な面では、日本海や北方四島方面などにおいて、ロシアに対する自衛隊による(無人機を含む)偵察活動をさらに強化すべきです。また、これに加えて、南樺太や北方四島方面などにおいては、戦闘機などによる威力偵察を行うべきです。そうして、これらの地域での日米共同訓練を増やすべきです。

関東軍特別演習

プーチンに対して、関東軍特別演習でスターリンが味わったような恐怖を味あわせるべきです。ちなみに、ノモンハン事件においては、スターリンが事実を隠蔽したため、日本が大敗を喫したようにされていましたが、ソ連崩壊後の資料の公開で、実はソ連軍も甚大な被害を被っており、どちらかといえば、日本が辛勝していたことがわかっています。

このときは、日本は米英と敵対していましたが、現在世界で最強の海洋国である日米英は、緊密に協力する間柄であり、ロシアと対峙しています。日米英がオホーツク海で大規模な共同訓練を行えば、関東軍特別演習でスターリンが味わった以上の恐怖をプーチンが味わうことになります。

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2022年6月17日金曜日

「一帯一路」に〝亀裂〟参加国が続々反旗 スリランカが債務不履行、各国が借金漬けに 親ロシア、東欧地域も戦略失敗で高まる反中感情―【私の論評】自国民一人ひとりを豊かにできない中国が「一帯一路」を成功させる見込みはない(゚д゚)!

「一帯一路」に〝亀裂〟参加国が続々反旗 スリランカが債務不履行、各国が借金漬けに 親ロシア、東欧地域も戦略失敗で高まる反中感情

4月にスリランカで起きた反政府デモ

 中国外交が敗北を重ねている。南太平洋の島嶼(とうしょ)国との安全保障協力で合意に失敗したほか、巨大経済圏構想「一帯一路」でも、スリランカが事実上の債務不履行(デフォルト)となるなど各国が借金漬けだ。さらにロシアのウクライナ侵攻で欧州でも反中感情が高まる。習近平国家主席は「中華帝国の偉大な夢」を抱くが、「脱中国」が加速しているのが現実のようだ。

 「強固だった関係が壊れている」と語ったのは、スリランカで先月、新首相に就任したウィクラマシンハ氏だ。

 同国ではラジャパクサ大統領らが港湾開発などを中国企業と進める方針を示すなど、親中外交を進めてきたが、4月に対外債務の支払い停止を発表した。一帯一路の拠点として実施してきたインフラ整備のために背負った借金がふくらみ、財政難に陥ったことも一因とみられる。

 これまでも一帯一路の参加国がインフラ開発費用の返済に窮すと、中国が戦略的施設の長期使用権などの要求を突き付ける「債務の罠」が警戒されてきた。

 中国からユーラシア大陸を経由して欧州へと続く一帯一路構想のほぼ中央に位置するパキスタンでは、中露関係を重視したカーン前政権が高インフレや通貨安による経済危機で4月に失脚した。シャリフ新首相も親中姿勢だが、経済再建をめぐる政情不安が続く。

 米シンクタンク、世界開発センター(CGD)は18年の時点で、一帯一路のインフラ投資計画があったパキスタンやモルディブ、ジブチ、ラオス、モンゴル、モンテネグロ、タジキスタン、キルギスの8カ国について債務問題に懸念があるとのリポートを公表していたが、すでに現実のものとなっている。

 中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「中国はパキスタンの政情不安を背景に一帯一路の要衝だったグワダル港を諦め、最大都市カラチに港湾整備を移した。モルディブも親中派大統領の失脚でインドが勢力下に収めた。次にスリランカで大統領打倒の動きになれば、中国には大きなショックだ」とみる。

 こうした状況を受けて、中国の王毅国務委員兼外相が今月8日、カザフスタンで開かれた中央アジア5カ国との外相会議に出席し、一帯一路への協力強化で一致するなど関係維持に躍起だ。

 アジア圏だけでなく、欧州でも一帯一路に危機が生じている。きっかけの一つがロシアのウクライナ侵攻だ。

 そもそもウクライナは中国と関係が良好で、一帯一路の拠点でもあった。しかし、ロシアの侵攻後、中国と欧州を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」もウクライナを経由する便は運航停止となった。欧州の貨物輸送大手企業も相次いで中欧班列関連の受け付けを停止している。

 モスクワを経由する便は運行が続いており、中国国営のラジオ放送局「中国国際放送」(日本語電子版)は、中欧班列は4月に1170本運行し、3月と比べて36本増加したと伝えた。中国外務省の汪文斌報道官が「中国の強靱(きょうじん)性と責任を負う姿勢が示され、世界に力や自信を伝えた」と自信をみせたという。

 しかし、鉄道網の主要な拠点で、中国IT大手ファーウェイ(華為技術)の地域本部もあるポーランドでは、「プーチン大統領を支持した中国を非難するウクライナ難民であふれかえっている」とロイター通信は指摘。「東欧地域における中国の戦略はさらに傷ついている」と報じた。

 評論家の石平氏は「中国が一帯一路を守りたいのならば欧州と足並みをそろえるべきだった。ロシアの肩を持ったことで自ら拠点を破壊するに等しい矛盾した外交となった。アジアの取り込みにも失敗し、欧州からも反感を買うなど、習氏の外交上の失敗がまた一つ加わることになった」と語った。

【私の論評】自国民一人ひとりを豊かにできない中国が「一帯一路」を成功させる見込みはない(゚д゚)!

一帯一路構想を手短にふりかえっておきます。2013年、習近平国家主席は「シルクロード経済ベルト」構想を打ち上げ、2014年にそれを海洋方面と合体して「一帯一路」構想としました。これは、当時中国の広げた大風呂敷であると感じられたものです。

しかし当時中国は08年のリーマン危機を乗り切って自信満々。しかも、合計4兆元(約60兆円)の内需拡大が一段落し、閑古鳥の鳴いていた中国国内の素材・建設企業は「一帯一路での国外の事業」に活路を見いだしました。政府各省は一帯一路の美名の下、予算・資金枠獲得競争に狂奔しました。


ただ、当初からこの一大事業が成功するのかどうかは、疑いを目をもってみられていました。そもそも、一帯一路構想は、中国内ではインフラ投資が一巡し、国内には当面優良案件が期待的図、このままだと中国経済は先細りになることが予想されたため、今度は海外を標的にして投資をしようというものとしか受け取れませんでしたが、特にユーラシアには、採算性がとれるような案件はありませんでした。

そもそも巨大な海外投資の経験がない中国にこのような大事業ができるのかどうか疑問でした。そもそも、海外投資において成功するには、自国より経済成長をしている国や地域に投資するのが基本中の基本です。

そのような案件は、滅多におめにかかれるものではないし、私は当初からこれは失敗すると踏んでいました。

ところが一帯一路上にある途上諸国は、イタリアやギリシャに至るまでもろ手を挙げて大歓迎しました。かつての日本のような、「見境なく貸してくれる金持ちのアジア人」がまた現れたのです。ただ、かつての日本は採算性を重視した手堅い投資を行いました。見境なく見えたにしても、たとえ貧困国であっても経済成長率が著しいところに投資しました。

そうして中国のカネ、そしてヒトはアフリカ、中南米にまで入り込み、融資総額は13~18年の5年間で900億ドルを超えました。受益国の政治家・役人たちは、この資金で港湾施設やハイウエーを建設してもらって大威張りし、一部は自分のポケットにも入れたことでしょう。

ところが、中国の投資は案件の採算性や住民の利益を考えていないですから、返済は滞るし、受益国の政権が交代すると前政権の手掛けた中国との案件はひっくり返されたりしました。

それに、中国国内の状況も変わりました。4兆元の内需拡大策は諸方で不良債権を膨らませたため、債権回収が大きな関心事になったのです。

そういうわけで、「中央アジア経由で中国と欧州を結ぶ鉄道新線」「新疆からパキスタンを南下してインド洋と結ぶハイウエー」など、多くの構想は掛け声だけで進みません。ロシア経由の東西の鉄道での物流も、安価な海上輸送に歯が立ちません。

あれだけ騒がれたアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、19年末の融資残高はわずか22億ドルで日米主導のアジア開発銀行(ADB)の年間平均60億ドルの融資に及ひません。こうして「一帯一路」の呪文の威力は薄れてきました。

2月9日、習は中欧・東欧17カ国の首脳とテレビ会議を行ったのですが、バルト3国、ルーマニア、ブルガリアは首脳が欠席。閣僚で済ませたのです。国連などで中国が、外交において途上国の支持を取り付けるのも難しくなるでしょう。友人に金を貸せば、友情は失われるのです。

中東欧といえば、このブログでも中国の影響力が薄れつつあることを掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中東欧が台湾への接近を推し進める―【私の論評】中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしている(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくもとして以下に一部を引用します。 

米ソ冷戦終結後の民主主義指数(Index of Democracy)と一人当たりGDPの伸びの関係を見ると(下図)、旧東側陣営で一人当たりGDPの伸びが最も高かったのは、共産党による一党独裁の政治体制の下で1986年に「ドイモイ(刷新)路線」を宣言し、市場経済を導入したベトナムでした。

ソ連崩壊とほぼ同時に共産党政権が崩壊し民主化を進めた中東欧諸国の一人当たりGDPを見ると、水準という観点では民主化が後退したロシアやCIS諸国を上回っている国が多いものの、伸び率という観点では大きな差異が見られません。

そして、CISを中途脱退し民主化を進めたウクライナ(2004年にオレンジ革命、2018年にCIS脱退)やジョージア(2003年にバラ革命、2009年にCIS脱退)の伸びは低迷しています。

ただ、一般にいえるのは、民主化が進んでいる国のほうが、一人当たりGDPが高いというのは事実です。これは高橋洋一氏がグラフにまとめており、これは当ブログにも掲載したことがあります。下に再掲します。
一人あたりGDP 1万ドル超と民主主義指数の相関係数は0.71 。これは社会現象の統計としてはかななり相関関係が強い
世界各国地域の一人当たりGDPのトップ30を見ると、米国は約6.3万ドルで世界第9位、西側に属した日本は約3.9万ドルで第26位、同じくドイツは第18位、フランスは第21位、英国は第22位、イタリアは第27位、カナダも第20位と、米ソ冷戦で資本主義陣営(西側)に属した主要先進国(G7)はすべて30位以内にランクインしています。

一方、米ソ冷戦で共産主義陣営(東側)の盟主だったロシアは約1.1万ドルで第65位、東側に属していたハンガリーは約1.6万ドルで第54位、ポーランドは約1.5万ドルで第59位とランク外に甘んじている。また、世界第2位の経済大国である中国は約9,600ドルで第72位に位置しており、人口が13億人を超える巨大なインドも約2,000ドルで第144位に留まっています。

中国は人口が多いので、国全体ではGDPは世界第二位ですが、一人あたりということになると未だこの程度なのです。このような国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無でしょう。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。 

バルト三国よりも、一人当たりGDPでは、中国のほうが低いのです。ルーマニアは一人あたりGDPでは1万ドル台と、中国と大差はありません。ブルガリアですら、中国よりは低いですが、それでも9千ドル台であり、中国と大差はありません。

そこに国際投資のノウハウがない中国が投資したからといって、バルト三国や、ルーマニア、ブルガリアが 栄えて国民一人ひとりが豊かになるということは考えられません。

スリランカのような貧困国の港をとったにしても、軍事的にはある程度意味があるかもしれませんが、経済的には無意味です。目立った産業もないスリランカの港を得たとしても、そこでどれほどの交易が行われるかといえば、微々たるものでしょう。わざわざ、スリランカに荷物をおろしたり、スリランカから大量に物品を運ぶ船もないでしょう。やはり近くのシンガポールを使うでしょう。

ところが、これで中国の外交そのものが退潮するわけではないでしょう。米国への当て馬としての「中国」への需要はなくならないからです。

バイデン米政権も、政治・軍事・先端技術面での中国への圧力は強めていますが、通常の貿易は妨げていません。今年1~2月も中国の対米輸出は対前年同期で伸び続け、貿易黒字も1月だけで390億ドルになっています。中国は対米黒字を元手に、また小切手外交を強化できます。

しかし、それでも一帯一路が、習近平が思い描いた元の姿で復活することはないでしょう。

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