2023年5月6日土曜日

アメリカの内政統括役にタンデン氏 主要会議トップで初のアジア系―【私の論評】米民主党内の中道派が盛り返しつつあることを象徴する人事か(゚д゚)!

アメリカの内政統括役にタンデン氏 主要会議トップで初のアジア系

ニーラ・タンデン氏

 バイデン米大統領は5日、内政を統括する国内政策会議(DPC)委員長にニーラ・タンデン大統領上級顧問を起用すると発表した。近く退任するスーザン・ライス氏の後任となる。バイデン氏が再選を目指す2024年の大統領選に向けて、1期目の任期前半に成立させたインフラ投資法や気候変動・医療対策法などに基づき、内政面の実績作りを統括する。

  タンデン氏はインド系米国人で、民主党のクリントン、オバマ両政権でもホワイトハウスで大統領を支え、米シンクタンク「米国先端政策研究所」の所長も務めた。ホワイトハウスによると、国内政策会議、国家安全保障会議(NSC)、国家経済会議(NEC)の三つの主要な政策会議のトップにアジア系米国人が就くのは、タンデン氏が初めてとなる。

  バイデン氏は5日の声明で「ニーラは上級顧問として、内政、経済、国家安全保障と幅広い政策決定過程を監督してきた。(オバマ政権での)医療保険改革の主要な立案者でもあり、新たな役割でも緊密に連携するのを楽しみにしている」と述べた。

  バイデン氏は20年の大統領選後、タンデン氏を行政管理予算局(OMB)局長に指名したが、過去に共和党議員や民主党の急進左派を激しく非難したタンデン氏の言動が問題視され、人事案を撤回した経緯がある。DPC委員長は連邦上院での人事承認は必要ない。

【私の論評】米民主党内の中道派が盛り返しつつあることを象徴する人事か(゚д゚)!

上の記事にある、共和党や民主党の急進左派を激しく非難したタンデン氏の言動とは、どのようなものなのか、以下に具体的に掲載します。

OMB長官に指名された当時のタンデンとバイデン(右)

バイデン政権発足直後、ニーラ・タンデンは、バイデン大統領によって行政管理予算局(OMB)長官に指名されましたが、最終的に2021年3月に指名が撤回されました。撤回されたのは、民主党のジョー・マンチン上院議員を含む複数の上院議員が彼女の指名に反対することを表明し、その理由として彼女のソーシャルメディアにおける過去の発言を挙げたためです。

タンデンの過去のツイートや発言は物議を醸すとされ、民主党と共和党の双方から批判を浴びていました。例えば、タンデンはバーニー・サンダース上院議員や共和党のミッチ・マコーネル上院議員など、複数の著名な政治家について批判的なコメントをしたことがあります。

2017年のツイートでは、サンダース上院議員を「クレイジー」と呼び、自身の記録について「嘘をついている」と非難しています。彼女はまた、アフォーダブル・ケア法(オバマ・ケア)を廃止しようとする共和党の取り組みを "下劣 "で "邪悪 "だと批判していました。

2020年米大統領選挙の候補者だったサンダース上院議員

特定の政治家に対する発言に加え、タンデンはソーシャルメディア上での全体的なトーンについても批判されていました。彼女のツイートの中には、不必要に対立的、敵対的と見られるものがあったとされています。例えば、2017年のあるツイートでは、共和党のスーザン・コリンズ上院議員を "最悪 "と言い、別のツイートでは、共和党を "気持ち悪い無責任 "と非難しました。

全体として、タンデンの過去の発言とソーシャルメディアにおける彼女の対立的なスタイルが組み合わさって、彼女の指名が撤回されるに至ったのです。

さて、バイデン政権により、国内政策会議(DPC)委員長にニーラ・タンデン大統領上級顧問を起用することになりましたが、これは何を意味するのでしょうか。

一般に、DPC の議長の役割は、幅広い国内政策問題について大統領に助言し、様々な機関や部署にまたがる政策イニシアチブを調整することです。ニーラ・タンデンがこの役割に起用されれば、バイデン政権が彼女の指導力に自信を持ち、政権の国内政策課題を形成していることを示すことになります。

民主党内には、中道・穏健派とは異なる思想を持つ進歩派や左派など、さまざまな派閥や思想集団が存在します。既存の民主党議員の中には、特に経済政策、医療、外交に関する問題で、党内の進歩派の影響力を懸念する声もあります。

一部の民主党議員が抱いている懸念の一つは、「万人のための医療」や「グリーン・ニューディール」のような、経済への政府の大幅な介入を求める進歩的な政策が、より穏健で中道派の有権者を遠ざけ、民主党が激戦区で選挙に勝つことを難しくする可能性があるというものです。また、民主党の中には、進歩的な政策が増税につながるのではないか、一部の有権者からは極端すぎる、過激だと思われるのではないかという懸念を表明している人もいます。

政策に対する懸念に加え、一部の民主党議員は、一部の進歩派の論調や戦術に懸念を表明しています。例えば、一部の進歩派は既成の民主党に批判的で、進歩的でないと見なす現職の民主党議員に予備選挙で挑戦するよう呼びかけています。これは党内の緊張を招き、このような挑戦は民主党の結束を損ない、選挙に勝つことを難しくするという懸念があります。

全体として、民主党内には多様な思想や意見が存在しますが、一部の民主党員は、党内の進歩派が政策、戦術、選挙戦略に及ぼす影響について懸念を表明しています。その具体的な事例を以下に掲載します。

以下に、米民主党内の進歩派や左派に懸念を示す民主党議員の具体的なコメントを紹介しま。
民主党のコナー・ラム下院議員は、2020年11月のCNNのインタビューで、民主党における進歩的な政策の影響に懸念を示し、「党内には、私たちがサンフランシスコの党になることを望む人たちがいる」と述べた。しかし、私はそれは間違いだと思う。それはアメリカ人のいる場所ではないと思う。"
民主党のアビゲイル・スパンバーガー下院議員は、2020年8月にニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した論説で、「警察への資金援助」や「社会主義」といった進歩的なスローガンが、スイング地区の有権者を遠ざけ、民主党が選挙に勝つことを難しくしていると述べた。彼女は、"私たちは11月に勝つことに集中する必要があり、極左のイデオロギーはその方法ではない "と書いています。
2021年1月、民主党のジョー・マンチン上院議員はMSNBCとのインタビューで、メディケアフォーオールやグリーンニューディールといった進歩的な政策に懸念を示し、「私はメディケアフォーオールに賛成していない」と述べた。一部の人のためのメディケアにお金を払うこともできない。上記すべてを信じるが、グリーン・ニューディールには賛成できない。"と述べています。
2021年2月、民主党のディーン・フィリップス下院議員はCNNのインタビューで、一部の進歩派の戦術に懸念を示し、「常に円陣を組んでいるような政党ではダメだ。私たちは互いに耳を傾け、互いを尊重し、私たちが大きなテントを持つ政党であることを理解することから始めなければなりません。"
これらはほんの一例ですが、民主党の一部が党内の進歩派や左派の影響力について表明している懸念の一端を示しています。

ニーラ・タンデンの政治的見解は一般に進歩的とされています、民主党内の政治的スペクトルの左側に位置するものとされています。リベラル系シンクタンク「アメリカ進歩センター」の代表を務めるタンデンは、医療へのアクセス拡大、気候変動対策、経済的不平等への対応といった政策を声高に主張してきました。

しかし、タンデンは、民主党内の中道派や穏健派と協力する姿勢でも知られています。米進歩センター(Center for American Progress)の会長として在任中、タンデンは進歩派と穏健派の間の溝を埋めることに努め、民主党が政策目標を達成するためには団結する必要があると主張しました。

全体として、タンデンの政治的見解は一般に進歩的と考えられてますが、中道派や穏健派と協力してきた実績から、彼女は中道寄りの進歩派と考えられるかもしれないです。

今回の、ニーラ・タンデン大統領上級顧問の国内政策会議(DPC)委員長への起用は、こうした中道・穏健派の民主党議員の懸念を払拭するためと、党内急進左派に対する牽制という意味合いもあるでしょう。


民主党の急進左派にくすぶっていた、軍事費の削減を求める主張や、海外の紛争と距離を置く傾向がウクライナ危機の前にかすんでしまいました。バイデン大統領は本来の米民主党の流儀を取り戻しつつあるようです。

ロシアのウクライナ侵攻が米民主党内の左派と中道派のバランスを変えたと言えます。ニーラ・タンデンのDPC委員長への起用は、その象徴であると考えられます。

今後、中道派がある程度勢いを盛り返せば、米共和党と協力しあえる部分が増え政権運営も安定するでしょう。日本に対する外交方針も変わる可能性があります。無論、日本にとっては良い方向に変わる可能性がでてきたと思います。


米下院に新設された「中国委員会」 米中関係はどこへ向かうか―【私の論評】10年以内に中共を潰す勢いの米下院「中国委員会」の設置で、日本も確実に近日中に対応を迫られる(゚д゚)!


2023年5月5日金曜日

物価上回る賃金上昇へあと一歩だ 20兆円程度の需要積み増しが必要 緊縮・引き締めなら景気は腰折れ―【私の論評】米国は消費税なしで成り立っている!問題の多い消費税制はいずれ廃止すべき(゚д゚)!


高橋洋一



 「物価高に賃金上昇が追いつかない」という状況が続いている。物価上昇はどこまで続くのか。そして賃金上昇が物価を逆転するのはいつで、どんな政策が必要なのか。元内閣参事官で嘉悦大教授の高橋洋一氏が読み解いた。高橋氏は、財務省の財政緊縮・増税路線に飲み込まれずに、政府が20兆円規模の需要拡大策を実施し、日銀が金融緩和を継続することが不可欠だと指摘する。

積極財政路線を警戒する財務省

 まず、足下の経済環境をみておこう。内閣府の2022年10~12月期四半期別国内総生産(GDP)速報(2次速報値、前年同期比)によれば、物価(GDPデフレーター)は1・2%上昇、雇用者報酬は同1・8%減だった。

 失業率は22年10月~23年2月で2・5%程度だ。ただし、この失業率の数字は雇用調整助成金により見かけ上、低めに出ていると考えたほうがいい。

 いろいろと批判もあったが、安倍晋三・菅義偉政権で有効需要100兆円にもなるコロナ対策を行い、日銀が金融緩和を継続したために、マクロ経済は底抜けをしなかった。

 筆者が常に強調しているNAIRU(インフレを加速しない最低の失業率、2%半ば程度)を達成するまでには至っていないが、その近くにあるのは間違いない。失業率はややNAIRUより高めで、インフレ率はインフレ目標を安定的に達成する水準よりやや低いという状況だ。

 ここで、インフレ率を消費者物価(除く生鮮食品)でみると、例えば今年3月は前年同月比3・1%なので、高いという意見もあるだろう。しかし、1月の4・2%をピークとして徐々に低下するものと見込まれる。GDPデフレーターが2%には達していないことからわかるように、まだ成長の好循環が起こるような状態にはなっていない。

 これは、やはり内閣府が発表した昨年10~12月期の四半期別GDP速報でのGDPギャップ(総需要と供給力の差)をみてもわかる。そこでは、10兆円程度とされているが、内閣府の推計は供給力の天井が過小推計になっている。これを筆者が補正すると、総需要が20兆円程度積み増されれば、半年後くらいに、失業率が実質的なNAIRUになり、GDPデフレーターでみたインフレ率が2%になる公算が大きい。その場合、賃金上昇率はインフレ率を1~2%程度上回るようになるだろう。

 要するに、今はあと一歩の状況だ。ここで、増税や利上げを行うと、せっかく良くなってきた経済を腰折れさせてしまう。

 岸田文雄政権の内閣支持率は上がっている。岸田首相は襲撃事件を乗り越え、さらに5月の先進7カ国(G7)広島サミットを成功裏に終えた後に衆院解散・総選挙に踏み切る可能性もささやかれている。

 たしかに、外交で岸田政権は覚醒した感がある。3月のウクライナ訪問のタイミングは見事としかいいようがないものだった。しかし、ここで自信を持って「防衛増税」や「異次元少子化対策増税」を打ち出してしまうと、経済は腰折れしてしまう。

 21年10月の衆院選の前に、当時の矢野康治財務事務次官が月刊「文芸春秋」で「バラマキ批判」論文を寄稿した。筆者は増税路線を仕掛けてきたのだと受け止めた。

 今回も齋藤次郎元事務次官が同誌に論文を寄稿し、同じように仕掛けているとみている。日銀総裁も黒田東彦(はるひこ)氏から植田和男氏に代わったので、財政政策・金融政策ともに緊縮・引き締めを行いやすい環境だ。

 岸田政権がそれをこらえて経済運営するのか、できないのか。それによって物価がマイルドに上がり、賃金がそれを上回るかどうかが決まるだろう。

高橋洋一(たかはし・よういち) 元内閣参事官・嘉悦大教授。1955年東京都出身。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒。博士(政策研究)。80年大蔵省(現財務省)入省。理財局資金企画室長、米プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉純一郎内閣、第1次安倍晋三内閣で経済政策のブレーンを務める。菅義偉内閣で内閣官房参与。「『日本』の解き方」は夕刊フジで月~金曜連載中。

【私の論評】米国は消費税なしで成り立っている!問題の多い消費税制はいずれ廃止すべき(゚д゚)!

上の記事で高橋洋一氏が指摘していること、全く正しいです。日本人の賃金が上がるかどうかは、岸田首相の決断一つにかかっています。

これに対しては、付け加えることもないので、もう導入されてから30年以上もたつ消費税であり、消費税があるのが当たり前になってしまった現在、消費税そのものの是非について語ることはほとんどなくなりましたが、今日はあらためて、それについて述べようと思います。

今から34年前の1989年に消費税が導入されました。それと同時に国は「法人税と所得税」の最高税率を引き下げた。さらに相続税の最高税率も引き下げています。

消費税導入の初日、ネクタイの買い物をする竹下登首相夫妻=1989年4月1日、東京都中央区

消費税の導入前は「法人税や所得税」という、儲かったところから税金を徴収していました。しかし、消費税導入後は赤字企業からも徴収します。その結果滞納も増えています。当然の結果です。

税率が上がれば、さらに格差は広がります。2012年に経団連(日本経済団体連合会)が消費税19%を提言しています。

このときの提言は、「消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%へ引き上げ、その後、2017~2025年度の間、税率を毎年1%ずつ引き上げ、最終的に19%とする」というものでした。

昨年10月、岸田総理が「消費税には触れない」と発言しており、今すぐの「増税」はない。しかし経団連や財務省の説明は、「国の基礎財政を維持するためには消費税率を上げる必要がある」としています。

現在、最も税収が多いのが消費税です。これが「19%」になれば、国民の税負担は単純に倍になります。

そしてトヨタが過去最高の業績を上げても輸出還付金が貰えるように、輸出大企業への還付金も倍になります。消費税率が上がれば、輸出大企業の税負担は減り、国民の税負担が増すのです。そうして、払えなくなる企業や個人もでてくことになります。

しかし、所得税のように「持っている人に課税」すれば無理なく徴収できるはずです。
「ある人から取って、ない人にまわす」これがアダム・スミスの租税原則です。アダム・スミスはイギリスの経済学者で、18世紀の市民革命期の租税思想を代表した人です。この人の考え方は、現在でも通じるものです。

以下にアダム・スミスの4大原則をあげておきます
■アダム・スミスの4大原則
〔1〕公平性の原則:各人の能力に応じて、公平に租税を負担すること。
〔2〕明確性の原則:租税は恣意的であってはならない。支払の時期、方法、金額は明確でなければならない。
〔3〕便宜性の原則:納税者が支払うのに、納税者の便宜をはかること。
〔4〕最小徴税費の原則:徴税のための費用が租税を上回ると“暴政”を招くので、徴税費は少ないほど良い。

アダム・スミスの像

「税負担は能力に応じて払いなさい」「能力の高い人は高い負担、能力の低い人は低い負担」というのがアダム・スミスの考え方です。

ドイツのワイマール憲法にも、税金は資力に応じて払うべきとありますし、フランス革命のきっかけは徴税問題です。

ところが消費税は「ないところから取って、あるところにまわす」。これを、あるところから取るようになれば、ある程度は下にもまわるはずです。

財務省や国会議員が「消費税を廃止したら国が立ち行かなくなる」と言いますが、この理屈は間違っています。消費税がなくても国は成り立ちます。

たとえば、米国には消費税がありません。消費税の原案を考えたのは米国人のシャウプ博士ですが、米国は熟考の末、消費税を導入しませんでした。消費税がなくても米国が立ち行かなくなってなどいません。

消費税導入前に一番税収が多かったのは「所得税と法人税」です。これは「儲かった人から取る」税金の双璧をなしていました。日本も消費税を廃止して、消費税導入前に戻せば良いのです。

しかしこのようなことを言うと、「日本は少子高齢化が進んでいるので、税収はどんどん減る。だから消費税を取らないと立ち行かなくなる」等という人もいますが、これは事実なのでしょうか。

しかし、少子高齢化が進めば、税収が減るが人口も減る。だから、やっていけないというのは間違いです。人口が減れば支出も減ります。だからバランスが取れることになります。

それに、「消費税」という税金の徴収が多ければ、物価が上がります。社会保険などの上限は決まっているので、高額所得者の負担金は減りますが、サラリーマンなど中間層から下の人の負担割合が増えていきます。だから所得格差が広がるのです。

低所得者層の負担が増えれば、当然、不景気になります。消費税は、「わずか少数の富裕層」がますます豊かになるだけです。人口の比率は、圧倒的に中間層から下の割合のほうが多いです。

「消費税」の負担が増えれば国民の税負担が増えて、世の中が不景気になります。逆に、消費税導入前のように、「儲けた人や企業に課税」するという、「法人税」や「所得税」の徴収が多ければ、本来の「税の基本概念」の通り、金持ちから貧乏人に健全に金が動くことになるのです。

さらに「消費税」のなかで、最も悪いのは「還付金」という制度です。この制度があるため、消費税は実質上「輸出企業への優遇税制」になっています。


税の基本概念は「富める者から、苦しんでいる者への分配」です。例えば、儲かっているクルマ屋さんがいたとします。そこが「利益の中から税金を納めて」、苦しんでいる他の会社や人を助ける。助けてもらって立ち直った人は、助けてくれたクルマ屋さんからクルマを買うことになります。そうやって「経済を循環させる」のが基本です。

しかし消費税は、赤字の会社からも「無理やり税金を徴収」するものです。

そうして「消費者から10%取りなさい」とは、消費税法の条文のどこにも書いていません。実は消費税は「消費者とは無関係」の税金なのです。

スーパーやコンビニなどで買い物をすると、10%消費税が乗ってきます。あれは自分が払っている消費税だと思っている人が99%でしょう。しかし、これは「消費税」ではないのです。「消費税」は、そういう税金ではありません。

コンビニやスーパーなどで物を買うと、10%消費税が乗ってきます。例えば、税率が10%上がったため100円のコーラが「110円」になったとしたら、普通、「10円分は国に納める」と思いますが、実はこれは消費税率が上ったことを「理由」に値上げされているのです。

「消費税」は、こういった“マヤカシ的”な説明のされ方をします。消費者が支払うのは商品代金であり、実際は消費税の納税義務は事業者にあります。しかし、事業者は10%を国に支払っていない。

消費税は、小売りの商品1個にかける税金ではなく、事業者が「1年間の総売上高×10%」から「1年間に仕入れた額×10%を引いた」その“残り”に対して10%かけた金額を納税します。

事業者が差し引くことが出来るのは、物品の仕入れだけではない。工場の建設費や社用車を買った、社員のユニホームを買った、家賃を払ったなど、いろんなものをそこから差し引くことが出来ます。

そこではじめて「10%」という数字が法律で出てくるわけで、「消費者から10%取りなさい」というのは条文のどこにも書いていないのです。

例えば、社屋を新築して工務店に多額の工賃を払ったとすると、「払った分は引ける」わけですから、その年は「消費税を国に納めなくてもいい」ということも起こり得るのです。

お店側も、「お客さんから預かって納めるだけだから楽だ」という単純な性質のものでなく、非常に煩雑な計算をして税額が決まるのです。

消費税率は10%だから、我々が払ったものはそっくり税務署・国に入るかのように感じますが、実は違うのです。「自分の税金」がどこに行ったかなど本当は正確には分かりません。

事業者は消費税など預かっていませんし、合法的に納税額をコントロールすることが出来るのです。

要するに、国民から10%の消費税を払わせているように思わせているだけで、純粋な商品代金なんです。これはマヤカシと言われても仕方ないと思います。このような事を言うと、半信半疑の人もいるかもしれませんが、現実に消費税は「値増し販売」であるという裁判の判決も出ています。

実際過去に「消費税がおかしい」と裁判所に訴えた人がいます。平成2年3月26日に東京地裁で行われた裁判で判決が出ています。

その判決には「消費者が払っていると思っているのは錯覚ですよ。あれは“消費税”という税金ではありません。あれは“物価の一部”です」と書かれています。

要するに、我々消費者が「税金」だと思って支払っていた「10%」は、商品代金の一部であって消費税ではないのです。つまり、値引き販売ならぬ「値増し販売」が行われているのです。

先にも述べたように、消費税の原案は、米国人のシャウプ博士が考えたものです。皆さんは「付加価値税」という名前を聞いたことがあるかもしれません。これは、英国などでも課されている税金です。英語では 「VAT(Value Added Tax)」です。これを最初に考えたのが、米国のシャウプ博士です。

昭和24年 (1949)商店主と税金について語るシャウプ博士(右眼鏡の人物)(福岡県福岡市)

シャウプ博士は戦後の1950年(昭和25年)に来日して日本の税制を考えたときに、初めて日本に「付加価値税」っていう税金を導入しようとしました。彼が作った税制は、今の消費税と全くスタイルが同じです。ただ、違うのは消費者が払う「間接税」ではなくて「直接税」ということです。

今、日本にある「法人事業税」という税金を変えて、税金を作ろうとしたわけですが、日本の国会で通ったものの、4年間塩漬けになって結局は廃案になりました。廃案になった最大の理由は「赤字会社への課税」という部分でした。当時の財界が猛反対したためです。当時は、輸出産業より、戦後復興・内需拡大が優先されていたからです。

消費税が現状のようになってしまったのは、フランス政府が自国の輸出企業を支援するために、「直接税」だった付加価値税を、無理やり消費税という「間接税」にしたことで、錯覚を起こしやすい税金にしてしまったことによります。

フランスは輸入が多くて、輸出が少ない国です。クルマのルノーもなかなか売れません。それで悩んで考えた末に、「一生懸命やっている輸出企業を応援しようじゃないか」となり。応援するにはどうしたらいいかということになり「税金を低くすこと」になったのです。

しかし、当時「GATT(関税及び貿易に関する一般協定)」という協定で法人税を下げることが禁止されている。「じゃあ、間接税ならいいんじゃないか」ということで、本来、シャウプ博士が考えた「直接税」であった付加価値税を「間接税」として導入したのです。これは「大企業に還付金を与えるために考え出したもの」です。

このようなことを言うと、消費税は「輸出企業応援税制」だから、消費税を廃止したら大企業の国際競争力がなくなるではないかという声が聞こえてきそうです。しかし、はっきり言いますが「消費税を廃止したら、大企業の国際競争力がなくなる」は“屁理屈”です。

その理由は先程もあげたように「米国」です。米国にはそもそも消費税がありません。「輸出企業応援政策」がなくても、国際貿易ができています。日本でも同じはずです。

「消費税を上げると国際競争力が高まる!」と言うのは“大企業と財務省”だけです。世界では「法人税の下げ止まり競争を止めましょう」という流れになってきています

「消費税を上げて、法人税を下げろ」を言うのは、大企業と財務省だけです。消費税を上げると、国際競争力ではなく、還付金により間違いなく大企業の「資金繰りが楽」になります。

「法人税が高いと国際競争力がなくなる。法人税は上げられない」などという声を聞くこともありますが、現在法人税は下げ過ぎです。

世界的には「法人税の下げ止まり競争を止めましょう」という議論が起こっています。日本では、消極的ですが、この考え方の方がスタンダードになってきています。

理想的には、やはり消費税を廃止して、導入前の高い法人税率に戻すこと。そうすれば、景気も良くなります。無論、それとともに、現状の日本では、上の記事で高橋洋一氏が語っているように、総需要が20兆円程度積み増する必要があります。これに消費税増税などを用いるのは、本末転倒です。

輸出企業は、消費税制によって「輸出還付金」等という、ぬるま湯に浸かっています。しかし、還付金がなければ「努力して世界で売れる商品を作り続ける」しか生き残る術はありません。最近、企業の国際競争力が落ちてきたなどといわれていますが、その背景にはこのようなこともあります。

消費税制で還付金制度を設ける方式にするのか、従来並に法人税が高いのか、どちらが発展するか等、答えは明白です。それは、なぜ昔はSONYなどの企業が世界の最先端を行っていたのに、現在は米国GAFAなどに後塵を拝しているような状況になっているかを考えればすぐにわかります。

それにしても「財務省や政治家」のような国民の幸せを考える側の人が、なぜ「消費税」に賛成するのでしょうか。それは、おそらく国民に喜んでもらうより「大企業に喜んでもらう」ほうが何かと都合が良いからだと思います。

あとは教育でしょう。有名大学の教授の多くが「大企業が強い国が経済大国」という考えななのです。官僚は、学生の頃からこのような教育されているのでしょう。

このような見方に対して、大企業の経営者や財務官僚は、「法人税率が高いと、日本を出て海外に拠点を移す」と言いますが、これも屁理屈に過ぎません。

法人税率が高いと、確かに安い税金は魅力的だと考える企業はあるでしょう。しかし、政府の統計にもありますが、海外に本社機能を移転するのは「人件費が安い」「莫大な工場用地を確保できた」という理由が圧倒的です。

それに、日本の証券取引所で株式を上場している企業が、税金が安いからという理由だけで「節税のため、本社は○○国です」と言って通すのでしょうか。私はそのようなことはないと思います。少なくと、本社機能は日本に残すと思います。

興味深いことには、「税金が安いから他の国に出る」ということを、最も許さないと考えているのは財務省なのです。財務省はさまざまな法律を作って、「税金が理由で日本を離れようとする企業」に規制を設けて防御しています。

ただ、これも本当に矛盾しています。平成年間には、デフレであろうがなかろが、財務省は消費増税を繰り返し、日銀は金融引き締めばかりを行っていました。そのため、デフレ・円高がすすみ、日本で製品を組み立てるよりは、中国などで製品を組み立てそのから輸出したほうが、はるかにコストが安くなるため、多くの企業が生産拠点を海外に移しました。国内産業の空洞化が進展しました。

結局のところ、財務官僚は増税によって、自ら他省庁への資金の差配力を増し権力を巨大化し、輸出企業を味方につけ、結局天下り先で優雅な生活を送りたいだけなのでしょう。

そのため、国民が苦しもうが、政府が国民の支持を失い、政権が安定せずに、短期政権になったすることなどはお構いなしで、増税するのでしょう。それが、財務省の増税の本当の理由ですから、そのようなことは口が避けても言えないのでしょう。まだ、そのくらいの恥じらいはあるようです。

しかし、その本音は隠して、さまざまな屁理屈をつけて結局は増税するので、さまざまな矛盾が噴出するのでしょう。消費税には他にも問題点があります。ここで述べるとまた長くなるので、いずれ機会を改めて掲載しようと思います。


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2023年5月4日木曜日

中国で2つの異なる景気回復ペース、見通し巡り懸念強まる―【私の論評】中共はアベノミクスのような異次元の包括的金融緩和ができない!中国経済は、今後しばらく低迷し続ける(゚д゚)!

中国で2つの異なる景気回復ペース、見通し巡り懸念強まる


 中国の景気回復の不均衡を示す新たな兆しが浮き彫りとなった。中国の4月の製造業活動が数カ月ぶりの縮小となる一方、連休中の旅行は急増し、個人消費を後押ししている。

 財新とS&Pグローバルの4日の発表によると、4月の財新中国製造業購買担当者指数(PMI)は49.5と、前月の50から低下し、1月以来初めて製造業活動の縮小を示唆した。

 これは労働節の5日間の大型連休中に記録した観光関連の堅調なデータと対照的だ。国内旅行新型コロナウイルス禍前に当たる2019年の水準を19%上回った。ただ、観光関連の支出回復はさほど力強くなく、消費者が倹約志向を強めたことがうかがわれる。

 最新のデータは景気回復がますますまだら模様になっていることを示唆しており、1-3月(第1四半期)の中国経済が予想を上回る伸びを示した後、成長の見通しに陰りが出ている。

原題:China’s Two-Speed Economic Recovery Fuels Concerns About Outlook(抜粋)

【私の論評】中共はアベノミクスのような異次元の包括的金融緩和ができない!中国経済は、今後しばらく低迷し続ける(゚д゚)!

上の記事では、中国経済の現象面は語っていますが、その根本原因を語っていません。

このブログでも何度か述べてきたように、国際金融のトリレンマ(三すくみ)の理論によれば、独立した国内金融政策、安定した為替相場(固定相場制)、自由な資本移動の三つは、同時に実現できません。2つ選択できないのです。これは、経験則によっても知られていますし、数学的にも確かめられています。


実際、日米を含め殆どの国は上記三つのいずれかを放棄しています。これに対して中国は、金利・為替・資本移動の自由化を極めて漸進的に進める過程において、国内金融政策の自由度を優先しつつ、状況に応じて為替と資本移動に関る規制の強弱を調整することで、海外の資本・技術を取り入れて成長し、グローバルな通貨危機等の波及を阻止できました。

しかし、資本移動を段階的に自由化した結果、近時は人民元相場と内外金利差の相互影響が強まっています。これにより、国内金融政策が制約を受けたり、資本移動の自由化が一部後退するなど、三兎を追う政策運営は難しくなりつつあります。

中国は、グローバル経済に組み込まれた今や国単位では世界第2位(一人あたりのGDPでは、100円を少し上回る程度)の経済大国であり、こうした国は最終的に日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することが避けられないと、多くの先進国のエコノミストは思っていることでしょう。

移行が後手に回れば国際競争力が阻害されたり、国内バブルが膨らむ恐れがあります。一方で、拙速に過ぎれば、大規模資本逃避や急激な人民元安が懸念されます。中国は今後一層難
しい舵取りを迫られることになります。 

従来のように、全体景気回復するには人民元を大量に刷り増すなどの、大規模な金融緩和をしそれを資金として、大規模な公共工事等すれば良いのですが、これを実施してしまうと、国際金融のトリレンマにより、大規模な資本の海外への逃避(ドルの逃避)や、大規模な人民元安になってしまうため、それができない状態にあります。

先にあげたように、日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することは避けられないのです。

結局、中国は日米などの主要先進国と同様に、変動相場制に移行しなければ、金融緩和策を実施すれば、資本の海外逃避や急激な人民元安に見舞われるのは確実です。

習近平政権は、このことを理解しているかいないか判然としませんが、変動相場制に移行する気はないようです。人民元のデジタル化をすれば、流動性は多少は増すでしょう。現状ではデジタル元はあまり流通していませから大規模な緩和はできませんが、デジタル元を大規模に流通させたにしても、これによって大規模な金融緩和を行えば、やはり資本の海外逃避や、急激な人民元安は免れません。

デジタル化しようが、しまいが現状の中国の実体経済にほとんど影響はありません。これと、国際金融のトリレンマは全く別次元の問題です。

中国の国家統計局によると、今年1月から3月にかけてのGDP=国内総生産の実質成長率は前の年の同時期と比べプラス4.5%となりました。中国政府が掲げる通年での成長率の目標「プラス5%前後」には届かず、景気の回復が緩やかであることが明らかになった形です。

飲食などのサービス業中心の消費は回復していますが、自動車や家電の販売、不動産市場の低迷が続いています。

しかし、昨年の1月から3月にかけては、中国ではゼロコロナ政策が実施されていたことを考えると、今年はプラス4.5%になったとしても、このくらい伸びるのは普通のことだと考えられます。

会見で国家統計局の報道官は「国内需要の不足は明らかで、構造的問題があり、回復基盤の強化には努力が必要だ」との認識を示しています。

この構造的問題の中には、独立した金融緩和ができないこともふまれていのではと推測できます。

中国の街角

また3月の都市部での16歳から24歳までの失業率は19.6%と、去年3月の16.0%に比べ大きく悪化。「ゼロコロナ政策」で業績の悪化した企業が新卒の採用を減らしていることが原因とみられとしています。

ただ、この見方は正しくはないと思います。根本原因は、金融緩和ができないことでしょう。

以上のような問題、特に若年失業率を低減させるには、大規模な金融緩和をするのが必須ともいえます。日本ではアベノミックスにより、2013年4月から異次元の包括的金融緩和により、若年層の失業率が減り、とくに高卒・大(院)卒の就職率が劇的に良くなりました。

2023年、中国では1158万人が大学を卒業し、史上最も厳しいと言われる就職難に直面しています。大学卒業生は昨年と比べると7.6%も増加しており、就職を求める学生が市場に溢れるのは必至です。

中国の統計を見れば、2022年の時点ですでに大学卒業生の就職率は極めて低いことがわかります。文系学生の就職率はなんと12.4%と極めて低水準ですし、理系でも理学系が29.5%、エンジニア系が17.3%となっています。2023年にはこの数がさらに低くなるとみられているのです。

このような状況では、日本のアベノミクスのように異次元の包括的な金融緩和を実施すべきです。そうすれば、若者の失業率を低減できます。

それを中国政府は重々承知なのでしょうが、中国政府はそれができないのです。

若年失業率が高いことは、次代を担う若年層が就労というかたちで社会に参加できていないことを意味します。若年層は貯蓄が少ないうえ、失業保険などのセーフティーネットから漏れている人が多いため、失業は貧困や格差拡大につながりやすいです。

マクロ経済的な損失も大きいです。もっとも生産性の上昇が期待できる労働力を活用できなければ、必然的に企業はもちろん経済全体の活力も低下します。また、少子化の進行や人材の海外流出など、人的資本の縮小も誘発します。

若年失業率の上昇は、いずれの国においても社会の安定や国力を左右する深刻な問題であり、優先的な取り組みが期待される政策課題です。しかし、中国では失業率の高止まりが続くと見込まれます。

中国では大学新卒者の就職難や若者の失業率の高さが大きな社会問題に イメージです

理由の一つとして、大卒が今後も増え続けることがあり。高等教育の大衆化により大学の入学者は増え続けており、大卒がこれからも、1,100万人を超える水準で推移するのは間違いないです。それに加えて、大規模な金融緩和かできないという事情もあります。

長期的にみても、供給過剰が緩和される見込みは薄いです。国連の「世界人口推計2022年版」によれば、16~24歳の人口は2007年から減少し、2022年に1億4,439万人となる減少局面にあったものの、それを底に2033年まで増え続ける局面に入ります。

中国は、すでに2022年に人口減少社会に転じているとはみられますが、若年失業率は低下に向かうどころか、今後10年にわたり高止まりの状態が続くとみておくべきでしょう。

以上のようなことを考えると、中国が今後固定相場制から変動相場制に移行するなどの大胆な構造改革を行わない限り、中国経済は今の状態より一時的に少し良くなることはあったにしても、大きな趨勢では下降し続けることになるでしょう。

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2023年5月3日水曜日

ロシア 爆発で2日連続の列車脱線「破壊工作」とみて捜査―【私の論評】あらゆる兆候が、ウクライナ軍の反転大攻勢が近く始まることを示している(゚д゚)!

ロシア 爆発で2日連続の列車脱線「破壊工作」とみて捜査


 ウクライナと国境を接するロシア・ブリャンスク州で2日夜、爆発が起こり、貨物列車が脱線しました。ブリャンスク州では前日も爆発による列車の脱線が起きたばかりでした。


 タス通信などによりますと、ブリャンスクの州都に近い駅の付近で2日夜、爆発が起き、貨物列車およそ20両が脱線したということです。けが人はいませんでしたが、当局は何者かが意図的に爆発物を仕掛けたものとみて、調べています。

 ブリャンスク州では前日も爆発により、ベラルーシから石油製品などを運んでいた貨物列車が脱線していて、ロシア当局は破壊工作とみて調べています。

 ブリャンスクでは今年3月、ウクライナから侵入したとみられるグループが、市民2人を殺害する事件が起きていて、プーチン大統領は、テロとの見方を示していました。

【私の論評】あらゆる兆候が、ウクライナ軍の反転大攻勢が近く始まることを示している(゚д゚)!

ウクライナのロシア侵攻は、現状では東部と南部に限定されています。であれば、こちらの地域の鉄道を破壊するならわかりますが、なせブリャンスク州なのでしょうか。

3月には武装集団がウクライナから国境を越えてブリャンスク州西部の村を襲撃。直後にロシアからウクライナに移住した極右活動家が率いる組織が犯行声明を出すなど、不穏な事態が相次いでいます。これをロシア側は「ウクライナ側」の仕業としましたが、ウクライナ側は否定しています。

上の記事にもあるように、前日の1日にも、ブリャンスク州で同様の爆発が起きていました。ボゴマズ州知事は1日、テレグラムを通じて「ブリャンスクとウネーチャをつなぐ線路の136キロ地点で午前10時17分頃、正体不明の爆発装置が炸裂し、貨物列車が脱線した」と伝えました。

この事故でも人命被害はありませんでしたが、事故現場の写真を見ると、線路脇の草むらに倒れた列車に火がつき、煙が立ち上る様子が確認できる。この列車は石油と建築資材を運んでいたといいます。

同日、ロシアの第2の都市サンクトペテルブルクから南に60キロ離れたスサニノ村の近くでは、送電塔が破壊された。レニングラード州のアレクサンドル・ドロスデンコ州知事は、一晩の間に送電塔1基が爆破され、他の送電塔近くでも爆発装置が発見されたと明らかにした。ロシア当局はソーシャルメディアとマスコミを通じてこのニュースを伝えたが、誰の仕業かについては言及しなかった。


ブリャンスク州は、ロシア西部に位置し、ベラルーシ、ウクライナと国境を接する地域である。モスクワと西ヨーロッパ、ロシアとウクライナを結ぶ主要な交通路に位置し、戦略的な立地です。

ソ連時代、ブリャンスク州は軍事兵站の重要な拠点として、西部戦線への兵員や物資の輸送の拠点となっていました。ソビエト連邦崩壊後、この地域の軍事的プレゼンスは低下しましたが、輸送インフラは維持されたままでした。

近年、ロシア軍はブリャンスク州のインフラに投資し、物流能力を向上させているとの報告があります。鉄道や道路網の拡張、保管施設や物流センターの新設などです。

ロシアのウクライナ侵攻において、ブリャンスク州が兵員や物資を前線に輸送するための物流拠点として機能する可能性はあります。ただ、先にも述べたように、現状の戦線はウクライナ東部、南部に集中しています。

ただ、懸念されるのは、ロシアのプーチン大統領は昨年12月、ベラルーシのルカシェンコ大統領との会談で両国軍の合同演習の継続で一致するなど、ベラルーシとの結束を誇示しました。ベラルーシ国防省は6日、新たに露軍部隊が到着したとして、鉄道で運ばれてきたとみられる多数の軍用車の写真を公開しました。ベラルーシ大統領府は同日、ルカシェンコ氏が露軍部隊も駐留するウクライナ国境近くの演習場を視察したと発表しました。

ロシア軍が再度、キーフへの侵攻をする可能性も捨てきれません。その場合、ブリャンスク州がロシア軍の兵站基地になることが考えられます。しかも、ブリャンスク州はベラルーシとも国境を接しています。

ベラルーシの軍隊や軍事物資等、ブリャンスク州を経由して運ばれることも懸念されます。そのため、今回のテロはこれに対する牽制であるとも受け取れます。

ただ、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は1日の記者会見で、情報機関の分析として、ウクライナに侵攻するロシア側の兵士・戦闘員の昨年12月以降の死者数が2万人以上、負傷者数が8万人以上にのぼるとの見方を示していました。

ロシアはウクライナ東部ドネツク州バフムトの攻略を目指しており、ここ数カ月で死傷者数が加速度的に増加しているとみられます。これでは、ロシアにはもうすでに、ウクライナ東部・南部戦線と、キーウを狙う北部戦線のすべで攻勢に出るのはかなり難しいでしょう。

カービー氏は、ウクライナ側の死傷者数は明らかにしませんでした。ロシア側の死傷者の多くは、民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員といいます。刑務所からリクルートされた受刑者らが、十分な戦闘訓練や指導もないままバフムトなどに投入されているとしました。

この状況だと、ブリャンスク州やクルスク州などは軍事的にはかなり手薄になっていると考えられます。これは、ロシアもしくはウクライナの武装グループが仕掛けたものでしょう。あるいは、両方かもしれません。

武装グループにとっては、まずは攻撃しやすいということがあるのでしょう。さらに、今後のウクライナ軍による大反抗が予想されるなか、ブリャンスク州で頻繁にテロを起こして、こちらのほうにロシア軍をひきつけて、少しでもウクライナに有利になるようにするという意図もあるとみえます。

先月29日には、2014年3月にロシアが合併を宣言したクリミア半島のロシア黒海艦隊の拠点であるセバストポリの油類貯蔵庫で、ドローンによるものとみられる攻撃で爆発が発生しました。ウクライナ軍はこれに対して、異例にもウクライナ軍の大規模反撃攻勢のための「準備過程」だったと発表しました。

軍ではない、武装グループもこれに呼応して、自分たちの裁量で、破壊活動をしている可能性があります。

モスクワの軍事政治研究センターで責任者を務めるアンドレイ・クリンチェビッチ氏は「敵軍(ウクライナ軍)は今月9日(戦勝記念日)にロシア領土深くに入る込む大規模な挑発を準備している」と述べました。

モスクワで、戦勝記念日に行う軍事パレードのリハーサルをするロシア軍(4月28日)

同メディアは「(ウクライナは彼らの)勝利について欧米など世間の耳目を惹く動きを必要としている」と伝え、反撃の時期を戦勝記念日と予測した理由について説明しました。

同メディアは「ウクライナの反転攻勢によりロシアの都市を狙った小規模なテロ攻撃が数十回行われる可能性がある」とも予測しているとも伝えています。

旧ソ連による対独戦勝記念日である5月9日にモスクワの「赤の広場」で行う軍事パレードに、外国の首脳が一人も出席しない見通しとなりました。露大統領報道官が4月末、ロシア通信などに明らかにしました。

参加者や登場する兵器も減らす予定で、ウクライナ侵攻の影響が、プーチン大統領が特に重視する行事にも及んでいます。

報道官は、戦勝記念日は「我々ロシア人にとっての祝日だ」と述べ、「外国首脳を招待しなかった」と説明しました。戦勝75年の節目だった2020年には米欧や日本の首脳も招待してました。

やはり、ロシアはウクライナ反転攻勢を警戒しているでしょう。さらに、軍事パレードなどもテロの対象になる可能性を懸念しているのでしょう。

米ニューヨーク・タイムズも1日付で「ウクライナによる反転攻勢が近い徴候が相次いで捕捉された」と報じました。

ニューヨーク・タイムズは「この徴候には双方の軍事攻撃強化、ロシア軍による防衛陣地の移動、ウクライナと接するロシア西部の都市で発生した爆発による列車脱線事故なども含まれる」と伝えています。

ウクライナのレズニコフ国防相も先月28日に国営テレビに出演し「反撃の準備は最後の段階に入った」「その方法や位置、時期については指揮官たちが決めるだろう」と述べ、反転攻勢を予告しました。

これに対してロシア軍もウクライナの反転攻勢に備えるため、南部の防衛陣地に部隊を移動させています。英国の国防情報参謀部はロシアが最前線近くだけでなく、現在統制している地域でも「最も広範囲な軍事防衛システムを構築した」と説明しました。

米カペラ・スペース社の衛星写真に映し出された、ウクライナ・ザポロジエ州のロシア占領地域に築かれた3層構造の防衛線=4月11日 クリックすると拡大します

実際露側は進軍を妨害する約800キロメートルにも及ぶ防衛線(塹壕)の構築を急ぎ、完成間近か、完成されいることが分かっています。露軍は、占領地域の防衛に徹することに戦術を切り替え、持久戦に持ち込む狙いとみられます。

しかし、防衛線を保つには、乱れのない指揮系統や空中戦での優位が必須条件とされ、時代がかった長大な塹壕は無用の長物と化す可能性もあります。

さらにロシアはミサイルによる奇襲攻撃を行うことで大攻勢を阻む意図を伝えるとみられるシグナルを送っています。 ロシア軍は1日未明、ウクライナ全土に3日間で2回目となるミサイル攻撃を行いました。 東部の地区で大規模な火災が発生し、当局者によると34人が負傷、住宅数十棟が損害を受けました。 ウクライナ軍は、防空部隊がロシア軍のミサイル18発のうち15発を破壊したと発表しました。

これらは、本当に今月9日(戦勝記念日)に反転大構成があるかどうかは別にしてウクライナ軍の反転大攻勢を近いことを示している兆候であると考えられます。

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2023年5月1日月曜日

南アフリカがプーチン大統領側にサミットに来ないで―【私の論評】様々な情報が飛び交う中、プーチンが弱体化していることだけは間違いない(゚д゚)!

 南アフリカがプーチン大統領側にサミットに来ないで

 BRICS(新興5カ国首脳会議)で今年の議長国を務める南アフリカがロシア側にプーチン大統領の出席をやめるよう求めていると地元メディアが報じました。

 南アフリカのサンデータイムズは30日、南アフリカ当局がロシア大統領府に対し、プーチン大統領のオンラインでの首脳会議出席を提案していると報じました。

 ICC(国際刑事裁判所)がプーチン大統領に逮捕状を出していて、ICC加盟国の南アフリカはプーチン大統領が南アフリカへ入国する場合には逮捕しなければなりません。

 南アフリカは一時、プーチン大統領を受け入れるためにICCを脱退する動きも見せましたが、今は一転してICCにとどまる方針を明らかにしています。

 タス通信などロシアの国営メディアもサンデータイムズ紙の報道を引用して報じています。

【私の論評】様々な情報が飛び交う中、プーチンが弱体化していることだけは間違いない(゚д゚)!

ロシア大統領府のペスコフ報道官は先月24日、プーチン大統領が8月に南アフリカで開かれる新興5カ国(BRICS)首脳会議に出席するかは、時期が近づいたら適切に決定すると述べていました。

BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国で構成。国際刑事裁判所(ICC)はウクライナでの戦争犯罪容疑でロシアのプーチン大統領に逮捕状を出しており、南アで開催されるBRICS首脳会議にプーチン氏が出席した場合、ICCに加盟している南アは理論上、プーチン氏を逮捕する必要がありました。

プーチン(左)とシリル・ラマポーザ南アフリカ大統領(右)

ペスコフ報道官は定例記者会見で、プーチン大統領が出席するか「時期が近づいたら適切に決定する」とし、 ロシアはBRICSを極めて重要視しているため、「いずれにしてもロシアは積極的に(会議に)参加する 」と述べました。

ICCは3月17日にプーチン大統領に対する逮捕状を発行。ロシアはICCに加盟していないですが、プーチン氏がICC加盟国に渡航し、逮捕されれば、裁判にかけられる可能性があります。

結局、南アフリカは、プーチンがBRICSサミットに参加させない道を選びました。

ロシアと南アフリカの関係は、両国が冷戦時代から外交的な接触を持っていたことに由来します。この関係は、南アフリカが民主主義に移行した後も継続しており、経済、政治、文化、軍事などの分野での協力が見られます。

経済面では、ロシアは南アフリカの主要な貿易相手国の1つであり、両国は金、プラチナ、ダイヤモンドなどの天然資源の取引を行っています。また、ロシア企業は南アフリカでの投資を拡大しており、エネルギー、鉱業、農業などの分野での共同プロジェクトが進行しています。

政治面では、両国は国際的な問題において協力しています。例えば、南アフリカは国際原子力機関(IAEA)理事会においてロシアの委員資格を支持するなど、国際社会においてロシアを支援しています。

軍事面では、南アフリカはロシアとの軍事技術協力に積極的に取り組んでおり、両国は兵器や軍事訓練などの分野で協力しています。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻やその他の国際的な問題に関して、南アフリカ政府はロシアに対する批判的な姿勢を示していることもあります。

BRICSは、先にもあげたように、新興国の5か国からなる新興国・途上国のグループであり、国際的な政治や経済における影響力を高めることを目的としています。

中国は、「中国が国際基軸通貨であるドルの弱体化を望んでいるという一定の証拠がある」

米大統領経済諮問委員会(CEA)のメンバーのジャレッド・バーンスタイン氏は米上院銀行委員会が4月18日に開いた公聴会でこのように述べました。

この発言は、昨年2月のロシアのウクライナ侵攻後に、中国を始めBRICS(ブリックス)の間で「ドル離れ」の動きが生じていることを意識したものです。

中国を訪れたブラジルのルーラ大統領(右)

一方、BRICSプラスは、BRICSに加えて、イランやサウジアラビアなどの国々を含むグループを指します。BRICSプラスがドルの地位を脅かすものとなるかどうかについては、複数の要因があります。

まず、BRICSプラスがドルの地位を脅かすためには、膨大なドル建ての資産を持つ国々や企業が、BRICSプラスに参加してドル以外の通貨や決済システムを利用する必要があります。

しかし、現在のところ、これらの国々や企業がドルを放棄することは容易ではなく、BRICSプラスがドルの地位を脅かす可能性は低いと考えられます。

また、BRICSプラスに参加する国々の経済規模や影響力がまだまだドルに劣ることもあり、BRICSプラスがドルの地位を脅かすためには、まず経済や政治的な発展を遂げる必要があります。

しかし、BRICSプラスがドル以外の通貨や決済システムを活用することで、ドルの地位に対するアジアやロシア、中東などの国々の関心が高まることはあり得ます。また、BRICSプラスの影響力が高まることで、ドルを代表するアメリカの影響力が低下する可能性もあります。

総じて言えることは、BRICSプラスがドルの地位を脅かすことは難しいと思われますが、BRICSプラスが成長し、国際社会における影響力を高めることは、ドルの地位に影響を与える可能性があるということです。

ただ、その可能性は現状では、まだまだ低いです。今回の、南アフリカがプーチンにサミットにこないように申し出たのは、やはり背景にこのようなことがあるからでしょう。

まあ、ロシアの経済はウクライナ戦争の前でさえ、韓国を若干下回る程度で、軍事的にもウクライナにすぐには勝利を収められない現状をみれば、南アフリカとしても、ロシアに義理立てしてもあまり意味がないことを十分に理解したのでしょう。

プーチンは28日、ロシア国籍を取得した人がロシア軍の信用をおとしめる行為などをした場合、国籍を剝奪(はくだつ)できる改正法案に署名しました。政府がサイトで公表した。180日後に施行される。ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ4州の出身者も対象となっており、ウクライナ侵攻への批判を封じる狙いがあるとみられます。

これは、本当かどうかは、わかりませんせが、元ロシア連邦警護庁(FSO) グレブ・カラクロフ氏は、「プーチンは暗殺を恐れていると思う。サンクトペテルブルク、ソチとモスクワ郊外にある大統領公邸の執務室の内装は全く同じ。例えばプーチンがソチにいた時、テレビで彼がモスクワ郊外で会議をしたというニュースが流れた。そこでソチにいる仲間に“彼はもう帰ったの?”と聞くと“まだいる”と返ってきた」


つまりモスクワに移動したと見せかけた後に執務室のプーチン氏が映れば、皆モスクワの執務室だろうと思うが、実際は同じ内装のソチの執務室にいるとされています。これは無論、テロが多発していることを暗に示していると思います。

これが、本当かどうかは、わかりませんが、ただ、ロシアがウクライナで破竹を進撃をし、とうの昔に、キーウを占領して、ゼレンスキー政権を追い出し、ロシアの傀儡政権でも樹立していれば、このような、もっともらしい話もなかったかもしれません。

プーチンが苦境に追い込まれていることだけは、間違いないようです。

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2023年4月30日日曜日

動き出したスリランカ支援―【私の論評】スリランカの破綻の直接の原因は実はエネルギー問題、日本は途上国と先進国の両方を満足させる技術を持っている(゚д゚)!

動き出したスリランカ支援

深刻な経済的苦境にあるスリランカの新大統領にラニル・ウィクラマシンハ氏が選出され抗議する人々(2022年7月20日)

【まとめ】

IMF、スリランカに対する4年間で30億ドル相当の金融支援を行うことで合意。

G20中央銀行総裁会議、日本主導でスリランカの債務返済繰り延べに向け債権国会議を発足。

・中国は債権国会議の対応を見ながら、自らの力をより大きく見せる方途を探っている。

 
経済危機に直面するスリランカに対する支援を巡り、動きが活発化してきている。

スリランカは人口の70%が仏教徒主体のシンハリ人で、タミル人との紛争が終結した2009年以降も国内で政争が絶えなかった。

2019年の爆破テロ事件、同年のゴダバヤ・ラージャーパクサ大統領による減税や新型コロナ感染拡大での主力産業の観光の落ち込みなどで外貨準備が輸入額の1か月分にも満たない額にまで減少

2022年3月以降、大統領の退陣を求めるデモが起きた。同国財務省は同年4月12日、国際通貨基金(IMF)の経済調整プログラムに沿った債務再編が行われるまで債務支払いを停止するとデフォルト宣言をした。

このため、5月にはマヒンダ・ラージャーパクサ首相が辞任に追い込まれ、その後の大規模デモ・騒動でゴタバヤ・ラージャ―パクサ大統領は国外脱出後に辞任するという事態に陥った。マヒンダが兄でゴダバヤが弟だ。その後、ウィクラマシンハ首相が新大統領に選出され、今日に至っている。

IMFは同年9月の事務レベル会合で、スリランカに対する4年間で30億ドル(約3,950億円)相当の金融支援を行う拡大信用供与措置(Extended Fund Facility=EFF)を採ることで合意。今年3月20日の理事会でEFFを承認した。

EFFは国際収支の改善を通じ、マクロ経済の安定化、債務の持続性、貧困者や弱者に対する影響の軽減を狙ったもの。同承認を受け、IMFはスリランカにまず3億3,300万ドルの支援を行うこととなった。

◾️日本の主導で債権国会議が発足

日本は、1951年の二次大戦後のサンフランシスコ講和会議で、スリランカのジャヤワルデナ蔵相(当時)が「憎悪は憎悪によって止むことなく、愛によって止む」という仏陀の言葉を引用して演説したことに感銘。大統領になったジャヤワルデナを1979年9月、国賓として日本に迎えた。日本からは1990年に海部俊樹首相(当時)がスリランカを訪問、2014年9月には安倍晋三首相(当時)が、日本の首相として24年ぶりに同国を訪れている。老練政治家のウィクラマシンハ大統領は、そうした流れの中で日本政府関係者の受けが良い。

今年の4月13日には米ワシントンで、G20 ・中央銀行総裁会議が開かれた。途上国で問題化する債務問題などで共同声明は出せなかったが、日本の主導でスリランカの債務返済繰り延べに向けた債権国会議を発足させた。鈴木俊一財務相兼金融担当相、インドのシータラーマン財務相、フランスのムーラン経済・財政省国庫総局長、スリランカのウィクラマシンハ大統領兼財務相(オンライン参加)およびセーマシンハ財務担当国務相、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエヴァ専務理事、岡村健司副専務理事が記者会見し、同会議の発足を表明した。

鈴木財務相はその席で「広範な債権国間の協調体制が生まれることは歴史的快挙」と述べた。G20 は2020年に低所得国の債務問題を扱う共通の枠組みをつくり、スリランカのような中所得国扱いに対する債務返済危機に対しては債権国で構成するパリクラブが当たっていた。今回のスリランカに対する債権国会議にパリクラブのメンバーでないインドも入っている。鈴木財務相は、国としてスリランカに最大の債権を有する中国が同会議に出席するかどうかについて言及しなかった。

◾️「債務のわな」を仕掛けた中国の出方がカギ

スリランカは中国の一大経済圏構想「一帯一路」の下で、「債務のわな」に陥ったとの見方が一般的だ。中国はそうした見方に反発している。しかし、スリランカは南部の主要港であり、ラージャーパクサ兄弟の地元であるハンバントタ港の建設資金約14億ドルに関し、中国からの負債と同港の99年間の運営権をスワップ(交換)している。その合意では、中国の軍関係者の関与を禁じるとなっているようだが、中国がミャンマー、パキスタンに続き、スリランカにインド洋進出の拠点を手中にしたと見る向きは根強い

スリランカの対外債務額は資料によって異なるが、IMFの今年3月段階の同国レポートによると、2022年の官民の対外債務総額は暫定値で587億ドル、2023年の予測値は562億ドルとなっている。外国法に準拠した2022年の公的対外債務額は約415億ドル弱。うち、IMF、世界銀行、アジア開発銀行など多国籍機関が115億ドル弱。個別国の総額は114億ドル強で、日本などパリクラブ所属国が48億ドル弱、非パリクラブ国の中国が45億ドル弱、同じく非パリクラブ国のインドが18億ドル強。中国の国家開発銀行などによる貸し付けが29億ドルなどとなっている。

IMFはスリランカの今年の実質GDP成長率をマイナス3.0%と見込んでいる。

スリランカの貿易相手国で、輸入で最大なのは中国でシェアは21%、2位はインドで22.4%、産油国のアラブ首長国連邦(UAE)が3位で6.8%。輸出は、米国が24.8%、英国が7.5%、インドが6.6%の順。

ロイター電は3月初旬、中国輸出入銀行がスリランカに送付した書簡の中で2022年と2023年が支払期限の債務について支払い猶予を数か月内に実施などと繰り返し強調、と報じている。

中国は債権国会議の対応を見ながら、自らの力をより大きく見せる方途を探っているように見える。(敬称略)

【私の論評】スリランカの破綻の直接の原因は実はエネルギー問題、日本は途上国と先進国の両方を満足させる技術を持っている(゚д゚)!

上の記事では、スリランカがなぜデフォルトしたのかについては、述べていません。特にデフォルトの直接にきっかけについては述べていません。これについては、以前このブログに述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
破産宣言のスリランカ 債務再編主導を日本に依頼へ―【私の論評】スリランカは、日本に開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させ、その開発・利用への支援を再開して欲しいと願っている(゚д゚)!
この記事より一部を引用します。
"
スリランカの経済が破綻し大規模デモがおきて政権が転覆したのは、数々の失政が重なった結果ですが、とどめの一撃となったのは燃料費の高騰でガソリンが輸入できなくなったことでした。

スリランカの最大都市コロンボで最近みられる、ガソリンスタンドでたくさんの車やバイクが行列ぎょうれつをつくる光景

いまの開発途上国でのエネルギー危機は、単にウクライナの戦争のせいではありません。近年になって、欧米の圧力によって化石燃料事業への投資が停滞していたことが積み重なって、今日の破滅的な状態を招いているのです。

インド人の研究者である米国ブレークスルー研究所のビジャヤ・ラマチャンドランは科学雑誌Natureに書いています。
「近代的なインフラを最も必要とし、世界の気候変動問題への責任が最も軽い国々に制限を課すことは、気候変動の不公正の極みである」。
ラマチャンドランは、国際援助において、気候変動緩和をすべての融資の中心に据えるという近年の方針について、偽善であり、二枚舌だとして、猛烈に抗議しています。
「それは、経済開発に使える資源を必然的に減らすことになり、しかも地球環境にはほとんど貢献しない。・・なぜそのような努力をするのか。世界銀行とIMFの主要株主である富裕国は、これまでのところ、エビデンスや合理的なトレードオフに基づく気候変動政策の策定にはほとんど関心を示していない。 
それどころか、天然ガスを含む化石燃料への融資を制限し、自国では思いもよらないような制限を世界の最貧国に対して課すことを、自画自賛しているのである。その規制の中には、化石燃料への開発金融をほぼ全面的に禁止することも含まれている。 
世界銀行は、気候変動緩和政策と貧困削減の間の急激なトレードオフを最もよく理解しているはずである。しかし、国内の環境保護団体を喜ばせたい資金提供者が課した条件には従うしかなかったようだ。・・欧州連合は、自分たちはクリーンエネルギーの原子力発電所を停止し、天然ガスの輸出入を増やし、国内の石炭発電所を新たに稼働させる一方で、開発金融機関に対しては、貧困国でのすべての化石燃料プロジェクトを直ちに排除するよう主張している。」
「さらに悪いことに、EUの官僚たちは現在、『何がクリーンエネルギーか』をめぐって一進一退の攻防を繰り広げている。燃料不足に直面する加盟国から、原子力や天然ガスまで定義(タクソノミー)を拡大するよう圧力がかかっている。その一方でEUの広報担当者は、“EUの柔軟な分類法は、開発政策に反映されることはない”と明言した。つまり天然ガスはヨーロッパ人にとってはグリーンだが、アジアやアフリカの人々にとっては事実上禁止されるということだ。」
何十億人の人々が、先進国のエリートたちによって、化石燃料のない、貧困に満ちた未来へと組織的に強制されているのです。気候危機説を信奉する指導者たちが、開発途上国の化石燃料使用を抑圧しているからです。哲学者のオルフェミ・O・タイウォは、この現象を「気候植民地主義」と呼んでいます。
"
「気候植民地主義」という言葉は、さまざまな学者や活動家によってさまざまな文脈で使われてきましたが、一般的にはインドの環境学者・物理学者であるヴァンダナ・シヴァの言葉だとされています。シヴァは、環境主義、社会正義、グローバリゼーションの交わるところについて幅広く執筆し、気候変動の緩和と適応の努力による費用と利益の不平等な分配は、新しい形の植民地主義を構成すると主張している。

ヴァンダナ・シバ

「気候植民地主義」とは、歴史的に温室効果ガスの最大排出国である先進国が、その富と権力を使って気候変動対策の条件を決定し、途上国に解決策を押し付け、しばしば地域社会や生態系を損なっているという考え方です。

これは、たとえば、ダムや再生可能エネルギー設備のような大規模なインフラプロジェクトが、しばしば地元の人々を追い出したりや生態系を傷つけたりすることにより、コミュニティ主導のアプローチや社会正義よりも市場ベースのメカニズムや技術的解決を優先する政策や協定をとることもあるとの主張です。

日本では、最近では無秩序な太陽光パネルの設置が問題になっています。

無秩序で危険極まりない太陽光バネルの設置(和歌山県)

CO2素排出削減目標や再生可能エネルギーの義務付けを行うことも、独善的と受け取られかねません。このようなアプローチは、途上国が経済成長と社会発展を支えるために、安価で信頼できるエネルギー源へのアクセスを必要とすることが多いという事実を無視しかねません。

 先進国は、エネルギー問題に関連する国際援助や開発資金に条件を付け、自国のエネルギーの優先順位を途上国に押し付けることがあります。これは、各国の多様なエネルギーニーズと優先順位を認識しない独善的なものと言わざるを得ないです。

例えば、エネルギープロジェクトに対する資金援助を、現地の状況における技術の適合性や実現可能性を考慮することなく、特定の技術やエネルギー源に結びつけることは、画一的なアプローチの押し付けと受け取られかねないです。

先進国は、再生可能エネルギー技術などのクリーンエネルギー技術の途上国への移転を制限することもあります。これは、途上国がよりクリーンなエネルギー源への移行や気候変動の緩和に役立つ技術にアクセスすることを妨げるものであり、独善的と受け取られかねません。

技術移転の制限は、先進国による知的財産保護主義や技術進歩の囲い込みの一形態と見なすことができ、途上国が持続的にエネルギー需要に対処するための進歩を妨げる可能性があります。

先進国は、南半球のエネルギー資源や管理に関する先住民や地域の知識を軽視したり、過小評価したりすることがあります。

これは、何世代にもわたって天然資源とともに持続可能な生活を送ってきた地域社会の伝統的な知恵や慣習を無視するものであり、独善的と受け取られかねません。先住民や地域の知識を無視することは、地域コミュニティの疎外や移動につながり、先進国と途上国の間の力の不均衡を永続させる可能性があります。

世界のエネルギー問題に取り組むには、開発状況にかかわらず、すべての国の協力的な努力と相互尊重が必要であることを認識することが重要です。すべての国が持つ固有のエネルギーニーズ、状況、視点を考慮した包括的かつ公平なアプローチは、世界のエネルギー問題に対する有意義で持続可能な解決策を促進するのに役立ちます。

気候植民地主義の支持者は、このアプローチは植民地主義を特徴づける搾取と支配のパターンを再現し、途上国や先住民の主体性と主権を損なうと主張しています。気候変動の影響を最も受ける人々の声やニーズを重視し、気候危機の原因となった歴史的・継続的な不公正を認識した上で、より民主的で公平な気候変動対策へのアプローチを求めています。

私は、「環境植民地主義者」の主張に関して、これをすべて支持するものではありませんが、それにしても、これを無視することは、先進国の傲慢であると思います。

日本主導でスリランカの債務返済繰り延べに向け債権国会議を発足したことは喜ばしいことです。今年日本はG7議長国となります。開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させて、化石燃料の開発・利用への支援の再開を訴えるべきです。

もしこれに失敗すれば、開発途上国は本当に欲しいものを供給し支援してくれる国々を頼るようになるかもしれません。それはロシアであり、中国かもしれません。あるいは、原子力発電の実績のある北朝鮮かもしれません。北朝鮮は、原子力発電所の輸出ととも、核兵器を輸出するかもしれません。

開発途上国は先進国が呼びかけた対ロシア経済制裁に殆ど参加しませんでした。つまりいつまでも先進国の言いなりにはならないということです。

そうした中での、日本主導でスリランカの債務返済繰り延べに向け債権国会議を発足です。これを機会に、日本は開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させて、化石燃料の開発・利用への支援の再開を訴えるべきです。

そうして、それができる裏付けが日本にはあります。日本の化石燃料を用いた発電など、かなり技術が進んでいます。たとえば、横浜市にある磯子石炭火力発電所は、「クリーンコール技術」とよばれる技術を活用し、大気汚染物質の排出を大幅に削減しています。2002年のリプレース(建て替え)前に比べると、窒素酸化物(NOx)は92%、硫黄酸化物(Sox)は83%、粒子状物質(PM)は90%減っています。

さらに日本には、火力発電所で発生するCO2を分離、回収して貯留することでCO2を削減するCSSという技術も開発しています。

世界には、石炭をエネルギー源のひとつとして選択せざるを得ない国が存在しています。その理由は、安定した供給を行うことができるという「エネルギー安全保障」、そして「経済性」にあります。

国際エネルギー機関(IEA)の分析では、インド、東南アジア諸国を中心とした新興国では、経済発展とともに、今後も石炭火力発電のニーズが拡大する見通しとなっています。新興国にとって、安く、安定的に採れる石炭は、引き続き、重要なエネルギーなのです。

日本は、エネルギー面での、グローバル・サウス(発展途上国)と、先進国の両方満足させる技術やノウハウを提供できます。これを活用しない手はありません。これによりグローパルサウスがエネルギーで中露に取り込まれるのを避けるべきです。日本は、この面で先進国と途上国の両方の架け橋になるべきです。戦後一度も、紛争等に直接介入したり、覇権を行使してこなかった日本こそが、その役を担うことができると思います。

先進国の理想を実現しようとし、グローバル・サウスのほとんどが、中露に取り込まれるようなことだけは避けるべきです。


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2023年4月29日土曜日

防衛財源確保法案のカラクリ 本当は「増税なしでも手当可能」だ 透けてみえる財務省の思惑―【私の論評】確実に税収が上ブレする現状で防衛財源確保法案は、財務省の増税の意図を隠す表看板に過ぎない(゚д゚)!



 防衛力の強化をめぐり、防衛財源確保の特別措置法案が提出された。「防衛力整備計画」の財源を裏打ちしたものだ。

 防衛力整備計画は国防に関する中長期的な整備計画で、改定された「国家安全保障戦略」および、防衛計画大綱に代わって策定された「国家防衛戦略」とともに昨年12月16日に閣議決定された。

 同計画の5年間の防衛力整備に係る金額は43兆円程度とされており、その財源として、歳出カット、外国為替資金特別会計(外為特会)の利差益などとともに実施時期未定の防衛増税がある。

 宇宙・サイバー・電磁波領域を含む全ての領域における能力を有機的に融合し、平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とする多次元統合防衛力を抜本的に強化するとされている。

 日本を取り巻く安全保障環境の急変から、大幅な防衛予算には異論が少ないだろうが、財源にはさまざまな意見がある。

 安倍晋三元首相は生前、「防衛国債」を主張した。「道路や橋は次の世代にインフラを届けるための建設国債が認められている。防衛予算は消耗費といわれるが間違っている。防衛予算は次の世代に祖国を残していく予算だ」と語っていた。

 一方、岸田文雄首相は「国債でというのは、未来の世代に対する責任として採り得ない」と述べた。

 どちらが正しいかといえば、安倍元首相だ。防衛はインフラと同じで将来世代まで便益があるのだから、国債にふさわしい。そもそも「有事費用は国債で賄われる」という歴史事実さえ押さえておけば、事前の有事対応にも国債がふさわしいのは自明だ。だが、今回も経済や学者からはまともな声は出てこない。

 ドイツは防衛費の国内総生産(GDP)比2%のために1000億ユーロ(14・5兆円程度)の特別基金を創設し、国債発行で賄った。これは、安倍元首相の防衛国債そのものだ。

 国債に関連していえば、減債基金自体、先進国ではかつてはあったが今では存在していないので債務償還費の繰り入れがない。となると、日本の予算では、歳出が債務償還費分、歳入はその同額の国債が先進国から見れば余分に計上されていることになる。

 その債務償還費の一般会計繰り入れを特例法で停止し、それで基金をつくれば、少なくともドイツと同じ特別基金ができる。しかも増税は必要なくなる。事実上、防衛国債と同じだ。

 また、現状では外為特会の利差益は財源とするが評価益は使わないという。評価益を使えば、これも増税なしになる。

 これまでの中期防衛力計画では、今回のような財源確保法はなく、毎年度予算で対処してきた。もっと率直にいえば5カ年計画の財源はすぐに用意できるので増税の必要はまったくない。なのに防衛財源確保法案を出すのは、防衛予算の大幅増を奇貨として、増税にもっていこうとする財務省の思惑が透けてみえる。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】確実に税収が上ブレする現状で防衛財源確保法案は、財務省の増税の意図を隠す表看板に過ぎない(゚д゚)!

世界中の国々で、戦争や大規模な自然災害への対応として、政府が国債を発行して資金を調達するのは普通のことです。これにはいくつかの理由があります。

日本の戦時国債

まず、国債は、政府が多額の資金を迅速に調達するための手段だからです。政府が国債を発行するということは、実質的に投資家からお金を借りるということです。投資家は国債を購入し、お金を貸す代わりに国から利息を受け取ります。このため、政府は、増税や他の分野での支出を削減することなく、多額の資金を調達することができます。

第二に、国債は、政府が緊急の出費を長期にわたって分散させる方法を提供するものです。政府が債券を発行する場合、通常、一定期間(10年、30年など)、債券の利息を支払うことになります。戦費などの場合は、数十年から100年近くに及ぶ場合もあります。

実際、日露戦争(1904〜1905年)の戦費は、国債で賄っており、1980年代にその償還が終了しています。これにより、政府は緊急事態の費用を一度に支払うのではなく、より長い期間にわたって分散させることができます。

第三に、債券は、政府が信用力を維持するための手段でもあります。政府が債券を発行するということは、その政府が資金を借り入れ、債務を返済する能力があることを実質的に証明することです。このことは、政府の財政管理能力に対する信頼を維持することにつながり、経済の安定を維持する上で重要です。

政府が戦争や自然災害への初動を国債で賄った例としては、次のようなものがあります。

米国は、第一次世界大戦と第二次世界大戦の際に戦時国債を発行し、戦費を調達しました。日本もそうでした。

日本は、巨額の戦費を国債で賄ったため、終戦後超インフレになりかけました。これをもって国債を発行することを忌避するむきもありますが、これには一考を要します。

もし、日本が仮に巨額の戦費をすべて増税で賄っていたとしたら、国力が衰えて、そもそも米英等とは戦争できなかったかもしれません。この一面だけを捉えると現実を見失います。

米英と戦争しなくても、日本はソ連に一方的に押しまくられる存在になったていたでしょう。結局、日本はいずれかの形でソ連圏に組み込まれていたかもしれません。そうなれば、今頃わたしたちの国日本は、ウクライナのようになっていたかもしれません。それどころか、日本が加わったソ連は、さらに精強になり、今頃まだ冷戦は終わっていなかったかもしれません。

第二次世界大戦は、日本では日本と英米との戦いのみが、強調されますが、日ソの戦いがあったことも忘れるべきではありません。

朝鮮戦争後、マッカーサーは公聴会で日本の中国大陸での戦争について聴かれ、「朝鮮戦争で実際に戦ってみてわかったが、日本は満州でソ連と対峙していたのであって、その意味では彼らの戦争は防衛戦争だったといえる」と証言しています。


関東軍が満州で踏ん張っていたからこそ、日本はソ連圏に組み込まれることはありませんでした。もしそうでなかったら、日本だけでなく中国や朝鮮半島も、第二次世界大戦後ソ連に組み込まれていたでしょう。そのようなことが予め予想できたので、日本は中国大陸での戦争に踏み切ったのでしょう。

現在のように国連や国連軍もNATOもなかった時代には、自国を守るためには、残念ながら他に選択の余地はなかった思います。当時の日本のような地政学的な位置にあれば、他国でも同じようなことをしたでしょう。マッカーサーはこれを理解したのでしょう。現在の尺度で歴史を見たり判断すべきではありません。

米英がこのことを理解していれば、第二次世界大戦はもっと違った形のものになったかもしれません。戦争後はソ連に、今日では中国や北朝鮮に振り回されことはなかったかもしれません。残念ながら、歴史には「もし」はありません。

米英がいくら当面の戦争を早めに終わらせるためとは言え、全体主義国ソ連を仲間に引き入れたのは、明らかな間違いでした。その後の世界を複雑なものにしてしまいました。今日のウクライナ問題も、大きな枠組みでは、そのための余波といえます。

巨大な戦費に関して、目先のことだけで判断していれば、判断を誤ります。防衛費も大きな視野、長期の時間軸によって考えるべき筋のものです。ちなみに、英国では戦時には戦費を賄う会議に財務大臣を参加させません。

米国をはじめとする多くの国は、COVID-19の大流行に対する初期対応として、景気刺激策や医療制度への支援などのために国債を発行しています。日本もそうでした。

国債は、戦争や大規模な自然災害やパンデミック等への初期対応に必要な資金を調達するために、政府が多額の資金を迅速に調達できる便利で柔軟な方法です。

政府が防衛費倍増のための巨額の資金を得るためには、さまざまな方法がありますが、コロナ以前の二度の増税があったこと、さらにはコロナ禍があったことなどから、現在で需要ギャップが30兆円程度はあると考えられており、増税などではなく、国債で賄うべきなのは明らかてす。

防衛財源確保法案は、防衛省が中期防衛力整備計画に必要な財源を確保するために、必要な手段を講じることができるようにするために提出された法案です。この法案によって、防衛省は必要な費用を確保するために、税制改正や政府債券の発行など、様々な手段を講じることができるというのが建前ですが、これは財務省が増税するための隠れ蓑として用いているとしか思えません。

中期防衛力整備計画の財源を毎年度予算で対処することは可能であり、しかも、国の一般会計税収が大幅に増加していることからこれは確実にできます。

さらに足元の月次税収の趨勢を踏まえ、2022 年度は 72 兆円程 度への着地を予想されています。22 年度税収は当初予算時点で 65.2 兆円のところ、昨年 11 月の補正予算時点 で 68.4 兆円と上方修正がなされましたが、ここから更なる上振れ着地が予想されます。 

一般会計税収(4~翌 2 月の累計値)

背景にはインフレ・円安、賃金・雇用の回復などがあります。足元で特徴的なのが景気の振幅に影響 されにくい消費税が大きく伸びている点です。およそ 40 年ぶりの物価急上昇は、税収にもこれまでに ない変化をもたらしています。

このような状況でも、わざわざ防衛財源確保法案を出すのは、これを財務省は増税の隠れ蓑にするためだと判断するのが妥当だと思います。

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2023年4月28日金曜日

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 23日に投開票された衆参計5選挙区の補欠選挙では、自民党の「4勝1敗」という結果となった。衆院解散に追い風になるのかどうか。野党の勢力図に変化は出てくるだろうか。

 衆参の補選は政権にとって中間評価だといえる。手応えが良ければ政権運営に弾みがつくが、悪ければ行き詰まる。菅義偉政権では補選で全敗(不戦敗を含む)したので、解散もできずに退陣に追い込まれた。

 今回は衆院千葉5区、和歌山1区、山口2区、山口4区、参院大分選挙区で補選があった。補選の前はそれぞれ自民、国民、自民、自民、非自民系と「自民3、非自民2」だった。

 今回の選挙では、それぞれ自民、維新、自民、自民、自民が勝ち、自民は4勝1敗だった。注目の千葉5区は前職が不祥事で辞職、参院大分は自民候補の知名度が低く接戦だったが、自民が制した。和歌山1区は、岸田文雄首相が襲撃され、同情票もあったと思われるが、日本維新の会の勢いが強く、自民は負けた。維新が衆院小選挙区で議席を持っていたのは大阪府のほかは兵庫県だけだったが、和歌山県にも広がった。立憲民主党は議席を獲得できなかった。

 野党の立民や共産党は統一地方選でも芳しくなかった。その典型が参院大分で、自公対立民・共産の戦いだったが、立民・共産は負けてしまった。

 野党の維新は強いが、立民・共産は弱い。維新も強いのは関西だけなので、全国的にみると、まだ自公を脅かす存在にはなっていない。ただし、統一地方選で、合計約470人の地方議員と首長を「600人以上」に増やす目標を馬場伸幸代表は公約し達成したので全国政党に向けて着実に進んでいる。

 となると、5月中旬の先進7カ国(G7)広島サミット後の衆院解散・総選挙の可能性が高くなっているのではないだろうか。野党第1党が立民から維新に代わるかもしれない。

 補選は国政選挙なので、事実上の増税を予定する「防衛財源確保法」など今の国会で提出されている法案も一応審判の対象になったはずだ。だが、おそらく多くの有権者は、そんな法案を聞いてもいないだろう。国会における予算案審議で議論すべきところ、立民は「放送法文書」問題に拘泥し、成果を上げられないままに時間を浪費し、国民に防衛増税の危うさを訴えることができなかったからだ。

 「異次元の少子化対策」もその裏で増税の動きがある。本コラムで、いずれ消費増税になると予想したが、経済団体はそう主張し始めた。

 仮に総選挙になっても、自公は増税を明言することはないだろう。かといって増税を否定することもない。実際、防衛財源確保法でも増税を決めたわけでなく、行革や剰余金処理などいろいろな財源が列記されている。しかし、これらの財源捻出は財務省のさじ加減で決まるので、筆者は事実上、増税がセットされているとみている。

 本当に増税回避したいなら、外国為替資金特別会計の評価益や国債整理基金への債務償還費繰入停止などで財源を確保するはずだ。それをやらないことが増税志向だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】消費者と企業経営者のマインドが安定し、将来に対する明るい展望が開けるまで増税、特に消費増税するな(゚д゚)!

安倍総理によるアベノミクスが行われた当時、第1の矢「大胆な金融政策」はよく飛び、第2の矢「財政政策」も、ある程度は飛びました。しかし、第3の矢「成長戦略」はさほど飛んでいないではないか、と批判されました。 


しかし、安倍政権においては、結局2度消費増税が行われ、特に二度目の増税は、経済にかなりの悪影響を与えたことを考えると、この批判は的を射たものとはいえません。増税すれば、成長戦略などできません。

1回目の消費税増税は5%から8%へ。そして2019年10月に行われた2回目の消費税増税は、軽減税率が付いていたものの、8%から10%へ上がりました。この2回のショックは多くの人の予想をはるかに超えて経済に悪影響をもたらしました。特に二回目の増税はかなりのものでした。

 1回目は「影響が出るだろう」と覚悟の上で実施したようです。エコノミストの中には、「消費税増税の影響は軽微」としたものもいましたが、その予想はことごとく外れました。

大和総研チーフエコノミスト熊谷亮丸氏は「消費税増税の影響は軽微」と語っていたが・・・・

2回目の増税は、当時の安倍首相も悪影響がなるべくでないようにと、工夫して、「全世代型社会保障政策を実施」することで、増税するけれども、お返しをするという方向で臨みました。しかし、増税されて所得が減っていくことの悪影響が、非常に大きく経済は落ち込みました。

その後、2019年の第4四半期、10~12月期には成長率がマイナスになりました。ただ、そこからコロナ禍が続いてしまいした。結局、経済の落ち込みが増税によるものなのかコロナによるものか原因がはっきりしないまま、低調が3年間続きました。

 これを見てもわかるように、消費者と企業経営者のマインドが安定し、将来に対する明るい展望が開けるまでは、増税はやめるべきです。特に消費税の増税はやめるべきです。

日銀や内閣府が計算している需給ギャップ、需要と供給のバランスで見ると、まだまだマイナスが続いています。30兆円前後のギャップがあります。やはり需要がなければ、どんな政策も難しいです。

アベノミックス第3の矢は基本的には規制緩和を行い、そして競争を喚起するものでした。それから政府のやるべき公共的な事業に投資し、それによって競争を喚起するものでした。とにかく競争を喚起しないと第3の矢は飛ばないのです。ところが、当たり前のことですが、需要がないと競争は起こらないのです。

インフレになれば「他社と違うことを行う」努力をしなければ持たなくなります。 それが生産性を上げ競争につながります。

需要がないなかで競争しようとすると、「価格を下げよう」となってしまいます。 価格が上がるなかで、どう企業が工夫するか。どのように価格上昇をお客さんに納得してもらうかという形で、工夫が生まれるのです。


これを無視して、米国のGAFAなどと比較して、日本企業は駄目になったと語る人もいますが、それは違います。米国は、日本のような深刻な長期にわたるデフレを世界恐慌以降経験したことはありません。そのような環境で生きている企業と、日本のようにデフレが長く続いた環境で生きてきた企業を同一次元で語るのは間違いです。

日本企業も、これから緩やかなインフレが長く続くと確信できるような社会になれば、さまざまな創意工夫をするようになるはずです。

価格の上昇をお客さんに納得してもらうには、もちろん政府の政策も大事なのですが、企業自身による「この環境を生き残っていくのだ」という主体的な動き、努力も合わせて必要になります。 

ただし、これまでは景気がまったく温まっていません。物価が上下しないなかで、「経済が価格によって動く」という現象が起こっていませんでした。そのため政府頼み、または同業他社を見て、同じようなことをやっていれば良かったわけです。 

このブログでも掲載しましたが、新規採用でも、いわゆる「コミュニケーション重視」が強調されることになったのです。「コミュニケーション」重視とは、景気が良くないので、やる気が目一杯、深い専門知識を持つとか、特殊能力や特技を持ちチャレンジ精神豊富でいわゆる「尖った」人よりも、周りの人を気遣う調整型の人を雇いたいのですが、それではあまりに格好が悪いので「コミュニケーション」重視というきれいな言葉で飾っただけです。

実際、私はデフレ真っ只中の最中に採用を担当していたことがありますので、就活フェアなどで、他企業の採用担当に「御社におけるコミュニケーション能力重視とはどういう意味ですか」と質問してみると、結構格好の良いキャッチフレーズなどをあげたりするのですが決起をく「ホウレンソウ」などのことを言うのみで、とてもコミュニケーションの本質を理解しているとは思えず、このことを確信しました。


現在も「コミュニケーション重視」とする企業は結構あります、これは実体経済を反映しているのてしょう。こんなことよりも、もっと「尖った」人を企業が採用するようになれば、実体経済も良くなっているということだと思います。

今後、インフレの時代になっていけば、競争力をつけて「自社が他社と違うことをやっていく」という努力をしないと、会社が持たなくなってくるでしょう。 値段以外で付加価値をつけるのです。それがまさに「生産性を上げる」ということに繋がっていくのです。

その意味では、日本はこれからがチャンスです。日本は昔からの風習が多く続いています。例えば正規職員と非正規職員の区別は、世界中にはありません。

基本的には不定期で雇う形と、フィックスターム、例えば3年契約~5年契約で雇うという、2種類しかないのです。 ところが日本では、待遇がまったく違います。社会保険の手当もそうです。同じ労働をしているにも関わらず、正規と非正規で違い過ぎます。

そういうことが非生産性を生んでしまいます。本来ならば、非正規職員の方がいつ解雇されるかわからないのですから、場合によっては高い賃金を払わなければならないのです。

 しかし、日本ではそういうことが久しくありませんでした。ベースアップは基本的には正規職員だけです。これはデフレのためにそうなってしまったのです。しかし、日本も少なくと90年代より前には、同じ仕事内容なら、正社員よりパートやアルバイトのほうが、時間あたりの賃金は高かったのです。現在の若年や中年層にはそのような経験はないでしょうが、それ以上の世代だとそれが記憶に残っている人もいるでしょう。

ただ、一部の老人たちの中では、それが記憶に残っていて、現状の経済環境を知らず、今の若者は根性なしだと、批判する人もいます。長時間働けたとか、過激に働けたのは少なくともデフレではなく、インフレ気味だっかったからです。デフレではびこった、ブラック企業での恒常的な低賃金の長時間労働とは全く性質が異なります。

さらに、特に日本では、定年制という慣行が良くないところがあります。米国では州によりますが、「定年制は年齢による不当な差別だ」として、違憲判決が出ている州が多いのです。そのような州では、担当している職務が、老化などによって規定どおりにできなくなった場合は、解雇しても問題はありませんが、年齢だけを理由にして解雇することはできません。 

無論定年制が必要な職業もあります。警察官や消防士だと、70歳~80歳の人が犯罪者を捕まえたり、火を消しに行くのは難しいです。しかし、例えば普通の会社員や公務員のような仕事は、定年を超えても普通に続けられます。

もちろん若い人に手伝ってもらわないといけないことも多いかもしれません。ただ、高齢の人は若い人にはできない各種の判断能力など備わっていることもありますし、さらには自らの職場だけではなく、会社全体のことを考えた上で業務を遂行する能力が身についている人もいます。しかし、そういうことを一切抜きにしてクビになってしまうのは、日本の生産性を損なうのではないでしょうか。非常にもったいないです。

これも、デフレであるため、このようなことがなかなか改善されないのです。インフレであれば、人手不足が恒常化し、今までは働く意思があっても、働けなかった高齢の人たちや女性や障害者の方たちにもさまざまな職場で働いてもらわなければ、事業が成り立たなくなります。

ただ、このような問題を改善していくためにも、まずは緩やかなインフレにならなければ、需要もなく、競争も起こらず、すべての前提が崩れてしまうのです。

増税の間違いについては、多くの人が理解するようになりました。特に少子化対策で増税で負担が増えるるということになれば、これこそ、本末転倒です。おそらく、増税で生活が苦しくなれば、本来子どもを産み、育てる世代の人たちの負担も増え、3人子どもを産もうと考えていた人たちが1人が2人にするとか、そもそも、子どもを持つことを諦めてしまう人もでてくるかもしれません。それどころか、結婚を諦める人もさらに多くなるかもしれません。

防衛費も同じことです。防衛増税で経済が落ち込めば、国力が衰え、防衛費を賄う事自体が難しくなります。日本は、戦中に巨額の戦費を国債でまかないました。そのため、戦後には超インフレになりかけたため、国債を忌避するむきもあります。

しかし、当時日本が巨大な戦費をすべて増税で賄っていれば、国力が衰え、米英とは戦争をしなかったというかできなかったかもしれませんが、戦後にはソ連圏に組み込まれ、現在のウクライナのようになっていたかもしれません。

それどころか、米英は冷戦に負けていたかもしれません。そうなっていれば、今頃私達は、ロシア連邦の一員となりロシア語を話し、他国との戦争の最前線に駆り出されていたかもしれません。経済もロシア(一人あたりのGDPは100万円を少し超える程度)並以下になっていたかもしれません。財務官僚も日銀官僚も、天下り先で優雅な生活を送ること等儚い夢になります。

財源をいつでも何でも増税だけに頼り続けるというやり方を続ければ、いつかはこのような破滅的なことになります。

やはり、先にもあげたように、消費者と企業経営者のマインドが安定し、将来に対する明るい展望が開けるまでは、増税はやめるべきです。特に消費税の増税はやめるべきです。絶対に駄目です。

そうして、私は何も積極財政、金融緩和を永遠に続けろと言っているわけではありません。消費者と企業経営者のマインドが安定し、将来に対する明るい展望が開ければ、その後いずれ必ず経済は加熱します。

物価が上がっても、失業率が下がらない状態になります。そうしたときには、財務官僚の大好きな増税を、日銀官僚が大好きな金融引締をすれば良いのです。

経済でも、人体でも中庸が重要です。人が、ダイエットをやりすぎて摂食障害になってしまうこもあるように、実体経済を無視して、いつでも緊縮・増税というのは明らかに間違いです。そんなことをすれば、国力が衰えるだけです。

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