2023年6月25日日曜日

「中国人の中国離れ」で遠のく習政権の強国復権の夢―【私の論評】海外移住と資産逃避が続く、中国の現実(゚д゚)!

「中国人の中国離れ」で遠のく習政権の強国復権の夢

習近平

 中国の幸福度ランキングは、政府の宣伝によってトップに位置付けられています。しかし、実際には、中国人の生活は厳しいものとなっています。社会保障制度は整備されておらず、失業率も上昇しています。また、所得格差も拡大し、低所得層の生活レベルは大きく落ち込んでいます。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するために実施されたゼロコロナ政策は、人々の生活を大きく制限し、多くの苦しみをもたらしました。そのため、中国人の幸福度は低下していると考えられます。

 中国のネットスラング「潤」は、中国語で「潤い」を意味する「潤」と英語で「run」を組み合わせた言葉で、「海外に逃げる」ことを意味します。中国では、インターネット上に禁止用語が数多く設定されており、これらの用語を書き込むと罰せられることがあります。そのため、中国人は「潤」を隠語として使用しています。

 「潤」という言葉は、中国の若者の間で広く使用されており、SNS上で挨拶代わりに使われることもあります。中国人の若者は、中国の社会や経済状況に不満を持っており、海外移住を希望する傾向にあります。そのため、「潤」という言葉は、中国人の若者のアイデンティティを反映した言葉であると言えます。

 中国系歴史家、余英時氏は、1949年に中国共産党が成立した際に香港に移住し、その後、アメリカで学び、教鞭をとりました。同氏は、1978年に中国を訪れた際に、かつての中国とは大きく変わってしまったと感じたと語っています。同氏は、中国の社会がより物質的になった一方で、人々の間の信頼や善意が失われ、すべてが利益のために計算されるようになってしまったと指摘しています。同氏はまた、中国の若者や富裕層の多くが、中国の現状に失望し、海外移住を希望していると述べています。

 中国は、1978年以降、経済改革を進め、経済成長を遂げてきました。しかし、その一方で、社会の格差が拡大し、人権問題が深刻化しています。また、政府のゼロコロナ政策は、人々の生活に大きな制限をもたらしています。これらの状況から、多くの中国人は中国の現状に失望し、海外移住を希望しています。

 1970年代半ば、中国大陸から香港への移民が急増しました。これは、当時の中国が社会主義体制にあり、経済的に困窮していたためです。中国政府は、この状況を改善するために経済改革を進め、1980年代以降は経済成長を遂げました。しかし、その一方で、社会の格差が拡大し、人権問題が深刻化しています。また、中国政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するために、都市封鎖や移動制限などの厳しい措置を実施しています。これらの状況から、多くの中国人は中国の現状に失望し、海外移住を希望しています。

 中国から海外へ移住する中国人は、富裕層と低所得層に分かれています。富裕層は、自由と人権が尊重されている国への移住を希望しています。低所得層は、経済的なチャンスを求めて移住しています。中国政府は、中国人の海外移住を抑制するために、様々な施策を講じていますが、効果は十分ではありません。

 中国の習近平政権は、国内向けに「強国復権」の夢を掲げていますが、現実には中国の国力はむしろ弱体化しています。新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するために実施されたゼロコロナ政策は、中国経済に大きな打撃を与えました。中国政府は、企業や家計を助ける有効な措置を講じることができず、中国経済は逆回転しています。

 こうした中で、中国の富裕層と低所得層の海外移住が加速しています。富裕層は、自由と人権が尊重されている国への移住を希望しています。低所得層は、経済的なチャンスを求めて移住しています。中国政府は、中国人の海外移住を抑制するために、様々な施策を講じていますが、効果は十分ではありません。

 中国経済は、習近平政権の政策失敗によって弱体化しています。習近平政権が掲げる「強国復権」の夢は、絵に描いた餅になってしまう恐れがあります。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】海外移住と資産逃避が続く、中国の現実(゚д゚)!

世界的に有名な市場調査会社イプソスは3月に、世界の幸福度指数に関する調査報告書を発表しました。その結果によると、調査対象となった32ヶ国の平均値を見ると、成人の約4分の3近く(73%)が「自分は幸せだ」と考えていることがわかったそうです。調査を受けた国の中で、幸福度が最も高かったのは中国で91%、以下、サウジアラビアの86%、オランダの85%、インドの84%、ブラジルの83%が続きました。

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イプソスの調査で中国の幸福度が高かった理由には、いくつかの可能性が考えられます。ひとつは、調査方法に欠陥があった可能性です。例えば、すでに幸せな人だけを対象にするなど、調査結果に偏りが出るような方法で調査が行われた可能性があります。

もう1つの可能性は、調査結果は正確でが、中国における幸福の認識が他国における幸福の認識とは異なるというものです。例えば、中国では幸福は社会的調和や集団的幸福と他国よりも強く結びついているのかもしれないです。

また、イプソスの調査が2022年に実施され、その時期は中国がまだCOVID-19の流行真っ只中であったことも注目に値します。2022年というと、中国のゼロコロナ政策の真っ只中であり、この頃はその弊害が指摘されていた頃です。この時期に、まともに調査ができたとは考え難いです。中国政府は「ゼロコロナ」政策を完全に放棄する旨を発表したのは、2022年12月26日であり、 実施は2023年1月8日からでした。

感染者に隔離措置は取られず、濃厚接触者の判定も行わず、高リスク地区・低リスク地区の区分も行われなくなりました。

結局のところ、調査方法に問題があったかどうかをはっきり言うことは難しいです。しかし、イプソスの調査で報告された中国の幸福度の高さは、いくつかの疑問を投げかけています。中国の幸福度の本質を理解し、他国の幸福度と比較するためには、さらなる調査が必要でしょう。

以下は、調査手法の問題点に関する補足的な考察です。

調査はオンラインで行われたため、回答者がより若く、より高学歴に偏っている可能性があります。

調査が中国語に翻訳されたため、誤訳や誤解が生じた可能性があります。

回答者が否定的な感情を表明しにくい方法で調査が行われた可能性があります。

また、イプソスの調査は1つの調査に過ぎず、他の調査では異なる結果が出た可能性があることに注意することも重要である。中国の幸福度をより深く理解するためには、さらなる調査が必要です。

ただ、国民の多くが幸福感を感じているような国では、海外に旅行にでかけることはあっても、海外に移住することはないもの考えられます。しかし、中国人の海外移住は最近加速しています。

国連によると、2020年時点で海外に住む中国人は推定1050万人。この数は近年増加傾向にあり、今後も増え続けると予想されています。

海外に移住する中国人富裕層の数は、その多くが合法・非合法を問わず移住しているため、推計するのは難しいです。しかし、毎年数万人の中国人富裕層が海外に移住していると推定されています。

海外に移住している低所得の中国人の数も見積もるのは難しいですが、毎年数十万人の低所得の中国人が海外に移住していると推定されます。

以下は、中国人の海外移住先として人気のある国々です。
  • アメリカ
  • カナダ
  • オーストラリア
  • ニュージーランド
  • イギリス
  • シンガポール
  • 香港
  • 台湾
  • タイ
中国からの移民がこれらの国を選ぶ理由は様々ですが、最も一般的な理由には以下のようなものがあります。

①経済的機会、②政治的自由、③教育の機会、④生活の質、⑤家族の再統合

最近、富裕層と低所得層の中国人の海外移住が加速しているのには、いくつかの要因があります。

締め出しや渡航制限を広げた中国政府のゼロCOVID政策は、多くの中国人にとって中国での生活や就労を困難なものにしています。

中国のゼロコロナ政策で閉じ込められた人々 AI生成画像

中国における貧富の差の拡大が、多くの中国人、特に生活苦にあえぐ人々の不満やフラストレーションにつながっています。

中国では言論や表現の自由に対する規制が強まっており、多くの中国人は自国ではもはや自由に自分を表現できないと感じるようになっています。

公害、交通渋滞、その他の問題の増加に見られるように、中国における生活の質の低下が認識されています。

こうした要因の結果、多くの中国人がより良い生活を求めて海外に移住しようとしています。裕福な中国人にとっては、経済が発展し生活水準の高い国への移住を意味することが多いてす。低所得の中国人にとっては、生活費が安く、より多くのチャンスがある発展途上国への移住を意味することが多いです。

中国人の海外移住の加速は、今後数年間、中国の経済と社会に大きな影響を与える可能性が高いです。人材やスキルの喪失は中国の経済成長に悪影響を及ぼしかねないし、海外に住む中国人の増加は政府の国民管理に対する挑戦となりかねないです。

そうして、その中でも中国政府が、もっとも悪影響があるとみていると考えられるのが、資産の海外逃避です。中国人が海外移住ということになれば、特に富裕層は、当然資産を海外に移すことが考えられます。

パリに移住した中国人一家が自宅のプールでくつろいでいる(AI)生成

毎年中国から海外に流出する資産額を推計するのは難しい。しかし、いくつかの推計がなされており、その推計によれば、資産フライトの額は相当なものです。

調査会社のロジウム・グループによる推計のひとつによると、2020年の中国からの資本逃避額は1200億ドルに上る。この試算は、対外投資フローに関するデータと、金融機関や弁護士からの逸話的証拠に基づいています。

中国社会科学院による別の推計では、2020年の中国からの資本逃避額は3,000億ドルです。この推計は、中国国民による海外資産の購入に関するデータや、中国国民によるオフショア金融センターの利用に関するデータなど、より広範なデータに基づいています。

重要なのは、これらの推計はあくまでも推計に過ぎないということです。報告されていない資本逃避がかなりあるため、中国からの資産逃避の実際の額は、これらの推計値よりも高くなる可能性が高いです。

中国からの資産逃避の理由は複雑ですが、最も一般的な理由には以下のようなものがあります。
  • 政情不安への懸念
  • 政府による収用から資産を守りたいから
  • 海外により良い投資機会を得たい
  • 海外で子供により良い教育を受けさせたい
中国からの資産逃避は、中国経済に多くの悪影響を及ぼすため、重要な問題です。資本逃避の損失は経済成長の低下につながり、中国の通貨価値の下落にもつながります。中国政府は資産逃避の流れを食い止めようとさまざまな措置を講じてきましたが、その成果は限定的でした。中国からの資産逃避は今後も続くでしょう。



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2023年6月24日土曜日

中国、地方政府の「隠れ債務」明らかにする全国調査開始-関係者―【私の論評】LGFV問題は、一筋縄ではいかない、中国こそ抜本的構造改革が必須(゚д゚)!

中国、地方政府の「隠れ債務」明らかにする全国調査開始-関係者

 中国当局は、地方政府の債務を把握するため、新たな全国調査を開始した。調査は少なくとも5月から始まっており、財政省が主導している。調査の目的は、政府の全レベルの債務をより正確に把握し、いわゆる「隠れ債務」の公表を余儀なくさせることだ。調査の結果を受けて、当局は債務問題に対処するための具体的な措置を講じるとみられる。

 中国の地方政府の多くは、公的予算では賄いきれないインフラなどのサービスのために「地方融資平台」(LGFV)と呼ばれる事業体を使って資金調達を行っている。地方融資平台は地方当局の管理下にあるが、公式には政府の一部でないため、その債務は公式のバランスシートに記載されず、地方財政が実際よりも良好な状態にあるように見えるという事情がある。

 当局は、地方融資平台の債務を含めた地方政府の債務を正確に把握することで、債務問題の根本的な原因を突き止め、効果的な解決策を講じることができると期待している。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】LGFV問題は、一筋縄ではいかない、中国こそ抜本的構造改革が必須(゚д゚)!

上の記事にでてくる、LGFVは通常、有限責任会社として設立され、多くの場合、持株会社を通じて地方自治体が管理します。

債券の発行、融資、資産の売却など、様々な方法で資金を調達することができます。道路、橋、発電所などのインフラ・プロジェクトの資金調達によく利用されます。また、教育や医療といった社会サービスの資金調達にも利用されます。

中国の鬼城と呼ばれる、人の住まない住宅は、主にLGFVの資金で地方政府が建設した

たしかに中国の多くの地方政府は、LGFVを通じてインフラやその他のサービスに資金を調達しており、LGFVは公式には政府の一部ではないため、その債務は公式のバランスシートには記載されません。このため、地方財政は実際よりも良好に見えます。

例えば、2020年には、LGFVの負債総額は約54兆元(8.2兆米ドル)になると推定されていました。ところが、地方政府の公式債務は約25兆元(3.8兆米ドル)に過ぎませんでした。つまり、地方政府の債務の本当の水準は、公式に報告されているものよりもはるかに高いのです。

中国では近年、インフラやその他のサービスの資金調達にLGFVを利用することがますます一般的になっています。これは、地方政府が経済成長目標の達成を迫られているにもかかわらず、従来の方法ではそのための歳入を確保できなかったためです。LGFVは、地方政府が政府借入の正式な承認手続きを経ずに資金を調達する方法を提供してきました。

しかし、LGFVの利用は、地方財政の持続可能性に対する懸念にもつながっています。LGFVは多額の負債を抱えていることが多く、採算の合わないプロジェクトの資金調達に使われることも多いです。これは、LGFVが債務不履行に陥るリスクがあることを意味し、地方政府の財政健全性に悪影響を及ぼす可能性があります。

2021年、中国政府は地方政府の債務問題に対処するための多くの措置を発表しました。これらの措置には、LGFVが発行できる債務額を制限することや、LGFVの債務について地方政府が責任を負うことを義務付けることなどが含まれていました。しかし、これらの措置が地方政府の債務残高を減らすのに効果的かどうかはまだわからないです。

中国における地方政府金融公社(LGFV)の多額の債務は、政府が対処すべき深刻な問題です。この問題は1990年代の日本の不良債権問題と似ていますが、中国特有の課題もあります。

不良債権問題で倒産した直後の北海道拓殖銀行本店の建物、看板が撤去されている

そのひとつは、債務の実態が十分に把握されていないことです。LGFVはその財務について透明性を欠くことが多く、政府も債務負担の全体像を明確に把握できていません。このため、効果的な解決策を打ち出すことが難しいです。

もうひとつの課題は、中国経済が減速しているため、地方政府が歳入を確保するのが難しくなっていることです。つまり、支出を賄うための借金への依存度が高くなり、問題を悪化させているのです。

中国政府がLGFVの高債務問題に対処する方法はいくつかあります。ひとつは、LGFVの透明性と開示要件を高めることです。そうすれば、債務問題の実態がより明確になり、投資家もリスクを評価しやすくなります。

もうひとつは、地方自治体への財政支援です。補助金や融資を提供することもできるし、債務負担の一部を肩代わりすることもできます。そうすることで、地方自治体の負担を軽減し、債務の返済を容易にすることができます。

最後に、政府は経済成長を刺激することもできます。そうすれば地方自治体の歳入が増え、債務の返済が容易になります。

最善の解決策は、おそらくこれらの対策を組み合わせたものになるでしょう。成功させるためには、政府はこの問題に対して包括的なアプローチをとる必要があります。

LGFVの債務問題が解決できなければ、以下のような深刻な結果を招く可能性があります。

金融危機: LGFVが債務不履行に陥った場合、金融危機につながる可能性があります。これは、投資家がLGFVの債務返済能力に対する信頼を失ったり、流動性への需要が急激に高まったりした場合に起こり得ます。金融危機は、経済活動の急激な落ち込みや中国政府への信頼喪失につながる可能性があります。
経済成長の減速: LGFVの債務問題はすでに中国経済を圧迫しています。この問題が解決されなければ、経済成長の鈍化につながる可能性があります。これは、地方政府が支出削減を余儀なくされたり、投資が減少したりした場合に起こり得ます。経済成長の鈍化は、雇用の喪失や社会不安につながる可能性があります。
中国政府に対する信頼の失墜: 中国政府が債務問題を管理できないとみなされれば、政府に対する信頼が失われる可能性がある。その結果、政府の資金調達が困難になり、政情不安につながる可能性もあります。

ただ、中国にはこれらの問題を解消するための大きな障害があります。それは、中国人民銀行が独立した金融政策を実行できない状況にあるということです。

国際金融のトリレンマとは、ある国がいかの3つを同時に実行することはできす、2つしかできないという、事実です。これは、経験則ても数学的にも確かめられています。
  • 固定為替レート
  • 自由な資本移動
  • 独立した金融政策
中国は固定為替レートと自由な資本移動を実施しています。そのため、中国は独立した金融政策ができない状況になっています。つまり中国政府は、債務問題の軽減に役立つはずの外資を呼び込むために金利を引き上げることができないのです。

また、LGFVの負債問題を解消するために、公金を注入しようとして、仮に中国人民銀行(PBoC)が大規模な量的緩和政策を実施した場合、超インフレ、資産バブルのさらなる膨満、政府債務の増加、キャピタルフライトのさらなる深刻化などが予想されます。
日本では、変動為替レートを採用しており、自由な資本移動と独立した金融政策を実行できます。当時日銀が量的・質的緩和を大規模に実行、できるにもかかわらず、しなかったことが、不良債権問題をより深刻にしたわけですが、小泉政権のときにいっとき緩和に踏切り、2013年移行は緩和に転じており、様々な副作用はあったものの、不良債権問題は解消したといえます。

ただ、中国ではどうなるか不透明です。LGFVの利用は複雑な問題であり、様々な見方があります。LGFVは地方自治体が重要なプロジェクトの資金を調達するために必要な手段だと主張する人もいます。また、LGFVは政府支出を賄うためのリスキーな手段であり、財政危機を招きかねないという意見もあります。

LGFVの利用が今後どのようになっていくかはまだわからないです。ただ、これを解消するには、変動相場制に移行するなどの、大胆な構造改革が必要だと思われ、一筋縄ではいかないことは確かだと思われます。

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2023年6月23日金曜日

中国の「地方政府債務」再考―【私の論評】もう一つの中国の大問題、国際金融のトリレンマを克服すれば、中国の改革が始まるかもしれない(゚д゚)!

中国の「地方政府債務」再考

上海の目抜き通り AI生成

 中国の地方政府の債務は、2022年末時点で37.07兆元(約734兆3600億円)に達し、過去最高を記録しました。これは、中国のGDPの約25%に相当する金額です。地方政府の債務は、インフラ整備や公共事業の資金調達のために借り入れられたもので、そのほとんどが国有企業や金融機関からの借入です。地方政府の債務は、中国の経済成長を支える一方で、財政赤字の拡大や金融システムのリスク要因となっています。

 中国政府は、地方政府の債務を削減するために、財政支援や債務再編などの対策を講じていますが、効果は限定的です。地方政府の債務は、中国経済の大きなリスク要因であり、今後も注視が必要です。

以下は、中国の地方政府の債務に関する主なポイントです。
  • 中国の地方政府の債務は、2022年末時点で37.07兆元(約734兆3600億円)に達し、過去最高を記録した。
  • 地方政府の債務は、インフラ整備や公共事業の資金調達のために借り入れられたもので、そのほとんどが国有企業や金融機関からの借入である。
  • 地方政府の債務は、中国の経済成長を支える一方で、財政赤字の拡大や金融システムのリスク要因となっている。
  • 中国政府は、地方政府の債務を削減するために、財政支援や債務再編などの対策を講じているが、効果は限定的である。
  • 地方政府の債務は、中国経済の大きなリスク要因であり、今後も注視が必要である。
この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】もう一つの中国の大問題、国際金融のトリレンマを克服すれば、中国の改革が始まるかもしれない(゚д゚)!

中国人のツイッターで引用されていた日経の記事

中国で地方政府の借入が増えた要因はいくつかあります。それらは以下の通りです。

中央政府による財政分権政策:1990年代、中国政府は地方政府への財政権限の分散を開始しました。これにより、地方政府は自らの財政をよりコントロールできるようになりましたが、同時に地方政府は歳入を増やす必要に迫られました。地方政府が歳入を増やす方法のひとつに、借金があります。

インフラ整備のための資金調達の必要性:中国は近年、インフラ整備に多額の投資を行っています。そのため、地方政府がこれらのプロジェクトの資金を借り入れるため、地方政府の借入金が急増しました。

地方政府の歳入が減少していること:近年、経済成長の鈍化や租税回避行為の増加など、さまざまな要因で地方政府の歳入が減少しています。このため、地方自治体は歳入の不足を補うために、より多くの借金をせざるを得なくなっています。

国有企業(SOEs) :国有企業(SOE)は、地方政府が資金を借りる際によく利用されます。これは、国有企業が信用を得ることができ、地方政府よりもリスクが低いと見なされるためです。

金融機関:金融機関も地方政府に資金を貸し出します。これは、地方政府が安全な投資先とみなされるためです。

中国における地方政府の借り入れの増加は、多くの危機を生み出しています。以下にそれを列挙します。

金融危機のリスク:地方政府が借金を返せなくなった場合、金融危機につながる可能性があります。

経済成長の低下:地方政府の債務が増加すると、経済成長の低下につながる可能性があります。これは、地方自治体がインフラ整備などの支出を削減せざるを得なくなる可能性があるためです。

格差の拡大:地方政府の債務の増加は、不平等の増加につながる可能性があります。債務返済の負担が貧困層や中産階級に及ぶ可能性が高いからです。

近年、中国政府は債務負担を軽減しようとする措置を講じています。これらの措置は以下の通りです。

地方政府が債券を発行できるようにする:これにより、地方自治体はより持続可能な方法で資金を調達することができるようになります。

地方自治体の債務について、より多くの情報を開示する :これにより、透明性と説明責任を向上させることができます。

インフラプロジェクトの数を減らす :これにより、地方自治体の借金の必要性を減らすことができます。

中国政府が地方政府の債務負担を減らすことに成功するかどうかは、まだまったく見通しが効かない状況です。


中国のインフラ開発投資は、地方政府のインフラ開発計画で予測することができます。現在のインフラ計画は昨年対比で減っており、昨年の積み残しを消化した後は減速基調に入る可能性が高いでしょう。

中国の地方政府が財政破綻した場合、中国経済に大きな影響を与えることになります。地方政府がインフラ整備などの支出を削減せざるを得なくなり、経済成長の低下につながる可能性が高いです。また、中国政府の債務返済能力に対する投資家の信頼が失われ、金融危機に発展する可能性もあります。

このブログで以前から掲載しているように、現在中国は国際金融のトリレンマにより独立した金融政策が実施できない状況になっています。これは、政府による危機管理をより困難にします。中央銀行は金利や量的緩和などの金融政策ツールを使って、経済を刺激したり、インフレを防いだりすることができなくなります。そうなれば、金融崩壊による被害を抑えることがより難しくなります。

地方政府の財政破綻が中国経済に与える影響は、破綻の規模や展開のスピード、政府の対応など、さまざまな要因によって異なるでしょう。しかし、そのような破綻が中国経済に大きな負の影響を与えることは明らかです。

ここでは、中国の地方政府の財政破綻が中国経済に与える具体的な影響について掲載します。

経済成長率の低下 経済成長の低下:中国では、地方政府が多額の支出を担っている。地方政府が破綻した場合、この支出は減少し、経済成長の低下につながります。

失業率の上昇: 地方政府は、中国の雇用の大部分を担っています。もし地方政府が崩壊すれば、失業率の上昇につながります。

個人消費の減少: 中国の財政が不安定になれば、消費者は支出を減らすでしょう。そうなれば、経済成長はさらに鈍化することになります。

インフレ率の上昇: 政府は地方政府を救済するために大規模な金融緩和策を余儀なくされるかもしれません。これはマネーストックを増加させ、インフレを引き起こすでしょう。

金融危機: 地方政府の財政破綻が中国政府の信頼失墜につながれば、金融危機が引き起こされる可能性があります。これは、中国経済に大きな悪影響を及ぼすでしょう。

中国政府は、地方政府の財政破綻に伴うリスクを認識しています。近年、政府は地方政府の債務負担を軽減しようとする措置を講じています。しかし、これらの措置が破綻を防ぐのに十分であるかどうかは、まだわかりません。

何と言っても、中国人民銀行が独立した金融政策を実施できないことが痛いです。これを改善するには、このブログにも何回か掲載したように、人民元を固定相場制から変動相場制に移行すれば、国際金融のトリレンマから逃れ、独立した金融政策ができるようになります。

中国が人民元を固定相場制から変動相場制に移行させない理由はいくつかあります。

資本流出のリスク:人民元が変動すると、投資家が人民元を売却して他の通貨を購入するリスクがある。その結果、人民元が急落し、中国の輸出企業に打撃を与える可能性があります。

輸出競争力の維持の必要性:中国の輸出志向の経済は、安定した為替レートに依存しています。もし人民元が変動すれば、中国の輸出品が割高になり、輸出の伸びを阻害する可能性があります。

インフレ抑制の欲求:中国政府は、インフレを抑制したいという強い願望を持っています。為替レートが変動すれば、マネーストックをコントロールできなくなるため、政府がインフレをコントロールすることが難しくなります。

金融の安定を維持する必要性:変動相場制は、政府が通貨市場を管理することが難しくなるため、金融の不安定化を招く恐れがあります。

中国政府は、変動相場制の利点を認識しています。しかし、政府は変動相場制のリスクがメリットを上回ると考えているようです。その結果、政府は近い将来、人民元を固定相場制から変動相場制に移行させる可能性は低いです。

上記の理由に加えて、中国が変動相場制に移行することを妨げている政治的な考慮もあります。例えば、中国政府は、変動相場制を導入すると、国内外への資本の流入流出をコントロールすることが難しくなることを懸念している可能性があります。これは、政府が経済成長を管理し、社会の安定を維持する能力に影響を与える可能性があります。

結局のところ、変動相場制に移行するかどうかの判断は、複雑なものではあります。中国政府が決断を下す前に考慮しなければならない要素はいくつもあります。しかし、独立した金融政策が実施できなければ、結局、金融だけではなく財政もコントロールできなくなります。

そうなれば、中央政府は何もコントロールできなくなり、ただ漂流するしかなくなります。そうして、経済が落ち込み、数十年前の毛沢東時代の水準に戻ることになりかねません。

日本を始めとする、西側諸国も、固定相場制から変動相場制に移行を決断しなければならい時がありました。様々な問題がありつつも、将来のことを考え移行したのです。中国もまさにそのときです。変動相場制に移行すれば、様々な問題がおこることが考えれますが、それをせずに毛沢東時代の経済に戻るのとどちらが良いかという習近平による選択の問題になります。


変動相場制に移行するためには、それだけではなく様々な改革をしなければならなくなります。中国の改革は、意外とこうしたところから始まるかもしれません。

しかし、今までのように固定相場制を維持するなら、中国経済はいずれ毛沢東時代の水準に戻り、中国は図体が大きいだけの他国に影響力を及ぼせないアジアの凡庸な専制国家の一つに成り果てることなるでしょう。

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2023年6月22日木曜日

ゼレンスキー氏「欧州で何十年も成長の源になる」と協力呼びかけ…ウクライナ復興会議が開幕―【私の論評】ウクライナは、ロシアとの戦いだけではなく、国内でも腐敗・汚職との戦いに勝利を収めるべき(゚д゚)!

ゼレンスキー氏「欧州で何十年も成長の源になる」と協力呼びかけ…ウクライナ復興会議が開幕


 ロシアの侵略を受けるウクライナの復興を話し合う「ウクライナ復興会議」が21日、2日間の日程でロンドンで開幕した。61か国の政府や民間の代表、世界銀行や欧州連合(EU)など国際機関の代表ら1000人以上が参加。巨額の復興費用の調達や、戦闘終結を待たずに経済を活性化させる方法などが議題となる。

 復興会議の開催は昨年7月にスイスで開かれて以来で、今年は英国とウクライナが共催した。初日は日本の林外相を含む各国の首脳・外相級が演説。スナク英首相はウクライナに3年間で30億ドル(約4200億円)の融資保証を発表し、ブリンケン米国務長官は13億ドル(約1800億円)以上の追加支援を約束した。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はオンラインで演説し、「ウクライナは欧州で何十年にもわたって経済、産業、技術の成長の源となるだろう」と述べ、協力を求めた。世銀の試算では復興費用は4110億ドル(約58兆円)に上り、経済基盤の再構築も求められる。英政府によると、会議を通じ、米シティグループ、英ヴァージングループなどの大手企業が復興への協力を表明する。

【私の論評】ウクライナは、ロシアとの戦いだけではなく、国内でも腐敗・汚職との戦いに勝利を収めるべき(゚д゚)!

ウクライナ戦争が終結すると、戦後のウクライナが急速な経済発展を遂げる可能性を裏付けるいくつかの事実があります。

ウクライナ戦争が終わり、経済発展で幸せになった人々 AI生成画像

まずは、他の途上国と比較すれば、かなり発達した産業基盤があることがあげられます。

農業:ウクライナは主要な農業生産国で、小麦、トウモロコシ、ヒマワリ油の産地として知られています。2021年、ウクライナは278億ドル相当の農産物を輸出し、世界第10位の農産物輸出国となりました。

 製造業: 鉄鋼、機械、化学製品などの製造業が盛ん。2021年、ウクライナは143億ドル相当の製造品を輸出し、世界第47位の製造品輸出国となった。

航空宇宙産業:ウクライナは宇宙産業で実績があり、戦争前まではロシアに部品を供給していました。また、航空産業でも実績があり、世界最大航空機An-225「ムリヤ」はソ連時代のウクライナで製造されたものです。

IT:ウクライナはITセクターが成長しており、多くのハイテク新興企業が進出しています。2021年、ウクライナのITセクターは68億ドルの収益を上げました。

ウクライナには優れた学術の長い歴史があり、その大学は世界的に高く評価されています。実際、ウクライナはQS世界大学ランキングで2022年、高等教育システムの質で世界40位にランクされました。

ウクライナ戦争の前までは、ウクライナは中国人学生にとって手頃な留学先になっていた程です。その背景を以下に述べます。

授業料:ウクライナの大学の授業料は、ヨーロッパの他の国に比べて比較的安いです。例えば、ウクライナの公立大学の1年間の平均授業料は約2,000ドルです。これは、米国の国公立大 学の1年間の平均授業料(約35,000ドル)よりもかなり低 いです。

生活費: ウクライナの生活費も、ヨーロッパの他の国々と比べると比較的低額です。ウクライナの学生の1ヶ月の平均生活費は約500ドルです。これには宿泊費、食費、交通費、その他の費用が含まれます。

奨学金: ウクライナへの留学を希望する中国人学生には、数多くの奨学金が用意されています。これらの奨学金は、授業料、生活費、旅費までカバーすることができます。

こうしたことから、ウクライナは留学を希望する中国人学生に人気の留学先となっていました。戦争前の2021年には、2万人以上の中国人留学生がウクライナで学んでいました。

さらに、ウクライナの教育の質に関して掲載します。

ウクライナの教育制度はヨーロッパのボローニャ・プロセスに基づいており、ウクライナの大学の学位はヨーロッパ中の大学に認められています。

また、ウクライナの大学は、学部課程、大学院課程を含む幅広いコースを提供していますし、研究に力を入れており、教員 の多くは各分野で国際的に有名な専門家です。

ウクライナの大学で学ぶ学生 AI生成画

産業基盤を持ち、人口も四千万人台と、ヨーロッパの国々と比較すると多い方であり、さらに、ウクライナはヨーロッパとアジアの交差点に位置し、黒海とバルト海の両方にアクセスできます。

 こうしたことから、戦争が終結すれば、ウクライナは急速な経済発展を遂げる可能性を秘めています。ただし、戦争がウクライナ経済に与えたダメージは大きく、回復には時間がかかることに留意する必要があります。

一方ウクライナにおける、 汚職は長年にわたりウクライナの経済発展の大きな障害となってきました。トランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数によると、ウクライナは2022年に180カ国中122位となり、世界で最も腐敗した国のひとつとなりました。これは、ロシアとあまり変わらない水準です。

ウクライナの腐敗には多くの例がりますが、代表的なものをいくつか挙げます。

贈収賄:贈収賄はウクライナで広く見られる問題です。例えば、企業は許認可を得るため、あるいは罰金や営業停止を避けるために役人に賄賂を贈らなければならない場合があります。

縁故主義:縁故主義もウクライナにおける大きな問題のひとつで、政府との契約やその他の利益を、その資格に関係なく友人や同盟国に与える慣行を指します。これは非効率と浪費を招き、新規事業の競争を困難にします。

脱税: ウクライナでは脱税が大きな問題となっており、政府は毎年数十億ドルの税収を失っていると推定されています。その結果、公共サービスのための資金が不足し、政府がインフラや経済発展に投資することも難しくなっています。

汚職はウクライナ経済に多くの悪影響を及ぼしています。外国からの投資を抑制し、企業の経営を困難にし、政府に対する国民の信頼を失墜させました。その結果、ウクライナはその経済的潜在力を十分に発揮できずにいます。

ウクライナの汚職・腐敗 AIイメージ画像

近年、ウクライナ政府は汚職に対処するために一定の措置を講じていますが、まだ道のりは長いようです。政府は汚職の取り締まりを継続し、より透明性が高く、説明責任を果たせる政府システムを構築する必要があります。そうして初めて、ウクライナはその経済的潜在力をフルに発揮できるようになるでしょう。

ウクライナは戦争を終わらせるだけではなく、国内でのこうした深刻な腐敗・汚職を撲滅する必要があります。もしそれができなければ、EUには加盟できないでしょうし、NATOへの加入もできなくなるかもしれません。TPPに加入の意思を示しているようですが、これもできなくなる可能性もあります。

当初はウクライナに好意的で、多額の投資をしようとしていた、各国政府や民間企業なども、投資をしなくなり、ウクライナへの投資をためらうようになるかもしれません。

ウクライナは、ロシアとの戦いだけではなく、国内でも腐敗・汚職との戦いに勝利を収めていただきたいものです。

そうすれば、ロシアの西隣に、経済発展した国、経済に裏打ちされた軍事大国ができあがることになり、経済的にも安全保障的にも良い結果を生むことになります。

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2023年6月21日水曜日

岸田政権の「少子化対策」は成功するのか さすがにまずい保険料上乗せ、国債を財源とするのが筋 扶養控除見直しは政策効果を損なう―【私の論評】新たな未来を築き、ハイリターンが期待される「子ども」や「若者」対する投資は、国債を用いるべき(゚д゚)!

高橋洋一「日本の解き方」
岸田政権の「少子化対策」は成功するのか さすがにまずい保険料上乗せ、国債を財源とするのが筋 扶養控除見直しは政策効果を損なう


 岸田文雄政権の少子化対策には、児童手当の拡大、出産費用の保険適用、育休給付率の引き上げなどが含まれている。

 少子化の逆転に期待されているが、少子化対策は難しく、他の国の政策を参考にしながら効果的な手法を模索している。

 先進国では、所得制限のない一定額の児童手当と税控除の組み合わせが一般的であり、一般財源から資金が提供されることが通例となっている。

 しかし、岸田政権の少子化対策では、「こども金庫」という特別会計を使用することが提案されている。これには育児休業給付などが含まれており、保険とは言えないため、別の特別会計に組み込む必要があるとされている。

 しかし、特別会計の財源として社会保険料の増額は問題視されており、実質的に保険料の引き上げになってしまう可能性がある。

 代わりに、特別会計に国債発行機能を持たせることで、少子化対策に対する投資として国債を利用するべきだとの意見もある。

 ただし、効果が高く確実な投資に限定する必要があり、扶養控除の見直しや縮小は政策効果を損なう可能性があり、先進国の税控除が少子化対策の主流となっている現状とも一致しないと指摘されている。

 児童手当で所得制限をなくすとともに、扶養控除を見直すとどうなるか。一般的には児童手当が定額なのに対し、扶養控除の見直しは高額所得者には不利に働くので、一定所得以上の人はネットでマイナスになる。全体としてみると、政策効果をかなり損ない、本来の少子化・子育て支援には程遠いだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】新たな未来を築きハイリターンが期待される「子ども」や「若者」対する投資は、国債を用いるべき(゚д゚)!

扶養控除の廃止はかなり評判が悪いです。以下にそれに関する金子洋一氏のツイートをあげておまきます。

先進国における少子化対策は、扶養控除が大きな役割を果たしています。ただ、これが本当に少子化対策になっているかは未知です。

扶養控除(Dependent Care Tax Credit、DCTC)とは、保育料(養育費)を支払った納税者が請求できる税額控除です。この税額控除は、働いている親も専業主婦の親も利用でき、13歳未満の子供の保育料を相殺するために使うことができます。

DCTCは出生率に悪影響を与えるという批判もあります。その論拠は、DCTCがあることで親が働きやすくなり、少子化につながるというものです。例えば、全米経済研究所(National Bureau of Economic Research)の調査によると、DCTCは米国の既婚女性の出生率の低下と関連しています。

しかし、DCTCは出生率に影響を与える要因のひとつに過ぎないことに注意することが重要でです。生活費、保育の利用可能性、子供を持つことの社会的受容性など、他の要因も一役買っていると考えられます。

以下は、DCTCが出生率に及ぼす潜在的な悪影響について論じたソースの一例です。
「扶養控除と出生率」Jane Waldfogel (2009)
この研究は、DCTCが米国の既婚女性の出生率の低下と関連していることを明らかにしました。また、DCTCはすでに働いている女性の出生率を下げるのに特に効果的であったとされています。

ただ、この研究は、このテーマに関する研究の1つに過ぎず、DCTCが出生率に与える影響を完全に理解するためには、さらなる研究が必要であることに注意することが重要です。しかし、この研究は、DCTCが出生率にマイナスの影響を与える可能性を示唆しており、政策立案者が出生促進政策を立案する際に考慮すべきことです。

ただし、先進国の多くの国々において、扶養控除が少子化対策として用いられているのは事実です。

カナダ政府は養育費を支払った納税者が請求できる養育費控除(CCED)と呼ばれる税額控除を提供しています。CCEDは米国のDCTCに類似しており、カナダの出生率向上に役立っていると評価されています。

フランス政府は、Allocation de garde d'enfant(AGPE)と呼ばれる税額控除を提供しています。APGEはカナダのCCEDよりも手厚く、フランスを世界で最も家族思いの国にした一因と評価されている。

ドイツ政府はKindergeldと呼ばれる税額控除を提供しています。これは、18歳未満の子供がいる家庭に毎月支給されているものです。

イタリア政府はAssegno al nucleo familiare (ANF)と呼ばれる税額控除を提供しています。ANFはミーンズ・テスト制を採用しているため、所得の低い家庭しか利用できません。

英国政府は保育税額控除(Childcare Tax Credit)と呼ばれる税額控除を提供しています。育児税額控除は米国のDCTCに似ており、英国の出生率向上に貢献していると評価されています。

これらの国が少子化対策として行っている政策は、扶養控除だけではないことに注意する必要があります。その他の政策としては、有給育児休暇、養育費、家族に優しい職場などがある。しかし、扶養控除は、親が子供を持つことをより安価にするのに役立つ重要な政策であります。

上記の情報の出典は以下の通りです。
「扶養控除と出生率」ジェーン・ウォルドフォーゲル(2009年)
「養育費控除」(カナダ歳入庁)
「L'Allocation de garde d'enfant」(サービス・パブリック)
Kindergeld" (Bundesamt für Finanzen) "幼稚園税" (Bundesamt für Finanzen)
「家族手当」(INPS)
「育児税額控除」(歳入関税庁)
扶養控除が、本当に少子化対策に役立っているかどうかは、なんとも言えないところがあります。扶養控除に限らす、様々な少子化対策が功を奏していないことが明らかになりつつあります。これについては、以前このブログでも述べたことがあります。

G7での中では、少子化対策がうまくいっていると言われてきたフランスでさえも、最近は少子化が進んでいます。フランスの出生率は長年低下し続けており、現在は女性一人当たりの出生数が1.848人と過去最低を記録しています。つまり、フランス人女性の平均出産数は2人以下ということなのです。

無論、フランス政府も様々な手を打ってはいますが、うまくはいっていません。そもそも、「少子化の原因」に関しては、これだと言い切れる決定打がないのが現実です。

それでも、なぜ多くの国々が「こども」に投資をするかといえば、やはりリターンが大きいからでしょう。

引用記事の中でも述べましたが、政府の子どもへの投資がハイリターンであるという主張を支持する多くの情報源は多々あります。

だからこそ、多くの国々で、「少子化」に効果は薄いとされながらも、政府が様々な「子ども」に対する投資を行っているのでしょう。「少子化」に効果があるかどうかは分からなくても、「ハイリターン」ということでは、効果が高く確実な投資を積極的に行うべきでないでしょうか。

「子ども」や「若者」に対する政府による投資はハイリターンであることが知られている

「子ども」に限らず、もっと大きな、若者に対する投資もハイリターンであることが知られています。

「子ども」が平等にスタートを切ることができるように、支援し、さらに努力して高等教育にふさわしい学力をつけた若者には、教育投資をして、家庭の経済的都合等により、高等教育を受ける資格が十分にもあるにもかかわらず、受けられない若者を支援するなどのことも考えられます。

子どもたちが、基礎的な体力や学力を身に着けられれば、子どもたちが大人になって優れた働き手となって富を生み出すことになります。さらに、高等教育を受けた若者は、日本の未来を変える研究や貢献をしてくれることになります。

そうして、このようなハイリターン投資には、当然のことながら国債を用いるべきです。増税してしまえば、それこそ子育てにも支障が出かねないので本末転倒ですし、まだ需給ギャップがあるとみられる日本経済にとっても大きなマイナスになります。それにすでに支給されている扶養控除をカットするというのも、マイナスです。

扶養控除が少子化対策にあまり効き目がないかもしれないという情報は、財務省が扶養控除をカットするために用いようとするかもしれません。しかし、これには、多くの国々が未だに扶養控除を行っていること、そうして「少子化」に役立っているか否かは別にして、子ども投資はハイリターンであることから実施しているとみられることを主張して、財務省の目論見をくじくべきです。

ただ、そうなると、少子化対策はどうなるの、という考えもあるでしょうが、これは引用記事にもあげたように、AIとロボット化により少子化の弊害を取り除くことで解決できるはずです。

具体的なアイデアをいくつか挙げてみます。

AIやロボットを使って、現在人間が行っている作業を自動化します。これにより、人間の労働者はより創造的で戦略的な業務に専念できるようになる可能性があります。

また、ある業務を遂行するのに必要な労働者の数を単純に減らすこともできます。例えば、AIを搭載したロボットが、部品の組み立てや溶接など、製造業における繰り返し作業を行うことができます。これにより、人間の労働者は新製品の設計や生産ラインの管理など、より複雑な作業に集中できるようになります。


高齢者の介護にAIやロボットを活用します。高齢の親族を介護する家族の負担を軽減し、高齢者が必要なケアを受けられるようにすることができます。

例えば、AIを搭載したロボットは、高齢者の自宅での付き添いや介助に利用できます。また、高齢者の健康状態を監視し、何か問題があれば早期に警告を発するために使用することもできます。

さらに、AIやロボットを活用して新たな雇用を創出することもできます。AIやロボットの普及が進めば、これらの技術の開発、製造、メンテナンスに関わる新たな雇用が創出されます。例えば、新しいAIアルゴリズムを開発する人、ロボットを設計・製造する人、ロボットを保守・修理する人などが必要とされるでしょう。

AIを使って、子どもから大人まで使える新しい教育方法を開発します。これにより、年齢や場所に関係なく、誰もが質の高い教育を受けられるようになります。

AIを活用して、あらゆる年齢の人々の生活の質を向上させる新しいヘルスケア技術を開発します。これには、新薬や治療法の開発、病気の新しい診断・管理方法などが含まれます。

AIを使って、人々の移動を容易にする新しい交通技術を開発します。これには、自動運転車やバスの開発、交通渋滞を管理する新しい方法などが含まれます。

AI"Dream Studio"で生成された画像

これらは、日本の少子高齢化に対応するためにAIやロボットをどのように活用できるかというアイデアのほんの一部に過ぎません。これらの技術が発展し続けるにつれて、この課題に対処するための革新的な活用方法がさらに増えていくことが予想されます。

これらは、日本における少子高齢化がもたらす課題に対処するためにAIやロボットが利用できる方法のほんの一部に過ぎません。これらの技術が発展し続ければ、日本だけでなく世界中の人々の生活を向上させるために、さらに革新的な活用方法が登場することが期待されます。

これらの革新を行うのは、AIやロボットではなく、人です。子どもや青年に対する投資により、多くの人々がこのような変革に携わることができるようになっていれば、文字通りこの投資は、ハイリターンになっているはずです。

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2023年6月20日火曜日

スウェーデンNATO加盟を無理筋に拒み続けるトルコ―【私の論評】トルコは反対を取り下げ、スウェーデンのNATO加盟を認めるべき(゚д゚)!

スウェーデンNATO加盟を無理筋に拒み続けるトルコ

岡崎研究所

スウェーデン女性とエルドアン大統領(左) AI生成画像

 エスパー元国防長官とファーカス元国防次官補は、トルコとハンガリーがスウェーデンのNATO加盟申請に賛同するべきだと主張している。スウェーデンは、ロシアの脅威に対抗する有利な地理状況、情報識見、強い防衛産業、称賛に値する海洋能力などから、NATO加盟に値する。

 ビリニュス首脳会談を超えて加盟を遅延させることはロシアを元気づけ、NATOを掘り崩す。米国を始めNATO加盟国は、トルコとハンガリーにスウェーデンの加盟を直ちに認めるように圧力をかけなければならない。スウェーデンはエルドアンの要求を満たすためにやれることは全てやった。彼にはさらなる口実はない。

 フィンランド政府高官は、スウェーデンがNATO同盟国でない場合、フィンランドの安全保障は最大にならないと述べた。NATOがすべきでないことはプーチンに立場を強める機会を与えることである。ウクライナ人はあまりに多くの犠牲を払った。

 エスパー元国防長官は米国のシンクタンクであるアリゾナ州立大学マケイン研究所の理事で、ファーカス元国防次官補はマケイン研究所の事務局長をしているが、この論説は、7月のビリニュスNATO首脳会議前にスウェーデン加盟を認めるべきであるとの主張をしている。ジョン・マケイン上院議員が主張したような主張である。

 6月1日にスウェーデンが反テロ法を施行したことを受け、トルコのエルドアン大統領もスウェーデンのNATO加盟反対を取り下げるべきであると思われる。

 そもそもエルドアンがスウェーデンのNATO加盟問題とPKK(クルド労働者党)メンバーのスウェーデン滞在の問題を結び付け、後者の問題の解決がなければ、前者の問題の解決はないとしたのは無理筋のやり方であると考えられる。それにもかかわらず、スウェーデンは憲法の改正や反テロ法の立法にまで踏み込んで、エルドアンの要求に歩み寄ったのである。もはやエルドアンもそれなりの対応をすべきであろう。

 もし、エルドアンがさらに反テロ法の執行状況を見て判断したいというような姿勢を見せるならば、この論説が言うように、エルドアンはNATO首脳会議で歓迎されないと明確にし、NATOとトルコの関係を再検討するということも一つの対応であろう。

 トルコはソ連が南に出ていく際の抑えという地理的重要性を持っていたが、ウクライナ戦争がどう終わるにせよ、ウクライが地上から消えることにはならないので、ロシアの南下を抑える役割の多くはウクライナに期待できるようになると思われる。ウクライナ戦争後のロシアは弱体化が進むと思われるので、なおさらである。

 米国を引き込み、ロシアを排除し、ドイツを抑えるとのNATOの当初の目的に鑑みれば、スウェーデンとフィンランドの加盟はトルコの加盟以上に今は重要であると言ってよいと思われる。

 今後の進展を注視すべき問題である。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トルコは反対を取り下げ、スウェーデンのNATO加盟を認めるべき(゚д゚)!

エルドアンはなぜ、PKK問題にこだわるのでしょうか。PKKとトルコの関係は、対立の関係にあります。PKK(クルド労働者党)は、トルコ、イラク、イラン、シリアの一部に位置するクルド地域の独立を求めて戦ってきたクルド人過激派組織です。トルコはPKKをテロ組織として指定し、数十年にわたり戦闘を続けています。

PKKの女性民兵

PKKとトルコの間の紛争は、血なまぐさい犠牲を払ってきました。何千人もの人々が双方で殺されてきました。また、紛争はトルコの経済や社会にも悪影響を及ぼしてきました。

近年、紛争の平和的解決に向けた取り組みが行われています。しかし、これらの努力は今のところ成功していません。PKKは独立のために戦い続けており、トルコはこれをテロ組織として指定し続けています。

PKKとトルコの間の紛争は複雑です。紛争を引き起こした要因は多く、簡単な解決策はないです。しかし、平和的な解決に向けて努力を続けることが重要です。

ここでは、PKKとトルコの関係について補足説明します。

PKKは1978年にアブドゥラ・オカランによって設立されました。その目的は、トルコ南東部にクルド人の独立国家を建設することです。

PKKは1984年以来、トルコ政府と戦ってきました。彼らは、自爆テロや暗殺を含むテロリズムの行使で非難されており、トルコ、米国、欧州連合からテロ組織に指定されています。

PKKとトルコの間の紛争は、何千人もの死者を出し、何百万人もの人々を避難せざるをえないような状況に追い込みました。紛争を平和的に解決するための努力も行われているが、これまでのところ、これらの努力は成功していません。


一方、PKKとスウェーデンの関係を以下に述べます。

PKKとスウェーデンの関係は複雑で、時代とともに変化してきました。過去にスウェーデンは、トルコと米国によってテロ組織とみなされているPKKに支援を提供していると非難されたことがあります。しかし、スウェーデンはこれらの疑惑を否定し、いかなるテロ組織も支援していないとしています。

近年、スウェーデンはPKKと距離を置くための措置をとっています。2016年、スウェーデンはPKKとその関連団体に制裁を課しました。2019年、スウェーデンはPKKのメンバーをトルコに引き渡した。そして2022年、スウェーデンは憲法を改正し、テロ組織を支援することを犯罪としました。

こうした措置にもかかわらず、トルコはスウェーデンとPKKの関係について懸念を表明し続けてきました。2022年、トルコはスウェーデンのPKK支援への懸念を理由に、スウェーデンのNATOへの加盟申請を阻止しました。

PKKとスウェーデンの関係の将来は不透明です。スウェーデンがトルコをなだめ、NATOへの加盟を確保するために、PKKから距離を置く措置を取り続ける可能性はあります。しかし、PKKがスウェーデンに圧力をかけ続け、その結果、両国の間にさらなる緊張が生じる可能性もあります。

リトアニア首都ビリニュス

トルコが今年7月にリトアニアのビリニュスで開催されるNATO首脳会議後もスウェーデンのNATO加盟を拒否し続けるのは全く合理的ではありません。

第一に、先に述べたように、スウェーデンは、トルコがテロ組織とみなすクルド労働者党(PKK)への支援疑惑に対するトルコの懸念に対処するため、重要な措置を講じている。特に、スウェーデンはPKKのメンバー数名をトルコに送還し、トルコへの武器禁輸を解除し、国境内のPKK活動を取り締まってきました。

第二に、スウェーデンのNATO加盟は、同盟の集団防衛を強化し、ロシアからの侵略を抑止することになります。ロシアは近年、攻撃的な姿勢を強めており、ウクライナへの侵攻によって、目的の達成のためには軍事力を行使することも辞さない姿勢を示しています。スウェーデンのNATO加盟は、同盟に新たな安全保障層を追加し、ロシアが加盟国を脅かすことをより困難にするものです。

第三に、スウェーデンのNATO加盟は、トルコの安全保障上の利益を損なわないということです。トルコは、スウェーデンのNATO加盟により、PKKがスウェーデンを拠点として活動することが可能になると主張してきました。しかし、この主張を支持する証拠はないです。実際、スウェーデンはテロとの闘いにおいて強力な実績があり、NATOへの加盟は同盟の能力を強化することになります。

結論として、トルコがスウェーデンのNATO加盟を拒否し続けることは不合理であり、両国にとって有害です。スウェーデンはトルコの懸念に対処するために重要なステップを踏んでおり、NATOへの加盟は同盟を強化し、ロシアからの侵略を抑止することになるでしょう。トルコは反対を取り下げ、スウェーデンのNATO加盟を認めるべきです。

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2023年6月19日月曜日

ウクライナ戦争で中国への不信感を強める欧州―【私の論評】日米欧は、中国の都合よく規定路線化する姿勢には疑いの目で迅速に対処すべき(゚д゚)!

ウクライナ戦争で中国への不信感を強める欧州

岡崎研究所


 中国は、ウクライナ戦争の停戦を促すため、ウクライナ、ロシア、欧州諸国に働きかけている。しかし、中国の和平計画は、ロシアがウクライナ領土の20%近くを占領している現状をそのままにしたままで、まず停戦をしてはどうかというものであり、ウクライナにもウクライナ支援をしている欧州諸国にも到底受け入れられる提案ではない。

 中国はこういう提案をすることで、ロシアの侵略とその成果を認める姿勢を示したが、これで仲介できると考えるのは中国の情勢判断能力に疑問を抱かせるものであると言わざるを得ない。さらに、今はウクライナが反転攻勢を加えようとしている時期であり、ピントの外れた仲介であると言わざるを得ない。

 欧州側が李特使の考え方に強く反発したのは当然であり納得できるが、ウクライナ戦争とそれへの対応を見て、欧州の対中不信や姿勢はより厳しくなると思われる。そのこと自体は歓迎できることであろう。

 フランスは、今なお中国のウクライナでの永続する平和への役割がありうるとしているが、何を念頭においているのか、理解しがたい。マクロン大統領の訪中の際の共同声明、その後のマクロンの対露、対米姿勢、特に北大西洋条約機構(NATO)や台湾問題に関する発言等には、要注意である。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】日米欧は、中国の都合よく規定路線化する姿勢には疑いの目で迅速に対処すべき(゚д゚)!

元記事では、「最近、中国は状況対応型で原理原則のない国になり、信用できない国であると思わざるを得ないことが多くなった。北方領土問題についても、1964年、毛沢東が日本の立場への支持を打ち出したが、最近それを取り下げ、日本の立場を支持することはやめると言った。立場を平気でころころと変えるような国、首尾一貫しない国を信用するのは大きな間違いにつながる。中国を不信の目で見ることが必要と思われる」としています。

これについては、以前からこのブログでも主張してきたことです。その記事のリンクを以下に掲載します。
習近平の反資本主義が引き起こす大きな矛盾―【私の論評】習近平の行動は、さらに独裁体制を強め、制度疲労を起こした中共を生きながらえさせる弥縫策(゚д゚)!

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 これは、2021年7月の記事です。この記事の結論部分を以下に引用します。

中国の路線変更は大きな問題であり、「毛沢東主義への回帰」とか「鄧小平路線の変更」というよりも、もっと細かく見ていく必要があります。ただ、習近平の今のやり方は中国経済にとってはよい結果をもたらさないということと、中国はますます独裁的な国になることは確かです。共産党と独裁には元々強い親和性があります。

しかし、国民の不満は爆発寸前です。私自身は、習近平の一連の行動は、結局のところさらに独裁体制を強め、国民の不満を弾圧して、制度疲労を起こした中国共産党を生きながらえさせるための弥縫策と見るのが正しい見方だと思います。実際は本当は、単純なことなのでしょうが、それを見透かされないように、習近平があがいているだけだと思います。

習近平に戦略や、主義主張、思想などがあり、それに基づいて動いていると思うから、矛盾に満ちていると思えるのですが、習近平が弥縫策を繰り返していると捉えれば単純です。2〜3年前までくらいは、戦略などもあったのでしょうが、現在は弥縫策とみるべきと思います。

無論、多くの国の指導者が、国際関係や国内の問題に関して、思いがけないことは頻繁に起こります。そのため、思いがけないことに関しては、弥縫策を取るのは普通のことだと思います。それにしても、長期の戦略がありながらも、当面弥縫策をとるのならわかりますが、習近平の行動は、単なる弥縫策と見るべきかもしれません。

特に経済面では、それは顕著です。過去に何度か述べたように、中国は国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状況に陥っています。独立し金融政策ができないことは、中国経済に深刻な打撃を与えつつあります。

対処法は、いたって簡単で、人民元を固定相場制から変動相場制に移行させることです。あるいは、資本の自由な移動をさせないようにするかです。ただ、こちらのほうはできないでしょう。

だとすれば、変動相場制に移行するしかないのです。ただ、習近平はこれは実行せず、経済面においては弥縫策を繰り返すのみです。構造要因を取り除かない限り、中国経済が成長軌道に乗ることはありません。中国経済に関しては、様々な論評がなされていますが、それは現象面を語っているだけであって、中国経済が悪化し回復しないのは、独立した金融政策ができないことが根本原因です。

そうして、習近平は対外関係、国内でも弥縫策を繰り返しています。ただ、習近平の弥縫策は、様々な事柄を既成事実化するという手法で実行されていることが、より他国から信頼されないのと、危険な兆候を生み出しています。

習近平の政策を既成事実化する形で弥縫策を実施した例としては、以下のようなものがあります。

国家主席の任期制限の廃止。これは2018年の憲法改正によって行われ、習近平は無期限で政権を維持できるようになりました。これは、多くの人が習近平による権力奪取と見なし、物議を醸した。

反対意見の取り締まり。 習近平は、中国における反対意見を取り締まり、活動家、ジャーナリスト、弁護士を逮捕・投獄してきました。これは、「国家安全保障」を理由に人々を拘束する広範な権限を政府に与える国家安全法の拡大を含む、多くの手段によって行われてきました。

中国の軍隊の拡大。習近平は、新しい兵器システムの開発や南シナ海における中国の海軍プレゼンス拡大を含む、中国軍の大幅な拡張を監督してきました。これは、中国が世界の舞台で自己主張を強めていることの表れであるとの見方もあります。

一帯一路構想。一帯一路構想は、中国が世界の発展途上国に数十億ドルを投資する大規模なインフラプロジェクトです。この構想は、経済成長を促進し、貧困を削減する可能性があると一部で評価されていますが、中国の債務負担を増大させる可能性や地政学的野心から批判されることもあります。

これらは、習近平の弥縫策を既成事実化する形で実施されたほんの一例に過ぎないです。

習近平の弥縫策は、最近の琉球列島に関する発言にもみられます。

2023年3月8日に中国中央テレビ(CCTV)で放送されたテレビ番組「中国文化の生命力」。番組では、琉球諸島に関する習近平主席のコメントや、中国の主張を支持する学者たちの解説が紹介されました。

AIによる生成イメージ

習近平はコメントの中で、琉球諸島(現代の沖縄諸島)は "中国領土の不可分の一部 "であると述べました。また、中国は "琉球諸島を支配してきた長く継続的な歴史がある "とも述べています。

番組に出演した学者たちも、習近平の発言に共鳴していました。彼らは、琉球諸島は常に中国の一部であり、日本が同諸島を領有することは違法であると述べました。

中国メディアのキャンペーンは、琉球諸島の主権を主張する中国によるより大きな努力の一部です。中国はまた、この地域での軍事的プレゼンスを高めており、ロシアとの合同軍事演習を実施しています。

日本政府は、中国のメディアキャンペーンに懸念を持って反応しています。日本政府は、琉球諸島の領有権を放棄することはないと述べています。

そもそも琉球王国は中国の朝貢国ではありましたが、中国に支配されたことはありませんでした。

17世紀に書かれた琉球王国の歴史書『琉球国記』には、14世紀以降、中国の朝貢国であったと記されています。

また、清朝時代に編纂された法律書『清法』では、琉球王国は中国の朝貢国であったとされています。

琉球王国公文書館に保存されている琉球王国の外交記録には、中国との交流の記録が数多く残されています。これらの記録は、琉球王国が中国に定期的に朝貢団を送ったこと、中国皇帝が琉球王に "琉球王 "という称号を与えたことを示しています。

しかし、琉球王国は決して中国に支配されたわけではありません。王国には独自の政府があり、独自の法律があり、独自の軍隊がありました。琉球王は王国の最高統治者であり、中国皇帝に服従することはありませんでした。

琉球王国の中国への朝貢は500年以上続きました。1879年、琉球王国は日本に併合され、その歴史は終わったのです。

琉球諸島は "中国領土の不可分の一部 "であるという習近平の発言は間違いです。

琉球諸島を巡って中国と日本の間には何の問題もないのですが、習近平は軍事的にも経済的にも行き詰まってるため、弥縫策で両国には長い対立の歴史があり、琉球諸島の問題は敏感なものであると、発言し、国内の注意をそちらに向けていると考えられます。普通の国のトップなら、恥ずかしくてできないことです。事態がどのように進展するかは不明ですが、注視すべき弥縫策といえるかもしれません。

以下、中国メディアのキャンペーンについて補足します。

このキャンペーンは、少なくとも2020年から実施されています。新聞、雑誌、テレビ番組、ソーシャルメディアなど、さまざまなメディアで実施されてきました。

特に若い人たちに焦点を当てたキャンペーンです。中国人に琉球への郷愁を抱かせるように設計されています。

また、中国の琉球諸島に対する主張について、特に若い人たちを印象操作しようとするものです。この中国メディアのキャンペーンは、さまざまな反響を呼んでいます。一部の人々は、琉球諸島と中国の主張に対する認識を高めたと賞賛しています。また、ジンゴイズム的である、歴史を歪曲しているという批判もあります。

中国のメディアキャンペーンが長期的にどのような影響を及ぼすかについては、時期尚早と言わざるを得ません。しかし、このキャンペーンが、琉球諸島に対する主権を主張する中国によるより大きな努力の一部であることは明らかです。

テレビ番組「中国文化の生命力」のほか、中国メディアは、琉球諸島に対する中国の主張を宣伝する記事やソーシャルメディアへの投稿を数多く流しています。これらの記事や投稿は、中国の主張を支持するために歴史的・文化的な論拠を用いることが多い。また、日本が琉球諸島を支配していることを批判することもしばしばあります。

中国はまた、沖縄付近での中国とロシアとの航空機による合同飛行を行うなどの異常な行動をとっています。

中国中央電視台の建物

対外関係においても、弥縫策を繰り返す習近平ですが、その弥縫策がうまくいきそうであれば、長い年月をかけてでも、南シナ海を実効支配したように、規定化路線を取るのが中国のやりかたです。弥縫策がうまくいくと、不合理な理由であろうと何であろうと、屁理屈ともいえるような幼稚な理論で、規制路線化を押し通し、うまくいかないと、コロコロを態度を変えるので、信頼されなくなるのです。

日米欧は、中国の弥縫策による規制化路線に関しては、最初から猜疑心を持って見て、放置せずすぐに何らかの反応をすべきと思います。南シナ海においても、1980年代に中国が環礁に粗末な掘っ立て小屋を建てた時期に、米国が場合によっては、戦争も厭わない強い姿勢で臨めば、今日のようなことにはならなかったと考えられます。

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2023年6月18日日曜日

西側の対トルコ関係改善か―【私の論評】西側諸国との関係が改善すれば、トルコはウクライナ停戦で大きな役割を果せる(゚д゚)!

西側の対トルコ関係改善か


 トルコの大統領選挙でエルドアン氏が勝利し、彼の政権はNATOへの忠誠とロシアへの経済的依存のバランスを取る課題に直面している。

 西側ではエルドアン政権に反発してきたが、関係改善の期待もある。ただし、EU加盟問題では進展は見込めず、トルコは欧州連合との関係を築くことは難しい。

 一方、エルドアン政権の継続は恩恵をもたらす可能性もあるとの見方もある。米議会ではエルドアン政権に対する反発が強く、ロシアとの関係やクルド人への弾圧に対する懸念がある。

 トルコはNATOに属しているが、同時にロシアとの関係も持っており、ウクライナ戦争で重要な役割を果たす可能性がある。

 EU加盟国はNATOとの関係に注目しており、EU加盟交渉はエルドアン政権の再選で進展しない見通し。

 EUとトルコは難民・移民問題などで協力しているが、加盟交渉は凍結状態にある。

 エルドアン政権の継続は国内で保守化の傾向を強め、対外政策では民族主義的な姿勢を取りながらも、国益を追求しようとするだろう。ウクライナ戦争の中で、トルコと西側の関係の動向が注目される。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】西側諸国との関係が大きく改善すれば、トルコはウクライナ停戦で大きな役割を果せる(゚д゚)!

ロシア軍のs-400防空システム

欧米諸国とトルコの関係悪化の背景には、以下のような要因があります。

  • トルコがロシアのS-400防空システムを購入したこと: 2019年、トルコは、米国や他のNATO同盟国から、そうすることでトルコの同盟加盟が危うくなるという警告を受けたにもかかわらず、ロシアのS-400防空システムを購入しました。S-400の購入は、トルコのNATO同盟国による大きな裏切り行為とみなされ、米国による制裁の発動につながりました。
  • シリア内戦におけるトルコの役割:トルコはシリア内戦の主要なプレーヤーであり、バッシャール・アル・アサド政権と戦うシリアの反政府勢力に軍事的・財政的支援を提供してきました。トルコのシリア内戦への関与は、シリア政府の主要な同盟国であるロシアと対立することになりました。
  • トルコの人権状況の悪化: トルコの人権状況は近年悪化しており、政府は反対意見を取り締まり、ジャーナリストや反対派の人物を逮捕しています。トルコの人権状況の悪化は、トルコをイスラム世界における民主主義の模範と見なしてきた欧米諸国との関係を緊張させています。
  • トルコの経済問題 :トルコ経済は数年前から危機的状況にあり、高水準のインフレと失業に直面しています。経済危機は多くのトルコ人の生活水準の低下を招き、トルコに資金援助をしてきた欧米諸国との関係もぎくしゃくしています。
  • トルコの過激派組織への支援 :トルコは、イラク・シリアのイスラム国(ISIS)などの過激派を支援していると非難されています。トルコは、これを否定していますが、2019年、国連の報告書は、トルコがISISへの外国人テロリスト戦闘員の流入を「防ぐための適切な措置を講じていない」と指摘しました。報告書はまた、トルコが "テロ活動の資金調達を防ぐために必要なすべての措置を講じていない "ことを明らかにしました。このため、欧米諸国は、トルコのテロとの戦いに対するコミットメントを懸念しています。
  • 東地中海におけるトルコの役割:トルコは、東地中海のエネルギー開発をめぐり、ギリシャやキプロスとの紛争に巻き込まれています。この紛争は、トルコとNATO同盟国との関係を緊張させています。
トルコと欧米の関係悪化は複雑な問題であり、簡単な解決策はないです。関係改善のためには、双方が譲歩する姿勢が必要です。

最終的には、トルコと欧米が、テロ対策や安全保障、経済発展など、互いに関心のある問題で協力する方法を見つけることが目標になるはずです。トルコと欧米が協力することで、世界をより安全で豊かな場所にすることができるのです。そうしてその最大のものが、トルコが将来的にウクライナ戦争停戦交渉の重要なプレーヤーになりうるという可能性です。

その論拠をいくつか以下にあげてみます。

第一に、トルコはヨーロッパとアジアの交差点に位置し、ウクライナを含む、旧ソ連邦諸国と国境を接しています。そのためトルコは従来からユニークな視点を持ち、地域情勢における重要なプレーヤーとなっています。

次に、トルコはロシアとウクライナの両方と経済的、政治的に密接な関係があります。このため、トルコは両国の利害を独自に理解しており、両国の溝を埋めるために貢献することができます。

ウクライナ戦争で大活躍した、トルコ製ドローン、バイラクタルTB2

第三に、トルコには、他国間の紛争を調停してきた歴史があります。例えば、2020年にナゴルノ・カラバフの停戦合意に至った交渉では、トルコが重要な役割を果たしました。

第四に、 トルコは主要なエネルギー通過国であり、エネルギー供給をロシアやイラン、アゼルバイジャンからの輸入に頼っています。トルコは、2020年、黒海で埋蔵量3200億立方メートルに上る同国史上最大規模の天然ガス田を発見したと公表していますが、このガス田がトルコで利用できるようになるのは、まだ随分先のことになります。

そのため、停戦は、トルコを経由するエネルギーの継続的な流れを確保することにつながり、トルコの経済的利益となります。

最後に、トルコには強力な軍事力があり、自国の利益を守るために軍事力を行使してきた歴史があることも注目に値します。トルコの国防費は、サウジアラビアとイスラエルに次ぐ中東で3番目の大きさであり、2019年の支出は20,448百万米ドルでした。 その軍事費は、2012年の115.6億米ドルから、2012年から2018年の期間に79.96%増加しました。

トルコ軍

このことは、トルコがロシアとウクライナの双方を交渉のテーブルに着かせるために必要な影響力を与える可能性があります。

全体として、トルコは将来的に停戦交渉の重要なプレーヤーとなり得る要素を数多く持っています。戦略的な立地、ロシアとウクライナの双方との密接な関係、調停の歴史、停戦への既得権益など、トルコは近隣の紛争において独自の役割を担っているといえます。

西側諸国との関係が大きく改善すれば、トルコはウクライナ停戦で大きな役割を果たす可能性は高いと考えられます。

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2023年6月17日土曜日

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プーチン大統領が〝孤立〟 旧ソ連カザフスタンなど離脱、周辺からも支持失う  「反ロシア・反プーチン連合も」 中村逸郎氏が指摘

プーチン大統領の「ソ連回帰」が周辺国に警戒されているのか


 ウクライナ侵略をきっかけに、旧ソ連諸国の中で「プーチン離れ」が進んでいる。

 ロシア指導部への支持率が急落し、ウクライナやモルドバを含む他の旧構成国でもロシアとの関係に疑問符がつくようになっている。

 ロシアのウクライナ侵略に対して批判的な態度を示してきたカザフスタンのトカエフ大統領は、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムでの会議を欠席し、ロシアとの一線を画した態度を明確にした。

 一方、ウクライナのゼレンスキー大統領はモルドバで開催された首脳会合に出席し、欧州との結束を確認した。

 ロシアの支持率の急落は、モルドバ、アルメニア、カザフスタン、アゼルバイジャンなどの旧ソ連諸国で顕著であり、プーチン大統領の「ソ連回帰」の試みに対しては懐疑的な声も上がっている。

 中村逸郎名誉教授は、ロシアが埋没していることを嫌い、プーチン大統領が「ロシアの栄光」を復活させようとしていると指摘し、旧構成国間で「反露・反プーチン連合」が形成される可能性もあると述べている。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は是非元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナ戦争が旧ソ連地域におけるロシアの立場を弱め、その影響力を維持することをより困難にした(゚д゚)!

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、長い間、ソビエト連邦を復活させようとしていると非難されてきました。彼はソビエト時代を懐かしむように語り、ロシアのメディアや経済に対する権力と支配力を強化するための措置をとってきました。また、異論や反対意見を取り締まり、クリミアを併合し、ウクライナ東部の分離独立派を支援してきました。

ソビエト連邦の復活を目論むプーチンだが・・・・・

プーチンのウクライナでの行動は、東ヨーロッパにおけるソビエト連邦の勢力圏を再現しようとする試みであると多くの人が見ています。ウクライナはかつてソビエト連邦の一部であり、ロシア語を話す人口も多いです。プーチンは、ウクライナへの侵攻を「非武装化・非ナチス化」のために必要だと主張し、正当化しています。しかし、プーチンの真の狙いは、ウクライナのNATO加盟を阻止し、ロシアの勢力圏に留めることにあるとする見方が多いです。

プーチンの思いとは裏腹に、ウクライナ戦争は、プーチンのソビエト連邦復活の野望を大きく後退させるものになりました。ウクライナ国民は独立のために戦う意思を示し、ロシア軍に多大な犠牲をもたらしましたた。

また、この戦争は、ロシアの経済と世界舞台での評判にダメージを与えました。プーチンがソビエト連邦の復活という目標を達成できる可能性は低いですが、今後も旧ソ連共和国に対する支配力を行使し、東ヨーロッパにおけるロシアの影響圏を拡大しようとしていた可能性は高いです。

プーチンのウクライナでの行動が、ソ連復活の試みとどのように関連しているのか、具体的な例をいくつか挙げます。

クリミアの併合 2014年、ロシアはウクライナからクリミア半島を併合しました。これは明らかな国際法違反であり、プーチンがソビエト連邦の国境を復活させようとしている兆候であると多くの人が見なしました。

 ロシアは2014年以降、ウクライナ東部の分離主義者を支援してきました。これらの分離主義者はウクライナ政府と戦っており、多大な死と破壊を引き起こしています。ロシアの分離主義者への支援は、ウクライナを不安定化させ、NATOへの加盟を阻止するための試みであると多くの人が見ています。

さらに、プーチンは2000年に政権に就いて以来、ロシアにおける反対意見を取り締まってきました。野党指導者を投獄し、言論の自由を制限し、メディアを統制してきました。このような反対意見の取り締まりは、ソビエト連邦に似た全体主義国家を作ろうとしていると多くの人が見ています。

ただ、プーチンは、ソビエト連邦を復活させようとしていると明言したことはないことに注意する必要があります。しかし、ウクライナなどにおける彼の行動は、それが彼の目標であることを示唆しています。ウクライナ戦争はプーチンにとって大きな後退だが、プーチンがその野望をあきらめることはないでしょう。

ただ、この考えは、一種妄想に近いともいえると思います。そもそも、ロシアがウクライナに侵攻し、キエフを占領し、ゼレンスキー政権を追放し、傀儡政権を作ることは、最初から不可能だったと考えられます。ウクライナ侵攻直前でさえ、ロシアのGDPは韓国をわずかに下回る程度であり、軍事力もNATOの連合軍ほど強力ではありません。

軍事費も一般に思わているほど大きくはありません。日本が軍事費を倍にすると、ロシアの軍事費をかなり上回ることになります。それでも、なぜロシアが軍事大国と思われてきたかといえば、旧ソ連の核兵器と、軍事技術を継承した国がロシアだからです。

無論、これを侮ることはできませんが、自ずと限界はあります。できることは限られています。ウクライナ侵攻は当初から絶望的に困難なことだったといえます。
IMFデータをもとにした世界の名目GDP国別ランキング

ロシアのウクライナ侵攻が成功しなかった理由をいくつか挙げてみます。

まず、ウクライナ国民は自国のために戦う意志を持っていることです。ウクライナ国民は国のために戦う意思を示し、ロシア軍に多くの犠牲者を出している。そのため、ロシアは目的を達成することが難しくなりました。

国際社会はロシアに厳しい制裁を課しています。米国とその同盟国は、ロシアがウクライナに侵攻したことを受けて、ロシアに厳しい制裁を課しています。これらの制裁はロシア経済を麻痺させ、ロシアが軍事活動を維持することを困難にしています。

ロシアは多くの戦略的誤りを犯してきたことです。ロシアはウクライナ侵攻において、多くの戦略的誤りを犯しました。ウクライナの抵抗力を過小評価したこと、ウクライナ上空の制空権を確保できなかったこと、目的を迅速に達成できなかったことなどです。

ウクライナ戦争が長期的にどのような結果をもたらすかについては、まだ時期尚早です。しかし、ロシアが大きな後退を喫し、世界におけるロシアの地位が弱体化したことは確かです。また、この戦争は、ウクライナの人々が自国を守る決意を固め、戦わずしてあきらめないということを示しました。

キエフ郊外のアントノフ空港で、ウクライナの女性兵士とともにたたずむオレナ・ゼレンスカ(青色のコートの女性)。

ウクライナ侵攻をきっかけに、旧ソ連諸国の間でプーチンからの「離反」が進んでいることは、上の記事に示されていますが、これには、以下のような要因があります。

まず、ウクライナ戦争は、ロシアが信頼できるパートナーでないことを示したことです。ウクライナへの侵攻は明らかな国際法違反であり、多くの死者と破壊をもたらしました。このため、多くの旧ソ連諸国は、ロシアが約束を守ってくれるかどうかを疑問視するようになりました。

ウクライナでの戦争は、ロシアの経済にダメージを与えました。米国とその同盟国が課した制裁は、ロシア経済に大きな影響を与えました。そのため、ロシア国内の生活水準が低下し、旧ソ連諸国への経済支援も難しくなっています。

ウクライナ戦争は、プーチンに対する信頼の失墜を招きました。ウクライナへの侵攻は、プーチンが自分の目的を達成するために軍事力を行使することを厭わないことを示しました。このため、多くの旧ソ連諸国は、プーチンが自分たちの最善の利益のために行動することを信頼できるかどうかに疑問を持つようになりました。

こうした要因の結果、多くの旧ソ連諸国がロシアから距離を置くための措置をとっています。例えば、グルジアとモルドバはNATOへの加盟を申請し、アルメニアは集団安全保障条約機構(CSTO)への加盟を停止しています。これらの国々は欧米との緊密な関係を求めており、安全保障や経済的支援をNATOや欧州連合に求めている。

旧ソ連諸国の間でプーチンからの「離反」が進んでいることは、ロシアにとって大きな後退です。この地域におけるロシアの影響力が衰えていることを示すものであり、プーチンが目指すソビエト連邦の復活への挑戦でもあります。ロシアがこの課題にどう対応するかは不明ですが、ロシアはこの地域での影響力を維持する方法を模索する可能性があります。

たとえば、ロシアはその経済力を利用して、旧ソ連諸国に圧力をかけ、自国に従わせることができます。例えば、貿易や投資を遮断したり、エネルギー輸出の価格を引き上げたりすることが考えられます。

ロシアは、旧ソ連諸国が西側諸国と協調することを阻止するために、軍事力を行使することができます。例えば、旧ソ連諸国との国境付近で軍事演習を行ったり、旧ソ連諸国のうちロシアと同盟を結んでいる国に軍隊を派遣したりすることです。

さらに、ロシアは、偽情報やプロパガンダを用いて、旧ソ連諸国の住民の間に不和や不信感を植え付けることができます。これにより、旧ソ連諸国がロシアに対して団結することをより困難にすることができます。

そうして、ロシアは、旧ソ連諸国において自国の価値や利益を促進するために、文化的影響力を行使することができる。これは、ロシアのメディア、教育、スポーツを利用することで可能です。

重要なのは、ロシアがこれらの方法を一度にすべて使う可能性はないということです。むしろ、国や地域によって、いくつかの方法を組み合わせて使う可能性が高いです。

ロシアが旧ソ連地域で影響力を維持しようとする努力が成功するかどうかは、以下のような多くの要因に左右されます。

①旧ソ連諸国の経済力と軍事力、②欧米との関係強化に対する国民の支持の程度、③欧米の対ロシア制裁の有効性等です。

ウクライナ戦争が旧ソ連地域におけるロシアの影響力に長期的にどのような影響を与えるかについて結論を出すのは時期尚早です。しかし、この戦争がこの地域におけるロシアの立場を弱め、ロシアがその影響力を維持することをより困難にしたことは明らかです。

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