服部倫卓 (北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授)
- ウクライナ侵攻と国際的な制裁にもかかわらず、ロシア経済は2023年もプラス成長を記録した。
- 軍事費の大幅増を背景に、軍需産業は好調で、GDPの3分の2を占めるまでになった。
- 一方、物価高騰やガソリン不足などの問題も顕在化し、国民生活への影響も出始めている。
- プーチン大統領は2024年3月の大統領選への再選を目指しており、国民の支持率を維持するために、公共料金の値上げを抑制するなど、配慮を欠かさない。
- 住宅市場では、優遇ローンによる融資拡大を背景に、バブル的な過熱が進んでいる。この状況が今後、金融市場の混乱や経済の停滞につながるリスクがある。
ロシア軍女性兵士 |
2023年のロシア経済は、ウクライナ侵攻や国際的な制裁にもかかわらず、予想以上に持ちこたえた。GDPは3%前後の成長を記録し、失業率は記録的に低い水準にとどまった。
ロシア経済の成長率が予想以上に堅調となった要因は、以下の3つが挙げられる。
ウクライナ侵攻の影響で、国際的なエネルギー価格が高騰した。
ロシアは石油・ガスの輸出大国であり、この恩恵を受けた。
2023年の原油価格は、前年比で約60%上昇し、天然ガス価格は約100%上昇した。これにより、ロシアの貿易収入は大幅に増加した。
ロシアは、ウクライナ侵攻に伴い、軍事費を大幅に増大させた。2024年の国防費はGDPの6%に達する見通しであり、これは、2022年までの3%から倍増する。
軍事費の増大は、財政赤字の拡大とインフレの進行をもたらす。しかし、短期的には、GDPを押し上げる効果もある。
ロシアは、石油・ガスなどの資源に依存した経済構造を有している。そのため、西側諸国からの制裁の影響は限定的であった。軍事ケインズ主義とは、戦争や軍事支出を景気対策として活用する経済政策である。ロシアは、ウクライナ侵攻を契機に、軍事費を大幅に増大させ、これを経済成長のエンジンと位置づけている。
また、ロシア政府は、制裁への対応として、輸入代替や国内消費の拡大を推進した。
軍事ケインズ主義は、短期的には経済成長を促す効果がある。しかし、財政赤字やインフレの拡大などのリスクも伴う。
ロシア経済は、今後も軍事ケインズ主義を継続すると予想される。そのため、財政赤字とインフレは、今後もロシア経済の課題となると考えられる。
なお、ロシア経済の成長には、以下の課題もある。
ロシアでは、ウクライナ侵攻や制裁の影響で、物価高騰が進んでいる。特に、卵は59%値上がりした。
物価高騰は、国民生活の重圧となり、社会不安の要因となる可能性がある。
ロシアの輸出入は、制裁の影響で減少している。特に、西側諸国への輸出が大幅に減少した。
輸出入の減少は、経済の成長にマイナスの影響を与える。また、ガソリン不足や為替安定の対策に追われるなど、さまざまな問題も発生している。
ロシアの住宅市場は、優遇ローンの利用条件が段階的に厳格化される見通しとなり、ルーブル下落が進み、市場金利が急上昇したため、急速に過熱している。
優遇ローンの利用条件が厳格化されたため、新築住宅の購入を希望する層は、頭金を消費者金融で借りるなどして、無理な借金を重ねるケースも出てきている。
住宅バブルが崩壊すれば、金融システムの混乱や経済の停滞につながる恐れがある。
この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。
- 2023年のロシア経済は、ウクライナ侵攻や国際的な制裁にもかかわらず、GDPは前年比でマイナス4.2%と、予想以上に持ちこたえた。
- ロシアの物価上昇率は、2023年に前年比17.0%と、1998年の金融危機以来の高水準となった。
- 戦争中、軍事費の増大は、経済に短期的な刺激を与え、景気回復につながる可能性がある。ドラッカー氏は、数字だけを見れば、第二次世界大戦は、単なる好景気だったように見えるだろうと語る。
- 軍事費の増大は、財政赤字やインフレなどの問題を引き起こす可能性があり、長期的には経済の持続的な成長を阻害する可能性がある。
- ウクライナ侵攻が長期化する中で、ロシアと西側諸国との軍事衝突が拡大する可能性があり、ロシアが崩壊する可能性も否定できない。
2024年の消費者物価上昇率は、ウクライナ情勢の長期化や、西側諸国からのさらなる制裁が物価に与える影響次第では、さらに高騰する可能性もあります。
たとえば、経営学の大家ドラッカー氏は、第二次世界大戦中の経済について、以下の発言をしています。
数字だけを見れば、第二次世界大戦は、単なる好景気だったように見えるだろう。これは、第二次世界大戦中、多くの国が軍事費を増大させたことで、経済成長を遂げたという事実に基づいています。例えば、米国では、第二次世界大戦中のGNPは、戦前の約2倍にまで増加しました。これは、軍需産業の急速な発展によるものです。
第二次世界大戦中、日本も、軍事費を大幅に増大させ、軍需産業の急速な発展を促しました。その結果、日本の経済は、戦前の約2倍にまで成長しました。
日本の戦時中のポスター |
しかし、これはあくまでも表面的な現象であり、戦争の悲惨さを覆い隠すことはできません。
なお、ドラッカー氏は、この発言を、1950年に出版された著書『「経済人」の終わり──全体主義はなぜ生まれたか』の中でしています。この著書の中で、ドラッカー氏は、第二次世界大戦の原因を、経済主義の行き過ぎにあると分析しています。
ドラッカー氏の発言は、第二次世界大戦の歴史を理解する上で、重要な示唆を与えるものと言えるでしょう。
ドラッカー氏 |
プーチンが推進する軍事ケインズ主義の末路は、以下の3つの可能性があると考えられるでしょう。
1. 短期的な景気回復と軍事力の増強に成功する
プーチンは、ウクライナ侵攻によって、軍事費を大幅に増大させています。この軍事費の増大は、ロシアの経済に短期的な刺激を与え、景気回復につながる可能性があります。また、軍事技術の開発や軍事力の強化によって、ロシアの安全保障が向上する可能性があります。
この場合、プーチンの軍事ケインズ主義は、ある程度の成功を収めると言えるでしょう。しかし、軍事費の増大は、財政赤字やインフレなどの問題を引き起こす可能性があり、長期的には経済の持続的な成長を阻害する可能性があります。
2. 長期的な経済停滞と軍事力の衰退に陥る
軍事費の増大が続けば、財政赤字が拡大し、インフレ率が上昇する可能性があります。また、軍需産業への依存度が高まるため、民間部門の活力が低下し、経済成長が鈍化する可能性があります。
この場合、プーチンの軍事ケインズ主義は、失敗に終わると言えるでしょう。ロシアは、経済的にも軍事的にも衰退していく可能性があります。
3. 軍事衝突の拡大によって、ロシアの崩壊につながる
ウクライナ侵攻が長期化する中で、ロシアと西側諸国との軍事衝突が拡大する可能性があります。この場合、ロシアは、経済制裁や軍事攻撃によって、深刻な打撃を受ける可能性があります。
この場合、プーチンの軍事ケインズ主義は、ロシアの崩壊につながる可能性があります。ロシアは、国家として存続できなくなる可能性があります。
現時点では、プーチンの軍事ケインズ主義の末路は、まだ不透明です。しかし、長期的な経済停滞や軍事力の衰退、軍事衝突の拡大によって、ロシアが崩壊する可能性も否定できません。
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