2024年5月16日木曜日

狡猾な朝日新聞 政治記者なら百も承知も…報じる「選挙対策 かさむ出費」とを大悪事、合唱し続ける本当の狙い―【私の論評】政治資金問題は、民主主義体制である限り完璧にはなくなることはない

花田紀凱 天下の暴論プラス

まとめ
  • 朝日新聞が政治資金に関する問題を取り上げ、特に選挙対策での費用増加を指摘。
  • 議員たちは地元対策や事務所運営のために多額の政治資金を必要としている。
  • 政治資金報告書への不記載を朝日が「安倍派裏金1億円超」と報道し政治の混乱と憲法改正議論の停滞状況を生み出した。
  • メディアの報道姿勢が政治資金問題を煽り、政治風土や政治家と有権者との関係を無視しているとの問題提起。
  • 現在の政治的混乱の責任は、政治資金、パーティーでの政治資金集めを、あたかも、大悪事を働いたかのように報じ続けた朝日、その他のメディアにある。

月間『Hanada』の編集長花田紀凱氏

 5月12日に掲載された朝日新聞の記事は、政治改革2024を主題とし、「選挙対策 かさむ出費」というタイトルで、政治活動に関わる多額の費用に焦点を当てた。記事では、特に選挙対策での費用増加が問題とされ、地元会合などでの「会費」が膨らむ実態や、有権者からの金品要求の事例が紹介されている。また、政治資金の規制強化についての議論が進んでいる状況も触れられている。

 この記事の中で、西田昌司参議院議員は、会合への出席による費用が年間数百万円に上るとしている。さらに、前自民党衆院議員の長尾たかし氏や経済安保担当大臣の高市早苗氏、自民党参議院議員の和田政宗氏の発言から、政治家が政治資金集めに苦労している現状がわかる。これらの発言からは、地元対策や事務所運営に必要な費用が、議員の手取りとは比較にならないほど高額であることが浮き彫りにした。

 しかし、朝日新聞が「安倍派裏金1億円超」と報じたことを発端に、新聞、テレビ、ネットが「裏金」報道に飛びつき、本当は免許不携帯程度の罪ともいえる政治資金報告書の不記載を大罪のように扱った。このような報道姿勢が、結果として政治の大混乱を引き起こし、憲法改正の議論を停滞させた。

 こうした報道は、従来から指摘されている日本の政治風土や政治家と有権者との微妙な関係等から選挙対策には巨額の費用がかかることを無視し、意図的に問題を煽っている。今回の日本政治の大混乱は、安倍派憎し、自民党憎しで、知っていながら政治資金、パーティーでの政治資金集めを、あたかも、大悪事を働いたかのように報じ続けた朝日、その他のメディアにある。

 今さら「選挙対策 かさむ出費」もないだろう。

 朝日は狡猾だ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】政治資金問題は、民主主義体制である限り完璧にはなくなることはない

まとめ
  • 今回の政治資金不記載問題は、過去に逮捕者が出た重大な政治資金関連事件と比較すると軽い問題であるといえる。
  • 過去の重大な政治資金関連事件には、ロッキード事件、リクルート事件、金丸信事件、佐川急便事件などがあり、これらの事件は政治と企業間の不透明な関係や政治資金の透明性の欠如を浮き彫りにした。
  • 政治資金の問題は与党議員だけでなく、野党議員にも指摘されており、外国人からの政治献金問題や政治資金収支報告書に関する不適切な記載が問題となっている。
  • 政治資金に関する問題は、日本政治の敏感なテーマとして残り、選挙対策費用の莫大なかかり方が根本的な問題であり是正されるべきだ。
  • ただし、民主主義体制においては政治資金に関する問題がなくなることはなく、これは民主的な体制の特性として受け入れなければないところがある。
今回の政治資金不記載問題が、免許不携帯くらいの罪という花田氏の見解は、正しいかどうかは良くはわかりませんが、それにしても、過去の逮捕者も出た政治資金に関連する事件と比較すれば、今回の不記載問題は確かに軽いものといえると思います。

過去の政治資金に関連する事件をあげます。

政治資金規正法違反事件(ロッキード事件)
1976年に発覚したロッキード事件は、アメリカの航空機メーカー、ロッキード社が日本の政治家や官僚に賄賂を支払っていたスキャンダルです。この事件で最も有名なのは、元首相の田中角栄が賄賂を受け取ったとして逮捕され、政治資金規正法違反で有罪判決を受けたことです。この事件は、日本政治の腐敗の深刻さを浮き彫りにし、政治改革の必要性を強調することとなりました。
田中角栄氏
リクルート事件
リクルート事件は、1980年代後半に発生した政財界を巻き込んだ贈収賄事件です。リクルート社が、未公開株を政治家、官僚、企業幹部などに有利な条件で提供し、その後の株価上昇によって巨額の利益を得させたことが問題となりました。この事件により、多くの政治家や官僚が辞職に追い込まれ、中曽根康弘内閣の退陣にも繋がったとされています。この事件は、政治とビジネスの不透明な関係を象徴するものとして、日本社会に大きな衝撃を与えました。
金丸事件(金丸信事件)
金丸信事件は、1990年代初頭に発覚した政治資金スキャンダルです。金丸信(当時の自由民主党副総裁)が、建設会社から巨額の資金を受け取っていたことが明らかになりました。これは、建設業界からの政治献金として、または土木工事の受注をめぐる贈収賄として行われたものでした。金丸はこの資金を私的に使用した疑い(税金逃れを含む)が持たれ、最終的に脱税で有罪判決を受けました。この事件は、政治と企業の癒着や、政治資金の透明性の欠如が日本政治の大きな問題であることを浮き彫りにしました。

 佐川急便事件

1993年に発覚したこの事件は、佐川急便が政治家に対して違法な献金を行っていた疑惑が中心です。この事件では、政治資金規正法違反の疑いで複数の政治家が逮捕されました。この事件は、政治と企業間の不透明な金銭のやり取りを国民に知らしめ、政治資金の透明性を高めるきっかけとなりました。
以上の事件では、政治資金のやりとりに明らかに問題があり、また金額も大きく、これに関わった政治家が逮捕されています。

これらに比較すれば、今回の政治資金不記載問題は、かなり軽いものといえます。免許証不携帯程度かどうかは別にして、

これらの事件は、政治資金の透明性を高め、政治家と企業間の不適切な関係を防ぐための法律や規制の強化を促すきっかけとなりました。しかし、依然として政治資金に関する問題は日本政治の敏感なテーマとして残っています。

さらに、政治資金問題は与党議員のそれが強調されますが、野党議員にも問題が指摘さています。

菅直人
菅(かん)直人氏は、2010年から2011年にかけて日本の首相を務めました。その在任中、外国人からの政治献金を受け取っていた問題が浮上しました。日本の政治資金規正法では、外国人や外国企業からの政治献金を禁止しています。この規制は、外国の影響力から日本の政治を保護するために設けられています。これに関して、菅氏は献金の事実を認め、受け取った献金を返還するとともに、公に謝罪しました。
前原誠司
前原誠司氏は民主党(当時)所属の政治家で、2011年に外務大臣を務めていた時期に、外国人からの政治献金が明らかになりました。

日本の政治資金規正法は確かに、政治家や政党が外国人や外国企業から政治献金を受け取ることを禁じています。前原氏は、外国人からの献金を受け取っていた事実が明らかになった後、これを認め、2011年3月に外務大臣を辞任しました。
小沢一郎
小沢一郎氏(当時民主党所属)は、土地取引に関連する政治資金の問題で何度か訴追されました。これは、政治資金収支報告書に記載されていない大金が動いていたことから発覚しました。小沢氏は最終的に無罪判決を受けましたが、この問題は日本政治における政治資金の透明性や管理の重要性を改めて国民に意識させることとなりました。
鳩山由紀夫
鳩山由紀夫元首相は、政治資金収支報告書において、母親からの巨額の個人献金を正しく報告していなかった問題がありました。この問題は、政治資金の透明性に関する議論を呼び起こしました。
辻元清美
辻元清美(立憲民主党)は過去に、政治資金収支報告書において、オフィスの家賃に関する不適切な記載が問題となりました。この問題は、政治資金の適切な管理と透明性に関する重要性を示す事例の一つです。

辻元清美氏

山井和則
山井和則(立憲民主党)は、政治資金収支報告書において、政治活動とは無関係の支出が記載されていた問題が発覚しました。具体的には、飲食店での支出などが政治活動として適切でないと指摘されました。
蓮舫の二重国籍問題と政治資金問題
蓮舫(立憲民主党)は、二重国籍問題とは別に、政治資金の管理に関しても注目されました。彼女の政治資金収支報告書において、特定の支出の詳細が不明確であると指摘されたことがあります。
山尾志桜里(菅野志桜里)
山尾志桜里(当時民進党、後に立憲民主党)は、2017年に政治資金収支報告書に記載されていない出費が発覚しました。これには、政治活動とは関連性が低いとされるバーでの支出が含まれていました。山尾氏は、これらの支出について説明を行い、政治資金の適正な管理を求める声が高まりました。
以上あげたのは、一部に過ぎません、まだまだあります。しかし、朝日をはじめとするマスコミは与党の議員の問題ばかりを強調しています。

この問題の本質は、個々の議員の選挙対策費が莫大にかかることだと思います。現在であれば、インターネットを効果的に用い、選挙活動にあまりお金をかけず、効果的な選挙活動ができるのではないかと思います。さらに、会合への出席による費用が年間数百万円などを法律などで禁じるという手もあると思います。

しかし、これもやり過ぎれば、選挙の意味が薄れてきます。絶対に正しい究極の理想の選挙だけを追い求めていけば、とんでもないことになりかねません。

何から何まで禁じてしまうということになると、それこそ全体主義や独裁国家のようになりかねません。たとえば、北朝鮮では議員の政治資金など問題にはなりません。

北朝鮮には日本でいえは、国会に相当するような最高人民会議がありますが、実質的には労働党一党支配の下での形式的な存在にすぎません。北朝鮮では選挙そのものが承認装置に過ぎず、個々の議員による本来の選挙活動や選挙対策費はほとんど発生していないと考えられます。独裁体制下の見せかけの選挙では、民主的な選挙制度における課題は生じていないといえるでしょう。

北朝鮮最高人民会議

いかなる民主主義国において、政治家や政党が選挙運動を行うためには多額の資金が必要不可欠です。しかし、その資金調達をめぐっては、企業や団体からの寄付、個人の寄付、公的資金など、出入り源の透明性が常に問題視されてきました。

特に大口の寄付は、利権との癒着や不正を生む温床となりかねません。さらに規制を設けても、議員個人の選挙対策費が莫大にのぼるケースも後を絶ちません。このように、資金の流れが不透明化しやすい構造的な要因から、民主主義国においては政治資金問題が完全に解消されることは難しいと考えられています。

重要なのは、可能な限り透明性を確保し、不正や腐敗を未然に防ぐ仕組みを整備することにあります。

結局のところ、民主主義体制においては政治資金に関しては、問題になり続けるということであり、それが全くなくなることはないです。無論、大きな問題になることは避けるべきでしょう。しかし、どんなに透明性や、公明正大性を追求したとしても、問題はある程度残り続けるでしょう。

政治資金問題が全くない体制というのは、決して理想的な民主的な体制とはいえないのです。

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2024年5月15日水曜日

つばさの党、選挙カー追跡 「交通の便妨げる行為」適用も視野に捜査 警視庁―【私の論評】選挙妨害は社会秩序破壊への挑戦、絶対許すな

つばさの党、選挙カー追跡 「交通の便妨げる行為」適用も視野に捜査 警視庁

まとめ
  • 衆議院東京15区の補欠選挙で、「つばさの党」の選挙カーが他陣営の選挙カーを執拗に追跡し、一部陣営が警察署に避難する事態が発生。
  • この追跡行為は選挙活動の自由を妨害するものとして、警視庁が公職選挙法違反の疑いで捜査を進めている。
  • つばさの党の代表と幹部が他陣営を罵声で攻撃するなどの行為も繰り返していた。
  • 警視庁は選挙カーの追跡が有権者に対する情報提供の機会を妨げたと見ており、家宅捜索を実施して証拠品を押収。
  • 選挙カーによる自由妨害での摘発は前例が少なく、捜査は慎重に進められている。
翼の党による選挙妨害


 4月に実施された衆議院東京15区の補欠選挙において、異常な状況が発生した。政治団体「つばさの党」に所属する選挙カーが、他の政党の選挙カーを執拗に追跡し、その結果、複数の陣営が選挙活動の予定を変更し、警察署に避難するという事態に至った。


 この行為は、選挙の自由を著しく妨害するものとして、警視庁捜査2課による捜査が行われている。特に、つばさの党の代表である黒川敦彦氏と党幹部の根本良輔氏を含む数名が、立憲民主党など他の陣営に対して、罵声を浴びせるなどして選挙活動を妨害した。


 警視庁は、この追跡行為が公職選挙法における「自由妨害」と定義される「交通の便を妨げる行為」にあたるとみて、立件に向けた捜査を進めている。追跡を受けた陣営からは110番通報がなされ、城東署や深川署への避難が行われた事例もあり、これらの行為が街頭演説の妨害だけでなく、有権者への情報提供の機会をも妨害したと捜査チームは考えている。


 さらに、警視庁は13日につばさの党本部と黒川氏、根本氏の自宅に対して家宅捜索を実施し、パソコンなど数十点の物品を押収しました。しかし、選挙カーによる追跡という形の自由妨害行為については摘発の前例が乏しく、捜査は関係機関との調整を含め慎重に進められています。


 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事を御覧ください。


【私の論評】選挙妨害は社会秩序破壊への挑戦、絶対許すな

まとめ

  • 令和元年の参院選での選挙妨害事案では、札幌地裁が原告の勝訴を言い渡したが、二審では警察の行為が妥当とされた。
  • 安倍晋三元首相は選挙妨害により、「ステルス遊説」を行うようになった。
  • 選挙妨害は言論の自由への挑戦であり、聴衆の「知る権利」を侵害している。
  • メディアによる選挙妨害の正当化は、民主主義の破壊行為に他ならない。
  • 選挙妨害を正当化する動きは、社会の規律の緩みや分断を助長するものであり、公共の場での秩序や規範を維持することの重要性を、社会全体で共有し、守っていく必要がある。

今回の翼の党による選挙妨害について、よく引き合いに出されるのが、令和元年の参院選で、札幌市で演説中の安倍晋三首相(当時)に「安倍辞めろ」とヤジを飛ばした2人が北海道警の警察官に現場から排除され、損害賠償を求めた裁判です。

この裁判結果には私も不服です。


札幌地裁は第一審で原告側の「勝訴」判決を言い渡しました。原告は大杉雅栄(34)と桃井希生(26)で、北海道に対し、慰謝料660万円の損害賠償請求しました。

ただし、二審札幌高裁では、大杉氏は安倍氏に危害を加える恐れがあったとして、警察官の行為は妥当と認定し、一審札幌地裁の賠償命令を取り消しました。一方、桃井希生(27)については、排除は憲法で保障された表現の自由の侵害に当たるとして55万円の賠償命令を維持しており、桃井は上告できません。

これ以前にも安倍首相に対する選挙妨害は行わていました。

平成29年の東京・秋葉原で行われた安倍晋三元首相の演説中に一部聴衆から「安倍やめろ」「帰れ」との大合唱が起こり、演説をかき消す事態が発生しました。安倍氏はこれらの妨害に対して抗議しましたが、一部新聞はヤジを演説への意見表明として正当化し、安倍氏の反応を批判しました。

これらの論調は多くのテレビメディアにも同調され、結果として安倍氏は選挙妨害者との接触を避けるために遊説場所を事前に告知しない「ステルス遊説」を展開することになりました。さらに、警察の対応も萎縮させる結果となり、安倍氏暗殺事件時にテロリストの取り押さえが遅れる一因となりました。

安倍首相がステルス遊説をすることになった原因を作り出した悪質な選挙妨害

この一連の出来事は、「安倍やめろ」「帰れ」というヤジが単なる意見表明ではなく、演説者に対する恫喝的な命令であり、非言論によって言論をかき消す行為、すなわち言論の自由への挑戦行為であることを示しています。さらに、これは演説を聴きたいとして集まったひとたちの権利を奪うものでもあります。

法の下の平等の原則から、このような妨害行為を警察が排除することは困難ですが、これによって最終的に被害を受けるのは、候補者の政治的主張について知りたいと思っている一般聴衆の「知る権利」です。

この事案を通じて、多くの国民がヤジを正当化するメディアの欺瞞を強く認識すべきですし、非言論による選挙妨害を正当化する言論機関の行動が、実際には民主主義の破壊行為に他ならないことを認識すべきです。

このような身勝手な「表現の自由」の行使は、言論の自由を守るべき使命を持つ言論機関によるものであってはならず、言論の自由の本質と民主主義の根幹を揺るがす問題として、深い反省と対策が求められています。

選挙妨害の正当化は社会に混乱をもたらし、社会の規律の緩みを生じさせかねません。これにより、公共の場でのルールや秩序を守るという共通の認識が損なわれる可能性があります。このような状況は、言論の自由という基本的な権利の誤用につながり、それがさらに社会全体のモラルや規範意識の低下を招くことにもなりかねません。

特に、選挙という民主主義の根幹を成すプロセスにおいて、言論の場が不当に妨害されることが許容されるようになれば、それが「力による支配」や「多数による圧力」といった不健全な社会風潮を助長することにもつながります。このような風潮は、学校や職場など、社会のあらゆる場でのいじめの排除、パワハラ、セクハラ、モラハラ排除といった問題に対する意識の鈍化を引き起こす可能性があります。

米国の暴動

さらに、選挙妨害を正当化する動きが、特定の意見や立場のみが許容されるという排他的な社会を生み出すことにも繋がりかねません。これは、多様性や相互理解といった民主社会の基盤を揺るがすことになり、結果的に社会全体の寛容性の低下や分断を助長することになるでしょう。そうしたことの果には、米国などにみられる暴動が起こる可能性も否定しきれません。

したがって、選挙妨害の正当化は、ただちに社会に混乱をもたらすだけでなく、長期的に見ても社会の規律の緩みやいじめやモラルの崩壊の助長など、さまざまな負の影響を生じさせる可能性が高いと言えます。このため、言論の自由を含む基本的人権を尊重しつつも、公共の場での秩序や規範を維持することの重要性を、社会全体で共有し、守っていく必要があります。

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2024年5月14日火曜日

「リパトリ減税」効果は期待薄 円安対策として注目も…「30万円還元」や「消費税ゼロ」など本格対策からの目くらましだ―【私の論評】リパトリ減税は円高是正に効果なし!為替レートの中長期動向と適切な政策は?

高橋洋一「日本の解き方」

 円安対策として注目されている「リパトリ減税」は、企業や投資家が海外から資金を本国に還流する際の法人税を減税する制度だ。しかし、すでに外国子会社からの配当に関する95%非課税措置があるため、リパトリ減税の実際の対象額は限られ、法人税減収額はせいぜい数千億円程度にとどまる可能性がある。そのため、リパトリ減税の効果はほとんど期待できない。

 本格的な円安対策としては、日本政府が保有する外国為替資金特別会計(外為特会)の「含み益」を国民に還元すべき。円安によって日本の外貨準備の円換算額が増加し、数十兆円の含み益が生じている。この含み益を活用すれば、国民一人当たり20万円から30万円の現金支給が可能になるか、あるいは消費税率を2年程度ゼロにできる。

 歴史的に見ても、円安は日本の経済成長を後押ししてきた。円安のメリットを最大限に享受しているのは日本政府だ。したがって、政府がその利益を国民に還元すれば、円安へのマイナスイメージは和らぐはずだ。リパトリ減税は本格的な対策からの目くらまし策に過ぎず、国民の目をそらすための施策にすぎないようにみえる。

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【私の論評】リパトリ減税は円高是正に効果なし!為替レートの中長期動向と適切な政策は?

まとめ

  • リパトリ減税(リパトリエーション減税)が円高是正に明確な効果があった歴史的事例はない。
  • アメリカ、イギリス、オーストラリア、日本などでも過去に類似策を試みたが、その実効性には議論の余地がある。
  • 民間企業は既に自主的なリパトリエーション(資金還流)を行っている場合があり、政府の減税策の効果には限界がある。
  • リパトリ減税は為替レートに直接影響を与えるものではない。為替レートは中長期的には両国の通貨発行残高比率に収束する。
  • 現状では消費税減税を優先し、補助金支給とバランスを取る政策運営が賢明である。
レパトリ減税で国民はウハウハにならない

リパトリ減税は、正しくはリパトリエーション減税(repatriation tax holiday)です。現状の日本では、これが功を奏して円高が是正されることはないでしょうし、古今東西でこれがはっきり成功したという事例はありません。

米国のレーガン政権時代(1980年代)に実施された「税源浸食防止法」。海外に留保されている企業利益の本国還流を促進するため、一時的な減税措置を講じた。しかし、その実際の効果については明確ではありません。

イギリス(2009年)とオーストラリア(2019年)では、外国子会社から本国への配当に対する軽減税率などの優遇措置を導入しましたが、その効果については見解が分かれています。
 
日本でも過去に類似の政策は試みられたものの、大きな成果は見られなかったとされています。

このように、リパトリ減税自体が大きな成功を収めた先例は見つからず、その実効性については依然として議論が続いている状況と言えます。

また民間企業は、すでに自主的にリパトリエーション(資金の本国還流)を行っている場合があります。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

  • 海外子会社からの配当 海外子会社の利益を、配当金として本社に送金する形でリパトリエーションを行う。
  • 外貨建て資産の売却 海外で保有する外貨建て資産(有価証券など)を売却し、円換算後の資金を国内に持ち帰す。
  • 現地法人の資金調達 海外現地法人が、現地での増資や借入などで調達した資金の一部を本社に送金する。

こうした自主的なリパトリエーションは、企業の資金ニーズや為替リスク回避の観点から、日常的に一定程度行われていると考えられます。たとえば、過去に北朝鮮から頻繁にミサイルが発射されたときに、円安ではなく、円高になったことがありますが、これは企業のよる自主的なリパトリがあったのではないかといわれています。

したがって、政府によるリパトリ減税はあくまでインセンティブ付与の意味合いが強く、民間企業がすでにリパトリエーションを実施していることは事実です。減税があっても、リパトリを行う資金が当初から少なければ、大きな効果は期待できません。

つまり、リパトリ減税の効果には一定の限界があり、民間企業の実態を踏まえた上で、政策を検討する必要があることが分かります。

さらに、リパトリ減税が円安是正につながるという考えには、為替という観点からみても妥当性はありません。

リパトリ減税は、企業の海外利益や資金を国内に還流させることを目的としていますが、それ自体は為替レートに直接影響を与えるものではありません。

そもそも、為替レートそのものは、中長期的以下の式で決まるものです。

世界に流通している円の総量÷世界に流通しているドルの総量(円/ドル)

中長期的な為替レートの動きは、それぞれの通貨の発行残高や流通量に収束していく傾向があると考えられています。これは「購買力平価説」と呼ばれる理論に基づいています。

購買力平価説の基本的な考え方は、2つの通貨の為替レートは、それぞれの国の物価水準を反映して決まるというものです。つまり、長期的には為替レートは以下の式に収束するとされています。

為替レート(円/ドル) = (日本の物価水準) / (米国の物価水準)

この式を変形すると、為替レート(円/ドル) = (日本の物価水準) / (米国の物価水準)

≒ (日本の通貨供給量) / (米国の通貨供給量) ≒ (日本の通貨発行残高) / (米国の通貨発行残高)

となり、結局のところ、為替レートは両国の通貨発行残高の比率、つまり「世界に流通している円の総量÷世界に流通しているドルの総量」に収束していくと考えられています。

中長期的な為替レートの動きは、この比率の方向に向かう傾向があると言えます。ただし、これは理論的な見方であり、実際の為替レートは短期的には様々な要因で変動します。

購買力平価説は理論モデルの1つであり、実際の為替レートは短期的には様々な要因(金利、経常収支、投機的な資金の動きなど)で変動します。中長期的なトレンドに収束するまでには調整の時間がかかります。

一時的な円高介入や減税措置などの政策は、短期的には為替レートに影響を与える可能性があります。しかし、中長期的に見れば、そうした一時的な政策効果は徐々に薄れ、為替レートは結局のところ、両通貨の発行残高の比率に収束していくと理解できます。

これは購買力平価説に基づく理論的な見方ですが、実際の為替レートの動きを中長期的に観察すると、この理論が概ね当てはまることが分かります。一時的な乖離はあっても、最終的には通貨供給量の比率に収束する傾向が見て取れます。

円高や為替を巡っては、いわゆる「とんでも理論」がマスコミ等で流布されていますが、それは上のツイートと同じくらい馬鹿げたものです。

やはり、高橋洋一氏が言うように、円高対策としてのリパトリ減税は、単なる目くらましすぎません。政府が実施すべきは、このような効果がはっきりしない政策よりも、外貨準備の円換算額が増加し、数十兆円の含み益を活用して、消費税減税をすべきです。

総合的に判断すれば、現状は個人消費の下支えが急務と考えられることから、今こそ消費税減税を優先すべきです。ただし、減税による減収分の財源確保は先にも述べたように円安による税収増や含み益があります。

当面の個人消費喚起の観点から、消費税減税を優先し、可能な範囲で補助金支給も組み合わせる、バランスの取れた政策運営が賢明と考えられます。

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2024年5月13日月曜日

ロシアでバスが橋から転落、川へ真っ逆さま 乗客7人死亡―【私の論評】ロシアで深刻化する人手不足問題、さらなる悲劇を招くのか?

ロシアでバスが橋から転落、川へ真っ逆さま 乗客7人死亡


ロシアのサンクトペテルブルクで5月10日、バスが橋の欄干を突き破って川に転落し、乗客7人が死亡した。監視カメラの映像には、転落する前にバスが大きくハンドルを切る様子が映っていた。バスは完全に水没し、救急隊が出動。現地当局は、救助のため川に飛び込んだ通行人らに感謝の意を表した。国営ロシア通信(RIA)によると、運転手は拘束された(映像のみ)。

【私の論評】ロシアで深刻化する人手不足問題、さらなる悲劇を招くのか?

  • 2024年5月10日、ロシア・サンクトペテルブルクでバスが川に転落。死者7人、重軽傷者9人。
  • 運転手は拘束、原因調査中。
  • ウクライナ戦争による人手不足、運転手の疲労などが事故につながった可能性。
  • ロシア全体で人手不足が深刻化、今後も事故の危険性あり。
  • 戦争長期化で人手不足悪化、社会インフラにも影響。

事故を起こしたバスの運転手は生きており現地警察に拘束され、事故原因についての捜査が開始されています。今のところ、事故原因については全く不明。

しかし、ロシアメディアの「Известия」(Izvestia:イズベスチヤ)に運転手の妻が述べた気になるコメントが掲載されていました。

イズベスチヤの掲載記事【2024年5月11日02:05掲載】
サンクトペテルブルクでの事故当時のバスの映像が公開された

(抜粋)

バスの運転手は拘束されたが、妻の報告によると、夫は健康状態に不満を漏らしたことはなく、悲劇に巻き込まれる前は20時間の勤務を終えて出勤していたという。https://iz.ru/1694870/2024-05-11/poiavilis-kadry-iz-salona-avtobusa-v-moment-dtp-v-peterburge
イズベスチヤの掲載内容は、運転手の妻によると夫は健康状態に問題は無かったのですが、20時間という長時間勤務のあとの出勤日に事故を起こしたというもの。他のメディアでも同様の内容に加えて、ほとんど休日の無かった夫(バスの運転手)はマネージャーに朝のシフトを強制されたという情報も報道されています。

内容の信憑性に加えて、長時間労働が事実だとしても事故原因を断定するものではありませんが、不眠不休でバスを運転する劣悪な労働環境が事故の背景にあったのかもしれません。

ウクライナ戦争の長期化により、ロシアでは軍事関連の需要が高まっています。この需要の高まりにより、その結果、一般の運転手不足などの人手不足が生じている可能性があります。一方、ウクライナ軍も戦闘員の不足に直面しており、来年の戦争継続のためには50万人もの新兵が必要だと指摘されています。

ロシアの対独戦勝記念日を祝う軍事パレードに登場した戦車は、第2次世界大戦で使用された旧ソ連のT-34戦車

ロシアでは軍事関連の需要の高まりにより、一般の運転手などの人手不足が生じている可能性があります。このような人手不足が、事故の背景にある運転手の疲労や不注意、整備不足、監督不足などの要因につながっている可能性が考えられます。

つまり、ロシアのサンクトペテルブルクでのバス事故の背景には、ウクライナ戦争の長期化による人手不足の影響が考えられるのです。戦争の影響は両国の人的資源に深刻な影響を及ぼしており、事故の背景にもこうした要因が関係している可能性があります。今後、戦争の長期化が各国の社会インフラにも影響を及ぼすことが懸念されます。 

ロシア全体で今年不足している労働者の数は約480万人に上り、来年も深刻な不足状態が続くと予想されています。

ロシアでは、人手不足に伴い、適切な点検や訓練が行われていないことが原因で、深刻な事故が発生しています。2023年3月のシェレメーチェボ空港での航空機事故、6月のクラスノダール地方での鉄道事故(写真下)、9月のモスクワ郊外の建設現場での重機事故など、人手不足が安全面での懸念を高めています。


人材採用会社の調査では、賃金が基礎的支出を下回っていると回答したロシア人が過去2年で20%増加し、約半数に達したことが分かっています。

深刻な人手不足であっても賃金の上昇が抑えられている傾向にあります。ロシアの法定最低賃金は2007年9月以降、月2,300ルーブル(約10,500円)で推移しています。

以下にロシアの物価の推移を掲載しておきます。

   ロシア 消費者物価指数(前年同月比)四半期推移 

四半期前年同月比食品非食品サービス
2021年12月~2022年2月9.40%11.23%8.13%8.12%
2022年3月~5月18.12%23.02%14.92%14.22%
2022年6月~8月14.70%18.12%13.04%12.38%
2022年9月~11月11.65%14.43%10.27%9.90%
2022年12月~2023年2月9.06%11.20%8.26%7.98%
2023年3月~5月17.22%21.40%14.88%14.38%
2023年6月~8月13.94%17.22%12.65%11.78%
2023年9月~11月12.09%14.62%10.80%10.51%
2023年12月~2024年2月8.55%10.89%7.78%7.42%
Investing.com ロシア 消費者物価指数(前年比): https://www.investing.com/economic-calendar/national-cpi-992
ニッセイ基礎研究所 ロシアの物価状況: https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=77583?site=nli
物価高のなかロシアでは人手不足が深刻化し、賃金上昇圧力が高まっている一方で、賃金上昇が抑えられている状況にあります。今後の動向に注目していく必要があります。

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2024年5月12日日曜日

中国企業が「世論工作システム」開発か、Xアカウントを乗っ取り意見投稿…ネットに資料流出―【私の論評】世論工作の影響に警鐘:あなたと周りの人もその標的に

中国企業が「世論工作システム」開発か、Xアカウントを乗っ取り意見投稿…ネットに資料流出

まとめ
  • 中国の安洵信息技術有限公司が「ツイッター世論誘導統制システム」を開発し、Xアカウントを不正に乗っ取って中国当局への有利な世論操作がされていた疑いがある
  • 同社の内部資料約20ページがネットに流出し、乗っ取り手口などが記載されている
  • 同社は中国当局、特に公安機関等と密接な取引関係があり、世論工作ツールを販売している
  • 台湾のサイバー企業は「本物の文書」と判断し、中国のSNS世論工作の「初の証拠」と指摘
  • 日本政府も資料を入手し、中国の対外世論工作との関連を調査中

安洵信息技術有限公司

 中国の安洵信息技術有限公司が開発したとされる「ツイッター世論誘導統制システム」の内部資料が、インターネット上に流出していたことがわかった。この約20ページの資料では、旧ツイッターのXアカウントに不正なURLを送ることで乗っ取り、ダイレクトメッセージを盗み見たり、中国当局に都合のよい投稿をさせることができると記載されている。

 資料によると、同システムは「好ましくない反動的な世論を検知する」ことを目的に構築され、「社会の安定には、公安機関が世論をコントロールすることが極めて重要」と明記されていた。近年、他人に乗っ取られたとみられるXアカウントが、中国語や日本語で中国の反体制派を批判するケースが相次いでおり、このシステムが使われている可能性があるという。

 安洵信息技術は2010年に設立された企業で、国家安全省からIT製品の納入業者に選定されるなど、中国当局と密接な関係にあった。資料流出と合わせて公開された約580ファイルには、同社が地方の公安当局と契約を結び、通信アプリ向けの世論工作ツールを販売していた記録が残されていた。

 台湾のサイバーセキュリティ企業「TeamT5」は、資料に記載された工作手口などから「本物の流出文書と確信している」と分析。さらに「中国が世論工作のため西側諸国のSNSを利用する意志と能力を持っていることを示す初の証拠だ」と指摘している。

 日本政府の情報機関も、流出資料を入手し本物と判断。分析を進めるとともに、中国の対外世論工作との関連を詳しく調査している。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】世論工作の影響に警鐘:あなたや周りの人もその標的

まとめ
  • 中国による世論工作の手口は、大きく分けて、大量のネット工作員の投入やボットアカウント、トロールアカウントの利用、さらにはSNS投稿の監視と削除などが挙げられる。
  • 民間企業への世論工作の委託やコメント操作アプリの利用も行われている。
  • 他国でも同様の動きが見られ、ロシアの「インターネット研究所(IRI)」やトルコ政府の「アストロターフィング」キャンペーン、イランのサイバー軍の活動が挙げられる。
  • 世論操作に対処するためには、情報源の確認や正確性の検証、バイアスに気をつけることが重要である。
  • 自らの政治的・経済的スタンスが不明確な人々は、世論操作の標的になりやすく、その対策としては主体的な判断力を養い、多様な情報源から情報を検証すべきである
中国による世論工作の手口について、テクノロジーツールだけでなく、人為的な工作も含めてより幅広く事例を挙げます。


1. 「五毛党」と呼ばれる大量のネット工作員の投入
中国政府は、大量のネット工作員を雇い、インターネット上で政府の主張を支持する投稿を行ったり、批判的な意見を攻撃したりすることで、世論を誘導しようとしているとわれています。2010年代には20万人以上が動員されていたと推定されています。
2. ボットアカウントやトロールアカウントの利用
政治的プロパガンダの拡散などを目的に、大量の自動投稿アカウント(ボット)やトロール(誹謗中傷を行うアカウント)を作成し、世論操作に利用していると指摘されています。
3. 検閲ツールを使ったSNS投稿の監視と削除
Facebook、Twitter、Instagramなどの海外SNSで中国批判的な投稿を自動で監視し、削除させるための検閲ツールを開発・利用していると報じられています。
4. 民間企業への世論工作委託
中国政府は、一部の世論工作を民間のIT企業に委託し、専門的なツール開発やネット工作員の雇用などを行わせているとされています。今回の安洵信息技術の事例がこれに当たります。
5. コメント操作アプリの利用
動画サイトなどで、コメント操作アプリを使って人気コメントを不正に操作し、政府に都合の良い世論を作り出そうとする動きが確認されています。  
6. SNSアカウントのハイジャック
不正なリンクを開かせることで、他人のSNSアカウントを乗っ取り、ダイレクトメッセージの盗聴や政府に都合の良い投稿を行う手口も報告されています。
このように、中国当局は多様な手段を組み合わせて、インターネット上の世論をコントロールしようとしていると考えられています。

これは、中国以外の国々でも行われています。

ロシアでは、政府資金を受けた「インターネット研究所(IRI)」が、ソーシャルメディア上での情報拡散や議論に影響を与えるツールを開発。オンライン世論を監視し操作することが目的とされているとされています。

トルコ政府は、ソーシャルメディアを監視し、偽アカウントから政府支持の投稿を行う「アストロターフィング」キャンペーンを実施。都合のいい情報を拡散させようとしているとされています。

イランのサイバー軍も、偽アカウントを用いて虚偽情報を拡散したり、反体制派を攻撃したりするなど、ソーシャルメディア上での世論操作ツールを活用しているとされています。

このように、中国に加えて、ロシア、トルコ、イランなど他国でも、政府や特定組織がソーシャルメディアを利用して世論を操作する試みがなされており、偽情報に惑わされないよう注意が必要です。ただ、これらはいままでは、おそらく正しいとはみられていたものの、推測の域にとどまっていました。

ネットに流出した「世論工作システム」の資料とみられる文書の表紙

しかし今回の、資料流出はこれが本物であれは、中国当局の関与を強く示す内部資料が初めて現われたということになります。台湾の専門家も「中国によるSNS世論工作の初の証拠」と指摘しているとおり、これまでの疑惑を裏付ける重要な一次資料となり得るのです。

ただし、資料の完全な信頼性は未確認です。日本政府が資料を精査し、本物と判断すれば、中国の世論工作の実態が明らかになる極めて重要な証拠となるでしょう。

ソーシャルメディア上での世論操作ツールに惑わされないためには、以下の点に注意することが重要です。
  • 情報の発信元を確認する 投稿者のアカウントが本物かどうか、信頼できる発信源からの情報かどうかを確認します。偽アカウントやボットアカウントからの投稿には注意が必要です。実在の人物や組織による発信であるかを確認すべきです。匿名(個人、組織)アカウントによる発信は、一部を除いて著しく信憑性は劣るものとみなすべきでしょう。
  • 情報の正確性を検証する 投稿内容が事実に基づいているか、根拠となる情報源が明記されているかどうかを確認します。デマやフェイクニュースに惑わされないよう注意深く内容を吟味する必要があります。
  • バイアスに気をつける 特定の政治的立場や主張を支持する内容に偏りがないか、バイアスがかかっていないかに注意を払います。客観性や公平性に欠ける投稿は慎重に評価する必要があります。
  • 批判的に考える 投稿内容を鵜呑みにせず、常に批判的な視点を持ち、自分で考え、判断することが大切です。単に人気コメントや拡散されている投稿に惑わされないようにしましょう。
  • 信頼できる情報源に頼る 政府機関や専門家、権威あるメディアなど、信頼できる情報源からの情報を確認し、参考にすることをおすすめします。
特に、自らの政治的・経済的スタンスや価値観が確固としていない人(軸がはっきりしていない人)は、ソーシャルメディア上の世論操作の標的になりやすいです。理由は以下の通りです。

1. 主体的な判断力が乏しい
自らの軸がはっきりしていない人は、様々な情報に惑わされやすく、主体的に情報を評価し、判断する力が弱い傾向にあります。操作されやすい土壌となってしまいます。
2. 一貫性のある考え方を持っていない
確固たる信念や一貫したスタンスがないため、ごく一時的な影響で簡単に意見が動転してしまう可能性があります。世論操作の影響を受けやすくなります。
3. 多様な情報源から検証しない
自らの価値観が確立していないと、情報を偏りなく収集し、様々な視点から検証する態度に欠ける場合があります。偽情報に惑わされやすくなります。
4. 大勢に流される
自己主張が曖昧だと、大勢の流れに身を任せてしまいがちです。世論の訴えかけに惑わされ、操作に加担してしまう危険性が高くなります。
このように、自らの価値観や判断基準が明確でない人は、世論操作の標的になりがちです。政治・経済問題に関して主体的に考え、自らの軸を確立することが、偽情報や世論誘導に惑わされないための大切な土台となるでしょう。

ソーシャルメディアは世論操作の標的になりやすい環境です。常に注意を払い、冷静に情報を評価することが、誤った影響を受けずに済む賢明な対処法となるでしょう。

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2024年5月11日土曜日

セキュリティー・クリアランス創設 国際ビジネス機会の拡大へ―【私の論評】日本セキュリティー・クリアランス制度の欠陥とその国際的影響

セキュリティー・クリアランス創設 国際ビジネス機会の拡大へ

まとめ
  • 経済安全保障上の機密情報アクセスを制限する「セキュリティー・クリアランス制度」導入法が成立 - 対象者限定、事前確認、漏えい罰則
  • 政府は情報保全強化と日本企業の国際ビジネス機会拡大を制度の意義として強調

 経済安全保障上の機密情報を扱える人を制限する「セキュリティー・クリアランス制度」を導入する法律が、参議院本会議で可決・成立した。

 この制度は、日本の安全保障に影響を与えかねない「重要経済安保情報」を指定し、アクセスできる人を民間企業の従業員も含めて限定する。対象者の信頼性を事前に確認し、情報漏えいには刑罰を科す。政府は日本企業の国際ビジネス機会拡大など、制度の意義を強調している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本セキュリティー・クリアランス制度の欠陥とその国際的影響

まとめ
  • セキュリティー・クリアランス制度の導入法には、要職者の適性評価免除と性行動審査の不存在という2つの大きな欠陥がある。
  • これらの欠陥は、政治的妥協、制度導入の緊急性、権力者の利権保護の結果として生じたとみられる。
  • 欠陥があるにも関わらず、野党やマスコミからの大きな反発がなかった背景には、重大な欠陥の隠蔽を企図した勢力の存在がある可能性がある。
  • この制度が不備を抱えたまま放置されれば、日本は同盟国からの信頼を失い、機密情報共有の制限や経済的な被害を受ける可能性がある。
  • 安全保障環境の変化に対応し、同盟国からの信頼を維持するためには、情報管理の重要性への認識を改め、より厳格な制度と運用を早急に確立する必要がある。

今回の「セキュリティー・クリアランス制度」導入法には、2点制度の欠陥として指摘されている事柄があります。

1つ目の欠陥は、一定の要職者(国務大臣、副大臣など)が適性評価の対象外となる規定があり、これらの要職者が適切に審査されずにアクセス権を得てしまう可能性があることです。

2つ目は、適性評価の審査項目に"性行動"が含まれていないため、外国勢力によるハニートラップ攻撃の危険性が考慮されていないという点です。米国のSC制度では性行動も審査されますが、日本のSC法案ではそれがなく、重要情報へのアクセスリスクが指摘されています。

こうした指摘はSC制度の運用における重大な課題と言えそうです。

この2つの欠陥を抱えたままSC制度法が制定された背景としては、以下のような理由が考えられます。
  • 政治的な妥協の結果 一定の要職者を適性評価から外す規定や、性行動を審査対象外とした点は、制度導入に反対する政治勢力との妥協の産物だった可能性があります。完全な制度よりも何らかの制度を導入することを優先した政治決着があったのかもしれません。
  • 制度導入の緊急性 経済安全保障上の機密情報管理の必要性が高まる中、制度導入を先送りするリスクを避けるため、一定の欠陥は認めつつも先に制度を立ち上げ、課題は運用を通じて改善していく、という考え方があったかもしれません。
権力者の利権保護 要職者が適性評価を免除される規定は、将来的に自分たちが恩恵を受けられるよう、権力者サイドが確保した暗黙の了解事項だった可能性もあります。

完全な制度は難しくとも、まずは導入することに重きを置いた結果、こうした欠陥は避けられなかったという側面もあるのではないかと考えられます。

日本のセキュリティークリアランス制度が2つの大きな欠陥、つまり要職者の適性評価免除と性行動審査の不存在を抱えたままであることは、海外、特に同盟国から批判的に見られるしょう。

まず制度の実効性自体に疑問が持たれるでしょう。要職者が適性評価の対象外となれば、機密情報の取り扱いに大きな穴が開きますし、性的誘惑を利用したハニートラップ対策が全くなされていないため、スパイ活動への抵抗力が低いと指摘されるでしょう。

さらに、経済安全保障を重視するという日本の姿勢と、この不備だらけの制度との間に大きな矛盾があると見なされ、日本の本気度が疑われかねないです。その結果、同盟国との機密情報の共有において、日本側の情報取り扱いが信頼できるか疑問視される可能性が高いです。

そのため、日本に対しては制度の抜本的な見直しと強化が求められ、改善が進まなければ、同盟国から機密情報の共有を制限される可能性すらあります。機密情報の適切な取り扱いは極めて重要であり、この2つの欠陥は看過できるものではありません。日本は同盟国から厳しい視線を受け、制度改善への強い期待が寄せられることになるでしょう。

日本はファイブアイズとの情報共有も難しくなる可能性がある

経済安全保障担当大臣の高市早苗氏は、「セキュリティー・クリアランス制度」の導入に向けた法案の立案を主導しました。高市大臣は、参議院での審議でも法案の説明と質疑応答に立っており、内閣府副大臣、国家安全保障局長、内閣官房副長官補らが検討に参加しています。有識者会議での議論も予定されており、政府全体で取り組んでいる重要な政策です。

にもかかわらず、政治的な圧力や利害関係の影響が大きく、この欠陥を内包したまま法案をせいりつせざるを得なかったとみられます。この法案に関して、野党やマスコミからの反発はほとんどありませんてした。

大きな反発がなかった背景には、2つの重大な欠陥を事前に認識しながら、それらを意図的に問題視せず法制化を図ろうとした勢力の存在があった可能性があります。一部の政治勢力が将来的な要職者監視の回避や利権の温存のために、免除規定を盛り込み、ハニートラップ対策を不要と判断し制度設計から外した可能性があります。

さらに、野党や報道側にも制度の実態を十分把握できていない部分があり、大きな問題視がされなかったこともあるかもしれません。つまり、重大な欠陥の隠蔽を企図した勢力の動きが、大々的な反発を封じ込めた一因となった可能性が考えられます。


この制度の抜本的な改善が行われない限り、日本は経済・安全保障の両面で、同盟国の信頼を失い、深刻な被害を被る可能性があると言えるでしょう。ただし、いままでなかった制度が成立したわけですから、これは心もとないものの、一歩前進でしょう。今後は、この法律の早期改正を目指すべきです。

日本が情報管理に寛容であった背景には、平和国家として脅威を意識してこなかったこと、過度の監視や制裁を好まない文化があったこと、官民で情報共有が不足しリスクが正しく認識されていなかったことなどが考えられます。

しかし、安全保障環境の変化を受けて、同盟国からの信頼を維持するためにも、情報管理の重要性への認識を改め、より厳格な制度と運用を早急に確立する必要があります。

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2024年5月10日金曜日

横須賀基地の「いずも」ドローン撮影、「本物」の可能性 防衛省が分析公表―【私の論評】ドローン脅威とますます高まる対潜戦の重要性 - 浮き彫りにされた現代海戦の二つの側面

横須賀基地の「いずも」ドローン撮影、「本物」の可能性 防衛省が分析公表

まとめ
  • 自衛隊の横須賀基地で護衛艦「いずも」をドローンで撮影した可能性が高い動画がSNSで拡散され、防衛省はその分析結果を公表した。
  • 自衛隊基地でのドローン無許可飛行は法律で禁止されており、防衛省は万が一の危害に備え、警備を万全に期すとしている。
護衛艦「いずも」をドローンで撮影した可能性があるとされた動画の一場面(投稿されたXから)

 海上自衛隊横須賀基地(横須賀市)に停泊中のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」をドローンで撮影したような動画が交流サイト(SNS)で拡散した問題で、防衛省は9日、実際に撮影されたものである可能性が高いとする分析結果を公表した。

 自衛隊の基地などでドローンを無許可で飛行させることは法律で禁止されている。防衛省はドローンによって危害が加えられた場合は日本の防衛に重大な支障を生じかねないとして警備に万全を期すとしている。

【私の論評】ドローン脅威とますます高まる対潜戦の重要性 - 浮き彫りにされた現代海戦の二つの側面

まとめ
  • 現代の海戦では、ステルス性に優れた潜水艦が重要な役割を担い、水上艦艇はドローン、ミサイルや潜水艦から攻撃を受ける標的に過ぎなくなりつつある。
  • 中国は近年潜水艦の数と質を向上させているが、日本は優れた対潜戦能力を有し、中国潜水艦の活動を探知・公表してきた実績がある。
  • 一方で中国側は、日本の水上艦艇をドローンで撮影したことをSNSで公開するか、公開されたそれを利用してドローン脅威を示唆している。
  • 日本としては、対潜戦能力に加え、ドローン対策や水上艦の防護能力の強化が課題となっている。
  • 今回の事案は、水上艦艇のドローンに対する脆弱性と、対潜戦の重要性増大という、現代海戦をめぐる両側面を浮き彫りにした

現代の海戦における潜水艦の重要性は非常に高くなっています。現代では、水上艦艇は、監視衛星、レーダー等によって簡単に探知することができます。

しかし、ステルス性に優れた潜水艦は、これを発見することは困難であり、敵の艦船や潜水艦を追跡し、必要に応じて攻撃でき、大きな脅威となります。一方、水上艦艇はミサイル、水中・海中ドローン、潜水艦から攻撃を受ける危険性が高まっており、大きな標的に過ぎなくなりつつあります。

これは、フォークランド紛争の頃からいわれていたことであり、当時からもはや水上艦艇は、ミサイルの標的にすぎなくなったといわれるようになりました。確かに、空母や他の艦艇には防空システムが搭載されていますが、ミサイルによる飽和攻撃を受ければ、これを防ぎきることはできません。

フォークランド紛争で撃沈された英国の艦艇

最近では、ミサイルよりもさらに安価な空中・水中ドローンによる大量飽和攻撃を受ければ、水上艦艇がこれに対処するのは困難です。

だからこそ、現在の海戦では、潜水艦と対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warfare)が強いほうが、有利なのです。

中国が製造する潜水艦は、改善されつつあるとはいえ未だステルス性には優れおらず、そのため発見されやすいです。ただし、ステルス性に優れていない潜水艦であっても、動力を使わずに潮流に乗って移動している間は、発見は難しいです。

こうした潮流を探すために、中国は日本の排他的経済水域などにブイを設置したり、測量船などを運用して海洋調査を継続しているとみられます。

中国は近年、潜水艦の数を大幅に増強しており、その質も向上しつつあります。しかし、潜水艦のステルス性や対潜哨戒能力や対潜戦能力については、まだ日本や米国に遅れを取っていると指摘されています。

日本は、対潜哨戒力がすぐれているため、中国の潜水艦を探知できる可能性は高いです。実際に、過去には中国の潜水艦が日本の排他的水域に入って航行したことを何度か公表したことがあります。

  • 2004年11月: 中国の潜水艦が日本の排他的経済水域(EEZ)に入り、紀伊半島沖で航行したことが報告されました。
  • 2006年2月: 中国の潜水艦が再び日本のEEZに入り、鹿児島県沖で航行していたことが報告されました。
  • 2018年1月:中国の艦艇・潜水艦が尖閣諸島の接続水域を航行

これらの事件は、日本の対潜哨戒能力が中国の潜水艦を探知することができることを示すものです。しかも潜水艦の動向に関して公表することは、攻撃能力や探知能力を知られる可能性があるということで、避けるのが普通ですが、これをわざわざ公表したというのは、防衛省の自信のあらわれとみられます。

日本が中国の潜水艦を発見し報道されることはあっても、中国ではそのようなことはありません。もし、中国側に優れた探知能力があれば、たとえば南シナ海やなどの中国軍基地の近くで日米の潜水艦などを発見した場合、これを公表するかもしれません。

中国の近海は浅くて、ここで日米の潜水艦が情報収集活動を行うことは難しいですが、南シナ海は水深は深く、ここには日米を含め各国の潜水艦が活動しているとみられています。しかし、そのようなニュースは未だにありません。これは、そもそも発見できていないか、自らの探知能力を知られたくないという中国側の事情があるとみられます。

こうした背景から、中国側では日本の護衛艦をドローンで撮影したことがニュースになるといった事態が生じているのだと考えられます。無論、これはSNSに掲載されただけのようですが、中国政府はこれを黙認しているということです。それは、合法的な手段で撮影されたものではないからでしょう。

ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」には、様々な用途があります。そのうち対潜哨戒と、対潜水艦戦は重要な用途です。先日対潜哨戒訓練にあたっていた海自のヘリコプターが墜落しましたが、「いずも」搭載のヘリコプターも対潜哨戒や対潜水艦戦の任務を担っています。

中国側としては、ドローンの脅威があることを日本側に知らしめるための政治的メッセージとして、利用している可能性があります。また、中国はドローンを使って重要施設を攻撃したり、情報を収集したりする可能性があります。ドローンの飛行ルートや操縦者の特定、さらには電波妨害などの対策を講じる必要があるでしょう。

ドローンの飽和攻撃の想像図

日本としては、既存の潜水艦や対潜水艦戦の能力を高めるだけではなく、ドローンを探知する能力やこれを攻撃する能力を高める必要があるでしょう。

また、中国が潜水艦の増強に力を入れている背景には、米国の海洋支配力に対抗する意図があると考えられています。南シナ海や東シナ海での現状変更の試みに加え、台湾有事への備えとしても潜水艦の重要性は高まっているのです。

つまり、今回の事案は、水上艦艇のドローンに対する脆弱性と、潜水艦の重要性増大という、現代海戦をめぐる両側面を浮き彫りにしたと言えるでしょう。日本としては、この問題をきっかけに、さらに領海・排他的経済水域の防衛能力を再検討し、強化することが求められています。

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