2024年7月7日日曜日

<正論>「太平洋戦争」か「大東亜戦争」か―【私の論評】大東亜戦争vs太平洋戦争:日本の歴史認識と呼称の重要性を探る

<正論>「太平洋戦争」か「大東亜戦争」か 

東京大学名誉教授・平川祐弘

まとめ
  • 戦時中の日本政府は「大東亜戦争」の呼称を公式採用したが、戦後の占領軍による「太平洋戦争」呼称が強制されるようになった
  • 「太平洋戦争」と「大東亜戦争」両面の存在しているし、 地理的にも太平洋以外での戦闘(ビルマ、マレー、インド洋など)
  • 特定の立場に偏らない見方が重要であり、日本の軍部には責任はあるものの、東京裁判や原爆投下により立場が逆転した面は否めない
  • 当時の日本は「反帝国主義的帝国主義」と位置づけることができ、デモクラシー対ファシズムという単純な図式の批判はすべきでない
  • 皇室のインドネシア訪問では、脱植民地のためインドネシア将兵と共に戦って戦死した日本人将兵の墓に参られ、「大東亜戦争」の側面の公的認知され再評価されている
東京大学名誉教授・平川祐弘氏

 昭和期の戦争の呼称について、「太平洋戦争」と「大東亜戦争」という二つの名称をめぐる議論が続いている。戦時中の1941年12月12日、日本政府は閣議で「大東亜戦争」を公式名称として採用した。しかし、戦後、占領軍によって「大東亜戦争」の使用が禁止され、「太平洋戦争」の使用が強制された。

 筆者は、この戦争には「太平洋戦争」と「大東亜戦争」の両面があり、単一の呼称では全体を捉えきれないと考えている。例えば、日本が英国と戦ったビルマやマレー、インド洋などの戦場は地理的に太平洋とは呼べない。戦争の呼称は単なる言葉の問題ではなく、政治的意味合いを持ち、歴史認識に大きな影響を与える。

 筆者は、特定の国や立場に偏ることなく、複眼的な歴史観を持つことの重要性であると考える。東京裁判については「勝者の裁判」であるが、同時に日本軍部の責任もある。特に、原爆投下に関しては重大であり、これによって戦争の善悪の立場が逆転したといえる。

 戦後の歴史認識については、デモクラシー対ファシズムという単純な図式ですませられるものではなく、日本を「反帝国主義的帝国主義」の国と位置づけられる。また、「慰安婦」問題や日本軍の残虐行為に関する主張の中には誇張がある。

 最近の動向として、天皇皇后両陛下のインドネシア訪問を例に挙げ、日本の脱植民地化への貢献が公的にも認知されつつある。これは、戦後長く抑圧されてきた「大東亜戦争」の側面が再評価されているといえる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】大東亜戦争vs太平洋戦争:日本の歴史認識と呼称の重要性を探る

まとめ
  • 米国では1846-1848年のメキシコ・アメリカ戦争を「太平洋戦争」と呼んでいた歴史がある。
  • 戦後、日本に「太平洋戦争」という呼称が強制された背景には、「大東亜戦争」の正当化を避け、国際的認識との整合性を図る意図があった。
  • 「大東亜戦争」という呼称は、日本の戦争目的や理念、アジアにおける日本の役割を反映している。
  • 米国の保守派は、自国の歴史を自国の視点から捉えることの重要性を強調し、日本の文脈では「大東亜戦争」呼称の使用を支持する可能性がある。
  • 日本独自の歴史観を保持することは国民の歴史理解と誇りの醸成につながるため、「大東亜戦争」という呼称を用いるべき

米国の歴史には、通常「太平洋戦争」と呼ばれる第二次世界大戦中の日米戦争とは別に、もう一つの「太平洋戦争」が存在します。これは1846年から1848年にかけて行われたメキシコ・アメリカ戦争を指します。

この戦争は、アメリカ合衆国とメキシコ合衆国の間で行われ、テキサス併合や西部への領土拡張を巡る両国の対立が主な原因でした。1846年5月に始まり、1848年2月まで続いたこの戦争は、アメリカの勝利に終わりました。その結果、グアダルーペ・イダルゴ条約が締結され、アメリカはカリフォルニアやニューメキシコなど、現在の南西部の大部分を獲得することとなりました。


この戦争は「メキシコ・アメリカ戦争」や「米墨戦争」とも呼ばれますが、当時のアメリカでは「太平洋戦争」という呼称も使用されました。これは、カリフォルニアなど太平洋沿岸地域の獲得を目指した戦争だったためです。

この19世紀の「太平洋戦争」は、アメリカの領土拡張政策(マニフェスト・デスティニー)の一環として行われ、アメリカの国土を大きく拡大させる結果となりました。しかし、現代の米国では第二次世界大戦中の日米戦争を指して「太平洋戦争」と呼ぶことが一般的となっているため、この19世紀の戦争を「太平洋戦争」と呼ぶことは稀になっています。

では、なぜ米国には過去に「太平洋戦争」という呼称があったにもかかわらず、日本に「太平洋戦争」という呼称を強制したのでしょうか。

「太平洋戦争」という呼称が日本に強制された背景には、複数の要因が絡み合っています。まず、「大東亜戦争」という呼称には日本の侵略戦争を正当化する意味合いがあると捉えられたため、より中立的な立場を取るために「太平洋戦争」という呼称が選ばれました。これは同時に、日本の戦争責任を明確にし、侵略戦争の正当化を防ぐ意図もあったと考えられます。

また、「太平洋戦争」(Pacific War)は英語圏で広く使用されていた呼称であり、国際的な認識との整合性を図る意図もあったでしょう。さらに、戦前の公式名称とは異なる呼称を使用させることで、過去との断絶を図り、新たな歴史認識を促そうとした可能性も指摘できます。


直接的な要因としては、連合国軍総司令部(GHQ)が「大東亜戦争」の使用を禁止したことが挙げられます。これにより、「太平洋戦争」という呼称が日本で主流となりました。

これらの複合的な要因により、戦後の日本において「太平洋戦争」という呼称が強制され、広く使用されるようになったのです。この呼称の変更は、単なる言葉の問題ではなく、戦後の日本の歴史認識や国際関係に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

「大東亜戦争」という呼称は、上の記事にもあるように、当時の日本政府が1941年12月に閣議決定したものです。この名称には、日本の戦争目的や理念が反映されています。

当時の日本政府の立場からすれば、この戦争は西洋列強の植民地支配からアジアを解放し、「大東亜共栄圏」を建設するための戦いでした。日本は、アジアの盟主として、欧米列強の支配から東アジアと東南アジアを解放し、アジア諸国との協力関係を築くことを目指していました。

この観点からすれば、「大東亜戦争」という呼称は、日本の行動の正当性を主張し、その目的を明確に表現するものでした。日本は、単なる領土拡張や資源獲得のためだけでなく、アジアの解放と繁栄という大義のために戦っているという認識がありました。

実際、日本の進出によって、東南アジアやインドの独立運動が刺激され、戦後の脱植民地化の流れにつながったという側面もあります。例えば、インドネシアやベトナムの独立運動指導者たちが、日本の支援を受けて活動を展開したことは歴史的事実です。

「大東亜戦争」という呼称を使用することは、このような日本の戦争目的や理念、そしてアジアにおける日本の役割を強調する意味合いがあります。それは同時に、日本の行動を単なる侵略や拡張主義として捉えるのではなく、より複雑な歴史的文脈の中で理解しようとする試みでもあります。

米国草の根保守の重鎮であった故フィリス・シュラフリー女史のような保守派の歴史観では、自国の歴史を自国の視点から捉え、表現することの重要性が強調されます。シュラフリー女史は、米国の伝統的価値観や国家主権を重視し、グローバリズムや国際主義に批判的でした。この観点を日本の文脈に適用すると、「大東亜戦争」という呼称を用いることは、日本の国家主権と歴史的視点を尊重する行為と解釈できます。

米国草の根保守の重鎮であった故フィリス・シュラフリー女史

「太平洋戦争」史観とも呼ぶべき、この歴史観は、終戦直後の民主党政権によるリベラル的な歴史観であり、米保守派とのそれとは異なります。

実際、米国の草の根保守を牽引してきた米国の「保守のチャンピョン」ともいえる、フィリス・シュラフリー女史は、「ルーズベルトが全体主義のソ連と組んだのがそもそも間違いだ、さらにルーズベルトはソ連と対峙していた日本と戦争をしたことが大きな間違いだ」としています。さらに、女史はなくなる直前には、「全体主義のソ連と組んだために、今日米国は中国や北朝鮮の核の脅威を被っている」と語りました。

かつて日本を占領したマッカーサー元帥は、朝鮮戦争に赴き、現地を調査した結果「当時の日本はソ連と対峙するため朝鮮半島と満州を自らの版図としたのであり、これは侵略ではない。彼らの戦争は防衛戦争だった」との趣旨の証言を後に公聴会で証言しています。

自国の歴史を自国の視点から捉え、表現することは、国家のアイデンティティと歴史認識を維持する上で重要です。それと同時の軍部の考えとは、別ものです。私自身は、この軍部の間違えは、もっと非難されるべきであり、それこそ当時の日本の大義に反する行動をとったということで、指弾されるべきと考えます。

中国大陸にこだわり続けた関東軍、米軍とは一線を画し太平洋の小さな島嶼まで、ことごとく占領した海軍の戦略など理解に苦しみます。

私自身、なぜ軍部が大陸で中国と対峙しつづけたのか、本当に疑問です。そんなことよりも、ソ連との対峙にエネルギーを費やすべきだったと思っています。しかし、もし当時日本が満州で踏ん張っていなければ、現在の中国もソ連の版図に含まれることになった可能性すらあると思います。現在は、中国も朝鮮半島もロシアの一部になっていた可能性があります。

他国の視点や解釈に過度に影響されることなく、日本独自の歴史観を保持することは、国民の歴史理解と誇りの醸成につながります。これは、戦後の占領政策や国際的な歴史認識の影響を受けつつも、日本の立場や経験を適切に反映させた歴史観を構築することを意味します。その観点から、日本は「大東亜戦争」という呼称を用いるべきです。

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2024年7月6日土曜日

産業ロボットの最新技術を紹介 人手不足の解決が期待できるロボットを展示 愛知―【私の論評】人手不足時代の日本戦略:AI活用と生涯学習で実現する持続可能な社会

産業ロボットの最新技術を紹介 人手不足の解決が期待できるロボットを展示 愛知


 産業ロボットの最新技術を紹介する国内最大級のイベントが愛知県常滑市で始まりました。 

 「ロボットテクノロジージャパン2024」には、244社の企業や団体が参加していて、自社の技術やアイデアをアピールしています。 

  近年製造業や物流の現場では人手不足の問題から急速に自動化が広がっています。

  会場には、運ぶ荷物をセンサーで認識して自動運転で動くリフトなど人手不足の解決が期待できるロボットが多く展示されています。

  また、ロボットと人が射的で対決するゲームや、スマホでロボットを操作するクレーンゲームなど産業用ロボットを身近に感じることができる体験ゾーンもあり、一般の人も気軽に楽しむことができます。 

 イベントは6日まで開かれます。

【私の論評】人手不足時代の日本戦略:AI活用と生涯学習で実現する持続可能な社会

まとめ
  • タクシー会社の倒産やバスの減便など、実際に人手不足の深刻な影響が顕在化している。
  • 日本以外のかつて少子化対策に成功した先進国等でも出生率が低下しており、日本の対策も十分な効果は期待できない。
  • 少子化に耐えられる社会構築のため、自動化や省力化が不可欠であり、AI・ロボット化を強力に推進すべきである。
  • ドラッカーの提唱する知識社会に突入したとみられる日本においては、就労者の学び直しや新たな学びの機会が必要。
  • サバティカル休暇制度など、従業員の学習や自己啓発を支援する仕組みを導入して柔軟な労働環境の整備をすべきである。
人手不足は深刻化しており、私がそれを実感したのは、長年利用していたタクシー会社が昨年3月に倒産したことでした。その影響で、一時期駅前に夜遅くタクシーが止まっていない状況が続きました。


しかし、2ヶ月ほどで状況は改善し、倒産した会社の元運転手が別の地元タクシー会社に再就職したことで、サービスが復活しました。

全国的にはタクシーやバスの運転手不足は依然として深刻で、地元でもバスの便数が減少しています。この問題は簡単には解消されそうにありません。出生率の高さで知られるフランスやイスラエル、北欧諸国でさえ出生率が低下しており、日本の「異次元の少子化対策」も十分な効果を期待できない状況です。

この状況に対応するには、少子化に耐えられる社会を構築する必要があります。それには、以前このブログにも述べたように、AIやロボット化の推進が不可欠でしょう。

少子化に耐えられる社会を構築にするには、AI化、ロボット化の推進が不可欠

人手不足の背景には、労働力の不足だけでなく、求職者と仕事内容のミスマッチや税制の問題など複合的な要因があります。機械ができる仕事は機械に任せ、人間にしかできない仕事に人材を集中させるべきです。産官学金融の協力で自動化や省力化の研究開発を推進し、産業の効率性を高めながら持続可能な社会を目指すべきです。

安易な移民や外国人労働者の受け入れには反対です。多数の移民を受け入れた国々では、社会統合の問題や文化的摩擦が生じており、米国やEUでは保守的な政党の躍進をもたらしています。代わりに、教育機関の充実や人材の再教育に投資し、自国民の労働力シフトを促すべきです。

日本の産休制度は充実していますが、ワーキングマザーと子どものいない従業員との間に不公平感が生じています。この問題解決のため、全従業員が定期的に長期休暇を取れる「サバティカル休暇」制度の導入が効果的です。この制度を導入した企業では、社内の雰囲気が改善され、若手の離職率も低下したという報告があります。

ピーター・ドラッカーは、知識社会において就労者が継続的に学び直す機会を持つ社会の重要性を提唱しました。彼は、大学や大学院などの高等教育機関で、就労者が最新の知識やスキルを習得することが、個人のキャリア開発と組織の競争力強化に不可欠だと考えました。この考えは「リカレント教育」や「リスキリング」の概念につながっています。

経営学の大家ドラッカー

ドラッカーの提案は、若い世代だけでなく中高年の就労者にも学び直しの機会を提供することを含んでいます。これは、長期的なキャリアプランニングの中で定期的な学習が重要な役割を果たすという考えに基づいています。

私たちは、働きながら大学や大学院で学ぶ機会を得られる社会を目指すべきです。社会経験を積んだ人々の学びは、従来の学生とは異なる視点や動機を持ち、より豊かな社会につながると信じます。特に、これまで高等教育の機会を得られなかった人々にとって、この制度は大きな意味を持つでしょう。

このような社会システムの構築は、日本の人手不足や生産性低下の課題に対応しつつ、知識社会における競争力を維持・向上させることができます。企業は従業員の学習を投資として捉え、継続的な教育を奨励する文化を醸成する必要があります。同時に、サバティカル休暇制度などを導入し、従業員が学習や自己啓発に時間を割ける柔軟な労働環境を整備することも重要です。

また、大学と企業の連携を深め、実務に即した教育プログラムを開発することで、より効果的な学びの機会を創出できるでしょう。これは、産学連携の新たな形として、イノベーションの源泉となる可能性も秘めています。

生涯学習と成長を支援する仕組みは、社会全体の価値観や制度の変革を必要とする大きな挑戦です。しかし、これは単なる教育改革にとどまらず、長期的には日本の競争力と社会の豊かさにつながる重要な投資となるでしょう。少子化や人手不足を克服した後の社会では、このような制度の導入がより容易になると考えられます。

最終的に、このような社会システムは、個人の成長と社会全体の知的資本の向上に寄与し、日本が知識社会において成功を収めるための基盤となるでしょう。

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2024年7月5日金曜日

【中露からの供給依存対策】アメリカが考えるサプライチェーン適切化の野望と決定的な限界点―【私の論評】米国商務省の革新的サプライチェーン分析ツール:グローバル経済の未来を左右する戦略的イノベーション

【中露からの供給依存対策】アメリカが考えるサプライチェーン適切化の野望と決定的な限界点

まとめ
  • 米国商務省が新たなサプライチェーン分析ツールを開発し、同盟国との協力のもと、重要産業分野における供給網のリスクと機会を特定しようとしている。
  • このツールは、従来の自由貿易の考え方に挑戦し、経済的威嚇などの新たなリスクに対応するためのフレンド・ショアリング(同盟国との協力)を促進することを目指している。
  • 米国内では超党派の支持を得ており、関連法案も可決されているが、データの更新速度や企業の機密情報取得など、ツールの実効性に関する課題も存在する。
  • この取り組みは、経済的合理性と国家安全保障のバランス、調達コストの上昇による国民生活への影響など、新たな経済的・政治的課題を提起している。
  • 同盟国以外の国々のデータ不足により、経済的威嚇を仕掛ける側の国々に対する効果的な対抗措置を講じることが難しいという限界も指摘されている。
民間企業におけるサプライチェーン分析ツールの事例

 米国商務省が最近立ち上げたサプライチェーン分析ツールは、グローバルな供給網の実態把握と強靭化を目指す画期的な取り組みです。この新しいツールは、商務省が民間セクターと協力して設立した供給網センターの一環として開発されました。その主な目的は、米国と同盟国の貿易や関税データを詳細に解析し、サプライチェーンにおけるリスクと機会を明確に特定することです。

 このツールは、半導体、希少金属、電子機器などの重要分野に焦点を当て、これらの供給網の健全性を確認することを目指しています。さらに、中国やロシアなどの特定国への依存度を評価し、緊急時における代替供給源の可能性を探ることができます。商務長官補は、この取り組みが同盟国との具体的な議論を可能にし、これまでの一般論に終始していた状況を改善すると述べています。

 しかし、このツールにも限界があります。一部のデータ更新が遅いため、リアルタイム分析には制約があり、また企業が部品構成表などの機密情報を提供する義務がないため、完全な全体像を描くのは困難です。

 一方で、この取り組みは従来の自由貿易の考え方に一石を投じるものでもあります。従来の経済学では、「世界中の多くの人間が、常に1円でも得をしようと、最良の供給元から最短のルートを通って、最安値の運輸方法を用いて、世界中で各種物品を移動させている」という考え方が主流でした。これは「最安値」という共通ルールに基づく「神の手」に導かれた人間社会の営みであり、世界全体の富を最大化する最も適当な方法(=自由貿易)だと考えられてきました。

 しかし、経済的威嚇を影響力行使の手段とする国々の出現により、この自由貿易の基礎となる「価格」に影響を与える新たなコスト(=リスク)を考慮する必要が生じています。このため、サプライチェーンの強靭化が重要となっており、米国の新しい分析ツールはこの課題に対応しようとするものです。

 この取り組みは、フレンド・ショアリング(同盟国との協力)を促進し、より強靭なグローバルサプライチェーンの形成に寄与する可能性があります。例えば、電気自動車やクリーン技術分野で、オーストラリアの希少金属、日本の生産能力、米国の消費市場を組み合わせることで、国際競争力のある製品を生み出す可能性があります。

 米国では、この取り組みが超党派の支持を得ており、サプライチェーンのリスク確認を法制化する「強靭な供給網推進法」が下院で全会一致で可決されています。

 しかし、この新しいアプローチにも課題があります。経済的合理性への配慮が少なく、各種物品の調達コストが上昇し、各国の国民生活に後ろ向きの影響を与える可能性があります。また、同盟国や同志国以外の国々のデータが不足しているため、経済的威嚇を仕掛ける側の国々に対する対抗措置を講じることが難しいという問題もあります。

 総じて、この新しいサプライチェーン分析ツールは、変化するグローバル経済環境に対応しようとする米国の重要な一歩と言えますが、従来の自由貿易の考え方との調和や、新たな経済的・政治的課題への対応など、今後も多くの課題に直面することが予想されます。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】米国商務省の革新的サプライチェーン分析ツール:グローバル経済の未来を左右する戦略的イノベーション

まとめ
  • 米国商務省が開発した「供給網明確化の『道具』」は、サプライチェーンの実態把握、リスク・機会の特定、重要分野の健全性評価を目的としている。
  • このツールは、米国と同盟国の貿易・関税データを解析し、代替供給源の可能性や特定国への依存度を分析できる。
  • フレンド・ショアリングの促進や強靭なグローバルサプライチェーンの形成に寄与することが期待されているが、データ更新の遅れや企業の機密情報の欠如などの課題もある。
  • 米国の優位性(基軸通貨、金融システム、技術力、同盟国ネットワーク)により、他国が容易に真似できない規模と精度のツールが構築された。
  • 日本にとっては、重要物資のリスク早期特定、同盟国との連携強化、経済安全保障向上などのメリットが期待されるが、日米協力と慎重な運用が必要。
サプライチェーンは、モノの流れ、情報の流れ、お金の流れで成り立っている

米国商務省が開発した新たなサプライチェーン分析ツール「供給網明確化の『道具』」(英語では "supply chain mapping tool" と推測)は、主に供給網の実態把握とリスク・機会の特定を目的としています。このツールは商務省と民間セクターの協働により開発され、グローバルサプライチェーンの複雑性に対応する画期的な取り組みとして注目されています。

サプライチェーンのマッピングとは、サプライチェーン内のサプライヤー、作業所、オペレーション、労働者に関する情報を収集して、詳細なグローバルマップを作成することを意味します。 この情報を単一のデータプラットフォームに保持することで、作業条件、管理慣行、サプライチェーンリスクに関する統合分析が可能になります。

このツールの主な機能は、米国と同盟国の貿易・関税データを詳細に解析し、半導体、希少金属、電子機器などの重要分野における供給網の健全性を評価することです。また、戦争や自然災害などの緊急事態における代替供給源の可能性や、中国やロシアなどの特定国への依存度も分析可能です。これにより、潜在的なリスクやボトルネックを迅速に特定し、対策を講じることができます。

さらに、このツールは欧州同盟国やインド太平洋経済枠組み(IPEF)参加国との具体的な供給網の議論を可能にし、世界的なボトルネックを特定するための詳細な分析を提供します。これは、国際的な経済協力や戦略的パートナーシップの強化に大きく貢献すると期待されています。

特に、中国に対するデカップリングやリスキリングに関して、自国や同盟国がなるべく悪影響を受けないようにどのような方式にするか、また順番や期間などに関してどのような優先順位をつけるかに関して有益な情報を提供できるようになる可能性があります。さらには、デカップリングやデリスキリングをしなければ、どのようなリスクがあるかも、ある程度定量的に明らかにできるようになる可能性があります。

デカップリングやデリスクリングに関して危険という論もあるが、定量的な裏付けがあるわけではない

ただし、一部データの更新の遅れや企業の機密情報(部品構成表など)の欠如により、リアルタイム分析や完全な全体像の把握には限界があります。これらの課題は、今後のツールの改善や政策の調整によって解決されていく必要があるでしょう。

このツールは、フレンド・ショアリング(同盟国との経済協力)を促進し、より強靭なグローバルサプライチェーンの形成に寄与することが期待されています。例えば、電気自動車やクリーン技術分野で、オーストラリアの希少金属、日本の生産能力、米国の消費市場を組み合わせることで、国際競争力のある製品を生み出す可能性があります。米国内では超党派の支持を得ており、サプライチェーンのリスク確認を法制化する動きも進んでいます。

米国がこのようなツールを構築できた背景には、いくつかの重要な強みがあります。まず、米ドルが国際取引の基軸通貨であることから、世界中の金融取引の大部分を把握できる独自の立場にあります。また、米国の金融機関や決済システムが国際取引で重要な役割を果たしているため、多くの取引情報へのアクセスが可能です。さらに、データ分析や人工知能の分野における技術的優位性により、複雑なサプライチェーンデータを効果的に処理・分析する能力を有しています。加えて、多くの同盟国や友好国との緊密なネットワークを持ち、情報共有や協力が可能です。

このシステムの開発には膨大な費用がかかると推測されますが、具体的な金額は公開されていません。データ収集・分析システム、高度なAI技術、セキュリティシステムなど、多岐にわたる技術が必要で、数十億ドル単位の投資が必要になる可能性があります。ただし、このような戦略的に重要なシステムの開発費用は、多くの場合、機密情報として扱われる可能性が高いです。

今後、このツールは様々な分野で活用され、重要な成果をもたらす可能性があります。直近では、サプライチェーンのリスク管理、同盟国との経済協力強化、緊急時の代替供給源の確保などに活用される見込みです。長期的には、グローバル経済の安定性向上や、より効率的な国際分業体制の構築に貢献する可能性があります。

ただし、いくつかの課題も残されています。データの更新速度の問題、企業の機密情報共有の難しさ、経済的合理性と国家安全保障のバランスなどが挙げられます。これらの課題を解決するためには、継続的な技術革新と国際協力が不可欠です。

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日本にとっては、このツールの運用から多くのメリットが期待できます。重要物資のサプライチェーンリスクの早期特定、同盟国との経済連携強化、経済安全保障の向上、企業の戦略的投資や事業展開の支援などが可能になるでしょう。また、災害時の迅速な対応やグローバルサプライチェーンの最適化による国際競争力の強化も期待できます。

ただし、これらのメリットを最大限に活用するためには、日米間の緊密な協力と情報共有が不可欠です。また、データの取り扱いや解釈に関する専門知識を持つ人材の育成も重要な課題となります。さらに、このシステムの運用が経済的合理性を損なわないよう、慎重なバランス取りも必要になると考えられます。

総じて、米国のサプライチェーン分析ツールは、グローバル経済の複雑性と不確実性が増す中で、重要な役割を果たすことが期待されています。その効果的な活用と継続的な改善により、より強靭で持続可能な国際経済システムの構築に貢献する可能性があります。

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2024年7月4日木曜日

バイデン、撤退の可能性を漏らしたと報道 本人は「最後まで戦う」と側近に語る―【私の論評】2024年米大統領選:バイデン撤退論の影響とトランプ優位の実態分析

バイデン、撤退の可能性を漏らしたと報道 本人は「最後まで戦う」と側近に語る

まとめ
  • バイデン大統領の撤退可能性が報道されたが、本人とホワイトハウスは否定
  • テレビ討論会でのパフォーマンス低下を受け、民主党内外から懸念の声
  • バイデンの認知機能と健康状態に関する疑問が浮上
  • バイデン側は討論会の不調を喉の痛みと過酷な日程のせいと説明
  • 年齢による制約が指摘される中、11月の本選挙に向けて議論が継続する見込み

 2024年米国大統領選に向けて、ジョー・バイデン大統領の再選に関する懸念が高まっています。先週のドナルド・トランプ前大統領とのテレビ討論会でのパフォーマンス低下を受け、バイデン大統領の撤退可能性が報じられました。ニューヨーク・タイムズは、バイデンが側近に撤退の可能性を漏らしたと報道しましたが、ホワイトハウスはこれを否定し、バイデン自身も「最後まで戦う」と表明しています。

 民主党内でも再選を疑問視する声が上がり、一部の議員や元議長らがバイデンの認知機能や健康状態に関する懸念を表明しています。バイデン側近は、大統領が最もパフォーマンスを発揮できるのは午前10時から午後4時の間だと語っており、年齢による制約が指摘されています。

 一方で、バイデン自身は討論会でのパフォーマンス低下を喉の痛みと過酷な日程のせいだと説明し、ホワイトハウスは認知機能に関する懸念を否定しています。現時点では、バイデン大統領が民主党の候補者として指名されることが固まっていますが、11月の本選挙に向けて、年齢や健康状態に関する議論が続くことが予想されます。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】2024年米大統領選:バイデン撤退論の影響とトランプ優位の実態分析

まとめ
  • バイデン撤退の場合、民主党は新候補擁立に苦慮し、トランプ陣営が優位に立つ可能性が高い。
  • バイデン続投の場合、政策実績のアピール、健康懸念の払拭、トランプ批判強化などの戦略に注力するだろう。
  • 民主党がバイデンにこだわった理由は、現職の強み、知名度、2020年の勝利実績、党内安定などが挙げられる。
  • 撤退論の浮上により、民主党は不利な状況に陥り、トランプ陣営が有利な展開を得た。
  • 世論調査結果は、トランプ氏がバイデン氏をリードしており、トランプ陣営の優位性を客観的に示している。
テレビ討論会に参加したトランプ氏とバイデン氏

バイデン大統領が撤退した場合、民主党は新たな候補者を擁立する必要に迫られます。有力候補としてカマラ・ハリス副大統領や州知事経験者が挙がりますが、短期間での知名度向上や党内の混乱が課題となります。

一方、トランプ前大統領は激戦州での優位性を維持しており、民主党の混乱を利用して有利な立場に立つことができます。全体として、バイデンの撤退は民主党にとって不利な展開となる可能性が高いと予想されます。

バイデン大統領が選挙戦を継続する場合、彼の陣営は以下の戦略に注力するでしょう。まず、経済成長や雇用創出などの政策実績を強調し、リーダーシップの成果をアピールします。バイデンは討論会でのパフォーマンスを改善し、健康状態に関する懸念を払拭する努力をします。トランプ前大統領への批判を強化し、対比を明確にするでしょう。党内の結束を固め、選挙資金の確保にも力を入れるでしょう。これらの戦略を通じて、バイデンは厳しい選挙戦に挑むことになります。

バイデン氏が撤退すれば、最有力候補にもなり得るカマラ・ハリス氏だが・・・・

特に、インフラ投資やクリーンエネルギー推進などの具体的な成果を強調し、国民の生活向上を訴えかけるでしょう。また、カマラ・ハリス副大統領や他の有力な民主党員との協力を強化し、統一したメッセージを発信することで、党内外からの支持を固めることを目指すでしょう。バイデンの過去の経験や困難を乗り越えた実績を強調し、リーダーシップの強さを示すことも重要な戦略となるでしょう。

バイデン大統領は高齢であるため、このような問題が起きることは十分予測できたはずです。それでも、民主党がバイデン大統領にこだわった理由は複合的です。現職の強みや既存の知名度、支持基盤を活かせることが大きな要因です。

また、2020年の選挙でトランプ氏に勝利した実績も重要視されました。新たな候補者を擁立することで生じる党内の混乱を避け、政策の継続性を保つ意図もあったでしょう。さらに、選挙までの時間的制約を考慮すると、新候補の擁立は困難だと判断されたと考えられます。これらの要因が重なり、リスクを認識しつつも、民主党はバイデン氏を候補者として維持する選択をしたのです。

バイデン大統領に対する撤退論の浮上は、民主党を不利な状況に追い込み、トランプ陣営に有利な展開をもたらしました。民主党内の分裂と混乱が露呈し、バイデン氏の適性への疑問が強まる中、トランプ陣営は一貫したメッセージを発信しやすい立場を得ました。


トランプ陣営の優位性は、最近の世論調査結果にも表れています。例えば、ニューヨーク・タイムズとシエナ大学が実施した調査では、トランプ氏がバイデン氏を48%対43%でリードしています。特に、6つの激戦州では、トランプ氏が52%対42%と大きくリードしています。

さらに、RealClearPolitics(RCP)の平均調査では、トランプ氏がバイデン氏を2.6ポイントリードしており、これは2020年の選挙時よりも優位な状況です。RCPは、政治ニュースと世論調査を集約・分析する非党派のウェブサイトで、その調査平均は多くの政治アナリストや報道機関に参照されています。RCPの数字は、複数の信頼できる調査結果を平均化したものであり、より包括的な世論の傾向を示すものとして重視されています。

これらの数字は、撤退論が出たことでバイデン陣営が苦戦している一方、トランプ陣営が選挙戦を有利に進めていることを客観的に示しています。

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2024年7月3日水曜日

菅前首相と麻生副総裁、自民総裁選は首相経験者2人によるキングメーカー争いの様相―【私の論評】高市早苗氏の可能性と麻生太郎氏の影響力 - 党支持率回復への道

菅前首相と麻生副総裁、自民総裁選は首相経験者2人によるキングメーカー争いの様相

まとめ
  • 9月の自民党総裁選は、菅義偉前首相と麻生太郎副総裁によるキングメーカー争いの様相を呈している。
  • 菅氏は「非主流派」「脱派閥」の立場から、石破茂、加藤勝信、小泉進次郎らの中から次期総裁候補を検討している。
  • 麻生氏は岸田政権の「主流派」として、岸田首相の再選を支持する可能性が高いが、状況次第で茂木敏充や河野太郎を推す可能性もある。
  • 今回は「派閥なき総裁選」となるため情勢が読みにくいが、菅氏と麻生氏が大きな影響力を持つと見られている。
  • 党内には、総裁選による政局イメージを懸念する声もある。


 9月の自民党総裁選は、菅義偉前首相と麻生太郎副総裁という2人の元首相によるキングメーカー争いの様相を呈している。

 菅氏は「非主流派」の中核として反岸田の姿勢を鮮明にし、石破茂、加藤勝信、小泉進次郎らの中から次期総裁候補を見定めている。菅氏は「非主流派」「脱派閥」を条件に候補者を検討しており、派閥パーティー収入不記載事件の責任を岸田首相に求めている。

 一方、麻生氏は岸田政権の「主流派」の要として、まず岸田首相の再選を支持する可能性が高い。ただし、麻生氏と岸田首相の関係にはすきま風も吹いており、岸田首相が出馬を断念した場合は茂木敏充幹事長や河野太郎デジタル相を推す可能性もある。

 今回の総裁選は「派閥なき総裁選」となるため情勢が読みにくいが、菅氏と麻生氏が大きな固まりを動かせる唯一の人物とされている。菅氏には無派閥議員を中心とした支持者がおり、麻生氏は麻生派の一定数を動かすことができる。

 この状況下で、党内からは政局に走る自民党のイメージを懸念する声も上がっている。

【私の論評】高市早苗氏の可能性と麻生太郎氏の影響力 - 党支持率回復への道

まとめ
  • 菅氏は加藤勝信氏を、麻生氏は岸田首相を推す可能性が高い。
  • 岸田氏や加藤氏が総裁になっても、政治資金問題や現政権との連続性から支持率回復は難しい。
  • 高市早苗氏は総裁選に向けて活動を活発化させているが、「高市つぶし」を警戒している。
  • 高市氏が総裁になれば、保守層の支持回復や女性首相としての象徴性から支持率上昇の可能性がある。
  • 高市氏の総裁就任には麻生氏の支持が重要で、両者の政策スタンスの類似性から支持の可能性はなきにしもあらずと言う状況にあるといえる。


上の記事の中で、菅氏が次期総裁として検討しているとみられる人物のうち、石破茂氏は時々の政権をマスコミなどで批判し続けてきたため、多くの自民党議員から蛇蝎のごとく嫌われており、そもそも総裁選に必要な推薦人を集められない可能性が高いです。

小泉進次郎氏、自民党内ではその能力に疑問符をつけられることが多いこと、さらに父親の元首相小泉純一郎氏が息子の小泉進次郎氏に対して、50歳を過ぎてから首相を目指すよう助言していることから、進次郎氏は出馬しない可能性が高いです。

そのようなことから、菅氏が実際に推すのは、加藤勝信氏になるとみられます。

加藤勝信

麻生氏が検討しているとみられる人物は、岸田首相、茂木氏、河野太郎氏です。まず、茂木敏充氏は、写真的記憶力を持ち、政策通として高い能力を評価されています。しかし、党内での人望に課題があるとされ、その例として2022年の小渕優子氏の茂木派離脱が挙げられます。

「冷たい」「人間味に欠ける」といった評価もあり、これが党内での人間関係構築を難しくしているとされます。政策面での能力は高く評価されるものの、対人関係のスキルや党内での調整力、合意形成能力には批判的な見方が支配的です。

一方、麻生太郎氏が河野太郎氏を総裁候補として推す可能性は低いと考えられます。河野氏のファミリー企業の中国との関係や、内閣府のタスクフォースでの中国企業関連の資料問題は、安全保障や経済安全保障の観点から重大な懸念事項となっています。

麻生氏は対中政策に慎重な立場を取ることが多く、台湾有事は日本有事という発言もしています。これらの問題は河野氏の適性に疑問を投げかけるものです。また、麻生氏は岸田政権の「主流派」の要であり、現状の党内バランスを維持することを重視する可能性が高いです。

さらに、これらの中国関連の問題は政治的リスクが大きく、総裁選や将来の総選挙での攻撃材料となる可能性があります。これらの要因を考慮すると、麻生氏は河野氏を総裁候補として推すことを避ける可能性が高いと言えるでしょう。

そうなると、岸田氏を再び推すということになる可能性があります。しかし、岸田氏ということになれば、全く新味もなく、支持率が低下し続けることが予想されます。

岸田氏と加藤氏のいずれが総裁になっても、自民党政権の支持率回復は難しい可能性があります。その主な理由として、政治資金問題による党全体の信頼低下が挙げられます。

また、両氏とも現政権との連続性が強く、抜本的な変革を期待することは難しいでしょう。経済政策や社会保障改革などの重要課題で目立った成果が上がっていないことも、支持率回復の障害となるでしょう。

さらに、有権者の間では政治の世代交代を求める声が強まっていますが、両氏は既存の政治体制の中核にいる人物であり、この期待に応えるのは難しいでしょう。複雑化する国際情勢への対応も課題です。これらの要因により、単なる総裁交代では支持率の大幅な回復は見込みにくいと考えられます。

岸田首相

一方高市早苗経済安全保障担当相は、9月の自民党総裁選に向けて活動を活発化させていますが、同時に「高市早苗つぶし」を強く意識しています。朝日新聞が高市氏の総裁選出馬の意向を報じたことに対し、高市氏は未だ総裁選出馬を正式には表明しておらず、X(旧ツイッター)で「『高市早苗つぶし』が目的」と猛反発しました。

これは、当然のことといえます。岸田首相の進退が決まらないと、その次のアクションは起こしにくい状況です。自民党には総理を支える立場にある現職閣僚と党役員は総裁選に出馬しないという不文律があり、これに反する行為は総裁選での自らの立場を危うくする可能性があるからです。

岸田首相が辞任を決めた場合、高市氏は現職のまま総裁選に出馬できる可能性が高まります。岸田首相が辞任しない場合で、高市氏が総裁選に出馬する意向ならば、総裁選の前に大臣を辞任することで、出馬の道が開けます。

高市氏が総裁になった場合、他の候補と比較して自民党の支持率上昇につながる可能性が高いと考えられます。高市氏の保守的な政策スタンスは、自民党が失った保守岩盤層の支持を取り戻す強力な武器となるでしょう。また、日本初の女性首相となる可能性は、新鮮さと象徴性をもたらし、幅広い層からの支持を集める可能性があります。

さらに、高市氏のマクロ経済への深い理解は、日本経済の回復を導く可能性があります。これは、経済政策の明確さと実効性という点で、他の候補との差別化につながるでしょう。高市氏の経済安全保障や外交政策での明確な立場と相まって、有権者の期待に応える可能性が高まります。

現政権との一定の距離感から、高市氏の総裁就任は政治の刷新を求める有権者の期待に応える可能性も高く、これらの要因が複合的に作用して、他の候補よりも効果的に自民党支持率の上昇につながると予想されます。特に、経済回復への期待が高まれば、より広範な支持を集める可能性があります。

高市氏が総裁になった場合、自民党の支持率上昇につながる可能性が他の候補と比較して高いと考えられます。高市氏の保守的な政策スタンスは、失われた保守岩盤層の支持回復に寄与するでしょう。また、日本初の女性首相となる可能性は、新鮮さと象徴性をもたらし、幅広い層からの支持を集める可能性があります。

高市氏のマクロ経済への深い理解は、日本経済の回復を導く可能性があり、これは経済政策の明確さと実効性という点で他の候補との差別化につながります。さらに、高市氏の経済安全保障や外交政策での明確な立場は、有権者の期待に応える可能性が高いでしょう。

高市早苗氏

特筆すべきは、高市氏が政局に走る自民党のイメージを払拭できる可能性が高いことです。高市氏の政策重視の姿勢と、経済回復や安全保障強化などの具体的な課題への取り組みは、党内外から政策本位の政治への回帰として評価される可能性があります。これにより、自民党が政局よりも国民生活の向上に注力しているという印象を強めることができるでしょう。

現政権との一定の距離感も相まって、高市氏の総裁就任は政治の刷新を求める有権者の期待に応える可能性が高く、これらの要因が複合的に作用して、他の候補よりも効果的に自民党支持率の上昇につながると予想されます。経済回復への期待と政策重視の姿勢が明確になれば、より広範な支持を集める可能性が高まるでしょう。

高市氏が総裁になれる可能性は、麻生氏もしくは菅氏の支持が重要な要素となります。両氏は自民党内で大きな影響力を持つ重要な政治家であり、その支持は高市氏の総裁選での立場を大きく強化する可能性があります。

特に、現状では麻生氏のほうが、高市氏を指示する可能性が高いと考えられます。両者は保守的な政策スタンス、特に経済政策や安全保障政策において類似した見解を持っており、これが支持の基盤となる可能性があります。

麻生氏は自民党内で大きな影響力を持つ重要な政治家であり、高市氏を支持することで現状の党内バランスを維持しつつ、自身の影響力を保持できる可能性があります。また、麻生氏は世代交代や党のイメージ刷新の必要性を感じており、高市氏の支持はこれらの課題に対応する手段となり得ます。

さらに、女性リーダーの登用が課題となっている中、高市氏への支持は党の多様性推進をアピールする機会にもなるでしょう。これらの要因が複合的に作用し、麻生氏が高市氏を支持する可能性は無きにしもあらずの状況だと思われます。

麻生太郎氏には、自民党の将来と日本の政治の方向性を見据えた賢明な判断を期待します。高市早苗氏への支持を検討する際には、党内の力学だけでなく、国民の期待や国際情勢も考慮に入れるべきです。

麻生氏の豊富な政治経験と先見性を活かし、自民党の刷新と国益に資する選択をすることが望まれます。この判断が、政治の信頼回復と日本の持続的な発展につながることを期待します。麻生氏の決断は、単なる党内の人事を超えて、日本の未来を左右する重要な意味を持つことを強調したいと思います。

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2024年7月2日火曜日

フィリピンの女性市長に「中国のスパイ」疑惑 指紋で別人と判明、中国人の可能性が高く―【私の論評】日本の国家安全保障危機:高市早苗氏の総裁選出が鍵となる理由と課題

フィリピンの女性市長に「中国のスパイ」疑惑 指紋で別人と判明、中国人の可能性が高く

まとめ
  • フィリピン北部バンバン市のアリス・グォ市長が「中国のスパイ」である疑惑が浮上し、捜査当局は市長が実際には中国人である可能性が高いと指摘している。
  • 市長の指紋が別の中国人女性のものと一致し、その女性は2003年にフィリピンに入国した1990年生まれの福建省出身者とされている。
  • バンバン市のカジノ賭博組織による女性の監禁が発覚し、市長は違法なオンライン賭博や人身売買への関与の疑いで告発され、職務停止命令を受けている。

フィリピン・バンバン市 アリス・グォ市長

 バンバン市のアリス・グォ市長が「中国のスパイ」である疑惑が浮上した。捜査当局は、グォ市長が実際には中国人である可能性が高いと指摘している。この疑惑は、市内のカジノ賭博場の摘発をきっかけに発生した。

 グォ市長は、父が中国人で母がフィリピン人メイドだったと主張し、非嫡出子として育てられたため証明書がないと釈明した。しかし、捜査当局は市長の指紋が別の中国人女性のものと一致したと発表。その女性は2003年にフィリピンに入国し、1990年に福建省で生まれたとされている。

 さらに、バンバン市のカジノ賭博組織が数百人の女性を監禁していたことも発覚。大統領府直轄の組織犯罪対策委員会は、市長らが違法なオンライン賭博や人身売買に関与した疑いがあるとして告発した。グォ市長は現在、職務停止命令を受けている。

 この事件は、南シナ海の領有権問題で中国と対立を深めるフィリピンの政治的緊張の中で起きており、国家安全保障の観点からも注目されている。

【私の論評】日本の国家安全保障危機:高市早苗氏の総裁選出が鍵となる理由と課題

まとめ
  • フィリピンと中国の対立は南シナ海の領有権と海洋権益をめぐる争いが主因であり、中国の軍事拠点化や威圧的行動が緊張を高めている。その最中におきたスパイ疑惑事件は、安保の観点から多くの懸念をひきおこしている。
  • 日本の国家安全保障は中国、ロシア、北朝鮮、イランなどからの深刻な脅威に直面しており、これまでの個人の権利重視の姿勢が国家の安全を脆弱にしている。
  • 高市早苗氏は日本の安全保障強化に向けた包括的な対策を主張しており、スパイ防止法の制定や外国の影響力排除のための法整備、国民の安全保障意識向上を推進している。
  • 現行のセキュリティ・クリアランス制度には適用範囲の限定や性行動規定の欠如、定期的再審査の不十分さなどの欠点があり、これらは日本の安全保障に対する認識の甘さから生じている。
  • 今秋の自民党総裁選は日本の安全保障政策の分岐点となる可能性が高く、高市氏の選出が日本の独立国家としての地位回復と国際的発言力強化につながる可能性がある。

フィリピンと中国の対立は主に南シナ海における領有権と海洋権益の争いに起因しています。中国が南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張し、フィリピンの排他的経済水域も含む広範な海域を自国の勢力圏としようとしていることが、対立の核心です。

この海域には豊かな漁場があり、石油や天然ガスなどの資源も存在する可能性があるため、両国の利害が衝突しています。さらに、中国が島々や岩礁を軍事拠点化していることや、フィリピン船に対する威圧的な行動を取っていることも、緊張を高めています。

フィリピンは国際法に基づいて自国の権利を主張していますが、中国はこれを無視する姿勢を示しており、両国の対立は深刻化しています。

こうした中で、発生したこの事件は、国家安全保障の観点から複数の懸念を引き起こしています。フィリピンの地方政治への外国の影響力浸透、機密情報の流出リスク、そして組織犯罪との関連など、国家の意思決定や治安に対する重大な脅威となり得ます。

多くの民主国家がスパイ対策を強化していますが、その効果は一様ではありません。例えば、オーストラリアは2018年に外国干渉透明性スキーム法(FITS)を制定し、外国の影響力活動に対する透明性を高めようとしました。この法律では、外国政府や政治組織のために活動する個人や団体に登録を義務付け、その活動を公開することを求めています。

しかし、最近の議会審査によると、FITSは「意図した目的を達成できなかった」と結論づけられています。登録サイトへのアクセスは少なく、多くのオーストラリア人がその存在を知らないという問題があります。さらに、複雑な登録要件が言論の自由を抑制し、通常の国際交流を妨げる可能性も指摘されています。

一方で、FITSとは別に、オーストラリアが2020年に設立した国家情報局(ONI)は、情報機関間の連携強化に一定の成果を上げています。ONIは、複数の情報源からの情報を統合し、より包括的な脅威評価を可能にしています。これにより、外国の影響力活動をより効果的に特定し、対応する能力が向上したと言えます。

このように、スパイ対策の強化は複雑な課題であり、単一の法律や機関で完全に解決することは困難です。オーストラリアの経験は、透明性を高めるだけでなく、情報機関の能力強化や、国民の認識向上など、多面的なアプローチの必要性を示唆しています。フィリピンを含む他の国々も、これらの教訓を踏まえつつ、自国の状況に適した対策を検討する必要があるでしょう。

日本の国家安全保障は今、極めて深刻な危機に直面しています。中国、ロシア、北朝鮮、イランなどの敵対的国家からの脅威は、もはや看過できないレベルに達しています。これまで日本は、個人の権利や報道の自由を過度に重視するあまり、国家の存続と国民の安全を軽視してきました。この結果、我が国は外国のスパイ活動や影響力行使に対して極めて脆弱な状態に陥っています。

日本の国家安全保障は、実際には深刻な脅威に直面しています。蓮舫氏の事例は氷山の一角に過ぎず、政治家の二重国籍問題は、外国の影響力が日本の政策決定に直接介入する経路となり得ます。

蓮舫氏

帰化した政治家も、長期的な忠誠心を保証することは難しく、外国政府の影響下で重要な意思決定に関与する危険性があります。

さらに、外国資本や影響力がメディアに浸透することで、世論操作や情報操作のリスクが高まっています。地方自治体は中央政府ほどの厳格なセキュリティ対策を取れていないため、外国の影響力が浸透しやすい弱点となっています。

また、政府機関や重要インフラのデジタル化が進む中、外国籍者や二重国籍者がこれらのシステムにアクセスできる立場にいる場合、サイバー攻撃や情報漏洩のリスクが著しく高まります。

これらの問題は日本の国家安全保障に対する深刻な脅威となっており、現状の法制度や管理体制では十分に対応できていない可能性が高いため、スパイ防止法を制定するなどの早急な対策が必要です。

このような危機的状況を打開し、日本の安全保障を抜本的に強化できる政治家は、現在の総裁候補と目される人の中では高市早苗氏しかいないと言えます。高市氏は、国家安全保障を最優先課題として位置づけ、包括的かつ厳格なスパイ防止法の制定、外国の影響力排除のための強力な法整備、そして国民の安全保障意識の向上を強く主張しています。

特筆すべきは、高市氏が本年導入が決まったセキュリティ・クリアランス制度の実現に尽力したことです。この制度は、機密情報にアクセスする人物の背景チェックを強化し、政府機関や重要インフラにおける人員の信頼性確認に大きく寄与しています。

ただ、現行のセキュリティ・クリアランス制度には重要な欠点があります。適用範囲が政府機関の一部と防衛産業に限定されており、重要インフラや地方自治体、メディアなどが含まれていません。

また、性行動に関する規定が欠如しており、「ハニートラップ」などのスパイ活動に対して脆弱です。さらに、定期的な再審査の仕組みも不十分です。これらの欠点が見逃された背景には、日本の安全保障に対する認識の甘さがあります。

これに関しては、岸田内閣の閣僚の一人でもある高市氏としては岸田首相や他の閣僚などの考えを無視するわけにもいかず、いかんともしがたかったのでしょう。長年、深刻な脅威に直面してこなかったという誤った認識や、プライバシーへの過度な配慮、組織文化などが影響しています。

高市早苗氏

しかし、元々日本には存在しなかった制度ができたということでは、間違いなく一歩前進です。その面では、高市氏を評価することができるでしょう。

高市氏が総裁に選出されれば、これらの欠点を早期に解消し、より包括的で実効性の高い制度を構築する可能性が高いと期待されます。これは日本の国家安全保障の強化につながるでしょう。

今秋の自民党総裁選は、日本の安全保障政策の分岐点となる可能性が極めて高いです。高市氏が総裁に選出されれば、日本は真に独立国家としての地位を取り戻し、国際社会における発言力を強化できる可能性があります。一方、他の候補者が選出された場合、これまでの脆弱な安全保障体制が継続し、日本の主権と安全が著しく損なわれる危険性が高まります。

国家の存続と国民の安全を守るため、今こそ高市氏のような強い意志と実績を持つリーダーが必要不可欠です。今秋の総裁選の結果が、日本の未来を大きく左右することは間違いありません。

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2024年7月1日月曜日

実質GDP、年2.9%減に下方修正 1~3月期、基礎統計の訂正で 内閣府―【私の論評】2024年日本経済の岐路:高圧経済とNAIRUから見る積極的財政・金融緩和政策の必要性

実質GDP、年2.9%減に下方修正 1~3月期、基礎統計の訂正で 内閣府


 内閣府は1日、2024年1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)を下方修正し、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.7%減(従来0.5%減)、この成長が1年続いた場合の年率換算で2.9%減(同1.8%減)と発表した。  GDPの基礎統計である「建設総合統計」を国土交通省が訂正したことを反映した。

  修正の結果、公共投資は前期比1.9%減(同3.0%増)の下落。住宅投資は2.9%減(同2.5%減)となった。 

【私の論評】2024年日本経済の岐路:高圧経済とNAIRUから見る積極的財政・金融緩和政策の必要性

まとめ
  • 2024年1~3月期のGDPマイナス成長は金融政策の後退と財政政策の緊縮化が主因
  • 安倍・菅政権時の100兆円規模の財政出動(国債発行と日銀引受)により日本経済はコロナ禍でも毀損されなかった。
  • しかし、岸田政権下での財政緊縮化が経済成長を妨げている
  • 積極的な金融緩和と財政出動の継続が経済改善に必要不可欠
  • 次期自民党総裁選は日本の経済政策の方向性を決める重要な分岐点となる

2024年1~3月期のGDPマイナス成長の主な原因は、金融政策の後退と財政政策の緊縮化によるものといえます。
安倍政権と菅政権時代に実施された大規模な財政出動、特に100兆円規模の補正予算は、リフレ派から高く評価されています。この100兆円の内訳は、安倍政権下で60兆円、菅政権下で40兆円となっています。この大規模な財政出動の特筆すべき点は、その財源として増税ではなく、国債発行を選択したことです。さらに、発行された国債を日本銀行が引き受けるという形で実施されました。これは、金融政策と財政政策の協調を体現した大胆な政治決断でした。

この政策は、経済に対して即効性のある刺激を与え、デフレマインドの払拭に貢献したといえます。特に、コロナ禍による経済的打撃を緩和し、雇用の維持や企業の存続を支援する上で重要な役割を果たしました。また、この大規模な財政出動は、単なる景気対策にとどまらず、将来の経済成長の基盤を整備する投資的な側面も持っていたといえます。
岸田政権下では財政政策の方向性が変化し、緊縮的な姿勢が強まりました。公共投資の減少や増税への懸念が、経済成長を妨げる要因となっています。ただし、岸田政権の初期には、先の100兆円の補正予算の効果が継続していたため、経済は悪化していなかったものが、その効果はなくなり、最近では経済が悪化したといえます。
現在の経済状況を改善するために、積極的な金融緩和の継続と拡大、大規模な財政出動、特に公共投資の増加、増税ではなく経済成長による税収増加を目指す政策、規制緩和や成長戦略の加速をすべきです。これらの政策を通じてデフレマインドを払拭し、企業や個人の期待を改善することで、経済成長を促進できるでしょう。

これは、高橋洋一氏かよく用いる、マクロ政策・フィリップス曲線を用いて分析するとより良く理解できます。フィリップス曲線とは、インフレ率と失業率の間の逆相関関係を示す経済理論です。適度なインフレーションは、雇用を増加させ、経済成長を促進します。



NAIRU(インフレを加速しない失業率)がマクロ経済政策、とりわけ金融政策において重要です。一般的に、インフレ率と失業率は逆相関であり、NAIRUを達成する最小のインフレ率をインフレ目標に設定するからだ。ここから導かれる金融政策は、失業率がNAIRUに達するほど低くない場合、インフレ率もインフレ目標に達しないので金融緩和、失業率がNAIRUに達すると、その後はインフレ率がインフレ目標よりも高くなれば金融引き締めというのが基本動作といえます。

現在、インフレ目標物価より物価高ではあるものの、その原因は海外由来のエネルギー価格や資源価格の高騰によるものです。直近の2024年5月のコアCPIは前年比+2.5%、電気代などが押し上げているものとされています。コアコアCPIの数値だけをみれば、インフレ目標は達成しているようにもみえます。しかし、ここでこの数値だけでは、金融政策をどうするのか判断するのは難しいです。

であれば、ここでは失業率に着目すべきでしょう。労働力調査(詳細集計)2024年(令和6年)1~3月期平均 日本全国での就業者数が前年同期に比べて38万人増加し、6723万人となりました。 一方で完全失業者数は175万人と前年同期から2万人減少し、完全失業率は2.5%と0.1ポイントの低下を見せています。現在2%半ばの水準を保っているわけですが、ここで緊縮財政や金融引き締めをすれば、失業率が上がる懸念があるのです。

そのため、積極的な財政・金融政策を継続すべき状況にあるといえます。インフレ率が高めでも、雇用が安定していれば、このような政策をとることを経済理論では「高圧経済」と呼びます。いまはまさに、高圧経済を実施すべきといえます。現時点で、インフレ率が2.5%だから、すぐに金融引き締めということになれば、失業率があがることになるでしょう。インフレ率が4%を超え、失業率が上がり始めた場合は、金融引き締めのサインとみなすべきでしょう。

ただし、円安で輸出産業は業績が良く、輸出産業は優良大企業が多いため、円安で国全体では、経済が成長することになります。ただし、国内産業、輸入産業は苦戦をしいられている状況です。であれば、積極財政として国内・輸入産業を支援する政策や、消費税減税を含む減税や、物価高対策などをすべきです。

安倍・菅政権のときのように財政赤字を恐れずに積極的な経済政策を展開することが、国民生活の豊かさと税収の増加、さらには科学技術や教育、国防、福祉国家の強化・発展につながることになります。このような政策転換によって、日本経済が再び成長軌道に乗り、国民所得の増加や完全雇用の達成が可能になります。

また、経済政策を歴史から学ぶことも重要です。過去の成功事例や失敗事例を分析し、現在の経済状況に適用することで、より効果的な政策立案が可能です。過去には、現状のように需給ギャップが存在し、需要が低迷しているときに、金融引き締めや緊縮財政をして成功した事例はありません。あれば、財務省はこれを華々しく喧伝し、緊縮財政すべきことの根拠としていることでしょう。このような歴史的視点も含め、現在の経済政策の転換をすべきなのです。

上で述べたようなことを理解しているのは、現在総裁候補者といわれる政治家の中では高市早苗氏くらいです。高市氏は、大規模な金融緩和や積極的な財政政策、さらには「高圧経済」の考え方などを支持しています。


次の自民党総裁選は、このような経済政策の方向性を決める上で極めて重要な意味を持ちます。金融政策の方向性、財政政策の規模、構造改革の推進、インフレ目標の扱い、NAIRUに基づく政策運営など、多くの重要な経済課題が争点となる可能性があります。

高市氏のような政治家が総裁に選出されれば、積極的な経済政策が継続される可能性が高くなります。一方、異なる経済観を持つ政治家が選出された場合、政策の方向性が大きく変わる可能性があります。

このように、次の総裁選の結果は、日本の経済政策の方向性を決定し、ひいては日本経済の将来に大きな影響を与えることになります。したがって、この総裁選は単なる政治的イベントではなく、日本の経済の行く末を左右する重要な分岐点となります。

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2024年6月30日日曜日

フランス国民議会選挙1回目投票 極右政党が最大勢力になる勢い―【私の論評】フランス国民連合の躍進:移民政策の失敗と保守派台頭の真相

フランス国民議会選挙1回目投票 極右政党が最大勢力になる勢い

まとめ
  • マクロン大統領が国民議会を解散し、6月30日と7月7日に選挙を実施。
  • 与党連合、極右の国民連合、左派連合「新人民戦線」の三つどもえの争い。
  • 世論調査では国民連合が最大勢力になる可能性があり、マクロン大統領に厳しい見通し。
  •  国民議会選挙は577議席の小選挙区制で、2回投票制を採用。
  • 各政党は購買力向上、年金制度改革、移民政策などの公約を掲げ、選挙結果次第では政治構造に大きな変化の可能性。

マクロン仏大統領

 フランスの政治情勢が大きな転換点を迎えようとしています。マクロン大統領は、欧州議会選挙での与党連合の敗北を受け、国民議会(下院)を電撃的に解散し、6月30日に第1回投票、7月7日に決選投票を行う選挙を実施することを決定しました。この選挙は、マクロン大統領の与党連合、極右政党の国民連合、そして新たに結成された左派連合「新人民戦線」の三つどもえの激しい争いとなっています。

 世論調査の結果は、マクロン大統領にとって厳しい見通しを示しています。国民連合が最大265議席を獲得し最大勢力になる可能性があり、新人民戦線が第2勢力、与党連合は議席を半数以上減らす可能性があるとされています。国民議会選挙は577議席の小選挙区制で行われ、1回目の投票で過半数かつ有権者の4分の1以上の票を獲得した候補者が当選します。当選者がいない場合は1週間後に決選投票が行われる仕組みです。

 この選挙結果次第では、フランス政治に大きな変化が起こる可能性があります。極右政党から首相が選出される可能性や、議会に「ねじれ現象」が生じる可能性も指摘されており、これまでのフランスの政治構造が大きく変わる可能性があります。各政党は購買力向上や年金制度改革、移民政策などの重要な課題について異なる公約を掲げており、選挙後の政権運営や政策実現が国内外から注目されています。

 特に国民連合の躍進は、フランスの政治的立場や欧州連合(EU)との関係に大きな影響を与える可能性があります。一方で、左派連合の「新人民戦線」も急速に勢力を拡大しており、従来の二大政党制から多極化する政治構造への移行が進んでいます。このような状況下で、マクロン大統領がどのようにリーダーシップを発揮し、国政を運営していくかが問われています。

 フランスの今後の方向性を左右するこの重要な選挙の結果は、フランス国内だけでなく、EU全体や国際社会にも大きな影響を与える可能性があり、世界中が注目しています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になってください。

【私の論評】フランス国民連合の躍進:移民政策の失敗と保守派台頭の真相

まとめ
  • 国民連合を「極右政党」と呼ぶのは不適切であり、「保守派政党」または「右派政党」と表現すべきである。
  • マクロン政権の移民の大量受け入れ政策が、フランス社会に深刻な問題(治安悪化、社会保障負担増、文化的摩擦)をもたらした。
  • 国民連合は移民規制強化や国家主権保護を訴え、具体的な対策(市民権取得厳格化、社会保障給付制限など)を提示し、支持を集めた。
  • 2023年の暴動事件は移民政策の失敗を象徴し、国民の不満を顕在化させ、保守派政党の主張を強める契機となった。
  • マクロン政権の移民政策失敗と社会問題の顕在化が、国民連合など保守派政党の躍進を後押しした。
上の元記事は、NHKニュースのものですが、国民連合を「極右政党」と形容することは不適切であり、不当であると言えます。国民連合の主張は、実際には伝統的な保守派の価値観や政策に沿ったものが多く、国家主権、文化的アイデンティティの保護、移民政策の厳格化などは典型的な保守的立場です。「極右」という言葉は、ファシズムや人種差別主義を連想させがちですが、国民連合の現在の政策はそのようなイデオロギーとは異なります。

さらに、「極右」という表現を安易に使用することで、政治的スペクトラムが歪められ、中道右派や穏健な保守派との区別が曖昧になってしまいます。国民連合を支持する多くの有権者は、自身を極右とは考えておらず、むしろ伝統的な保守的価値観を持つ市民です。「極右」というラベルは、これらの有権者の意見や懸念を不当に軽視することになります。

メディアには、政党を公平に報道する責任があります。「極右」という偏った表現を使用することは、この責任を果たしていないと言えるでしょう。したがって、国民連合を「極右政党」ではなく「保守派政党」あるいは「右派政党」と表現し、その具体的な政策や主張を詳細に報道することが、より正確で公平な情報提供につながります。これにより、有権者は偏見にとらわれることなく、政党の実際の立場や政策を理解し、判断することができるようになるでしょう。

これは日本の有権者も同様であり、世界の政治の潮流を正しく理解する助けになるはずです。その意味では、NHKは政党を公平に報道する責任を果たしているとは言い難いです。

国民連合第2代党首現在議員団長のルペン氏

フランスで保守派政党が躍進した背景には、マクロン政権による移民の大量受け入れが社会に大きな混乱をもたらしたことが重要な要因として挙げられます。

マクロン政権は当初、人材不足の分野での外国人労働者の受け入れ拡大を目指していましたが、この政策は結果として無秩序な移民の流入を招き、フランス社会に深刻な問題をもたらしました。特に、治安の悪化や社会保障制度への負担増加、文化的摩擦の拡大などが顕著となり、多くのフランス国民の不満を高めることとなりました。

この状況下で、保守派政党、特に国民連合(RN)は、移民規制の強化や国家主権の保護を訴え、多くの有権者の支持を集めることに成功しました。彼らは、マクロン政権の移民政策が国の安全と伝統的な価値観を脅かしていると主張し、具体的な対策を提示しました。

国民連合(RN)が提示した具体的な移民政策対策には以下のようなものがあります:
1. 市民権取得の厳格化:少なくとも一方の親がフランス人である場合にのみ市民権を付与する方針を提案しました。
2. 不法移民の正規化手続きの厳格化:不法移民を正規の移民とする手続きをより厳しくすることを提案しました。
3. 移民への社会保障給付の制限:移民に対する住宅や医療などの手厚い手当を厳格化する内容を含む修正法案を提出しました。
4. 長期滞在許可証発行の条件付け:フランス語の習得と共和国の価値観の尊重を条件とすることを提案しています。
5. 犯罪歴のある外国人の強制送還:犯罪を犯した外国人や公共の秩序を脅かす過激化した外国人を国外退去させる方針を示しました。
6. 家族呼び寄せビザの廃止:家族再結合のためのビザ発給を停止する提案をしています。
7. 亡命申請の国外処理:亡命申請をフランス国外で処理する制度の導入を提案しています。
8. 移民クォータ制の導入:固定的な移民受け入れ数の設定を提案しましたが、憲法違反とされました。
9. 「国民優先」制度の導入:フランス国民に住宅や雇用へのアクセスで優先権を与え、一連の社会保障給付をフランス国民に限定する法制度を提案しています。
これらの提案は、移民の流入を厳しく制限し、フランス国民の利益を優先する方針を反映しています。国民連合は、これらの政策がフランスの国家主権を守り、伝統的な価値観を保護すると主張しています。

さらに、2023年に起きた暴動事件(写真下)は、移民政策の失敗を象徴する出来事として国民の記憶に深く刻まれました。この事件は2023年6月、パリ郊外で警察官による17歳の若者射殺事件をきっかけに、フランス全土で大規模な暴動が約1週間続いたものです。射殺された17歳の若者ナエル・M氏は、フランス国籍を持っていましたが、アルジェリア系の移民の子孫でした。


この暴動では、多数の車両や公共施設が破壊され、略奪行為も発生しました。この暴動の参加者は主に、移民の背景を持つフランス国籍の若者たちでした。この事件は、フランスの移民政策の失敗と社会の分断を象徴するものとなり、特に移民や移民の子孫が多く住む郊外地域の若者の不満や社会的疎外感を顕在化させました。

マクロン政権は警察力の動員や夜間外出禁止令などで対応しましたが、根本的な社会問題の解決には至りませんでした。この暴動は、フランスの移民・社会統合政策の見直しの必要性を強く認識させ、政治的議論を活発化させるとともに、極右政党の主張を強める契機ともなりました。

国民連合のルペン議員団長は、この暴動の原因を「無秩序な移民受け入れ」に求め、政府の政策を厳しく批判しました。

このような社会的背景の中、マクロン政権は移民規制を強化する法案を提出せざるを得なくなりましたが、これは逆説的に保守派政党の主張の正当性を裏付ける結果となりました。

法案の可決過程では、与党内でも亀裂が生じ、マクロン大統領の求心力低下が鮮明になりました。

9日、パリで、欧州議会選の投票終了後に集まるフランスの保守政党「国民連合」の支持者ら

一方で、保守派政党は購買力の向上や年金制度の見直しなど、経済面でも具体的な政策を提示し、幅広い層からの支持を獲得しました。彼らは、移民問題だけでなく、フランス国民の日常生活に直結する課題にも焦点を当てることで、より包括的な政策パッケージを提示することに成功しました。

結果として、マクロン政権の移民政策の失敗と、それに伴う社会問題の顕在化が、保守派政党、特に国民連合の躍進を後押しする形となりました。フランス国民の間で、自国の伝統的な価値観や生活様式を守りたいという意識が高まり、それが保守派政党への支持拡大につながったと言えるでしょう。

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2024年6月29日土曜日

死亡の警備員、車道に出た抗議女性を止めようとしたか 辺野古ダンプ事故―【私の論評】沖縄辺野古で違法抗議活動が招いた悲劇:法秩序と国家安全保障の重要性

死亡の警備員、車道に出た抗議女性を止めようとしたか 辺野古ダンプ事故


 沖縄県名護市安和(あわ)の国道で28日午前、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設に対する抗議活動をしていた女性がけがを負い、警備中の男性が死亡した事故で、県警名護署は同日夜、亡くなったのは名護市の警備員、宇佐美芳和(よしかず)さん(47)だったと明らかにした。抗議活動をしていた那覇市の無職女性(72)は足の骨を折る重傷だった。

 捜査関係者によると、現場は辺野古移設工事に使う土砂を搬出する安和港の近く。土砂を搬入するダンプカーに抗議するため車道に出た女性を宇佐美さんが止めに入り、その際、左折したダンプに2人とも巻き込まれた可能性もあるとみて、事故に至る詳しい経緯を調べている。

 土砂の搬出港付近では、プラカードを持ってダンプカーの前をゆっくりと横断する「牛歩」を行い、土砂の搬入を遅らせようとする市民もいる。ダンプカーにはねられた女性が「牛歩」を行っていた可能性もあり、名護署が周辺の防犯カメラの確認を進めている。

【私の論評】沖縄辺野古で違法抗議活動が招いた悲劇:法秩序と国家安全保障の重要性

まとめ
  • 沖縄県名護市で辺野古移設工事関連の抗議活動中に事故が発生し、警備員1名が死亡、抗議者1名が重傷を負った。
  • 事故の背景には長年の辺野古移設問題があり、「牛歩」などの抗議活動が日常的に行われている。
  • 事故の原因として、抗議活動の影響、安全管理の不備、関係者の判断ミスなど複数の要因が考えられる。
  • 基地反対運動には危険な側面があり、法治国家としての秩序を乱す過激な抗議活動が公共の安全を脅かしている。
  • 安全性の確保と表現の自由の両立のため、全ての関係者が法令を遵守し、建設的な対話を行う必要がある。
事故現場の沖縄県名護市の安和港の出口付近

まず初めに、この痛ましい事故でお亡くなりになった宇佐美芳和さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。突然の出来事で、ご家族やご友人の皆様の悲しみはいかばかりかと思います。

また、負傷された方の一日も早いご回復をお祈りいたします。このような悲劇が二度と繰り返されないよう、私たちは今一度、社会の在り方を見つめ直す必要があります。

2024年6月28日午前10時15分頃、沖縄県名護市安和の国道449号で、米軍普天間飛行場の辺野古移設工事に関連する痛ましい事故が発生しました。この事故では、辺野古新基地建設に使用する土砂を搬出する安和港の近くで、ダンプカーが左折する際に、抗議活動中の72歳の女性と47歳の警備員の宇佐美芳和さんと接触しました。

事故の結果、宇佐美さんは頭部を強く打ち、搬送先の病院で死亡が確認されました。抗議活動に参加していた那覇市在住の女性は足の骨を折る重傷を負いましたが、意識はあるとのことです。

この事故の背景には、長年続く辺野古移設問題があります。安和港周辺では日常的に抗議活動が行われており、「牛歩」と呼ばれる戦術も使用されています。これは、プラカードを持ってダンプカーの前をゆっくりと横断することで、土砂の搬入を遅らせようとする方法です。

目撃者の証言によると、事故直前に82歳の女性が「牛歩」による抗議を行おうとしたところ、宇佐美さんがそれを止めようとし、それを見た72歳の女性が抗議したという状況があったようです。この時、出入り口付近で停止していたダンプが発進し、2人と衝突したとされています。

牛歩戦術でダンプの前をかなりゆっくり歩いて横断する活動家たち

事故を受けて、玉城デニー沖縄県知事は防衛局に対して土砂搬出作業の中止を求めるとともに、事故の原因究明と安全対策の実施を要求しました。また、沖縄県警名護署が事故の詳しい経緯を調査中で、周辺の防犯カメラの確認を進めています。

この事故は、辺野古移設問題をめぐる緊張状態を反映しており、工事の安全性と抗議活動のあり方について、さらなる議論を呼び起こす可能性があります。現場では規制線が張られ、機動隊が警戒に当たっており、地域社会に大きな影響を与えています。

この事故の原因を推測するには、複数の要因を考慮する必要があります。事故現場の状況、抗議活動の影響、人的要因、環境要因、そして組織的要因が複雑に絡み合っていると考えられます。

具体的には、ダンプカーの運転手の判断ミスや注意不足、「牛歩」などの抗議活動による通常とは異なる道路状況、警備員と抗議者の予期せぬ動き、工事現場周辺の安全管理体制の不備、そして抗議活動と工事の両立に関する対策の不足などが考えられます。

沖縄の基地反対運動は、戦後長年にわたる過重な米軍基地負担、辺野古の豊かな生態系を守る環境保護の観点、そして新基地建設が地域の平和と安全を脅かすという懸念から生まれています。しかし、この運動には危険な側面もあります。

今回の事故の原因となった「牛歩」戦術のような抗議行動は交通事故のリスクを高め、工事関係者と抗議者の対立による緊張状態は双方の判断力を低下させる可能性があります。さらに、日常的な抗議活動により工事現場周辺の安全管理が複雑化し、予期せぬ事態が発生するリスクも高まっています。これらの要因が絡み合って今回のような痛ましい事故につながったと考えられ、今後は安全性の確保と表現の自由の両立が課題となるでしょう。

沖縄の基地問題をめぐる状況は複雑で、長年の課題が積み重なっています。一部の過激な抗議活動は、法治国家としての秩序を乱し、公共の安全を脅かす結果となっています。「牛歩」戦術や危険な場所での座り込みなどの行為は、これからも今回のような痛ましい事故を引き起こす原因となり得ます。

危険な場所での座り込み

沖縄県には、こうした危険な抗議活動を適切に管理し、市民の安全を確保する責任があります。同時に、活動家たちも自らの行動が及ぼす影響を十分に認識し、法令を遵守しながら平和的な方法で主張を表現すべきです。

政府は、地域の安全と法秩序の維持のため、より積極的に介入し、必要な措置を講じる必要があります。これには、違法な抗議活動に対する厳格な法執行や、安全な抗議の場の提供などが含まれます。

今回の事故を契機に、全ての関係者が自らの役割と責任を再認識し、法と秩序の枠内で対話を進めることが重要です。そうしなければ、同様の事故が繰り返される危険性は高いままです。

安全性の確保と民主主義的な表現の自由の両立は可能です。しかし、それには全ての当事者が法令を遵守し、互いの立場を尊重しながら、建設的な対話を行う姿勢が不可欠です。この事故を教訓に、より安全で秩序ある社会の実現に向けて、具体的な改善策を講じていくべきです。

さらに、この事故は、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさが増す中、国内での安全保障政策の実施における課題を浮き彫りにしています。政府は、国家安全保障戦略に基づき、地域の理解を得ながら安全保障政策を進める必要があります。

この事故を契機に、国家安全保障と地域社会の安全の両立、そして「法の支配」の確立について、より深い議論と具体的な対策をすべきです。

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