2024年10月30日水曜日

【解説】首相は誰に? 1回目の投票で過半数「233議席」獲得へ…国会議員の間に浮上する“3つの案”とは?―【私の論評】4つ目の案自民党総裁選の可能性とは?石破総裁辞任と高市氏新総裁待望論の背景と展望

【解説】首相は誰に? 1回目の投票で過半数「233議席」獲得へ…国会議員の間に浮上する“3つの案”とは

まとめ
  • 特別国会の首相指名選挙に向け、過半数を目指す3つの案が検討されている。
  • 1つ目は「与党+一本釣り」で、自民・公明党が野党無所属議員を取り込み、石破首相続投を狙う案。
  • 2つ目は「野党大連合」で、複数野党が協力して立憲民主党の野田氏を首相に推す案。
  • 3つ目は「与党+国民民主党」で、国民民主党の玉木氏を首相に据える案が浮上している。
  • 現段階での実現可能性は不明であり、決選投票に持ち込まれる可能性が高い。
日テレの報道

 来る特別国会での首相指名選挙をめぐり、与党が過半数を割る中で、政界に緊張が走っていることが、日テレニューで報道された。日テレでは、11月11日に召集される見込みの特別国会で行われる首相指名選挙において、1回目の投票から過半数の議席を獲得するための3つの案が浮上している。

 第一の案は「与党+一本釣り」で石破首相の続投を図るものだ。自民党と公明党の議席に加え、非公認や無所属の議員、さらには野党議員に個別に働きかけて233議席の確保を目指すというものだ。

 第二の案は「野党の大連合」で、立憲民主党を中心に維新、国民民主党、れいわ新選組、共産党、参政党、社民党といった野党勢力を結集させ、235議席を確保するというものだ。この場合、最大野党である立憲民主党の野田代表が首相に就任する可能性が高い。

 そして第三の案として、「与党+国民民主党」で国民民主党の玉木代表を首相に据えるという、いわゆる「ウルトラC」的な案も密かに浮上している。この案が実現すれば243議席となり、過半数を確保できる。しかし、玉木代表は現在、連立入りを否定しており、この提案を受け入れるかどうかは「究極の選択」となるだろう。

 これらの案は、1994年に自民党が長年対立してきた社会党と手を組み、村山富市氏を首相に担ぎ上げた過去の例を想起させる。しかし、現時点ではいずれの案も実現可能性は不確実でだ。そのため、各党がノーガードで首相指名選挙に臨み、結果として決選投票に持ち込まれる可能性が高い。

 この状況下で、国民民主党の玉木代表の動向が注目されている。玉木代表は現在、石破内閣との連立や閣僚就任を否定しているが、首相の座を提示された場合、政策実現の絶好の機会と批判を浴びるリスクの間で難しい判断を迫られることになるだろう。

 最終的な結果は依然として不透明であり、特別国会までの間に様々な政治的駆け引きや交渉が行われると予想される。この首相指名選挙の行方は、日本の政治の今後を大きく左右する可能性があり、国民の関心も高まっている。政治家たちの決断と、それに伴う政局の展開が注目されるところだ。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。


【私の論評】4つ目の案
自民党総裁選の可能性とは?石破総裁辞任と高市氏新総裁待望論の背景と展望

まとめ
  • 自民党内の不満が増大し、石破総裁の辞任を求める声が強まっている。
  • 党内保守派は、石破総裁の辞任を求めるため、両院議員総会を開催するのは現実的な案である。
  • 過去の敗北時には、総裁が責任を取って辞任するのが自民党の慣例である。
  • 石破氏辞任後に、総裁選が行われれば、党内保守層の支持を得る高市氏が有力候補として浮上する可能性が高い。
  • 高市氏が総裁になれば、自民党内外の支持基盤強化や、経済・外交・安全保障政策の推進につながる可能性が高まる。

過去の自民党両議院総会

上の記事の三つの案以外に、第四の案が存在する。それは自民党が両院議員総会を開き、石破総裁を辞任に追い込むというものだ。これは単なる勢力争いにとどまらず、党内の存亡をかけた試練である。総裁辞任後には総裁選が行われ、新たな総裁が選出される。その後、首班指名選挙に臨む形になるが、この案はマスコミや自民党リベラル派議員が最も忌避される案だろう。

だが、彼らがどう考えようと、党内の保守派や選挙戦略上の危機感を持つ議員たちにとって、これこそが「選択肢の一つ」として現実味を帯びつつあるのである。

そもそも、石破総裁が辞任を表明していないこと自体が、党内の反発と不満を増幅させている。自民党の歴史を振り返っても、大敗を喫した総裁が責任を取って辞任することは、ある種の伝統であり、例外はない。

2012年、衆院選で民主党が歴史的な敗北を喫した際、当時の代表であった野田佳彦氏は潔く辞任した。この時の潔い決断は、政治の世界で責任を取るという厳格な姿勢を象徴していた。

野田佳彦氏

同じく自民党においても2007年、参院選で大敗を喫した安倍晋三総理が辞任し、その直後には福田康夫総理が支持率低迷を受けて辞任を決意している。また、2021年においては、菅義偉総理が衆院選で自民党の議席を大幅に減少させたことを受け、事実上の辞任を表明。岸田総理も次期総裁選に出馬しないと発表し、総裁交代の波が続いている。

こうした過去の流れを見れば、今回もまた、党内で石破総裁の辞任を求める声が高まるのは当然の帰結である。

さらに、2025年の参院選が迫る中、特に参院議員たちは石破総裁のもとで戦うことに不安を抱いている。国民の間では支持率低迷に対する不満が根強く、このままでは選挙戦で大敗するリスクがあるため、新たなリーダーシップを求める声が党内で強まっているのだ。

両院議員総会は、こうした危機的状況に対応するために、党内の重要な意思決定の場であり、必要に応じて臨時に開催されることもある。過去の選挙結果を受けて緊急の対応を行い、迅速に方向性を定める場としても機能してきた。万が一、今回石破総裁辞任が両院議員総会で決議されるならば、それは前例のない一大事であり、党史に刻まれる出来事となろう。

仮に総裁選が行われるとすれば、前回次点であった高市氏が有力候補として浮上するが、彼女の勝利が確実であるとは言えない。しかし、もし高市氏が総裁となれば、自民党の内外での支持基盤が強化される可能性が高い。

高市氏は今年の総裁選においても第一回投票で多くの票を得ており、党内の保守層からは強い支持を受けている。また、高市氏は自民党初の女性総裁候補として女性の政治参加を象徴する存在である。これにより、女性有権者の支持を集めるのみならず、党内における女性活躍の推進という課題にも応えられるという利点があるのだ。


高市氏は経済政策においても、積極財政と金融緩和を基盤とした成長戦略が打ち出されている。経済の低迷に苦しむ現状において、こうした政策は日本経済の復活の糸口となるだろう。実際、高市氏は経済政策において「デフレからの脱却」を掲げており、そのための具体策を提示してきた。

たとえば、財政支出の拡大と同時に地域経済の活性化に力を入れることで、都市と地方の格差解消にもつながるとされる。加えて、彼女の外交・安全保障政策も堅実であり、台湾有事や北朝鮮の脅威に対する対策が盛り込まれている。これらの対策は、アジア地域の安全保障情勢を踏まえたものであり、日米同盟を基軸とした防衛強化にも資するものである。このような高市氏の政策の堅実さは、国民の安全を第一に考えたものであり、幅広い層からの支持を集めやすい。

さらに、高市氏のリーダーシップの下であれば、国民民主党との連携もスムーズに進む可能性がある。国民民主党もまた積極財政を掲げており、経済政策において方向性が一致する部分が多い。これにより、連立政権を組む際にも、両党が協調して政策実行に向かうことが期待される。

高市氏が新総裁となることで、自民党内の結束が強化されるのみならず、新たな支持層の開拓にもつながる。自民党は今、大きな転機を迎えているが、この歴史的な場面で、高市氏というリーダーを迎えることで、真の変革を果たす機会を得ることができるのだ。

結論として、高市氏を総裁に迎えることは、経済再生から外交・安全保障の安定まで、多岐にわたる政策課題に対応する上で最も効果的である。経済、外交、安全保障において確かなビジョンと実行力を持つ彼女こそが、党内外から信頼され、次世代のリーダーとして国を牽引するにふさわしい存在であろう。

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2024年10月29日火曜日

<北極圏を侵食する中国とロシア>着実に進める軍事的拡大、新たな国の関与も―【私の論評】中露の北極圏戦略が日本の安全保障に与える影響とその対策

<北極圏を侵食する中国とロシア>着実に進める軍事的拡大、新たな国の関与も

岡崎研究所

スヴァールバル諸島の位置

スヴァールバル諸島はノルウェーの主権下にあるが、1920年の条約により加盟国は経済活動や研究を自由に行える特殊な地位にある。この島々は現在、中露両国が北極圏での影響力と軍事プレゼンスを拡大する戦略的な拠点となっている。

中露の軍事化の動きは顕著で、ロシアはウクライナ侵攻後、軍事パレードや正教会の十字架の設置などを行い、さらには議員がテロリスト用の刑務所建設を提案するなど、強硬な姿勢を見せている。一方、中国も北極圏への関与を深めており、新たな砕氷船の建造や、北極圏から900マイル離れた場所に位置づける「近北極圏」国家として自らを宣言している。中国はスヴァールバルに「黄河」と名付けられた研究施設を運営し、軍事的な研究を含む活動を行っている。

スヴァールバル諸島の戦略的重要性は、その位置から来ている。ベア・ギャップと呼ばれる海域を通じてノルウェー本土と結ばれ、またロシアのコラ半島の北に位置し、軍事的な観点から非常に重要なエリアだ。ロシアは、もし紛争が起これば、このベア・ギャップを封鎖することで西側からの進入を防ごうとする可能性がある。


経済活動面では、中国は3Dマップ作成のためのレーザー技術研究や、キルケネス港の拡張計画に関心を示すなど、積極的に土地やインフラへの投資を進めている。しかし、ノルウェー政府は最近、中国の3億ドル以上の土地買収計画を阻止した。

このような地政学的な動きは、スヴァールバル諸島の住民に不安を引き起こしており、特に2022年以降、信頼の崩壊が指摘されている。

さらに、インドも北極圏への関心を示し、ロシアとの連携を強化しており、中露だけでなくインドも含めた大国間のパワーバランスが今後の北極圏の動向を左右する可能性がある。以上の状況から、スヴァールバル諸島は国際的な緊張の火種となる可能性があり、各国間の軍事協力や対立がますます複雑化していることが伺える。

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【私の論評】中露の北極圏戦略が日本の安全保障に与える影響とその対策

まとめ
  • 中露の北極圏拡大: ロシアと中国は北極圏での軍事プレゼンスを強化し、特にロシアは北方艦隊の防衛体制を再編成している。中国も「氷上シルクロード」構想を推進し、資源開発に積極的である。
  • スヴァールバル諸島の重要性: スヴァールバル諸島はノルウェーの主権下にあり、加盟国は自由な経済活動が可能だが、現在中露の影響力拡大のための戦略的拠点となっている。
  • 日本への影響: 北極圏での中露の軍事活動は、日本にとって新たな安全保障上の脅威となり、エネルギー供給の安定性にリスクをもたらす。
  • 過去の日本の取り組み: 日本は北極政策を策定し、国際的な協力や研究を進めてきたが、中露の影響下に置かれる可能性のある北極海航路の動向を注視する必要がある。
  • 安全保障政策の再検討: 北極圏の動向に対応するため、日本は安全保障政策を見直し、国際的な協力を強化することが求められている。


2022年夏、北極圏をめぐる地政学的緊張が高まる中、ロシアと中国はこの地域での影響力を強化し、軍事プレゼンスの拡大に注力している。ロシアのプーチン大統領は、7月に改訂された「ロシア連邦海洋ドクトリン」を通じ、北極圏を戦略的優先地域とし、北方艦隊の防衛体制を強化する方針を打ち出した。特に、北極海航路沿いでの防衛強化が強調され、これは資源保護のみならず、NATOに対する警戒も意識したものである。

また、8月にはNATOのストルテンベルグ事務総長(当時)がカナダを訪れ、ウクライナ紛争以降の北極圏における地政学的な変化を懸念し、中国とロシアの戦略的連携をリスクとして指摘した。

中露の北極圏での影響力拡大はスヴァールバル諸島にとどまらず、ロシアが北極圏内で再開発を進める旧ソ連時代の軍事基地や、新設された施設もその例である。ロシアはフランツ・ヨーゼフ諸島やノヴァヤゼムリャに新たな軍事インフラを構築し、対空ミサイルシステムや新型レーダーを配備し、地域における軍事力を強化している。さらに、ノルウェーに近接するコラ半島にも潜水艦基地を増強し、北極海航路沿いでのロシアの存在感を高めている。このような施設増強は、ロシアが北極圏全体を支配する能力を増強し、NATOとの対峙の場を拡大する意図を示している。

一方、中国も「氷上シルクロード」構想の一環として北極開発を積極的に進め、ヤマルLNGプロジェクトへの大規模投資を行っている。具体的には、中国企業がこのプロジェクトに対して約270億ドルを投資したとされ、これはロシアの天然ガスをヨーロッパやアジアに輸出するための重要なインフラとなる。

さらに、中国はロシアとの連携を強化し、北極圏での資源確保や軍事協力を進展させており、両国の連携は軍事演習にも及んでいる。近年では「海洋安全保障と環境保護」を掲げた合同演習が実施され、北極圏での戦略的パートナーシップが強固になっている。これらの活動は、単なる経済的影響にとどまらず、軍事的なプレゼンス拡大も意図されている。

さらに、グリーンランドやアイスランドにも中国の関与が増加している。中国はこれらの地域で科学調査やインフラ投資を進め、北極圏全域における影響力を強化している。例えば、グリーンランドにおける鉱山開発プロジェクトへの投資を通じて、中国は現地政府と密接な関係を築きつつあり、これは米国や西側諸国にとって戦略的懸念となっている。

アイスランドにおいても、中国は海底ケーブルの敷設計画を推進し、通信インフラを通じた地域での影響力拡大を図っている。これらの動向は、中国が北極圏における物理的プレゼンスを確立し、北極海航路を利用した貿易ルート確保を目指していることを示している。

北極圏の動向は日本の安全保障にとっても深刻な影響をもたらす。北極圏での中露の軍事活動は、従来の南西方面からの脅威に加え、北からの新たな安全保障上の挑戦となる。日本は、北極海航路が中国とロシアの影響下に置かれると、エネルギー供給の安定が揺らぎ、経済的にも不安定さが増すリスクに直面することになる。

特に、エネルギー輸送路が制限される可能性があるため、日本は北方防衛を含めた安全保障政策の再検討が求められる。ロシアが北極圏での活動を強化する中、日本は北方領土問題や周辺海域の安全保障についても、さらなる警戒が必要になる。

北極圏の軍事プレゼンス強化は、ロシアの北方艦隊がアジアにまで影響力を拡大する可能性を含んでおり、特に日本海やオホーツク海周辺での軍事的緊張を高める要因となる。2021年には、ロシアが北方艦隊を使って日本海での軍事演習を行い、その一部は北極圏での行動を模したものとされている。

これは、北極におけるロシアの軍事活動が、日本周辺地域に直接的な影響を与えることを示唆している。中国も北極圏での影響力拡大を通じて、日本周辺への圧力を増強する姿勢を示しており、これらの動向は日本の経済的安定および安全保障に対する直接的な脅威となり得る。北極圏の緊張が高まる中で、日本は安全保障政策を包括的に見直し、国際的な協力を強化する必要がある。

北極の白熊とパンダ AI生成画

これまで日本は北極圏に向けた様々な取り組みを行ってきた。特に、2009年には北極政策の基本方針を策定し、北極圏の持続可能な開発と環境保護を重視した。また、2012年からは「北極に関する国際協力のための日本アークティック会議」を開催し、国内外の専門家を招いて、北極問題に関する研究や情報交換を進めている。

さらに、2016年には日本が北極評議会にオブザーバーとして参加することが認められ、国際的な議論に積極的に関与する姿勢を示している。これらの活動は、日本が北極圏における持続可能な開発と安全保障の両面でのリーダーシップを発揮しようとする努力の一環であり、国際社会における存在感を高める狙いも含まれている。

2019年には日本が「北極海航路」の商業利用に向けた調査を行い、これに関する報告書を発表した。北極海航路は、従来の航路に比べて輸送時間を短縮できる可能性があり、日本にとって経済的なメリットが期待されている。

しかし、この航路が中露の影響下に置かれる場合、日本のエネルギー供給や経済活動が脅かされる恐れがあるため、日本は北極圏における動向を注視し続ける必要がある。日本のこれらの取り組みは、北極圏の変化に対する対応を強化するための重要なステップであるが、新たな脅威への備えも不可欠となる。

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2024年10月28日月曜日

与党過半数割れで少数与党か石破退陣か連立再編か…まさかの政権交代も 衆院選開票後のシナリオは―【私の論評】高市早苗の離党戦略:三木武夫の手法に学ぶ権力闘争のもう一つのシナリオ

与党過半数割れで少数与党か石破退陣か連立再編か…まさかの政権交代も 衆院選開票後のシナリオは

まとめ
  • 自民・公明の与党は衆院選で大幅に議席を減らし、過半数を割り込む見通しとなった。今後のシナリオは以下のようなことが考えられる。
  • 第一のシナリオは、石破首相が続投し少数与党体制を維持する案であり、立憲民主党の野田との首班指名決選投票になる可能性がある。
  • 第二のシナリオは、石破が退陣し、高市早苗などの新総裁を立てる案であるが、党内分裂の懸念もある。
  • 第三のシナリオは、立憲民主党や維新、国民の一部が連立に加わる大連立構想だが、各党間の対立があり実現は容易でない。
  • 自民中心の安定期から、多党による連立政権を形成する不安定期へと日本の政治が移行するのは間違いないだろう。


衆院選で自民・公明両党は大幅に議席を減らし、過半数の233議席を割り込む見通しだ。選挙戦中に浮上した政治資金不記載問題や非公認議員への送金疑惑が、与党の支持率を急速に低下させた結果である。今後の政権運営にはいくつかのシナリオが考えられる。

第一のシナリオは、石破首相が続投し少数与党として政権運営を続ける場合だ。立憲民主党、維新、国民民主党がいずれも連立に加わらなければ、石破はそのまま特別国会の首班指名に臨むだろう。この場合、立憲の野田佳彦と決選投票になる可能性が高い。自民党は維新と国民に「白票=棄権」を依頼し、「予算成立後の石破退陣」を条件とする可能性もある。

第二のシナリオは、石破が惨敗の責任を取って退陣し、新たな自民党総裁が特別国会前に選出されるというものだ。この場合、僅差で2位だった高市早苗が有力とされるが、現執行部が林芳正や加藤勝信を後継に据える案もある。しかし、こうした動きが党内分裂を招く恐れもある。

第三のシナリオは、立憲民主党、維新、国民のいずれかが連立に加わることである。立憲は野田が代表に就任し、原発ゼロや消費減税といった公約を削除し、自民党に歩み寄る姿勢を示しているが、大連立の実現は難しいだろう。維新と国民が連立に加わる場合でも、自民・公明・維新・国民の4党連立が必要となり、複雑な政権構成が求められる。

これらのシナリオを通して、日本は安倍、菅、岸田の3代にわたる自民中心の安定期から、多数政党が連立を組む不安定期に移行することが予想される。

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【私の論評】高市早苗の離党戦略:三木武夫の手法に学ぶ権力闘争のもう一つのシナリオ

まとめ
  • 高市早苗氏が20名以上の議員を引き連れ、自民党からの離党をほのめかすことで、党内のキャスティング・ボードを握る戦略が考えられる。
  • 1970年代の三木武夫が実践した「三木おろし」の手法と類似しており、党内の権力闘争における重要な要素である。
  • 三木は「クリーンな政治」を掲げつつも、権力掌握のために手段を選ばぬ策略を用い、党内での立場を強化した。
  • 高市氏は離党の意志をちらつかせることで、党内交渉における優位性を確保し、新たな保守系グループを形成する可能性がある。
  • 彼女の戦略は自民党内の派閥対立を激化させる一方、保守政策を実現する道を開く可能性があり、党の未来に大きな影響を与えることが考えられるが、今後の自民党の命運を握る鍵となるのは間違いない。
高市早苗氏

上記のシナリオに加えて、他の可能性も考えられる。それは、高市早苗氏が20名以上の議員を引き連れ、自民党からの離党をちらつかせることで、党内でのキャスティング・ボードを握るという戦略である。この手法は、1970年代に三木武夫が実践した「三木おろし」への対応策に似た動きであり、党内の権力闘争の鍵を握るものである。

「三木おろし」は、三木武夫首相が党内の反発を受けて失脚した自民党内の権力闘争である。三木は「クリーンな政治」を掲げ、特にロッキード事件に対して厳格な姿勢を示し、金権政治を批判したが、これにより田中角栄派などの有力派閥との対立が激化した。

しかし、この「クリーンな政治」の姿勢はあくまで権力を掌握するための建前であり、実際には手段を選ばぬ立ち回りで党内での立場を強化しようとしたのだ。彼の戦略は、表向きの理想と裏に潜む政治的計算が交錯する複雑なものであった。

三木派は1970年代初頭、約20~30人の議員で構成されていた。これは自民党内の主要派閥に比べて少なく、田中派や福田派に対しては明らかに劣っていた。しかし、三木は党内抗争や派閥間のパワーバランスを巧みに利用し、与党内での影響力を高めていった。彼は一度党外に出ることで「保守本流」に異議を唱え、再び戻ることで自らの立場を確立する柔軟さを持っていた。この巧妙な戦略により、三木は自らの派閥を守りながら、党内での優位性を確保したのである。

三木武夫

高市氏もこの手法を模倣しつつも現在の状況に適応させつつ、実際に離党するしないかは別にして、離党の意志をちらつかせることで党内交渉における優位性を確保し、自民党執行部や主流派に圧力をかけることができる。彼女が支持する議員を伴うことで、新たな保守系グループを形成し、少数派でも政権運営における重要なキャスティング・ボートの役割を果たす可能性がある。

特に、自公が過半数割れの状況に陥った現在、少数派の離党は強力な交渉手段となり得る。高市氏は、党内の保守層や積極財政派、石破に対して恨み骨髄に徹する旧安倍派等を味方に引き入れることで、さらなる影響力を持つことを狙う可能性がある。

この戦略は自民党内の派閥対立を激化させ、党全体の統一性を損なう可能性があるが、おそらく連立内閣運営において高市派の要求が通りやすくなる結果も招く。現政権や次期連立政権の政策方針に影響を与え、高市氏が狙う「自主憲法制定」、「防衛力強化」、「積極財政」といった保守的政策を実現する道が開かれるかもしれない。このシナリオは、党内外の力学を巧みに操ることで、自民党政権の未来を大きく左右するものとなり得る。


ただし、高市氏がすぐにこの戦略を実行することは考えにくい。ここしばらくは、様子見をするだろう。来年の参院選が近づくにつれて、石破おろしの風が実際に吹き始める頃に、明らかになるかもしれない。本来は、石破や岸田などが、三木のような動きをすべきとも思うが、彼らにはそのような度量も知恵もなさそうだ。

この状況下で、高市氏がどのような動きを見せるか、そして自民党の運命をどのように変えるかは、政治の行く末にとって非常に重要な要素となる。この戦略が成功すれば、高市氏は自らの地位を一層固め、さらなる権力の座を手に入れる可能性がある。彼女の動きは、今後の自民党の命運を握る鍵となるのは間違いない。

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2024年10月27日日曜日

ロシア派兵の賭けに出た金正恩―【私の論評】体制の脆弱さを浮き彫りにする北のロシア派兵

ロシア派兵の賭けに出た金正恩

まとめ
  • 北朝鮮がロシアに現在まで3000人余りを派兵し、12月ごろには計1万人余りを派兵すると予測。
  • 「朝露包括的戦略的パートナーシップ条約」による具体的行動として注目。
  • 北朝鮮のロシアへの派兵は、危機脱出を狙う金正恩にとって大きな賭け。


韓国の国家情報院は、北朝鮮がロシアに兵力を派遣していると発表した。具体的には、特殊部隊「暴風軍団」から1万2000人規模の兵士がウクライナ戦争に参加し、すでに1500人以上がロシア極東部に移動したことを確認。さらに、計1万人以上が12月までに派兵される見込みである。報酬は月2000ドルとされる。

ウクライナのゼレンスキー大統領や米国のオースティン国防長官も北朝鮮のロシア派兵を認めた。これにより、北朝鮮とロシアの関係は事実上の「血盟関係」となり、6月の「朝露包括的戦略的パートナーシップ条約」に基づく行動と見られる。

北朝鮮は公式に派兵を否定したが、金与正の談話では明確な言及を避けた。金正恩政権は体制危機から脱するためにこの措置を取ったと考えられ、派兵による報酬やロシアとの協力で軍事・経済力を強化しようとしている。

韓国の尹錫悦大統領は緊急安保会議を開き、北朝鮮の行動を重大な安保脅威と位置付け、ロシアとの軍事協力進展に応じた段階的対応を示唆。ウクライナへの攻撃用武器支援も視野に入れている。

北朝鮮のこの賭けが成功するかは不透明で、戦死や捕虜、脱走のリスクがある。また、ロシアの敗北は金正恩政権に壊滅的な打撃を与える可能性がある。

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【私の論評】体制の脆弱さを浮き彫りにする北のロシア派兵

まとめ
  • 北朝鮮兵士がロシアで働くことで得られる収入は北朝鮮にとって大金だが、国家規模では日本の県単位交付金程度で影響力は限定的。
  • 金正恩は、韓国への敵意を強調し国内の統制を図り、韓国文化の浸透や経済制裁による国内不満を抑制しようとしている。
  • 南北間の緊張が高まっているが、金正恩の目的は韓国を「敵」と見なして国内の危機感を煽り、体制維持を図ることにある。
  • 核の威嚇はかつてほど効果的でなく、ウクライナ戦争で核使用の恫喝を外交カードに使うこと限界が明らかになった。
  • ロシアとの協力を通じて核やミサイル技術の強化を図る一方、ロシアに頼らざるを得ない北朝鮮の脆弱性が浮き彫りになっている。
上の記事には、北朝鮮兵がロシア受け取る賃金が、毎月2000ドルとされていたので、仮に、1万ニ千人の北朝鮮兵が毎月2000ドルの賃金を3年間受け取ったとして全額でいくらになるか計算し、さらに、その総額を日本円に換算してみると、1296億円という結果となった。計算過程はこの記事の一番下に資料として掲載する。

ウクライナで戦う北朝鮮兵士ら AI生成画像

しかし、これは個人レベルでは大きな額かもしれないが、国規模の話になるとさほど大きな金額ではない。日本の県単位の交付金と同等かそれ以下であり、特に日本の大都市圏と比べれば小規模な予算に過ぎない。北朝鮮にとっては巨額であっても、国家間の力学を変える規模ではないのだ。

では、なぜ金正恩政権はこうした措置に出たのか。背景には、政権の体制維持への焦りが透けて見える。彼は、派兵やロシアとの協力を通じて軍事力や経済力を強化しようとしている。しかし、この限られた金額が本当に北朝鮮を強化するのかは疑問だ。むしろ、これは逆に北朝鮮の弱体化を証明しているといえる。政権内部には経済制裁や韓国文化の浸透に伴う国民の不満が渦巻き、金正恩は「韓国は敵だ」とのメッセージを強調することで、国民の目を外に向けさせ、自力で耐え忍ぶ覚悟を固めさせようとしている。

最近、北朝鮮は韓国に対して挑発的な態度を強めている。平壌上空への反体制ビラ散布を韓国の仕業と決めつけ、南北の連絡道路や鉄道を爆破し、国境封鎖を強化し、さらには140万の志願兵を動員したと報道されている。これにより、一触即発の緊張が生まれているように見えるが、実際には大規模な軍事衝突には至らない可能性が高い。無人機の侵入も、韓国軍の関与ではなく、むしろ民間団体の行動か、中国の影響の可能性もある。

韓国軍の監視カメラが捉えた東海線(韓国に続く道路)の爆破の様子

金正恩の真の意図は、対外敵対行動を通じて国内の引き締めを図ることにあるのだ。韓国文化の浸透や経済疲弊によって、北朝鮮の体制維持に対する脅威が増大している。金正恩は、この状況を利用して、韓国への敵意を強調し、「韓国は敵である」というメッセージを国民に叩き込み、祖国の存続を外敵の脅威から守るために耐え抜くよう説いているのである。

ただし、1950年の朝鮮戦争以来、韓国が北朝鮮の「敵国」であるのは変わらない事実であり、現在に至るまで休戦状態は続いている。南北関係の危機は、金正恩政権の思惑がどれだけ国民の危機意識を煽ろうとしても、それほど新しいものではない。南北連絡路の爆破が示すのは、韓国文化の浸透が金正恩にとってどれほど大きな脅威と映っているかということを示している。

核を巡る動きも重要な鍵だ。金正恩はかつて核ミサイルの威嚇を通じ、米トランプ大統領との直接会談を実現させるなど、一度は世界の注目を集めた。しかし、今では核による脅威の有効性はかつてほど確固たるものではない。プーチンがウクライナ戦争で核のカードを強く打ち出せず、逆にウクライナの反攻を許している状況は、金正恩に核兵器のリスクを改めて認識させたはずだ。核兵器の威嚇には限界がある。その限界が、ウクライナ戦争によって浮き彫りにされたのだ。

ただし、北朝鮮の核は韓国や日本に向けたものだけではない。事実、北の核は、中国にとっても潜在的な脅威である。北朝鮮とその核の存在が、中国の朝鮮半島への浸透を防いできたともいえる。

北朝鮮は中国からの経済支援を受けてきた一方で、中国による干渉や浸透を強く警戒している。金正恩もまた、金王朝を守るために中国の介入を嫌い、親中派の金正男やその後見人であった張成沢を粛清するなど、国内統制に腐心してきた。このため、金はロシアとの友好に転換を図りつつあり、2019年には、ロシアを訪問したものの目ぼしい成果は得られなかった。

ロシア・ハサン駅に到着した正恩氏=2019年4月24日

しかし、ウクライナ戦争が状況を一変させた。戦局が長期化する中、ロシアは北朝鮮から砲弾やミサイルを求めるようになり、金正恩はこれを好機と捉えた。ロシアとの関係を強化し、核技術やミサイル技術を向上させ、中国の影響力をさらに削ぐ可能性が見えてきた。加えて、中短距離ミサイルの技術向上により、韓国、米国、日本を含む近隣諸国への対抗手段も強化できると考えたようだ。

ただ、自国の命運をウクライナ戦争を実行し、未だに戦争目的を果たせないどころか、その戦争目的すら曖昧になっているロシアに賭けざるを得ない北朝鮮の体制は、かなり弱体化しているとみるのが妥当だろう。

資料
仮に、1万ニ千人の北朝鮮兵が毎月2000ドルの賃金を3年間受け取ったとして全額でいくらになるか計算し円に換算する計算過程を以下に掲載する。

まず、1万2000人の北朝鮮兵が毎月2000ドルの賃金を3年間受け取る総額を計算。
■1人あたりの年間の賃金:
2000ドル×12ヶ月=24000ドル
■3年間の総額:
24000ドル×3年=72000ドル
1万2000人分の3年間の総額:
72000ドル×12000人=864000000ドル

次に、この総額を日本円に換算。為替レートは変動するが、2024年10月時点での大まかなレートを使う。
為替レートが1ドル = 150円と仮定する:
864000000ドル×150円=129600000000円

よって、1万2000人が3年間毎月2000ドルを受取った場合の総額は、日本円で約1296億円になる。
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2024年10月26日土曜日

イスラエルがイラン報復攻撃 首都周辺の軍事基地標的か―【私の論評】中東の緊張と日本の安全保障:イスラエル・イラン対立から学ぶべき教訓

イスラエルがイラン報復攻撃 首都周辺の軍事基地標的か

まとめ
  • イスラエル軍はイランへの報復として、イラン国内の軍事目標を攻撃した。
  • イランがイスラエルにミサイルを撃ち込んだことへの報復措置であり、イスラエルは自衛の権利を主張している。
  • この攻撃は中東の緊張を高める可能性があり、さらなる紛争のリスクを孕んでいる。 
イスラエル軍によるテヘラン近郊の軍事基地への攻撃

 イスラエル軍は、イランがイスラエルにミサイルを撃ち込んだ報復として、26日未明にイラン国内の軍事目標に対する攻撃を開始したと発表した。イランのメディアによると、テヘラン近郊の軍事基地が攻撃され、防空システムが作動したとのされる。詳細な被害状況は不明だ。

 イスラエル軍は、イランとその代理勢力が継続的に攻撃を行っているとして、反撃の正当性を主張している。イスラエルは米国のTHAADシステムを配置し、再攻撃に備えている。再報復があれば、中東全体の緊張が高まる可能性がある。

 イランは今月初め、ハマスやヒズボラの指導者が殺害されたことに対する報復として、イスラエルに大規模ミサイル攻撃を行った。ネタニヤフ首相は報復を予告し、米国は一部理解を示しつつ、石油や核関連など重要施設への攻撃には反対していた。

 この記事は、元記事の要約です。詳細をご覧になりたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】中東の緊張と日本の安全保障:イスラエル・イラン対立から学ぶべき教訓

まとめ
  • 今回のイスラエルの攻撃は石油や核関連施設を標的にせず、軍事施設に限定された。
  • 現代の攻撃手段として、核を搭載しないミサイルやドローンによる精密攻撃が普及し、軍事行動のハードルが低下している。
  • ロシアはウクライナの民間施設をミサイル攻撃の標的にすることにより士気をくじこうとしているが、中国も台湾に対してこのような戦略をとる可能性は否定できない。それどころか、日本もその標的になりかねない。
  • この現実的な脅威に対す安倍晋三氏の取り組みは、敵基地攻撃能力やミサイル防衛体制の強化を通じて抑止力を強化することに焦点を当てていた。
  • 現在の衆院選では、イスラエルとイランの対立や台湾問題を語る候補者が少なく、これらのテーマに触れない候補者には、信頼を置くことはできない。


今回の攻撃には石油や核関連施設は含まれていないようだ。イスラエル軍の情報筋がCNNの取材に応じ、イランへの報復でエネルギーインフラは標的にしないと明かした。情報筋によれば、26日に行われたイラン攻撃は100%イスラエル主導であるが、米国とは防空分野などで深い協力関係が続いているという。また、ネタニヤフ首相を含むイスラエル政府が米国に対し、石油施設や核施設は攻撃対象から外し、軍事施設に限定すると確約したことも明らかにされた。

イスラエルが石油や核施設を重要視するならば、まず最初にそこを叩くはずだ。軍事施設から手をつけ、後回しにするというのは考えにくい。なぜなら、そうすることでイラン側の防御が強まり、攻撃効果が下がるリスクがあるからだ。

このブログでも10月20日の記事で予測していたが、核や石油関連施設には手をつけず、軍事基地などが狙われるだろうという予想が的中した形だ。

イスラエルにとってイランの挑発は一大問題だが、米国が石油施設や核関連施設への攻撃に反対しているため、イスラエルも慎重を期している。もしイランの石油施設を攻撃すれば湾岸地域が不安定化し、原油価格の急騰は世界経済に悪影響を及ぼす。また、イランが報復としてアラブ諸国の産油施設を攻撃する可能性があり、これが中東全体の戦火拡大を招きかねないからだ。中東の戦火拡大は米国もイスラエルも、そしてイランも望まないはずである。

さらに、現代の戦争において重要な要素は、核を搭載しないミサイルやドローンによる精密攻撃である。これらは敵味方の損害を最小限に抑えつつ、特定の軍事目標を正確に狙うことが可能となった。このため、従来よりも軍事力を用いる障壁が低くなったと言える。精密攻撃のハードルが下がったことで、戦争の敷居が下がり、少ないリスクで相手に打撃を与える選択肢が拡大した。

ロシア軍の攻撃を受け破壊されたウクライナの高層住宅

この情勢の中、目を向けたいのが台湾やウクライナである。ロシアがウクライナで行っているのは、民間施設への攻撃を通じて相手国の士気をくじく戦略である。同様に、中国も台湾に対して、必ずしも直接的な侵攻ではなく、ミサイル攻撃などによる威圧行為を繰り返す可能性がある。さらには、日本がその標的になる可能性すら否定できない。これは絵空事ではなく、国際情勢の変化や軍事バランスの移り変わり次第で現実に起こり得るシナリオである。

安倍晋三氏が取り組んだのは、まさにこうした現実的リスクへの抑止力強化である。安倍政権下で「敵基地攻撃能力」が議論され、自衛の範囲内で防衛力を整備し、日米同盟の抑止力を強化する取り組みが進められた。さらに、イージス艦やパトリオット(PAC-3)、イージス・アショアといったミサイル防衛体制の強化も試みられたが、一部の計画は地元の反対で撤回されるなど、課題も残る。

外交面では米国との同盟強化と同時に、ロシアとの関係改善にも注力した。ロシアとの平和条約交渉も試みたが、大きな成果には至らなかった。それでも安倍氏の外交努力は、日本の防衛を支える抑止力の一環として機能していたといえる。


安倍氏の戦略は、軍事力と外交力の両面で抑止力を築き、敵国の攻撃をためらわせるものだ。現在の防衛政策の基盤となっているのは、この抑止戦略である。

現在、衆院選の真っ只中だが、イスラエルとイランの対立や台湾、ウクライナ問題について語る候補者は少ない。この重要なテーマに触れない政治家に、果たして信頼を置けるだろうか。

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2024年10月25日金曜日

半導体ラピダスへ追加支援検討 武藤経産相、秋の経済対策で―【私の論評】安倍ビジョンが実を結ぶ!ラピダスとテンストレントの協業で切り拓く日本の次世代AI半導体と超省電力化

半導体ラピダスへ追加支援検討 武藤経産相、秋の経済対策で

まとめ
  • 武藤容治経済産業相は、ラピダスに対する追加の財政支援について経済対策の中で検討する方針を表明し、必要な支援法案の早期提出を強調。
  • ラピダスは現在工場建設が順調に進んでおり、IBMと連携して技術開発を進め、2025年4月の試作用ライン稼働を目指している。


 経済産業相の武藤容治氏は、次世代半導体メーカー・ラピダスに対する追加の財政支援について、秋の経済対策の中で検討する意向を示した。

 武藤氏はラピダスの工場を視察し、政府としても必要な支援を行うための法案を早期に提出したいと述べた。ラピダスの小池社長は、現在建設中の工場の進捗と、将来的に1.4ナノメートルの半導体製造を計画していることを説明した。ラピダスはIBMと連携し、2025年4月の試作用ラインの稼働を目指している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】安倍ビジョンが実を結ぶ!ラピダスとテンストレントの協業で切り拓く日本の次世代AI半導体と超省電力化

まとめ
  • ラピダスは日本の大手企業8社と政府から巨額の支援を受け、先端半導体の量産を目指している。
  • 顧客確保の課題に対処するため、AI半導体のカナダ企業テンストレントと提携を発表。
  • 提携の焦点は省電力AI半導体の開発で、世界的な電力消費増加への対応が期待されている。
  • 米中対立の中、日本の技術力に注目が集まり、地政学的要因も背景にある。
  • 安倍元首相の国家戦略の影響が、この提携を支えている。


2027年に世界最先端の半導体量産を目指すラピダスが、ついに大きな一歩を踏み出した。ラピダスは、日本を代表する8つの大手企業――ソニー、トヨタ、デンソー、NTT、NEC、ソフトバンク、そして三菱UFJ銀行――からの出資を受け、政府も9200億円という巨額の支援を約束している。日本の技術力を結集し、世界最先端のロジック半導体開発を目指すこの計画は、経済的な価値を生み出すだけではない。防衛の観点からも極めて重要な意味を持つ。

さらに、上の記事にあるように、ラピダスとIBMは先端半導体の開発と製造で提携し、具体的には、半導体の製造工程のうち、特に半導体基板をパッケージに収める「後工程」の技術が対象となっており、ラピダスの技術者はIBMの米国拠点で研修を受ける。この提携は日本の半導体産業の競争力を高めるための重要なステップであり、特に2nm世代の半導体量産技術の開発においてIBMのノウハウが大きく貢献することになる。

だが、この野望には一つの難題があった。顧客の確保――すなわち市場の支持をいかに勝ち取るかという課題だ。

そんな難局を打開するため、ラピダスは驚きのカードを切った。2023年2月27日、AI半導体で業界を席巻するカナダのスタートアップ「テンストレント」との協業を発表したのだ。テンストレントのCEO、ジム・ケラー氏――その名を聞けば、技術者なら誰もが首を縦に振る天才エンジニアである。アップルやテスラといった名だたる企業で輝かしい実績を残し、いまやAI向け半導体の最前線に立つ彼が、ラピダスのパートナーとなる。

ラピダスの小池淳義社長は、この提携に強い意欲を見せる。「日本が得意とする産業ロボットやヘルスケア分野で、世界標準を作り上げていく。それが我々の目標だ」。彼の目には、日本の強みを世界に広げる覚悟がにじみ出ている。AI技術は莫大な電力を消費する。小池社長は、これをどう抑えるかが今後の鍵になると語り、「省電力な半導体の開発は必須だ」と強調した。

これについては、昨日のこのブログ記事でも述べたように、生成AIの普及により、データセンターの電力消費が急増。AIサーバーは従来よりも6〜10倍の電力を消費する。米国ビッグテック企業のグーグル、マイクロソフト、アマゾンが、安定的な電力供給を目的に原子力への投資を進めており、特に小型モジュール式原子炉(SMR)の導入や、原発再稼働が注目されていることを示した。

2009年には「1回のGoogle検索で二酸化炭素7グラム排出」という論文が発表され電力消費が破滅的に伸びることが予想されたが、この危機は半導体産業による半導体の省電力化(特に微細化)技術により、そのようなことは結局起こらなかった。

今後AIの普及により、現在のままであれば、電力消費量はやはり破滅的に増えることになるが、それを回避する超省電力半導体の設計と製造をラピダスとテンストレントの提携で実現しようとするのが、ラピダスの小池淳義社長の目指すところなのだ。

小池淳義とジム・ケラー氏

ジム・ケラー氏もまた、提携を心待ちにしていた。「日本で強力なビジネスを進める機会を得たことに感謝している」と、彼は語る。だが、彼の言葉の裏には、単なるビジネスパートナーシップ以上のものがある。ケラー氏は、半導体業界でその名を轟かせた真の天才だ。彼のキャリアは革新そのものである。デジタルエキップメント社(DEC)でAlphaチップの開発を担い、AMDではAthlonの開発を指揮。そして、何よりも特筆すべきは、x86-64命令セットの共同設計者として名を馳せたことだ。

彼の手腕は、アップルでのプロセッサ設計にも現れた。iPhoneやiPadの設計に携わり、アップルの躍進を支えた立役者の一人となった。その後、再びAMDに戻り、Zenアーキテクチャーの開発で同社の復活に貢献。テスラでは、自動運転向けの半導体開発にも携わり、名実ともに業界の巨人となった。

今や、ケラー氏はテンストレントのCEOとしてAI向け半導体の最前線に立ち、さらにラピダスと協力して2nm世代の技術を用いたエッジAI向け半導体の開発に乗り出す。この提携は、単なる技術協力では終わらない。これは、新しい半導体エコシステムの構築という大きなビジョンの一端なのだ。ケラー氏のリーダーシップと革新性が、この提携を成功へと導くだろう。

この背景には、米中対立という地政学的な要素も絡んでいる。中国が先端半導体開発で困難に直面する中、世界は再び日本の技術力に注目している。IBMやジム・ケラー氏の参加は、米国、カナダと日本の連携を強化し、新たな半導体サプライチェーンの構築を加速させる象徴的な一歩だ。

この動きの起源には、日本の国家戦略がある。安倍晋三元首相が掲げた「自主・自立」の理念が、今日ラピダスがIBMやテンストレントとの提携を可能にしたのだ。安倍政権下で半導体製造を国家戦略に位置づけ、日本の技術力を強化し、経済安全保障を確立しようとする政策が生まれた。経済産業大臣として萩生田光一氏や西村康稔氏も、この戦略を推進。人材育成や産業振興に取り組み、半導体産業の復活に力を注いだ。

北海道を訪れた旨を伝える安倍首相(当時)の安倍首相のツイート

ラピダスへの支援は、単なる国内の産業政策を超えた国家的そうして国際的プロジェクトだ。IBM、テンストレントとの協業は、日本が世界市場で再び競争力を持つための重要な布石となり、技術的な自立と国際的な影響力の向上に寄与するだろう。この提携が生み出す技術革新は、日本の未来を変える可能性を秘めている。そして、その成果は、経済的利益だけでなく、国の安全保障にも直結する。これこそ、安倍元首相の「自主・自立」が形となった瞬間だ。

結局のところ、ラピダスとIBM、テンストレントの提携は、米中対立の中で生まれた新しい半導体の時代を切り開くものであり、日本の技術力が再び世界を驚かせる未来が、すぐそこに迫っているのだ。

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2024年10月24日木曜日

マイクロソフト・グーグル・アマゾンが「原発」に投資しまくる事情―【私の論評】米ビッグ・テックのエネルギー戦略とドイツの現状

マイクロソフト・グーグル・アマゾンが「原発」に投資しまくる事情

まとめ
  • 生成AIの普及により、データセンターの電力消費が急増。AIサーバーは従来よりも6〜10倍の電力を消費する。
  • 米国ビッグテック企業のグーグル、マイクロソフト、アマゾンが、安定的な電力供給を目的に原子力への投資を進めており、特に小型モジュール式原子炉(SMR)の導入や、原発再稼働が注目されている。
  • 日本では電力供給が減少傾向にあり、原発の再稼働も進んでいない。再生可能エネルギーの主力化が進むが、安定的な電力供給が課題となっている。
  • グーグルはSMRを、マイクロソフトはスリーマイル島の原発を再稼働させる計画を発表し、AI技術の成長を支えるためのエネルギー供給を模索している。
  • 日本もAIや経済成長に対応するため、安定的でクリーンなエネルギーの確保を目指し、エネルギー政策の議論を進める必要がある。

データセンターのエネルギー消費量予測(世界) 出所:TDK

 生成AIの急成長に伴い、データセンターの電力需要が急激に増加している。特にChatGPTなどの生成AIは、従来のサーバーに比べて非常に多くの電力を消費し、今後さらにこの傾向が強まると予想されている。AIサーバは従来のサーバに比べて6倍から10倍の電力を消費するとされており、これが電力需要の急速な増加に拍車をかけている。たとえば、ChatGPTの検索クエリは従来のGoogle検索と比べて約10倍の電力を消費するとされている。

 2023年から2030年の間に、データセンターの電力需要は年平均15%の成長率で増加し、2030年までには現在の3倍以上の消費量に達する見込みだ。これを背景に、グーグル、マイクロソフト、アマゾンといった米国のビッグテック企業は、AIの成長を支えるため、安定した電力供給を確保する手段として「原子力」に注目している。

 マイクロソフトは、過去に原子力事故が発生したスリーマイル島の原子力発電所を再稼働させる計画を発表し、注目を集めた。また、グーグルは小型モジュール式原子炉(SMR)の導入を推進し、2030年までに最初の原子炉を稼働させる計画を進めている。SMRは従来の原子炉よりも小型で、より安全かつ効率的なエネルギー供給を実現する技術として期待されている。一方、アマゾンも原子力エネルギーの活用を進めており、既存の原子力施設の隣にデータセンターを設置するだけでなく、SMRへの追加投資も発表している。

 日本では、電力供給量が過去10年にわたって減少傾向にあり、データセンターや生成AIの普及による電力需要の急増に対応するためのエネルギー確保が課題となっている。政府は再生可能エネルギーの主力化を進めているが、安定した低コストの電力供給が難しく、原子力発電の再稼働も進んでいない。東日本大震災後、原発再稼働の動きは鈍く、現在稼働しているのは36基中12基にとどまっている。エネルギーの安定供給が実現できない場合、日本はAI技術や経済成長の競争で他国に後れを取る危険性がある。

 グーグルやマイクロソフト、アマゾンといった企業が積極的に原子力エネルギーへの投資を進める一方で、日本は化石燃料への依存が依然として高く、エネルギー自給率が低い状況だ。福島第一原子力発電所の事故を受け、再生可能エネルギーの利用が推進されているが、十分な電力を安定して供給するには課題が残っている。こうした背景から、安定的かつクリーンで競争力のあるエネルギーの確保が、日本の経済成長と生活の安定を支えるために重要なテーマとなっており、国全体での議論が急務となっている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】米ビッグ・テックのエネルギー戦略とドイツの現状

まとめ

  • 米国のビッグテック企業は異なるエネルギー戦略を採用し、マイクロソフト、グーグル、アマゾンは原子力に積極的である一方、アップルとメタは再生可能エネルギーに依存している。
  • アップルやメタの再生可能エネルギーへの依存は、自然条件に左右される供給の不安定さやインフラ不足により、競争力低下のリスクを伴う。
  • 原子力投資を進める企業は、特に小型モジュール式原子炉(SMR)の導入により、エネルギーの安定供給を確保し、コスト変動に対する耐性を高めることが期待される。
  • ドイツのエネルギー政策の失敗は、再生可能エネルギーへの過度な依存が経済の安定に悪影響を与えることを示しており、エネルギー政策には現実的な判断が重要である。
  • 我が国は従来の化石燃料と原子力を組み合わせたバランスの取れたエネルギー政策を採用し、安定したエネルギー供給体制を築く必要がある。

  • スリーマイル島原子力発電所の1号機が2028年までに再稼働し、Microsoftに電力を供給することが明らかに

    米国のビッグテック企業がそれぞれ異なるエネルギー戦略を採る中で、マイクロソフトやグーグル、アマゾンが原子力に積極的な姿勢を見せている一方、アップルやメタは再生可能エネルギーに依存する道を選んでいる。この違いは、電力の安定供給やコスト面でのリスクに直結する問題であり、両者の将来に異なる結果をもたらすことが予想される。そして、ドイツのエネルギー政策の失敗が警告する通り、再生可能エネルギーへの過度な依存は経済の安定に負の影響を与える可能性が高い。

    アップルやメタは、環境に優しいとされる再生可能エネルギーに大きく賭けている。しかし、この選択は多くのリスクを伴う。まず、再生可能エネルギーは自然条件に左右されるため、その供給は不安定である。加えて、再生可能エネルギーを支えるためのインフラ整備、例えばエネルギー貯蔵技術や送電網の強化がまだ十分ではないことが、供給の安定性を損なう要因となっている。これが、データセンターやAI技術といった大量の電力を必要とする産業において、競争力の低下を引き起こすリスクを高めている。

    太陽光パネルが敷きつめられたアップル本社の屋上

    対照的に、マイクロソフトやグーグル、アマゾンが進める原子力投資は、長期的なエネルギーの安定供給を確保する現実的な手段である。特に小型モジュール式原子炉(SMR)などの技術は、従来の大型原子炉に比べて安全性や柔軟性に優れており、AIやデータセンターのような大量の電力を必要とするインフラを支えるには最適な選択肢である。これにより、電力供給の不安定さやコスト変動に対する耐性が強化され、企業の競争力を高めることが期待される。

    そして、ドイツの失敗は我々にとって重要な教訓である。ドイツは原子力を放棄し、再生可能エネルギーに過度に依存するエネルギー政策を急進的に進めた結果、電力供給が不安定になり、エネルギー価格が急上昇した。これにより、エネルギーを多く消費する産業の競争力が低下し、経済全体が低成長に陥った。特に、化石燃料への依存度が高まり、結果としてエネルギー転換は成功とは言い難い結果に終わっている。このドイツの状況は、エネルギー政策において現実的な判断がいかに重要であるかを示している。

    破壊されるドイツ西部の原発の冷却塔

    我が国が進むべき道は、こうした現実に基づいた戦略を採ることである。我々もまた、安定的で大量の電力供給を確保する必要があり、特に経済の成長を維持し、技術開発を進めるためには、エネルギー供給の不安定さを排除しなければならない。再生可能エネルギーは現時点では技術的制約が多く、これに過度に依存することはリスクが大きい。

    そのため、我が国は原子力を再評価し、特に小型モジュール炉(SMR)などの新しい技術に投資することが重要である。SMRは従来の原子力発電に比べて安全性が高く、設置場所やコスト面でも柔軟性があり、今後のエネルギー政策の柱となり得る。

    また、従来の化石燃料による電力供給も含め、安定したエネルギー供給体制を築くことができる。重要なのは、理想に基づいた過度な再生可能エネルギーへの依存ではなく、原子力やその他の現実的なエネルギーソリューションを組み合わせ、バランスの取れたエネルギー政策を構築することである。再生可能エネルギーは現在の技術水準では、いまだ実用化には不向きだが、ただしいずれイノベーションが生まれるかもしれず、これへの取り組みは実験レベルで継続する程度に留めるべきだ。

    結論として、我が国が進むべき道は、再生可能エネルギーの可能性を見極めつつ、従来の化石燃料と、原子力を含む安定したエネルギー源に現実的に投資することである。ドイツの失敗を教訓に、過度な理想主義を排し、経済成長とエネルギー安定の両立を目指す現実的なアプローチが必要だ。ビッグ・テックといえども、一企業に過ぎず、エネルギー政策に失敗したとしても、国全体のレベルで考えれば悪影響はさほどではないかもしれないし、後から取り返しがつくかもしれない。しかし、政府の失敗はそうではないことが、ドイツの現状が示している。

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    2024年10月23日水曜日

    〈ソ連崩壊に学んだ中国共産党〉守り続ける3つの教訓と、習近平が恐れていること―【私の論評】習近平体制の内なる脆弱性:ソ連崩壊と中国共産党の共通点

    〈ソ連崩壊に学んだ中国共産党〉守り続ける3つの教訓と、習近平が恐れていること

    岡崎研究所

    まとめ
    • 習近平は中国共産党がソ連の運命を辿ることを恐れ、党の内部統制とイデオロギー強化を重視している。
    • 「ゼロコロナ」政策の急な終了や経済復興の困難さが、党の安定に影響を与えている。
    • 習近平は後継者の育成に無関心で、自らの長期在位を望む姿勢が将来の権力移行を不安定にする可能性がある。
    • 党の統治継続、イデオロギー堅持、米国との直接対決回避を教訓として、習近平はこれを守りつつも党内外のバランスに苦しむ。
    •  習近平の厳格な管理は党の自発性を奪い、腐敗や無気力を生むリスクがあるが、党の体制自体は強固で経済が崩壊しない限り維持されるだろう。

    習近平

     エコノミスト誌10月5日号の解説記事が、今年10月に創設75周年を迎えた中国共産党は、支配年月がソ連共産党のそれを超えたが、指導者の習近平は中国がソ連のように崩壊することを恐れている、と書いている。要旨は次の通り。

     中国共産党が創設75周年を迎えた2024年、習近平国家主席は自身の党の永続的な支配について深い懸念を抱いている。特にソ連崩壊の歴史から学んだ教訓を基に、党の内部統制とイデオロギー管理の強化を図っている。

     習近平の政策は、ソ連の崩壊が党内の派閥争いやイデオロギー的、組織的規律の喪失によるものだと捉えており、これを避けるため、党の団結と戦闘力を維持する必要性を強調している。2022年の党大会やその後の演説で、彼は「我々を敗北させ得るのは我々だけだ」と述べ、内部からの崩壊に警戒を呼びかけている。

     しかし、習近平の施策は二つの面で問題を孕んでいる。一つ目は、経済政策の失敗とその後の景気刺激策が必ずしも成功を収めていないこと。2022年の「ゼロコロナ」政策の突然の撤廃やその後ろくな復興策なしに経済を回復させようとした結果、国民の間に不満が広がっている。

     二つ目は、習近平自身が後継者育成に無関心であり、自身の権力維持を優先する姿勢だ。これにより、将来的な権力移行が混乱を招く可能性が指摘されている。ソ連の指導者選びが党内争いやクーデターで決まったという歴史を反面教師にすべきだが、習はその教訓を活かしているとは言い難い。

     鄧小平時代以降、中国はソ連崩壊の原因を徹底的に研究し、政策提言をまとめてきた。鄧の教訓では、共産党の統治継続、イデオロギーの堅持、そして米国との力比べを避けることが挙げられた。これらの原則を習近平は守っているが、彼の厳格な党管理は、党内外のバランスを崩し、党官僚に過度なプレッシャーを与えている。党員の献身性を求める一方で、組織の自発性を殺し、腐敗や無気力さを招く可能性もある。

     習近平の路線は、党のガバナンスの難しさを象徴している。引き締めと緩和の適切なバランスを見つけることは容易ではなく、現在の中国が直面する最大の課題の一つである。しかし、党の内部には、党の統治継続というコンセンサスがあり、経済が崩壊に瀕しない限り、党の体制自体が傾くことは考えにくい。党内での是正力が働くという観点から、共産党の支配は今後も続くと見られている。

     この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

    【私の論評】習近平体制の内なる脆弱性:ソ連崩壊と中国共産党の共通点

    まとめ
    • 習近平の強権的な統制は、党内部の弱点を覆い隠すための手段である可能性が高い。
    • ソビエト連邦も中央集権による統制を試みたが、地方の腐敗や非効率性が崩壊を引き起こした。
    • KGBやプロパガンダなどで体制を維持したが、ソ連の根本的な問題は解決されず、最終的に崩壊した。
    • 習近平の政策はソ連の全体主義を継承しているが、同じ道を辿るリスクがある。
    • 中国の軍事演習は強大に見えるが、内部には多くの問題があり、体制の脆弱さを示唆している。
    元記事には次のような記述が見受けられる。

    「習近平による組織管理と精神教育の強化は、すべてを党が指導することを国政の中心に据えた結果、その実施部隊である党幹部と党員があまりにふがいないというので進めている可能性の方が高い」

    中国共産党の結党100周年を祝う式典

    この発言を深く考察すると、中国共産党の表面的な強さは実は内なる弱さを隠しているに過ぎないことが浮かび上がってくる。党の全てを握り、党幹部や党員に強権的な統制を敷くことは、一見すると党の結束力や支配力の強化に映るかもしれない。しかし、それは真に強固な基盤を築いているわけではなく、むしろ党の内部に潜む問題を覆い隠すための手段であると言えるのではないだろうか。

    続けて、元記事では「1980年代の半ばまでは、ソ連は極めて厳格に管理された党と社会であり、現在の中国など足元にも及ばない」としている。だが、これは実情を表面的に捉えたものであり、実際にはソ連の崩壊に至る数十年の間に問題は徐々に蓄積されていた。その問題は表に出なかっただけで、ソ連の成立当初から内包されていた不協和音であると捉えるべきだ。

    ソビエト連邦は、理論上は中央集権による完全な統制を目指していた。すなわち、国家全体を一つの統一した力で支配し、全ての決定権を中央に集中させることが目標であった。しかし、理想と現実は異なる。現実世界は、ソ連が描いた統制モデルを超えるほどの複雑な問題に満ちており、そのために完全な中央集権体制は最後まで実現されなかった。

    中央集権の弊害として、地方ごとの自治や経済計画の非効率性が生じ、地方官僚たちが腐敗し、時には中央の方針を逸脱して独自の行動を取ることもあった。情報伝達も遅滞し、中央の意図が末端に届くまでには時間がかかり、時には誤解が生じることもあった。また、党内には権力闘争が絶えず、その度に政権内部が揺れ動いていた。

    それでもソ連は、中央集権の欠陥を補うためにさまざまな政策を打ち出した。その中でも、秘密警察であるKGBの強化は、中央の統制を維持するための重要な柱であった。KGBは反体制的な動きを迅速に察知し、地方の反抗を力で抑え込んだ。また、プロパガンダや教育を通じて共産主義のイデオロギーを国民に浸透させ、国家全体の統一意識を維持しようとした。さらに、経済面では重化学工業や軍事産業に巨額の投資を行い、国家の優先事項としてこれらを発展させることで、国全体の経済成長を目指した。

    ソ連はまた、党の幹部を養成するための教育制度を整え、忠実な党員を育成し、彼らに中央からの政策を実行させる体制を構築した。このエリート層は「ノーメンクラトゥーラ」と呼ばれ、ソ連社会において特権階級としての地位を築いた。しかし、こうした取り組みは短期的には一定の効果をもたらすことがあっても、中央集権体制が抱える根本的な問題を解決するには至らなかった。その結果、ソ連の崩壊は、中央集権体制が理想と現実の間で揺れ動き、最終的にその矛盾に耐え切れなくなったことを象徴する出来事となった。

    ソ連崩壊を伝える新聞紙面

    このような歴史的背景を鑑みれば、習近平の政策もまた、ソ連と同様に、中央集権の名のもとに体制を強化しようとする試みだと言える。しかし、ソ連の全体主義を継承するだけでは、その運命もまた同じ道を辿るだろう。現状を維持することに固執すれば、中国共産党は自らの崩壊に向かうしかない。政治体制を自ら変革し、改革の道を歩むか、それとも内部分裂と崩壊の道を進むか、習近平にはその選択が迫られている。

    その兆候は既に見られる。たとえば、最近の中国による台湾周辺での大規模な軍事演習である。この演習は台湾の海上封鎖を狙ったものであるとされているが、その実態は2022年8月のペロシ米下院議長(当時)の訪台時に行われたものとほぼ同じである。規模こそ拡大しているものの、演習の基本的な枠組みは変わっていない。このような演習が、台湾や周辺諸国に対する脅威を高めることは間違いないが、同時に日米の抑止力を強化させる結果にもなっている。

    さらに、中国軍の内部でも不穏な動きがある。戦略ロケット部隊では、異例のトップ交代が発生しており、これは汚職や機密漏洩が背景にあるとされる。また、戦闘準備の不備が指摘されており、訓練や実戦能力に疑問を投げかける事態が相次いでいる。潜水艦部隊においても、新型潜水艦の導入が進んでいるが、その運用能力や効果については未知数である。最近の報道では、新型潜水艦が沈没したとのニュースも流れており、装備の統合や訓練不足が実戦での即応性に影響を与える可能性がある。


    こうした状況を踏まえれば、習近平の中国は外から見れば強大な軍事力を誇示しているかのように映るが、内部には多くの問題が積み重なっていることがわかる。米国防総省のロイド・オースティン国防長官も、中国軍が台湾を包囲した5月の軍事演習に関して、その実行の難しさを指摘している。米軍は中国軍の演習を詳細に観察し、その運用方法や動向を分析している。その結果、米軍は中国の軍事力に対して適切な対策を講じることができているという。

    このような軍事演習は、ソビエト連邦が崩壊前に行っていた大規模な軍事演習を思い起こさせる。冷戦期、ソ連は「ザーパッド演習」や「ビースト演習」などを定期的に行い、崩壊末期まで実施され、西側諸国に対する抑止力として用いていた。しかし、これらの演習は強さを誇示するものではなく、実はその内部に抱える弱さを隠すための手段であった。それはまさに現在の中国にも当てはまると言えるだろう。軍事演習の規模が大きければ大きいほど、むしろその体制の脆弱さが浮き彫りになるのだ。

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    2024年10月22日火曜日

    “トランプ氏圧勝“の可能性「内気なトランプ支持者」を掘り起こすと激戦州で優位に…ハリス陣営はパニック!?―【私の論評】誰に投票するのか、自らの目で、耳で、そして頭で考え抜け

    “トランプ氏圧勝“の可能性「内気なトランプ支持者」を掘り起こすと激戦州で優位に…ハリス陣営はパニック!?

    まとめ
    • トランプ前大統領の優位性: スイング・ステート7州での僅差リードと「内気なトランプ支持者」の存在から、トランプ氏が選挙人数で圧勝する可能性が高い。
    • 世論調査の限界: 過去の世論調査の誤差や候補者の変更による影響を考慮しなければならない。
    • メディアと専門家の見解: 最近の報道や専門家の意見では、トランプ氏の優位性が強調されている。
    • ハリス副大統領の政策: 中東情勢ではイスラエルの安全保障やガザ地区への人道支援重視、ハリス氏は即時停戦を訴えている。
    • 結論の不確実性: 分析は世論調査の正確性に依存し、完全な確実性はないが、現時点ではトランプ氏の圧勝が予想される。


    米大統領選挙の情勢では、トランプ前大統領がスイング・ステート7州で僅差ながらカマラ・ハリス副大統領をリードしていることが分かった。しかし、過去の選挙ではトランプ支持者が実際よりも少なく見られる傾向があり、それを「内気なトランプ支持者」と称する現象が確認されている。この現象を考慮すると、トランプ氏は6州で確実に優位に立ち、ジョージア州でもほぼ優位と言える。これにより、トランプ氏が選挙人数で圧勝する可能性が高い。

    世論調査の背景に目を向けると、2016年と2020年の選挙では、トランプ支持者の数が実際よりも低く見積もられることが多かった。これは、トランプ氏の政策には賛同しながらも、その人柄や周囲との関係を考慮して本音を明かさない有権者が存在するからだ。この「内気なトランプ支持者」の存在は、スイング・ステートでの結果に特に影響を与えいる。

    ただし、この分析には限界もある。まず、世論調査会社がこの「内気なトランプ支持者」を完全に補正できるかは疑問だ。また、2020年と2024年の民主党候補者が異なるため、この違いがデータにどれほどの影響を与えるかも考慮する必要がある。

    メディアの報道や専門家の意見もまた、トランプ氏の優位性を強調している。最近の報道では、ハリス氏の勝利の可能性が低下していることが指摘され、選挙ギャンブル市場でもトランプ氏の支持が高まっていることが報告されている。

    結論として、現時点での情報と分析から見ると、トランプ氏がスイング・ステートでの優位性を保ち続けると、大統領選での圧勝が予想される。しかし、この予測は世論調査の前提条件やその正確性に依存しており、完全な確実性はないことを認識する必要がある。それでも、トランプ氏の圧勝可能性は十分に高いと見て良いだろう。

    この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

    【私の論評】誰に投票するのか、自らの目で、耳で、そして頭で考え抜け

    まとめ
    • トランプ前大統領が選挙ギャンブル市場で有利とされる一方、市場の予測は不確実であり、選挙結果は投開票日までの動向に左右される。
    • 米国ではメディアの信頼が低下しており、日本でも2021年の衆議院選挙でメディアの情勢調査が外れたことから、虚偽回答の増加や調査の信頼性低下が問題となっている。
    • メディアと有権者の信頼関係が揺らぎ、民主主義における情報の重要性が問われているが、最終的には個々の国民が自ら考え抜く必要がある。

    米国選挙ギャンブル市場の現状では、トランプ前大統領が勝利する可能性が高いとされている。市場の予測によれば、トランプ氏の勝利予想は57.9%、一方でハリス氏は41.0%に留まっている。

    これはベッターたちがトランプ氏に賭けていることを示しており、市場分析でも、彼の勝利が株価の上昇や特定の投資機会を生むと期待されている。しかし、ギャンブル市場の予測には常に不確実性が伴い、投開票日までの情勢が勝敗を左右することは言うまでもない。

    10月はじめの賭けサイトpolymarketの予想

    米国では、近年多くの国民がマスコミの選挙報道を信用しなくなっている傾向が顕著だ。特に共和党支持者を中心に、メディアが政治的に偏っていると疑う声が強まり、フェイクニュースや不正確な報道が増加しているため、メディアの信頼性は大きく揺らいでいる。この背景には、トランプ氏の在任中やその後のメディア報道が、公正さを欠いていたとの認識が根強く残っていることがある。

    日本でも、この傾向は無視できない状況になっている。例えば、2021年の衆議院選挙では、各メディアが発表した情勢調査や予測が大きく外れた。特に出口調査の結果は実際の投票結果と著しく乖離し、多くのメディアが信頼を損ねた。

    ここで注目すべきは、調査に対する有権者の意図的な虚偽回答の増加だ。保守系の有権者が左派系メディアに対して、あるいはリベラル系の有権者が保守系メディアに対して、わざと異なる回答をするケースが頻発しているのだろう。さらに、特定の政党支持者が自らの陣営に有利な結果を誘導するために虚偽の回答を行うことも考えられる。

    出口調査

    これらの現象は、メディアに対する根深い不信感を象徴しており、出口調査の精度を著しく損なっている。「マスコミです」と名乗った瞬間に、信頼性が揺らぐという皮肉な状況が現実となっているのだ。

    この問題は単に出口調査の信頼性にとどまらない。メディアと有権者の関係性、選挙報道のあり方、そして民主主義のプロセス全体に関わる重大な課題を浮き彫りにしている。国民が正確な情報を得られなければ、民主主義はその土台から崩れ去る。かつて「第四の権力」とまで称されたメディアが、今や自らの手でその権威を失墜させ、信頼のない存在へと転落している。

    果たして、次の選挙の時、我々は誰の言葉を信じるべきなのか。誰も答えを持っていないが、選択肢があるとすれば、それはただ一つ。「自らの目で、耳で、そして頭で考え抜け」。これこそが、今この時代を生き抜くための唯一の方法なのである。

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