2025年9月10日水曜日

米国の史上最大摘発が突きつけた現実──韓国の甘さを断罪し、日本こそ日米同盟の要となれ



まとめ
  • 2025年9月4日、DHSはジョージア州の現代‐LG工場で475人を拘束し、これを「largest single-site enforcement action(単一事業所への過去最大規模の強制執行)」と発表した。
  • この摘発はトランプ政権の選挙公約「不法移民排除」の実行であり、外国企業に「アメリカ人を雇い、訓練せよ」と迫る内需拡大策の一環でもある。
  • 韓国企業は事前に警告を受けていたにもかかわらず是正せず、摘発は「予告された是正」となった。通商交渉の停滞もあり、制裁的性格が色濃い。
  • 日本人も数名拘束されたが軽微なケースで、日本企業は制度を厳格に守っていたためリスクは最小限に抑えられた。
  • 韓国の輸出管理の甘さは戦略物資が北朝鮮や中国、ロシアに流出する懸念を生み、日本は米国同様に厳格対応すべきである。CSISも、日本の輸出管理は日米信頼を深めインド太平洋戦略に有効と分析している(CSISレポート)。
🔳米国による史上最大規模の移民摘発と韓国への圧力
 

2025年9月4日、米ジョージア州エラベルの現代‐LGエナジーソリューションのEVバッテリー工場建設現場で、連邦当局が単一拠点として米国史上最大規模の職場査察型移民摘発を行い、475人が拘束された。そのうち300人以上が韓国人労働者であった。米国国土安全保障省(DHS)はこれを"largest single-site enforcement action”、すなわち「単一の事業所に対する過去最大規模の強制執行」と公式に認定した。工場は総額約43億ドルの巨大投資案件であり、完成すれば州内最大級のプロジェクトとなるはずであったが、摘発によって建設は即座に中断された。

DHSは2001年の同時多発テロを契機に設置された巨大省庁である。移民、国境、テロ対策を一手に担い、ICE(移民・税関執行局)やCBP(国境警備局)を傘下に置く。今回の摘発もこの枠組みの下で行われた。韓国政府は慌てて外相を派遣し、拘束者の帰国後の再入国に不利益が生じぬよう米側に要請した。そして9月9日、チャーター機の派遣を発表するに至った。
 
🔳トランプ政権の狙いと制裁的性格
 
トランプ大統領の選挙公約

この強制摘発は、トランプ大統領の選挙公約である「不法移民の徹底排除」の実行そのものであった。人権団体や一部メディアは「人権侵害」「経済混乱」と非難したが、政権に迷いはない。掲げてきたのは「アメリカ人雇用優先」「内需拡大」であり、その一環として外国企業に対し「アメリカ人を雇い、訓練せよ」と公言してきた。

さらに、この出来事は韓国に対する制裁的圧力の色彩を帯びている。ロイターの報道によれば、韓国企業はビザ制度のグレー運用に関し事前に警告を受けていたにもかかわらず、労働者を送り込み続けた。今回の摘発は「狙い撃ち」ではなく「予告された是正」であり、韓国企業と仲介業者の責任は極めて大きい。加えて、米韓の通商交渉は為替問題で膠着しており、移民規制と通商圧力が同時に韓国を締め付けている。まさに制裁の実効化である。

外国企業にとっても衝撃は大きかった。フィナンシャル・タイムズは、多国籍企業がこの大規模執行を受けてビザ審査の見直しや出張凍結、内部監査を急いだと伝えている。米国市場で事業を営むなら、制度を徹底的に遵守せよという強烈な警告である。

日本人も数名拘束されたが、いずれも短期就労資格の不備といった軽微なものであり、韓国人労働者の大量摘発とは異なる。これは、日本企業が従来から法を守り抜いてきた成果であり、遵法姿勢こそ最大の防御であることを裏づけた。
 
🔳韓国のグレーな対応と日本の選択肢
 
韓国が日本に対しても「グレーな対応」を続けてきたことは記憶に新しい。2019年、日本はフッ化水素や高純度レジストなど戦略物資の輸出管理において、韓国が適切な管理体制を欠いていると判断し、ホワイト国から除外した。韓国は「国際規範に沿っている」と反発したが、日本側は輸出された物資が北朝鮮や中国、ロシアといった懸念国に流出する恐れを無視できなかった。証拠が明確に示されたわけではない。しかし、管理の甘さが「グレーゾーン」を生み出していたことは否定できない。


こうした実態を直視すれば、日本も米国同様、韓国に対して厳格な姿勢をとるべきである。中途半端な対応は国益を損なうだけだ。輸出管理や法執行を徹底すれば、日本は国際社会での信頼を高め、同時に米国との同盟をさらに強固なものにできる。実際、米国の有力シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)は、日本が韓国に対して強硬な輸出管理を行うことは日米の信頼を深め、インド太平洋戦略の推進に資すると分析している。CSISの分析は以下のURLから確認できる。

結論
 
今回のジョージア州での摘発は、米国が韓国に制裁的圧力を加えた象徴的事件である。背景には韓国企業の無責任な行動があった。そして日本にとっても、この事件は大きな教訓となる。韓国がグレーな対応を続ける限り、日本は米国のように韓国に対して厳格な措置を講じなければならない。それが日本の安全保障を守り、国際的な存在感を高め、日米同盟をより強靭にする道である。
  
トランプ前大統領の“最大300%関税”は、グローバリズムの幻想に終止符を打った荒療治だ。中国を肥大化させていた仕組みの暴露でもある。日米は内需大国に回帰し、未来を創らねばならない。

【日米関税交渉】親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊 2025年8月8日
韓国は通商交渉で“骨抜き”にされた。日本も石破政権の迷走で同じ道を歩む危険が迫る。日米同盟を守るのは迎合ではなく、国益をかけた交渉だ。

安倍のインド太平洋戦略と石破の『インド洋–アフリカ経済圏』構想 2025年8月22日
FOIPの系譜と現下の日本外交の選択を対比。日本が地域秩序形成で中心軸になり得ることを論じている。

日米が極秘協議──日本が“核使用シナリオ”に踏み込んだ歴史的転換点 2025年7月27日
拡大抑止と運用協議の実相を解説。日米同盟の実効性と日本の役割拡大に関する示唆が濃い。

中国の軍事挑発と日本の弱腰外交:日米同盟の危機を招く石破首相の選択 2025年7月11日
対中抑止と同盟信頼の観点から、日本の姿勢を厳しく点検。法と規範の順守が国益を守ると結ぶ。

韓国への輸出管理見直し 半導体製造品目など ホワイト国から初の除外 徴用工問題で対抗措置―【私の論評】韓国に対する制裁は、日本にとって本格的なeconomic statecraft(経済的な国策)の魁 2019年7月1日
経済戦略(Economic Statecraft)は、国家の“ソフトパワー”かつ安全保障の最前線だ。本稿ではその構図を明快に描いた。
 


2025年9月9日火曜日

本日、日経平均44,000円台──石破退陣こそ最大の経済対策、真逆の政策で6万円時代へ


まとめ

  • 9月9日、日経平均株価が44,000円を突破し史上最高値を更新した。石破首相の辞任が直接の引き金となり、市場は金融緩和と積極財政への転換を織り込んだ。
  • 米国との自動車関税交渉の進展や円安の追い風も株価上昇を後押しし、投資家心理を一層好転させた。
  • 日本経済の基盤は悪くないが、近年の緊縮財政と日銀の事実上の引き締めが内需停滞と実質賃金の低迷を招いている。
  • 日本は輸出依存度が低く、変動相場制の下では関税や為替の変動は自動的に均衡するため、根本的に内需と政策運営が経済のカギを握る。
  • 市場は「石破路線と真逆の政策」が続けば日本は黄金期を迎え、日経平均が6万円に達する可能性もあると見ており、自民党幹部はその期待を直視すべきだ。
🔳株価44,000円更新の背景


9月9日、日経平均株価が史上初めて44,000円を突破した。引き金となったのは石破首相の辞任である。財務官僚の操り人形と化した石破氏の退陣は、政権が金融緩和や積極財政へと転換するのではないかという期待を一気に膨らませた。市場はその可能性を先取りし、株価を押し上げたのだ。

米国との自動車関税引き下げ交渉の進展、円安進行による輸出企業の収益改善、そして金利の不透明感の中で相対的に高まった株式の魅力も、この上昇を後押しした。
 
🔳政策期待と日本経済の現状
 
石破は純正経済音痴であるが、自らはそれを否定している

今回の株価上昇は、市場の期待先行という側面が強い。次の自民党総裁がどのような政策を取るか、日銀がどの方向へ舵を切るか、そして政府がどんな経済対策を打ち出すかが、中長期的に相場を左右する決定的な要素となる。

市場がとりわけ注目しているのは二つだ。ひとつは日銀の緩和継続である。石破氏の下では金融引き締めと財政健全化が優先されると見られていたが、辞任によって「低金利環境が続く」との観測が強まった。企業の資金調達コストが下がり、投資や設備拡大が加速するとの期待が生まれた。もうひとつは積極財政だ。公共投資の拡大、減税、エネルギー支援策などが現実化すれば、内需を強力に刺激し、企業収益と消費を押し上げる。今回の史上最高値更新は、まさにそうしたシナリオを映し出している。

もっとも、日本の経済基盤そのものは悪くない。失業率は2.5%前後、企業収益も過去最高水準だ。だが現実には、財政政策は緊縮色を強め、日銀も表向きは緩和を維持しながら実質的には引き締めへ傾いている。その結果、内需は伸び悩み、実質賃金はマイナス圏から抜け出せない。「緊縮+引き締め」の組み合わせが経済停滞の元凶となっている。

🔳輸出依存の低さと市場へのメッセージ

上のグラフで、準輸出は(準輸出=輸出-輸入)GDP全体の0.2%にすぎない


日本経済はもともと輸出依存度が低い。高度成長期でもGDP比は一割前後、バブル期ですら数%台にすぎなかった。現在も主要先進国の中で低い水準にとどまり、内需が経済の中心である。したがって、関税や為替の変動が全体経済を大きく揺るがすことはない。

変動相場制では、米国が関税をかければドル高が進み、円安が進行する。結局は為替が自動的に調整し、均衡が保たれる。1980年代の日米貿易摩擦の時も、同じ構図が繰り返された。市場が本当に見ているのは輸出ではなく、国内政策と内需なのである。

だからこそ、次期政権が金融緩和と積極財政に舵を切るという期待が、株価を大きく押し上げた。皮肉なことに、直近で最も効果をもたらした「経済対策」は、政府の施策ではなく石破の退任そのものだった。そして市場は、もし次の総裁が石破路線とは正反対の政策を打ち出し、それを持続すれば、日本は再び黄金期を迎え、日経平均が6万円に届くことも夢ではないと見ている。

株価44,000円には、その強烈なメッセージが込められている。自民党幹部は、次期総裁がどれほど「石破と真逆」を示せるかによって、市場が目に見える形で反応することを直視すべきだ。

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2025年9月8日月曜日

自民党は顔を替えても救われない――高市早苗で「電力安定・減税・抑止力」を同時に立て直せ

前回の総裁選で立候補を表明した時の高市早苗氏

まとめ

  • 石破茂は連敗と党内圧力で9月7日に辞任表明に至った。前夜の官邸での菅義偉・小泉進次郎の面会は、石破に「自発的退陣」を促した可能性が高い出来事である。
  • 自民党には派閥が“担ぎやすい顔”を前に出す「操り人形」体質が根づいている。顔を替えるだけでは何も変わらない。敗因の核心は、世論の温度を外し続ける鈍感力そのものである。
  • 参院選で有権者の主争点は、外国人政策・経済(物価と賃上げ)・安全保障であった。それにもかかわらず、党内の一部は「裏金」防戦に偏り、論点の主導権を手放した。
  • SNSの一次情報(候補本人や陣営の投稿)には、保守系比例候補の敗北報告や支持層離反の自己分析が相次いで記録されている。マスコミ論調ではなく当事者の言葉が、争点の読み違いを裏づけている。
  • 次の総裁選の分岐は明快である。小泉進次郎を“新しい顔”として担ぐだけなら、石破政権の再演になる。保守票を高市早苗に一本化し、上記三争点に即した具体策を掲げるなら、反転の余地は残る。

🔳鈍感力が招いた「石破政権」終幕
 

石破茂は9月7日、辞任を表明した。理由は「米国との関税交渉が一区切りついた」というものだが、実態は選挙敗北の連鎖と党内の突き上げである。公式会見と大手通信の一斉報道が、その事実関係を裏づける。(首相官邸ホームページ, Reuters, The Japan Times)

その前夜、官邸では異例の面会があった。菅義偉が約30分で退席し、小泉進次郎は約2時間残って石破と協議――この具体的な時間経過まで報じられている。面会の狙いは「自主的辞任」の説得であり、翌日の表明につながったとみるのが自然だ。小泉が前に出て、菅が“背中を押す”。いかにも自民党らしい「段取り」である。(Nippon)

ここで強調すべきは、鈍感力の温存が同じ悲劇を繰り返すという単純な理屈だ。石破は「辞め時」を読み違え、世論の変化に鈍かった。その末路を、党内の多くがいまさら悟った。しかし、悟った“つもり”のままでは何も変わらない。鈍感さを脱しない限り、誰が総裁でも同じ道を辿るだけである。(CSIS)

🔳「操り人形」の伝統と小泉進次郎の危うさ
 
 自民党には古来、派閥領袖や実力者が「担げる器」を探し、前に押し立てる癖がある。派閥政治の重みは令和の今日も減っていない。総裁選は形式上“開かれた選挙”でも、最終局面ではキングメーカーの読みと手が結果を左右する。(East Asia Forum, Cambridge University Press & Assessment)

今回、幹部の一部が小泉進次郎を次なる「操りやすい旗頭」と見て動くのは必然だろう。実際、辞任当日に有力候補として小泉の名が並ぶ。だが、鈍感力を引きずったまま小泉を押し立てれば、石破と同じ運命になるだけだ。顔ぶれを替え、ポスターを貼り替えても、鈍感な政権運営は支持を失う。これは政局観ではなく、近年の結果が示す経験則である。(Reuters)

「保守票の結集」が勝敗を決めた例は枚挙に暇がない。2012年、総裁選は一度は石破が先行しながら、決選投票で安倍晋三が逆転した。派閥横断の乗り換えと保守票の収斂が一気に流れを変えた事実は、党公式史や同時代分析に記録されている。今回も、保守側が分裂すれば負け、結集すれば勝つ――法則は変わらない。(自民党, Brookings)
 
🔳争点の取り違え――「外国人・経済・安保」対「裏金」

世耕氏は派閥の政治資金パーティーをめぐる問題で離党勧告を受け、2024年衆院選で和歌山2区から無所属で立候補して当選

参院選の実際の関心は、外国人・経済(物価)・安保だった。SNS上の話題量でも「外国人政策」が突出し、政策シンクタンクの論考でもエネルギー安全保障や物価・財政が主要争点として整理されている。現実の選挙分析でも、反移民色を強めた小党の伸長が指摘された。(毎日新聞, 東京財団, Reuters)

それでも自民党内の鈍感な一部は、「最大の争点は裏金だ」と思い込み、相手の土俵に乗った。結果は厳しい。保守系の看板議員にまで落選が相次いだ。たとえば、佐藤正久、和田政宗、山東昭子、赤池誠章――いずれも本人や陣営がX上で敗北や苦戦を明かし、支持層の離反を直視せざるを得なかった。杉田水脈も主要紙が落選確実と報じた。現場の空気は、SNSに最も率直に残っている。(X (formerly Twitter), 朝日新聞)

一方世耕氏は派閥の政治資金パーティーをめぐる問題で離党勧告を受け、2024年衆院選で二階王国と言われた、和歌山2区から無所属で立候補して当選した。これは、自民党の鈍感力を鋭く抉る結果となった。

では有権者は何を見ていたか。物価高が続くなか、経済運営と対米関税対応が暮らしを直撃し、外国人政策の運用と安全保障に不安が広がった。ここを正面から語らず、スキャンダルの応酬に終始した側が負けた――それが今回の選挙の実像である。(MUFG_BANK, Reuters)

結論は単純だ。鈍感力こそ、自民党を滅ぼす毒である。石破の辞任は、その毒が政権を倒すことを証明した。菅と小泉の面談が“引導”を渡した可能性は高いが、真に必要なのは「担ぐ顔」を変えることではない。保守票をばらまく分裂をやめ、外国人問題・経済・安保という国民の切実な争点に、具体策で応えることだ。小泉を操り人形に仕立てても、鈍感さを捨てなければ沈むだけである。いま必要なのは、耳の痛い現実を直視する感覚――その回復である。(Nippon, CSIS)

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2025年9月7日日曜日

二度の選挙大敗でも居座る石破総理—民主主義を冒涜する『無限ループ』を断ち切れ

 

まとめ

  • 石破政権は国政選挙で二度大敗しながら辞任せず、世論調査を根拠に居座る姿勢は民主主義の冒涜である。
  • イギリスの「1922年委員会」やドイツの「建設的不信任案」など首相交代制度は存在するが、実際に使われたのはドイツで一度のみである。
  • 日本では総裁規定や首相代行制度があるが、閣僚を最小限に絞る「一人内閣」に近い形で延命できる抜け道がある。
  • 歴史的には田中角栄や中曽根康弘のように「総裁辞任=総理辞任」が常識だったが、法的拘束力はなく居座りも可能である。
  • 本来強制辞任制度は使われないのが望ましいが、日本の現状は危機的であり、総裁選前倒しによる速やかな政権交代が唯一の解決策である。
石破政権の延命をめぐる政治状況は、かつてない異様さを帯びている。国政選挙で二度の大敗を喫し、国民から明確に不信任を突きつけられながらも、石破首相は政権に固執している。

党内では総裁選の前倒しを求める声が強まる一方、政権側は世論調査を盾に正当性を主張している。しかし、民主主義の根幹を成すのは選挙であり、恣意的な調査ではない。国民の審判を軽んじ、数字をもてあそぶ姿勢は、憲政史において危機的状況を示す重大な兆候である。
 
🔳英独の制度と日本の「無限ループ」
 
イギリスでは、首相は下院多数派の党首という地位に依存しており、党内の支持を失えば交代は即座に可能だ。とりわけ保守党の「1922年委員会」はその象徴である。所属議員の一定数が不信任を申し立てれば党首投票が行われ、過半数が不信任に回れば首相の座を失う。しかし制度は一度も実際に発動されたことはなく、多くの首相は制度が動く直前で辞任を表明し、自ら幕を引いてきた。

ドイツには「建設的不信任案」がある。単に現職を解任するだけでなく、新しい首相候補を同時に指名して成立する仕組みだ。強力だが、実際に発動されたのは1982年、シュミット首相を退陣させコールが後任に就いた一度きりである。制度の存在が牽制として機能する一方で、現実にはほとんど使われていない。

無限ループで居座る可能性も出てきた石破氏

一方、日本の仕組みは曖昧である。自民党党則には「総裁が任期途中で職務を継続できない場合は両院議員総会で後任を選出する」との規定がある。また内閣法第九条に基づき、首相が病気や事故で職務を果たせない場合や、外国訪問中に国内に不在の場合は、あらかじめ指定された国務大臣が首相臨時代理を務める。現在の指定は林芳正官房長官である。

だが制度には抜け道もある。首相が他の閣僚を一斉に辞任させ、「一人内閣」に近い状態で居座る可能性だ。憲法は「首相およびその他の国務大臣」で内閣を構成すると定めているが、最少人数を明記していない。形式的には首相ともう一人で内閣は成立してしまう。実務的には政権運営は不可能だが、理論上は延命を可能にしてしまう。
 
🔳総裁選前倒しと民主主義の正統性
 
憲法学者もこの点を議論してきた。芦部信喜は「合議制」の建前から、少人数内閣は憲法の趣旨に反するとし、佐藤幸治も「憲法違反に準ずる状態」と警告した。判例がないため法的に断定はできないが、「法理上可能、政治的には許されない」という評価が支配的である。

現実政治でも、最小限の閣僚で政権を維持した例がある。第一次安倍内閣では不祥事と辞任が相次ぎ、残された閣僚が兼務でしのいだ。細川内閣や森内閣末期でも空席が目立ち、形だけの内閣が続いた。こうした事態は「一人内閣」にまでは至らなかったが、制度の脆弱さを露呈した。

自民党総裁選挙に立候補した田中角栄氏(左)と会談する中曽根康弘氏(東京都千代田区の砂防会館)(1972年06月21日)

歴史を振り返れば、自民党総裁の辞任は総理辞任と一体であった。田中角栄は1974年に、また中曽根康弘は1987年にそれぞれ総裁と総理を同時に退いた。この慣例は「総裁辞任=総理辞任」を常識としてきたが、法的拘束力はない。石破氏のように制度の隙間を突けば、総裁を降りても総理に居座るという異例の事態が起こり得る。

しかし、自民党総裁選の前倒しが不可欠である。石破総裁を退陣させれば、たとえ石破が総理に居座ったとしても、自民党は不信任案を突きつけることができる。こうした総理交代も連動させることでしか、政権の正統性は回復できない。迅速に断行しなければ、国民の信頼はさらに失われるだろう。

石破政権は二度の国政選挙で惨敗した。これこそ民意の最も重い審判であるにもかかわらず、政権はそれを無視し、根拠の薄い世論調査を政権維持の道具としている。選挙という民主主義の根幹を踏みにじり、数字にすがる姿勢は民主主義そのものへの冒涜である。
 
🔳結論――「使われない制度」を「検討せざるを得ない現実」
 
読売新聞の世論調査の結果

英国の制度もドイツの制度も、強制辞任の仕組みが存在するが、実際にはほとんど使われていない。むしろ「制度が使われない」こと自体が望ましい。しかし日本では、強制辞任制度の検討を避けられないほど事態は深刻だ。

選挙で敗北した政権がなおも居座り、世論調査にすがって延命を図る現実。これは民主主義の危機以外の何物でもない。いま必要なのは、総裁選前倒しによる速やかな政権交代であり、それこそが日本の民主主義を守る唯一の道である。

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メディアに守られた面妖な首相、三度の敗北を無視した石破政権が民主主義を壊す 2025年8月31日
石破首相は三度の選挙敗北にもかかわらず続投を宣言し、メディアがこれを擁護する構図を鋭く批判。「制度の抜け道」や建設的首相交代制度への提言も含め、憲政史上初の異常事態として警鐘を鳴らす。

石破政権は三度の選挙で国民に拒絶された──それでも総裁選で延命を図る危険とナチス悪魔化の教訓 2025年8月25日
選挙は民主主義の根幹であり、国民の審判を軽視すれば政治は正統性を失う。歴代総理は選挙敗北を受けて辞任してきたが、石破政権は三度の敗北にもかかわらず延命を図る事態だ。

参院過半数割れ・前倒し総裁選のいま――エネルギーを制する者が政局を制す:保守再結集の設計図 2025年8月24日
参議院で過半数を割り込んだ状況下、前倒し総裁選の可能性と、エネルギー安全保障を軸にした保守再結集の道筋を描く記事。

選挙互助会化した自民・立憲―制度疲労が示す『政治再編』の必然 2025年8月18日
石破総裁誕生の背景には「高市早苗だけは総理にしない」という派閥横断の動きがあり、保守派の慢心に警鐘を鳴らす。自民党の制度疲労と政治再編の必要性を描いた一文。

衆院選大敗で執行部批判相次ぐ 自民、2千万円支給を問題視―【私の論評】石破総理の辞任は避けられない! 2024年11月
選挙大敗を受けて党内懇談会で執行部が批判され、青山参議院議員が首相に辞任を促した経緯を紹介。支持基盤の揺らぎと総裁選前倒しの必要性を浮き彫りにする。

2025年9月6日土曜日

ドラッカーが警告した罠──参院選後に再燃する『改革の名を借りた制度破壊』


まとめ

  • 英国・米国・日本で「改革」が再燃し、日本では参院選後に財政規律や構造改革が叫ばれる一方、財政法第4条と特例公債依存の矛盾が深刻化している。
  • ドラッカーは『産業人の未来』で、改革は制度を壊すのではなく制度を用いて現実を変えるべきだと説き、制度軽視は全体主義を招くと警告した。
  • 校則の例が示すように、制度は全廃も盲従も危険であり、時代に合わせて合理的に修正して維持することが秩序と自由を両立させる道である。
  • かつてのギリシャの最大政党PASOKの凋落やフランス・英国の制度不信、日本の民主党政権や石破首相の居座りなど、制度軽視は政治不信と混乱を招き、全体主義的傾向を強めている。
  • 構造改革は破壊ではなく点検・補強・斬新的再設計を含むべきであり、財政法と特例公債の矛盾も制度を守りつつ調整することで持続可能な解決が可能となる。
ここ最近、世界中で「改革」の言葉がまたぞろ飛び交っている。英国では労働党のスターマー政権が教育や移民制度の見直しを掲げ、米国ではトランプ大統領が現職として「国家再建」を進め、日本では2025年7月の参院選後に「財政規律」や「構造改革」という言葉が再び政界を席巻している。

日本の参院選では与党が議席を減らし、財政再建を重視する勢力が相対的に発言力を増した。これに呼応する形で財務省はプライマリーバランス黒字化の前倒しを打ち出し、社会保障費の抑制に強い姿勢を見せている。メディアも「財政健全化の必要性」を繰り返し取り上げ、財政規律こそが将来世代を守る道だという言説が広がった。

かつて小泉首相は「改革には痛みが伴う」と発言した

ただしここには、戦後日本の財政制度が抱える大きな矛盾が横たわっている。1947年に制定された財政法第4条は、「国の歳出は租税によって賄わなければならず、国債は建設国債を除いて財政政策のためには発行してはならない」と定めている。これは、戦前の戦費国債乱発が深刻なインフレを招いた反省に基づく規定だった。 

ところが1975年度以降、税収不足のために毎年「特例法」を制定して国債の発行が常態化し、事実上この原則は骨抜きにされてきた。参院選後に再び声高に語られている「財政規律」「構造改革」のスローガンは、この本来の制度趣旨を盾に取りながらも、現実には特例公債の発行に依存し続けているという自己矛盾を抱えているのである。

その矛盾を見ないまま「痛みを伴う改革」を繰り返せば、経済の基盤を損ない、国民の制度への信頼をさらに揺るがしかねない。これこそが、ドラッカーが警告した「制度を無視した改革が全体主義を招く」という構図に重なるのだ。
 
🔳ドラッカーが遺した「制度を用いる改革」の原則
 
ピーター・ドラッカーは1942年の著書『産業人の未来』において、改革とは制度を否定することではなく、制度を用いて現実を変えることだと明言した。彼にとって保守、リベラル、左派といった政治的立場は本質ではなく、制度を信頼し、それを活かしながら社会を改善するという姿勢こそが重要だった。

ピーター・ドラッカー

これは、学校の規則を例にとるとわかりやすい、校則は教育現場における「制度」の一例である。校則を全廃すれば自由が広がるように見えるが、実際には秩序が乱れ、いじめや事故などの新たな問題を招きかねない。だからといって時代に合わない規則をそのまま残せば、生徒の不満や不信を高め、制度への信頼が失われる。

制度には必ず欠陥や時代遅れの部分がある。しかし制度が作られる背景には、その時代に必要とされた秩序や社会的合意があり、それを根こそぎ崩してしまえば、単なる「不便な規則」をなくす以上の悪影響をもたらす。
 
重要なのは、校則を全面否定するのでもなく、盲目的に守るのでもなく、必要に応じて柔軟に修正しながら機能させることである。髪型やスマートフォンの使用規制など、時代の変化に応じて合理的に見直すことで、校則は秩序を守りつつ自由と共存する制度として維持される。

もし制度への信頼が失われれば、改革は理念や情熱に流され、やがて全体主義に至ると彼は警告した。この警告は決して過去の話ではない。現代でも同じ構図が見て取れる。トランプ大統領の産業政策や欧州で台頭するナショナル・コンザーバティズム、保守派内部での節度ある路線への回帰の動きは、いずれも「制度を使って現実に対処する」試みであり、ドラッカーの思想と響き合っている。

しかし一方で、制度を軽視した改革はしばしば煽動や破壊思想と結びつきやすく、人々は「劇的変革」という幻想に惹かれる。ここに危うさが潜んでいる。

欧米や日本のリベラル左派政権もその典型を示した。ギリシャの社会主義政党PASOKはかつて同国を代表する大政党であり、社会保障拡充と進歩主義を掲げて国民の支持を集めたが、財政危機に直面した2010年代に緊縮策を推し進めたことで支持を失い、急激に凋落した。この「パソク化」は中道左派政党の衰退を示す代名詞となり、制度を守れなかった結果として若年層の不信と過激化を招いた。

フランスでは若者世代が高齢者優遇に強い不満を抱き、制度そのものを信じられないという感覚が広がっている。英国ではリベラルな立場の政権が移民統合やグローバル化の弊害に向き合わず、結果として社会の分断を深めた。スターマー政権も成長戦略を欠いたまま税や規制に依存しており、「制度を超えた強い管理者」を求める声が増している。しかし、制度が担うべき役割を、人の強権的リーダーシップに肩代わりさせることは、短期的には混乱を収めるように見えても、長期的には制度の弱体化や全体主義的傾向を招く危険がある

日本でも2009年の民主党政権が制度改革を持続的に進められず、短命で終わったことで政治不信が広がり、結果的に制度への信頼が揺らぎ、保守政権の長期化を招いた。

さらに現在、自民党の内部でも制度の規範が揺らいでいる。従来「選挙に負けた総裁は退く」というのは日本政治の暗黙のルールだったが、2025年7月の参院選敗北後、石破茂首相は総裁の座に居座り続けている。党内からは退陣を求める声が上がり、森山幹事長が辞任の意向を示すなど波紋は広がったが、石破首相本人に退く意思は見られない。

慣習も「制度の背景にある秩序や合意」の一部だ。これを軽視して壊してしまえば、法や規則をいくら整えても社会は混乱する。逆に、慣習を理解しつつ合理的に修正・更新することは、「制度を用いて現実を変える」改革の重要な一環となる。現在の動きは、制度に根差した政治秩序の健全性を弱め、統治への信頼をさらに損ないかねない。まさに制度を軽視するリベラル・左派的姿勢が、自民党内部にまで浸透している現実を示している。
 
🔳構造改革は「破壊」ではない──斬新的改革を含む本来の意味

日本では「構造改革」という言葉が特に誤解されやすい。2000年代、小泉政権が金融緩和や積極財政を伴わず、規制緩和や歳出削減ばかりを進めたため、構造改革と聞けば「冷酷な削減」「庶民切り捨て」という印象が定着した。

構造改革については野口旭、田中秀臣共著の『構造改革論の誤解』が詳しい

だがドラッカーが説く改革は、制度を壊すことではなく、制度を点検し、補強し、柔軟に適合させていくことだった。教育制度が機能不全に陥っているなら、それを廃止するのではなく、現場に合ったカリキュラムに調整し、研修制度を改善する。制度をゼロから作り直すのではなく、持続可能な形に修正していく。これが「制度を用いて現実を変える」という本来の改革の姿である。

ここで重要なのは、この「制度を用いた改革」には斬新的な制度自体の改革も含まれるという点だ。ドラッカーは、制度を全面否定してリセットするような急進的手法ではなく、既存制度を基盤にしながらも必要に応じて抜本的な見直しや大幅な再設計を行うことも認めていた。斬新的な改革とは、制度の枠組みを壊さずに、抜本的な修正を重ねて大きな方向転換を可能にする改革である。

例えば、年金制度が時代に合わなくなった場合、その廃止ではなく、給付水準や負担構造を大胆に再編することで持続性を確保するような改革である。つまり、制度を「残すか壊すか」の二択ではなく、「制度を用いて現実を変える」という枠内で柔軟に進めるのである。

秩序を壊さず、価値を守りつつ、時代に合わせて制度を調整すること。これこそがドラッカーの言う「改革の原理としての保守主義」であり、日本でも再評価されるべき真の意味での構造改革だ。単なる破壊のスローガンとは一線を画し、漸進と斬新を両立させる姿勢こそが重要である。
 
🔳制度を忘れた改革は、必ず全体主義に行き着く
 
制度を活かすという原理を忘れたとき、改革は全体主義に至る。1930年代のヨーロッパがそうであったように、そして現在のロシアや中国、トルコ、ベネズエラでもそうであるように、制度を無視した改革は「自由な秩序」ではなく「強制された秩序」を生む。ロシアのウクライナ侵攻、アフガニスタンでのタリバン支配の継続は、その現実を示す最新の例だ。

さらに先進国の内部でも、教育や行政の機能不全、GAFAのアルゴリズム支配など、「制度的制御の崩壊」が静かに進んでいる。ここで言う「GAFAのアルゴリズム支配」とは、GoogleやApple、Facebook(現Meta)、Amazonといった巨大IT企業が検索結果やSNSの表示順、購買推薦などをアルゴリズムによって事実上独占的に決定し、利用者の意思や社会の議題形成に強大な影響力を及ぼしている現象を指す。これにより政治的意見の偏りや市場競争の歪みが生じ、制度による民主的制御が追いつかなくなっているのである。


皮肉なことに、ドラッカー自身の本来の活動の場である経営学でも、制度と人間を結びつける知見は時代遅れとされ、因果推論や実験経済学が主流となっている。だがそれこそが、人類が制度を軽視している証左であり、自由を危機に晒している。

制度を信頼し、その枠組みを用いて現実を変えること。これ以外に人間の自由を守る道はない。制度を破壊する改革は、必ず人間の自由そのものを破壊するものへと変質してしまう。

結語:改革とは制度を信じることである
 
世界中で叫ばれる「改革」のうち、どれだけが制度を活かすものであり、どれだけが制度を破壊するものなのか。その見極めを怠れば、待っているのは秩序でも進歩でもなく、制度なき独裁と暴力による秩序の回復である。

だからこそ今、思い出すべきはこの当たり前の真理だ。
改革とは、制度を用いて現実を変えることであり、制度を否定する改革は必ず人間の自由を否定するものへと変質する。
この「当たり前のど真ん中」に立ち戻ることこそが、真の保守であり、真の改革なのである。

そして、日本が直面する「財政法第4条の趣旨を掲げながら、特例公債に依存し続ける」という自己矛盾もまた、この原理から解決策が導かれる。すなわち、制度を破壊するのではなく、制度の本来の意図を守りつつ現実に合わせて制度を調整することである。

例えば、財政法の原則を尊重しつつ、特例公債を漫然と延長するのではなく、発行目的・上限・返済ルールを制度に組み込み、透明性と責任を制度化する。さらに、経済状況に応じて柔軟に財政出動できる仕組みを法律の枠組みの中で整える。こうした制度の「補強」と「再設計」こそが、ドラッカーの言う「制度を用いた改革」である。

言い換えれば、財政規律の理念を残しながらも、現実の経済運営に耐えうる制度に修正していくことで、国民の信頼を失わず、持続可能な財政政策を実現できる。これこそが、制度の破壊ではなく、制度を信じて活かす改革の姿である。

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2025年9月5日金曜日

ドイツで何が起きているのか──AfD支持者7人の突然死と“民主主義の危機

 
まとめ
  • ドイツ地方選でAfD候補者7人が死亡したが、制度や高齢化による偶然とされている。
  • AfDは不法移民や治安強化を訴え支持を拡大、2025年には支持率16〜22%、第一党の州も出現。
  • 既存政党はAfDを民主主義の敵とみなし批判、一方で市民運動が盛り上がるなど反応が分かれる。
  • AfDは全レベルの議会に議席を持ち、制度内部からの影響力強化を進めている。
  • AfDの台頭を「制度に挑戦する異端」と見なすのではなく、制度の再構築を促す歴史的な試金石と捉えるべき

🔳AfD候補者の連続死と選挙制度の構造的背景
 
2025年9月、ノルトライン=ヴェストファーレン州の地方選挙を目前にして、AfD(ドイツのための選択肢)の候補者や予備候補が13日間で7名も死亡する事件が発生し、驚きと衝撃をもたらした。最初は6名と報じられたが、自然死とされた1名が追加され、合計7名となった。そのうち本選候補者は4名、補欠候補者2名、そして長期療養中の80歳の候補者が1名皿に加わるという構成である。公式発表によれば、死因はすべて自然死、既往症、自殺とされ、警察や選挙管理当局も他殺の痕跡は認めなかった。しかしその連続性の強烈さは、SNSやメディアに陰謀論的な反応を引き起こし、政治的な不安を煽ったことも事実だ。

だが、この事態の裏側には、ドイツの地方議会制度の都議選などとは単純比較できない特徴がある。多くの地方議員は報酬の低い非常勤の名誉職であり、その大半は高齢の定年世代や自営業者で構成されている。立候補者総数は約2万人にのぼり、その中で死亡したのは16名。そのうちAfD所属は7名という事実は、選管も「統計的には異常とはいえない」と評価しているにもかかわらず、死者名が投票用紙や郵送票に含まれていたため、印刷の差し替え、投票の無効再処理や補欠選挙の検討といった実務上の混乱を引き起こしてしまった。冷静さを訴えた州副代表ケイ・ゴットシャルク氏と、「統計的にあり得ない」と発言した全国代表アリス・ワイデル氏とのやりとりは、この事件の政治的緊張を物語っている。

🔳支持構造の厚みと既成政党の対応
 
AfD共同代表アリス・エリーザベト・ワイデル

AfDが掲げる政策には、不法移民の制限、EU官僚主義への批判、原発再稼働/エネルギー価格安定、伝統的家族観の強調、治安強化など、現実に根ざした争点が含まれている。かつて「過激」と嘲笑されたそれらが、市井の実感と結びつき、旧東ドイツ地域や地方都市、更には学歴が高くない層や18歳から44歳の若年層からの支持を急速に得ている。2021年の連邦選挙支持率が10.3%だったのに対し、2025年には16%から22%に達し、東部では第一党にまで上昇した(2025年2月23日の連邦選では20.8%を得票)(ニューヨーク・ポスト, ウィキペディア, AP News, ガーディアン)。

この躍進に対し、SPD(連立与党第一党)や緑の党(中道左派、2025年2月の選挙以降、野党に転じた)はAfDの政策を「民主主義への脅威」として批判を強めている。一方CDUは選挙戦略として右寄りの姿勢を取り、AfD支持層の一部を取り込もうとしている。だが、この対抗姿勢がかえってAfDの主張に正統性を与えてしまう面もある。市民側からは「#BleibOffen(開かれた社会であれ)」というムーブメントが広がり、多様性と民主主義の価値を守ろうとする流れも拡大している。

AfDは2024年の欧州議会選において15.9%という結果を得て連邦第二党となり、党員数も2023年から60%増加し約4万7千人となった(Reuters)。さらに2025年にはアリス・ワイデル氏が党首候補を務めるというかたちで、AfDが制度の内部で存在感を高めてきたことが明確になった。

🔳欧州右派再編の震源としてのAfD
 
ヨーロッパ3大国(黄色)

ヨーロッパ三大国において、AfDほど制度内で影響力を保持する右派政党はほかにない。フランスのRNは欧州市場で結果を出したが議会ではやや勢いを欠き、英国のReform UKは支持率10%でも議席に結びついていない。これに対しAfDは比例代表を活かし、連邦議会・欧州議会・州議会に議席を持ち、制度の中で確実に存在し続けている。Reutersによれば、ドイツ国内情報機関はAfDを「過激主義的」と分類し、監視の対象としたことで物議を醸した(Reuters)。さらにその後、裁判所の判断によりその分類は一時保留されるなど、議論の渦中にある(Reuters)。

国際メディアはAfDの台頭を民主主義の分断として捉えている。Guardianは若年層や地域分断に注目し(ガーディアン)、WSJは欧州右派再編の中心としてAfDを描いた(ウォール・ストリート・ジャーナル)。FT(フィナンシャルタイムズ)は若者への入り口としてのSNS活用を評価し、Reutersは移民政策と地域の現実の乖離こそAfD支持の根深さと位置づけた(ガーディアン, Reuters)。

この事件は、単なる候補者の不幸や悲劇として片づけられるべきではない。AfD(ドイツのための選択肢)は、グローバリズムと移民政策に疲弊したドイツ国民の「声なき声」をすくい上げ、腐敗し硬直化したエリート主導の政治体制に真正面から異議を唱えてきた。いまやAfDは、現実政治に働きかける政党へと変貌し、既成政党が目を逸らしてきた「不都合な真実」を代弁する存在となった。

こうした動きを単に「過激」「極右」とレッテルを貼り、制度の外に排除することは、民主主義の破壊行為そのものである。むしろ、AfDの台頭こそが体制の病理を照らし出し、いまドイツ社会に求められている本質的な変化の兆しと見るべきだ。既得権層がこの現実から目を背け、言論封殺や社会的抹殺で対抗すれば、それは民主主義の名を借りた「リベラル独裁」に他ならない。

この構図は、実はわが国・日本においても他人事ではない。国民の多数が望む保守的価値観(家族、国柄、安全保障、伝統)に反し、少数のイデオロギー集団がメディアと官僚制を通じて政策を捻じ曲げている構図は、奇しくも現在のドイツと酷似している。政治家や評論家が「国民が間違っている」と言わんばかりの姿勢を見せる限り、同じように“正統な保守勢力”の排除が進み、やがて同様の悲劇的な摩擦が生じることを我々は覚悟すべきだ。

民主主義とは、国民を“啓蒙する”ことではない。国民の意志を制度に反映させる“誠実な媒介装置”でなければならない。AfDの台頭を「制度に挑戦する異端」と見なすのではなく、制度の再構築を促す歴史的な試金石と捉えること。それこそが今、ドイツ、そして我が国・日本においても問われている姿勢である。

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ドイツが常設部隊をバルト三国に配置した意義を、NATO戦略や地政学の観点から解説。ロシアの侵略行動が引き起こした防衛意識の変化を追う。

ドイツが大規模財政出動へと舵を切った背景を分析し、安倍政権時代の政策と比較。緊縮に囚われ続ける日本との違いに警鐘を鳴らす。

ドイツ、移民政策厳格化の決議案可決 — 私の論評:2025年ドイツ政治の激変―AfD台頭と欧州保守主義の新潮流 2025年1月31日
最大野党CDUがAfDに歩み寄る形で移民政策厳格化案を支持したことで、ドイツ政治に大きな転換点が訪れたことを解説。移民に寛容だった体制の再構築と、欧州全体の保守化の流れも分析。

東ドイツ地域でAfDが支持を拡大している背景に、産業空洞化・物価高・エネルギー政策の失敗など経済問題を重視。西側エリート層との断絶も指摘。

変化が始まったEU、欧州議会選挙の連鎖は続くのか? ― 私の論評:日本メディアの用語使用に疑問、欧州の保守政党を"極右"と呼ぶ偏見 2024年6月21日
欧州で拡大する保守政党の連携や政策協調を紹介しながら、日本の報道がしばしば「極右」とラベリングすることへの疑義を呈した記事。

2025年9月4日木曜日

なぜ今、創生『日本』に注目すべきなのか──伝統と国益を護る最後の砦


まとめ
  • 創生『日本』は安倍晋三元首相が築いた議員連盟であり、「改革の原理としての保守主義」を体現し、伝統と国益を守る拠点として再び動き出している。
  • 2015年の再始動、2020年の再結集、2022年以降の勉強会、2025年の総会へと活動を重ね、保守の原則である「漸進的改革」を政治に結びつけてきた。
  • 勉強会ではFOIPや家族制度を議論し、安全保障から社会制度まで「保守的改革」の方向性を示している。
  • 安保法制や憲法解釈の転換を後押しし、夫婦別姓論争では通称使用拡大を提案するなど、現実政治に影響を与えてきた。
  • 台湾有事と防衛増税が迫る今、創生『日本』は「改革の原理としての保守主義」を体現しつつ、安倍晋三の遺志を継ぎ、高市早苗らと共に国家の針路を示す最後の砦となっている。
🔳なぜ今「創生『日本』」に注目すべきなのか

2月5日の創生『日本』の総会・研修会

日本の政治は停滞の色を濃くし、外交・安全保障・経済の全てが岐路に立たされている。台湾有事の現実味が高まり、防衛増税が避けられない議題となる今こそ、理念に裏打ちされた羅針盤が求められている。そうした中で、安倍晋三元首相が立ち上げた議員連盟「創生『日本』」が再び動きを強めている。

この議連は、安倍外交の根幹である自由で開かれたインド太平洋(FOIP)を継承し、家族制度や憲法改正といった制度の根幹に踏み込んできた。単なる思想結社ではない。安全保障関連法制や憲法解釈の転換など、国家の方向を決定づける実際の政治に影響を及ぼしてきた。その存在感は今後ますます増すだろう。
 
🔳創生『日本』の歩みと再始動
 
創生『日本』は2007年に「真・保守政策研究会」として発足し、2010年に現在の名称となった。目的は、伝統と文化の擁護、戦後体制の見直し、そして国益の確保と国際的尊敬を得る国づくりである。

活動は第二次安倍内閣期に一時休止したが、2015年の自民党創党60周年を機に再始動。2020年11月には安倍辞任から3カ月後、加藤勝信、衛藤晟一、稲田朋美ら約20名が集まり、事実上の再出発を果たした。 

安倍氏の死去後、2022年9月には「会長は置かず月1回の勉強会を継続する」と決定。初回には米ハドソン研究所のケネス・ワインシュタイン博士を迎え、FOIPの意義を学んだ。2023年2月には産経新聞の阿比留瑠比氏が「安倍氏は戦後体制を漸進的に改革した政治家」と語り、保守的改革の象徴として評価した。

2025年2月5日には国会で総会・研修会が開かれ、41名が参加。議題は選択的夫婦別姓制度だった。講師の皆川豪志氏(産経新聞)は「子どもの視点を尊重すべき」とし、別姓導入に懸念を示した。最終的に、戸籍は同一氏を維持しつつ旧姓を通称として広く使える制度改正で一致した。中曽根弘文は「国民の声を受け止めるべき」と訴え、高市早苗は通称使用拡大を柱とする私案を提示した。
 
🔳改革の原理としての保守主義と創生『日本』の意義
 
これらの動きは、憲法改正や台湾有事、防衛増税と深く関わる。憲法改正では家族保護規定を踏まえつつ現実的改善を追求し、安全保障では台湾有事を避けて通れない課題と認識。FOIPの理念を基盤としたシーパワー連携が不可欠である。防衛増税は急進を避け、国民合意を前提に段階的に進めることが強調されている。

創生『日本』は、単なる懐古の場ではない。国家の針路を決定する拠点である。伝統を守ることを前提に家族制度を中核に据え、急進的個人主義の奔流に抗う。国家の存立を賭けた安全保障を直視し、現実逃避的な融和論を退ける。そしてFOIPを議会から支え、日本が単なる米国追従でないことを世界に示す。

ドラッカー

ここに改革の原理としての保守主義の本質がある。政治信条が保守かリベラルかは実は一般に考えられているほどには重要な問題ではない。しかし、実際に改革を断行する際は保守的でなければならない。
保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会をもつための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していくという原理である。これ以外の原理では、すべて目を覆う結果をもたらすこと必定である。(ドラッカー『産業人の未来』)
壊せば二度と戻らない制度や価値が社会には存在するからだ。ピーター・ドラッカーが説いたように、持続可能な改革は伝統と制度の骨格を尊重しなければならない。改革とは「伝統を尊重しながら未来へ進む行為」であり、理念なき急進は社会を混乱に陥れるだけである。

ドラッカーは、改革のための原理は、保守主義たるべしとする。

第一に、過去は復活しえないことを認識することが必要である。第二に、青写真と万能薬をあきらめ、目前の問題に対する有効な解決策をみつけるという、控え目で地味な仕事に満足することを知ることが必要である。第三に、使えるものは既に手にしているものだけであることを知ることが必要である。(『産業人の未来』)

守るべきを守り、変えるべきを変える。秩序だった斬新的改革こそ国民の進路を示すものであり、創生『日本』はその羅針盤なのだ。

創生『日本』は現実政治に影響を与えてきた。第二次安倍内閣期、集団的自衛権の限定容認を含む安保法制の成立を後押しした。外交面では、早くからFOIPを共有し、日本政府が公式戦略として採用する土台を築いた。近年では夫婦別姓をめぐる議論で通称使用拡大という折衷案を提示し、現実の政策に影響を及ぼした。
 
🔳高市早苗の立ち位置
  
 
高市早苗の存在は見逃せない。彼女は創生『日本』の中心人物であり、家族制度や経済安全保障の議論をリードしてきた。2025年の総会で通称使用拡大案を示し、議論を現実的方向に導いたのは象徴的である。安倍晋三の理念を最も忠実に受け継ぐ政治家の一人として、発言力を増している。彼女は創生『日本』を思想の場にとどめず、現実政治に結びつける推進力となっている。

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ドラッカーの保守主義に反する再エネ政策への警鐘 2025年8月23日
理念先行で環境資源を破壊しかねない再エネ政策を批判し、「改革の原理としての保守主義」に基づく現実的な視点を示した。

選挙互助会化した自民・立憲――制度疲労が示す『政治再編』の必然 2025年8月18日
既成政治の弊害を批判し、保守的改革の必要性と信条に基づく政治再編の急務を論じた。

年金引き金『大連立』臆測 自民一部に期待、立民火消――私の論評 2025年5月27日
年金改革や与野党の連携論をめぐり、秩序だった改革の必要性を訴えた。

百田尚樹氏と有本香氏が「百田新党」立ち上げ準備を本格化 2023年8月31日
保守的改革の立場から、新たな政治運動の可能性を模索する動きを紹介した。

ドラッカーの言う「改革の原理としての保守主義」とは何か 2013年10月15日
急進的改革を戒め、伝統を尊重しつつ未来志向の変革を説いたドラッカーの思想を解説。

2025年9月3日水曜日

歴史をも武器にする全体主義──中国・ロシア・北朝鮮の記憶統制を暴く


20159月に行われた「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年」の軍事パレード=北京の天安門前

まとめ

  • 中国共産党の抗日戦勝利叙述は1937年の洛川会議で始まり、1994年の愛国主義教育綱要や2014年の記念日法定化で国家的に固定された。
  • 米国の研究者やシンクタンクは、中国共産党の戦功を「虚構」と批判し、実際の主力は国民党軍であったと指摘している。
  • 毛沢東は1972年の田中角栄との会談を含む複数の場で「日本の侵略が共産党の台頭を促した」と語り、公式叙述と現実の間に矛盾がある。
  • 中国の歴史統制はロシアや北朝鮮の記憶統治と共通し、法制度・教育・演出で国家に都合の良い歴史を作り上げている。
  • 1937年から2025年までの年表や比較表から、中国・ロシア・北朝鮮の三国が歴史を政治的正統性のために制度化・固定化してきた流れが見える。
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🔳「抗日勝利」の物語はどこから始まり、いま何に使われているのか
 

中国共産党は9月3日に「抗日戦争勝利記念」の式典を大々的に行い、自党こそが日本軍を打ち負かした主役だと強調する。終戦80年となる今年は、プーチンや金正恩らの来訪も報じられ、内外へアピールする色合いが濃い。こうした戦時ナラティブの再強化は近年の既定路線であり、習近平体制は第二次大戦の記憶を国内統合と対外メッセージの両方に使っていると米主要紙は指摘する。ウォール・ストリート・ジャーナルは、共産党が自らの役割を前面に出して戦後秩序の「共同の担い手」を装い、台湾問題など当代の政治課題へ結びつけていると報じた。(ウォール・ストリート・ジャーナル)

この種の国家的演出は国際メディアでも広く取り上げられ、ガーディアンやAPは、軍事パレードを含む大規模行事が「大国間対立の文脈での歴史動員」であることを描いている。(ガーディアン, AP News)

「共産党軍が抗日戦の正統な主体」という自己規定は、日中戦争開戦直後の1937年8月、陝西省で開かれた洛川会議に遡る。ここで中共中央は「抗日救国十大綱領」を採択し、紅軍を八路軍として“抗日の主力”に位置付けた。中国政府系の公的解説でも、洛川会議が対日抵抗路線と八路軍の役割を明確化した節目だったことが記されている。(china.org.cn)

もっとも、戦後しばらくは記念日の体系が整っていなかった。現在の記念日制度は2014年に全人代常務委が9月3日を「中国人民抗日戦争勝利記念日」、12月13日を「南京大虐殺国家追悼日」として法定化したことに端を発する。政府・公的資料で決定過程が確認できる。(us.china-embassy.gov.cn, 中国法翻訳, ウィキペディア)

🔳「虚構」批判と、毛沢東の“感謝”発言という矛盾
 
この党史叙述に対しては、米国の研究者・メディアから一貫した反論がある。ハドソン研究所のマイルズ・ユーは2025年の論考で、共産党の対日戦「武勲」は誇張であり、戦時の主力は蒋介石の国民党軍で、共産党は戦力温存に努めたと断じた。(hudson.org, Hoover Institution)
同趣旨の指摘は2014年の『ザ・ディプロマット』にも見られ、国民党軍が正面戦で主に戦い、共産党は内戦を見据え勢力を伸ばしたという構図が示されている。(The Diplomat)
戦後記憶の再編については、WSJが習政権の「歴史書き換え」を分析し、ラナ・ミッターら歴史家の見解として、国民党・台湾・米国の貢献が矮小化されている事実を伝えている。(ウォール・ストリート・ジャーナル)

毛沢東

決定的なのは毛沢東自身の言葉だ。毛は建国(1949年10月1日)後、複数の場で「日本の侵略がなければ、国共合作も、最終的な権力獲得もなかった」と趣旨の発言をしている。とりわけ1972年9月27日の田中角栄との会談に関連し、「日本には感謝せねばならぬ」との言辞が出たと記録され、出典付きで“毛沢東の対日発言”論争として整理されている。一次資料の完全な逐語録は限定的だが、史料化された公的アーカイブや研究史で「侵略が共産党の台頭を促した」という毛の認識自体は確かめられる。(ウィキペディア)

すなわち、毛は日本軍と主に戦ったのは国民党軍である現実を踏まえつつ、その侵攻が結果として共産党の伸長を促したと評価した。一方で党は1937年の洛川会議で「共産党こそ抗日の主体」と公式化し、戦後は国民党の戦功を自党の物語に吸収していった。ここに「発言」と「公式叙述」のズレが生じる。

この矛盾は中国に限らない。ロシアでは2020年の憲法改正で「歴史的真実の保護」を明記し、記憶を法と憲法で固定化した。学術レビューは、憲法67.1条2項が“歴史の武器化”に使われていると分析する。さらに2014年導入の刑法354.1条(“ナチズムの賛美・正当化”)は、第二次大戦史の異説を萎縮させる道具として運用されてきたと法学者は指摘する。(スプリンガーリンク, PONARS Eurasia, Verfassungsblog)
北朝鮮も建国以来、金日成の「抗日パルチザン」神話を国家正統性の核に据え、党史・教材・記念施設で徹底的に再生産してきたことが、比較政治・朝鮮研究の蓄積から知られている(ここは学界一般知として要点のみ挙げる)。

以上を踏まえると、全体主義・権威主義体制の本質は「事実より政治」を優先し、国家目的に適合する形で歴史を設計・固定することだと言える。中国の対日戦叙述はその典型であり、ロシアや北朝鮮の“記憶統治”とも共通の手口を示す。

🔳年表と比較で見る「記憶の制度化」

簡易年表(1937→1949→1994→2014→2015→2021→2025)

  • 1937年:洛川会議。「抗日救国十大綱領」を採択、八路軍を抗日主体に位置付け。(china.org.cn)

  • 1949年:中華人民共和国成立(10月1日)。

  • 1994年:愛国主義教育綱要が発表され、学校・博物館・メディアで対日戦記憶の定着が加速(政府方針・教化政策として制度化)。

  • 2014年:全人代常務委が9月3日を「抗日戦争勝利記念日」、12月13日を「南京大虐殺国家追悼日」に法定化。(us.china-embassy.gov.cn, 中国法翻訳, ウィキペディア)

  • 2015年:戦後70年の大規模軍事パレードを実施。

  • 2021年:共産党「歴史決議」を採択。習近平を“百年史の中心”に位置づけ、歴史解釈を公式に固定。(ウォール・ストリート・ジャーナル)

  • 2025年:終戦80年の一連行事。海外主要紙は、戦時記憶の再動員と対外戦略の接続を指摘。(ウォール・ストリート・ジャーナル, ガーディアン, AP News)

中国・ロシア・北朝鮮の「制度化・法制化・演出」比較

区分 中国 ロシア 北朝鮮
制度化 記念日法定化(2014年)と愛国主義教育の全国展開(1990年代以降) 「歴史歪曲対策」機関設置(2009年)など記憶行政の拡充 党史・教材・記念施設で指導者神話を恒常再生産
法制化 記念日決定の法令化、歴史決議(2021年)による正史固定化 憲法67.1条に「歴史的真実」条項、刑法354.1条の運用拡大 「唯一思想体系」関連規範で歴史叙述を統制
演出 軍事パレード、映画・連ドラ・博物館の演出強化 戦勝記念パレード、記念碑・博物館群の国家演出 映像・文学・記念日動員による英雄譚の上塗り

(ロシア憲法・刑法の位置付けは法学レビュー・憲法学ブログが詳しい。(スプリンガーリンク, PONARS Eurasia, Verfassungsblog))

中国では南京事件を題材とした中国映画「南京写真館」が好調

結語

洛川会議で掲げられた「共産党こそ抗日の主体」という旗印は、戦後の記憶政治で法と制度にまで昇華された。だが、戦時の主力は国民党軍であったという実態、そして毛沢東自身が“日本の侵略が共産党の伸長を結果として促した”と語った事実は、党の公式物語と噛み合わない。ここにこそ、全体主義が繰り返す「事実より政治」の本性が露出する。2025年の記念行事まで連なる長い軌跡は、その証拠である。(hudson.org, The Diplomat, ウォール・ストリート・ジャーナル, ウィキペディア)

※注:毛沢東の「感謝」発言は1972年会談を含む複数の場面で伝えられており、研究的整理の出典として参照しやすいのは英語版の概説記事である(当該項目は出典リンクを多数付す)。逐語の一次史料は限定的だが、趣旨の把握には足りると判断した。(ウィキペディア)

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2025年9月2日火曜日

伝統を守る改革か、世襲に縛られる衰退か――日英の明暗


まとめ
  • 英国の最近の政治改革は、爵位を理由に自動的に議席を継承する制度を廃止したもので、親が議員だから政治家になれないという差別的制度ではない。
  • 貴族院は13世紀以来、爵位で議席を得られる伝統が21世紀まで存続していたことは驚きであり、今回の改革はその歴史を断ち切りつつ議会制度を現代化した。
  • ドラッカーの「改革の原理としての保守主義」は未来志向と現実主義を基盤にし、理念先行の改革を戒める思想である。
  • 英国は貴族院改革で成功した一方、移民・エネルギー政策では失敗を重ねた。この対比が「改革哲学の重要性」を示す。
  • 石破茂氏は典型的エリート政治家であり、その低迷は日本政治の構造的停滞を象徴している。英国の経験は日本に大きな教訓を与える。
🔳英国貴族院改革の本質と驚きの歴史的背景
 
英国政治に激震が走った。今年、政府は新たな世襲貴族の任命を全面的に禁止し、議員退職制度を導入するという歴史的改革に踏み切った。ただし、この「世襲貴族任命禁止」は、親が議員であるからといって政治家になる権利を奪うものではない。これはあくまで、爵位を理由に自動的に上院議席を継承する特権を廃止することを意味し、血統主義を改め、民主主義を強化するための改革である。

英国貴族院

驚くべきは、この特権的慣習が長らく英国に根付いていたことだ。13世紀に王の諮問機関として始まった貴族院は、長らく貴族と聖職者の支配の象徴であり、爵位を持つ者が選挙を経ずに議席を得る制度は、21世紀に入っても一部で存続していた。この「自動議席継承」は1999年の改革でも92議席が残され、制度疲労の象徴となっていたが、今回ついに終止符が打たれた。

重要なのは、この改革が伝統を破壊せず、議会の歴史的価値を尊重した点である。貴族院は英国政治文化の基盤であり、熟議を重んじる上院の機能を保ちつつ、特権を撤廃した。この決断は、歴史を重んじながら時代に合わせて制度を改める英国の強さを象徴するものであり、伝統と改革の調和を体現している。

🔳ドラッカーが説く「改革の原理」と英国政治の思想的成熟
 

ピーター・ドラッカーは『産業人の未来』で、真に成功する改革は「保守主義」の原理に従うべきだと断言した。ここでの保守主義は過去を美化する懐古主義ではない。むしろ未来を見据え、社会を健全に機能させ続けるための哲学だ。ドラッカーは、大設計や万能薬に頼る改革は必ず失敗し、社会を混乱させると警告し、改革は理想の青写真を描くことではなく、現実の課題を一つずつ解決する地道な作業であると説いた。そして、そのためには歴史の中で実証済みの制度や慣行を最大限活用することが欠かせないと指摘した。

英国の貴族院改革は、この思想を忠実に反映している。特権的な制度を見直しつつも、貴族院という歴史の象徴を廃止することはせず、漸進的な改革によって社会の安定と信頼を保った。英国政治には、まさにドラッカーが説いた「改革の原理としての保守主義」が息づいている。一方で、英国の移民政策やエネルギー政策は理念先行の急進的改革が裏目に出て社会の分断やエネルギー危機を招き、哲学なき改革がいかに危険かを示す教訓となった。英国にも政治的混乱はあるが、それにしても今の日本ほど酷くはない。選挙で負けた首相が居座ったことは一度もない。英国の成功と失敗は、改革の命運を分けるのは思想と原理であることを物語っている。

🔳日本政治の世襲構造と石破茂の象徴性

石破茂氏が衆院選に初当選した時のテレビのインタビュー

日本政治は世襲議員の比率が高く、衆議院議員の約3割、自民党内では約4割が世襲出身である。選挙基盤や後援会を受け継ぐ仕組みは権力の固定化を生み、政治文化を硬直化させてきた。石破茂首相はその典型例である。父・石破二朗氏(元自治大臣・鳥取県知事)の地盤を継ぎ、慶應義塾大学法学部を卒業後、銀行勤務を経て政界に進出した。強固な慶應三田会ネットワークを背景に、若くから名門の文化と人脈の中で育った典型的エリート政治家だ。

高校時代は体育会ゴルフ部に所属し、多くの部員が大学でもゴルフ部に進む中で「スコア100を切ったことはない」と語ったエピソードも残る。スポーツの実績は平凡でも、名門校文化の中で築いた人脈や学歴・家系・組織力の三拍子は、まさにエリート政治家の典型だ。しかし、石破氏の低迷する支持率は旧来型政治の求心力が失われたことを示し、エリートモデルの限界を浮き彫りにしている。

英国は貴族院改革で伝統を尊重しながら制度疲労を取り除き、漸進改革によって信頼を築いた。一方で移民やエネルギー政策では理念先行の失敗が社会を混乱させた。この対比は「改革には哲学が必要」というドラッカーの思想を裏付ける。日本は世襲と旧派閥のしがらみで停滞しており、石破氏は旧来型政治の象徴である。英国の経験は「伝統を守りながら変わる」というモデルの重要性を日本に示すものである。

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2025年9月1日月曜日

天津SCOサミット──多極化の仮面をかぶった権威主義連合の“新世界秩序”を直視せよ


まとめ

  • 天津SCOサミットは非西側諸国の結束を誇示し、国連事務総長の参加は国連の権威低下を象徴した。
  • 中国経済は製造業PMI49.4で縮小、BRIは債務危機や計画中止が相次ぎ、影響力に陰りが見える。
  • SCO加盟国の多くは権威主義体制で、国際規範を弱体化し西側の秩序を脅かしている。
  • インドはSCO共同声明署名を拒否し、中国・パキスタン寄りの姿勢に異議を唱えたが、外交的立場は揺れている。
  • 天津サミットは新世界秩序を狙う権威主義連合の台頭を示し、西側諸国は自由と民主を守るため対抗戦略を急ぐ必要がある。

🔳SCOサミットの全貌と国連の権威低下
 

2025年8月31日から9月1日、中国・天津で第25回上海協力機構(SCO)首脳会議が開かれた。習近平国家主席が議長を務め、ロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相ら20を超える国の首脳が集結し、西側主導の国際秩序に対する挑戦を鮮明に示した。

この会議は突発的なものではない。7月11日のデジタル経済フォーラムを皮切りに、外相理事会やシンクタンクサミット、農業大臣会議など複数の準備会合が重ねられた。8月28日には報道センターが設置され、世界中の注目が天津に集まった。

8月31日、習近平夫妻が赤絨毯で各国首脳を迎える姿は、中国が新秩序の中心を宣言する姿勢を象徴していた。その場に国連のグテーレス事務総長も姿を見せた。第二次世界大戦戦勝国の価値観を守るはずだった国連が、非西側主導の場に積極的に参加した事実は、国連の権威が失墜し、国際秩序の潮流が変わったことを示す象徴的な瞬間だった。グテーレス氏の「中国の役割は多国間主義の命綱」という発言は、国連が影響力を失い、非西側への迎合を余儀なくされている現実を突き付けている (Reuters)。

🔳中国経済の脆弱性とSCOの権威主義的本質

クリツクすると拡大します

天津サミットの華やかさの裏で、中国経済の失速は深刻だ。2025年8月の製造業PMIは49.4と5か月連続で縮小。地方政府の巨額債務、不動産市場の崩壊、銀行収益の悪化が経済を蝕む。フィッチは中国の外貨建て信用格付けを「A」に格下げした。さらに「一帯一路(BRI)」構想も停滞し、75か国が年間220億ドル超の対中債務に苦しみ、インフラ計画は遅延・中止の連鎖に陥っている。ベルリンのシンクタンクMERICSはBRIを「経済合理性より政治的影響力を優先した戦略」と断じており、中国の影響力の限界が浮き彫りになっている。


図表1:中国経済指標(2025年)

指標現状・数値
製造業PMI(2025年8月)49.4(5か月連続縮小)
外貨建て信用格付け(フィッチ)A(2025年4月、格下げ)
一帯一路関連債務年間220億ドル超(75か国)
都市部若年失業率約15%(非公式推計)


SCO加盟国の多くは中国、ロシア、イラン、ベラルーシなど権威主義体制を取る国々で、「権威主義国家のクラブ」と揶揄されることも多い (britannica.com)。この枠組みは、内政不干渉や主権尊重を盾に国際規範の弱体化を図り、民主主義陣営への対抗軸を構築している。中央アジアや中東での軍事演習や治安協力は既に実施され、西側の影響網を回避した「もう一つの国際秩序」が現実になりつつある。


図表2:SCOと西側の比較(2025年)

項目SCO加盟国西側(日米欧)
世界人口割合約40%約30%
世界GDP割合約25%約50%
資源支配率(石油)約30%約20%
政治体制傾向権威主義・非自由主義民主主義


🔳インド外交の揺れと西側への警告
 
31日、中国・天津市で、握手するインドのモディ首相(左)と中国の習近平国家主席

インドのモディ首相は、天津で「戦略的自律」を強調し、中国との協力強化を通じて地域安定を模索した。しかし、『Foreign Policy』誌はインドのこの姿勢を「米国や民主主義陣営との関係を危うくしかねない」と警告している (foreignpolicy.com)。

さらにインドはSCOの共同声明署名を拒否した。声明がテロ問題に対し中国・パキスタン寄りであることを理由としたもので、SCOが形成しようとする新秩序が西側価値を軽視していることを浮き彫りにした (economictimes.indiatimes.com)。

天津サミットは「権威主義国家連合」が世界秩序の書き換えを進める試みであり、これがもたらす未来は民主主義陣営にとって破滅的だ。西側が対抗戦略を持たずにいることは許されない。自由・法治・人権を基盤にした秩序を守る責務は、今この瞬間に突き付けられている。

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