2021年3月24日水曜日

中国最大の汚点・ウイグル族強制収容問題、日本に飛び火か…国会議員が制裁対象の可能性も―【私の論評】中国の制裁より、米国・EU・日本による制裁のほうがはるかに過酷(゚д゚)!

中国最大の汚点・ウイグル族強制収容問題、日本に飛び火か…国会議員が制裁対象の可能性も

 ウイグル族への人権侵害疑惑をめぐり、ついに欧州連合(EU)と中国の間で制裁合戦が勃発した。EU外相理事会が22日に制裁を発表すると、アメリカとカナダもそれに合わせて制裁実施に舵を切った。一方、中国も即日、対抗措置としてEUに制裁を発動すると声明を出した。

 複数の日本外務省関係者らは、一連の動きを「大規模な経済制裁の応酬に発展する可能性は低く、あくまで象徴的な事案」との見解を示している。一方で、中国側の制裁対象はEUの意思決定機関である欧州議会議員だけではなく、中国のウイグル族問題に関して批判的な言動をしていたオランダの国会議員や研究者も含まれていた。日本の一部国会議員からは「もし、我が国は制裁に参加すれば日本の議員も狙い撃ちにされるのではないか」との懸念も聞かれた。

写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 制裁対象者はどこの誰なのか

 日本の国内メディアは制裁対象者について「中国の個人4人と1団体」「欧州議会議員ら10人と4組織」などと報道する例が散見された。だが両陣営の「誰」に対して制裁が行われるのかを整理しないと、両陣営の制裁の意図は見えにくいのではないだろうか。

 EUは22日、人権制裁制度に基づき以下の人物と団体に一部資産の凍結や旅行禁止などの制裁を課した。EU側の制裁対象に関しては、BBC NEWS JAPANの記事が簡潔でわかりやすい。記事『欧米、中国に制裁を発動 ウイグル族への「人権侵害」で』より該当部分を引用する。

 「陳明国氏=地元警察組織・新疆公安局の局長

王明山氏=新疆の党委員会メンバー。ウイグル族拘束の「政治的な監督責任者」だとEUはみている

王君正氏=国営の準軍事的経済組織・新疆生産建設兵団(XPCC)の党事務局長

朱海侖氏=新疆の元党幹部。収容施設の運営を監督する『重要な政治的職責』にあったとされる

新疆生産建設兵団公安局=収容施設の運営など、XPCCの治安問題に関する活動方針の実施主体」

 EUは「中国政府により新疆ウイグル自治区のウイグル族が大規模に拘束されている」として人権侵害や虐待の“実質的な責任者”に対して具体的な措置を取ったようだ。

 一方、中国は人権侵害を否定。欧米の指摘する“収容施設”はテロ対策の「再教育」施設や刑務所だと主張している。前出のBBCの記事によると、中国は「ヨーロッパの10人と4組織に対し、『中国の主権と国益を大きく損ない、うそと誤った情報を悪意をもって広めた』として、制裁を発動する」と説明したという。つまり今回のウイグル問題に対する他国の情報発信者に対し、制裁がかけられたのだ。

 日本の外務省関係者から入手した資料によると、中国の制裁対象者は欧州議会議員Reinhard Bütikofer氏、Michael Gahler氏、Raphaël Glucksmann氏、ИлханКючюк氏、Miriam Lexmann氏の5人。そのほか欧州各国の議員やシンクタンクもターゲットにされた。残りの個人5人はオランダの国会議員Sjoerd Wiemer Sjoerdsma氏、ベルギーの議員Samuel Cogolati氏、リトアニアの議員のDovile Sakaliene氏、強制不妊手術の実態を報告したドイツの学者Adrian Zenz氏とスウェーデンの学者Björn Jerdén氏だった。

 4つの組織はEU理事会の政治安全委員会、欧州議会人権小委員会、ドイツのメルカトル中国研究研究所、デンマークの民主主義連合財団だったという。

 「人口14億人の超大国に“敵認定”されるということ」

 外務省関係者は次のように話す。

 「オランダの下院は先月、中国に対する『ジェノサイド非難決議』を採択しました。Sjoerdsma議員はその主導的な人物のひとりです。そこを狙い撃ちにされた形ではないかと思います。ただ今回の一件が、すぐに大規模な経済制裁の応酬に発展する可能性は低いと首相官邸筋は見ているようです」

 一方、Sjoerdsma氏は自身に対する中国の制裁に対して、Twitter上で以下のような抗議声明を発表している。



  「中国がウイグル人に大量虐殺を行っている限り、私は黙っていません。

 これらの制裁は、中国が外圧の影響を受けやすいことの証拠です。ヨーロッパの同僚たちも、この瞬間をとらえて発言してくれることを願っています」

 中国の対EU制裁に関し、自民党関係者は次のように話す。

 「象徴的だと思うのは、中国の制裁対象者に入った欧州議会のBütikofer氏とLexmann氏の2人が制裁対象者に入っていることです。2人は香港民主化デモを国家安全法で鎮圧した中国政府を非難するために設立された『対中政策に関する列国議会連盟』の幹部です。

 この列国議員連盟にはうちからは中谷元氏、国民民主から山尾志桜里氏が参加しています。党内では対中問題をめぐってかなり意見が割れていますが、仮に欧州や米国と足並みを揃えることになれば、日本国内の議員が制裁対象になることも当然、覚悟しなければならないでしょう。

山雄志桜里氏(左)と中谷元氏(右)

 しかも中国の制裁は、行政当局者や議員だけではなく、シンクタンクや学者など表現活動に携わる人物、組織にも向けられています。周辺国の安全保障に脅威を与える軍事政権のトップや将軍でも、テロ組織の構成員でもない人物が人口14億人の超大国に名指しで“敵”認定されるのと同義です。中国国内に凍結されるような資産を所持せず、実害がなかったとしても、そのインパクトとプレッシャーは強力でしょう。

 事実と反する風説を流布することは世界的に批判されるべき行為です。しかし、ウイグル問題に関して中国側が積極的に情報開示をし、自国の主張する“潔白”を証明しているとは思えません。この制裁は他国の言論や政治活動に脅威を与えるものだと思います」

 日本政府はこの問題にどう対応するのだろうか。

(文=編集部)

【私の論評】中国の制裁より、米国・EU・日本による制裁のほうがはるかに過酷(゚д゚)!

上の記事、最初は、日本に飛び火ということで、米国やEUの制裁が日本の国会議員や、企業経営者、学者などにも制裁が及ぶ可能性を指摘しているのかと思いましたが、そうではありません。中国の制裁が日本にも及ぶことを心配した記事でした。

わたしとしては、中国の制裁よりも米国、EU制裁が日本に及ぶ可能性のほうがより深刻だと思います。制裁といえば、中国内における資産の凍結や、中国への入国禁止というのが主なものです。

そもそも、中国に金を預ける人などほとんどいないでしょう。あったにしても、中国に長期間滞在するための資金くらいなものでしょう。中国に渡航できないと困る人もいるのでしょうが、それにしても、米国・EUに入れなくなるほうがより困ることのほうが多いでしょう。

中国の共産党幹部や、その家族や富裕層など、中国の金融機関よりは、米国やEUの金融機関を信用しており、米国やEUに大量の資産を預けているのが普通です。これが凍結されれば大変なことになります。

また、中国の共産党幹部や、その家族や富裕層などは本当は大陸中国が大嫌いで、老後は米国やEUに住もうと考えている人がほとんどです。そもそも、彼らは、中国共産党の未来を信じていません。

共産党の幹部や、富裕層のほとんどは、中国など金儲けの道具にしかすぎず、中国人民などどうなっても構わず、自分とその宗族だけが、重要であり、その他は全部敵であり、自分の宗族だけが儲かれば良いと考えています。

共産党も習近平の宗族や、他の各部の宗族との戦いであって、彼らの世界は自らと自らが属する宗族だけが、自分の居場所であり、世界なのです。他の宗族は滅ぼうがどうなろうが、お構いなしです。自分の属する宗族が栄えればそれで良いのですが、反対に宗族が敗れれば、それに属する自分も滅びる以外にないのです。

日本人、いや先進国などのほとんどの人は、宗族主義などやめて、人民全体のことを考えれば良いではないかということに、なるのでしょうが、中国にはそのように考える人はほとんどいません。

日本や他の先進国であれは、ますば自分の国の国民を第一に考えますが、あるいは少なくともそれを建前としますが、そのような考えは中国人にはありません。

このような異質な世界から、制裁を受けたとしても、すぐに命を取られるとか、社会的地位を失うというのならまだしも、制裁されたという事自体は、異質な中国以外の国にいる限り、それはマイナスではなく、むしろプラスだと思います。

ある意味、中国当局から制裁を受けることは、人権問題等の積極的に取り組んでいるる証であり、先進国などでは、ポジティブに受け取られると思います。

そうして、中国による新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル族への人権侵害に関しては、中国での生産をサプライチェーン(供給網)に組み込む日本の国内企業が対応に動いています。

オーストラリアのシンクタンクは中国の工場がウイグル族の強制労働の場となっている可能性を指摘。企業の社会的責任が重視される中、調達先の工場などで強制労働があれば間接的な人権侵害への加担につながるため、各企業は「厳正な対処」を強調しています。

強制労働をめぐっては、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が昨年3月、世界の有力企業80社超がウイグル族を強制労働させている中国の工場と取引していた可能性があるとの報告書を発表。この中には日本企業14社も含まれていました。衛星写真や中国側の文献、報道、各社が公表している取引先のリストなどに基づき分析したといいます。

オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)

報告書は2017~19年に8万人以上のウイグル族が強制収容所などから中国全土の工場に送られたと分析。各社が供給網の末端で強制労働とつながりがある可能性は排除されていないとしました。

指摘を受けた各企業は事実確認などの対応を急いでいます。東芝は強制労働の疑いがある調達先を調査。「当社や連結子会社の直接取引先ではないことを確認」した一方、東芝がブランド使用を認めている企業で、疑いのある調達先と取引があったケースが判明。「強制労働の実態は確認されなかったものの、昨年以降の開発機種は当該調達先の部品を採用していない」としています。

ソニーは「指摘された調達先のうち、サプライチェーン上にある調達先を調べた結果、強制労働の事実は確認されなかった」と強調。シャープや日立製作所、TDKも確認された強制労働の事実はないとしています。その一方で、「今後、事実が取引先で判明した場合は断固として是正を求め、改善されない場合は取引停止などの対応も検討する」(シャープ)としています。

企業の短期的な利益追求よりも経営の持続可能性が求められる中、人権を含む社会問題や環境問題への企業責任を重視する投資家からの圧力は強まりつつあります。今回の強制労働をめぐる疑惑も対応が遅れれば、企業にとっては重大な経営上のリスクに発展しかねないです。

海外企業の動きも迅速です。ASPIの報告書発表以降、米アウトドア用品大手パタゴニア、スウェーデン衣料品大手H&Mなどが指摘された調達先との取引停止などを表明しています。


この動きは、現状では企業が対照ですが、いずれ個人にも及んでくる可能性があります。ウイグル人に対する強制労働に間接的にでも加担していれば、政治家、企業経営者、学者なども糾弾され、それこそ米国、EUなどから制裁の対象にされる可能性は十分にあります。

今のところ、日本政府のこの動きへの対応は鈍いですが、米国やEUから追求されるようになれば、日本も個人などに対して制裁を課するようになる可能性は高いです。

自国に制裁を食らってしまえば、政治家や企業経営者、学者なども自国内で活動できなくなってしまいます。それこそ、政治生命、企業家生命、学者生命が絶たれてしまうことになるのですからの中国の制裁などよりもはるかに恐ろしいことです。

中国による他国への制裁よりは、日米EUによる制裁のほうがはるかに過酷であることは間違いないです。

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2021年3月23日火曜日

カズオ・イシグロの警告が理解できない、リベラルの限界―【私の論評】リベラリストこそ、マネジメントを「リベラルアート」であるとしたドラッカー流マネジメントに学べ(゚д゚)!

カズオ・イシグロの警告が理解できない、リベラルの限界

彼らはなぜ「格差」を無視し続けるのか


 「横」を見るだけでは不十分

2017年にノーベル文学賞を受賞した小説家カズオ・イシグロ氏の、あるインタビューが各所で大きな話題になった。

そのインタビューが多くの人から注目されたのはほかでもない――「リベラル」を標榜する人びとが自分たちのイデオロギーを教条的に絶対正義とみなし、また自身の感情的・認知的好悪と社会的正義/不正義を疑いもなくイコールで結びつける風潮の高まりに対して、自身もリベラリズムを擁護する立場であるイシグロ氏自身が、批判的なまなざしを向けていることを明言する内容となっていたからだ。

カズオ・イシグロ氏
〈俗に言うリベラルアーツ系、あるいはインテリ系の人々は、実はとても狭い世界の中で暮らしています。東京からパリ、ロサンゼルスなどを飛び回ってあたかも国際的に暮らしていると思いがちですが、実はどこへ行っても自分と似たような人たちとしか会っていないのです。

私は最近妻とよく、地域を超える「横の旅行」ではなく、同じ通りに住んでいる人がどういう人かをもっと深く知る「縦の旅行」が私たちには必要なのではないか、と話しています。自分の近くに住んでいる人でさえ、私とはまったく違う世界に住んでいることがあり、そういう人たちのことこそ知るべきなのです。(中略)

小説であれ、大衆向けのエンタメであれ、もっとオープンになってリベラルや進歩的な考えを持つ人たち以外の声も取り上げていかなければいけないと思います。リベラル側の人たちはこれまでも本や芸術などを通じて主張を行ってきましたが、そうでない人たちが同じようにすることは、多くの人にとって不快なものかもしれません。

しかし、私たちにはリベラル以外の人たちがどんな感情や考え、世界観を持っているのかを反映する芸術も必要です。つまり多様性ということです。これは、さまざまな民族的バックグラウンドを持つ人がそれぞれの経験を語るという意味の多様性ではなく、例えばトランプ支持者やブレグジットを選んだ人の世界を誠実に、そして正確に語るといった多様性です〉(2021年3月4日、東洋経済オンライン『カズオ・イシグロ語る「感情優先社会」の危うさ』より引用)
平時には多様性の尊さや重要性を謳っているはずのリベラリストたちが、他者に向けて画一的な価値体系への同調圧力を向けていること、彼・彼女らと政治的・道徳的価値観を異にする者の言論・表現活動に対して「政治的ただしさ」を背景にした攻撃的で排他的な言動をとっていることなど、まさしく現代のリベラリストや人文学者たちが陥っている自己矛盾を、イシグロ氏は端的に指摘している。

イシグロ氏の指摘は、私自身がこの「現代ビジネス」を含め各所で幾度となく述べてきたこととほとんど差異はなく、個人的には新味を感じない。しかしながら、こうした「政治的にただしくない」主張を私のような末席の文筆業者がするのではなく、世界に冠たるノーベル文学賞受賞者がすることにこそ大きな意味があるのだ。

――案の定というべきか、イシグロ氏に「批判を受けた」と感じた人びとからは、氏の主張に対して落胆や反発の声が多くあがっているばかりか、中には「どうして自分たちにこのような批判が向けられているのかまるで理解できない」といった人もいるようだ。彼らはまさか自分たちがそのような「不寛容で排他的で、強い同調圧力を発揮している先鋭化集団」などと批判されるとは夢にも思わなかったらしい。

 同調しない者は「抹消」してもいいのか

「芸術・エンタテインメントの世界が、リベラル以外の声を反映することをできないでいる」というイシグロ氏の指摘はきわめて重要で、本質的であるだろう。

というのも、昨今における芸術・エンタテインメントの領域では、いままさにリベラリズムにその端緒を持つ社会正義運動「ポリティカル・コレクトネス」と「フェミニズム」と「キャンセル・カルチャー」が猖獗をきわめており、それらのイデオロギーに沿わないものを片っ端からバッシングして排除し、不可視化することに勤しんでいる最中だからだ。

彼らは、自分たちの世界観や価値体系にリベラル以外の声を反映するどころか、リベラル以外の価値観に基づく表現や存在そのものを、現在のみならず過去に遡ってまで抹殺しようとしている。

こうした同調圧力は、芸術やエンタテインメントのみならず、学術の世界――とりわけ人文学――でも顕著にみられる。学問の名を借りながら、実際にはラディカル・レフトの政治的主張を展開する人びとにとって、自分たちのイデオロギーに同調しない者などあってはならない。ましてや批判や抗議の声を上げようものなら、「社会正義に反する者」として徹底的に糾弾され、業界からの「追放」を求められることも珍しくはない。

リベラリストが語る「多様性」の一員とみなされ包摂されるのは、あくまでそのイデオロギーを受け入れ、これにはっきりと恭順の姿勢を示し、信奉していると表明した者だけだ。それ以外は「多様性」のメンバーの範疇ではなく、埒外の存在としてみなされる。

リベラリストが考える「多様性」に含まれないものは、社会的に寛容に扱われる必要もないし、内容によっては自由を享受することも許されるべきではない――それが彼らのロジックである。今日のリベラリストは「多様性」や「反差別」を謳うが、その実自身のイデオロギーを受け入れない者を多様性の枠組みから排除する口実や、特定の者を排除しても「差別に当たらない」と正当化するためのロジックを磨き上げることばかりにご執心のようだ。

「累積的な抑圧経験」「性的まなざし」「寛容のパラドックス」「マンスプレイニング」「トーンポリシング」などはその典型例だ。自分たちの独自裁量でもって「加害者」「差別者」「抑圧者」などと認定した者であれば、その対象に対する攻撃や排除は、自由の侵害や差別や疎外にあたらず、一切が正当化されるというのが彼らの主張である。

いち表現者として、またひとりのリベラリストとして、こうした風潮をイシグロ氏が憂慮するのはもっともだ。リベラル(自由主義)を標榜する人びとが、その実「リベラリズムのイデオロギーに賛同する芸術・エンタテインメント」以外を許容しない――イシグロ氏は自身も激しい反発にさらされるリスクを承知していながら、それでもなお、そうした形容矛盾とも言える状況を批判せずにいられなかったのだろう。

 インテリの傲慢こそ「分断」の正体

リベラリストや人文学者のいう「多様性」「寛容性」「政治的ただしさ」など、局地的にしか通用しない虚妄にすぎない。それらは結局のところ、自分たちと政治的・経済的・社会的な水準がほとんど同じ人びとによって共有されることを前提にした規範にすぎないからだ。

つまりそれは、人間社会におけるヒエラルキーの階層を水平に切り取った――言い換えれば、経済力や社会的地位などが同質化された――いわば「横軸の多様性(イシグロ氏のいうところの《横の旅行》)」でしかない。

自分たちと同じような経済的・社会的ステータスをもつ人びとの間だけで、自分たちに都合の良いイデオロギーを拡大させていったところで、全社会的な融和や和解など起きるはずはない。むろん世界はいまより良くもならない。むしろさらに軋轢と分断を拡大させるだけだ。いまこの世界に顕在化する「分断」は、政治的・経済的・社会的レベルの異なる人びとの間にある格差によって生じる「縦軸の多様性《縦の旅行》」が無視されているからこそ起こっている。インテリでリベラルなエリートたちが、「横軸の多様性」をやたらに礼賛する一方で、この「縦軸の多様性」には見て見ぬふりを続けていることが、この「分断」をますます悪化させている。

金持ちで、実家も太く、高学歴インテリで、もちろん思想はリベラルで、つねに最新バージョンの人権感覚に「アップデート」し続ける人びとが、ポリティカル・コレクトネスやSDGsといった概念を称揚し、経済的豊かさや社会的地位だけでなく、ついには「社会的・道徳的・政治的ただしさ」までも独占するようになった。その過程で彼らは、知性でも経済力でも自分たちに劣る人びとを「愚かで貧しく人権意識のアップデートも遅れている未開の人びと」として糾弾したり嘲笑してきたりしてきた。その傲慢に対する怒りや反動が、いま「分断」と呼ばれるものの正体である。

「偏狭で、差別主義的で、知的に劣っていて、非科学的で、人権感覚の遅れた人びとが『分断』の原因である(そして我々はそのような連中を糾弾する正義の側である)」――という、リベラリストが論をまたずに自明としている奢り高ぶりこそが、世界に「分断」をもたらす根源となっている。この点を、自身もまたインテリ・リベラル・エリートの一員でありながら指摘したイシグロ氏の言葉には大きな意味があるが、しかし残念ながら肝心の「リベラリスト」の大半には届かないだろう。

 イシグロ氏の限界

――だが、イシグロ氏のこうした言明にも、やはり限界が見える。というのも、氏にはいまだに「歴史のただしい側」に立つことへの未練があるように思えてならないからだ。

たしかに、現状のリベラルの問題点を殊勝に列挙してはいるものの、しかし「リベラリズムがただしいことには疑いの余地もない」というコンテクストそれ自体を批判することはできないままなのである。冒頭で引用したインタビュー内の言明でも、あくまで「リベラリズムのただしさ」は自明としたうえで「リベラル派も(よりよいリベラルを目指すために)反省するべき点がある」と述べるにとどまっている。

ようするに、「私たちが知的にも道徳的にも政治的にもすぐれており、なおかつ『歴史のただしい側』に立っていることは明らかだ。だが、前提として間違っている彼らの側にも、一定の『言い分』があることを、我々はもっと寛容に想像しなければならないのではないか」というスタンスを取るのが、やはりノーベル文学賞受賞者という西欧文明の価値体系のど真ん中にいる人物にとって、踏み込めるぎりぎりのラインなのだろう。それを非難するつもりはない。これ以上攻めると、イシグロ氏自身も当世流行の「キャンセル・カルチャー」の餌食となってしまいかねない。氏にもまだまだ生活や人生がある。ためらって当然だ。

しかしながら「まず前提として私たちリベラルはただしい。だが、間違っている愚かで遅れた彼らにも、まずは居場所を与えてやろう。そして、彼らにも勉強させる(≒私たちのただしさを納得させる)ことが必要だ」という傲慢で侮蔑的なコンテクストこそが、アメリカではトランプとその支持者を、ヨーロッパでは極右政党を台頭させる最大の原因のひとつとなったのではないか。このコンテクスト自体を批判的に再評価することなく、いま世界中で顕在化している「分断」を癒すことなどできない。

私たちの主張をよく勉強して理解すれば、いずれは彼らも自らの間違いを認めて、世界はきっとよくなる――という善悪二元論的で、単純明快な勧善懲悪の物語を信じてやまないがゆえに、リベラリストの問題意識はいつだって的外れなのだ。

「ひょっとして、自分たちも、世界に分断や憎悪をもたらす『間違い』の一員なのではないか」という内省的な考えを――イシグロ氏ほどでなくともよいから――持つようになれば、彼らの望みどおり、世界はいまよりずっとよくなるのだが。

【私の論評】リベラリストこそ、マネジメントを「リベラルアート」であるとしたドラッカー流マネジメントに学べ(゚д゚)!

このブログでも、米国に分断について述べたことがあります。現在の米国の分断は、無論上の御田寺 圭氏の記事にもあるように、いわゆるリベラルの奢り高ぶりによるものではあると思います。

米国の分断については、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の選択】バイデン大統領就任演説の白々しさ 国を分断させたのは「リベラル」、トランプ氏を「悪魔化」して「結束」はあり得ない―【私の論評】米国の分断は、ドラッカー流の見方が忘れ去られたことにも原因が(゚д゚)!
ドラッカー氏

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論は以下のようなものでした。
本来米国では、テクノロジストを育てていくべきだったのに、それを怠ってしまったのが、失敗の本質だったと思います。

テクノロジストが大勢育っていれば、そうしてサンベルトや南部の白人たちが、テクノロジストに転換していれば、大きくて深刻な分断は起こらなかったはずです。というより、ある程度の分断は、互いに競い合うということで、決して悪いことではないと思うのですが、米国の分断は度が過ぎます。
ドラッカーは、20世紀におけるマネジメントの偉業とは、肉体労働の生産性を50倍に挙げたことであり、21世紀のマネジメントの目標はテクノロジストの生産性を上げることだと語っています。

テクノロジストとは、肉体労働をしていながらも、その仕事は知識に基づいて行う労働者のことをいいます。知識に基づいて仕事をする専門職業人のことです。いわゆるエンジニアよりも広範囲な職種を含みます。ドラッカー氏が挙げている例は、コンピューター技術者、ソフトウエア設計者、臨床検査技師、製造技能技術者、理学療法士、精神科ケースワーカー、歯科技工士などです。

さらに、もっともわかりやすい事例は外科医です。外科医の仕事自体は、肉体労働ですが、それは知識に基づき行われています。脳外科医などは、手先の器用さがもとめられ、非常に狭いところで、ピンセットなどを使って、糸を縫い合わせる技能がもとめられます。しかし、それができたからと言って、外科医になれるわけではありません。

ただし、現代では、すべての仕事がテクノロジスト的になっています。たとえば、一昔の前の小売業では、従業員のほとんどの仕事が、商品を運んだり、陳列したり、顧客対応でしたが、現在では様々な分析などをして、それを仕事に適応して売上や利益をあげることが求められています。

建築現場もそうです。一昔前だと、スコップで穴を掘る、重い建材を運び組み上げるなどの肉体労働がほとんどですが、現在では様々な工法があり、それを管理したり、全体の工程を管理する仕事が大部分をしめ、肉体労働の割合はかなり減っています。

本来は、このようなテクノロジストが社会の大半を占めていれば、米国でも極端な分断など起こらなかったはずです。従来の肉体労働者に変わって、テクノロジストが労働者の多くを占めていれば、分断など起こらなかったでしょう。米国では、テクノロジストになれなかった、従来型の肉体労働者が、打ち捨てられたままになっており、それが深刻な分断を生んでいる大きな原因の一つにもなっているということです。

さらに、ドラッカーは、自らを社会生態学者と呼んだように、社会そのものや、社会現象にも大きな関心を寄せていました。

そうして、知識社会における知識についても、主張していました。
今後とも、物理学では、専門化が王道であり続けるだろう。しかし他の多くの分野では、専門化は、今後ますます、知識を習得するうえで障害となっていく。(『新しい現実』)
学問の世界では、書かれたもの、すなわち論文を知識と定義しているようです。それどころか、その論文の書き方までをとやかくいいます。そのくせ、まるで理解不能な文章があっても平気なようです。

ドラッカーは、そのようなものは知識ではないし、知識とはいかなるかかわりもないと怒っています。それらはデータにすぎないというのです。


本の中にあるのは情報のみです。知識とは、それらの情報を仕事や成果に結びつける能力です。そして知識は人間、すなわち、その頭脳と技能のうちのみに存在するというのです。

知識とは、行動の基盤となるべきものだというのです。人や組織をして、なんらかの成果をもたらす行動を可能にするものであるべきなのです。なにかを、あるいは誰かを、変えるべきものなのです。

そもそも、理解されることが学識ある者の責務であるはずだ、という昔からの原則が忘れられてしまったとしています。行動の基盤であるということならば、広く理解されることなくして、知識とは言えないのです。

ドラッカーは、問題は今日学界の専門家たちの学識が、急速に知識ではなくなっていることにあるといいます。それらのものは、データにすぎず、せいぜいが専門知識にすぎません。世の中を変える力を失ってしまっているというのです。
過去200年間にわたって知識を生み出してきた学問の体系と方法が、少なくとも自然科学以外の分野では非生産的となっている。学際的な研究の急速な進展が、このことを示している。(『新しい現実』)
知識とは、人や組織をして、なんらかの成果をもたらす行動を可能にすべきものというのであれば、いわゆるリベラリスト(私は似非リベラリストと呼びたいです)たちが、他者に向けて打ち出す一的な価値体系はとても「知識」と呼べるしろものではありません。

なぜかといえば、人や組織をして、なんらかの成果をもたらす行動を可能にするのではなく、分断をもたらしているからです。

ドラッカー氏は、今日の知識社会における学校にも注文をつけています。
今日、経済的には、知識が真の資本となり、富を生み出す中心的な資源となりつつある。そのような経済にあっては、学校に対し、教育の成果と責任について、新しくかつ厳しい要求が突きつけられる。さらにまた、今日、社会的には、知識労働者が中心的存在となっている。そのような社会にあっては、学校に対し、社会的な成果と責任について、もっと新しく厳しい要求が突きつけられる。学校に対する社会の要求は、経済からの要求よりもさらに厳しいものとなる。(『新しい現実』)
ドラッカーは、学校に対して、二つの要求を行なっています。
第一に、肉体ではなく知識が中心の社会となったからには、知識の変化が急である。繰り返し、知識の更新を図っていかなければ、急速に時代遅れとなる。
しかし、いかなる学校でも、必要とされるすべての知識を与えることは不可能です。そこで必要となるのが、“学習の方法”を教えることです。方法論、自己啓発、ハウツーを馬鹿にしてはならないです。近代合理主義は、デカルトの『方法序説』から始まりました。

第二に、知識が中心の社会では、知識ある者がリーダーの役を務める。ということは、知性と、価値観と、“道徳観”が要求されるということである。
今日、道徳教育は人気がありません。ドラッカーによれば、これまで、あまりにしばしば、思考や、言論や、反対を抑圧するために濫用され、権威への盲従を教えるために使われてきたせいだといいます。

つまり、道徳教育自体が、非道徳的だったのです。しかし、このままでは、若者は間違った価値観を植えつけられることになりかねません。人は、必ずなんらかの価値観を持つからです。

高邁な価値観を持つかもしれなければ、低劣な価値観を持つかもしれないです。あるいは、少なくとも、無関心、無責任、無感動のいずれかにはなります。

知識社会における道徳教育については、論議も大いにあるはずです。しかし、教育が道徳を伴い、かつ、それを重視すべきものでなければならないことだけは間違いないです。知識と知識労働者には責任が伴うからです。

ドラッカーは、青年期にヒトラーの政治的手法に代表されるファシズムを体験します。全体主義によって人間や社会が瞬く間に変容してしまうのを目の当たりにしました。この原体験が、彼を「マネジメント」の研究に向かわせたのです。
われわれは、人間の本質および 社会の目的についての新しい理念を基盤として、 自由で機能する社会をつくりあげなければならない。(ドラッカー「産業人の未来」)
ファシズムが二度と出現しないように、できる限り早く新しい自由な産業社会を作る必要があります。そして、その社会を作るのは、政府や政治家や官僚ではなく、『マネジメント』だ、と若きドラッカーは提言しました。

マネジメントこそが、自由で機能する社会を築く上で不可欠な条件だと確信したからです。ここに、多くの人が注目し、General Motors(GM)の副社長から同社を調査研究する依頼を受けることになり、ドラッカーのマネジメントの世界への入り口が開かれました。

ドラッカーは、ヒトラーのような過激な言動に同調してしまった人の心理の根底にあるのは、人間の「不安」「不満」「絶望」だったとしています。当然のことながら「経済的不満」が最も深いところにあるはずです。

つまり、仕事がない、給料が上がらない、生活がどんどん苦しくなる、という不満です。そこでドラッカーは、「個々人の能力を生かし、マーケティングとイノベーションによって顧客が喜ぶ価値を創造し、高い倫理観によって社会に貢献し続ける組織が増えることで、経済的な問題を民衆が自ら解決できるようになる」という答えを出します。

私たちが、毎日関わっている様々な仕事や活動における「マネジメント」が、幸福に人々が暮らせる健全な社会を築く上で大きな力になると彼は考えたのです。
マネジメントとは、現代社会の信念の具現である。それは、資源を組織化することによって人類の生活を向上させることができるとの信念、経済の発展が福祉と正義を実現するための強力な原動力になりうるとの信念の具現である。(ドラッカー「現代の経営」)

 ドラッカーは、こうも主張しました。

「マネジメントは、一般教養(リベラルアーツ)である」

リベラルアーツとは、文字通り、「人を自由にする学び」です。本来、リベラルを自認する人たちが学ぶべきことです。

ドラッカー氏はマネジメントをついてこうも語っています。
マネジメントとは文化であり、価値観と信条の体系である。それは、それぞれの社会が、自らの価値観と信条を活かすための手段である」(『すでに起こった未来』)
マネジメントは、急速に世界的なものとなりつつある近代文明と、多様な伝統、価値観、信条、遺産からなるそれぞれの文化とのかけ橋なのです。マネジメントこそ、文化の多様性を人類共通の目的に奉仕させるものだとドラッカーは言います。

マネジメントは共通の目的のために個人、コミュニティ、社会の価値観、意欲、伝統を活かすものです。マネジメントが伝統を機能させない限り、社会と経済の発展は起こりえないのです。私は、分断した社会もマネジメントにより、統合可能であると考えます。

マネジメントが経済的・社会的な発展をもたします。発展はマネジメントの結果です。途上国など存在しないと断言してよいのです。存在するのは、いまだマネジメントの存在しない国だけなのです。

経済発展についてのあらゆる経験がこれを裏づけています。経済的な生産要素、特に資金しか供与されなかった途上国では、経済発展は起こりませんでした。例外的と見られていた中国でさえ、この原則からは免れ得ないことが日増しにあきらかになりつつあります。

先進国では、重要な課題のほとんどが組織され、かつマネジメントされた機関において遂行されています。企業はそれらの最初のものであるにすぎません。
われわれは、これまで企業のマネジメントについて行なってきたことを、政府をはじめ他のあらゆる組織について行なわなければならない。(『すでに起こった未来』)
多くの人が「マネジメント」に関心を持ち、それを学ぶことで、多くの職場が笑顔と活気に溢れていきます。その結果、社会が健全になり、民主主義が守られ、自由で、健全に機能する社会が実現されていくはずです。そうして、社会の分断もなくなるはずです。

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2021年3月22日月曜日

米中「新冷戦」が始まった…孤立した中国が「やがて没落する」と言える理由―【私の論評】中国政府の発表する昨年のGDP2.3%成長はファンタジー、絶対に信じてはならない(゚д゚)!

米中「新冷戦」が始まった…孤立した中国が「やがて没落する」と言える理由

「中所得国の罠」から抜け出せない


i国家観の対立が明確になった瞬間

先週18、19日の米中外交協議は、米中による非難合戦で始まった。これは、米中間の新「冷戦」の幕開けと言えるだろう。

初会合は、米国のアラスカだった。中国にとっては完全「アウェー」だが、米国との対決は避けて通れない道だ。

米側はアントニー・ブリンケン国務長官とジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、中国側は楊潔篪(ヤン・チエチー)中国共産党中央政治局委員と王毅(ワン・イー)外相とが出席した。


冒頭から、ブリンケン米国務長官は「新疆ウイグル、香港、台湾」を持ちだした。これに対し、楊潔篪政治局委員も、「中国には中国式の民主主義がある。内政干渉するな。米は黒人虐殺の歴史がある」と反論した。

協議の内容はそれぞれ2分間だけマスコミ公開という段取りだったが、互いに「待て」といいながら、1時間も米中対立がマスコミに映し出された。

要するに、米中の国家観の対立が明確になった瞬間である。

トランプ前政権では、貿易問題の二国間問題が端緒だった。政権終盤では中国のジェノサイド認定をして中国の非民主主義観を否定するなど、まさに国家体制の在り方を問題視したが、バイデン政権でもその流れは止まってない。もちろん、これはアメリカ国内の中国観が一変したことも背景にある。

通常であれば、外交辞令もあるので、こうした会談では食事会があるが、今回は新型コロナ対策という名目で計画もされていなかった。中国への「もてなし」で、食事なしとはキツい。今後の米中関係を暗示しているかのようだ。

i日米豪印と中国の対立を意味する

バイデン政権は、このアラスカ会談に先立って、同盟国との意見疎通をして用意周到だった。

3月12日、日米豪印の、菅義偉首相、バイデン米大統領、モリソン豪首相、モディ印首相の間で初の首脳会談がオンラインで行われた。

3月16日、東京において、茂木外務大臣、岸防衛大臣、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官は、日米安全保障協議委員会(いわゆる「2+2」)を開催した。

3月17日、ソウルにおいて、米韓で「2+2」を開催した。ただし、東京の共同声明では、中国を名指しし北朝鮮の非核化が盛り込まれていたが、このソウル会合では盛り込まれていなかった。はっきりいって、韓国は、日米が中心となっている中国包囲網の蚊帳の外だ。

ともあれ、日米豪印クワッドがしっかり機能していることを確認した上で、バイデン政権は中国に対峙した。米中の国家観の対立は、日米豪印と中国、つまり民主主義対一党独裁非民主主義との対立でもある。

アメリカの指摘したのは、中国の「核心的利益」だ。これへの妥協は中国ではありえないので、アメリカが折れるか、米中で激突するかしか、選択肢はない。「核心的利益」は、アメリカが名指しした、新疆ウイグル、香港、台湾のほか、南シナ海と尖閣だ。

筆者が「核心的利益」を本コラムで取り上げたのは、今から10年以上前の本コラム発足直後の2010年10月4日〈尖閣問題を「核心的国家利益」と位置づけた中国の「覇権主義」〉だ。

その後の本コラムなどを読んでいる方にはわかるだろうが、その当時から、新疆ウイグル、南シナ海、香港の現在はある程度予見出来た。それがいよいよ台湾と尖閣にも及んできた。

i中国経済は今後どうなるのか

奇遇なことであるが、そのコラムでは、中国の覇権主義を多国間協調で抑えよと主張している。筆者が、第一次安倍政権で官邸勤務の時に、今の日米豪印のクワッドの初期段階を垣間見ていたので、安全保障での多国間協調をいったわけだが、今のバイデン政権はまさにそれを実戦しようとしている。

こうした中国の覇権主義を支えるのは、中国経済だ。これまで中国経済が伸びてきたからこそ、覇権主義を続けられたともいえる。

となると、中国の覇権主義の裏にある中国経済の今後が予想できれば、覇権主義の行方も占うことが出来るだろう。もっとも、こうした予測は、短期的な経済予測よりはるかに難しいが、やってみよう。

まず、楊潔篪政治局委員は、中国の一党独裁体制の優位性を今回の新型コロナを押さえ込んだからといった。これは、データからみると、確かにいえる。

民主主義国と非民主主義国で新型コロナ拡大について、どちらが封じ込めるのかといえば、非民主主義国だ。新型コロナ拡大の防止のためには、人々の行動を制限するのが手っ取り早いが、非民主主義国では国家による強制的な措置が迅速に行えるからだ。

実際に、各国について民主主義指数によって民主主義の度合と新型コロナ死亡者を100万人あたりで数値化すると、非民主主義のほうがいい成績だ。民主主義指数として英エコノミスト誌が毎年公表しているものの最新2020年版で、世界163ヶ国でみると、民主主義指数と100万人あたり死亡者数の相関係数は0.46だ。


もちろん、民主主義国の中でも、適切な手続きにより非常事態宣言を予め規定しそれを適切に行使して対応することもできるので、民主主義国では上手く対処したところもあり、やり方次第とも言える。

民主主義指数で8より高く、100万人当たりコロナ死者が200人より低い国は、世界の中でも優等生といえるが、それらは163ヶ国中9ヶ国しかない(上図の右下の赤枠内)。

それらの国は、オーストラリア、フィンランド、アイスランド、日本、モーリシャス、ニュージーランド、ノルウェー、韓国、台湾だ。日本はこうした意味で世界の優等生でもある。

i中所得の罠にハマる国

ただし、民主主義は、経済成長と深い関係があり、非民主主義国で成長するのは難しいのが、これまでの歴史だ。

開発経済学では「中所得国の罠」というのがしばしば話題になる。一種の経験則であるが、発展途上国が一定の中所得までは経済発展するが、その後は成長が鈍化し、なかなか高所得になれないのだ。ここで、中所得の国とは、一人あたりGDPが3000~10000ドルあたりの国をいうことが多い。

これをG20諸国の時系列データで見てみよう。1980年以降、一人あたりGDPがほぼ1万ドルを超えているのは、G7(日、米、加、英、独、仏、伊)とオーストラリアだけだ。

アルゼンチンとブラジルは、1万ドルがなかなか破れない。2010年代の初めに突破したかに見えたが、最近まで1万ドルに届いていない。インドは3000ドルにも達していなし、インドネシアは最近5000ドルまで上がってきているが、まだ1万ドルは見えない。

韓国は、2000年代から1万ドル以上を維持しており、今は高所得国入りしているといってもいいだろう。メキシコは、2010年頃までは順調に上昇してきたが、1万ドルの壁に苦悩し、1万ドル程度で低迷している。

ロシアは、2010年ごろに1万ドルを突破したかにみえたが、その後低迷し、今は1万ドル程度となっている。サウジアラビアは、豊富な石油収入で順調に上昇してきており、2000年代中頃から、1万ドル以上を維持して、今は高所得国入りだ。

南アフリカは、順調に上昇してきたが、2010年あたりから8000ドル程度に壁があるようで、それを超えられないでいる。

 i中国の「民主主義」が抱える問題

トルコも、2010年くらい1万ドルを一時突破したようにみえたが、その後低迷し、1万ドルの壁で低迷している。中国は、これまで順調に伸びてきたが、現在が1万ドル程度であり、これからどうなるのかが注目だ。

以上のG20の状況をまとめると、高所得国はもともとG7諸国とオーストラリアであった。それに1万ドルの壁を破った韓国、サウジ。残りは中所得国で、1万ドルの壁に跳ね返されたアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの6ヶ国、まだそれに至らないインドとインドネシア。それに1万ドルになったと思われる中国だ。

さらに、世界銀行のデータにより2000年以降20年間の一人当たりGDPの平均を算出し、上の民主主義指数を組み合わせてみると、面白い。中所得国の罠がきちんとデータにでている。


民主主義指数が6程度以下の国・地域は、一人当たりGDPは1万ドルにほとんど達しない。ただし、その例外が10ヶ国ある。その内訳は、カタール、UAEなどの産油国8ヶ国と、シンガポールと香港だ。

ここでシンガポールと香港の民主主義指数はそれぞれ、6.03と5.57だ。民主主義指数6というのは、メキシコなどと同じ程度で、民主主義国としてはギリギリだ。

もっとも、民主主義指数6を超えると、一人当たりGDPは民主主義度に応じて伸びる。一人当たりGDPが1万ドル超の国で、一人当たりGDPと民主主義指数の相関係数は0.71と高い。

さて、中国の一人当たりGDPはようやく1万ドル程度になったので、これからどうなるか。中国の民主主義指数は2.27なので、6にはほど遠く、今の程度のGDPを20年間も維持できる確率はかなり低い。

GDP数字を改ざんすることもできるし、かつて崩壊前のソ連では行われていた。そのため、いつ中国経済が息詰まるとは言いにくいが、これまでの社会科学の経験則からは、そろそろ成長の限界に近づいているのだろう。

i中国の経済発展の見込みの少なさ

中所得国の罠をクリアするためには、民主主義の度合を高めないといけない。それと同時に、各種の経済構造の転換が必要だといわれる。

その一例として、国有企業改革や対外取引自由化などが必要だが、本コラムで再三強調してきたとおり、一党独裁の共産主義国の中国はそれらができない。

共産主義国家では、資本主義国家とは異なり生産手段の国有が国家運営の大原則であるからだ。アリババへの中国政府の統制をみると、やはりだ。

こう考えると、中国が民主化をしないままでは、中所得国の罠にはまり、これから経済発展する可能性は少ないと筆者は見ている。一時的に1万ドルを突破しても跳ね返され、長期的に1万ドル以上にならない。10年程度で行き詰まりが見えてくるのではないだろうか。

中国はどの程度の民主化をすればいいかというと、民主主義指数6程度の香港並みをせめてやるべきであった。しかし、逆に香港を中国本土並みにしたので、香港の没落も確実だし、中国もダメだろう。

【私の論評】中国政府の発表する昨年のGDP2.3%成長はファンタジー、絶対に信じてはならない(゚д゚)!

中所得国の罠(中進国の罠ともいう)については、このブログでも何度か掲載したことがありますので、上の高橋洋一氏の中国は、中所得国の罠に嵌るという主張は当然の主張であり、正しいと思います。

上の高橋洋一氏の記事の中には「中所得国の罠をクリアするためには、民主主義の度合を高めないといけない。それと同時に、各種の経済構造の転換が必要だといわれる」とありますが、これをさらにはっきりといえば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化です。

これができない国は、何がすぐれていても、結局のところ先進国にはなれません。日本は、明治維新で民主化、政治と経済の分離、法治国家化を強力に推進しました。アルゼンチンは、先進国にはなれたものの、これらが十分でなかったか、ある時点で後退したといえます。

中国の場合は、香港やウイグル自治区の現状をみていれば、とても民主的とはいえませんし、経済のあらゆる面を政府が規制しており、憲法は中国共産党の下に位置しているという有様です。これでは、中所得国の罠からは逃れられず、今後中国のさらなる経済発展はないでしょう。

これができない国は、中進国の罠にはまるのです。現在まで、発展途上国から先進国になったのは、日本だけです。先進国から発展途上国になったのはアルゼンチンだけです。世界には、この2つの国と、先進国と、発展途上国があるだけです。中国が例外となることもありません。

中国国家統計局が1月18日に発表した速報値によれば、中国の2020年の国内総生産(GDP)は2.3%のプラス成長で、101兆6000億元と初めて100兆元の大台を突破しています。

昨年12月1日に発表されたOECDの「エコノミックアウトルック(経済見通し)」では、2020年の世界経済の成長率をマイナス4.2%としていますから、「共産党発表を信じれば」中国は偉大な成長を遂げる国ということになります。

ただし、このブログにも何度か述べてきたように、中国の経済統計、特にGDPは出鱈目です。だから、過去においては各省のGDPの合計よりも、中国政府の発表した中国の全体のGDPのほうが、大きいというような齟齬が生じていました。これは、さすがに最近は改善されたようですが、それにしてもGDPそのものの信ぴょう性はないと言って良いでしょう。

その他にも、鉱工業生産指数とGDPの間に齟齬が生じていたり、輸出・輸入(これらは相手国があるので、相手国のデータは信ぴょう性がある)とGDPの間に齟齬が生じていたりで、出鱈目ぶりは未だ改善されていません。

2020年7月に「テンセント・フィナンシャル・レポート―『新型コロナ』後、8割近い国民の収入が減少、投資財テク傾向は堅調―」という世論調査結果が発表された。この調査によって新型コロナ感染症の蔓延で78%の中国人が収入が減少したとし、29.5%の人が消費を減らして貯蓄すると回答しました。

78%の中国人の収入が減少しているのに、本当に経済成長しているのでしょうか。

2020年の自動車の販売台数は、前年比7.4%減と大きく落ち込んだ2019年の2070万台をさらに下回り、1929万台(前年比6.8%減)となりました。

2020年のスマホの販売台数も、前年比6.0%減と大きく落ち込んだ2019年の3.9億台からさらに落ち込み、3.1億台(前年比20.8%減)となりました。

このような状態でGDPが前年比2.3%も成長したということがありうるのでしょうか。もうこれはファンタジーと言っても良いくらいです。

ファンタジーのような重慶の夜景

英民間調査機関「経済・ビジネス研究センター」(CEBR)は、「中国が2028年に米国を抜いて世界トップの経済規模になる」という見通しを昨年12月26日発表しました。これは、無論中国政府の発表した統計数値を信じた上でこのような公表をしたのでしょう。

中国では、地方政府も危機的な状況にあります。地方政府は、「地域経済振興」を大義名分として独自に資金調達を行っています。ただし、多くの資金が地方幹部の私的利益確保のために使われています。

「地域経済振興」のために使われた資金は、うまくいけば実際に地域経済を活性化させ利益を生むから返済可能かもしれません。「地方共産党幹部振興」のために使われた資金は、彼らの懐に入るだけで、例え利益を生んだとしても返済するつもりはないようです。

これまでは、中国全体の経済が好調で、貸し手が次から次へと現れたから、いわゆる「ねずみ講原理」で、「借金を借金で返す」ことも難しくはありませんでした。しかし、ねずみ講が最終的には破綻することが明らかなように、「借金の自転車操業」もいつか終わります。

もう、中国の破綻は目に見えています。中国の破綻は20年前からいわれてきましたが、それを中国政府はなんとか隠しおおせてきたのですが、今後数年以内に隠せなくなるでしょう。

そうして、中国は先進国になれないまま、没落していくことでしょう。

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2021年3月21日日曜日

Go To トラベルは感染拡大に無関係 国立感染研の研究者らが報告まとめる―【私の論評】査読対象ですらない、ころころ変わるマスコミの報道は信用できない(゚д゚)!

Go To トラベルは感染拡大に無関係 国立感染研の研究者らが報告まとめる


国立感染症研究所の研究者らが、天候や人々の移動と感染者数の関係を調べ、移動を活性化させるとしたGo To トラベルキャンペーンが、新型コロナウイルスの感染者数の増加には関係ないとまとめたことがわかった。この研究者らは、Go To トラベルが感染を抑制した可能性があるとも言及している。

常磐大学の栗田順子専任講師や国立感染研の研究者らは、「Effects of the second emergency status declaration for the COVID-19 outbreak in Japan(邦題:日本におけるCOVID-19流行に対する第2次緊急事態宣言の影響)」と題した論文を投稿し、査読前の論文(プレプリント)が公開されている。

この研究では、感染者数から割り出される感染の実効再生産数と、気候や人々の移動の相関を調べている。緊急事態宣言の発出時に、実効再生産数が低下しているが、Go To トラベルの開始時に、緊急事態宣言発出と同様に再生産数が低下している。


その他のデータの検証でも、Go To トラベルと感染拡大の間の因果関係は確かめられず、Go To トラベルが新型コロナウイルスの感染拡大に関係ないと結論づけている。さらに、Go To トラベルの開始や終了などの報道が、一般市民の感染防止の意識をよりかきたて、感染の抑制に寄与した可能性も示唆している。

査読(他の研究者らによる評価・検証など)を受けていない論文であり、実際の感染状況には多くの要素が関係していることを踏まえる必要がある。しかし、これらのデータは、「Go To トラベルによって新型コロナウイルスが感染拡大しており、旅行を止めれば抑制できる」といった考え方に対し一考の余地があることを示唆している。

【私の論評】査読対象ですらない、ころころ変わるマスコミの報道は信用できない(゚д゚)!

査読はまだの状況とはいえ国立感染研の研究者らが、Go To トラベルは感染拡大に無関係という論文を発表をしたという事実は、まだ査読前の結果ではあるのですが、ひとつの考察のきっかけとして参考になることは間違いないです。

この論文は、以下のリンクからご覧いただけます。(英文)


私自身は、昨年2つのグラフを根拠として、GOTOトラベルが感染拡大とは無関係の可能性があることをこのブログに掲載しました。

その記事のリンクを以下に掲載します。
GoToトラベル 28日から1月11日まで全国で停止へ 首相表明―【私の論評】GOTOトラベル批判は筋悪の倒閣運動の一種か(゚д゚)!
この記事は、昨年の12月14日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より二つのグラフ等を掲載します。

"
下のグラフは、日本の感染者数の推移です。下のグラフで7月22日は、日本でGOTOトラベルが始まった日です。


私自身は、GOTOトラベルの開始そのものには当初は、反対でした。しかし、GOTOトラベルを開始してある程度時を経て9月、10 月あたりには、コロナ感染者数が減りました。そのため、GOTOトラベルを実施したとしても、旅館やホテルさらには、旅行に出かける人たちが、それなりのコロナ対策を実施すれば、感染そのものを増やすことはないのだと納得できました。

以下に韓国の感染者数の推移を掲載します。なお、上の記事にもあるように、韓国ではGOTOトラベルのようなものは開催されていません。



韓国に関しては人口が4000万人程度なので、日本の約1/3です。最近の韓国はコロナ感染者数が1000を超えた日もありますが、これを日本にあてはめると3000を超えたことになります。

これは、3000近くになった最近の日本の状況と良く似ています。しかし、この韓国ではGOTOトラベルのようなことは実施していません。以上のようなことをみるとGOTOトラベルだけをやり玉にあげるのはおかしいです。

"
感染症の専門家でもない素人の私ですが、このデータからみれば、GOTOトラベルが感染拡大の元凶のように言うのは疑問を感じてしまいました。

しかし、これだけでは、GOTOトラベルと感染拡大は直接関係はないとは言い切れなないとは思いました。

ただ、このブログにもたびたび掲載させていただいている、高橋洋一氏もGOTOトラベルで移動する人は、日本人全体の移動の1%に過ぎないことを指摘しており、多くの人が疑問を呈していました。それに、観光地で重大な感染拡大が起きたという事実もありません。

なぜ、このような結果になるかといえば、おそらくGOTOトラベルで移動する人々は元々全体の移動に占める割合はかなり低いですし、それにGOTOトラベルで移動する人々は、移動中も移動していないときでも、コロナ感染症に対する対応はほとんど変わらないのだと思います。

普段コロナ対策を慎重にしている人が移動したからといって、極端に普段の行動を変容させることはないということでしょう。だから、移動中の人の感染率が極端に高まったり、あるいは受け入れ側の感染率が極端に高まったはしないのでしょう。それに受け入れ側もそれなりに気を配ったということで、Go To トラベルは感染拡大に無関係という結論に結びついたのではないでしょうか。

これに関して「査読前だから信用出来ない」「国の機嫌を損ねると予算が削られる立場の人が書いた論文」などと否定的なことを言ってる人達もいるようですが、査読対象ですらないころころ変わるマスコミの報道は信用できるとでも思っているのでしょうか。

さらに、査読が終了して、公表された場合どうするのでしょう。その後もこの論文の論拠を強化するようなエビデンが次々と出てきた場合どうするのでしょうか。

先日10周年を迎えた、東日本震災における、放射能問題と同じく、エビデンスにもとづかない批判などは厳に慎むべきものと思います。


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2021年3月20日土曜日

イージス艦「はぐろ」就役 「ミサイル防衛能力の役割を期待」―【私の論評】日米イージス艦、潜水艦、哨戒機が黄海で哨戒活動にあたり北はもとより中国を牽制(゚д゚)!

イージス艦「はぐろ」就役 「ミサイル防衛能力の役割を期待」


海上自衛隊の最新鋭イージス護衛艦「はぐろ」が、19日に就役した。

イージス護衛艦「はぐろ」は、まや型護衛艦の2番艦として建造され、19日に、海上自衛隊に引き渡された。

「はぐろ」は、味方の艦船や航空機などをネットワークで結び、レーダー情報をリアルタイムで共有できるCEC(共同交戦能力)を備え、日本の防空の中核を担うことになる。

これで、日本の弾道ミサイル防衛を強化するため、防衛省が進めてきたイージス艦の8隻体制が整った。

岸信夫防衛相「本艦は、総合ミサイル防衛能力の担い手としての役割を期待されており、1日も早く任務に即応しうるよう、日々の訓練に精励してください」

「はぐろ」は、長崎県の佐世保基地に配備され、就役訓練を行ったうえで、警戒監視などの実任務にあたる。

(FNNプライムオンライン3月20日掲載。元記事はこちら

【私の論評】日米イージス艦、潜水艦、哨戒機が黄海で哨戒活動にあたり北はもとより中国を牽制(゚д゚)!

イージス護衛艦「はぐろ」の海上自衛隊への引き渡しのニュースは、多くのメディアで報道されていますがね、イージス艦の8隻体制とは何を意味するのか、これについてはほとんど報道されていません。本日はそれについて掲載します。

政府は、2015年1月14日に閣議決定した平成27年度予算案で、防衛省はミサイル防衛(MD)の要となるイージス艦1隻(前回就役の「まや」)の建造費を計上しました。30年度までにもう1隻(今回就役した「はぐろ」)調達する予定で、海上自衛隊のイージス艦は8隻になるとされました。


当時の6隻態勢から8隻態勢への転換が今回なされたわけです。海自関係者は「この2隻分の差が大きな変化をもたらす」と説明していました

イージス艦は4年に1度、半年間の定期検査を受けなければならず、これとは別に1~2カ月間の年次検査も必要となります。この間、乗員は船体整備などを行っており、イージス艦を運用する能力は落ちてしまいます。再び洋上に出た後に乗員の練度を最高レベルに戻すにはさらに数カ月かかるというのです。

日本の主要都市を弾道ミサイルから守るためには、最低でもイージス艦2隻が必要となります。8隻態勢になることで「常に最高の状態でイージス艦2隻が任務に就ける」(海自関係者)というわけです。

海自のイージス艦は、米国が開発した防空システム「イージス・システム」を搭載した護衛艦です。同時に多数の対空目標を捕らえるフェーズドアレイ・レーダーを搭載し、十数個の敵に向けてミサイルを発射できます。

北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合はイージス艦の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)が大気圏外で迎撃し、撃ち漏らせば地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が着弾直前に迎撃します。

前回の「まや」に続き、今回新たに調達されたイージス艦は共同交戦能力(CEC)を搭載し、さらに進化しました。

それまでのイージス艦は、味方の艦艇が捕捉した敵の情報を受け取っても、改めて自分のレーダーで敵を捕捉し直さなければ攻撃できませんでした。ところが、新システムでは僚艦の敵情報を受け取れば、そのデータを基にして即座に攻撃できます。

ただ、イージス艦を運用する自衛隊には苦い教訓があります。北朝鮮が24年4月13日に弾道ミサイルを発射した際、失敗に終わった事実を海自イージス艦は把握できなかったのです。

イージス艦といえども水平線の向こう側を低空で飛ぶミサイルを捕捉することはできません。より北朝鮮に近い黄海に展開していれば、発射失敗を確認することができました。

ところが、黄海にいたのは米軍と韓国軍のイージス艦だけで、海自イージス艦はいなかったのです。自衛艦による黄海展開に対し、韓国や中国が嫌がることに配慮したのです。

ただ、状況は変わっています。海自は現在で、艦艇や航空機を派遣しています。これは、以前のブログにも掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。この記事は、2018年1月21日のものです。
核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁決議を履行するため、海上自衛隊の護衛艦や哨戒機が昨年12月から日本海や朝鮮半島西側の黄海で、外国船から北朝鮮船舶への石油などの移し替えがないか警戒監視活動に当たっています。


黄海・東シナ海などを常時警戒監視しているP3C哨戒機が不審船を発見した場合、護衛艦を現場に派遣します。政府関係者は「監視活動を顕示することで北朝鮮への石油製品の密輸を抑止することにつながる」としています。

ここで、黄海という言葉がでてきますが、黄海での海自による警戒監視活動は戦後はじめのことです。これは、中国側からすれば脅威だと思います。自分たちは尖閣付近の海域で船舶を航行させたり、最近では潜水艦を航行させたりしていたのが、日本の海自が黄海で監視活動を始めたのですから、彼らにとってみれば、驚天動地の日本の振る舞いと写ったかもしれません。

しかし、黄海初の日本の海自による監視活動に関して、日本のマスコミは当たり前のように報道しています。中国側も非難はしていないようです。中国としては、米国側から北への制裁をするようにと圧力をかけている最中に、監視活動にあたる日本を批判すると、さらに米国からの圧力が大きくなることを恐れているのでしょう。

このようなこと、少し前までのオバマ政権あたりであれば、「弱い日本」を志向する人々が多かったので、批判されたかもしれません。というより、そのようなことを日本に最初からさせなかったかもしれません。そうして、中国は無論のこと、大批判をしたかもしれません。そうして、日本国内では野党やマスコミが大批判をしていたかもしれません。

このようなことが、すんなりと何の摩擦もなくできるのは、やはり米国では「強い日本」を志向する勢力が大きくなっているからであると考えられます。

このような哨戒活動をして、実績をつくった日本は、イージス艦も当然黄海にも派遣していることでしょう。そうして、当然のことながら、日本の潜水艦も随分まえから派遣していることでしょう。

なぜなら、日本の潜水艦は静寂性(ステルス性)に優れており、このブログにも過去に何回か述べているように、中国の貧弱な対潜哨戒能力ではこれを発見できないので、日本の潜水艦は自由に水中を航行して、 様々な情報活動にあたるとともに、模擬訓練で中国の艦艇を沈める訓練もしていることでしょう。

昨年10月14日に進水した最新鋭潜水艦「たいげい」


当然のことながら、米原潜もいずれかに潜んでいることでしょう。日米の潜水艦、イージス艦は、バラバラに行動しているのではなく、互いに密接に情報を交換しつつ、黄海で監視活動にあたっていることでしょう。

共同交戦能力(CEC)を搭載した、「まや」、「はぐろ」などでは、日米は協同で、攻撃できる体制を整えつつあるでしょう。

そうして、これは北朝鮮のみならず、中国に対してもかなりの牽制になっているはずです。中国が台湾奪取への動きをみせれば、すぐに黄海上の日米のイージス艦等に察知されてしまうでしょう。

中国としては、このようなことはさせたくないのでしょうが、黄海には米国のイージス艦も存在するわけですから、なかなか正面切って非難することができないのかもしれません。

ただ、中国としては、この事実を日米に対して表立って非難すると、国内で中国海軍の脆弱性が暴露される危険もあるので、沈黙しているのかもしれません。そのかわり、尖閣付近で示威活動を派手に行い、国内向けプロパガンダをしているといのが実情かもしれません。

今回のイージス護衛艦「はぐろ」の就役により、常時少なくとも二隻のイージス艦で日本列島をカバーして、北朝鮮のミサイル等に対処することができます。当然のことながら、これは中国への牽制ともなります。

潜水艦20隻体制も完成したこと等もあわせると、これで日本の防衛力もかなり向上したといえます。

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2021年3月19日金曜日

LGBT外交の復活、異質な価値観を押し付け―【私の論評】LGBT外交で中国を利するバイデンは、国内で足元をすくわれる(゚д゚)!

LGBT外交の復活、異質な価値観を押し付け

バイデン大統領

 バイデン米大統領は2月4日に国務省で行った就任後初の外交政策演説で高らかに訴えた。

 「米国が戻って来たと世界に伝えたい」

 トランプ前大統領が掲げた「米国第一」から多国間主義に回帰し、国際問題に積極的に関与していく決意を示したものだ。だが、途上国、特にアフリカ諸国では、別の意味で米国が戻って来たと受け止めた人も多いに違いない。

 別の意味とは何か。オバマ元政権が推し進めたLGBT(性的少数者)の国際的な権利向上、いわゆる「LGBT外交」の復活である。外交演説は中国やロシアに関する発言に注目が集まったため、大手メディアはほとんど報じなかったが、バイデン氏は次のように宣言している。 トランプ前大統領が掲げた「米国第一」から多国間主義に回帰し、国際問題に積極的に関与していく決意を示したものだ。だが、途上国、特にアフリカ諸国では、別の意味で米国が戻って来たと受け止めた人も多いに違いない。

 「LGBT問題で国際的なリーダーシップを回復する。LGBTを犯罪として扱う動きと戦い、LGBTの難民や亡命申請者を守るなど権利向上に努める」

 バイデン氏はさらに、海外援助をLGBT外交のツールとして利用することなどを政府機関に指示する行政命令を出した。これは経済援助の条件として途上国に同性愛行為の非犯罪化などを迫ったオバマ政権の手法を踏襲したものだ。

 米国が超大国のパワーを振りかざし、保守的な倫理観を保つ途上国に同性愛を肯定する異質な価値観を押し付けるのは、弱い者いじめにほかならない。特に植民地支配された歴史のあるアフリカ諸国は、オバマ政権の脅迫的なやり方を文化的に侵略しようとする「文化帝国主義」だと激しく反発していた。

 このため、アフリカの宗教界はトランプ氏の再選を熱烈に望んでいた。各国の国家主権や伝統的価値観、信仰の自由を尊重するトランプ氏の姿勢を高く評価していたためだ。

 アフリカの宗教界では既にバイデン政権への警戒感が高まっているが、懸念を一段と強めたのは、国務省傘下の対外援助機関、国際開発局(USAID)のトップにサマンサ・パワー元国連大使が起用されたことだ。パワー氏はオバマ政権でLGBT外交を主導した人物の一人であり、パワー氏は海外援助とLGBT問題を露骨に紐(ひも)付けすると予想される。

 ナイジェリア・カトリック教会のエマニュエル・バデジョ司教は、USAIDはパワー氏の下で「アフリカの宗教的・文化的価値観に対し、思想的・文化的な襲撃を仕掛けてくることは間違いない」と、悲観的な見通しを示した。

 バデジョ司教は、オバマ政権で国務長官を務めたヒラリー・クリントン氏をこう酷評したことがある。

 「世界には3種類の人間がいる。神を信じる者、神を信じない者、自分を神と思う者だ。クリントン氏は自分を神と思う人間の一人だ。宗教的価値や信念はクリントン氏にとって大切でないとしても、それを変えろと要求する権利はない」

 バデジョ司教は、パワー氏に対しても同じ見方をしているに違いない。

 一方、アントニー・ブリンケン国務長官は、LGBT問題担当特使を任命する意向を示している。

 LGBT外交は米国の国益を促進するどころか、途上国の反米感情を助長する可能性の方が高い。中国との覇権争いが最重要課題である時に、そのような取り組みをする余裕があるのだろうか。

 「米中新冷戦」の激化に伴い、各国は米国と中国のどちらの陣営につくべきか選択を迫られている。歪(ゆが)んだ価値観外交は途上国を米国から遠ざけ、中国の陣営に追いやる一因になりかねない。

(編集委員・早川俊行)

【私の論評】LGBT外交で中国を利するバイデンは、国内で足元をすくわれる(゚д゚)!

米国のバイデン大統領(78)が就任初日の20日に「LGBTQ差別禁止」に関する大統領令にサインしたことが思わぬ波紋を呼んでいます。長年、差別を受け続けてきた全米中の性的マイノリティーの人たちから称賛の声が上がった一方で、スポーツ界からは「女性アスリートが抹殺される」という批判的が上がっています。

米国の第46代大統領に就任した直後から数々の大統領令にサインし、自らの政策をさっそく実行し始めたバイデン氏。就任初日の20日には17の大統領令にサインしたが、その中の一つ「LGBTQ差別禁止」は、全米中の性的マイノリティーの人たちを歓喜さましせた。

というのも、トランプ政権時代は、保守的な支持層を意識して性的マイノリティーの権利保護に否定的だったため、不当な差別で職を失ったり、医療を受けられなかったりするケースが少なくなかったからです。

一方、バイデン氏は副大統領だったオバマ政権時代から性的マイノリティーの権利保護で指導的立場を取ってきました。その姿勢は閣僚人事にも表れ、運輸長官に指名されたピート・ブティジェッジ氏はゲイを公表した初の閣僚となりました。

今回の「LGBTQ差別禁止」の大統領令は、昨年6月に連邦最高裁が「職場でLGBTQを性的指向・性自認に基づいて解雇することは違法」とした歴史的判決に基づいているといいます。

一方でこの大統領令に問題点を指摘する声も上がっているといいます。

「大統領令には『性同一性や性的指向に関係なく、すべての人は法律の下で平等に扱われる』としたうえで『子供たちはトイレ、更衣室、学校のスポーツへのアクセスが拒否されるかどうかを心配することなく、勉学に励むことができる』という一節がある。この部分が元男性のトランスジェンダーアスリートの増加につながるととらえられ『女子アスリートが抹殺される』と保守派から問題視する声が上がった」(在米ジャーナリスト)

    コネチカット州の高校生陸上選手、テリー・ミラー。トランスジェンダー女性である
    彼女や他の選手が州の大会で優勝を独占した結果、3人の女性選手が競技への参加資格
    において「自認する性」を優先する州の方針に異議を唱えた

この声は思った以上に大きく、ツイッターでは「#BidenErasedWomen」というハッシュタグがつけられ、全米でトレンド入りするまでに拡大しています。

スポーツの世界で、元男性のトランスジェンダーアスリートをどう扱うかは、いまだに議論されている難しい課題です。

IOC(国際オリンピック委員会)では2015年にガイドラインを制定。「性適合手術を受けていなくても男性ホルモンのテストステロンを1年以上、一定レベルに抑制できている」などの条件で出場を認めています。東京五輪もこのガイドラインを基に女性としての出場を認めています。

ある五輪競技関係者は「難しい問題ですね。女性として生まれてきた女子アスリートから見たら、元男性のトランスジェンダーアスリートはもともと体のつくりが違うため、フィジカルの差が大きくなりすぎる。いくらテストステロンを抑えたとしても、女性では超えられない潜在的な壁がある」と明かしています。

皮肉にもトランプ前大統領は退任前の17日、こんな事態を想定してかせずか、バイデン氏の大統領令を担保する昨年6月の連邦最高裁判決について「長年性別によって分けられてきた分野にまで解釈を広げるべきではない」として、適用範囲の限定を狙った司法省通達を出していました。

バイデン氏にとっては、長年LGBTQの権利を守る活動を続けてきて、それを実現する大統領令にサインしただけのつもりが、まさかの部分にケチをつけられた形です。

バイデン氏の「LGBT外交」は、外交ではなくて、足元から崩れていく可能性が大きいです。トランスジェンダーの女性が、女子スポーツに進出するようになれば、米女子スポーツは崩壊するでしょう。

下は、中国のトランスジェンダー女性とされる人の写真です。

  2019年7月11日、中国の全国陸上競技選手権大会で優勝した湖南女子チーム。
  「男女混合リレー?」と2選手の性別に首をかしげる人が多いようだ


それでも、米国がトランスジェンダー女性を女子スポーツに参加することを認め続ければ、米国の女子スポーツは、多くのの種目で、米国トランズジェンター女性が勝つことになり、世界の女子スポーツは崩壊するでしょう。

最後に、日本の国会議員杉田水脈氏は「LGBTの人たちは生産性がない」と主張したことで、かなり叩かれましたが、彼女は言葉のつかいかたを間違えたと思います。私なら「全人類が、LGBTになれば、特にLGだけになれば、人類が崩壊する。BTはそれを助長する」といいます。これは紛れもない事実です。私自身は、彼女はこれを言いたかったのだと思います。無論これは、LGBTとされる人々を差別せよ、と言っているわけではありません。

これには現状では誰も反論できないでしょう。反論したとしても無意味です。これも、いずれ人工子宮なるものができれば、そうとばかりは言っていられなくなるのかもしれませんが、それにしても、これには確実に倫理的な問題が絡むでしょうし、それに現状では、普及しておらず、まだ未来の話です。

LGBTの人たちを不当に差別することはやめるべきだと思うのですが、スポーツの世界まで、LGBTを貫けば、とんでもないことになります。これは、誰にでもわかりやすいことなのですが、それ以外の分野でも、表には出てこない問題もかなりあるのではないかと思います。それが、表にでてくれば、バイデン政権は弱体化するでしょう。

中国にも上の写真で示したように、トランスジェンダーの女性スポーツ選手はいます。しかし、習近平自身は「トランスジェンダー外交」までは考えていないようです。

中国政府のLGBTに対する態度は「合理的」です。ゲイは社会の安定や経済発展のために「使える」ので支持し、レズビアンなどは放置されるか、意見の違いを公にすれば弾圧されます。多様な個人が集合体として社会をつくるという考えはなく、権力者がつくりたい社会の部品として有用かどうかという、いわば自分の都合で峻別しているにすぎないです。

セクシュアリティーだけではありません。現在の中国社会は合理性や生産性のみを優先して設計され、その枠に当てはまらない少数民族、宗教者、障がい者などのマイノリティーに対しては一貫して冷たい態度を取っています。これをやめない限り中国はまともにならないでしょう。

ただ、現状においては、LGBT外交で、結果として中国を利するバイデンは、国内で足元をすくわれることになりかねません。実際、そのようになりつつあります。日本でも自民党が、これを推進すれば、そうなりかねません。

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2021年3月18日木曜日

安保上のリスクも…「LINE」個人情報、中国で閲覧可能問題 政府が違法性の調査開始 韓国資本による海外流出の懸念が明らかに―【私の論評】日本人は、合理的な割にはリスクやデメリットに対して警戒心がなさ過ぎ(゚д゚)!

安保上のリスクも…「LINE」個人情報、中国で閲覧可能問題 政府が違法性の調査開始 韓国資本による海外流出の懸念が明らかに

今月1日にヤフーと経営統合したLINEの出沢剛社長(右)

 政府の個人情報保護委員会は17日、無料通信アプリ「LINE」(ライン)の利用者の個人情報が、委託先である中国の関連会社から閲覧可能な状態になっていた問題などについて、同社の情報管理に違法性がなかったかどうか、経緯や実態の調査を開始した。専門家は、安全保障上のリスクも懸念している。

 「事実関係を確認の上、適切に対応する」

 加藤勝信官房長官は17日の記者会見で、こう語った。

 LINEによると、中国にある複数の関連会社が2018年夏ごろから、アプリの監視や開発業務の過程で、日本国内のサーバー内にアクセス可能な状態だった。名前や電話番号のほか、不適切な書き込みだとして利用者がLINEに通報した会話内容などが閲覧できるという。

 また、韓国にある関連会社のサーバーには、利用者の画像や動画のデータを保管していた。

 法律では、利用者の同意なく個人情報を第三者に提供したり、海外に持ち出したりすることは禁じられている。LINEの指針では、利用者データを第三国に移転することがあるとしながら、国名の記載はなかった。

 LINEは、不正な情報漏洩(ろうえい)は発生していないとしたうえで、「説明が不十分だった」と謝罪した。

 ネットセキュリティーに詳しい神戸大大学院工学研究科の森井昌克教授(情報通信工学)は、「LINEは、韓国資本も入っているアプリなので海外への情報流出は懸念されていた。(報道で問題が)明らかになったが、本来は自発的に公表すべきだった」と指摘する。

 安全保障リスクも懸念されるという。

 評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「中国には、民間企業を政府の情報収集活動に協力させる法律もある。日本には危機意識の薄さもみられる。日本政府は日常の通信手段に潜む危険を注意喚起し、危機管理を強化すべきだ」と語った。

【私の論評】日本人は、合理的な割にはリスクやデメリットに対して警戒心がなさ過ぎ(゚д゚)!

ご存じのようにLINEは、NHN Japanが提供する無料通話とチャットができるスマートフォンのアプリです。音声通話をネット経由のデータ通信で行うのですが、音声データは比較的容量が小さいため、かなり長く話したとしても定額制のパケット料金内に収まってしまいます。
 
ゆえに、実質的に通話料金がかかってこず、「無料通話」と言われるわけです。そこで、小遣いが限られていたり、少しでも通信費を安く抑えたい若年層や留学生などを中心に、爆発的に迎え入れられました。



なにしろ、サービス開始から約1年で、我が国での利用者が2000万人、アジアを中心に世界ではユーザーが4500万人を突破しているというのですから、あなどれません。

  ただ、実際にユーザーによくよく話を聞いてみると、人気の最大の理由は少し違う部分にあったようです。

メッセージをやり取りする時に、いちいちメールボックスを開いたり、返信ボタンを押したりしなくていいからということがあるようです。数年前、若い世代と話をしていたときにはじめて知りました。

   私自身は、LINEを使っていないため、そういう事情は知らなかったので、少なからず驚きました。

  わずか2つか3つのアクションであっても、面倒なものは面倒、やらなくて済むならやりたくない、という若年層が持つある意味での合理性をうまく汲み上げているところが、LINEがヒットした大きな理由であるようです。

私がLINEを使わないのは、アドレス帳データを預けたくないという1点に尽きます。一般には公開されていない人物や会社の連絡先が山ほど入っているので、見ず知らずの他人に預けることなど、恐ろしくてとてもできません。

LINEに限らず他のアプリでもそのようなものがありましたが、使っていません。確か、英語学習者とネーティブスピーカーをつなぐアプリだったと記憶しているのですが、これも恐ろしくて使えませんでした。

 しかも、現地法人とはいえ韓国企業といえば、通信大手のKTが半年以上にわたりハッキングを受けていることに気付かず、計870万人分の契約者情報を流出させたという事件があったことを忘れることはできません。いかに口頭で「きちんと管理しています」と言われても、この目で確かめるまではうかつに信用などできません。

若年層のユーザーもLINEを使っていると、元彼とかケンカして口もききたくない相手とかのアクティビティを教えてきたり、友人になりませんかと、レコメンドしてくることがあるそうでが、それはLINEの運営会社がアドレス帳データを持っていってるからなのでしょう。LINE運営会社は、ユーザーの人間関係を知ってるのからこそ、このようなことができるのです。
 
若い世代は、合理的な割には、リスクやデメリットに対して警戒心がなさ過ぎのような気もします。LINEは神様や予言者じゃないのですから、知ってるってことの裏には、理由があるに決まっているはずです。

無論、facebookやtwitter、YouTubeも昨年あたりから、ユーザーの投稿内容を検閲してみたり、甚だしい場合は、アカウントを凍結してみたり、挙句の果てトランプ米大統領のアカウントを永久凍結したりと問題が散見されました。LINEは表立って、はっきりとユーザーにわかるような操作はしてはいないようですが、裏で何をしているかなどわかったものではありません。

これでは、先に述べたように、若い世代は、合理的な割には、リスクやデメリットに対して警戒心がなさ過ぎと言ってもおられません。若い世代というよりは、すでに日本人はと言い換えるほうが適切だと思います。

性犯罪にも利用されるSNS

 LINEに限らず、GoogleやFacebookようにな会社は、自分の人生と直接関係があるわけではありません。一私企業に行動を把握され、監視されるのは、気分の良いものではありません。

使用を避けられるものなら、できるだけ避けておきたいです。最近では、なるべくこのような会社に個人データを蓄積されたり、利用されないように、パソコン、iPhone、iPadのブラウザはBRAVEを用いるようにしています。SNSも主にBRAVEで使っています。

このBRAVEを用いると、YouTubeなどCM(これって本当に苛つきます)が入らないので重宝しています。それと、ブラウズしていても、広告が入らないところが素晴らしいです。今後このようなサービスが興隆していくと良いと思います。ただ、なにもかもシャットアウトするというのは、不便なときもあります。どの程度自分の情報が特定のサービスに利用されても良いのか、ユーザーが自身で設定できるようになれば、ベストだと思います。

パソコンとスマホのBRAVEの初期画面

それにしても、このLINE日本では様々なところに浸透しており、様々な企業それも大手企業で用いられたり、地方自治体や学校等でも用いられたりして驚くことがあります。

保守派として有名な西岡力氏は、2019年に「LINEは危ない。韓国人はKCIAが全部見ていることが明らかになったので、みんなやめた。LINEは韓国政府に見られていると思ったほうが良い」と指摘しています。LINEの危険性については、LINEがサービスをはじめた当初(2011年 6月)から指摘されていました。

それにしても、以下のようなツイートには本当に驚いてしまいます。


平井卓也氏といえば、現在では、デジタル改革担当大臣です。2017年といえば、LINEの危険性については、予測されていたはずです。これだけ、警戒心のない人が、政府のデジタル改革を推進しても良いものでしょうか。

そう思うのは、私だけではないはずだと思います。

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2021年3月17日水曜日

台湾TSMCを繋ぎ留めようと必死の米国―【私の論評】半導体の世界では、中国に対する反撃が日米台の連携によって進みつつある(゚д゚)!

台湾TSMCを繋ぎ留めようと必死の米国

岡崎研究所

 2月24日、バイデン大統領は重要部材のサプライチェーンの見直しを命ずる大統領令に署名した。100日以内に半導体、大容量バッテリー、医薬品、レアアースの重点4品目についての見直しを求めている。この作業は中国を標的にしたものでないと説明されているが、過度な中国依存を脱却し、緊急時にも耐え得る強靭なサプライチェーンを構築し、安全保障上の懸念を払拭することを目指していることは明らかである。その手法としては国内生産の増強、戦略備蓄、緊急時の生産拡大余剰能力の確保、同盟諸国との協力の組み合わせが考えられているようである。半導体について言えば、台湾や日本、韓国との連携が当然視野に入って来るであろう。



 これに関連して、2月26日の英フィナンシャル・タイムズ紙では、同紙イノベーション担当エディターのジョン・ソーンヒルが、台湾の半導体受託生産企業(ファウンダリー)であるTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.:台湾積体電路製造)の躍進振りを描写した上で、TSMCが米国か中国かを選択することを余儀なくされつつあると述べている。

 TSMCの半導体は、アップルのiPhone、医療器具、F-35戦闘機を動かし、世界の半導体売上高の55%を占めている。その先端技術は、他企業が追随することを今のところ許さない状況だ。

 この驚異的な企業であるTSMCをはじめとする半導体製造企業が民主主義の台湾で発展したことは祝福すべきことであり、米国はじめ西側諸国はこれを資産として守るという姿勢が必要である。フィナンシャル・タイムズ紙の論説はTSMCにとっての懸念は米国と中国の間の地政学的な緊張であるが、この両者の間でのTSMCのマヌーバーの余地は小さくなって来ていると書いている。実体的にどういうことがあるのか必ずしも分からないが、西側諸国がTSMCを失うことがあってはならない。最先端半導体の供給源を失うことは壊滅的影響を持ち得る。

 TSMCの問題もその関連で検討されねばならない。TSMCはトランプ政権の圧力もあって既にアリゾナ州に進出することを決定し、現在、工場建設を進めているが、TSMCを繋ぎ止めるためには、それがビジネスの観点から見ても合理的であるように工夫される必要があるのであろう。更には、TSMCという一企業にとどまらず、台湾全体を安定したサプライチェーンに組み込むとの観点に立ってTPPに米国が台湾とともに参加する可能性が探求されるべきではないかと思われる。

 日本との関連でいえば、TSMCは、茨城県つくば市に、日本企業と提携して研究開発の拠点を設立することを決めている。米国アリゾナ州の工場建設も考えると、今後、日台米の連携が、この地政学上の優位を決め得る半導体分野で行われることが予想される。

現代社会において「半導体」は必要不可欠な存在だ。日本は半導体市場におけるシェアは大きく落としてしまったが、半導体の製造に必要な機械や材料の分野では日本企業が今なお大きな影響力を持っている。

中国メディアの電子発焼友はこのほど、半導体製造装置や材料のうち「重要なものになればなるほど、米国や日本企業の独占状態にある」と論じる記事を掲載した。

現在、激化している米中摩擦において半導体や半導体の製造装置が大きな焦点となっている。記事は、中国の華為技術(ファーウェイ)は半導体メーカーに対して、米国企業の製造装置を使わない生産ラインを構築するよう要請したと伝えつつ、中国企業は米中摩擦によって半導体が入手できなくなったり、生産できなくなったりする事態が生じることを強く警戒していることを指摘した。

【私の論評】半導体の世界では、中国に対する反撃が日米台の連携によって進みつつある(゚д゚)!

半導体製造では分業化が進んできました。それに遅れたのが日本でした。半導体の設計ツールは米国勢、ファブレス企業(工場を持たない会社)は米国を中心に誕生し成長してきました。その流れは日本で拒否され、台湾、最近では中国へと流れていきましたが、日本ではファブレス企業は成長できませんでした。


日本の半導体企業は、設計から製造まで一貫して行うIDM(Integrated Device Manufacturer:垂直統合のデバイスメーカー)にこだわり続け、ファブレスもファウンドリ(実際に半導体チップを生産する工場)もそれらのビジネスの本質を理解できないまま、衰退していきました。


今日残った売上額5,000億円以上の大手半導体メーカーは、東芝から独立したキオクシアとソニーセミコンダクタソリューションズ、そしてルネサスエレクトロニクスだけとなりました。この内キオクシアとソニーはそれぞれメモリとCMOSイメージセンサという大量生産品で昔ながらの大量生産工場を持つ会社です。需要が続く限り、大量生産品は成長できるが、需要が落ち込み始めると危うくなります。

日本が今でも得意な分野は、半導体を製造するための装置と材料です。最近では、フッカ水素が、有名になりましたが、これは他国でも製造できるものの日本以外のものを使うと、製造はできますか、歩留まり率がかなり低くなってしまいます。


日本では半導体を製造するメーカーが弱くなったために、その製造を支援する製造装置メーカーは海外企業に向けて出荷を続けています。売上額の海外比率は極めて高いです。半導体テスターのアドバンテスト社(旧タケダ理研工業)は、海外比率が95%くらいに達しています。半導体製造は今や、米国と台湾、韓国が大きな市場となっています。

またウェーハ完成後、チップに切り出してからパッケージングするまでの後工程では、OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)と呼ばれるパッケージ専門の請負業者がいます。ここでは、ウェーハからチップを切り出し、それをリードフレームと呼ばれるメタルの基板にチップを載せ、チップ上のパッドと呼ばれる電極部分とリードフレーム上の各配線端子との間をボンディングワイヤーでつぎます。最後に樹脂で固めて封止します。最後にICが正常に動作するかどうかのテストを行います。

後工程での製造装置も日本が得意です。ディスコ社はウェーハからチップを切り出すダイシング装置に強いです。新川、カイジョー(旧海上電気)など比較的中小のメーカーが多いです。プリント回路の実装に強かったヤマハ発動機がボンディング装置やマウンティング装置の新川と、モールディング装置のアピックヤマダを買収しました。産業再編も活発になっています。


世界の半導体製造装置市場において、半導体の生産に必要な製造装置と材料の分野においては日本企業が大きなシェアを獲得しています。半導体設計に関しては、米国が大きなシェアを獲得しており、日本企業の製造装置と材料を使わずに半導体を生産するのも非常に難しいです。台湾のTSMCも日米なしには、半導体を製造できません。

現在の半導体産業では結局日米企業が要所を押さえている状況にあり、中国の半導体製造装置・素材メーカー、ファブレス企業も発展しつつありますが、日米の企業と比べるとまだ大きな差があるのが現状です。米中摩擦がさらに激化すれば、半導体の材料や製造装置を舞台に激しい駆け引きが繰り広げられるであろうことになるでしょう。

そのときに、日米側にTSMCがついているということは、非常に重要なことです。半導体製造装置や材料のうち「重要なものになればなるほど、米国や日本企業の独占状態にある」ことから、TSMCも当然のことながら、日米を選ぶのが合理的な判断です。

この日米台の背景には、言うまでもなく、トランプ政権でのファーウェイ排除の動きがあります。トランプ政権がファーウェイを世界市場から締め出す動きを加速させてきたことは周知の事実です。

CPACで演説するトランプ氏

2020年5月15日、米国政府は、ファーウェイが設計した半導体の製造をファウンドリー(半導体を受注製造する企業)が受託した場合、米国の技術やソフトウェアを使用する際には、米国商務省の許可を義務づけました。

つまり、米国原産技術やソフトウェアを使って半導体をつくることを禁止したわけです。これにより、世界最大のファウンドリーである台湾のTSMC(台湾積体電路製造)は、ファーウェイ向けの半導体製造が不可能になりました。

TSMCの主要顧客には、アップルやクアルコム、エヌビディアといった世界的な企業が名を連ねています。TSMC時価総額は約39兆円で、同20兆円であるトヨタの2倍の規模を誇り、半導体業界では世界1位です。半導体の世界では、TSMCなしにグローバル・サプライチェーンはつくれない状況になっているのです。

そして、このTSMCの上客だったのがファーウェイです。ファーウェイはTSMCに自社開発の半導体チップの生産を委託してきました。米国政府の決定は、事実上、これを禁止するものでした。


今後日米台による半導体による、経済安全保障体制を強化していくことは、中国に対する大きな牽制となります。

今後、世界の半導体サプライチェーンは大きく変化する可能性があります。一つのシナリオは、日・米・台を軸に、世界の半導体供給網が再整備される展開です。 

先にもあげたように半導体の設計・開発と生産の分離が進む中、米国は、最先端の製造技術や設計・開発に関するソフトウエア(知的財産)の強化に取り組むでしょう。米国が中国の人権弾圧にIT先端技術が使われていることを問題視し、半導体製造技術などの流出を食い止めるために制裁を強化する可能性もあります。 

台湾では、TSMCが微細化や後工程への取り組みを強化している。 また、わが国は旧世代の生産ラインを用いた半導体の供給や、高付加価値の関連部材、製造装置などの供給者としての役割を発揮しつつあります。 

それは半導体産業を強化したいEUにとっても重要です。車載半導体を手掛ける欧州の半導体企業は、生産をTSMCなどに委託しています。最先端の半導体生産に用いられる極紫外線(EUV)露光装置に関して、唯一の供給者であるオランダのASMLは米国の知的財産などに頼っています。 

半導体業界における日米台の連携は、EU各国企業にも大きく影響します。国際社会と世界経済の安定に、半導体サプライチェーンが与える影響は増すでしょう。 

日米台の連携は様々な分野で進んでいる

このように考えたとき、韓国政府とサムスン電子などの企業が、半導体業界の変化にどう対応するかが不透明です。 

TSMCは2021年内に回路線幅3ナノメートルの半導体の生産を開始すると、見込まれています。ファウンドリー分野でTSMCとサムスン電子とのシェアや技術面での格差は、今後拡大していく可能性が高いです。 

他方で、メモリ半導体や家電などの分野において、韓国の企業は、中国企業に追い上げられています。文政権の政策は、国際社会における韓国の立場と、韓国企業の変化への対応力にマイナスの影響を与える恐れがあります。

半導体の世界では、中国に対する反撃が日米台の連携によって進みつつあります。欧米のテクノロジーの盗窃により急進してきたのが中国の半導体です。それを断ち切ろうというのがトランプ政権の対中政策でした。

半導体を制する者が、次のテクノロジーを制し、それは経済、軍事における覇権を握ることになります。トランプ政権は終わりましたが、日米台の連携は始まったばかりです。これが今後の中国覇権とアジアの行方を左右する要素になると思われます。

これは、時がたつにつれて、ボディーブローのように中国に効いていくものと、思われます。1976年9月6函館に旧ソ連のミグ25が緊急着陸してベレンコ中尉が米国に亡命しました。そのときに、技術者がソ連の当時の最新鋭機ミグ25を調査して驚いたことがあります。

なんと、電子部品の一部に真空管が使われていたというのです。当時は、半導体はあまり用いられてはいませんでしたが、トランジスターは用いられていました。現在の中国も当時のソ連のようになりかねません。最新型の半導体を使えないことは、当時よりも現在のほうが圧倒的に不利です。


それを阻止するために、中国は台湾を奪取して、TSMCを傘下に収めようとするかもしれまません。しかし、それを実行したとすれば、習近平は愚かです。なぜなら、日米あってのTSMCなのですから、日米から分離したTSMCは、現在までの最新型の半導体は、部品・材料の備蓄の範囲内では製造できるでしょうが、その後はできなくなります。

無論、日米は中国が台湾を奪取することを許すべきではありません。そうして、それは日米が協同すれば、このブログにも過去に述べてきたように、十分に可能です。

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