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2016年11月30日水曜日

安倍首相と米露のバトル口火 TPPは“トランプ版”に衣替え、北方領土はプーチン氏と論戦に―【私の論評】日米は、中国の現体制と、ロシアの中のソ連を叩き潰せ(゚д゚)!


TPP離脱を明言したトランプ次期米大統領 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
トランプ次期米大統領はビデオ演説で、大統領就任初日にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を離脱すると明言した。一方、ロシアは北方領土にミサイルを配備するなど、12月の安倍晋三首相とプーチン大統領との会談の成果を危惧する声もあがっている。

 まず、TPPであるが、今のままでの成立は無理な状況になった。TPP諸国の国内総生産(GDP)の6割は米国であるので、米国抜きのTPPはありえない。

 まずTPPの性格をおさらいしておこう。TPPは、(1)自由貿易(2)知的所有権保護や国営企業規制が含まれることから、中国除外という性格(3)多国間協定-という3つの要素がある。

 一方、トランプ氏は、共和党であり、米国議会の上下院はともに共和党が取っている。トランプ氏は選挙期間中は共和党の重鎮と反目していたが、ここは議会の共和党と組んで政権運営する可能性が高いと筆者は見ている。

 というのも、共和党政権は8年ぶりであり、政権運営の妙味を味わいたいと考えるのが自然だ。このため、トランプ氏と議会共和党は妥協し合い、ウィン-ウィンの関係になるはずだ。共和党は伝統的に自由貿易を指向している。また、民主党のクリントン氏が中国利権と近いとされたこともあって、対中姿勢は毅然としたものとなる可能性もある。

 こうしたトランプ政権と議会の関係を考えると、TPPは仕切り直しになって、中国抜きの自由貿易を二国間で締結するスタイルが基本となるだろう。

 となると、まったく白紙から交渉するのでは時間がかかるので、日本としては、既にまとまったTPPを原案として、米国との二国間交渉をすることもあり得る。

 二国間交渉であるので、日本にとっては厳しいものになるが、この方式がうまくいけば、日本以外のTPP参加国も同様な方法で米国と二国間交渉すれば、それが事実上、「トランプ版TPP」となる。

 一方、北方領土交渉は難しい。戦後70年間も解決できなかった問題なので、今回簡単に解決できると甘く考えないほうがいい。ロシアは、巨額収賄の容疑でウリュカエフ経済発展相の身柄を拘束し、捜査に乗り出したと発表した。同氏は、日本側の窓口を務める世耕弘成経済産業相のカウンターパートであり、これまで日本の対ロシア経済協力計画のロシア側窓口だった。

ウリュカエフ経済発展相
 ミサイル配備や担当大臣拘束という一連の動きが、北方領土・日露平和条約交渉を妨害しようという意図の表れなのか、日本側の期待値のハードルを下げるロシア側からのサインなのか、よくわからない。いずれにしても、12月の安倍・プーチン会談はガチンコで両国国益のぶつかり合いになるだろう。

 トランプ氏が次期大統領になったので、対ロシア制裁が緩んでいくという見通しをプーチン大統領が持っているなら、ロシアにとって北方領土問題の優先順位は低くなる。一筋縄ではいかないのは当然だが、安倍首相はトランプ次期大統領を巻き込みながら、対ロシア戦略を練っているだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日米は、中国の現体制と、ロシアの中のソ連を叩き潰せ(゚д゚)!

上の高橋洋一氏の記事、概ね同意です。日米二国間交渉は、日本にとっては厳しいものになるのは明らかです。しかし、ここで負けてはせっかくのTPP交渉での、粘りが無駄になります。おそらく、TPP交渉以上に難航し、時間もかかることでしょう。

そうして今回は、日米二国間だけの問題ではなく、二国間交渉によって実質上のトランプ版TPPを創設しようというのですから、日本としては、TPP加盟国の応援もうけつつ、米国との交渉を成功させる必要があります。日本が下手に米国に折れれば、他国の信頼を失うことになります。

さて、米国との交渉についてはこのようなところですが、ロシアのとの北方領土交渉は高橋洋一氏も指摘するように更に困難を極めることでしょう。

私たちは、ロシアとの北方領土交渉に関することを述べる前に、ロシアとはどういう国なのかを知っておく必要があります。

現代ロシアを理解するうえで大切なことは、ロシアとソ連は宿敵だということです。ロシアを乗っ取ってできた国がソ連なのですから、両者を一緒くたに考えるべきではありません。

エリツィンは現在では単なる酔っ払いとしか評価されていないのですが、間違いなくロシアの愛国者でした。そのエリツィンから大統領の地位を禅譲されたプーチンがやっていることは、ソ連邦の復活であり、ロシアに対する独裁です。

ロシアの愛国者エリツィン氏
プーチンが日本文化に詳しいから交渉しやすいなどという甘い幻想は捨て去るべきです。ロシアはそれほど単純な国ではありません。例えば、2002年にアレクサンダー・レベジというロシアの政治家が死にました。

彼はロシアの自由化を進め、チェチェン紛争の凍結にも尽力した人物です。NATOや日米同盟にも融和的でした。何より、近代文明とは何かを理解し、実行しようとしました。

ロシア史のなかでも、一番の真人間と言っていい存在です。しかし、彼の末路はヘリコプター事故死です。ロシアではなぜか、プーチンの政敵が『謎の事故死』を繰り返します。このレベジについてなんら言及せず、『プーチンは親日家だから』などと平気で言っているような輩は、間違いなく馬鹿かロシアスパイです。

アレクサンダー・レベジ
しかし、無論プーチンに限らず誰にも様々な面があります。どんな物事にも良い面もあれば悪い面もあります。『誰が善玉で誰が悪玉か』という子どものような区別の仕方はすべきではありません。

ロシアを支配しているのは、徹底した『力の論理』です。自分より強い相手とはケンカをせず、また、自分より弱い相手の話は聞かないというものです。

日本からの投資などで、ロシア側の姿勢を軟化させ北方領土問題を一歩でも進めよう、などという声もあるようですが、話を進める気のない相手に交渉を持ち込んだところで、条件を吊り上げられるのがオチです。

そもそも、戦争で取られたものは戦争で取り返すしかない、というのが国際社会の常識です。力の裏づけもないまま、話し合いで返してもらおうなどと考えている時点で、日本は甘すぎます。これは、それこそ子どもの論理と謗られてもしかたありません。
これは、プーチンとメドヴェージェフの役回りを考えてもわかります。子分が大袈裟に騒ぎ立てたところへ、親分が『まあまあ』と薄ら笑いで入ってくるのは、弱肉強食のマフィア社会などでは常套手段です。にもかかわらず子どものままの日本は、プーチンの薄ら笑いを友好的なスマイルだと勘違いしてしまっています。要するに、マフィアの社交辞令を真に受けているわけです。

プーチンとメドベージェフ
そもそも、多くの日本はロシアを知らなさすぎます。ウクライナの問題にしても、ロシアの歴史を知っていれば『またやってるよ』で終了です。『アメリカの影響力の低下』を論じる向きもありますが、そもそも、旧ソ連邦であるウクライナ、とくにクリミア半島に欧米が手出しできるわけがありません。メキシコにロシアが介入できないのと一緒です。

これは、世界の通史を知れば国際社会の定跡が学べ、おのずと理解できることです。そうして、文明国として、日本が強くなるべき理由やその方法も理解できるはずです。

プーチン大統領にとって、ウクライナはあくまで自分たちの持ち物です。元KGBである彼の故郷はロシアではなくソ連邦なのです。ウクライナを狙うのは、彼が旧ソ連を取り戻そうとする行為の一環なのです。

プーチンは故郷であるソ連邦の歴史をムダにしたくないし、ソ連の崩壊が敗北だったとは決して認めたくないのです。例えばプーチンは、ガスプロムという天然ガスの企業を使って、ロシア人から搾取を続けています。

かつてイギリスが東インド会社でやっていたような植民地化を自国で行っているわけです。この事実だけ見ても、彼がロシアの愛国者ではなく、ソ連への忠誠心が高いと見ていいです。

ソ連の愛国者プーチン
北方領土へのミサイル配備や担当大臣拘束という一連の動きは、北方領土・日露平和条約交渉を妨害しようというプーチンの意図の表れです。

日本としては、米国と貿易交渉で徹底的にケンカをして、ロシアのプーチン幻想など捨て去り、米国と共同しつつ、何十年かけてもロシアの中のソ連をぶっ潰す、中国の現体制をぶっ潰すことを念頭においた外交を展開すべきです。

まさに、これから安倍首相と米露のバトルが口火切つて落とされるわけです。

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2022年2月10日木曜日

ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る―【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る

岡崎研究所

 ウクライナ危機は、プーチン政権の終わりにつながり得るかもしれない。ウクライナ危機が深刻化する中、こうした指摘も増えてきているようだ。


 ワシントン・ポスト紙コラムニストのジェニファー・ルービンは、1月26日付けで‘The West may not be able to deter Putin. But at least he knows the consequences will be devastating.’(西側はプーチンを抑止することができないかもしれない。しかし少なくとも彼は結果が破壊的であることを知っている)と題する論説を書いている。

 上記のルービン論説の他、ウォールストリート・ジャーナル紙も1月26日付で同紙コラムニストのホルマン・ジェンキンズによる‘Waiting for the Last Days of Putin’(プーチンの最後の日々を待つ)と題する論説を掲載している。また、ワシントン・ポスト紙は1月28日にもカール・ビルト(スウェーデン元首相)の‘Why Putin’s gamble on Ukraine is insane’(なぜプーチンのウクライナについてのギャンブルは気違い沙汰なのか)という論説を掲載、ビルトは「ロシアの侵攻は長期的対決の始まりになり、結果としてより大規模な戦争とロシアの政権の崩壊につながる可能性がある」としている。

上記ルービンは、今回のウクライナ危機についての諸問題を、次のように指摘する。

・ロシアが侵攻すれば、西側同盟を再活性化し、ロシアは経済的にどうしようもない国、国際的な「のけ者」になる。プーチンはこれを理解しているだろう。

・ホワイトハウス高官は、「もしロシアがウクライナに侵攻すれば、従来のような漸進主義はとらず、今回はエスカレーションの梯子のトップから始め、そこにとどまる」と言っている。

・米政権は、北アフリカ、中東、アジアを含む世界の各地で、ロシア産でない天然ガスの追加量を見出し、欧州に割り当てようとする努力をしている。ノルドストリーム2は閉鎖されうる。

・米政権は、人工知能、ロボット、レーザー、防衛、航空宇宙のような分野(プーチンが石油・ガスから経済を多様化させようと力点を置いている)で対ロ制裁の構えを見せている。

・ロシアの侵攻は、スウェーデンやフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加入、NATOの拡大につながるだろう。

・ウクライナ軍の抵抗によるロシア側の死傷者を考えると、軍事的冒険は、国内での愛国的プーチン支持を巻き起こすよりもロシアを混乱させるだろう。しかし、プーチンは自らを追い込んでおり、後戻りするのは難しいかもしれない。

 その上で、ルービンは、今後の見通しについて、ロシアにおけるプーチン政権の終りにつながりうると論じている。ルービンの論旨には賛成できる。

ソ連の栄光は取り戻せない

 ロシア人は、今ウクライナと戦争をすることを支持する気分にはないだろう。ウクライナとの戦争でロシア国民が愛国心を高揚させて、プーチンの支持率が大きく上がるというようなことは考えられない。

 プーチンは何かを勘違いしているように思われる。小規模であっても、旧ソ連を復活させることは、歴史を書き換え、逆回転させることであって、昔の栄光を取り戻したいという、いわばノスタルジア政治であるが、そのようなことは起きないし、無理にそうする力は今のロシアにはない。プーチンが今の路線を突き進むとプーチン政権の崩壊に至る可能性もあるとのルービンその他の指摘は、その通りであろう。今度の危機は、まさに現実が見えなくなった独裁者の末期的な誤判断であると思われる。

 プーチンの退場が早ければ早いほど、世界平和のためにも欧州の平和のためにも良い。今すぐにというわけではないが、キエフでのレジーム・チェンジより、モスクワでのレジ-ム・チェンジの可能性が、出てきたのではないだろうか。プーチン後の政権は、今の政権よりはましであろうから、それが出てきたときに日露関係の改善も考えたらよいだろう。

【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

2017年当時も、北朝鮮はミサイルを連射し、トランプ政権は3つの空母打撃軍を朝鮮半島付近に派遣し、さらにこの打撃群には、外見は空母のように見える、日本のヘリコプター搭載護衛艦も旭日旗を掲揚しつつ随伴していました。

        星条旗を掲げ航行する米原子力空母「ジョージ・ワシントン」(奥)と
          これに伴走する旭日旗を掲げた海自「いづも型」護衛艦(手前)


その姿は米国で毎日のようにテレビで報道され、米国では今にも日米合同軍が、北朝鮮に攻め込むのではないかという雰囲気だったと、知り合いの米国人が語っていたのを思い出します。

無論、冷静に考えてみれば、日本の海自が北朝鮮に攻め込むなどということはあり得ないし、さすがに米国の報道機関も、日本が北朝鮮に攻め込むなどとは報道はしてはいないのですが、日本のことをあまり知らない多くの米国人はそのように思ってしまうのかもしれません。

実際、日本による北朝鮮侵攻はありませんでしたし、米国によるそれも結局ありませんでした。

ロシアのウクライナ侵攻もこれと似たようなところがあるのかもしれません。連日のように、ロシア軍の動きをテレビなどで報道されると、多くの人はそう思ってしまうのかもしれません。


ただ、一番の責任はプーチンにあるのではないかと思います。このブログでもすでに何度か述べたように、現在のロシアはウクライナに攻め入り、ウクライナ全土を占拠する力はありません。

その理由ははっきりしています。まずは、現在のロシアのGDPが韓国なみであるということです。しかも、一人あたりのGDPでは韓国をはるかに下回ります。そのロシアが、いくら旧ソ連の核兵器や軍事技術を継承する国家であったにしても、大戦争を遂行する力はありません。

上の記事では、「プーチンは何かを勘違いしているように思われる」としていますが、私はプーチンは意図的にロシアによるウクライナ侵攻を喧伝しているか、喧伝するのを許容しているのだと思います。

そうでなければ、すぐにウクライナ国境付近から軍隊を引き上げさせ、通常の守備レベルに戻すと思います。そうすれば、西側諸国もすぐにロシア批判をやめるでしょう。

プーチンとしては、現状のように西側諸国が、ロシアの軍事的脅威を煽るのは、決して悪いことではないのでしょう。

プーチンは旧ソ連に戻ったような気分が味わえますし、ロシア国民にもそのような気分を味合わせることができます。何よりも現状のロシアやプーチンの立場の弱さを糊塗し、さらに米国やEUに対して大きな譲歩を迫ることができる可能性もあります。プーチンとしては、現状を放置したままにして、そうした機会をうかがっているというのが実情でしょう。

実際、ロシアは弱体化傾向にあります。

まずは、直近で一番国民生活を苦しめているのはインフレです。ロシアでは2020年から食料品を中心にインフレが進んでいます。昨年12月のインフレ率は8.4%と中央銀行の目標値(4%)の2倍以上となりました。日本でも、原油価格の高騰によりインフレになるのではと心配する人もいますが、日本では日銀の物価目標2%にも到達していない有様です。ロシアと比較すれば、杞憂に過ぎないです。


ウクライナ情勢の緊迫化により通貨ルーブル安も進み、「輸入品の価格上昇でインフレ率が2桁になる」との懸念が高まっています。

ロシアの中央銀行は昨年12月、主要政策金利を7回連続で引き上げており、金利高による景気悪化も現実味を帯びつつあります。

プーチン政権の長期化への不満がこれまでになく高まっている中で、インフレと不景気の同時進行(スタグフレーション)が起きるリスクが生じています。

上のグラフご覧いただければ、2015年あたりには、ロシアはかなりのインフレだったことがわかります。これは、無論ロシアのクリミア侵攻に対する西側諸国の報復制裁の悪影響によるものです。これは、最近のことなので、多くのロシア国民の記憶にも新しいでしょう。

ロシアでは、ソ連崩壊後の1990年代前半のインフレや経済の混乱は極めて深刻でした。男性の平均寿命がいっとき60歳を切った時期さえありました。忍び寄るインフレの足音がソ連崩壊時の悪夢を多くの国民やプーチン大統領の脳裏に呼び覚ましていたとしても不思議ではないです。

販売できる商品が何もない魚介類専門店で店員に詰め寄る市民たち(1990年11月22日、モスクワ)

さらに、現在のロシアは人口が減少傾向です。ロシア連邦統計局は1月28日に、「同国の人口が昨年に100万人以上減少した」と公表しました。

減少幅はソビエト連邦崩壊以降で最悪であり、日本の年間の人口減少数(約50万人)をも上回っています。経済が悪化したことで出生率が低下し死亡率が上昇しているロシアに対し、新型コロナのパンデミックが追い打ちをかけた形です。

ロシア政府は2020年夏に世界で初めて新型コロナのワクチン(スプートニクV)を承認したのですが、自国産ワクチンに対する国民の根強い不信感から接種率40%台と低迷しています。このことも出生率に悪影響をもたらしているようです。

最後に、ロシアでは、石油資源が減少化傾向にあります。ロシアの昨年の原油生産量は前年比25万バレル増の日量1052万バレルだったのですが、ソ連崩壊後で最高となった2019年の水準(日量1125万バレル)に達していません。

ロシアを石油大国の地位に押し上げたのは、西シベリアのチュメニ州を中心とする油田地帯でした。巨大油田が集中し、生産コストが低かったのですが、半世紀以上にわたり大規模な開発が続けられた結果、西シベリア地域の原油生産はすでにピークを過ぎ、過去10年で約10%減少しています。

ロシアが原油生産量を維持するためには東シベリアや北極圏などで新たな油田を開発しなければならないのですが、2014年のロシアによるクリミア併合に端を発する欧米諸国の経済制裁の影響で技術・資金両面から制約を受け、期待通りの開発が進んでいません。

ロシア政府が2020年に策定した「2035年までのエネルギー戦略」では「2035年時点の原油生産量は良くても現状維持、悪ければ現在より約12%減少する」と予測しています。その後ロシア政府高官が相次いで「自国産原油の寿命は20年に満たない可能性がある」とする悲観的な見方を示しています。

このような状況で、西側諸国の制裁がさらに強まれば、ロシアはとんでもないことになります。

ただ現在のような状況をいつまでも続けているわけにはいきません。会津の什の掟ではありませんが、「ならぬことはならぬものです」。いずれプーチンは、ウクライナ侵攻をきっぱりと否定しなければならなくなります。その時期を誤れば、プーチンのロシア国内での威信は地に落ち、それこそプーチン政権崩壊につながりかねません。

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2014年2月16日日曜日

「国境を固めろ」 プーチン大号令の意味は?―【私の論評】オリンピックだけではない小国ロシアの動きに注目せよ! 背後にしたたかな外交劇! 中国の北極海進出を阻止せよ(゚д゚)!

「国境を固めろ」 プーチン大号令の意味は?

2013年12月20日、ロシア・モスクワで行われた、
保安機関職員向けの会合で演説するプーチン大統領

北極が資源基地、通商ルートとして世界的注目を集めるなか、北極圏に世界最大の領土を持つロシアが同地域と、それに連なる極東の国境警備を進めている。北極開発はロシアにとりチャンスである一方、氷の融解により各国の船籍がより自由に航行できる環境は、ロシアの安全保障にとり脅威になるためだ。北極海への進出に意欲をみせる中国への懸念を特に強めているとの見方も出ている。

「国境の保全システムの改善に対し真剣な注意が払われなければならない。鍵となるのは北極圏の国境と、カフカス地方、極東の国境インフラの改善だ」

プーチン大統領は昨年12月20日、モスクワで行われた保安機関職員向けの会合で、カフカス地方と、北極、極東を並べて“真剣な注意”を払うよう、国境警備などに携わる保安機関職員らに檄を飛ばした。

ソチ五輪開幕を目前に控え、カフカス地方出身のテロリストの動向に世界的な注目が集まる最中に、国境警備の最前線に携わる職員らには北極圏、極東の警備を怠るなと訴えた格好だ。

プーチン氏はすでに、北極圏の国境警備体制の強化に手をつけている。12月10日に行われた国防省拡大幹部会では、北極海のフランツ・ヨシフ諸島とノボシビルスク諸島に新たに空軍基地を設立する計画が披露され、プーチン氏はここでも「ノボシビルスク地方における基地を再開させたが、それは北極圏全域における状況をコントロールする上で極めて重要な意味を持つ」と言明した。

・・・・・・・・・・・・・<中略>・・・・・・・・・・・・・・

中国は、北方海域での存在感を高めている。2012年には砕氷船を北極探査に送り込み、北極点近くの航路を使った航行に成功した。13年には初めて、北極海航路へのアジア側の通過海域になりうるオホーツク海に中国艦艇が進出した。ロシアは中国砕氷船の北極進出、また中国艦艇のオホーツク海進出に合わせ関連海域で軍事演習を実施するなど、中国を意識したともとれる反応を示している。

国境への脅威としては、人口減少に悩む極東地域での中国の不法移民の流入もロシア国内で懸念が高まっている。ハバロフスクのネットメディアによると、ハバロフスク地方では12年だけで、「ロシア連邦保安局(FSB)が千人以上の違法な中国人移民の合法化の流れを止めた」という。 

報道によると彼らは、ハバロフスク市内の教育機関で教員として勤務しているとする不正な証明書を作成し、ロシア国内に長期間滞在する許可を得ていた。極東では今後も、中国人移民の存在感が急速に高まると予想されている。

【私の論評】オリンピックだけではない小国ロシアの動きに注目せよ! 背後にしたたかな外交劇! 中国の北極海進出を阻止せよ(゚д゚)!

さてオリンピックでは、日本の選手らがメダルをとったため、日本国内で大きな話題になるようになっています。しかし、ロシアといえば、オリンピックだけではありません。その裏で各国による、見逃すことのできない、外交が繰り広げられています。

北極海の海底には、石油資源が眠っている

北極海における中国の脅威については、前々から指摘されていたことです。この問題かなり大きいし、大きく北極海に接するロシアとしては、大問題です。プーチンとしては、中国を牽制するためにあらゆる手段を講じようと策を練っているはずです。

そんなプーチンの考えを見ぬいた、安部首相は、西欧諸国が開会式出席を拒否するなか、参加して、プーチン氏と会談しています。

ソチオリンピック開催式に出席後、プーチン大統領と会談する安部総理
安部総理は、安全保証のダイヤモンド構想による中国封じ込めを果敢に進めています。両者には、中国封じ込めという点では合致しているし、まさに時宜を得ているので、両者とも満面の笑みを浮かべています。

習近平も、欧米諸国が開会式参加を拒否する中、参加し、参加後にプーチン氏と会談しました。そうして、プーチン氏はこの席で中国訪問を決めています。北極海への中国の進出を懸念しているプーチン、ロシアは北極海進出の最大の障害となるかもしれないことを懸念している習近平。両者とも相手の腹を探ろうとして必死です。両者とも、顔が若干こわばってるようにもみえます。
ソチ五輪開会式出席後にプーチン大統領と会談した習近平
朴槿恵は、公務が忙しいとの理由で、ソチ五輪開会式に参加しませんでした。これは、いろいろな説がありますが、朴槿恵がロシアを訪問した時、プーチン氏との会談のとき、プーチン氏が30分遅刻したので、そのしっぺ返しだと思われます。

オバマ氏は、他の西欧諸国と同調し、ロシアに同性愛者の活動を制限する法律があるからという人道上の理由から出席しないことを決めていました。

朴槿恵とオバマ大統領はソチ五輪開会式には参加せず
確かに、人道上の問題はあるものの、今回のソチ五輪開会式には、ロシア側からみれば、外交・安全保障の意味からも、諸外国に集まってもらい、できれは会談を開いて、今後の方向性などについて話をしたいという要望があったものと思います。

こうした大問題については、日本はもとより、西欧諸国、特にEUにも多いに関係のあることです。なぜなら、北極海の問題は、大きな問題であり、特にEU諸国など、多くの国が北極海に面しています。

北極が中国の海になったとすれば、とんでもないことになります。いつも、ロシアや、EUは中国の脅威にさらされることになります。

ソチオリンピックに参加のセクシーなアスリートたち

そんなことから、今回の安部総理のソチ五輪開会式参加は、誠に時宜を得ていて、日本のこれからの対ロシア外交戦略に良い影響をおよぼすことになるでしょう。

韓国の不参加は、ロシアのプーチンにとっては、望むところでしょう。韓国は、小国であり、GDPも日本の一都市である東京程度しかなく、しかも、北極海からは離れており、反日的ですし、韓国とのつきあいなで、中国封じ込めを実行しつつある日本との外交に支障をきたすおそれがあることから、朴槿恵の開会式不参加は、願ったり、かなったりというところだと思います。

アメリカやヨーロッバなどは、北極圏から近いので、本来であれば、この機会を利用しても良かったのでしようが、やはり、プーチン大統領や、安部総理ほどには危機感を抱いてはいないのだと思います。

ちなみに、ロシアは、中国、日本、アメリカなどから比較すると小国です。これに関しては、以前のこのブログにも掲載したことがあるので、その記事のURLを以下に掲載します。
安倍首相と習主席を天秤に したたかなプーチン大統領 北方領土は…―【私の論評】小国ロシアの外交に学ぼう!!だが、インド・アセアンと中国とを両天秤にかけて見せた安倍総理の外交手腕のほうが凄いかも!
詳細は、この記事をご覧いただものとして、 今やロシアは、ソ連やそれ以前のロシアは、大国ではありましたが、現在のロシアは、人口は日本よりわずか2000万人多い程度にすぎず、経済的にはGDPが、インドにも抜かれ、10位の座からは滑り落ちてしまい、いわゆる新興国の地位に甘んじています。

ロシアの力は、旧ソ連自体からも落ちていたことも注目すべきです。第二次世界大戦直後のソ連は、その頂点に達していました。軍事力においても、経済的にも世界の大国としてふさわしい地位を有していました。

アメリカにも、コミンテルンを多数送り込みに成功していました。スターリンの腹黒さには、当時の小市民的なトルーマンはとても歯が立ちませんでした。アメリカ国内でも、コミンテルンがありとあらゆる諜報活動をしていました。アメリカのコミンテルンは、GHQという形で、日本にも多数送り込まれました。GHQの実体は、馬鹿とスパイの集まりという状況で、日本にもソ連の勢力が広く、深く影響を及ばしていました。それどころか、日米が戦争に突入したのには、アメリカの中枢や、日本の第二次近衛内閣にも深く浸透していたソ連コミンテルンが大きな役割を果たしています。

日本に送り込まれたGHQは、馬鹿とスパイの集団だった
しかし、そんなソ連コミンテルンも日本が脅威の経済成長をするにつれて、だんだん威力を失っていきました。国民の多くが豊になった、1960年代から、1970年代にかけて、豊になった人たちは、共産主義の必要性は感じなくなり、ソビエト・コミンテルンの勢力は日本から払拭されました。それは、アメリカも同じことで、アメリカが裕福になるにつれて、アメリカより、コミンテルンの影響力はどんどん消えていきました。アメリカでのコミンテルンの勢いは、日本よりもはるか前に消えていました。

アメリカでは、1960年代はじめまでは、政府中枢にまでおよぶような、大規模な奥行きも幅も広い、ソ連スパイの摘発事件などが発生していましたが、これ以降には滅多にありません。そうして、それとともに、ソ連も衰退し、1990年台には崩壊しました。

しかし、最近ではあの女スパイである、アナ・チャプマンの色仕掛け目による、アメリカでのスパイ事件などがあり、大騒動となりましたが、それにしても、往年のコミンテルンの大かかりなものとは比べようもないくらいの規模のものです。

ハニートラッフでアメリカを震撼させたロシア女スパイの、アンナ・チャップマン

こういう歴史的背景を知っていれば、現在のロシアは小国であることが良く理解できると思います。

しかし、こうしたロシアがソ連時代に培った軍事力や、諜報戦などの力により、今でも多くの国々の人々に大国のように思われています。

しかし、現実のロシアは小国であるため、将来中国が本格的に北極海に進出した場合、それこそ、第二第三の尖閣問題や、南シナ海のようになる可能性はかなり高いです。それに、ロシアは現在、北極海に直接接する国としては、もっともその接地面の大きな国であり、これだけの接地面を防衛するのは、本当に大変なことです。

北極海

そんなときに、日本が中国を牽制してくれれば、中国は日本に対する軍事力を強化しなくてはならず、その分北極海に割ける軍事力にも限りがでてきます。

まさに、ロシアの狙いはそれです。EUもうまくすれば、頼りになるかもしれませんが、それにしても、経済的にはたいしたことはありません。EU全体で、ようやっと、日本やアメリカに対抗できるような経済力であり、しかも一つの国ではないため、場合によっては各国の利害の衝突もあります。

ロシアと日本は、中国封じ込めということでは、利害が一致しています。このことをうまく利用し、ロシアと提携できるところは提携し、外交でうまく持っていくことができれは、あれほど困難と思われた、北方領土の返還もうまくいくかもしれません。

ロシアも、自らが窮地にいたったときだけ、中国の脅威をいいたて、国際法上でも何の権利もなく、日本の領土を終戦後に勝手に奪っておき、返還もしないというのであれば、日本との提携など最初から反故にされても文句はいえないでしょう。

米国の退潮は、明らかですし、ロシアはすでに小国に過ぎず、中国の崩壊は目に見えてきた現在、日本は自らの信念にもとづき、アジアの平和と安定のため、世界の繁栄のため一役、それも大きくな一役を買うことができる時代が近づきつつあるような気がします。

そう思うのは私だけでしょうか。皆さんは、どう思われますか?

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2022年5月8日日曜日

プーチン氏「がん手術」で権力一時移譲か 米英メディア指摘 「宮廷クーデター」に発展の恐れも 「今回の情報は信憑性が高い」と識者―【私の論評】プーチン後のロシアがどうなるか、またはどうなるべきか、実はそれを知る者は誰もいない(゚д゚)!

プーチン氏「がん手術」で権力一時移譲か 米英メディア指摘 「宮廷クーデター」に発展の恐れも 「今回の情報は信憑性が高い」と識者


 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、がんなどの病気を抱え、手術を控えている可能性があるとした米英メディアの報道が波紋を広げている。手術中には短期的に側近に権力移譲するとの見方もある。9日には対独戦勝記念日を迎えるロシアだが、ウクライナ侵攻は泥沼化し、内政にも混乱の兆しがみえる。トップシークレットとされる最高権力者の体調問題が命運を分けるのか。

 プーチン氏の病状については、ロシアのSNS「テレグラム・チャンネル」で明らかにされた。英大衆紙デーリー・メール(電子版)によると、クレムリン(大統領府)の有力者が情報源だという。

 報道では、プーチン氏は1年半前から腹部のがんとパーキンソン病に罹患(りかん)していると報告されたほか、幻覚や躁(そう)病、統合失調症の症状を伴う障害もあると伝えた。医師が4月下旬にがんの手術を受けるように勧めていたが延期されたという。今月9日の「独ソ戦・戦勝記念日」まで手術を避けたとの見方もある。

 「今回の情報は信憑(しんぴょう)性が高い」と語るのは、ロシア政治に詳しい筑波学院大の中村逸郎教授。

 プーチン氏について「かつては民衆と家庭料理を楽しむ様子などもよく伝えられたが、最近は水や紅茶、食事をとる様子も見られなくなり、食事制限を受けているとの見方もできる。2019年のG20(20カ国・地域)大阪サミットでも各国首脳が赤ワインを飲む中でマイボトルを持参したことがさまざまな憶測を呼んだ」と語る。

 今年2月にベラルーシのルカシェンコ大統領と会談した際、プーチン氏がつま先を激しく動かす動画が一時流れた。4月21日にショイグ国防相と会談した際には、机の端を強くつかんでいた。「表情は消え、ユーモアを交える発言も近年は見えない」と中村氏は分析する。

 露独立系メディア「プロエクト」は4月、高齢となったプーチン氏が医師の巨大なチームを有しているとするリポートを公表した。腫瘍外科医が4年間で35回、計166日間もプーチン氏と過ごしたとされている。

 前出のデーリー・メール紙や米紙ニューヨーク・ポストは、プーチン氏が手術を受けた場合、側近の1人、ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記が短期的にウクライナ侵攻の主導権を握る可能性があると報じた。

 パトルシェフ氏は、プーチン氏と同様、ソ連国家保安委員会(KGB)出身で、ロシア連邦保安局(FSB)長官もプーチン氏の後継として1999年から2008年まで務めた。BBC(日本語電子版)の人物評では、「大統領に対してパトルシェフ氏ほどの影響力を持つ人はわずかだ」としている。

 プーチン氏の本当の体調については分からない部分も多い。ただ、中村氏は「病状の事実関係とは別に、こうした情報が表面化すること自体がクレムリン内部の様子を示しているといえる。戦況が泥沼化するにつれて、侵攻支持派にも反発が増えているのではないか」と語る。

 3日付の英紙ザ・サン(電子版)は「ウラジーミル最後の日」と題した記事で、「ロシア軍と保安機関の幹部が、脆弱(ぜいじゃく)で病弱な専制君主の致命的な戦争への対応にますます不満を募らせている」という元米軍将官の発言を紹介した。

 また、ロシア軍が首都キーウ(キエフ)を撤退し、東部ドンバスなどに転じた作戦について、シロビキ(軍・治安機関出身者の派閥)が「重大な誤り」だと非難したとし、2年以内に取り巻きによる「宮廷クーデター」でプーチン氏が失脚する可能性もあるとする情報分析を伝えた。

 国内の混乱はウクライナ侵攻にどのような影響を与えるのか。前出の中村氏は「プーチン氏は自身の『北大西洋条約機構(NATO)を崩壊させる』という野望の達成に向けて、精神的に追い詰められている可能性がある。さらに戦況が悪化すれば、権力闘争の中で巻き返しを図ろうとする強硬派の発言力が増し、プーチン氏が権力の座から退場せざるをえない状況が生まれてくるのではないか。自身が始めた侵攻で自爆する形だ」との見解を示した。

【私の論評】プーチン後のロシアがどうなるか、またはどうなるべきか、実はそれを知る者は誰もいない(゚д゚)!

上の記事にも出てくる中村氏は別のメディアで以下のように語っています。

「最近の演説を聞くと、言葉がうまく出てこなかったり、文法を間違えてロシア語として成立しない言葉を発するなど、以前はなかった場面が見受けられる。こうしたことから、パーキンソン病に認知症を併発したとの推測も出ています」

プーチン氏は現在69歳。ロシア人男性の平均寿命は68歳で、すでにそれを超えています。平均寿命81歳の日本人男性の基準からすると、年齢以上に老化現象が進んでいてもおかしくはないです。


ロシアの平均寿命は、ソ連崩壊後に60歳を切り57.6歳になったこともあります。これは、このブログでも以前紹介したことがあります。その原因は当時の政府の経済政策の悪さも起因しています。

平均寿命の男女差が世界一大きいロシアですが、男性の短命な理由としては、ソ連崩壊からの環境の悪化やアルコール中毒での短命、自殺・インフラの老朽化による犯罪の増加と社会問題が大きく影響を及ぼしています。そのため、従来は介護の必要がそこまで大きな問題にならなかったのです。

以前このブログでも紹介したように、不況下で危険な「緊縮政策」を選択した影響で増加する死亡数は、まさに驚くべきものです。最も悲惨なのは、ソ連崩壊後のロシアで、1990年代に経済政策の失敗により数百万人の男性が死んだ(主に自殺とアルコール関連の死亡)と考えられるといいます。

しかし現在では、アルコール過剰摂取により病気や犯罪が増えないよう、大規模な「反飲酒キャンペーン」を行い、アルコール消費量が大幅に下がり、死亡率も減少しました。それにより、寿命が延び高齢者が増えたため、介護問題が視野に入ってきました。

ロシア人はウォッカを飲むせいで早死にしている!?

経済的に恵まれたプーチンはこれとは関係ないようにもみえますが、大国ロシアの独裁者として20年以上を過ごしたことが、プーチン氏の健康状態に少なからぬ影響を与えた可能性があるでしょう。

圧倒的な権力を掌握している独裁者は、いつ側近に謀反を起こされるか、いつ反対派に暗殺されるかとの不安から、孤独感や強迫観念に駆られ、緊張を強いられる生活が続きます。それを20年も続ければ、尋常ならざるストレスが溜まって強迫性神経症になるなど、精神面や身体面に不調をきたしても不思議ではなです。

一般的に70歳前後になると認知症になる人も少なくないため、判断力が鈍くなる時期に重なると言えるかもしれません。 

NATOに対する個人的な怨念と「栄光の“ソ連帝国”の復活」を夢想するプーチン氏が強行した今回の全面侵攻作戦の失敗に対し、政権内部からも「大統領の暴走が国家を危険に晒した」「我々の資産が散逸した」との不平不満が巻き起こり、やがてプーチン政権が崩壊するというシナリオは、ありそうですし、それにプーチン氏の健康不安が重なれば、ますます可能性は高そうです。

すでに「作戦失敗の張本人」とプーチン氏から追及されていると言われるFSBや、無謀な作戦で一説には将軍クラスが10人近く戦死という不名誉を受け続けている軍部、さらには欧米から貿易停止や資産凍結の制裁により深刻な経済的ダメージを受けているオリガリヒ(新興財閥)の一部などが反旗を翻すことも容易に想像できます。

ただし、これらが数カ月以内に起こるとは考えにくいです。プーチン氏の政権基盤は盤石で、しかも彼自身が旧KGB(国家保安委員会)出身でいわば元スパイ。諜報活動や裏工作、監視活動は得意中の得意で、政権内部どころか国民全体に密告制度も張りめぐらせており、個々人が疑心暗鬼の状況下で政権転覆や軍部クーデターなどは至難の業です。

それでもウクライナでの戦闘が長期化し、将兵の死者が数万人に達したり(すでに戦死者2万人以上との説も)、欧米の制裁で国民の生活がさらに困窮したりすれば「プーチン失脚」は現実のものになるかもしれないです。

いずれもにせよ、ウクライナとの戦闘が終結するか否かはプーチン氏次第ですが、当初はモスクワの赤の広場で第2次大戦の対ドイツ戦戦勝記念日を祝して毎年華々しく軍事パレードを挙行する5月9日までに、「ウクライナに対する“特別軍事作戦”大勝利」とアピールできる戦利品、つまりは“落としどころ”をプーチン氏が探しているのでは、と見られていましたが、最近では「戦勝記念日にはとらわれない」という、戦争長期化を覚悟したような意見をプーチン政権は表明するなど、ますます混迷を深めています。

そうして、なぜかメディアはポスト・プーチンを報道しません。プーチン氏の体調不調説が報道されるなら、最悪死去ということも考えられますが、その可能性について語るメディアはなぜかありません。これはどうしてなのでしょうか。

プーチン氏はかつて、エリツィン氏に代わる若く現代的な指導者のように見えました。西欧では、民主的なロシアへの期待も高まりました。しかし実際には、プーチンは、その後の20年間でロシアを中世に引き戻しました。国家と教会を1つの迫害機構の中に統合し、国民を「伝統的価値」に押し込めただけでなく、国家権力という何世紀も前の概念を復活させました。

プーチン(左)とエリツィン(右)

プーチンは昔の専制君主のように、自身は不滅だと信じているようです。ロシアに後継者育成計画や緊急時対応計画、もしくは現実には何の計画もないのはこのためです。メディアが「プーチン後」について口を閉ざす理由もここにあります。

ロシアがこれと似たような状況にあったのは、100年も昔のことではありません。スターリンが死去した後には、ロシアのニュースはしばらく途絶えました。米国の識者たちは当時、スターリンには自ら選んだ後継者がいるのか考えを巡らせていました。

しかし、スターリンの没後数年のうちに、後継者育成の計画や手続きがなかったことは明白になりました。ロシアには混乱が生じ、権力闘争が繰り返し繰り返し行われました。この限られた観点で言えば、歴史は悪くない教科書でしょう。プーチン後のロシアがどうなるか、またはどうなるべきか、それを知る者は誰もいないと考えて差し支えないでしょう。

パトルシェフ氏が一時権力を移譲されるからといって、彼がポストプーチンを担うと考えるのは、早計です。やはり、激しい権力闘争が行われるでしょう。映画『スターリンの葬送狂騒曲のような状況になることでしょう。

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2019年10月3日木曜日

プーチンの国ロシアの「ざんねんな」正体―【私の論評】将来の北方領土交渉を有利に進めるためにも、日本人はもっとロシアの実体を知るべき(゚д゚)!

プーチンの国ロシアの「ざんねんな」正体

外交官の万華鏡河東哲夫


こわもてで鳴らすプーチンだが、実は「愉快な」人かも

<独裁者が君臨するこわもてロシアの素顔は実は「ずっこけ」――この国に振り回されず、うまく付き合う方法は?>

ロシアと言うとすぐ「おそロシア」とか、もろ肌脱いだこわもてのウラジーミル・プーチン大統領といった話になるが、まじめくさった議論はもう飽きた。実はこの国の人たちはかなりずっこけた「ざんねんな」存在。ロシアを知る者には、それがまたたまらない味なのだ。

世界を席巻する人工知能(AI)やロボット技術について、プーチンの腹心である元財務相アレクセイ・クドリンは、「この開発に遅れれば、ロシアは永遠に遅れることになる」と決まり文句のように言う。奇想天外なことを考えるのが好きなロシア人だから、AIやロボットの開発には向いている。だが経営・技術要員の致命的な不足や製造技術、品質管理、サプライチェーンの遅れによって、多くはアイデア倒れに終わってしまう。

2013年には角速度センサーを逆向きに付けたため、ロケットが発射直後に反転して地上に激突した。開発中のロボットが研究所から迷い出て、大通りの真ん中でバッテリー切れになったこともあった。プーチンは「原子力で長期間、空中待機する巡航ミサイル」を造ると豪語していたが(簡単に撃墜されると思うのだが)、今年8月にはそれが開発中に爆発して技術者を5人も殺し、放射能をまき散らした。

プーチンはじめロシア政府のお歴々は口をそろえて、「いつまでも経済・財政を石油に依存していてはいけない。製造業を何とかしないとロシアはやっていけない」と言うのだが、製造業はロシアのアキレス腱であり続ける。数年前、プーチンは友人の実業家が開発した国産乗用車の試乗会に招待された。ハンドルを握る友人の隣に乗り込むプーチンは冗談半分、「おい、君。大丈夫だよね。この車バラバラにならないよね」と聞いたのだった。

プーチンは独裁者にあらず

ロシア人は契約や規則より、まず自分の都合を優先する。きちんと仕事をしてもらいたかったら、いつも電話で友情を確認し、月に1度は飲みに行くくらいでないといけない。

知識層の地金は西欧のリベラリズムだが、人間の常でロシア人も汚いところは、どうしようもなく汚い。例えばモスクワの墓地は利権の塊だ。「いい場所」は、顧客から袖の下を巻き上げる黄金の小づちでもある。今年6月には、警察幹部が絡む墓地利権の調査をしていた新聞記者が警官からポケットに麻薬を突っ込まれ、麻薬密売未遂の容疑で逮捕される事件があった。非難の声が巻き起こり、事件を仕組んだ警察幹部2人が懲戒免職になっている。

12年前のある日、ビクトル・ズプコフ首相は閣議で部下を叱り飛ばした。「サハリンの地震復興予算は既に送金したはずなのに、現地からはまだ届いていないと言ってくる。調査して是正しろ」。ところが、2カ月たっても問題は解決されなかった。どうも予算は送金の途中で、何者かによって「運用に回されて」しまうらしい。

この国では悪い意味での「個人主義」がはびこっていて、国や国民、会社や社員全体のことまで考える幹部は数えるほどもいない。多くの者にとって公共物は、自分の生活を良くするために悪用・流用するものだ。

そんなわけだから、14年3月、介入開始からわずか2週間ほどでクリミア併合の手続きが完了したとき、プーチンは冗談半分で部下に言った。「本当かい、君たち。これ本当に、われわれがやったのかね?」

プーチンはこのようなロシアにまたがる騎手のような存在だ。公安機関という強力な手綱はあるが、馬が暴れだせば簡単に放り出される。「独裁者」とは違うのだ。ドナルド・トランプ米大統領と同じく、(まがいものの)ニンジンで馬をなだめているポピュリストの指導者なのだ。

そして18年10月、年金支給年齢を5年も引き上げる法案に署名したことで、プーチンは国民の信頼を裏切った。男性の平均寿命が67歳のロシアで、年金支給を65歳から(女性は60歳から)にするというのだから無理もない。

それから1年がたち、プーチンの顔色は冴えない。老いの疲れも見える。ロシアの国威を回復しようと、家庭も犠牲にして20年間頑張ってきたのに、できたことはボリス・エリツィン時代の大混乱を収拾し、ソ連時代のようなけだるい安定を取り戻しただけ。プーチンが政権を握った00年当時に比べると、モスクワは見違えるほど美しく清潔になり、スマートフォンを活用した利便性は東京を上回るほどだ。だが、ロシアに上向きの勢いはない。24年にプーチン時代は終わるので、彼の周辺は利権と地位の確保を狙ってうごめき始めている。

2つの「ソ連」を生きる人々

プーチンはロシアを復活させるに当たって、西側の影響を受けたいわゆる「リベラル」分子を政権から遠ざけた。そのため彼の時代には、エリツィン時代に冷や飯を食わされたソ連的なエリートが復活した。彼らは昔の共産党さながらの万年与党「統一ロシア」に糾合され、その硬直した官僚主義と腐敗は国民の反発を買っている。

政権の柱である公安機関と軍も利権あさりが目に余る。今年4月には、連邦保安局(FSB)の銀行担当の複数の幹部が拘束された。銀行から賄賂を受け取って、中央銀行による免許停止措置を免れさせていたためだ。

7月にモスクワで起きた民主化要求デモをきっかけに、プーチンは公安機関への依存を強めている。約1カ月半の間に全国で3000人が一時拘束され、首謀者の自宅には深夜に公安が踏み込んで逮捕する。まるでスターリン時代のような取り締まりだ。


ロシアは高齢者が少なく、35歳以下の若い世代が人口の約半数を占める。彼らの多くは自由な西側文化に染まり、強い権利意識と上層部の汚職に対する厳しい意見を持ち、SNSの呼び掛けで集会・デモを繰り広げる。何ともちぐはぐだが、現在のロシアでは上層部と政府依存体質の大衆が「ネオ・ソ連時代」を、知識人層は「ネオ・ペレストロイカ時代」を生きている。

ロシアの歴史は繰り返す。支配と富の分配構造が固まって70年もたつと、ひずみと不満が増大して暴力的な革命が起きる。1917年のロシア革命、そして1991年のソ連崩壊がそれだ。ソ連崩壊の結果生まれた現在の構造は、今また破断する定めなのかもしれない。ただロシアの場合、革命は進歩をもたらさない。特権階級が交代するだけだ。

このような国とは、「適当」に付き合うべきだ。極東ロシアは政治・経済両面で日本にとって大きな意味を持たない。極東ロシア軍は人員、装備とも手薄で、日本の脅威ではない。北方領土は当面返さないだろうから、この問題でこちらから譲歩することは避ける。諦めて平和条約を結んでも、見返りに得られるものはない。

ロシアに反日感情はない。むしろ自らの対極とも言える日本文化、日本人に憧れている面もある。きちんとしていないロシア人に振り回されないように気を付けさえすれば、ロシアは「愉快な」相手なのだ。

<ニューズウィーク日本版2019年10月01日号:特集「2020サバイバル日本戦略」より>

【私の論評】将来の北方領土交渉を有利に進めるためにも日本人はもっとロシアの実体を知るべき(゚д゚)!

日本では、ロシアを未だにに超大国と見るむきも少なくないですが、やはり等身大にみるべきでしょう。このブログでは過去に、ロシアの実体を何度か掲載してきたことがあります。

ロシアの経済力は、現状では韓国と同程度です。韓国と同程度とは、どのくらいなのかということになりますが、詳しくはGDPを調べていただくもとして、大体東京都と同じくらいです。

東京都のGDPは日本全体の1/3くらいです。ロシアの経済の現状はこの程度です。この程度の国ができることは、経済的にも軍事的にも限られています。

さらに、人口は1億4千万人程度と、あの広大な領土に比較すると、人口では日本よりもわずかに2千万人しか多くないのです。人口密度がいかに低いのか、よく理解できると思います。

中国と国境を接する極東では、さらに人口密度が低いので、中露国境をまたいで、著しい人口密度の差があります。

この人口密度の極端な違いから、多くの中国人が国境を越境して、物販はもとより様々なビジネスを行い、まるで国境がなきがごとくの状態になっています。これを国境溶解と呼ぶ人もいるくらいです。

ただし、最近では変化も見られます。最近では、ロシア人も中国に出稼ぎにでかけるといいます。情勢は驚くほどに変化しているのです。ただ、国境溶解がより鮮明になっていることは確かです。

このように、現在のロシアは、中国ともまともに対峙できる状況ではありません。かつての中ソ国境紛争など信じられないくらいです。

とはいいながら、ロシアはソ連の核兵器と、軍事技術の直接の継承者であり、あなどることはできません。

特にICBM、SLBMなど、これは軍事技術的にはすでに米露では、数十年前から、成熟した技術であり、両国とも40年も前の核兵器が今でも現役です。

たとえば、米国防総省によると初期のフロッピーディスク規格となる8インチフロッピーディスクが未だに現役だといいます。大陸間弾道ミサイル、戦略爆撃機、空中給油・支援機など一連の核兵器を運用、調整する指揮統制系統だとしており、現場では今から40年前に発売された1976年「IBMシリーズ/1」や当時普及し始めていた8インチフロッピーディスクが運用に用いられているといいます(2017年現在)。

弾道ミサイル発射管制センターで撮影された写真。8インチフロッピーディスクが使用されている

ロシアでも同じ状況です。ソ連時代に開発された、核兵器が未だに現役なのです。それを考えると、確かに軍事的には未だにロシアは侮れない相手であるのは確かです。

とは、いいながら、ICBMやSLBMなどは、実際にはなかなか使用できない兵器であるのも確かです。しかし、ソ連時代の軍事技術を継承したロシアはいまでも、軍事的には侮れないことは確かですが、経済的には見る影もありません。

考えてみてください、仮に東京都が日本から独立して、軍事国家に豹変したとして、世界に向かってどの程度のことができるでしょうか。米国あたりが本気になれば、あっという間に潰されます。さらに、将来的にも経済が伸びる要素はほとんどありません。今のロシアはまさにそのような状況なのです。

経済的にみても、プーチンの国ロシアは、まさに「ざんねんな」国なのです。この、ずっこけた「ざんねんな」ロシアと付き合うには、たしかにもっと鷹揚に構えたほうが良いのかもしれません。

日本では目を疑う熊の散歩もロシアでは日常風景の一つ

北方領土交渉についても、このブログにも過去に掲載しているように、現在帰ってこないからといって、慌てる必要は全くないと思います。

中国が経済的に弱体化してくれば、今は表面化していない、ロシアの中国に対する不満が爆発します。そうなると、過去の中ソ対立のように、中露対決が再現することになります。

経済的に弱体化した中露が激しく対立すれば、ますますロシアの経済力は落ち込みます。そのときこそ、日本は北方領土交渉を強力に推し進めるべきなのです。今は鷹揚にかまえるべきです。とはいいながら、北方領土に関しては、ロシアに一切譲歩すべきではありません。

日本としては対ロシアでは、北方領土が最重要ですが、その他では、経済的にも技術的にもロシアに頼ることはないです。北方領土以外はもっと鷹揚に構えてつきあって行くべきと思います。

ただし、ロシアというと、日本人は強面の「おそロシア」を思い浮かべたり、ロシアマフイアの凄惨さを思い浮かべたり、第二次世界大戦末期や、その後の日本に対する卑劣極まる振る舞いが忘れられない面もあります。確かに、ロシアにはそういう一面はあります。かといつて、それが全部というわけでもありません。

北方領土交渉を将来日本に有利にすすめるためにも、日本人はもっとロシアの実体を知るべきと思います。少なくとも、かつてのソ連時代の超大国のイメージは早々に捨て去るべきです。

北方領土は、一昔前なら戦争して取り返すしかありませんでした。しかし、現在では戦争に変わる方法もありますが、一昔前の戦争と同じくらいの、気構えと機知がないと到底叶うものではありません。それを実行するためにも、現在のロシアを熟知する必要があるのです。

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2014年2月9日日曜日

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日本選手団の入場行進時に、地面に映し出された日本、
地図の北海道周辺。雲のようなもので北方領土は見えない

【モスクワ=遠藤良介】ソチ五輪開幕式に合わせた安倍晋三首相の訪露はロシアで好感されている。ただ、プーチン大統領は6日、ソチを訪れた各国首脳の中で最初に中国の習近平国家主席と会談しており、日中両国を天秤(てんびん)にかけて国益の最大化を図る姿勢が鮮明だ。北方領土問題では、露外務省が日本側の受け入れられない歴史認識を振りかざし、日本に「譲歩」を迫る構図となっている。プーチン政権は「愛国主義」による支持基盤強化に動いてもおり、領土交渉を大胆に動かせる状況にはない。

中国国営新華社通信によると、プーチン氏は6日の中露首脳会談で「日本の軍国主義による中国などアジア被害国に対する重大な犯罪行為を忘れることはできない」と述べ、2015年に予定される戦勝70周年の記念行事を共同開催する考えを示した。ただ、露主要メディアはこの内容を報じておらず、日本を刺激することを避けたい政権の意向があったもようだ。

プーチン氏は中国との友好関係を最重要と認識しつつ、日本との関係改善によって中国を牽制(けんせい)し、課題の極東・東シベリア開発にも日本の協力を得たい考えだ。北方領土問題については、「平和条約の締結後に色丹、歯舞を引き渡す」とした日ソ共同宣言(1956年)を軸に解決する考えを変えていないとされる。

昨年の領土交渉再開以降、ロシア側は「第二次大戦の結果として四島はロシア領だ。これを認めねば交渉は始まらない」との立場を突きつけ、国連憲章の旧敵国条項まで持ち出して北方四島の領有を正当化してきた。ロシア側の歴史認識を強硬に打ち出し、日本に「政治決着」という名の譲歩を要求している形だ。

プーチン氏の支持率は長期的な低落傾向で、経済の見通しも暗い。国内向けに領土問題での「弱腰」は見せられない状況だ。政権は公務員や国営企業従業員、地方住民といった層の支持を固め直そうと、保守路線を鮮明にしてもいる。「大戦での勝利」を強調し、旧ソ連時代を美化する「愛国主義」はその中核をなす要素といえ、日本側の歴史認識は容認できない。

【私の論評】小国ロシアの外交に学ぼう!!だが、インド・アセアン諸国と中国とを両天秤にかけて見せた安倍総理の外交手腕のほうが凄いかも!


11だけが、現在のロシア連邦、それ以外はソ連崩壊後独立。
1.アルメニア、2.アゼルバイジャン、3.ベラルーシ、4.エストニア、
5.グルジア、6.カザフスタン、7.キルギス、8.ラトビア、9.リトアニア、
10.モルドバ、11.ロシア、12.タジキスタン、
13.トルクメニスタン、14.ウクライナ、15.ウズベキスタン


このいきなり小国ロシアというタイトルには、驚くかたもいらっしゃるかもしれません。しかし、現在のロシアはその表現がぴたりと当てはまります。ソ連のときには、確かに大国であった時期もあるのですが、冷戦構造によるアメリカとの軍拡競争に敗れ、国内の経済・社会がなおざりになり、それが直接の引き金となって、ソビエト崩壊後のロシアは、まさに発展途上国のような状況でした。

それをプーチンらが努力して、何とか経済をまともにして、現在に至っているロシアは、新興国といっても良い状況で、もはや大国ではありません。経済的にも、軍事的にも小国に過ぎません。軍事的には、まだ大国と見る向きもあるようですが、実際はそうではありません。ただ、過去のロシアのときの、核兵器などをそのまま継承しているため、未だ多くの人々が大国扱いしているだけですす。

これらの核兵器もいずれ耐用年数を過ぎます。そのときも、ロシアが核大国でいられるのか、はなはだ疑問です。いずれこの方面でも、このままでは中国・インドなどにとって変られる可能性も大です。ただし、それまでには、まだまだ長い期間がありますし、大量の核兵器に用いる、核物質を所有していることだけは事実です。であれは、核拡散防止条約など無視して、核物質を売りさばくような国になるかもしれません。そうなれば、まさに、犯罪大国になるかもしれません。

このブログでは、以前も現代ロシアの小国ぶりについて掲載したことがあります。その記事のURLを以下に掲載します。
旧ソ連と同じ罠にはまった中国、米国の仕掛けた軍拡競争で体力消耗―露メディア―【私の論評】ロシアの弱体化を吐露する記事、中国を封じ込めることと引き換えにロシアとの領土交渉を!!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にロシアの小国ぶりの部分のみをコピペさせていただきます。
このブログには、以前ロシアの声というサイトについて掲載したことがあります。そのときにも、掲載しましたが、ロシア人口は、日本の1億二千万と比較して、わずか、二千万ほど多い、1億4千万ほどにすぎません。さらに、その中の支配階層である、ロシア人といえば、多民族も存在するため、単一民族の日本人よりも少ないです。 
そうして、無論のことは中国とは陸続きです。ロシアは、中国に対しては、昔から、何か領土問題や、利益が衝突するがあったときには、強大軍事力を駆使して、中国をやり込め、譲歩することはほとんどありませんでした。そうして、中国もロシアの強大な軍事力の背景があるため、一方的に押されてきたといのが、今日までの姿です。 
 
さて、上の記事では、米国のアジア及び中東におけるミサイル防衛システムの構成について公開したとありますが、アメリカは、冒頭の図のように、7重にも及ぶ多層的なミサイル防衛網を構築しています。米国ミサイル防衛システムそのものの詳細については、こちらを参照してください。 
これを公表するということは、中国のミサイル封じ込めに、成功したか、成功しつつあるということであり、中国にとっては、かなりの脅威となるものと思われます。 
 
これに関して、なぜロシアが上記のような報道をするかといえば、やはり、ロシア自体が、かなり中国の最近の軍拡に脅威を感じているということにほかなりません。 
陸続きで、ロシア全土をあわせてですら、10倍以上の人口を持つ仮想敵国が陸地を接して存在しているということですから、いつも潜在的に脅威にさらされているわけです。 

 
であれば、このようなニュースは、ロシアにとっても好都合であり、利用できるものはなんでも利用して、中国の脅威を削ごうとの意図があるものと見えます。 
しかし、アジアや中東に配置した、ミサイル防衛システムは、あくまでも、アメリカ本土防衛のためのものであり、まかりまちがって、中国のミサイルがロシアを目指しても、それを打落す仕組みにはなっていません。 

 
であれば、ロシアにとては、相変わらず、何も変わらないわけで、ロシアも独自でミサイル防衛網をきずかなければならないということです。しかし、それは、なかなか難しいのかもしれません。だから、上記で軍拡競争という言葉がでてくるのだと思います。現ロシアは、軍拡競争には巻き込まれていないということを誇示したいのだと思います。 
でも、これは、本当の誇示になるのでしょうか、もともと自国の原潜の処理も自国で行えないロシアは、国家として無責任な国です。 
 
それもそのはずです。実は一作昨年、ロシアのGDPは、とうとうブラジルとインドに抜かれてしまい、世界10以内から滑り落ちてしまいました。 
現在、ロシアのGDPは日本の3分の1以下なのです。日露戦争の頃は、ロシアのGDPは日本の8倍でした。100年間(正確には80年間)で日露の国力は大逆転したのです。

 2010年各国のGDP
1、アメリカ
2、中国
3.日本   5兆4500億ドル
4、ドイツ
5、フランス
6、イギリス
7、ブラジル
8、イタリア
9、カナダ
10、インド

・ ロシア  1兆4650億ドル
こんな国が、アメリカなみの、ミサイル防衛網など、構築できるわけがありません。それから、中国が世界第二位の経済大国になったのは、日本のおかげでもあります。それは、このブログに、何回か掲載してきたことですが、日銀が、いつまでも、執拗に増刷拒否など金融引締めをするものですから、固定相場制の中国は、自国の元を好きなだけ、擦りまししても、日本の円が担保となり、インフレを免れてきたということです。しかし、それも、最近では、効き目がなくなりつつあります。日本銀行がまともになったら、中国は、あっという間に、経済大国の座からすべり落ちることでしょう。
ロシアの弱体化は明らかです。現状の小国ロシアに領土問題などで譲歩する必要など全くありません。日本は、日本銀行に金融引締めをやめさせ、円高誘導をやめさせ、また、世界第二位の経済大国に返り咲くべきです。それに、いますぐするしないは、別にして、核武装の論議をはじめるべきです。それだけで、ロシア、中国、北朝鮮はかなり脅威に感じることでしょう。
さて次に、日本がロシアから学ぶぺき外交姿勢をあげてみます。どこの国々でも、隣どおしの国々は、仲が悪いのが普通です。世界で最も平和な国境はおそらく、アメリカとカナダの国境です。ここは、両国の間を自由に行き来できます。国境紛争などもありません。こんな、平和な国境はここくらいなものです。

中国とロシアも例外なく仲はあまり良いとはいえません。長年、国境紛争が絶えなかったのですが、数年前に中国の一方的な譲歩によって、解決しました。しかし、これは、どこの国でも同じことです。陸地でも、海でも、国境接している隣国とは仲が悪いというのは、普通のことです。この国境紛争も実は、ソ連時代から何度もあったことなのですが、ソ連時代ではなく、ロシアになってから解決しています。それも、その条件たるや、ロシアの一方的な要求に完璧に屈した形のもので、これは、中国国内ではほとんど報道していませんが、これを知ったら中国人民もかなり怒るであろうような内容です。

現在のロシアは、ソ連の最盛期と比較すれば、単なる小国に過ぎないのですが、ロシアのプーチンは、国境紛争でも一度たりとも、譲歩も妥協することなく、いつでも対決する姿勢を鮮明に打ち出していました。どこまでも、強面ロシアの体制を崩すことはしませんでした。それにしても、すでに小国になったロシアとはいえ、核兵器は持っているし、軍隊の練度なども落ちたとはいえ、中国よりはまともですから、全く妥協するつもりも、その素振りも観せませんでしたし、今でもそうです。だから、中国は今でもロシアに対しては日本に対するような強行姿勢はみせたことがありません。

イヌ好きのプーチン大統領、手前は24年に、秋田県の佐竹敬久知事が大統領に贈った秋田犬「ゆめ」


それから、さらに数年後、中国の漁船がロシアの港湾にロシア側が臨検するので、停泊するようにと命令していたにもかかわらず、逃げ出したため、ロシア側は機銃掃射しました。その結果、中国漁船には多数の死傷者が出たのですが、それでも、中国側は、非難するようなことは全くありませんでした。ましてや、これをきっかけに戦争に持ち込むなどということなど、考えも及ばなかったようです。

これだけ、強行姿勢を貫き、もし実際に軍事行動でもおこせば、プーチンは、今でも完膚なきまでに中国を徹底的に攻撃することでしょう。こうした、姿勢の国には、中国は手も足も出ないようです。今や小国であるロシアに対してもこの有り様です。

では、日本だってロシアのように中国に接したら、中国もロシアに対するように日本にも低姿勢になるとは思いませんか。私は、そう思います。

日本の歴代の政権は、そんなことは及びもつかず、まるで腫れ物にでも触るように、中国に対応してきました。だから、中国は増長したのです。

民主党政権のときも、中国に対しては及び腰過ぎましたし、このブログにも最近掲載しているように、オバマ政権もかなり及び腰でした。この日米の反応をみた中国は、増長してしまったのです。だから、尖閣や南シナ海のように中国の挑発を招いてしまったのです。

これが、ロシアのようにソ連時代から一環して、中国に対する強行姿勢を崩していないとか、少なくともブッシュ政権時代のような対決姿勢を崩さなければ、今日のように中国は増長していなかったことでしょう。

しかし、安倍政権になってからは、風向きが変わりつつあります。プーチン大統領は、中国と日本を両天秤にかけるような行動をしていますが、安部総理はそれどろか、安全保障のダイヤモンドという構想をぶちあげて、両天秤どころか、インド、アセアン諸国、モンゴル、ロシアなどを矢継ぎ早に電撃訪問をして、対中国包囲網を着々と整えつつあります。

そうして、それには、ロシアのプーチン大統領も、大きな関心を持っています。自分が対中国強行姿勢を貫いた経験から、安部総理もそれに近いことを考えていることを見抜いているものと思います。それに、プーチンは中国はいずれかつてのソ連のように崩壊するものと睨んでいると思います。

また、韓国に関しては、プーチンははなから相手にしていません。これは、このブログでも紹介した子どかありますので、以下にその記事のURLを掲載します。
プーチン氏 韓国告げ口外交に不満持ち露韓首脳会談に遅刻か―【私の論評】反日やっても、何も変わらず!ますます、韓国の国際的地位を弱め、国内では不満を高めるだけ、韓国はやるべきことをやれ(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、プーチンは露韓首脳会談にわざと遅刻して、韓国などはなから眼中にないことをはっきりと示したのです。これに対して、朴槿恵や韓国マスコミが露骨に批判したかといえば、今のところそのようなことはありません。

ロシアのプーチンからすれば、韓国など全くとるに足りない国であるということを身を持って示したということだと思います。なにしろ、韓国はそもそも、一度も外国とまともに戦争をして勝ったこともありません。日露戦争で負けた日本とは違います。人口も六千万ほどしかない国であり、これは日本の半分です。それに経済的に見てもとるに足りない国です。韓国のGDPは日本の一都市である東京のGDPくらいしかありません。

狩りをするプーチン。国内でも、強面を演出?

このように、ロシアは中国に対して強行姿勢を貫き、韓国には一見非礼なことをしてまでも、無関心であることを相手に知らしめています。これは、本当に日本も見習うべきと思います。こんなプーチンですから、日本と中国とを両天秤にかけるようなことは朝飯前です。それにしても、小国になってからも、大国に近いような外交スタンスを崩さず、押しまくるプーチンは凄いです。

しかし、本当は安部総理の外交手腕のほうが、凄いかもしれません。なぜなら、安部総理の外交は、それ以前の民主党の及び腰外交というマイナスの外交から始まっているからです。私は、安部総理も中韓などに対しては、いずれロシアのように強硬路線で臨もうとしてるのと思います。今は、その序章に過ぎないと思います。

いずれ、強行路線をとることを前提として、今はその下準備として様々国々を歴訪して、安全保証のダイヤモンドを固めようとしているのだと思います。そうして、このブログにも掲載しているように、ノータッチのタッチと、いざというときに、強硬路線をとるという外交姿勢を構築するために、今は着々と実績を積み上げているのだと思います。それは、今や小国に過ぎないロシアのプーチンが一番良く知っているかもしれません。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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2021年9月20日月曜日

米露関係の焦点となるウクライナ―【私の論評】NATOと直接対峙できないプーチンは、ウクライナに対して呼びかけをして機会を探りはじめた(゚д゚)!

米露関係の焦点となるウクライナ

岡崎研究所

 ウクライナのゼレンスキーは大統領当選後、ホワイトハウスで米大統領と会談することを求めてきたが、これが9月1日にようやく実現した。会談は2時間行われたという。

 ウクライナ側は、バイデン大統領はロシアに迎合しウクライナを軽視しているのではないかとの懸念を抱いて来た。6月に行われた米ロ首脳会談は、米政権は2014年のロシアのウクライナのドンバスへの侵攻を軽く扱っているとのウクライナの批判や懸念を招いた。7月にバイデンがメルケルと取り引きを行い、ノルドストリーム2パイプラインへの反対を取り下げた決定も同様である。


 バイデンは今回の会談で、米国の「ウクライナの主権擁護への強固な約束とロシアの〝侵略〟への反対」を打ち出し、ウクライナを安心させようとした。バイデンは、ウクライナに対する6000万ドルの安全保障支援パッケージを発表し、ペンタゴンは黒海での安全保障、サイバー安全保障、情報共有についての協力を推し進める「戦略的防衛枠組み」に署名した。

 ゼレンスキーは、訪米前に米国がウクライナのNATO加盟についてイエスかノーかの回答をバイデンより得たいとメディアに述べていたが、NATO加盟問題について米国より明確な回答は無かった模様である。ウクライナのNATO加盟は米国が単独で決められる問題ではなく、今や30か国になったNATO同盟国の全会一致で決められるべき問題であるので、ゼレンスキーの要求は過剰な要求であったように思われる。

 ホワイトハウスのサキ報道官は記者会見で「米国はウクライナのNATO加盟願望を支持しているが、そのためにウクライナにはしなければならない行動がある、ウクライナはそれが何であるかを知っている。その行動とは法の支配の前進努力、防衛産業の近代化、経済成長の拡大である」と指摘し、「(加盟希望国が)加盟国の義務を履行できるようになり、欧州大西洋地域の安全に貢献できる時のためにNATO参加の扉を開いたままにしておくことを支持している」と述べた。

 NATO加盟問題については、進展はなかったが、上述の通り、ウクライナに対する武器供与については6000万ドルの安全保障支援パッケージが合意されたこと、バイデンからウクライナの主権と領土一体性を守る米のコミットメントは「鉄の装甲のように固い」との発言を引き出したことは、ウクライナ側にとり歓迎できることであったと思われる。

行動指針を示したとも言えるプーチンの論文

 米中対立では台湾が今後焦点になるが、欧州における米ロ関係では、今後ウクライナが焦点になる可能性が最も高いと思われる。 

 本年7月21日にプーチンは自ら「ロシア人とウクライナ人の歴史的統一について」という論文を発表している。要するに、ロシア人とウクライナ人は同じ民族であるとする主張である。これをプロパガンダと片づける人も多いが、プーチンの今後の政策、行動方針を示したものと言う人もある。後者のごとくみなして、警戒していく事が正解ではないかと考えられる。

 今年の4月、ロシアはクリミアや東部ウクライナの国境近くに10万以上の兵力を演習と称して展開、ウクライナに威圧を加えた。バイデンがプーチンとの首脳会談を持ち掛けたのはこの緊張の緩和をも狙ったものであった。ロシアはこの兵力は撤収させたが、ウクライナ側はいつでもロシアは兵力展開ができる状況が続いているとしている。ウクライナ問題はかなり大きな影響を世界情勢に与える問題であり、注視する必要がある。

【私の論評】NATOと直接対峙できないプーチンは、ウクライナに対して呼びかけをして機会を探りはじめた(゚д゚)!

上の記事で、プーチンが論文を書いたことが示されています。プーチン大統領は元々節目節目で「論文」を発表する人です。もちろんそれは学術的な意味での論文ではないですが、プーチン氏の政見がうかがえるという意味で興味深くはあります。

その先駆けとなったのが、まだ首相だった1999年12月30日に発表した「千年紀の狭間におけるロシア」という論文でした。


その翌日、エリツィン大統領が電撃的に辞任し、プーチン氏は大統領代行に就任して、名実ともにロシアの最高権力者となりました。


プーチン氏


2012年3月の大統領選挙前には「論文攻勢」を仕掛けたこともありました。2012年に入ると、プーチン首相(当時)は実質的に自らの選挙綱領に相当する一連の論文を新聞紙上で次々と発表しました。週1本のペースで発表された論文は計7本に上りました。


このように、何か事を起そうという時にまず「論文」を発表して、自らのビジョンを示して見せるというのがプーチン流なのです。


そうして、2021年7月12日付の大統領の署名による「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」というタイトルの論文がクレムリンのHPに掲載されました。

ちなみに、ウクライナ国民の感情に配慮したのか、ロシア語に加え、ウクライナ語のテキストも添えられています。

以下に、論文の主要点を掲載します。
近年、ロシアとウクライナの間に出現した壁を、私は大きな共通の不幸、悲劇として認識している。それは、様々な時期に我々自身が犯した過ちの結果ではある。

しかし、我々の統一性を常に損ねようとしてきた勢力が意図的にもたらした結果でもあった。

今日のウクライナは、完全にソ連時代の産物である。ウクライナは多分に、「歴史的なロシア」を損なう形で形成された。「歴史的なロシア」は、ソビエト政権の下で、実質的に簒奪されたのである。

ウクライナ人が独立した民族だという概念を強化する上で決定的な役割を果たしたのは、ソ連当局だった。

まさにソ連の民族政策によって、大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人からなる三位一体のロシア民族に代わり、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人という3つの個別のスラヴ民族が、国家レベルで固定化されたのである。

ソ連が崩壊した時、新生ロシアは新たな地政学的現実を受け入れた。それのみならず、ウクライナが独立国としてやっていけるよう、困難な1990年代にも、2000年以降も、ウクライナに巨額の支援を行ってきた。

1991~2013年に、天然ガスの値引きだけでも、ウクライナの国庫は820億ドル以上を節約できた。ウクライナ当局は、今日でもロシアから年間15億ドルのガス・トランジット収入を得ることに汲々(きゅうきゅう)としている。

ロシアとの正常な経済関係が維持されれば、ウクライナはその経済効果で年間数百億ドルを期待できたはずなのだが。

ウクライナとロシアは、数十年、数百年と、単一の経済システムとして発展してきた。30年前の協力関係の深さはEU諸国が羨むほどのものだった。

両国は、自然かつ補完的な経済パートナーである。緊密な関係は、お互いの競争力を強化し、両国の潜在能力を数倍にも発揮することを可能とする。

ウクライナには、大きな経済的ポテンシャルがあった。ソ連から遺産を継承したウクライナの指導者たちは「ウクライナの経済はヨーロッパでトップレベルになり、国民は最も高い生活水準を享受できるようになる」と約束した。

ところが、かつてウクライナとソ連全体が誇りとしたハイテク巨大企業は、今日では休眠している。過去10年間で機械産業の生産は42%減少した。過去30年間で発電量がほぼ半減していることからも、工業の衰退と経済全体の劣化の程がうかがえる。

IMFによると、2019年のウクライナの一人当たりGDPは4,000ドルを下回っており、ウクライナは欧州最貧国となっている。こうした状況に責任があるのはウクライナ国民ではなく、権力者である。

ウクライナは欧米によって危険な地政学的ゲームに引き込まれていった。その目的はウクライナをヨーロッパとロシアを隔てる障壁にし、またロシアに対する橋頭堡にすることだった。

ウクライナには、ロシアとの提携を支持する人々が数百万人もいるが、彼らは自分たちの立場を守る法的な機会を実質的に奪われている。彼らは脅迫され、地下に追いやられている。 ロシアはウクライナとの対話に前向きで、複雑な問題を議論する用意がある。

私は、ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップによってのみ可能であると確信している。ともにあれば、これまでも、そしてこれからも、何倍も強く、成功するはずだ。結局、我々は一つの民族なのだから。
ロシア大統領府公式サイト
論文の中でプーチン氏は、ロシア人とは異なるウクライナ人の民族的独自性を否定するようなことを述べています。プーチン氏は以前もそのような主張を唱えていました。

さらに、ロシア人という包括的な民族があり、大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人の三つはその支族であったという定式は、ロシアにおける伝統的な民族観を踏襲したものに過ぎません。

2010年に行われた意識調査によると、ロシア人とウクライナ人が単一の民族だと認識しているのは、ロシア側では47.1%、ウクライナ側では48.3%だったといいます。

そのため、今回プーチン氏がロシア人とウクライナ人がもともとは民族的に同一と述べたからと言って、特別新奇な問題発言というわけではありません。

ロシアの人口は200近くの異なる民族で構成されており、その中には200万~300万人のウクライナ人も含まれています。ウクライナ人とベラルーシ人は、ロシアの他の少数民族よりも文化的にロシア人に近いです。

ロシア人はウクライナの人口の17%を占めており、ロシアの文化はウクライナの文化の一部であることを意味しています。

とはいえ、いくつかの違いはありますが、それは対照的と言うよりかは連続的なものです。ウクライナ東部と南部に住むウクライナ人はロシア人とほとんど区別がつかないのに対し、ウクライナ西部のウクライナ人は文化的にはかなり違っています。

最も明白な違いは言語です。ウクライナ人のほぼ全員がロシア語を話しますが、家庭でロシア語を使うのは半数にすぎず、ロシア語を母国語としているのは30~50%にすぎません。ウクライナの西部地域では、ウクライナ語が主流です。

もう一つの違いは宗教です。ロシア人のほぼすべての民族はロシア正教の信奉者であり、特にウクライナの東部や南部のウクライナ人の大多数も同様です。しかし、ウクライナ西部ではカトリックの信者が多く、プロテスタント/福音主義者の数はロシアよりも多いです。

政治的には、強権国家を支持するロシア人よりも、無政府主義的な態度をとるウクライナ人の方が多いのではないでしょうか。また、現時点では、ウクライナ人はロシア人よりも西欧に対して好意的な態度を取っています。

しかし、ウクライナでも時代とともに独自の民族理念が浸透し、2014年の政変以降はそれがさらに強まっています。

ウクライナ領クリミアを一方的に併合し、東ウクライナ・ドンバス地方に戦乱をもたらした張本人のプーチン氏が、ロシア人とウクライナ人は同一民族というようなことを述べれば、多くのウクライナ国民が不快に感じるのは必至です。

そもそも、プーチン氏はなぜこのタイミングで、確実に物議をかもすであろう論文を発表したのでしょうか。

ロシアの専門家による分析の中で、には確かにプーチンは今回ロシア人とウクライナ人の民族的一体性を強調してみせたのですが、だからと言ってそれを根拠にプーチン政権がウクライナに対し、新たに侵略的な政策を発動することは考えにくいという指摘がありました。

今年に入ってから、ロシアが対ウクライナ国境に兵力を集結させるなどして、ドンバス情勢が緊迫化した経緯がありました。

ウクライナのドンバスの位置 色が濃い部分

しかし、強硬姿勢が思うような効果を挙げなかったため、プーチン政権としては対ウクライナおよびドンバス政策を仕切り直そうとしており、その一環としてプーチン氏は「論文」という形でロシアの立場を改めて明確化しておくことにしたのでしょう。

今回のプーチン論文をウクライナ国民がどのように受け止めているかを調べた世論調査の類は、まだ発表されていないようです。

そのため、ウクライナ国民の反応については推測するしかないのですが、今のところプーチン論文がウクライナ国民の意識を大きく変えることはないのではないようです。ウクライナの人々は、プーチン体制のロシアに対する態度を、すでに固めているからです。

ウクライナ国民の多数派は、2014年にプーチン政権が行ったクリミア併合・ドンバス介入という仕打ちを許していません。今さら、プーチン氏がロシア人とウクライナ人の民族的一体性をアピールしたところで、「なるほど、ではロシアをパートナーに選ぼう」ということにはならないでしょう。

もちろん、プーチン論文はロシア国民の琴線には触れるところがあり、プーチン政権が対ウクライナ政策を国内向けに正当化するという意味はあるでしょう。

ちなみに、プーチン論文へのコメントを求められたゼレンスキー・ウクライナ大統領は、ロシアの我が国に対する態度は真に兄弟的なものとは言えず、むしろ「カインとアベルの関係を思わせる」と指摘しました。

カインとアベルは、旧約聖書に登場するアダムとイヴの息子たちのことであり、兄がカイン、弟がアベルである。旧約聖書によれば、カインがアベルを殺してしまい、これが人類初の殺人で、さらにそのことについてカインが白を切ろうとしたことが、人類初の嘘であったとされています。

ゼレンスキー・ウクライナ大統領

ロシアは面積こそ世界一ですが、人口は約1億4000万で日本をわずかに上回る程度です。経済規模は日本の3分の1以下、米国の10分の1以下で、世界で12位。G7各国はもちろん、韓国をも下回ります。そんな国がなぜ大統領選への介入疑惑で米国をゆさぶり、中東や朝鮮半島情勢で発言権を確保できるのでしょうか。

まずは、ロシアは旧ソ連の核や軍事技術を直接継承した国であるということです。GDPが低下したからといって、この点は侮れないところがあります。さらに、それだげてはありません。

力の源泉をたどっていくと、やはり石油と天然ガスです。

この10年ほど、ロシアが戦略的に進めてきたのがアジア・太平洋方面への輸出の拡大です。日本も石油・天然ガスともに1割近くを依存。欧米からの制裁が、「東方シフト」をさらに後押ししています。


北極方面からロシアの地図を眺めると、旧ソ連時代に建設された欧州方面へのパイプラインに加えて、中国や太平洋に向けて、両腕を広げるようにパイプラインの建設が進んでいることがわかります。


欧州の命綱を握っているという自信が、国際的に孤立しても強気の姿勢を崩さない理由のひとつでしょう。さらに、どこにでも運べるLNGの生産能力を高めていくことがロシアの戦略です。


ところが、石油・天然ガスは、ロシアのアキレス腱でもあります。1991年のソ連崩壊は、85年から86年にかけて起きた原油価格の急落が引き金を引いたと指摘されています。エリツィン政権時代も安値が続き、98年には債務不履行(デフォルト)に追い込まれました。


それが、2000年のプーチン政権の誕生と機を同じくして価格は上昇に転じ、ロシアは瞬く間に債務国から債権国に。ところが、その後もリーマン・ショックなどによる原油価格下落のたびに、ロシア経済は大きく揺らぎました。


米国発のシェールガス革命は、天然ガスでのロシアの独占的な立場を脅かしています。頼みの「東方シフト」の先行きも不透明です。輸出先として期待する中国は中央アジア諸国からも輸入しており、ロシアの資源を安く買おうと揺さぶりをかけます。石油とガスは、ロシアにとって諸刃の剣になっています。


軍事技術は別にして、その他は、石油・ガスだけが、一次産品のロシアの原動力であることから、これから急激に発展する可能性は全くありません。


ロシアは、米国を除いたNATOさえ対峙できないでしょう。たとえば、ウクライナを巡ってロシアがNATOと戦争にでもなった場合、初戦においては、最新の軍事技術を用いたり、石油天然ガスをとめるなどで、大きな成果をおさめるかもしれません。


しかし、その後戦争が長引けば、NATO諸国は同盟国の力も借りることができるのて、反転攻勢にでるでしょう。


ロシアは、元々GDPが低迷していることと、他国からの援助もなく、兵站を維持できなくなるでしょう。食料・弾薬などが尽きて、お手上げになります。そうなれば、多くの兵士は自国内に敗走するしかなくなります。そうして、兵站にすぐれたNATO加盟国は追撃戦に入り、ロシア国内にまで入り込むことになるでしょう。


これが、現在のロシアの実力です。ロシアはもはや超大国ではないどころか、EUなどと比較すれば、貧しい国なのです。そのようなことはわかりきったことなので、プーチンとしては、NATO諸国と事を構えることはできないので、ウクライナに対して呼びかけをして、機会を探るという戦略に出たのでしょう。


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