2019年2月5日火曜日

統計不正も実質賃金も「アベガー」蓮舫さんの妄執に為す術なし?―【私の論評】虚妄に凝り固まる立憲民主党が主張する経済政策を実行すれば、今の韓国のように雇用が激減するだけ(゚д゚)!

統計不正も実質賃金も「アベガー」蓮舫さんの妄執に為す術なし?


田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 厚生労働省の毎月勤労統計を巡る不正問題に関して、ワイドショーなどでは相変わらず「低レベル」と言っていい報道が続いている。

 毎月勤労統計の不正問題自体は、国の基幹統計と言われる賃金水準の実態を正確に捉えることを怠った問題であり、厚労省の官僚たちを法的に厳しく処罰すべき問題であろう。

 また、厚労省が設置した「特別監察委員会」に関するずさんな対応については、これはデータ不正そのものを生み出した厚労省の「自己都合」で、国民の関心をないがしろにする行為として批判すべき問題である。ただし、どの程度のデータ不正かと言えば、報道や野党、そして一部の識者からは、安倍晋三政権批判の思惑が「ダダ漏れ」で、そのため過度に誇張されたものになっている。

 筆者の周囲でも、ワイドショーから情報を仕入れた人が「統計不正は大変な問題ですね。安倍政権の責任は大きいですね」と尋ねてきた。そこで筆者は、統計の全数調査を怠ったことは重大な「犯罪」だが、抽出調査自体は統計的には適切に実施し、法規に従えば特に大きな問題ではないことを説明した。

 その上で、安倍政権のはるか前から続いていた話が、安倍政権で発覚したに過ぎないことを指摘した。ついでに「ワイドショーなどを見て、その報道につられて、安倍政権が悪いように誤解する見識のない人が増えて、テレビに振り回されていて、かわいそうだ」と返したら、やはりご本人に思い当たることがあるのか、顔色を変えてにらまれてしまった。

 この例でも分かるように、安倍政権の長期化に伴い、これまたテレビの影響で「長く続くからダメ」というような、事実に立脚しないイメージ批判が蔓延(まんえん)している。そのせいで、ワイドショーなどの報道を鵜呑みにする人たちや、何でもかんでも安倍政権のせいにする人たちを、私の周りから遠ざけてしまうことになった。ただでさえ「友達」が少ないから、安倍政権の長期化は困ったものである。



厚生労働省が入る東京・霞が関の中央合同庁舎

 統計調査不正を利用して、安倍政権の経済政策の成果を不当に貶(おとし)める発言も実に多い。別に安倍政権を特に持ち上げる必要はない。だが、安倍政権の経済政策が、雇用面で大きな成果を挙げたことは否定できない事実である。

 マスコミや野党、反安倍的な識者には、この成果を否定したい思惑が広がっていて、それは事実の否定さえも伴っている。確かに、統計不正はいわば事実をないがしろにする行為だ。だが、批判している野党やワイドショーなどのマスコミがまさに雇用改善の事実をないがしろにしているとしたら、悲劇を超えて「喜劇」ですらある。

 例えば、立憲民主党の蓮舫副代表はツイッター上で次のように述べている。

 「アベノミクスの成果の根拠として、去年6月に前年比3・3%としていた賃金上昇率の伸び率が、実は1・4%だった。実質賃金の伸び率で比較すると、2%が実は0・6%と推計されました。昨年1月から11月の平均は、マイナス0・5ではないかと推計もされます。野党ヒアリングで厚労省はおおむね認める発言をしました」

 まず、安倍首相自ら国会で説明している通り、アベノミクスはその成果の根拠としても、政策目的としても、実質賃金の伸び率を重視したことはない。蓮舫氏はこの点で事実誤認している。

 さらに、前年比での実質賃金の伸び率がマイナスなのは、単に17年が18年よりも実質賃金の「水準」が高かったからである。しかも、アベノミクス期間中の賃金指数を、不正データと修正データとを比べると、むしろ上昇している。都合の悪いデータを隠すことは十分考えられるが、都合のいいデータを隠す意図は、さすがに政権側にはないと考えるのが常識的だ。

 もちろん、強固な反安倍主義者の中には、それでも政権への「忖度(そんたく)」があった、と考える人がいるが、もはや事実を提示して納得できるようなレベルの人たちではないだろう。悪意か妄執か、あるいは頑なな政治イデオロギーの持ち主か、いずれにせよ経済学による説得では無理である。

 またアベノミクスの開始当初から、なぜか蓮舫氏のように実質賃金とその伸び率を重視する人たちが多い。その多くが反安倍、反アベノミクス論者である。

立憲民主党の蓮舫副代表兼参院幹事長

    だが、そもそもアベノミクス、その中核であるリフレ政策(デフレを脱却して低インフレ状態で経済を安定化させる政策)は、実質賃金の水準や伸び率の動きをただ上げればいいだけの政策のように、単純な見方はしていない。むしろ、長期停滞からの脱出局面(現時点)では、実質賃金の伸び率が低下することも不可避であると主張してきた。

 リフレ政策が効果を与える停滞脱出期においては、実質賃金の切り下げが生じる。なぜなら、雇用が増加することで、新卒や中途採用、退職者の再雇用といった新たに採用された人たちの賃金は、既に長年働いている人たちの賃金よりも低いことが一般的だ。

 すなわち、雇用される人数が増え、失業率が低下することは、同時に平均的な賃金を低下させることになる。これを「ニューカマー効果」という。

 しかしニューカマー効果では、同時に失業率が改善し、雇用状況の改善(有効求人倍率改善、いわゆる「ブラック企業」の淘汰など)も実現していく。さらに、支払い名目賃金の総額も上昇していくだろう。そうして、経済全体の状況は大きく改善されていくのである。

 実際、安倍政権ではこのニューカマー効果による実質賃金低下と、同時に失業率低下、有効求人倍率の上昇、賃金指数の増加、名目国内総生産(GDP)の増加などが見られる。さらに、雇用安定化の成果で、失職などに伴う経済的要因での自殺者数が激減し、不本意な形で就業しなくてはいけない非正規労働者の数も大きく減少した。これらは、単にアベノミクスによって雇用の量的な改善だけでなく、質的な改善も見られたことを証明している。

 そして失業率が低下していくと、いわゆる「構造的失業」という状態に到達する。その過程で名目賃金の増加だけではなく、労働市場の逼迫(ひっぱく)の度合いに応じて、実質賃金も上昇していく。日本経済は、2014年4月の消費税率8%引き上げの悪影響がなければ、このプロセスが実現していた可能性が大きい。

 このように蓮舫議員に代表されるような「実質賃金低下ガー(問題)」論者は、あまりにも問題を単純に捉えていると言わざるを得ない。実は、実質賃金の低下だけを問題視する人たちは、経済が常に完全雇用の水準にあると思い込んでいる新自由主義者的な人に多い。

 新自由主義的な人からすれば、実質賃金の低下など、単に労働の生産性の低下を示すものでしかないからだ。蓮舫議員を含む立憲民主党や国民民主党などの多くの野党は、確か経済問題を適切な政府介入で是正していく「リベラル」のスタンスであるはずなのに、主張が新自由主義者風なのはなぜだろうか。

 おそらく、野党議員の多くは経済政策のアドバイスを受ける相手を間違えているのであろう。例えば、立命館大の松尾匡(ただす)教授が最近、安倍政権の経済政策に対抗するリフレ政策的な政治キャンペーン「薔薇マークキャンペーン」を始めている。なんでも今度の参院選に立候補する議員に、反緊縮に賛同する候補者と対して「薔薇マーク」の認定を与えるというものだそうだ。

2019年1月、毎月勤労統計の不正調査問題で、厚労省の職員らに質問する野党議員(奥)

 認定候補が野党勢力だけかどうか定かではないが、筆者はこのキャンペーンが与野党の対立構図に乗った政治色の強いものだと考えている。リフレ政策はそういう政治的イデオロギーを超えるべきだと考えているので、この運動自体には賛成できない。

 ただ、蓮舫氏のような反安倍主義者たちが、よりまともな経済政策を構築するには、松尾氏のアドバイスに対して、真剣に耳を傾けることを勧めたい。それが日本の政策議論の底上げにもつながるに違いないからだ。

【私の論評】虚妄に凝り固まる立憲民主党が主張する経済政策を実行すれば、今の韓国のように雇用が激減するだけ(゚д゚)!

野党の批判は、結局「実質賃金が下がり、実際に使えるおカネが減って貧しくなった。そのために、個人消費が伸びていない。いまの経済政策は間違っている」ということです。そうして、冒頭の記事で田中秀臣氏が主張するようにこれは明らかに間違いです。

実質賃金とは、皆さんが受け取る賃金(名目賃金)から物価の上昇分を差し引いたものです。

名目賃金が1%しか上がっていない時に物価が2%上がると、実質賃金は1%下がります。あくまで程度の問題ではありますが、「モノやサービスの値段が上がって、以前なら買えていたはずのものが買えなくなった」ことになります。インフレの悪いところです。

一方、名目賃金が2%下がっても、物価が3%下がってくれれば、実質賃金は1%上がります。「給料は減ったけど、以前よりたくさんのモノやサービスが買えるようになった」わけですから、喜ぶ人もいるかもしれません。

この部分だけを切り取って考えると、たしかに「実質賃金を、いますぐ上げろ!下がったのはケシカラン!」という主張は正しいように聞こえます。

しかし、経済は、常に動きつづけている生き物です。短いあいだだけを輪切りにして判断してしまったのでは、一見正しそうな政策が「長期的にはとんでもないこと」を引き起こしかねません。

これから起きるさまざまな変化を、「時間を追って順々に考えていく」というのが経済学的なものの考え方です。俗にいう「風が吹けば桶屋が儲かる」という世界です。

逆にいえば、この思考ができないと経済政策を誤ってしまうことになります。

失業者を減らすことが最優先

少しこみ入った話になるので、経済学でよく使われる需要曲線(赤)と供給曲線(緑)を使ってご説明します。縦軸が実質賃金、横軸が雇用者数です。

<現在>という矢印の指しているところに、いまの日本の雇用市場はあります。

左側の縦軸の「今の実質賃金」というところから水平に線を引く(………)と、「雇いますよ」という需要曲線(赤)とぶつかります。ここから下におろした線の指しているところが、「今、雇用されている人数」です。

先ほどの水平な線をさらに右にいく(………)と、「働きたいです」という供給曲線(緑)とぶつかります。ここから下におろした線が指しているところの人数だけ「今、働きたい人」がいます。

ただ、実際に雇ってもらえるのは、需要曲線(赤)から降りてきたところまでの人数だけです。この差が「失業者」となります。

失業とは、「働きたいのに働けない」ということです。しかも、失業することによって収入がとだえて経済的に困窮するだけでなく、「社会から疎外されている」と感じてしまいがちです。

その結果、非常に残念なことですが、精神的・肉体的に追いつめられて、自殺という手段を選ぶ人が増えてしまいました。日本の失業率と自殺率の相関関係は、OECD諸国の中でも際立って高くなっています。

従って、「失業者をどうやったら減らせるか」「この図の赤い矢印の方向にどうやって進むのか」ということを最も優先して考えなければなりません。

我慢して回り道を

現在の実質賃金の水準で、そのまま点線の上をわたって供給曲線(緑)に到達できれば一番良いのですがそうはいきません。点線の上は、あくまで空間です。右のほうにいきたければ、黄色い矢印が指し示すように「斜め右下方向」に需要曲線(赤)の上を動くことになります。

あくまで「下」ですから、「実質賃金が下がらないと、雇用者数が増える方向には行けない」というのが現実です。これを変えることは、誰にもできません。

では、どうしたら実質賃金は下がるのでしょうか?

先ほどご説明したように、実質賃金は(名目賃金)-(物価の変動)で決まります。

「実質賃金を下げろ」といわれて、まず思いつくのは「名目賃金を下げる」、つまり「賃金カット」でしょう。強欲な経営者が「給料を20%下げることにした!」と叫べば、たちどころに下がって、、、というほど話は簡単ではありません。

名目賃金は、経営者と労働者の交渉で決まります。「交渉」といっても、全員が実際に膝をつきあわせて丁々発止とやる訳ではありません。

「この賃金なら雇いたい」「この賃金なら働こう」という「労働市場での需要と供給から決まる」と考えたほうが自然です。アダム・スミスの「神の見えざる手」は、ちゃんと働いています。

この名目賃金というものは、あまり簡単に上がったり下がったりしません。特に日本では、毎週(週給)や毎日(日給)といった単位で給料が変動する労働者は極めて少数です。大多数の労働者は月給制ですし、しかも年間の支給額が大きく変動することはありません。

「20%下げるぞ」などと宣言したら、翌日の職場はカラになっていることでしょう。

つまり、「名目賃金は、そう簡単には下がらないし下げられない」というのが、本当の話です。

では、「物価を上げる」というのはどうでしょう?

これは何か非常に難しいこと、特に長い間デフレに苦しんだわが国にいると、とんでもなく大変なことのように思えます。

しかし、何らかの政策で「強引に名目賃金を変える」よりも、「金融政策によって物価水準を変えることで、実質賃金を動かす」というほうが世界の経済学や経済政策の世界では一般的です。

たとえば2013年1月に、政府と日銀は「+2%と言う目標を定めて物価を上げる」という共同宣言を発表しました。これは「実質賃金は一時的に下がるものの、まず失業者を減らす政策をとる」ことを示したものであると言い換えることができます。

その後の政策は、よく「異次元の」という形容詞をつけて紹介されますが、「デフレという名の異常事態からの脱却」という局面だったために「異次元の手段」が必要だっただけです。政策そのものは、ごく常識的な経済理論にのっとったものです。

「異次元」ではあっても、「異常」ではありません。

いま「物価が上昇したことで実質賃金が下がっている」のは、この右下がりの黄色い矢印の方向に日本経済が走りだしたということです。実質賃金は下がりましたが、冒頭にご紹介したとおり雇用者数は増加しています。

赤い矢印の方向に動いていることは、間違いありません。

デフレへの逆回転は絶対に阻止

現在の状態を、「実質賃金が下がって貧しくなった」と批判するのは簡単です。しかし、黄色い矢印の方向に行かなければ雇用者数は増加せず、130万もの人が失業したままだった可能性は否定できません。

いまはひとりでも多くの人が働けるようになるために、少し我慢をする時です。

きちんと現在の金融緩和政策をつづけていれば、「完全雇用」と書いた部分を通過し、右側の黄色い矢印が示す「右斜め上」に向かって供給曲線(緑)の上を動いていけるようになります。いよいよステージの転換です。

人手不足により名目賃金が上昇し、実質賃金が上がります。しかも、もらえる給料の額面が増えています。

「もらえる給料は減ったけど、物価はもっと下がっている。だから、実質的に豊かになって幸せだ」などという冷静沈着な計算のできる人が、世の中の多数派だとは思えません。やはり「金額が増えてハッピー」という人のほうが多いですから、消費が増えて経済の好循環が起きます。

しかも右方向に動いていますから、働くことができる人は増えつづけます。もう「社会から疎外された」などと、悲観する必要はありません。

1998年に3万人を超え「世界的にも高水準」と懸念されていた自殺者数は、過去5年連続して減少してきています。大規模な金融緩和に踏み切った2012年以降、減少幅が大きくなっていますが、これがさらに加速していくと期待できます。

実際の経済はこんな簡単な図よりも複雑ですから、まだ「完全雇用」と書いたところに到達しているかどうかはよく分かりません。

しかし、比較的名目賃金が変わりやすい「パートやアルバイトの時給」が、大幅に上がっているのはご存知のとおりです。首都圏のパートやアルバイトの平均時給は1000円を超えました。厚生労働省が先週発表した賃金構造基本統計調査では、女性の賃金が過去40年で最も高くなっています。

さらに総雇用者所得も増えていますから、働いている人全体が受けとる賃金の合計は増えつづけています。

総務省の調査によると、正社員を増やした会社は「人材流出を防ぐため」「採用を優位に進めるため」という理由をあげていました。つまり、「良い待遇を与えないと、働いてもらえなくなった」ということです。これは「完全雇用」状態に近づき、働く人たちの立場のほうが強くなったことに他なりません。

結論は明らかです。「物価が上がったことで実質賃金が下がり、生活が苦しくなった。金融緩和政策をやめて物価を下げろ」と言う主張は、経済政策論的に完全に間違っています。物価が下がったおかげで「実質賃金が上がった」と喜ぶことができるのは、失業する心配のない人達だけです。

もし、そんな経済政策をとってしまうと、この図の青い矢印のように「左斜め上」に動いていくことになります。たしかに実質賃金は上がりますが、多くの人が職を失い苦しむことになります。これこそが、デフレの害悪です。

今の流れを逆回転させるべきではないのです。

なお、上ではニューカマー効果を解説するため、マクロ経済でよく用いられるグラフを使って説明しました。

しかし、このようなグラフを使わなくても常識的に理解できます。

たとえば、ある企業で景気が良くなったので、事業規模を拡大しようとしたとします。事業を拡大するときには、最初は営業店舗や工場などの人員を増やすのが普通です。間違っても、本部の要員や役員などを最初に増やすということはありません。さらに、拡大するとすれば、営業店舗や工場そのものも増やすはずです。

そうなると、営業店舗や工場などには、多くの新人を雇用しなければなりません。新人を多数雇用すればどうなりますか。会社全体としては、事業規模を拡大する前よりも平均賃金は低くなります。さらに、生産性は当初は下がるのが当然です。なにしろ、新人を多く雇い入れれば、最初は新人は普通に仕事ができず、これに対して訓練や教育を施さなければなりません。

これが理解できれば、国単位で実質賃金が下がるということも容易に理解できると思います。さらに時がたつと、事業の規模が拡大し軌道にのれば、本部の人員を増やしたり、給料をあげないとなかなか人を募集できなかったりで、賃金は上昇します。

こんな簡単な理屈も理解できないのか、蓮舫さんをはじめとする野党の議員なのです。

お隣韓国では金融緩和せずに賃金だけあげて大失敗

さらに、野党議員らの考えが間違いであるということはすでに実例があります。お隣韓国では、文大統領が金融緩和をせずに、賃金だげあげる政策をとり、雇用が激減して大失敗しています。

これについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
文在寅大統領誕生に歓喜した韓国の若者、日本へ出稼ぎを検討―【私の論評】枝野理論では駄目!韓国がすぐにやるべきは量的金融緩和!これに尽きる(゚д゚)!
立憲民主党枝野代表

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、枝野氏も、雇用等に関しては蓮舫氏と同じような考えであり、実質賃金ばかりを問題にする傾向があります。以下にそのあたりがわかるような内容の部分のみを引用します。
枝野氏には金融緩和という考えは全くありません。金融緩和をせずに、分配を増やすというのはどういうことかといえば、結局のところ韓国の実施した「金融緩和をせずに最低賃金」をあげるというのと何も変わりません。 
枝野氏をはじめとするリベラルの雇用政策は韓国で実行され、大失敗したということです。 
ブログ冒頭の韓国の若者の悲惨な状況を改善し、日本のように大卒の就職率を良くするには、分配や最低賃金を最初にあげるのではなく、まずは量的金融緩和を実施すべきです。
いずれにせよ、枝野氏も蓮舫氏も虚妄に凝り固まっており、金融緩和などは実施せずに、分配を増やす、最低賃金を増やすなどの破滅的な政策を主張しています。立憲民主党が主張する経済政策を実行すれば、またぞろ大学生の就活が地獄になるのは明らかです。

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2019年2月4日月曜日

【日本は誰と戦ったのか】自由と繁栄を守る 「共産主義」と戦うトランプ大統領 ―【私の論評】トランプ大統領の評判を落とす工作に騙されるな(゚д゚)!


トランプ大統領

 昨年から米中貿易戦争が始まり、あれほど仲が良かった米中関係が一転、米中「新冷戦」へと変わってしまった。北朝鮮の「核・ミサイル開発」に対しても、ドナルド・トランプ政権になった途端、軍事行使をちらつかせながら「絶対に核開発は許さないぞ」と言い始めた。

 なぜ、歴代の米国政権と、トランプ政権はこんなに対応が違うのか。

 キーワードは「共産主義」だ。

 1917年にロシア革命に成功したボルシェビキ(ロシア共産党)の指導者、レーニンは19年、共産主義政党による国際ネットワーク「コミンテルン」を創設した。目的は、世界各国で資本家を打倒して共産革命を起こし、労働者の楽園を作る、というものだ。

 このソ連・コミンテルンの対外秘密工作によって世界各地に「共産党」が創設され、第二次世界大戦後、世界各地に「共産主義国家」が誕生し、東西冷戦が始まった。

 東西冷戦は91年の「ソ連崩壊」によって終結したと言われているが、残念ながらソ連崩壊の後も、アジアには、中国と北朝鮮という2つの共産主義・一党独裁国家が存在し、国民の人権や言論の自由を弾圧しているだけでなく、アジア太平洋の平和と繁栄を脅かしている。

 こうした世界観に立脚しているのがトランプ大統領なのだ。

 マスコミは黙殺したが、トランプ氏は2017年11月7日、共産主義犠牲者の国民的記念日を宣言し、ホワイトハウスの公式サイトに次のような声明文を掲げている。

 《今日の共産主義犠牲者の国家的記念日は、ボルシェビキ革命がロシアで起きて100年にあたる。ボルシェビキ革命は、ソ連と暗黒の数十年にわたる抑圧的共産主義を生み出した。それは、自由と繁栄、人間の尊厳と両立しない政治思想といえる。

 過去1世紀の間に、世界中の共産主義者による全体主義体制は1億人を超える人々を殺害し、搾取、暴力、数え切れない荒廃をもたらした。彼らは、解放のふりをして、罪のない人々から、神が与えた「信仰の自由」や「結社の自由」など、無数の他の権利を奪った。自由を願う人々は、強制、暴力、恐怖によって支配された。

 私たちは、亡くなった方々と、共産主義下で苦しみ続ける人々を忘れはしない。そして、自由を守るために勇敢に戦った世界中の人々の、不屈の精神を尊重する》

 われわれの敵は共産主義であり、現在も続いている共産主義の脅威から自由と繁栄を守る、こうした視点が、トランプ政権の対外政策と米中貿易戦争の背後に存在することは理解しておきたいものである。

 ■江崎道朗(えざき・みちお) 評論家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、現職。安全保障や、インテリジェンス、近現代史研究などに幅広い知見を有する。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞した。他の著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)など多数。

【私の論評】トランプ大統領の評判を落とす工作に騙されるな(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事にもあるとおり、ソ連・コミンテルンの対外工作によって世界各地に「共産党」が創設され、第二次世界大戦後、東欧や中欧、中国、北朝鮮、ベトナムなど世界各地に「共産主義国家」が誕生しました。

かくして第二次大戦後、アメリカを中心とする「自由主義国」と、ソ連を中心とする「共産主義国」によって世界は二分され、「東西冷戦」という名の紛争が各地で起こりました。
スターリン。共産主義運動による死者は1億人を超えます。
ある意味、二十世紀は、ソ連・コミンテルンとの戦いでした。

ソ連・コミンテルンと共産主義を抜きにして二十世紀を語ることはできません。そしてこの「東西冷戦」は1991年のソ連の崩壊によって終結したと言われていますが、それはヨーロッパの話です。

ソ連崩壊で撤去されたレーニン像

残念ながらソ連崩壊のあとも、アジア太平洋には中国共産党政府と北朝鮮という二つの共産主義国家が存在し、国民の人権や言論の自由を弾圧しているだけでなく、アジア太平洋の平和と繁栄を脅かしているからです。

これをなんとかしようというのが、安倍総理による「安全保障のダイヤモンド」であり、「自由で開かれたインド太平洋戦略」であり、これにすぐに乗ってきたのが、米トランプ大統領でもあります。そうして、現在ではこれに乗るどころか、自ら積極的に中国に対して経済冷戦を発動しています。

米国のニュースメディアの偏向ぶりは日本よりもひどく、米国には産経新聞のような保守系の全国紙すらありません。ニューヨーク・タイムズがリベラル左翼系の新聞であることは有名ですが、米国に保守系の全国紙が無いというのは驚きです。

テレビ同様で、ほとんどがリベラル・メディアです。唯一の例外がフォックスニュースです。

米国にはリベラル左翼系の新聞しかない、テレビもほとんどがリベラルということは、トランプ氏が大統領選に出馬したことを報じていた米国のニュースメディアからの情報は、全て偏向した内容だいうことです。

保守系のトランプ氏を擁護するような情報など出てくるはずがないわけで、「泡沫候補」とか「差別主義者」とか、ネガティブな情報ばかりが伝えられていた背景にはそれなりに理由があったというわけです。

日本のメディアには「トランプが大統領になったら世界経済が終わる」などと宣っていたエコノミストもいましたが、この手の人々は米国社会の実像を全く知らないことを自ら自白していたことになります。

オバマの「チェンジ」とは?

現在から振り返ってみるとオバマ元大統領の「チェンジ」は、米国を良くするための「チェンジ」ではなく、米国を社会主義化するための「チェンジ」だったというのも驚きで、我々はその立派な言葉にまんまと騙されていたことになります。

私自身は、オバマが社会主義者であることは知っていたましたが、オバマの両親がバリバリの共産主義者だったというのは知りませんでした。

日本には「ウォー・ギルト(戦争犯罪)」というものがありますが、米国にもオバマ政権がもたらした「ホワイト・ギルト(白人の文化は罪)」というものがあり、学校では「黒人奴隷から搾取した白人は黒人に配慮しなければならない」とする自虐教育が行われていました。


国境を重要視するトランプ大統領であるからこそ、地球の裏側にある日本という同盟国の危機にも注意を払うことができます。これが、国境を軽視するリベラル派のヒラリーであれば、一体どうなっていたのかを考えると実に恐ろしいです。

「世界の警察を辞める」と言った民主党のオバマに続いて民主党のヒラリーが大統領になっていれば、日本は北朝鮮に隷属するだけで何もできず、何も言えない国になっていたかもしれないです。

そういう意味で日本人は、米国にトランプ政権という保守政権が誕生したことを我が事のように喜ばなければいけないのかもしれないです。現状、北朝鮮や中国からの攻撃を止めてくれるのは残念ながらトランプ大統領しかいないからです。

中国や北朝鮮の工作員は、日本は言うに及ばず、米国では無論のこと世界中の国々でトランプ大統領貶めるため、あらゆる手段でトランプ大統領の評判を落とす工作をしていることでしょう。我々は、そのような単純なプロパガンダに騙されるべきではありません。

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2019年2月3日日曜日

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岡崎研究所

 北朝鮮をめぐっては2月末に2度目の米朝首脳会談が開催されることが発表されるという大きな動きがあった。他方、南北関係は、韓国の文在寅政権は開城工業団地と金剛山観光の再開のために国連決議迂回の道を探るなど、韓国の対北宥和ぶりが目立つ。ここでは、最近の北朝鮮情勢について、これらの点を中心に紹介する。

 まず、今年の金正恩の新年の辞では、以下の諸点が注目される。

(1)「外部勢力との合同軍事演習をこれ以上許容してはならず、外部からの戦略資産をはじめとする戦争装備搬入も完全に中止」すべき。

(2)停戦協定当事者(注:中国のことか)との緊密な連携の下に朝鮮半島の現停戦体制を平和体制に転換するための多国間協商も積極的に推進していく。

(3)全同胞は「朝鮮半島平和の主は我が民族」という自覚を持って一致団結していくべき(注:文在寅の考えと同じ)。

(4)開城に進出した南側企業人の困難な事情と民族の名山を訪れたいとする南側同胞の願いを察し何の前提条件や対価なしに開城工業地区と金剛山観光を再開する用意がある。

(5)北と南が協力するなら「あらゆる制裁と圧迫」も我々の行く手を妨げることはできない。

(6)我々は「すでにこれ以上、 核兵器を作りも試験もしないし、使用も伝播もしない」(注:現水準は維持すると取れる)。

(7)米国が約束を守らず、一方的に強要し、制裁と圧力に進むのであれば、「新たな道」を模索せざるを得なくなる。

 文在寅政権は、今度は開城団地と金剛山観光の再開(昨年9月の南北首脳会談で合意)を実現しようとしている。康京和外相は1月11日、議員との会合で、多額の現金支払いによらない方法でこの問題を解決することが可能かどうか研究する必要がある、と述べている。これは政府がバルクの現金支払いを禁止している国連制裁回避の方法を探していることを示す。既に企業関係者から近々現地を訪問する申請も出されているようだ。開城団地は北による4回目の核実験を受けて2016年2月に閉鎖されたが、それまでは北にとり重要な外貨獲得の場所となっていた。韓国企業による投資、生産物の輸出の他、北の労働者には毎年総額約1億ドル以上の賃金が支払われていた。

 南北融和を優先する文在寅政権は、国際社会の努力からも外れている。非核化の進展がないにも拘らずここまで前のめりに南北融和を優先する韓国の動きには、引き続き注意が必要だ。対米関係が一層軋む可能性もある。今までの対韓不信に加え、米軍経費負担交渉の難航もあり米韓間の緊張は高まっているようである。

 国際制裁は北朝鮮に効いているものと思われる。金正恩は新年の辞でも「過酷な経済封鎖と制裁」として、それに言及している。昨年訪欧した際、文在寅は独仏英などに制裁解除を働きかけたが、当然ながら欧州首脳は賛同しなかった。

 米朝の非核化交渉は昨年7月以来膠着していた。しかし、これまで延ばされてきた2回目の米朝首脳会談開催の動きは、急速に進んだ。金正恩は1月8、9日に北京で習近平と会談した。この訪中は、今年が中朝国交樹立70周年に当たることもあろうが、核問題や米朝交渉の今後につき協議するために行われたものと思われる。朝鮮中央通信によると習近平は「北朝鮮の主張は当然の要求であり、懸念が解決されなければならない」と理解を示したという(ただし中味の説明はない)。さらに、金英哲副委員長が1月17-19日に訪米した。首脳会談の調整をしたものと見られる。それに先立ち、金正恩宛てのトランプの書簡も届けられたという。そして、2月末に2度目の米朝首脳会談が開催されることが発表されるに至った。

 何らかの進展があったため2度目の首脳会談が開催されることになったのは間違いないだろうが、それが何であるかはまだ分からない。懸念されることは、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることである。

【私の論評】第二回米朝会談では、ICBMの廃棄を優先させ中短距離の弾道ミサイルが後回しにされる可能性が高い(゚д゚)!

冒頭の記事の結論である、「懸念されることは、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることである」は実際に大いにあり得ることです。

私は、トランプ大統領はこのような合意を目指していると思います。なぜなら、このブログでも最近指摘しているように、結果として北朝鮮の核が結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいるからです。

これは、北朝鮮が核開発をしていかなった場合どうなったかを考えてみれば、容易に理解できます。北の核は、米国を標的にしているのは無論ですが、これは当然のことながら中国も標的にし得るのです。もし、北が核開発をしていなかった場合、今頃金一族は中国に滅ぼされ、北には中国の傀儡政権が樹立され、韓国も完璧に中国に従属し、半島全体が中国の覇権の及ぶ範囲内になっていたかもしれません。そうして、将来は朝鮮半島は中国の一省が、自治区になったかもしれません。

2015年5月に、北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行い、2016年1月6日には、「水爆実験」とうたった地下核実験が強行されましたた。また、同1月28日にはミサイル実験の準備が複数箇所で同時に進行中であることが報道されました。そうして、その後実際に長・中・短距離の弾道ミサイルを乱れ打ちされました。

これらの示威行動の目的は何だったのでしょうか、そもそも誰に向けた威嚇だったのでしょうか。さまざまな解説がなされていますが、そのほとんどが、アメリカを対象にしたものだということになっていました。私は、その意味合いは確かにあったと思います。

しかし、これら一連の北朝鮮の行動全体を見た場合、どう解釈すべきなのでしょうか。私は、SLBM実験以降、従来とは質的にまったく別なものになったと考えています。これらは主に中国を対象とした示威行動と見て間違いないのです。

その上で、国際社会、特に米国に対し、「中国離れ」をアピールするという持って回った構図になっています。「中国の覇権主義に反対である。場合によってはこの核は対中国の威嚇にもなる」という意味合いだったのでしょう。

2011年金正日氏がの遺体を載せた車につきそう金正恩氏(一番手前)

2011年に父。金正日総書記の死によって、北朝鮮の最高指導者の地位を継承した金正恩・国防委員会第一委員長、朝鮮労働党第一書記は、当初、父から後見としてつけられていた実力者、高官、側近らの粛清を続け、2016年以降、ほぼ国内に対抗勢力がいない状況になりました。私は、ここで彼は、ようやく中長期的な国自体のテーマに取り組むようになったと見ています。

その課題は、言うまでもなく絶望的な状況にある経済の立て直しです。それまでも、現在も北朝鮮をあらゆる意味で支えているのは中国ですが、その中国にいろいろ求めても、これまではかばかしい結果が返ってきませんでした。

金正恩第一書記は、中国の対北援助の基本方針が「生かさず殺さず」であると見切ったようです。そのため、他から援助を引き出そうとしているのでしょう。

金正恩・第一書記はこの間、側近に対し「中国は100年の敵」と言ってはばかりませんでした。2016年あたりにも、「中国相手でも臆することなく強気に出なければならない。中国がアメリカに同調し、制裁を加えるというなら、北京に核ミサイルを撃ち込むことも辞さない」という内容の話を側近にしたという情報もあります。もちろん、オフレコの内輪話ということだが、当然、中国の耳に入ることは計算の上だったのでしょう。

さらに、金正恩は当時北朝鮮ナンバー2といわれた、叔父の張成沢を処刑しています。これは、張成沢氏が中国と親しい関係があったことが関係しているといわれています。

処刑される直前の張成沢、顔と手に殴られたようにあざがある

北朝鮮がもっている唯一の対外交渉カードは、いうまでもなく核・ミサイル開発です。国際社会は、経済制裁を解き援助を行う条件として、必ずイランのように核開発を放棄することを求めています。

しかし、核を手放せば少なくとも現体制は外からの圧力、特に中国からの圧力で潰されることになります。北朝鮮、もしくは金正恩・第一書記がとりうる手段は、これまで通りの対外恐喝路線しかないのです。

しかし、2016年以降はそれまで通り、米国、そして韓国、日本にだけ向かっているわけではないのです。先の側近へのコメントだけではなく、「水爆」、SLBMを振りかざしたのも、同じ意味があります。

これまで開発した通常核ですらミサイル搭載が不確かであるのに、それよりも重い弾頭を用意しようとしていました。さらに、北朝鮮の通常動力型潜水艦では行動範囲が限られているにもかかわらずSLBMを保持しようとしています。

これらがもし開発に成功したとして、その標的はどこなのでしょうか。米国などはとても無理で、近国しかありえないです。これらの一連の開発は、米国にとってはほとんど影響のないものですが、中国にとっては直接的な脅威になるのです。

中国を標的にする背景には、南シナ海問題で、国際社会、特に米国の中国に対する風当たりが強くなっていることがあり、これに同調する姿勢をとることで少しでも自らの立場に正当性を付加しようとしていること、さらに、経済問題などの内部環境から見て、中国が今、北朝鮮を潰しかねないような厳しい制裁を行うことができない、と見切っていることがあるようです。

中国の対北朝鮮政策は、2016年以降岐路に立つことになったのです。このような「狂犬」に出会って、棍棒で叩きのめすべきか、避けて通るべきか、中国側が思い悩んでいるのは確かです。

中国は、このまま北朝鮮を放置すれば、韓国、台湾、日本と核開発ドミノが起きる可能性を懸念しています。さらに、2016年以降、米国、日本が、対北朝鮮封鎖のために軍事力を朝鮮半島周辺に集中し始めており、このことも、中国の安全保障に悪影響を与えるという理由で、中国国内では北朝鮮に対し強硬に出るべきだという意見が強くなっていました。

しかし、現実には今、北朝鮮は、隣国が大混乱に陥るような強硬手段をとる余地がないほど、足下の経済問題が深刻だとみて良いです。中国は当面、慎重な態度をとり続けなければならないようです。

中国はこれまで北朝鮮の核・ミサイル問題を「対米交渉カード」に利用してきました。ところが今や「飼い犬に手を噛まれる」の格好になっています。中国への核・ミサイル威嚇は北朝鮮の「対米交渉カード」となったのです。

2016年6月、ムスダンとみられる弾道ミサイル発射実験の様子

そうして、昨年米国は本格的に対中国経済冷戦に踏み切りました。この動きは、超党派の米国議会も同調した動きであり、次の大統領トランプであろうが、なかろうが、米国は中国が体制を変えるか、経済的にかなり弱体化するまで、制裁を続ける腹です。

そうして、その後米朝会談が開催され、今年の2月下旬には第二回米帳会談が開催される予定です。

この会談では金正恩は核の即時完全放棄ではなく、「核実験の無期限凍結」という、核カードを決して手放さない形の妥協と引き換えに、中・長期的な経済援助を引き出そうとするでしょう。

しかし、中国まで核恐喝の標的にしたことで、北朝鮮の現体制を取り巻く環境がさらに厳しいものになったことは確かです。

私としては、トランプ政権としては、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、中国や日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることは十分にあり得ることと思います。

米国にとっては、北朝鮮の核によって、中国に従属しようとする韓国を含む朝鮮半島に中国が浸透することを防ぎつつ、対中国冷戦をさらに継続するというのは、危険ではありますが、魅力的なシナリオでもあります。

私は、次回の米朝会談において、トランプ大統領は、金正恩がどれほど本気で中国と対峙するかを見極めた上で、今後の対中国冷戦の戦略を考える腹であるとみます。

日本としては、北の核は確かに日本にとって危機であることには違いないですが、それは中国の核とて危険であり、中国の核は北朝鮮の核よりはるかに日本にとって脅威であるという事実を思い起こすべきだと思います。

日本が周辺国の核に対処すべきことがらについては、昨日のこのブログにも掲載したので、ここでは詳細を記すことはしません。そちらを参照していただきたいと思います。

第二回米朝会談にて、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、中国や日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しされるようなことがあれば、日本としてはそれに対応しなければなりません。

日本としては、日朝首脳会談により、金正恩の腹を探ることがより一層重要になってくるものと思います。

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2019年2月2日土曜日

トランプ氏、米のみの制限を認めず 「全核保有国の新条約を」INF破棄で―【私の論評】今回の破棄は、日本の安保にも関わる重要な決断(゚д゚)!

トランプ氏、米のみの制限を認めず 「全核保有国の新条約を」INF破棄で

演説前に眉を整えるトランプ大統領=1日,ホワイトハウス

    トランプ米大統領は1日、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄を同日発表したことに関連し、ホワイトハウスで記者団に対し、「全ての核保有国を集めて新しい条約を結ぶ方が(米露2国間よりも)はるかにましだし、見てみたい」と述べた。

 トランプ氏は一方で、「条約は全ての国が順守しなければならないが、一部の国は条約など存在しないかのような振る舞いをする」と指摘し、ロシアのINF条約違反を批判した。

 同氏はその上で、「全ての国が同意する新条約ができたとしても、他国が条約を守らない一方で米国の行動が制限され、不利な立場に陥るようなことがあってはならない」と強調した。

 一方、トランプ政権高官は1日の電話記者会見で、米国が条約破棄を2日に通告し、6カ月後に失効するまでの期間が「ロシアが条約を順守する唯一にして最後のチャンスだ」と訴えた。ただ、これまでにロシアは条約を順守する意向を示していないとしている。

 同高官はまた、2021年2月に期限を迎える米露の新戦略兵器削減条約(新START)の延長の是非について、関係省庁が検討を始めたことを明らかにした。新STARTは、米露が合意すれば5年間の延長が可能となる。

【私の論評】今回のINF破棄は、日本の安保にも関わる重要な決断(゚д゚)!

トランプ大統領の決定は単なる無謀な核軍拡競争につながり、日本、そして世界にとって迷惑なものなのでしょうか。 

この認識は、はっきりいって間違いです。なぜなら、ソ連時代は極東になかった中距離核ミサイルが、今では北朝鮮と中国に100基以上も存在するようになっているからです。

東アジアの核戦力配置図 クリックすると拡大します

1987年の合意以降、米ソ双方は中距離核ミサイルをかなり撤廃しました。ところがその後、周辺諸国の各配備によりロシアが割を食うことが増えたのです。そして今では日米にとっても、「中国の中距離核ミサイル」という新たな要因が登場しているます。

双方とも相手を表向きは「お前こそ条約に違反して中距離核ミサイルを開発しているではないか」と非難していますが、1987年の合意見直しは、今や米ロ双方にとって必要になったのです。

1987年の合意後、ロシア周辺の諸国が中距離核ミサイルの開発・配備を始めたのです。それは、中国、イラン、北朝鮮による、米国を狙う長距離核ミサイル開発の途上の成果でもあったし、パキスタン、インド(そしておそらくイスラエルのもの)等紛争を抱える隣国を狙ったものでもありました。これは、直接ロシアを狙ったものではありませんが、ロシアにとって脅威になったのはいうまでもありません。

ロシアはこれらの国と紛争になった場合、米国向けの長距離核ミサイルICBMを使うわけにはいかないです。と言うのは、これが発射された瞬間、上空の米国の衛星が探知して、米国はこれを米国向けのものと誤認、対応した行動をとってくるからです。

こうしてロシアは、中国やイランの核ミサイルに対して抑止手段を持たない状況に陥ったのです。中ロは準同盟国同士と言っても、互いに信用はしていません。今でもロシア軍は、極東・シベリア方面での演習では、「国境を越えて押し寄せる大軍」に対して戦術核兵器(小型で都市は破壊できないが、大軍を一度に無力化できる)を使用するシナリオを使っています。

これに加えてブッシュ政権のチェイニー副大統領は、東欧諸国に「イランのミサイルを撃ち落とすため」と称して、ミサイル防御ミサイル(MD)の配備を始める構えを見せました。

これは防御と言いながら、実質的にはかつて廃棄したパーシング2ミサイルの技術を使ったミサイルで、容易にロシアを標的とした中距離核ミサイルとなり得るとロシアは判断したようです。

カリーブルを発射したロシアの駆逐艦

「ロシアが秘密裏にINF開発のための実験をしている」と米国が言い始めたのはこの頃、つまり2000年代初頭のことです。ロシアはそれを否定しつつ、実は開発にはげみ、その成果は中距離巡航ミサイル「カリーブル」等として実りました。

カリーブルは2017年12月、ボルガ河口のロシア軍艦から発射され(1987年のINF全廃条約は「陸上」配備のものしか規制していません。水上から撃てば違反ではない、という理屈)、みごとはるか遠くのシリアに着弾したとされています。

今やロシアは中距離核ミサイルを再び手に入れて、これを極東に配備すれば中国、北朝鮮、韓国、グアム、日本を射程に収めることができるようになったのです。

米オバマ前大統領は国防支出を削減、特に核兵器の近代化を止めました。その間、ロシアは、中距離核兵器だけでなく、長距離核戦力を制限する新START条約の枠内ではありましたが、長距離ICBM、潜水艦発射の長距離SLBMの近代化を着々と進めました。経済力のないロシア(GDPは韓国と同程度)は、核戦力でしか米国との同等性を確保できないからです。

だからトランプは大統領に就任早々、核軍備充実を公約のようにして言及し続けてきました。今回のINF全廃条約脱退は、ボルトン大統領安全保障問題補佐官等、かつてのチェイニー副大統領のラインを受け継ぐ超保守派の進言によるものとも言われています。

しかし、これはトランプ自身の信念を反映していると見られ、たとえこの先ボルトンが更迭されても政策の大元は揺るがないでしょう。

すると、米国の新型中距離核ミサイルはまたドイツ等西欧諸国に配備されることになり、轟然たる反米、反核運動を引き起こすのでしょうか。 

おそらくそうはならないでしょう。と言うのは、中距離の核弾頭つき巡航ミサイルや弾道ミサイルは冷戦時代に米国がそうしていたように、西側原潜に搭載して、北極海に潜航させておけば、ロシアを牽制することができるからです。

だからこそ、昨年10月27年ぶりに、米軍空母が北極海で演習し、力をロシアに誇示したのでしょう。これまでも長距離核ミサイルを搭載した原潜の潜航海域を確保することは、米国、ソ連・ロシア、そして中国(南シナ海がその海域にあたる)にとって重要な問題でしたが、今度は中距離核ミサイル搭載原潜の潜航海域を確保することが必要になっているのです。

昨年北極海で演習した米空母ハリー・S・トルーマン

冷戦時代には、ソ連のINFが極東に配備されなかったことで、ソ連の核の脅威は日本には直接及びことはありませんでした。

しかし現在の最大の問題は、北朝鮮の核は言うに及ばず、中国保有の中距離核ミサイルです。

後者は100発を越えるものと推定されていて、中国軍による台湾武力統合などの有事には、日本が米軍を支援するのを止めるため、中国は中距離核ミサイルで日本の戦略拠点、米軍、自衛隊の基地を狙うことでしょう。

こういう時に、「お前が撃つなら、俺も撃つぞ」と言って中国を思いとどまらせることのできる抑止用の核兵器は、今、西太平洋の米軍にわずかしかありません。

かつてはトマホークという核弾頭つき巡航ミサイルが米国原潜等に配備されていたのだですが、これはブッシュ時代の決定でオバマ政権が廃棄してしまったままになっているのです。

これでは、日本は有事に米国との同盟義務を果たすことはできず、米国は日本を見捨てて裸のままに放置することになるでしょう。中国は日本に中立の地位を認めることなく、政治・経済・軍事、あらゆる面で服属を求めてくるでしょう。

そうなると、日本も核抑止力を強化せざるを得ないです。しかし、日本本土に米国の中距離核ミサイルを配備することは、ドイツ以上に難しいです。それに陸上に核ミサイルを配備することは、敵の先制・報復攻撃を容易にして、危険です。

いま米国が開発しようとしている、トマホーク巡航ミサイル新型は海中の潜水艦、あるいはグアムの爆撃機や戦闘機に装備するのが妥当です。

しかし、米国は日本に開発の費用分担を求めてくるでしょう。それは当然のことです。このままでは日本は、中国の属国になってしまう可能性もあります。

しかし日本を守ることは、米国の利益にもなります。在日の米軍基地は、米軍が西太平洋、そしてインド洋方面に展開するに当たって、不可欠の補修・兵站基地となっていますし、日本や西欧等の同盟国が、中国やロシアの中距離核ミサイルに脅されて次々に同盟関係から「脱退」したら、米国は本当の裸の王様になってしまうからです。日本は費用を分担するが、何か見返りに米国から獲得しておくべきでしょう。

ドイツには、昔から米国が置いている「戦術」核弾頭が今でも数十発あるが、これはDual Keyと言って、実戦に使用する時にはドイツ、米国両国政府の合意が必要になっています。ドイツ政府も、これの使用を積極的に米国に発議できるようになっているのです。そして米政府はドイツ政府の了解なしには、これを使用できないです。日本もこのような権利を得るべきです。

そして将来的には、日本も核兵器を開発する可能性の余地を残すのです。その「可能性」自体が抑止力になります。インドが、核ミサイルを保有していながら米国と原子力協力協定を結んでいることを念頭に置くべきです。

なお、中ロ両国周辺の海域は、米国原潜からの中距離核ミサイル発射拠点として、中ロ両国にとって戦略的意味を増していくことになるでしょう。米空母が北極海でわざわざ演習するのは、そういう意味を持っているのです。

長距離の戦略核兵器については、米ロ双方とも増強・近代化というトレンドは中距離核戦力と同じですが、こちらの方は別の条約が機能しており、長距離とは別の問題となります。2021年には失効するので、更新が必要となります。

いずれにしても、今回のロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄は、トランプがやみくもに核増強に突っ走ろうとしている等という単純な話ではないのです。

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2019年2月1日金曜日

トランプ氏「大きく進展」 米中貿易協議、首脳会談調整へ―【私の論評】「灰色のサイ」がいつ暴れだしてもおかしくない中国(゚д゚)!

トランプ氏「大きく進展」 米中貿易協議、首脳会談調整へ

1月31日、ホワイトハウスで劉鶴副首相(左端)と面会するトランプ大統領

 米国と中国の両政府による閣僚級貿易協議が1月31日、2日間の日程を終えた。トランプ米大統領は同日、中国代表団を率いる劉鶴副首相と会談し、中国の知的財産権侵害問題などをめぐり、「極めて大きな進展があった」と協議成果を評価した。一方で「いくつかの重要な問題」を積み残したとして、妥結に向けて中国の習近平国家主席と会談する意向を表明した。

 トランプ氏は劉氏とホワイトハウスの大統領執務室で面会。中国側が表明した米国産大豆の大規模購入に

 具体的な米中首脳会談の日程や場所は、まだ中国と話し合っていないとした。

 米政府は協議終了後に声明を発表し、「議論が広範な論点に及んだ」と指摘。中国による技術移転の強要や市場開放のほか、米国産品の購入拡大による貿易不均衡の是正を話し合ったことを明らかにした。

 声明で米政府は「あらゆる合意事項は完全に順守されることで両当事者が一致した」とした。トランプ政権内には、通商問題をめぐる過去の米中合意が守られてこなかったとして、合意内容を強制執行する仕組みを最終合意に盛り込むよう要求する意見がある。

 一方、声明には「(昨年12月の)首脳会談で合意した3月1日は厳格な交渉期限だ」と明記。期限延長の可能性を否定した。最終合意までに「さらなる作業が残っている」とも述べた。

 ロイター通信によると、閣僚級協議の米側代表である通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は、中国側から2月中旬に米交渉団が訪中するよう招請を受けたと明らかにした。

 米中は昨年12月の首脳会談で90日間の協議期限を設定。米国は協議中の対中制裁強化を猶予するとした。ただし3月1日までの期限内に合意できない場合、米国は中国からの2千億ドル(約21兆8千億円)相当の輸入品に課した10%の制裁関税を25%に引き上げる。

【私の論評】「灰色のサイ」がいつ暴れだしてもおかしくない中国(゚д゚)!

閣僚級貿易協議に先立ち、米国のトランプ大統領は、3月1日が中国との通商協議の厳格な期限だと述べ、期限までに合意に達しない場合は中国製品への関税を引き上げるとの見解を明らかにし。ホワイトハウスが31日明らかにしました。

トランプ大統領

ホワイトハウスは、現在ワシントンで行われている米中通商協議について「トランプ大統領は、(12月の)ブエノスアイレスにおける両国首脳会談で合意した90日の猶予期間は厳格な期限であり、米中が3月1日までに満足できる結果に達しなければ、米国は中国製品への関税を引き上げると繰り返した」と述べました。

米国の景気は、昨年はまずまずというところで、特に雇用がさらに改善されました。2019年には、景気を良くしたいトランプ陣営の政策と、それを抑制するFRBの政策とのバランス、また、2020年8月の東京オリンピック後の日本の政策や2020年11月のアメリカ大統領選挙の動向によって今後の流れが定まって来るのでしょうが、今のところは小さなものはいくつかはあるものの、大きな懸念材料はありません。

習近平

一方、中国の習近平国家主席は1月21日、甚大な影響をもたらす想定外の事態を意味する「ブラックスワン(黒い白鳥)」に警戒するとともに、顕著であるにもかかわらず看過されているリスクを指す「灰色のサイ」を回避する必要があるとの認識を示しました。国営新華社通信が報じましたた。

中国は昨年の経済成長率が28年ぶりの低水準を記録するなど、景気の失速ぶりが目立っています。

習氏は、経済動向が妥当な範囲内に収まる見通しで、中小企業の金融問題を実利的に解決するほか、雇用の安定を目指し企業支援を強化すると述べました。また多額の負債を抱える「ゾンビ」企業の問題を適切に解消するとしました。

技術上の安全性は国家安全保障の重要部分であり、人工知能(AI)や遺伝子編集、自動運転車(AV)などの分野で法制化を加速すると表明。外部環境が困難かつ複雑となる中で、中国は海外の利益を護るとともに、海外事業やその職員らの安全確保を強化するとしています。

灰色のサイ

本日は中国の「灰色のサイ」について掲載します。

「灰色のサイ」という概念は、米国の学者ミシェル・ウッカー氏が2013年1月にダボス世界経済フォーラムで提起したものです。

『灰色のサイ:発生する確率の高い危機にどう対処するか』は、彼女の著作ですが、それによると、「ブラックスワン」は発生する確率は低いが大きな影響を与える事件のことであり、「灰色のサイ」とは発生する確率が高い上に影響も大きな潜在的リスクのことです。

予兆は目にしていたのに、防ぎきれない

灰色のサイはアフリカの草原で成長し、体が並外れて大きくて重く、反応も遅いです。我々が遠くから見ていても、サイは全く気に留めないです。

しかし、サイは一旦狂ったように走り出すと、一直線に猛突進し、その爆発的な攻撃力の前に、我々はあまりにも突如過ぎて防ぎきれず、吹き飛ばされて地面に転がってしまいます。

そのように、突如やって来る災厄、もしくはあまりにも小さすぎる問題に端を発している危険ではなく、多くの場合は長きにわたってその予兆を目にしてきたにもかかわらず、注意を払わなかっただけという例えなのです。

言い換えると、金融システムの崩壊のような「ブラックスワン」が突如として到来するのに対し、「灰色のサイ」は長きにわたって積み重なったものがようやく姿を現してくるというものです。

10年前も暴走した「灰色のサイ」

「灰色のサイ」は発生する確率の高いリスクであり、社会の各分野で相次いで登場している。多くの経済事件は、「ブラックスワン」というよりも「灰色のサイ」であり、爆発前にすでに前兆が見られているが、無視されてきた。

例えば、2007年から2008年までの金融危機は、一部の人々にとっては「ブラックスワン」的な事件ですが、大多数の人々にとってこの危機は数多くの「灰色のサイ」が集まった結果でした。早くから警告を示す兆候が見られていたのです。

国際通貨基金と国際決済銀行は危機が発生する前に、継続的に警告を発していました。 2008年1月、世界経済フォーラムはリスク報告で、予想されている不動産市場の衰退、流動性資金の緊縮、そして高止まりしているガソリン価格など、どれも実際に発生して経済崩壊のリスクを押し上げていると指摘していました。

現在、不平等という問題も一種の「灰色のサイ」かもしれないです。この問題も、もはや今に始まったことではないですが、これまでずっと重視されてきませんでした。

金融危機勃発後から今日に至るまで、世界経済でも特に先進経済地域の蘇生は力のない状態のままであり、中流及び貧困層の生活は悪化の一途をたどり、貧富の差は拡大しています。最終的に一連の「ブラックスワン」事件を招く要因の一つになるかもしれないです。

中国人民大学・重陽金融研究院の高級研究員である何帆氏は、「未来経済学において最も重要な問題は収入の不平等であり、この問題は世界経済の頭上にある『ダモクレスの剣』である」と指摘しています。

最大の「サイ」は不動産バブル

現在の中国経済において「灰色のサイ」は何なのでしょうか。

中国金融改革研究院の劉勝軍院長は、不動産バブルこそ疑問の余地なく最大の「灰色のサイ」だと表明しました。「一方では中国の住宅価格のバブル化に関してもはや議論はされていないが、他方では住宅価格の調整や管理がかつてないほど効力が失われており、多くの人々が『住宅価格は二度と下がらない』という錯覚に陥っている」と彼は語りました。

2頭目の「灰色のサイ」は通貨、人民元の切り下げです。切り下げによる資金の流出は1997年のアジア金融危機のような大きな動揺を引き起こすことになるでしょう。過去数年、中国内資産価格の高止まりや経済成長の減速、経済モデルチェンジの不確実性などの要素の影響で人民元の切り下げ予想が形成され、外貨準備高が4兆ドルから3兆ドルに減少するという事態を招きました。

最近の外貨準備高はやや安定しているとはいえ、それは主に為替管理を強化した結果であり、人民元切り下げの予想はまだ完全に払拭されていません。

3頭目の「灰色のサイ」は、銀行の不良資産の増加です。現在、政府側が公表した銀行の不良資産率は2%前後で、これは非常に良い数字です。しかし、株式市場の銀行株の株価から見ると、不良率は明らかに低く見積もられています。

多くの銀行株の実勢利回りのPE値(株式の時価と純利益の比)は5倍前後で、今のところA株式市場の株価収益率の中央値の60倍以上。銀行株のP/B値(一株当たりの株価と一株当たりの純資産の比率)は2倍以下です。これは、株価がすでに一株当たりの純資産を下回っていることを意味しています。

米国に似てきた住宅ローン事情

最大の「灰色のサイ」と見なされている不動産バブルについて、天風証券マクロ分析チームは米国の金融危機を鑑に、中国の住宅価格における「セーフティクッションの厚さ」を分析しました。

米国の家庭での住宅ローン支出の平均と世帯収入の比率は、2000年以降急速に上昇し、2000年の時点でこの指標は65%でしたが、2006年にはすでに99%に達しており、住宅ローンによる圧力の限界に限りなく近づいていました。

世帯収入の全てを住宅ローン支出につぎ込むならば、家計が崩壊するのは時間の問題です。2007年に米国の家庭での住宅ローン支出の平均と世帯収入の比率は101%に達し、極限点を超えると同時に危機が発生しまし。

中国の家庭の住宅ローン支出と世帯収入の比率は、2006年から2016年までに33%から67%に上昇しまし。2013年から2016年までの間に、不動産価格も大幅に上昇しました。その様相は、2001年から2004年にかけて、米国の国民が積極的にレバレッジをかけた過程と似ています。

世帯における債務という観点から見れば、2016年の中国は2004年の米国にかなり似ています。2016年下半期に中国は通貨政策の緊縮と住宅購入制限政策を打ち出したのに伴い、中国の世帯においても能動的なレバレッジから受動的なレバレッジに変わりつつありますが、住宅ローン支出と世帯収入の比率は、その後も上昇を続けています。

これについては、以前このブログにも掲載しましたが、中国の蘇寧金融研究院は昨年、家計債務の増加ペースが非常に速いとの見解を示しました。過去10年間において、部門別債務比率をみると、家計等の債務比率は20%から50%以上に膨張しました。一方、米国では、同20%から50%に拡大するまで40年かかりました。

今や中国の家計の債務費比率は、リーマンショック時の米国と同水準になっているのです。
天風証券は、「これは良い兆候ではなく、中国の『灰色のサイ』が動き出したのかもしれない」と見ています。まさらにいつサイが暴走しないとも言い切れない状態になっています。

米国に経済制裁を挑まれている現在、「灰色のサイ」が暴れまくることになれば、習近平はさらに苦しい対応を迫られることになります。

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2019年1月31日木曜日

日欧EPA、世界GDPの3割 あす発効、世界最大級の自由貿易圏誕生へ―【私の論評】発効によって一番ダメージがあるのは韓国(゚д゚)!

日欧EPA、世界GDPの3割 あす発効、世界最大級の自由貿易圏誕生へ

仏ボルドーのワイン醸造元。日欧EPA発効で欧州産ワインの市場拡大が見込まれる

 日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が2月1日の午前0時に発効する。国内総生産(GDP)の合計で世界の約3割、貿易総額で約4割を占める世界最大級の自由貿易圏が誕生する。



 関税の撤廃などで貿易や投資が活発になり、日本のGDPを約5.2兆円押し上げると試算される。米中による貿易戦争が激しさを増す中、日欧は連携して保護主義的な動きの台頭に対抗する構えだ。

 日本側の関税撤廃率は品目ベースで約94%。欧州産のチーズやワインなどにかかる関税が撤廃や引き下げとなり、日本の消費者には恩恵となる。

 一方、安価な輸入品の増加により酪農をはじめとする農林水産業には打撃となる恐れがある。



 EU側の関税撤廃率は約99%。日本からの輸出は自動車への関税が発効から8年目に撤廃されるなど、企業にとっては商機が広がる。日本の雇用は約29万人増加する見込みだ。

 日欧はともに近く貿易交渉を控える米国を牽制(けんせい)する狙いもある。日欧間で関税が下がれば、米国産品の競争力が相対的に低下する。日本は米国に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への復帰を促す考えだ。

【私の論評】発効によって一番ダメージがあるのは韓国(゚д゚)!

日欧EPA発効で、私自身はワインとチーズが安くなるということで大喜びです。しかし、これで思わぬところに影響がでそうです。

実はEUとの自由貿易がスタートすることによって、お隣の韓国と日本との一騎打ちがスタートすることになりそうです。なぜでしょうか?
この記事では、日本とEUがEPAを結ぶと、どのようなことを意味するのか? それがなぜ、韓国メーカーとの戦いになるのか? このあたりをご紹介していこうと思います。

2018年7月17日、日本とEUとの間で、日欧EPAの署名を行いました。その後各国の国会において日欧EPAの承認がなされました。そうして、明日から日欧EPAは、無事に発効することになりました。

発効とは、日欧EPAに加盟している国に対して、協定書で決められている内容が遅滞なく行われることを意味します。

一例を申し上げれば、関税撤廃の予定が「即時撤廃」に指定されている物は、日欧EPAの発効によって、すぐに関税の撤廃がおこなわれます。発効のタイミングによって、一気に、欧州産の高品質な品物が関税ゼロで日本市場に押し寄せてくるかもしれません。

また、この日欧EPAを考えるときは、とても重要なことがあります。それが相手国におけるEPAの締結状況です。今回であればEUは、すでに他国とも同じような自由貿易協定を結んでいます。すでに締結している協定に加えて、今回、新しく(追加)日本との自由貿易を始めるということです。

決して、相手国は、日本だけと自由貿易を結んでいるわけではありません。もちろん、これは日本側も同じです。(2017年現在、日本は15の地域との間にEPAを発効)

では、2017年現在、EUはどこの国と自由貿易を結んでいるのでしょうか?

2018年7月現在、EUは以下の国との間で自由貿易協定を結んでいます。
  • チリ
  • 南アフリカ
  • コートジボワール
  • ペルー
  • メキシコ
  • カメルーン
  • 韓国
  • 中央アメリカ
  • ラテンアメリカ・カリブ諸国
この協定国の中には、韓国があります。韓国は、アジア地区においては、唯一、EUとの自由貿易協定を結んでいます。日本がEUとEPAを結べば、すでにEUと自由貿易を結んでいる以下の国々と似た土俵に立てます。

この中で注目すべき国は韓国です。韓国といえば、日本企業と競合する製品を輸出する国として有名です。そんな韓国は、日本よりも一足先にEUと自由貿易を結んでいます。そのため、これまでは、欧州市場で韓国製品と日本製品が戦おうとしても関税が賦課される分だけ価格競争に勝てないことが多かったです。

例えば、日本からEUへオレンジを100万円分輸出します。EUが設定しているオレンジへの関税は、日本産が10%、韓国産の物が0%であるとすればどうるなでしょうか。
この場合、EU側の輸入者にとっては、
  • 日本産であれば10万円の関税(100万円の10%)
  • 韓国産であれば、関税はゼロ。
という状況だったのです。日欧EPAを結べば、この関税負担分がなくなり、これまでよりも価格競争力をつけた物を輸出できます。これが自由貿易協定を結ぶメリットの一つです。

サムスン社旗

日欧EPAが発効すると、韓国には、どのような影響があるのでしょか? それを考えるときは、日本とEU、そして韓国の三か国を多面的にとらえる必要があります。一般的に韓国で有名な企業(サムスンなど)は、日本企業と似た製品を輸出しています。しかし、もう少し韓国製品を詳しく見ると、製品の核となる部分は、日本からの輸入に頼っていることが多いです。

つまり、日本から製品に使う部品を輸入して、韓国の工場で最終完成品医にした後、EUへ輸出しています。韓国からの輸出品であれば、韓国とEUとのFTAを使い、関税ゼロで輸出ができます。また、韓国は、アメリカともFTAを結んでいるため、西へ東へと自在に関税ゼロで輸出ができるようにして、自国の競争力を保っていたのです。

ところが、日欧EPAが発効すると、関税面での不利な扱いが徐々に解消されていきます。関税無しで輸出ができるのは、日本の輸出企業にとって大きな追い風です。

では、一方の韓国企業を考えてみましょう。この場合、これまで当たり前にあった日本製品との関税の壁がなくなるため、まさに逆風です。本音のレベルでいうと、韓国企業にとって「日欧EPAの発効」は最も忌み嫌うことでしょう。

日欧EPA発効で、韓国国内自動車業界が少なからず打撃を受けるという見方が出ています。グローバル舞台で競争関係にある日本自動車企業がEU市場で関税引き下げ分を値下げしたり、マーケティング拡大、ディーラー網管理などのさまざまな戦略を通じて韓国車のシェアを蚕食する可能性があるからです。

 韓国自動車産業協会の関係者は、『中国市場の供給過剰、米国市場の成長鈍化など主要市場が厳しくなる中、世界3大市場の欧州まで日本に奪われるかもしれないという危機感が強まっている』とし、『製品の競争力を高められるよう全方向での協力が必要な時期』と述べました。

おそらく、今後日本企業の韓国からの引き上げなども予想できるため、韓国の関連株(輸出企業・船会社・自動車など)も安くなりそうです。

関税撤廃で欧州への日本車輸出が加速するか

日本が、どこかの国とEPAを結ぶときは、すでに相手国が「他の国と自由貿易を結んでいないのか」を確認すべきです。もし、結んでいるときは、どのような国と結んでいるのか? それらの国からは、どのような商品が輸出されているのかを調べるべきです。

すると、それぞれの国に属する企業がどのような動きをするのかが何となく予想できます。今回の件でいうと、日本とEUのEPAによって、韓国に大きなダメージがあると予想できます。

一方米国も、日欧EPAの発効に「臍(ほぞ)をかむ」思いのようです。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(昨年7月7日付)は、「日欧EPAは米国に対する警鐘」と題する社説を掲げました。

経済に明るくない大統領を選んだ結果、米国は国際貿易のグローバル化という波に背を向けて、一人で爪をかむ心境に追い込まれているようです。そう言っては失礼ですが、「類は友を呼ぶ」で、保護貿易論者の下には、それ相当のスタッフしか集まらなかったようです。当初の日本やEUに対する関税引き上げなど、勇ましい議論は影を消しています。

欧州は、米国がTPPから離脱したことを「天佑」と見て、一挙に協定をまとめ上げたと言えるでしょう。もう一つ、米国が保護貿易主義に戻ってしまい、日欧が手を携えて自由貿易を守るという使命感も妥結に導いたものでしょう。さらに、EUから英国が離脱すれば、TPPに加入する可能性が高まります。

日本はTPPから米国が抜けた穴を日欧EPAで補いつつ、さらに米抜きTPPの「TPP11」はすでに発効しています。

一方、以前このブログに掲載したように、日欧EPAは、中国に接近しようとするドイツに対する牽制ともなっています。

いずれにせよ、自由貿易協定をめぐる安倍政権の動きは、米国と中国を牽制するだけではなく、混沌とする世界に新たな秩序をもたらし、世界を救うことにつながります。日本のマスコミや野党は全く評価しませんが、これだけをもってしても、素晴らしい成果であるといえます。

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2019年1月30日水曜日

厚労省の無理解が招く「統計不正」お手盛り調査の愚―【私の論評】統計不正は、財務省の緊縮が誘発した(゚д゚)!

厚労省の無理解が招く「統計不正」お手盛り調査の愚
「統計法違反」の調査を”身内”に委ねる信じがたい感覚

第198回通常国会にて施政方針演説を行う安倍首相。「統計不正」は今国会の焦点になりそうだ

 毎月勤労統計の不正調査が問題になっていて、今国会でも与野党で厳しい論戦になりそうだ。

 根本厚労大臣は、国会開催前に素早く調査したが、その調査方法が野党から批判されている。「第三者」による調査が相当あやしいものであることが明らかになってきたのだ。

 そこで、実態が明らかになれば批判を招くのが確実な調査方法を、なぜ厚労省、あるいは厚労省特別監察委員会はとってしまったのだろうか。
国会提出前に予算案が修正される異常事態

 まず、今回の統計不正事件を振り返っておこう。

 今年1月11日の厚労省のホームページ( https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf)によれば、毎月勤労統計において、①全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたこと、②統計的処理として復元すべきところを復元しなかったこと、③調査対象事業所数が公表資料よりも概ね1割程度少なかったことを明らかにしている。

 ①では、毎月勤労統計は従業員500人以上の事業所は全数調査がルールだが、2004年からは、東京都内1400事業所のうち3分の1だけを抽出していたという。

 ②では、2004~2017年の調査で、一部抽出調査であるのに、全数調査としていたために、統計数字が過小になっていた。

 ③では、1996年から全国3万3000事業所を調査すべきを3万事業者しか調査しなかった。ただし、誤差率は実際の回収数を元に算出されていたので、誤差率への影響はないという。

 手続き面からみれば、①~③は、統計法違反ともいえるもので、完全にアウトである。

 実害という観点でいえば、②のために、2004~2017年の統計データが誤っていたということになり、統計の信頼を著しく損なうとともに、雇用給付金等の算出根拠が異なることとなり、この間の追加支給はのべ1900万人以上、総計560億円程度になる。

 これらの措置のために、来年度予算案は修正されている。予算案が国会提出前に修正され閣議決定をやり直すことはちょっと記憶にないほどの異例な事態だ。
あまりに早すぎだった調査報告書の公表

 予算面の金額もさることながら、今回の統計不正により、国家の根幹となる統計数字への国民の信頼が大きく揺らいでいる。筆者のように、データに基づく分析を行う者にとっては、とてもショッキングな出来事だ。

 もっとも、今回の統計不正について、厚労省の対応は驚くほど素早かった。事件発覚後10日ほどのうちに、「第三者委員会」として「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」を立ち上げ、責任の所在の解明を行った。

 1月22日、「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」の報告書を公表(https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000472506.pdf)、関係者の処分を行った( https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000472513.pdf)。

厚労省らしからぬ素早さに驚いていると、「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」そのものやその調査方法に疑惑がでてきた。

 まず、指摘したいのは、本件は統計法違反の案件という点だ。こういう事案であれば、第三者とは告発した先の捜査当局である。まずこれが筋であって、もし告発しないなら、可能な限り捜査当局のような姿に近づけないと第三者とはいえなくなる。

「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」の委員長は樋口美雄氏。この方は慶大出身の学者だが、今は厚労省所管の労働政策研究・研修機構理事長。これでは、外形的に中立性を疑われてしまう。

 労働政策研究・研修機構は独立した行政法人であるが、そのトップは厚労大臣が任命する(独立行政法人通則法第20条)からだ。

 労働政策研究・研修機構は、厚労省からみれば、いわば子会社であり、身内感覚だろう。

 元役人の筆者の感覚では、少なくとも外形的にはもう少し中立的な「第三者」にしないとまずい。思わず笑ってしまうところだ。

 さらに、本件発覚後の「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」によるスピード調査は、あまりに素早すぎて、事実上厚労省がやったのがバレバレだ。

 こうした「委員会」は、実際には事務局である役所がほとんど仕切り、「委員会」の委員はお飾りである。

 それでも外形的にお飾りがバレないように時間をかけて検討し、委員がやった痕跡は残すようにする。

 今回の場合、あまりに早すぎで、10日で調査後、立派な報告書が出てくると、流石に委員ではなく役人がみんなやったのでしょうとなるだろう。

 それが、委員の職員への聴取において、厚労省官房長が職員に質問していたことが発覚し、報道されてしまう。実態は、厚労省が職員への聴取を行う場に、委員が同席させてもらったのだろう。

激減する政府の統計職員数

 なぜこのような無様なことになったのか。筆者の推測では、後で述べるような、今回の統計不正の本質について厚労省幹部がわかっていなかったからだ。

 もし本質がわかっていれば、意図的に時間をかけて対応できる。わかっていないと、国会開催が迫る中、追及されたくないあまり、早く決着を焦り、稚拙な第三者委員会を作り、拙速な調査で関係者処分を行う。つまり、厚労省幹部が国会答弁を上手くできないので、答弁しないで済むように早期決着を目論んだのだ。

 今回の場合、外形的に第三者に疑惑の念なしの委員会を立ち上げ、時間をかけて調査し、国会では、今調査中を連発し、頃合いを見て、調査結果を公表、関係者を処分、今後の予防策を打ち出すのが手筋だ。

 今回の件で、①全数調査ではなく一部抽出は、手続きとしては完全なアウトであるが、正式な手続きを踏めば統計的には正当化ができる。そもそも統計は全数調査ではなく抽出調査でも一定の精度を確保するための学問だ。

 なぜ抽出調査に切り替えざるを得なかったのが今回の問題の本質だ。

 それは、統計業務の人員・予算カットがある。

 まず、日本政府の統計職員数について、国際比較の観点から見てみよう。総務省の資料によれば、国の統計職員数は1940人(2018年4月1日)。省庁別では、農水省613人、総務省584人、経産省245人、厚労省233人、内閣府92人、財務省74人、国交省51人などである。

 なお、2004年でみると、農水省には4674人の統計職員がいたが、農業統計のニーズの減少のため、これまで4000名以上を削減してきた。他の省庁でも、若干の減少である。今回問題になった厚労省は351人の職員だったが、今や233人に減少している。

 日本政府の統計職員数は1940人であるが、これは人口10万人あたり、2人である。2012年でみると、アメリカ4人、イギリス7人、ドイツ3人、フランス10人、カナダ16人であり、日本の現状は必ずしも十分とは言えない。

 どこの世界でも同じだと思うが、統計の世界でも、従事人員の不足は間違いを招くという有名な実例がある。1980年代のイギリスだ。政府全体の統計職員約9000人のうち、2500人(全体の約28%)を削減したところ、1980年代後半になって、国民所得の生産・分配・消費の各部門の所得額が一致せず、経済分析の基礎となる国民所得統計の信頼が失われてしまった。

 日本の統計業務では、人数だけではなく質の問題もある。海外では、統計職員は博士号持ちの専門家が多いが、日本ではまずいない。

 しかも、日本では各省ごとに統計が分散し省庁縦割りだ。そのため、省庁ごとの壁があり、農水省の統計職員の減員分を各省に配分することができなかった。もし横断的な専門組織があれば、統計人員・予算の大幅減少は避けられただろう。

 こうした問題の本質をつかみ、今後の対策として横断的な統計専門部署の創設まで準備しておれば、安心して、第三者委員会での調査に時間がかけられたはずだ。

 このように対応できなかったのは、統計不正問題の本質の把握ができなかった証であり、それこそが重大である。

【私の論評】統計不正は、財務省の緊縮が誘発した(゚д゚)!

今回問題となっている「毎月勤労統計」とは、賃金、労働時間及び雇用の変動を明らかにすることを目的に厚生労働省が実施する調査です(調査の概要と用語の定義はこちらをご覧下さい)。

その前身も含めると大正12年から始まっており、統計法(平成19年法律第53号)に基づき、国の重要な統計調査である基幹統計調査として実施しています。

毎月勤労統計調査は、常用労働者5人以上の事業所を対象として毎月実施する全国調査及び都道府県別に実施する地方調査のほか、常用労働者1~4人の事業所を対象として年1回7月分について特別調査を実施しています。

調査方法は、下の図のようなかたちで行われています。


「毎月勤労統計」に関して、さらに詳細を知りたいかたは以下をクリックしてください。
本来、従業員500人以上の全企業を調査対象にする(全数調査)ところを、東京都では抽出調査にしていたのですが、そこで厚労省は該当の1464事業所のうち491の事業所だけを不適切に抜き出し、調査を済ませていたといいます。これにより実情との誤差が生じ、失業給付などが本来より少なく給付されていたというのです。

この問題が発覚したのは去年12月ですが、不適切な調査は2004年から10年以上に渡って行われており、担当部署にはそれを正当化するような記述を含むマニュアルまで存在しました。

しかしこれも2015年以降に削除され、組織的な隠蔽が図られていた疑いもあります。さらに2016年10月には厚労大臣の名で「全数調査を継続する」旨の書類を総務省に提出。去年1月には"データ補正"も始まり、抽出調査に3を掛けて全数調査に近づけていたとみられています。

しかし先月、総務省統計委員会が「調査結果が不自然」と指摘し、厚労省はついに今月になって不正を公表した。安倍総理は再度調査を行い、過去に遡り給付する方針を示していますが、対象者はのべ2015万人、給付額は合わせて564億円になる見通しで、システム改修などの費用も加えると、総額約795億円がかかる可能性があるといいます。

問題発覚を受け、小泉進次郎厚生労働部会長は「法律を守る意識がないからこういう事案が生まれるのか、それとも法律を守らなければいけないが無理がきて、守らないといけないからといって捻じ曲げて嘘をつき通す形になっているのか。役所自身の責任感を発揮していただきたい」と指摘しています。

今回の件は、厚生労働省統計情報部の中の課の話ですから、そこの部長にも上がっていなかったかもしれないです。だから当然のことながら事務次官も知らず、厚労省で統計に関わっている職員は200人くらいしかいないので、数人の職員しか知らず、課長さえも知らなかった可能性もあります。

ただし、まともな統計の手法でやれば、3分の1の抽出でもほとんど正確に把握できるはずです。元々統計というのは抽出調査をするものです。200万事業所のうち3万件調査するところ、東京だけ1000少なかったにもかかわらず、2万9000で割り算をせず、3万で割っていました。

そこで生じた誤差0.3%〜0.4%分だけ水準が低くなり、それに基づく雇用保険などに過不足が出たのです。2015年の段階で方法を変えるか、もうちょっとお金をかけていれば良かったかもしれません。

今回の件が発生した背景には、まず第一に日本政府の中に数字でやるという風土があまりないことが挙げられます。ほとんどが文系の人ばかりで、"みんな訳わからない"という感じになっているようです。
冒頭の高橋氏の記事にもあるように、海外では統計の部署が横断的な組織になっています。統計はスペシャリストのものですし、博士号を持っている人がやるような仕事になっています。
それに対し日本は各省それぞれが持っているし、この30年農水省だけで統計関連の職員が数千人減っているのですが、縦割りなので減った分を他の省に回すこともできません。日本の統計職員は世界的に見ても少ないし、不安に見えます。だから他にも怪しい統計もある可能性高いです。
実際24日には、厚生労働省が不適切な手法で統計調査を行っていた問題を受けて、政府がほかの統計調査を点検した結果、財務省の「法人企業統計調査」で、本来発表すべきデータの一部を掲載していないミスがあったことが分かりました。

この結果、財務省が、全国の企業およそ3万社を対象に、3か月ごとに業績や設備投資の金額を聞き取る「法人企業統計調査」で、本来発表すべきデータを掲載していないミスがあったことが分かりました。

掲載漏れが見つかったのは、68ある業種区分のうちの「損害保険業」で、平成20年度から29年度までの10年間にわたって、「配当率」、「配当性向」、それに、「内部留保率」の3つが掲載されていませんでした。

財務省では、これら3つのデータは、すでに公表している別のデータから算出可能だとしていて、速やかにホームページに追加して掲載することにしています。

過去に公表した調査結果を修正する必要はないということで、財務省は「二度とこのようなことがないよう再発防止に努める」としています。

今後、厚労省は弁護士など第三者からなる特別監察委員会を開き、事実関係を調べる方針ですが、弁護士で良いのでしょうか。彼らも、統計のプロではありません。やはり、統計の専門家を特別監査委員会に加えるべきです。
それにしても、十数年続いた統計不正問題を見つけた政権や大臣が責任とらさられるなら、もう誰も問題を暴こうとしなくなるでしょう。朝日新聞や野党の安倍叩きのもたらす弊害は深刻です。

しかも批判するなら上記のように、予算を削って、統計に関わる人々を少なくしてしまった財務省の緊縮主義が筆頭にあげられるべきなのに、そこはなぜか無視です。彼らも、問題の本質がわかっていないのでしょう。

勤労統計不正の背景には、現状では担当部署が予算が少なく、しかも初歩的な統計知識ない人材しか育成できておらず、そうなってしまったのはこの20数年の財務省の緊縮主義があると理解すべきです。その緊縮主義に加担してきた経済学者たちやメディアが今更騒いでいるのは滑稽ですらあります。

これは何やら、金融緩和が雇用と密接に結びついているということを理解しない人が日本には多いということ、デフレや、景気が悪いときには、緊縮財政ではなく積極財政をすべきことなどという経済の常識とも共通点があると思います。

文系だろうが、理系だろうが、長期の数字の動きと、短期の数字の動きをみる習慣があれば、このようなこともすぐ理解できるはずです。

政治家や官僚などは、高等数学は知らなくても良いですが、少なくとも様々な統計数字、最低5個くらいは、その数字の動きとその意味するところを知る努力は欠かすべきではないです。

それすらできない人は、政治家や、官僚、報道人、学者などになるべきではないです。これらの人が数字ではなく、情緒でものを語っても無意味ですし、馬鹿をさらけ出すことになるだけです。

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2019年1月29日火曜日

米、ファーウェイ副会長起訴 身柄引き渡し正式要請へ―【私の論評】米中の閣僚級通商協議は決裂するのが確実か?

米、ファーウェイ副会長起訴 身柄引き渡し正式要請へ

保釈された孟晩舟

 米司法省は28日、米国の要請でカナダ当局が逮捕した中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の孟晩舟(もう・ばんしゅう)副会長兼最高財務責任者(CFO)をニューヨークの連邦大陪審が起訴したと発表した。同省は起訴を受け、孟被告の身柄引き渡しをカナダ当局に正式要請すると表明。カナダ公共放送は同日、同国の司法省が米政府から正式要請を受け取ったと報道した。米中両政府は30、31日にワシントンで閣僚級貿易協議を予定しており、米中関係のさらなる緊迫は確実だ。

 起訴状によると孟被告は、米政府による対イラン独自制裁に違反し、イランにある華為の関連会社「スカイコム」を通じてイランと商取引を展開。また、一連の制裁違反を隠蔽(いんぺい)するため、2007年ごろから米金融機関に虚偽の説明をしたとして詐欺などの罪に問われている。スカイコムと中国の華為本社、同社の米関連会社も起訴された。

 孟被告は昨年12月にカナダ当局に逮捕され、現在は保釈されている。米国とカナダの間で取り決められている引き渡し要請の期限は今月30日で、米国の正式要請を受けてカナダの裁判所が可否を判断する。

 司法省はまた、華為が米携帯電話大手「Tモバイル」からスマートフォンの品質試験を行うロボットの技術を盗み出した罪で、ワシントン州シアトルの連邦大陪審が華為の関連会社2社を起訴したと発表した。

 このロボットは「タッピー」と呼ばれ、人間の指を模した装置でスマホ画面の反応などを測定する。華為はTモバイルと業務提携していた14年ごろ、自社の社員を同社に潜入させ、ロボットの写真を無断で撮影したほか、指状の装置部分をひそかに取り外して盗み出そうとした。

 ロス商務長官はこの日、司法省で行われた記者会見で「嘘やいんちき、窃盗は適切な企業の成長戦略ではない」と強く批判。レイ連邦捜査局(FBI)長官も同じ記者会見で「米国の法を破り、司法妨害をし、米国の安全保障を危険にさらす企業をFBIは決して許さない」と強調した。

【私の論評】米中の閣僚級通商協議は決裂するのが確実か?

昨年4月16日、米国は、中国通信大手ZTEに対して、制裁違反を理由として、7年間の米国内販売禁止と米国企業によるソフトウェアとハードウェアの販売を禁じる命令を出しました。

これにより、スマートフォン北米市場でシェア4位だったZTEは事実上の事業停止状態に追い込まれました。現在、通信業界では次世代規格である5Gの規格決定と基地局などインフラ整備のテストと準備が始まっていますが、この処置によりZTEは次世代規格に加われなくなりました。

基本的に、現在のスマートフォンは米国企業が持つ特許なしには製造できません。なぜなら、現在のスマートフォンは、グーグルのアンドロイドもしくはアップルのiOSなしでは成立しないからです。また、通信チップもクアルコムやインテルなどがその中核を占めており、チップ供給なしではスマートフォンを生産することは不可能なのです。

そして、米国は中国の最大手通信機器企業であるファーウェイにもその捜査の手を伸ばしていました。ファーウェイは中国人民軍の工兵部隊出身者が創業者であり、中国政府や中国人民軍とかかわりの深い企業です。



実際に、2012年10月、米連邦議会下院の諜報委員会 は、ファーウェイとZTE社の製品について、中国人民解放軍や中国共産党公安部門と癒着し、スパイ行為やサイバー攻撃のためのインフラの構築を行っている疑いが強いとする調査結果を発表し、両社の製品を合衆国政府の調達品から排除し、民間企業でも取引の自粛を求める勧告を出していました。

この二社は昨年、米国の制裁対象になりました。実はこれに先立ち、昨年3月7日、米国財務省は、シンガポールに本社を置く半導体企業であるブロードコムによるクワルコム買収に懸念を示す声明を出していました。

ブロードコム、クワルコムともに通信チップの有力企業であり、ブロードコムはもともと米国企業であるが、華僑資本などによる買収により二大本社体制をとっている企業です。財務省はその理由を安全保障上の理由としている。

安全保障を考えた場合、通信は非常に重要な意味を持つ技術であり、これを他国に奪われることは非常に危険といってよいです。だからこそ、今回の処分となったといえます。

また、これは米国の反撃の始まりに過ぎないものでした。米国は中国への経済制裁をかけるにあたり、安全保障と知的財産権を大きな要素として挙げています。現在、米国が覇権国家の地位を維持できるのは、豊富な知的財産権とそれを前提にしたルール作りをできるからです。

当然、これを害するもの、それも不正な方法で害するものが出てくれば、相手が対抗できる存在になる前に潰すのが王道であり、今ならそれが可能です。

中国は他国企業の技術移転と技術を持つ多数の企業の買収により、一気に技術レベルを上げています。そして、このままでは世界の技術的主導権を握られる恐れすらあるわけです。

しかし、現在の中国は物を生産できても、その規格作りやチップなどキーパーツや生産機械の製造までは出来ないです。つまり、米国にとって、中国を潰すには今しかないのです。

規格作りやチップなどキーパーツや生産機械の製造まで、手がけるようになり、さらにそれを世界中に販売する力を持てば、これは米国でもなかなか潰すことはできません。

そうした中で、ファーウェイの孟晩舟(もう・ばんしゅう)副会長兼最高財務責任者(CFO)が昨年カナダ当局により逮捕され、さらに本日はニューヨークの連邦大陪審が孟氏を起訴しました。

米国最高裁

起訴を受け、首都ワシントンで30日から始まる米中の閣僚級通商協議は難航しそうです。中国の劉鶴副首相は米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表ら米高官と会談します。

米国側は中国に対して技術移転強要の中止や知的財産権の保護を求めています。一方、中国側はトランプ米政権に対して輸入関税の撤廃を求めています。

米国と中国の当局者は孟副会長の起訴を通商協議と切り離す意向を示しています。しかし米司法省が断固とした態度に出た以上、この問題を素通りするのは難しいでしょう。

さらに、米国議会の動きもあります。そもそも、米議会は7年も前から、中国を警戒してきました。米国議会の政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」は2012年2月15日日、公聴会を開き、中国の大手国有企業の対米活動について論議をしました。議員から、透明性を欠いたまま、政府の意向を体現しようとする国有企業の実態が報告され、最新軍事技術の流出の可能性も含め、警戒論が相次ぎました。

米下院情報特別委員会は2012年10月8日、中国の大手通信機器企業の活動が米国の国家安全保障への脅威になるとする調査報告書を発表、これら企業は中国共産党や人民解放軍と密接につながり、対米スパイ工作にまでかかわるなどと指摘しました。

当時問題視された中国企業は、米市場でも製品などが広く流通している「華為技術」と「中興通訊(ZTE)」。報告書ではまず、両社の中国の党、政府、軍との特別な関係を挙げ、それぞれ社内に共産党委員会が存在し、企業全体が同党の意思で動くとしました。

このようにファーウェイは米国側からは7年も前から超党派でスパイ工作の疑惑を指摘されていたのです。

米国議会

さらに、米議会の超党派議員は今月16日、華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)を含む中国の通信機器関連企業が、米国の制裁措置、もしくは輸出制限措置に違反した場合、米国の半導体やその他の部品の販売を禁止する法案を提出しました。

法案を提出したのは共和党のトム・コットン上院議員とマイク・ギャラハー下院議員のほか、民主党のクリス・バン・ホーレン上院議員とルーベン・ガレゴ下院議員。

同法案は米国の制裁措置、もしくは輸出制限措置に違反する中国の通信機器企業に対する米国の部品の輸出を大統領が禁止することを要求するもので、ファーウェイとZTEを名指ししています。

コットン議員は声明で「ファーウェイは事実上、中国共産党の情報収集機関だ」と指摘。「ファーウェイのような中国の通信機器メーカーが米国の制裁措置、もしくは輸出制限措置に違反した場合、死刑に値する措置を受ける必要がある」としました。

このように、司法も議会もファーウェイに対しては、かなり厳しい見方をし、断固とした態度に出た以上、トランプ政権はこの問題は素通りできないです。

通商協議はおそらく決裂し、トランプ大統領がさほど間を置かずに怒りのツイートを発することでしょう。実際、昨年5月には共同声明で中国が米農産物やエネルギーの輸入拡大に合意し、知財権の重要性を認めたにもかかわらず、数日後にトランプ大統領はこの枠組みを拒否していました

これでは、30日から始まる米中の閣僚級通商協議は決裂するのが最初から決まっているようなものです。そうして、米国の対中冷戦は次の次元に入っていくのは確実です。

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