2020年9月30日水曜日

菅首相の徹底した“情報収集術” 高い処理能力と速い政治決断、官僚はこれまでにない緊張感 ―【私の論評】菅総理の卓越した情報収集力に、マスコミも大緊張を強いられることになる(゚д゚)!

 菅首相の徹底した“情報収集術” 高い処理能力と速い政治決断、官僚はこれまでにない緊張感 

高橋洋一 日本の解き方

9月26日 福島を訪問した菅総理(左)

 菅義偉首相が連日、有識者と会食していることが話題になっている。菅氏はどのように情報収集し、どのように政治判断につなげるのだろうか。

 仁徳天皇の逸話にあるが、高台に登って国を見渡し、民家のかまどに煙が立っていなければ、民が貧しいと判断した。そして、3年間の徴税をやめた。

 政治家の仕事も、国民の声を拾って、政策として実現することだ。

 情報収集のやり方は政治家それぞれだが、菅首相は、役所の統計だけではなく、自ら集めた生の声を重視している。そして政治家としてこの情報収集にかなりの時間を割いている。その際、聞き上手でもっぱら聞き役に徹しているようだ。さらに、複数の異なるタイプの情報ソースを持ち、相互チェックもしているようだ。

 ある役人から聞いたことだが、資料を渡して、歩きながら説明しても、菅首相の目はしっかりと資料を見ており、しかも説明より先を見て、説明者が追い付かなかったという。

 資料全体を一瞬で読み込み、理解する人は、いわゆる仕事のできる人によく見かけるタイプで、情報処理能力の極めて高い人だ。

 こういう人は、一度聞いた説明を忘れない。そして、仕事の進捗(しんちょく)プランができているので、その後チェックして、適切に対応できているかを確認し、状況に応じて、政治決断をする。どんな職場にもいるが、仕事のできる幹部そのものだ。


 政治決断の結果は、それまで作業に当たっていた人の思惑とは異なっているかもしれない。もっと時間をかけて慎重に検討したいと思っていても、幹部の要求はもっと早くやるというものかもしれない。

 政治決断の結果、一定の成果を得るためには、担当する人を変えることもあるかもしれない。それは民間企業でもよくある話だ。そういう意味では、これまでの政治家にはない仕事への厳しさがあるのではないか。

 筆者のこれまでの印象では、菅首相はいろいろと話は聞くが、決断は速いと思う。話の途中でも決断し、すぐに指示を出すことも珍しくない。

 しかも、菅首相は官房長官を歴代最高の7年以上も務めた。首相に上がる情報は原則官房長官にも上がり、その過程で霞が関幹部官僚の大半の能力を把握し、頭の中に整理しているはずだ。

 官僚にとって、霞が関の人的情報を含めて各種の情報収集にたけ、政治決断の早い首相は、頼りがいもあるが、思い通りにならないという怖い側面もあるだろう。

 これまでの首相は、みこしに担がれ、比較的官僚には優しく、言いなりになる人が多かった。しかし、菅首相はたたき上げであり、仕事の成果を求め、決して官僚の言いなりにならないし、卓越した情報収集能力がある。

 官僚の間にはこれまでにない緊張感があるのではないか。その緊張感が官僚の良い仕事につながれば何よりだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】菅総理の卓越した情報収集力に、マスコミも大緊張を強いられることになる(゚д゚)!

ドラッカー氏

上の記事で、高橋洋一氏は、徹底した“情報収集術”と、高い処理能力と速い政治決断について述べています。情報について、経営学の大家ドラッカー氏は以下のように主張しています。
データそのものは情報ではない。情報の原石にすぎない。原石にすぎないデータが情報となるには、目的のために体系化され、具体的な仕事に向けられ、意思決定に使われなければならない。(『未来への決断』)
情報の専門家とは道具をつくる者です。ところが道具として、いかなる情報を、何のために、いかにして使うかを決めるのは、ユーザーです。ユーザー自身が、情報に精通しなければならないです。

ほとんどの政治家が、情報が自らの意思決定に対して持つ意味を考えていないようです。したがって、情報をいかに入手するか、いかに検証するか、既存の情報システムといかに統合するかが、今日最大の問題です。

かつては、とにかく情報を持つことが勝利への道でしたた。軍隊でも企業でも同じでしたた。ところが、情報革命により、情報が氾濫しました。今では、誰でもクリックするだけで、世界中のあらゆることについて情報を得られます。

その結果、情報力とは、情報を入手する力ではなく、情報を解釈して利用する力を意味することになりました。情報のユーザー自身が、情報の専門家にならなければならなくなりました。情報もまた、ほかのあらゆるものと同じく、使われて初めて意味を持ちます。
コンピュータを扱う人たちは、いまだにより速いスピードとより大きなメモリーに関心をもつ。しかし、問題はもはや技術的なものではない。いかにデータを利用可能な情報に転化するかである(『未来への決断』)
データに詳しくなることと、情報に精通することは違う、とドラッカーは主張しているのです。そうして、それを見分けるのに重要なのは、次の2つの問いに答えられるようになることだとしています。

1つは、企業経営者として(菅総理なら総理として)いかなる情報を必要とするか、もう1つは、自分個人としていかなる情報を必要とするか、で。

そうして、これらの問いに的確に答えるには、次の3つの点を真剣に考え抜かなければならない、としています。

第1点は、自分の職務とその本質は一体、何なのか、そして本来どうあるべきか。
第2点は、自分が寄与貢献できるのは何であり、また何であるべきか。
第3点は、自分の関わっている組織の基礎(ファンダメンタルズ)をつくる事柄は一体、何か。

以上の3点に関する、それぞれ異なった型の情報が必要であり、それらを別個に、独自のコンセプトでもってバックアップしておかなければならないのです。

それには外部の情報、内部の情報、そして組織を超えた情報、この3つを押さえることが重要になる、とドラッカーは言います。

さらには、組織としての成功も、自分個人としての成功も、すべてこの3問に的確に答え得るかにかかっている、と喝破します。

単なるデータ」に詳しいことから、「本当に必要な情報」に詳しくなるためには、上記の3つの問いに十分答えられるようにすることが必要不可欠であり、21世紀のマネジメントの真のあり方だとして、ドラッカーは重視しています。

菅氏は、このようなデータと情報の違いを長い間の経験から、熟知しているのだと思います。だからこそ、菅首相は、役所の統計だけではなく、自ら集めた生の声を重視しているのでしょう。

総理になる前から、このようなことを垣間見ることができた事例があります。

菅官房長官(当時)は昨年5月9日から12日の日程でアメリカ・ワシントンとニューヨークを訪問しました。危機管理を担う官房長官の外遊は“異例“で、歴代の官房長官を見ても平成以降は米国本土への外遊はなく、ホワイトハウスにまで乗り込んだ菅長官訪米は、まさに異例中の異例でした。

菅長官が会談した相手はペンス副大統領、ポンペオ国務長官、次期国防長官に指名されていたシャナハン国防長官代行といったトランプ政権のまさに中枢の面々で、北朝鮮情勢や拉致問題などについて意見交換を行いました。

菅官房長官(当時)とペンス副大統領(昨年5月10日 ワシントンDC)

この中で特筆したいのは、国務長官や国防長官といった閣僚だけではなく、政権ナンバー2のペンス副大統領が菅長官をホワイトハウスに迎え入れ会談したことです。ペンス副大統領が面会をする相手は各国の首脳級に限られ、閣僚クラスの面会はなかなか実現しないといわれていました。

菅氏が意識していたかは別にして、副大統領はポスト安倍を意識していたはずです。菅長官は、ペンス副大統領ら会談相手と「次もまた会おう」と約束したといいます。早速、6月にシャナハン国防長官代行が来日する際には表敬訪問を受けました。

元々、菅氏本人と、側近には米国に太いパイプ持つとされています。このパイプと菅氏自身の情報分析力が、このときにも生かされたと思います。

菅総理は、高い情報収集力を活かし、安倍前総理大臣にも匹敵するような、それでいて菅氏独自の外交を展開することも期待できます。

それにしても、日本のマスコミは相変わらず、どうしようもありません。安倍前総理が、現役で総理大臣をしていたときには、安倍外交を無視して(最悪は安全保障のダイヤモンド構想を報道しなかったので日本人で知らない人が未だに多い)ほとんど報道しなかったのですが、総理が菅氏に変わると、途端に安倍外交は良かったが、菅外交は心もとないなどと批判しています。

そのマスコミは、菅政権誕生の直前には、安倍政権の転換を求める報道をしていました。しかし、これはおかしなことです。安倍総理は、選挙で負けたわけではありません。あくまで病気で退いたのです。であれば、後継政権は、まずは安倍政権の政策を踏襲し発展させていくのが筋です。

今後選挙で、菅総理が安倍政権とは異なる政策をかがげて、大勝利したというならばともかく、マスコミが安倍政治の転換を求めるのは筋違いです。それでは、安倍政権を選挙という民主的手続きで、継続させた民意にそむくことになります。

特に、マスコミの情報収集力は格段に低いです。それは、トランプ大統領の登場を予測できなかったことでもはっきりしました。マスコミはとにかく「時の権力と対峙する」のが自分の仕事であると思っているようで、データを利用可能な情報に転化することができず、反権力を是とする、些末なデータばかり収集し、それに基づき報道するだけで、誰にとっても役にたたない存在になってしまいました。今のマスコミの報道は、野党にとってすら役にたたないと思います。

そのようなことをしているうちに、情報収集に長けた菅総理には、マスコミにとってこれまでにない緊張感を強いられることになりそうです。それはなぜかといえば、菅総理が官房長官だったときの、記者会見にもみられるように、マスコミは自分でも気づかないうちに、かなり低能力化していて、くだらない質問をいなすことが、度々ありましたが今度は官邸VSマスコミという構図に変わるからです。


その緊張感がマスコミの良い仕事につながれば何よりですが、まずは無理でしょう。現在のマスコミの記者の能力は地に落ちました。私は、マスコミは左よりというよりは、下(特に能力)なのだと思っています。これからも、マスコミは見当違いの愚かな報道を繰り返し、一部の老人には受け入れられるでしょうが、やはり情報収集に長けた大学生、高校生、中学生などの若者に馬鹿にされ、新聞は購読されなくなり、テレビもみられなくなり、ますます衰退していくことでしょう。

【関連記事】

2020年9月29日火曜日

南シナ海の人工島造成戦略を太平洋諸国に向ける中国―【私の論評】南シナ海の中国軍事基地は、何の富も生まず軍事的にも象徴的な意味しかないのに中国は太平洋でその愚を繰りすのか(゚д゚)!

 南シナ海の人工島造成戦略を太平洋諸国に向ける中国

岡崎研究所

 オーストラリアの海洋・環境関係コンサルタントのスティーブ・ライメイカーズが、中国が人工島造成戦略を、南シナ海からさらに南太平洋に拡大しているとの趣旨の論説を、9月11日付のオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)のサイトに寄稿している。


 南太平洋は、中国と台湾による外交関係の争奪戦の前線である。現時点で中国と外交関係を樹立した国が10、台湾と外交関係を持つ国が4である。中国と外交関係を持つ国のうち、ソロモン諸島とキリバスは昨年9月に相次いで外交関係を台湾から中国に切り替えた。キリバスについては、前任のトン大統領の時代の2003年に台湾と外交関係を樹立したが、マーマウ大統領(2016年以来現職、今年6月に再選を果たし現在2期目)が中国との外交関係に戻したという経緯がある。彼は親中国である。今年1月には北京を訪問した。

 マーマウは、気候変動への対応について前任のトンとは著しく異なる立場を取っている。トンは気候変動によって水没の危機に晒されるキリバスの実情について世界を啓発することに力を注ぎ、浮体の人工島を構想してみたり、フィジーの島を購入して国民の移住を始めたりもしたらしい。しかし、マーマウは気候変動に適応するという立場である。彼は、2017年にボンの気候変動会議で演説し、「気候変動は確かに深刻な問題であるが、我々はキリバスがタイタニックのように沈没するとは信じない。我々の美しい国は神の手によって作られたのだ」と述べたが、彼は気候変動と戦うことを世界に求めるのではなく、キリバスを「太平洋のドバイ」にする開発計画への協力を求めたという訳である。その手段がライメイカーズの論説にある、中国によるタワラ環礁とキリティマティ環礁に予定されている2つの港の建設である。「美しい国」キリバスのサンゴ礁が、この巨大工事によって深刻な打撃を受けることは、誰の眼にも明らかである。

 「太平洋のドバイ」を太平洋の真ん中に作るというのは現実離れしているが、ラグーンを浚渫し、その土砂で土地をかさ上げして造成し、そこに港を作ることはその道の専門家に言わせれば技術的には可能なことらしい。この構想に協力する国があるとすれば、中国しかないであろう。中国のことだから南シナ海で用済みとなった浚渫船を動員して 2、3年でやってのけるかも知れない。

 ソロモン諸島の首相も昨年10月に北京を訪問し、「一帯一路」、中国によるスタジアム建設、中国企業によるインフラ建設などの合意が発表された。中国の企業が地元政府からツラギ島全体をリースする契約をしたとされ一時物議を醸したが、これは一端政府によって無効とされたらしい。

 もう一つ、ライメイカーズは、フランス領ポリネシアに注意を喚起している。この中国による投資プロジェクトは、養殖場を作り既に存在する滑走路を使って水産物を中国に輸出するというものであるが、既に3年前に取沙汰されていた。その後どうなったのか、論説が言及しているリース契約を含めプロジェクトの現状はどうなっているか。

 南太平洋の諸国が脆弱で中国に取り込まれる危険が常にあることは明白である。中国の資金援助によって作られる施設やインフラがいつの間にか軍事目的に転用され、米国や豪州の軍事的な行動の障害になり得る危険があることも、ライメイカーズが指摘する通りであろう。しかし、中国にとって南太平洋は南シナ海とは決定的に異なる。戦略的な緊急性はないと言って良い。現時点では南太平洋での影響力拡大の努力がどれ程の将来を睨んだ軍事的な下心があってのことか確かなことは言い得ない。妙案はなく、平凡な結論にしかならないが、豪州および米国、日本は警戒を怠らないことはもとよりとして、これら諸国との対話に配慮し、彼等の経済開発と気候変動対策のニーズに極力応えるしかないであろう。

【私の論評】南シナ海の中国軍事基地は、何の富も生まず、軍事的にも象徴的な意味しかないのに中国は太平洋でその愚を繰りすのか(゚д゚)!

米国の戦略家ルトワック氏は、南シナ海の中国の軍事基地は、象徴的な意味しかなく、米軍なら5分で吹き飛ばせると語っていました。

この言葉の裏には、米海軍の中国に対する圧倒的な優位性があります。それは、このブログでも何度か述べてきました。

米軍は、圧倒的に優れた世界一の哨戒能力(潜水艦や、空母など艦艇を、航空機を探索する能力)を持つにもかかわず、中国はかなり劣っています。それ加えて、米軍の原潜は、中国の原潜と比較すると、ステルス性も、攻撃力も段違いに優れています。

米バージニア級攻撃型原潜

中国が超音速対艦ミサイルを持っていたとしても、宇宙兵器を開発したとしても、発見することが困難な相手には無意味です。

これでは、目の見えない人間と、目の見える人間の戦いのようなもので、中国には全く勝ち目がありません。中国の潜水艦、艦艇、航空機などは、戦端が開かれてすぐに、魚雷やミサイルで狙い撃ちされ、撃沈・撃破されるでしょう。その一方で中国人民解放軍は、米原潜を発見することは困難なのです。

その後、米原潜が南シナ海の中国の軍事基地を封鎖すれば、南シナ海の中国軍は、食糧、水、燃料などを補給することができず、お手上げになるだけです。

28日、中国の人民解放軍が4つの海域で同時に軍事演習を実施しました。台湾とアメリカをけん制する狙いがあるとみられますが、現状の軍事力の米中の質の差を考えると、このような演習にどのような意味があるのか、疑問符がつきます。

28日、中国の人民解放軍が軍事演習を行ったのは南シナ海と東シナ海、黄海南部、渤海の4つの海域です。このうち黄海南部では30日まで毎日午前8時から午後6時まで軍事演習が行われるとして、中国の海事局は演習期間の周辺海域の船舶の航行禁止を発表しました。


二隻のまともに着艦出来ない空母と、空母を守れない護衛艦(米原潜を発見できないのですぐに撃沈されるの意味)、居場所通知機能付き(すぐに米軍に発見されるの意)の潜水艦で演習したとしても、ほとんど意味がありません。逆にこれだけ、中国の艦艇が集まる機会はないので、今の段階で米原潜が中国の海軍力を根絶できるチャンスだったともいえるかもしれません。

無論、米軍もこの機会を無駄にはしなかったでしょう。どのような演習をしたかを探索するのは無論のこと、中国の潜水艦の音紋を収集したり、空母や艦艇の能力を推し量ったり、場合によっては、中国艦艇や原潜を米原潜で撃沈するシミレーションも行ったことでしょう。

南シナ海の中国軍基地は、中国経済にも甚大な悪影響を与えつつあります。中国はいま、南シナ海の8つの環礁を埋めたて、軍事基地化しています。スプラトリー諸島の3つの環礁(スービ礁、ミスチーフ礁、ファイアリークロス礁)を埋め立て3000メートル級の滑走路を作り、そのほかの4つの環礁(ガベン礁、クアテロン礁、ヒューズ礁、ジョンソン南礁)にはレーダー施設を作っています。

さらにパラセル諸島のウッディー島には対艦ミサイルと長距離地対空ミサイルも配備しています。中国共産党は、南シナ海全体の制空権・制海権を確保し、中国のコントロール下に置くためには、どれほど「シーパワー」が必要かは見当もつかないようです。これには、おそらく軍事費を毎年10%以上拡大し続けてもまだ間に合わない軍事力、装備、要員の拡大が必要です。

経済が萎縮し、格差が拡大し、人民の不満が高まり、国内は一触即発の治安状況にあるなかで、どれだけシーパワーに国家資金を投入し続けることが可能なのでしょうか。

中国にとっての南シナ海は、北朝鮮にとっての核・ミサイルと同じような存在で、国の面子を取り繕うために南シナ海の領有権を主張し、一度主張したことは絶対に取り下げたり、変更することはできません。

しかし、その南シナ海の維持管理のための莫大の国家予算を、人民生活の向上に使えばどれだけの貧困層が救われるか、少し考えれば分かりきったことです。北朝鮮の核やミサイルは、ただ単に金正恩のための「使われない玩具」としての価値しかなく、金正恩がもてあそぶ「高価な玩具」のために、その下の人民は飢えと寒さでいずれ皆消滅する危機に瀕しています。

同じように中国にとって、第一列島線のなかの東シナ海・南シナ海全体を囲いこみ、人口島建設や制空・制海権を確立しようという目的は、この海域に戦略核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を潜航させ、米国に代わる世界覇権を確立するための世界戦略の一環として南シナ海を中国の内海にすることです。

しかし、そうした戦略核や原潜の存在を誇示し、「シーパーワー」の力を見せ付けるが日が実現できたとしても、世界の国々と人類が中国の覇権に従うことはおそらくないでしょう。なぜなら「海洋パワー」になれない中国は、超大国にはなることはできないからです。

したがって南シナ海は、今のところ領土的にも資源的にも何の価値もなく、絶海の孤島の「リゾート基地」として、ただ兵士の休養と暇つぶし以外には何の役にも立ちません。ところが、そのような無駄な軍事基地を守るために、国費のなかから莫大な維持管理費をかける一方で、その日の生活の糧にも困っている大陸本土の億単位の貧困層は無残にも取り残され、政治から無視され続けているのです。

中国から南シナ海の埋め立て環礁への試験飛行した時の旅客機のキャビンアテンダント 2016年

少しでも頭を働かせて考えてみれば誰にでも分かることですが、南シナ海全域の管轄権を維持するためには、人員の交代や補給などで、無数の艦船と航空機を本土との間で往復させ、そのやりくりのために大量の燃料を駄々漏れ状態で無駄使いすることになります。

埋め立てでできた島は侵食されやすく、様々な機器も常に潮風にさらされるため、これらをメンテナンスし続けていくためにも、膨大な費用がかかります。中国の軍事基地は、南シナ海に存在するだけで、膨大な金食い虫になるのです。

中国は、南シナ海に原子炉を設置して、この問題を解決しようとしているようではありますが、たとえそれが成功していたにしても、航空機や艦艇の多くは電気ではなく、燃料を必要とします。基地の電灯や、その他電力で動く機器などの電力の心配はなくなるかもしれませんが、それ以外は補給に頼るしかありません。

水に関しては、原潜のように原子炉のエネルギーにより作り出すことができるかもしれませんが、何よりも小さな島では、農業や牧畜などもできず、兵士の食糧は補給以外にありません。また、定期的に交代させる必要もあります。

人工島を作っても経済・軍事的には何の価値も生み出さない一方で、貴重な珊瑚礁の自然を埋め立てることによって、海洋生物や天然資源を再生不可能なまでに破壊し、周辺海域の汚染を広げる結果をもたらしています。

日本の自然保護団体やグリーンピースや、シーシェパードが抗議運動などでこの海域に出没しないのが不思議です。そうすれば、彼らは人民解放軍に拿捕されたり、攻撃されるのを恐れているのかもしれません。無論、それ以外にも理由はありそうですが・・・・。

太平洋諸国でも、中国は同じことを繰り返そうとしています。愚かとしか言いようがありません。中共は自ら弱体化の道を歩んでいるようです。

【関連記事】

2020年9月28日月曜日

米軍「全面撤退」で20年のアフガン紛争に終止符か―【私の論評】トランプの目的はアフガンの「和平」ではなく、米軍の駐留を終わりにすること(゚д゚)!

米軍「全面撤退」で20年のアフガン紛争に終止符か

岡崎研究所

 9月12日、カタールの首都ドーハでタリバンとアフガニスタン政府代表のアフガン和平交渉が始まった。これまでの長い経緯を考えれば、交渉が始まったこと自体アフガンの和平に向けた大きな前進と言える。



 元来会談は3月10日に始まる予定であったが、ガニ大統領がタリバンの捕虜の釈放を渋り、反発したタリバンが政府軍への攻勢を強めたため、交渉開始が遅れていたものである。

 タリバンとアフガン政府代表の会談に先立ち、米国とタリバンが2月にドーハで会談し和平合意を達成している。そこでアフガン政府がタリバンの捕虜5,000人を、タリバンがアフガン政府軍の捕虜1,000人を釈放することが合意された。

 アフガン政府抜きで交渉が行われたことはアフガン政府にとっては屈辱的なことであったろうが、アフガンでの現状を反映したものであった。ガニ大統領はタリバンの5,000人の捕虜、特にそのうちの400人の重罪捕虜の釈放を渋った。おそらく米国のハリルザド特使の説得があったのであろうが、ガニ大統領は400人の重罪捕虜の釈放については、国民大会議(ロヤ・ジルガ)の判断を仰ぐとの決定をし、国民大会議が9月10日にようやく釈放の決定をしたものである。

 今回のアフガン和平交渉を推進したのはトランプ大統領であった。トランプは2016年の大統領選挙でシリア、イラクに加えてアフガニスタンからの米軍撤兵を公約に掲げ、そのためアフガンでの和平交渉を推進しようとした。

 トランプはまず駐アフガン米兵を12,000人から8,600人に削減し、ついで11月までに4,500人まで削減することを決定した。2月のタリバンとの和平会談で、タリバンがアフガン国土をテロ攻撃に使わないという約束をすれば、米軍とNATO加盟国の軍を14か月以内に(来年4月ごろ)完全撤収することに合意した。

 これは二つのことを意味する。一つはトランプの当初の希望にもかかわらず、大統領選挙までの完全撤退はないということである。トランプも現実を認めたことになる。

 第二は、タリバンが約束を守れば米軍が完全撤退することである。米国政府の中には、アフガンの治安部隊の訓練のため4,000人前後の米兵は残すべきであるという見解があったが、その見解は採用されなかったことになる。米国はもしタリバンが約束を破ったら完全撤退はすべきでない、という意見もあるが、タリバンから見れば、約束を守れば14か月以内に米軍とNATO軍が完全撤退することが合意されているので、来年4月ごろまで約束を守るようにするのではないだろうか。

 もしバイデン大統領が実現したらどうなるか。バイデンは以前からアルカイダの復活を阻止するために小規模なテロ対策部隊は残すべきであるとの見解を持っていたことで知られている。バイデンは以前から米国のアフガンに対するコミットメントには懐疑的であったので、仮に完全撤退となっても反対はしないのではないかと思われる。その背景は米国世論のアフガン疲れである。9.11直後は、アルカイダ撲滅のためアフガンへの軍事攻撃を全面支持したが、その後アフガンの米国にとっての重要性が急速に薄れたこともあり、米国世論は米軍の全面撤退を支持するだろう。

 タリバンとアフガン政府の交渉は当然のことながら難航することが予想される。アフガン政府は統治の形態をめぐって、たとえば民主的選挙と女性の権利を定めた憲法を受け入れなければならないと主張し、タリバンは難色を示すだろう。合意の成立が容易でないことは周知の事実である。しかし、交渉が始まったこと自体画期的で、軍事的解決の選択肢がない以上、何とか妥協点を見出すための努力が行われ、米国や関係国も支援の手を指し伸ばすこととなるだろう。

【私の論評】トランプの目的はアフガンの「和平」ではなく、米軍の駐留を終わりにすること(゚д゚)!

アフガニスタンに米軍が駐留して、長い間戦争をしていることは多くの人がご存じだと思います。しかし、そのきっかけが何だったのかという詳しいことになると、日本では知られていないというか、もう19年も続いているので、関心もなく、風化しているというのが実情でしょう。

以下に現在のアフガニスタン戦争がどのように始まり、どのような経過をたどり現在に至っているのか簡単に整理しておきます。

9.11同時多発テロ

2001年、9.11同時多発テロが起きるとアメリカ合衆国のブッシュ大統領は直ちにビン=ラディンらアルカーイダの犯行と断定し、その引き渡しをアフガニスタンのターリバーン政権に要求しました。

米国は、ターリバーン政権の拒否を見越して武力行使を準備、周辺国への根回しを開始しました。また国連安全保障理事会、NATO、EUなども次々とテロへの非難決議を採択し、ロシア・中国を含む60ヵ国以上がアメリカ合衆国を支持する声明を発しました。

一方でブッシュ大統領は、この戦いはイスラーム教徒を相手にする十字軍の戦い「クルセード」と表明し、世界各地のイスラーム教徒の反発が起きたため発言を取り消したが、イスラーム圏では反米暴動が各地で起きました。

10月7日、米・英軍(有志連合)はインド洋の艦船から戦闘爆撃機による攻撃を開始、また潜水艦から巡航ミサイルを発射して、カーブルのターリバーン政権中枢やアルカーイダの訓練所などの空爆を開始しました。

この空爆でアフガンに投下された爆弾は、第二次世界大戦中、1941年から42年のロンドン大空襲でドイツ軍が投下した爆弾の半分に相当する1万トンに達しました。空爆に加えて、武器や砲弾の援助を受けた反ターリバーンの「北部同盟」が攻勢に出て、マザリシャリフ、ヘラート、首都カーブルを制圧しました。アメリカ・イギリス地上部隊は最後のターリバーンの本拠カンダハール攻略に参加しました。こうして戦闘2ヶ月でターリバーン政権は崩壊しました。

米軍の支援のもとで戦った「北部同盟」は、もともとはターリバーンの主体であるパシュトゥーン人以外のアフガン人であるタジク人やウズベキ人の部族長が寄り集まった軍閥集団で、かつてのソ連軍の侵攻の際には、パシュトゥーン人もその他の部族もゲリラ兵として協力して戦った仲間でした。

米軍に支援された北部同盟は、2001年末までにターリバーン政権を首都カーブルから追い出し、権力を奪回しました。これによってアフガニスタン人同士だけで戦う「アフガニスタン内戦」から、米軍・政府軍対ターリバーンという構図の「アフガニスタン戦争」に転化したと言えます。

また、米兵に助けられている政府軍よりもターリバーン兵(最も彼らもパキスタンやサウジアラビアの支援を受けていたと言われているが)を味方と感じる者が多く、ターリバーンの勢力はじりじりと回復していきました。

2003年のイラク戦争勃発によって世界の関心はアフガニスタンから離れていったこともあり、日本もふくめた世界の多くが知らないまま、アフガニスタンではターリバーンが国土の約半分を支配するほどになっていました。

2009年に登場したオバマ政権も米軍の撤退には踏み切れず、状況の悪化から帰って増派すると声明しました。しかし、再選時にはアフガニスタンからの段階的撤退を公約、2014年12月にはNATOが主導する国連治安支援部隊(ISAF)が公式に任務を終了しました。

そのかわりに米軍が「確固たる支援任務」と証する部隊を駐留させ、政府軍の支援と指導に当たることになりました。この部隊はNATO主導とは言え、実態はアメリカ軍で、なおも1万3000人の米兵が駐留しました。

「国際治安支援部隊」から「確固たる支援任務」への移行式典(2014年12月8日カブール)

ところが、トランプ大統領は、アメリカの負担を減らすこと、アメリカ兵を長期駐留から撤退させることを掲げて大統領選に当選、2020年3月にターリバーンとの講和を成立させ、撤退の具体化を図っているのですが、アフガニスタンの内戦再燃の危惧も予測されています。

このように米軍はアフガニスタンからの撤退を先延ばしにするうちに、2001年から2020年まで20年経過し、今までのアメリカの関わった戦争で最も長かったベトナム戦争(一般的に1955年~1975年とされる)とほぼ同じ最長の戦争となってしまったのです。
米国はタリバンが国際テロ組織に協力しないなら米軍は、撤退するという立場です。アフガニスタンからの米軍撤退は既定路線ですが、イスラム国は同国で勢力を拡大中です。タリバンがアルカイダを受け入れなくても、イスラム国は既に勝手に侵入して地盤を固めつつあります。アフガニスタンは、イスラム過激派にとっては外人に邪魔されず存分に戦える安全地帯となりそうです。

トランプ大統領は「和平」協定合意に向けタリバンともアフガニスタン政府とも話し合いがうまく進んでいると発言していました。「和平」協定と言っていますが、彼の目的は20年近く続いた米軍の駐留を終わりにすることであって、アフガニスタンに「和平」をもたらすことではありません。

しかし、だからといつて米国を責めるべきでもありません。米国の判断は正しいともいえるでしょう。確かに米軍の撤退は、アフガニスタンに和平をもたらすわけではありませんが、アフガニスタンで紛争が続き、米国からの支援もないということになれば、いずれ決着がつき、新たな秩序が形成されるからです。

そのほうが、米国が中途半端に関与し続け、紛争が更に長引くよりは良いと思います。これが2001年の時点では事情が違います。あの時はアルカイダがアメリカを攻撃したので多くの米国人も米国のアフガニスタン関与を支持したのです。
ところがその後は、違います。オバマ大統領がアフガニスタンで行ったのは、すべてのアフガニスタン人を救って民主制度を根付かせるというものです。

もちろんアフガニスタン側も米兵と一緒に喜んで写真に写ったりしたわけです。なぜなら米国から700億ドルもの資金が流れ込んでくるからであり、そのうちのいくつかはオーストラリア人が使い、カブール政府が受け取ったり、結局豪華な邸宅やイタリア製の配管などに化けたりしたわけです。

  アフガニスタン国民軍の女子戦術隊による作戦訓練。この女性兵士の
  特殊部隊は、女性と児童の捜査、訊問、医療支援などに従事(2018年)

このようなアフガニスタンやイラクの民主化というのも、時間がたつとその熱が冷めてきます。それが、今回の米軍の撤退に結びつくわけです。

ところがもう一つ戦争が長引いた原因があります。こっちはかなり真剣に見ていかなければなりません。

その原因は長期的に、世界中で行われている紛争と同じものであり、そうしてこれは間抜けな外部からの介入が原因であり、その動機は人間の最高の「善意」にあるのです。

先日もこのブログで掲載したように、米国の戦略化ルトワックは『戦争にチャンスを与えよ』で、紛争等に関わるなら正規軍を50年くらいは派遣して、秩序をつくりかえるくらいの気構えが必要であって、中途半端に関わるのは混乱を増すだけだと言っています。

アフガニスタンも、この例に漏れません。米国はアフガニスタンに関与するなら、爆撃等だけで終了しすぐに撤退するか、本気で介入するなら中途半端をせずに、最初から50年くらいも正規軍を大量に派遣するつもりで、秩序をつくりかえるのか、はっきりさせるべきでした。

しかし、中途半端な介入をしてしまったため、結局ほとんど何も変えられなかったのです。米軍はアフガニスタンに行って、アフガニスタンの伝統的な生き方をやめさせようとしました。しかし、先日新聞の意見欄にも書かれてましたが、米軍が何年間も介入したにもかかわらず現地の女性は抑圧されたままです。

2020年9月27日日曜日

マスコミが報じる「国債格下げ」より「CDS」の方が信頼できるワケ―【私の論評】少し冷静に考えれば、財務省は札つきの「狼少年」であることは明らか(゚д゚)!

財務省の世論誘導、そのやり方とは?

政府見解は財務省意見でもある」。よくそう言われるものの、財務官僚が自ら意見を表明することはなく、「御用審議会」を通じて意見を出す。万が一、意見が間違っていても、「財務省が間違ったのではなく、審議会が間違った」というためだ。

財務省の御用審議会はいくつもあるが、その一つが「政府税制調査会」だ。同調査会は8月5日にウェブ会議方式で総会を開催したが、その場で、新型コロナウイルス対応で財政の悪化が深刻となっていることに懸念を表明。

政府税制調査会(昨年)

消費税増税を中核に据えた、骨太の議論が必要ではないか」と、財務省の意向通りの意見を表明した。

こうして審議会を利用する他にも、財務省は自分たちに有利な情報をマスコミにクローズアップさせ、世論を誘導することもある。

最近で言えば、「海外の格付け会社が日本国債の格付けを引き下げた」というニュースも、これにあたる。

かつて'00年代のはじめ、財務省は格付け会社の国債格付けには根拠がないとして、猛烈に反論したことがある。そのときの文書は、今も財務省ホームページに残っている。

しかし、今や状況は一変した。コロナ対策の消費減税を阻止し、将来的な増税への道筋をつけたい財務省にとって、国債の格付けが下がることは好都合だ。

海外の格付け会社も、日本の財政基盤を不安に思っている。増税が必要だ」とアピールすることができるからだ。

そもそも、こうした格付けがまったくあてにならないことは、リーマンショック前には「適格証券」とお墨付きを与えていた証券に、ショック後は軒並み「投資不適格」の判断を下したことからも明らかだろう。財務省も、そんなことは百も承知だ。そのうえで、格付けを自分たちに有利なように利用しようとしているのだ。

では、見識ある市場関係者の間では、日本国債の信頼性はどのように見られているのか。

基準となるのは、市場で取り引きされる国債の「保険料」である「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」だ。

現時点における日本国債のレートから計算すると、5年以内の破綻確率は0・5~1%程度と計算できる。これは、先進国の中でトップクラスの安全性であり、破綻リスクは限りなくゼロに近い。

こうしたことはあまりマスコミで報道されていないが、ネット番組では盛んに報じられている。

先日も有名なお笑い芸人が自らのチャンネルで「国債格下げを報じるマスコミより、市場で取り引きされるCDSの方が信頼できる」と主張していた。財務省は、マスコミより先に彼らに接近したほうがいいのではないか。

筆者としては、政府は財務省の思惑に乗ることなく、むしろ消費減税をおこなったほうがいいのではないかと考えている。

減税には定額給付金と似た効果がある上に、国会の手続きを考えても、はるかに早く実現でき、効果が出るからだ。

その証拠に、イギリスやドイツも時限的な消費減税をしようとしている。

10月にも臨時国会が開催され、補正予算などが議論される。そのとき、解散総選挙になるかもしれないが、消費減税も大きな争点になるだろう。

『週刊現代』2020年9月5日号より

【私の論評】少し冷静に考えれば、財務省は札つきの「狼少年」であることは明らか(゚д゚)!

日本が財政破綻などしようもないことは、国債の金利が低くマイナスもしくはほとんどゼロに近いことでも、はっきりしすぎるくらいはっきりしています。

金利がマイナスとは、購入した国債を国が償還するときに、金利を払うのではなく、逆にいただくことができるということです。金利がマイナスということは、政府が国債を発行すれば、将来世代への付けになるどころか、金利分が儲かるということです。


このようなこともわからない人というか、わからないふりをしている人がたくさんいるなど、本当に異常だと思います。

そういう人たちに問いたいです。財務省が破産するかもしれないと懸念している投資家たちが、日本国債を買っているのはどうしてでしょうか。その理由は、「日本国債は日銀が買ってくれるから」ということではありません。なぜなら、日本国債を日銀に売って、受け取るのは日銀券か日銀への預金なので、日本政府が破産するときに日本政府の子会社である日銀に対する預金や日銀券を持っていても、意味がないのです。

 

多額の現金を手にしている投資家にとって、選択肢は限られています。日本円の資産を持つとしたら、紙幣を金庫に入れておいたり、日銀やメガバンクに預金したりするより、日本国債を持っているほうがまだ安心なのです。

 

国債を買ったとしても、日本政府が破産するリスクがあります。そのリスクを避けようとすると、米国債等を買うしかありません。しかし、それには為替リスクが伴います。

 

仮に投資家が、「今日から明日までの運用を考えよう。明日以降のことは、明日考えればいいのだから」ということで、運用を検討するとします。明日までに日本政府が破産する可能性は非常に小さい一方、明日までにドル安になって為替差損を被るリスクは比較的高いといえます。

 

そのように考えるなら、日本国債を持っているのがいちばん安全な資産運用だ、ということになります。だから投資家たちは日本国債を所有しているのです。

 

もちろん、明日までにドル高円安になって為替差益を稼げる可能性もありますし、米国債の利回りは日本国債の利回りより高いので、米国債を選択する投資家もいるとは思いますが、投資家は基本的にリスクを嫌うので、よほど日米金利差が開いているのならともかく、そうでないない限り多くの投資家が日本国債を選択します。


多くの投資家がそうすることと、財務省が何十年にわたって「財政破綻するかもしれない」と脅しても、一向にその気配すらなく麻生財務大臣が揶揄するようにまるで「狼少年」のようであり、もうその脅しにはのらなくなっているからこそ、日本の国債は短期でも長期でも金利がゼロにかなり近いか、マイナスになっているのです。


麻生財務大臣


マイナスになっても購入するのは不思議だと思う人もいますが、大量の現金を金庫にいれておけば、火災や強盗にあうかもしれませんし、米国債などを買えば、場合によっては多大な為替リスクを負うことになるかもしれないのですから、やはり国債ということになるのでしょう。


投資家は長い間投資をしてきていますし、その長い経験から、もう財務省は「狼少年」であることを見抜いているのでしょう、だかこそ、日本国債の金利は、長期でも金利がゼロに近いか、マイナスになっているのです。


それに、日本が世界最大の債権国(世界で最も金を外国に貸し付けている国)、言い換えると対外金融純資産が世界一であることを考えれば、日本が財政破綻することなど考えられません。


実際コロナ禍などの不安から、9月下旬に入り、国債金融市場では数々の不安材料が多発し、危機回避の気配が高まりましたが、こうした状況下、金融市場ではドルおよび米国債が買われる一方、株を筆頭とするリスク資産が手放されていますが、その中で「不安の逃避先」として囃し立てられてきた金もしっかり売られていることにも注目したいところです。

株価下落などを補填する「換金売り」で含み益の実現が企図されているとの解説が目立ちますが、そもそも本当に危なくなった時に換金される資産は安全資産として金の「位(くらい)」がそれほど高くないようです。

今回の危機回避の局面で買われたのはドル、そして円です。具体的に数字を見ると、9月14日を基点として23日までの対ドルの変化率を見た場合、上昇したG10通貨は円だけであり、それ以外の通貨は全て対ドルで下落しました。為替市場では伝統的な反応といえます。また、金や銀、プラチナなどの貴金属も対ドルでは軒並み下落しました。

結局、「有事のドル買い」と「世界最大の債権国通貨の円買い」は最も深刻な危機回避局面では威力を発揮するのです。なお、世界最大の経常黒字国(貿易黒字国)であるドイツを擁するユーロも本来、この状況で買われてしかるべきですが、今回の危機回避の震源が「欧州のコロナ第二波懸念」であり、また過去3か月でユーロは猛烈に買われてきたという経緯も踏まえれば、対ドルで売られるのは致し方ないともいえます。

今回のように、世界金融市場が危機的な状況になると、ドルとともに円が買われます。そうして、円高傾向になります。日本が財政破綻するというのなら、危機的状況で回避策として円が買われるのはなぜなのでしょうか。

金よりも安全な日本国債

考えてみれば、金が日本国債よりも絶対安心な資産であるとすれば、日本の投資家は、日本国債ではなく、金を大量に購入するのではないでしょうか。しかし、そのような話は聞いたことはありません。日本では、金よりも日本国債が安全な資産ということです。

「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」は、過去にこのブログにもとりあげたように、重要な指標であることは間違いないですが、別にその指標に頼らなくても、少し冷静に考え場、財務省は札付きの「狼少年」であることは明らかです。

【関連記事】

2020年9月26日土曜日

“忍者ミサイル”で過激派幹部を暗殺、米特殊作戦軍、アルカイダを標的―【私の論評】中露は中途半端な関与により、中東に新たな火種をつくりつつある(゚д゚)!

 “忍者ミサイル”で過激派幹部を暗殺、米特殊作戦軍、アルカイダを標的

佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

 ニューヨーク・タイムズ(9月24日付)などによると、米統合特殊作戦軍はこのほど、国際テロ組織アルカイダのシリア分派「フラス・アルディン」の幹部をドローン搭載の通称“忍者ミサイル”で暗殺した。このミサイルは爆弾の代わりに長い回転刃で標的を切り刻むという特殊兵器。米軍はテロリストとの「影の戦争」に新兵器を本格投入し始めた。

ドローン リッパー

6枚の回転刃を放出

 同紙の報道について、国防総省スポークスマンは攻撃が9月14日にシリア北西部イドリブ近くで実施されたことを確認した。米国の対テロ当局者や現地の人権監視団体などによると、殺害されたのは「フラス・アルディン」幹部のサイヤフ・チュンシというチュニジア出身のテロリストで、西側への攻撃計画の首謀者とされる。

 米軍のドローン「リーパー(死神)」が「R9X」と命名されたヘルファイア・ミサイルを発射し、殺害した。通常のヘルファイア・ミサイルには弾頭に約9キロの爆薬が装着されているが、「R9X」は弾頭を爆発させる代わりに、6枚の回転刃が付いた金属物体を放出、これによって標的はズタズタに切り刻まれる仕組みだ。

 この兵器はほぼ10年前に開発され、今回は最近の3カ月間で2度目の使用。1度目は6月に同組織の事実上の指導者だったハリド・アルアルリをシリアで殺害した。この他、これまでに統合特殊作戦軍と中央情報局(CIA)がイエメンやシリアで過激派の暗殺に使ったが、実戦に投入された回数は6度ほどにとどまっている。

 残虐とも思われるこの兵器は米軍の過激派攻撃で民間人の死傷者が増えたため、オバマ前大統領が民間人の巻き添えを最小限に食い止める兵器の開発を指示して生まれた。一般的に多数の過激派を一挙に掃討する場合は通常のヘルファイア・ミサイルが使われ、少数を標的にするケースに通称“忍者ミサイル”の「R9X」が使用されるという。

 統合特殊作戦軍は今後も、シリア、アフガニスタン、イエメン、イラクなどの過激派殺害に「R9X」を使用すると見られているが、最近アフリカ軍がケニアでのドローン攻撃を容認するよう、国防長官とトランプ大統領に要求していると伝えられており、同ミサイルの使用頻度が増える可能性がある。ケニアには隣国のアルカイダ系過激派「アルシャバーブ」が越境テロを繰り返し、1月には米国人3人が殺害された。

西側テロを画策する最凶組織

 殺害された幹部が属している「フラス・アルディン」は米国が最凶のテロ組織として狙い続けてきたグループだ。同組織は元々、アフガニスタンに潜伏していると見られるアルカイダの指導者アイマン・ザワヒリが西側権益を攻撃させるためシリアに設置させたもので、当初は「ホラサン・グループ」と呼ばれた。

 シリアのアルカイダ分派だった旧ヌスラ戦線(現シリア解放委員会)がアルカイダと決別宣言した後、過激な思想を持つ面々が集まって2018年、「ホラサン・グループ」の後継組織として「フラス・アルディン」を立ち上げた。その後、米国の空爆によって大きな打撃を受けたものの、現在はイドリブ県に約2000人の戦闘員が残っているといわれる。シリア北西部はロシアが制空権を握っているため、米国の空爆に抑制が掛かったおかげで生き延びたようだ。

 同組織の存在が知られるところとなったのは昨年10月、過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者だったバグダディが米軍の急襲によりイドリブ県で殺害された時だ。バグダディに隠れ家を提供していたのが「フラス・アルディン」の司令官だったからだ。ISとは犬猿の仲だっただけに、バグダディから用心棒代を受け取って匿っていたことに、世界中のテロ専門家らが仰天した。

 イドリブ県はシリア内戦で残った反体制派の最後の拠点だ。現在は全土制圧を目指すアサド・シリア政権軍がロシア軍機の支援で、同県への攻勢の機会をうかがっているが、トルコ軍がシリアに侵攻し、にらみを利かせているためアサド政権、ロシア、トルコが三すくみのような膠着状態が続いている。

 県内に立てこもる最大勢力はアルカイダとの関係を切ったと主張する「シリア解放委員会」で、その勢力は約3万人。またトルコが支援する反体制派「国家解放戦線」も同程度の勢力規模だといわれる。「シリア解放委員会」は自分たちの占領地域をISと同様に「国家」と呼び、同県の支配体制の強化を図っている。最近では、外国人の過激派追放に乗り出し、「フラス・アルディン」との間で交戦に発展、緊張が高まっている。

 シリアでは、内戦で家を失った難民が人口の半分以上の1400万人にも達し、イドリブ県の住民300万人のうち、100万人が難民化している悲惨な状況だ。だが、各勢力がそれぞれの権益確保に狂奔している現状では和平の展望は暗い。なによりも、中東に介入し続け、現在の混乱の原因の一端を作った米国が逃げにかかっているのは無責任以外のなにものでもないだろう。米国にはテロリストの掃討と同じように、シリアの平和実現に傾注してもらいたい。

【私の論評】中露は中途半端な関与により、中東に新たな火種をつくりつつある(゚д゚)!

今回の「R9X」は、ドローンそのものではなくドローンから発射されるミサイルです。以下にわかりやすいイメージを掲載します。

ドローンの翼の下に装着された「R9X」

「RX9X」のイメージ  6ft.は6フィートで、約180cm
このミサイルの全長は身長180cmの人の肩辺りまでです

さて、冒頭の記事では、結論部分で「なによりも、中東に介入し続け、現在の混乱の原因の一端を作った米国が逃げにかかっているのは無責任以外のなにものでもないだろう。米国にはテロリストの掃討と同じように、シリアの平和実現に傾注してもらいたい」と締めくくっていますが、この考えはどうなのでしょうか。

私自身は、この考えは正しいようで間違いでもあると思います。現時点では、いずれが正しいかははっきりとはいえません。ただいえるのは、米国が中途半端に中東に関与するのは、決して良い結果をうまないであろうということです。

米国の戦略家ルトワックは『戦争にチャンスを与えよ』平和と戦争について以下のよう語っています。
平和な時代には人々は戦略問題を軽視し、近隣諸国の不穏な動きにも敏感に反応せず、日常の道徳観や習慣の方を戦略課題よりも優先してしまう。このために戦争のリスクが一気に高まる。また、戦争が始まると男達は戦争に野心やロマンを見出し、嬉々としてこれに参加しようとする。

しかし、戦争が一旦始まり、膨大な量の血と物資の消耗が始まると、最初の野心は疲弊と倦怠感に取って代わり、戦う気力はどんどんと失われていく。人々は遺恨や憎しみよりも平和を希求するようになるというわけだ。 
あるいは抗争中のどちらかの勢力が圧倒的な勝利を収めた際も戦争は終結する。破れた側に闘う力が残されていないためだ。戦争を本当の意味で終結させるのは膨大な犠牲を待たねばならない。つまり戦争が平和を生むのだ。

特に欧米の先進国が行う中途半端な人道支援という介入は戦争で疲弊する前に戦闘状態を一時的に終わらせてしまう。つまり両勢力が戦いに倦む前に戦争状態を凍結してしまう。この状態では遺恨や野心が疲弊に取って代わる事が無く、いつまでも紛争国の人々間で燻り続け、本当の意味での戦後復興も行われない。

そのためにかえって状態の不安定化や長期間の小さな衝突と流血が続いてしまう。朝鮮半島やサラエボなどがその格好の事例だ。特にユーゴスラビアではドイツが何の責任も引き受けることなく内戦に介入した。米国も無責任な軍事介入を繰り返した。

国連やNGOの難民支援をそうである。歴史的に見て戦火から逃れた難民の多くは大変な苦労を経験しつつも、逃れた先で土着化しその国の民として同化していく。そうする事で難民達は新たな人生のページを開き、子や孫の世代にまで紛争を引き継ぐ必要がなくなるのだ。個人的に見ても、戦略的に見てもその方が安定と平和を得る事ができる。

これと逆の行いをしているのが国連パレスチナ難民救済事業機関だ。彼らはパレスチナ難民をイスラエル国境近くに人工的に留め置き、二度と帰れる可能性の無い故郷に、いつか帰れるのではという希望を与えている。

若い難民達の殆どは難民キャンプで生まれそこで育っている。これは結局のところ難民の永続化である。彼らの一部は国連パレスチナ難民救済機関の食料を食べて育ち、イスラエルへの敵意をみなぎらせ、一度も見たことの無い故郷を取り戻すためにハマスのメンバーとなり、新たな紛争の火種となっている。
日常を生きる私たちは、戦争で血を流す人々を見れば、同情したくなるし、血を流す当事者も苦痛に満ちた思いをする。これを国際社会の介入で終わらせようとするのは当然の感情かもしれない。しかし、中途半端な介入は悲劇を招くだけだ。

この考えは、多くの日本人には受け入れらないところがあるかもしれません。しかし、現実は現実です。現状の米国はどうなかというと、最大の火種は中国です。現在の米国は、中国との冷戦、場合によっては部分的な熱戦(戦争)も覚悟しなければならないからです。

それを考えると、米国の中東への関与は、どうしても中途半端になります。であれば、米国は中東からの関与をやめるのが妥当です。

ただし、すぐに全面的に手を引けば、さらに混乱が高まるおそれがあります。そのため、現実的な観点から徐々に、手をひきつつあるようです。 

実際、今年8月半ばには、アラブ首長国連邦(UAE)がイスラエルとの国交正常化に合意しました。

米国のドナルド・トランプ大統領は今月11日、イスラエルと中東バーレーンが国交正常化に合意したと発表しました。

これらの合意は、米国の仲介があったことは間違いないです。

トランプ大統領はツイッターに、「過去30日間でイスラエルと和平合意した2番目のアラブ国だ」と書きました。

中東諸国は何十年もの間、パレスチナ問題が解決するまではイスラエルと国交を樹立しない姿勢を貫いてきましたが、これが米国の仲介によって、変わりつつあるのです。

これらは、マスコミでは「大統領選挙目当て」などと批判するむきもありますが、中東和平に結びつくのは間違いないです。トランプ大統領としては、(イラン)対(アラブ諸国+イスラエル)という対立軸を作ろうとしているようですが、これがうまく拮抗すれば、従来の大混乱よりははるかにましです。

トランプとしては、このような対立軸ができた後には、米中央軍を大幅に削減して、アジアに移す心づもりなのだと思います。

ただ、トランプの足を引っ張る勢力もあります。それは、中国であり、ロシアです。両国とも中東に足場を築きつつあります。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国軍が中東に基地を構える日――中国は「第二のアメリカ」になるか— 【私の論評】中共が力を分散すれば、対中勢力にとってますます有利になる!(◎_◎;)

訪中したイランのザリーフ外相を迎える王毅外相(2019.8.26)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、最近の中国の動きをこの記事から引用します。
  • 中国は中東イランのキーシュ島を25年間租借する権利を得て、ここに軍事基地を構えようとしていると報じられている
  • 事実なら、中国はアジア、中東、アフリカを結ぶ海上ルートを確立しつつあるといえる
  • ただし、イランに軍事基地を構えた場合、中国自身も大きなリスクを背負うことになる
以下にこの記事の結論部分を掲載します。
これからも、中共は、南シナ海、東シナ海、太平洋、アフリカ、EU、中東などに手を出しつつ、ロシア、インド、その他の国々との長大な国境線を守備しつつ、米国と対峙して、軍事力、経済力、技術力を分散させる一方、日米加豪、EUなどは、中国との対峙を最優先すれば、中共にとってはますます不利な状況になります。

かつてのソ連も、世界中至る所で存在感を増そうとし、それだけでなく、米国との軍拡競争・宇宙開発競争でさらに力を分散しました。当時は米国も同じように力を分散したのですが、それでも米国の方が、国力がはるかに優っていたため、結局ソ連は体力勝負に負け崩壊しました。

今日、中共は、習近平とは対照的な、物事に優先順位をつけて実行することが習慣となっているトランプ氏という実務家と対峙しています。今のままだと、中国も同じ運命を辿りそうです。

中国の力の分散は、日米にとっては歓迎すべきことかもしれませんが、米国と本格的に対峙しようとしている中国が中途半端に中東に関与すれば、さらに中東情勢を混乱させるだけです

ロシアの中東関与についても、このブログに掲載したことがあります。

【米イラン緊迫】開戦回避でロシアは安堵 「漁夫の利」得るとの見方も―【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!
年末恒例の記者会見を行うロシアのプーチン大統領=昨年12月19日、モスクワ

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分だけ引用します。
米国が中東へのコミットメントを低下させるなか、ロシアが米国に代わる新たな「警察官」になりつつあるとの論調が国内外には見られますが、これは明らかに過大評価であると言わざるを得ないです。

そのような限界のなかでロシアが何をしようとしており、どこまでできるのか。中東に復帰してきたロシアの役割を見通す上で必要なのは、こうした過不足ない等身大のロシア像だと思います。

近年ロシアは中東でプレゼンス高めたことは事実ですが、その限界は正しく認識されるべきだと思います。
現在のロシアのGDPは、日本の東京都なみです。東京都が軍備をして、中東で何かをしようとしても限界があるのは目に見えています。ロシアにできることには限界があり、中東に関与すれば中途半端にならざるを得ず、関与し続ければ必ず中東に混乱をもたらします。

ルトワックは『戦争にチャンスを与えよ』で、関わるなら正規軍を50年くらいは派遣して、秩序をつくりかえるくらいの気構えが必要であって、中途半端に関わるのは混乱を増すだけだと言っています。

中東に関しては、米国は徐々に関与を無くす方向ですすんでいますが、中国とロシアは中途半端に関与しようとしています。

中露は中途半端な関与により、中東に新たな火種をつくりつつあるといえます。中東の石油に依存する日本にとっては、この動きは望ましいものではありません。

【関連記事】


【米イラン緊迫】開戦回避でロシアは安堵 「漁夫の利」得るとの見方も―【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!

2020年9月25日金曜日

TikTokめぐり米国に反撃、技術競争では中国有利か―【私の論評】米中デカップリングが進めば、軍事でもAIでも中国の歪さが目立つようになる(゚д゚)!

 TikTokめぐり米国に反撃、技術競争では中国有利か

岡崎研究所

 9月6日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラナ・フォルーハーは、中国がTikTokの技術を輸出規制の対象とする決定をしたことを捉え、中国も技術のデカップリングに動いていること、差し当たり技術の競争の面で中国の方が少々有利と見られることを論じている。


 8月3日、トランプ大統領は、中国製アプリTikTokの9月中旬以降における米国での使用を禁止するとともに、TikTokの米国事業の米国企業への売却を求める方針を打ち出した。TikTokは、Huaweiとは異なり、戦略的な資産ではなく、TikTokの一件のみをもって一戦を交える用意は中国にはないであろうと思っていたが、案に相違して中国は反撃に出た。

 8月28日、中国商務省は、その輸出規制を改定して複数の技術を規制対象に追加した。これには TikTokの「personalized recommendation engine」を指すと思われる技術が含まれている。これこそが利用者の好みに合わせて動画を配信出来るTikTok独自のアルゴリズムだという。8月29日、新華社はこの新規則により、TikTokを運営する ByteDanceは、中国政府の許可を得ないとTikTokを売却出来なくなるであろうと報道した。ByteDance は新規則に従うと早速表明している。

 TikTokの米国事業の売却は、MicrosoftおよびOracleとそれぞれ交渉中であるが、中国がこの輸出規制の権限を使って売却を阻止出来るのか、あるいは阻止する積りがあるのかは良く分からない。阻止してみたところで、米国でのビジネスが出来ないのであれば、意味はないが、トランプが閉店安売りを強いることを阻止する代償として中国(および ByteDance)が受け容れる用意があるのかは不明である。

 中国として、トランプ政権がTikTokだけでなくTencentのWeChatなど今後も標的を増やすことを睨んで牽制の意味も込めて打った一手であろう。

 フォルーハーの論説は、中国が技術の輸出規制に動いたことは、中国も技術のデカップリング(米国との切り離し)に動いていることの証と捉えている。それは、米国の動きに触発された最初の一手ということであろうが、中国は受けて立つ積りである。デカップリングが進行する世界での両国の技術に係わる力関係は、国内の製造業の基盤および輸出市場の観点からも中国に有利に展開すると、フォルーハーは見ているようである。

 換言すれば、米国が中国にデカップリングを強いるには時期を失している。中国は既に強くなり過ぎていて中国もデカップリングを強い得る立場に立とうとしている、ということではないかと思われる。もしそうであるならば、米国市場から中国企業を手当たり次第排除するだけでは中国に勝てないであろう。

 中国が市場、人口、面積のみならず、技術的優位を獲得し、それを武器に世界戦略に出てきた現実は、大国米国でも、なかなか手に負えない状況になってきたようである。IT技術、宇宙開発、海洋進出、核開発等、いずれの分野でも中国は一国主義を取っている。米ソ冷戦時代でさえ、宇宙協力や核軍縮協定等が存在したが、中国と世界との貿易上の相互依存は深まっても、重要な戦略分野での協力が難しい。協力どころか、もはや切り離しや対立傾向がみられる。

 米国が中国を警戒するのは、中国は、IT技術等を、純粋に経済利用するのではなく、中国の独裁共産主義体制や人権弾圧等、米国が最も重視している民主主義、個人の尊厳と反対の目的のために利用しているからである。これが続く限り、経済とイデオロギーが相まって、米中対立は長期化するのだろう。

【私の論評】米中デカップリングが進めば、軍事でもAIでも中国の歪さが目立つようになる(゚д゚)!

上の記事は、英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラナ・フォルーハー氏の論説に基づいて、中国に有利としているようですが、その根拠は薄弱です。これに似たような論調で、軍事的にも中国が有利とする説があります。

その根拠となっているのは、DF-17ミサイルの弾頭部のHGV(極超音速滑空兵器)です。極超音速のミサイルであり、米国はこれを撃ち落とせず、よって空母もすぐに撃沈されるので、米軍は負けるというものです。

超音速ミサイルなどについては、ここでは詳細は述べません。それについて知りたい方は、以下の記事などにあたってください。
迫り来る極超音速ミサイルの脅威  現状では迎撃不可能?
これに関しては、脅威であることには違いないですが、だからといって米軍が負けると結論を出すのははやすぎです。

なぜ、そうなのかといえば、このブログの読者なら、もうご存知でしょう。それは、中国の軍事技術が発展していることは事実ですが、その発展の仕方があまりに歪だからです。

決定的なのは、中国の対潜哨戒能力が米国に比較すると極度に劣っていることです。さらに、原潜の攻撃能力などもかなり劣っているところがあるということです。

日米に比較するとかなり能力が劣る中国のY8型哨戒機

そのため、米軍の原潜(米国は原潜しかない)は中国側に発見されることなく、自由に航行できるのに対して、中国の原潜および通常型の潜水艦は米国に簡単に探知されてしまいます。そうして、魚雷などで撃沈されてしまいます。

そうなると、他の中国の空母などの艦艇や航空機などもすぐに撃沈、撃破されてしまいます。仮に超音速ミサイルで攻撃しようにも、中国は原潜を探知できないのですから、攻撃のしようがありません。

これは、最初からわかりきっていることなので、もし米軍がたとえば、南シナ海で中国と本気で事を構えようとした場合、南シナ海にすぐに超音速ミサイルルで撃破されることが予め予期される、空母打撃群や強襲揚陸艦を最初に派遣し戦端を開くことなど考えられません。

米軍が艦艇や空母打撃群を南シナ海に派遣しているうちは、本気で戦争する気はないとみるべきでしょう。本当に戦争になる場合は、まずは空母、艦艇を引きあげさせるでしょう。

そうして、まずは原潜を派遣(軍事機密なので公表されていませんが、私はもうすでに派遣していると思いますます、実行するしないは別の話)して、南シナ海の中国軍基地を取り囲み、南シナ海に中国の潜水艦や艦艇、航空機が近づけないようにするでしょう。また、中国の沿岸などに、原潜を派遣して、中国の超音速ミサイルの基地を叩くでしょう。

後は、原潜で南シナ海の中国の基地を包囲すれば、補給がたたれ、中国側はお手上げになるはずです。その後必要があれば、米軍は空母打撃群や強襲揚陸艦を派遣して、中国の残存兵力を無効化し、占領するかもしれませんが、私自身は、南シナ海の中国軍基地など、米国にとってはあまり意味のないものなので、そこまではしないだろうと思います。ただ、破壊するか、元の環礁にできるだけ近いかたちで原状復帰をすることになるかもしれません。

米海軍のCVN-73ジョージ・ワシントンとCVN-74ジョン・C・ステニス空母打撃群

中国の技術水準はかなり歪です。次世代通信システム機器5G 通信機器では既に中国は世界のトップの水準になっています。かなり技術を盗んでいるとはいえ、量子コンピュータ、AI技術、宇宙機器のレーダー、電磁波技術、AI技術、クラウド・ビッグデータ、自動運転技術、サイバー技術などで、米国に肉薄するか、米国より優勢になってきているものもあります。

ところが、航空機や高速鉄道などのボルトを製造できません。先日もこのブログに掲載したように、航空機のエンジンもまともに製造できません。

なぜこのようになるかといえば、自由主義諸国に比較して、技術の裾のが広くないからでしょう。中国の場合は、ロシアから導入された技術と、他国から盗んだ技術を基盤にしています。

ロシアというか、ソ連の技術は第二次世界大戦終了後にドイツの科学技術者を大勢連れてきて、様々な技術を発展させ、その後は他国から盗んだものを基盤にしています。ロシアは、ソ連の頃から対潜哨戒能力はかなり劣り、現在も劣っています。

だから、中国のそれも未だに劣っているのでしょう。それに、これは最高機密に属するので、他国から盗むのも困難です。だから、今でもロシア・中国ともにかなり劣っているのでしょう。

これは、軍事技術のほんの一部であり、他にも劣るところは、かなりあります。

これと同じようなことが、ITについてもいえるでしょう。

中国のAI技術が急速に伸びてきていると言われますが、果たして今現在どこまで伸びてきているのでしょうか。米著名シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が昨年10月に開いたパネル討論会で、中国のAI技術の現状に関する一般的な誤解が幾つか明らかになりました。

登壇した専門家によると、中国はAI技術で世界一になるために政府主導のもと官民が足並みをそろえて邁進しているわけではなく、また膨大なデータ量で米国を凌駕しているわけでもないといいます。

これについては、以下の記事が参考になります。
「AI大国、中国脅威論」の5つの誤解 米戦略国際問題研究所のパネル討論会から
この内容は、中国のAIの問題点をあまり突いてはいないと思います。しかし、技術競争では中国有利などとは単純にはいえないことが、何となく理解できます。

一方、アルゴリズムの研究の停滞は、中国のAIのボトルネックとなるかもしれません。

昨年上海市で開催された院士サロンにおいて、中国工程院院士の徐匡迪氏ら複数の院士からの「AIの基礎的アルゴリズムの研究を行っている数学者は、中国にどれほどいるのだろうか」という問いかけが業界の共鳴を呼び、「徐匡迪の問いかけ」と呼ばれるようになっています。

昨年4月28日に開かれた「超音波ビッグデータ・AI応用・普及大会」において、東南大学生物科学・医療工学学院の万遂人教授は、「中国のAI分野でアルゴリズムの研究に取り組んでいる科学者は極めて稀だ」とし、「徐匡迪の問いかけ」は中国のAI発展の重要問題を突いていると述べ、「この状況に変化がなければ、中国のAI応用は掘り下げが困難で、重大な成果も得難い」としました。


「アルゴリズム」とは、簡単に言うと「手順や計算方法」のことです。さらにざっくりとした言い方をすれば「やり方」とも言えるでしょう。

そもそもコンピュータは日本語に訳すと「電子計算機」となります。つまりコンピュータは、人の手では時間がかかりすぎたり、面倒だったりする計算を代わりにやってもらうためにあるのです。

そのときコンピュータにさせる「計算の手順、やり方」こそが「アルゴリズム」である、というわけです。

重要なのは、ある結果にたどり着くためのやり方(アルゴリズム)はたくさんあることです。

いくつかのアルゴリズムがある場合、より効率よく計算できるアルゴリズムのほうが優れていることになります。


さて、中国のアルゴリズム研究はどの程度なのかといえば、その尺度としては、数学のノーベル賞ともいわれるフィールズ賞が一応の目安となりそうです。

フィールズ賞(フィールズしょう)は、若い数学者のすぐれた業績を顕彰し、その後の研究を励ますことを目的に、カナダ人数学者ジョン・チャールズ・フィールズ (John Charles Fields, 1863–1932) の提唱によって1936年に作られた賞のことです。以下に国別の受賞者数の表を掲載します。

この表を見ると、米国は13人受賞、中国は0人です。日本は3人です。ロシア(ソ連時代含む)は9人です。

AIを発展させるためには、アルゴリズムも発展させる必要があります。

現状では、中国は確立されたアルゴリズムのもとで様々な開発を行っているものと思われます。

既存の方法でも、新たな方法でも、アルゴリズムが効率的なければ、システムも効率の良いものにはならないです。

そうして、アルゴリズムの研究は、やりはじめて、すぐに成果があがるものではありません。長い時間がかかります。金を投資して、掛け声をかければ、すぐにできるようなものではありません。

奥行きも、間口の広さでも、現在中国は米国に遠く及ばないと言って良いでしょう。

上の記事にもあるように、AIに関しては、小手先の目先の技術については、中国が進んでいるところがあるのかもしれませんが、アルゴリズムに関しては、米国が圧倒的にすすんでいます。

やはり、軍事でみてきたように、AIでも中国の発展は歪です。

現在はまだ目立ちませんが、米中のデカップリングがすすめば、AIでも軍事技術にみられるような、中国の歪さが目立つようになると思います。

【関連記事】

「TikTok」 中国の運営会社がトランプ政権相手取り裁判の方針―【私の論評】KikTokの本当の脅威は、得られた膨大な情報をAIを用いて分析するオシントだ(゚д゚)!

中国、ウクライナの軍用エンジン技術に触手 訴訟警告で米中対立―【私の論評】日本の製造業は、モトール・シーチを対岸の火事ではなく、他山の石と捕らえよ(゚д゚)!


2020年9月24日木曜日

経済でトランプ氏がバイデン氏をリード 民主党政権になると実は「見えない税金」が貧困層を直撃する!?―【私の論評】菅政権は現在のトランプの経済政策と、高橋是清の昭和恐慌時の政策を模範例とせよ(゚д゚)!

経済でトランプ氏がバイデン氏をリード 民主党政権になると実は「見えない税金」が貧困層を直撃する!?


《本記事のポイント》
  • トランプ大統領、世論調査では経済政策の面でバイデンを抜く
  • 規制は「目に見えない税金」
  • 菅首相の構造改革と最低賃金は矛盾 あべこべな政策では経済の浮上は期待できない

「民主党は黒人の暴動ばかり論じていて、経済について語っていない。これではトランプが勝利してしまう──」。CNNのインタビューに答えたある黒人男性は、こう語った。

米フォックスニュースが9月中旬に行った世論調査では、経済政策ではバイデン元副大統領の支持率が46%であるのに対して、トランプ大統領は51%と、5ポイントも差をつけてリードしている。

しかも「失業」「新型コロナウィルス」「暴動」の3つのうち、何が最も心配かという質問に対して、「失業」と答えた人は、10人中9人にも上った。全体としてはバイデン氏がリードしているが、コロナで失業問題を心配する国民にとって、経済で実績のある大統領を求める声は根強くあるというこ とを示す世論調査となった。

オバマ時代より所得の増額分は50%も増えた

トランプ政権下では、具体的にどのような実績があったのか。9月17日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙が詳細に報じているので、確認しておきたい。

まず所得である。昨年のアメリカの平均世帯の収入は4379ドル(約45万5416円)上がって、6万8709ドル(約714万5736円)になったという。この増加額は8年間のオバマ政権より、50%も増えたことになる。

とりわけ中・低所得者の所得上昇率は高い。その数値は人種別に見た場合、白人が5.7%であるのに対し、ヒスパニックは7.9%、黒人は7.9%、アジア人は10.6%にも上る。その理由は、教育レベルの低い人々がより多く働くようになったからである。

ジェンダー別に見た時の数値も注目に値する。男性の中間所得者の賃金の伸び率は2.5%であるのに対して、女性は7.8%アップした。

面白いのが、失業手当の給付による経済効果である。

2008年から2009年のリーマンショック後、政府は99週間の失業手当を給付したが、これによって、アメリカ人の働くインセンティブが低下。25歳から52歳の労働参加率も、82.7%から80.7%と2%も低下した。一方で、トランプ政権になってブルーカラーの仕事の賃金が上昇したため、労働参加率は、2020年の第一四半期までに82.9%に戻った。

その結果、貧困層の割合は1.3%下がり、10.5%となった。この数字は1959年から最も低い数字である。子供の貧困率は、オバマ政権時代と比べると2倍も下がる。

給付金が増えるにしたがって貧困層は増大した

しかも2012年に政府が給付金の額を増やしたのにもかかわらず、所得は減り続け貧困層が増えた。政府による所得移転は、一時的には景気低迷時の減給分を相殺するよう提供されるが、多くのアメリカ人が働かなくてもお金がもらえるので、給付金に依存するようになったのだ。それは2015年に政府が給付金の額を引き締めた後に、アメリカ国民は働き始め世帯所得は上昇を始めたという統計結果にも表れている。

オバマ政権は取り憑かれたようにバラマキ政策や規制の導入をしていたが、経済成長や投資を阻害し、低成長をもたらした。一方、トランプ政権の規制緩和と2017年末の大型減税は起業家の旺盛な投資活動や企業活動を刺激した。新規事業登録の申請件数だけでも、オバマ政権の最後の2年間の2倍になったのだ。その結果、人手不足に陥り、障害者や低学歴の層の雇用が増えただけでなく、犯罪歴のある者まで雇われるようになった。

規制によるコストは「見えない税金」

バイデン氏の政策は、オバマ政権の政策を引き継ぐものとなる。看過できないのは「規制によるコスト」である。

この「見えない税金」のコストを考慮しなければならないと説くのは、2018年から2019年までホワイト・ハウスの経済諮問委員会のトップを務め、現在はシカゴ大学教授であるケイシー・B. ムリガン氏である。ムリガン氏は9月17日付のWSJ氏に寄稿した「バイデンのプランの本当のコスト(The Real Cost of Biden's Plan)」の中で、以下の趣旨を述べている。

バイデン氏は確かに40万ドル(約4000万円)以下の所得者には、増税はないと断言する。だがクリーン・エネルギー政策を推進するバイデン氏の政策は、「見えない税金」で満載だ。

車一つ買うにしても、数千ドル(数十万円)も高くつくようになる。

またバイデン氏は「2035年までに100%クリーン・エネルギーにする」政策を掲げている。それに伴いアメリカの石油の採掘を禁じれば、電気代などに跳ね返ってくる。

私(ムリガン氏)の計算によると、一番下の所得層は、規制によって所得の15.3%にもあたる「見えない税金」を払わなくてはならない(所得が300万だとしたら、45万円にも上る)。これに対し、高所得者にとって、「見えない税金」は所得の2.2%しか占めない。

環境規制は、貧しい人たちを直撃することになる。そんな大事なことを有権者に伝えないのが、民主党政権である。

トランプ政権が続けば、減税や好景気で所得が上昇するだろう。一方、バイデン政権が誕生すれば、2017年の大型減税政策もなくなるだけでなく、電気代などのために支払うコストや、生活必需品の車を買うにも高いコストを強いられる。

「再配分」と「規制大国」を目指したオバマ政権は、結局、低成長だけでなく不平等を助長した。経済成長を目指したトランプの一期目の政策は、すべての人の賃金を押し上げ、不平等を是正したと言えるのだ。

菅首相の構造改革と最低賃金は矛盾 あべこべな政策では経済の浮上は期待できない

一方、日本では菅義偉首相が「構造改革」を掲げる。アベノミクスでは、金融面や財政面での景気の浮上を狙った政策に特化され、当初、第三の矢として掲げられていた「規制緩和・構造改革」は、結局ほとんど実行されなかった。

80年代のレーガン政権に行われた規制緩和が、アメリカの長期的繁栄を築いたように、サプライサイド(供給面)の制度・規制改革に着手するのは、非常に重要である。日本が規制大国から抜け出すためにも、一刻も早い構造改革が期待される。

一方で菅氏は、「最低賃金」のさらなる引き上げに取り組むという。賃金は市場で決まるもので、社会主義的に国家が命令すべきものではない。このような「あべこべ」な政策で、経済は浮上するのか。冒頭で紹介したように、国民からトランプ氏は経済面で信頼が厚い。そのあたりの事情をつぶさに学ばなければならないのではないか。

(長華子)

【私の論評】菅政権は現在のトランプの経済政策と、高橋是清の昭和恐慌時の政策を模範例とせよ(゚д゚)!

トランプとバイデンの経済対策を比較すると、総じてトランプの政策が正しいことは、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
トランプが最初から正しかったとFRBが認める―【私の論評】トランプの経済対策はまとも、バイデンは異常、日本は未だ準備段階(゚д゚)!
ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、バイデン氏の政策の間違いの部分について以下に引用します。
バイデン前副大統領は7月9日、新型コロナウイルス危機に見舞われた米製造業の復活に向け、4年間で総額7000億ドル(約75兆円)の公共投資計画を発表しました。投資額は「第2次世界大戦以来で最大規模」と強調。財源確保のため将来の増税に言及し、減税を掲げるトランプ大統領との違いを鮮明にしました。
これは、明らかに緊縮策であり、来年の米国経済はコロナ禍からまだ十分に立ち直っていないでしょうから、明らかな間違いです。実施すべきは、トランプ氏のように減税と、そうして金融緩和です。

この記事では、以下のようなことも掲載しました。
トランプ氏の狙いは、給付を減らして失業者の就労を促し、大統領選に合わせて雇用改善の実績を強調するつもりのようです。クドロー国家経済会議(NEC)委員長は4日、雇用情勢の改善を受け、民主党が主張する大規模な経済対策が「なくてもやっていける」と明言しました。

これに対し、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、経済は回復途上であり、失業給付を含む「追加財政策が必要だ」と警告しています。政府支援の大幅削減は「消費と景気回復を圧迫する」(エコノミスト)との分析もあり、雇用改善を急ぐトランプ氏のもくろみは綱渡りともみられています。

 これに対して、マンデル・フレミング効果の観点から、私は以下のように結論を出しました。

8月の米雇用統計では、雇用の伸びは前月の173万4000人から鈍化したほか、予想の140万人を下回っています。これは、財政政策による景気回復の限界を示しているのかもしれません。

であれば、金融緩和に力を入れるというのは当然の措置です。現在FRBが、もっとドルの流動性を経済にもたらすためにより高い目標を設定することを約束するのは当然のことと思います。

上の記事では、オバマの給付金政策の失敗についても触れられています。給付金を出し続けるという政策はかえって、雇用を阻害する面あるということです。であれば、さらにFRBがさらに高い目標を設定するほうが、はるかに効果があると思います。

さて、この記事では、日本は今はまだ準備段階と結論を出しましたが、まさにそのような状況です。

確かに、菅総理大臣は自民党の総裁選挙にあたって公表した政策のなかで、地方を活性化するため最低賃金の全国的な引き上げを掲げていました。

梶山経済産業大臣は、これに関連して、「引き上げありきではなく、上げられる環境作りが第一だ」と述べました。

これに関連して梶山経済産業大臣は閣議のあとの記者会見で、「引き上げありきではなく、上げられる環境作りが第一だ」と述べました。

そのうえで、「コロナ禍で落ち込んだ企業の業績を引き上げ、生産性を上げていくために、さまざまな制度を使って会社のスキルや能力をあげることが重要だ。そういう環境があれば、しっかりと最低賃金を上げていくということになるのでどういう流れになるか考えながらしっかり取り組んでいきたい」と述べました。

菅総理大臣も、梶山経産大臣も、なにやらマクロ経済的にみると、不可思議なことを言っています。

まずは菅総理の賃金をあげるという発言は、上の記事にもある通り、確かに賃金は市場で決まるもので、社会主義的に国家が命令してできるものではありません。それに、これを実行して失敗した国がすでにあります。

それは、韓国です。韓国では機械的に最低賃金を上げた後どうなったかといえば、雇用が激減して大変なことになりました。しかし、これは当然といえば、当然です。マクロ経済的には最初から予想できたことです。

マクロ経済的な観点からは、最初に金融緩和をして、雇用を安定させるべきでした。そのうえで、人手不足気味になれば、そもそも企業が自主的に賃金をあげるので、様子をみながら徐々に最低賃金もあげるべきです。最低賃金を機械的にあげるのは間違いです。

梶山氏も間違えているところがあります。他の条件が変わらず、多くの中小企業の会社のスキルだけがあがっても、それだけでは何も変わらないです。無論スキルが上がること自体は歓迎すべきことですが、それ以前にまずは、マクロ的な対策が必須です。順番を間違えています。

それは何かといえば、積極財政と金融緩和策を同時に行うことです。これに関しては、米国は先んじて実行して成功しています。最近の例では、サブプライムローンによる不況と、リーマンショックによる不況への対応でした。

米国はこの二度の不況に対して、積極財政と金融緩和を同時に実行することにより、不況から抜け出すことに成功しました。特に、リーマンショックにおいては、サブプライムローンでの経験もあったため、すみやかに積極財政と金融緩和を実行して、素早く不況から抜け出すことに成功しました。

一方当時の日本は、日銀は大規模な金融緩和をせず、政府は積極財政どころが、緊縮財政をしたので、デフレと超円高に陥り、震源地の米国や、悪影響に直撃された英国が素早く不況から脱したにも関わらず、日本だけが世界の中で一人負けの状態になりました。

日本は、こうした米英の、不況に陥ったときには、金融緩和と積極財政で素早く不況から抜け出すという米英の方式を真摯に学ぶべきです。まず、これを素早く実施し、しばらく継続しつづければ、雇用が改善され最初は実質賃金が落ちても、その後に賃金は間違いなく上がることになります。これなしに、最低賃金を上げるようなことをしてしまえば、韓国の惨状を繰り返すことになるだけです。

ただ、現在の日本は米英の方式を見習うべきですが、過去の日本では、それを自ら実践しています。それは昭和恐慌からの脱出です。

昭和恐慌は、1930年から31年にかけて起こった戦前日本の最も深刻な恐慌で、第一次世界大戦による戦時バブルの崩壊を契機としています。20年代、世界の主要国は金本位制へ復帰していましたが、今ではその結果として20年代末期から世界大恐慌が起こったと分析されています。

このような状況下、29年7月に成立した立憲民政党の濱口雄幸内閣は、金解禁・緊縮財政と軍縮促進を掲げました。

当時、金本位制に復帰することは現在でいえば金融引き締めであり、緊縮財政とセットで国民を「シバキ上げ」る政策は、失業を増加させマクロ経済運営としては、非常に問題にある政策でした。

このマクロ政策としては、間違った金融引き締めと緊縮財政政策は政変によって終わりました。31年12月、立憲政友会の犬養毅内閣となったのですが、高橋是清蔵相はただちに金輸出を再禁止し金本位制から離脱、積極財政に転じました。

積極財政では日銀引受を伴い、同時に金融緩和も実施され、民政党政権が行ってきたデフレ政策を180度転換した「リフレ」政策となりました。その結果、先進国の中でも、恐慌から比較的早く脱出した。

日本では、ニュディール政策によって、米国は素早く不況から脱却したと思われているようですが、現実には米国はこの転換がなかなかできず、恐慌から抜け出たのは、第二次成果大戦の最中でした。ニューディール政策のような財政政策だけでは、不況からなかなか脱却できないという格好の事例になりました。

日本では、高橋是清の今で言う「リフレ政策」は、あまり評価されていないどころか、知らない人も多いですが、これは正しく評価されてしかるべきです。

昭和恐慌は、世界恐慌とともに需要ショックによって引き起こされました。それは、日銀引受を伴う金融緩和と積極財政が最も有効な処方箋です。

コロナ・ショックも、世界的なサプライチェーンの寸断という供給ショックもありますが、人の移動制限の伴うビジネス停止により一気に需要が喪失する需要ショックの面が強く、昭和恐慌と同様の経済対策が必要です。

今回のコロナ・ショックは12年前のリーマン・ショックを超えるようです。


今回の悪化判断の起点は昨年夏からです。国内の景気はコロナ禍に直面する前から低迷期にさしかかっていました。米中貿易摩擦と消費税率引き上げに、今年に入って新型コロナが加わりました。複数のショックが続いて起こり、景気の悪化がリーマン時より長引くのは確実です。

リーマン時に比べ、今回のほうが景気の弱さは際立ちます。一致指数の水準をみると、08年6月の102.1に対し、19年8月は98.4。この時点で景況感判断の目安である100を割り込んでいた。輸出や生産に関する指標は18年初めをピークに低下傾向にあり、内閣府の景気動向指数は19年3~4月にも一時「悪化」判断を示しました。

コロナの影響があきらかになった今年3月以降、日本は輸出や生産に加え、個人消費も急減した。小売販売額は前年同月比で4月に13.9%減、5月に12.5%減と2カ月連続で2桁減となりました。リーマン時には最大でも5%程度の落ち込みでした。

コロナショックで外需・内需が総崩れとなった結果、今年4月に一致指数は前月比10.5ポイント低下し、低下幅は比較可能な1985年1月以降で最大となりました。

リーマン・ショック時は金融緩和と積極財政が不十分でしたが、今度こそ米国や、昭和恐慌を模範例として、不況から速やかに脱却すべきです。

特にすみやかに消費減税は実行すべきでしょう。特に昨今では、持続化給付金の詐欺が目立ちます。おそらく、沖縄だけではなく、全国に拡大するでしょう。消費税減税は詐欺の標的にはなりませんし、役所などにも負担がかかりません。

私としては、積極財政の手段としては、トランプのように大規模な減税を行いつつ、様子をみて先の制限なしの個人向けの給付金を、数回実施するのが当面最も効果があると思います。そうして、給付金に雇用促進の効果がみられなくなった場合には、トランプのようにやめれば良いのです。

そうして、昭和恐慌や現在の第二次補正のときのように、政府と日銀の連合軍をさらに強化し、政府が大量の国際を発行し、日銀がそれを買い取るという政策を継続拡大すべきです。

現状では、これを実行継続してもデフレなので、何の問題はありません。将来世代への付けなどにもなりません。デフレから完璧に脱却してインフレが進行するまで継続すべきです。止め時は簡単に知ることができます。それは、物価が上がり続けるのに、雇用が全く改善しなくなったときです。この見極めは、さほど難しくないし、多少間違えたとしてもほとんど問題ありません。デフレよりはるかにましです。

【関連記事】

トランプ氏、プーチン氏との会談示唆-ウクライナ戦争終結に向け―【私の論評】トランプ政権とウクライナ戦争:和平への道筋とバイデン政権の戦略

トランプ氏、プーチン氏との会談示唆-ウクライナ戦争終結に向け まとめ ウクライナ戦争を「終わらせる必要」とトランプ氏-詳細には触れず トランプ氏、ロシアによるウクライナ領の一部占拠も容認の意向示唆 プーチン露大統領とトランプ米大統領 2019年大阪G20サミット  トランプ次期米...