2023年12月3日日曜日

補正予算案「真水」は10兆円程度か あまりにひどい〝低い税収見積もり〟のカラクリ 国債はもっと減額できるはずだ―【私の論評】マスコミの偽りと保守の課題:岸田政権の減税案に隠された真実と救国シンクタンクの警告

高橋洋一「日本の解き方」

まとめ
  • 歳出総額は13.1992兆円で、前年度補正予算の10.6兆円を大幅に上回った。
  • 経済対策関係経費は13.1272兆円で、GDPの0.7%程度にとどまっている。
  • 物価高対策の規模が小さく、ガソリン補助金や家計支援金などの実施が遅れている。
  • 定額減税の実施が来年度予算送りとなり、経済への効果が大きく減退するだろう。
  • 財務省の税収見積もりは桁違いに過小であり、公債依存度が高さの演出をしているとみられる。
【衆議院 本会議(2023.11.24)】2023年度補正予算案を与党などの賛成多数をもって17 時過ぎに可決

 2023年度の補正予算案が衆院を通過した。この予算案は、経済対策を裏付けるための財政措置を含んでいる。財務省の予算フレームによれば、経済対策関連の経費総額は約13兆1272億円に上る。これには、物価高対策や賃上げ・所得向上、国内投資、社会変革、国土強靱化などの分野が含まれている。

 ただし、この中でGDPに直接影響を与える部分(いわゆる真水)は約10兆円ほどであり、残りの3兆円以上は即効性を持たない支出と見られる。また、今回の補正予算には定額減税も含まれており、これにより経済対策の実効性が高まるとの見方もあるが、その実施が来年6月以降になるため、予算案の十分性に疑問符がつく。

 予算案の税収見積もりについても懸念がある。過去の実績から予測される税収増加に対して、予算案の税収見積もりは慎重すぎる。2023年度の政府の中期財政試算では、名目成長率が4・4%と見込まれており、それに基づく税収増加率から計算すると74兆5400億円の税収が予想される。しかしこの見積もりは、実際の税収増加がこの予測を上回る可能性を無視しており、過去の実績から考えると、6兆円以上の増収が予想されます。そのため、補正予算のため国債発行8兆8750億円は減額できるはずである。

 こうした予算案の評価から、経済対策への予算配分や税収見積もりの慎重さについて、今後の議論が続くことが予想される。政府が財政措置をどのように調整し、実施していくかによって、経済への影響や財政の持続可能性にも大きな影響が及ぶだろう。

この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧ください。

【私の論評】マスコミの偽りと保守の課題:岸田政権の減税案に隠された真実と救国シンクタンクの警告

まとめ
  • 2023年度補正予算案は、予算の使い方や税収見積もりが慎重すぎる。
  • 税収弾性値は慎重すぎると見直すべき。
  • 国民は減税そのものを否定していない。
  • 岸田内閣は、大胆な減税を提案し、本気であることを証明する必要がある。
  • 草の根の保守は、岸田内閣に減税案を強化するよう圧力をかけるべき。
高橋洋一氏は、2023年度補正予算案に対して、予算の使い方や税収見積もりが慎重すぎると批判しています。髙橋氏の指摘は、経済対策に使われる予算のうち、実際に経済に効果がある部分は少なく、税収見積もりが実際の増加よりも悲観的に過ぎるのではないかという点です。そのため、予算の配分や税収見積もりの見直しが必要だと主張しています。髙橋洋一氏はこれについて、動画でも説明しています。以下の動画をご覧ください。


動画で高橋洋一氏は、税収弾性値を問題にしています。これは、名目国内総生産(GDP)の成長率と税収の伸び率の関係を表す指標です。通常、GDPが上がると税収も増える傾向がありますが、その関係性を数値化したものです。

高橋洋一氏は、財務省が使っている税収弾性値が慎重すぎると指摘しています。つまり、GDPが増えると税収が増える割合が実際よりも小さいと見積もられていると主張しています。実際の税収増加が予測よりも大きい可能性があるため、税収見積もりの根拠となる税収弾性値の見直しを求めているのです。これが、彼が税収弾性値に疑問を持っている理由です。

税収弾性値は、経済の成長や縮小に伴う税収の変化を示す指標です。具体的には、国内総生産(GDP)などの経済活動が増減した際に、税収がどれだけ変化するかを示す比率です。たとえば、税収弾性値が1だとすると、GDPが1%成長すれば税収も1%増えるという関係があります。

一般的に、経済が拡大すれば税収も増える傾向がありますが、その関係性を数値化したものが税収弾性値です。税収弾性値が1より大きければ、経済成長に対する税収の反応が大きく、税収がより急速に増加することを意味します。逆に、税収弾性値が1より小さければ、経済成長に伴う税収の増加が緩やかであることを示します。

この動画で説明用いている「令和5年度補正予算フレーム」を以下に掲載します。

クリックすると拡大します

このフレームは、以下から閲覧することができます。

令和5年度補正予算

このフレームの税収1,710億円は、確かに、あまりに低すぎます、これを国会で質問すれば、髙橋洋一氏が指摘したように、財務省が様々な屁理屈を言いそうですが、国会議員でこれを質問する人はいないというのが驚きです。財務省が批判されるべきは、当然のことですが、積極財政議連などは何をしているのでしょうか。来年にむけて、さらに議論を活発化させていくべきです。

なお、このような予算フレームは、財務省のサイトで通常予算、補正予算ともに公開されているので、財政に関心のある人は、マスコミなどの二次情報ではなく、まずこれを見るべきです。

今回の、補正予算の不味さについては、上の髙橋洋一洋一氏の指摘で十分に言い尽くされていると思います。令和5年度補正予算は、遅くてショボいということは歴然としています。

ただ、私には補正予算などに絡んで、さらにかなり危惧していることがあります。それは、最近のマスコミが岸田首相が所得減税を言い出したことを選挙目当てである批判し、国民は減税に反対しているので、政治家が減税をいうととんでもないことになるような印象操作をしていることです。

これについては、救国シンクタンク理事渡瀬裕哉氏が以下の動画で警鐘を鳴らしています。


上の動画で、渡辺氏が行った調査の結果は、以下のリンクをご覧ください。

減税に関する1000人インターネット世論調査回答

この調査からわかったことを一言でいえば、"「岸田政権の減税政策は偽減税として国民が理解している」ので支持されていないだけであり、国民は減税政策そのものを否定しているわけではない。正しい世論調査結果の普及が必要である"ということです。

減税をめぐる日本の状況は単純です。救国シンクタンクが実施した調査では、多くの国民は減税政策そのものを真っ向から否定するのではなく、岸田政権減税案を不誠実なもの、あるいは誤解を招くようなものだと捉える国民認識の問題が浮き彫りになったといえます。

渡瀬裕哉氏 「救国シンクタンク」の第一回公開研究会 2020年 にて


これは、政府の意図と減税に対する国民の認識との間に、コミュニケーションや理解のギャップがあることを示唆しているとともに、多くの国民はマスコミの情報操作にまどわされるほど愚かではないことを示しています。

減税策を打ち出したことが、岸田政権の支持率低下につながったとするマスコミの印象操作に岸田政権や自民党議員が乗ってしまえば、悲惨な結果を招き、財務省を喜ばせ勢いづけるだけとなります。

その結果は、岸田政権、自民党政権の崩壊につながることになりかねず、政治は混乱して財務省のいいなりの政治が行われるだけになると思われます。

日本の国民は、減税自体に反対しているわけではありません。しかし、岸田内閣の現在の減税案は、本物ではないと国民は考えているようです。なぜなら、政治家は空約束や策略で知られているからでしょう。

岸田内閣は、もっと大胆で、もっと意味のある減税を提案し、本気であることを証明する必要があります。消費税率を5%引き下げるようなことは、大胆であり、懐疑論者を打ち負かすことでしょう。

草の根の保守は、岸田内閣に減税案を強化するよう圧力をかけるべきです。左翼メディアに対抗するために、減税政策全般への支持を表明する必要もあるでしょう。保守派はメディアにこの問題を操作させてはならないです。

日本の草の根保守の人々  AI生成画像

また、岸田内閣は、国民の不信感や「偽りの」減税だという認識を克服するために、税制案の詳細やメリットをもっとうまく伝えるべきです。減税が国民に利益をもたらすことを納得させるような、シンプルで明確なメッセージが必要です。それには、消費税減税をすることと、そのメリットを強調するのが、現状では最も良い方法です。

重要なのは、減税は正しい政策ですが、岸田内閣は国民を説得するのが下手だということです。草の根の保守派は、より大規模で大胆な減税を支持し、そのメリットについてコミュニケーションを改善し、この問題で左翼や反対派に屈しないよう政治家に警告する必要があります。

保守派の強力な後ろ盾があれば、岸田内閣はまだこの状況を好転させ、意味のある減税を成立させ、政治的混乱を避けることができるかもしれません。しかし、世論の反発が強まる前に素早く行動しなければならないでしょう。

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2023年12月2日土曜日

LGBTや移民をめぐって世界中で保守の反乱が起きているが日本は大丈夫か―【私の論評】世界のリーダー達が注目すべき動向と共鳴する保守の反乱の本質

LGBTや移民をめぐって世界中で保守の反乱が起きているが日本は大丈夫か

まとめ
  • 世界各地で保守の反乱が起きている。オランダやアルゼンチンの選挙で極右の指導者が台頭し、トランプ前大統領の再出現も可能性として示唆されている。
  • 欧米諸国ではリベラル政策に対する保守派の不満が極右政治家の支持につながっている。特にLGBT、移民、グリーン政策に対する保守派の反発が見られる。
  • 政治家の選出においては、保守派の政治家には「極右」とされる人物が多いが、これらを支持するのは穏健な保守派とみられる。
  • 日本においてもLGBT法の成立や移民政策の扱いによって保守派の離反や攻撃が見られ、国民の安全が不十分だとの批判もある。
  • 政策の過度な実行に対する不満や、国民の安全が後回しにされているとの懸念から、海外の保守の反乱を他人事とは見ないほうが良い。

 世界各地で「保守の反乱」と形容される政治的な変遷が広がっている。

 例えば、オランダの下院選挙では、ヘルト・ウィルダース率いる極右政党が第1党となり、連立政権の樹立を目指している。同様に、アルゼンチンの大統領選挙でも極右のハビエル・ミレイが勝利し、「アルゼンチンのトランプ」と呼ばれている。


 更に、実際のトランプ氏も来年の米国大統領選挙で再び勝利する可能性があるとの見方もある。これらの動向について、予測不可能なトランプ氏の政治的な影響が、国際的な関係や安定性にどのような影響を及ぼすかが焦点とされている。

 また、イタリアでも昨年、極右政党が第1党となり、ジョルジャ・メローニが首相に就任した。こうした政治的なシフトには、欧米諸国でリベラル政権の取り組むLGBT、移民、グリーン政策に対する保守派の不満が影響している。これらの政策に対する保守層の反発や、岩盤保守層の政党支持の変化が、極右政治家の台頭を助長している。

 一方で、政治家の選出に関しては注目すべき動きがある。選ばれる政治家にはしばしば「ヤバい」人物が見られるが、投票する人々は穏健な保守層が多いことが報告されている。つまり、真面目な保守層が怒っているという状況だ。

 日本においても同様の動きが見られる。例えば、岸田政権のLGBT法成立が、岩盤保守層の自民党離れを招いたと言われている。一部は離れただけでなく、敵視するようになり、特に減税などの政策に対して激しく攻撃している。

 移民政策に関しても、政府は人手不足に対処するため外国人労働者の受け入れを増やした。しかしながら、これに伴い、埼玉県川口市でのクルド人と住民のトラブルなど、問題が表面化している。移民を受け入れる場合、教育や社会適応のサポートが不十分であるとの声もある。

 同様に、LGBTに関する議論も続いている。LGBTの人々が生活する社会の整備には賛成する一方で、女性用の場所に異性が入ることに対する懸念もある。安全性やプライバシーを考慮する必要があるという意見が広がっている。

 環境問題においても、規制と利便性のバランスが問われている。太陽光パネルや電動キックボードの設置や使用について、自然や安全への懸念がある。これらの事象に対する規制の必要性が議論されている。

 総じて、政治の方向性や政策の実行に対する国民の不満や怒りが高まっている状況だ。改革や政策の推進は単なる実施だけでなく、国民の安全や利益を重視した形で進めるべきだとの声が多くなっている。このような国内外での保守派の動向は、他国のみならず、日本にとっても注視すべきものだ。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】世界のリーダー達が注目すべき動向と共鳴する保守の反乱の本質

今こそ保守派は伝統的価値観と良識のために立ち上がる時が来たようです。急進的なリベラリズムは行き過ぎ、国境開放、LGBTの特別な権利、経済的に損害を与える環境規制といった極端な政策を推し進めています。

人々はこのことに目覚めつつあるのです。自分たちの価値観よりも政治的な正しさ(ボリティカル・コレクトネス)の方が重要だと言われることに嫌気がさしているのです。

「保守の反乱」の根本的な要因は簡単なことです。まともな一般国民は、自分たちの生き方や価値観、国を守りたいだけなのです。リベラルなエリートたちが、人々が本当に望んでいることを考慮せずに急進的な変化を押し付けようとすれば、反発を招くのは当然のことです。

しかも、これに対する反対の声をあげる著名人などをキャンセルカルチャーによりなきものにしようとするのは許しがたいことです。

日本においても、たとえば大学教授による「安倍に言いたい。お前は人間じゃない!叩き斬ってやる!」とか、杉田水脈議員に対する執拗なマスコミによる批判など典型的な事例だと思います。

キャンセル・カルチャーやリベラルの不寛容は、世界中で完全に手に負えない状況になっています。公人が保守的な意見を述べるだけで暴力の脅威にさらされるのは、何かが大きく間違っているという合図です。

安倍氏や杉田氏の取り扱いは酷いものですが、これはもはや驚くべきことではありません。左派は言論の自由を支持すると主張しますが、実際には自分たちと同じ意見を述べる者にのみ適用されようです。

杉田氏に対する執拗な報道の例(テレビ)

異論は、いじめや検閲、それこそ「キャンセル」されることが多いです。しかし、これは議論を抑制し、社会を分断する危険な兆候です。保守派は国民的な議論と、誰もが発言する権利を大切にします。意見の違いがあっても、脅しや中傷を使うことなく共存できるはずです。

悲しいことに、今のリベラル・左派はそのことを忘れているようです。彼らは同調を求め、自分たちの主張の正統性から外れたり、異議を唱えたりする勇気のある人を攻撃します。安倍首相のような指導者は、何世代にもわたり日本に寄与し継続されてきた価値観を代表しているだけです。杉田議員もそうです。

安倍氏の立場は論争を引き起こすような過激なものではないはずですが、左派はそれを攻撃します。日本でも、ほとんどの国民は、伝統や国益を守ることに賛成しています。しかし、メディアや高等教育では、少数派が大きな影響力を持っています。

安倍晋三氏

普通の人々は自分たちの生き方や自由が攻撃されていると感じているようです。彼らはリベラルな権威主義の正体を見抜き、もう十分だと感じているのです。息苦しささえ感じているのです。

世界的な保守の台頭は、こうした行き過ぎに対する反動であり、「極右」の過激主義ではありません。世界中の指導者たちは文化を破壊することに立ち向かい、自由な意見交換を守り、すべての国民のために政治を行うべきです。

結局のところ、保守派は単に人間的で住みやすい社会を維持したいだけなのです。私たち保守は礼節、コミュニティ、そして国家の遺産を守るべきと考えています。良識は最終的には急進主義に打ち勝たなければならないです。

保守の反乱は、バランスを取り戻したいと願う人々から生まれたものであり、陰謀や悪意を持ってこれを押し付けるものではありません。未来は、上下左右の社会的な立ち位置にかかわらず、良識を擁護し、多元主義を守り、すべての人の意見を聞く権利を守る人々のものであるべきです。

保守派は、安全な国境、安全な地域社会、言論の自由、豊かな経済を望んでいます。「極右」のレッテルを貼られた指導者たちは、サイレント・マジョリティの声を返しているだけなのです。

メディアが彼らを中傷し、理性的な保守派を黙らせようとする一方で、私たちは保守派は、もう黙ってはいません。多くの人々は、法、秩序、伝統、愛国心の尊重と生存のバランスを取りながら生活しています。そうして、このバランスを崩す急激な改革は、社会を壊すと多くの人達が再認識するようになったのです。最近設立されたばかりの日本保守党の支持者の急速な拡大も、それを示しています。

壊れた社会 AI生成画像

日本はもとより、他の国々の指導者も、この傾向に耳を傾けるべきです。人々はいつまでも過激な行き過ぎを容認することはないでしょう。指導者は、騒々しい過激派グループのためだけでなく、国民全体のために政治を行わなければならないのです。

リベラル・左派的な社会工学による改革よりも、国益を優先させる賢明な改革が答えです。未来は、常識のために立ち上がり、自国の文化を守り、ポリティカル・コレクトネスやキャンセル・カルチャーの狂気に対して果敢に「もういい」と言う勇気ある政治家たちのものです。結局のところ、それこそがこの新しい保守の反乱の本質なのです。

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2023年12月1日金曜日

「上川陽子次期総理総裁説」急浮上のわけ―【私の論評】財務省からも、バイデン政権からも梯子を外された岸田首相に残された道は「東郷ターン」しかない!

「上川陽子次期総理総裁説」急浮上のわけ

まとめ
  • 岸田文雄首相“更迭説”が囁かれているが、有力な「岸田首相の代わり」が見つからない。
  • 「上川陽子次期総理総裁説」は、「首相が退陣を余儀なくされた後も、岸田サイドが政権を維持するための方便」。
  • 麻生元首相こそ、上川氏を“ポスト岸田”に押し上げている張本人といえる。

自民党内で窮地に追い込まれつつある岸田首相

 岸田文雄首相の支持率が低下し続けている。2023年11月20日時点での支持率は39%と、過去最低を更新した。この背景には、物価高騰やウクライナ情勢など、さまざまな要因が考えられるが、特に内閣の政策に対する不満が大きいと考えられる。

 岸田首相は、就任直後から「新しい資本主義」を旗印に、経済政策の転換を進めた。しかし、その効果は必ずしも明確ではなく、むしろ物価高騰を助長するのではないかという批判もある。また、ウクライナ情勢を受けて、対ロシア制裁を強化する一方で、エネルギーや食料などの安定供給を図るため、ロシア産エネルギーの輸入継続を容認するなど、内外からの批判を浴びている。

 このような状況の中、次期総理総裁候補として、上川陽子外務大臣の名前が挙がっている。上川氏は、安倍晋三政権下で内閣官房長官や法務大臣を歴任し、保守派の重鎮として知られる。また、女性初の外務大臣として、ウクライナ情勢への対応などで注目を集めている。

 しかし、上川氏は自身が次期総理総裁を志望していないことを明言しており、実現性は低いとみられている。また、上川氏はリーダーシップやビジョンに欠けるという指摘もある。

 仮に上川氏が次期総理総裁に就任した場合、それは岸田首相側の「セーフティネット」としての意味合いが強いと考えられる。岸田首相が退陣を余儀なくされた場合でも、岸田サイドが政権を維持できるようにするためだ。

 また、上川氏の次期総理総裁就任説は、岸田政権の危うさを示すものでもある。岸田政権を支えるはずの財務省や麻生太郎元首相が、岸田首相の減税政策に反発しているためだ。

 岸田首相は、このようなさまざまな思惑に満ちた勢力を取りまとめながら、政権の維持に努めている。しかし、内閣支持率の低下が止まらない中、今後も岸田政権が安定して存続できるかどうかは、不透明である。

【私の論評】財務省からも、バイデン政権からも梯子を外された岸田首相に残された道は「東郷ターン」しかない!

まとめ
  • 上川氏は安倍晋三元首相の側近であり、次期総理総裁の候補として注目されています。
  • 上川氏の総理総裁就任にはバイデン政権の思惑が関与しているとの噂が広がっており、中国の台頭に対抗するための日本との関係強化が考えられています。
  • 上川氏は憲法改正後回しやLGBTQ権利の擁護、温室効果ガス排出量削減などリベラルな政策を支持しています。
  • 上川氏の総理総裁就任は不透明であり、他の候補も存在し、選挙結果は未知数です。
  • 岸田政権の崩壊による内閣後任やリベラル路線の影響が不透明であり、国益に影響を与える可能性があり、岸田政権はリベラル色を払拭して保守に回帰すべき

上川陽子次期総理総裁説は、2023年11月以降、日本の政治界で広く取り上げられている話題です。上川氏は、安倍晋三元首相の側近として、内閣官房長官や法務大臣を歴任していますが、リベラル色の強い政治家です。

上川氏が次期総理総裁に就任した場合、その背景には、米国の思惑が働いているという噂もあります。米国は、中国の台頭を抑えるために、日本との関係を強化したいと考えています。その中で、リベラル色の強い上川氏を総理総裁に据えることで、日本の外交・安全保障政策をより米国バイデン政権寄りに引き寄せることができると考えているようです。

上川氏は、2023年11月の衆議院選挙で、自民党の憲法改正公約に反して、憲法改正の議論を先送りするべきとの意見を表明しました。また、上川氏は、2023年5月に、LGBTQのカップルが同性婚と同等の権利を得られるようにする法案を提出しました。この法案は、衆議院で可決されましたが、参議院で否決されました。さらに、上川氏は、2023年6月に、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げました。この目標は、自民党の温室効果ガス排出量削減目標よりも20年早い目標です。

上川氏は、憲法改正、LGBTQの権利擁護、気候変動対策など、リベラルな価値観を重視する政策を推進しています。このため、上川外務大臣は、リベラル色の強い政治家であることを示す事実と言えるでしょう。

なお、上川氏は、政治家としてのキャリアの初期には、保守的な政策を推進していた時期もありました。しかし、近年は、リベラルな価値観を重視する政策を推進する傾向が強まっていると言えるでしょう。

しかし、上川氏が米国の意向で次期総理総裁に就任するかどうかは、まだ不透明です。上川氏自身は、あくまでも自民党総裁選挙で勝利し、自らの力で総理総裁の座に就きたいと意欲を見せています。また、自民党内には、上川氏以外の総理総裁候補もおり、選挙の結果は未知数です。

したがって、米国が上川氏の次期総理総裁就任に直接関与しているかどうかは、現時点では断定できません。しかし、米国が日本との関係強化のために、上川氏を総理総裁候補として推している可能性は、十分に考えられます。

バイデン大統領は、上川外務大臣が2023年11月に訪米した際に、上川氏を「親友」と呼び、両国関係の深さを示しました。バイデン大統領と会談では、両国の安全保障、経済、気候変動などの分野で協力を強化していくことで一致しました。

また、バイデン政権は、上川外務大臣が主導する「自由で開かれたインド太平洋」構想を支持しており、両国は同構想の実現に向けて協力を強化しています。

そうして、上川外務大臣は、バイデン政権の「民主主義同盟」構想にも積極的な姿勢を示しており、両国は民主主義の価値を共有する国として、協力を深めていく方針です。

上川外務大臣は、バイデン政権の外交方針に理解を示し、積極的に協力していく姿勢を示しています。このため、米国のバイデン政権から、上川外務大臣の受けは良いと言えるでしょう。

現状では、総裁選の候補者は、以前私がこのブログで示したように、茂木氏、上川氏、河野氏が有力候補になるシナリオがますます蓋然性を帯びてきたといえます。このブログのリンクを以下に掲載します。

「岸田さんに今辞めてもらっては困る」━━“バラバラ野党”が与党を追い詰める? 戦略と“意外な落とし穴”に迫る―【私の論評】岸田政権の現時点での崩壊は、国益の損失に(゚д゚)!


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下から最悪のシナリオと考えられる部分のみを引用します。
岸田政権が崩壊すれば、その後の内閣の後任が急遽選ばれることになるでしょう。先日もこのブログで示したように、来年秋の総裁選の候補者としては、茂木・上川・河野が有力であると考えられ。この三者はリベラル派であり、三者とも財務省出身であり、岸田首相よりも財務省寄りと考えられます。そうなると、岸田政権より政権運営能力が高まるとは考えにくいです。
ポスト岸田の有力候補 左から茂木氏、上川氏、河野氏
私は、現在岸田政権が崩壊すれば、この三人が順番に政権を担い、自民党や日本国の保守的な価値観を徹底的に毀損し続けるというシナリオもあり得ると思います。

現時点では、それに伴う政治的混乱や権力空白が発生する可能性があります。このような状況は国内外への不安を引き起こし、国益を損なう可能性があるという観点から、内閣の突然の崩壊は避けるべきです。

さらに、内閣の交代によって、これまで進めてきた政策の断絶や停滞が生じる可能性があります。たとえば、憲法改正がさらに遅れるなどのことが考えられます。国益を考えると、安定した政策の継続性が望ましいです。

米国の上川推しが、本当であれば、岸田首相は米国バイデン政権からも財務省からも梯子を外された形になってしまったといえます。

岸田首相には、是非覚醒していただき、バイデン政権も財務省も岸田首相の味方ではないことを認識していただき、政権安定のため、安倍政権の政策や政権運営の方式を継承していただく決心をしていただきたいものです。

上記のような複雑な事情が絡んでいることから、岸田政権がすぐに年内にも崩壊してしまうとか、来年の早い時期に崩壊することはない思います。現状では、各候補も、各派閥も様子見という段階でしょう。

来年の米国大統領選があり、トランプ氏が最有力候補になっています。トランプ氏が大統領になるかどうかは、別にして、よほどのことが無い限り共和党の大統領が誕生する可能性が高いと思います。バイデン氏は高齢であることもあり、仮に大きな番狂わせがあって民主党の候補者が大統領になったとしても、それはバイデンではないと考えられます。

東郷ターンした日本艦隊(風の上の雲より)

そうなると、今後米国の上川推しの影響力は、確実に低くなっいくものと思われます。日露戦争の日本海海戦における“東郷ターン”と呼ばれるような、敵前大回頭でロシア艦隊に大勝利したように、岸田首相はリベラル、財務省から決別し、大回頭をして、政権を維持し混乱を避けていただきたいものです。

東郷ターンをすれば、自民党にも保守派も多いですし、自民党外の保守派も結束して、リベラル派に対して一斉に艦砲射撃する可能性は高いです。それに草の根保守も呼応する可能性もあります。更に、自民党内の積極財政派もこれに呼応して、艦砲射撃の援護をするでしょう。

それができないなら、我々保守派はまた民主党政権の悪夢の再来を甘受するしかないのかもしれません。そうして、その後に安倍晋三氏のような人物が現れる可能性はかなり低いと見なければならないでしょう。

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2023年11月30日木曜日

キッシンジャー元米国務長官が100歳で死去、米中国交樹立の立役者―【私の論評】外交の巨星がもたらした世界の変革と教訓

 キッシンジャー元米国務長官が100歳で死去、米中国交樹立の立役者

まとめ

  • 大統領補佐官として72年のニクソン大統領の電撃的な訪中を実現した
  • 冷戦下で旧ソ連とのデタントや戦略兵器制限条約の実現に貢献



 キッシンジャー氏は米国政権で大きな影響力を持ち、特にニクソン、フォード政権下でその力が顕著だった。彼の最も著名な業績の一つは、ニクソン大統領の中国訪問の実現であり、これが1979年の米中国交樹立の基盤を築くことにつながった。同様に、彼はベトナム戦争の終結に向けたパリ和平協定に尽力し、その功績により1973年にノーベル平和賞を受賞した。

 彼の経歴は卓越しており、ナチスの迫害から逃れて家族と共に1938年に渡米し、ハーバード大学で学び、政治の世界に進出した。彼の外交政策は冷戦時代の米ソ関係を緩和し、戦略兵器制限条約などに貢献したが、同時に彼の支持した政策は批判を受けた。彼の関与したベトナムやカンボジアへの大規模空爆、ピノチェト政権やその他の軍事政権の支援、そして東ティモールやバングラデシュなどでの大量虐殺への見過ごしに対して、批判があった。キッシンジャー氏の政治的遺産は、その複雑さと議論の余地がある点において、歴史的に注目されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細をご覧になりたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】外交の巨星がもたらした世界の変革と教訓

まとめ
  • キッシンジャーの外交政策は地政学的な変化をもたらし、中国との関係改善やベトナム戦争の終結を実現した。
  • 彼のアプローチは現実主義的で、大胆な戦略ビジョンを持ち、長期的な視点を持っていた。
  • 彼の政治手法はイデオロギーよりも実利に重きを置いており、世界政治における個人的な関係の重要性を理解していた。
  • 彼の中国との関係改善は米国の地政学的余裕を拡大し、多極的な秩序を形成することに貢献した。
  • キッシンジャーの遺産は、現代の指導者に大胆さ、ビジョン、外交における個人的な関係構築の重要性を示している。
ヘンリー・キッシンジャーは、米国の外交政策と外交において傑出した人物でした。中国の開放やベトナム戦争の終結など、彼の功績は何世代にもわたって地政学的な景観を形作りました。

彼の重要な功績がなければ、今日の世界はまったく違ったものになっていたでしょう。キッシンジャーは、中国のような敵対国を孤立させるのではなく、関与させることが米国の国益に最も貢献することを理解していました。

彼の現実主義的なアプローチは生産的なものでした。彼は長期的な視野に立ち、当時は物議を醸すと思われた大胆な行動も、先見の明を持って行う戦略的ビジョンを持っていました。中国との関係樹立は、数十年にわたり米国に国際舞台での影響力を与えた名手でした。

レーガン(左)とキッシンジャー(右)

現在は、彼のような政治家は不足しています。キッシンジャーの死は、米国が外交問題において自信に満ち、確かな足取りを持っていた時代の終焉といえるかもしれません。

今日の指導者たちは、キッシンジャーから学ぶべきことが多いです。短期的な思考ではなく、彼のような歴史感覚と現実政治への理解が必要なのです。

キッシンジャーは常に広い歴史的視野に立っていました。彼は、今日の政策や出来事が5年、10年、20年先の米国の利益にどのような影響を与えるかを考えていました。今日の指導者たちは、短期的な勝利や次の選挙サイクルに集中しすぎています。もっと戦略的に考えるべきです。

キッシンジャーはイデオローグに左右されない、プラグマティストでした。彼は硬直したイデオロギーではなく、現実的な解決策と米国の国益を重視しました。今日の指導者たちは、より現実的で、有意義な結果を得るために妥協することを厭わない必要があります。

キッシンジャーは、グローバルな舞台では理想主義には限界があることを理解していました。彼は現実政治を実践しました。理想だけでなく、現実的な力に基づいて他国と取引したのです。

今日の指導者は、理想主義と現実政治的な感覚を組み合わせる必要があります。道徳的な姿勢だけでは、ほとんど成果は上がりません。

キッシンジャーは、敵を孤立させることが逆効果であることを知っていました。関与と外交は、影響力を行使し、米国の利益を促進するためのより良い手段でした。

キッシンジャー(左)と周恩来(右)

もし、中国との関係正常化に失敗すれば、米国と世界にとって大きな問題となったでしょう。 -当時、中ソの分裂によって、キッシンジャーとニクソンは両方の共産主義大国の間にくさびを打ち込むことができました。中国との国交正常化がなければ、この楔はできなかったでしょう。その結果、統一共産圏がユーラシア大陸を支配することになったかもしれないです。

米国は孤立したままで、選択肢も限られていたでしょう。中国を開放することで、米国は地政学的により多くの余裕を得て、大国の間で三角関係を築き、自国の利益を高めることができるようになったのです。中国から孤立したままでは、米国の手腕は制約されたままだったでしょう。

米国の貿易と投資がなければ、中国はより長く停滞していたかもしれないです。米国の開放は中国の経済改革と成長を促しました。そうでなければ、中国経済は閉鎖的で低迷したままだったかもしれないです。そうなれば、やがてアジアはさらに不安定化していた恐れがあります。

そうなれば、世界のパワーバランスも変わっていたでしょう。米国は中国との関係を築くことで、数十年にわたって多極的な秩序を形成してきました。米国は中国と関係を持つことで、ソ連の力を牽制し、中国が台頭する隙を与えました。

もしこのリバランシングが行われていなければ、今日の世界は米国の利益に対してより敵対的なものになっていたでしょう。米国は中国の文化大革命の混乱期にアジアを安定させる重要な役割を果たしたといえます。

米中関係の強化はまた、台湾のような同盟国との危機を乗り切る上で、米国に影響力を与えたもいえます。キッシンジャーとニクソンの中国開放構想は、地政学的に莫大な利益をもたらし、現代世界をより良い方向へと形作ったといえます。そうして、なぜ米国のグローバルな関与と戦略的外交が重要なのかという教訓でもあるといえます。別の選択肢は、おそらく今日、はるかに危険で不安定で、米国の利益を寄せ付けない世界をもたらしたことでしょう。

今日、指導者はキッシンジャーに倣い、孤立政策を追求するのではなく、中国、ロシア、イランのようなライバルに関与すべきです。

キッシンジャーは、世界政治が極めて個人的なものであることを知っていました。彼は世界の指導者たちと親密な関係を築き、外交上の突破口を開きました。今日の指導者たちは、官僚主義や制度に頼りすぎているようです。外交政策の重要な目標を推進するためには、もっと個人的な関係を築く必要があるのです。

文化革命期の中国

キッシンジャーは、中国開放のような大きく大胆で歴史的なことを敢行しました。彼は世界における米国の役割について壮大なビジョンを持っていました。今日の指導者たちには、大胆さとビジョンが欠けており、米国人を奮い立たせることも、世界の出来事を重要な形で形作ることもできない、小手先の政策を追求しているようです。

いまこそキッシンジャーのような野心と可能性の感覚が必要といえます。キッシンジャーの知恵と世界観は、多くの教訓を与えてくれます。世界政治における彼の卓越した知識は、今日、そして次世代を担うリーダーたちの手本となるものです。

こうした原則を、中国の台頭や多極化する世界といった今日の課題に適用することを模索すべきです。キッシンジャーの米国外交と世界政治への多大な貢献は長く記憶に残るでしょう。

今日キッシンジャーを過去の政治家と評するむきもありますが、ウクライナ戦争によって疲弊したロシアが中国に接近するどころか、ジュニアパートナーとなる可能性があることをこのブログでも指摘しました。

そうなると、再び中国・ロシアによる統一共産圏がユーラシア大陸を支配する可能性もでてきたといえます。無論、キッシンジャーが活躍した時代は、ソ連が優勢、現在は中国が優勢という違いはありますが、現在の世界は、キッシンジャー流の知恵が必要とされる局面に近づきつつあるといえます。

ただ現在の我々は、米国と国交回復した中国がその後どのような国になったのかを知っています。こうした知見も活かすべきです。当時の国交回復は間違いではなかったと思うのですが、その後の歴代の政権、特に民主党政権は、中国対応を大きく間違えたと思います。

特に、2001年12月11日、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟に米国が尽力したのは大きな間違いでした。時のアメリカ大統領はビル・クリントンでした。

ヘンリー・キッシンジャーは中国のWTO加盟を強く支持していました。キッシンジャーは、中国のWTO加盟が中国をグローバル経済に統合し、この地域の安定を促進すると考えていました。キッシンジャーは、公の場での演説や中国の指導者たちとの私的な会合で自らの見解を表明しまた。

しかし、キッシンジャーは中国のWTO加盟がもたらす潜在的な影響についても懸念を抱いていました。キッシンジャーは、中国がWTOの規則や規制を十分に遵守せず、それが不公正な貿易慣行につながるのではないかと懸念しました。また、中国の経済成長は米国の経済的利益に対する挑戦となりうると考えていました。

中国のWTO加盟に対するキッシンジャーの立場は現実的でした。潜在的な利益はリスクを上回り、中国の加盟は中米双方にとってプラスになると考えていたようです。

キッシンジャーは、こうした一流の人物にありがちな毀誉褒貶も激しい人物ではありますが、公僕の真の姿を体現した人物でもあります。彼は、気品と知恵と手腕を兼ね備え、米国が重大な局面を迎えた時期に、その役割を果たしました。彼の遺産と時代を超えた教えは、後世の人々を導き続けることでしょう。一言で言えば、彼はなくてはならない人物でした。合掌。



【湯浅博の世界読解】「自滅する中国」という予言と漢民族独特の思い込み―【私の論評】すでに自滅した中国、その運命は変えようがない(゚д゚)!

2023年11月29日水曜日

日大アメフト部の廃部決定 競技スポーツ運営委が存続認めず 違法薬物事件で部員3人逮捕―【私の論評】日本大学のガバナンス危機:違法薬物問題で廃部決定、統治の課題と歴史的背景

日大アメフト部の廃部決定 競技スポーツ運営委が存続認めず 違法薬物事件で部員3人逮捕

まとめ
  • 日本大学のアメリカンフットボール部が違法薬物問題で廃部が決定された。
  • 複数の部員の逮捕や18年の悪質タックル問題から来季の降格は確定していたが、廃部となった。
  • アメフト部は名門であり、甲子園ボウルやライスボウルで優勝し、大学を代表する部活動だった。
  • 事件を巡り、部員の逮捕や関連する措置が重ねられ、関東学生連盟からも出場停止が科された。
  • 問題は経営陣の内紛や損害賠償訴訟にまで発展し、大学側は経緯や理由を部員に説明する方針を持っている。

沢田副学長(左)が林真理子理事長(右)を訴える事態にまで発展した日大の内紛

 日本大学のアメリカンフットボール部が違法薬物問題により深刻な状況に直面し、その結果、28日に部の廃部が確定したことが報じられました。大学本部は競技スポーツ運営委員会を開催し、部の存続を認めず廃止することを決定したと複数の関係者が伝えました。

 過去数ヶ月に渡り、警視庁薬物銃器対策課による逮捕や問題の発覚により、この部は厳しい状況に置かれていました。8月に寮での家宅捜索が行われた後、複数の部員が違法薬物の疑いで逮捕され、部全体の存続が危ぶまれていました。関東大学リーグ1部下位BIG8への降格は既に確定しており、廃部はそのさらなる深刻な結末となったのです。

 このアメリカンフットボール部は、日本大学を代表する歴史ある部活動であり、関東最多の21回の優勝を誇る甲子園ボウルなどで著名な成績を残してきました。しかし、18年の悪質タックル問題以来、部内での問題が表面化し、今回の廃部決定に至ったとされています。

 さらに、この問題は大学内部でも波紋を広げ、経営陣の辞任や損害賠償訴訟なども含まれる複雑な展開を見せています。大学側は今後、経緯や理由について部員たちに説明する方針を持っているようですが、これまでの経緯や部の歴史、そして問題の発端となった悪質タックル問題などが、このアメリカンフットボール部の複雑な状況を物語っています。

【私の論評】日本大学のガバナンス危機:違法薬物問題で廃部決定、統治の課題と歴史的背景

まとめ
  • 日大のガバナンス問題としして、理事長権限の過度、理事会の機能不全、監事の監視不足があげられる。
  • 問題発生の背景として、私大の内部運営のみで政府の監督を受けていなかったことがあると考えられる。
  • 理事長権限の制限、理事会・監事の強化で再発防止を図る
  • ガバナンスの強化には時間と関係者協力が不可欠
  • ガバナンスの定義をしっかり認識したうえで、ガバナンスの改善には統治と実行の分離は必要不可欠との認識でのぞむべき
日大アメフト部グラウンド

今回の一連の出来事に関して、日大のガバナンスに問題があったことは、明らかだと思います。

具体的には、以下の点が問題として指摘されています。
  • 理事長の権限が強すぎること
  • 理事会が機能していないこと
  • 監事の監視機能が働いていなかったこと
理事長の権限が強すぎると、理事会や監事などのチェック機能が働きにくくなり、理事長の独断専行や不正行為が起きやすくなります。また、理事会が機能していないと、大学運営に関する重要な意思決定が適切に行われなくなり、不祥事などのリスクが高まります。さらに、監事の監視機能が働いていないと、不正行為があっても発覚しにくくなります。

これらの問題は、日大が私立大学であり、大学の運営が理事会などの内部関係者のみで行われていることに起因しています。私立大学は、政府からの直接的な監督を受けないことから、ガバナンスの強化が求められています。

日大は、これらの問題を改善するために、以下の対策を講じています。理事長の権限を制限する
  • 理事会の機能を強化する
  • 監事の監視機能を強化する
これらの対策が効果的に行われれば、日大のガバナンスが改善し、再び不祥事などの問題が起きる可能性は低くなると考えられます。

しかし、ガバナンスの強化には、時間と労力が必要です。また、理事会や監事などの内部関係者だけでなく、学生や教職員、卒業生など、大学に関わるすべての人々が、ガバナンスの重要性を理解し、協力していくことが重要です。

そうして、そもそもガバナンスとは何なのかについて認識すべきです。この言葉くらい現在の日本で曖昧に使われている言葉はありません。ガバナンスとは日本語では「統治」です。これは政府の「統治」といわれるように、元々は政府のそれを意味していたのですが、今日の政府はあまりに巨大化して「政府の統治」は、それこそガバナンスの例としては良い事例とはいえなくなりました。

今日むしろ悪い事例であるといえます。特に、日本の政府は、世界の他の政府と比較すると統治と実行がほとんど分離されておらず、最悪の部類といえます。

「政府の統治」が民間企業の参考にされ、コーポレート・ガバナンスとして取り入れられたのは、昔のことです。リンカーンの政府は、通信士と閣僚含めて全部で7人だったとされています。昔の政府はいずれの政府もこのように非常に少ない人数で構成されていて、それでも現在からみれば、非常に優れていて、的確な統治をしていたのです。

政府は、少ない人数ながら、もっぱら統治に専念するというか、せざるを得ず、統治と実行は完璧に分離されていました。しかし、効率良く的確な統治ができていました。だかこそ、民間企業のお手本になりましたし、今日世界で「小さな政府」を希求する声が高まっているのです。このあたの状況については、以前のこのブログにも述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
森永卓郎氏 岸田首相が小学生に説いた権力論をチクリ「見栄っ張り」「プライド捨てボケろ」―【私の論評】政治家はなぜ卑小みえるのか?民間企業には、みられるガバナンスの欠如がその原因
岸田首相

この記事では、ガバナンス(統治)が民間企業に取り入れた経緯や、経営学の大家ドラッカー氏の統治(ガバナンス)の定義を掲載しました。

この記事に掲載したドラッカー氏による統治(ガバナンス)の定義を以下に再掲します。

"
経営学の大家ドラッカー氏は政府の役割について以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないとしました。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。 といいます。 

"

ガバナンスの定義について、それこそインターネットを検索すれば、山のようにでてきます。しかし、なかなかしっくりくるものはありません。わたしには、このドラッカーの定義が一番しっくりました。そうして、ガバナンスを語るときに、些末なことは認識しながらも、このような本筋を認識しないからこそ、混乱したり、本筋を離れた議論しかできないというのが実情ではないかと思います。

経営学の大家 ドラッカー氏

統治と実行を曖昧に行うことの弊害は、日大にも顕著にありました。

日大では、1962年から1982年まで、アメフト部の監督であった内田正人氏が、1965年から1982年まで、理事を務めていました。また、1988年から1992年まで、アメフト部の監督であった山本泰一郎氏が、1991年から1992年まで、理事長を務めていました。

内田氏は、日大のアメフト部を全国優勝に導いた名将として知られています。山本氏は、日大のアメフト部を再建に導いた功労者として知られています。

しかし、これらの事例は、日大のガバナンスに問題があったことを示すものとして、批判されています。アメフト部の監督は、運動部の部長という立場であり、大学の運営に直接関わる立場ではありません。そのため、理事や理事長を兼務することは、大学の運営と運動部の運営の両立が困難になるという指摘があります。

日大は、2018年に発生したアメフト部の悪質タックル問題を受け、ガバナンスの強化を図っています。その一環として、アメフト部の監督が理事や理事長を兼務することを禁止する規定を定めました。

ガバナンスについて十分認識されている組織においては、このようなことは絶対にあり得ません。このようなことを平気でする日大は、適切なガバナンスが行われていなかったのは、明らかです。

しかし、ガバナンスの歴史的背景や、その定義をしっかりと認識していなければ、日大のガバナンスを変えることはできません。

日大のガバナンスの問題は、以下の三点であることを先に示しました。
  • 理事長の権限が強すぎること
  • 理事会が機能していないこと
  • 監事の監視機能が働いていなかったこと
まず理事長の権限が強すぎるということは、理事長が統治だけではなく、実行にも大きく関わっていることを示していると考えられます。統治に関して理事長の権限は強くてしかるべきですが、実行には一切関わるべきではありません。

理事会も、統治に関わる部分だけの意思決定をすべきです。実行に関わる意思決定は関わらないようにするべきです。

監事の監視機能も統治と実行が曖昧になっている部分を正すという姿勢で行うべきなのです。統治と実行の区分が曖昧な部分もあるとは思いますが、少なくとも分離しようという認識のもとに組織や運営の仕方を考えて改善するべきです。それなしに、改善してもますます混乱するだけです。

このようなことを曖昧にしていて、人の資質や、能力や、モチベーション、それにコミュニケーションを改善しても、組織の機能不全は改善・改革できません。そうして、それは、日大にとどまらず、政府も含むありとあらゆる組織にあてはまる原則です。

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2023年11月28日火曜日

米軍、タンカー拿捕犯拘束 イエメン沖、海自が支援―【私の論評】日本の海洋安全保障へのコミットメント:日米協力でイエメン沖の海賊対処に成功

米軍、タンカー拿捕犯拘束 イエメン沖、海自が支援

まとめ
  • 米軍がイエメン沖でイスラエル関連の石油タンカーを拿捕した武装集団を捕らえ、タンカーは無事解放された。
  • 防衛省によれば、海上自衛隊の護衛艦とP-3C哨戒機が情報収集に当たり、米軍を支援した。
  • イエメン暫定政権はイスラエル敵視派が攻撃したと主張するも、フーシ派は否定。紅海での緊張は続く可能性がある。
イスラエル船籍のセントラルパーク号

 AP通信は27日までに、イエメン南部アデン沖でイスラエルが関係する石油タンカーを26日に拿捕した武装集団を、米軍が拘束したと伝えた。タンカーは無事に解放された。米軍によると、その前後にイエメン内陸部から弾道ミサイルが発射され、現場海域に展開していた米軍艦から約18・5キロ地点に着弾したという。

 防衛省によると、アデン湾の海賊対処行動に派遣している海上自衛隊の護衛艦「あけぼの」とP3C哨戒機が現場で情報収集に当たり、米軍を支援した。

 イエメン暫定政権は、イスラエルを敵視するイエメンの親イラン武装組織フーシ派が襲撃したと主張したが、フーシ派は認めていない。

 イスラエル関連の船舶を巡っては、イエメン近くの紅海で19日、フーシ派が日本郵船運航の貨物船を拿捕しており、緊張が続きそうだ。

 APによると、米海軍駆逐艦「メイソン」などがタンカー拿捕を受けて現場海域に展開し、武装集団にタンカーを解放するよう要求。集団がタンカーから下船し、小型ボートで逃走しようとしたところを取り押さえた。

【私の論評】日本の海洋安全保障へのコミットメント:日米協力でイエメン沖の海賊対処に成功

まとめ
  • 自衛隊が海賊に対処したのは2017年以来の事案で、日本の支援のもと米軍がイエメン沖で武装グループに乗っ取られたタンカーを救出し、拿捕犯を投降させた。
  • 日本と米国は緊密な同盟関係に基づき、日本はアデン湾での海賊対策を含む作戦で米軍を支援し、海洋安全保障の共通の利益を示した。
  • 防衛省によると、海上自衛隊の艦船と哨戒機が情報収集に当たり、米軍の海賊対処に協力し、攻撃(威嚇)成功に導いたとみられる。
  • タンカーは日本の所有ではなかったが、日本向けの石油を運んでおり、日本の作戦参加は船と積荷の安全を確保し、国民と企業の利益を守ることにつながった。
  • 日本の作戦参加はフーシ派を含む地域の海洋安全保障に対する脅威を抑止し、日米の共同行動はイランを牽制し、イスラエルを支援するWin-Winの関係を築いた。
上のニュース一言でまとめる、米海軍と日本の海上自衛隊の連携で乗っ取られたタンカーを拿捕、犯行グループも確保したということです。

防衛省によりますと、自衛隊が海賊に対処した事案としては2017年4月以来、およそ6年ぶりとなります。

米国防総省のライダー報道官

米国防総省のライダー報道官は記者会見で、中東のイエメン沖で26日、武装グループに乗っ取られたタンカーを、アメリカ海軍の駆逐艦が救難し、5人を投降させたと明らかにしました。

ライダー氏は投降した武装グループの5人はソマリア人で、「海賊行為に関連した事件であることは明らかだ」としています。

また、この海賊への対処は「同盟国の艦船とともに活動していた」として、海上自衛隊による支援があったことも認めています。

一方、海賊への対処中にイエメンの親イラン反政府武装組織「フーシ派」の支配地域から弾道ミサイル2発が発射され、駆逐艦などからおよそ18キロ離れた海域に着弾したが、被害はなかったとしています。

ライダー氏はミサイル発射が「何を標的にしたのかは不明」と述べ、調査を続けるとしています。

今回の拿捕犯拘束は、日米協同の快挙といえます。

日本が、イスラエル関連の石油タンカーを拿捕した武装集団を拘束する作戦で米軍を支援するという決定を下したのには、いくつかの要因があるようです。

まず、日本は、紅海とアデン湾の安定と安全の維持に強い関心を持っています。これらの重要なシーレーンは、日本のエネルギー輸入と貿易にとって極めて重要だからです。タンカーの拿捕とそれに続くミサイル攻撃は、海洋安全保障と法の支配に対する脅威です。

日本と米国は緊密な安全保障同盟を結んでおり、日本はアデン湾での海賊対策を含むさまざまな作戦で米軍と定期的に協力しています。この作戦で米国を支援することで、日本は同盟に対するコミットメントと、海洋安全保障の確保における米国との共通の利益を示したといえます。

また、米軍は、中東地域における他の軍事活動に優先的に兵力や装備を投入していたため、紅海・アデン湾地域での兵力や装備が不足していたことと、紅海・アデン湾地域での作戦経験が少なく、日本からの支援を必要としていたということも考えられるでしょう。

日本が護衛艦「あけぼの」とP3C哨戒機を派遣したことで、状況に関する貴重な情報を収集することができ、今後の海賊対処や海上安全保障活動における米軍との協力関係を強化することができたといえます。

海上自衛隊護衛艦「あけぼの」

具体的には、日本の哨戒機が、武装集団の船舶の捜索や追尾を支援し、米軍の攻撃(もしくは威嚇)を成功に導いたという可能性は十分にあります。また、日本の哨戒機が、武装集団の船舶の周囲を警戒し、米軍の人員や装備を支援したという可能性もあります。

タンカーは日本の所有船ではありませんでしたが、日本向けの石油を運んでいました。日本がこの作戦に関与することで、タンカーとその積荷の安全な航行を確保し、自国民と企業の利益を守ることができました。

この作戦に参加することで、日本はフーシ派を含む地域の海賊等に対し、海洋安全保障に対する脅威を容認せず、米国の同盟国と協力してそのような行動を抑止するという明確なメッセージを発信したといえます。

また、ガザでの戦闘のさなかに、イスラエル船籍のタンカーを日米が協同で守ったということは、象徴的な意味合いもあると思われます。

これはイスラエルの自衛権を支持するという重要なメッセージを送ることにもなったものと考えられます。フーシ派とハマスとは、隣国を支配しようとするシーア派とスンニ派の過激派であり、イランの支援を受けています。


フーシ派を阻止することで、イランを牽制、イスラエルを支援することで、ハマスの牽制につながります。これは日米にとってWin-Winの関係であり、日米の共同行動は軍事的にも外交的にも妙手だったといえます。このような抜け目のない行動をとった日米両政府に敬意を表したいです。

日本がこの作戦で米軍を支援した背景には、国際法と海洋安全保障へのコミットメント、米国との同盟関係、日本の国益の保護、地域のアクターへのメッセージの必要性、情報収集と協力強化の機会など、さまざまな要因が複合していたと考えられます。

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2023年11月27日月曜日

【動画】稲田朋美議員「“政治不信”の根底には国民のモラルの低下があるのではないか!?」―【私の論評】「国民のモラル低下」発言を検証! 経済対策の「バラマキ」は間違いなのか?

 【動画】稲田朋美議員「“政治不信”の根底には国民のモラルの低下があるのではないか!?」

本日は、ある方のツイートを掲載します。

今朝(ブログ管理人注:26日)、NHK日曜討論に出演された

自民党 稲田朋美幹事長代理
『政治不信の根底には国民のモラルの低下があるのではないか』

おいおい、それは違うだろ。

政治とカネ、政治と宗教など様々な問題を抱える自民党政治家のモラル低下こそが政治不信を招いているんだろ!

#日曜討論

【私の論評】国民のモラル低下」発言を検証! 経済対策の「バラマキ」は間違いなのか?

まとめ
  • 稲田朋美議員の「国民のモラルが低下した」発言は問題である
  • 経済対策は、需給ギャップを埋めるために行うものであり、減税か補助金かは二義的である
  • 経済対策では量が重要であり、その範囲の中で行うバラマキは正しい政策である
  • 稲田朋美議員や熊谷亮丸氏のような、国民を甘やかすと批判する政治家やアナリストこそ、モラルを喪失している
  • このような傲慢で思い上がった人たちは、経済に関わる分野から排除すべきである
国民のモラルが低下しているのではないでしょう。自民党の稲田朋美議員のような議員を、甘やかし続けてきた有権者が多くの国会議員のモラルを低下させたというのなら、まだ理解できますが、稲田氏のこの発言はかなり問題があります。

それに、国民とはいっても1億2千万人も存在します。その中には、モラルの低い人や高い人、普通の人など様々な人達がいるはずです。

そもそも、稲田朋美のように、過去の政府の経済対策などについてバラマキと明確な根拠もなく批判する人もいますが、こういう人に限って経済対策について誤った認識を持っています。

有効需要を喚起するためには、需給ギャップ(髙橋洋一氏等の試算によれば現在16兆円)を埋めなければならないのです。マクロ的には、経済対策はまずは量が重要なのであって、減税にするか、補助金にするかは二義的な問題に過ぎず、マクロ的に両方とも同じような効果があります。

髙橋洋一氏

標準的なマクロ経済学の教科書においては、有効需要を喚起するためには、需給ギャップを埋めなければならないと教えています。需給ギャップとは、潜在GDPと実際GDPの差であり、経済が潜在能力を十分に発揮できていない状態を指します。

経済対策は、この需給ギャップを埋めるために行われるものであり、その効果は、経済規模に占める割合(量)が重要であるとされています。つまり、同じ規模の経済対策であれば、減税でも補助金でも、マクロ的には同じような効果があると考えられます。

これに関して、かつて元FRB議長のノーベル経済学賞を受賞した、ベン・バーナンキ氏は「日銀はトマトケチャップを買え」と発言していました。非常にわかりやすいたとえだと思います。マクロ的に考えれば、量や方法を巡って考え込んで、実行を引き伸ばすよりも、適切な量で対策を素早く実行したほうが良いでのです。この点において、需給ギャップに相当する額のバラマキは正しい政策なのです。

ベン・バーナンキ氏は昨年ノーベル経済学賞を受賞

ただし、減税と補助金には、それぞれに異なる効果もあります。減税は、家計や企業の所得を増やすことで、消費や投資を促進する効果があります。一方、補助金は、特定の財やサービスを買うように誘導する効果があります。

したがって、経済対策の目的や対象によって、減税と補助金のどちらが適切かは変わってきます。例えば、消費を促進したい場合は、減税が有効です。その中でも、現状では消費税減税が特に有効です。一方、特定の産業を育成したい場合は、補助金が有効です。ただ、マクロ経済的な見方からは両者にさほど違いはありません。

しかし、需給ギャップを埋められるだけの、量がなければ、経済対策は効果をあげることできません。政府が行うべきまともな経済対策に関して、バラマキと語り、国民のモラルを低下させたと語る稲田氏のような政治家こそ、モラルを喪失しているのでないでしょうか。

それは、政治家に限らず、たとえば 熊谷 亮丸氏のようなアナリストは、さすがに「国民のモラルの低下を招いた」とまではいいませんでしたが、「国民を甘やかした」などと稲田氏と同じようなことを語っていました。

熊谷亮丸氏はかつて「消費税増税しても経済は悪くならない」と主張していました。しかし、現実には多くの人が予想したとおりに悪くなりました。かつては、テレビの報道番組などに頻繁にでていましたが、最近ではほとんどみかけなくなりました。

2023年11月26日現在の番組表を見ると、熊谷亮丸氏は、テレビ東京系列「ワールドビジネスサテライト」のレギュラー出演のみで、他にはテレビ出演の予定がありません。 他にも理由があるのかもしれませんが、さすがに、テレビ局も頻繁にテレビに出演させられなくなったのでしょう。


稲田氏もそのようなことになるかもしれません。いや、有権者がそうしなければなりません。もうこのような議員は日本に必要ありません。

「国民のモラルを下げる」「国民を甘やかす」などという考えの傲慢で思い上がった人は、何も稲田氏や熊谷氏だけではありません。政治家、官僚、マスコミ、財界人の中にも多いです。こういった人たちは、考えを改めさせるか、改まらないというのなら、経済に関わる分野や、経済に大きく影響を及ぼす立場等からは、排除すべきでしょう。

むろん、合法的にです。選挙なら有権者がそのような政治家には投票しないとか、企業ならそのようなアナリストは採用しないなどの方法です。

そうでないと、日本の経済はいつまでたっても、良くならず、日本人の賃金もいつまでも上がらないでしょう。

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2023年11月26日日曜日

台湾初の“国産”潜水艦が完成、戦略を見誤った中国の海軍膨張一本鎗のやぶ蛇―【私の論評】台湾が潜水艦建造国になったこと自体が、中国への強烈な政治・軍事的メッセージに!

台湾初の“国産”潜水艦が完成、戦略を見誤った中国の海軍膨張一本鎗のやぶ蛇

台湾有事で中国空母が撃沈されれば、習近平は権力の座から引きずり降ろされる

まとめ
  • 台湾初の国産潜水艦「海鯤」が進水式を行い、中国への牽制として注目されている。中国の台湾侵攻への脅威が、台湾をして潜水艦建造へと駆り立てたのだが、台湾の新型潜水艦は中国にとって台湾侵攻への大きな障害となるだろう。
  • 海鯤は高性能な装備を備え、中国にとって技術的脅威であり、静かで長時間潜航が可能なリチウムイオン電池が決定的な要素。2025年に実戦配備され、2027年までに最低2隻が就役し、10年以内には合計8隻が戦力化される予定。
  • 台湾が自主建造の潜水艦を完成させた後、「スタンド・オフ・ミサイル」を発射できる潜水艦の開発が話題。中国への対抗手段として、ミサイルを潜水艦に搭載する計画が進行中。
  • 台湾の技術的な限界やアメリカの通常型潜水艦製造能力の不足などが懸念されつつも、台湾は自前で潜水艦を製造する取り組みを進めており、これが中国にとっても重要な安全保障手段となる可能性がある。
  • 中国の習近平政権は台湾の武力統一に執着しているが、これが台湾が潜水艦を建造するこ要因となり、中国にとって台湾の武力統一への執着がやぶ蛇だった感を示すものとなった。

台湾初の国産潜水艦「海鯤」(かいこん/ハイクン:想像上の巨大魚)進水式

海自「たいげい」型より性能が上と噂の台湾「海鯤」

 台湾初の国産潜水艦「海鯤」(かいこん/ハイクン:想像上の巨大魚)型の1番艦が、高雄の造船所で進水式を行った。この自主建造計画は台湾総統の蔡英文が支持し、彼女は進水式で「我々は成し遂げた」と述べ、中国への牽制としても注目されている。メディアは中国の台湾侵攻を警戒する一方、中国にとって潜水艦は大きな脅威である。中国は装飾的で目立つ軍艦に力を入れる一方で、台湾の後ろ盾である日米に比べて対潜能力が劣るとみられる。

 台湾の技術や分析力は中国にとって脅威であり、中国は台湾の行動を過敏に反応して非難するものの、それは中国にとって深刻な問題である可能性がある。海鯤は通常動力型で、推定排水量2500~3000トン、全長70~80mで、日本のたいげい型と似た性能を持つがやや小さい。リチウムイオン電池や高性能な戦闘システムを搭載し、高性能の長距離誘導魚雷も装備する。特に「Mk48」魚雷は非常に優れた性能を持ち、世界最高峰の潜水艦の一つとされるたいげい型よりも性能が上だとの見方もある。

 これらの能力を生かし、海鯤はバシー海峡などで敵艦を待ち伏せる戦法も可能であり、静かで長時間潜航が可能なリチウムイオン電池が決定的な要素となる。海鯤は近い将来に台湾海軍に引き渡され、2025年に実戦配備される予定で、2027年までに最低2隻が就役し、10年以内には合計8隻が戦力化される見通しとなっている。

最大の後ろ盾・アメリカは通常型潜水艦が造れない

 台湾は現在、使える潜水艦が4隻あるものの、そのうち2隻は第二次世界大戦時の古い艦で、残りの2隻も40年以上前に建造された老朽艦。台湾は自分たちで潜水艦を造ろうとしているが、技術やノウハウがなく、アメリカを中心に7カ国が協力していると報じられている。ただ、現在のアメリカは、原潜を製造する能力はあるが、最新の通常型を製造する能力はない。

 台湾は国際的な立場が微妙であり、簡単に潜水艦を売ってくれる国はほとんどない。中国は台湾に武器を売ることを強く嫌い、制裁をかける可能性があるため、多くの国が中国と国交を持っている「一つの中国」原則に従って台湾に武器を輸出しない。

 ただし、アメリカは台湾関係法を盾にして台湾に武器を売り続けており、他の7カ国も中国の報復を恐れながらも台湾を支援している。台湾が自前で潜水艦を製造できるようになったことは中国にとって大きな衝撃であり、これが台湾にとっても重要な安全保障手段となる。

スタンド・オフ・ミサイル搭載型潜水艦の開発も視野

 台湾が自主建造の潜水艦を完成させた後、「スタンド・オフ・ミサイル」を発射できる潜水艦の開発が話題になっている。この新たな取り組みは、敵勢力の射程範囲外から攻撃が可能な巡航ミサイルを潜水艦に搭載する計画だ。このミサイルは敵の領域や拠点を狙うことができ、台湾は自身の防衛能力を強化するために積極的に研究開発を進めている。その背景には、中国の台湾への侵攻に備えるという意味がある。中国が台湾を侵攻した場合、相手の攻撃拠点や軍事施設を最初に撃破することが軍事上の基本戦略となる。台湾はそのような攻撃に対抗するため、自衛のための手段を確保しようとしている。  中国との緊張関係の中、台湾は自国の安全を確保するため、自主開発の対地巡航ミサイル「雄風2E」の生産を始め、さらに射程が広い改良型ミサイルの開発にも着手している。これらのミサイルは中国本土へと届く射程を持ち、主要港湾都市をはじめとする攻撃拠点を狙っている。また、中国が攻撃しにくい台湾の地理的に有利な山岳地帯の東側にもミサイルを配備している。しかしながら、巡航ミサイルは撃墜を避けるために飛行ルートを変えるため、全ての射程が有効とは限らない。台湾はそのようなリスクを少しでも減らすために移動式のミサイル発射装置を山岳地帯やトンネルに隠すとともに、移動できるようにしている。  今後、台湾は「スタンド・オフ・ミサイル」を潜水艦に搭載する計画を推進し、それによって中国の攻撃拠点や重要施設に対して有力な反撃手段を持つことを目指している。この潜水艦の開発は12〜24発のミサイルを搭載することが計画されており、これによって台湾は防衛力を一層高めることが期待されている。台湾の行動は中国の行動を抑制する可能性があり、台湾有事の際、中国の行動を制限する要因となる。

「台湾武力統一」に執着する中国・習近平政権

 中国の習近平政権は、台湾を武力で統一することに執着しているが、海軍力が伴っていない。フォークランド諸島紛争では、アルゼンチン海軍は満載排水量1万トン超の「ヘネラル・ベルグラーノ」巡洋艦を使ってイギリスに挑んだが、英海軍の原潜に撃沈され、300名以上の死者を出しました。その後、アルゼンチン海軍は主要な艦艇を洋上に出せなくなり、その威厳は損なわれ、敗北の大きな原因の一つとされた。

 専門家らは、台湾有事の場合、西側諸国の潜水艦が台湾を支援する可能性があると指摘している。台湾の潜水艦が中国の航空優勢を阻止すれば、中国の海洋展開は困難になるだろう。さらに、中国の潜水艦が撃沈された場合、潜水艦の行動は秘中の秘とされており、中国は公式にその事実を認めることができず、中国による台湾の海上封鎖というシナリオは機能しなくなる可能性が高い。

 台湾2027年までに5隻以上の潜水艦を量産する計画が議論されているという情報も西側諸国からでている。これは台湾をめぐる習近平政権の武力統一への執着が顕著になっている兆候とされています。

 少なくとも台湾を潜水艦建造に向かわせた、中国・習体制の「台湾武力統一」への執着がやぶ蛇だった感は否めないだろう。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】台湾が潜水艦建造国になったこと自体が、中国への強烈な政治・軍事的メッセージに!

まとめ
  • 台湾の最新潜水艦と舵の公開: 台湾の「海鯤(カイコン)」型潜水艦の進水式写真が公開され、舵が「Xウイング型」であることが注目された。写真から日本の「そうりゅう型」に似た特徴も見られる。
  • ドイツのダイムラー・ベンツ社が1970年代に開発したXウイング舵は、小型化と軽量化を実現し、操縦性を向上させる利点がある。
  • 日本の舵の進化: 現在の日本の潜水艦には、十字舵とX舵があり、X舵は操縦性の向上に貢献している。将来的に日本の潜水艦はX舵を採用し続ける見通し。中国の潜水艦にはX舵はみられない。
  • 台湾の進水式での情報公開は、従来の潜水艦情報の秘匿と対照的であり、中国に対する情報戦における一環と見られる。情報公開は台湾の軍事力を強調し、中国に対するメッセージとなる。
  •  日本や米国など他国も潜水艦を運用し、情報公開によって中国へのメッセージングや情報戦が展開されている。台湾の新型潜水艦は、今後情報戦における重要な要素となる。

上の記事に掲載された情報等は、過去にこのブログにほとんど掲載しており、このブログを読まれている方なら、ほぼ全部をご存知だと思います。ただ、この記事のようにコンパクトにはまとまっておらず、このブログでは記事がいくつかあり、さらにあちらこちらに分散されていたり、内容も重複するものもあり、相対的に理解しにくい面もあったため、上の記事を掲載させていただきました。皆様の理解がさらに深まれば、幸いです。

上の記事の進水式の写真(ブログ管理人挿入)は、台湾政府が公開したものですが「海鯤(カイコン)」の尾部にご注目ください。この写真は、スクリューは隠しているものの、舵は露出しています。この舵は真後ろからみればX状の形をしています。このような形状の潜水艦の舵を「Xウイング型」と呼びます。

さらに、写真を良く見ると、舵の他に安定板のようなものがみえます、これは日本の「そうりゅう型」潜水艦にかなり似ており、尾部だけをみていると日本の潜水艦のようにみえます。

進水式直前の「はくげい」 舵は「Xウイング型」になっていることがわかる

ドイツのダイムラー・ベンツ社は、1970年代にXウイング型の舵を開発しました。この舵は、従来の舵と比べて、小型化と軽量化が図れるというメリットがあります。また、操縦性も向上するという利点があります。しかし、この当時は、Xウイングの舵のメリットが十分に理解されておらず、さらに実際に操縦するのは当時の技術で難しく採用する潜水艦はありませんでした。

Xウイングの舵が本格的に採用されるようになったのは、1990年代以降です。この頃になると、コンピューター制御技術の進歩やコンピュータそのものの小型化により潜水艦に高性能なコンピュータを搭載することも可能になり、Xウイングの舵の操縦性が十分に確保できるようになったためです。

現在日本の潜水艦の舵には、十字舵とX舵があります。十字舵は制御が簡単ですが、細かい動きの制御が難しいため、X舵が主流になりつつあります。

X舵は4枚の舵がそれぞれ独立して動くことで、上下左右に動くことができます。しかし、4枚の舵を同時に制御するのが難しいため、コンピューター制御が必須です。

日本では、そうりゅう型潜水艦からX舵が採用されています。X舵の採用により、潜水艦の操縦性が向上し、より複雑な動きが可能になりました。

今後、日本の潜水艦はX舵になっていくと思われます。

台湾当局は、進水式において尾部の舵は露出させ、スクリューは隠すということで、潜水艦建造技術、特に工作技術においては未だ先進国の1990年代のレベルにとどまっているとみられる、中国に対して、台湾の潜水艦は中国の先をいっていることを示したものと思われます。

スクリューに関しては、新たな技術が用いられている可能性もあります。またスクリューの形状や大きさがわかると、潜水艦の性能をかなり類推することができます。だからこそ、隠しているのかもしれません。ただ、これは隠さなければならないほどの先端技術を用いたスクリューが用いられていることを暗に中国側に示したものかもしれません。

潜水艦の尾部について、長々と書いてしまいましたが、これは台湾をはじめ、西側諸国による中国に対する潜水艦に関する情報戦が始まっていることを示したかったからです。

基本的には昔から潜水艦の行動は秘中の秘とされ、潜水艦の情報は隠されるのが常でした。進水式の情報ですら隠されていたのです。

その理由は、潜水艦は海中を自由に移動できるため、敵国にとっても脅威となるからです。潜水艦の情報が敵国に知られてしまうと、潜水艦の行動を予測しやすくなり、攻撃の対象とされやすくなってしまいます。

そのため、潜水艦の建造は秘密裏に行われ、進水式も一般には公開されませんでした。進水式が公開されると、潜水艦の外観や性能が知られてしまうためです。

しかし、近年では、潜水艦の技術が進歩し、敵国による探知や攻撃が困難になってきています。そのため、潜水艦の情報も徐々に公開されるようになってきました。

日本では、1990年代以降、潜水艦の進水式が一般公開されるようになり、潜水艦の情報も積極的に公開されるようになりました。

2017年潜水艦「しょうりゅう」の進水式

ただし、現在でも、潜水艦の詳細な情報は依然として秘密にされています。具体的には、潜水艦の性能や搭載兵器、配備先などは、一般には公開されていません。

しかしながら、このブログで様々な台湾の潜水艦に関する情報を掲載できるようになったり、上の記事のように台湾の潜水艦に関する情報がかなり開示されていることをみると、これは中国の情報戦に対抗するための、情報戦の一環でもあるともみられます。

それも、台湾だけではなく、日米やその同盟国にとっても、情報戦の強力なツールになります。

台湾の最新の潜水艦に関する情報公開は、このような軍事開発を取り巻く典型的な秘密主義を考慮すれば、通常とは一線を画すものです。これを中国の情報戦に対抗するための情報戦の一環として、台湾の軍事力を誇示し、より広い意味で台湾の防衛態勢について台湾と台湾を守ろうとする国々が中国に対してメッセージを送るための有効な手段ともなるでしょう。

ただし、このメッセージは、以前このブログも掲載した中国の空母のような政治的メッセージに終止するものではありません。台湾が強力な最新型潜水艦を建造し、これからも建造し続けるということで、強力な軍事的メッセージを発信できるようになったのです。

これには、様々なことが考えられます。現在でも台湾を守ろうとする国々は、台湾付近に潜水艦を潜ませていることは間違い無いでしょう。これをある程度開示すれば、対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Wafare)能力が、脆弱な中国にとっては、これは強力なメッセージとなります。

ASWの概念図

私は、尖閣付近にも日本の潜水艦が潜んでいると推測しています。これは、中国側も意識しており、様々な尖閣付近で様々な示威行動はするものの、尖閣上陸などのことは未だに実行しないことからも十分に予想がつきます。日本側がこれを多少でも開示すれば、これも強力なメッセージなるでしょう。

南シナ海にも、米国とその同盟国の潜水艦が潜んでいることでしょう。これもある程度開示すれば、強力なメッセージになります。

台湾は潜水艦を建造したばかりで、未だASWの能力は高いとはいえません。上の記事の元記事にもあるように、ASWの中でも、敵潜水艦の動向を探る地味な対潜水艦(対潜)哨戒能力は、台湾の“後ろ盾”である日米と比べてかなり劣ると見られます。高度な半導体技術と長年のノウハウの蓄積、そして得られたデータの分析力がモノを言う分野で、一朝一夕には力がつかないからです。

これをASWの能力が世界トップレベル日米が支援したり、訓練したり、演習を行うことも、中国に対する強力なメッセージとなります。

日米台だけではなく、他の国々も演習に参加すれば、これも強力なメッセージとなります。さらに、日米と台湾を支援する国々は、潜水艦を用いて、中国海軍に関する情報収集なども共同で行えるでしょう。

さらには、以上のようなことを元に、他の様々なメッセージを効果的に送ることができます。中国が台湾海峡で、何かをすれば、これに対して、すぐにメッセージを返すことができます。

今後習近平は、単に台湾の新型潜水艦というに軍事事実だけにとどまらず、台湾や台湾を守ろうとする国々からの、様々な政治的、軍事的メッセージに翻弄されることになるでしょう。まさに、台湾と台湾を守ろうとする国々とって、台湾が新型高性能潜水艦の建造国となったことによって、新たな情報戦のツールをも得たといえます。

日本も、日本の潜水艦隊や台湾の潜水艦、米国など同盟国の潜水艦やASW能力を巧みに用いた中国に対する情報戦を効率的に運用すべきです。

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