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2024年5月29日水曜日

【攻撃性を増す中国の「茹でガエル」戦術】緊張高まる南シナ海へ、日本に必要な対応とは―【私の論評】同盟軍への指揮権移譲のリスクと歴史的教訓:自国防衛力強化の重要性

【攻撃性を増す中国の「茹でガエル」戦術】緊張高まる南シナ海へ、日本に必要な対応とは

まとめ
  • アキリーノ米インド太平洋軍司令官は、中国が「茹でガエル戦術」で徐々に圧力を強めており、南シナ海や台湾海峡での軍事行動が一層攻撃的で危険になっていると指摘した。
  • 中国の沿岸警備隊によるフィリピンの排他的経済水域内でのサンゴ礁周辺での威嚇行為に強く懸念を示した。
  • 北朝鮮とロシアの脅威、中露の協力関係深化にも警戒を要すると述べた。
  • 同盟国との連携が重要であり、新たな軍事能力の強化と相互運用態勢の早期確立が課題だと指摘した。
  • 日本としては、同盟国との連携強化に伴う指揮命令系統の問題など、主権にかかわる課題が将来的に生じる可能性があるため、自らの防衛能力強化を急ぐ必要がある。

アキリーノ米インド太平洋軍司令官

 アキリーノ米インド太平洋軍司令官は、退任を前に、中国の南シナ海や台湾海峡における軍事的圧力の強化を「茹でガエル戦術」と表現し、強く非難した。中国は徐々に温度を上げることで相手に危険性を過小評価させ、いつの間にか危機的状況に陥らせるこの戦術を追求しており、行動は次第に攻撃的かつ大胆になり、地域の不安定化を助長していると指摘した。

 特に、フィリピンの排他的経済水域内のサンゴ礁周辺での中国沿岸警備隊の威嚇行為は一線を越えた新たな段階に入ったとの懸念を示した。放水砲を用いてフィリピン軍への補給を妨害するなど、これまで以上に攻撃的な姿勢を見せているからだ。

 アキリーノ司令官はさらに、北朝鮮の度重なるミサイル発射や、北朝鮮・ロシアの協力関係、中国・ロシアの関係深化にも危惧の視線を向けた。これらの動きは地域の緊張をさらに高める要因になりかねないと警鐘を鳴らした。

 そして、中国を始めとするこれらの脅威に対抗するには、同盟国との連携が不可欠であり、各国の新たな軍事能力の強化とそれらの早急な相互運用態勢の確立が喫緊の課題だと力説した。アキリーノ司令官自身、台湾有事の際にも指揮を執っており、中国の一方的な行動に強い危機感を抱いていたことがうかがえる。

 こうした現状認識を踏まえ、日本としても自らの防衛能力の強化を急ぐ必要があるだけでなく、同盟国との連携強化に伴い、将来的には指揮命令系統の一体化など、主権にもかかわる重大な課題が生じる可能性も想定されるため、十分な検討が求められよう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】同盟軍の指揮権移譲のリスクと歴史的教訓:自国防衛力強化の重要性

まとめ
  • 軍隊の指揮権を他の同盟国などに移譲すると、現場の実情が正確に伝わらず、同盟国全体の利益が優先されることで、自国の利益が損なわれる可能性がある。
  • 自衛隊が米軍の指揮下に入ることで、日本の防衛任務や戦略的利益が適切に反映されないリスクが高まる。
  • 第二次世界大戦中の英国の例では、第二次世界大戦中の指揮権移譲により戦略的利益が損なわれ、戦後の国力低下にもつながった。
  • ソ連は指揮権を維持し続けた結果、戦中には最大の損害を被りながらも、戦後に領土拡大と国際的な主導権を獲得し、最も利益を得た国となった。
  • 自国の防衛力を自助努力で高めつつ、同盟国と対等な関係を保ち連携することが重要であり、軽々な指揮権移譲は避けるべきである。
上の記事の元記事の最後のほうでは、「古来、同盟軍の戦いでは指揮権を移譲した側の損害が大きくなるとの定評に鑑み、その観点からもわが国は自らの能力強化を早急に進めるべきだという声は傾聴に値する」としています。

これは、指揮権を移譲すれば、意思決定の場が離れた司令部に移ったとすれば、現場の実情を正確に伝えきれず、状況に適さない判断がなされる可能性があります。また、自国の利益よりも同盟国全体の利益が優先されがちになります。このような懸念から、自国の指揮権を最大限維持し、独自の能力を強化すべきだという主張がなされているものと思われます。

台湾有事の場合を想定して、より具体的に説明します。

頼清徳台湾新総統

仮に中国が台湾に武力侵攻した場合、日米同盟に基づき、自衛隊は米軍と共に対処にあたることになるでしょう。しかし、この際に自衛隊の指揮権を完全に米軍に移譲してしまうと、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
  1. 現場の実情が適切に伝わらない 台湾有事における自衛隊の活動は、日本の領土、領海、領空の防衛という自国の防衛任務と深く関わっています。しかし、指揮権を米軍に移譲してしまえば、そうした日本の主権的利益が必ずしも十分に反映されない可能性があります。
  2. 自国の戦略的利益が損なわれる 米軍の司令部は、同盟国全体の戦略的利益を最優先します。一方で日本は、例えば中国との関係修復などの将来的な国益を考慮する必要があります。指揮権を移譲すれば、そうした自国の長期的な利益が無視される恐れがあります。
  3. 現場の機動性が失われる 有事における自衛隊の機動的な活動には、政府の迅速な判断と指示が不可欠です。しかし指揮権を移譲してしまえば、意思決定のプロセスが遅延し、機動性が失われてしまう可能性があります。
こういった理由から、自国の防衛能力を強化し、最大限の主体性を維持することが重要であり、安易に指揮権を移譲すべきではないという主張が出てくるのです。台湾有事のように、自国の主権的利益が深く関わる事態では、この点は特に重要になってくるでしょう。

指揮権の移譲によって、不利益を被った国の例としては、英国があげられます。

第二次世界大戦中の英国首相 チャーチル

第二次世界大戦の欧州戦線において、英国と米国の間でこのような事態が生じました。
1942年にドイツ領内への本格的な侵攻を開始した時点で、英国よりも兵力と装備で優位にあった米軍が事実上の主導権を握りました。それにより英軍は以下の不利益を被りました。
 
作戦計画の立案段階から英国側の意見が尊重されない事態が生じました。米軍中心の作戦計画になり、英国軍の犠牲が無視される側面がありました。

航空機や戦車、兵員の割り当てで不利な扱いを受け、英国軍の戦力が十分に生かされませんでした。ノルマンディー上陸作戦では、英国軍の提案する上陸地点が米軍の希望で変更され、不利な展開を強いられました。

このように、同盟国内での指揮権の主導権を持った米軍が、自国の都合を優先する形で作戦を指揮したため、英国軍は戦略的利益を損ねる事態に陥りました。

戦後も同様です。インドをはじめ、連合国内で英国の植民地独立運動が活発化し、戦後に英帝国は瓦解に追い込まれました。他の連合国に比べ、植民地喪失の打撃が最も大きかったと言えます。

戦時下の莫大な費用と戦後の経済的疲弊により、英国は深刻な国力低下に見舞われました。この間、他の米ソなど連合国の国力は向上しており、格差が開きました。

このように、戦時中の連合国内での影響力喪失と、戦後の国力低下が相まって、英国は第二次世界大戦の連合国内で最大の損失を被った国と評価されているのです。

では、米国が第二次世界大戦でもっとも利益を得たかというと、そうとは言い切れないところがあります。

米国は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツと戦うソビエト連邦(以下ソ連と略す)に支援を行いました。

支援内容は以下の通りです。
  • 武器・軍需品の供与 米国はレンドリース法に基づき、ソ連に戦車、航空機、艦船、食料品、石油製品等の軍需品を大量に供与しました。金額にして現在の換算で1,800億ドル相当とされています。
  • 資金支援 ソ連への借款や信用供与を行い、戦費の一部を肩代わりしました。合計で109億ドル相当の資金援助がありました。
  • 戦略物資の提供 非鉄金属、燃料、機械類、車両など、ソ連が不足していた戦略物資を米国から供給を受けました。
  • 輸送路の開設 同盟国からソ連へのルートとして、北極海航路・ペルシャ湾ルート・極東ルートなどを開設し、物資の輸送を支援しました。
この大規模な軍事・経済援助によって、ソ連の対ドイツ戦線が物資的に支えられ、持久戦を可能にしたと評価されています。

しかし、結局のところ、もっとも被害の大きかった国でもある、当時のソ連が最大の利益を得たと言えます。その主な理由は、当時のイギリスとは異なり、ソ連は軍の指揮権を一片たりとも、米国に譲らなかったことにつきるでしょう。

これは、ソ連と米国は地理的、歴史的、文化的にも隔絶していたため、米国として指揮のとりようもなかったということに起因してはいるのですが、これが戦後に英国との大きな差を生み出すことになるのです。

第二次世界大戦中のソ連の指導者 スターリン

ソ連が東方戦線の作戦指揮権を完全に自国が掌握し続け、他国に決して権限を譲らなかったことが、戦後の勢力圏拡大と冷戦構造における主導権の獲得につながったといえます。

指揮権の一元的な維持が、戦後のソ連の"利益"獲得に大きく寄与したと言えるでしょう。

ソ連は戦後、日本の現在「北方領土」といわれる地域を領土とし、東欧諸国をソ連の影響下に置き、バルト3国などを事実上の一部領土化しました。領土を大幅に拡大することができました。

ソ連は、ナチス・ドイツ撃滅の最大の功労者となり、戦後は米国とともに超大国の座に着くことができました。東西冷戦構造の一方の中心的存在になりました。戦後設立された、国際連合では、中国とともに常任理事国となっています。

東欧を中心に社会主義圏が大きく広がり、ソ連の影響力が最大化しました。イデオロギー的にも大きな勝利を収めたと言えます。
 
ソ連は、連合国側で主導的な役割を果たし、戦後の東西ドイツ分割や東欧での影響力拡大などを主導できました。

このように、領土的・イデオロギー的な大幅な拡大と、戦後の国際秩序形成における主導権の獲得という意味で、ソ連が第二次世界大戦から最も利益を得た国であると評価できます。

このように、軽々な指揮権移譲は避け、自国の防衛力は自助努力で高めつつ、同盟国とは対等な関係を保ち、緊密に連携する。この二つの側面を両立させることが、軍事力の最大発揮につながるとともに、戦後に不利益を被らないための対策ともなるのです。

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2023年12月16日土曜日

“ロシア勝利”なら米負担「天文学的」 米戦争研究所が分析…ウクライナ全土の占領「不可能ではない」―【私の論評】ウクライナ戦争、西側諸国は支援を継続すべきか?ISWの報告書が示唆するもの

“ロシア勝利”なら米負担「天文学的」 米戦争研究所が分析…ウクライナ全土の占領「不可能ではない」

まとめ
  • ロシアがウクライナ全土を占領した場合、ロシア軍はNATO加盟国への脅威となる。
  • アメリカはこれに備え、ヨーロッパに大規模な兵力を配置する必要があり、そのコストは膨大なものとなる。
  • ウクライナへの軍事支援を継続し、戦線を維持させるだけでも、これらのコストに比べれば「はるかに安上がりだ」という。
  • ウクライナが勝利すれば、アメリカはヨーロッパ大陸で最大かつ最も戦闘力の高い友軍を獲得し、NATO防衛を強化することができる。


 米国の政策研究機関「戦争研究所(ISW)」は、西側諸国がウクライナへの軍事支援を打ち切りロシアが勝利した場合、アメリカは「天文学的」な軍事的・経済的負担を強いられると分析した。

 具体的には、ロシアがウクライナ全土を占領した場合、ロシア軍は豊富な戦闘経験を積み、NATO加盟国への脅威となる。アメリカはこれに備え、ヨーロッパに大規模な兵力を配置する必要があり、そのコストは膨大なものとなる。また、ステルス戦闘機の多くをヨーロッパに配置すると、台湾有事への対応能力が低下する可能性もある。

 一方、ウクライナへの軍事支援を継続し、戦線を維持させるだけでも、これらのコストに比べれば「はるかに安上がりだ」という。ウクライナが勝利すれば、アメリカはヨーロッパ大陸で最大かつ最も戦闘力の高い友軍を獲得し、NATO防衛を強化することができる。

 戦争研究所は、アメリカなどで支援継続の先行きが不透明になるなか、ウクライナが敗北した場合の軍事的・経済的コストについても真剣な議論を促した。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナ戦争、西側諸国は支援を継続すべきか?ISWの報告書が示唆するもの

まとめ
  • 戦争研究所は、ウクライナが勝利するためには、西側諸国の支援が不可欠であると主張している。
  • 米国議会では、ウクライナへの巨額の支援を継続すべきかどうか、議論が続いている。
  • 欧州議会では、ウクライナへの支援を継続すべきだという意見が主流だが、具体的な金額や内容については、まだ合意に至っていない。
  • 米国や欧州が現段階で、支援の有無をはっきりさせていないため、日本への支援への圧力が高まる可能性がある。
  • バイデン政権は、ウクライナ支援を国際社会で共有していくことが重要だと繰り返し強調しており、日本にも支援の拡大を働きかけているとの見方もある。

ロシアが勝った場合のISWによる想定地図

The Institute for the Study of War(戦争研究所)は、伝統的な米国の価値観を推進する保守系シンクタンクです。彼らは、米国が築き上げられた原則を尊重する観点から、外交政策と国家安全保障問題について貴重な研究と分析を提供しています。米国の民主主義、自由、人権などの価値観を支持しています。

その彼らが、以上のようなレポートを出しているわけですから、ウクライナ戦争においてウクライナ側が負けるようなことがないように、西側諸国は支援を継続すべきなのでしょう。

米国議会においては、ウクライナへの巨額の支援を継続すべきかどうか、議論が続いています。欧州議会においては、ウクライナへの支援を継続すべきだという意見が主流ですが、具体的な金額や内容については、まだ合意に至っていません。

米国議会においては、2023年11月に、ウクライナへの118億ドルの支援を盛り込んだ歳出補正法案が提出されました。しかし、共和党議員の中には、この金額が過剰だと主張する声があり、法案は可決に至りませんでした。

2023年12月現在、米国議会では、ウクライナへの追加支援を盛り込んだ歳出補正法案の再提出が検討されています。しかし、共和党議員の反対をどう乗り越えるかが課題となっています。

欧州議会においては、2023年10月に、ウクライナへの500億ユーロ(約780億ドル)の支援を盛り込んだ財政支援パッケージが採択されました。しかし、このパッケージは、あくまでも4年間にわたる計画であり、毎年125億ユーロ(約180億ドル)の支援を継続するかどうかについては、まだ合意に至っていません。

欧州議会では、ウクライナへの支援を継続すべきだという意見が主流ですが、ロシアとの経済関係を維持したいという意見もあり、具体的な金額や内容については、まだ議論が続いています。

このように、米国議会においても、欧州議会においても、ウクライナへの巨額の支援を継続すべきかどうか、議論が続いています。今後の戦況や、米国と欧州の経済状況などによって、支援の継続や規模が決まっていくと考えられます。

米国や、欧州が現段階で、支援の有無をはっきりさせていない現状では、日本への支援への圧力が高まる可能性もあります。

バイデン政権は、日本の巨額のウクライナ支援を肩代わりさせるため、岸田首相にかわる、米国が御しやすい総理大臣を擁立させたいのではないかと、現在の岸田総理の支持率低下や、検察の不自然な動きなどに結びつけて語る識者もいますが、それに関しては現状では肯定も否定もできません。いずれ、何かの情報がでてくれば、このブログにも掲載することとします。

林官房長官は記者会見で、米国 が ウクライナ 支援を削減した場合、日本政府がこれを肩代わりするのかについて、質問に答えなかった。

実際、バイデン政権による日本にウクライナ支援を肩代わりさせるような具体的な発言、行動は、現時点では確認されていません。

しかし、バイデン政権は、ウクライナ支援を国際社会で共有していくことが重要だと繰り返し強調しています。また、日本は、アメリカの同盟国であり、民主主義や人権の価値観を共有する国であり、ウクライナ支援に積極的に貢献することが期待されています。

こうした背景から、バイデン政権が日本にウクライナ支援の拡大を働きかけているとの見方もあります。

具体的には、以下のようなものが挙げられます。
  • 2023年11月、バイデン大統領は、日米首脳会談において、岸田首相に対し、ウクライナへの支援を強化するよう要請しました。
  • 2023年12月、アメリカ国務省は、日本を含むG7諸国に対し、ウクライナへの追加支援を呼びかけました。
日本政府は、2023年11月15日、ウクライナへの人道支援として、10億ドルの追加支援を決定しました。また、2023年12月20日には、ウクライナへの防衛支援として、1億ドルの追加支援を決定しました。

日本国内では、ウクライナ支援を巡って、自民党と野党の間で意見の相違が生じています。自民党は、ウクライナ支援を拡大すべきだと主張していますが、野党からは、財政負担や経済への影響を懸念する声が上がっています。

こうした状況を踏まえると、バイデン政権が日本にウクライナ支援の拡大を働きかけていることは、十分に考えられます。しかし、日本がそれに応じるかどうかは、国内の政治状況や、今後の戦況などによっても左右されると考えられます。

北朝鮮のICBM

ただ、日本は中国や北朝鮮との間で独自の課題に直面しており、資源は限られています。より良いアプローチは、米国が模範を示して支援をリードすることです。米国自身がウクライナに強力な援助を提供し、同盟国にもできる限りの支援を行うよう促すべきです。

ISWの報告書は、同盟国にウクライナ支援を押し付けるのではなく、同盟国に情報を与え、支援を説得するものであるべきと思います。

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2023年6月19日月曜日

ウクライナ戦争で中国への不信感を強める欧州―【私の論評】日米欧は、中国の都合よく規定路線化する姿勢には疑いの目で迅速に対処すべき(゚д゚)!

ウクライナ戦争で中国への不信感を強める欧州

岡崎研究所


 中国は、ウクライナ戦争の停戦を促すため、ウクライナ、ロシア、欧州諸国に働きかけている。しかし、中国の和平計画は、ロシアがウクライナ領土の20%近くを占領している現状をそのままにしたままで、まず停戦をしてはどうかというものであり、ウクライナにもウクライナ支援をしている欧州諸国にも到底受け入れられる提案ではない。

 中国はこういう提案をすることで、ロシアの侵略とその成果を認める姿勢を示したが、これで仲介できると考えるのは中国の情勢判断能力に疑問を抱かせるものであると言わざるを得ない。さらに、今はウクライナが反転攻勢を加えようとしている時期であり、ピントの外れた仲介であると言わざるを得ない。

 欧州側が李特使の考え方に強く反発したのは当然であり納得できるが、ウクライナ戦争とそれへの対応を見て、欧州の対中不信や姿勢はより厳しくなると思われる。そのこと自体は歓迎できることであろう。

 フランスは、今なお中国のウクライナでの永続する平和への役割がありうるとしているが、何を念頭においているのか、理解しがたい。マクロン大統領の訪中の際の共同声明、その後のマクロンの対露、対米姿勢、特に北大西洋条約機構(NATO)や台湾問題に関する発言等には、要注意である。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】日米欧は、中国の都合よく規定路線化する姿勢には疑いの目で迅速に対処すべき(゚д゚)!

元記事では、「最近、中国は状況対応型で原理原則のない国になり、信用できない国であると思わざるを得ないことが多くなった。北方領土問題についても、1964年、毛沢東が日本の立場への支持を打ち出したが、最近それを取り下げ、日本の立場を支持することはやめると言った。立場を平気でころころと変えるような国、首尾一貫しない国を信用するのは大きな間違いにつながる。中国を不信の目で見ることが必要と思われる」としています。

これについては、以前からこのブログでも主張してきたことです。その記事のリンクを以下に掲載します。
習近平の反資本主義が引き起こす大きな矛盾―【私の論評】習近平の行動は、さらに独裁体制を強め、制度疲労を起こした中共を生きながらえさせる弥縫策(゚д゚)!

AI生成画像

 これは、2021年7月の記事です。この記事の結論部分を以下に引用します。

中国の路線変更は大きな問題であり、「毛沢東主義への回帰」とか「鄧小平路線の変更」というよりも、もっと細かく見ていく必要があります。ただ、習近平の今のやり方は中国経済にとってはよい結果をもたらさないということと、中国はますます独裁的な国になることは確かです。共産党と独裁には元々強い親和性があります。

しかし、国民の不満は爆発寸前です。私自身は、習近平の一連の行動は、結局のところさらに独裁体制を強め、国民の不満を弾圧して、制度疲労を起こした中国共産党を生きながらえさせるための弥縫策と見るのが正しい見方だと思います。実際は本当は、単純なことなのでしょうが、それを見透かされないように、習近平があがいているだけだと思います。

習近平に戦略や、主義主張、思想などがあり、それに基づいて動いていると思うから、矛盾に満ちていると思えるのですが、習近平が弥縫策を繰り返していると捉えれば単純です。2〜3年前までくらいは、戦略などもあったのでしょうが、現在は弥縫策とみるべきと思います。

無論、多くの国の指導者が、国際関係や国内の問題に関して、思いがけないことは頻繁に起こります。そのため、思いがけないことに関しては、弥縫策を取るのは普通のことだと思います。それにしても、長期の戦略がありながらも、当面弥縫策をとるのならわかりますが、習近平の行動は、単なる弥縫策と見るべきかもしれません。

特に経済面では、それは顕著です。過去に何度か述べたように、中国は国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状況に陥っています。独立し金融政策ができないことは、中国経済に深刻な打撃を与えつつあります。

対処法は、いたって簡単で、人民元を固定相場制から変動相場制に移行させることです。あるいは、資本の自由な移動をさせないようにするかです。ただ、こちらのほうはできないでしょう。

だとすれば、変動相場制に移行するしかないのです。ただ、習近平はこれは実行せず、経済面においては弥縫策を繰り返すのみです。構造要因を取り除かない限り、中国経済が成長軌道に乗ることはありません。中国経済に関しては、様々な論評がなされていますが、それは現象面を語っているだけであって、中国経済が悪化し回復しないのは、独立した金融政策ができないことが根本原因です。

そうして、習近平は対外関係、国内でも弥縫策を繰り返しています。ただ、習近平の弥縫策は、様々な事柄を既成事実化するという手法で実行されていることが、より他国から信頼されないのと、危険な兆候を生み出しています。

習近平の政策を既成事実化する形で弥縫策を実施した例としては、以下のようなものがあります。

国家主席の任期制限の廃止。これは2018年の憲法改正によって行われ、習近平は無期限で政権を維持できるようになりました。これは、多くの人が習近平による権力奪取と見なし、物議を醸した。

反対意見の取り締まり。 習近平は、中国における反対意見を取り締まり、活動家、ジャーナリスト、弁護士を逮捕・投獄してきました。これは、「国家安全保障」を理由に人々を拘束する広範な権限を政府に与える国家安全法の拡大を含む、多くの手段によって行われてきました。

中国の軍隊の拡大。習近平は、新しい兵器システムの開発や南シナ海における中国の海軍プレゼンス拡大を含む、中国軍の大幅な拡張を監督してきました。これは、中国が世界の舞台で自己主張を強めていることの表れであるとの見方もあります。

一帯一路構想。一帯一路構想は、中国が世界の発展途上国に数十億ドルを投資する大規模なインフラプロジェクトです。この構想は、経済成長を促進し、貧困を削減する可能性があると一部で評価されていますが、中国の債務負担を増大させる可能性や地政学的野心から批判されることもあります。

これらは、習近平の弥縫策を既成事実化する形で実施されたほんの一例に過ぎないです。

習近平の弥縫策は、最近の琉球列島に関する発言にもみられます。

2023年3月8日に中国中央テレビ(CCTV)で放送されたテレビ番組「中国文化の生命力」。番組では、琉球諸島に関する習近平主席のコメントや、中国の主張を支持する学者たちの解説が紹介されました。

AIによる生成イメージ

習近平はコメントの中で、琉球諸島(現代の沖縄諸島)は "中国領土の不可分の一部 "であると述べました。また、中国は "琉球諸島を支配してきた長く継続的な歴史がある "とも述べています。

番組に出演した学者たちも、習近平の発言に共鳴していました。彼らは、琉球諸島は常に中国の一部であり、日本が同諸島を領有することは違法であると述べました。

中国メディアのキャンペーンは、琉球諸島の主権を主張する中国によるより大きな努力の一部です。中国はまた、この地域での軍事的プレゼンスを高めており、ロシアとの合同軍事演習を実施しています。

日本政府は、中国のメディアキャンペーンに懸念を持って反応しています。日本政府は、琉球諸島の領有権を放棄することはないと述べています。

そもそも琉球王国は中国の朝貢国ではありましたが、中国に支配されたことはありませんでした。

17世紀に書かれた琉球王国の歴史書『琉球国記』には、14世紀以降、中国の朝貢国であったと記されています。

また、清朝時代に編纂された法律書『清法』では、琉球王国は中国の朝貢国であったとされています。

琉球王国公文書館に保存されている琉球王国の外交記録には、中国との交流の記録が数多く残されています。これらの記録は、琉球王国が中国に定期的に朝貢団を送ったこと、中国皇帝が琉球王に "琉球王 "という称号を与えたことを示しています。

しかし、琉球王国は決して中国に支配されたわけではありません。王国には独自の政府があり、独自の法律があり、独自の軍隊がありました。琉球王は王国の最高統治者であり、中国皇帝に服従することはありませんでした。

琉球王国の中国への朝貢は500年以上続きました。1879年、琉球王国は日本に併合され、その歴史は終わったのです。

琉球諸島は "中国領土の不可分の一部 "であるという習近平の発言は間違いです。

琉球諸島を巡って中国と日本の間には何の問題もないのですが、習近平は軍事的にも経済的にも行き詰まってるため、弥縫策で両国には長い対立の歴史があり、琉球諸島の問題は敏感なものであると、発言し、国内の注意をそちらに向けていると考えられます。普通の国のトップなら、恥ずかしくてできないことです。事態がどのように進展するかは不明ですが、注視すべき弥縫策といえるかもしれません。

以下、中国メディアのキャンペーンについて補足します。

このキャンペーンは、少なくとも2020年から実施されています。新聞、雑誌、テレビ番組、ソーシャルメディアなど、さまざまなメディアで実施されてきました。

特に若い人たちに焦点を当てたキャンペーンです。中国人に琉球への郷愁を抱かせるように設計されています。

また、中国の琉球諸島に対する主張について、特に若い人たちを印象操作しようとするものです。この中国メディアのキャンペーンは、さまざまな反響を呼んでいます。一部の人々は、琉球諸島と中国の主張に対する認識を高めたと賞賛しています。また、ジンゴイズム的である、歴史を歪曲しているという批判もあります。

中国のメディアキャンペーンが長期的にどのような影響を及ぼすかについては、時期尚早と言わざるを得ません。しかし、このキャンペーンが、琉球諸島に対する主権を主張する中国によるより大きな努力の一部であることは明らかです。

テレビ番組「中国文化の生命力」のほか、中国メディアは、琉球諸島に対する中国の主張を宣伝する記事やソーシャルメディアへの投稿を数多く流しています。これらの記事や投稿は、中国の主張を支持するために歴史的・文化的な論拠を用いることが多い。また、日本が琉球諸島を支配していることを批判することもしばしばあります。

中国はまた、沖縄付近での中国とロシアとの航空機による合同飛行を行うなどの異常な行動をとっています。

中国中央電視台の建物

対外関係においても、弥縫策を繰り返す習近平ですが、その弥縫策がうまくいきそうであれば、長い年月をかけてでも、南シナ海を実効支配したように、規定化路線を取るのが中国のやりかたです。弥縫策がうまくいくと、不合理な理由であろうと何であろうと、屁理屈ともいえるような幼稚な理論で、規制路線化を押し通し、うまくいかないと、コロコロを態度を変えるので、信頼されなくなるのです。

日米欧は、中国の弥縫策による規制化路線に関しては、最初から猜疑心を持って見て、放置せずすぐに何らかの反応をすべきと思います。南シナ海においても、1980年代に中国が環礁に粗末な掘っ立て小屋を建てた時期に、米国が場合によっては、戦争も厭わない強い姿勢で臨めば、今日のようなことにはならなかったと考えられます。

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クリントン元大統領の「衝撃告白」…実は「プーチンの野望」を10年以上前から知っていた!―【私の論評】平和条約を締結していても、平和憲法を制定しても、条件が整えば他国は侵攻してくる(゚д゚)!

クリントン元大統領の「衝撃告白」…実は「プーチンの野望」を10年以上前から知っていた!


 米国のビル・クリントン元大統領が5月4日、ニューヨークでの講演で「ロシアによるウクライナ侵攻の可能性」を2011年にロシアのウラジーミル・プーチン大統領から直接、聞いていたことを明らかにした。 

 米国は、なぜ戦争が起きる前にしっかり対応しなかったのか。 

 戦争開始から1年以上も経ったいまになって、こんな話が飛び出すとは、まったく驚きだ。 

 これは、「リベラリズム(理想主義)の失敗」と言ってもいい。 

 5月5日付の英「ガーディアン」によれば、クリントン氏は2011年にスイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラムでプーチン氏と会談した。 

 プーチン氏はそこで、ウクライナとロシア、米国、英国が1994年に結んだ「ブダペスト覚書」の話を持ち出し、自分は合意していないと語ったといいます。

 だが、クリントン氏は、それより3年前の時点で、ロシアによるウクライナ侵攻の可能性を認識していたことになる。

 それによれば、プーチン氏は2008年4月に開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で「クリミア半島は1954年に旧ソ連からウクライナに移譲されました。 

 いま振り返れば、その時点で「ウクライナ侵攻も時間の問題だった」と言って良いです。 クリントン氏は、論文で自己弁護に終始していたのに、いまになって「実は、プーチンが侵攻する可能性は、本人から聞いていたので知っていた」「ウクライナの核放棄は残念だ」などと言うのは、批判されても当然ともいえます。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は是非元記事をご覧になってください。

【私の論評】平和条約を締結していても、平和憲法を制定しても、条件が整えば他国は侵攻してくる(゚д゚)!

2023年5月4日、ビル・クリントン元米大統領は、ニューヨークで開催された「クリントン・グローバル・イニシアチブ年次総会」で講演を行った。その中でクリントン氏は、2011年にロシアのプーチン大統領から "ロシアによるウクライナ侵攻の可能性 "について直接聞いたことがあると明かしました。

クリントン氏は、モスクワでプーチン大統領と会談した際、大統領のほうからウクライナ問題を持ちかけられたといいいます。プーチン氏は、ウクライナは「ロシアの歴史的な一部」であり、同国が西側との結びつきを強めていることを懸念していると述べました。クリントン氏は、ウクライナはロシアにとって脅威ではなく、安定し繁栄するウクライナは両国の利益になるとプーチン氏を安心させようとしたといいいます。

しかし、プーチンは納得していませんでした。ウクライナのNATO加盟を「許さない」、ウクライナが加盟しようとすれば「行動を起こす」と言い出しました。クリントンは、プーチンの発言に「深く悩まされた」とし、「来るべき事態の予兆である」と考えていたといいます。

この情報の出所は、ビル・クリントン自身です。彼は、クリントン・グローバル・イニシアチブ年次総会でのスピーチで、この事実を明らかにした。この主張には、他に独立した裏付けはないです。しかし、プーチンのウクライナに対する見解について我々が知っている他の事柄と一致しています。

上の記事もでてくる「プタペスト合意」について以下に掲載します。

ブダペスト安全保障覚書は、1994年12月5日にハンガリーのブダペストで開催されたOSCE会議において、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの核兵器不拡散条約(NPT)への加盟に関連して、署名国が安全を保証するために締結した政治協定です。この3つの覚書は、もともとロシア連邦、英国、米国の核保有3カ国によって署名されたものです。中国とフランスは、別の文書でやや弱い個別保証をした。

覚書の条項の下で、3つの核保有国は以下のことに合意しました。

  • ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタン(以下3国と記載)の独立と主権、既存の国境線を尊重する。
  • 3国の独立と主権、および既存の国境を尊重する。3カ国の領土保全や政治的独立に対する武力による威嚇や使用を控える。
  • 3国の政治的又は経済的意思決定に影響を与えるために、経済的、政治的又はその他の圧力を行使することを差し控える。
3国のいずれかが武力攻撃またはその安全に対するその他の脅威の犠牲となった場合、相互に協議する。

その見返りとして、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンは以下のことに合意しました。
  • 核兵器問題の解決に向けた国際的な取り組みに、あらゆる側面から貢献する。
  • NPTの下での義務を誠実に履行すること。
  • 核兵器開発のための援助を求めたり受けたりしない。
ブダペスト合意は、あまりにも曖昧で、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンに真の安全保障を提供しないとの批判があります。しかし、これら3カ国の安全保障に特化した唯一の国際協定であることに変わりはない。

ブダペスト合意は、締結後、何度も違反されています。2014年、ロシアはウクライナからクリミア半島を併合しました。2022年、ロシアはウクライナに侵攻しました。いずれの場合も、ロシア政府は、ウクライナは主権国家ではなく、ブダペスト協定の条件を遵守していないため、これらの行動を取ることは正当であると主張してきました。

ブダペスト覚書の将来は不透明です。専門家の中には、ウクライナの現状を考えると、もはや意味がないと考える人もいます。また、まだ重要であり、強化すべきと考える人もいます。米国とその同盟国は、ブダペスト合意書を守ることを約束すると言っていますが、それができるかどうかは未知数です。

プーチンはプダペスト合意を認めていないと発言しており、だからこそ、現在ロシアはウクライナに侵攻しているのです。

ある国が平和条約を結んだり、平和憲法を定めているからといって、侵略されないという保証はありません。平和条約を結んでいるにもかかわらず、侵略された国の例はたくさんあります。

以下はその例です。

古い事例としては、第二次世界大戦末期、日ソ不可侵条約を締結して板にも関わらず、ソ連は当時のソ満国境を超えて、侵攻しました。

ソ連は1979年にアフガニスタンに侵攻しました。アフガニスタンは1969年のジュネーブ協定に調印しており、この協定ではアフガニスタンからすべての外国軍を撤退させることを求めていました。

ソ連がアフガンに侵攻したときのソ連兵

米国は2003年にイラクに侵攻しました。イラクは安全保障理事会の承認なしに他国に対して武力を行使することを禁止する国連憲章の署名国であったにもかかわらずです。

イラクに侵攻した米軍

さらにすでに述べたように、ロシアは、ウクライナが核兵器の放棄と引き換えにウクライナの安全を保証する1994年のブダペスト覚書に署名していたにもかかわらず、昨年ウクライナに侵攻しました。

いずれのケースでも、侵略国は自国に正当な理由があると主張しました。しかし、これらの侵略が国際法に違反するものであったことに変わりはないです。

平和条約や憲法が、戦争を防ぐために必ずしも有効でないことを忘れてはならないです。政情不安、経済的苦境、ナショナリズムの台頭など、戦争勃発の要因はさまざまです。平和条約を締結していても、平和憲法を制定していても、条件が整えば他国が侵略してくる可能性もあるのです。

結局のところ、いかなる国もまずは自国は自国で守るという気概がなければ、他国から侵略される可能性を否定できなくなってしまうのです。これは、現在のウクライナでも証明されたと思います。

ウクライナにその気概なければ、戦争の初期にキーウをロシア軍に占領され、今頃ウクライナにはロシアの傀儡政権ができていたかもしれません。ゼレンスキー大統領がウクライナにとどまり徹底抗戦をする姿勢を見せたので、そうはならなかったのです。他国からの支援も得られることになったのです。

私たちは、中露北という、3国の独裁国に囲まれた日本こそ、そのような気概が多くの国民になければ、条件が整えば、侵略される危険と隣り合わせであることを認識すべきです。

それにしても、悔やまれるのは、クリントン元大統領が、戦争の可能性を察知したのなら、はやめにそれを公表して、警告を出すべきでした。そうすれば、事態は変わっていたかもしれません。返す返すも悔やまれます。

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2023年5月3日水曜日

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ロシア 爆発で2日連続の列車脱線「破壊工作」とみて捜査


 ウクライナと国境を接するロシア・ブリャンスク州で2日夜、爆発が起こり、貨物列車が脱線しました。ブリャンスク州では前日も爆発による列車の脱線が起きたばかりでした。


 タス通信などによりますと、ブリャンスクの州都に近い駅の付近で2日夜、爆発が起き、貨物列車およそ20両が脱線したということです。けが人はいませんでしたが、当局は何者かが意図的に爆発物を仕掛けたものとみて、調べています。

 ブリャンスク州では前日も爆発により、ベラルーシから石油製品などを運んでいた貨物列車が脱線していて、ロシア当局は破壊工作とみて調べています。

 ブリャンスクでは今年3月、ウクライナから侵入したとみられるグループが、市民2人を殺害する事件が起きていて、プーチン大統領は、テロとの見方を示していました。

【私の論評】あらゆる兆候が、ウクライナ軍の反転大攻勢が近く始まることを示している(゚д゚)!

ウクライナのロシア侵攻は、現状では東部と南部に限定されています。であれば、こちらの地域の鉄道を破壊するならわかりますが、なせブリャンスク州なのでしょうか。

3月には武装集団がウクライナから国境を越えてブリャンスク州西部の村を襲撃。直後にロシアからウクライナに移住した極右活動家が率いる組織が犯行声明を出すなど、不穏な事態が相次いでいます。これをロシア側は「ウクライナ側」の仕業としましたが、ウクライナ側は否定しています。

上の記事にもあるように、前日の1日にも、ブリャンスク州で同様の爆発が起きていました。ボゴマズ州知事は1日、テレグラムを通じて「ブリャンスクとウネーチャをつなぐ線路の136キロ地点で午前10時17分頃、正体不明の爆発装置が炸裂し、貨物列車が脱線した」と伝えました。

この事故でも人命被害はありませんでしたが、事故現場の写真を見ると、線路脇の草むらに倒れた列車に火がつき、煙が立ち上る様子が確認できる。この列車は石油と建築資材を運んでいたといいます。

同日、ロシアの第2の都市サンクトペテルブルクから南に60キロ離れたスサニノ村の近くでは、送電塔が破壊された。レニングラード州のアレクサンドル・ドロスデンコ州知事は、一晩の間に送電塔1基が爆破され、他の送電塔近くでも爆発装置が発見されたと明らかにした。ロシア当局はソーシャルメディアとマスコミを通じてこのニュースを伝えたが、誰の仕業かについては言及しなかった。


ブリャンスク州は、ロシア西部に位置し、ベラルーシ、ウクライナと国境を接する地域である。モスクワと西ヨーロッパ、ロシアとウクライナを結ぶ主要な交通路に位置し、戦略的な立地です。

ソ連時代、ブリャンスク州は軍事兵站の重要な拠点として、西部戦線への兵員や物資の輸送の拠点となっていました。ソビエト連邦崩壊後、この地域の軍事的プレゼンスは低下しましたが、輸送インフラは維持されたままでした。

近年、ロシア軍はブリャンスク州のインフラに投資し、物流能力を向上させているとの報告があります。鉄道や道路網の拡張、保管施設や物流センターの新設などです。

ロシアのウクライナ侵攻において、ブリャンスク州が兵員や物資を前線に輸送するための物流拠点として機能する可能性はあります。ただ、先にも述べたように、現状の戦線はウクライナ東部、南部に集中しています。

ただ、懸念されるのは、ロシアのプーチン大統領は昨年12月、ベラルーシのルカシェンコ大統領との会談で両国軍の合同演習の継続で一致するなど、ベラルーシとの結束を誇示しました。ベラルーシ国防省は6日、新たに露軍部隊が到着したとして、鉄道で運ばれてきたとみられる多数の軍用車の写真を公開しました。ベラルーシ大統領府は同日、ルカシェンコ氏が露軍部隊も駐留するウクライナ国境近くの演習場を視察したと発表しました。

ロシア軍が再度、キーフへの侵攻をする可能性も捨てきれません。その場合、ブリャンスク州がロシア軍の兵站基地になることが考えられます。しかも、ブリャンスク州はベラルーシとも国境を接しています。

ベラルーシの軍隊や軍事物資等、ブリャンスク州を経由して運ばれることも懸念されます。そのため、今回のテロはこれに対する牽制であるとも受け取れます。

ただ、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は1日の記者会見で、情報機関の分析として、ウクライナに侵攻するロシア側の兵士・戦闘員の昨年12月以降の死者数が2万人以上、負傷者数が8万人以上にのぼるとの見方を示していました。

ロシアはウクライナ東部ドネツク州バフムトの攻略を目指しており、ここ数カ月で死傷者数が加速度的に増加しているとみられます。これでは、ロシアにはもうすでに、ウクライナ東部・南部戦線と、キーウを狙う北部戦線のすべで攻勢に出るのはかなり難しいでしょう。

カービー氏は、ウクライナ側の死傷者数は明らかにしませんでした。ロシア側の死傷者の多くは、民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員といいます。刑務所からリクルートされた受刑者らが、十分な戦闘訓練や指導もないままバフムトなどに投入されているとしました。

この状況だと、ブリャンスク州やクルスク州などは軍事的にはかなり手薄になっていると考えられます。これは、ロシアもしくはウクライナの武装グループが仕掛けたものでしょう。あるいは、両方かもしれません。

武装グループにとっては、まずは攻撃しやすいということがあるのでしょう。さらに、今後のウクライナ軍による大反抗が予想されるなか、ブリャンスク州で頻繁にテロを起こして、こちらのほうにロシア軍をひきつけて、少しでもウクライナに有利になるようにするという意図もあるとみえます。

先月29日には、2014年3月にロシアが合併を宣言したクリミア半島のロシア黒海艦隊の拠点であるセバストポリの油類貯蔵庫で、ドローンによるものとみられる攻撃で爆発が発生しました。ウクライナ軍はこれに対して、異例にもウクライナ軍の大規模反撃攻勢のための「準備過程」だったと発表しました。

軍ではない、武装グループもこれに呼応して、自分たちの裁量で、破壊活動をしている可能性があります。

モスクワの軍事政治研究センターで責任者を務めるアンドレイ・クリンチェビッチ氏は「敵軍(ウクライナ軍)は今月9日(戦勝記念日)にロシア領土深くに入る込む大規模な挑発を準備している」と述べました。

モスクワで、戦勝記念日に行う軍事パレードのリハーサルをするロシア軍(4月28日)

同メディアは「(ウクライナは彼らの)勝利について欧米など世間の耳目を惹く動きを必要としている」と伝え、反撃の時期を戦勝記念日と予測した理由について説明しました。

同メディアは「ウクライナの反転攻勢によりロシアの都市を狙った小規模なテロ攻撃が数十回行われる可能性がある」とも予測しているとも伝えています。

旧ソ連による対独戦勝記念日である5月9日にモスクワの「赤の広場」で行う軍事パレードに、外国の首脳が一人も出席しない見通しとなりました。露大統領報道官が4月末、ロシア通信などに明らかにしました。

参加者や登場する兵器も減らす予定で、ウクライナ侵攻の影響が、プーチン大統領が特に重視する行事にも及んでいます。

報道官は、戦勝記念日は「我々ロシア人にとっての祝日だ」と述べ、「外国首脳を招待しなかった」と説明しました。戦勝75年の節目だった2020年には米欧や日本の首脳も招待してました。

やはり、ロシアはウクライナ反転攻勢を警戒しているでしょう。さらに、軍事パレードなどもテロの対象になる可能性を懸念しているのでしょう。

米ニューヨーク・タイムズも1日付で「ウクライナによる反転攻勢が近い徴候が相次いで捕捉された」と報じました。

ニューヨーク・タイムズは「この徴候には双方の軍事攻撃強化、ロシア軍による防衛陣地の移動、ウクライナと接するロシア西部の都市で発生した爆発による列車脱線事故なども含まれる」と伝えています。

ウクライナのレズニコフ国防相も先月28日に国営テレビに出演し「反撃の準備は最後の段階に入った」「その方法や位置、時期については指揮官たちが決めるだろう」と述べ、反転攻勢を予告しました。

これに対してロシア軍もウクライナの反転攻勢に備えるため、南部の防衛陣地に部隊を移動させています。英国の国防情報参謀部はロシアが最前線近くだけでなく、現在統制している地域でも「最も広範囲な軍事防衛システムを構築した」と説明しました。

米カペラ・スペース社の衛星写真に映し出された、ウクライナ・ザポロジエ州のロシア占領地域に築かれた3層構造の防衛線=4月11日 クリックすると拡大します

実際露側は進軍を妨害する約800キロメートルにも及ぶ防衛線(塹壕)の構築を急ぎ、完成間近か、完成されいることが分かっています。露軍は、占領地域の防衛に徹することに戦術を切り替え、持久戦に持ち込む狙いとみられます。

しかし、防衛線を保つには、乱れのない指揮系統や空中戦での優位が必須条件とされ、時代がかった長大な塹壕は無用の長物と化す可能性もあります。

さらにロシアはミサイルによる奇襲攻撃を行うことで大攻勢を阻む意図を伝えるとみられるシグナルを送っています。 ロシア軍は1日未明、ウクライナ全土に3日間で2回目となるミサイル攻撃を行いました。 東部の地区で大規模な火災が発生し、当局者によると34人が負傷、住宅数十棟が損害を受けました。 ウクライナ軍は、防空部隊がロシア軍のミサイル18発のうち15発を破壊したと発表しました。

これらは、本当に今月9日(戦勝記念日)に反転大構成があるかどうかは別にしてウクライナ軍の反転大攻勢を近いことを示している兆候であると考えられます。

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2023年4月23日日曜日

中国、TPP加盟「支持を期待」 日本は慎重な立場―【私の論評】日本は経済・軍事的にも強くなるであろうウクライナにTPPだけでなく、いずれ安保でも協調すべき(゚д゚)!

中国、TPP加盟「支持を期待」 日本は慎重な立場


 中国商務省の王受文次官は23日の記者会見で、中国が申請したTPPについて「中国には参加の能力があり、メンバー11カ国の支持を期待する」と述べた。3月に11カ国が英国の加盟で合意したことを受け、支持獲得への働きかけを強めるとみられる。 

 加盟には全会一致の承認が必要で、日本が慎重な立場を取っており中国は交渉入りも見通せていない。王氏は中国が加われば、域内の消費者とGDPの総額の規模が大幅に拡大すると述べ、巨大市場の魅力をアピールした。 
 
 王氏は、中国の加盟は「地域の供給網の安定にとっても重要だ」と主張した。ハイテクで中国排除を狙う米国に対抗する思惑もうかがえる。

【私の論評】日本は経済・軍事的にも強くなるであろうウクライナにTPPだけでなく、いずれ安保でも協調すべき(゚д゚)!

TPPには、自由貿易を維持するため、さまざまな規制があり、現状では中国は加盟できません。そのような規制がありながらも、中国がこのような規制をいずれ守るようになるだろうと期待して、当初は守らなくても、10年くらい年月をかけて守るようになれば良いと信じて、加入させるようなことはすべきではありません。

いかなる国も、最初からTPPの規制を満たしていないければ、それを満たすようになってから加入させるべきです。

過去を振り返れば、先進国の「経済的に豊かになれば共産主義中国も『普通の国』として仲間入りができる」という誤った妄想が、中国の肥大化を招き傲慢な「人類の敵」にしてしまったという現実があります。

その代表例が、2001年の中国のWTO加盟です。1978年の改革・解放以来、鄧小平の活躍によって、1997年の香港再譲渡・返還にこぎつけた共産主義中国が、「繁栄への切符」を手に入れたのです。

中国のWTO加盟調印式

この時にも、共産主義中国は「WTOの公正なルール」に合致するような状態ではありませんでした。 ところが、米国を始めとする先進国は「今は基準を満たしていないが、貿易によって豊かになれば『公正なルール』を守るようになるだろう」と考え、共産主義中国も「将来はルールを守る」という「約束」をしたことで加盟が認められたのです。

ところが、加盟後20年以上経っても、共産主義中国は自国の(国営)企業を優遇し、外資系いじめを連発するだけではなく、貿易の基本的ルールさえまともに守る気があるのかどうか不明です。しかも、先進国の技術を平気で剽窃してきました。

TPPも同じことです。WTOの時の違いは、TPPに加入する中国は今後経済成長ができないことです。このブログで述べてきたように、中国は現状ては国際金融のトリレンマにより、独立した
金融政策ができない状況に落ち込んでいます。

中共はこれを資本移動の自由化をするか、人民元の変動相場制への移行などをすれば、是正できますが、是正をすれば、統治の正当性が揺らぐため、是正するつまりはありません。そのため、これから経済発展する見込みはありません。

貿易ルールを守れない、経済発展する見込みもない中国をわざわざTPPに入れるような真似は、すべきではありません。

一方、ウクライナ政府は近く、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)へ加盟申請する方針を決めています。インタファクス・ウクライナ通信が20日、報じました。実現すれば、今年3月に加盟が認められた英国に続き、欧州で2国目となります。

タラス・カチカ副経済相兼通商代表が4月中旬、米ワシントンで開催された米商工会議所主催の経済関連イベントでウクライナメディアに語りました。申請が受理されれば、夏にも加盟国から交渉開始の通知を受け取る可能性があるといいます。

ウクライナは4月中旬、カナダと自由貿易協定(FTA)の拡大で合意しており、カチカ氏はカナダとの経済関係強化がTPP加盟に向けた「大きな助けになる」と述べました。カチカ氏は3月に英国の加盟が認められたことに言及し、「英国は申請表明から加盟まで2年半かかったが、ウクライナはカナダとの合意の恩恵で、より早く加盟できることを期待する」と語りました。

ウクライナはTPP加盟で貿易を拡大し、ロシアによる侵攻で打撃を受けた経済の復興を促したい考えです。

TPPは2016年2月に米国、日本など12カ国が署名。米国が17年に離脱を表明し、18年に7カ国で発効した。中国、台湾、エクアドルなどが加盟を申請しています。

ウクライナについては、他の発展途上国とは異なり、航空産業、宇宙産業、軍事産業、IT産業などの産業基盤があるので、戦争が終わり復興に転ずれば、かなり経済発展する可能性があることは、このブログでも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる―【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

人口4400万人のウクライナの一人あたりのGDP(4,828ドル、ロシアは約1万ドル) を引き上げ、人口1億4千万人のロシアよりGDPを遥かに大きくすることです。現在ロシアのGDPは韓国を若干下回る程度です。

韓国の人口は、5178万ですから、一人あたりのGDPで韓国を多少上回ることで、ウクライナのGDPはロシアを上回ることになります。 

ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。 

ウクライナは、従来はソ連邦に組み込まれ、自由が失われ、独立後は汚職が横行し、経済発展することができませんでしたが、EUもしくはTPP、あるいはこの両方に加入することができれば、経済発展の前提条件ともいえる民主化がさらにすすみ、汚職塗れの体質も改善され、経済がかなり伸びることが期待できます。

TPP、EUにウクライナが入ることにより、自由貿易の促進だけではなく、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がさらに進み、ウクライナの内需が飛躍的に伸びることになります。

ウクライナでは、戦争が終了すれば、まずは国内の内需が劇的伸びることになります。その余勢をかって、さらに経済の高度成長を遂げれば、日本の60年代のように発展する可能性があります。そうして、長い時間をかけて醸成されてきた、EUやTPPの規約に基づくことにより、高度成長による社会の歪などもあまり経験せずに、成長できるかもしれません。

ウクライナは、日米のように内需(輸出対GDP比率が低い)のほうが外需(同高い)より圧倒的に強い国を目指すべきでしょう。韓国や中国、ドイツのように外需比率が高い国は、世界経済の調子が良いときには、国際競争力の強い国などと持て囃されて良いようにみ見えますが、世界経済が悪くなるとその影響を直接受けることになります。まずは内需を伸ばし切ることにより、足腰の強い経済を目指すべきです。

日本は、ウクライナをTPPに加盟によって、ロシアの西隣に経済発展する国、軍事的にも強いウクライナができあがることにより、日本の安全保障にとっても良い結果を得ることができます。

特に、ウクライナはロシアと国境を接しているということで、この国の軍事力が強まれば、これはEUにとっても良いことです。東側でロシアと国境を接する国日本としては、ウクライナと安保上でも協力をすすめるべきでしょう。

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2023年4月10日月曜日

中国の属国と化すロシア 「戦後」も依存は続くのか―【私の論評】西側諸国は、中露はかつての中ソ国境紛争のように互いに争う可能性もあることを念頭におくべき(゚д゚)!

中国の属国と化すロシア 「戦後」も依存は続くのか

岡崎研究所

 アレクサンドル・ガブエフ(米カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンター所長)が、3月18日付の英エコノミスト誌に、「ロシアの中国依存はプーチン後も続く」と題する寄稿をし、ロシアの中国の属国化時代を予想している。
 習近平が3月20日に国賓としてロシアを訪問する。ロシアは両国間の対等性を示そうとするだろうが、広がる両国間の力の差は隠せないだろう。

 プーチンは、ウクライナ攻撃を米国支配への反乱、ロシアの完全な主権への跳躍にしようとしている。しかし現実は異なる。開戦後13カ月、ロシアは、経済的にも外交的にも中国にますます依存している。2022年、ロシアの輸出の30%、輸入の40%を中国が占めた。ロシアのドル・ユーロへのアクセスが西側制裁下にあるので、この貿易の大きな割合が中国元で決済されている。西側がロシアの天然資源への依存を低める中、この依存は今後も増大する。

 今のところ、中国はロシアへの経済梃子を強めることで満足しているが、今後中国は政治的譲歩をより多く求めるだろう。中国はロシアに機微な軍事技術を共有することを求めうるし、北極海や中央アジアでの中国の存在感は高まるだろう。

 ウクライナ戦争によって、中国は3つの理由で、ロシアの最も影響力のあるパートナーになっている。第1に、中国のロシア商品の購入増大はプーチンの戦時財政を満たしている。第2に、中国はロシアの兵器の部品や工業機械への半導体の代替不可能な源泉である。

 最後に、ロシアは、米国の世界的敵対者である中国を助けることがバイデン政権のウクライナ支援に復讐する最も良い方法であると考えている。これが機微な軍事技術の共有やその他中国の軍事力を助けることがもはやタブーではないように見える理由である。

 ロシアにとっての悲劇は、プーチンが政治から引退した後でさえ、中国の「大君主」に従属する巨大なユーラシア独裁制が生き残るという事である。数年後、西側はロシアに経済的に依存することをやめ、代わりに、中国はロシアの輸出の大半を受け入れ、ロシアの金融は中国の通貨である元に釘付けられよう。

 西側との結びつきを再建し、この中国の支配から這い出るためには、ロシアは戦争犯罪人についての責任追及、賠償、併合した領土の返還についてのウクライナの要求を満たさなければならない。これはプーチン後でも、ほぼあり得ないシナリオである。ロシアの中国への属国化が予見可能で、利益も多いように見える。

*    *    *

 このエコノミスト誌の論説は、カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのガブエフ所長が書いたものであるが、ガブエフはロシアの事情に精通し、かつ中国のユーラシア政策にも詳しい人である。

 ガブエフは、ロシアが今後中国の属国になるだろうと予見している。ウクライナ戦争を受けての情勢の発展の中で、ロシアの中国属国化は、大いにありうる事態である。ガブエフは、プーチンが退場した後も、たとえロシアが民主化した場合にも、ロシアの中国属国化は続くと見ている。

 ガブエフが言うような情勢が出てくる蓋然性は大きいと考えられるが、そのような情勢は極めて望ましくないとも考えられる。特に、プーチン退場後に民主化した場合にも、ロシアは中国の属国であり続けるとのガブエフの判断には大きな疑問がある。

 情勢判断においては、希望的観測は排除すべきであるが、ウクライナ戦争後の情勢の進展によっては、ロシアの民主化や欧米諸国との関係改善の可能性もあると考えられる。その理由は、ウクライナ戦争は平和協定ではなく休戦協定でいつか終わるが、ウクライナが国家として生き残ることは休戦ラインがどこになるかにかかわらず、今の時点で明らかであると思われるからである。
繁栄する「兄弟」を見た時、ロシア人は何を思うか

 おそらく、生き残ったウクライナは、欧州連合(EU)に加盟することになるだろう。ウクライナは人権が尊重され、法の支配がある民主国家になり、その経済は奇跡的に回復する可能性さえある。EUで1人当たりの国民所得が最も低い国はブルガリアであるが、ウクライナの一人当たり国民所得は戦争前でブルガリアの半分であった。EU 諸国への出稼ぎだけでも経済の高度成長はできるだろう。

 ロシア人とウクライナ人はプーチンが言うような一つの民族ではないが、よく似た兄弟民族である。民主化し繫栄するウクライナを目の当たりにすれば、ロシア人が何故われわれは自由でもなく、貧しいままなのかと疑問を持っても不思議ではない。ここにロシアが民主化するきっかけがある。

 それに中国のジュニア・パートナーでいることに誇り高いロシア人が甘んじるとは考え難い。ロシアの歴史を巨視的にみると、欧化論者とスラブ主義者が政権交代してきたように見える。

 ガブエフの論は、そうなる蓋然性が高いとは思うが、ロシアの今後には別の発展もありうると考えて、政策展開を考えていく必要があるだろう。

【私の論評】西側諸国は、中露はかつての中ソ国境紛争のように互いに争う可能性もあることを念頭におくべき(゚д゚)!

これと似たようなことは、前から言われていました。このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の属国へと陥りつつあるロシア―【私の論評】ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方であり、いずれ、中国に向かって大きく噴出する(゚д゚)!
この記事は2019年8月22日のものです。まだコロナ禍が始まるまえであり、ロシアの脅威はいわれていたものの、ウクライナに本格的に侵攻するとは考えらていない時期のものです。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

同年(2018年)10月24日付の露経済紙「コメルサント」によると、ここ最近、中国系銀行がロシア側との取引を中止したり、口座開設を認めなかったりする事例が相次いでいるといいます。

国際的な対露制裁の対象外の企業や個人も例外ではないといい、同紙は「中国側はどの企業が制裁対象なのか精査していない。その結果、全てをブロックしている」と指摘しました。「この問題は今年6月の首脳会談以降、両国間で議論されてきたにもかかわらず、中国側は『是正する』というだけで、実際は何もしていない」と不満をあらわにしました。

同年同月26日付の露リベラル紙ノーバヤ・ガゼータも「中国はロシアの友人のように振る舞っているが、実際は自分の利益しか眼中にない」と批判。「中国の経済成長の鈍化が進めば、中国政府は国民の不満をそらし、自らの正当性を確保するため、攻撃的な外交政策に乗り出す可能性がある。例えばシベリアや極東地域の“占領”などだ」と警戒感を示しました。

実際、露極東地域には、隣接する中国東北部からの中国企業の進出や労働者の出稼ぎが相次いでいます。極東に住むロシア人の人口は今後、減少していくと予想されており、同紙の懸念は「いずれ極東地域は中国の支配下に置かれるのではないか」というロシア側の根強い不安があらわれたものといえます。

同年同月29日付の露有力紙「独立新聞」もこうした中国脅威論を取り上げました。同紙は「ユーラシア経済連合と一帯一路との連携に基づく計画は、実際には何一つ実現していない」と指摘し、「中国によるロシアへの直接投資は、カザフスタンへの投資よりさえも少ない」と指摘しました。

経済発展が著しいウズベキスタンやカザフスタンなどの中央アジア諸国について、ロシアは旧ソ連の元構成国として「裏庭」だとみなしています。しかし、一帯一路も中央アジアを不可欠な要素と位置付けています。

地政学的に重要な中央アジアでの影響力を確保するため、ロシアと中国は、この地域への投資や技術供与、軍事協力の表明合戦を繰り広げており、表向きの双方の友好姿勢とは裏腹に、現実は協調とはほど遠いのが実情です。

このように、中露の友好関係は一時的なみせかけに過ぎないものであり、米国による対中国冷戦が長く続き、中国の力が削がれた場合、中露対立が激化することは必至です。そうして、その状況はしばらくは変わらないでしょう。

現状は、国力特に経済の開きがあまりにも大きすぎるため、さらにロシアは人口密度の低い極東において直接中国と国境を直接接しているという特殊事情もあるため、ロシアが中国に従属しているように見えるだけです。

しかし、プーチンは強いロシアを目指しており、文在寅のように自ら中国に従属しようなどという考えは毛頭ありません。

その実、ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方です。これはいずれ、中国に向かって大きく噴出します。

その時こそが、日本の北方領土交渉を有利に進められる絶好のタイミングなのです。また、米国が最終的に中国を追い詰めるタイミングでもあるのです。

このように、中露がパートナーの域を超えて、本格的に同盟関係になることは考えにくいです。それは、コロナ禍を経て、ロシアがウクライナに侵攻した現在でも変わりは、ありません。

なぜ、そのようなことを言えるのとかといえば、最近習近平がロシアを訪問しましたが、その後のロシアの態度をみていればわかります。

ロシアを訪問した中国の習近平国家主席とプーチン大統領は先月21日、モスクワで首脳会談終了後、共同声明を発表しました。その中の第7項に、すべての核保有国は「核兵器を自国領土の外に配備すべきではないし、外国に配備された核兵器は撤収しなければならない」とありました。

2022年2月4日、北京冬季五輪の開会式に出席したロシアのプーチン大統領。居眠りしたとされる。

1年前、プーチン大統領は、北京冬季五輪の開会式に出席しましたが、五輪直後にウクライナ侵攻をしました。これで中国の習近平の面子は大きく傷つけられたはずですか、またしても中露共同声明後、わずか1週間でそれをほごにするようなベラルーシ核配備をプーチン大統領はは宣言しました。これで、習近平はまたしても面子を潰されました。

ベラルーシは、ロシアの隣国であり、これでロシアから核を発射しようがベラルーシから発射しようがあまり変わりありません。

これは、ロシアはウクライナに手を焼いているので、ベラルーシを使ってウクライナや、これを支援する西側諸国などを恫喝しているように見えます。

ただ、これだけ面子を傷つけられても、習近平としては、プーチンを責めたり、ロシアを制裁するようなことは、なかなかできません。


なぜでしょうか。ロシアは国際法を破って独立国を侵略した無法者です。中国が普通の法治国家であればロシアを非難していたでしょう。しかしプーチン氏が負ければロシアは民主化する可能性があります。中国にとってそうなっては困るので、プーチン氏にしっかりネジを締めに行ったといいうのが本当のところでしょう。

そうして、それに対するプーチンの答えは、習近平の思惑を見透かした上で、先程示したように、「ベラルーシへの核配備」宣言でした。

プーチンとしては、習近平などにネジを巻かれるつもりもないし、自らが失脚などした場合、ロシアが民主化され、窮地に追い込まれるのは、習近平の方だと、釘を刺したのでしょう。

こうした、両国の関係をみていると、とても同盟関係に入ることなど考えられません。同盟関係に入るということは、ロシア側からすれば、自ら中国の属国になるようなものです。プーチンや習近平のような独裁者は、自国が他国を属国にしてきたという歴史から、属国になることが何を意味するのか十分理解していると考えられます。

プーチンは、それは断じて避けるつもりなのでしょう。しかしながら、ロシアが民主化されれば、窮地にいたるのは中国であり、それを避けるためには、過去のロシアに対する支援を継続するようにと釘を刺したのです。

ただ、この試みが成功するかどうかは、わかりません。何しろ、プーチンは、ウクライナに対して、侵攻するとみせかけ、ゼレンスキー政権をウクライナから追い出し、ウクライナにロシアの傀儡政権もしくは、新ロシア政権をつくり、ウクライナを西側諸国に対するロシアの盾もしくは、緩衝地帯にしようと目論んだつもりなのですが、その目論見は現状では大失敗をし、全く意味をなしていません。

プーチンは、対中国政策でも、失敗する可能性があります。ただ、我々西側諸国としては、中露を同盟国のように考えるのではなく、場合によっては、かつての中ソ国境紛争のように互いに争う可能性もあることを念頭においておくべきです。

特に、中国が経済的に相対的に衰え、ロシアと拮抗するようなことにでもなれば、その可能性は高くなるとみるべきでしょう。

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2023年2月7日火曜日

四島「不法占拠」を5年ぶりに明記 北方領土返還アピール―【私の論評】ウクライナ侵攻によるロシア弱体化で、北方領土返還の可能性が巡ってきた(゚д゚)!

四島「不法占拠」を5年ぶりに明記 北方領土返還アピール


 「北方領土の日」の7日、政府や関係団体は「北方領土返還要求全国大会」を東京都内で開き、北方四島について「77年前、ソ連によって不法占拠されたまま今日に至っていることは決して許されるものではない」と非難するアピールを採択した。アピールに「不法占拠」の表現が復活したのは平成30年大会以来。昨年2月以降、ロシアがウクライナ侵攻を続けているのを踏まえ、厳しい対露姿勢を打ち出した。

 大会に出席した岸田文雄首相は、「ロシアによるウクライナ侵略によって日露関係は厳しい状況にある」と指摘したうえで「領土問題を解決し、平和条約を締結する方針を堅持する」と強調した。

 また、ロシア側が北方領土の元島民らに墓参のためのビザなし渡航を認める「北方墓参」など、四島交流事業の再開が「今後の日露関係の中で最優先事項の一つ」として事業の早期再開の必要性を訴えた。「北方領土問題は国民全体の問題だ」とも述べ、問題解決に向けて全力をあげる考えを示した。

 アピールは安倍晋三元首相とプーチン露大統領との間で進めていた返還交渉に配慮し、平成31年から2年連続で四島に関し、「不法占拠」との表現を使わなかった。令和3、4年も「法的根拠のないまま占拠」との表現にとどめていた。

 今回の大会は、新型コロナウイルスの感染拡大以降、3年ぶりに参加者を制限しない形式で行われた。

 北方四島を巡っては、昭和20(1945)年、旧ソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄して対日参戦し、不法占拠されて以降、日本人が自由に行き来できない状態が続いている。

【私の論評】ウクライナ侵攻によるロシア弱体化で、北方領土返還の可能性が巡ってきた(゚д゚)!

ロシアは2020年の憲法改正で唐突に「領土の割譲禁止」を明記しました。「割譲行為は最大禁錮10年、割譲を呼び掛けても最大4年」とする改正刑法も成立しました。露メディアは2021年3月1日、国家安全保障会議の副議長を務めるメドベージェフ元大統領・首相が、憲法改正で日本と北方領土問題を協議するのは不可能になった、との認識を示し、「ロシアには自国領の主権の引き渡しに関わる交渉を行う権利がない」と述べたと報じました。日本側に一方的に「領土断念」を促す無礼千万な発言でした。


「四島返還」という国家主権に関わる歴史的正義の旗を自ら降ろし、全体面積の7%にすぎない歯舞、色丹の2島返還をうたった1956年の日ソ共同宣言に基づいて平和条約交渉を加速させる-との安倍晋三政権時代の日露合意(2018年11月)は、日本側の全くの幻想にすぎなかったことがこれで明白になりました。

プーチン政権は反体制派は容赦なく弾圧し、自らの出身母体の巨大な秘密警察・旧KGB(国家保安委員会)や軍の特権層の利益を最大限重視します。当時猛毒の神経剤で殺されかけた反体制指導者ナワリヌイ氏を強引に拘束、全土での大規模な抗議デモに見舞われていました。そのナワリヌイ氏に暴露された「プーチンの秘密大宮殿」は世界中の顰蹙(ひんしゅく)を買いました。対外的にはサイバー攻撃などで各国を揺さぶる。その謀略と強権ぶりはソ連共産党政権も顔負けです。


ソ連崩壊時の日本の対露外交の不首尾のツケはあまりに重いです。しかし、全土の抗議運動の大波に洗われ、20年超のプーチン長期政権の足元も揺れ始めました。さらに、昨年はロシアのウクライナ侵略がなされました。

岸田首相は1月の米国での演説で、「私は外交・安全保障政策で2つの大きな決断をした。1つはロシアのウクライナ侵略に際しての対露政策の転換だ。厳しい対露制裁を導入し、ウクライナ人道支援でも先陣を切った。もう1つは安保3文書の策定による戦後の日本の安保政策の転換だ」と述べました。

欧米の経済制裁の隊列に加わったことは評価できます。であれば、ウクライナ侵略が自由・民主主義陣営の存亡を懸けた国際問題であるのと同様、北方領土の不法占領問題も日露2国間の問題にとどめておくべきではありません。首相が対露政策の転換を語るなら、北方領土問題を世界が共有すべきこととして「国際化」するための戦略転換も説くべきです。

四島の不法占拠は、スターリンが日ソ中立条約を一方的に破り、「領土不拡大」をうたった大西洋憲章(41年)とカイロ宣言(43年)にも違反した国際犯罪です。

日本外交には、ソ連崩壊前後だった90年からの3年間、ヒューストン、ロンドン、ミュンヘンと続いたG7サミットで、北方領土問題の解決を支持する議長声明や政治宣言を採択させた実績があります。しかし、その後はこの問題を国際化する戦略がみえません。

ウクライナのゼレンスキー大統領はこの1年間、無辜(むこ)の国民に多くの犠牲をもたらしたロシアの暴虐を耐え抜くとともに、9年前に強制併合されたクリミア半島を含む「全領土の奪還」に不退転の覚悟を示しています。

ゼレンスキー氏が北方領土問題にも目を向けていることを忘れるべきではありません。この北方領土には、ソ連当時にロシア人とともにウクライナ人も移住し、北方領土の4割はウクライナがルーツです。昨年10月には「北方領土はロシアの占領下に置かれているが、ロシアには何の権利もない。私たちはもはや行動すべきだ」との大統領令に署名しました。


日本はこの心強い援軍に全く応えていません。ゼレンスキー政権は昨年8月、クリミア奪還をテーマとするオンラインの国際会議を開き、約60カ国・機関の代表が参加しました。ここで演説した岸田首相は北方領土問題にひと言も触れず、世界に共闘を働きかける絶好の機会を逃してしまいしまた。不作為による失態です。

岸田政権には四島返還をテーマとする国際会議やシンポジウムなど具体的な行動を起こすべきです。

先にも述べたように現在のプーチン政権は憲法改正で「領土割譲禁止」をうたっています。ウクライナ侵攻後は日本との平和条約交渉を一方的に中断してビザなし交流も打ち切り、国後、択捉では大規模軍事演習を行うなど強硬姿勢をとっています。

一方で長引くウクライナ侵略はロシアの国際的孤立を深め、国内の経済・社会を疲弊させました。ソ連が崩壊したときのように国家的な衰退へと向かうことは十分にあり得ます。「そのとき」にどう備えるかが重要です。日本はあらゆる事態を想定し、領土を取り戻す戦略を練り上げなくてはならないです。ソ連崩壊時の日本の対露外交の不首尾を繰り返すべきではありません。

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2023年1月14日土曜日

「日英同盟」復活! 岸田首相が〝安倍レガシー〟継承 共産中国の脅威が目前、協定署名にこぎつけた「グッドジョブ」―【私の論評】地政学的にもともと関係を強化することが運命づけられている日英(゚д゚)!

「日英同盟」復活! 岸田首相が〝安倍レガシー〟継承 共産中国の脅威が目前、協定署名にこぎつけた「グッドジョブ」

【有本香の以読制毒】

  戦争、疫病、隣国から迫りくる軍事的脅威…。年が改まっても悪いニュースばかりで気が滅入るという向きも少なくなかろう。そんななか、少しばかり意気上がるニュースが聞こえてきた。

「円滑化協定」の署名を終えて握手をする岸田首相とスナク英首相
 英国訪問した岸田文雄首相と、リシ・スナク英首相は11日(日本時間同)、防衛分野での協力強化に向け、自衛隊と英軍部隊の共同訓練を推進し、相互往来をスムーズにする「円滑化協定(RAA)」に署名した。 

 本件は昨年5月すでに、日英両政府が大枠で合意していた。当時は首相就任前だったスナク氏は、この協定を「両国にとって非常に重要であり、インド太平洋に対するわれわれのコミットメントを強固にするもの」と表現した。

  ちなみに2020年、当時の菅義偉首相と、オーストラリアのスコット・モリソン首相(同)が、同じ「円滑化協定」に合意した際には、オーストラリア最大の全国紙「「The Australian(オーストラリアン)」はこれを、「防衛協定(=安保条約と言い換えてもいい)」という単語を使って報じている。

  これに倣うなら、今回の日英首脳の署名はさしずめ「日英同盟の復活」ともいえる。だが、果たして、この一大事にふさわしい報じ方を、日本の大メディアがするかというと、甚だ心もとないのである。

 というのも、20年のオーストラリアとの合意の際、「オーストラリアン」の書きぶりと比べると、日本メディアがいずれも、抑制的過ぎる表現に終始したからだ。 

 具体例を挙げると、日豪の合意に中国が激しく反発したことを、オーストラリアンはこう書いた。

  「北京のプロパガンダ機関は、オーストラリアと日本は〝歴史的な防衛協定〟に署名したことで代償を払うことになる、と言い、両国は米国の『道具』だと非難している」 なかなか辛辣(しんらつ)だ。

 しかし、一方の日本メディアは、というと、おしなべて対照的に、まるで北京のご機嫌を損ねないよう忖度(そんたく)したかと思われるほどの控えめな表現だった。当時の各紙一報の見出しは次のとおりだ。

 「日豪首脳が会談 軍事訓練に関する協定合意、中国を牽制(けんせい)」(朝日新聞)

 「日豪首脳会談 『円滑化協定』に大枠合意 中国念頭『インド太平洋』推進」(産経新聞)

 「日豪、訓練円滑化で協定 首脳会談、大枠合意」(毎日新聞) 

 「『自由で開かれたインド太平洋』実現へ日豪で連携強化…首脳会談で一致」(読売新聞) 

 今回も、英国との円滑化協定署名を「日英同盟復活」と表現するのは筆者と夕刊フジのみだろうが、これは実際、それほどの重みを持つ。日本の未来に多大な影響を与えるだろう。

 かつて、非白人国家の日本が、「無敵」といわれたロシアのバルチック艦隊を打ち破って勝利し、世界を驚かせた日露戦争。その戦果も、日英同盟によるところが大きかった。100年以上の時を経て、共産中国の脅威を目前にするいま、再びこの「同盟」を力とする私たちでありたい。

2017年日本を訪問したテリサ・メイ首相(当時)と安倍首相(当時)

 今般、協定署名にこぎつけた岸田首相のグッドジョブを大いに評価し、さらに、この日英同盟復活への路線を敷いた故・安倍晋三元首相の功績に改めて感謝を申し上げたい。 ■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

【私の論評】地政学的にもともと関係を強化することが運命づけられている日英(゚д゚)!


英国との円滑化協定署名は事実上の「日英同盟復活」です。そもそも、日英は同盟すべき理由があります。それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
英国政府、TPP参加で“中国包囲網” 日米豪印「クアッド」にも参加検討 識者「親中懸念のバイデン米政権の不安埋めてくれる」 ―【私の論評】日本と英国は、ユーラシアのランドパワーに対峙している(゚д゚)!
この記事は、2021年2月のものです。
東西冷戦時代から今日に至るまで、アジア太平洋地域では、米国を中心に、日本、韓国、フィリピン、タイ、オーストラリアがそれぞれ別個に同盟を結んでいました。それは「ハブ・アンド・スポークの同盟」と呼ばれ、米国が常にハブであり、スポークがその相手国でした。これに対して、欧州のNATOのように複数の国が互いに同盟を結び、協力し合う関係を、「ネットワーク型の同盟」と呼びます。

ハブ・アンド・スポーク同盟の最大の問題は、協力し合う相手が常に一国しかないために、国同士の利害が一致しない場合、機能不全に陥ることです。また、二国間の力のバランスに大きな差があると、弱い側が常に強い側に寄り添う追従主義に陥りがちであり、スポークの国は戦略的に自律するのが難しいです。そのため、2000年代以降、スポークの国同士の協力が急速に進展してきています。

具体的には、日本では安倍政権発足以来、政府の首脳陣がほとんど毎月のように東南アジア、南アジア、さらに欧州諸国に足を伸ばし、安全保障協力を拡大しようとしていますし、自衛隊も、オーストラリア、インドなどと定期的に共同の演習を実施しています。また、日米とオーストラリアとインド(クアッド)、日米と韓国、日米とインドといった三国間での安全保障協力も進んでいます。米国との同盟関係を共有する国同士が個別に同盟関係を築き、米国との同盟を支えようとしているのです。
ただし、このようなネットワーク型の同盟には、NATOにとっての米英がそうであるように、コアとなる二国間関係が必要です。日英同盟はまさにそのコアになりえます。

日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っています。
ユーラシア大陸の両端に位置する海洋国家、英国と日本
日本は中国の海洋進出を警戒しているし、英国はロシアの覇権を抑え込んできました。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙(たいじ)しているようにも見えますが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのです。

その両国が、TPPとクアッド+英国で、協力しあうのは、まさに理にかなっているといえます。さらには、ファイブアイスとの関係を強化していくこともそうだと思います。
日英は100年前には、日英同盟を組んでいました。日露戦争の勝利や第一次世界大戦後、「(戦勝)五大国」に列せられるまでになったのは、日英同盟の存在が大きいです。

この同盟が破棄された背景は、以下の記事をご覧になってください。
日本の命運を暗転させた日英同盟廃棄の教訓| 「新・日英同盟」の行方(5)
同盟関係の解消と、日本の国際連盟の脱退、日独伊三国同盟締結、太平洋戦争開戦、そして敗戦と日本の命運が180度暗転したこととは、決して無関係ではありません。

英国にとっても、この解消は決して良い結果を招きませんでした。第二次世界大戦において、最も得をした国と、損をした国はどこかとえば、多くの日本人は米英と答えるかもしれません。

しかし、それは真実とはいえません。損をした国は、はっきりしています。それは、無論日独です。これは、論を待たないでしょう。

では、最大に得をした国は、どこかといえば、それは米英とはいえないでしょう。それは、当時のソ連です。ソ連は、日本の北方領土を含む、領土を増やすとともに、東ヨーロッパ諸国を衛星国とし、覇権を強化し、国連では常任理事国の地位を得ました。

米国は、ソ連と比較すれば、損も得もしなかったといえます。英国はどうかといえば、領土は失い、基軸通貨を失い、覇権も弱まり、どちらかといえば、損をした国ということができます。

中国はといえば、終戦直後は国民党による中華民国は、大陸から追い出され、新たな共産党国家にとって変わられたということから、中華民国からみれば、この戦争で大損したといえます。中共にとっては、戦後中華人民共和国を設立できたということで、得したといえます。

このように、多くの日本人が、第二次世界大戦に勝った国と思っている英国は、あまり得られるところがなかったといえます。

もし、先の日英同盟が破棄されていなかったら、英国は朝鮮半島ならびに中国において、当時ソ連と対峙していた日本の立場を理解して、欧米諸国を説得、日本も説得し、互いに歩み寄れるところは、歩み寄り、第二次世界大戦において、最もソ連が得するようなことは、回避できたかもしれません。

しかし、ご承知のとおり歴史には「もし・・・」という言葉は成り立ちません。ただ、歴史から学ぶことはできます。

やはり、日英というシーパワー国が、ランドパワー国のロシア、中国を間に挟んで、両側から対峙しているという構図のほうが英国にとっても良かったし、これかもそうだといえると思います。

先の日英同盟を結んでいた100年前と、時代は変わりましたが、この構図は変わらないどころか、中国の海洋進出、ロシアのウクライナな侵攻等により、増々顕著になってきたといえます。

ユーラシア大陸があり、そこにランドバワー国が存在し、シーパワー国日英が、それを挟む形になっていることから、日英は、地政学的にもともと関係を強化することが運命づけられているともいえます。

とはいえ、100年間も途切れた日英同盟を復活されることに貢献された、安倍元総理と、実際に「円滑化協定(RAA)」に署名し事実上の同盟関係を築いた岸田総理には敬意を表したいです。


それにしても、岸田総理は安保では、安倍路線を引き継ぐ行動をするのに、経済面ではそうではありません。両方とも引き継いだ上で、それ以外のところで、岸田色を出せば、今日のような事態を招くことなく、政権は安定したとみられるので、この点は、残念でなりません。

それに、将来日本の経済が落ち込めば、安保にも悪い影響を及ぼすことにもなりかねません。そうなれば、日本と安全保障で関係のある米英豪等の国々にも悪影響を及ぼすことになりかねません。

これは、安保に関しては、今や日本国内だけを考えていれば良いということはなく、米英をはじめとする西側諸国との関係の中で考えなければならず、他国との関係で行動しなければならないからかもしれません。

日本国経済に関しては、無論貿易関係にあることから、他国のことも考慮しなければならないところもありますが、現状では安保ほどではないということがあるのかもしれません。

さらに、日本国経済に他国が口を挟むということなれば、内政干渉と受け取られることになりかねず、他国も日本経済に対して、口を挟むようなことしずらいということがあるのでしょう。しかし、これは何とかして逆手に取るということもできるかもしれません。

これは、現在思案中です。


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