2018年9月17日月曜日

石破茂氏が経済論、憲法論議で犯してしまった「致命的なミス」総裁選後の振る舞いはどうするのか―【私の論評】トンデモ歴史観と経済理論に支配された石破氏は総理の器にあらず(゚д゚)!

石破茂氏が経済論、憲法論議で犯してしまった「致命的なミス」総裁選後の振る舞いはどうするのか

髙橋 洋一

相次いだ「告白」

#イケガミMeTooのハッシュタグを掲げる経済評論家の上念司氏
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

先週、ネットで「イケガMetoo」という言葉が話題になったのをご存じだろうか。あのジャーナリストの池上彰氏(68)に関することだ。

事の発端は、元通産官僚で徳島文理大学教授の八幡和郎氏が、池上氏の番組スタッフからある問題について取材を受けたが、それを八幡氏のコメントとしてではなく「池上さんの意見として紹介したい」と言われたと、フェイスブック(https://www.facebook.com/kazuo.yawata/posts/2130828563658019?__tn__=-R)で明かしたことだ。

これに対して、いろいろな人から「私も似たようなことがあった」という意見が相次いだ。筆者もその一人で、「オレも似た経験あるぞ」(https://twitter.com/YoichiTakahashi/status/1038986751153328128)とツイートした。

その後、こうした「告白」が相次いだことで「#イケガMetoo」というハッシュタグも出たのだ。これで、筆者以外にも、同様な経験があると表明している人がいるのがわかった。

筆者の場合は、かなり昔の話であるが、池上さんがやっていたあるラジオ番組でゲストして呼ばれた後、取材として話を聞かせてくれということだった。それで、筆者はまたゲスト出演をお願いされたのだと思い取材協力したが、「テレビでその取材内容を使いたい」ということだったのだ。こちらはゲスト出演と思い取材に協力したのに、残念に思ったことを覚えている。

学者の場合、意見は論文や本で表明する。学位をとるような著作では、自分のオリジナルな意見と他人の意見の引用は厳格に区別されている。

一方、ジャーナリストと称する人は、取材で得たことをベースにしたうえで自分の意見を述べるが、自分の意見と取材によって得た意見の差がどこにあるのか、かなり曖昧だ。しばしば取材源の秘匿を主張するが、それは取材を受けた者がそう主張した場合のみに許されることであり、一般的には取材先を明らかにできなければ、客観的な検証ができないことになってしまう。

マスコミ記事のなかには、そうした検証がしにくいものが多い。俗に言う「ソース」が明らかでないのだ。学者の論文なら、検証可能でないものは到底意味をなさないため、ここは大きく違っている。

池上氏の場合、テレビのジャーナリストによくあることだが、ソースの明示がハッキリしていない場合が多い。

筆者は、かつて本コラムで池上氏の番組を批判したことがある(2016.12.19「フジテレビ「池上彰特番」が犯した、残念すぎるレベルの3つのミス」https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50502)。おそらく筆者とは立場の違う人に取材をして番組を作ったのだろう。この番組でも、ソースは明示されていなかった。

池上氏については、9月7日に放送されたフジテレビ「池上彰スペシャル」についても批判されている。この番組で、子役タレントが20人以上出演していたからだ。八幡氏のケースも、子役タレント出演のケースでも、筆者からみると、ソースの明示(クレジット)をきちんとしていないことが問題ではないか、と思っている。

ツイッターで拡散されている画像


学者なら、取材協力者としてクレジット表記をしてくれればOK、という人もいるだろう。「クレジットなしでも、そこそこの報酬がもらえるのであればいい」というジャーナリストもいるだろう。まず、その協力者を番組に出演させればまったく問題なし、だ。

たとえ「出演なし」でも、クレジット表記か、協力に見合う報酬があれば多分問題なし、のはずだ。「出演なし、クレジットなし、報酬なし」ではやっぱり酷いと言わざるを得ないだろう。

池上氏は他人の意見を自分の意見のように言うことはない、としているが、これだけ似たような体験をした人がいるとなると、全面否定が通じるだろうか、という疑問も出てくる。モリカケ問題のとき、マスコミは「疑われた場合、挙証責任は疑われた側にある」というとんでもない論法を仕掛けていたが、これに即するなら、池上氏がどのような対応をとるのか興味深いところだ。

窮地に立たされた石破氏

今後、池上氏は窮地に立たされるかもしれないが、間もなく窮地に立たされそうな人物があと二人いる。

今週は、なんといっても20日(木)の自民党総裁選投開票に注目が集まる。もろもろの情勢を分析すると、選挙結果はもう決まったようなもので、安倍総理の勝ちであろう。

心配なのは石破氏だ。安倍総理と石破氏の違いについては、本コラムですでに述べている(例えば、2018.08.20「憲法、財政、本当にそれで大丈夫…? 石破氏総裁選出馬に抱く懸念」 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57106)が、その後も、石破氏は「ほんとうに大丈夫か?」という感想を抱くしかない発言を繰り出している。

石破茂氏

たとえば、石破氏は9月2日、高知の浜口雄幸記念館を訪問し、これまでに繰り返し『男子の本懐』を読んだことが報じられた。これは故・城山三郎氏の著作で、第一大戦後の日本の不況をなんとかしようとした政治家・浜口雄幸の姿を描いたものだ。

しかし、残念なことに『男子の本懐』に書かれている浜口雄幸の金解禁等の政策は、今の経済史では「デフレを招く原因となり、失敗だった」と理解されている。その意味で、経済政策論議の中で『男子の本懐』を出すのは、ミスリーディングといわざるをえない。歴史の教訓に学べば、経済政策について論じるなら高橋是清の政策(リフレ政策)をあげるのが正しい。

憲法改正についての議論でも驚いた。8月30日の読売新聞では、もし憲法改正を行うならどこから手を付けるかの議論の中で、「共産党まで含めた、賛同得られるものから改憲を」とコメントしている。それ以前にもテレビで同様の発言はあったが、それは口が滑っただけと思っていたら、どうやら本気なのだろう。これではまるで「護憲派」である。

石破氏は総裁選後、再び自民党を飛び出し、野党再編の核になるという見方すらでている。筆者には、離党経験があるが復党した石破氏が、まさかそうした行動はとらないと思うが、石破氏は、第二の小沢一郎になるとの予想も確かに一部にあるようだ。

敗北後の石破氏の身の振り方がとても心配だ。北海道地震を「国難」ととらえて、潔く総裁選出馬取りやめをしたほうがよかったのではないだろうか。

野田聖子氏も「骨抜き」か

さて、もう一人窮地に立たされそうなのが、野田聖子総務大臣だ。一時は出馬するという勢いだった野田氏も、携帯料金についての議論と「ふるさと納税規制強化」路線について、なにやらおかしなことになっている。

野田聖子氏

携帯料金についての議論をみると、野田氏の「地位の低下」が如実に分かる。というのも、菅義偉官房長官が講演で「携帯料金は4割程度下げる余地がある」と発言したのは8月21日のこと。これを受けて、野田総務大臣は、23日、携帯電話市場の競争促進策などを議論するように情報通信審議会に諮問したが、本来なら携帯電話の料金などの問題を管轄する野田総務大臣が先に発表するのが自然だ。

総務省の携帯料金担当役人は、料金引き下げについての菅発言を「寝耳に水」といっているようだが、野田総務大臣より先に菅官房長官が総務省の方針を発表するのは、政界における二人の力関係を如実に表している。野田総務大臣の「相対的な力の低下」が見て取れるということだ。

その野田大臣、ふるさと納税規制強化について、寄付金に対する自治体の返礼費用の割合が3割を超えたり、返礼品が地場産でなかったりする自治体への寄付を、税優遇の対象から外す方針を表明している。

ふるさと納税は、2007年の第一次安倍晋三政権の時に、当時の菅総務大臣の発案で創設され、自分で選んだ自治体に寄付すると、払った住民税の一定割合までを税額控除するというものだ。筆者も官邸にいながら、その制度創設を手伝った。

この制度の画期的なことは、税額控除の仕組みと寄付金を合わせているので、事実上税の使い方を国民が選ぶことができる、ということだ。これは、政府(官僚)が税を徴収して政府(官僚)がその配分を決めるのが公正である、という官僚の考え方とはまったく反している。そのため、ふるさと納税の創設の時、官僚はこれに猛反対だった。それを、当時の菅総務大臣が政治的に説得して通したものだ。

自民党総裁選では、野田総務大臣も出馬意欲を見せていたが、推薦人も集まらず、仮想通貨をめぐる問題で政治家として致命的なミスをしてしまい、結果として出馬さえできなかった。

こうした状況で、本来野田大臣が行うべき携帯料金問題の検討が進まなかったので、菅官房長官が業を煮やしたのだろう。引き下げについて菅官房長官が野田大臣より先に発表したのは、そういう背景があったと思われる。これに対して野田総務大臣がふるさと納税規制強化という「筋違いな応え方」をしてしまったようだ。とんだ意趣返しだ。

ちなみに、ふるさと納税の総額は3482億円であるが、これに伴う住民税控除額は2448億円で、それも都市部に集まっている。当初の目論見どおりに、各自治体の分配是正に貢献している、ということだ。しかも、全体の控除額は個人住民税収額(12兆8235億円)の2%にも満たないものだ。この程度なら、住民税の根幹を揺るがすことはないことは明らかだ。

もはや、野田大臣は、ふるさと納税に反対したい総務官僚に乗せられている、とみるべきだろう。「どうせ次の政権にはいないだろうから、官僚の代弁くらいさせておけ」という程度の利用価値しかない、と官僚たちからも見切られているのではないだろうか。

さて、この3人のうち誰が生き延びるだろうか。筆者は、池上氏だと思っている。政治の世界では、その結果についてそれなりにハッキリと見えるものだが、池上氏の問題については、テレビやマスコミが積極的に取り上げることはないだろう。

というのは、その他にもテレビやメディアに出演する自称「ジャーナリスト」は、池上氏と似たり寄ったりだからだ。池上氏の場合、「こどもニュース」で子ども相手にすべてを知っている人としてキャラができていたが、それを「大人相手」にしただけだ。

ちょっと取材したくらいで「専門家」を自認する「ジャーナリスト」はたくさんいるので、池上氏の問題をマスコミやテレビが取り上げれば、収拾がつかなくなってしまう。そう考えると、自浄作用については、政治の世界よりもマスコミの世界の方が劣っているのかもしれない。

【私の論評】トンデモ歴史観と経済理論に支配された石破氏は総理の器にあらず(゚д゚)!

ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事に、」「敗北後の石破氏の身の振り方がとても心配だ。北海道地震を「国難」ととらえて、潔く総裁選出馬取りやめをしたほうがよかったのではないだろうか」という下りがあります。私もそう思います。

というのも、石破茂氏はどう考えても、総理の器ではないからです。冒頭の記事にあったように、もし憲法改正を行うならどこから手を付けるかの議論の中で、「共産党まで含めた、賛同得られるものから改憲を」とコメントするようでは、もう器ではないことは明らかです。これでは、護憲派であるとうけとられても致し方ありません。

石破氏はさらに立て続けにとんでもないコメントをしています。石破陣営は、自民党総裁選の特設サイトで、47都道府県向けの動画を配信しています。そのなかの沖縄向けメッセージで、米軍基地が集中している理由をこう説明しました。

「1950年代、反米基地闘争が燃えさかることを恐れた日本と米国が、当時米国の施政下にあった沖縄に、海兵隊の部隊を移したからだと聞いている。(略)このことを決して忘れてはならない」

これは、石破氏が直接コメントしたものではありませんが、当然のことなが、石破氏の考えを表現したものです。石破氏の主張を受け、沖縄タイムスは13日にこの事実を報道し、「元防衛相が政治的要因を認めた」「閣僚経験者が本土の反対を懸念して、沖縄に米軍基地が集約された経緯について発言するのは初めてとみられる」と特筆しているくらいです。

沖縄知事選の争点とされる「米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設」について、革新系で自由党前衆院議員の玉城デニー氏(58)が反対を訴える一方、保守系の前宜野湾市長、佐喜真淳(さきま・あつし)氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=は、是非を明言せず、慎重な態度を貫いています。
沖縄知事選候補者、左から佐喜真淳(さきま・あつし)氏と玉城デニー氏

石破氏の主張は、革新勢力の「反基地感情」に火を付け、玉城陣営を利することになりかねないです。これは、防衛相経験者として、とんちんかんな発言で、沖縄の革新勢力などに媚びているようにしか思えません、

沖縄は、朝鮮半島や中国、台湾まで、戦闘機なら数時間で到達できる戦略的要衝です。米軍基地が集中しているのは、中国や北朝鮮などへの威嚇のメッセージにもなっています。元防衛相なら、そうした地政学的意義を丁寧に説明し、沖縄県民の理解を得るよう努めるべきであるにもかかわらず、この有様です。
石破氏は、日本を取り巻く安全保障環境を踏まえ、沖縄の米軍基地の重要性も説明すべきではないか

これは、最近のことですが、過去にもとんでもない発言をしていて、石破氏の歴史館はとうてい日本の総理大臣としてふさわしくないことがわかります。これについて、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
石破氏、ポスト安倍狙う“秘策” 党総裁選改革案は「ゲルマンダー」―【私の論評】安部総裁の本来の勝負は平成15年の自民党総裁選!ここで石破総裁が誕生すれば「戦後体制からの脱却」は遠のき、失われた40年が始まる!(◎_◎;)

この記事は、2013年10月31日木曜日のものです。この記事の中から、渡部昇一氏が石破氏の歴史観を徹底的に批判していた部分のみを以下に引用します。
"
この歴史観について、雑誌「2008年WILL6月号」で渡部昇一氏が石破大臣を国賊だと批判していました。

石破氏の中国の新聞に載せられたインタビュー記事は衝撃的であり、この件について当時政府が何も動かなかったことも驚愕です。中国の情報工作はますます進み、当時の石破大臣も篭絡されたのではないでしょうか?だとすれば、末恐ろしいことです。

以下にこの渡辺昇一氏の記事の一部を引用します。

渡辺昇一氏

石破大臣の国賊行為を叱る

渡部昇一

中国共産党の新聞「世界新聞報」(1/29)に駐日記者が石破茂防衛大臣の執務室でインタビューした記事を載せた。 
【石破防衛相の発言】 
●私は防衛庁長官時代にも靖国神社を参拝したことがない。第二次大戦の時に日本の戦争指導者たちは、何も知らない国民を戦線に駆り出し、間違った戦争をした。だから私は靖国神社に参拝しない、あの戦争は間違いだ、多くの国民は被害者だ。 
●日本には南京大虐殺を否定する人がいる。30万人も殺されていないから南京大虐殺そのものが存在しないという。何人が死んだかと大虐殺があったかは別問題だ 
●日本には慰安婦についていろいろな見解があるが、日本軍が関与していたことは間違いない。 
●日本人が大東亜共栄圏の建設を主張したことは、侵略戦争に対する一種の詭弁だ。 
●(中国は日本に対する脅威であるから対中防衛を強化せよという人たちは)何の分析もしないで、中国は日本に対する脅威だと騒いでいる。 
●日本は中国に謝罪するべきだ。
これではまるで稚拙なサヨク学生の言い草ではないか。ギルト・インフォメーションに基づく戦後自虐教育の落とし子そのものである。 
これが事実だとすれば石破茂防衛大臣に対する認識を改めねばならない。 
「WILL」編集部が石破茂防衛大臣に確認したところ、事務所から次の回答が来たという。 
問 1月29日付け「世界新聞報」に石破防衛大臣の執務室での独占取材内容が掲載されているが、この取材は実際に受けたものか。 
答 実際に受けたものです。 
問 いつの時点で取材を受けたのか。 
答 平成19年11月21日(水)に取材受けいたしました。 
問 掲載された内容は、石破防衛大臣が話した事実に即しているのか。 
答 インタビューを先方が記事にまとめたものですので、事実に即していないと言うほどではありませんが、事実そのままでもありません。 
問 記事が事実に即していない場合、それに対してなんらかの対処をされたか。 
答 前の答えの通り、どのマスメディアでも発言を加工することはありますので、特別対処というほどのことはしておりません。 
いやはや、恬として恥じない石破氏はアッパレ! 
しかし、この大臣の下で働く自衛隊のみなさんの心情を考えると哀れである。 
その著書「国防」を当ブログでも紹介し、軍隊でないために行動基準がネガティブリストではないこと、軍法会議がないこと、NTP体制は「核のアパルトヘイト」だという発言を好意的に取り上げたが、所詮は単なる「軍事オタク」で国家観も歴史観も持ち合わせていないことが判明した。 
ブッシュ(父)大統領がハワイ在住の日系人の式典で「原爆投下を後悔していない
(I am not sorry)」と発言したことについて、渡部氏はいう。 
「他国に簡単に謝罪するような人間は、大統領はおろか、閣僚にも絶対になれません。それが諸外国では当たり前です」 
野党首相の村山富市は言うに及ばず、宮澤喜一、河野洋平、加藤紘一その他の謝罪外交を繰り返した政治家たちは「当たり前」ではないのである。 
石破茂防衛大臣もその一人として辞任を要求する。
いやはや、これはとんでもない歴史観です。しかも、防衛大臣だった時分の歴史観の吐露ですから、救いようがありません。

石破氏は今でもこのような歴史観を持っているのでしょう。先にも掲載したように、 石破氏はさらに立て続けにとんでもないコメントをしています。このコメント、「失言」と捉えられている向きもありますが、私はそうではないと思います。

このような石破氏の歴史観からにじみ出る、本音を語っているとみるべきです。こんな人物は、どう考えてみても、日本の総理大臣の器ではありません。

一方石破氏の経済政策はといえば、これもとてもじゃないですが、総理の器とはいえません。

石破氏の経済政策のスタンスは、「反アベノミクス」に尽きます。アベノミクスは3点から構成されていて、大胆な金融緩和政策、機動的な財政政策、そして成長戦略です。

このうちアベノミクスの核心部分が大胆な金融緩和政策にあります。政府は日本銀行の人事を国会での議決を通じてコントロールし、この大胆な金融緩和政策、いわゆるリフレ政策(デフレを脱却して低インフレ状態で経済を安定化させる政策)を実現しようとしてきました。石破氏の「反アベノミクス」とは、このリフレ政策への批判に他ならないものです。

例えば、まだ民主党政権の時代に評論家の宇野常寛氏との共著『こんな日本をつくりたい』(2012年)の中で、宇野氏のリフレ政策をとっても良いのではないか、という問いに対して、石破氏は即時に否定しています。石破氏の理屈では、リフレ政策は「二日酔いの朝に迎え酒飲むようなもの」で、続けていけばハイパーインフレ(猛烈なインフレ)になる可能性があるというものでした。

この意味で、マクロ経済政策としては、財政再建路線、金融緩和否定というアベノミクスの真逆であり、そのマクロ経済政策が実際に行われれば、アベノミクスで達成できた雇用や株高は失われ、デフレ脱却もかなわず、デフレに逆戻りになる可能性があります。

野田聖子氏も、経済では石破氏と五十歩百歩です。

トンデモ歴史観とトンデモ経済理論に支配されている、石破氏だけは、間違っても総理にすべきではありません。今回はどう考えて芽はないので、本当に良かったです。

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2018年9月16日日曜日

今は我慢。中国の「自滅」を誘うために日本が取るべき外交戦略―【私の論評】日本は、中国の自滅を待つにしても、するべきことはしなければならない(゚д゚)!

今は我慢。中国の「自滅」を誘うために日本が取るべき外交戦略


日本がトランプの仕掛ける貿易戦争や、中国の尖閣諸島攻撃に遭っても国益を失わず上手く対抗できる策はあるのでしょうか。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、主要国の波乱含みの内政について分析するとともに、日本がいかに長期安定統治されている国かを紹介。焦らず周辺諸国と良好関係を構築する戦略をとれば、内政が不安定な国が先に自滅するだろうと論じています。

日本、戦略の要は【時間かせぎ】

今まで100万回書いていますが、日本の敵ナンバーワンは中国です。これ、別に私が、反中だとかそういう理由でいっているのではありません。中国が、アメリカ、ロシア、韓国を巻き込んで「反日統一共同戦線」をつくろうとしているので、そういうのです。完全証拠は、こちら。
ところが日本には、「アメリカが主敵だ!」という意見も多く、その手の本もよく売れています。なぜ、そういう話になるのでしょうか? 日本はアメリカ幕府の天領だからです。そして、「ロシアは北方領土を返さないから敵だ!」という意見は、とても多い。さらに、「世界中で慰安婦像設置運動をつづけている韓国は敵だ!」という人も多いです。私も、憤りを共有していますし、理解できます。これらの意見は、どれも一理あります。つまり、「日本の敵はアメリカ中国ロシア韓国だ!」というのです。
しかし、こういう考えは、「まさに中国の思惑どおり」ですね。100万回読んだかもしれませんが、原文を熟読してください。戦略の骨子は、以下のようになっています。
  • 中国、ロシア、韓国で【反日統一共同戦線】をつくろう!
  • 中ロ韓で、日本の領土要求を断念させよう!
  • 日本に断念させるべき領土とは、北方4島、竹島、尖閣、【 沖縄 】である!
  • 日本に【 沖縄の領有権は 】ない!!!!!!
  • 【 アメリカ 】も反日統一共同戦線に引き入れよう!
そして、今の日本人の意識の状態は、
  • アメリカは敵
  • ロシアも敵
  • 韓国も敵
これって、「まさに中国の思惑どおり」なのではないですか????
もちろん、日本人がアメリカ、ロシア、韓国を嫌う客観的な理由はあります。しかし、もし私たちが、「日本を守りたい」「戦前の失敗を繰り返したくない」と思うなら、「感情的ではなく、「戦略的」に考える必要がある。
戦略は明らかです。中国は、日米分断、日ロ分断、日韓分断を狙っているので、日本は逆に、日米日ロ日韓関係を強固にしていく。たとえば、トランプさんから安倍さんに、貿易関係で厳しい要求がきそうです。私は、
  • シェールガス、シェールオイルを買う
  • 攻撃型の武器をどんどん買う
ことで、対米貿易黒字削減に取り組めばいいと思います。なんやかんやいっても日米関係が強固であれば中国は(少なくとも現時点では)尖閣を侵略できません
2010年の尖閣中国漁船衝突事件。あれは、なぜ起こったのでしょうか? まず、リーマンショックから、アメリカは沈みまくっていた。そして、09年に誕生した鳩山政権が、遠慮なく日米関係を破壊した。この二つの要因で中国は、「アメリカは日本を助けないだろうと予想した。だから、ああいうことになったのです。
アメリカも弱体化が著しいですが、それでも日米関係が強固であれば、中国はまだ手出しできません

日本の強さは、安定性

日本の戦略は、アメリカロシア韓国友好関係を築くこと。「目に見える中国包囲網」を日本が主導する必要はありません。要は、日米関係、日ロ関係、日韓関係が良好であればそれでいい
そして、日本は、ひたすら時間を稼ぎます。なぜ? 日本は、【世界一安定している国】だからです。これからの世界を見るに、「安泰だ!」といえる国は多くありません。アメリカは、1945年がピークだった国。冷戦終結後に2度目のピークを迎えた。その後は、衰退しつづけています(それでも世界最強ですが)。
中国の成長期は2020年まで。その後、経済は伸びず、日本以上の少子化が襲い、体制維持が難しくなっていくことでしょう。ロシアは、現在でも、制裁でかなり疲弊しています。石油、ガス依存がひどく、「成長戦略が描けないでいる。欧州は、イスラム移民が増えすぎて、後50年もすると「キリスト教文明」ではなくなり、「イスラム圏に飲み込まれてしまうことでしょう。
日本は、どうでしょうか? 皆さんご存知のように、日本は「現存する最古の国」です。政治家はコロコロ変わりますが、不変の皇室があり、異常に安定している。そして、民主主義が根付いているので革命は起こりにくい
日本の政治制度も、非常にすぐれていると思います。たとえば自民党がダメになれば、ちゃんと政権交代が起こる。政権をとった民主党がダメなら、総理は、一年で首になる。民主党に3人総理をやらせて、ダメなら、また自民党に政権が戻る。国益にだいたい沿った政治をする安倍内閣は、長期になる。
というわけで、日本の政治制度はすばらしいです。これがアメリカみたく、「4年、二期までです」となったらどうですか? 皆さん、鳩山内閣が4年続いたことを想像してみてください。まさに悪夢でしょう???
というわけで、他の大国と比べて日本は安定している。日米、日ロ、日韓関係を良好にたもつ。日印、日欧、日・東南アジア、日豪関係を良好にたもつ。そのまま10~20年経てば、中国は体制が維持できず自滅することでしょう。
【私の論評】中国の自滅を待つにしても、日本するべきことはしなければならない(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事、大局的にはこのような行き方が正しいものとは思います。しかし、中国が自滅するまでには、少なくとも10年ながければ20年はかかるとみると、これだけでは足りなくなものと思います。

特に日米関係に関しては、長い間には様々な紆余曲折があると思います。

実際、それを予感させる出来事が最近立て続けに起こりました。6月7日にホワイトハウスで日米首脳会談が行われた際に、冒頭でトランプ大統領が「私は真珠湾を忘れない」と安倍晋三首相に不満を示したという。対日貿易赤字を抱えるアメリカが日本の経済政策を批判したもの、と同紙は解説している。

ただし、これは誤りであることは、このブログで指摘しました。以下に該当記事のリンクを掲載しておきます。
「真珠湾攻撃忘れないぞ」トランプ米大統領、安倍首相に圧力―【私の論評】日本のメディアは米国保守派の歴史観の変貌に無知(゚д゚)!
会談で握手する安倍首相(左)とトランプ米大統領=6月、ワシントンのホワイトハウス

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では米国では保守派の間では過去の歴史が見直されていて、単純な「日本悪玉観」は否定されており、いわゆる「リメンバー・パールハーバー」の意味も旧来の意味とは異なっていることを掲載しました。

トランプ大統領も保守派ですから、当然トランプ氏の発言の中にでてきた「リメンバー・パールハーバー」の意味も旧来の意味とはことなるわけです。

もう1つは、7月に日本と北朝鮮の情報当局がベトナムで極秘接触していたことです。日米両国は同盟国として対北問題で緊密に連絡し合うと約束したにもかかわらず、日朝の接触は伝えられていませんでした。

これについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米も知らなかった…日朝極秘接触 7月にベトナムで拉致問題全面解決に向け協議 日米連携に影落とす危険性も ―【私の論評】ワシントン・ポストでは相変わらずパンダハガーが勢いを維持している(゚д゚)!
北朝鮮交換と接触したとされる北村滋内閣情報官
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分を以下に掲載します。
これは、同時に中国の現状の大変さを物語っているとも受け取れます。日米が協同して、中国を叩くということになれば、中国には太刀打ちできません。

中国としては何とかして、日本を味方に引き入れ、日本を親中派政権にして米国の経済冷戦をかわしたいと考えているのかもしれません。だからこそ、ワシントン・ポストを利用して、日米が離反するように仕向けている可能性があります。しかし、次の総裁選では安倍総理が圧倒的に有利ですから、そのような目論見は成就することはないでしょう。

これは、しばらく趨勢をみてみないことには、まだなんとも言えませんが、ワシントン・ポストの報道にはこういう背景があるということを知った上で、報道を吟味すべきと思います。特にワシントン・ポストを鵜呑みにする日本の報道には、留意すべきです。
日米間の隙間風を伝えるこの2つのニュースはどちらも政策当局からのリークとの見方があります。「真珠湾発言」は安倍政権の官邸外交に反発する日本の霞が関が流したもので、「日朝接触」の出どころは中国だというものです。

ところで、非核化交渉は6月12日の米朝首脳会談以降、うまくいっていません。北朝鮮が朝鮮戦争の終戦宣言を求めるのに対し、米側は非核化の具体的行動を要求し、折り合いがつきません。

いら立ちを募らせるトランプは、非核化交渉が不調に陥った背後に中国の存在がある、と批判しています。北朝鮮を対米外交の駒として使っている、というのです。そこで中国は日朝秘密交渉をリークして、トランプの怒りの矛先を日本に向けさせようとしたというのが、この出来事の真相かもしれません。

しかし、この2つの出来事が、日米関係をわずかでも毀損させたという事実は全くありません。

とはいいながら、日米を離反させようと考える勢力は、中国は無論のこと、日本の中にも、米国の中にさえ存在します。今後日本が中国の自滅を待つにしても、それまではまだ時間があります。

このような勢力の存在の暗躍は、ハーバード大学の政治学者サミュエル・ハンチントン教授が96年に書いた論考『文明の衝突』(邦訳・集英社)そのもののようです。同書によると、ヒューマニズムを基盤とする西洋文明の代表者アメリカは早晩、儒教の代表者である中国と世界秩序をめぐって激突することになるとしています。

「精神的なぬくもりを感じさせない」冷酷な宗教である儒教は個人よりも集団に重きを置き、権威と階級などを重視します。これは、独裁体制を支えてきたイデオロギーでもあるので、中国も北朝鮮も儒教を放棄しません。中国が考える国際秩序は国内秩序の延長線上にあり、国力の増大に伴い西洋中心の秩序に挑戦してくるとしています。

『文明の衝突』の中でハンティントンは、中国や朝鮮、その他いわゆる東アジアのことも記載されています。そうして、これらのことを東アジア文化圏としています。では、日本は、その中に含まれているかといえば、そうではありません。

日本は、日本文化圏としています。ハンティントンも、最初は、日本も中国に影響を受けた国なので、東アジア圏の中に含めようと考えたようですが、結局それでは実体を表しておらず、日本は、あまりにユニークで、どうしても、東アジア文化圏に含むことはできず、結局は、日本文化圏としたと、著書の中にも掲載されています。

ハンティントンは「アジアにおけるアメリカの影響力が小さくなると、日本は<再びアジア化>すべきだとする考えが日本国内で勢いを増し、東アジアの舞台で中国が改めて強い影響力を持つのは避けられないと考えだすだろう」とも書いています。

文明の衝突の表紙

既にそうした前例がありました。89 年に中国が天安門広場で民主化を求める市民と学生を弾圧した後、自由主義陣営が対中制裁を科しました。ところが92年、冷戦崩壊の隙を突くかのように日本は天皇の訪中決め、欧米の結束を崩壊させたのです。

日本の中には明らかに「日本は再びアジア化」すべきだという考えを持つ集団がいます。それは、野党は無論のこと与党の自民党の中にさえ存在します。

ただし、これらの勢力は中国が尖閣諸島沖で、中国の漁船が日本の海上保安庁の艦艇に体当たりしたり、南シナ海で環礁を埋め立て軍事基地化するなどの他にも立て続けに傍若無人な振る舞いを繰り返したため、日本の対中世論は急激に悪化し、今では影を潜めています。

しかし、これらがいつ息を吹き返すかは予想がつきません。日本はこうした勢力を封じ込めつつ中国の自滅を待つ必要があります。

さらに、国際情勢がこれだけ急激に変化してしまったのですから、従来通り日本の防衛を米国に頼るのではなく、少なくとも、自国民の生命財産を守るためには、自衛戦争をできるようにしておく必要があります。

今後米国は日米の同盟関係を崩すことないとは思いますが、日本が日本の領土を守るために何もしないということであれば、今すぐではなくても、今後10年、20年たてば、日米関係にヒビが入る可能性も十分にあります。

ブログ冒頭の記事にもあるとおり、日本の中には米国も、韓国も、ロシアも敵などと考える勢力は確かに存在します。その中で、韓国やロシアはたとえ敵に回っても、GDPでみると両国とも東京都なみですから、さほど悪影響はないかもしれません。無論できたら、敵に回さずに、味方に引き入れておいたほうが良いことは良いには違いはありません。

しかし、米国を本当に敵に回してしまえば、おそらく日本としては、中国と手を組むしかなくななります、これこそ中国の思惑通りということになります。

そんなことになれば、先日のこのブログに掲載したシーパワー国の同盟でもある日米英同盟が破綻しています。

そんなことになれば、中国の崩壊どころか、中国としては日本の経済力を最大限に利用して、米国と対峙することになります。その挙句の果に、中国と共倒れということになりかねません。

そのようなことだけは絶対に避けるべきです。そのためにも、日本は少なくとも自国領土を守れるように、体制を整えておくべきです。

以上まとめると、日本は、国内で「日本は再びアジア化」すべきだという勢力を封じ込めつつ、少なくとも自国領土を防衛できる体制を整えつ、多くの国々を味方につけ、中国の自滅を待つという外交戦略が最上であると考えます。

今後10年、20年と時がすぎれば、日本は他国を味方に引き入れただけでは、中国の自滅を待てない状況になるのは明らかだと思います。

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2018年9月15日土曜日

今でも「トランプ礼賛本がベストセラー」というアメリカ社会の現実―【私の論評】米国保守層の現実を知らなければ評価できない書籍(゚д゚)!


今でも「トランプ礼賛本がベストセラー」というアメリカ社会の現実

やっぱり人気は根強い

森川聡一 

■今回の一冊■
Liars, Leakers, and Liberals
筆者 Jeanine Pirro
出版 Center Street


トランプ大統領のことを手放しで礼賛する本がアメリカで大人気だ。書いたのは保守系メディアのFOXニュースで活躍する女性コメンテーターのジェニー・ピロだ。検察官や裁判官も務めた経歴を持つピロの舌鋒は鋭い。トランプを批判する人たちを、書名にある通り、Liar(嘘つき)、Leaker(不法に情報漏洩するヤツ)などと切り捨てる。

 筆者のピロは長年、トランプ一家とプライベートの付き合いがあり、トランプの子供たちのことも含め、素晴らしい人たちだと大絶賛する。本書のサブタイトル The Case Against the Anti-Trump Conspiracy がそのままズバリ示すように、ロシア疑惑などトランプをめぐる悪材料はすべて、アメリカの国家治安当局も加担する反トランプ勢力による陰謀だと批判する。

トランプ支持者たちの思いを代弁する本書

 ここで最も重要なのは、本書の内容の妥当性ではない。こんなトランプ礼賛本がアメリカでベストセラーとなっている現実そのものに意味がある。本が売れるということは、内容に共感する人がそれだけたくさんいるということだ。本書はニューヨーク・タイムズ紙の8月5日付の週間ベストセラーリスト(単行本ノンフィクション部門)で初登場し堂々の1位につけた。7週連続でのランクインとなった9月16日付リストでも6位となっている。

 主要メディアによる報道をみると、トランプ政権への逆風は強まるばかりだ。政権の内幕を暴露する本が出版されるたびに、伝統的なメディアはトランプ政権の危機をあおる。しかし、手放しでトランプを礼賛する本書を買い求めて読むアメリカ国民がたくさんいる事実を見逃してはいけない。トランプ人気の根強さを示す。本書はまさに、トランプ支持者たちの思いを代弁してるからこそ売れているわけだ。例えば、次のような一節が、トランプを大統領選の勝利に導いた支持者たちの典型的な思いのひとつかもしれない。

 To be sure, Trump was not your typical, politically correct candidate. Unlike the two-faced parasites in Washington, he really wanted to make America great again. They tagged him with every negative characterization they could. They called him a fascist, a racist, and twisted everything he said. Why? Because he was a threat to the greedy, corrupt Washington insiders who had captured our government.

 「たしかに、トランプは伝統的な清く正しい大統領候補ではなかった。ワシントンに巣食う二枚舌を使う者たちとは違って、トランプは本当にアメリカを再び偉大な国にしたいと思っていた。政界の寄生虫たちはありとあらゆる悪名をトランプにきせた。トランプのことをファシストや人種差別主義者と呼び、トランプが言うことすべてを曲解した。なぜだろうか? 政府を支配する欲深くて堕落したワシントン政界のインサイダーたちにとって、トランプが脅威だったからだ」

「トランプもノーベル賞を受けて当然だ」

 トランプが連発する不適切な発言につても、本書は次のように擁護する。

 Okay, I'll give you this: Sometimes the president isn't as politically correct as LIAR Obama. But isn't it refreshing to finally be able to listen to someone who says what he thinks? To hell with political correctness. A nation exhausted after eight years of Obama's “I say what I mean and mean what I say” doubletalk were starving for the straight talk Trump delivered. Sometimes his wording is a little rough around the edges. But Donald Trump feels the way much of America feels, and that's why he was elected our president.

 「たしかに、次の点は認めよう。トランプ大統領は時に、嘘つきオバマとは違って、政治的に不穏当な差別的な発言をする。しかし、そうした点はむしろ新鮮ではないだろうか、本音で語る人の話をついに聞けるようになったのだから。公平で中立的な偏見のない物言いなんてまっぴらだ。アメリカ国民はオバマの行儀のいい空疎な言葉に8年間も付き合い、うんざりしていたから、トランプが発する正直な言葉を待ち望んでいたのだ。トランプの言葉遣いは少し乱暴できつすぎるときもある。しかし、ドナルド・トランプはまさにアメリカ国民と同じように感じる。だからこそ、トランプはわれわれの大統領に選ばれたのだ」

 とまあ、本書は全編こんな調子で、トランプ大統領が素晴らしい理由を、これでもかと並べ立てる。北朝鮮問題でもトランプは大きな成果をあげており、何もしなかったオバマでもノーベル平和賞をもらえたのだから、トランプもノーベル賞を受けて当然だとも論陣をはる。いくら引用してもきりがないので、この辺でやめる。繰り返しになるが、こうした本書の主張に拍手喝采するアメリカ国民がたくさんいるという事実を軽視してはいけないだろう。

 最近も、著名ジャーナリストのボブ・ウッドワードが出版したトランプ政権の内幕を暴露するノンフィクションが話題だ。欧米だけでなく日本も含め主力メディアはウッドワードの著書について盛んに取り上げている。対照的にメディアは、本書のようなトランプ礼賛本が売れている事実を報じない。インテリたちが軽んじる本書のようなベストセラーの売れ行きにも目配りをしないと、アメリカの民意を読み誤るおそれがある。

【私の論評】米国保守層の現実を知らなければ評価できない書籍(゚д゚)!

日本では反トランプ本ばかり報道されます。先日のNHKのNW9も酷いものでした。偏った報道所ではなくこれはもはや情報統制の次元かもしれません。米国では、"Liars, Leakers, and Liberals"のほうが大ベストセラーになっています。ニュヨーク・タイムズの書評では、7週連続ベストセラーになっています。

ブログ冒頭の記事では、"Liars, Leakers, and Liberals"の表紙の写真を掲載しましたので、"FEAR"の表紙の写真も以下に掲載します。


米国Amazonでは、"Liars, Leakers, and Liberals"とならびこの書籍もベストセラーになっています。

同書は9月11日に発売されました。この手の書籍は既に数冊発売されていますが、中身は概ね「似たり寄ったり」です。これまでの暴露本の著者はいずれも無名でしたが、今回の著者は1972年のウォーターゲート事件の際に有名になったウッドワード記者だから本物、読む価値があるなどと言われているようですが、だからといって信用できるというのも変な議論だと思います。

確かにウッドワード氏はウォーター・ゲート事件では、それなりに有意義な活動をしていますが、その後どうだったかといえば、その書籍のほとんどな政治的なものであり、読むに値しないものがほとんどでした。

ボブ・ウッドワード氏

この現象は、このブログでも過去に紹介しているようにアメリカ社会の保守・リベラルを巡っての米国社会の状況を知らないとなかなか理解できないでしょう。

トランプ大統領登場前の、米国社会の状況がどうなっていたかといえば、このブログでも以前紹介したとおり、メディアのほとんどがリベラルであり、特に新聞の大手メディアは全部がリベラルに占められている状態です。

日本でいえば、朝日新聞、毎日新聞のようなメディアばかりであり、産経新聞はないようなものです。日本で産経新聞を読まずに、朝日新聞、毎日新聞ばかり読んでいると、安倍総理は悪人であるかのような見方になってしまい、とんでもないことになります。

それと同じように、米国の大手新聞を読んでいれば、まるでトランプ大統領のことを「気違いビエロ」のように見えてしまうのは当たり前といえば、当たり前です。

ただし、米国の大手新聞のすべはリベラルだとはいえ、中にはウォール・ストリート・ジャーナルのように、まともな報道をする新聞もあるので、まだ救われているところがあります。しかし、これは例外的であり、他の大手新聞はかなり偏向しています。

テレビはどうかといえば、大手テレビ局もほとんどがリベラルです。一つだけ例外なのが、FOXTVです。FOXニュースで活躍する女性コメンテーターのジェニー・ピロが上記のような書籍を書いたのにはこのような背景があります。

そうして、学問の分野でもリベラル派が幅を効かせています。特に文系の学会はそうです。その中で歴史学などは完璧にリベラルの牙城となっています。

ベノナ文書が発掘されて以来、特に米国内ではその分析が進んでルーズベルト大統領当時の米国政府がかなりソ連スパイに浸透されていたことが判明したり、長い間焚書扱いであった、フーバー元大統領よる「日本を戦争に巻き込むという陰謀を図った狂気の男」とルーズベルト大統領を辛辣に批判していたメモなどが明るみ出されたりで、米国保守層の中では「ルーズベルトは大悪人」ということになっています。

保守派では悪人扱いのルーズベルト

しかし、米国の歴史学会では相変わらず「ルーズベルトマンセー」であり、そうでないと米国歴史学会では生き残れません。米国では、保守的立場から歴史学を研究するとすれば、大学では不可能であり、軍の研究機関に入るか、保守系シンクタンクに入るしかないと言われています。

それを目指す人も、学生や院生までは、「ルーズベルトマンセー」を貫かなければ、芽を摘まれてしまうそうで、ひたすらリベラル派の立場で論文を書いたりして、自分の本当にしたい研究はそれなりの機関に入ってからでないとできないそうです。

これは、大学などに限らず、企業や大学よりも下の高校や小中学校でも同じでした。とにかく、リベラルが主流であり、保守系は亜流であると思われていました。

人口でいえば、米国のおそらく半分はいるであろう保守層の考え方などは、まるで存在しないかのごとく、マスコミでも学問の世界でも、かき消されてきたというのが現実です

そこに登場したのは、保守派のトランプ大統領です。トランプ大統領の誕生そのものが、米国の人口少なくとも半分は今でも保守派であるということを証明したと思います。そうでなければ、トランプ大統領が誕生することはなかったはずです。

日本人の中には、「ルーズベルト大悪人」などという考えなど到底及びもつかない人も大勢いると思います。

同時に、トランプ大統領が保守であるという意味もよくわかっていない人が大勢いると思います。

トランプ氏は保守派であり、保守派のバックポーンは典型的なピューリタニズムの原理に基づく行動です。トランプ大統領は、この原理こそが本来米国の富を築いてきたと考えていわけですが、この原理にもとづく行動は、現代の米国のリベラル派からすれば、過去に戻るというだけであって、せっかく長年かけてリベラルが気づいてきた社会に逆行するものでしかないわけです。

ただし、米国では先にも述べたように、リベラル派がマスコミはもとより、政治や学問の世界、ありとあらゆるところで、主流派となったので、本来米国の人口の半分近くを占めるはずのビューリタニズム的な勤勉をバックボーンとする保守層の考えはごく最近まですっかりかき消されてきたといのが現実でした。

そのかき消された声を代弁したのがトランプ氏の言動です。多少乱暴なところがありますが、それは軍隊を意識したものであると思います。米国の軍隊では、特に新兵の訓練などでは、教官がこれ以上汚い言葉はないのではないかと思えるくらい、徹底的に汚い言葉で、新兵を怒鳴りつけ教育・訓練します。それこそ、パワハラの連続ともいえるくらいの、汚さです。そうやって、新兵を本物の軍人に鍛えあげるのです。

トランプ大統領の乱暴な言葉や、保守派の典型的なビューリタニズム的考えは、到底並のリベラルには受け入れられるものではありません。そのあたりを代弁したのが、ジェニー・ピロの書籍なのです。

このような背景が理解できていないと、この書籍の意味するところも理解できないのではないかと思います。実際、ブログ冒頭の記事でもこの書籍を単純に「トランプ礼賛本」と位置づけていますし、最後の結論のところでは、「インテリたちが軽んじる本書」などと決めつけています。

先にも述べたように、少なくとも米国の半分は保守層なのですから、その半分のうちには当然インテリも大勢含まれています。

米国社会は、保守派のトランプ大統領が誕生した今でも、マスコミはおろか学問の世界、学校、芸能界、ありとあらゆる職場で「リベラル」が主流になっています。そんなところで、保守派的な意見などみだりに開陳できません。特に保守派インテリはそうでしょう。

下手なことをいうと、すぐに「ボリティカル・コレクトネス」等の観点から大糾弾されかねません。それどころか、下手をすると、職を失ったり、大学生や大学院生なら退学せざるをえなくなるかもしれません。そこまでいかなくても、将来の芽を摘まれることにもなりかねません。インテリこそ、普通の人よりそうした危険度は高いことでしょう。

だからこそ、「リベラル」がありとあらゆるところで、主流となっている今の米国では、ボブ・ウッドワード氏の書いた"FEAR"のような内容は、もうすでにリベラル・メディアなどで散々言い尽くされたきたことですし、リベラ派人々の話題にもなってきた事柄です。特段新しいと思われることはありません。

ところが、"Liars, Leakers, and Liberals"のような内容は、リベラル・メディアではほとんと報道されず、人々の話題にも登らなかったのです。だからそ、この書籍は保守派の人々の発露として、多くの保守派人々に共感を持って受け入れられたのでしょう。だからこそ、圧倒的なベストセラーになっているのです。

私は、このような背景を知った上で、この書籍を評価しなければ、現実を見誤り、米国の人口の半分の保守層を無視することになると思います。

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2018年9月14日金曜日

人目につかない自民党の小部屋に呼ばれ… 経済政策を議論してわかった「安倍首相は『健全な政治家』」―【私の論評】経済に限らず、虚心坦懐に予測の当たる人の話を聴くべき(゚д゚)!


高橋洋一 日本の解き方

安倍晋三首相

自民党総裁選では経済政策も争点の一つだ。そこで、安倍晋三首相が金融緩和を軸としたアベノミクスにどのように出合い、学んで自らのものとしたのかという原点について、あらためて振り返ってみよう。

 ある月刊誌に、総裁選に臨む安倍首相の特別寄稿があり、その中で、アベノミクスについて、浜田宏一内閣参与、本田悦朗前参与、岩田規久男前日銀副総裁とともに、筆者から教えてもらったと書かれていた。他の方々は政府役職だが、筆者はそうしたものと無縁にもかかわらず名前を出してもらい光栄だ。

 振り返ると、筆者が小泉純一郎政権時代の竹中平蔵総務大臣補佐官の時、当時官房長官であった安倍氏とよく話をしていた。小泉政権では、「CPU(Communication and Policy Unit)」という首相側近グループの会合が週末に開かれ、安倍氏や竹中氏らが参加しており、その前後に筆者が安倍氏にレクチャーすることがあった。

 そのときは金融政策に割ける時間は少なかったが、「2000年8月のゼロ金利解除はどうだったのか」などマニアックな質問もあって驚いた。そのほかにも「金融政策について聞きたい」と、人目につかない自民党の小部屋に呼ばれ、筆者は「中央銀行の独立性には『目標の独立性』と『手段の独立性』があるが、世界の標準は『手段の独立性』だ」と説明した。安倍氏は、それは政治家に好都合だと言っていた。

 06年3月、日銀が量的緩和を解除する際にも、いろいろと説明した。政府・与党内では、筆者の周りの竹中大臣や中川秀直政調会長が解除に反対だった。その理由は、消費者物価上昇率は見かけ上プラスになったが、物価統計の上方バイアス(実態より高い数字が出やすいこと)を考慮すると、まだマイナスであるという筆者の分析だった。

高橋洋一氏

 一方、政府・与党内では与謝野馨経済財政担当相が量的緩和解除を強硬に主張するなど大勢を占めていた。しかし、その後の消費者物価統計の改定によって筆者の意見が正しかったことが分かった。

 安倍氏はこうした議論をよく見ていた。筆者には「日銀が量的緩和を解除したら経済はどうなるか」と聞いてきた。筆者は、量的緩和解除の半年程度後から景気は徐々に落ち込むと予測した。これは金融政策に関する一般的な効果ラグ(時間のずれ)である。これも筆者の見立て通りだった。

 06年9月に第1次安倍政権が発足した。小泉政権で退職するつもりだった筆者は官邸にいてくれと頼まれ、残ることとなった。ただし、第1次政権は安倍氏の体調不良もあって残念ながら短命だった。

 その後、筆者も時間に余裕があったので、経済政策、特に金融政策についてしばしば安倍氏と議論した。筆者の主張は「金融政策は雇用政策」という左派顔負けのものだったので、保守の安倍氏に受け入れられるか気がかりだったが、心配無用だった。安倍氏は「学者の議論は分からないが、結果が当たる人と当たらない人は分かる」と言っており、当たる人の意見を聞くという意味で健全な政治家だといえる。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】経済に限らず、虚心坦懐に予測の当たる人の話を聴け(゚д゚)!

アベノミクスについて、安倍総理利は、浜田宏一内閣参与、本田悦朗前参与、岩田規久男前日銀副総裁とともに、高橋洋一氏らから教えてもらったとしていますが、これは非常に妥当な判断だと思います。

なぜなら、これらの人々、いわゆるリフレ派の経済予測は大体当たっていたからです。特に、2014年の4月に実施された8%への消費税増税は、日本経済に甚大な悪影響を与えるという予測はしっかりと当たりました。

一方東大を頂点とする、日本の経済学の主流派である人々の予測はほとんどが外れました。新聞などのマスコミの予測なども外れました。彼らは、「8%への消費税の増税が、日本経済に与える影響は軽微」としていました。

しかし、8%増税の悪影響は甚大なものであり、個人消費が落ち込み、未だに日本のGDPの伸び率は他国に比較して低い状態にありますし、GDPデフレーターでみると、日本経済はいつまたデフレに戻っても不思議ではないくらい低調です。


単純にはデフレーターの値がプラスなら経済はインフレ、マイナスならデフレの方向にあると判断できます。このグラフでみると、日本経済は、2014年は完璧にデフレ方向に向いたことがわかります。

1997年にイレギュラー的な動きを示した以外は、1995年以降概してGDPデフレータは減少し続けている≒デフレを示していた。2014年では1998年以来10年以上ぶりに、今世紀に入ってからは初めて前年比で増加を示し≒インフレとなり、それが直近の2016年まで継続している。まさにデフレ脱却の兆しが確認できる。ただし直近年では前年から大きく落ち込みを示しており、インフレ政策の不足感を覚えさせる。

これ一つをとってみても、いわゆるリフレ派の予測は正しく、日本経済学の主流派といわれね人々の予測は完璧に間違っていることがはっきりしました。

これは、たまたま2014年、8%増税について掲載しましたが、その他のことについてもリフレ派の予測ばあたりますが、主流派経済学者らや、マスコミの予測など一度も当たったためしはありません。

一方金融緩和はどうなったか、といえば、高橋洋一氏が「金融政策は雇用政策」と語っていたので、以下に失業率のグラフを掲載します。


これは、劇的に改善しています。失業率が大幅に減っています。これは、2013年から日銀が金融緩和に転じて以来、かなり良くなっています。これらも、リフレ派の予測の通りでした。

私自身も、安倍総理と同じくリフレ派の言うことを信じています。私自身は、安倍総理が信じる前から、リフレ派の言うことを信じていました。

その理由は簡単です、安倍総理の語るように以前から、リフレ派の言うことは当たっていたからです。それ以外の人々の予測は当たっていなかったからです。

その時からリフレ派の書いた経済記事など読んで、参考にしたり、自分でもノーベル経済学賞受賞した経済学者のクルーグマン氏マクロ経済の書籍などを読んてある程度勉強もしたので、経済学者のように厳密にマクロ経済について理解しているわけではありませんが、それにしてもある程度の経済センスは身につけたと思います。

そうして、安倍総理がリフレ派になる前は、安倍氏はすでに過去の人と思っていました。実際このブロクでも過去の記事では「過去の人」と掲載しています。

しかし、あるときから安倍氏がリフレ派のようなことを言い出したので注目しだし、安倍政権が発足してからは、安倍政権を支持し、「過去の人」なる表現はやめました。

予測が当たる人の話を信用するというのは、当たり前のど真ん中の話であり、企業の中でも、予測があたる人の話を信用するのが普通だと思います。総理といえば、会社でいえば、経営者のようなものです。

以下経営学の大家ドラッカー氏の経営者の情報に関する心得などをまとめておきます。

現代では、自分達の仕事にとって真にカギとなる原点、かつ基本資源である情報を入手し、それを巧みにまとめる方法を学ぶのが企業経営です。さらに、その際に大事なこととして、データに詳しくなることと、情報に精通するのではなく、本当に自分にとって必要な情報を必要なとき必要な量を得る必要があります。

1つは、企業経営者としていかなる情報を必要とするか、もう1つは、自分個人としていかなる情報を必要とするか、です。

そうして、これらの問いに的確に答えるには、次の3つの点を真剣に考え抜かなければならないです。

第1点は、自分の職務とその本質は一体、何なのか、そして本来どうあるべきか。第2点は、自分が寄与貢献できるのは何であり、また何であるべきか。そして第3点は、自分の関わっている組織の基礎(ファンダメンタルズ)をつくる事柄は一体、何かです。

以上の3点に関する、それぞれ異なった型の情報が必要であり、それらを別個に、独自のコンセプトでもってバックアップしておかなければならないのです。

それには外部の情報、内部の情報、そして組織を超えた情報、この3つを押さえることが重要です。

さらには、組織としての成功も、自分個人としての成功も、すべてこの3問に的確に答え得るかにかかっていると言っても過言ではありません。

「単なるデータ」に詳しいことから、「本当に必要な情報」に詳しくなるためには、上記の3つの問いに十分答えられるようにすることが必要不可欠であり、21世紀のマネジメントの真のあり方だとして、ドラッカーは重視しています。

そうして、会社の内外の人々に自分は、あなたからいつどのタイミングでどのような情報が欲しいのかを普段から周知徹底しておく必要があります。これなしに情報は入ってきません。

政治家たるものは、このような情報の重要性を理解しなければ、つとまらないはずです。安倍総理は、自分個人としていかなる情報が必要かを考え抜き、リフレ派の情報も取り入れたということです。そうして、それは正しいことです。

しかし、未だにリフレ派というと、色眼鏡で見る人も多いですし、リフレ派に反対するという趣旨で、反対派が「金融緩和するとハイパーインフレになる」、「金融緩和すると国債が暴落する」、「金融緩和しても何も変わらない」、「金融緩和しても株価があがるだけで、一般人の生活は楽にならない」、「景気が良くなっても実質賃金が上がらない」、「雇用が改善しても生産性は上がっていない」、「近年エンゲル係数があがったのはアヘノミクスのせい」などなど、様々な難癖をつけてきましたが、これはすべて事実ではありませんでした。

経済のことに限らずまた、政治家や企業経営者に限らず、虚心坦懐に予測の当たる人の話を聴くという姿勢は失いたくないものです。そうでないと、間違ったことを平気で、もっともらしく語る大馬鹿詐欺師か、財務・日銀官僚の太鼓持ちになるだけです。


それは、元総理大臣だった鳩山氏のことをみていてもはっきりとわかります。それにしても、いわゆるリベラル・左派は、リフレ派の話などに全く耳を傾ける気配は全くありません。

このブログでも紹介したように、枝野氏の経済理論は、韓国で文在寅大統領によって、実行され、大失敗して、雇用が激減しました。本当に、予測の当たる人の話を聴けない人には困ったものです。

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2018年9月13日木曜日

アリババ創業者突然の引退宣言、中国共産党からの「身の危険」…企業家が次々逮捕・亡命―【私の論評】習近平がすぐに失脚すると見誤った馬会長の悲運(゚д゚)!

アリババ創業者突然の引退宣言、中国共産党からの「身の危険」…企業家が次々逮捕・亡命

プーチン露大統領(左)と、アリババ集団創業者の馬雲(ジャック・マー)会長(右)
写真はブログ管理人挿入

「そこに座ってロシアのお菓子を食べている若い方に質問したい。馬雲さん、あなたはまだ若いのに、なぜ引退するのか」

「大統領閣下、私は若くありません。昨日、ロシアで54歳の誕生日を迎えました。私は創業して19年間、一生懸命働いてきました。でも、もっと多くの好きなことをやりたいと思っています。例えば、教育や慈善事業です」

これは9月11日、ロシア・ウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」でのひとこま。フォーラムに参加した企業家の円卓会議に出席したプーチン大統領が進行を遮って、冒頭の発言を行ったのだ。大統領が質問をした相手は、中国電子商取引(EC)最大手、アリババ集団創業者の馬雲(ジャック・マー)会長だった。

馬氏は前日の10日にはロシア入りしていたのだが、その当日に「教師の日、おめでとう!」と題する声明を発表し、「1年後の来年9月10日に会長を辞任する」と電撃的に宣言したのである。このニュースは世界中を駆け巡り、多忙を極めるプーチン氏の耳に入り、大きな関心を抱いたであろうことは冒頭の質問でもわかる。質問された馬氏は、一瞬きょとんとした表情をしたというが、さすがに当意即妙の返事をするところは、大企業のトップらしい。

プーチン氏は「私は若くはない」との馬氏の返事を聞いて、「あなたは私よりも若い。私はすでに66歳」と切り返したのだが、「66歳の俺が大統領を務めているのに、俺よりも若いお前が、なぜ現役を退くのか」というのが正直な感想だろう。

プーチン氏と同じ疑問は、多くの人が抱いているのではないか。3万6000人もの従業員を抱え、時価総額4200億ドル(約46兆円)の巨大企業トップの座から簡単に降りることはできるのかという疑問は、誰でも感じるだろう。その答えは、馬氏の10日の声明にある。

「東方経済フォーラム」では他にもハプニングがあった・・・

ちなみに、重大発表を行うのに9月10日を選んだのには、3つの意味がある。

まず、馬氏がプーチン氏に答えたように、54歳の誕生日であり、19年前の1999年のこの日に、馬氏を含めて18人がアリババを立ち上げた。さらに、この日は中国の「教師節(教師の日)」でもあり、今後教育に取り組みたいとしている馬氏にとっては特別な日ともいえる。

「私は教育に戻りたい」

10日の声明によると、馬氏が会長職辞任を考えるようになったのは10年前だったという。

「誰であれ、永遠に会社の最高経営責任者(CEO)と会長の仕事を続けることは不可能だ。10年前、私はこの問題を自分に問いかけてみた。馬雲が辞めた後、アリババは依然として健全に発展していけるだろうか? (中略)こう考えて、この10年間、私は絶え間なく努力、実践してきた。(中略)5年前にCEOを譲ったあとも、これまで5年間、順調に推移してきた」

そして後継者の張勇CEOについて触れ、「張勇は卓越した商才と堅実で沈着冷静なリーダーシップを持つ」として、張勇氏がCEOとして13四半期連続で業績を伸ばし続け、2018年の中国で最高経営者の栄誉を受けたとして、張勇氏を後継者に指名することは「私が現在なさなければならない、もっとも正確な決定である」と結論づけている。

そのうえで、馬氏は「私は教育に戻りたいと思う。私が最もやりたいことをするのは、私を非常に興奮させ、この上もない幸福を感じさせるのである」として、最後に「私は皆さんに請け負うことができる。アリババは馬雲だけに属するものではないが、馬雲は永遠にアリババに属していることを――馬雲 2018年9月10日」と結んでいる。

このように読んでみると、「優秀な後継者ができたから、これまでやりたくてできなかった教育の道に戻りたい」ということに尽きるのではないか。

ちらつく中国共産党の影

いわば、馬氏らしからぬ「逃げ」という印象を受ける。というのも、このところ中国では有能な若手経営者が続々と職を追われているからだ。なかには“塀の中”に落ちた者もいる。彼らは例外なく、多かれ少なかれ党中枢の幹部と密接な関係を持っている。

例えば、中国最高指導者だったトウ小平の孫娘と結婚した安邦保険の呉小暉元会長は、のちに離婚したもののその関係を利用して同社を巨大化させた。呉氏は派手な海外投資でニューヨークの著名なホテルなどを買収していったが、いまや詐欺と職権乱用などの罪で懲役18年の実刑判決を受け、個人資産105億元(約1800億円)を没収された。

また、曾慶紅元国家副主席と親しいとされる政商の郭文貴氏は現在、米国に事実上の亡命状態だ。同じく曾氏と親密な関係にあった実業家の肖建華氏は香港の最高級ホテルのスィートルームに滞在中、何者かによって拉致され、中国大陸に連れていかれたと伝えられる。

また、逮捕などはされていないが、やはり海外のホテルなどを買収するなど多額の海外投資を展開してきた大連万達(ワンダ)グループ総帥の王健林会長は、傘下のホテルを売却するなど業績が急速に悪化している。“香港の超人”と呼ばれる李嘉誠長江実業会長もさきごろ引退した。さらに、アリババのライバルでEC第2位の京東集団の劉強東CEOが性犯罪の容疑で米国で起訴されたと伝えられる。一説にはハニートラップに引っかかったとの噂も出ている。

彼らは派手な海外投資で外貨を浪費しているなどとして、中国共産党当局から目をつけられていたとの情報も伝えられていただけに、同じように海外でのビジネスを拡大してきた馬氏も、身に危険を感じたとしても不思議ではない。

馬氏のバックには習近平国家主席が付いているとされる。習氏はかつてトップを務めた浙江省に赴任していたことがあり、浙江時代の腹心は多数、中央の幹部に取り立てられているが、いまや馬氏のアリババは国有企業を差し置いて、中国有数の企業に成長したことで、馬氏と習氏の関係が微妙になっているとも伝えられている。よって、今回の唐突な馬氏の「引退宣言」は、共産党一党独裁体制下の中国という特殊なビジネス環境が大きな原因となったことは間違いないところだろう。

企業家が政治家と癒着するとろくなことがないのは、資本主義国も同じだが、中国では政治家のコネがないと成長できないのは周知の事実であり、中国の企業家は常に危険と隣り合わせているといっても過言ではないだろう。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)

【私の論評】習近平がすぐに失脚すると見誤った馬会長の悲運(゚д゚)!

石平氏は、馬雲会長の引退について以下のようなツイートをしていました。

このツイートにある、香港紙とは英字新聞の"サウスチャイナ・モーニング・ポスト"のことです。この新聞は7月に、「中国共産党支配の正統性は好調な経済に支えられてきた。貿易戦争で経済危機が起これば、その正統性は確実に揺らぐ」とする上海の政治学者のコメントを引用し、米中貿易摩擦で効果的な手を打てない習氏は「体制発足後最大の試練を迎えた」と報じています。

この香港氏の報道にもあるように、中国では習近平体制をめぐり“異変”が起きているようです。国家主席の任期を撤廃し長期政権を可能にした今春以降、加速していた個人崇拝の動きに歯止めがかかっているようです。

2012年に発足してから最大の失点と目される貿易問題の影響が及んだ形のようです。先日もこのブログでお伝えしたように、8月上旬から開始された中国共産党の重要会議「北戴河(ほくたいが)会議」にも異変がありました。

これについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国急変!習氏“最側近”王氏、8月恒例の「北戴河会議」に姿なし…政策失敗の全責任を負わせ失脚か? ―【私の論評】日米リベラルの中国報道を鵜呑みにすれば末は時代に取り残された化石になる(゚д゚)!
中国の習近平国家主席。米中「貿易戦争」に頭が痛い=7月、南アフリカ・ヨハネスブルク
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、「北戴河(ほくたいが)会議」の異変に関連する部分のみ以下に引用します。
「北戴河に(チャイナセブンの1人)王滬寧(オウ・コネイ)の姿がない」「1カ月近く雲隠れしている」「失脚か?」「影響力を失った」などの内容が、反共産党系中国メディアから噴出している。
歴代中国共産党トップの理論的支柱を務めてきた
王滬寧氏。習近平思想も彼が骨格をつくりあげた。
序列5位の王氏は、「3つの代表」「科学的発展観」「中華民族の偉大なる復興」など、江沢民、胡錦濤、習近平という国家主席3代の重要理論の起草に関与し、中南海の“知恵袋”と言われてきた。第16回党大会(2002年11月)で中央委員入りし、党中央政策研究室主任に就いて16年、現在に至るまで、その地位を維持してきた。
だが、第2次習政権は、その王氏に一連の政策失敗の全責任を負わせ、習政権の“イメージ転換”を図るのだろうか?
海外の中国人ジャーナリストらの弁によれば、「鄧小平時代の『韜光養晦』(とうこうようかい=才能を隠して、内に力を蓄える)の時代とは一変し、習政権が傲慢に『見える』ことで、世界から不評を買ってしまった。その責任が彼(=王氏)にある」という論理だ。2月下旬に封切られた中国の自画自賛映画『すごいぞ、わが国』も4月に突如、上映禁止が報じられた。
習国家主席(党総書記)は3月の全国人民代表大会(国会に相当)で国家主席の任期を撤廃、23年以降の続投に道を開きました。

以後、党規約や憲法に明記された習氏の政治思想は全国の学校や職場での学習が推進され、習氏の著作はベストセラーになりまし。「習主席語録」も一部で出回るなど建国の父、毛沢東以来の個人崇拝が広がっていました。

こうした中、7月、屋内外の習氏の写真やポスターを即刻撤去するよう警察が指示したとする文書がインターネット上で拡散していました。同じく7月初めには、ある女性が上海市内で「独裁、暴政に反対する」と叫びながら、習氏の写真に墨汁をかける動画が公開されていました。

また、陝西(せんせい)省の政府系研究機関、社会科学院で同時期に、習氏の思想・業績を研究するプロジェクトが突然中止されました。同様のケースが相次いでいました。

党機関紙、人民日報の“変調”も指摘されいました。ちょうどその頃1面の見出しの中に習氏の名前が含まれていない日がたまにあることに、"サウスチャイナ・ポスト"が注目し、「単なる偶然ではない」と背景に関心を寄せ、上記のような報道をしたのです。

しかし、馬雲会長はそもそも当初から、習近平と対立していたわけではありませんし、どちらかといえば、習近平を擁護していました。

アリババが香港英字紙である"サウスチャイナ・モーニングポスト(南華早報)"を買収したのは、2015年12月11日のことでした。

サウスチャイナ・モーニングポストはイギリス占領時代の1903年に設立された英字新聞で、創設時はまだ清王朝時代だったため、「南清早報」という中国名を号していました。1912年に「中華民国」が誕生すると「南華早報」に改名し、現在に至っています。

中文版もあり、中英文ともウェブサイトがあります。

政治的立場としては、激しい中国政府批判はしないものの、やや民主的で、2014年の雨傘革命のときには「普通選挙」を支持する報道をしたこともあります。そのため中国の国家的ネット検閲機関である「防火長城(万里のファイヤーウォール、Great Fire Wall)」により中英文ウェブサイトとも完全に遮断されて、中国大陸のネット空間では見ることができなくなりました。

解禁されたのは2015年の9月になってからでした。しかしなお、「港澳台(香港、澳門、台湾)」に関する報道は大陸では封鎖されたままです。

香港の雨傘革命
そのサウスチャイナ・モーニングポストをアリババが買ったのです。

それは何を意味するものだったのでしょうか?

実は2015年6月にも、アリババは「第一財経日報」およびその系列のウェブサイトなどに対して、30%の株を取得して発言権を獲得していました。表面上は「ビッグデータ処理」など、ビジネスが目的だとしていましたが、実際は違うようです。

第一財経のウェブサイトが発信する情報は、中国政府を客観的にではありますが、ときには堂々と批判することもあり、とても中国大陸のウェブサイトとは思えないような大胆さがありました。

ということは、どうもアリババは「民主化的傾向のあるメディア」あるいは、ともすれば「中国政府を批判する可能性のあるメディア」を、次々と買収したり大株主になったりして、その発信内容をコントロールしようという意図があったようにみえます。

特にサウスチャイナ・モーニングポストは、2013年7月に馬雲をインタビューした記事を4日連続で掲載したことがあります。そのときアリババで起きた不祥事に関して責任問題を問うたとき、馬雲は「六四事件(天安門事件)のときにも鄧小平は国家最高の責任者として決断をしなければならなかった。あの決断(民主を叫ぶ若者を武力鎮圧したこと、筆者注)が正しかったように、最高責任者は毅然と決断をしなければならない」という趣旨の回答をしました。

この回答をサウスチャイナ・モーニングポストがウェブサイトに載せると、香港の若者たちが激しい抗議を発信し始め、またたく間に大陸のネット空間へと広がっていっきました。

馬雲は1964年に浙江省杭州市で生まれています。1982年に高校を卒業しましたが、大学受験で数学の点数が悪く(1回目の受験で1点、2回目の受験で19点)、大学受験に失敗。そこで三輪車で雑誌社の本を運ぶ仕事に就きました。その後杭州師範学院で英語と対外貿易を学び、訪米したことからインターネット・ビジネスに興味を持ようになりました。

1999年にアリババを立ち上げるや、爆発的な成功を収め、2000年には雑誌『フォーブス』の表紙を飾るに至りました。大陸にいる中国籍の中国人がフォーブスの表紙に載ったのは、中華人民共和国建国以来、初めてのできごとで、馬雲は一躍有名になりました。

Forbsの表紙を飾った馬雲会長

2002年から2007年まで浙江省の書記をしていた習近平は、「民間企業振興」に力を注ぎました。当然ながら、浙江省で成功した馬雲のアリババを重視していました。2007年から上海市書記になると上海市政府の指導層を引き連れて浙江省視察に出かけ馬雲に会い、「上海市に活動の拠点を移してくれないか」と頼んだほどです。

それくらい馬雲を高く評価していました。だから、国家主席になった後の海外訪問では、馬雲を大規模な企業集家代表団の筆頭として随行させることが多くなりました。たとえば2015年7月の韓国訪問で習近平国家主席がスピーチをした時には、馬雲は代表団の第一列目に並んで「中国を代表する企業」としての存在感を見せつけていました。

中国の経済力によって韓国を中国側に惹きつけておきたい習近平としては、『フォーブス』の表紙を何度か飾っている馬雲は、言うならば中国経済成功のシンボルのようなものだったのでしょう。

では、馬雲と習近平の仲が非常に順調に行っていたかというと、必ずしもそうではありませんでした。

実は2015年1月15日、習近平は中共中央紀律検査委員会第三回全体会議閉幕に当たって、「私人会所」の取締りを厳しくしろという指示を出しています。「私人会所」とはどういうことかというと、党や政府の組織でなく、私人が勝手に団体を作り、富豪のクラブのようなつながりで利益を追求していく行動を指しています。

胡錦濤政権時代、中央司令塔の事務方のトップだったような令計画が当時「西山会」を作って暴利をむさぼり逮捕されていました。

このとき馬雲が浙江省杭州市に作っていた「江南会」も調査の対象になることを、馬雲は事前にキャッチしていました。この「江南会」は2006年に浙江商人8人が発起人となって作った「会所」で、入会費20万元(約400万円)。厳格な入会審査があります。この江南会も西山会同様、捜査の対象になりそうだという情報が入ってきたのです。

2015年1月21日のダボス会議では、李克強首相に随行して、やはり李克強のスピーチの最前列に陣取っていた馬雲でしたが、演台から下りた李克強は、馬雲の顔を見ず、その隣に座っていた企業家代表から握手を始め、立ち去ってきました。

3日後の1月24日、中国国家工商総局はアリババが販売するネットショップ商品の62%以上が偽商品であると発表しました。あらゆるネットショップの中で、最低の評価を受けてしまいました。続けざま、1月28日に国家工商総局は初めて『アリババ集団に対する行政指導状況に関する白皮書(ホワイト・リポート)』(2014年)を刊行しました。

窮地に追いやられ危機を感じ取った馬雲は、変わり身早く、「江南会」を「湖畔大学」に変身させ、私立の「創業者のための大学(専科)」を設立しました。入学資格は3年以上創業経験があり、30人以上の規模の企業を経営していた者。2015年3月からの開校で、150人が受験し、30人が合格しました。学費は3年間で28万元(約500万円強)。

湖畔大学創設メンバーは、「江南会」創設メンバーの8人と同じだ。この8人の中に、2015年12月10日から連絡が取れず「消息不明」となった復星集団のCEO郭広昌がいます。郭広昌は、2015年11月に北海道上川管内占冠村にある星野リゾートトマムを買収したことで注目された人物です。

失踪した原因は、どうやら光明集団の元CEO王宗南と関連があるらしいとされました。王宗南は公金横領により上海市第二中級人民法院(地方裁判所)で判決を待つ身でしたが、審査過程で復星集団と便宜供与などに関する不正な利害関係があったことが判明しています。

郭広昌氏

馬雲も一歩まちがえれば危ないことになったかもしれません。

令計画が捕まり、「私人会所」が取り調べの対象となることを知った瞬間から、馬雲の機転はフル回転し始めたようです。

イノベーションに国運をかける習近平政権の泣き所を突いて「湖畔大学」を設立させただけでなく、北京政府にとって頭が痛い香港の民主化運動を抑えるためのメディアを買収してしまうという戦略に出たのです。

今年9月の習近平訪米のときに随行した馬雲は、経済フォーラムにおける講演の寸前に、26か所も講演原稿を修正して、「習近平国家主席を讃える文言」に変換させたと言われています。

さすが、創業1年で『フォーブス』の表紙を飾っただけのことはあります。

消息不明になった郭広昌のような目に遭わないよう、危機を回避する身変わりの速さを心得ていたようです。

2015年11月11日に、中国の独身者のためのネットショップフェアがあったが、大成功した馬雲に、李克強が祝電を送るという、こちらも変わり身の速さを見せていました。

このようなことから、馬雲の傘下にあるはずの"サウスチャイナ・モーニングポスト"なぜ、習近平指導部の失策を批判するような記事を掲載したのか今のところ謎です。

ここから先は、推測ですが、おそらく変わり身の早い馬雲氏は、様々な出来事から判断して、習近平はすぐにも失脚すると踏んだのではないかと思います。実際7月には、上記にも掲載したように、習近平周辺で様々な異変がありました。

習近平が失脚するとなると、上記のように習近平と近い関係を保ってきたことが今度は裏目に出ます。今度は、反習近平派の江沢民派などと、手を組まなければ、中国内ではうまく商売ができなくなります。

だから、まずは"サウスチャイナ・モーニングポスト"あたりで、習近平を批判させ、さらに様子を見て、徹底的に批判しようとしたのでしょう。そうして、なんとか半習近平派に取り入る機会をつくろうと画策したのでしょう。

しかし、習近平は意外にしぶとく、少なくともここ1年くらいは失脚することはありえないというのが実体なのでしょう。

ここを馬雲会長は、見誤ったのでしょう。そのため、習近平側からの報復を恐れて、はやばやと引退する旨を明らかにしたのでしょう。以前はこの変わり身の速さが、馬雲を救ったのでしょうが、今回はこれが災いしたようです。

中国では、政治と経済が不可分に結びついているので、馬雲会長を単純に批判することはできません。何しろ、中国では、時の政府とうまくつきあえなければ、発展することはあり得ないからです。馬雲会長のような行動をするのは当然といえば、当然です。

このブログでも以前から掲載しているように、中国は民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされおらず、これでは他国と自由貿易もままならないですし、中間層が多数輩出し、それらが自由に社会・経済活動をして富を築くというようなことはできません。

中国の社会構造がこれだけ、遅れていたのに、なぜ経済発展することができたかといえば、中国が他国に対して莫大な人口を抱える中国は、すぐにかなり経済発展するだろうという、幻想を振りまき他国から潤沢な投資を得て、それで盲滅法で巨額のインフラ整備などをしたためです。

しかし、インフラ整備だけでは、いずれ限界がきます。さらに社会構造が遅れた中国では、インフラ整備以外には、新たな産業を生み出すのは至難の業です。それは、現体制の中国では無理です。

今回のアリババ創業者突然の引退宣言は、そんな中国を象徴しているようにみえます。

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