2020年6月21日日曜日

自殺者の大幅減は、ウィズコロナ社会の希望だ!―【私の論評】コロナ後の社会は、意識高い系の人々の予測とは異なるものになる!(◎_◎;)

自殺者の大幅減は、ウィズコロナ社会の希望だ!

逆張りで「コロナはチャンス」と主張する人たち


コロナ禍の自粛ムードの中、どうにも気が滅入ったのは、この非常事態の中でもなお、力強くビジネスチャンスについて語る一部の人たちの存在だった。

「この危機をどう乗り越え、どうビジネスチャンスに変えるか。今はピンチだからこそ、逆にチャンスなのです!」

この人は本気で言っているんだろうか……。しばし、めまいに襲われた。

おそらくビジネスマンとして成功している人なのだろう、プロフィールには転社や起業の経歴がカタカナ満載で記されている。

世界中の人たちが自粛を余儀なくされ、それぞれの生き方や、働く意味について見つめ直しているであろうご時世においても、めざとくチャンスを探し、生き馬の目を抜くがごとく行動する、そんな人がきっとビジネスの分野では成功する。

その志向性を否定しようとは思わない。ただ、個人的には絶対に友達になれそうもないし、めまいとともに吐き気がする。

世の中には、頑張って生きたい人と、できれば頑張らずに生きたい人がいる。ひとりの人生の中にも、頑張りたい時期があれば、頑張りたくない時期もある。

メディアに出てくるタイプの人には、頑張って生きることを正しさと疑わない人が多い。だから、声も大きく響く。

でも、できれば頑張らずに生きていきたい人は、メディアに登場せず、声もほとんど聞こえない。だから注目もされず、時に社会の足を引っ張る害悪のような扱いさえ受ける。

「自殺者減少」が示唆するもの

自殺のニュースに目を向けたい。
<厚生労働省自殺対策推進室は5月12日、毎月発表している自殺者統計の4月末結果を発表した。自殺者は1455人と前年同期比で19.8%減少した。過去5年間では最も大きな減少幅だった。>
[Sustainable Japan/5月14日 https://sustainablejapan.jp/2020/05/14/japan-suicide/49463]
先日、今年4月の自殺者数が前年比で約20パーセントも減少したという、厚生労働省の発表が大きな話題になった。前年同月より359人少ない1455人だったという。

減少の理由は簡単に結論を出せるものではなく、1ヶ月のデータで語るのも危険だろうが、メディアには「テレワークや休校によって、出社や登校の人間関係のストレスが減ったことが原因ではないか」とする専門家の意見が多く掲載されている。

このニュースは、もっともっと、大きく論じられるべきだと思う。

たった1ヶ月で自殺者が359人も減った。大変な数である。まだしばらく統計を注視しないと議論しにくいのは確かだろうし、すぐに前年並みに戻る可能性もある。減った分だけ命が救われたわけではなく、自殺という行為が先延ばしになっただけかも知れない。

それでも現実に、多くの会社で出社を命じられなくなり、多くの学校で登校の必要がなくなったら、命を絶つ人間が大幅に減った。これは新型コロナの特効薬が見つかったのと同じくらい、希望のあふれるビッグニュースのはずだ。もし今後、自殺者数が戻ったとしても、なかったことにできるトピックではない。明るいニュースなのだ、これは。

ぼく自身、対人ストレスのつらさはわかっているつもりの側であり、だから、おひとり達人をめざしている。フリーライターをやっているのも、なるべく人と接しないで生きていくため。生涯独身なのも、ひとりぼっちの時間を守るためだ。

外出自粛令のおかげで何百人が自殺をせずに済んだのだとしたら、その表に出ない喜びや安堵の声を少しでも拡大してあげたい。

自殺者の多さは日本という国の闇である。2010年以降は減少傾向にあるとはいえ、2019年の自殺者は2万169人。新型コロナで亡くなった人より、まだ何十倍も多い。

コロナ対策が結果的に自殺対策として功を奏したのだとしたら、これほど喜ばしい副次効果はない。

しかし、世の中の流れを見ていると、この画期的な特効薬発見を重く受け止め、活かそうとしているようには思えない。

出社、登校。したくない人はしなくていい

テレワークを推し進めた会社がある一方、以前と変わらぬ出勤体制を課す会社は多い。学校もやがて平常スタイルに戻ってしまうだろう。

なぜ、今ここで「会社へ来るのがストレスの人は名乗り出てください。なるべく出社しないで済むようにするから」とか、「学校へ来るのがつらかったら休んでいいよ。来なくても勉強できるように授業のスタイルを変えるから」という動きが、この機会にもっと見えてこないのか。

たくさんの命が救われるかも知れないという希望の光がせっかく差したのに、なぜ急いで元に戻そうとするのか。経済を動かすか、社会不適合者の命を守るかの二択の話をしているわけではない。どっちも両立できる道だ。

対人ストレスの小さい人は以前同様、会社や学校の枠の中で人と接しながら頑張ればいい。

対人ストレスの大きい人はこの機会に、会社や学校の通常枠から外れても生きていけるような、社会の仕組みの再構築を訴えればいい。そんな生き方を認めてもらえばいい。

ある種の人間にとって、毎日の出社や登校は目の前でマスク無しで咳をされる以上の苦痛であり、それが死を選ぶ理由にもなるのだという現実を、もっと社会全体が受け止めて欲しい。


「会社に来たくなかったら、来なくていいよ」
「学校に行きたくなかったら、行かなくていいよ」
「頑張って生きるのがつらかったら、頑張らずに生きてもいいんだよ」

そう言ってあげるだけで救われる命が1ヶ月に300以上もあるのだとしたら、それを無視して以前と同じ業務形態や登校義務を課すのは、ただのヒトデナシのやることだと思う。ビジネスチャンスに目をギラつかせる人間を、誰もが崇拝しているわけではないのだから。

【私の論評】コロナ後の社会は、意識高い系の人々の予測とは異なるものになる!(◎_◎;)

自殺者数については、このブログでも度々掲載してきました。自殺者は、特に平成年間は3万人台を超えていました。しかし、安倍政権が誕生してから低下傾向にありました。低下傾向は、最近も続いていて、昨年はとうとう2万人台を切りました。

このブログでは、増税や金融引き締めなどの経済政策のまずさがその根底にあることを主張してしてきました。安倍政権では、二度も消費税増税がなされため、財政的には平成時代と同じく、緊縮財政が実施され、財政的には大失敗でした。ただし、金融緩和政策だけは、継続してされました。日本ではあまり理解しない人が多いですが、金融緩和政策は、雇用を改善します。

そのため、安倍政権においては、雇用は改善され続け、人手不足の状況になっていたことは事実です。これが、自殺者を減らず大きな一因になってきたことは事実です。ただ、それだけではないことも事実だと思います。

上の記事にも掲載されていたように、実際4月の統計では、前年同期比で19.8%減少しています。私自身は、昨年10月の消費税増税があり、個人消費が落ちみ、1月〜3月のGDPも落ち込み、それに加えコロナ禍もあったことから、自殺者が増える可能性もあるのではとの懸念を抱いていました。

しかし、その懸念は見事に払拭されました。これは、マクロ的には金融緩和政策が継続されてきたことにもよるでしょうが、そのほかにミクロ的には、テレワークや休校によって、出社や登校の人間関係のストレスが減ったことによるものかもしれません。

だとしたら素晴らしいことだと思います。これは、今後も分析してみないとはっきりはしませんが、それにしてもコロナ後の社会のあり方に大きなヒントを提供しているように思えます。

個人的には、あることを思い出してしまいました。それは、ある図書館司書の方のツイートです。

「学校が死ぬほどつらい子は図書館へいらっしゃい」。夏休みが明けるころに子どもの自殺が増える傾向があることから、神奈川県鎌倉市立の図書館の公式ツイッターが26日、こうつぶやいたのです。

つぶやいたのは、市中央図書館司書の河合真帆さん(44)。9月1日に子どもの自殺が突出して多いとの報道を読み、図書館学を学ぶ中で知ったことを思い出したそうです。

「自殺したくなったら図書館へ」。米国の図書館に貼られていたというポスターの文言です。図書館には問題解決のヒントや人生を支える何かがある。そんなメッセージでした。

利用者の秘密を守るのも、図書館の大事な原則です。子どもは学校に通報されると心配しているかもしれない。だから、「一日いても誰も何も言わないよ」と書き添えました。「一日だらだらしていても、誰も何も言わないから気軽においで。ただぼーっとするだけでもいいと伝えたい」

ツイッターは職員が誰でも書き込むことができ、河合さんは郷土史や観光の話題をこまめにつぶやくようにしているといいます。このつぶやきには、「あの頃の私に聞かせてあげたい」「感動した」などと、多くのコメントが寄せらました。

当時のこのツイートを読んだ私は、感動して「何と慈愛に満ちたツイートなのだろう」というコメントとともに、これをリツイートしたのを覚えています。

確かに、どうしても学校や、会社に行きたくない人が、行かなくても勉強できたら、仕事ができれば、素晴らしいことです。

コロナ後の社会は、意外とこのような変化をするかもしれません。ビジネスチャンスに目をギラつかせる人間が、社会の変化を正しく捉えているとは限りません。実際、中国からのインバウンドに目をぎらつかせいた人間の大失敗は、この度のコロナ禍により失敗出会ったことが明らかになったと思います。

私自身は、中国のインバウンドにばかり頼ることの危険性を従来から指摘してきました。中国はコロナ禍に限らず、元々カントリーリスクの高い国でしたし、昨年あたりでも、インバウンドよりも、日本国内では日本人の旅行客のほうがインバウドよりも、日本人旅行者のほうがはるかに多く消費をしていたという事実があります。

日本の観光地を良くしたいなら、まずは日本人の観光客を満足させるようにすべきであるというのが私の持論です。日本人の旅行客が大満足し、何度も訪れるようにすることが、日本の観光地の使命だと思います。その上で、外国の方々が多くいらしていただけるのであれば、それはありがたく受け入れれば良いのです。

それにして、コロナ禍でも、目をぎらつかせて、ビジネスを語る方々のいうように、コロナ後にパラダイムシフトは起こらないと思います。

それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
コロナ後の世界、「スペインかぜ」後に酷似する予感―【私の論評】社会は緩慢に変わるが、今こそ真の意味でのリーダーシップが必要とされる時代に(゚д゚)!

         1918年、ワシントンD.C.のウォルター・リード病院で
         インフルエンザ患者の脈を取る看護婦

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
コロナの後に世界は変わるのでしょうか。結論から言うと、劇的に社会が変わっていく、いわゆるパラダイムシフトは私は、起こらないと思います。

それどころか、人々が思ったいいる以上に元の社会に戻ろうとすると私は考えています。

それはなぜかというと、それが多くの人々のとって一番ラクだからです。社会は変化を求めているようですが、実際に、自分自身を変えていこうと思っている人がどれくらいいるでしょうか。

何か新しい取り組みを始めようと思っている人はそんなに多くはないのではないかと思います。変化を強要されているところは、致し方なく取り組んでいるのが現状だと思います。

コロナの終息後でも私自身も含めて多くの一般的な人たちの考え方は変わらないでしょう。

これを変えようと思う人はかなり意識が高いと思います。意識が高いという言い方は褒めているわけではなく、流行りにのっている部分もかなりあると思うのです。そういう意味です。これは、いわゆる意識高い系の方々には耳が痛いのではないかと思います。ただし、意識高い系とは、本当に意識が高い人という意味ではありません。そうではなく、意識が高いふりをしている人と言ってもよいかもしれません。

つまり、ほとんどの人にとってソーシャルディスタンスを継続させていったり、テレワークなどのデジタルな暮らし方にシフトしていくことは大変なことだと思います。何しろ、今でも家庭でのWIFI普及率は、思いの他低いことをある調査で知り、驚いたばかりです。あるいは、携帯電話は使用しているものの、パソコンの使用率も思いの他低いです。そのため、急激に社会が変化していくパラダイムシフトはおこらないと思います。

では、社会は元どおりになっていくのでしょうか。私自身は、変わらないところがあるように、変わるところがあるとも思っています。それはどこかと言うと、苦しんでも変えざると得ないという人たち。つまり主に経営者達の考え方です。私は、どちらかというとこちらに属しているのでよく分かります。
この内容、少し矛盾していると思われる方もいるかもしれません。しかし、矛盾しているわけではありません。私自身も含めて、多くの人は元の社会に戻るのが楽なのですが、経営者いうか、リーダー的立場の人は、自ら属する組織を変える責務を持つということです。

そうして、リーダーとはいっても、カリスマ性や部署間の調整をすることなどではなく真のリーダージップを発揮しなくてはないらなということです。そうして、リーダーシップの本質をこの記事では掲載しました。関心のある方は、この部分も是非読んでください。

そうして、この傾向はさらに続くということもこのブログで主張しました。その記事のリンクを掲載します。
自給自足型経済で“V字回復”日本の黄金時代到来へ! 高い衛生観念でコロナ感染・死者数抑え込みにも成功―【私の論評】今後も続く人手不足が、日本を根底から変える。普通の人が普通に努力すれば応分に報いられる時代がやってくる(゚д゚)!
     日本は強制力のない自粛要請でも感染拡大を
     抑え込んだ=5月9日、東京・原宿の竹下通り
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、中国で製造していたものを、ある程度日本で製造するようにすれば、過去の日本が自給自足型の経済で成功していように、令和日本は黄金期を迎えることを主張しました。

コロナ禍以前には、人手不足状況だったわけですから、今後日本の経済が回復し、中国で製造していたものを日本でも製造するようになれば、当然の事ながら、さらに人手不足となり、日本は経済的に発展するだけではなく、社会構造も良い方に変わっていくであろうと予測したわけです。

このような変化に気づかず、既存の路線で単にIT化が進んだり、社会的距離を重視する社会になると思うような人には、次の社会など予想できないでしょう。

今後の社会は人手不足があたり前になるのですから、人を単なる人と見るのではなく、個性のある個々人であることに想いが至らないような人は、社会の変化を見通すことなどできないでしょう。

今後の社会は、パラダイムシフトが起こるではなく、やれば良いに決まっているし、既にできることで、できていないことなどがどんどん実施されるようになっていくと思います。

その良い事例が、テレワークやオンライン授業です。さらに、いわゆる「いじめ」もなくす努力がなされていくでしょう。

EUの人々に日米でいう「いじめ,Bullying」とは何なのだと質問を受ける事がよくあります。いろいろ説明するのですが、なかなか理解してもらえません。

国が違っても、彼らのほとんどは「それは犯罪です」と言います。確かに、「いじめ」とは、学校や職場という閉鎖空間で行われているだけであって、その本質は軽い重いはあっても、全て「犯罪」です。

「犯罪」には犯罪に対する対処法が適用されて当然です。ドイツは、日本と全く異なる対象がなされています。例えば、高校の教師は、学校の外、例えば、町の通りで自分の教え子がタバコを吸っていたとしても、それを注意する必要はないそうです。学校の外では親が子供に対する責任を持っているからです。

また、「いじめ」などを執拗に繰り返す子供には、校長が家庭に向けて注意をうながす手紙を書くそうです。その手紙が三通になった場合は、その対象となった子供は自動的に退学になるそうです。

非常にシンプルです。何回も退学になるような子供は終いには、いずれの学校にも行けなくなるそうです。

日本では、学校や職場が場合によっては、まるで治外法権のようになっている場合もあるあります。これは早急に是正しなければならないです。また、米国では暴力が異常なレベルにまでなっています。

日米共に、もっとシンプルな方法で「いじめ」を根絶する必要がありますが、これも今後進めやすくなると思います。

これらのことは、基本的に人手不足であるほうが、変えやすくなります。そもそも、人を大事に扱おうとしない学校や職場には人が集まらなくなります。

こういうことを言うと、「いやAIが出てきて、人を駆逐するようになる」と言う人も居るかもしれません。いわゆるシンギュラリティーが起こって、機械が全部人にとって変わるなどと・・・・・。

そんなことはないことがラッダイト運動でもう私たちは、学んだのではありませんか。そうして、シンギュラリティー信奉者には、こう言いたいです。

「あなたは実際にAIのプログラムを書いたことがありますか?」と。少なくとも私は書いたことがあります。ただし、大昔のことですから、その当時は、今ではあまり使われてない言語で、ほんの初歩的なものでした。人で言えば、赤ちゃんが呟くようなものですが、それでもプログラムはプログラムです。今でも、原理的には変わりません。

ラッダイト運動で機械を打ち壊した労働者たちは、機械が発達した社会は、自分たちの時代の社会とあまり変わりないと考えていました。

しかし、機械やコンピューターが発展した現代は、その頃の社会とは全く異なります。

これからの社会は、中国などの特殊な社会は除き、今とは全く異なる社会となるでしょう。そこでは、今よりも、はるかに個々人のニーズやウォンツが満たされる社会となるでしょう。

そのような社会においては、無限の様々な新しいニーズが生じてくるはずです。その新しい新しいニーズに応えるためには、人間の思考は欠かせません。無論、その模索にもAIは大活躍することになるでしょうが、それにしても肝心要のところは人間が考えます。AIはその補佐をするにすぎません。

既存のニーズには、AIが最適な解を出すでしょう。しかし、新たなニーズに対する解は、人間が模索するしかないのです。模索して、プログラミング化できれば、後は、コンピュータと機械がそれを迅速に満たすことになるでしょう。

そうして、新しいニーズはその時代でもいくらでも出てくるのです。その時代には、自殺者の大幅減は、ウィズコロナ社会の希望かもしれないと気がつくような感性を持った人が、様々な分野で活躍するようになっていると思います。

コロナ禍で目をギラつかせて、「ビジネス、ビジネス」というような人は時代遅れになっているでしょう。本当に心の底から人のために役に立ちたい、人々の暮らしを良い方向に導いていきたいと考える人の時代になるでしょう。

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2020年6月20日土曜日

外国籍潜水艦 奄美大島周辺の接続水域を航行 中国海軍か— 【私の論評】中国潜水艦が発見できるうちは平和、できなくなったり日米潜水艦の行動が中国メディアに報道されるようなったら大変!(◎_◎;)


奄美大島

18日から20日にかけて、鹿児島県の奄美大島の周辺で、外国の潜水艦が、浮上しないまま日本の領海のすぐ外側にある接続水域を航行したのを海上自衛隊が確認しました。防衛省関係者によりますと、収集した情報から中国海軍の潜水艦とみられるということで、防衛省は、航行の目的を分析することにしています。

防衛省によりますと、18日午後、奄美大島の北東の接続水域を、外国の潜水艦1隻が、浮上しないまま西に向けて航行しているのを海上自衛隊の護衛艦と哨戒機が確認し、追尾にあたりました。

潜水艦は、20日午前までに接続水域を出て、東シナ海を西に向かって航行していることが確認されました。領海への侵入はなかったということです。

防衛省関係者によりますと、収集した情報から中国海軍の潜水艦とみられるということです。

外国の潜水艦が浮上しないまま接続水域で航行したのが確認されたのは、18年1月、中国の原子力潜水艦が、沖縄県の宮古島や尖閣諸島の沖合で航行して以来2年ぶりです。

潜水艦がほかの国の沖合を航行する場合、国際法上、領海内では浮上して国旗を掲げなければならないとされていますが、接続水域ではこうした定めはありません。

一方、防衛省関係者によりますと、今回、潜水艦は太平洋から東シナ海に向けて、奄美大島とトカラ列島の間の狭い海域を通過する形で航行していて、防衛省は、特異な動きだとして、航行の目的を分析することにしています。

河野防衛相“情報収集と警戒監視に万全を”

外国の潜水艦が、浮上しないまま日本の領海のすぐ外側にある接続水域を航行したのを海上自衛隊が確認したのを受け、河野防衛大臣は、防衛省、自衛隊に対し、緊張感をもって、情報収集と警戒監視に万全を期すよう指示しました。

おととしは中国海軍の原子力潜水艦

外国の潜水艦が日本の接続水域で浮上しないまま航行しているのが確認されたのは、平成30年1月以来、2年ぶりです。

おととしのケースでは、沖縄県の宮古島と尖閣諸島の沖合で中国海軍の原子力潜水艦が接続水域に入り、海上自衛隊の護衛艦と哨戒機が追尾しました。

また、平成25年と26年、28年にも、外国の潜水艦が接続水域で浮上しないまま航行しているのが確認されていて、防衛省関係者によりますと、収集した情報からいずれも中国海軍の潜水艦とみられています。

このほか、平成16年には、沖縄県の石垣島の周辺で中国の原子力潜水艦が日本の領海に侵入し、自衛隊法にもとづく海上警備行動が発令され、海上自衛隊の護衛艦と哨戒機が公海に出るまで追尾しました。

【私の論評】中国潜水艦が発見できるうちは平和、できなくなったり日米潜水艦の行動が中国メディアに報道されるようなったら大変!(◎_◎;)

今回の中国の潜水艦の行動は、あまり心配する必要はないと思います。なぜなら、その行動が把握されて、報道されているくらいですから、中国の潜水艦の行動は日本の自衛隊や米軍によって把握されているということです。

逆に中国の潜水艦の行動が全く報道されなくなったら、かなり危険と見るべきです。それは、中国の潜水艦が日米には探知できないほど、能力が向上したことを意味するからです。

そうして、日米の潜水艦は、中国付近の海域や南シナ海、東シナ海などで行動しているはずですが、それが全く中国で発表されないのは、中国側がこれを発見する能力がないからです。

今回の中国潜水艦の行動もおそらく、海自などにより詳細が分析されて、いずれ発表されるでしょう。

はっきり言いますが、中国潜水艦が日本の付近で隠密行動できずに、マスコミなどですぐに報道されてしまうということは、無様としか言いようがありません。

上の記事では、一昨年の中国潜水艦の行動について、掲載されていますが、これについて、その後かなり分析されています。

一昨年の2018 年1 月 10 日午後、宮古島東北東の接続水域で探知された潜航中の潜水 艦が北西進し、11 日午前、宮古島北北東の接続海域から出域、東シナ海に進 出、11 日午前再び尖閣諸島大正島の接続水域に進入しました。

11 日午後、潜航中の同潜水艦が大正島の北北東の接続海域から出域、12 日午後、前日、大正島の接続水域で潜航中だった同潜水艦が東シナ海で浮上 し国旗を掲げた、という事件について論評します。

これは、2018 年 1 月に発生した 093B 核潜水艦(SSN)が中国国旗を掲げて日中間で争いのある海域に出現した事件です。この事件で、 最も可能性のあるのは093B は日本に浮上を迫られたのです

093B 核潜水艦(SSN)


 そう解釈しなければ、このような浅い海域で最先進型戦略核動力攻撃潜水艦が 国旗を掲げて軽率に浮上したことの説明ができません。なぜか?どんな理由か? 主権を主張するためならば、国旗を掲げる潜水艦は通常型潜水艦で事足りはずです。 なぜ巡航ミサイルを搭載した SSN を使ったのでしょうか。

戦時であれば、093B はとうに撃沈されていた可能性があります。 この 093B は、出港時から米国の核潜水艦の追跡を受け ていた可能性があります。中国海軍の通常型、核動力型潜水艦は米国陸海空軍の追跡の重点対象 であり基地を出ると直ぐに追跡を開始したでしょう。

米国は日本に通報し、日本は水面下のソナーを使って位置を標定しました。そして潜水艦、水上艦を出動させ米海軍 と一緒に追跡しました。

この、米軍が通報したとの内容は、当時日本のメディアが広く報道しましたた。それでは 093B がなぜ浮上して、国旗を掲揚したのでしょうか。

 まず歴史と海軍作戦の常識を振り返ってみます。1994 年、1 艘の 091 型 SSN が米海軍によって探知されました。中国側の説によると、米軍は膨大なかずのソノブイを散布したそうです。 この種の状況が発生し た場合、潜水艦はエンジンを止めるのが最善の方法です。

そうしないとソナ ーによる情報が徹底的に記録されてしまいます。中国潜水艦の包囲は 3 日間続きました。潜水 艦は浮上しました。最終的に北海艦隊は J-6 戦闘機を派遣し対応しました。

軍事関係者の間周知ですが、平時であっても、海軍の潜水艦作戦は、水上艦の作戦とは異 なります。米ソの潜水艦は冷戦時代何度も水面下で遭遇し、ある時は衝突しました。

水上艦の目標は明確です。平時には、たとえ敵に発見されたとしても、脅威を与えることはあります。単に相互に監視し合うのみです。

潜水艦は異なります。敵意を持った潜水艦が米国海軍艦隊を追跡し、あるいは日本 と係争中の海域に進入した場合、日米はこの潜水艦を密接に追跡し或いは退路 を断ちます。大量のソノブイを散布し、様々な方式で所属国を明らかにして威 嚇します。

そうでなければ撃沈します。海上自衛隊は、かつて日本近海の排他的経 済水域に出現した疑いのある船舶に対して火力を用いました。これは北朝鮮の武装 船でした。

水面下の潜水艦は一旦発見され、敵意があ れば、威嚇され包囲されても合法なのです。これは、実戦でも証明されている事実です。

 1994 年、091 型と米軍空母は 3 日 3 晩対峙していました。もし米軍が水面下及び 水上で包囲、封鎖し、退路を断たなかったとすれば、091 は迅速に離脱できたはずです。理由はただ一つ:逃げられず、浮上するしかなかったのです。

平時に は浮上が最も安全です。浮上して航行することにより、水中の静音性の程度を騙す ことができます。しかしこれは敵にあらかじめ発見されたことであり、潜水艦部隊にとってこの ような状況は、本来最も避けなければならないことです。

戦時においては、潜水艦のいかなる行動においても、敵の面前で浮上するこ とは死を意味します。これは争いの余地はありません。過去においては、中国核潜水艦および通常型潜水艦が幾度か日中間で争いのある海域で、あるいは日本近海で浮上する 事件を起こしたのは、すべて浮上を迫られたからです。

2018 年1 月 の事件では、米軍は中国核潜水艦を威嚇したと見るべきです。

2004 年、091 型核潜水艦が日本の領海に侵入しました。この時は浮上しませんでした。 しかし日本は以下のように公表しました。

これは 091 型核動力潜水艦である。事件発 生後、直接北海艦隊の第一核潜水艦基地に戻った。潜航深度、航路、速度につ いて、日本側はすべて記録を公開しました。潜水艦発見の公表の中でこの種のものはまさに恥辱です。

戦時においては、091 は早期に撃沈されていたことを意味するからです。この事件後、 091 には徹底的な改良が加えられたことが分かっています。

2018 年1月の093Bの事件に戻ります。なぜ日本はこれを撃沈しなかったのでしょうか。軍事専門家によれば、まずは、撃沈の法的根拠が必要だということです。その後日本 は関連法律を整備しました。次に、撃沈した場合、核物質の処理をどうするという問題もありました。

中国が如何なる理由をこじつけようとも、中国の潜水艦は発見されたのです。しかも正確 な位置を確定され、追跡されたのです。これは何を意味するのでしょうか。

093B はなぜ国旗を掲げたのでしょうか。ある説によると、主権を主張するためである とするものもあります。しかし、最新型核潜水艦を浮上させ敵に安易と追跡させるように、国旗を掲げ、”主権を主 張”するようなことがあり得るでしょうか。

軍事常識では、 潜水艦のどのような行動も、絶対に敵に発見されず隠密にすべきです。特に公海上ではそうです。

中国潜水艦が国旗を掲げたのは2018年1月が最初ではありません。2003 年、1 艘の 035 通常型潜水艦が日本の鹿児島近海で国旗を掲げ浮上航行しました。日本の領海から 僅か 18KM しかありませんでした。

P-3C が 2 機、追跡監視しました。中国側は、035の行動 は通 常のパトロールであり主権を宣言するため国旗を掲げた、と堂々と主張しました。 本当にそうだったのでしょうか。中国海軍艦艇条例では、”国旗を掲げる”各種要 件を極めて明確に規定しています。しかし、「中国海軍将校ハンドブック」には、通常艦艇についての規定ありますが、”潜水艦が国旗を掲揚する”許可条件などありません。

これは、035 が国旗を掲揚したのは海軍上層部の直接命令か、あるいは艦長 の独自判断であることを意味しています。事後、艦長は処分されました。これは中国海軍 内部の人は皆知っている事件です。内部に通報した者がいます。

国旗を掲げた093B

これではっきりしたことがあります。国旗を掲げなかった場合、日本は 035 を威 嚇しそれを公表した可能性が極めて高いです。

この事件に関して、航空自衛隊の退役中将である織田邦男 はテレビである種の説明を行いました。以上述べた内容は、ほぼこの説に近いものでした。彼は、093B が浮上させられた、と認識していました。

今回の18日から20日にかけて、鹿児島県の奄美大島の周辺で、外国の潜水艦が、浮上しないまま日本の領海のすぐ外側にある接続水域を航行したという事件も、当然ながら、日本側がこの中国潜水艦の行動を把握していたということです。

発見されても浮上しなかったということでは、2004 年、091 型核潜水艦が日本の領海に侵入した時と同様です。当時は、上でも述べたように、撃沈の法的根拠はありませでした。その後日本 は関連法律を整備しました。ということは、今回は場合によっては、撃沈も可能だったということです。

ただし、撃沈した場合、核物質の処理をどうするという問題もあったのかもしれません。だから、敢えて撃沈はしなかったのかもしれません。

いずれ、この潜水艦が中国のどの潜水艦であるか、発表されることになるでしょう。18日から20日にかけての行動も明らかにされるかもしれません。これは、本当は中国にとっては、屈辱的なことなのです。

このように、中国潜水艦が発見できるうちは日本も平和維持できるでしょう。できなくなれば、日本平和は確実に脅かされることになります。

さらに、中国の潜水艦の行動が日本のメディアで報道されるように、日米の潜水艦の行動が中国メディアに報道されるようなったらこれも大変なことです。これは、中国側が日米の潜水艦が中国側に発見されていることを示すからです。

日米はもとより中国も含めて、世界中の国々の潜水艦は、隠密に行動しています。そのため、日本の潜水艦の行動も公表されることはありません。

しかし、日米の潜水艦は、東シナ海、南シナ海をかなり自由に航行しているのは間違い無いでしょう。当然、台湾海峡やひょっとすると黄海あたりも航行していると思います。

なぜこのようなことができるかといえば、日米が中国の潜水艦の行動を逐一把握できる、対潜哨戒能力を有しているとともに、日米の潜水艦はステルス性能が優れているため、中国の対潜哨戒能力では発見できないからです。

呉の潜水艦基地に向かう日本のそうりゅう型潜水艦

これが何を意味するかといえば、日米の潜水艦は、中国の潜水艦を含めて全ての艦艇を容易に撃沈できるのに対して、中国の潜水艦は日米の潜水艦や艦艇を容易に撃沈できないということです。

したがって、南シナ海や尖閣、台湾海峡で、中国が威嚇程度のことはできても、本格的に侵攻しようとした場合、全ての艦艇か撃沈される恐れがあり、しかもそれを防ぐことはできないということです。南シナ海については、これに反論もあるかもしれませんが、中国は環礁を埋め立て、軍事基地化するのに、サラミ戦術で何十年もかかっているという事実を忘れるべきではありません。

ルトワック氏のいうように、南シナ海の中国の軍事基地は、象徴的な意味しかなく、5分で吹き飛ばせるという発言も、このような背景があるのです。

この中国に対する優位性は、絶対に失うべきではありません。この優位を失えば、中国は海洋進出を本格化し、世界の海を我がものにすることでしょう。

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2020年6月19日金曜日

国家安全法で締め付けられる香港人の受け入れ— 【私の論評】香港市民が観光では日本を頻繁に訪れながら、移住となると豪英加・台湾になるのか、今一度真摯に考えてみるべき!(◎_◎;)

国家安全法で締め付けられる香港人の受け入れ

岡崎研究所

 中国は、香港国家安全法の適用を強行し、香港への締め付けを強化し、国際的約束である香港の一国二制度を葬り去ろうとしている。

 これに対し、トランプ大統領は5月29日、記者団を前にホワイトハウスで「香港には最早十分な自治はなく、返還以来我々が提供して来た特別な待遇に値しない」「中国は約束されていた“一国二制度”の方式を“一国一制度”で置き換えた」と述べ、「香港に異なる特別の待遇を与えている政策上の例外を撤廃するプロセス」を始めると言明した。これは、昨年成立した「香港民主主義・人権法」に基づく措置である。その他、トランプは中国の悪行を列挙し、「(中国寄りの)WHOとの関係を停止する」ことを含め、各種の対応策を講じることを予告した。


 香港に対する特別な待遇の撤廃は、犯罪人引渡、技術移転に対する輸出規制、ビザ、香港を中国とは別個の関税地域として取り扱うことなどに関係するとされるが、トランプは具体的詳細には踏み込まなかった。トランプは敵対的な調子で対中非難を展開したが、例によって、言いたいことを言っておいて、具体的詳細は中国の出方を測りつつ今後の検討に委ねるということのようである。対中輸入に発動している高関税を香港に適用するか否かの問題にも言及しなかった。

 香港に対する特別待遇の撤廃は強い副作用を伴うことになろう。香港住民の生き様を大きく害し、香港の金融センターとしての地位を損ない得る。2000社ある米国企業は撤退するかも知れない。資本も逃避するかも知れない。香港の価値が下がることによって世界は関心を失う。場合によっては、香港は自壊する。そのことは北京の思う壺かも知れない。仮に米国が、香港の自治の侵食に責任のある中国および香港の当局者に対する制裁を発動するとしても、それで中国の行動を抑止できる訳ではない。

 そこで、5月29日付けのウォールストリート・ジャーナルの社説‘Visas for Hong Kong’が提案するのが、希望する香港人を米国へ受け入れ、更には市民権を与えることである。香港国家安全法が施行されるに伴い、香港を脱出することを希望する人達は当然いるであろう。脱出するだけの財力ある人達の数は限られようが、多くは、まずは米国を目指すであろうから、米国は当然受け入れるべきである。

 逃避する香港人の自国受け入れについて、上記ウォールストリート・ジャーナル社説は中国に対する懲罰という捉え方をしているが、むしろ、自由と人権の擁護という理念に基づく行動、あるいは人道上の行動と捉える方が良いのではないか。5月28日、英国のラーブ外相は英国が一定の香港人を受け入れる用意のあることを表明したが、これも英国の旧宗主国としての立場を考慮して香港の人達を守る趣旨によるものと理解すべきであろう。ラーブは「中国が国家安全法を履行するに至るのであれば、香港の英国海外市民旅券(BNO passport)の所持者が英国に入国し、現行の6ヶ月ではなく、12ヶ月(更新可能)就労し就学することを認める、このことは将来的に市民権を得ることを可能にする」との趣旨を述べた。また、5月28日、台湾の蔡英文総統は、香港人を受け入れ支援する仕組みを整備したいと述べるとともに、過去1年香港からの移住者は41%増え5000人を超えていることを指摘している。

 日本への逃避を希望する香港人も、数は多くはないであろうが、出て来る可能性は十分予測できる。その場合、現在の入国管理制度でどうなるのかという問題があるかも知れないが、門前払いだけはすべきでない。むしろ、有能な人材の確保の観点を含め予め検討しておく必要があろう。 


【私の論評】香港市民が観光では日本を頻繁に訪れながら、移住となると豪英加・台湾になるのか、今一度真摯に考えてみるべき!(◎_◎;)

香港人の受け入れの話は、英国では昨年もありました。それについては、このブログでも取り上げたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載しました。
香港人に英国籍付与、英議員の提案は香港問題の流れをどう変えるか?―【私の論評】コモンウェルズの国々は、香港市民に国籍を付与せよ(゚д゚)!
英国国会議員、外交委員会委員長のトム・タジェンダット(Tom Tugendhat)氏

この記事は、2019年8月17日のものです。元記事は、立花 聡氏によるもので、以下のようなことが、掲載されていました。
「 英国国会議員、外交委員会委員長のトム・タジェンダット(Tom Tugendhat)氏は、1997年香港撤退(中国返還)の際に放置されてきた市民の国籍問題の解決を促し、英国籍付与の範囲を香港の中華系市民(ホンコン・チャイニーズ)にも及ぶべきだとし、英国が香港から引き上げた当時そうしなかったのは間違いであって、それを是正すべきだ(wrong that needs correcting)と主張した(8月13日付け英字紙デイリー・メール Online版)」。
なおこの記事には、立花 聡氏自身のコメントが寄せられていたのですが、最近はもっぱらツイッーを用いているので、コメントのほとんどはツイッターで寄せられるで、ブログに直接コメントが寄せられることは滅多になく、立花氏からのコメントがあったことに数ヶ月間も気づかず、比較的最近気づいたので、そのままになています。せっかく寄せていただいたのに、残念なことをしてしまいました。ここにお詫びいたします。(ただし、この記事も読んでいだければということになるとは思いますが・・・・)

この元記事を受けた形で、私自身は【私の論評】において、英国だけではなく、顧問ウェルズの国々も香港市民に国籍を付与すべきだと主張しました。

コモンウェルスの国々とは、イギリスの旧植民地の国々のことです。 地図で示すと以下の国々です。


これらの国々と英国は、今でも関係が深いですし、法体系なども似たところがあり、香港市民も全く縁もゆかりも無い国々よりは、移住しやすいと思います。

元々コモンウエルズとは、コモンウェルス(英: commonwealth)とは、公益を目的として組織された政治的コミュニティーを意味する用語です。歴史的には共和国の同義語として扱われてきましたが、原義としては哲学用語である「共通善 (英: common good)」を意味します。だからこそ、これらの国々が香港の人々を受け入れるべきと思ったのです。

かつてイギリスの植民地だった諸国との緩やかな連合体として「Commonwealth of Nations」が結成されており、その加盟国の中で現在もイギリスの君主を自国の君主元首)として戴く個々の国を「Commonwealth realm」(「レルム(realm)」の記事も参照)と呼びます。

米国でも、コモンウェルスを名乗っていないものの、バーモント州は、その州憲法の4箇所で「The Commonwealth」と自己言及しており、同様にデラウェア州も、州憲法で「当コモンウェルスの安全を脅かし得る手段を以って…」と自己言及しています。

これらコモンウェルズの国々と、米国のパーモント州や、デラウェア州なども香港の人々を受けいれる歴史的な根拠があるわけです。

日本にはこのような歴史的背景はないのですが、コロナ以前の香港人の日本訪問客はかなり多いです

コロナ直前の、2019年の年間訪問者数は、229万700人でした。これまで過去最高だった 2017 年 の223万1568人を超えました。年々、右肩上がりに上昇しており、2013年から約3倍ほど増えています。

香港の人口は、2018年で745.1万人ですから、この訪問客数は、かなりのものです。単純計算では、香港人の4人に1人以上は日本を訪れている計算になります。

もちろん単純に香港人の4人に1人が日本を訪れているというわけではなく、リピーターの数が多いことが見て取れます。日本政府観光局(JNTO)の調べによると、日本を訪れる香港人のうちリピーター率は82.1%でした。

訪日香港人人旅行者の消費額 は、2019年は約3,525億円。2013年時点では1,054億円程度だったため、数年で3倍以上に増加しています。

ちなみに、訪日香港人旅行者の都道府県別訪問率は以下の通りです。
1位:⼤阪府(33.3%)
2位:東京都(30.0%)
3位:千葉県(27.6%)
4位:京都府(20.2%)
5位:福岡県(11.2%)
出典:観光庁『訪日外国人消費動向調査(2018年版)』
最近の訪日香港人旅行者の傾向として、関西地方の人気が高く、大阪、京都、奈良へセットでまわる人が増えています。大阪はグルメやショッピング、京都は金閣寺、銀閣寺、清水寺など写真に収めたくなるような歴史の古いお寺巡りの人が多く訪れています。

リピーターが多いため、定番のスポットを巡るより、観光客があまり多くない穴場スポットへ行きたがる人が増えています。また、香港から日本までのLCCの路線が多く、東京や大阪など大都市だけではなく、九州や四国や中国地方の直行便もあります。

そのため、同じ場所へ旅行するより、いろいろな都市を制覇したがる傾向にあります。また、短期間で多くの観光地に行きたいという願望があります。さらに屋台文化のため、夜遊び好き。夜遅くまで営業している商業施設やドラッグストアの買い物が好きです。朝から夜遅くまで出かけて、時間を存分に使う人も少なくありません。

日本にこれだけ頻繁に訪れる香港の人々ですが、いざ移住ということになると、やはり
は豪英加ということになりそうです。台湾にも関心が高まっているそうです。

豪英加は、香港市民は、無論コモンウェルスの価値観を共有しているという側面があるのでしょう。それに、香港では、広東語と英語が公用語です。英語が公用語という豪英加は、魅力でしょう。

香港の人は広東語を話しますので、本当の中国語、北京語を理解しているか疑問に思う日本人が多いです。

また、台湾のことを違う国と考え、中国語と言ってもたぶん中国の中国語とは違う言葉を話していると思う日本人も少なくないでしょう。

実は北京語は香港でも台湾でも通じます。しかも香港と台湾だけでなく、マカオ、シンガポール、マレーシアでも通じます。香港は1997年に中国に帰還されてからすでに20年以上経ちました。

返還されてから中国語と中国史が必須科目になりましたので、今の香港の若い世代はもちろんのこと、非常に年配の方以外、ほとんどの世代の香港人は中国語を話せます。

ただ家族や友達同士での会話となるとやはり広東語が主流です。

台湾は香港よりもっと前、内戦後国民党が台湾に引っ越ししてから、中国語の普及教育が始まり、すでに70年位の歴史があります。

香港と違って、今はもはや家族、友達同士など身内でも中国語で会話している台湾人はとても多いです。

台湾の友人から聞いた話では、台南ではまだ家族で方言「台語」を使っている家庭はありますが、台北ではほとんどみんな中国語で会話しているとのことでした。

そうなると、台湾は香港人にとっては言葉も通じるし、文化的にも近いということで、魅力でしょう。

香港の人々にとって観光目的で日本に来るのと、日本に住むということでは、やはり隔たりが大きいのでしょう。

ただ、安倍晋三首相は11日の参院予算委員会で、香港の金融センターをはじめとする人材受け入れを推進する考えを表明しています。「香港を含め専門的、技術的分野の外国人材を受け入れてきた。引き続き積極的に推進する」と強調しました。自民党の片山さつき氏への答弁でした。

中国が香港への統制を強める「香港国家安全法」を巡り、片山氏は「香港の金融センターの人材を日本が受け入れるのも選択肢ではないか」と質問しました。

首相は「東京が金融面でも魅力あるビジネスの場であり続け、世界中から人材、情報、資金の集まる国際都市として発展を続けることは重要だ」と述べました。「金融センターとなるためには人材が集まることが不可欠だ」とも語りました。

英国のジョンソン首相は中国が香港国家安全法を撤回しない場合、香港の住民に英国の市民権を取得させる意向を示しています。香港情勢について首相は「日本としても深い憂慮を表明している。関係国とも連携し、適切に対応する」と強調しました。

英国ジョンソン首相

首相は新型コロナウイルスの感染拡大を受けてマスクや防護服などのサプライチェーン(供給網)を見直す意向も示しました。国民生活で必要な製品に関し「保健衛生、安全保障などの観点で、価格競争力だけに左右されない安定的な供給体制を構築する」と述べました。

中国を念頭に過度な依存を避ける考えを示したものです。「多角的な自由貿易体制の維持、発展が前提だ」とも語りました。

新型コロナの感染拡大を踏まえ、首相は「国難とも言える状況の中で様々な課題が浮かび上がった」と指摘しました。主要7カ国首脳会議(G7サミット)などの場を通じ「世界のあるべき姿について日本の考え方を提示し、新たな国際秩序の形成をリードする」と主張しました。

この言葉の通り、日本も新たな国際秩序の形成をリードできるようにしていただきたいものです。そのための指標として、香港の優秀な人材が日本を目指したくなるように、社会経済をレベルを上げていくべきです。経済的には日本は、今後大発展している可能性があることをこのブログでも掲載したとがあります。

香港市民がなぜ、観光では日本を頻繁に訪れながら、移住ということになると豪英加・台湾になるのか、今一度真摯に考えてみる必要がありそうです。これらの国々あって、日本にはない魅力とは何なのかを探る必要がありそうです。


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2020年6月18日木曜日

トランプ大統領「ウイグル人権法案」署名 中国反発必至の情勢— 【私の論評】「ウイグル人権法」は中共が主張するような内政干渉ではないし、国際法に違反でもなく前例もある!(◎_◎;)

トランプ大統領「ウイグル人権法案」署名 中国反発必至の情勢

トランプ米大統領=17日、ホワイトハウス

アメリカのトランプ大統領は、中国でウイグル族への人権侵害があるとして、これに関わった中国の当局者に制裁を科す「ウイグル人権法案」に署名し、法律が成立しました。

「ウイグル人権法」は、中国の新疆ウイグル自治区で、大勢のウイグル族の人たちが不当に拘束されているとして、アメリカ政府に対しウイグル族の人権侵害に関わった中国の当局者に制裁を科すよう求める内容で、先にアメリカ議会の上下両院で可決されていました。

これについて、トランプ大統領は17日、法案に署名し、「ウイグル人権法」が成立しました。

トランプ大統領を巡っては、元側近のボルトン前大統領補佐官が近く出版予定の著書のなかで中国の習近平国家主席に対し、ウイグル族を拘束する施設の建設を容認した疑いがあると記すなど中国国内の人権問題を軽視する姿勢が明らかになり、関心を集めています。

一方、アメリカでは新型コロナウイルスの感染拡大で中国への反発が広がっていて、トランプ大統領は、このところ秋の大統領選挙に向けて強硬姿勢を示しています。

ウイグル人権法について、中国政府は法律が成立すれば対抗措置を取る可能性を示唆していて、反発を強めるのは必至の情勢です。

中国外務省「内政干渉で強い憤慨」

アメリカのトランプ大統領が中国でウイグル族への人権侵害があるとして、これに関わった中国の当局者に制裁を科す「ウイグル人権法案」に署名したことについて、中国外務省は、声明を発表し「このいわゆる法案は、中国政府の新疆ウイグル自治区への政策に悪質な攻撃をし、中国の内政に乱暴に干渉するものだ。中国政府は強い憤慨と断固とした反対を表明する」と激しく反発しました。

そして、「アメリカが直ちに間違いを正すよう再度忠告する。さもなければ中国は必ず反撃し、生じるすべての結果はアメリカが完全に負わなければならない」として対抗措置を取ることも辞さない考えを示しました。


【私の論評】「ウイグル人権法」は中共が主張するような内政干渉ではないし、国際法に違反でもなく前例もある!(◎_◎;)

中国ではウイグルの建物や街が廃墟化され、文化、言語、信仰が破壊され、男性は収容所に送り込まれて労働させ、女性は中国男と強制結婚させらています。

民族浄化した末にウイグル文化園なるものを作り出して「文化の保存に尽力」とプロパガンダを打っています。このような悲惨な状況に終止符を打つためにも、ウイグル人権法の成立が待望されていました。

     両親が投獄され路上生活者となった男の子。寒さで凍死してしまった…
     中国によるウイグル族迫害をなぜマスゴミは報道しないのか?

トランプ氏がウイグル人権法案に署名。これで弾圧に関わった中国当局者の資産凍結やビザ発給停止が可能になります。180日以内に共産党幹部を含む関わった人物リスト作成 入国禁止、資産凍結、世界中の銀行口座廃止されます。習近平によるウイグル族に対する指示文書がリークされているので、習近平も対象になる可能性もあります。

トランプ大統領は、ハワイでの米中外相会議の会議中に、ウイグル人権法に署名成立させました。これは、無論意図的なことと考えられます。

中国外交トップが米国領ハワイへ出向いて会談しにへ行ったのはそもそも、習政権が追い詰められていることの証拠だと言えますが、会談の最中、トランプ大統領がウイグル人権法に署名、G7が香港国家安全法を「懸念」 する声明を出し、さらに中国を追い詰めたと言えます。

習近平の面子も、共産党の面子も丸潰れです。もう米国は中国の面子など気にせず、できるだけ潰して、恥をかかせ、意図的に怒らせ平静さを失わせ、徹底的に中国共産党を追い詰めようとしているようです。

日頃、人種差別や人権を叫ぶ文化人や芸能人が中国相手となると途端に大人しくなるの異常です。野党議員も声を上げるべきです。なぜ彼らは中国の人権弾圧とは闘わないのでしょうか。

もうすでに日本政府得意の「誠に遺憾」がこの世界で通用しないのは明らかになっています。日本もこの問題に関して腹をくくるべき時が来たようです。

中国外務省の華春瑩報道局長は10日の記者会見で、中国による香港への国家安全法導入方針に対して安倍晋三首相が先進7カ国(G7)による共同声明の発表を目指していると述べたことについて、「日本側に重大な懸念を表明した」と語り、日本政府に抗議したと明らかにしました。

中国外務省の華春瑩報道局長
華氏は、国家安全法の導入に関して「完全に中国内政に属し、いかなる外国も干渉する権利はない」と主張し、香港問題をめぐる国際社会の批判に反発しました。

安倍晋三首相は、G7で香港だけではなく、ウイグル問題も含めた、中共の人権侵害についても、G7で共同発表を実現して、日本の存在感を増すべきです。

中共は、人権に関わることで。米国などが何か行動を起こすと、その度に「内政干渉」として退けようとしてきました。しかし、それは中共の思い違いです。

世界には大小190余りの国があります。力の強い国、弱い国、豊かな国、貧しい国と様々です。これらの国が集まっているのが国際社会です。そこでは国同士が守らなければならない「きまり」があります。

それが国際法です。第二次世界大戦後にできた国際連合(国連)では、様々な国であっても、それぞれ独立して、互いに平等であること、自国のことはほかの国に干渉されないでその国が決めることを、すべての国連加盟国が守るべき原則として定めました。

この原則のために国際連合は、はじめのうちは、「内政干渉になる」ということを主張する国があったために、特定の国の人権問題に口出しできませんでした。これが変るきっかけになったのが、南アフリカの人種差別問題とパレスチナでの人権問題でした。

その後、いろいろの国の人権問題の現地調査などが行われるようになるにつれて、「特定の国の人権問題は、その国の内政問題ではあっても、国際社会の関心事でもあり国際連合がこれに関わることをさまたげられない」という考えが広く受け入れられるようになったのです。

この考えは、1993年オーストリアのウィーンで開かれた世界人権会議で採択されたウィーン宣言および行動計画で、「すべての人権の伸長及び保護は国際社会の正当な関心事項である。」と文書で確認されました。

今では特定の国の人権問題について意見を述べたり批判したりすることを「内政干渉である」と主張する国はありません。むしろ、そのような国は、自国に人権問題は存在しない、その国をおとしめるために嘘の情報を流していると、人権問題があるのを否定することにやっきになるのです。

国際連合は現在、世界の人権問題について積極的に討議し、調査し、報告を公表しています。簡潔にいえば、人権侵害の情報が根拠のある確かなものである限り、他国の人権に懸念を表明したり批判することは内政干渉とは考えられません。

さらに、今回のように米国が「ウイグル人権法」を定め、弾圧に関わった中国当局者の資産凍結やビザ発給停止することも、国際法的に見れば合法です。すでにこのようなことは、「ウイグル人権法」に比べれば、規模は遥かに小さいですが、「マグニツキー法」により、ロシアに対して実施されています。

「マグニツキー法」とは、ロシア人弁護士だったセルゲイ・マグニツキー氏が顧問をしていた英国人投資家が、ロシア国営企業の大規模不正を暴露した際に、代理人として逮捕されたマグニツキー氏が投資家に不利な証言を迫られたもののそれを拒否した結果、一年以上拘留されながら暴力を受け続け、結局2009年に獄中死したことに端を発します。

セルゲイ・マグニツキー氏 享年37歳

この事件には、ロシアの官僚たちも多数関わっていました。そのゴロツキ官僚たちが、マグニッキー氏を逮捕させ、勾留したのです。米国投資家らの運動により、「弁護士の死とロシアにおける人権侵害に関わった全ての者に制裁を科す」として2012年に成立したのが同法です。

人権侵害を行なった者への制裁の内容は、ビザ発給禁止や資産凍結などです。同法は、ロシアにとって極めて厄介である一方、自由や民主主義を標榜する米国にとっては、ロシア側に改善が見られない以上、その撤回は国家の威信をかけてできないのです。

当時ロシアは、グアンタナモ湾とアブグレイブに関与した11人のビザ発給を停止して、報復措置に出ました。しかし、ロシアに入国を拒否されても困ることはほとんどないので、これは報復としては弱いものでした。なお、米国人がロシアに資産を蓄えることなどは、滅多にないことなので、無論資産凍結などはやりようもありませんでした。

中共は、中国は「ウイグル人権法」に必ず反撃するとしていますが、「マグニッキー法」に報復したロシアのように、ほとんど何もできない可能性のほうが大きいです。

まずは、米中冷戦たけなわの現在、米国から中国に入国できなくなることは、さほど困ることはありません。いまは、コロナ禍もあり、そもそも行き来はできないし、将来的にも行けなくなること事態に関してさほど困ることないでしょう。

そうして、そもそも米国人大多数が、中国に資産を蓄えるなどの習慣はないし、中国の人民元は、事実上中国のドル保有が信用の裏付けとなっていることからも、中国が米国人の資産凍結などできません。

中共ができることとしては、中国国内にある米国企業や米国人に対する嫌がらせでしょうが、そんなことをすれば、ますます多くの企業が中国から逃げ出すことになるだけで、それは、中国の損失になるだけです。

中共は、ロシアと同じく、米国に報復するための有効な手立てはありません。それどころか、中共がウイグル弾圧をやめなければ、「マグニツキー法」に似たような法律が他の多くの先進国でも作られように、他の先進国でも「ウイグル人権法」に似たように法律が施行されることになるかもしれません。

日本も「誠に遺憾」と表明するばかりではなく、日本版「ウイグル人権法」を検討して、成立させるべきです。

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2020年6月17日水曜日

中国軍が尖閣奪取、詳細なシナリオが明らかに— 【私の論評】中国の尖閣奪取は、日本への侵略であり、侵略すれば攻撃してなきものにするだけ!(◎_◎;)

中国軍が尖閣奪取、詳細なシナリオが明らかに
ミサイル攻撃で使用不能になる那覇基地、米軍は動かない

護衛艦「こんごう」型(出典:海上自衛隊ホームページ

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)


 中国海軍は日本の海上自衛隊に対して戦闘能力面で大幅に優位に立ち、日本が尖閣諸島を奪取される危険が高まった──そんな衝撃的な調査報告書が米国の主要研究機関から公表された。

 日米同盟の危機が懸念されるなか、中国側は米軍を介入させずに尖閣を占拠するシナリオを具体的に作成しているという。日本の安全保障への切迫した危険の警告だといえよう。

日本に対して大幅な優位を獲得した中国海軍力

 ワシントンの大手安全保障研究機関「戦略予算評価センター(CSBA)」は5月中旬、「ドラゴン 対 太陽~日本の海洋パワーに対する中国の見解」と題する調査報告書を公表した。報告書は、同CSBA上級研究員で中国海洋戦略研究の権威トシ・ヨシハラ氏が中心となって作成した。

 トシ・ヨシハラ氏は米国海軍大学校の教授を長年務め、中国の海洋戦略研究では全米有数の権威とされる。トランプ政権にも近い立場にある。ヨシハラ氏は日系米人だが台湾育ちのため中国語が堪能で、今回の研究も中国側の言明や証言、発表に基づいている。

トシ・ヨシハラ氏

 報告書は「中国はこの5年ほどで海軍力を劇的に増強し、日本に対して大幅な優位を獲得した」と総括していた。報告書によると、中国人民解放軍の大規模な海軍増強は2010年ごろから始まり、習近平政権下のこの5年ほどで海軍艦艇の総トン数、性能、火力などが画期的に強化された。日本の海上自衛隊はこれまで、アジアの主要なパワーとして戦闘力や抑止力を保持してきたが、現在では確実に中国に後れをとっており、インド太平洋での重要なパワーシフトが起きているという。

 同報告書の内容は、ワシントンの他の研究機関の間でも議論の対象となり、一般のニュースメディアでも報じられた。日本でも海上自衛隊が同報告書の概要を内部資料として配布するとともに、その一部を海上自衛隊幹部学校のウェブサイトに掲載した。

「日本を屈服させることは容易になった」

 同報告書は中国側の研究や資料を基に、中国側が自国海軍の大増強をどうみて、日本への戦略をどう変えてきたかという点に焦点を合わせて考察していた。その結果として、以下の諸点を指摘する。

(1)中国は、尖閣諸島奪取でも東シナ海での覇権獲得でも日本を屈服させることは容易になったとみて、軍事力行使を抑制しないようになりつつある。

(2)中国は尖閣占領に関して日本側を敏速に圧倒して米軍に介入をさせない具体的な計画をすでに作成した。

(3)中国は日本との全面戦争をも想定し、その場合に中国側の各種ミサイルの威力で日本の防衛を崩壊させる自信を強めてきた。

 同報告書は、中国海軍力のこうした画期的な強化は日本や米国にとってきわめて危険な動きだと強調する。そのうえで、中国を抑止するための日本独自の海洋戦闘能力の強化や日米連携による海上防衛強化の具体策を提案していた。

尖閣諸島が占領されるまでのシナリオ

 これまで米国では、中国の海軍力を米海軍のそれと比較する研究はあったが、日本の海上自衛隊の戦闘力と比較する研究は少なかった。今回の報告書の大きな意味は、アジアでは最強水準とされた日本の海上自衛隊がいつのまにか中国海軍に完全に追い越されていたという現実を提示したことだろう。

 とくに象徴的な例として挙げられるのが、艦艇配備の垂直発射ミサイルシステム(VLS)である。中国海軍のVLSは2000年にはゼロだった。しかし2020年にはセル(発射口)数で2000基を超え、日本側の約1500基を大幅に上回った。

 ヨシハラ氏は、章明、金永明、廉德瑰ら中国政府系の学者や専門家の最近の論文などを引用して、中国が日本に対して海軍力で優位に立ったことで「自信と誇り」を強め、好戦的な対日戦略の傾向を増してきたことを指摘する。

 同報告書によると、中国は尖閣諸島への上陸強行による占拠作戦をすでに複数パターン準備している。その例証として、中国海軍公認の海軍雑誌「現代艦船」の最近号に、軍事専門家2人による尖閣奪取の詳細なシナリオが掲載されていたという。

 そのシナリオとは以下のような内容であった。

(1)日本の海上保安庁の船が、尖閣海域にいる中国海警の艦艇に銃撃を加え、負傷者が出る。すると、近くにいた中国海軍の056コルベット(江島型近海用護衛艦)が現場に急行し、日本側を攻撃し被害を与える。

(2)日中両国が尖閣を中心に戦闘態勢に入る。中国海軍空母の「遼寧」主体の機動部隊が宮古海峡を通過すると、尖閣防衛にあたろうとした日本側の部隊が追跡する。しかし、この機動部隊の動きは中国側の陽動作戦だった。

(3)日中の間で東シナ海での制空権争いが始まる。日本のE-2C早期警戒機とF-15が東シナ海上空で戦闘パトロールを始め、中国側が一方的に宣言した「防空識別圏」内に入り、中国のJ-20ステルス戦闘機と戦って撃墜される。

(4)中国軍のロケット軍と空軍が、日本の航空戦力主要基地である沖縄・那覇基地に巡航ミサイルの攻撃をかける。続いて中国軍は多数の弾道ミサイルを発射し、日本側のミサイル防衛システム「パトリオット」を無力化し、那覇基地を使用不能とする。中国側は周辺の制空権を24時間ほどで確保する。

(5)米国政府は日米安保条約を発動しない。大統領は、尖閣をめぐる日中紛争への全面介入は米国の利益に合致しないと判断する。ホワイトハウスは中国に対しておざなりの経済制裁の警告を発するが、それ以上には中国に対する行動はとらない。

(6)宮古海峡の西側で、日本と中国の海軍、空軍の部隊が激しく交戦する。中国側はフリゲート艦を撃沈され、艦隊をその海域から撤退させる。だが、中国側のJH7A戦闘爆撃機とSU30MKK多目的戦闘機が、尖閣に向けて上陸用部隊を運ぶ日本側の艦隊をみつけ、対艦巡航ミサイルで、こんごう型の誘導ミサイル装備護衛艦2隻を沈め、他の1隻を大破して、日本側の尖閣上陸作戦を阻む。

(7)米軍の偵察機が、日中両部隊の戦闘を遠距離から観察して、中国軍が攻めていない沖縄・嘉手納基地へ帰投する。中国は、嘉手納基地など沖縄の米軍基地には一切手を出さないことを米国に約束し、米軍不介入の言質を獲得していた。

(8)中国軍の上陸作戦艦隊を追尾していた日本側のそうりゅう型潜水艦が中国の対潜航空機に発見され、撃沈される。日本側は中国の尖閣上陸を必死で阻止しようと中国の沿岸警備用のコルベット艦1隻を沈めるが、大勢を変えられない。結局、戦闘開始から4日間で、尖閣諸島は中国人民解放軍に占拠されてしまう。

 こうして最終的に中国軍が日本の部隊を撃退して尖閣諸島を占領するわけだが、このシナリオでは、中国軍は嘉手納基地など米軍の部隊や施設には一切手を出さず、米軍も日中衝突には介入しない、という設定となっていた。

 同報告書は、中国がこのように尖閣奪取作戦を遂行する場合、米国が介入してこないだろうと想定することの危険性を指摘していた。中国の日本に対する軍事優位の確立は中国側にこんな想定さえも抱かせる、という警告である。

【私の論評】中国の尖閣奪取は、日本への侵略であり、侵略すれば攻撃してなきものにするだけ!(◎_◎;)

米経済誌フォーブス(電子版)は先月25日、米ワシントンのシンクタンク、戦略予算評価センター(CSBA)の最新リポートを引用し、「中国海軍は規模の上では日本の海上自衛隊を追い抜いているが、艦艇の平均サイズでは海自がリードしている。より重要なのは、有事の際に、海自は米国の支援を得られることだ」と報じています。

フォーブスの記事によると、中国はアジアをリードする海軍大国としてすでに日本を追い抜いているとしています。20年間の爆発的な成長を経て、中国海軍は現在、日本よりも多くの艦船とミサイルを保有しています。

上の記事にもあるように、CSBAのトシ・ヨシハラ氏は最新のリポートで、「アジアにおける海軍力のバランスは劇的に変化している。海洋大国としての中国の台頭は、西太平洋における日本の長年の地位を損ない、その過程でアジアにおける米国の地域戦略を弱体化させる可能性がある」と指摘しています。

リポートによると、上にもあるように、中国は1990年代後半から大規模で強力な軍事力の増強に見合うだけの経済成長を遂げました。一方、日本の経済はほとんど成長しておらず、軍事支出(防衛費)にも明らかな影響を与えています。

90年から2020年の間に、海自のコルベット、フリゲート、駆逐艦、巡洋艦、ヘリ空母の数は64隻から51隻に減少しました。一方、同時期に中国の同種の艦艇数は55隻から125隻にまで増加しています。




もちろん数だけでは全てを語れません。日本の艦艇の平均サイズは中国に比べてはるかに大きいです。サイズが大きければ大きいほど、海上に長くとどまることができ、戦闘での生存率が高くなります。

中国海軍は海自よりも多くのミサイルを配備することに成功しています。艦隊の垂直発射システム(VLS)のセル数は、艦隊の火力の量とほぼ一致しています。

日本列島はアジア太平洋の米軍に重要な基地を提供しており、これが西太平洋における米国の力の基盤となっています。有事の際に、米国は日本と一緒に戦うことになるでしょう。中国の尖閣奪取戦略は、あまりに自分たちに都合が良すぎます。

何やら、米国映画の戦闘シーンで、敵方のドイツ兵が、まるで打ってくださいといわんばりに、無防備でできて、米軍に易々とやられてしまうシーンを思い浮かべてしまいました。

言い換えれば、米国の海軍力を考慮に入れずに、日本と中国の実力を評価するのは不正確です。中国が約3300発、日本が約1600発のミサイルを配備できるのに対し、米国は1万発のミサイルを配備できます。

その約3分の2は米太平洋艦隊に属している。つまり、日米海洋同盟は、中国の3300発に対し、7600発のミサイルを配備できることになります。

それに、上でも示された戦略予算評価センター(CSBA)の最新リポートでは次のような分析もなされています。

中国の軍事兵器、機材の多くは完成品を入手して分解や解析を行い、その動作原理、構成要素や製造方法を明らかにする「リバースエンジニアリング方式」であるので、一般的に機器の信頼性が低いこと、艦艇やその装備品が最新鋭であっても乗組員の技量や練度について未知数であること、また戦力構成上対潜水艦戦能力があまり高くないことなど、いくつかの不安要素があります。

ただし、中国の政治指導部や海軍上層部が「攻撃的な戦略を採用したい欲望にかられていること」という状況は看過できないシグナルです。我が国としては、中国海軍の戦闘能力の正確な分析評価を行い、十分対応できる防衛力整備を行うとともに、堅固な日米同盟および価値観や理念をともにする台湾、豪州やインド等との連携も図りながら、中国が無謀な暴挙に走り出さぬよう、しっかり抑え込むべきです。

「超音速対艦ミサイルASM-3」の射程延伸型のものを、早く製造して大量に現場に配置することと、中国の対潜哨戒能力では、発見が難しい最新型潜水艦の隻数を増やすことや、F35の現場での運用訓練を早めに終えて、1日でも早く現場で活躍させるなど、やるべきことは山のようにあります。

それとともに、中国の戦意を喪失させることが最大の防御なります。人民解放軍の将官たちの戦意を挫くべきです。そもそも、尖閣は日本の領土であり、日中間には領土問題がないわけですがら、中国が尖閣を奪取しようとすることは、日本への侵略であり、侵略すれば、攻撃してなきものにするだけの話です。

このあたりは、政府はもっと単純に考え、中国に対する備えを固めるべきです。米国も尖閣が中国に奪取されそうになった場合、単純に考えて行動すべきです。

このブログでは台湾が中国に奪取されそうになった時の、米国のやり方を掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
習近平いよいよ「台湾潰し」へ…迎え撃つ蔡英文総統の「外交戦略」―【私の論評】中国が台湾武力奪取に動けば、急襲部隊は崩潰し、習近平の中国内での評判は地に堕ちる(゚д゚)!
米軍のF35A
中国の台湾急襲舞台は、当然のことながら航空機ならびに艦艇により派遣されると思います。それには、米国のステル性の高い航空機ならびに、潜水艦で隠密理に攻撃すれば、中国の台湾急襲部隊のほとんどが、崩潰することになります。

崩潰した後の中国台湾急襲部隊への追撃戦は、米国が行うことなく、台湾が実施すれば良いです。そうして、軍事力も強化しつつある昨今の台湾はこの追撃戦を首尾良くやり遂げるでしょう。中国にとっては屈辱的かもしれませんが、捕虜になる人民解放軍もかなりの数に登ることになるでしょう。

その後米国は、この軍事行動に関して、何も公表しなければ、台湾が独力で中国軍を粉砕したということになります。そうなると、台湾に軍事でも負けた習近平ということになり、国内でも習近平の評判は地に堕ちることにります。
中国が米国によるものだと批判しても、中国流に突っぱねれば良いのです。そもそも、中国は米軍攻撃の証拠を見つけることができないでしょう。
これと同じことを米軍は日本で実行すれば良いのです。ただし、日本の自衛隊は台湾の軍隊よりも、人員でも装備で優っていますから、米軍の出番はあまりないでしょう。

ただし、ここぞというときには、日米共同で、中国軍を徹底的に叩き、追撃戦は日本が行うことにします。

そうして、米軍はこの作戦に参加したことを発表しないようにします。そうなると、中国は日本に撃滅されたということになり、中国で習近平はもとより、中共の評判も地に墜ちることになります。

このような奇策も含めて、様々なシナリオを考えておき、いざというときには、中国を完膚なきまでに叩き潰すべきです。日本の領土尖閣などに野心を抱いたことを後悔させるべきです。

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2020年6月16日火曜日

陸上「イージス」配備断念!河野防衛相決断の真意は… 落下の危険性と高額コスト 識者「北に対抗するため日米で次世代システム開発も— 【私の論評】日本にとって合理的判断とは何か、憲法9条の改正を含め、国会でも大きな争点として議論すべき!(◎_◎;)


イージス・アショアの計画停止を発表した河野防衛相
日本の安全保障は大丈夫なのか-。河野太郎防衛相は15日、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を停止すると発表した。迎撃ミサイルのブースター(推進エンジン)が演習場外に落下する危険性を排除できないうえ、巨額のコストも問題となった。ただ、北朝鮮は30~40発の核弾頭を保有し、ミサイル技術も年々向上させている。計画が白紙となれば、日本は弾道ミサイル防衛(BMD)計画を根底から作り直さなければならない。迎撃ミサイルを共同開発してきた米国との同盟関係に影響はないのか。「次世代の迎撃システム」を日米で共同開発する案とは。複数の識者に聞いた。


 「イージス・アショアの配備は、防衛計画大綱にも明記している。とりあえずの『計画停止』だが、別の候補地が見つからなければ『中止』になりかねず、大変な話だ。自民事前の相談はなかった。機密保全に配慮したのだろうが、残念だ」

 自衛隊OBで「ヒゲの隊長」として知られる、自民党参院議員の佐藤正久前外務副大臣は、こう語った。

 イージス・アショアは、イージス艦と同様の高性能レーダーと、ミサイル発射装置で構成する地上配備型の弾道ミサイル迎撃システム。北朝鮮の弾道ミサイルへの対処を目的に導入が進められていた。陸地にあるため、イージス艦と比べて常時警戒が容易で、長期の洋上勤務が必要ないため部隊の負担軽減につながるとされた。

 ところが、日米で協議を進めるなかで、迎撃ミサイル発射後に分離されるブースターを海上や演習場内に落下させるには、ソフトウエアだけでなく、ハードウエアの改修が必要だと判明した。5月下旬には、10年以上の開発期間と、数千億円の費用がかかると分かり、「計画停止」もやむを得ないと判断した。

 河野氏は15日、「コストと配備時期に鑑みてプロセスを停止する」「当面はイージス艦でミサイル防衛体制を維持する」と記者団に説明した。

 安倍晋三首相には12日に報告し、了承を得たという。今後は国家安全保障会議(NSC)に報告したうえで、閣議で正式に計画停止を決定する方針。

 気になるのは、日本の安全保障体制だ。

 現在、日本の弾道ミサイル防衛は、海上自衛隊のイージス艦の迎撃ミサイルと、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の2段構えだ。これにイージス・アショアを加えて3段構えにする計画だった。

 北朝鮮は昨年13回、今年は4回の弾道ミサイルを発射した。従来型の液体燃料に比べて、機動性に優れる固体燃料を使ったミサイルの開発が進展しているうえ、発射後に軌道が変わるミサイルもあり、迎撃が困難になりつつある。核弾頭も着々と増やしている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は15日、北朝鮮の保有数は昨年の20~30発から30~40発に増加したと発表した。

 軍事ジャーナリストの井上和彦氏は「今回の計画停止で、『イージス・アショアが不要になった』と考えるべきではない。イージス・アショアのレーダーによる覆域の広さは、日本の防衛を考えるうえで重要な役割を果たす。日本としては依然として3段構えの弾道ミサイル防衛が必要だ。北朝鮮に備えるだけでなく、日本に弾頭ミサイルの照準を向けているとみられる、中国やロシアといった脅威に備える面にも注目すべきだ」と語る。

 評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「なぜ、このタイミングで発表したのか疑問だ。(ブースターの)問題点は、当初から言われていたことだ。北朝鮮がミサイルを発射する兆候もあるなか、世界に向けて『(日本の防衛は)穴だらけだ』と示したに等しい」と指摘する。

 日米同盟への影響も懸念される。

 潮氏は「日米間でイージス・アショアは契約済みだ。莫大(ばくだい)な解約料を払うか、THAAD(高高度防衛ミサイル)を代わりに購入するかという問題もある。計画停止を前向きにとらえ、中国やロシアの極超音速ミサイルや、北朝鮮の軌道が変わるミサイルに対処するため、日米で次世代の迎撃システムを共同開発することも考えられる」と語った。

 ミサイル防衛全体だけでなく、日本の防衛体制を見直す案もある。

 前出の佐藤氏は「イージス・アショアが計画停止となれば、イージス艦は日本海周辺などに張り付くしかなく、南西諸島の守りが手薄になりかねない。中国の軍事的台頭を考えれば、大きなマイナスだ」と指摘したうえで、続けた。

 「これまでは、『盾と矛』の『盾』の部分を強くしてきたが、これからは『矛』の能力、例えば、(専守防衛の範囲で)『敵基地攻撃能力』につなげる議論が出てくる可能性もある。『盾』についても、イージス・アショアや、数少ないPAC3に限らず、地対空ミサイル(中SAM)にも弾道迎撃ミサイル能力を持たせる議論があってもいい」

【私の論評】日本にとって合理的判断とは何か、憲法9条の改正を含め、国会でも大きな争点として議論すべき!(◎_◎;)

河野防衛相がイージスアショアの導入を停止したの悪いことではないと思います。ブースター落下が危険だからというわけではありません。自衛隊の戦力は防御に偏しておりこれ以上防御に大金をかけるよりは攻撃力を持つことに金をかけるべきだと思うからです。攻撃力を持たない軍は抑止力にならないです。

尖閣諸島が攻撃されている時に、防御システムイージスアショアがあっても、あまり意味をなさないからです、そのような時には攻撃力が必要だからです。

北朝鮮のミサイルに関しても、防御だけでこれを防ぐには、いくら金をかけても限界があります。そのようなことよりも、北朝鮮が日本にミサイルを発射することを未然に防ぐ先制攻撃能力を持つこととの方が、より経済的であり現実的であると考えられるからです。

2019年6月28日、米国の著名シンクタンク、ブルッキングス研究所が開催したシンポジウムで、ポール・セルヴァ米統合参謀本部副議長(当時)がミサイル防衛をめぐって注目の発言をしました。

ポール・セルヴァ米統合参謀本部副議長(当時)
日本ではほとんど報じられませんでしたが、ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(軍事と軍需産業情報に関する週刊誌であり、編集長はPeter Felstead)では大きなニュースにな離ました。米国軍制服組ナンバー2にあたる軍高官が、ミサイル防衛に対する旧来からの考えを変えるよう、聴衆に強く訴えたのです。

セルヴァ副議長は、この年の初めにロシアが公開した新型の地上発射型巡航ミサイル「9M729」への対抗措置として、ミサイル防衛の強化より、ロシア軍のキルチェーン(ミサイル先制打撃システム)を無力化するなど、もっと攻撃型のオプションを検討するよう訴ました。「攻撃は最大の防御なり」という古くからの格言を想起させる内容です。
その理由として、セルヴァ副議長は「(ミサイル迎撃という)命中撃墜型の対策では、どちらがより多くのミサイルを持っているかの数争いとなるため、常に攻撃側が有利になる」と述べた。

セルヴァ副議長は、ミサイル防衛システムでは「弓の矢をやっつけるか。あるいは、弓の射手をやっつけるか」という重要な問題に直面すると指摘した。

「迎撃システムにおいては、私たちは常に攻撃で立ち遅れる。なぜなら、その言葉の定義の通り、私たちは敵の行動にまず順応しなくてはいけないからだ。私が今、提案しているのは、このリンクを断ち切ることだ。つまり、(サイバー攻撃や電子戦で)敵の指揮統制システムやミサイル制御システムに入り込んだり、発射台そのものをターゲットにしたりすることだ」

さらに、セルヴァ副議長は、「ミサイル防衛の駆け引きでは、相手の一発目のパンチを受けても大丈夫なほどこちらは優れていなくてはならない。そして、(敵のミサイル発射位置を突き止めて)相手が二発目のパンチを出すのを防げるほど賢くなくてはいけない」とも述べました。

米軍のナンバー2がミサイル迎撃システムの限界をいち早く示す一方で、日本はイージス・アショアの導入を目指してきました。米国防総省が5月18日に発表した最新のデータによると、イージス・アショアに関する日本の米国との契約総額は既に32億3000万ドル(約3470億円)に膨らんでいます。

この契約はアメリカのFMS(対外有償軍事援助)を通じて結ばれています。日本の会計検査院はこれまでも、FMSを通じた契約額がアメリカの言い値になり、日本が不利益を被っていると指摘してきました。

イージス・アショアはそもそも北朝鮮の弾道ミサイル攻撃を念頭に、対抗手段として導入が進められてきました。しかし、その北朝鮮も弾道ミサイル以外にも次々と新型のミサイルを開発しています。

日本はこの際、3500億円近くの高い買い物を米国からするより、事前に相手国の基地などを攻撃する能力「敵基地攻撃能力」の保有を目指すべきです。政府は、この能力について憲法上は認められているが、専守防衛への配慮から政策判断として保有しないとし、実際に攻撃能力を持つ方針を示したことはありません。

とは言いながら、日本も攻撃型兵器について全く検討されてこなかったわけではありません。昨年3月19日に岩屋防衛大臣(当時)が定例記者会見で「超音速対艦ミサイルASM-3の射程延伸型を開発し、F-2戦闘機の後継となる新型戦闘機への搭載を視野に入れている」と説明しました。開発は完了済みで量産はまだ開始されていないASM-3を改良するという異例の方針でした。
私どもは近年、諸外国の艦艇に射程が長い対空火器の導入がどんどん進んでいることから、これに対応するためには、平成29年度に開発完了した空対艦誘導弾、ASM-3の更なる射程延伸を図るべく早期に研究開発に着手し、順次航空自衛隊に導入していくこととしております。出典:防衛省:防衛大臣記者会見 平成31年3月19日(09:39~10:05)
記者会見でASM-3射程延伸型の具体的な射程の数値は説明されませんでしたが、ASM-3の射程150~200kmを倍増する300~400kmを目指して搭載燃料を増加する改修を行うと推定されます。


また外国製の長距離巡航ミサイル取得と並行して進められる計画であるとも明言されています。取得する理由は仮想敵国の軍艦が搭載している艦対空ミサイルの射程が伸びてきたため、これを上回る長射程の対艦ミサイルを装備してスタンドオフ(相手の攻撃が届かないところ)攻撃を行う目的と説明されています。

防衛大臣の記者会見では言及されていませんでしたが、私の推定では「中国海軍の艦対空ミサイルが近い将来に米国製SM-6艦対空ミサイルと同様のデータリンクによる超水平線射撃能力を手にする」という重大な事態への対抗策として、自衛隊はこれに対するスタンドオフ攻撃を行える長距離対艦ミサイルを用意するのだと考えます。相手が古い装備のままなら自衛隊も古い装備のASM-2対艦ミサイルのままでスタンドオフ攻撃を行えますが、もうすぐそうではなくなるのです。

すでに取得が予定されている外国製の長距離巡航ミサイル「JASSM-ER」「LRASM」「JSM」と国産の「ASM-3射程延伸型」で決定的に異なるのは速力です。ASM-3はマッハ3を発揮できる超音速対艦ミサイルであり、この種類の対艦ミサイルは米軍も保有していません。

米軍の新型対艦ミサイルLRASMはマッハ1未満の亜音速で飛翔する遅い巡航ミサイルで、その代わりに射程は800km以上と長くなっています。ASM-3射程延伸型はLRASMと重量がほぼ同じくらいの1.1~1.2トン程度になると予想されますが、超音速飛行の燃費の悪さで射程は400kmが限界です。

亜音速の対艦ミサイルと超音速の対艦ミサイルではこのように性能に一長一短があります。1本あたりの取得費用は超音速型の方が数倍も高価になるので、ASM-3射程延伸型は特別な切り札的な存在として使われることになるでしょう。保有数の少ない貴重な対艦兵器として温存されることになるので、敵基地攻撃用の対地兵器への転用は現時点では全く考慮されていません。

そして当時の防衛大臣の記者会見でASM-3射程延伸型はF-2戦闘機の後継となる新型戦闘機への搭載を視野に入れていることが示唆されました。新型戦闘機が対艦攻撃の主力を担うことが初めて明確になったのです。

ただすでに取得予定の長距離巡航ミサイル「JASSM-ER」「LRASM」「JSM」を北朝鮮への敵基地攻撃に使うとは一言も説明していません。

実際に亜音速で飛翔する巡航ミサイルは1000kmも飛ぶと1時間以上掛かってしまい、敵の弾道ミサイル移動発射機が発射準備しているのを見付けてから攻撃しても間に合いません。亜音速の巡航ミサイルは弾道ミサイル阻止には全く役に立たないのです。

日本が長射程巡航ミサイルを取得する理由は防衛庁の説明通り、島嶼防衛で敵の対空兵器の射程圏外から発射できるスタンド・オフ攻撃を行う為です。

今後は、北朝鮮の核基地を迅速に発見し、これを叩く戦略をなるべく早く開発する必要があります。スタンド・オフ攻撃だけに拘らず、航空機にミサイルを搭載し、北朝鮮の近くまで運び発射するという手もあります。北朝鮮の防空システムは、数十年前のままであり、日本の航空機には全く歯が立ちません。

北朝鮮70周年軍事パレードでは超旧式複葉機
「An-2(アントノフ2)」の儀礼飛行も行われた

もし北朝鮮を本気で攻撃し北の核兵器を無力化するつもりであれば、空からだけでなく地上からの支援も必要です。地上に要員を配置して、ミサイルをレーザーなどで誘導しなければならないからです。

つまり「現場の兵士」が必要となるのであり、ミサイルの着弾後も、攻撃目標が間違いなく破壊されたかを確認する必要があります。ミサイルが着弾しても、爆発による煙やホコリが落ち着くまで写真撮影は不可能であり、破壊評価が遅れるので、現場の人員が必要になるのです。そのためには、北朝鮮内に何らかの方法で人員を予め侵入させておき、目標を把握しておかなければならないです。

このようなことは、現状の憲法や法律では、なかなかできないものも含まれています。しかし、イージスショアの配備を中止すれば、これらに対する財政的手当は十分にできます。

さらに、北朝鮮など相手国が日本への攻撃に着手した段階で日本は個別的自衛権行使が可能になるので、日本の攻撃に着手した敵基地への攻撃は専守防衛の範囲内ということになります。敵のミサイルが日本に着弾して被害が出てから行使可能ということではありません。

そうして、打撃力を保有していること自体がそれを行使しないまでも、抑止力につながります。中国、北朝鮮等からの高まる軍事的な脅威を踏まえ、日本にとって本当に合理的判断とは何なのでしょうか。憲法9条の改正を含め、国会でも大きな争点として議論すべきです。

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2020年6月15日月曜日

コロナで中国との蜜月、EU分断を招くイタリア— 【私の論評】イタリアが中国の傘下に入ることはないが、EU離脱可能性は捨てきれない!(◎_◎;)

岡崎研究所

 イタリアはEUの大国中、唯一中国の「一帯一路」の正式の署名国となり、中国からの投資を積極的に受け入れるなど、中国との関係を急速に深めている。問題はそれがイタリアのEU離れをもたらしていることである。


 これまでイタリアは、EU、特にドイツやオランダの北の諸国に批判的に見られてきた。2019年のイタリアの通貨危機に際し、ドイツやオランダはイタリアを財政支援することはイタリアの放漫財政のつけを勤勉な国が払うことになるとして反対した。そのことが、イタリアが中国との関係を緊密化する一方で、イタリアのEU離れの傾向を強めている1つの要因になっている。

 武漢発の新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大は、イタリアでEUで最初の爆発的増加をもたらした。それが中国離れをもたらすかと言えば、結果は逆であった。中国からもたらされた感染拡大でイタリアが困り、マスクや医療機器の不足への支援をEU諸国に求めると、支援の手を差し伸べたのは、フランスでもドイツでもなく、中国であった。感染拡大の時間のずれが、中国にそれを可能にさせた。

 5月24日付の英フィナンシャル・タイムス紙では、ウォルフガング・ミュンチャウ同紙副編集長が、イタリアの中国との関係緊密化で、EUの団結が次第に失われていると述べている。その中で紹介された世論調査の結果が興味深いので、以下に紹介する。

 イタリアの世論調査では、中国が最も友好的な国として挙げられ、ドイツが最も友好的でない国とのことであった。また、別の世論調査では、イタリア国民の中で、EU残留を望む者が44%、離脱を望む者が42%とのことである。EU残留を望む者のほうが若干多いが、2年前の同じ調査では、EU残留を望む者が65%、EU離脱を望む者が26%であったということなので、ほんの2年余りでイタリア世論は急速に離脱の方向に傾いていることになる。上記論説では、これらの数字は極めて警戒すべきものであると言っているが、EUの団結という見地からは当然の感想だろう。

 イタリアは、今回の新型コロナウィルスのパンデミックで甚大は被害を被った。6月6日現在のジョンズ・ホプキンス大学の統計によると、感染者数は、世界第7位で、23万4531人、死亡者数では世界第4位の3万3742人である。EU内では、感染者数ではスペインに次いで2位、死者数では1位である。もちろん、経済の損失も極めて大きかった。

 EUは域内のパンデミック被害対策の1つとして、EU共通の「コロナ債」の発行を検討したが、ドイツとオランダが拒否し、イタリアのコンテ首相は「この未曽有の困難に立ち向かえないなら、欧州という建物全体が存在理由を失う」と、強い不満を述べたと報じられた。

 その後、メルケル独首相とマクロン仏大統領が5000億ユーロの欧州コロナ復興基金を設立することで合意した。これはドイツが従来の立場をやわらげ、大きく譲歩したことを意味する。EUはこれでイタリアのEU懐疑に歯止めがかかることを期待しているようだが、上記フィナンシャル・タイムズ紙の論説は、イタリア支援としては不十分であると述べている。ドイツの思い切った方針転換も、イタリアから見れば‘too little, too late’ということか。

 イタリアの中国傾斜、EUに対する懐疑的な見方は今後とも続くと見てよい。イタリアが正式に EUから離脱することは考えられないが、EUの団結にひびが入るのは避けられないものと見られる。

【私の論評】イタリアが中国の傘下に入ることはないが、EU離脱可能性は捨てきれない!(◎_◎;)

上の記事を読んでいると、イタリアは経済的に追い詰められ、EU諸国の助けの手もなく、中国に飲み込まれそうな状況とも見えますが、現実的はそうとばかりとは言えないようです。あれだけの被害を被り、それが中国コロナの初期対応が間違っていたことが原因なのですから、当然と言えば当然でしょう。




「中国政府の新型コロナウイルスの隠蔽工作は全人類に対する犯罪だ」  

現在欧州ではイタリアの有力政治家によるこんな激しい糾弾の言葉が、欧米メディアで繰り返し報じられるようになっています。

中国の習近平政権が当初、新型コロナウイルスの感染拡大を隠し、感染の状況などについて虚偽の情報を流していたことに対しては米国でも多方面から非難が浴びせられています。

しかし「全人類への犯罪」という激しい表現はなかなか見当たらないです。なぜこれほど厳しく中国を糾弾しているのでしょうか。

この言葉を発したのは、イタリアの前副首相で右派有力政党「同盟」の党首(書記長)、マッテオ・サルビーニ氏です。サルビーニ氏はイタリア議会などで次のように発言しました。

「もし中国政府がコロナウイルスの感染について早くから知っていて、あえてそのことを公に知らせなかったとすれば、全人類に対する罪を犯したことになる」

「もし」という条件をつけてはいますが、中国政府がコロナウイルスの武漢での拡散を隠したことは周知の事実です。つまりサルビーニ氏は「全人類に対する罪を犯した」として明確に中国を攻撃しているのです。

4月から5月にかけ、サルビーニ氏は数回、同じ趣旨の中国非難を繰り返しました。議会で次のように述べたことも報道されています。

「中国は新型コロナウイルスのパンデミックを隠蔽することによって全人類への罪を犯した」

 サルビーニ氏は47歳のイタリア議会上院議員で、現在イタリア政界で最も注目を集める政治家の1人です。欧州議会議員を3期務めたあと、右派政党「同盟」を率いて2018年の総選挙で第三党となり、連立政権の副首相兼内相に就任しました。2019年9月には内閣を離れましたが、その後も活発な政治活動を展開してきました。

ジュセッペ・コンテ首相が率いる連立政権は中国への接近策をとってきましたが、サルビーニ氏は中国への接近を一貫して批判してきました。イタリアが中国の「一帯一路」構想に参加して、中国から技術者や学生、移民などを多数受け入れてきたことに対しても、サルビーニ氏の「同盟」は批判的でした。

新型コロナウイルスがイタリアで爆発的に感染拡大する直前の1月下旬、中国に帰って「春節」を過ごしたイタリア在住の中国人がイタリアに戻ってきました。「同盟」は、イタリアでの感染拡大を防ぐ水際対策として彼らの検査を行い、隔離することを提案しました。だがイタリア政府はその種の規制を一切行いませんでした。

その後、イタリアで悲劇的な感染爆発が起こり、全国民の封鎖状態が長く続きました。6月頭時点で、感染者は累計23万3000人を超えて世界第9位、死者は3万3000人を超え、世界第3位を記録しています。

だからこそ、元々、中国への接近に批判的だったサルビーニ氏が激しい言葉で中国政府を糾弾するのはもっともだと言えます。しかしそれでも中国政府に浴びせる「全人類への犯罪」という表現は過激です。


マッテオ・サルビーニ氏

米国や欧州の主要メディアは サルビーニ氏の発言を「中国への激しい怒り」の実例として報道するようにな離ました。米国の有力新聞ワシントン・ポストは、4月中旬の「中国に対して怒っているのはトランプ大統領だけではない」という見出しの記事で、サルビーニ発言を詳しく紹介していました。ヨーロッパでも、イタリアのメディアに加えてイギリスやフランスの新聞、テレビなどがその発言を伝えています。

ヨーロッパ諸国のなかでこれまで中国に対して最も友好的な政策をとってきたイタリアでこうした激しい中国糾弾の言葉が発せられ、広く報じられるという現実は、今後の国際社会で中国が置かれる厳しい状況を予測させるともいえそうです。

コンテ首相は、ユーロ圏の救済基金、欧州安定化メカニズム(ESM)に連動する最大360億ユーロ(約4兆3400億円)の信用枠提供を7月末までに申請する可能性があります。同国紙レプブリカが、情報源を明らかにせずに報じました。

同紙によれば、連立パートナーである反エスタブリッシュメント(既存勢力)政党「五つ星運動」は欧州連合(EU)の復興基金利用に反対していましたが、同党のディマイオ外相からコンテ首相は予備的な承認を得ました。イタリアは、スペインとポルトガルを含む他のEU加盟国と共にESM融資の申請を目指しているといいます。

グアルティエーリ経済財務相は13日遅くにイタリアの公共放送RAI3テレビとのインタビューで、ESM信用枠に関する決定前にまず、復興基金を巡る協議がまとまることをイタリア政府は望むと語りました。

EUの行政執行機関である欧州委員会は先月、実質的な復興基金となる総額7500億ユーロの経済再建策を提案。欧州委のフォンデアライエン委員長は、コンテ首相がローマで主催した非公開のフォーラムに寄せたビデオメッセージで、「次世代EUプラン」は「イタリアの絶好のチャンス」だと述べ、構造改革加速のために復興プランの活用を強く求めました。

欧州委のジェンティローニ委員(経済担当)も、反景気循環的なリセッション(景気後退)回避が支出プランの目的だとしながらも、 2兆4300億ユーロのイタリア債務を「確かな減少軌道」に最終的に乗せるはずだと主張しました。

イタリアでは昨年、ユーロに次ぐ事実上の「第2の通貨」を発行する構想が浮上していました。財政難にあえぐ伊政府が少額債券を発行し、民間企業への未払い金や市民への税還付などにあてる案です。

市中で流通すれば事実上の通貨とみなされ、欧州連合(EU)のルールに反する可能性が高いです。イタリアが財政ルールを逸脱しているとして制裁を検討中のEUはユーロの信頼を傷つけかねない事態に懸念を強めていました。

この構想はコンテ政権を支える極右「同盟」の発案で「ミニBOT」と呼ばれます。伊政府が発行する短期財務証券「BOT」のミニチュア版のイメージです。構想段階のため詳細は不明でしたが、欧州紙によると、満期はなく利子はないとしていました。1~500ユーロの少額債券を発行し、企業や市民に流通した後は納税や決済にも使えるとされ、通貨に近いです。

この案が浮上した背景には伊財政の悪化がありました。政府と取引のある伊企業には政府からの支払いが滞っているとの不満がたまっていました。同盟を率いるサルビーニ副首相は昨年6月18日「民間企業に支払う手段がほかにあれば検討するが、なければこの計画を推進する」と語りました。

しかし紙幣の形で発行すれば通貨とみなされるため、ユーロ採用国に他の通貨の発行を禁じるEU規定に違反します。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁はミニBOTが事実上の通貨であることから違法との認識を示していました。

ECBが発行するユーロと伊政府が発行するミニBOTの2種類の通貨が市中に出回るとどうなるでしょうか。企業や市民は信用力の高い通貨を持とうと銀行からユーロを引き出します。信用力の低いミニBOTは受け取りを拒否されるか、割引された価格で流通することになるでしょう。ユーロ不足が国全体に広がり、政府もユーロ建ての債券を償還できずに債務不履行に陥ることになります。この結果「将来のユーロ離脱につながる」(欧州系金融関係者)と懸念されていました。




伊政府内からは「新たな債務になる」(トリア経済・財務相)、「政府で議論していない」(コンテ首相)と異論が出ています。ミニBOTの発行には法整備などが必要で、すぐに実現するとの見方は多くないです。ただコンテ政権を支える与党の同盟に加え、左派「五つ星運動」はEU懐疑派であることから、将来的に実現しかねないと危惧する見方も増えつつあります。

EUルールを尊重しない伊政権の姿勢にEU側は疑念を募らせました。ただでさえイタリアの財政状況は深刻です。公的債務は国内総生産(GDP)比で132%で基準の60%を大きく上回ります。EUの欧州委員会は昨年6月5日、EU財政ルールに基づく制裁手続き入りが「正当化される」との報告書を公表。EU各国は7月に制裁手続きに入るかどうか判断することになっていました。

EU側はユーロ圏3位の大国との対立激化は望んでいません。EUで財政を担うモスコビシ欧州委員は「対話を続けたい」と述べ、伊政権の歩み寄りがあれば、制裁手続き入りは回避できるとの考えを示しました。ところが、政権内で力を持つサルビーニ氏の態度が軟化する兆しはみえませんでした。

結局ミニBOT関する議論は、昨年の夏以降は下火になっています。EUはこれに、断固として反対しています。もちろんトリア財務大臣、首相、共に政権を担う5つ星運動、そしてPDー民主党など野党からも反対の声が上がっています。

この政策を、強引に推し進めようとした姿勢から、谷原『同盟』は、ブレグジットの行方が定まらないまま、デリケートな空気が流れるEUを揺さぶりたいのか、あるいは本当に離脱を計画しているのかもしれません。

ただ、イタリアの中国傾斜は、一定の歯止めがかかり、中国に対する懐疑的な見方が拡大し、EUに対する懐疑的な見方は今後とも続くと見て良いでしょう。イタリアが正式に EUから離脱し、中国の傘下に入ることはなかなか考えられないですが、EUの団結にひびが入るのは避けられないものと見られる。

EUが中国に対抗して、イタリアなどをまともに救う手立てを講じれば、イタリアはEUにとどまり続けるでしょうが、そうでなければ、イタリアがEUを離脱する可能性は捨て切れないでしょう。

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