2022年12月24日土曜日

今こそ民主主義の「強さ」について語ろう―【私の論評】全体主義国家が、政府の一声で何でも短期間に成し遂げられると思い込むのは幻想に過ぎない(゚д゚)!

今こそ民主主義の「強さ」について語ろう

岡崎研究所


 12月1日付のワシントン・ポスト紙に、同紙コラムニストのファリード・ザカリアが、「民主主義の弱さについては、もう十分だ。その強さについて語ろう」と題する論説を書いている。

 過去2~3 カ月、我々は民主主義の脆さを心配してきた。米国、ブラジルからスウェーデン、イタリアまで、民主主義は挑戦に直面していると思えた。しかし事実はこれらのすべての事例で、選挙は最も非リベラルな勢力の多くをおとなしくさせる効果を持ち、少なくとも今は中道が勢力を維持した。一方、我々は、その間、世界最強の独裁国で、深い構造的弱さの証を見ている。

 最も衝撃的な例は中国である。抗議の異常な波が権力に対決している。問題の中心にはコロナ政策を変えようとしない中央政府がある。これは政策決定が閉鎖的で上意下達で説明責任がない独裁制に固有の問題である。

 ロシアでは、同じように閉鎖的で無反応な政策決定がどう破局につながるかを見た。プーチンの戦争の結果、ロシアは孤立し、貧乏になっている。プーチンは最近、予備役30万人を召集した。数十万のロシア人は祖国を離れた。目標もなくコストの高い戦争なので、常に反対がある。

 イランでは、国をイデオロギーで支配する神権専制政治が見られる。イランの統治エリートは、イスラムの原理的信条は執行されなければならないと信じている。    

 対称的に、自由民主主義は国民にイデオロギーを押し付けない。人間は自分自身の幸福のあり方を選択する自由を持ち、他の人もそうであるとの深い信条がある。

 米国は、個人の権利を保護し、指導部の定期的変更を可能にし、宗教的ヘゲモニー(覇権)を防止し、大きな変化に適応できるために十分に柔軟な構造を作り上げた。

 民主主義はそれなりに壊れやすいが、今はその強さを考えるいい時である。第二次世界大戦時の英国の首相チャーチルは、民主主義は最悪の政府の形態である、ただし他のすべての形態を除外すればとの信条を持っていたが、彼の正しさは証明済みである。

*   *   *

 このザカリアの論説は時宜を得た良い論説である。

 最近、論説が指摘するように独裁制(専制政治)と民主主義のどちらがより良いのかとの問題が論じられている。しかし、ザカリアは明確に民主主義の優れた点を指摘している。彼の論に賛成である。

 プラトンは哲人政治を理想とする考え方を打ち出したが、独裁者が哲人であれば、独裁もその効率性などを考えればメリットがある。が、独裁者が哲人や賢人である可能性は大きくはない。また、権力は腐敗するのも事実である。

 プーチンは、ウクライナへの侵略で誤算につぐ誤算を重ね、ロシアをダメな国にしているが、選挙を通じて彼を退陣させることは、操作可能なインターネット投票の活用などで選挙結果を歪めて平気なので、不可能であろう。プーチンは哲人や賢人からはほど遠い。

「中国式民主主義」は民主主義ではない

 習近平は今の中国には中国式の民主主義があると米中首脳会談で言ったようであるが、共産党支配の堅持が彼の政策の中で核心中の核心である。共産党員数は中国の人口の 1 割にも満たない。こういう支配を民主主義とは言わない。習近平は宣伝で自分への個人崇拝を進めているが、同時に中国にも民主主義があるなど、よくわからない言説である。米ソ冷戦の時代に、ソ連は共産党支配の国であったが、新民主主義、参加型民主主義を唱えていた。それを思い出す。

 イランについては、ヒジャブをかぶらずに韓国でのボルダリング競技に参加した女子選手の家を破壊するなど、そのやり方は常軌を逸している。

 プーチンや習近平やハメネイの独裁制が、米国によって作り出された人権を尊重し、平和的政権交代を組み込んだ民主主義よりも体制として劣ることに疑問の余地はない。この民主主義を時代の進展に合わせて、さらに改善することが重要であると思われる。

【私の論評】全体主義国家が、政府の一声で何でも短期間に成し遂げられると思い込むのは幻想に過ぎない(゚д゚)!

民主主義が全体主義より優れていることは、このブログでも何度か主張してきました。特に、高橋洋一氏の経済発展の度合いと民主主義の度合いとの間には、高い相関関係があることは、何度かこのブログで掲載してきました。

その記事の典型的なものの、リンクを以下に掲載します。
米中「新冷戦」が始まった…孤立した中国が「やがて没落する」と言える理由―【私の論評】中国政府の発表する昨年のGDP2.3%成長はファンタジー、絶対に信じてはならない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
開発経済学では「中所得国の罠」というのがしばしば話題になる。一種の経験則であるが、発展途上国が一定の中所得までは経済発展するが、その後は成長が鈍化し、なかなか高所得になれないのだ。ここで、中所得の国とは、一人あたりGDPが3000~10000ドルあたりの国をいうことが多い。

要するに、発展途上国が経済発展を目指し、政府主導て産業の近代化等をすすめると、確かに経済発展をするのですが、一人当たりのGDPが10000ドル前後に達するとそこから先はなかなか伸びないというのが「中所得国の罠」という経験則です。

例外はあります。たとえば、日本です。日本は、発展途上国から先進国に仲間入りしました。無論、随分前に一人あたりのGDPは10000ドルを超えています。

もう一つの例外はアルゼンチンです。アルゼンチンはかつて、先進国でした。「母を訪ねて3000里」という物語は、ご存知と思いますが、これはその当時先進国だったアルゼンチンに、イタリアの少年マルコが母を訪ねに行く物語です。


「母をたずねて三千里」は時代が1882年(明治15年)という設定です。 1882年、つまり19世紀後半のアルゼンチンがどんな様子だったかというと、スペインから独立を果たし、農業と畜産業で大いに栄え、ラテンアメリカ地域で最も繁栄した国になっていました。

当時のアルゼンチンは、一人あたりのGDPは現在価値に直せば10000ドルを超えており、先進国でした。

19世紀の欧州各国は、産業革命による工業化が進み急速に経済成長を遂げました。ところが、欧州においても経済成長の恩恵が行きわたらない地域が少なくなく、貧しさを克服できない人たちにとって産業革命は、新天地を求める動きをつくり出す「移民の時代」でもあったのです。

人口密度が高いヨーロッパで賃金があまり上昇しなかったのに対し、人口密度が低い新大陸では賃金が上昇しやすい傾向がありました。

マルコの父親は診療所を経営していたのですが、貧しい人を無料で診るなどしていたため借金がかさみました。そこで母親が高賃金を求めてアルゼンチンに渡ったというわけです。

産業革命そのものも「移民の時代」を後押ししました。航海の手段が、それまでの帆船から蒸気船にとって代わったからです。当時まだすべての面で蒸気船が帆船より優れていたわけはないですが、航行の確実性が間違いなく増し、人々の移動も貨物の運搬も飛躍的に進歩することになったのです。

ただ、このアルゼンチンは様々な不運が重なり、後に先進国から発展途上国になってしまいました。

そうして、発展途上国から先進国になったのは、世界で日本だけです。先進国から、発展途上国になった国はアルゼンチンだけです。

先進国になるのはそれだけ難しいことなのです。世界から先進国として認められるには、経済がある程度の規模がなければなりませんが、もう一つの条件は、民主化です。

さて、先の記事からまた引用します。
以上のG20の状況をまとめると、高所得国はもともとG7諸国とオーストラリアであった。それに1万ドルの壁を破った韓国、サウジ。残りは中所得国で、1万ドルの壁に跳ね返されたアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの6ヶ国、まだそれに至らないインドとインドネシア。それに1万ドルになったと思われる中国だ。

さらに、世界銀行のデータにより2000年以降20年間の一人当たりGDPの平均を算出し、上の民主主義指数を組み合わせてみると、面白い。中所得国の罠がきちんとデータにでている。

民主主義指数が6程度以下の国・地域は、一人当たりGDPは1万ドルにほとんど達しない。ただし、その例外が10ヶ国ある。その内訳は、カタール、UAEなどの産油国8ヶ国と、シンガポールと香港だ。

ここでシンガポールと香港の民主主義指数はそれぞれ、6.03と5.57だ。民主主義指数6というのは、メキシコなどと同じ程度で、民主主義国としてはギリギリだ。

もっとも、民主主義指数6を超えると、一人当たりGDPは民主主義度に応じて伸びる。一人当たりGDPが1万ドル超の国で、一人当たりGDPと民主主義指数の相関係数は0.71と高い。

さて、中国の一人当たりGDPはようやく1万ドル程度になったので、これからどうなるか。中国の民主主義指数は2.27なので、6にはほど遠く、今の程度のGDPを20年間も維持できる確率はかなり低い。
「民主主義指数」と「一人あたりのGDP」には明らかな相関関係があり、しかも相関係数は0.71であり、これは様々な条件が複雑らからみあっている社会現象の相関係数としてはかなり高い方の部類に入ります。

これをみると、民主化とは経済発展の前提条件であり、民主主義の強さを示すものといえます。なぜそうなるかといえば、民主化により星の数ほどの中間層が輩出され、それらが、自由に社会経済活動を実施して、あらゆる地域、あらゆる階層において、イノベーションを継続的に生み出すことができるからです。

そうして、民主主義の強さといえば、最近の中国のコロナ対策のあり方がそれを、さらに裏付けています。

中国で今、かつて低評価だった「日本のコロナ対策」の評価が高まっています。

厳しい「ゼロコロナ対策」が行われていた頃、中国の国民は政府の言う通りにせざるを得ない状況でしたし、そしてそれは、成功していたように見えました。中国は都市ロックダウンなど強固な措置を講じていったんコロナを抑えこみ、それによって経済活動が順調に再開できました。

当時、日本や欧米諸国が感染防止と経済活動のバランスに頭を抱えている姿を、中国は、「政府は寝そべって国民を見捨てている」とか「我々の宿題を丸写しさえできないのだ」などと冷ややかな目で見ていました。

「アメリカは高齢者を見殺した」「日本の第7波は医療崩壊、地獄」などの報道もたびたびありました。また、今年の8月には岸田首相が感染したことが中国で大々的に報道され、「一国の首相まで感染したのか?」と話題になりました。習近平国家主席からお見舞いの電報を送られたことも報じられました。

日本でも、中国のコロナ対策を評価する声もあちこちであがっていたことは、記憶に新しいです。

ところが、ここにきて中国政府は、一気に制限を緩和。現在の中国の人々は、ハーネスをつけられた犬の状態から、突然、ハーネスを外されたようなものです。「政府の方針」というハーネスに頼って行動していれば良かった状態から、急にハーネスなしで行動する、つまり「自らの判断」で行動しなければならない状態になってしまったのです。

そこで今、中国で改めて注目され、関心が高まっているのが日本のコロナ対策です。日本のコロナ対策を紹介する中国語の記事のアクセス数が急上昇している。

民主主義国である日本は、全体主義の中国政府のように厳しいコロナ対策ができません。その中で、「自由」と「感染予防」のバランスを考えながら、政府も国民も苦労しながらコロナ対策を実施してきました。

中国人からみれば、日本のコロナ政策はゆるい、事実上の放棄だとみえていたようです。しかし実際には、日本は経済活動を中止せず、国民には自由もあり、その間、国が緊急ベッドの確保や医療設備の増加など、医療崩壊しないようにいろいろな措置を取っていました。

これに加えて、特筆すべきは、安倍・菅両政権において日本政府は、合計100兆円の補正予算を組み、様々なコロナ対策を実施したことです。その中でも、雇用調整助成金という制度も用いて、コロナ蔓延中であっても、失業率が2%台で推移したことです。これは、まさに平時の失業率と言ってもよく、他国の失業率が同時期には鰻上り上がったことを考えれば、大成果といえます。

日本では、若年層の失業率も、コロナ蔓延期だけが特に上がったということもありませんでした。

以下に、中国の都市部の失業率のグラフをあげます。


中国では、特に若年の失業率が高いことがわかります。失業率は典型的な遅行指標であり、現状の失業率は半年前の経済政策による悪影響とみるべきです。5月の失業率は、昨年11月の経済対策によるものです。ということは、昨年11月の中国政府による経済対策は妥当なものではなかったということです。

菅政権においては、コロナワクチンの接種スピードを飛躍的にあげ、医療村の反発にあって、コロナ病床の増床はあまりできなかったものの、それでも結果的には医療崩壊を起こすことなく、収束することに成功しました。これは、大成果といえます。これが、今中国から評価されつつあるのです。評価しないのは、日本のマスコミと一部の野党です。

しかし同じ期間で中国が何をしたかといえば、ひたすら「ロックダウン」や、街ぐるみで数千万人ものPCR検査を行うことに財力や人力を費やしていました。もし、これらの予算で医療資源を充実させたり、医薬品を開発したりしていたら、今の状況にはならなかったでしょう。

結局、準備がまったくできていないのに政策を転換したこと、しかも段階的でなく、一気に転換したことが大きな問題です。中国でこれから重症者や死者が爆発的に増えていったとしても、それは無理のないことです。

中国では、今になって、日本のコロナ政策は悪いものではないと認識されたようです。中国人のほとんどは、政府の言う通りに従っていただけだったといえます。しかし、自由と感染リスクの兼ね合いがいかに難しいかを今頃思い知らされたようです。

日本のコロナ対策の中でも関心が高いのが高齢者への感染対策で、現在中国の政府関係者らや介護業界からの質問が集中しています。特に、日本の高齢者へのワクチン接種率の高さが注目されているようです。

結局のところ、民主主義体制においては、全体主義国家のように人々の自由を制限することはできないものの、「自由」と「感染予防」のバランスを考えながら、政府も国民も苦労しながらコロナ対策を実施し、中国のような全体主義よりは成果をあげているのです。

民主主義には自由の確保という前提があり、これは感染症対策には障害とみられていたのですが、「感染予防」のバランスを考えながら、政府も国民も苦労しながらコロナ対策を実施してきました。それが、結果として中国という全体主義の国家のコロナ対策よりも良い結果をもたらしているのです。

これは、民主主義の強さによるものと評価すべきです。そうして、この強さは、感染症対策だけではなく、先に述べたように経済の分野でも発揮されるでしょうし、社会のありとあらゆる面で発揮されると考えられます。

多くの社会問題なども、中国などの全体主義国家では、政府が号令をかけて、資金を提供して何かの方策を実施すれば、一見すぐに解決されてしまったようにみえても、時が経つと綻びがでてきて、どうしようもなくなり、実施をとりやめるか有名無実になり、その後大混乱に至るということになるのでしょう。

中国では、建国以来毎年数万、2012年あたりからは、10万件を超える暴動が起こっているともいわれているということがそれを示しています。これを中国は、ことごとく弾圧してきました。

ただ、中国のという国は、民族、言語、社会習慣も地域ごとに異なり、地域地域による特殊事情があるため、暴動は単発で起こることが多かったので、中国はこれを今までは弾圧することができました。 

しかし、先日の「白紙革命」は、バラバラだった中国国民がはじめ中共の「ゼロコロナ政策」に対する、恐怖と憎悪という念で一つにまとまって起こされた全国同時デモであり、これには中共も弾圧はできないと判断したのでしょう。だからこそ、今回は「ゼロコロナ政策」を緩和したとみられます。

一方民主主義の国々においては、社会問題の解決もいわゆる営利・非営利の組織である民間組織が実施し、最初はその解決は困難にみえ、いつまでたっても解消しないようにみえながら、ある民間組織が何とかそれに成功し、それが最適なものであると確認されれば、同じ社会問題を抱えている他の地域の民間組織がそれを参考にして、同じような社会問題を解決したり、大きな民間組織が全国的にそれを実施したり、場合によっては政府がそうした活動に資金を割り当てたりして、加速度的に進んでいくのです。これは、全体主義国家にはできないことです。

結局、国民一人ひとりの幸福を考えた場合、経済的にも社会的にも民主主義は全体主義に勝っているし、はるかに柔軟に対応できるのです。

これこそが民主主義の強みです。全体主義国家が、政府の一声でなんでも短期間に成し遂げるられると思い込むのは幻想に過ぎないのです。

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2022年12月23日金曜日

日銀がサプライズ利上げ決定 防衛増税と並ぶ誤った政策だ 「失われた20年」の再来になる―【私の論評】日銀黒田総裁は、財務省の日銀に対する非協調的姿勢に屈したか(゚д゚)!

日本の解き方


 日銀は20日の金融政策決定会合で、長期金利の上限を従来の0・25%程度から0・5%程度に引き上げることを決めた。事実上の利上げとなる。これを受けて株式市場は急落し、急速な円高が進んだ。

 決定会合前の17日には、岸田文雄政権が、日銀との共同声明を改定する方針を固めたと報じられていた。報道の中に、「日銀は2%の物価上昇目標に縛られて身動きできず、急激な円安と歴史的な物価高を誘発するなど、このところ、金利を極めて低い水準に抑え込む大規模な金融緩和の弊害が目立っている」という趣旨の文がある。ここに共同声明を改訂したい側の思惑が透けて見える。日銀の利上げはこうした動きを先取りしたものとみられる。

 円安は金融緩和の効果であるが、国内総生産(GDP)を伸ばすので日本経済には好都合だ。実際、法人企業統計で、経常利益が過去最高を記録している。円安で一部の業界が苦しくなるのは事実だが、政府が円安による最大の利益享受者なので、対策さえ施せば日本経済全体の問題にはならない。

 物価高というが、2桁程度上昇している諸外国に比べるとまだ楽な方だ。10月の消費者物価指数では、対前年同月比で総合が3・7%、生産食品を除く総合が3・6%、生鮮食品・エネルギーを除く総合が2・5%であるが、消費者物価を含む全体を示すGDPデフレーター(7~9月期)は、前年同期比0・3%下落とまだマイナスである。先進国の物価目標もほとんどが2%で、それらの国でも2%になったら直ちに金融引き締めするわけではない。金融政策の一般則として「ビハインド・ザ・カーブ」があり、金融引き締めはやや遅れて行うものだ。

 今回の利上げや共同声明の見直し論は、世界の標準的な金融政策からみてかなり的外れと言わざるを得ない。低金利を日本経済の弊害だと主張する一部の金融機関や、アベノミクスを失敗としたい一部の政治勢力、マスコミなどが後ろで糸を引いている可能性がある。

 防衛増税ではっきり国民に分かってしまったが、岸田政権は財務省の言いなりで財政緊縮路線だ。この財政緊縮路線と整合的なのは金融引き締め路線である。白川方明(まさあき)前総裁体制までは、日銀はひどい金融引き締め路線だった。

 筆者は、1990年代半ばから日本経済が低成長だったのは、90年頃のバブル後の間違った金融引き締めを間違っていないと言い張り、継続した結果だと思っている。

 それを裏付けるデータもある。バブルの前、日本のマネーの伸びはそこそこで経済成長も良かった。84~93年の統計数字をいえば、世界142カ国で相関係数0・94(1が最大)、日本は小さい順でマネーの伸びが26位、成長が25位だった。しかし、94~2013年は世界171カ国で相関係数が0・79、日本は小さい順でマネーの伸びが1位、成長1位だった。つまりマネーの伸びでも成長でも世界ビリになってしまった。

 岸田政権のマクロ政策は、増税路線といい、金融引き締めといい、まるで失われた20年の再来のようだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】日銀黒田総裁は、財務相の日銀に対する非協調的姿勢に屈したか(゚д゚)!

消費者物価指数が、今年4月以降、世界的な資源高を背景に前年比+2%を超える推移が続いていることで、日本国内でもインフレに関する議論が取り沙汰されています。その一方、もうひとつの重要な物価指標であるGDPデフレーターは、依然としてマイナス圏での推移となっており、二つの指標は大きく乖離しています(資料1)。両者の違いはなぜ生まれているのでしょうか?


GDPデフレーターは、名目GDPと実質GDPの比で表されます。GDPは国内で生産した付加価値の合計ですから、輸入は控除されます。これは、原油高のような海外発の価格上昇によって輸入額が増加した時、名目GDPが減少し、GDPデフレーターの押し下げ要因となることを意味します。

輸入価格の上昇が物価指標の押し下げ要因となることに違和感があるかもしれませんが、次のように考えることができます。すなわち、輸入価格上昇の一方で、輸入コスト増加分がすべて商品に価格転嫁されれば、最終的な消費額も増加するはずです。

そのため、輸入価格上昇によるマイナス分は相殺され、GDPデフレーターは不変となります。一方で、もし価格転嫁が不十分な場合には、GDPデフレーターは下落することになります(資料2)。こうしたことから、GDPデフレーターは「ホームメイド・インフレ(国内主導の物価上昇)を示す物価指標」と呼ばれます。


現在、世界的な資源価格高騰で輸入物価は大幅な上昇が続いており、消費者物価はこれを反映して上昇が続いています。一方で、GDPデフレーターはマイナスの推移が続いていることから、足元の物価基調は輸入インフレに留まり、国内における需給バランスの改善による自律的な物価上昇は実現していないことが読み取れます。

実際に、経産省が中小企業に向けて行った調査では、コスト上昇分の3割以下しか価格転嫁できていないとする企業が過半数をしめており、国内価格へ波及は十分に進んでいるとは言えません(資料3)。

景気が十分に回復していない中では、消費者の値上げに対する抵抗感も強く、国内企業の値上げ行動が難しいという課題の表れとも言えます。このように、物価の基調を正しく判断する上ではGDPデフレーターに注目することが重要です。


上の高橋洋一氏が指摘するように、消費者物価を含む全体を示すGDPデフレーター(第2四半期:7~9月期)は、前年同期比0・3%下落とまだマイナスです。

先進国の物価目標もほとんどが2%で、それらの国でも2%になったら直ちに金融引き締めするわけではありません。金融政策の一般則として「ビハインド・ザ・カーブ」があり、金融引き締めはやや遅れて行うものということを考えると、今回の日銀黒田総裁の事実上の利上げは、やや拙速だったと考えられます。少なくとも、GDPデフレーターがプラスに転じてから、実施すべきであったと考えられます。

このブログでも以前掲載したように、通貨安は「近隣窮乏化策」とも呼ばれるように、通貨安の国だけのGDPを上げる効果があります。日本も例外ではなく、円安は日本経済全体のGDP押し上げ要因だったのですが、円高になったので、株価が急落したのは当然といえば当然です。

円安で企業の経常利益は過去最高となっており、円高が景気悪化につながることになるでしょう。生産拠点の国内回帰の動きにも冷や水を浴びせかねないです。

長期金利の上限を0.5%に引き上げた決定について日銀は、国債市場のゆがみを取り除くためで、金融引き締めではないと説明しています。

日銀としては、これまで10年物国債のゼロ金利誘導政策(+-0.25%は許容)を長年続けて来た結果、利回り曲線が10年の所で凹み、歪んでしまいました。そこで10年物の許容範囲を+-0.5%に拡大し、同時に、10年物以外も買いオペし、利回り曲線全体を下げようとしているのでしょう。

これは、イールドカーブ・コントロールの一環であると考えられます。しかし日銀の理屈は分かりにくく、実質的な利上げと言われても仕方ないです。市場の圧力に押されたと受け止められれば、今後さらなる修正を見込んだ催促相場につながる懸念があります。

今回の決定は唐突な印象が否めず、黒田東彦総裁の記者会見を聞いても、なぜこのタイミングなのか判然としません。株価は大幅に下落し、円相場も急騰するなど、市場に大きなインパクトをもたらした。日銀の決定が本当に市場の安定に寄与するのかこれから見極めていくことになりますが、いずれにしても、日銀には金融政策運営で丁寧な説明が求められます。

特になぜこのような、理解しにくい、イールドカーブコントロールをしなければならないのか、もっと説明すべきでしょう。問題の根源の奥の奥には財務省の日銀に対する非協調的な姿勢があること、緊縮姿勢があり、国債を発行しなことなどがあることなども説明すべきと思います。ただは、これは 財務省出身の黒田総裁には難しいことなのかもしれません。

今後、マイナス金利政策や長期金利目標のさらなる見直しが行われる可能性はあります。ただ、その大前提となるのは2%の物価目標を安定的に達成できる見通しが描けることです。達成できていない以上、これまでの緩和策を続けるべきでした。

今後、住宅ローンの金利も上昇し、企業が融資を受ける条件も厳しくなるでしょう。一方で、銀行など金融機関の経営には恩恵が大きいです。今回の事実上の利上げは、雇用、GDPなどマクロ経済よりも金融機関を優遇した政策です。

いずれにしても、市場から見れば、従来の発言を翻した「黒田の乱」といえます。しかし、これだけの政策方向の転換について、黒田総裁だけの独断とも考えにくいです。岸田文雄首相の了解があったと考えるのが自然です。

岸田政権は、防衛費増に対して、防衛増税を打ち出しました。あまりに唐突であったので防衛増税については自民党内でも反対が多いです。しかし、自民党税調の税制改正大綱には書きこまれました。

結局、岸田政権は、財務省の言いなりで無理筋の防衛増税を押し込みました。このブログでは増税なしで防衛費を捻出することも出来ることを主張しましたが、にもかかわらず岸田首相はあえて選びました。

マクロ経済からみれば、増税も利上げも経済に悪影響しかありません。今のタイミングでやることではありません。おそらく、黒田日銀総裁も、増税をする岸田政権を陽動作戦で側方支援しているのではないかと思います。

黒田日銀総裁は元財務官僚で税畑であるので、基本的に増税指向です。利上げは金融機関には恵みの雨であり、財務官僚も日銀官僚も多く天下っているので、身内の評判は悪くないことも背景にあるかもしれません。

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2022年12月22日木曜日

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 日本の解き方

防衛増税で日本を守れるのか 平時の経済を弱体化させれば…有事の前に国が倒れてしまう 鳴りをひそめていた財務省でうごめく「増税虫」

高橋洋一


 2023年度の与党税制改正大綱で、防衛費増額の財源として増税する方針が決まった。

 周辺国の軍拡など国際関係により、防衛費を急増しなければいけないのが今の日本だ。それは、ドイツも同じ事情で、国内総生産(GDP)比1・5%を2%まで高めるために特別基金を作った。財源は国債である。

 その理由は財政学での課税平準化理論にある。今回のような防衛費の急増はいつもあるわけではない。意に反して有事になったときに限られる。その意味では、数十年に一回という大震災と同じだ。

 大震災で経済が大打撃を受けているのに復興財源を増税にしたら、ダブルパンチになってしまう。長期国債により課税負担を平準化しなければいけない。

 有事の際や、有事に備えるための防衛費でも同様に考えることができる。課税負担を平準化するために長期国債で対応するのが正しいとなる。増税した場合、平時において経済を弱めてしまう。万が一有事になったらさらに経済を悪化させ、有事対応すらできなくなってしまう。

 長期国債で対応するのは、負担を現世代だけではなく将来世代にも負わせることになると批判する声もある。しかし、いま防衛費を高めることは戦争確率を減らす。これは将来世代も便益を受けるので。負担するのは理にかなっている。

 安倍晋三元首相は、こうした考えを理解して防衛費を長期国債で賄うべきだと主張し、「次の世代に祖国を残していく」と述べていた。

 しかし、岸田文雄首相は「未来の世代に対する責任」として、国債を否定した。同じ趣旨の発言は公明党の山口那津男代表からも出ている。これらは財務省からの振り付けではないのだろうか。

 その後、防衛費の一部について、財務省は「建設国債対象経費」とせざるを得なくなった。岸田首相はある意味で財務省からはしごを外された形だ。

 また、岸田首相は当初、増税から所得税を除くとしていたが、自民党税制調査会で、復興特別所得税を充てることになった。

 ここでも岸田首相や所得税は増税しないと言った一部の関係者は、財務省の捨て駒にされている。

 結局、財務省が真の主権者であるかのような動きを見せている様子がバレバレだ。東日本大震災の復興財源として長期復興国債でなく復興増税になった際も、〝黒幕〟の財務省に、民主党はいいように操られていた。同じ光景が繰り返されている。

 民主党政権では、増税を自由に行えた財務省も、安倍・菅義偉政権では不自由な身だったはずだ。安倍政権では2度消費税を引き上げたが、何度も延期された。約100兆円のコロナ対策も「政府・日銀連合軍」により増税なしで行われた。

 今回、防衛費の追加分は20兆円程度で、防衛国債も埋蔵金もあるのに増税とはおかしい。安倍・菅政権で鳴りをひそめていた財務省の「増税虫」がうごめいてきたのだ。

 これでは、有事の前に国が倒れてしまう。防衛増税の是非を国民に問うべきだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】防衛増税賛成派と財務官僚は、資本主義の基"貨幣循環論"を理解していない(゚д゚)!

防衛増税に両手をあげて賛成する人たちは、増税しなければね長期的な視野に立った防衛政策の社会的、財政的基盤をつくりあげることにならないと信じ切っているようです。防衛増税するなという主張はつまるところ「当座しのぎ」に他ならないと考えているようです。防衛力強化には税負担が不可欠という現実を国民に説得するのが政治家の仕事だと思いこんでいるようです。


確かに「当座しのぎ」は良くないです。そうでなく、防衛政策の社会的基盤、財政的基盤をつくり上げるべきという観点は重要です。ただし、5年間で防衛費を倍増するなどという荒療治はそう滅多にないことです。

そうはいっても、ウクライナ戦争や中国習近平体制の動向、米国内政治の混乱などを考えると、この5-10年が非常に危険です。ここで我が国の防衛力を抜本的に強化しないと手遅れになるとの切迫感があります。

したがって、5年で防衛費の倍増は必須です。それでも大型の正面装備は配備されるまでに5-7年かかります。しかし、その荒療治をコロナ禍3年でこれだけ経済が痛んでいる最中に行うわけですから、いきなりこれを増税で賄うということになれば、家計を直撃し消費を萎縮させ、景気は腰折れするのは必定です。

ならば、先ず他に使える財源をかき集め、その上で、恒久財源に議論を移行しても決して無責任ではないです。むしろ、ここでさらに経済を萎縮させることの方が無責任です。増税により、経済が萎縮してしまえば、高橋洋一氏が上の記事で主張するように、有事の前に国が倒れてしまいかねません。

国が倒れるまではいかなくても、それこそ日本国経済が停滞し、社会保障の経費が増大して、防衛費増どころでなくなりかねません。企業には外部経済がありますが、国には外部経済はありません。

企業の場合は、余剰人員などを整理して解雇すれば、それは外部経済に移り企業に悪影響を及ぼすことはなくなります。しかし、政府の場合は違います、政府は国民を解雇して、国から外に追い出すことなどできません。

そのため、増税など無理な政策を実行すれば、貧困層が増えるなどして、結局生活保護などの社会保障費が増えて、かえって出費が増すことになりかねません。これが莫大なものとなれば、防衛費どころでなくなる可能性も高いです。

そのようなことを避けるためにも、特別会計や一般会計の剰余金や国債費など、増税に代わる現実的な選択肢を追求すべきです。

その上で、「安全保障・未来保障」危機突破5か年予算の現実的な財源として
①特別会計剰余金(円安効果で外為特会増加分約30兆円)
②一般会計剰余金(昨年度は6.3兆円)
③自然増収(昨年度は9.5兆円)
④国債60年償還ルール撤廃(毎年の国債費16兆円が浮く)
などを用い、足らざるは長期国債で賄うなどして、増税は極力回避すべきです。

これが、防衛増税賛成派への模範的回答になると思います。ただ、防衛増税賛成派は基本的な経済理論を理解していません。これを理解しなければ、いつまでもこのような論争は絶えなくなります。

これに防ぐには、ブログ冒頭の記事を書かれている、高橋洋一氏が日頃から主張されているように、マクロ経済への理解が必要なのでしょうが、それ以前に資本主義を理解していない人が多いのではないでしょうか。

結論からいうと、資本主義においては、税は、安定財源どころか、財源(貨幣を生み出す源泉)にすらなりえないのです。

日本には、「金は天下の周りもの」という諺がありますが、これを現在の信用貨幣や銀行や、中央銀行が存在する中での文脈で理解すれば資本主義を理解できると思います。しかし、これが覚束ない人が多いのではないかと思います。何というか、教科書的なものを読んで、試験などでは合格できるのですが、その根底を理解できず、現実社会における文脈で理解できない人が多いのではないかと思います。

貨幣循環の過程は、貸し出し先が政府の場合も、企業の場合と基本的に同じです。

ただし、企業と政府とでは、大きな違いがあります。企業に貸し出しを行うためには、その企業に返済能力がある必要があります。しかし、近代国家における政府は、強力な徴税権力を有しており、返済能力は確実にあります。したがって、中央銀行は、政府の需要に応じていくらでも貨幣を創造し、供給することができます(日本銀行による国債の直接引き受けは原則禁止されていますが、市中消化の場合でも、基本的な原理は同じです)。


① 中央銀行制度があるおかげで、政府は、税収を元手にしなくても、中央銀行が「無から」創造した貨幣を得て、支出を行うことができます。
② 貨幣とは負債であり、貸し出しによって創造され、返済によって破壊されます。すなわち、政府が国債を発行して債務を負うことは、貨幣の「創造」です。そうして、政府が税収によって債務を返済することは、貨幣の「破壊」です。
無論、「破壊」とはいっても、本当に日銀がわざわざこれをすぐに全部破壊するという意味ではなく、日銀の金庫に入った時点で市場に流通しなくなるので、事実上の「破壊」ということです。ただし、現実には、日銀は日銀に入った貨幣のうち利用できるものは利用して、金融緩和が必要なときにはこれを市場に流通させるということはあります。

さて、この資本主義の基本原理を踏まえたうえで、昨今の防衛費をめぐる財源の議論を振り返ってみましょう。

防衛支出の財源として、増税が検討されています。しかし、貨幣循環論を理解していれば、防衛支出という政府の需要こそが財源、すなわち「貨幣を生み出す源泉」であることがわかるでしょう。むしろ、税は、安定財源どころか財源(貨幣を生み出す源泉)にすらなりえないのです。

資本主義の仕組みを理解していれば、これが結論になるのです。これが理解できない人が多いようです。これと、現代貨幣理論(MMT)とを混同する人も多いようですが、これは明らかに違います。

MMTでは、政府の需要こそが「貨幣を生み出す源泉」であることから、政府は無限に貨幣を生み出すことができるなどという妄想を是としていますが、そのようなことはなく、政府が貨幣を生み出し続け、供給が需要を超えても際限なく貨幣を生み続ければ、当然のことながらインフレが亢進することになります。

よって、政府が貨幣を無限に生み出し続けることなどできず、自ずと限界はあります。ただ、防衛支出という需要が供給能力の枠内に収まっている限りにおいては、貨幣を生み出し続けてインフレにはなりません。現代の日本は、デフレ気味であり、政府が30兆円超の貨幣を生み出したとしても、インフレになりません。

貨幣を生み出す方法には、政府が紙幣を増刷すること、政府が国債を発行することなど様々な方法があります。ただ、増税では貨幣を生み出すことはできません。需要があるにもかかわらず、貨幣を生み出すことなく、増税して、防衛費増を賄うということになれば、当然のことながらデフレになります。これを理解せずに、政府の支出を家計のように考える人があまりに多いようです。

銀行制度特に中央銀行の存在しない資本主義以前の社会であれば、封建領主は、防衛支出の財源を確保するために、増税によって、領民のもつ財産を没収して防衛費に充てるしかなかったのかもしれないです。しかし、その限界を資本主義によって超えることができるようになったのです。

歌川国芳『武田上杉川中嶋大合戦の図』(部分)

銀行制度が完備された資本主義においては、政府(と中央銀行)は、防衛支出という需要に応じて、新たに貨幣を創造することができるのです。

要するに、増税や歳出削減によって防衛費を確保しようとする考え方は、資本主義以前の前近代的な発想に基づいているということです。これでは、何のための資本主義なのか、何のために日本が資本主義を導入したのか、全く本末転倒の状況に陥っているとしかいいようがありません。

防衛増税派の防衛費の財源を国債の発行に求めるのは無責任だと主張し、増税を容認しました。

残念ながら、防衛増税派の議員の政治家としての、そうして岸田総理や財務官僚の経済観念ならびにそれに基づく責任感は、資本主義以前の、前近代的な封建領主のそれです。まさに、明治時代より前の、江戸以前のそれです。

まずは、資本主義や貨幣について正しく理解するのが、政治家や官僚の果たすべき最低限の責任です。これが理解できないと、マクロ経済も理解できません。

前近代的な政治経済観を抱いたままで、この過酷な世界や社会を生き残れるはずもないです。

仮に、今回防衛増税派の議員が、勝利を収めて、防衛増税に成功したとしても、景気が格段に悪くなり、ふたたび深刻なデフレに陥り、それこそ、次の選挙で自民党は下野して、防衛増税派の議員の政治生命は絶たれるかもしれません。

今は権勢を誇っている財務省も、資本主義が理解できないようでは、強大で絶対的な権力を誇った鎌倉幕府や江戸幕府が滅んだように、いずれ滅ぶでしょう。そのようなことにならないためにも、若手財務官僚やそれを目指す人たちは、少なくとも貨幣循環論を地頭でしっかりと理解すべきです。これを理解した上で、当然のことながらマクロ経済、会計学の基礎(簿記等)も学ぶべきです。

昨年、文芸春秋(11月号)に掲載された財務省の矢野康治事務次官の財政危機を訴える寄稿は「矢野論文」と称され、世の中に波紋を広げました。私は、この論文を読む前までは、まさか財務官僚が資本主義自体を理解していないなどということはないだろうと思っていましたが、理解していないことを確信しました。

資本主義を理解しない政治家や官僚が多く存在し、メディアでも理解しているのは、ほんの一握りというのが、現代日本の第一の不幸の源であるといえます。自民党の、積極財政派の方々も、積極財政をを説く前に、まずは「資本主義」の基礎を説くべきなのかもしれません。

なぜなら、資本主義を理解しない人はマクロ経済を理解できないからです。私は、積極財政派の議員の中でさえ、資本主義をしっかり理解していない議員が存在するかもしれないことを危惧しています。そのような議員は、今は積極財政派であっても、すぐに財政健全派に鞍替えする可能が高いです。

そもそも、積極財政派、財政健全派という分類自体が間違いです。財政とはその時々の経済の状況に応じて、積極財政を実施したり、財政健全化をしたりするのが正しく、その時々の状況に応じて流動的に靭やかに実施すべきであって、どちらか一方だけを推進するのは間違いです。

野党議員の中にも、選挙対策として、増税反対を主張する議員もいますが、そのような議員の中にも資本主義を理解していない人がいるのではと、私は危惧しています。そのような議員がまかり間違えて、政権をとったとしたら、その途端に増税反対の看板を取り下げて、増税に走るということも十分考えられるからです。

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2022年12月21日水曜日

数カ月で人口の6割感染との予測も、中国のコロナ流行に世界から懸念の声―【私の論評】中共は、「ゼロコロナ」政策をやめ中国人が多数が死亡しても集団免疫を獲得すれば良いと考えたか(゚д゚)!

数カ月で人口の6割感染との予測も、中国のコロナ流行に世界から懸念の声

この動画と、以下の文面とは直接関係はありません(ブログ管理人)

中国当局は20日、新型コロナウイルス感染で新たに5人の死者を報告した。感染を封じ込める「ゼロコロナ」政策を大幅に緩和した後もコロナ流行は続いており、各都市は病床の追加確保や発熱外来クリニックの増設に奔走している。

北京にあるこの体育館は、急遽発熱外来として使われることになった。同様の施設は、国内の主要都市に次々と設置されている。新型コロナの感染拡大による医療崩壊を防ごうと、集中治療室の収容力拡大や、発熱外来の設置が全土で進められている。

コロナが、中国の医療体制に打撃を与えようという兆候が徐々に強まっている。中国当局は今月、国民の抗議を受けて隔離と検査を繰り返す厳格な「ゼロコロナ政策」を大幅に緩和した。その結果、14億人の人口を抱える中国はウイルスの脅威に直面。集団免疫を獲得していないため、死者の増加や変異ウイルスの出現、経済や貿易への影響が懸念されている。

中国疾病予防管理センターの当局者は、新たな変異株が出現する可能性はあるが、懸念はないと述べた。また新たな変異株が、より致死性を増す可能性は低いとしている。

中国政府がウイルスを放置するという驚きの決断をしたことに対して、国際社会の懸念が高まっている。米国務省のプライス報道官は19日、中国で新たな変異株が発生する可能性は、世界にとっても脅威だとの見方を示した。

米国務省 プライス報道官
「中国のGDPや経済規模を考えると、感染拡大による影響は世界にとって懸念事項だ」

当局の会見に同席した北京大学第1医院の王貴強院長は、新型コロナ感染後に発症した肺炎や呼吸不全による死亡のみを、新型コロナによる死者として数えると述べた。心臓発作や心血管系疾患による感染者の死亡は、この基準には含まれない。2019年末にパンデミックが始まって以来、中国が発表した新型コロナの死者数は累計でわずか5242人で、世界的にみても少ない。

12月7日にゼロコロナを緩和して以来、この統計が新型コロナの本当の影響を反映しているのか、疑念が強まっている。規制緩和以来、一部の病院には患者が殺到し、薬局では薬の売り切れが続出している。自主隔離をする市民が増え、北京では薬を受け取りに来た配達員が薬局に集まっていた

一部の専門家は、今後数カ月で中国の人口の60%が感染すると予想。これは世界の全人口の10%に相当する。さらに200万人以上の死者が出る可能性があると予測している。

【私の論評】中共は、「ゼロコロナ」政策をやめ中国人が多数が死亡しても集団免疫を獲得すれば良いと考えたか(゚д゚)!

日本においては、コロナが発生してから、今日までの、合計死亡者数53,738人です。中国の人口は14億人、日本は1億2千万人ですから、中国の人口は日本の10倍より多少多いくらいです。

今後新たに100万人とか、200万人の死者がでるとされていますから、1/10にすれば、10万人〜20万人ということで、日本に置き換えても、これは結構な数ともいえます。

これは、とてつもないことになりそうですが、中国としては、中国製ワクチンはほあまり効かない、まともなコロナ薬が流通していないのですから、そうなるとみて間違いないでしょう。

日本では、たとえばCTが診療所レベルの診療機関にも設置してあり、世界で一番普及しています。これで診察すると、肺炎であるか否がすぐに診断できます。肺炎の人は、すぐにPCR検査などを受けるという措置がなされ、それ相当の治療がなされます。日本の医療現場では、このようなことが行われていました。日本では、このような対応が可能だったのです。

私達には見慣れたCTだが、中国をはじめあまり普及していない国もある

他国と同じように、PCR検査にのみ頼る診査体制であれば、日本の医療現場はかなり混乱したことでしょう。それこそ、医療崩壊を起こしていた可能性もありました。しかし、日本の場合、CTの普及率の高さなどが幸いして、未だにコロナ感染症の分類が2類とされているにも関わらず、何とか医療崩壊を起こさないですんでいます。今後、日本でもコロナ治療薬の「ゾコーバ」などが普及すれば、早急に5類に分類しなおすべきです。

中国では、日本のように医療体制が整っておらず、今後感染者、死者が増えれば、かなり深刻な事態になることが予想できます。特に、地方の僻地などでは、かなり医療体制が遅れていますし、都市部においても、貧困層は、まともな治療を受けられる体制にはありません。コロナに感染しても、病院で治療を受けないということは十分に考えられます。

上海市内にある集合住宅の中庭。四方を囲む形にして外部と遮断し、通り抜けできないようになっている。

中国政府がなぜ「ゼロコロナ」政策を緩和しかといえば、こういう実態を踏まえれば、「ゼロコロナ」など最初から不可能であったことをようやっと理解したのでしょう。

ただ、中国共産党中央政府には、これを認識した上で、さらに恐ろしい企てがあるかもしれません。それは、以前のブログでも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
サマーズ氏が予見、中国医療制度「壊滅的」影響も-コロナ政策転換で―【私の論評】6カ月後には、コロナ蔓延で中国はGDPで米国を追い越すと言われていたとは思えないような国に(゚д゚)!

サマーズ元FRB長官

日本では、中国のアウトバウンドを期待するむきもあるようですが、おそらく無理でしょう。多くの人が、感染を恐れて、海外旅行どころではなく、外出することすらためらうようになるでしょう。

こうなると、国民はデモどころではなくなります。中共の指導層は自分たちは、米国製ワクチンや薬を確保するとともに、自らを一般人から隔離する体制を強化しつつも、できるだけ安寧な生活ができるように準備して、医療体制も整え、大きな嵐が過ぎ去るのを待つつもりなのかもしれません。

全体主義国家の中共を甘く見るべきではありません。経済がどうなろうと、自国民が多数命を失おうが、体制を守り通そうとするのが彼らです。
中国共産党として、今後も全国各地で同時に「ゼロコロナ」政策に対するデモが起これば、これを鎮圧するのは難しいですし、かといってこれを放置すれば、反政府デモが過激化・先鋭化し、共産党の統治の正当性が危機にさらされると考えたのでしょう。

であれば、「ゼロコロナ」政策などやめて、多数の人間が感染して、死亡したとしても、それで中国人の多くが集団免疫を獲得すれば、いずれ収まると考えた可能性は十分あります。無論、その過程で「反政府」デモは、コロナ感染が鎮圧してくれるだろうという目論見もあるものと考えらます。

だとしたら恐ろしいことです。しかし、中国共産党の短い歴史をみても、そのようなことは十分考えらます。彼らを甘く見るべきではありません。

そうでなくて、国民の命が第一と考えれば、自分たちの非力を公にしても、海外からのワクチンや薬に頼るはずです。そのような気はさらさらないようです。

それで、サマーズ氏が予測したように、中国経済が落ち込んだとしても、自らの体制を守れれば良いと考えているのでしょう。

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2022年12月20日火曜日

日米蘭3国で「対中包囲網」強化 WTO提訴も単なるパフォーマンスに 中国の野心に大打撃与える先端半導体装置の輸出規制―【私の論評】中国が「半導体技術の対禁輸」措置を日米蘭から喰らうのは致し方ないことであり、自業自得(゚д゚)!

 日本の解き方

日米蘭3国で「対中包囲網」強化 WTO提訴も単なるパフォーマンスに 中国の野心に大打撃与える先端半導体装置の輸出規制


半導体工場を視察する習近平

 米国による先端半導体製造装置の対中輸出規制に、日本とオランダも参加すると報じられている。

 背景にあるのが、米中における半導体紛争だ。米国には先端半導体の対中輸出規制がある。これについて中国は世界貿易機構(WTO)に提訴した。

 国際社会から見て中国に分がありそうだが、米国はそっけない。米国の輸出規制は安全保障に関連するもので、WTOは議論するのに適切な場ではないとしている。バイデン政権は対中輸出規制措置について、中国軍が先端半導体を入手できないようにすることが目的だと説明している。

 そもそも、WTOは現在、機能不全になっている。その象徴はWTOが担う最も重要な機能の一つである、裁判に似た「紛争解決制度」だ。その「最高裁」に相当する上級委員会の裁定に不満を募らせた米国が、裁判官に当たる委員の選任を拒否し、2019年末から機能していないのだ。

 これでは、中国のWTO提訴も単なるパフォーマンスといわれても仕方ないだろう。WTOは、中国からの提訴を処理する前に、自身の組織改革が求められているのだ。そうなると、米国の輸出規制は有効のまま推移する公算が大きい。

 ここにきて、日本とオランダは、先端半導体製造装置を対象とした米国の対中輸出規制への参加に基本合意したという。これで対中国包囲網がより強固になり、中国の野心に大きな打撃を与えるだろう。

 日本、米国とオランダの3カ国が協調すれば、先端半導体製造装置を中国が入手することはほぼ完全にできなくなる。先端半導体製造装置では、米系のアプライド・マテリアルズ(21年世界シェア22・5%)、ラムリサーチ(14・2%)とKLA(6・7%)、日系の東京エレクトロン(17・0%)とオランダ系のASMLホールディング(20・5%)の5社が、それぞれ持ち味は異なるものの、事実上ビッグ5で、世界シェアの80%を超える寡占業者だ。

 かつて、米系のアプライド・マテリアルズと日系の東京エレクトロンは持ち株会社をオランダに設立して経営統合する話もあったが、あまりに強大になりすぎることを米司法省が嫌ったためにご破算になったこともあった。

 いずれにしても、日本、米国とオランダの3カ国が協調すれば、中国が先端産業を独自に構築できる方法はほとんど見込めなくなる。

 もっとも、米国がやろうとしている輸出規制はあくまで先端技術に関するものだ。成熟技術は規制対象ではない。このため、ビッグ5でも成熟技術での半導体製造装置は中国への販売はできる。

 それにしても、中国があわててWTO提訴に駆け込んだのは、日米蘭から先端技術がもらえなくなると、中国が技術大国を装ってもすぐに化けの皮が剥がれるからだろう。これからの社会では、先端半導体製造装置が必要になるが、中国ではできないだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】中国が「半導体技術の対禁輸」措置を日米蘭から喰らうのは致し方ないことであり、自業自得(゚д゚)!

半導体製造装置市場では、技術進化によるシェア争いが厳しさを増しています。日本メーカーの装置販売額は市場の活況を受けて2024年まで拡大を続ける見通しですが、一方で世界シェアは低下傾向にあり、2020年に3割を下回ったとの調査もあります。世界シェアの巻き返しには、半導体の性能を高める「微細化」や「3次元実装」といった次世代技術の開発で海外競合との差別化を図る必要があります。


とはいいながら、上のグラフを御覧いただいても、ご理解いただけるように、世界の半導体製造装置のメーカー別シェアでは、日米蘭がほとんどを占めています。その他の部分にもしかすると、中国や韓国も含まれているのかもしれませんが、これにはいくつかの他の国々も含まれているのでしょう。いずれにせよ、中国や韓国などは、半導体製造装置においては、特筆することはないといえます。

そうしたなか、米国は「半導体技術の対中国禁輸」をはじめました。それについては、このブログにも掲載したとがあります。その記事の、リンクを以下に掲載します。
米が半導体で衝撃の〝対中禁輸〟バイデン大統領、技術仕様した第三国製も規制対象に 「中国の覇権拡大人権弾圧許さない意思表示」識者―【私の論評】最新型半導体を入手できない中国のスマホは、かつての日本のショルダーホンのようになるか(゚д゚)!

この記事の元記事より以下に一部を引用します。

ジョー・バイデン米政権が打ち出した、「半導体技術の対中国禁輸」が波紋を広げている。米国で製造された半導体や製造装置だけでなく、米国の技術で第三国で製造された半導体も規制の対象で、「中国の半導体製造業の壊滅」につながりかねない厳格さだという。民生用から軍事用まで幅広く使われている半導体は、今や国家の命運を左右する「戦略物資」となっている。米国は「安全保障」や「人権弾圧」を理由としているが、日本を含む同盟・友好国も対策が急務となりそうだ。 

とにかく、米国の最新の技術を含む、半導体や製造装置の輸出を禁じるというものであり、半導体関連で、米国の技術を含まないものなどないので、これはかなり厳しい措置です。

この措置に関して、多くの人はあまり理解していなかったかもしれませんが、【私の論評】のところで、その厳しさを以下のように説明しました。
多くの人は米商務省が10月 7日、半導体や製造装置の新たな対中輸出規制強化策を発表した際にに何が起きたか本当には、理解していかったかもかもしれません。
簡単にいえばバイデンは中国で働く全ての米国人(半導体産業)に即刻ビジネスを止めるか、米国籍を失うかという選択を迫ったのです。

すると中国にある全ての半導体製造企業の米国人幹部やエンジニアはほぼ全員辞職し、中国の半導体製造は一夜にして麻痺状態になったのです。

バイデンの今回の制裁は、トランプ4年間の12回の制裁を合わせたよりも致命的です。

トランプ時代の制裁では半導体供給にはライセンス申請が必要だったものの申請すれば1か月以内に通過していました。

一方バイデンは米国の全てのIPプロバイダー、部品サプライヤー、サービスプロバイダーをほぼ一晩で全て撤退させ、あらゆるサービスを断ち切りました。

大惨事とはまさにこのことです。中国の半導体産業の半分が価値ゼロになって完全に崩壊します。

実は、中国は近年最新の半導体製造装置を大量に買い込んでいました。ただし、中国の半導体製造はあまり伸びてはいませんでした。なぜかといえば、せっかく買い込んだ半導体製造装置が、これを運用できるノウハウを持つ人材が育っておらず、中国にとってはこうした人材を育てることが喫緊の課題でした。

ところが、バイデンの 「半導体技術の対中国禁輸」により、半導体製造装置を運用できるノウハウを持つ人材を育てる米国人は、中国を離れざるをえなくなったのです。

ただ、中国にとっては、こうした措置の抜け道はありました。たとえば、日蘭の半導体製造装置の中で米国性の半導体を用いていなくてかつ、米国の技術を用いていないものに関しては、米国の規制の対象とならない可能性がありました。

しかし、先端半導体製造装置の対中輸出規制に、日蘭も参加するというのですから、これは中国にとっては絶対絶命です。日蘭の技術者も、中国を離れることになります。

中国は自ら最先端の半導体を製造できなくても、それを外国から輸入すれば良かったのですが、それができなくなったのです。

台湾のtsmcの半導体工場

中国は5G技術で様々な特許をとっているということが言われてきましたが、それは海外製の最先端の半導体を前提としています。多くの特許を取得していたにしても、入手できることを前提とした半導体が手に入らなければ、それを実現することはできません。

ただ、通信でいえば、5G以上を実現するための半導体は手にできませんが、4Gなら入手できます。であれば、一般のスマホなどは、それを用いたものが使われていくことになるしょう。しかし、軍で用いる最新のものは、4G向けの半導体を用いざるを得ず、それこそ、一昔前のショルダーフォンのように大きくなる可能性はあります。

AIでも同じようなことが起こりえるでしょう。理論的には可能であっても、そのAIを製造するためには、古い技術では、原子力発電所をつくるように大掛かりで、時間も要するものになり、事実上不可能ということになるかもしれません。

データーセンターも、スーパーコンピュータも同じようなことになるかもしれません。新たなな技術であれば、大きな電力もスペースも必要ないのに、何倍もの電力、面積体積が必要となり事実上不可能となるかもしれません。

現在稼働しているコンピュータ、スマホなどの理論的な背景はすべて英国のエリザベス朝時代にすべて存在したといわれています。

にもかかわらず、なぜ今日のコンピュータやスマホのようなものが製造できなかったといえば、それを実現するための、素材や技術、今日にみられるような安定した電源が存在しなかったからです。

これからの中国はこれに近い状態になります。仮に新たな技術開発の理論ができたにしても、それを実現するための半導体がなければ、それを実現することはできないのです。

「半導体は産業のコメ」といわれます。しかし今やコメよりも重要度は高いです。中国が、半導体で外国から「兵糧攻め」に遭えば死活問題です。これから、中国の産業の冬の時代が続きそうです。

このようなことは、中国に対してかなりきついのではないかと思う人もいるかもしれません。しかし、過去を振り返れば、先進国の「経済的に豊かになれば共産主義中国も『普通の国』として仲間入りができる」という誤った妄想が、中国の肥大化を招き傲慢な「人類の敵」にしてしまったという現実があります。

その代表例が、2001年の中国のWTO加盟です。1978年の改革・解放以来、鄧小平の活躍によって、1997年の香港再譲渡・返還にこぎつけた共産主義中国が、「繁栄への切符」を手に入れたのです。 

この時にも、共産主義中国は「WTOの公正なルール」に合致するような状態ではありませんでした。 ところがが、米国を始めとする先進国は「今は基準を満たしていないが、貿易によって豊かになれば『公正なルール』を守るようになるだろう」と考え、共産主義中国も「将来はルールを守る」という「約束」をしたことで加盟が認められたのです。 

ところが、加盟後20年以上経っても、共産主義中国は自国の(国営)企業を優遇し、外資系いじめを連発するだけではなく、貿易の基本的ルールさえまともに守る気があるのかどうか不明です。しかも、先進国の技術を平気で剽窃してきました。

中国がWTO提訴に駆け込むなど、片腹痛いとはこのことです。

これを考えれば、現在中国が「半導体技術の対中国禁輸」措置を日米蘭から喰らうのは、致し方ないことであり、自業自得ということができます。

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2022年12月19日月曜日

財務省が完勝した防衛増税、こうすれば「大逆転」でひっくり返る―【私の論評】英国の大政変のように、日本でも安倍派が地獄の釜を岸田政権に向けて開けるときがくるか(゚д゚)!

財務省が完勝した防衛増税、こうすれば「大逆転」でひっくり返る

安倍晋三元首相の葬儀に参列した儀仗隊

自民党政調を飛び越えて

 毎日のようにめまぐるしく状況が変化しているので、今回は防衛増税の経緯をまとめておこう。

 政府内では、9月30日、国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議が設置され、11月22日に報告書が出された。

 同報告書では《防衛力の抜本的強化のための財源は、今を生きる世代全体で分かち合っていくべきである。》とされ、《国債発行が前提となることがあってはならない。》とされている。

 先週の本コラムでは、防衛費増額の財源として、12月8日、岸田首相は与党に対し所得税を除く形で税制措置を検討するよう指示し、10日の記者会見で「国債でというのは、未来の世代に対する責任として採り得ない」と述べたことまで書いた。

 8日の岸田首相の指示は、正確には以下のものだった。

 《来年度からの国民の負担増は行わず、令和9年度に向けて複数年かけて段階的な実施を検討。》

 《税制部分については与党税制調査会において税目、方式など、施行時期を含めて検討するようお願いする。》

 しかしこの手順はおかしい。自民党政調を飛び越えて、税調に検討させているからだ。それに危機感をもった萩生田政調会長が政調全体会議を開催した。そこではかなりの反対意見がでている。こうした議論は政府に伝えられ、それを踏まえて税調での議論となったはずだ。

まだ書かれていない「増税措置」

 13日からは税制小委員会が開催された。ここで防衛力強化基金の創設が政府から説明された。これについては、先週の本コラムで《こうした資金は、防衛費を区分経理するための常套手段であり、財源確保のために増税の一歩手前だ。》と書いた。

 この税制小委員会での政府資料では、《歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入を活用した防衛力強化資金(仮称)の創設に必要な法制上の措置については、次期通常国会に提出予定の財源確保に係る法案に規定。》と書かれている。14日の政府資料でも同じ表現だ。

 16日には、自民・公明両党が2023年度税制改正大綱をまとめた。

 その中で、

 《6.防衛力強化に係る財源確保のための税制措置

 わが国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保する。税制部分については、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において、1兆円強を確保する。具体的には、法人税、所得税及びたばこ税について、以下の措置を講ずる。

 (1) 法人税
法人税額に対し、税率4~4.5%の新たな付加税を課す。中小法人に配慮する観点から、課税標準となる法人税額から500万円を控除することとする。

 (2) 所得税
所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課す。現下の家計を取り巻く状況に配慮し、復興特別所得税の税率を1%引き下げるとともに、課税期間を延長する。延長期間は、復興事業の着実な実施に影響を与えないよう、復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さとする。

 廃炉、特定復興再生拠点区域の整備、特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた具体的な取組みや福島国際研究教育機構の構築など息の長い取組みをしっかりと支援できるよう、東日本大震災からの復旧・復興に要する財源については、引き続き、責任を持って確実に確保することとする。

 (3) たばこ税
3円/1本相当の引上げを、国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保した上で、段階的に実施する。

以上の措置の施行時期は、令和6年以降の適切な時期とする。》

 とされている。

 さすがに、2023年度税制改正の具体的な内容に、これらの増税措置は書かれていない。また、小委員会で政府から説明された財源確保にかかわる法案についても書かれていない。

一縷の望み

 さて、防衛増税は決まったかといえば、筆者の感覚では「ほぼ決まり」だ。筆者は、17日大阪朝日放送「正義のミカタ」にリモート出演したが、次のようなフリップを出した。

 これまでは財務省の完勝であり、このままで増税が決まりだ。下段に書いた「大逆転? !」は、はっきりいえば単なる願望にすぎない。

 一縷の望みは、財源確保にかかわる法案の扱いだ。その法案について、政府(岸田政権)は次期通常国会に提出予定としている。実施時期は確定しないが、この法案に増税措置が盛り込まれるはずで、次期通常国会の提出が決まれば、防衛増税は確定する。

 問題は、同法案がどのような政治プロセスで扱われるのか、だ。

 つまり、年末の予算などともに閣議決定されるが、その前に与党プロセスがどうなるか。政調・総務会の了承を得るのが通例であるが、今回のやり方は通常でないほど強引だった。

 政調でどこまで審議できるか。かつての自民党であれば、全議員参加の「平場」でしっかり議論されるはずだが、どうなるだろうか。

 防衛費増について、岸田政権でも一部認めた建設国債対象経費をさらに拡大できるかどうか、先週の本コラムでも指摘した一般会計に計上されている債務償還費(2022年度15.6兆円)を含め特別会計の埋蔵金をさらに出せるか──それで増税は必要なくなるはずだが──そうした議論が自民党内でまともにできるかどうか、岸田政権が問われている。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】英国の大政変のように、日本でも安倍派が地獄の釜を岸田政権に向けて開けるときがくるか(゚д゚)!

高橋洋一氏は、政調でどこまで審議できるか、が重要であるとの認識を示しています。かつての自民党であれば全員参加の「平場」でしっかり議論させるはずだが、どうなるだろうかとしています。

これについては、ただ積極財政派の議員らが、大きな声をあげれば、成就するようなものではないです。ましてや、増税に反対する議員らが、離党して新党をつくるようなことをしたとしても、さざ波程度の動きにしかならないでしょう。

よほどインパクトのあることをしなければ、成就しないでしょう。インパクトがあるといえば、今年は英国内の大政変がありました。ジョンソン首相が、辞任を余儀なくされた後、トラス氏が首相となりましたが、就任からわずか49日で、辞任しました。新首相は、スナク氏に決まりました。


ジョンソン首相の時には、首相の相次ぐ不祥事が明るみに出て、スナク財務相とジャビド保健相が相次いで辞任しました。これは、更迭などで辞めたのではなく、ジョンソン氏に対する抗議をするために自ら辞任したのです。これがジョンソン氏辞任の決定打になったところは否めないです。

トラス政権においては、クワーテング財務相の更迭に続き、重要閣僚ブレーバーマン内相が首相に抗議して辞任ました。もともと、トラス首相の経済政策特にインフレであるにも関わらず、減税するという政策は人気がなく、それで財務相を更迭せざるをえなくなり、そこにき内相が辞任しました。これが、トラス辞任の決定打となりました。

特に大型減税案は、後任であるハント財務大臣により全否定され、これがトラス政権をかなり追い詰めました。重要閣僚がやめることはいずれの国においても、時の政権に大打撃となるのです。日本とて例外ではありません。これについては、このブログでも解説したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
トラス英首相が辞任を表明―【私の論評】今回の首相辞任は実は経済政策はあまり関係なし、純粋に政治的な動き、日本でもあるかも(゚д゚)! 


この記事では、英国の政変が、政治的な動きであることを強調するために、トラス氏の大型減税策についてはあまり批判的なことを書きませんでしたが、トラス氏の経済対策は間違いであることは、はっきりしすぎていました。

インフレが亢進しているときに、採用すべき政策は減税ではなく増税です。ただ、減税するにしても、英国内の経済とはあまり関係ない、エネルギーや資源に限った減税であれば、さほど問題にはならなかったでしょう。

このように明らかに経済対策を間違い、さらに重要閣僚を罷免さざるをえなくなり、さらに重要閣僚が自らやめしまったということは、政権に大打撃を与えるのです。

さて、英国の経済は、供給不足で減税ではなくて、増税などの緊縮財政などの措置をする必要がある一方、日本は需要不足であり、減税などの措置が必要であるにもかかわらず、岸田首相は増税という明らかに間違えた政策を実行しようとしているという違いはあります。

ただ、どちらも国内の経済対策を間違えいるという点では共通点があります。

そうなると、日本でも閣僚が自らやめるというようなことがあれば、岸田政権に大打撃ということになります。

岸田政権においては、すでに山際経済再生担当大臣、寺田総務大臣、葉梨務大臣の三人の閣僚が辞任しています。これだけでも、大変なのに、さらに数人閣僚が自ら辞任ということになれば、岸田政権は崩壊の危機に見舞われることになります。

このようなことができる派閥が自民党にはあります。それは、最大派閥である旧安倍派です。以下の表でもわかるように、安倍派は四人の閣僚を出しています。自民党三役の政調会長は萩生田光一氏です。

安倍派は、安倍元総理の遺志をひきつぎ、防衛増税には大反対です。そうして、安倍氏により、理論武装もかなりしています。そうして、その理論はあらゆゆる面から、考えてみても正しいです。安倍派は、亡くなった安倍元首相の遺訓でもある「防衛費増は国債で賄う」という考えを実現したいと考えていることでしょう。

ただ、現状では上の高橋洋一氏の記事にもあるように、政調でどこまで審議できるかという状況です。まともに、議論もさせないかもしれないというのですから、最大派閥の安倍派の不満は鬱積していることでしょう。

この状況であれば、安倍派閣僚は、岸田首相を翻意させるために、辞任するという手もあります。いきなり四人が辞任するまでは必要ないですが、まず防衛増税に反対という意見表明をした上で、まずは一人辞める。

それでも岸田首相か翻意しな場合は、もう一人、また一人と辞任するのです。これを実施すれば、岸田内閣はかなりの窮地に追い込まれます。これに同調して、高市氏のような無派閥や他派閥の閣僚の中にも辞任するものがでてくるかもしれまん。

それでもどうしても、岸田首相が翻意しないというのなら、最後に萩生田政調会長が辞めても良いと思います。そうなると、岸田政権は、国会で野党から追求され、党内も蜂の巣をつついたような状況になるでしょう。マスコミも連日報道するでしょう。

国民の信を問うために、解散総選挙をせざるをえなくなるでしょう。しかし、増税の意思を翻意しないままで、選挙をすれば、大敗する可能性も濃厚になります。

やはり、岸田首相ははやいうちに翻意すべきです。そうでないと、まもなく安倍派が岸田政権に向けて、地獄の釜を開くことになります。

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2022年12月18日日曜日

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「岸田増税」を斬る! アベノミクス10年の成果に矛盾 「賃上げできない世の中になる」第2次安倍政権で経済ブレーン・本田悦朗氏が指摘

本田悦朗氏

 自民、公明両党は16日、2023年度の与党税制改正大綱を決定し、防衛費増額の財源として法人、所得、たばこの3税の増税を盛り込んだ。岸田文雄首相は閣内や党内からの反発を押し切って増税方針を決めたが、第2次安倍晋三政権で経済ブレーンを務めた本田悦朗・元内閣官房参与は「安倍元首相の思いやアベノミクス10年の成果に矛盾している」と批判する。このまま経済が安定する前に、増税が実施されれば、給料の伸び悩みなどによってデフレや長期停滞に陥り、日本経済に暗雲が垂れ込めると語る。

 岸田首相は同日の記者会見で「安定財源は将来世代に先送りすることなく、いまを生きるわれわれが将来世代への責任として対応すべきものと考えた。戦闘機やミサイルの購入を借金で賄うということが本当によいのか」と述べ、増税の意義を強調した。

 法人税は税額に4~4・5%を上乗せし、たばこ税は1本当たり3円引き上げる。所得税は1%を新たな付加税として課すと同時に、東日本大震災の復興特別所得税の税率を1%引き下げる。だが、2037年までの課税期間を延長するため、結局は増税だ。

 増税実施について「24年以降の適切な時期」とするが、財務省出身の本田氏は「決着の単なる先送りは、財務省側が妥協したように見せかける常套(じょうとう)手段だ」と指摘したうえで、財務省が増税に固執する内幕をこう明かす。

 「財務省の官僚にとっては、景気回復で税収が増えても誰の業績にもならないが、増税や歳出カットで財政再建すれば、業績として出世に有利になる。真の解決策は、財政出動によって需要を拡大することなのに、短期的な財政収支に気をとられるばかりで、日本経済や政権の動向は考慮しない」

 アベノミクスの指南役としてデフレ脱却に取り組んできた本田氏は、防衛力強化についての安倍元首相の思いも耳にしていたという。

 「安倍元首相の防衛力強化と防衛費増額への熱意は相当なものだった。財源については『防衛国債』を考えていたが、公共事業に充てられる建設国債を想定していたと思われる。また、経済成長による税の自然増収についても理解していた」と振り返る。

 バブル崩壊後の日本経済は、「失われた30年」と呼ばれる低迷を続けてきた。本田氏は「いつも経済が上向いたときに逆行する政策になる」と述べ、増税を強行した場合の日本経済の行く末を懸念する。

 「2000年のゼロ金利政策解除、06年の量的金融緩和解除、14年と19年の消費税増税に続く、『5度目の失敗』をするつもりなのか。防衛増税が実施されれば、企業経営者の将来の収益見直しに冷や水を浴びせ、デフレからも脱却できず、一向に賃上げができない世の中になる恐れがある」

 自民党の萩生田光一政調会長は同日の党政調審議会で、防衛費増額の財源確保に向け、税以外の財源捻出の在り方を協議する場を来年設置する意向を明らかにした。

 本田氏もこれまでの財源論議の中で、国債発行や、毎年度の一般会計に計上されている債務償還費の活用を含む歳出改革を訴えてきたが、今後の策は残されているのか。

 「『24年以降』とした増税の実施時期を物価・雇用・成長などの観点から、日本経済が正常化するまで先延ばしすることだ。それまでの間は、成長による税の自然増収を最大限活用し、なお足らざる分は国債で補うしかない。マクロ経済指標を毎年慎重に検証して、増税時期を判断すべきだ」

 人脈も財務省に近いとされる岸田首相は、同省の思惑通りに動いたように見える。本田氏はこうも語った。

 「財務省は言うことを聞いてくれそうな政権で『国民に不人気なこと』をやってしまおうとする。岸田首相もある意味では被害者かもしれない」

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増税は、国民に不人気なことであることは間違いないようです。

毎日新聞は17、18の両日、全国世論調査を実施しました。岸田内閣の支持率は25%で、11月19、20日の前回調査の31%から6ポイント減少し、政権発足以降最低となりました。

不支持率は69%で前回(62%)より7ポイント増加し、発足以降最高となりました。 

防衛費を大幅に増やす政府の方針については、「賛成」が48%で、「反対」の41%を上回りました。防衛費を増やす財源として、増税することについては「賛成」が23%で、「反対」の69%を大きく下回りました。 

財源として社会保障費などほかの政策経費を削ることについては「賛成」が20%で、「反対」の73%を大幅に下回りました。財源として国債を発行することには「賛成」が33%、「反対」が52%だった。 

政府が相手国のミサイル発射拠点などをたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を決めたことについては、「賛成」が59%で、「反対」が27%でした。

現在から、20年前までから比較すると、多くの国民の認識は随分変わったと思います。20年前までだと、増税で防衛費を賄うのは国民の義務のような雰囲気が醸し出され、増税に賛成という国民も多く、政府としても増税しやすかったでしょう。

しかし、20年の時を経て、多くのまともなエコノミストなどが、不況やデフレ期における増税は間違いであることを指摘し続けたことと、増税するたびに経済が落ち込み続けてきたことから、これが間違いであることを多くの国民が理解したとみえます。

さらに、日本ではシルバー民主主義といわれるように、高齢者にとって優遇ともいわれるような政策が取られがちであり、高齢者は政府の経済政策にも両手をあげて賛成しがちでした。

ただ、それにはデフレ傾向であっても年金生活で年金額が変わらないというのなら、実質的にあまり生活に支障がでないということが前提でした。しかし、今回は物価高の折に増税されるのは、高齢者にとっても直接的に生活が脅かされるため、さすがにこれに賛成はできなかったのでしょう。

今回の増税に関しては、さすがにほぼ全世代がこれに反対したため、岸田政権の支持率は発足以来最低になったのでしょう。

ただ、残念なことに、財務省の長年の間違えた、あるいは意図的に間違えた、説得により、多くの国会議員や多くの国民も騙されたためか、防衛費増の財源として国債を発行することには「賛成」が33%、「反対」が52%という結果でした。

この点に関しては、これからもまともなエコノミストなどが啓蒙活動を続けていく必要があります。

いつまでも、国債は将来世代へのつけであるかのような認識を多くの人が持っているようでは、いずれ国は活力を失い、最悪滅びます。

以前のこのブログで述べたように、ドイツを含む欧州連合(EU)には、財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDPで60%を超えないこととする「マーストリヒト基準」があり、財政健全化を重視しすぎるとの声が経済専門家の間にはあります。ドイツはEUの中でも、特に財政規律を重んじる傾向があります。その意味では、日本の財務省と似たところがあります。

そのドイツですら、コロナ禍の時は一時的に減税しましたし、連邦軍のために1000億ユーロ(約13兆円)の特別基金を今年創設して、兵員数の増加、兵器の近代化、装備の調達、同盟国との新兵器の共同開発などに充て、基金の財源は、長期国債を発行して賄うのです。

にもかかわらず、日本では政治家はもとより、多くの国民が、防衛費増の財源として国債を発行することには反対しているのです。

このブログでは、マクロ経済に関しては平易に解説することを心がけてきましたが、国債の本質に関しては関しても難しい経済理論など必要ありません。

我が国では新規に発行された国債は、60年で全額現金償還するのがルールです。その財源を調達するため毎年、国債発行残高の約1/60を債務償還費として巨額の赤字国債を発行しています。

これは日本だけのルールであり、国債償還のために全額借換債を発行するのが世界の常識です。借換債を発行するなどというと、すぐに中小企業などの自転車操業のように考える人がいますが、その考えが根本的な間違いです。

中小企業、その中でも規模の小さな企業であれは、その信用力は創業社長が源です。創業者社長は人であり、その生命には限りがあります。その創業者社長が自転車操業を繰り返すのは大変危険なことです。

しかし、この創業者社長が仮に不死身だったとします。そうすれば、自転車操業してもほとんど問題はないでしょう。なぜらないくら自転車操業をしてもいつか必ず借金を返すことができます。もし、創業者社長が不死身なら、金を貸す金融機関は、それを前提として金を貸し付けるでしょう。

不死身ならいつかは必ず返してもらえるので、かなり多額の金を長期間にわたって貸し付けても安心です。不死身というなら、こんな確かなことはなく、金融機関としては、どんどん金を貸し付けたがることでしょう。

そのようなことが現実に行われています。金融機関は、政府が発行する長期国債を買っています。政府は、個人と比較すれば、不死身です。その政府が、借換債を発行することを自転車操業のように考えるのは根本的な間違いです。

日本には亜人(死なない生物)が存在する。それは「日本国政府」。

それどころか、長期国債が若干のマイナス金利になっても、多くの金融機関はこれを喜んで買います。なぜでしょう。なぜなら、まずは日本政府の財政破綻確立はかなり低いですし、ドルや米国債などを買えば、為替リスクがありますが、日本国債にはそれがないからです。たとえマイナス金利分損したとしても、大きな為替リスクはありません。

政府発行の国債があたかも個人の借金であるかのようなことを気にして、現実の脅威である中国に対応するため、NATO基準である防衛費GDP2%(+6兆円)を満たしておかないというなら、本末転倒です。

防衛増税なと嫌だといえば、財務省等は「どこかの経費を削れ」と言うかもしれません。ならば真っ先に、「債務償還費(16兆円)を削れ」と言い返すべきです。長期国債の元本は、借換債の発行で賄うのが世界の常識です。過去債務の返済に熱心の余り、日本を中国の支配下において良いはずがありません。

岸田総理に対して、「財務省は言うことを聞いてくれそうな政権で『国民に不人気なこと』をやってしまおうとする。岸田首相もある意味では被害者かもしれない」と語っています。しかし、岸田氏は安倍政権において閣僚をしていた経験もあり、安倍氏の考え方を学ぶ機会はいくらでもあったはずです。

そうして、岸田総理は以下のようなツイートをしています。


総理は「国民の意思が大切なので、防衛増税を飲め」語っています。しかし、政府は国民負担を最小限にしつつ、国防の有効性を最大にするのが使命です。時期尚早の増税による国民の真の負担は、経済成長の腰を折り、長期停滞が続くことです。総理は道徳を説くのではなく、まともなマクロ経済理論に基づいて発言し政策を決めるべきです。


道徳論では、まともな経済対策などできません。道徳論から米国では禁酒法が成立しましたが、その結果多くのギャングの資金源を提供することになりました。江戸幕府の経済対策というと、多くは結局、道徳論から贅沢禁止などの緊縮財政に走り、その多くは大失敗しています。成功事例は少ないです。財務省や岸田総理は、江戸頭から脱却すべきです。

昭和時代をレトロとして懐かしむ人もいます。そのように懐かしむことができるのは、戦争など悪いこともあったのですが、良いところもあったからに違いありません。

考えてみると、昭和時代は戦前に高橋是清が昭和恐慌からいまでいうところの、積極財政と金融緩和策で素早く抜け出したり、戦後は高度成長したとともに池田勇人は、所得倍増計画を実現しました。

戦中は巨大な戦費をまかない、その後の経済対策においても、たとえ失敗しても長くは続かず、平成年間ほど酷くはありませんでした。財務省の前身の大蔵省も、終戦直後は進駐軍の無茶な要求をのらりくらりとかわすなど、少なくとも日本経済を省益のために悪化させるようなことはしていませんでした。戦費を増税で賄うことなど、昭和の政治家には思いもよらなかったことでしょう。

高山昭和館|岐阜県高山市

明治年間も、大正年間も平成年間に比較すれば、大きな間違いはなかったと思います。少なくとも、数十年にわたりマクロ経済政策を間違えるということはありませんでした。誰かが大失敗しても、遅くてもその後数年以内に他の誰か是正しました。平成年間だけが例外でした。

そのにようなことを考えると、岸田首相も財務省も、経済に関しては、江戸時代の頭から脱却できていないようです。まずは、高橋是清の経済対策を学ぶなどして、江戸頭から脱却すべきです。ただ、財務省の高級官僚の頭は、省益を最優先するあまり、江戸時代に完璧にはまりそこから抜け出すのは不可能のようです。

そうして、増税に関しては、実施の時期の議論は、来年ということで、増税そのものもまだ決定されるには余裕があると思っている方も多いようですが、もし今年度中に防衛力強化法案が提出されて、決まれば増税は避けられないことになります。それについては、下の動画で高橋洋一氏が語っています。


そうなれば、消費税増税の三党合意の悪夢が再現されることになります。これについては、自民党の積極財政派の議員など、是非ともこの法律が成立することを阻止していただきたいものです。

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