2023年1月17日火曜日

「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」、習近平政権、ロシア見切りへ外交方針大転換―【私の論評】習近平がロシアを見限ったのは、米国の半導体規制が原因か(゚д゚)!

「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」、習近平政権、ロシア見切りへ外交方針大転換



 

 昨年12月30日に中国の外交部長(外相)に任命された秦剛氏は年明けてから早速、活発な外交活動をスタートした。1月11日からアフリカ諸国への外遊を始めたのと同時に、アメリカ・ロシア・パキスタン・韓国の4カ国の外相とも電話会談を行い、外相としてのデビューを飾った。

秦剛氏

 一連の電話会談のうち、秦外相が最初に行ったのは米国のブリンケン国務長官との会談である。1月1日の元旦、外相に任命されてからわずか2日後、秦外相はプリンケン長官と通話し、新年の挨拶を交わした上で「米中関係の改善と発展」を語り期待を寄せた。

 外相に任命される直前まで、秦氏は駐米大使を務めていたから、外相になって初めての電話会談相手が米国務長官であることは自然の成り行きとは言えるが、最大の友好国家であるロシア外相との電話会談をその後に回したことはやはり違和感を感じさせる。中国の外交姿勢に何かの変化が起きているのではないかと思いたくなるのである。

 ロシア外相との会談が実現されたのは1月9日、米中外相電話会談から8日後のことだ。同じ9日に秦外相がパキスタン、韓国外相とも電話会談を行ったから、ロシアとの関係を「特別視しない」という中国側の姿勢はそこからも伺える。

 そして中国外務省の公式発表では、秦外相は「予約(要請)に応じて」、ロシアのラブロフ外相との電話会談に臨んだという。それは要するに、「向こうからの要請がなかったら電話会談をやっていないかもしれない」ということを暗に示唆しているような表現であるが、わざと「要請されての電話会談」を強調するのにはやはり、ロシアとの距離感を示す狙いがあるのであろう。その一方、米国務長官との会談に関しては、中国側は「要請されて」との表現を使わなかった。

「3つのしない」とは

 肝心の中露外相会談の中身となると、中国外務省の公式発表では、秦外相は電話の中で「中露関係の高レベルの発展」に意欲を示しておきながらも、「中露関係の成り立つ基礎」として、「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」という「3つのしない」方針を提示したという。

 この「3つのしない」方針の意味合いを1つずつ考えてみると、「第3国をターゲットとしない」とは当然、アメリカ・EUの存在を強く意識したものであろう。つまり中国の新外相はここで、中露関係は決して欧米と対抗するための関係ではないことを、むしろ欧米に向かって表明したのである。

 もう1つ、秦外相はロシアに対して「対抗しない」との方針を示したことも大変興味深い。本来、「対抗しない」云々というのは、対抗している国同士間で関係の改善を図る時に発する言葉であって、友好国家の間でこのような表現を使われることはまずない。

 例えば日本の外相はあえて、米国国務長官や英国外相やフランス外相に向かって「対抗しない」と語るようなことは考えられない。親密関係の友好国同士の間に、「対抗する」ことは最初から想定されていないからである。

 しかし中国の秦外相は、本来なら一番の友好国であるロシアの外相に対して「対抗しない」という言葉を何気なく使った。捉えるようによってそれは、ロシアとの今までの親密関係を頭から否定するような発言でもあれば、「中露は互いに対抗しなければこれで良い」という、中露観の親密さを打ち消すような「冷たい」言い方にもなっているのである。

 そして「3つのしない」の一番目の「同盟しない」となると、要するに中国側は明確に、ロシアと同盟関係を結ぶ可能性を否定した訳である。

それまでは「無制限の関係強化」だった

 しかし、秦外相が示した中国の対露外交の「3つのしない」方針は実は、2021年以来の習政権の進む対露外交方針からの大転換である。

 それまでに、中国の外相や外交関係者は中露関係についてどう語ってきたのか。いくつかの実例をあげてみよう。

 例えば2021年1月2日、王毅外相(当時)は人民日報からのインタビュー取材において、「中露間の戦略的協力は無止境、無禁区、無上限である」と述べ、中国はロシアとの間で軍事協力の強化や同盟関係の締結を含めた、全く無制限の関係強化に対して意欲を強く示した。

 2020年10月23日、中国外務省趙立堅報道官(当時)は記者会見で、王外相と同じ表現を使って「中露協力は無止境、無禁区である」と語った。そして2022年10月4日、王外相は新華社通信のインタビュ取材で再び、「中露関係は無止境、無禁区、無上限」と強調した。

 しかし、去年の年末に王外相が退任して前述の秦剛氏は新外相に就任した。そして、ロシア外相の初電話会談ではこの新外相の発する言葉から上述の「3つの無」は完全に消えた。その代わりに、秦外相はロシア側に提示したのは前述の「3つのしない」方針であるが、それはどう考えても、これまでの「3つの無」方針に対する明確な否定であって、習政権による対露外交方針の180度の大転換であると言っても過言ではない。

 「3つの無」の「無止境・無禁区・無上限」が明らかに、軍事同盟を含めた同盟関係結成の可能性を強く示唆した表現であるのに対し、秦外相の「3つのしない」方針は真っ先に、ロシアと同盟する可能性を明確に否定した訳である。

「戦狼」報道官更迭もその一環

 そしてその意味するところすなわち、習政権は今までの数年間の「連露抗米」戦略を放棄し、米国との関係改善を図る一方、ロシアとの親密関係を根本的に見なおす方針に転じたことである。

 そう考えると、前駐米大使の秦剛氏を新外相に任命したのもまさにこのような外交方針転換の一環であって、そして秦氏は就任早々、一連の電話会談をもってこの新方針を実施に移し始めたと見て良い。

 その一方、今までに中国の「戦狼外交」の顔一つとして傲慢姿勢を貫き、欧米では受けの悪い趙立堅報道官は、秦外相の就任直後に表舞台から異動させられたこともまた、こうした外交方針の転換の現れであると理解できよう。

 このようにして中国の習政権は、対ウクライナ戦争で「負け馬」となって「世界の大国」の地位から転落したプーチンのロシアに見切りをつける一方、経済の立て直しのためには欧米との関係改善を図ろうとしていることは分かる。

 欧米との関係改善は中国の思惑通りになるとは限らないが、中露関係は新しい局面を迎えようとしていることは確実であろう。

石 平(評論家)

【私の論評】習近平がロシアを見限ったのは、米国の半導体規制が原因か(゚д゚)!

昨年の暮には、このブログでは、中露の結びつきが強くなるかもしれないことを懸念しました。その記事のリンクを掲載します。
プーチンが「戦争」を初めて認めた理由―【私の論評】戦争・コロナで弱体化する中露が強く結びつけは、和平は遠のく(゚д゚)!

30日、モスクワで、中国の習国家主席(左)とオンライン形式で会談するプーチン露大統領

この記事は、昨年12月30日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

プーチンと 習近平は30日、オンライン形式で会談しました。露大統領府によると、プーチン氏は会談の冒頭、習氏に訪露を招請し、来春のモスクワ訪問に向けて準備していることを明らかにしました。ウクライナ侵略後の米欧からの圧力に対し、中露の軍事協力の拡大で対抗する姿勢も強調しました。

さらにこの記事から引用します。

来年の4月頃には、このブログにも以前掲載したとおり、サマーズ氏が予告したように、中国は国内生産(GDP)で米国を追い越すと言われていた国とは思えないような国になっているでしょう。その頃には、中国の最大の課題はコロナ禍からの回復に絞られているはずです。 
プーチンはこのことも理解していると思われます。にもかかわらす、来春に習の訪露を招請するのでしょうか。 
コロナで弱りきった中国は、西側諸国のように同盟国は存在せず、しかも現状では西側諸国と対立しており、コロナ復興は自力で行わなければなりません。コロナ前の中国なら、先あげた二番目のシナリオで、和平どころか、プーチン大統領の説得にも動かず、現在のポジションを維持をする公算が高かったと考えられます。 
しかし、弱りきった中国なら、ロシアにかなり接近してくる可能性は高まるでしょう。特に、エネルギーや食料に関しては、中国はロシアにかなり頼れそうです。ロシア側とすれば、中国に武器に関しては頼れそうです。両者の利益が合致して、なりふり構わず、両者のパートナーシップは強まり、同盟関係に近くなるかもしれません。
結局、習近平はこうしたプーチンの意図を読み解いた上で、これは得策ではないと判断したのでしょう。

現状で中国が最も欲しいのは、半導体です。このブログでも以前掲載したように、バイデン政権は昨年もさらに中国に対して半導体規制を行っており、もはや中国では、新型の半導体は製造できず、輸入もできない状態になっています。

しかし、ロシアにはこれを中国に提供できる程の半導体技術はありません。半導体製造機械も、日米蘭の独壇場で、これも無論提供できません。

それでも中国は健在の段階だと、新型ではない半導体は、自らも製造できますし、輸入もできます。たとえば、現状ではスマホでいうと、5G関連半導体は輸入も、製造もできません。しかし、4G関連なら輸入、製造ともできます。

現状のロシアは、半導体そのものが製造も輸入もできない状態にあります。ロシアとして、古いタイプの中国の半導体でも入手したいと考えていることでしょう。

中露関係が緊密になれば、当然ロシアはこれを中国に要求することでしょう。そうなれば、どうなるかと、習近平は考えたのでしょう。もし、中国が一世代前の半導体でも提供するということになれば、米国はさらに中国に対する制裁を厳しくするだろうと、考えたのだと思います。

苦悩する習近平 AI画像

現状だと、たとえば、5Gが古くなり、6Gが新しいものになった場合、6G対応の半導体は、中国が輸入したり、製造できるようになる可能性はあります。

ただ、中露が接近して、同盟関係に近くなれば、米国は制裁をさらに強めて、半導体そのものを輸入も製造もできなくする可能性があります。

そうなれば、中国も現在のロシアと同じような状況になります。それでも、中露は抜け道を探すでしょうが、それでも入手できる半導体には限りがあり、兵器の製造そのものにかなり支障が出ることになります。

習近平としては、このような最悪な事態は避けたかったのでしょう。今回、中国がこのような態度にでたことで、ロシアは徹底的に追い込まれことになるでしょう。

ウクライナは半導体を入手できるでしょうから、これからも独自の兵器開発ができます。ちなみに、ウクライナは中国の軍事技術の基礎を築いた実績があります。今はまだ、余裕もないですが、いずれ独自の兵器の開発もする可能性は十分あります。

ロシアに対する半導体の輸出・販売禁止はウクライナ戦争が始まってからすぐに実行されています。

半導体などを外国から調達するのが困難となったため「ウラルワゴンザボード」と「チェリャビンスクトラクター工場」というロシア軍の戦車を生産する2大拠点が操業停止に追い込まれたとされています。

ロシアの戦車工場

ロシア軍は戦車などの兵器に外国産の半導体を多く使用していて、特に台湾の大手TSMCに依存していたと言われています。

そのためTSMCが米国などの意向を受けてロシアでの販売停止を決めたことが、大きな打撃になっています。

ただロシア軍は軍事用の半導体が入手できないことから、家電などで使われている民間の半導体を転用しているという指摘があります。

米国議会の公聴会の場でレモンド商務長官は、ウクライナ側からロシア軍の兵器には皿洗い機や冷蔵庫から取り出した半導体が搭載されていたと報告を受けたと発言していました。

現状は、ウクライナもロシアも弾薬が不足気味のようで、戦線は膠着していますが、中国がロシアに対して、見切り外交に舵を切ったことから、今後はウクライナのほうが圧倒的に有利になる可能性がでてきました。

今春に習近平はロシアを訪問するのでしょうか、私は訪問しない可能性も出てきたと思います。訪問したとしても、型通りの話ししかなく、形式的なものになる可能性が高まってきたものと思います。

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2023年1月16日月曜日

「国債60年償還ルール」と「減債基金」の廃止で、30兆円の埋蔵金が…防衛費増額も本当はこれで解決する―【私の論評】2月後半の令和5年度予算成立まで、自民党内政局は水面下で動くか(゚д゚)!

「国債60年償還ルール」と「減債基金」の廃止で、30兆円の埋蔵金が…防衛費増額も本当はこれで解決する


財務省はまた否定的だが

 防衛費増額の財源確保をめぐり、自民党は近く国債を返済する仕組みである「60年償還ルール」を見直す議論を始める。

 自民党の萩生田光一政調会長は、自らをトップとする特命委員会を近く設置し、増税以外の防衛財源捻出策を議論する考えだ。償還年数の延長や償還ルールの廃止は財源捻出になる。世耕弘成参院幹事長も「(特命委が)償還ルールを議論する場になればいい」と同調している。

 この動きを後押しするのは、自民党若手有志による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」(共同代表は中村裕之、顧問城内実)。同連盟はルール自体の廃止を唱え、「償還費を防衛費などに振り向けることについて検討すべきだ」と訴える。

 一方、政府は消極的だ。松野博一官房長官は1月12日の記者会見で「毎年度の債務償還費が減少する分、一般会計の赤字国債は減るが、その分、特別会計の借換債が増える」と指摘。「財政に対する市場の信認を損ねかねない」と語った。その背後には財務省があり、財政規律の観点から見直しに否定的だ。

 60年償還ルールとはどのようなものでなぜ作られたのか。緩和や撤廃をすると問題は生じるのか。

 筆者は、今から30年ほど前の大蔵省(現・財務省)の役人時代に、国債整理基金の担当をしたことがある。その当時、海外の国債管理担当者に対して、「日本では減債基金があるので国債が信用されている」と言った。それに対し、海外の先進国から「うちの国は減債基金がかつてあったものの今はないが、なぜ日本にはあるのか」「借金しながら減債基金への繰入のためにさらに借金するのはいかがなものか」と反論され、まともな再反論が出来ずに参ったことがある。まったく彼らの言うとおりだからだ。

 よく考えてみたら、日本でも民間会社は社債を発行しているが、減債基金という話は聞かない。減債基金の積立のために、さらに借金をするのはおかしいというのは誰でもわかる話だ。

  異例の「減債基金」存在の理由

 民間の社債では、借り換えをして、余裕が出たときに償還するというのが一般的だ。これは、海外の国債でも同じなので、海外の先進国でも、かつては国債の減債基金は存在していたが、今ではなくなっている。

 さらに、金利環境に応じて買入償却するなど国債全体をいかに効率的に管理するかが重要なので、金融のプロを国債管理で配置し、債務管理庁などのプロ組織にしている。

 減債基金は、債券関係の用語だ。辞書には「国債を漸次償還し、その残高を減らすために積み立てる基金」とあるが、国債に限らず地方債にもある。国債の減債基金を「国債整理基金」という。

 60年償還ルールは、減債基金のためにどのように繰り入れるかを示すものだ。建設国債の場合、社会インフラの構築のために発行されるが、その耐用年数が60年程度なので、それに合わせて60年償還とされている。減債基金への毎年の繰入額は国債残高の60分の1で1.6%ということになる。

 それではなぜ日本では減債基金が存在しているのだろうか。地方は国の国債整理基金があるからというだろう。では国の国債整理基金はなぜあるのか。建前としては、国債の償還を円滑に行い、国債の信認を保つためという。これは筆者が30年前に言わされた公式見解だ。しかし、本音でいえば、国の予算作りのために便利な道具だからだ。

 まず、国債費のうち債務償還費(国債整理基金への繰入)といって、毎年10兆円程度以上(2023年度予算で16.4兆円)の予算の水増しが可能になる。本来であれば、債務償還費は不要なので、その分国債発行額を減らせる。少なくとも日本以外の先進国ではみなそうなっている。しかし、日本では国債発行額が膨らむが、財務省にとって財政危機を煽れるメリットがある。

 また、国債金利の市場金利は低いにもかかわらず、予算上の積算金利は市場金利より高めに設定し、国債費のうち利払費を水増ししている。こうした水増しは、年度途中で補正予算を作るときに財源となる。補正予算の財源になるのであれば、水増しは国民に実害がなくそう目くじらをたてることもないが、この点からも、必要以上に国債発行額を膨らまして、財政危機を煽るという悪い面が目立っている。

 的外れの反論

 総務省は、減債基金を金科玉条にして、諸規制によって地方自治体に起債などを統制しようとする。筆者が総務省にいた2007年頃、公募地方債金利を自由化したが、総務省官僚は猛烈な抵抗を示した。その理由は市場によるコントロールではなく自分たちが統制したいというものだ。そうした主張に減債基金がしばしば使われるのだが、それは違うだろう。

 いずれにしても、日本では、国債・地方債の減債基金はまだ存在している。大学の財政学のテキストにも、国債・地方債の減債基金の制度やその重要性が説明されている。ただ、海外では存在していないことや、減債基金がなぜ必要なのかについてはあまり言及されない。もし学生がそうした質問をしたら、大学教員は困るだろう。

 国際基準からの正解は、まず60年償還ルールを廃止してプロの債務管理庁を創設することだ。

 60年償還ルールを廃止すると国債の信任が失われると財務省はいうが、他国の例から的外れだ。また、過去に1.6%の債務償還費を計上しなかったことも、1982~89年、1993~95年と11回もあるが、国債の信任という問題になっていない。

 60年債務償還ルールを持ちだすと、財務省からは、アメリカでは債務上限ルールがあり、ドイツでは国債発行を例外とするルールがあるという、やや的外れの反論もある。それらに対し、筆者は、アメリカの債務上限はあまりにバカげていて、毎年のように政治取引に使われており、参考とすべき例でない、ドイツについては欧州の国は債務をEU機関に振り替えられるので全体として見れば緩く、一部だけを切り取りのは不適切と再反論してきた。財務省は筆者が当時の大蔵省見解を言った30年前からまったく進化していないのは驚く。

 国で60年償還ルール、減債基金を見直し・廃止すると地方まで波及する。それは地方財政に無用な制約をなくして財政余力が高まることを意味する。

 地方の場合、減債基金残高は2~3兆円であるが、そのほかに満期一括償還に備えた積立金が10兆円程度ある。国の償還ルール変更により、地方もおそらく10数兆円程度の財政余裕になるだろう。

 国と地方をあわせて30兆円程度の財源になり得る。これは令和の埋蔵金だ。4月に統一地方選があるので、国の償還ルールの見直しを是非とも政治課題にすべきだ。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】2月後半の令和5年度予算成立まで、自民党内政局は水面下で動くか(゚д゚)!

「国債60年償還ルール」と「減債基金」の廃止で、30兆円の財源を捻出できることは、すでに多くの人が指摘していました。

私自身も以前このブログで財源となりうるものを列挙したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
①特別会計剰余金(円安効果で外為特会増加分約30兆円)
②一般会計剰余金(昨年度は6.3兆円)
③自然増収(昨年度は9.5兆円)
④国債60年償還ルール撤廃(毎年の国債費16兆円が浮く)
私の場合は、「国債60年償還ルール」だけを考えていたので、16兆円であると考えてはいましたが、「減債基金」の廃止で合計30兆円は財源としてつかえます。増税の効果などもあり、増収は今年度も十分に見込めます。円安効果は、最近は若干薄れてきたものの、これは日銀が実質的な利上げをしたせいですが、これをやめれば、十分に財源化できます。

このようなこと、誰でも思いつきますし、多くの政治家や評論家などもこれについて語っていました。

ただ、これを自民党の萩生田光一政調会長が、自らをトップとする特命委員会を近く設置して、議論するといいだしたわけです。岸田総理の「検討」とは、意味合いが違います。萩生田光一氏が具体的に言い出したということで、これはかなり意味のあることです。

萩生田光一政調会長

見直しの検討を主張する自民党の萩生田光一政調会長は、償還年数を80年に延長する案に言及しています。延長すれば、毎年度の債務償還費を減らせます。
自民党若手有志による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」はルール自体の廃止を唱え、「償還費を防衛費などに振り向けることについて検討すべきだ」と訴えています。

昨日もこのブログに掲載したように、菅義偉前首相が、岸田首相の「派閥主導の政治」や、増税路線に苦言を呈した。

菅前総理

これだけの動きがあれば、いずれ政局の動きになるのは確実であるとみられます。

当面の政治日程は以下のとおりです。
1月23日 通常国会召集
2月下旬? 2023年度予算成立
4月8日 黒田東彦日銀総裁の任期満了
4月9日 統一地方選前半戦 
4月23日 統一地方選後半戦(衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区補欠選挙の見通し)
5月19日 G7広島サミット(21日まで)
現在のところ、財源確保法案に向けての、閣議決定の動きはまだ見えていません。通常国会への提出はされないかもしれません。ただ、提出されれば、財務省等による自民党各派閥への根回しなどは終了したことを意味しており、増税が決められてしまうことになります。

今国会では増税が決められないにしても、岸田首相は増税の方向性をはっきり打ち出していますし、日銀の黒田総裁の後任人事では、金融引締め派の総裁に決まることが、懸念されています。

そうなると、2 月後半の2023年度予算成立をもって、自民党内が大きな政局になる可能性が高まったといえます。それまでは、水面下で、政局がすすんでいき、2月後半で動きが見えてくると考えられます。岸田首相に関しては、G7広島サミット後勇退論が囁かれていましたが、これを前に辞任に追い込まれる可能性がでてきたといえます。

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2023年1月15日日曜日

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 2023年が幕を開け、国内外の情勢が風雲急を告げている。欧米歴訪中の岸田文雄首相は13日午前(日本時間14日未明)、ジョー・バイデン米大統領とワシントンのホワイトハウスで会談し、軍事的覇権拡大を進める中国などを念頭に「日米同盟の強化」などで一致した。一方、国内では菅義偉前首相が、岸田首相の「派閥主導の政治」や、増税路線に苦言を呈した。内閣支持率が低迷するなか、十分な説明や議論のないまま「大増税路線」に突き進む岸田政権に待ったをかけたのか。「政局の嵐」が吹き荒れそうだ。


 「派閥政治を引きずっているとのメッセージになり、国民の見る目は厳しくなる」

 菅氏は10日発売の月刊誌「文芸春秋」のインタビューで、首相就任後も宏池会の会長を続ける岸田首相をこう批判した。同日夜、菅氏は外遊先のベトナムでも、岸田首相の経済政策について次のように語った。

 「『少子化対策』は極めて重要だと思うが、消費税を増税してやるということは(私は)まったく考えていない」

 岸田首相は年明け4日の年頭記者会見で、「異次元の少子化対策」を打ち出した。首相に近い自民党の甘利明前幹事長は翌5日放送のBSテレ東番組で「消費税増税論」に言及した。菅氏はこれに異議を唱えたのだ。

 さらに、菅氏はベトナムで記者団に、「政治家は国民の負託を受けている。自らの理念や政策よりも、派閥の意向を優先するようなことはすべきでない」「歴代の多くは所属派閥を出て務めていた」などと続けた。

 この経緯をどう見るのか。

 菅氏の取材を20年近く続けるジャーナリストの鈴木哲夫氏は「月刊誌での発言、マスコミへの発信を含め、入念にタイミングを計算していた。岸田首相への『宣戦布告』だろう」と分析した。

 菅氏の上げた〝狼煙〟は波紋を呼んだ。

 菅氏が一昨年の自民党総裁選で推した河野太郎デジタル相は11日、「言うことも分からないではない。自民党の中はいろいろなものが派閥で動いているが、国民と向き合うのが大事」と述べた。

 石破茂元幹事長も13日のTBSのCS番組収録で、「至極全うなことを言っている。形式として(首相になれば)派閥を離れるのは自民党の良識ではなかったか」と同調した。

 一方、安倍晋三元首相が率いた安倍派所属の世耕弘成参院幹事長は「岸田首相が派閥色を露骨に出して仕事をしたり、決定したことは全くなかった」としながら、「派閥のトップ、派閥を離脱して首相や総裁を務めるというのが、安倍首相までの慣例だった。岸田首相自身が判断すればよい」と語った。

 支持率低迷に直面する岸田政権は今年、統一地方選や衆院補選を控える。岸田首相が強い意欲を示す、5月に地元・広島で開催するG7(先進7カ国)首脳会議もにらみつつ、衆院解散に打って出るかが注目だ。

 前出の鈴木氏は「だからこそ、菅氏は『政局』の年と見極めた。まずは増税路線に反対したが、安全保障政策などを含め、さらに対案を提示していくだろう」とみる。

 具体的な動きは、どうなりそうか。

 自民党内の勢力図=別表=は複雑だ。岸田首相は自身の岸田派と、茂木敏充幹事長の茂木派、麻生太郎副総裁の麻生派で主流派を形成するが、岸田派は第4派閥で、基盤は脆弱(ぜいじゃく)だ。

 一方、菅氏は無派閥系議員に加え、二階俊博元幹事長の二階派、森山裕選挙対策委員長が率いる森山派との連携も強める。最大派閥で岸田政権と距離がある安倍派の有力者、萩生田光一政調会長とも距離が近い。

 勉強会で勢力結集「ポスト岸田」人材探しか

 鈴木氏は「岸田政権の増税方針は、財務省による『安倍派への報復』という側面がある。岸田首相はこうした官僚主導に乗っているが、政治主導を目指す菅氏が最も嫌う方向性だ」と指摘する。

 菅氏と岸田首相には因縁がある。2021年10月に退陣した菅政権の末期、〝菅降ろし〟の火ブタを切ったのは、政調会長の岸田首相だった。

 菅氏は退陣後、目立った行動を避けてきた。菅氏の今回の動きについて、立憲民主党の安住淳国対委員長は「いろいろな意味で、自民党内に不満がたまっている証拠かなと思う」と分析した。

 鈴木氏は「岸田首相は最近、茂木氏、麻生氏と距離感も出つつある。菅氏は、安倍氏の悲報を受けて喪に服していたが、いよいよ動き出す決断をした。当面は、勉強会などの形で、勢力を結集し、政治情勢もみながら、『ポスト岸田』の適任となる人材を見定めていくことになるのではないか」と語った。

【自民党派閥勢力】

《主流派》岸田派(宏池会) 43人 茂木派(平成研究会) 53人 麻生派(志公会) 53人

《非主流派》安倍派(清和政策研究会) 96人 二階派(志帥会) 43人 森山派(近未来政治研究会) 7人

《無派閥》 83人

※国会資料などをもとに作成

【私の論評】とうとう菅前総理は、党内「積極財政派」対「緊縮派+財務省」の拮抗を崩す戦いに参戦したか(゚д゚)!

私は、このブログに以前「菅氏再登板」待望論を掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
菅義偉氏、岸田首相に反旗か 派閥政治、増税を批判「国民の声が届きにくくなっている」 自民党議員「意趣返しする意向があるのでは」との声も―【私の論評】今となっては短期政権になった理由が良くわからない菅政権、菅氏の再登板はあり得る(゚д゚)!

菅前首相(左)は、岸田首相の官僚主導政治に反発したのか

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より一部を引用します。

増税一辺倒の岸田氏と比較すれば、菅氏の政策や安定感には定評があるほか、仕事師という異名を持つほど、徹底した仕事ぶりで、岸田首相が唐突に辞任するようなことがあれば当面の“リリーフ(継投)”として白羽の矢が立つ可能性は十分にあります。安倍元首相も1年で辞任した後、再登板して戦後最長の長期政権を築いたという事例もあります。

「検討師」などと揶揄される岸田氏から比較すれば、菅氏の仕事師ぶりが、ますます光りを増したともいえます。岸田首相が、経済面でも安倍路線を引き継いでいれば、こんなことにはならかったかもしれれません。
私自身は、菅元総理が再登板していただくのが、現状では最も良いと思います。ただ菅元総理としては、コロナ政策など本来は他国などと比較すれば、成功だったにもかかわらず、マスコミ等に印象操作をされて、失敗であるかのように喧伝され、挙句の果てに宏池会が、菅降ろしの口火を切るなどのことをされ、結局自ら辞任したという苦い経験があります。

そのため、自身が返り咲くというよりは、上の記事にもあるように、「ポスト岸田」の人材を派閥との関係とは無関係に見出し、自らがメンターとなり、育て上げいずれ総裁選に出馬させるという意図があるのかもしれません。これは、亡くなった安倍元総理もそのようなことをいずれするつもりだっようです。ただし、それにはまだ時間がかかります。

現状では岸田首相に反旗というよりは、岸田首相に変化を促していると見たほうが良いかもしれません。


昨日は、このブログに以下のような現状の政局の見たてをあげました。
岸田総理は安保では、安倍路線を引き継ぐ行動をするのに、経済面ではそうではありません。両方とも引き継いだ上で、それ以外のところで、岸田色を出せば、今日のような事態を招くことなく、政権は安定したとみられるので、この点は、残念でなりません。

それに、将来日本の経済が落ち込めば、安保にも悪い影響を及ぼすことにもなりかねません。そうなれば、日本と安全保障で関係のある米英豪等の国々にも悪影響を及ぼすことになりかねません。

これは、安保に関しては、今や日本国内だけを考えていれば良いということはなく、米英をはじめとする西側諸国との関係の中で考えなければならず、他国との関係で行動しなければならないからかもしれません。

日本国経済に関しては、無論貿易関係にあることから、他国のことも考慮しなければならないところもありますが、現状では安保ほどではないということがあるのかもしれません。

さらに、日本国経済に他国が口を挟むということなれば、内政干渉と受け取られることになりかねず、他国も日本経済に対して、口を挟むようなことしずらいということがあるのでしょう。
一昨年秋の自民党総裁選挙で争った総理大臣の岸田文雄と、政務調査会長の高市早苗。その2人のもとに財政政策を議論する2つの組織が発足しました。

岸田のもとにできた組織の最高顧問は党副総裁の麻生太郎、名称は「財政健全化推進本部」、高市のもとにできた組織の最高顧問は元総理大臣の安倍晋、名称は「財政政策検討本部」です。

自民党内では、財政再建派と、積極財政派と色分けすると、積極財政派が多数となっているといわれています。

ただ、財政再建派は数は少ないものの、年齢がどちらかというと高めで、しかも財務省がバックについています。積極財政派のほうが数自体としては、多めですが、年齢は財政再建派と比較すると、低めで、しかも財務省のバックはついていないということで、現状では両派は、拮抗しているようです。

現状では、岸田総理は、閣議決定などで、増税をすすめようとはしているものの、そうなれば積極財政派らの激しい反発は必定であり、本格的な岸田おろしの政局になりかねず、考えあぐねている最中であると考えられます。

増税に関しては、実は多くの人が思う以上に、切迫しています。1月27日からはじまる通常国会に防衛増税確保法案が出されることが閣議決定されれば、それでほぼ防衛増税が決まり、その後は消費税増税もいずれ15%は決まりになるだろという見立てを高橋洋一氏はしています。実際、財務省はそれを目指して、昨年から動いて、多くの議員等を説得しているとみられます。

おそらく、増税確保法案が出されることになれば、財務省や岸田政権による各派閥に対する根回しは終了しており、国会では野党などの反対はあるものの、最終的には多数決で決定してしまうでしょう。

こうなると、かつて三党合意で「消費税増税」が決まってしまったのと、同じで、結局安倍総理が2度も増税延期をしたにもかかわらず、結局は総理在任中に2度も消費税増税しなくてはならなくなってしまったのと同じ状況になることが予想されます。

政局があって、岸田総理が総理をやめようが、誰が総理大臣になろうが、防衛増税とそれに続く消費税増税もやらざるを得ない状況に追い込まれる可能性が高いのです。

だかこそ、自民党内部の会議では、積極財政派の大怒号が飛び交うようなことがあったのですが、軽減税率の適用を受けている新聞社などは、こうしたことは背景はほとんど報道しません。テレビ局と新聞社は提携会社や協力会社という関係性にあり、各テレビ局のニュース系列と全国紙との結びつきは強く、テレビもほとんど報道しません。


菅前総理としては、無論このような状況は熟知しており、自分が総理になろうとか、岸田降ろしを主導しようというのではなく、岸田総理の増税に対する翻意を促そうとしているのではないかと考えられます。

確かに、防衛増税、消費是増税などをしてしまえば、昨年の参議院選公約でそのようなことを示していない岸田総理に対する国民や党内外からの風当たりは相当強くなり、退陣に追い込まれることになるでしょうし、その後誰が総理になったにしても、日本経済は落ち込み、雇用も悪化し、自民党政権の基盤は揺らいでしまいます。下手をすれば、自民党は再び下野する可能性も否定しきれません。

そのような事態を防ぐためにも、派閥に属しない菅前総理は、現在の拮抗する、「自民党積極財政派」対「自民党緊縮財政派+財務省」の争いに参戦し、何らかの方法でこのバランスを「積極財政派」に有利にしようと目論んでいるのかもしれません。

確かに、この戦いには、派閥に属さいない菅前首相は適任だと思います。菅前総理は、安倍元総理に比較すると、マクロ経済に関しては詳しくはないですが、少なくとも増税すべきではない時期、増税すべき時期の判断はつくようです。そうして、判断がつけば、その方向に向かって行動し、仕事師の本領を発揮できる人です。

自民の「積極財政派」及び「緊縮派」の議員もいずれかの派閥に属しています。出身派閥の意向を完全に無視することはできません。そこに、菅前総理が参戦すれば、「積極財政派」議員も動きやすくなると考えられます。

過去の自民党総裁選では「数の力」を背景に主要派閥の出身者が選出されることが多く、中でも1990年代以降の勝者は国会議員の2世、3世がほとんどを占めてきました。その中で、派閥にも属さず、世襲議員でもない菅氏が、いくら安倍氏が病気で辞任したという変則的な状況であったにしても、総理大臣になったことは奇跡ともいえます。

こうした奇跡を起こした菅前総理に、再び新たな奇跡をおこしていただきたいです。

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2023年1月14日土曜日

「日英同盟」復活! 岸田首相が〝安倍レガシー〟継承 共産中国の脅威が目前、協定署名にこぎつけた「グッドジョブ」―【私の論評】地政学的にもともと関係を強化することが運命づけられている日英(゚д゚)!

「日英同盟」復活! 岸田首相が〝安倍レガシー〟継承 共産中国の脅威が目前、協定署名にこぎつけた「グッドジョブ」

【有本香の以読制毒】

  戦争、疫病、隣国から迫りくる軍事的脅威…。年が改まっても悪いニュースばかりで気が滅入るという向きも少なくなかろう。そんななか、少しばかり意気上がるニュースが聞こえてきた。

「円滑化協定」の署名を終えて握手をする岸田首相とスナク英首相
 英国訪問した岸田文雄首相と、リシ・スナク英首相は11日(日本時間同)、防衛分野での協力強化に向け、自衛隊と英軍部隊の共同訓練を推進し、相互往来をスムーズにする「円滑化協定(RAA)」に署名した。 

 本件は昨年5月すでに、日英両政府が大枠で合意していた。当時は首相就任前だったスナク氏は、この協定を「両国にとって非常に重要であり、インド太平洋に対するわれわれのコミットメントを強固にするもの」と表現した。

  ちなみに2020年、当時の菅義偉首相と、オーストラリアのスコット・モリソン首相(同)が、同じ「円滑化協定」に合意した際には、オーストラリア最大の全国紙「「The Australian(オーストラリアン)」はこれを、「防衛協定(=安保条約と言い換えてもいい)」という単語を使って報じている。

  これに倣うなら、今回の日英首脳の署名はさしずめ「日英同盟の復活」ともいえる。だが、果たして、この一大事にふさわしい報じ方を、日本の大メディアがするかというと、甚だ心もとないのである。

 というのも、20年のオーストラリアとの合意の際、「オーストラリアン」の書きぶりと比べると、日本メディアがいずれも、抑制的過ぎる表現に終始したからだ。 

 具体例を挙げると、日豪の合意に中国が激しく反発したことを、オーストラリアンはこう書いた。

  「北京のプロパガンダ機関は、オーストラリアと日本は〝歴史的な防衛協定〟に署名したことで代償を払うことになる、と言い、両国は米国の『道具』だと非難している」 なかなか辛辣(しんらつ)だ。

 しかし、一方の日本メディアは、というと、おしなべて対照的に、まるで北京のご機嫌を損ねないよう忖度(そんたく)したかと思われるほどの控えめな表現だった。当時の各紙一報の見出しは次のとおりだ。

 「日豪首脳が会談 軍事訓練に関する協定合意、中国を牽制(けんせい)」(朝日新聞)

 「日豪首脳会談 『円滑化協定』に大枠合意 中国念頭『インド太平洋』推進」(産経新聞)

 「日豪、訓練円滑化で協定 首脳会談、大枠合意」(毎日新聞) 

 「『自由で開かれたインド太平洋』実現へ日豪で連携強化…首脳会談で一致」(読売新聞) 

 今回も、英国との円滑化協定署名を「日英同盟復活」と表現するのは筆者と夕刊フジのみだろうが、これは実際、それほどの重みを持つ。日本の未来に多大な影響を与えるだろう。

 かつて、非白人国家の日本が、「無敵」といわれたロシアのバルチック艦隊を打ち破って勝利し、世界を驚かせた日露戦争。その戦果も、日英同盟によるところが大きかった。100年以上の時を経て、共産中国の脅威を目前にするいま、再びこの「同盟」を力とする私たちでありたい。

2017年日本を訪問したテリサ・メイ首相(当時)と安倍首相(当時)

 今般、協定署名にこぎつけた岸田首相のグッドジョブを大いに評価し、さらに、この日英同盟復活への路線を敷いた故・安倍晋三元首相の功績に改めて感謝を申し上げたい。 ■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

【私の論評】地政学的にもともと関係を強化することが運命づけられている日英(゚д゚)!


英国との円滑化協定署名は事実上の「日英同盟復活」です。そもそも、日英は同盟すべき理由があります。それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
英国政府、TPP参加で“中国包囲網” 日米豪印「クアッド」にも参加検討 識者「親中懸念のバイデン米政権の不安埋めてくれる」 ―【私の論評】日本と英国は、ユーラシアのランドパワーに対峙している(゚д゚)!
この記事は、2021年2月のものです。
東西冷戦時代から今日に至るまで、アジア太平洋地域では、米国を中心に、日本、韓国、フィリピン、タイ、オーストラリアがそれぞれ別個に同盟を結んでいました。それは「ハブ・アンド・スポークの同盟」と呼ばれ、米国が常にハブであり、スポークがその相手国でした。これに対して、欧州のNATOのように複数の国が互いに同盟を結び、協力し合う関係を、「ネットワーク型の同盟」と呼びます。

ハブ・アンド・スポーク同盟の最大の問題は、協力し合う相手が常に一国しかないために、国同士の利害が一致しない場合、機能不全に陥ることです。また、二国間の力のバランスに大きな差があると、弱い側が常に強い側に寄り添う追従主義に陥りがちであり、スポークの国は戦略的に自律するのが難しいです。そのため、2000年代以降、スポークの国同士の協力が急速に進展してきています。

具体的には、日本では安倍政権発足以来、政府の首脳陣がほとんど毎月のように東南アジア、南アジア、さらに欧州諸国に足を伸ばし、安全保障協力を拡大しようとしていますし、自衛隊も、オーストラリア、インドなどと定期的に共同の演習を実施しています。また、日米とオーストラリアとインド(クアッド)、日米と韓国、日米とインドといった三国間での安全保障協力も進んでいます。米国との同盟関係を共有する国同士が個別に同盟関係を築き、米国との同盟を支えようとしているのです。
ただし、このようなネットワーク型の同盟には、NATOにとっての米英がそうであるように、コアとなる二国間関係が必要です。日英同盟はまさにそのコアになりえます。

日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っています。
ユーラシア大陸の両端に位置する海洋国家、英国と日本
日本は中国の海洋進出を警戒しているし、英国はロシアの覇権を抑え込んできました。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙(たいじ)しているようにも見えますが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのです。

その両国が、TPPとクアッド+英国で、協力しあうのは、まさに理にかなっているといえます。さらには、ファイブアイスとの関係を強化していくこともそうだと思います。
日英は100年前には、日英同盟を組んでいました。日露戦争の勝利や第一次世界大戦後、「(戦勝)五大国」に列せられるまでになったのは、日英同盟の存在が大きいです。

この同盟が破棄された背景は、以下の記事をご覧になってください。
日本の命運を暗転させた日英同盟廃棄の教訓| 「新・日英同盟」の行方(5)
同盟関係の解消と、日本の国際連盟の脱退、日独伊三国同盟締結、太平洋戦争開戦、そして敗戦と日本の命運が180度暗転したこととは、決して無関係ではありません。

英国にとっても、この解消は決して良い結果を招きませんでした。第二次世界大戦において、最も得をした国と、損をした国はどこかとえば、多くの日本人は米英と答えるかもしれません。

しかし、それは真実とはいえません。損をした国は、はっきりしています。それは、無論日独です。これは、論を待たないでしょう。

では、最大に得をした国は、どこかといえば、それは米英とはいえないでしょう。それは、当時のソ連です。ソ連は、日本の北方領土を含む、領土を増やすとともに、東ヨーロッパ諸国を衛星国とし、覇権を強化し、国連では常任理事国の地位を得ました。

米国は、ソ連と比較すれば、損も得もしなかったといえます。英国はどうかといえば、領土は失い、基軸通貨を失い、覇権も弱まり、どちらかといえば、損をした国ということができます。

中国はといえば、終戦直後は国民党による中華民国は、大陸から追い出され、新たな共産党国家にとって変わられたということから、中華民国からみれば、この戦争で大損したといえます。中共にとっては、戦後中華人民共和国を設立できたということで、得したといえます。

このように、多くの日本人が、第二次世界大戦に勝った国と思っている英国は、あまり得られるところがなかったといえます。

もし、先の日英同盟が破棄されていなかったら、英国は朝鮮半島ならびに中国において、当時ソ連と対峙していた日本の立場を理解して、欧米諸国を説得、日本も説得し、互いに歩み寄れるところは、歩み寄り、第二次世界大戦において、最もソ連が得するようなことは、回避できたかもしれません。

しかし、ご承知のとおり歴史には「もし・・・」という言葉は成り立ちません。ただ、歴史から学ぶことはできます。

やはり、日英というシーパワー国が、ランドパワー国のロシア、中国を間に挟んで、両側から対峙しているという構図のほうが英国にとっても良かったし、これかもそうだといえると思います。

先の日英同盟を結んでいた100年前と、時代は変わりましたが、この構図は変わらないどころか、中国の海洋進出、ロシアのウクライナな侵攻等により、増々顕著になってきたといえます。

ユーラシア大陸があり、そこにランドバワー国が存在し、シーパワー国日英が、それを挟む形になっていることから、日英は、地政学的にもともと関係を強化することが運命づけられているともいえます。

とはいえ、100年間も途切れた日英同盟を復活されることに貢献された、安倍元総理と、実際に「円滑化協定(RAA)」に署名し事実上の同盟関係を築いた岸田総理には敬意を表したいです。


それにしても、岸田総理は安保では、安倍路線を引き継ぐ行動をするのに、経済面ではそうではありません。両方とも引き継いだ上で、それ以外のところで、岸田色を出せば、今日のような事態を招くことなく、政権は安定したとみられるので、この点は、残念でなりません。

それに、将来日本の経済が落ち込めば、安保にも悪い影響を及ぼすことにもなりかねません。そうなれば、日本と安全保障で関係のある米英豪等の国々にも悪影響を及ぼすことになりかねません。

これは、安保に関しては、今や日本国内だけを考えていれば良いということはなく、米英をはじめとする西側諸国との関係の中で考えなければならず、他国との関係で行動しなければならないからかもしれません。

日本国経済に関しては、無論貿易関係にあることから、他国のことも考慮しなければならないところもありますが、現状では安保ほどではないということがあるのかもしれません。

さらに、日本国経済に他国が口を挟むということなれば、内政干渉と受け取られることになりかねず、他国も日本経済に対して、口を挟むようなことしずらいということがあるのでしょう。しかし、これは何とかして逆手に取るということもできるかもしれません。

これは、現在思案中です。


国際法秩序を無視した中国外交に歯止めを— 【私の論評】国際法を無視し、弁証法すら捨てた中共に未来なし!(◎_◎;)

対中国機密包囲網『ファイブ・アイズ』に日本参戦へ! 自由と民主主義を守るための戦い…英も独仏より日本の参加を待望 ―【私の論評】他のメディアが教えない、日本がファイブアイズに入ることの本当のメリットを教えよう(゚д゚)!

2023年1月13日金曜日

バイデン氏の自宅からも機密文書 米司法省が特別検察官を任命―【私の論評】機密文書とペンシルベニア大学に対する中国の巨額寄付との関連性が実証されれば、バイデンにとって大打撃(゚д゚)!

バイデン氏の自宅からも機密文書 米司法省が特別検察官を任命

特別検察官に任命されたロバート・ハー氏。トランプ政権時代にはメリーランド州の連邦検事を務めた

ジョー・バイデン米大統領の私的オフィスなどから副大統領時代の機密文書が見つかった問題で、メリック・ガーランド米司法長官は12日、ドナルド・トランプ前政権で連邦検事を務めたロバート・ハー氏を特別検察官に任命し、捜査を進めると発表した。

ガーランド司法長官によると、2セット目となる機密文書が昨年12月20日、デラウェア州ウィルミントンにあるバイデン氏の自宅でも見つかっていた。さらに今月12日朝、バイデン氏の弁護士から捜査当局に電話があり、同氏の自宅で別の文書が見つかったと知らされたという。

バイデン氏の関係先で最初に機密扱いの可能性がある文書が見つかったのは、昨年11月2日とされる。バイデン氏側によると、首都ワシントンのシンクタンク「ペン・バイデン・センター」にあった事務所の鍵のかかった戸棚から、同氏がバラク・オバマ政権で副大統領だった時期の文書を10点ほど発見。書類は米国立公文書館に移したという。

イリノイ州北部地区連邦検事のジョン・ラウシュ氏が最初の調査を行った後、ガーランド司法長官は「異例の事態」を理由に、バイデン氏の文書の取り扱いを調べるための特別検察官が必要だと判断した。

「この任命は、とりわけセンシティブな問題において独立性と説明責任の両方を確保し、事実と法律のみに導かれた議論の余地のない決定を下すという、当省の責任を一般市民にはっきり示すものだ」と、ガーランド氏は述べた。

特別検察官に任命されたハー氏は、「公正、公平かつ冷静な判断で」この問題を調査していくと述べた。同氏はトランプ政権時代にメリーランド州の連邦検事を務めた。

ホワイトハウスは、捜査にバイデン氏は全面的に協力するとしている。

バイデン氏は司法省の調査に全面的に協力していると、同氏の特別顧問は説明した

バイデン氏の特別顧問を務めるリチャード・サウバー氏は、バイデン氏は司法省の調査に全面的に協力しており、今後もそうするつもりだとした。

「我々は徹底的な調査で、不注意によりこれらの文書の置き場所を誤ったこと、そして大統領とその弁護士がこの間違いを発見したときに迅速に行動したことが示されると確信している」

この件に詳しい情報筋は、BBCがアメリカで提携するCBSに対し、いまのところ調査には、機密文書がどのように扱われていたかを知っている可能性のある人物への聴き取りが含まれていると語った。

「真剣に受け止めている」

バイデン氏は12日朝、記者団に対し、自身の弁護士が見つかった文書について当局に知らせたことや、自身がこの問題を真剣に受け止めていることを改めて強調した。

さらに、新たに見つかった文書は鍵のかかったガレージの中で、愛車の1960年代製シボレーコルベットの隣に置いてあったとし、「道端に置かれていたわけではない」と付け加えた。

バイデン氏の特別顧問サウバー氏は、バイデン氏の自宅ガレージで追加調査を行ったところ、「私的な書類や政治関連の書類が見つかり、その中に機密扱いの表示があるオバマ政権時代の記録が少量含まれていた」と説明した。

弁護士らはデラウェア州リホボスビーチにあるバイデン氏の別荘も調べたが、新たな文書は見つからなかったという。

【私の論評】機密文書とペンシルベニア大学に対する中国の巨額寄付との関連性が実証されれば、バイデンにとって大打撃(゚д゚)!

トランプ前大領領は、バイデン大統領が副大統領を務めた後に使用していた事務所に、機密の可能性のある文書を置いていたことが9日に明らかになったことについて、全力でやり返していいます。

トランプは、フロリダに移転した際にホワイトハウスの機密文書を持ち出したかどうかについて、連邦捜査の対象となっていますが、ソーシャルメディアで疑問を呈しました。「なぜ『司法』省は、(2020年)選挙前に事務所で見つかった極秘文書を発表しなかったのか?」

公表していれば共和党は上下両院選挙で圧勝したはずだと言いたいのでしょう。事実そうなった可能性は十分あります。

バイデンの弁護士は2022年11月2日―11月の中間選挙の6日前―に、事務所内で機密マークのある政府文書を発見していたことを政府弁護士に告知しました。

文書はワシントンD.C.のシンクタンク、ペン・バイデン・センター内にありました。

ペン・バイデン・センター

センターの運営者であるペンシルベニア大学は、2020年当時過去2年、中国から6100万ドルという巨額な献金を得ているとされていました。 倫理を監視するNPO団体・国家法律政策センター(National Legal and Policy Center、NLPC)は2020年5月21日、教育省へ文書を提出したと発表しました。NLPCは、バイデン・センターが過去3年間で「中国から受け取っている7000万ドル以上の資金のうち、2200万ドルは匿名」であり、情報の開示と全面的な調査を要求しています。

米高等教育法によると、米国の大学は外国から25万ドルを超える寄付金を受け取った場合、政府に報告することが義務付けられています。NLPCの文書は司法省に照会し、大学がこの義務を果たしているかどうか調査を求めています。

米トランプ政権は当時、中国から寄付を受け取る国内大学や教授に厳しく対処していました。中国共産党は、米国の技術および知的財産を入手するため、厚遇で研究者を招き入れていました。

当時、米国教育省は、外国からの寄付の報告を怠ったとして、ハーバード大学とイェール大学の調査を開始した。ハーバード大学の化学およびケミカルバイオロジー学部のチャールズ・リーバー学部長は、中国の「千人計画」に参加していたことを報告しなかったとして、逮捕されました。

チャールズ・リーバー

同センター発足時の事務局長、アントニー・ブリンケン氏は現在の国務長官。 

その後事務局長になったスティーブ・リチェッティ氏は大統領顧問、マイケル・カーペンター氏は欧州安全保障協力機構(OSCE)米国代表にそれぞれなり、上級研究員だったコリン・カール氏は国防副長官、ジェフリー・プレスコット氏は国連次席大使にそれぞれ就任しています。 

まさにバイデン政権における外交安全保障担当高官になる人材の巣窟といったところです。 

さらに母体であるペンシルべニア大学からは学長のエイミー・ガットマン氏が駐ドイツ大使に抜擢されています。 

米司法省はこのところ米主要大学で活発になっている中国人学者や学生によるスパイ活動監視を強化しており、ペンシルベニア大学も調査対象になっています。 

今回ペン・バイデン・センターのバイデン事務所に保管されていた機密文書とペンシルベニア大学に対する中国の巨額の寄付との間に全く関連性がないとは言い切れないです。議会も司法府もこの際、同センターの実態を徹底的に調査すべきです。

トランプ、また他の共和党員などは長年にわたり、バイデン家の海外商取引とその結果が米国民に及ぼす重大な結果について懸念を提起していました。

バイデン大統領孫のナオミ・バイデンの結婚式をホワイトハウスで挙行したバイデン家

またトランプは自信のSNSである、Truth Socialにこう書いています。「うわぁ、バイデンのシンクタンクは中国の資金提供を受けている!!!バイデン・シンクが中国から受け取った額は5400万ドルだった。それは大金だ。機密文書も見つかっている」

バイデンは昨年CBSの「60ミニッツ」のインタビューで、FBIが機密の可能性のある文書を取り戻すために、トランプのフロリダ州のマーアラゴ住居を家宅捜索した後、前大統領の行動は「全く無責任」だと述べ、「一体どうしてそんなことが起こり得るのか?」と疑問を呈していました。

バイデン政権のホワイトハウスは、トランプの機密文書問題でも関わりのあった国立公文書館の要求で、司法省の捜査に協力していることを認めています。

機密文書自体に関しては、トランプがそうであったように、バイデンにとってはさほどのダメージならないかもしれませんが、機密文書とペンシルベニア大学に対する中国の巨額の寄付との間に全く関連性がないとは言い切れないです。もし、関連性が明らかにされれば、バイデンにとっても民主党にとっても大ダメージになる可能性はあります。

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2023年1月12日木曜日

米中対立の最前線たる南太平洋 日米豪仏の連携を―【私の論評】米中対立の最前線は、すでに台湾から南太平洋に移った(゚д゚)!

米中対立の最前線たる南太平洋 日米豪仏の連携を

岡崎研究所

日米豪などが参加する太平洋パートナシップ2022(PP22)で演説するソロモン副首相

 フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのラックマンが、12月5日付同紙に‘Australia, China and the judgment of the Solomons’と題する論説を書き、ソロモン諸島を巡る中国と米豪の争いを描写し、米豪が同国の第二次大戦不発弾処理を支援し好感を得るのも一案、と指摘している。要旨は以下の通りである。

 南太平洋のソロモン諸島は、今や中国と西側の戦略的競争がぶつかる場所で、4月のソロモン・中国安全保障合意署名は、米豪への警告となった。数十年にわたる急速な軍備拡大で中国海軍は米国海軍より多くの艦船を保有し、習近平主席の下、既に南シナ海に軍事基地を構築している。中・ソロモン合意は主に国内治安に関するものだが、米豪は中国が南太平洋に海軍基地を建設しようとしており、その最もありそうな場所がソロモンではないかと恐れている。

 ソロモン諸島は第二次世界大戦最激戦のガダルカナル戦の舞台だった。米軍が日本と闘ったのは今日ソロモン諸島が戦略的に重要と見られているのと同じ理由で、豪州、東アジアと米国西岸とのシーレーンに位置しているからだ。

 中国が太平洋の米軍事力に直接挑戦するとすれば、最もあり得る対象は台湾だ。米豪高官は、習近平下の中国が今後5年の内に台湾へ侵攻乃至封鎖を試みる可能性は相当あると見ている。豪州では、米中戦争が起これば豪州は巻き込まれるという想定が広く共有されている。南太平洋に中国基地があれば、豪州の戦略的計算は大いに複雑化する。

 最近の習・アルバニージー会談は6年ぶりで緊張を若干緩和したが、引き続き米豪は中国がインド太平洋の席巻を決意していると見ており、それを防ごうと決意している。それを最も明確に示すのが昨年の米英豪の安全保障枠組み「AUKUS」創設であり、その核心が豪州の原潜取得だ。中露はAUKUSを好戦的と批判したが、豪州は、力の均衡を維持し平和を護るためだと反論する。しかし、インド太平洋の隣国にそう主張するのはリスクがある。例えば、インドネシアのジョコウィ大統領は、同国は新冷戦の駒になるつもりはないと言っている。

 地域的影響力を巡る競争で中国は一定の優位にある。中国はインド太平洋のほとんどの国の最大の貿易相手だ。ソロモンのような貧困国では、中国の富は富裕層による援助の横取りも可能とする。今や米豪もソロモンへの影響力向上に努めている。米国は近々大使館を開設すると発表。豪州はソロモン警察に車両とライフル銃を提供した。一方、同警察の人員は中国で訓練を受けてきている。

 ソロモンは今の地政学に対応する一方、第二次世界大戦の遺産に悩まされている。未だ散乱する不発弾で命を失う人もいる。AUKUS加盟国はソロモンの好感を得るために、その処理に取り組むのも一案かもしれない。

*   *   *

 4月の中・ソロモン安全保障合意を受けた付け焼刃は否めないが、南太平洋島嶼国の戦略的重要性に鑑みれば、最近米国が関心を高めているのは結果として良いことだ。本来は豪州の責任範囲だが米豪連携は必要で重要だ。

 7月の(太平洋島嶼国と豪・ニュージーランドの)太平洋諸国フォーラム(PIF)には、2012年のクリントン国務長官以来久々の高官としてハリス副大統領がオンラインで参加し、キリバス、トンガ、ソロモン諸島への大使館開設を表明(ただ、ソロモン諸島の米国大使館は2003年に閉鎖されたものの再開で、これまでの米国の姿勢を象徴している)。

 さらに9月28日~29日に初の米・太平洋島嶼国サミットをワシントンで行い「太平洋パートナーシップ戦略」を発表した。今まで未承認だったクック諸島とニウエの国家承認を発表し、8億ドルを超える援助を表明したのは正しい第一歩だ。会議後の共同声明に紆余曲折の後ソロモン諸島も署名したのも、一つの成果だろう。

 一方、中国はそのずっと先を行っている。中国が太平洋島嶼国と「経済発展協力フォーラム」を始めたのは2006年に遡る。2013年の第2回会合では20億ドルの譲許的融資を約束。その後2019年にはキリバスとソロモン諸島が台湾と断交し、南太平洋島嶼国の台湾承認国はパラオ、マーシャル諸島、ナウル、ツバルの4カ国になった。

 もちろん中国の援助にはマイナスもある。2018年のパプア・ニューギニアでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)会合の際に、同国外務大臣事務所に中国外交官が乗り込み共同声明案修正を直談判したという高飛車な対応も記憶に新しい。これでは真の友好関係は長続きしないのであり、こちらから付け入る余地は十分ある。

鍵となるフランスとの連携

 そのためには、同じ目線で相手の共感を得ることに加え、「こちら側」の陣容の拡充も必要ではないか。それはフランスとの一層の連携だ。仏領ポリネシアは南太平洋におけるフランスの拠点だ。

 元々PIFとその前身はフランスの核実験などに反対して結成されたという歴史的経緯はあるが、今や仏領ポリネシアは準メンバーであるし、フランスもパートナー国になっている。我々にはあまり余裕はないはずだ。先の米・島嶼国サミットにもオブザーバーで豪・ニュージーランドは参加する一方、フランスが参加していない点が気になる。

 しかし、島嶼国との関係についても昔から努力しているのは日本だ。日本が太平洋・島サミット(PALM)を始めたのは1997年で、中国より10年近く早い。同じ目線で「共感」を得るアプローチは日本のお家芸だ。上記の論説で取り上げられている不発弾処理についても、既に日本は、ソロモン国家警察爆発物処理部隊に対する支援を開始している。今後これを日米豪(または日米豪仏)のプロジェクトとして進めると言うことも一案だろう。ちなみにPALMには仏領ポリネシアも入っている。

【私の論評】米中対立の最前線は、すでに台湾から南太平洋に移った(゚д゚)!

なぜ、中国は南太平洋ソロモン諸島に接近を図るのでしょうか。そこには、大国間競争と台湾という中国なりの狙いがあるようです。

中国はソロモン諸島と安全保障協定を結んだのですが、何も中国が接近しているのはソロモン諸島だけではありません。オーストラリア・シドニーにあるシンクタンク「ローウィー研究所(Lowy Institute)」の調査によると、中国は 2006年からの10年間で、フィジーに3億6000 万ドル、バヌアツに2億4400万ドル、サモアに2億3000万ドル、トンガに1億7200万ドル、パプアニューギニアに6億3200万ドルなど南太平洋諸国に多額の経済支援を行うなど、南太平洋地域で徐々に強い存在感を示すようになっていきました。

その中でソロモン諸島では2021年11月、中国と関係を強化するソガバレ現政権に対する大規模な抗議デモによって現地の中国街などが被害に遭う事態が発生。以降も散発的に抗議デモが起きるなど、南太平洋各国で中国への警戒感があるのも事実です。

2021年11月25日/ソロモン諸島、首都ホニアラの抗議デモ

しかし、それでも中国の影響力は増大しており、経済主体から安全保障にまで踏み込んだものとなっています。経済的影響力を浸透させてから安全保障でも踏み入れるという形式は、ソロモン諸島だけでなく、今後は他の南太平洋諸国でもみられる可能性が十分にあることでしょう。

西太平洋で軍事的影響力を強化しようとする中国にとって、南太平洋は米国だけでなく、近年対立が深まるオーストラリアやニュージーランドをけん制する意味でも地理的に都合が良いです。

米国政府高官は昨年4月下旬、ソロモン諸島の首都ホニアラでソガバレ首相と会談し、安全保障協定に懸念を伝え、対抗措置も辞さない構えを示しました。南太平洋を裏庭と位置づけるオーストラリアのモリソン首相も同じく4月下旬、中国がソロモン諸島に海軍基地を建設する恐れがあり、そうなればオーストラリアや米国だけでなく、他の太平洋島嶼国が危機に直面することになると警告しました。

このように、中国側には大国間競争を意識して、米国やオーストラリアなどをけん制する政治的狙いがあることは間違いないです。最近、日本の閣僚も昨年5月、南太平洋のフィジーとパラオを訪問しましたが、米国やオーストラリア同様の懸念を抱いています。

中国が南太平洋に接近を図るのは、大国間競争以外にも狙いがあります。もう一つの大きな狙いは、台湾との外交関係断絶を促すことです。実は、南太平洋には台湾と外交関係を維持する国が集中しています。


現在、中国と国交があるのは、パプアニューギニア、バヌアツ、フィジー、サモア、ミクロネシア、クック諸島、トンガ、ニウエ、キリバス、そしてソロモン諸島の10カ国で、台湾と国交を持つのはマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルの4カ国ですが、2019年にキリバスとソロモン諸島が台湾との断交を発表し、中国と新たな国交を樹立するなど、南太平洋では“脱台湾”が進んでいます。これも中国が経済を武器に影響力を強めてきた証でしょう。

現在、台湾の蔡英文政権は中国を脅威として認識し、そのため欧米諸国との結束を強化しています。習政権は台湾の独立阻止には武力行使も辞さない構えですが、現実には、中国が台湾侵攻をすれば、台湾とだけ戦ったにしても、台湾を占拠するのはかなり難しいですし、甚大な被害を被るのは必定です。

まして、これに日米が加勢すると、対潜水艦戦争(ASW)に優れた日米によって、中国海軍は壊滅的な打撃を受けるのは必定です。

米ワシントンを拠点とするシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は9日、中国が台湾に軍事侵攻した場合、その企ては「早期に失敗」する一方、台湾と米海軍にも多大な代償を強いることになるとの机上演習の結論を公表しました。

CSISは「最も可能性の高い」シナリオとして、「中国による大規模な砲撃」にもかかわらず、台湾の地上部隊は敵の上陸拠点に展開する一方、米軍の潜水艦や爆撃機、戦闘機は日本の自衛隊に頻繁に補強されて、中国軍の水陸両用艦隊を迅速に無力化し、侵攻する中国軍は補給の増強や上陸に苦戦すると結論付けました。

机上演習は計24回に及び、米軍の退役将軍・海軍士官、元国防総省当局者らが参加しました。

CSISはその中で、日本の基地や米軍の水上艦を中国が攻撃したとしても「結論を変えることはできない」としつつも、「台湾が反撃し、降伏しないというのが大きな前提だ」と説明。「米軍の参戦前に台湾が降伏すれば、後の祭りだ」とし、「この防衛には多大な代償が伴う」と指摘しました。

さらにリポートでは、米国と日本は「何十もの艦船や何百もの航空機、何千もの兵士を失う」とともに、「そうした損失を被れば米国の世界的立場は多年にわたり打撃を受けるだろう」としています。

このリポートはまだ読んでいませんが、今までのCSISの中国による台湾侵攻シミレーションには、潜水艦という言葉が一言も出てこなかったのが、今回は潜水艦というワードが出ているようです。

従来のシミレーションでは、まるで米国は巨大攻撃型原潜を一隻も所有していなかのごとく、潜水艦が登場しませんでしたが、これに関しては多くの軍事専門家も批判しており、このブログでも何度かそれを批判しました。潜水艦を海戦に用いるのとそうでない場合、海戦能力に大きな違いがでてくるからです。

今回のシミレーションでは、潜水艦がどの程度使われたかなどはまだわかりませんが、いずれにせよ、米軍が大型攻撃型原潜を効果的に用いれば、中国海軍は崩壊します。無論中国がこれに対して報復し、日本の米軍や自衛隊基地を攻撃するとなれば、日米双方とも大きな被害を蒙りますが、それでも、中国は台湾に侵攻できないどころか、海軍艦艇のかなりの部分を失うことになります。

そのため中国としては、軍事的侵攻は避け、台湾が持つ他国との国交をどんどん消していくことで、台湾に外交をできなくさせる狙いがあるのでしょう。

そうすることによって、台湾を国際社会から孤立させ、あわよくば、台湾を飲み込んでしまうとする意図があると考えられます。中国はそれぞれの国に対し、中国と台湾の二重承認を許していません。まさに白か黒かのオセロゲームのようです。台湾を国際的に孤立させるため、中国は膨大な支援を通じて、台湾と断交し、自分たちと国交を結ぶように迫っているのです。

現在、台湾と外交関係を維持する国は世界でたった14か国です。うち4か国が太平洋の小さな島国です。最近ではソロモン諸島、それにキリバスが台湾から中国へスイッチしました。中国が国交を結んだ国々では中国主導でインフラ整備を進めています。

それは、対象国のためであるとともに、中国自身が共同利用しようという狙いもあるとみられます。台湾問題に行き詰まった中国は、今後も南太平洋でさまざまな活動を行い、活路を見出すつもりでしょう。このままの中国有利な情勢が続けば、断交ドミノ現象はいっそう勢いを増す恐れがあります。米豪日は、今後のマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルへ政治的なテコ入れを強化していくでしょう。

その意味では、米中対立の最前線は、台湾そのものではなく、すでに南太平洋に移っていると認識を改めるべきです。そうして、南太平洋でも軍事力の衝突というよりは、経済支援や、外交的な駆け引きが主であり、米国とその同盟国と、中国との間の戦いということになるでしょう。特に同盟国がほとんどない中国にとっては、南太平洋の島嶼国を味方につけることは重要です。国連の会議などでは、どのような小さな国でも、一票は一票です。

日本の対潜哨戒機P1

ただし、西側諸国に比較すると、現代海戦における海戦能力の要であるともいえる、ASWがかなり劣った中国海軍は、軍事に疎いマスコミなどは、これを過大評価しますが、海戦能力でははるかに及ばず、さほど脅威ではないのですが、まともな海軍力を持たない南太平洋の島嶼国などにとっては脅威であり、米国ならびにその同盟国などは、南太平洋でも軍事的にもある程度の存在感を高めていく必要はあるでしょう。

現代海戦においては、たとえば空母は大きなミサイル標的にすぎず、すぐに撃沈されてしまうのですが、それでも中国の空母が南太平洋の島嶼国の付近を航行すれば、かなり脅威であり、圧力になります。そのようなときに、西側諸国の空母等もすぐ対抗して航行できるような状況にあれば、あまり問題にはなりません。

そのためには、南太平洋にも領土を持つフランスやイギリスとも日米豪がさらに、関係を強めておくことも重要になります。

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2023年1月11日水曜日

菅義偉氏、岸田首相に反旗か 派閥政治、増税を批判「国民の声が届きにくくなっている」 自民党議員「意趣返しする意向があるのでは」との声も―【私の論評】今となっては短期政権になった理由が良くわからない菅政権、菅氏の再登板はあり得る(゚д゚)!

菅義偉氏、岸田首相に反旗か 派閥政治、増税を批判「国民の声が届きにくくなっている」 自民党議員「意趣返しする意向があるのでは」との声も

菅前首相(左)は、岸田首相の官僚主導政治に反発したのか

 自民党の菅義偉前首相が10日、「国民の声が、政治に届きにくくなっている」などと語り、岸田文雄首相に苦言を呈した。2021年10月の首相退陣後、目立った動きが少なかった菅氏による突然の発言は、「増税+事実上の利上げ」で、アベノミクスを否定するような政策方針を見せる岸田政権への〝反旗〟なのか。政局の狼煙(のろし)となるのか。


 「政治家は国民の負託を受けている。自らの理念や政策よりも、派閥の意向を優先するようなことはすべきでない」「首相は国民全体の先頭に立って汗を流す立場にある。歴代の多くは所属派閥を出て務めていた」

 菅氏は10日夜、外遊先のベトナムで取材に応じ、岸田首相が宏池会会長を続けていることを問われ、こう語った。共同通信やNHKなどが報じた。

 菅氏は「少子化対策は極めて重要だと思うが、消費税を増税してやるということは(私は)まったく考えていない」とクギを刺した。

 新型コロナが感染拡大するなか、菅氏は一昨年秋に退陣した。その後、菅氏を推すグループを〝派閥化〟するとの観測もあったが、目立った行動を見せなかった。

 一方、凶弾に倒れた安倍氏の国葬(国葬儀)での弔辞が国民的共感を呼んだうえ、東京五輪・パラリンピックの開催や、携帯電話料金の引き下げ、不妊治療の保険適用方針など、自ら掲げた「国民のために働く内閣」が再評価される動きもある。

 岸田首相の政策は、経済成長を重視した「アベノミクス」否定ともみられている。防衛増税などでは、安倍派(清和会)を中心に反発や警戒感が広がっている。

 宏池会が、菅政権末期の〝菅降ろし〟の火ブタを切った経緯もあるだけに、自民党議員からは「菅氏には、自らの政権と岸田政権の実行力を対比させ、意趣返しする意向があるのでは」「支持率が低迷したまま統一地方選が迫り、党内政局の様相もある」との声があがる。

 菅氏の真意は何か。

 ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「官僚主導が進む岸田政権の動きが目に余り、行動を起こしたのではないか」と分析し、今後をこう予測する。

 「菅氏は、霞が関の官僚政治を壊し、政治主導を進めた。携帯電話料金値下げや、ふるさと納税などはその象徴だが、岸田政権は官僚政治に回帰している。本心では、無派閥などを含めて自民党の勢力を結集する意思はあったはずだが、安倍氏の暗殺事件の喪に服したこともあり、行動を控えていたのだろう。ただ、解散総選挙の機運もあり、今年は『政局の年』だ。今回の発言で明確な意思表示をし、行動に移す決意なのではないか」
苦言は増税路線にも及んだ。

 岸田首相は防衛力強化の財源として、安倍晋三元首相が提示した「国債」を排除して「増税」を決めた。年明けには「異次元の少子化対策」を打ち出し、前後して首相周辺から「消費税増税論」が飛び出した。

【私の論評】今となっては短期政権になった理由が良くわからない菅政権、菅氏の再登板はあり得る(゚д゚)!

岸田政権は支持率がかなり落ち、永田町では、長くてG7広島サミットまでであり、その後は勇退とみていようです。

首相が早期に辞任した場合、「ポスト岸田」は誰でしょうか。現時点で本命視されるのは茂木敏充自民党幹事長、河野太郎デジタル担当相、高市早苗経済安全保障担当相の3人でしょう。

茂木氏は栃木県出身で、東大経済学部を卒業後、大手商社の丸紅、読売新聞社を経て世界最大手のコンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーで勤務したという華麗な経歴の持ち主です。

1993年の衆院選に日本新党公認で旧栃木2区から立候補し初当選。日本新党解党後、無所属を経て自民党に入党しました。政策通として知られ、2003年に小泉内閣で沖縄・北方担当相として初入閣。その後も自民党政調会長や経済産業相、外相などの要職を歴任しました。

岸田首相や安倍元首相とは当選同期で、安倍氏が「同期一番の男前は岸田文雄、一番頭がいいのは茂木敏充、そして性格が良いのが安倍晋三といわれている」と話した逸話は有名。優秀さを鼻にかけているような態度から党内の人気はいま一つですが、2021年11月に第2派閥の旧竹下派、平成研究会の会長を継いだことで党内基盤も安定しました。

岸田首相や政権の後ろ盾となっている麻生太郎副総裁とも良好な関係を築いており、本人もポスト岸田に強い意欲を示しているとされます。課題があるとすればマスコミの注目度の低さです。

対照的にマスコミの人気が最も高いのが河野氏です。河野氏は祖父が河野一郎元副総理、父が河野洋平元衆院議長という政治家一家に生まれ、民間企業を経て1996年の衆院選で初当選しました。

もともとSNSなどでの発信力が高かったのでが、安倍内閣で外相や防衛相などを歴任したことでさらに知名度を高めました。菅前首相の辞任に伴う2021年の自民党総裁選に岸田、高市両氏とともに立候補。河野氏は決選投票まで進み、党員・党友票では首相を上回ったものの、国会議員票で大差をつけられ敗れました。

総裁選で敗北したことで自民党広報本部長へ起用され“冷遇”されたといわれましたが、河野氏のマスコミ人気は健在で、毎日新聞が11月に行う恣意的な世論調査で「日本の首相になってほしいと思う人」として最も多くの支持を集めました。

第2次岸田内閣ではデジタル相に起用され積極的に発信していますが、課題は党内の支持基盤です。第3派閥の麻生派に所属するが、会長である麻生副総裁は「河野首相」に消極的で、前回総裁選でも岸田氏を支援した経緯があります。そのため河野氏は同じく国民人気の高い石破茂元幹事長に支援を仰ぎました。小泉真太郎氏も応援し、この動きは「小石川連合」と揶揄されました。

「小石河連合」の試みは結局失敗しました。石破氏は、「いつも後ろから鉄砲を打つ奴」ということで、大方の自民党議員から嫌われています。


小泉氏は、もともと、「頭が悪すぎ」ということで評判が悪く、従来は総理になって欲しい人などのアンケートをとると結構上位にきていたこともあったのですが、頭の悪さが尋常ではないということが多くの国民に知れ渡ったということで、そもそもランク外になっていました。

私は、河野氏が「小石川連合」を組んだことから、まだ趨勢をみてみないとわからないところがありますが、石破氏や小泉氏の総理目が消えたように、河野氏の目もほとんど消えたと思います。

ポスト岸田の本命、最後に挙げる高市氏は一般家庭に生まれましたが、岸田首相や茂木氏と同じ1993年の衆院選で初当選した。当選時は無所属でしたが、新進党などを経て1996年に自民党に入党。当初は清和政策研究会(現安倍派)に所属しましたが、野党時代の2011年に派閥を離脱して以降は無派閥。

ただ、保守的な政策やまともな経済政策で知られ、安倍氏にも近かったことから保守系の議員や有権者からの支持が厚いです。恣意的な毎日新聞の調査でも「日本の首相になってほしいと思う人」として河野氏、岸田首相に次ぐ3位に入りました。

後ろ盾だった安倍元首相は亡くなったのですが、中国やロシア、北朝鮮の脅威が増すなか、防衛に関する国民世論の注目も高まっています。また、最近ではあまりに酷い岸田首相の経済対策と比較すると、マクロ経済を亡くなった安倍首相と同程度にまで理解しており、特に、自民党内の今や多数派の積極財政派の議員からの評価は高いです。

時流に乗れば首相への道も開ける可能性もあるが、後ろ盾の安倍元首相が亡くなってしまった現在では、かなり難しいです。亡くなった安倍元首相の岩盤支持層を広げていけるかがカギを握ると見られます。

これ以外に林氏をあげる人もいますが、岸田氏は岸田派の中で、林氏が頭角を顕し派閥を乗っ取られことをおそれ、外務大臣などの重責を担わせて、自身の近くにおいているともみられ、さらにあまりにも酷い親中派、媚中派であることから、自民党内の保守派の議員からは、蛇蝎のごとく嫌われています。

財力に関しては、飛び抜けているようですが、総裁選は自民党議員や党員によって実行されるものですから、これだけ人気がないと、無理だと思います。

ポスト岸田の本命といえばこの茂木、河野、高市3人ですが、ダークホースを挙げるとすれば菅前首相でしょう。たった1年で政権の座を手放しましたが、決定的な失政があったわけではないです。マスコミの印象操作により、コロナ対策があたかも失敗したかのように情報操作され、その対応に振り回され、最後は政局を見誤ったことで総裁選への出馬断念に追い込まれました。

しかし、このブロクでは、何度か述べてきたように、安倍・菅両政権においては、政治決断で増税せずに、合計で100兆円の補正予算を組み、コロナ対策を実行しました。 この100兆円の根拠は何かといえば、GDPギャップです。

コロナ禍が深刻だった両政権においては、需要ギャップが100兆円存在しており、これを財政政策で埋めなければ、日本経済は落ち込むことが予想されました。そのため、両政権下で、安倍政権では60兆円、菅政権においては40兆円の補正予算を安倍元総理の言葉を借りれば、「日銀政府」連合軍で実施したのです。

「日銀政府連合軍」とは政府が長期国債を発行し、日銀が買い取るという形式で、資金を調達する方式のことです。

特に雇用に関しては大成功で、雇用調整助成金の制度も用いつつ、雇用対策を行い、日本では失業率が両政権下では、2%台で推移しました。もし、あのときコロナ復興増税などしていたら、現在日本経済はかなり落ち込んでいたことでしょう。

これは他国が、コロナ禍の最中に失業率(8%〜10%は普通)がかなり上がったことを考えれば、大成功です。マスコミや、多数の野党議員などは、マクロ経済に全く疎いので、この意味するところがほとんどわかっていないようです。現在の自民党は、いわゆる積極財政派が多数を占めるので、この意味するところを理解する議員も多いです。

菅政権においては、経済対策だけではなく、ワクチン接種を驚異的なスビードで実施し、コロナ病床の確保には、医療ムラの執拗な抵抗にあったため、失敗したものの、それでも結局医療崩壊を起こすこともなく、コロナはかなり収束しました。

菅政権のコロナ対策は総体的にみれば、成功であり、マスコミがこれを失敗としたのは、単なる印象操作にすぎません。マスコミは、印象操作の過程で、菅氏の息子による総務省官僚の接待を問題としましたが、これは総務省の脇があまりにも甘すぎたということであり、自民党の多くの議員はこれを問題視など最初からしていません。

このようなことを実施した、菅元総理が、再登板したとすれば、政治的な立ち位置は、安倍元総理とは異なる所があったにしても、よもや、岸田総理のように、防衛増税に走るとは考えられないないです。

今となっては何が問題なのかすら良くわからない、菅総理(当時)の発言。東京新聞

宏池会は例外ともいえるでしょう。これも、岸田総裁を擁立するための姑息な手段に過ぎないです。現在では、マスコミも、野党も、自民党の多数の議員も、これを問題とはしていません。寧ろ菅氏の仕事ぶりが再評価されています。

増税一辺倒の岸田氏と比較すれば、菅氏の政策や安定感には定評があるほか、仕事師という異名を持つほど、徹底した仕事ぶりで、岸田首相が唐突に辞任するようなことがあれば当面の“リリーフ(継投)”として白羽の矢が立つ可能性は十分にあります。安倍元首相も1年で辞任した後、再登板して戦後最長の長期政権を築いたという事例もあります。

「検討師」などと揶揄される岸田氏から比較すれば、菅氏の仕事師ぶりが、ますます光りを増したともいえます。岸田首相が、経済面でも安倍路線を引き継いでいれば、こんなことにはならかったかもしれれません。

「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の設立総会で講演する安倍晋三元首相(中央)=昨年2月9日

岸田首相に対する保守派議員・党員ならびに多数派の積極財政派の議員がもっとも納得がいかなかったのは、やはり防衛増税でしょう。これらは、かなり数が多いですし、総裁選を大きく左右する勢力になりえます。防衛費を増税の出汁に使うなど、さすがにこれだけは許せないというのが保守派・積極財政派の本音だと思います。

岸田首相は2021年10月の衆院選、2022年7月の参院選に立て続けに勝利し、大型国政選挙のない「黄金の3年」を手にしています。2024年9月の自民党総裁任期まで、続投を阻むものはありません。それでも一寸先に何があるのかわからないのが政治の世界。ポスト岸田として名前の挙がる政治家の一部は、陰で“政権準備”を始めているに違いないです。

そうして、岸田氏が辞任ということになれば、私自身は、菅氏を応援したいですし、これは希望的観測ではなく、積極財政派が多数を占めるようになった自民党の中では、最有力候補になる可能性もあります。

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2023年1月10日火曜日

ロシア軍、ウクライナ東部ソレダルの大半を制圧の公算=英国防省―【私の論評】戦況の変化は、露宇両軍とも弾薬不足で本格的塹壕戦に突入したせいか(゚д゚)!

ロシア軍、ウクライナ東部ソレダルの大半を制圧の公算=英国防省


英国防省は10日、ロシア軍と民間軍事会社「ワグネル」の部隊は過去4日間の戦術的な前進の結果、ウクライナ東部ソレダルの大半を制圧した公算が大きいとの見方を示した。

ウクライナ当局によると、ロシア軍はこのところ要衝バフムトの近くに位置するソレダルへの攻撃を強化している。

英国防省はロシア軍がバフムトを北から包囲し、ウクライナ軍の補給路を混乱させることが狙いと分析した。

【私の論評】戦況の変化は、露宇両軍とも弾薬不足で本格的塹壕戦に突入したせいか(゚д゚)!

複数のメディアにより、バフムトで大変厳しい戦闘が行われていることが報道されています。戦線が動きにくい塹壕戦になっており、それは第一次世界大戦という、人間史上初めての大量殺戮が起こった戦争の暗い歴史を思い起こさせるものです。

このバフムトの隣町が、ソレダルです。北東わずか10キロの所にあります。5月中旬からワグネルの民兵(傭兵)が激しい戦闘を繰り広げていました。

ウクライナ軍は塹壕戦に埋もれながら抵抗し、ほとんど譲ってこなかったが、ここ数日、ワグネル民兵とチェチェン連隊の支援を受けたロシア軍が、バフムトとソレダルで進撃しているとされました。

ハンナ・マリアー国防副大臣は、1月9日、ロシア軍は、バフムト攻勢のために長年の目標であったソレダルの町の攻略を再び試みたと報告したました。

「ワグネル・グループの最高の予備軍で編成された多数の突撃隊」を投入して損失を回復したとも述べています。

『キーウ・インディペンデント』ウクライナ側は、ロシア軍が戦術を変更して、部隊を再編成して追加移送したために、ソレダルへの新たな攻撃は強力なものになると予想していると報じました。

米国のシンクタンク・戦争研究所も、ワグネルのトップ・プリゴジン氏が、1月9日、ワグネルグループの部隊がソレダルで地盤を固めていると強調していること、ワグネルの戦闘員が現在「市行政の建物のために激しい戦い」を繰り広げていると指摘したと報告しています。

ソレダルという町名は、文字通り「塩を与える」という意味だそうです。国営企業アルテムソルが年間約700万トンの塩を採掘しています。

バフムトやソレダルを含むこの地域全体は、塩だけではなく、石膏、粘土、チョークなどの豊富な鉱床もあります。

米国のシンクタンク・戦争研究所は、傭兵集団ワグネルのボスであるエフゲニー・プリゴジンが、この地域の鉱山から塩や石膏を採取して、財政目的にしようとしていると推定しています。

これは、ワグネルの民兵がアフリカでやり慣れている方法だといいます。ホワイトハウス関係者の話として伝えています。

1月8日、ゼレンスキー大統領は、当面の間、バフムートとソレダルは「どんなことがあっても持ちこたえる」ことができると宣言、さらなる部隊派遣を約束しました。

この地域での戦闘の重要性を証明するように、ウクライナ地上軍司令官イヴァン・シルスキーは同日にバフムトとソレダルを訪れ、この戦線に従事する戦闘員たちを激励しました。

同日、東部ウクライナ軍のセルヒィ・チェレヴァティ報道官は、ロシア軍はソレダルを支配していないと断言しました。

戦争研究所が引用したウクライナの公式情報では、自国軍がバフムト付近のロシア軍陣地をいくつか奪還したとも伝えています。

しかし、上の記事にもあるように、残念ながらウクライナ軍が苦戦しているのは事実であるようです。

この急激な戦況の意味するところは、何なのでしょう。一つには、気温の変化があるかもしれません。つい最近まで、比較的暖冬で霜がおりないために、地面がぬかるんで戦況は進みにくいと言われていました。

ただ、クリスマス(旧暦を使うので1月7日に祝う)の頃、寒波が襲ってきて、とても寒いクリスマスを過ごしているとのニュースがありました。東部でもマイナス10-12度くらいまで下がるとの天気予報がありましたから、道路のぬかるみが収まり、これが何か戦況に与えた可能性はあります。

ウクライナ領内に遺棄されたロシア軍のTOS-1多連装ロケットランチャー

ただ、これはロシア軍にとって良いことですが、同時にウクライナ軍にとっても、良いことといえ、戦況の変化を説明する決定的な要因とは言い難いです。

決定的な要因になるかもしれない事柄については、以前このブログにも掲載したことがあります。それは、両軍とも弾薬がつきつつあるため、主要な戦い方が塹壕戦になったという可能性です。その記事のリンクを以下に掲載します。
ロシア空軍基地爆発相次ぐ プーチン政権 事態深刻に受け止めか―【私の論評】ウクライナ戦争は、双方の弾薬不足等で塹壕戦になりかねない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分を以下に掲載します。
それよりも、何よりももっと私が最も恐れているのは、ウクライナ、ロシアともに高精度のミサイルなどが枯渇して、従来のあまり精度の高くないミサイルや火力が中心となり、それこそ、第二次世界大戦どころか、第一次世界大戦のような塹壕戦のような戦いになってしまう可能性があることです。

第一次世界大戦の塹壕戦

両軍とも、銃や機関銃、大砲の弾丸も不足気味になり、銃剣や刀剣を用いた戦いも交えられるようになるかもしれません。

そうなると、第一次世界大戦がそうだったように、なかなか戦争の決着がつかないうちに、多くの兵の命が失われることになりかねません。

ウクライナ戦争がこのような戦争になる可能性はあると思います。そうなれば、戦争は長引くことになります。

第一次世界大戦では、ロシアでは革命が起こったため、ロシアは戦線から離脱せざるを得なくなりました。

そのようなことでもおこらない限り、戦争は長引く可能性があります。
昔ながらの、塹壕戦になれぱ、一時はロシア軍が有利になる可能性もあります。 英国防省は4日に公表した戦況分析で、ロシア軍が「督戦隊(とくせんたい)」と呼ばれる部隊をウクライナ国内に展開し始めたとの見方を明らかにしていました。逃亡を図る自軍の兵士を「射殺する」と脅し、無理やり戦闘を続行させるのが役割だといいます。

督戦隊は旧ソ連にも存在したとされ、英国防省によると、過去にもロシア軍が軍事紛争の際に使ったことがあります。ウクライナ侵攻でも、ロシアの将軍たちは兵士に陣地を死守させるため、自軍の逃亡兵を攻撃できるようにすることを希望していたようだというのです。

こうした部隊の展開について、英国防省は「逃亡兵を撃つ戦術は、ロシア軍の質や士気の低さ、規律の不十分さを証明するものであろう」と分析しています。

ワグネルなどが、督戦隊の役割をにない、徴収兵ら経験のない兵隊たちを無理やり敵塹壕に向けて突進させた可能もあります。

督戦隊は、古くはオスマントルコ帝国で存在しましたが、やはり最も有名なのは第2次世界大戦におけるスターリングラード攻防戦など、ロシアの対独戦における督戦隊の存在です。

第2次世界大戦当時、自分の名称を冠したスターリングラードをドイツから死守したい独裁者スターリンは、スターリングラード攻防戦で、督戦隊を配置し、ドイツの猛攻撃に対して、自軍兵士の退却を防ぎました。

督戦隊で有名なのは日本と戦う国民党軍でした。南京攻略戦の際に敗退して潰走する国民党軍の兵士を、挹江門(ゆうこうもん)において督戦隊が自軍兵士を射殺したことが知られています。

復刻版『督戦隊』キンドル版も発売されています。

このような戦法をとれば、塹壕戦においては一時的には、ロシア軍が優勢になる可能性はあります。それが、今回のロシア軍、ウクライナ東部ソレダルの大半を制圧した要因かもしれません。

しかし、もしこれが真相であれば、弾薬は不足しがちながらも、やがてウクライナ軍は塹壕戦でも、ドローンを多用するなどの現代的な戦術を用いつつ、古い戦術をとるロシア軍を圧倒し、挽回していく可能性はあります。

ただ、主要な戦い方が塹壕戦になってしまっていて、それが継続されるというなら、第一次世界大戦がそうであったように、戦況は一進一退の様相を呈し、長引くことが予想されます。

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