中国艦艇40隻超 南シナ海比島に集結
「大塚智彦の東南アジア万華鏡」
【
まとめ】
・フィリピンが実効支配している南沙諸島のパグアサ島周辺海域に中国艦船が集結。
・南沙省島周辺で中国のフィリピンに対する示威行為が目立つ。
・「九段線」が国際法に違反するという判断が下されたが、中国は現在に至るまでそれを完全に無視。南シナ海の南沙諸島にあるフィリピンが実効支配を続ける島の周辺海域に3月4日以降、中国の海軍、海警局艦艇や海上民兵が乗り込んだ船舶など40隻以上が集結し、フィリピン側に嫌がらせを続けていることを7日に比沿岸警備隊が明らかにした。
中国は北京で3月5日から全国人民代表大会(全人代)を開催しており、これに合わせて一方的に宣言した自国の海洋権益が及ぶ範囲とする「九段線」における示威行為でフィリピンへの圧力を強めているものとみられている。
比沿岸警備隊によるとフィリピンが実効支配している南沙諸島のパグアサ島周辺海域に中国の艦船が集結して居座っていることが明らかになった。
それによると中国人民解放軍海軍艦艇、海警局艦艇「5203」号に加えて海上民兵が乗り組んでいるとみられる艦船42隻が確認されている。
こうした中国の艦船は3月4日に同海域に展開しているのが確認され、7日現在も同海域に留まっているという。
★約400人が在住するパグアサ島 フィリピン南部パラワン州プエルトプリンセラの西方海上約483キロの南シナ海にあるパグアサ島は南沙諸島で2番目に大きな島で、1971年以来フィリピンが実効支配し、海軍兵士、沿岸警備隊隊員、漁民などの一般市民合計約400人(うち子供70人)が居住している。
島には1400メートルの滑走路も整備され、行政的にはパラワン州の一部となっている。
パグアサ島の南西約25キロの海上には中国が軍事拠点化しているスービ礁がある。
スービ礁は暗礁で元々はベトナムが支配していたが1988年に中国が攻撃して奪取。以後埋め立て工事を行い3000メートル級の滑走路やレーダー施設が建設され、海軍兵士も駐留するなど完全な軍事基地と化している。
スービ礁が間近にあることからパグアサ島はたびたび中国から嫌がらせを受けており、2020年には同島周辺海域に中国漁船100隻以上が押し掛けて示威行動を行った。
また2022年11月20日には中国の大型ロケットからの落下残骸とみられる部品がパグアサ島近くの海域で発見された。フィリピンの海軍兵士が乗ったゴムボートでこの部品をパグアサ島の砂州付近の海域で曳航していたところ中国海警局船舶が妨害し、曳航ロープを切断。残骸部品を奪取するという事態をも起きている。
この時も比沿岸警備隊は「妨害され、ロープを切断されて奪われた」と説明したが中国外務省は「比側が最初に浮遊物を発見し引揚げ曳航したものの双方が現場で友好的に協議してフィリピン側が中国側に返還した。現場で遮ったり奪い取るなどの状況はなかった」と常套手段である自己正当化に終始し、比世論の大反発を招いた経緯がある。
★繰り返し中国側に警告
フィリピン沿岸警備隊はパグアサ島周辺に集結して動かない中国の40隻以上の艦艇群に対して「そこはフィリピンの領海内である。直ちに離れるように」という警告を無線で繰り返している。
しかし中国側からは何の反応もなく完全に無視し続けているという。
マルコス大統領はこれまでのところ今回のパグアサ島での事案に対して特にコメントをしていないが、2月6日に発生した南シナ海スプラトリー諸島周辺海域での中国海警局船舶による比沿岸警備隊艦艇へのレーザー照射事件を受けて在フィリピン中国大使を大統領官邸に召喚して直接遺憾の意を示すという異例の対応を取っただけに、今後中国に対してさらに厳しい対応を取る可能性もでている。
2月21日にも比沿岸警備隊の航空機が南シナ海を警戒監視飛行中に、比排他的経済水域(EEZ)内にあるサビナ礁周辺に中国艦船約30隻が集結しているのを発見、航空機は無線を傍受したが意味不明で逆に同海域からの退去を航空機から中国艦船に命じた。
同様のことは比が実効支配するアユンギン礁周辺海域でも同日確認されており、中国の南シナ海とくに南沙省島周辺でフィリピンに対する示威行為が特に目立つ状況となっている。
★中国の一方的主張と行動 南シナ海の大半を占める「九段線」を根拠として中国は島嶼や環礁での埋め立て工事などで次々と軍事拠点化を進めており、フィリピンが実効支配するアユンギン礁やパグアサ島に対しても「中国の海洋権益が及ぶ範囲」としてフィリピンの領海やEEZ内にも関わらずに妨害行動や嫌がらせを繰り返している。
南シナ海を巡ってはフィリピン以外にもマレーシア、ベトナム、ブルネイが領有権を主張して中国と対立している。
一方的に中国が主張している「九段線」を巡っては2014年にフィリピンのベニグノ・アキノ大統領(当時)がその不当性をオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所(PCA)に提訴。
2016年にPCAは「九段線とその囲まれた海域に対する中国が主張してきた歴史的権利は国際法上の法的根拠がなく、国際法に違反する」との判断を下した。
しかし自らの主張が国際的に認められなかったことから、中国はこの判断を現在に至るまで完全に無視し続けている。
そうした中国の態度が「法の順守」とか「国際的な協調」「対話を通じた問題解決」などという決まり文句とは相容れない自己矛盾、自己撞着を起こしていることを国際社会はすでに見抜いている。
今の中国では「反省」とか「謝罪」などという類の言葉を用いることは、どんなにその責任が政府にあろうとも中国共産党支配が続く限りありえない状況となっており、それが南シナ海を緊張の海にしているのだ。
【私の論評】日豪が協同で潜水艦を運用すれば、南シナ海で米軍が手薄になっても中国を牽制できる(゚д゚)!
フィリピンでの緊張が続いている中、ロイター通信などは8日、複数の米当局者の話として、オーストラリアが米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の合意に基づき、米国製のバージニア級攻撃型原子力潜水艦を2030年代に最大5隻を購入する見込みだと報じました。
13日に西部カリフォルニア州サンディエゴで開かれるオーカス首脳会談で豪州の原潜導入計画を協議するとしています。
豪州はバージニア級原潜を30年代前半に3隻購入し、2隻を追加調達することを検討しています。30年代後半には、英国の設計に米国の技術を組み込んだ新たな潜水艦を建造する案が出ています。また、米国は自国の潜水艦を豪州に毎年寄港させ、27年頃までに豪西部に潜水艦数隻の配備を目指すといいます。
中国は東・南シナ海に加え、遠い海域でも海洋進出を図ろうとしています。米英は豪軍の潜水艦が幅広い海域で活動できるように支援することで、中国に対抗していく考えです。
米ホワイトハウスによると、バイデン大統領は13日のオーカス首脳会談に加え、アルバニージー豪首相、スナク英首相と個別会談も行います。
中国軍は2018年南シナ海に建設した7つの人工島(すなわち前進軍事拠点)のうち戦闘機の離発着が可能な滑走路を持つ3つの人工島を中心に、対空・対艦ミサイルを配備することにより、南シナ海における中国の航空優勢、海上優勢が格段に向上し、我が国のオイルシーレーン上も大きな懸念が生じたといえます。
我が国のシーレーンは、下の地図をご覧居いただければ、わかるように、中国の軍事基地に囲まれたといえます。
中国のこの海域でのフィリピンに対する脅威は、そのまま我が国の脅威でもあります。中国は、これによって、我が国に対する通商妨害や通商破壊の準備も整えつつあるといえます。
現在世界の超大国は、米国一国となりました。その米国では、ジョー・バイデン米政権が、中国の軍事的覇権主義に対峙する強い姿勢を示しました。ダニエル・クリテンブリンク国務次官補は2月28日、米下院外交委員会の公聴会で、中国による沖縄・尖閣諸島や台湾への威圧に対し、「米国は対抗し続ける」と表明しました。
中国とロシア、北朝鮮などの専制主義国家が連携を強めるなか、米国は世界各国で外交攻勢を仕掛けている。識者は「米国が『戦時体制』に入った」と分析しました。 東アジア・太平洋を担当するクリテンブリンク氏は、委員会に事前提出した書面証言で、南シナ海や尖閣諸島を含む東シナ海、台湾海峡をめぐる中国の脅威や挑発を看過しない立場を表明しました。
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ダニエル・クリテンブリンク国務次官補 |
ただ、いかに超大国米国とはいえ、軍事力には限りがあります。世界でかなり大きな紛争が起こった場合、米国は二正面作戦なら対応できますが、さすがに三正面作戦まではできないです。それでも、三正面作戦を実行すれば、兵力を小出しにすることになり、最悪全正面で敗北することになりかねません。
現状では、ウクライナ戦争中でもあり、ロシアはこれにかかりっきりなっているため、米国が三正面作戦を実行することを余儀なくされることは、想像しにくいですが、未来永劫にわたって、それがないという保証はありません。
ただ、日米豪などと中露等が全く異なるのは、日米は多くの同盟国、準同盟国を持っていることです。日本が従来のように、米国一辺倒だったのを、多くの仲間を作れるようになったのは、安倍政権の功績です。
米国が二正面作戦で身動きが取れなくなっているときに、大きな紛争などが起これば同盟国、準同盟国、同士国、特にその近辺にあるそれらの国々協力しあいながら、もう一つの正面を受け持つのは当然のことです。そうでなければ、中露に付け入る隙を与えることになります。
特にフィリピンなどで、中国が軍事的行動に打って出た場合、日豪がこれに協力して対抗すべきです。特に、日本は中東から大量の原油を輸入しており、フィリピンの近くにはシーレーンが通っており、これは是が非でも守らなければなりません。
一方オーストラリアは原油生産国でもあります。しかし、中国の艦艇がオーストラリアの近海を航行するなど、中国からの圧力はありますし、南シナ海はオーストラリアに比較的近い位置にあります。
中国が、南シナ海の軍事基地に対艦ミサイルや、対空ミサイルを配備した現在、航空機も艦艇も中国の標的になります。潜水艦はこれに対抗策としてかなり有効です。なぜなら、このブログも何度か掲載しているように、中国のASW(Anti Submarine Wafare:
対潜水艦戦)の能力は、日米と比較してかなり劣っている点があるからです。
そのため、オーストラリアが原潜を持つことは、中国に対してかなりの牽制になります。特に、米国が二正面作戦をせざるを得ない状況に追い込まれたとき、日豪が共同で、南シナ海の監視や中国への牽制を強めることができます。
普段から、日米豪が協同で、南シナ海の監視を行えば、いざというときの情報共有や連携もしやすいです。
オーストラリアは原潜を持つことを選択しましたが、一方日本は、どうかといえば、私自身は原潜を持つ必要性はさほど高くはないとは思うのですが、検討はすべきと思います。
日本の海上安全保障上の主な脅威は中国と北朝鮮であり、両国とも地理的に極めて近いです。海上自衛隊の通常動力の攻撃型潜水艦(SSK)は、すでに22隻体制を整えてあり、日本海と黄海、東シナ海、南シナ海、さらには西太平洋、インド太平洋海域で活動するための優れたプラットフォーム(基盤)になっています。
新型のリチウムイオン電池と長時間潜航可能な非大気依存推進(AIP)機関を使うことで、日本の潜水艦は海洋上の重要水路、さらには中国や北朝鮮の海軍基地や港の外側に長期間にわたって居続けることができます。
2017年から建造が始まった新型潜水艦『たいげい』型は、原子力を使わない通常動力潜水艦としては世界トップレベルの潜航能力を持ちます。鉛蓄電池と比べて、より多くの電力を素早く充電、放電できる上、水素ガスも発生しないリチウムイオン蓄電池の特性を最大限に発揮できるよう、設計を改めた点が大きなポイントです。
『たいげい』型の4番艦からは、潜航しながら速やかに蓄電池を充電できる「新型スノーケル発電システム」を採用。これにより、これまで以上に効率的に潜水艦の充電ができるようになっています。
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三菱重工業神戸造船所にて進水式を行なう海上自衛隊 「たいげい型3番艦」潜水艦じんげい(SS-515)。2022年10月12日 |
日本の潜水艦は、関心を寄せている他の場所でも何週間も都合よく海上交通を監視することができます。議論の中心となるべきは、海自がより広範囲の地域をカバーするためにさらに多くのSSKを持つべきかどうかです。こちらの方が、より金額に見合うだけの価値があるものと考えられます。
オーストラリアが最終的に攻撃型原潜を選んだ理由は、フランスとの契約で当初得る予定だった12隻の通常動力型潜水艦を保有したとしても、オーストラリア海軍がインド太平洋地域に常時2、3隻以上を派遣することが難しかったからです。
というのも、オーストラリア海軍の基地は、潜水艦を運用する海域とはかなりの距離があるためです。通常動力型潜水艦は移動のために大量の燃料を使うため、目的地に着いても任務に就く時間が限られてしまいます。これに対し、原潜であれぱオーストラリアから遠く離れた場所でも長期間任務にあたることができます。
さらに、オーストラリア海軍は今、この地域で米海軍を支える遠征海軍になろうとしています。この役割を果たすのに、原潜は強力な武器やセンサー、無人システムを擁するだけに、より適しています。これらはこれまでのところ、オーストラリア本土から提供できないアセット(軍事資産)です。
これは海自の場合には当てはまりません。海自は日本近海を守るための防御的な組織であり、地域を越えて力を行使する遠征海軍ではありません。海自は無人システムやミサイルなどを日本本土から利用発射でき、高額な原潜にそれらを搭載する必要がありません。
忘れてはいけないことは、潜水艦は海洋安全保障の一部を占めているに過ぎないことです。無人システムから水上艦、宇宙や地上配備のシステムまでさまざまなプラットフォームがすべて海上安全保障での役割を負っています。
原潜を開発し、建造するには多額の費用がかかりますが、日本の陸海空の自衛隊がすでに持っている能力をそれほど増強する訳ではありません。むしろ、陸、空、海上、海中の分野で実際に革新的で大きな影響を及ぼすプラットフォームや技術に投資すべきです。
ただし、原潜のメリットとして、その原子炉が供給する継続的な電力に代わるものはないです。まさに、電気の使い放題ができます。燃料供給なしにかなり長時間潜航できますし、電力供給量は無限大と言ってもよく、このエネルギーを最大限に利用して、防御装置や原潜と協同できる電力で動く自律型無人潜水機(UUV)を運用でき、これらとセンサーをインテグレート(統合)でき、効率的な作戦を実行できるというメリットがあります。
したがって、日本が将来の活動で潜水艦により大きな戦略的価値を与えることを検討するなら、原潜導入という選択肢を検討することは賢明な判断と言えると思います。
いずれにしても、日豪が協同で潜水艦を運用すれば、南シナ海で米軍が手薄になったとしも、中国を牽制できる能力が飛躍的に高まることは間違いないです。
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