2024年3月2日土曜日

トランプ政権の対日の日本側の錯誤―【私の論評】「反トランプ錯乱症候群」からFOXニュースの変遷まで: 米国政治とメディアの舞台裏

トランプ政権の対日の日本側の錯誤

まとめ
  • 米大統領選予備選で、トランプ支持陣営から「反トランプ錯乱症候群」という言葉が発せられる。
  • トランプ政権下、日本側の一部の同大統領が理不尽で強硬な要求を突きつけるという予測は、錯誤だった。
  • 日本の「識者」がトランプ氏の片言隻句(へんげんせきく)を切り取り、悪い方向への絵図を描く悪習は終わりにすべき。

 アメリカの大統領選予備選で、トランプ支持者から「反トランプ錯乱症候群」と呼ばれる激しい論議が生じている。この言葉は、トランプ氏への嫌悪からくる感情的な悪口が事実に基づかずに拡散している傾向を指し、トランプ支持層からの反撃の一環とされている。特に、日本のメディアでは「もしトラ」現象として、次期トランプ政権が北大西洋条約機構(NATO)からの撤退や日米同盟の破棄の可能性が広がっているという予測が取り上げられている。

 しかしこのような主張を裏付けるためには、トランプ政権が過去4年間にどのような政策を取ってきたかを検証する必要がある。トランプ大統領の在任中においてNATOからの離脱政策が実際に採用されたかどうか、また日本との関係において自動車や為替問題で要求や抗議が行われたかどうかを見るべきである。

 まず、NATOに関しては、トランプ大統領は離脱の方針を取ることはなく、西欧諸国に対しては防衛費の増額を促すなど姿勢を見せた。日本においても、トランプ政権は日米同盟を強化し、安倍首相との関係は緊密で安定していた。日本側の一部識者がトランプ政権に対して無責任かつ的外れな予測を立ており、それが反トランプ錯乱症候群の一端である可能性がある。

 具体的には、自動車や為替問題に関しては、日本の一部メディアが予測した厳しい要求や抗議が実際には行われなかった。トランプ大統領は日本に対して自動車貿易や為替政策についての要求を行わず、逆に在日米軍駐留経費についてはジェームズ・マティス国防長官が日本の負担を称賛する発言を行った。

 以上のようなトランプ政権に対する日本側の対応は無責任かつ錯誤であり、これも反トランプ錯乱症候群の一例といえるだろう。日本の「識者」がトランプ氏の片言隻句を切り取り、悪い方向への絵図を描くという定型だろう。そんな悪習はそろそろ終わりにすべき時期である。

この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】「反トランプ錯乱症候群」からFOXニュースの変遷まで: 米国政治とメディアの舞台裏

まとめ
  • 「反トランプ錯乱症候群」とは、トランプ批判者が感情的で非合理な攻撃を行う傾向を指す言葉。「人種差別主義者」などの過剰な攻撃が挙げられ、感情に基づく嫌悪が正当な反対意見を超えている。
  • 米国のメディアは大手新聞はすべてリベラル系、大手テレビ局はFOXだけが例外的に保守系だったが、最近これが変質し、バイデン勝利早期宣言が保守派離れを引き起こす可能性が指摘されている。
  • 名物司会者のタッカー・カールソンがFOXを離れ、プーチンインタビューを通じて反ロシア姿勢に反発する一部の保守派の立場を示唆。
  • トランプのロシア観は複雑で変動的。戦略的な視点からロシアを利用しようとする姿勢が見られる。
  • 米国の大手メディアはリベラル系であり、FOXも左傾化が指摘される。日本のメディアは主に米国大手メディアの報道を流し、保守派視点の情報不足が懸念される。
  • 現代ではAIや翻訳技術を駆使して、米国の情報を容易に入手可能であり、米国の保守系メディアにもアクセスすべき

トランプ反対派の抗議活動に耳を塞ぐトランプ支持派

「反トランプ錯乱症候群」とは、英語では"Anti-Trump Derangement Syndrome(ATDS)"であり、ドナルド・トランプ前米大統領に対して誇張されたり非合理的な批判をするある人々の傾向を指す言葉です。

この言葉は、トランプ支持者によって、事実の分析よりもむしろ感情や敵意に駆り立てられたと見なされるトランプに対する言過ぎた攻撃を特徴付けるのに使われます。

「反トランプ錯乱症候群」に関する主なポイントは以下の通りです。

このフレーズは、トランプに非合理的に敵対的な人々を揶揄するものであり、トランプへの嫌悪に目がくらんでいるために、根拠のない暴言を吐く傾向を含意しています。
  • 文章で例示されているのは、「トランプは人種差別主義者だ」、「トランプは民主主義の脅威だ」、「トランプはヒトラーに似ている」、「トランプはナルシストだ」といった主張です。他にも、トランプへの感情的な反発から、彼の全ての言動を否定的に解釈すること。 たとえば「トランプが言ったことはすべて間違っている。」と決めつける。トランプ支持者すべてを「教育程度が低い」などとステレオタイプ化することなど。
  • この症候群は、トランプに対する強い嫌悪感から、正常な判断力を失うほどの強い敵意や拒絶反応が引き起こされることによるものです。
  • これは、トランプの政策や行為への合理的な反対意見というよりは、トランプへの非合理的な「嫌悪」として、トランプ批判を一蹴するのに用いられます。
要約すると、「反トランプ錯乱症候群」は、トランプの批判者が彼を嫌悪するあまり、事実が裏付ける以上の歪められた、根拠のない攻撃をすることを意味しています。

以前このブログでも指摘したように、米国のメディアは大手新聞は、すべてリベラル系であり、大手テレビ局もほとんどがリベラル系です。従来はFOXTVが唯一保守系ともいわれてきましたが、最近ではそうでもないと指摘する人もいます。

FOXニュースに関して、従来の保守的な立場からの変化が指摘される理由には以下のようなものが考えられます。
  • トランプ政権批判のコメンテーターを多く起用するようになった。保守派の論客が減っている。
  • 2020年の大統領選で、FOXは早い段階でバイデンの当選を宣言。トランプ陣営の不正論を批判的に報道。
  • 視聴者からの反発で、保守派の視聴者がFOXから離れているとの指摘がある。
  • 社内での性的暴行告発事件で保守的な社風への批判が高まった。
  • 保守派論客の一部がFOXを「裏切り」と非難し、新保守系メディアに移籍する動きが出ている。
  • FOXの親会社が経営権売却で左派寄りの方針転換を懸念する声がある。
このように、FOXの保守的立場の変質を示唆する動きがあるとされています。保守派からの批判を招く一方、リベラル層への訴求を強める動きが見て取れると指摘されています。

これは、FOX TVを退局した元キャスターであるタッカー・カールソンがプーチン大統領にインタビューしたことでも顕となりました。FOXの保守的立場の変化とこのことには以下のような関係があると考えられます。
  • タッカー・カールソンは2022年12月にFOXを退局し、新保守系メディアのThe Blazeに移籍しました。彼がFOXを去ったのは、FOXの保守的立場の変化に失望したためとされます。
  • タッカー・カールソンは、2023年2月にロシアのプーチン大統領にインタビューを行い、その映像がThe Blazeで放送されました。プーチンインタビューは、FOXの反ロシア的報道姿勢への反発の表れと見られます。
  • 保守系の視聴者の中にはロシア寄りの姿勢を支持するものも多いとみられ、それとのギャップがFOXの変化を示唆しているようです。
  • プーチン氏への同情的インタビューは、FOXの反ロシア姿勢へのアンチテーゼを提示しようとしたものと受け取られています。
  • タッカー・カールソンは保守系メディアへ移籍しており、FOXでの発言の自由が制限されたことへの不満があるようです。
  • FOXの親ロシア派保守派の立場放棄が、元キャスターの行動の背景にあるようです。
このように、元キャスターの行動はFOXの保守的立場の変更と無関係ではないと考えられ、その変化を象徴する出来事の一つと言えそうです。

タッカー・カールソン氏

以下にプーチンに対するタッカー・カールソンのインタビューの概要を掲載します。
  • 2023年2月にロシアのモスクワで行われた。ロシアによるウクライナ侵攻について、プーチンは「特別軍事作戦」の正当性を主張。
  • NATOの東方拡大がロシアを脅かしたとの立場を表明。
  • カールソンはウクライナへの意見介入を避け、プーチンの主張を傾聴する姿勢だった。
  • 西側メディアの対ロシア報道の偏向性を問題視する発言があった。
  • ロシア寄りの保守派の立場を代弁する役割をカールソンが担った。
  • 友好的な雰囲気の中で1時間以上にわたり対談が行われた。
  • カールソンはFOXニュースでの発言の自由を求めて辞めた経緯があり、その意味でも象徴的なインタビューとなった。
保守派のロシア観については以下のように整理できます。
  • 保守派の一部には親ロシア的な人々がいるが、保守派全体が親ロシアとは限らない。リベラル派を敵視することから、ロシアを戦略的な同盟相手と見る向きがある。
  • ロシアの伝統的価値観を重視する保守派が、プーチン体制を評価する場合がある。国粋主義的な保守派にとって、西側諸国よりもロシアの方が味方と見えることがある。
  • 一方で、冷戦時代の反共的姿勢を重視する保守派も依然として多く、親ロシアとは限らない。
  • トランプ派と旧来の共和党保守派とでも見方が異なる。保守派内でも親ロシア派と反ロシア派に分かれることがある。
概して、保守派の一部にロシア寄りの傾向があると言えますが、保守派全体が一様に親ロシアとは言い切れないのが実情だと考えられます。

トランプ氏のロシア観については、親ロシア的というよりは複雑であいまいな面があると言えます。大統領在任中は、対ロ制裁を強化する一方、プーチンとの個人的な関係構築を目指しました。
  • NATOへの批判的な言動があり、ロシアの警戒感を和らげる狙いがあったとされる。ただし、軍事面では対ロシアの警戒姿勢は緩めませんでした。
  • 大統領選に際しては、ロシアによる選挙介入を疑いましたが、後にロシア寄りの言動もありました。
  • ウクライナ侵攻後はプーチンを「天才」と持ち上げるなど、親ロシア的な言動が目立ちました。ただ一方で、ウクライナ支援も訴えており、立場は一貫していません。
  • 戦略的にロシアを利用する意図が強く、イデオロギー的な親ロシアではないとみられます。
このように、トランプのロシア観は状況に応じて変化する側面が大きく、単純な親ロシアとは言い難いです。

私自身は、保守派を自認していますが、ロシアは未だウクライナと交戦中であり、ロシアを支持するにしても、批判するにしても、それは戦後になって情報が十分に集まった段階で行うべきであり、現時点で、それを表明したり、ロシアを支持したりする姿勢をみせれば、それはロシアに利用されるだけだと思います。

ただしFOXニュースの保守的立場の変質を示唆する動きとして、ロシア観以外にも以下の点が挙げられます。
  • トランプ元大統領に批判的なコメンテーターを多く起用するようになったこと
  • 2020年の大統領選で、他の保守系メディアより早い段階でバイデン勝利を宣言したこと
  • 気候変動問題の重要性を訴える番組が増え、保守層の反発を招いており、さらに人種や性的マイノリティー問題でのリベラル寄りの姿勢が目立つようになったこと
  • 視聴者からの批判で、保守派の視聴者が減少傾向にあること
  • 社内の性的少数者への配慮を強化し、保守的な企業文化を改める改革していること
このように報道姿勢や社内運営の面で、FOXの左傾化されつつある兆候がみられ、保守派メディアとしての色合いが薄れていると言えます。


この傾向が強まりつつある現在、大手テレビ局も、大手新聞もほぼすべてがリベラル系ということがいえ、このような状況では、「反トランプ錯乱症候群」が強まることはあっても弱まることはないでしょう。

日本のメディアのトランプ報道は、米国の大手メディアの内容をそのまま垂れ流す傾向があり、それでは、真のトランプ像や、少なくとも米国の人口の半分くらいは存在する保守派の考えなどは、日本のメデイアは報道しないということになります。

それでは、日本では、メディアの報道をみている限りでは、米国の半分しか見ていないことになり、後の半分のことはわからないということになります。

「反トランプ錯乱症候群」になることを防ぐためには、自ら米国の情報を仕入れて判断するしかなさそうです。ただ、従来と比較すれば、生成AIなどで、すぐに翻訳できようになった現在では、その敷居は従来よりはかなり低くなったといえます。

アメリカの保守系メディアは、政治的な視点や思想によって分類されます。以下はいくつかの代表的な保守系メディアです。

  1. The Blaze: 保守派の視点を提供するメディアで、元フォックスニュースのホストであるグレン・ベックが設立しました
  2. The Drudge Report: ウェブベースの保守系ニュースアグリゲーターで、政治的な話題をカバーしています
  3. Newsmax: 保守的な視点を持つニュースサイトで、政治、経済、社会問題などを報じています2

これらのメディアは、保守派の視点を提供する一部の選択肢ですが、アメリカのメディアは多様であり、さまざまな意見や視点を反映しています。

ただ、日本のメディアだけに頼っていては、米国という国を正しく理解することはできません。米国の保守系メディアの情報も参照することをおすすめします。

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2024年3月1日金曜日

能登半島地震から2カ月 "最大震度5弱程度以上"は10分の1に 引き続き地震活動に注意 気象庁―【私の論評】補正予算なしで大丈夫なのか?過去の教訓を忘れて今頃「政倫審」を開催する与野党の無責任

 能登半島地震から2カ月 "最大震度5弱程度以上"は10分の1に 引き続き地震活動に注意 気象庁


 能登半島での地震活動について、気象庁は、最大震度5弱程度以上の地震が発生する確率は徐々に低くなってきているものの、引き続き注意が必要としています。

 気象庁は能登半島での地震活動について、元日に発生したマグニチュード7.6・最大震度7の地震以降、地震の発生回数は緩やかに減少しているとしました。

 今後の見通しとして、最大震度5弱程度以上の地震が発生する可能性は、当初に比べて10分の1程度に低くなってきましたが、元日の地震の前と比べると依然として活発な状態としています。
このため一連の地震活動は当分の間継続すると考えられるため、引き続き強い揺れを伴う地震に注意するよう、呼びかけています。

【私の論評】補正予算なしで大丈夫なのか?過去の教訓を忘れ今頃「政倫審」を開催する与野党の無責任

まとめ

  • 過去には震度7以上の地震で補正予算を組むのが慣例だったが、政府は2024年度予算案では予備費を前年の2倍に増額し、財政支援を行う方針とした。
  • 財務省は歴史的に財政健全化を重視し、補正予算の発動には慎重な姿勢を取っているが、慣例に反して補正予算を組まないのは、岸田政権への財務省の見方が関係しているとの見解もある
  • 野党は予算成立を人質に政倫審を開催し、補正予算の審議の機会を完璧になきものにした。
  • 補正予算を組むべきとの野党の声もあったが、結局それを組まず、政倫審を開催した与野党の責任が問われるべきである。
  • 補正予算がなくても、予備費だけで能登半島地震への対応はできるだろうが、新たな自然災害おこった場合被災者や国民への支援が遅れる可能性がある。

能登半島も上の記事にあるように、今後も地震に対する警戒が必要です。昨日2月29日18時35分頃、千葉県東方沖を震源とするマグニチュード4.9の地震が観測されました。千葉県では最大震度4を観測しました。

行方不明者を捜索する航空自衛隊の災害救助犬とハンドラー

今後、今期中(三月末)までに、大きな地震や洪水などの大規模な自然災害が発生しないとは言い切れないです。

さて、それを考えると、能登半島地震に関して、補正予算を組まなかったというのはなんとも心もとないです。

震度7以上の地震が発生した際、政府が補正予算を組むことが慣例化していたかについては、特定の慣例に言及する資料はありませんが、過去に大きな地震が起きた際には、復旧や復興のために補正予算が組まれることが一般的でした。

過去の日本で発生した主要な震災に関連する補正予算の規模を調査しました。阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震に関しての補正予算の情報をまとめました。

阪神・淡路大震災に関する補正予算
  • 補正予算: 約17兆円(震災対策関連事業に16.3兆円投入されたとされています)
東日本大震災に関する補正予算
  • 第1次補正予算: 約4兆153億円(2011年度) 
  • 第2次補正予算: 約9兆9988億円(平成23年度) 

東日本大震災における災害派遣活動 23.3.26 13普連:捜索(南相馬市鹿島区南海老地区)

熊本地震に関する補正予算
  • 平成28年度補正予算: 約7780億円 
  • 令和元年度9月補正予算: 被災分を含む総額6569億円 

これらの補正予算は、震災発生後の復旧・復興に伴う直接的な需要だけでなく、インフラ復旧や災害援助、長期的な復興計画にも配分されました。政府はこれらの資金を効率的かつ迅速に活用し、被災地の復興を支援しています。

最近の能登半島地震においては、政府は補正予算を組まずに、予備費のみで対応するという異例の決定をしました。2024年度予算案の予備費を前年の2倍にあたる1兆円に増額し、財政支援を行うとしています。

予備費の増額を通じて災害復旧や復興を支援するとされていますが、予備費の使い道は限定されていないため、政府の「便利な財布」としての機能が強調されています。

無論、これによって能登半島地震のみには十分対応できると思います。

しかし、今期末(3月)から来年度(4月以降)にかけてこの記事の冒頭で指摘したとおり、能登半島でも、他の地域でも大きな地震が起こらないとは断言できません。そうなれば、すぐには対応できない場合も想定されます。

このような不安材料があるからこそ、過去の政府は震度7以上の地震が起こった場合、ほとんど例外なく補正予算を組んだのです。

無論能登半島地震の対応として予備費を最初に使用することは、流動性の高い資金運用を可能とし、緊急時の迅速な対策実施へと繋がります。そうして、補正予算の策定は、新たなリスクに備えるとともに、リスクに備えた長期的な視野を持つことができるという点で重要です。

能登半島地震に関する補正予算を組まないということは、リスク管理の観点からいえば危険極まりないといえます。大災害は、能登半島地震だけと限定することはできません、他の大きな地震や、水害などの大災害が起こらないとは断言できません。

なぜ、補正予算を組まないのかといえば、もうすでに財務省は岸田政権は用済みと考えているという見解もあります。

補正予算の編成を巡って財務省が消極的な姿勢を示しているとの報道があり、その背景には岸田政権への財務省の見方が関係しているとの見解があるようです。財務省は歴史的に日本の財政健全化に強いコミットメントを持ち、補正予算の発動には厳しい姿勢を取ることが一般的です。

財務省の財政観と補正予算予算運用の原則: 
財務省は一貫して予算運用において財政健全化を重視し、補正予算の発動には慎重な姿勢を取ります。[1]
政権との関係: 
財務省との関係は政権の財政政策や政策の推進力によって変わる可能性があり、必ずしも岸田政権のみに特有の状況とは限りません。[2]
政権の動向と財務省の対応政権の意向: 
政権が積極的に補正予算を編成しようとする動きに対して、財務省がどう対応するのかはその時の政治、経済状況によって異なります。[3]
用済み説の評価: 
いわゆる「用済み」という見方は、一部の解釈や分析によるものであり、必ずしも全ての専門家や分析者の共通の見解ではありません。
ただし、能登半島地震に関して、迅速に大規模な補正予算を組まないという方針は、過去との比較からすれば、異常事態といわざるをえません。

こうした異常事態を引き起こしている、与党に関して、これを批判しない野党も異常です。

昨日のブログのタイトルは、以下でした。
政倫審全面公開、奇策の岸田首相に「救世主」と称賛や困惑 自民党幹部「安倍派」―【私の論評】予算成立 vs 政治資金問題:どっちが国民のため!? 国民不在の茶番劇に終止符を打て!
この記事の中で、私は以下のように、野党について批判しました。
予算の審議に関しても、野党が予算の内容について岸田政権の政策の間違いを本格的に追求するというのならまだしも、ただただ、予算成立を人質にとり、最初から疑惑が晴れず、単なるみそぎやガス抜きに過ぎない政倫審を開催し、岸田政権にマイナスイメージをつけることに奔走している姿は、異様です。何のために議員をしているか、存在意義が疑われます。
昨日は、補正予算のことについても述べたかったのですが、それでは話が長くなるので、掲載はしませんでした。政倫審を開催したことにより、補正予算の審議の可能性は完璧に消えたといえます。

これを国民不在といわずして何というべきでしょうか。政倫審など予算ならびに補正予算の審議の後で実施しても何ら支障がないどころか、ほとんど無意味なものです。


無論、国民民主党の玉木代表は、「急ぐのはこの1月2月3月の対応です。ですから、政府におかれては今年度の第2次補正予算(案)の編成に着手すべきだ」と述べ、政府が来年度予算案の予備費を積み増す方針に反対し、補正予算による対応を主張しました。玉木代表は住宅が損壊した世帯への最大300万円の支援金についても、「物価高の状況を踏まえて引き上げるべきだ」と強調していました。

立憲民主党の岡田幹事長も、「補正予算で対応すべき」と政府に対して批判していることが報告されています。

しかし、結果として政倫審は開催され、補正予算の審議どころか、本予算の成立まで人質にとるという有り様です。本来なら、野党は補正予算を組まないことで、与党を吊し上げにして、補正予算を組むことを迫るべきでした。それが、本当の野党議員の仕事というものです。

そのような緊張関係があれば、政治も良くなっていく見込みがでてきます。

もし、来年度中に運悪く震災や洪水などの大災害が起きて何らかの支障がでた場合、今のタイミングで政倫審を開催した与野党に対して怒りをぶつけるべきです。無論、財務省に対しても怒りをぶつけるべきでしょう。

テレビなどのマスコミは、そうなった場合、被災者や国民などを置き去りにして、政府を叩きまくるでしょうが、間違っても、与党だけ責めるということはすべきではありません。野党も財務省をも責めるべきです。ただそのようなことにならないことを祈るばかりです。

私からすると、多くの国民が現状に対してあまり怒らないということが不思議です。実際に大災害が再び生じて、当面の予算が足りなくなったときには、すぐに補正予算を組むことになるでしょうが、最初から補正予算を組んでおけば、スムーズに対応できます。

しかし、補正予算の審議も一定の時間がかかるので、その間に被害が大きくなってしまった場合、その被害を被る可能性があるのは被災地の人々であるということ忘れるべきではありません。

他人事と思うべきではありません。日本は、地震も多いですが、洪水その他の災害も頻繁にあります。その被害を被るのはあなた自身かもしれないし、あなたの家族か親戚か知人になるかもしれないのです。

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2024年2月29日木曜日

政倫審全面公開、奇策の岸田首相に「救世主」と称賛や困惑 自民党幹部「安倍派」―【私の論評】予算成立 vs 政治資金問題:どっちが国民のため!? 国民不在の茶番劇に終止符を打て!

政倫審全面公開、奇策の岸田首相に「救世主」と称賛や困惑 自民党幹部「安倍派」

まとめ
  • 岸田首相が自民党総裁として政倫審に全面公開で出席する決断をした。
  • 安倍派と二階派の5人も出席せざるを得ない状況になり、与野党の膠着状態が打開された。
  • 高木前国対委員長も首相の決断に驚きつつ、説明責任を果たすためにはオープンな姿勢が良いと語った。
  • 出席者の方針が固まり、内閣支持率の上昇が期待される。
  • 首相の全面公開には賛否があり、一部では戸惑いの声もある。

岸田首相

 岸田文雄首相は、自由民主党の総裁として、派閥の政治資金パーティー収入不記載事件に対する説明を、政治倫理審査会(政倫審)に全面公開で行うことを決断した。この決断は、政界に大きな影響を与え、特に安倍晋三派と二階俊博派の5人の議員に対して、彼らもまた全面公開で政倫審に出席せざるを得ない状況を生み出した。

 その結果、自民党内の与野党間の膠着状態が打開される可能性が出てきた。これは、政治的な議論や対立が進展しない状況、つまり「膠着状態」が解消され、新たな動きが見込めるという意味だ。

 安倍派の高木毅前国対委員長も首相の決断に驚きつつも、説明責任を果たすためにはオープンな姿勢が良いと判断したと述べた。高木前委員長のコメントは、岸田首相の決断が自民党内部にも一定の影響を及ぼしていることを示している。

 5人の出席方針が固まりつつあり、その結果として内閣支持率が上がるとの楽観的な見方もある一方で、首相の全面公開に対する戸惑いや疑問を持つ者もいる。政倫審の規定に基づき、本人の許可があれば審議内容を全面公開できることになっている。

 岸田首相の行動に対する意見は賛否両論で、一部からはその決断を評価する声もあれば、反対する声も存在する。これは、岸田首相の行動が政界に与える影響の大きさを示しており、今後の展開が注目される。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】予算成立 vs 政治資金問題:どっちが国民のため!? 国民不在の茶番劇に終止符を打て!

まとめ
  • 政治資金規正法で政治家の腐敗を防ぐのは難しい。政倫審は出席に強制力がなく、虚偽の証言に罰則がなく、原則非公開で時間も限られているため、議員にとってはみそぎやガス抜きに過ぎない。
  • 検察の追及の限界があり、今回の事件では政治資金規正法で国会議員3人の立件にとどまっている。
  • 予算成立を妨げている与野党の政倫審を巡る交渉は無意味。国民が被害を受けている。
  • 政治資金にかかる税務調査で議員の税金感覚を明らかにできる。マスコミはこれを報道し、国民に情報を提供するべき。
  • 過去10年くらいまで遡って与野党に限らず全数調査を行い、公表すべき。有権者は次の選挙で票をいれない選択肢が得られる。マスコミがこれをしないなら、岸田首相が行うべき。



「政治とカネ」の問題は、政治家の腐敗を防ぐために重要ですが、現在のザル法ともいわれる政治資金規正法では限界があります。野党は政治倫理審査会(政倫審)の開催を要求しそれに岸田首相が応えた形になっていますが、元々政倫審は出席に強制力がなく、虚偽の証言に罰則がないため、疑惑は晴れません。また、原則非公開で時間も限られているため、議員にとっては単なるみそぎやガス抜きに過ぎません。

これまでの政治事件を振り返ると、検察の追及が最も強力でしたが、今回の事件では政治資金規正法で国会議員3人の立件にとどまっています。政倫審における野党議員の追及で、検察の成果を超えることはありません。

それでも、国会は政倫審を動かそうとしています。新年度予算案の年度内成立を確実にするため、衆院では2月いっぱいで通過させようとしています。野党側の協力を得るために、政倫審が交渉材料になっているのです。これこそ、国民不在の与野党の無意味な交渉といえます。

本来与党としては、新年度予算成立こそが今もっとも重要なことなので、それが終了してから、政倫審を開催すると主張すべきと思います。野党としては、それでは意味がないのでしょうが、とはいっても予算成立を遅らせたからといって、何の意味もありません。

予算成立の遅延で、しわ寄せを被るのは国民です。与野党議員たちには、関係ありません。予算成立が遅延しても、歳費と呼ばれる国会議員の給料は、確実に支払われます。

歳費は、法律で決められています。2023年12月現在、役職に付いていない一般の国会議員の歳費月額は130万1000円です。

これにボーナスにあたる「期末手当」が年2回支給され、年収は約2000万円以上になります。

さらに、月額100万円の「文書通信交通滞在費」、月額65万円の「立法事務費」、JRや航空券の無料クーポン券など、様々な手当が支給されます。

これらの手当を含めると、国会議員一人当たりの年間の費用は約7500万円になると見積もられています。

これだの歳費を受け取りながら、まともな活動もせず、国民不在の国会ごっこをしている議員たちには、大声を出して言いたいです「ふざけるな」と。

豪遊する日本の国会議員たち AI生成画

予算の審議に関しても、野党が予算の内容について岸田政権の政策の間違いを本格的に追求するというのならまだしも、ただただ、予算成立を人質にとり、最初から疑惑が晴れず、単なるみそぎやガス抜きに過ぎない政倫審を開催し、岸田政権にマイナスイメージをつけることに奔走している姿は、異様です。何のために議員をしているか、存在意義が疑われます。

しかし、政治とカネを巡る疑惑を晴らすために残された手段は存在します。政治資金にかかる税務です。政治家個人として、キックバックは雑所得であることについて、国税庁通達もあり疑問の余地がありません。雑所得に当然税金を課すことができます。

先日公表された政治資金収支報告書未記載の82人を含む全国会議員について、確定申告期において過年度分を含め申告をしたか、するつもりがあるかを、全数調査(対象となるものをすべて調べること)することで、誰が税金についてまともな感覚があるのかを明らかにできるでしょう。

マスコミは、政治家個人ベースでこれを報道すれば、国民にとって貴重な情報となることでしょう。


私としては、これにとどまらず、与野党にかかわらず、過去10年くらいまで遡って全数調査を行い、公表すべきと思います。

そうして、税金に関してまともな感覚のない議員については、有権者は次の選挙で票をいれないという選択肢が得られることになります。

マスコミがここまでやらないというのなら、岸田首相ご自身にそれをお願いしたいものです。


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2024年2月28日水曜日

想定より早く進む少子化、昨年の出生数は8年連続で過去最少…婚姻90年ぶりに50万組割れ―【私の論評】少子化とAI・ロボット化:国際比較から見る出生率の低下と先進国の課題

想定より早く進む少子化、昨年の出生数は8年連続で過去最少…婚姻90年ぶりに50万組割れ

まとめ
  • 2023年の日本の出生数が過去最低の75万8631人で、前年比5.1%減。
  • 同年の婚姻件数も前年比5.9%減の48万9281組で、90年ぶりに50万組を下回る。
  • 出生数の減少は2016年以降加速しており、2022年までに約21.1%減少。
  • 2023年の死亡数は159万503人で過去最多を更新し、自然減も史上最大の83万1872人に。
  • 少子化の進行および高齢化による死亡数の増加が続いている。


 2023年に厚生労働省が公表した速報値によれば、我が国の出生数が過去最低の75万8631人に達し、前年比5.1%の減少となり、連続8年間最小記録が更新されたことが明らかとなった。また、婚姻件数も前年比5.9%減の48万9281組に低下し、50万組を下回る90年ぶりの水準に至る。婚姻数の減少は子供の数への影響を数年遅れて反映させることが常である故、今後も少子化の進行が警戒される状況である。

 国立社会保障・人口問題研究所が昨年の4月に推定した通り、出生数が75万人に到達する時期は2035年頃と見込まれていたが、実際の減少の勢いは予想を上回る形で進行している。速報値には日本で生まれた外国人も含まれており、日本国民のみを対象とした最終的な数字は秋に公表される予定で、さらなる減少が予想されている。

 出生数の減少は、2016年に100万人を割り込んだ後、より顕著なものとなっている。2016年から2022年の間に約21.1%減少し、これは2010年から2016年までの6年間での約8.8%減少を著しく上回る。日本では婚外子の割合が低いため、婚姻の減少は出生率低下とほぼ直接的な関係にあるとされる。婚姻数のピークは1972年の約109万組であったが、約50年で半分以下に落ち込んでいる。過去に婚姻数が50万組未満であった1933年の日本と現状とは異なり、当時は多子家庭が一般的であり、出生数は200万人を超えていた。

 2020年にはコロナウイルスの影響で婚姻数が約7万組減少したが、2022年にはわずかながら増加したものの、その後再び減少傾向に転じた。社人研の予測では、2022年の婚姻数の一時的な増加を基に、2024年の合計特殊出生率の上昇を示唆していたが、出生率の実際の回復は不確かである。

 死亡数は2023年に159万503人となり、前年比0.5%増となり、3年連続の増加であり最多記録を更新した。自然減も83万1872人に達し、これは過去最大の自然減となった。団塊の世代が高齢化する中、死亡数の増加は更なる加速が見込まれている。

 この記事は元記事の要約です。詳細は元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】少子化とAI・ロボット化:国際比較から見る出生率の低下と先進国の課題

まとめ
  • 出生率は国際比較に適した指標であり、国連などがデータを公開している。先進国では子育て支援やワークライフバランスの改善が実現されてもなお出生率が低下しており、様々な要因が影響していると考えられる。
  • 中国と韓国でも出生率が低下しており、中国では一人っ子政策が影響し、韓国では先進国と同様の要因によるとみられる。インドの出生率も低下しており、経済発展や教育レベルの向上が要因とされる。
  • アフリカ諸国では出生率が高く、伝統的な結婚・出産の価値観が残っている。
  • 出生率の低下には経済的負担の軽減や女性の社会進出などのメリットがあるが、労働力不足や社会保障制度への影響も懸念される。
  • 少子化対策いずれの国でも功を奏しておらず、これによるデメリットとして生産力の低下を防ぐために大量の移民の受け入れはすべきでなく、AI化とロボット化の推進が重要な課題となる。
上の記事を読んでいると、国際比較などしておらず、厚生労働省の報道をそのまま報道していると考えられます。

こういう記事を書くときには、国際比較も掲載すべきでししょう。そうでないと、結局のところ少子化の危機を煽るだけになりかねません。

人口あたりに占める割合を客観的に示す指標として、特殊出生率もありますが、それ以外に出生率(年間の人口1,000人あたり出生数の割合)があります。

出生率のメリットを以下に掲載します。

  • 出生率は、年間の人口1,000人あたり出生数であり、国際比較に適したシンプルな指標。
  • 国や地域間での人口動態を共通基準で比較可能で、国連などがデータを公開しているため容易に情報入手できる。
  • 年齢別出生率による比較で人口構成の影響を排除し、出生力の比較が可能。
  • 出生率は、国際的な出生力の格差を測るために使われ、例えばOECD加盟国間での出生力の差を分析できる。
以下に、出世率の国際比較の推移を掲載します。

国名1950年1970年1990年2010年2020年2023年
日本24.719.414.912.511.611.8
米国26.618.416.713.512.412.3
フランス20.618.114.412.712.412.6
ドイツ15.910.810.310.210.810.6
イギリス18.716.31413.211.111.3
韓国43.93117.612.38.48.1
中国22.920.117.812.21212.2
インド4845.330.224.22221.8
スウェーデン18.614.717.912.511.511.7
デンマーク21.217.616.310.410.510.7
フィンランド22.918.416.810.411.411.6
ノルウェー23.717.917.91211.411.5
マリ59.958.455.449.246.445.8
ソマリア15.822.322.921.820.720.5
ウガンダ5049.748.145.643.142.9
チャド48.647.245.341.638.838.6

参考資料世界銀行「World Development Indicators」https://data.worldbank.org/indicator/SP.DYN.TFRT.IN

2023年は、推計値の国もあります。

出生率の推移から読み取れることを以下にまとめます。

先進国

日本だけではなく多くの先進国で、出生率は1950年代から低下傾向にあります。2023年の先進国の出生率は、日本は11.8‰、アメリカ合衆国は12.3‰、フランスは12.6‰、ドイツは10.6‰、イギリスは11.3‰などとなっています。

出生率の低下は、晩婚化・未婚化の進行、子育てにかかる費用負担の増加、女性の社会進出など、様々な要因とされ、少子高齢化の原因となり、社会保障制度や経済成長に様々な影響を与えるとされてきました。

先進国では、出生率の向上に向けた対策として、子育て支援の拡充、夫婦のワークライフバランス支援、男女共同参画社会の実現などが重要とされてきましたが、出生率の推移を見る限りではこの対策は功を奏しているとは言い難い状況にあります。

中国と韓国

韓国の出生率は、1960年代には6.0‰以上ありましたが、2023年には8.1‰まで低下しています。これは、日本より低いです。中国の出生率は、1970年代には7.0‰以上ありましたが、2023年には12.2‰まで低下しています。さらに低下傾向にあり、近いうちに先進国なみになるでしょう。これは、中国が過去に多子化政策の一環として、「一人っ子」政策を実行したことが主たる原因です。

韓国における出生率の低下は、先進国と同様に、晩婚化・未婚化の進行、子育てにかかる費用負担の増加、女性の社会進出などが要因と考えられます。

中韓では、出生率の低下を食い止めるために、様々な対策が講じられていますが、これも先進国と同じく功を奏しているとは言い難い状況にあります。

インド

インドの出生率は、1950年代には48.0‰ありましたが、2023年には21.8‰まで低下しています。インドの出生率の低下は、経済発展や教育レベルの向上、女性の社会進出などが要因と考えられます。インドでは、出生率の低下は依然として課題であり、政府は様々な対策を講じていますが、これも先進国と同じく功を奏しているとは言い難い状況にあるといえます。

出生率の高いアフリカ諸国

マリ、ソマリア、ウガンダ、チャドなどのアフリカ諸国では、出生率が40‰を超えています。
これらの国では、人口構成が若く、結婚・出産に対する価値観が伝統的なため、出生率が高いと考えられます。一方で、乳幼児死亡率や栄養不足などの問題も深刻であり、持続可能な開発に向けた取り組みが必要となります。

アフリカ諸国の多くの地域では、結婚と出産に対する伝統的な価値観が根強く残っています。

家父長制が一般的で、男性は家計を支える役割、女性は家事や育児を担う役割とされています。また、早婚や多産も伝統的な価値観として残っており、特に農村部では顕著です。

近年、都市化や教育レベルの向上、経済発展の影響により、結婚・出産に対する価値観も変化しつつあり、アフリカ諸国においても、出生率が低下傾向にあるのは間違いないです。

今後、アフリカ諸国における結婚・出産に対する価値観は、伝統的な価値観と現代的な価値観がどのように融合していくのか注目されます。


出生率は、国によって大きく異なり、様々な要因によって変化します。出生率の低下は、少子高齢化などの社会問題を引き起こすと考えられ、各国はそれぞれの状況に応じた対策を講じてきました。

以上の分析結果を見る限りにおいては、出生率の低下を防ぐための方策は、現状では、いずれの国でも成功を収めているとは言い難く、少子化を防ぐためのこれといった決定打はないようです。

少子化のメリットを享受する人々 AI生成画像

出生率の低下は、問題ばかりが指摘されますが、これがもたらすメリットもあります。

経済的負担の軽減: 子どもの数が少なくなると、教育や育児にかかる家庭の経済的負担が減少し、一人あたりの生活水準を向上させやすくなります。

女性の社会進出: 出生率が低下すると、女性が職業に専念しやすくなり、社会進出やキャリア形成が促進される可能性が高まります。

環境への影響: 人口が増加すると環境負荷も増大しますが、出生率が低下すると人口増加の圧力が抑制され、資源の使用や廃棄物の発生が緩和される可能性があります。

教育資源の充実: 子どもの人数が減ることで、一人当たりの教育への投資が増え、教育の質を高めることが可能になります。

介護負担の持続可能性: 少子化が進み、高齢者の割合が増えた社会では、効率的な介護サービスの提供や介護技術の発展が促されることで、介護負担が持続可能な形で改善されるかもしれません。

人口密度の緩和: 人口が適度に抑制されると、都市の過密化が緩和され、居住空間や公共施設が十分に確保されやすくなります。

就業機会の改善: 労働人口が減少することにより、就業機会が増え、失業率が低下する可能性があります。

出生率の低下には上記のメリットが考えられる一方で、長期的には労働力不足や社会保障制度に対する圧力の増大などの問題も引き起こす可能性があるため、バランスのとれた人口政策が求められ、先進国の中でもフランスや北欧諸国では、先進国では、出生率の向上に向けた対策として、子育て支援の拡充、夫婦のワークライフバランス支援、男女共同参画社会の実現などを他国に先んじて充実させてきましたが、現在ではこれらが、功を奏しているとは言えない状況になっています。

子育て支援の拡充、夫婦のワークライフバランス支援、男女共同参画社会の実現などは出生率とはあまり関係ないといえます。だからといって、これらをまったくするなとか、廃止しろとか、アフリカ諸国のように家父長制度に回帰せよというつもりはりあませんが、それにしても、少子化としては別の対策をたてるべきでしょう。

まずは、先の少子化対策メリットを享受できる体制を整えることです。過去の日本のように、緊縮財政ばかりを推進するようなことでは、誰もこのメリットを享受できないことになります。こどもの数が減ったから、教育支援を単純に打ち切るなどのことをされては、たまったものではありません。

ただし、本格的に少子化がすすんでくれば、メリットだけではなくデメリットもでてくるはずです。特に、生活水準を下げないためには、生産人口の減少による生産性の低下を防ぐ必要があります。産業界には、これを多数の外国人労働者の受け入れで補うとともに、賃金を低く抑えるべきと考えている人もいるようですが、先進国は大量の移民受け入れで大失敗しています。日本は他の先進国等轍をわざわざ踏むべきではないでしょう。

AI化、ロボット化が切り開く日本の未来  AI生成画像

これによるデメリットの解消の方策は、このブログで何度も強調してきたように、AI化とロボット化の推進でしょう。現在までに、社会において機械化によって物を運ぶ、大量生産をするなどことは推進されてきて、一定の成果を収めていますが、AI化、ロボット化に関してはまだまだです。

今後少子化を前提とした、AI化とロボット化は、特に日本などの先進国では、緊急の課題といえます。

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2024年2月27日火曜日

岸田内閣「不支持率8割」でよみがえる、小池百合子「大敗北」の記憶―【私の論評】次の選挙に対する自民党内の楽観論が示す「ワイドショー政治」の終焉

岸田内閣「不支持率8割」でよみがえる、小池百合子「大敗北」の記憶





まとめ
  • 岸田内閣の支持率は14%であり、不支持率が82%に達しており、これが自民党支持率も急落させ、立憲民主党の支持率も16%に達し、両党の支持率差が縮小。この急落は、2012年12月以来の自公政権復帰後で初めて。
  • 自民党内では次の選挙で自民党が政権を維持できるとの楽観論が広がっているが、野党の外交政策に一致がないことが大きな障害となっており、日米安全保障において一致がなければ、政権は適切に機能できないため、この問題は深刻。
  • ヨーロッパ諸国がアメリカに頼らず自主防衛が可能なのは、経済的な大きさやNATOの加盟国数などが影響している。一方で、日本が直面する中国、ロシア、北朝鮮といった国々は核を有し、GDPも日本の4倍以上あり、自主防衛は困難な状況。
  • 左派政党が日本の安全保障政策に難色を示す中、ドイツのSPDが1959年にゴーデスベルク綱領を制定し、中道左派へと転換する過程を挙げ、これが政権担当能力を向上させた。
  • 一方で、日本の左派政党がこのような変革を遂げておらず、小池百合子氏が示した「排除の論理」が、希望の党の人気を失速させ、政権選択肢を失った。



 自民党および岸田内閣の支持率が急落し、野党の立憲民主党との支持率差が縮まった中で、自民党内で楽観論が広がっている。支持率は過去最低であり、次期選挙でも政権維持が困難と予測される中、楽観論は外交政策の一致がない野党による政権交代の難しさに起因している。

 日本は、世界でも稀な国であり、政権選択の余地が極めて狭い。これは不幸な状況である。現政権の支持率が8割を超えているにもかかわらず、次期総選挙で野党が政権を握るという予測が出てこないのは、野党同士の外交政策の一致が難しいためだ。

 支持率急落の背景には、自民党の支持率が16%にまで落ち込み、野党第1党の立憲民主党が同じく16%の支持率を記録したことが挙げられる。これにより、これまで大きく開いていた両党の支持率差はなくなり、政権交代の可能性が高まった。自民党支持率が1割台に落ち込むのは、2012年12月の自公政権復帰後で初めてのことであり、これに対する楽観論は特筆すべきものだ。

 一方で、ヨーロッパ諸国がアメリカに頼らず防衛できる理由には、経済力やNATOへの加盟が挙げられる。2023年時点で、ロシアのGDPは1.9兆ドル、人口は1.4億人だが、これに対してドイツ、イギリス、フランス、イタリアの合計のGDPは13.0兆ドル、人口は2.8億人である。さらに、ポーランド、リトアニア、ラトビア、エストニア、フィンランドは、経済的には小国ではあるが、ロシアに侵攻され支配された経験があり、国民の戦う士気が高い。

 これに対し、日本が対峙する中国、ロシア、北朝鮮は核を有し、中国のGDPは日本の4倍以上である。このような差異が、日本が自主防衛を困難にしている要因とされている。

 また、ヨーロッパ諸国がアメリカに頼らず自主防衛できる理由には、NATOの加盟国が多数存在することも挙げられる。これにより、安全保障上の連帯が形成され、相互の協力が期待できる。トランプ氏が「アメリカに頼らず自分で守れ」と主張する理屈には、一定の説得力があるとされている。

 日本の左派が日米同盟への支持を難しく考える一方で、ドイツの社会民主主義政党(SPD)は歴史的な変遷を経て中道左派として機能している。SPDはかつて親ソの労働者階級のための政党であったが、1959年にゴーデスベルク綱領を制定してマルクス主義の階級闘争から絶縁し、中道左派の国民政党へと変貌した。

 その後、SPDはキリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟との大連立を組んで政権に参加し、安定した中道政権を形成してきた。これに対し、日本の左派政党は長らく日米安保に反対してきたが、その結果として政権担当能力の不足が指摘されている。

 日本の政治において、「排除の論理」が浮上し、憲法改正や安全保障関連法への態度が選挙候補者の選別基準とされたことは、政権維持の難しさを増大させた。2017年に小池百合子東京都知事が率いる新党「希望の党」が、憲法改正や安全保障関連法への態度で候補者を選別する方針を明らかにした際、「排除の論理」が強く反発を招き、党の人気は失速した。

 このような政策に対する厳格な姿勢が、選挙結果に直結することが示唆された。財政問題と安全保障問題では議論の進み方や妥協の余地が異なり、安全保障政策においては「排除の論理」が一般的に受け入れられにくい現実が浮き彫りになった。

 もし、「排除の論理」で新党ができていれば、今が政権交代のチャンスだったと私は思う。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】次の選挙に対する自民党内の楽観論が示す「ワイドショー政治」の終焉

まとめ
  • トランプ氏が「アメリカに頼らず自分で守れ」と主張する理屈には、GDPを論拠にした原田氏の発言があり、軍事費の観点からもそれが裏付けられている。
  • 世界各国の軍事費を比較すると、米国が依然として世界最大であり、EUは1%台にとどまっている。日本は中国の脅威を受けて防衛費を増額し、ロシアを上回る方針を掲げている。
  • ロシアはウクライナ侵攻に莫大な費用を投入しており、今後の軍事費の動向が注目されるが、GDPの制約がある。中国は急速に軍事費を増加させ、日本が倍増しても凌駕できない状況となっている。
  • トランプ氏の発言は軍事費の面からも裏付けられており、EUは軍事力を増強し、ロシアとの対峙を強化すべきである。
  • 野党の大勝が難しい背景には、日本の野党が日米安保などで一致せず、重要な政策領域で統一された立場を持てないからであり、次の選挙での自民党の勝利が予想さるが、これにより既存野党が変化するか、自民党が変化する可能性もあり、それが今後の唯一の希望といえる
上の記事で、トランプ氏が「アメリカに頼らず自分で守れ」と主張する理屈には、一定の説得力があるという原田氏の発言は、主にGDPを論拠にしていますが、軍事費でもその裏付けがとれます。

以下に世界各国の軍事費を比較した表を掲載します。
国名2022年軍事費 (USD)2021年比増減率2021年GDP比
米国8010億-0.40%3.20%
EU2140億6.20%1.40%
日本541億7.30%1.00%
ロシア617億28.90%4.30%
中国2520億7.10%1.70%
インド766億7.90%2.90%
為替レートは、2023年12月20日時点のものを使用。

参考資料:ストックホルム国際平和研究所 (SIPRI) - 世界軍事費データベース: https://www.sipri.org/databases/milex

米国は依然として世界最大の軍事費を誇り、世界の軍事費の約38%を占めています。EUは、ロシアのウクライナ侵攻を受けて軍事費を増加させるといいながらも、1%台です。

日本は、近年、中国の軍事的脅威の高まりを受けて防衛費を増額している。特に岸田政権は、軍事費を倍増することを宣言しており、そうなるとロシアのそれを上回ることになります。

ロシアは、ウクライナ侵攻に莫大な費用を投入しており、今後、軍事費がどのように推移するかが注目されます。ただし、元々GDPは低く、限界があります。ロシアはソ連の核と軍事技術の継承国であり、その点侮ることはできないものの、従来のように世界第二位の軍事大国であるという見方ではなく、等身大にみていく必要がありそうです。

中国は、近年、軍事費を急速に増加させており、米国に次ぐ軍事大国となっています。日本が、軍事費を倍増しても、これを凌駕することできず、日米同盟がますます重要になりつつあります。

インドは、近年、中国との対抗上、経済成長とともに軍事費を増加させており、今後の軍事力の増強が期待されています。

トランプ氏の発言は、軍事費の面からも、裏付けられているといえます。EUはさらに、軍事力を増すべきであり、ロシアとの対峙を強化すべきです。

そうして、中国の軍事費をみれば、日米同盟は強化すべきですし、憲法改正や安保の強化は、当然の帰結であると見えます。

2017年に小池百合子東京都知事が率いる新党「希望の党」が、憲法改正や安全保障関連法への態度で候補者を選別する方針を明らかにした際、「排除の論理」が強く反発を招いたことは本当に残念なことでした。

これについては、このブログにもいくつか掲載したことがあります。その代表的なもののURLを以下にあげておきます。
【メディア政争】「ワイドショー政治」の罪作りな実態 小池百合子氏が2度の選挙に勝ったワケ―【私の論評】小池氏はなぜワイドーショー政治を選んだのか(゚д゚)!

この記事は、2018年2月2日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の【私の論評】から一部を以下に引用します。

選挙戦スタートこそ大いに盛り上がりを見せた「小池ワイドショー政治」でしたが、公示日前に小池代表が放った(民進党出身議員の一部を)「排除いたします」という一言から、流れは大きく変わってしまいました。

私自身は、この「排除いたします」という発言そのものが、小池氏の勢いをそいだのではないと思っています。その本質は、「排除いたします」という象徴的な発言などにより、マスメディアが希望の党、特に小池氏の本質は「改憲勢力」である点に焦点をあてはじめたということです。

元々、護憲派的立場のマスメディアが今のまま、小池氏をワイドショー政治のヒロインにまつりあげ続け、小池氏の希望の党が大勝利してしまえば、国会での護憲勢力はますます小さくなることに危機感を感じて、今度は小池氏を徹底的にワイドショーなどで叩き始めたのです。

まさに、今度は「ワイドショー政治」が小池氏に対して、逆機能を果たしたのです。「ワイドショー政治」で大勝利を得た小池氏は今度は「ワイドショー政治」により大敗北を喫することになったのです。

もしこのときに、「排除」宣言をしても、大きな反発を受けずに、「希望の党」が国政政党になっていたとしたら、たしかに 今は政権交代のチャンスだったかもしれません。

ネット上では、こうしたことを予見したのか、「希望の党」を叩くなという趣旨の発言もみられたことを記憶しています。

ただ、マスコミ主導によるワイドショー政治には問題があり、仮に当時「希望の党」が躍進したにしても、いずれマスコミは「希望の党」を徹底的に叩きはじめたのは間違いないでしょう。

ただ「希望の党」が躍進していれば、様々な動きがでてきて、「希望の党」がそのまま与党になるかどうかは別にして、いまごろ政権交代の芽が生えていた可能性はあったと思います。

ただ、政局の動きは変わりつつあるようにも見えます。それは「ワイドショー政治」が従来よりは、効き目がなくなりつつあることです。

「ワイドショー政治」に効き目があれば、今頃小池百合子氏は選挙で自民党候補者を応援するだけではなく、もっと具体的で派手な動きを見せていた可能性があります。

たとえば、東京15区(江東区)補選で小池百合子氏自身が出馬、もしくは息のかかった人物を候補者に立てるなどのことが考えられますが、そのような動きはありません。無論、まだ様子見をしていだけなのかもしれません。

しかし、もし「ワイドショー政治」に効き目があれば、これだけ自民党支持率が低下していれば、小池氏以外にも、従来なら何らかの派手な動きがあったはずです。

ただ、「ワイドショー政治」の動きも、安倍政権においては「もりかけ桜」、菅政権においてもありましたが、当時はさも大問題のように報道していましたが、もはやそれがなんであったのかあまり思い出せないくらいです。岸田政権下では、政治資金問題について、ついに大物は逮捕されず、小物だけが例外的に逮捕されただけにとどまり、あっけない幕引きとなりました。

この状況をみて、私を含めて一部の評論家などは、リクルート事件などと比較すれば、明らかに悪質性は低く、かといってもちろん悪質性を全く否定するなどということではありませんが、それにしても最初から大物議員を立件できない状況になるのはわかりきっていたのに、東京地検が捜査に踏み切ったのは、政治介入ではなかったのかという疑念の声もあがっています。

テレビ主導のワイドショー政治に踊る人々 AI生成画像

無論「ワイドショー政治」は岸田政権や自民党への支持率を低下させているのは間違いないです。にもかかわらず、上の記事の冒頭にもあるように、自民党および岸田内閣の支持率が急落し、野党の立憲民主党との支持率差が縮まった中で、自民党内で楽観論が広がっているというのです。

なぜ野党の大勝が予想されないのかという点については、やはり上の記事にあるように、日本では野党に日米安全保障などの重要な政策領域で野党の意見が一致しないため、政権交代が難しい状況となっているからだといえるでしょう。

「ワイドショー政治」等を超えて、中国などの脅威ははるかに多くの有権者に認識、共有されているようです。

次の選挙で、岸田政権が大勝利とまでいかなくても、勝利を収めれば、この状況は更に強まるかもしれません。もはや「ワイドショー政治」は実質的に効力を失い、安全保障などの重要政策領域でブレるような政党にはチャンスがないことがはっきりするでしょう。

そこに、日本保守党などや他の野党の保守派、自民内の保守派などが躍進できる隙がでてくることになるでしょう。実際に、そのようなことが世界中でおこっています。

そうなれば、政権交代もありという状況になるかもしれません。無論、結党の精神を再度見直し、自民党が安倍政権の政策を引き継ぎ発展させるという道もあります。そうなれば、自民党政権の運営も安定することでしょう。これらが、現在の数少ない政治への希望かもしれません。

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