2024年9月10日火曜日

【右派も左派も脱「脱石炭」】ドイツの計画は白昼夢に?産業界からは疑問の声―【私の論評】日本のエネルギー政策の現状と玉虫色のアプローチ:石炭火力、クリーンコール技術、原子力再評価、EV普及の課題

【右派も左派も脱「脱石炭」】ドイツの計画は白昼夢に?産業界からは疑問の声

山本隆三( 常葉大学名誉教授)

まとめ

  • G7が2030年代前半までの脱石炭火力を合意し、日本を含む一部のG7諸国が課題に直面している。
  • 世界の石炭火力発電の大半はアジア(特に中国とインド)が占めており、G7諸国の多くは既に石炭依存度を低下させている。
  • ドイツでは、特に旧東独地域で石炭産業が重要な雇用源となっており、脱石炭政策に対する政治的・経済的な反発が強まっている。
  •  米国では、AIによる電力需要増加により石炭火力の閉鎖ペースが減速し、一部の電力会社が利用延長を検討している。
  • エネルギー政策は変化しやすく、先進国の脱石炭への取り組みも今後変化する可能性がある。
石炭火力発電所 AI生成イメージ

 G7エネルギー・環境相会合で2030年代前半までの脱石炭火力が合意され、日本は厳しい状況に追い込まれた。世界の石炭火力発電の大半はアジアが占め、G7諸国では国内炭生産がほぼ終了している。日本は輸入炭を利用する火力発電所を建設し、電気料金の低廉化と安定供給に努めてきた。一方、他のG7国は天然ガスへの依存度を高めている。

 ドイツと米国は依然として石炭火力を利用しているが、早期廃止は困難な状況にある。ドイツでは右派・左派ポピュリスト政党が脱石炭に反対し、支持を伸ばしている。特に旧東独地域では、石炭産業が重要な雇用源となっており、脱石炭政策への反対が強い。

 ドイツでは2038年までに石炭火力設備を廃止する法律が成立しているが、現政権は2030年への前倒しを目指していた。しかし、政権内部からも不協和音が聞こえ始め、前倒しの実現は困難になりつつある。経済・気候保護相は、再生可能エネルギーや代替電源の整備により事業者が自主的に石炭火力を早期に廃止する動きが進んでいるとしているが、産業界からは疑問の声も上がっている。

 米国では、AIによる電力需要増により、石炭火力の閉鎖が減速している。一部の電力会社は石炭火力の利用延長を打ち出している。

 G7の中で、日本とドイツ、米国の石炭火力発電量は依然として多い。他のG7諸国は石炭火力の比率を数パーセント以下まで低下させている。中国とインドは世界の石炭火力発電量の3分の2を占めている。

 ドイツでは、旧東西の経済格差が依然として存在し、これが気候変動対策への姿勢にも影響を与えている。旧東独地域では気候変動対策のための資金負担に同意する比率が低く、脱石炭政策への賛成も少ない。平均月収や人口動態にも大きな差がある。

 最近の旧東独地域の州議会選挙では、右派政党AfDが大きく躍進し、左派ポピュリスト政党BSWも支持を集めた。両党とも脱・脱石炭を掲げており、地域経済への配慮を示している。

 連邦政府の脱石炭政策は勢いを失いつつあり、2030年への前倒しは困難になっている。エネルギー政策は変化しやすく、先進国の脱石炭の動きも今後変わる可能性がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。


【私の論評】日本のエネルギー政策の現状と玉虫色のアプローチ:石炭火力、クリーンコール技術、原子力再評価、EV普及の課題

まとめ

  • 日本は石炭火力発電の縮小を目指しているが、エネルギー自給率の低さや再生可能エネルギーへの完全移行の難しさから、慎重かつ段階的な対応をしている。
  • 日本の高度なクリーンコール技術は、CO2排出量削減において世界トップクラスであり、エネルギー安全保障と経済性を維持しつつ脱炭素化に貢献している。
  • 福島第一原発事故後、脱原発の動きが進んだが、近年はエネルギー安全保障と脱炭素化の観点から、玉虫色の柔軟な対応として原子力発電を再評価する動きが国内外で広がっている。
  • 電気自動車(EV)の普及は世界的に進められているものの、インフラ整備不足や高価格、補助金削減などの課題により、販売が伸び悩んでいる。
  • エネルギー政策は技術革新や国際情勢の変化に応じて柔軟に対応する必要があり、特定の技術に固執せず「玉虫色」のアプローチで多様な選択肢を持つことが重要である。

磯子火力発電所

日本の石炭火力発電は縮小の方向にありますが、段階的かつ慎重に進められています。2019年時点で電力供給の75.8%が火力発電によるもので、石炭火力発電は依然として重要な役割を果たしています。政府は非効率な小規模設備の段階的廃止を方針としていますが、エネルギー自給率の低さや再生可能エネルギーへの完全移行の困難さから、即時の全廃は想定されていません。

2018年の「第5次エネルギー基本計画」では、非効率石炭火力発電のフェードアウトとクリーンコール技術の開発が示されています。超々臨界圧発電(USC)や石炭ガス化複合発電(IGCC)などの技術により、CO2排出量の大幅な削減が可能です。日本のクリーンコール技術は世界トップクラスで、CO2排出量を約20%削減できます。

エネルギー供給構成では、石油依存度が減少し、石炭、LNG、再生可能エネルギーの割合が増加しています。長期的には石炭火力発電の縮小が見込まれていますが、エネルギー安全保障や経済性を考慮し、慎重かつ段階的なアプローチが求められています。日本の高度なクリーンコール技術は、国際的なCO2排出削減への貢献も期待されています。

エネルギー政策の変化は、原子力発電を巡る状況にも顕著に現れています。2011年の福島第一原子力発電所事故後、多くの国が脱原発政策へと転換しました。日本でもすべての原子力発電所が一時停止され、安全基準が厳格化されました。


しかし近年、エネルギー安全保障や脱炭素化の観点から、再び原子力発電を見直す動きが世界的に広がっています。日本でも、2022年に岸田首相が原発の新増設を含む原子力政策の転換を表明し、脱「脱原発」の流れが鮮明になっています。山本隆三氏も指摘するように、原子力発電所の再稼働や新設には地域の理解や長期的な計画が必要であり、容易には進められません。

一方、再生可能エネルギーの導入も進んでいますが、安定供給には課題があります。火力発電は依然として日本の電力供給の約7割を占めており、直ちに廃止することは困難です。クリーンコール技術の開発など、環境負荷を低減する取り組みも進められています。

このようなエネルギー政策の変化は、自動車産業にも顕著に見られます。EUでは2035年からのガソリン車およびディーゼル車の新車販売禁止を決定しました。この政策の主な目的は、電気自動車(EV)への全面的な移行を促進することでした。EUは、この政策により運輸部門の脱炭素化を加速させ、気候変動対策を強化することを意図しています。

しかし、この政策にも変更の可能性が示されています。2023年3月、ドイツの要請により、環境に配慮した合成燃料(e-fuel)を使用する車両については2035年以降も販売を継続可能とする例外が設けられました。この変更は、ドイツの自動車産業の強い意向が反映された結果であり、エネルギー政策が経済的利害関係にも大きく影響されることを示しています。

EVへの移行は世界的に進められていますが、その売れ行きは全体的に低調であることが指摘されています。特に2023年後半から2024年初頭にかけて、主要市場でEVの販売成長が鈍化しています。例えば、中国では2024年1月のEV販売台数が前年同月比で約6.3%減少しました。欧州でも、ドイツやフランスで補助金削減の影響があり、EV販売の伸びが鈍化しています。

日本でも同様の傾向が見られ、2024年1・2月における普通乗用車のEVのシェアは約1.16%(約4,600台)、軽自動車では約3.32%(約6,300台)となり、合計でのシェアは1.85%(約10,800台)に留まっています。これは2023年よりも減少しており、EV普及が思うように進んでいないことを示しています。

この低調な売れ行きの背景には、充電インフラの整備不足、車両価格の高さ、航続距離への不安などが要因として挙げられます。また、各国での補助金削減や終了も影響していると考えられます。

一方、多くの国が2030年や2035年までにEVの販売比率を大幅に引き上げる目標を掲げており、自動車メーカーも次々とEVモデルを発表し、技術開発に力を入れています。日本政府も2035年までに新車販売で電動車100%を目指すと表明していますが、現状の普及率を考えると、この目標達成には大きな課題が残されています。

エネルギー政策は技術革新、経済状況、国際情勢、環境問題など様々な要因によって大きく変化します。脱炭素化を目指しながらも、エネルギーの安定供給と経済性を考慮する必要があり、現在「非常に難しい議論をしている段階」にあるといえます。

エネルギー政策の変化を考慮すると、特定の技術や資源に過度に集中することは賢明ではありません。日本の官僚システムが得意とする「玉虫色」のアプローチ、つまり柔軟性を持たせた政策立案が重要です。

カラフルな玉虫 AI生成画像

長期的にはエネルギー効率を主要な指標として設定することが有効です。エネルギー効率の向上は、技術の進歩や資源の種類に関わらず、常に追求すべき目標です。例えば、IEAのネット・ゼロシナリオでは、2030年までに世界の一次エネルギー原単位を年4%改善する必要があると予測されています。このような具体的な数値目標を設定することで、政策の方向性を明確にしつつ、柔軟性を保つことができます。

一方で、具体的な技術選択や資源配分についても「玉虫色」に保つことが賢明です。これにより、以下のような利点が得られます。急速に進歩する技術、エネルギー資源の地政学的状況の変化、市場の変動に応じて、最も効率的な選択肢を採用し、特定の技術や資源に依存するリスクを軽減できます。さらに、多様な意見や利害関係を調整しやすくなります。

例えば、原子力発電や再生可能エネルギー、EVの普及などについては、明確な数値目標を設定するのではなく、「促進する」「推進する」といった柔軟な表現を用いることで、状況の変化に応じた政策調整が可能になります。

このアプローチは、日本のエネルギー政策において既に見られます。例えば、2022年の岸田首相による原子力政策の転換表明は、以前の「脱原発」から「原発活用」へと柔軟に方針を変更した例と言えます。

結論として、エネルギー効率という明確な指標を長期的な目標として設定しつつ、具体的な技術選択や資源配分については柔軟性を持たせる「玉虫色」のアプローチが、変化の激しいエネルギー分野において最も適切な政策立案方法です。このアプローチにより、日本は急速に変化するグローバルなエネルギー情勢に適応し、持続可能な未来に向けて着実に前進することができるでしょう。

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ドイツは大変なことに…フォルクスワーゲンが国内工場を閉鎖する「真の原因」―【私の論評】ドイツの脱原発政策が招く危機と日本の教訓:エネルギー政策の失敗を回避するために

ドイツは大変なことに…フォルクスワーゲンが国内工場を閉鎖するかもしれない「真の原因」

欧州「脱・原発」ブームの罪と罰
まとめ
  • スイスは脱原発政策を見直し、原発新設禁止の方針を転換する動きを見せている。年末までに「脱・脱原発」方針の法案改正提案を議会に提出予定。
  • スウェーデンも原発政策を転換し、原発の新設禁止や閉鎖済み原発の再稼働禁止を撤廃。2026年までに新規原発建設環境を整える計画を発表。
  • イタリアはエネルギーコストの急上昇を受け、原発再開に向けた動きを開始。小型原子炉への投資を可能にする法律を国会に提出し、フランスとの協力覚書も交わした。
  • ベルギーは脱原発計画を見直し、原子炉の寿命を延長。国際的な原子力エネルギーサミットを開催し、原子力の重要性を強調。
  • ドイツは依然として反原発政策を維持しており、高い電力料金が製造業に影響を及ぼしている。製造業の空洞化が進行する懸念がある。
2023年4月15日ドイツの全原発が操業を停止したことを伝えるテレビの画面

スイスをはじめとする国々で、原子力政策が大きな転換を迎えている。スイスは2017年に原発新設禁止を可決し、脱原発の方針を国是としていた。しかし、2023年8月にアルベルト・レシュティ・エネルギー大臣が、地政学的緊張の高まりを背景にエネルギー供給の強化が必要であると述べ、原発政策の見直しを示唆した。これにより、スイス政府は年末までに「脱・脱原発」方針の法案改正提案を議会に提出する予定であり、脱原発の流れに終止符を打つことが確実視されている。

スウェーデンでも同様の動きが見られる。1980年に脱原発を宣言したスウェーデンは、2022年9月の総選挙で中道右派連合が政権を握ったことを契機に、原子力政策を大きく転換した。新政権は、原発の新設禁止や閉鎖済み原発の再稼働禁止といった制限を撤廃し、2026年までに最大4000億クローナの投資を行い、新規原発建設の環境を整える方針を打ち出している。

イタリアも原発政策に変化が見られる。1987年に脱原発を決定し、その後も原発再開に関する国民投票で否決されてきたが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーコストの急上昇を受けて、国民の意識が変化した。2023年5月、メローニ政権が原発の活用を検討する動議を下院に提出し、7月には小型原子炉への投資を可能にする法律が国会に提出された。また、フランスとの間で原子力利用の推進に関する覚書も交わされ、国内の原子力を再構築する方針が示されている。

ベルギーも脱原発計画を見直し、原子炉の寿命を延長する決定を下した。国際原子力機関(IAEA)との共同開催による「原子力エネルギー・サミット」では、エネルギー安全保障の強化や持続可能な開発における原子力の重要性が強調された。韓国やイギリスもそれぞれ原子力発電の割合を増加させる方針を示している。

一方、ドイツは依然として反原発の姿勢を崩さず、世界の潮流から遅れをとっている。高い電力料金が製造業に深刻な影響を及ぼし、フォルクスワーゲンが国内工場の閉鎖を検討していることが報じられている。野党のキリスト教民主同盟(CDU)は原子力の維持を主張しているが、再稼働には高いハードルが存在する。このような状況の中で、ドイツの製造業の空洞化は避けられないと見込まれている。これらの動きは、エネルギー安全保障や電力料金の競争力を維持するための重要な戦略として位置づけられている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。元記事のタイトルは『ドイツはもうおしまいだ…フォルクスワーゲンが国内工場を閉鎖した「真の原因」』は明らかな間違いと思われたので、改変しました。

【私の論評】ドイツの脱原発政策が招く危機と日本の教訓:エネルギー政策の失敗を回避するために


まとめ
  • ドイツは原発の全面廃炉を決定したが、これにより電力料金が高騰し、経済が低迷するリスクがあり、その結果、産業や人々がエネルギー価格の低い近隣諸国に移転する可能性があることは十分予想できた。
  • ドイツ人やドイツ産業が移転しやすい環境として、ドイツ語が通じるスイス、北イタリア、ベルギーなどがあり、生活習慣も似ているため移住の障壁が低い。
  • フォルクスワーゲンがドイツ国内の生産工場の閉鎖を検討しており、これはドイツのエネルギー政策の影響を強く受けた決断といえる。
  • 日本はドイツと比較すれば、再生可能エネルギー、原子力発電、天然ガスをバランスよく組み合わせた政策を進めており、エネルギーの安定供給と経済性を考慮しているといえる。
  • 日本が再生可能エネルギーに重きを置いたり、火力発電を減らす政策を続ければ、より現実的なエネルギー政策に転換しつつある他国に遅れを取る可能性があり、政府はエネルギー政策に真摯に取り組むべき時が来たといえる
ドイツが現在の状況に至ることは、ドイツが原発の全面廃炉を決めた時点で十分に予想されたことです。このことについては、過去の記事でも取り上げました。その記事のリンクを以下に掲載します。
この記事では、ドイツ国内で電力料金が大幅に上昇すれば、ドイツ経済が低迷し、その結果、ドイツ産業はエネルギー価格の低い近隣諸国に移転し、ドイツ人も近隣諸国へ移住するようになるだろうと予測しました。そのため、ドイツは脱原発政策を継続できなくなるだろうと考えました。ただし、脱原発からの転換がいつになるかが大きな課題であると指摘しました。

ドイツ人やドイツ産業が近隣諸国へ移転する理由として、以下の点を挙げました。
世界には、スイスやイタリアなど、ドイツ語圏の地域を有する国々が存在しています。これらの国々では、ドイツ人は言語や生活習慣をほとんど変えずに移住できます。また、ドイツ語圏でなくても、生活習慣が似ている国も多くあり、さらに近隣諸国は陸続きです。
ドイツ語圏(黒の部分)とドイツ語が通じる地域
このような状況から、ドイツはこの馬鹿げた政策を長く続けることはできないでしょう。問題は、いつこの政策を止めるかです。ドイツ産業が流出する国々は大喜びですが、一度流出した産業を再び戻すのは困難です。
ドイツ語を母語とし、ドイツ文化を維持するコミュニティとしては、フランスのアルザス・ロレーヌ地方やスイス(スイスのドイツ語圏は全体の62.1%)、北イタリアなどがあります。北イタリアのドイツ語圏は、主にトレンティーノ=アルト・アディジェ州(南チロル地方)に位置しており、この地域は歴史的にオーストリア・ハプスブルク帝国の一部で、第一次世界大戦後にイタリアに併合されました。

これ以外にも、ベルギーの東部地域、特にオイペン周辺にはドイツ語を公用語とするドイツ語共同体があります。デンマーク南部の国境付近にはドイツ系少数民族が住んでおり、彼らも独自の文化を持っています。さらに、ポーランドのシレジア地方やチェコ共和国のスデーテン地方にもドイツ語話者のコミュニティがあります。ルーマニアのトランシルバニア地方にはザクセン人の子孫であるドイツ系住民が暮らしており、彼らも独自の文化を維持しています。

このような背景から、島国日本の日本人や日本の産業が近隣諸国へ移転する場合と比べて、ドイツ人やドイツ産業が陸続きの近隣諸国に移る障壁ははるかに低いといえます。

ドイツの近隣諸国にはドイツ語圏や文化を継承する地域が多く存在する

上の記事にもある通り、最近ではフォルクスワーゲンがドイツの生産工場の閉鎖を検討し、1994年以来維持してきた6つの主力工場での2029年までの雇用保証も破棄すると発表しました。もし実行されれば、欧州最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲンの87年の歴史において初めてのドイツ国内工場の閉鎖となり、このニュースは瞬く間に欧州中に広まりました。

ドイツが現在のエネルギー政策を継続する限り、このような事態は確実に進行するでしょう。その後、さらに他の産業もドイツを離れ、ドイツ人の移住も加速するでしょう。

一方で、日本のエネルギー政策はドイツとは異なり、再生可能エネルギーを推進しつつも、福島原発事故を経験した後も原子力発電を完全に否定することはなく、天然ガスにも力を入れてきました。日本のエネルギー政策は、エネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合性、安全性(3E+S)の同時達成を目指した「エネルギー基本計画」に基づいており、バランスの取れたエネルギーミックスを目指してきました。

しかし再生可能エネルギーの普及には、天候に左右される供給の不安定さ、高額な初期投資、電力系統の安定性維持のためのコストなど、様々な課題があります。日本では、太陽光パネルの無秩序な設置が問題となることもあります。各国政府は、再エネ導入を推進しつつも、エネルギーの安定供給や経済性を考慮した政策調整を行い、より現実的なアプローチへと移行しています。

太陽光パネルの無秩序な設置が問題に・・・・

現在、日本はエネルギー政策の見直しの重要な時期を迎えています。政府は「エネルギー基本計画」の見直しを進めており、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標や、地政学的リスクを考慮したエネルギーの安定供給が焦点となっています。

特に、2035年度以降の電源構成の見直しが重要であり、原子力発電の位置づけや再生可能エネルギーの導入拡大と火力発電の低減策等が検討されています。また、天然ガスの利用拡大も重要視され、エネルギーインフラの整備が急務です。

世界がより現実的なエネルギー政策に移行しつつある中、日本だけが原発の再稼働をしないとか、再生可能エネルギーに重きを置き続けたり、火力発電を減らす政策を続けることで、他国に比べて遅れを取るリスクがあります。ドイツの現状を教訓に、政府はエネルギー政策に真摯に取り組むべき時が来たといえるでしょう。

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2024年9月8日日曜日

自民党総裁選、高市氏の「勝機」は キングメーカー争いの裏に可能性あり 高橋洋一―【私の論評】自民党総裁選で高市早苗氏が勝利を目指すための戦略と差別化ポイント


まとめ
  • 高市早苗経済安保相は自民党総裁選に出馬表明を予定しており、世論調査では小泉進次郎氏、石破茂氏に次ぐ3位となっている。
  • 党員票が重要な鍵を握る中、討論会などでの支持の変動が期待され、高市氏は新鮮味と経験を兼ね備えている。
  • 総裁選は菅義偉前首相と麻生太郎党副総裁の影響力争いであり、小泉氏と石破氏が上位に立つといずれが勝利しても菅氏の勝利となる。それを阻止するため麻生氏が高市氏を支持にまわる可能性がある。

 高市早苗経済安保相は、9月9日に自民党総裁選への出馬を表明する方針だ。現在の世論調査では、小泉進次郎氏や石破茂氏に次いで3位となっている。総裁選では、12日の告示日には6~8人程度が立候補する見込みで、国会議員票は367票だが、候補者には各々推薦人20人が必要なので、国会議員票は分散化し、第1回の投票では国会議員票で大きな差が付きにくい。となると、党員票がカギを分ける。

 世論調査によれば、自民党支持層では小泉氏が1位、石破氏が2位、高市氏が3位となっており、現状では高市氏が決選投票に進めない可能性もある。しかし、総裁選はまだ始まっておらず、討論会などで各候補者の支持が変動する可能性がある。小泉氏には勢いがあるが、石破氏はやや停滞しており、高市氏は新鮮味と経験を兼ね備えている。

 また、今回の総裁選は、二人のキングメーカー菅義偉前首相と麻生太郎党副総裁の影響力争いとも見られている。小泉氏と石破氏が上位2人になると、菅氏の勝利となり、麻生氏は高市氏を支持する可能性もある。決選投票では、小泉氏が過半数を取る可能性もあるが、高市氏が支持を伸ばせば情勢が変わるかもしれません。小泉氏の経験不足が弱点となる一方で、高市氏は新鮮味と経験を兼ね備えており、そこに勝機がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】自民党総裁選で高市早苗氏が勝利を目指すための戦略と差別化ポイント

まとめ
  • 自民党の総裁選では、議員や党員が次の衆院選での勝利や自身の当選可能性を最優先に考えて候補者を選ぶ傾向が従来より強い傾向にある。
  • 国会議員票の比重が高く、一般党員票も決選投票に勝ち残る鍵となるため、双方の票の獲得が重要。
  • 主要派閥の解消により、議員たちは従来の派閥論理ではなく個人的な判断で候補者を選ぶ傾向が強まっている。
  • 高市氏は次の衆院選での勝利をもたらすリーダーとしての資質をアピールし、国会議員票と一般党員票の両方の獲得を目指すべき。
  • 高市氏は経験、新鮮さ、政策の具体性、経済安全保障の専門性、保守層へのアピールなどで他の候補者との差別化を図ることが重要。

自民党総裁選ポスター

自民党の総裁選において、議員や党員が次の衆院選での勝利を最優先に考えている傾向が顕著に見られます。今回の総裁選では現在のところ7〜10名程度が立候補する見通しで、これは多くの議員が自身の当選可能性を高めるリーダーを探っていることを示唆しています。

また、国会議員票の分散が予想されるため、一般党員票が決選投票に勝ち残るための重要な鍵となると指摘されています。これは、党員が自民党の選挙での勝利を見据えて投票する可能性が高いことを示しています。

総裁選後、10月上旬に臨時国会が召集され、首班指名が行われた後、早い段階で衆議院が解散される可能性が指摘されています。この状況下で、議員や党員は次の衆院選での勝利を見据えた候補者選びをより重視せざるを得ません。

麻生派を除き主要派閥が解消に向かったことで、議員たちは従来の派閥の論理ではなく、より個人的な判断で次の選挙での当選可能性を高める候補者を選ぶ傾向が強まっていると考えられます。ただし、派閥の影響力が完全に消失したわけではなく、特に決選投票では国会議員票の比重が大きくなるため、組織力が重要となる可能性も残されています。


具体的には、決選投票では国会議員が1人1票の382票と各都道府県連に1票ずつ割り振られた47票のあわせて429票で争われます。このとき、国会議員票が全体の約89%を占め、その影響力が極めて大きくなります。各都道府県連の1票は党員投票の結果に基づき自動的に決まるため、国会議員の判断が決選投票の結果を左右する可能性が高くなります。このため、決選投票に向けては、依然として国会議員の組織化や説得が重要な戦略となり得ます。

これらの状況から、自民党の総裁選において、議員や党員は派閥や政策論争よりも、次の衆院選での勝利や個人の当選可能性を最優先に考えて候補者を選んでいる傾向が強いと言えます。特に、早期の衆議院解散の可能性が指摘されている中で、この傾向はより顕著になっていると考えられます。

なお、選挙制度改革の影響も無視できません。小選挙区制の導入により、議員たちは個人的な選挙戦略をより重視するようになっており、これが派閥の影響力低下と相まって、総裁選における議員の行動にも影響を与えていると考えられます。

このような状況において、高市早苗氏が総裁選で勝機を高めるためには、以下のような戦略を展開すべきです。

まず、次の衆院選での勝利をもたらす総裁としての自身の資質をアピールすることが重要です。議員たちは自身の当選可能性を高めるリーダーを求めているため、高市氏は自身の政策や経験が党の選挙戦略にどのように貢献できるかを明確に示す必要があります。

次に、国会議員票の獲得に注力する必要があります。特に決選投票では国会議員票の比重が約89%と極めて大きくなるため、個々の議員への働きかけが重要となります。ただし、派閥が解消されつつある現状を踏まえ、従来の派閥の論理ではなく、個々の議員の利害に訴えかける戦略が効果的でしょう。

さらに、麻生太郎氏の支持獲得が鍵となる可能性もあります。過去の安倍晋三氏の総裁選での戦略を参考に、麻生氏に直接働きかけるだけでなく、麻生氏に影響力のある人物を通じて間接的にアプローチすることも有効かもしれません。

麻生太郎氏

また、一般党員票の獲得も重要です。党員が自民党の選挙での勝利を見据えて投票する傾向があることを踏まえ、高市氏は自身が党を勝利に導く最適な候補者であることを訴える必要があります。

加えて、早期の衆議院解散の可能性を念頭に置いた戦略も必要です。高市氏は、自身が総裁に選出された場合の具体的な選挙戦略や勝利のシナリオを提示することで、議員たちの支持を集められる可能性が高いです。

最後に、小選挙区制の導入により議員たちが個人的な選挙戦略をより重視するようになっていることを踏まえ、高市氏は各議員の選挙区事情に配慮した政策や支援策を提示することも効果的でしょう。

これらの戦略に加えて、高市氏は他の候補者との差別化を図ることが重要です。具体的には以下のような方策が考えられます。
1. 経験と新鮮さの両立:高市氏は豊富な政治経験を持ちながら、女性候補者としての新鮮さも兼ね備えています。この独自の立ち位置を強調することで、他の候補者との差別化を図れます。

2. 政策の具体性:他の候補者が抽象的な政策を掲げる中で、高市氏は具体的かつ実行可能な政策を提示することで、実務能力の高さをアピールできます。

3. 経済安全保障の専門性:高市氏の経済安全保障担当大臣としての経験を活かし、この分野での専門性を強調することで、他の候補者との差別化を図れます。

4. 保守層へのアピール:高市氏は保守派として知られており、この立場を明確にすることで、保守層からの支持を固めつつ、他の候補者との違いを際立たせることができます。

5. 国際的な視野:高市氏の国際的な人脈や経験を強調し、グローバルな課題に対する対応力をアピールすることで、他の候補者との差別化を図れます。
これらの戦略を総合的に展開し、他の候補者との差別化を図ることで、高市早苗氏は総裁選での勝機を高めることができるでしょう。

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2024年9月7日土曜日

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まとめ
  • 小泉進次郎元環境相は、自民党総裁選への立候補を表明し、自身の経験不足を認めつつ、チーム作りでそれを補うと述べました。
  • 会見では、年配のフリーランス記者からの挑発的な質問に対しても、成長を誓い、過去の環境相在任時の評価を引き合いに出しました。
  • 小泉氏は、政治の刷新を求める党内の空気を反映し、若さと改革の象徴として立候補を決意しました。


 小泉進次郎元環境相は、自民党総裁選への立候補を正式に表明しました。彼の会見では、自身の経験不足や未熟さを指摘する声に対して、チーム作りでそれを補完する考えを示しました。また、年配のフリーランス記者からの挑発的な質問に対しても、自身の成長を誓い、過去の環境相在任時と同様に評価を得られるよう努力する意向を述べました。

 小泉氏は、政治の刷新を求める党内の空気を意識し、43歳という若さをアピールしつつ、「改革」を56回も連呼しました。これは、古い自民党からの脱却を目指す姿勢を強調したものです。彼の政策には、解雇規制の緩和、ライドシェアの全面解禁、選択的夫婦別姓の法案提出、憲法改正による自衛隊明記、政策活動費の廃止などが含まれています。

 また、小泉氏は総理となった場合、早期の衆議院解散を示唆し、国民の信を問う意向を明らかにしました。これらの政策や行動は、彼が「時代の変化に取り残された日本の政治を変えたい」という強い意志を示すものであり、父である小泉純一郎元総理の「郵政民営化」に倣った「農政」への改革も示唆しています。

 このような背景から、彼の立候補は、若さと改革の象徴として注目を集めています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】小泉進次郎氏の政策を統治論から評価:ドラッカーの教えに学ぶリーダーシップの真髄

まとめ
  • 統治の重要性:政府の役割は社会の方向を示し、全体のビジョンを持って統治することにあるが、現代の政府は実行に偏りがちであり、統治の役割が曖昧になっている。
  • ドラッカーの統治論:統治と実行は両立せず、政府は統治に専念すべきである。
  • 小泉進次郎氏の政策評価:小泉氏の政策は具体性と実行力を強調しているが、統治にかかわる国家のビジョンや国民との対話、政策の長期的影響についての洞察が不足している。
  • 真の統治者の条件:統治者はビジョンを示し、国民との対話を通じて合意を形成し、政策の公正さを保証する必要がある。
  • リーダーシップと真摯さ:リーダーとして重要なのは経験や能力よりも「真摯さ」であり、会見における記者はこれに関する質問をすべきであった。
上記の記事は、小泉進次郎氏が自民党総裁選への立候補の意向を表明した会見の報道です。これは、日本のメディア報道の典型例といえるでしょう。無論他の報道では、政策も示されていますが、重点は、このようなことに置かれている記事が多いです。この種の報道を見るたびに、私は違和感を覚えます。

自民党の総裁になることは、通常、内閣総理大臣に就任することを意味します。内閣総理大臣は政府のトップであり、政府の役割は日本国の統治です。これはどう考えても正しいことです。

しかし、「統治」という言葉の意味があまり理解されていないように思います。統治は英語でガバナンスといいますが、日本でも一時期ガバナンス論が盛んに議論されていました。それにもかかわらず、統治という言葉の意味は曖昧なまま使用されることが多いようです。

政府の統治に関しては、このブログでも何度か紹介したドラッカー氏(写真下)の定義が最も分かりやすいと思います。


経営学の大家であるドラッカー氏は、政府の役割について次のように述べています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うこと、社会のエネルギーを結集すること、問題を浮かび上がらせること、選択肢を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)。
ドラッカー氏はこれらの役割を体系化し、政府が行うべき「統治」と位置付けましたが、同時に実行とは両立しないと述べています。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。そもそも関心が薄い。
としています。ここでいう実行とは、現在各省庁やその委託先などが行っている統治に関わる事柄以外のすべてを指します。現状では、政府は中途半端に実行に関わっており、各省庁などは中途半端に統治に関わっています。これが、政府の統治能力を著しく低下させています。

統治とは細部にこだわるのではなく、全体の流れや大きな目標を設定し、それに向かって社会全体を導くことです。これは、大船団の船団長が船団の進む方向を決め、個々の船の船長や乗組員がその方向に向かって進むように力を合わせることと似ています。

各々の船は、指定された方向に向かうだけでなく、他の船とぶつからないようにしなければなりません。自らの操船を優先して、他の船の航行を邪魔することはできません。また、自分の船だけが速度をはやめて、目的地に速くつくのではなく、許容の範囲で足並みを揃えなければなりません。

これは、個々の船が操船して、勝手に目的地に付けば良いというものではなく、船団の航行には目的や目標があり、そのために各々船や、その乗組員は協力しあわなければなりません。しかし、そもそも船団の目的地や航路がはっきりしていなければ、船団は大混乱に至ることになります。この船団長の役割のように、国家や社会全体をリードする役割を果たすのが統治です。

連合艦隊を再現したCG

かつての政府は「小さな政府」として統治に専念せざるを得ませんでした。たとえば、リンカーン政権は閣僚と通信士を合わせてわずか7人だったと言われています。この小さな政府でリンカーンは統治に専念し、実行は他の組織に任せ、多くのことを成し遂げたのです。

このように、かつての政府は小さく、統治に専念していました。実行は政府以外の組織に任せ、それにより多くのことを成し遂げることができたのです。そうした政府の効率性を注目し、巨大化した民間企業も取り入れ始めました。最初に大々的に取り入れたのはオランダの東インド会社でした。

多くの国々で植民地経営は失敗しましたが、オランダだけは例外でした。しかし後にオランダも東インド会社を政府に取り込み、植民地経営も失敗することになりました。ただし、民間巨大企業はその後も統治機構を本社・本部に作り、成功を収めています。

しかし、現代の政府は肥大化し、統治よりも実行に関わる役割が増大しています。今日、政府は民間企業のように統治に専念する体制を作り出すべきです。

そうして、日本国の統治の責任者が日本国総理大臣なのです。ここで、小泉進次郎氏の会見の内容を振り返ってみましょう。

小泉進次郎議員は自民党総裁選に出馬し、総理となった場合、速やかに解散総選挙を行うと表明しました。彼の政策要点は以下の通りです:
  • 政治資金規正法の改革:政策活動費や調査研究広報滞在費の使途を即時公開。
  • 裏金議員の公認審査:新執行部が審査。
  • 実力主義:いかなるグループからの推薦も受け付けない。
  • 官僚の国会張り付きの廃止:質問提出期限の厳守と深夜残業の減少。
  • 新産業創出:自動車一本足打法からの脱却。
  • 解雇規制の改革:企業に職業訓練や再就職支援を義務付ける。
  • ライドシェアの全面解禁。
  • 年収の壁の撤廃。
  • 労働時間規制の見直し:残業時間の柔軟化。
  • 選択的夫婦別姓の導入。
  • 憲法改正:自衛隊明記、緊急事態条項を含む国民投票の実施。
また、中長期的な課題として、国際環境への対応、教育改革、低所得者支援、防衛力強化、日米関係の強化、経済安全保障の強化、中国や北朝鮮との対話、拉致問題の解決を掲げています。

さて、これらの政策を「統治」の観点から評価してみます。

小泉進次郎氏の政策は、具体的な施策や改革への強い意志を示しています。しかし、その背後にある国家のビジョンや目指すべき社会像が明確に描かれていません。先ほどの船団の例でいえば、各々の船はどのように動くべきかにかかわることは語っても、船団自体がどこに向かうのかは語っていません。具体的な政策を述べる前に、国家としての方向性を明らかにすべきです。

これは、政策が国民の未来像や価値観とどう結びつくのかが不明確であることを意味します。また、政策決定における国民参加や合意形成のプロセスが十分ではないようです。特に困難な問題に対して、国民との対話や理解を得るための努力が不足しています。

さらに、政策の具体性と革新性においても、その実行が社会全体の公正さや安定にどのように寄与するのか、またどのようなリスクを孕むのかについての深い洞察が欠けているようです。これらは、政策がどのように機能し、どのような影響を及ぼすかを考慮する統治の側面を無視していることを示しています。

ドラッカーの哲学に基づけば、統治とは単に政策を実行することではなく、国民の幸福と貢献を目指すものです。そのため、小泉氏は自身の政策がどのように「人間の幸せ」と「貢献」に繋がるかを明確にする必要があります。これにより、政策が単なる手段ではなく、国家の方向性や価値観を反映するものであることを示すことができます。

以上の観点から、小泉進次郎氏の政策は、実行力と革新性を強調し、それ自体を何のためらいもなく「善」として表明しているようですが、統治の観点から見ると、「どこへ向かうべきか」「国民とどう向き合うべきか」という根本的な問いに対する答えが不足していることが浮き彫りになっています。

これらの要素を無視することで、政策は一時的な変革をもたらすかもしれませんが、長期的な国家の安定や国民の信頼を築く基盤を揺るがす可能性があります。真の統治者は、ビジョンを示し、国民との対話を通じて合意を形成し、政策の実効性と公正さを保証する必要があります。

統治という観点から見ると、ビジョンや国民との対話、政策の実効性と公正さの保証が欠けている点は、他の自民党総裁選候補者にも共通しています。例外は高市早苗氏と青山繁晴氏、過去においては安倍晋三氏くらいです。

自民党、あるいは日本の政治家は、政府の役割について一度真剣に考えていただきたいものです。

最後に、小泉氏は会見で「経験不足や未熟さ」を指摘されていますが、ドラッカーはこれに関して次のように述べています。「真摯さはごまかせない。共に働く者、特に部下は、上司が真摯であるかどうかを数週間で見抜く。無能、無知、頼りなさ、態度の悪さには寛大かもしれないが、真摯さの欠如は許されない。このことは特にトップに当てはまる。組織の精神はトップから生まれるからである」(『マネジメント』)。

真摯さ:誰も見ていない時に正しいことをする

真摯さとは、英語の「integrity」を日本語に訳したもので、ドラッカーは次のように述べています。「真摯さを定義することは難しい。しかし、真摯さの欠如は、マネジメントの地位にあることを不適とするほどに重大である。人の強みよりも弱みに目がいく者をマネジメントの地位につけてはならない」(『マネジメント』)。

リーダーとして、無能や無知、頼りなさ、態度の悪さはさほど問題ではありません。小泉氏の「経験不足や未熟さ」も同様です。それよりも「真摯さ」こそが重要です。しかし、ドラッカーも語るように「真摯さ」の定義は難しいものです。

ただし、統治に関わる「ビジョン」や「国民との対話」、「政策の実効性と公正さの保証」に関する議論には、真摯さを垣間見るヒントが含まれているはずです。新聞記者らは、小泉氏に対して、これらに関連する質問をもっとすべきだったと思います。

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2024年9月6日金曜日

与那国町長がアメリカで沖縄県知事批判―【私の論評】与那国島の安全保障と政府の不作為:糸数町長の取り組みと笹川財団の役割

与那国町長がアメリカで沖縄県知事批判

まとめ
  • 糸数町長は米国で日本防衛の重要性を訴え、玉城知事の辺野古移設反対を法治否定と批判した。
  • また、与那国島の自衛隊の抑止効果を強調し、日米同盟の強化を提唱した。
  • 玉城知事の中国への批判回避と対照的に、糸数町長は中国の脅威に対する警戒を呼びかけた。
先月30日、ワシントンの会合で南西諸島の防衛力強化を訴える沖縄県与那国町の糸数健一町長(右)

沖縄県与那国町の糸数健一町長が2024年8月末に米国笹川平和財団などの招待でワシントンを訪問し、8月30日に国防総省や国務省の米側関係者らとも交流南西諸島の防衛強化と中国に対する抑止力の重要性を訴えた。与那国島は日本の最西端に位置し、台湾まで約110キロの距離にあるため、戦略的な重要性を持っている。2016年から自衛隊が駐屯しており、日本防衛と台湾防衛において重要な役割を果たしている。

糸数町長は、南西諸島の防衛強化を通じて中国に対する抑止力を高める必要性を強調し、与那国島の自衛隊駐屯が地元住民にも歓迎されていることを説明した。また、日米同盟の重要性と自衛隊の抑止効果を米側関係者に伝えた。

一方、玉城デニー沖縄県知事への批判も行い、辺野古移設に関する最高裁判決を無視する玉城知事の姿勢を「法治国家の否定」と非難した。玉城知事の米軍基地反対の姿勢とは対照的な立場を示すことで、糸数町長は沖縄の声の多様性を表現した。

さらに、中国の動向についても言及し、尖閣諸島へのメキシコ人男性の上陸を中国が仕組んだ行動の可能性があると指摘した。また、中国軍機による日本領空侵犯を計画的な行動と分析し、これらの事態に対する警戒を呼びかけた。糸数町長の訪米は、これまでの沖縄県の反基地姿勢とは異なる視点をワシントンに提示し、日本の安全保障政策に新たな側面を示す機会となった。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】与那国島の安全保障と政府の不作為:糸数町長の取り組みと笹川財団の役割

まとめ
  • 与那国島は日本の最西端に位置し、台湾との関係強化や経済交流の促進を目指す動きがある。
  • 糸数健一与那国町長は、日本の安全保障政策において積極的な姿勢を示し、憲法改正や軍備増強の必要性を訴えている。
  • 今年5月、米国大使エマニュエル氏の訪問時に町長は「コメントない」と返答し、外交的配慮や住民感情に配慮した可能性がある。
  • 笹川財団の関与により、糸数町長の米国訪問は戦略的に計画されたものであり、地方自治体が独自に外交活動を行う必要性が生じている。
  • 日本政府の明確な方針が不足していることが、地方政治家の独自の主張を生む要因となっており、中央政府と地方自治体の連携の見直しが求められている。
与那国島は日本の最西端に位置し、台湾まで約110キロの距離にある戦略的に重要な島です。この地理的特性を活かし、台湾との関係強化や経済交流の促進を目指す動きがあります。


約1年前に台湾立法院トップが与那国島をクルーズ船で訪問しました。これは、台湾と与那国島の間の定期航路開設を目指す試みの一環だったと考えられます。この訪問は、両地域の交流促進と経済的な結びつきを強化する意図があったと推測されます。

一方で、糸数健一与那国町長は、日本の安全保障政策において積極的な姿勢を示しています。

町長は、2023年5月3日に東京都内で開かれた憲法改正を求める集会でのスピーチ中で「一戦を交える覚悟も必要」と述べました。この集会は「公開憲法フォーラム」と称され(写真下)、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」などが共催したものです。

糸数健一氏は、この場で憲法9条の改正を主張し、「全国民がいつでも日本国の平和を脅かす国家に対しては一戦を交える覚悟が今、問われているのではないか」と述べました。

糸数町長は日本の安全保障環境の悪化を背景に、特に中国の台頭に対する危機感から、軍備増強や憲法改正の必要性を訴えました。彼の発言は、台湾有事の際の日本の対応や、旧宗主国としての台湾に対する責任にも触れ、台湾の重要性を強調する形でなされました。

町長のこのような発言に対しては、謝罪や撤回を求める声もありましたが、糸数町長はこの発言を撤回せず、むしろ日本が直面する国家存亡の危機を強調する形で自身の立場を説明しています。

この発言は、中国の軍事的脅威に対する警戒感と、日本の防衛態勢強化の必要性を強調したものと解釈できます。


一方、今年5月17日の米国大使エマニュエル氏の島訪問時に、大使が日米同盟等の重要性をアピールした後で「コメントはないか」と町長にたずねた際には「コメントない」と返答しました。これは、外交的な配慮や慎重な姿勢を示したものかもしれません。国際関係や安全保障問題は複雑で繊細な側面があり、状況に応じて発言を控える判断をしたと考えられます。

その判断とは、まず、米民主党政権に発言が利用されることを恐れた可能性があります。また、大使の訪問に対して、一部の住民から反発の声が上がっていたため、町長としては住民感情に配慮する必要があったと考えられます。

さらに、与那国島は台湾に近く、経済的な交流も視野に入れているため、中国を過度に刺激することを避けたかった可能性もあります。国際関係や安全保障政策は国の専管事項であり、一自治体の長として踏み込んだ発言を避けたかったとも解釈できます。

エマニュエル大使の訪問には、在日米軍のトップである四軍調整官も同行していました。これは、訪問が単なる友好的なものではなく、軍事的な意味合いを持っていたことを示唆しています。このような複雑な状況下で、糸数町長は慎重に対応せざるを得なかったと考えられます。町長は地域の安全保障と経済発展のバランスを取りつつ、国際的な政治的駆け引きに巻き込まれることを避けようとしたのかもしれません。

エマニュエル大使は、昨年LGBT理解増進法案の成立に向けて積極的な姿勢を示してきました。大使は、日本がLGBTQなど性的少数者の権利を守るための法整備を早期に進める必要性を訴え、「早期に法律を制定すべきだ」と強調し、さらにはデモにも参加していました。この姿勢は、日本の国内政治に対する一種の圧力とも解釈でき、いわば、米国大使による越権行為ともみられるものでした。

この背景を考えると、糸数町長が以前エマニュエル大使の与那国島訪問時に「コメントない」と返答したことは、米民主党政権の一部の勢力に発言が政治的に利用されることを恐れたためだと解釈できます。この慎重な姿勢は、今回の米国訪問でも維持されたと考えられます。

つまり、糸数町長の米国訪問は、LGBT理解増進法案を巡るような米国内の政治的な駆け引きから距離を置き、より広範な日米関係の文脈で、党派性を超えた形で米国に対応する試みだったと解釈できます。このアプローチは、特定の政治的アジェンダに利用されることを避けつつ、日米関係の重要性を強調する巧妙な外交戦略だったと言えるでしょう。

このような解釈は、複雑な国際関係と国内政治の相互作用を反映しており、糸数町長の行動を単純な親米姿勢や反中姿勢としてではなく、より洗練された外交的対応として理解することを可能にします。

与那国島を訪れたエマニュエル大使(左)と糸数健一与那国町長

無論、これには笹川財団の関与があった可能性が高いと考えられます。笹川財団は日米関係強化に長年取り組んでおり、糸数町長の米国訪問を招待したことからも、この訪問が戦略的に計画されたものであることが示唆されます。

笹川財団の豊富な知見と人脈は、複雑な国際情勢や国内政治の動向を踏まえた効果的な外交戦略の立案に寄与したと推測されます。特に、米国内の安保を巡る政治的な駆け引きや、エマニュエル大使の行動に対する反応など、微妙な問題に対処する上で重要な役割を果たした可能性があります。

また、笹川財団は日本の地方自治体と米国関係者との橋渡し役としても機能し、糸数町長が党派性を超えた形で米国に対応することを可能にしたとも考えられます

もし日本政府が与那国島を含む南西諸島の安全保障上の重要性について明確な立場を示していれば、地方自治体の長が独自に外交活動を行う必要性は低くなったいたでしょう。政府の明確な方針があれば、エマニュエル大使の質問に対しても、糸数町長は政府の見解を引用するだけで十分だったはずです。

しかし、日本政府は与那国島をはじめとする日本の西南海域の軍備を強化するなか、これに関する外交姿勢は必ずしも明確ではなく。そうしたさなかで、笹川財団のような民間組織が橋渡し役となり、地方自治体の長が直接米国の政策決定者と対話する機会を設けたことは、一定の意義があったと考えられます。

この状況は、日本の安全保障政策における課題を浮き彫りにしています。政府の明確な方針や発信が不足していることで、地方自治体や民間組織が独自の外交活動を行わざるを得ない状況が生まれています。これは同時に、沖縄県知事のような地方政治家が、中央政府の方針とは異なる独自の主張を展開する余地を与えているとも言えます。

中央政府が明確な方針を示さない中で、地方政治家がそれぞれの立場から独自の主張を展開することになり、結果として国としての一貫した方針が見えにくくなっている可能性があります。

この状況は、日本の安全保障政策の策定と実施において、中央政府と地方自治体、そして民間組織の役割と連携のあり方を再考する必要性を示唆しています。特に、国家安全保障に関わる重要な問題については、政府がより明確な方針を示し、それに基づいて地方自治体や民間組織と協力していく体制づくりが求められるでしょう。次の自民党総裁には、このようなことを指導できる人になっていただきたいものです。

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2024年9月5日木曜日

フィンランド、「国家安全保障上の理由」でロシア国民の不動産購入を禁止する計画―【私の論評】中国の対日本ステートクラフトとは? 日本への影響と対応策を徹底解説

フィンランド、「国家安全保障上の理由」でロシア国民の不動産購入を禁止する計画

まとめ
  • フィンランド政府は国家安全保障を強化するため、ロシア国民の不動産所有を制限する提案を発表。
  • この制限は敵対的な影響を防ぐためで、二重国籍者やEU内永住者は例外とされる。
  • 提案は法制化前に議会で投票される必要がある。
  • フィンランドは既にロシア関連の約3,500件の不動産を監視中であり、戦略拠点近くの取得を制限。
  • フィンランドとロシアの関係は、フィンランドのNATO加盟以降悪化し、国境を巡る問題が続発している。


フィンランド政府は、国家安全保障を強化するため、ほとんどのロシア国民の不動産所有へのアクセスを制限することを提案している。この動きは、アンッティ・ハッカネン国防相が月曜日の記者会見で発表した。「この規制は、フィンランドに対する敵対的な影響を防ぐことを目的としている。

ただし、二重国籍のロシア人や、フィンランドや他の欧州連合(EU)諸国に永住しているロシア人は除外される。法制化される前に、この措置は協議を経て議会で投票される必要がある。

フィンランド政府はすでに、ロシア国民に関連する約3,500件の不動産を監視している。ヘルシンキは既存の規制を利用し、ロシア人による戦略拠点付近の不動産取得を制限しようとしている。

緊張を増す関係
全長1.340kmの国境を接するフィンランドとロシアの関係は、フィンランドが2023年にNATOに加盟して以来、急激に悪化している。NATO加盟は、かつては中立国であった両国の関係に転機をもたらしたが、現在では国境をめぐる事件が相次いでいる。

2023年12月、フィンランドは、モスクワが国内を不安定化させるために非正規移民の入国を促進していると非難し、ロシアとの陸路横断を閉鎖した。このような移民の流れを受けて、フィンランドは2024年7月、国境警備隊が東部国境で亡命希望者のファイルを調べることなく入国を拒否できるようにする、物議を醸す法律を可決した。

2024年7月26日、ロシアの調査船「ミハイル・カザンスキー号」が南部のハミナ沖でフィンランドの領海を侵犯したとして訴えられた。フィンランド沿岸警備隊が接触を試みたにもかかわらず、調査船はフィンランド領海内を約1.2カイリ航行した後、領海を離れた。

これは孤立した事件ではなかった。2024年6月には、4機のロシア軍用機がフィンランドの領空に一時侵入し、5月にはフィンランドとリトアニアが、両国との海上国境を一方的に変更する意図についてモスクワに説明を求めた。

2022年にロシアがウクライナに侵攻して以来、ヘルシンキとモスクワの関係は悪化の一途をたどっており、フィンランドは歴史的中立を捨ててNATOに加盟した。ロシア国民の不動産購入を禁止する新たな動きは、ロシアの圧力に直面したヘルシンキが国家安全保障を強化するためにとった一連の措置の一環である。

上の記事は、アラブ首長国連邦のメディア「INTERVIEW」のものです。この記事の日本語版は、機械翻訳による間違いがあったので、英語板をDeepL.com(無料版)で日本語翻訳しなおしたものです。

【私の論評】中国の対日本ステートクラフトとは? 日本への影響と対応策を徹底解説

まとめ
  • 中国の挑発行為: 中国は日本の南西領海付近で挑発行動を繰り返しており、領空侵犯や領海侵入が発生している。
  • 日本の安全保障の重要性: 南西の日本領海は資源保護、シーレーン防衛、軍事戦略など多方面から日本の安全保障上極めて重要な地域である。
  • 中国のステートクラフト: 中国は反日・抗日感情を利用し、歴史教育、経済的圧力、メディア戦略など多様な手段を駆使して日本に圧力をかけている。これはステートクラフト(軍事、外交、経済、文化、情報戦など、さまざまな手段を駆使して国家の目標を達成するための包括的なアプローチ)の次元にまで高まっている。
  • 対抗戦略の必要性: 日本は中国の行動に対抗するため、経済的自立、情報戦略、国際協力などを含む包括的な安全保障戦略を構築する必要がある。
  • 長期的な取り組みの必要性: 中国の日本に対する影響力を恒久的に排除するには、長期的(50年以上)かつ包括的な対策(ステートクラフト)が求められる。
中国は現在、日本やその周辺国と戦争をしているわけではありませんが、最近の日本に対する行動は目に余るものがあります。これは、フィンランドとロシアの緊張関係と同じか、それを上回るかもしれません。

尖閣諸島

特に南西の日本領海付近の水域では、ごく最近短期間に様々な出来事が起こっています。これについては以前、このブログで時系列にまとめたことがありますので、以下に再掲します。

2024年8月16日: 沖縄県の尖閣諸島・魚釣島の東岸で、メキシコ国籍の40代男性がカヌーで漂流しているところを、巡視船が発見・救助しました。

2024年8月19日午後1時過ぎ: NHKのラジオ国際放送の中国語ニュースで、中国籍の外部スタッフ男性(49歳)が、原稿にはない不適切な発言を約20秒間にわたって行いました。

2024年8月21日: NHKは当該スタッフとの契約を解除しました。

2024年8月22日: NHKの稲葉延雄会長が自民党の情報戦略調査会で謝罪し、詳細を説明しました。

2024年8月26日午前11時29分から約2分間: 中国軍のY-9情報収集機1機が、長崎県五島市の男女群島沖の日本の領空を侵犯しました。これは、中国軍機による日本の領空侵犯が確認された初のケースです。具体的な経緯は以下の通りです:

1. 午前11時29分頃:Y-9情報収集機が男女群島の領空に侵入。
2. 午前11時31分頃:男女群島の南東側から領空の外に出る。
3. その後も周辺で旋回を続ける。
4. 午後1時15分頃:中国大陸に向けて飛行。

航空自衛隊西部航空方面隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)し、通告及び警告を実施するなどの対応を行いました。同日、防衛省は17時45分に「中国機による領空侵犯について」と題するリリースを公表し、外務省も「中国情報収集機による領空侵犯に対する抗議」と題するリリースを公表しました。午後5時20分頃、外務省は岡野正敬外務事務次官が在京中国大使館の臨時代理大使を召致し、厳重に抗議し再発防止を強く求めました。

2024年8月26日: 問題を起こした中国籍スタッフがSNSで日本を出国したことを示唆する投稿をしました。

2024年8月29日: 当該スタッフは再びSNSで投稿し、自身の行動を正当化する内容を発信しました。

2024年8月31日: 中国海軍のシュパン級測量艦「銭偉長」が鹿児島県口永良部島南西の日本領海に侵入し、約1時間53分滞在しました。

南西の日本領海付近の水域は、日本の安全保障において極めて重要です。この地域は、中国の海洋進出を監視し抑制する戦略的な要衝であり、尖閣諸島をはじめ、石油や天然ガスなどの資源が豊富に存在する可能性があります。これらの資源を保護することは、日本のエネルギー供給と経済活動に直結します。


また、この水域は国際的なシーレーンの一部であり、中東からのエネルギー資源輸送路としても重要です。シーレーンの安全を確保することは、日本の経済活動だけでなく、国際貿易にとっても死活的に重要です。

軍事的な観点から見ると、この地域は中国の軍事活動に対する前線であり、自衛隊の配備や米国との共同防衛体制の強化が進められています。ここでの日本の存在感を示すことは、地域の力のバランスを保つための戦略として機能しています。また、南西諸島の防衛強化は、国民保護の観点からも重要です。この地域には多くの離島があり、住民の避難計画や保護も含めた総合的な安全保障戦略が求められます。

中国の公船や軍用機による領海侵入や領空侵犯が頻発しており、これらに対抗するための監視と即応体制の整備が進められています。このように、南西の日本領海付近の水域は、資源保護、シーレーン防衛、軍事戦略、そして国民保護という多角的な視点から、日本の安全保障上、非常に重要な役割を果たしています。

一方、中国は反日・抗日政策をステートクラフトの次元にまで高めています。これは国家がその外交政策を遂行し、国際関係において自国の利益を守り、増進するために用いる戦略や手段の総称です。ステートクラフトは、軍事、外交、経済、文化、情報戦など、さまざまな手段を駆使して国家の目標を達成するための包括的なアプローチを指します。

中国の歴史教科書には戦後日本の平和外交や中国へのODA支援のことは書かれおらず、戦中の誇張した残虐さだけが掲載されている

中国の反日・抗日政策は、以下のような根拠を持つステートクラフトとして機能しています。

1. 歴史教育と国民感情: 学校教育やメディアを通じて、日本との歴史的対立を強調する教育が行われています。これにより、反日感情を動員する基盤を作っています。これは、一般の日本人の想定をはるかに上回る次元て展開されています。これについては、以下の記事を参照してください。 

 日中関係の再考 その10(最終回) 厳しい現実への覚悟を 古森義久 

2. 経済的手段による影響力: 中国は経済力を背景に反日感情をステートクラフトに組み込んでおり、経済的な報復措置や日本企業に対する不買運動の奨励、観光の制限などを行っています。
   
3. 文化・メディア戦略: 抗日ドラマや映画の制作・放送は、歴史的な反日感情を維持・強化するための手段です。これにより国内の団結を強化し、国際的にも日本のイメージを損なう狙いがあると考えられます。
   
4. 領土問題と経済的圧力: 尖閣諸島(Diaoyu Islands)問題を巡っては、レアアースの金融等の経済的なツールを用いて日本に圧力をかけることがあります。
   
5. 国際法と世論の利用: 中国は国際的な反日世論を形成し、日本の国際的な立場を弱めようとしています。

中国のこうした行動は、単なる歴史問題の清算を超えて、国家戦略の一部として位置付けられています。反日・抗日感情を維持し、それを必要に応じて動員することで、国内の統制を強化し、国際的な交渉において有利な立場を築くためのツールとして用いられています。

日本がこのような中国のステートクラフトに対抗するためには、フィンランドのロシアに対する姿勢が参考になります。フィンランドは軍事的な中立とNATOとの協力、経済的自立と国際協力、情報戦略を通じてロシアとの関係を管理しています。

日本も以下のような戦略を実践すべきです。

1. 包括的な安全保障戦略: 経済、軍事、文化、情報を含む全方位の戦略が必要です。先端技術の保護と開発、サイバーセキュリティの強化、文化交流を通じたソフトパワーの増強が含まれます。
   
2. 経済的レジリエンス: 中国への経済的依存を減らし、多角的な経済関係を築くことで、中国の経済的影響力を相対化します。
   
3. 情報戦略: 中国の情報戦略に対抗するため、国民の共通理解を深め、国際社会への情報発信を強化する必要があります。
   
4. 国際協力: 他国と連携し、中国の行動に対して集団的に対応することも重要です。

日本は中国に対抗するためのステートクラフトを構築し、単なる対抗策にとどまらず、日中関係の安定に寄与することが求められます。これは、単に中国と妥協するとか、目先の安定を意味するのではなく、中国の日本への悪い影響力を恒久的に排除し両国の安定した関係を築くという意味です。

これにはおそらく50年以上の長い時間と多大な労力がかかる可能性がありますが、政府の政策や戦略を超えた次元での包括的取り組みが必要です。そのくらいの覚悟がなければ、日本は1990年代からの江沢民の組織的・体系的反日・抗日教育にはじまり形成され、さらに今後も強化され続けるであろう中国の対日本ステートクラフトに対抗することはできません。

日本では、中国と異なりこのような事が行われてこなかったのは、日本政府は中国共産党と比較すれば、「統治の正当性」がはるかに強く、これを強化する必要性に迫られることがなかったからです。

いっぽう中国共産党は、そうでなく、設立当初から「統治の正当性」が脆弱で、これを意図して、意識して強めなければならないという状況にありました。そのため、江沢民の反日・抗日教育も、共産党に受け入れられやすく、地方政府に受け入れられやすく、中央でも地方レベルでも、ばらばらで一枚岩ではない中国であっても、対日本ステートクラフトについて一枚岩で実行することができたのです。

この状況を理解して、そろそろ日本も、対中ステートクラフトに本格的に取り組む時期がきたことを、日本人は自覚し、覚悟すべきです。

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2024年9月4日水曜日

トランプ氏「日本は再軍備を始めた」 国際情勢の不安定化に警鐘―【私の論評】トランプ陣営の対中・対ウクライナ戦略と日本の対応:AFPIが示す国際情勢への提言

トランプ氏「日本は再軍備を始めた」 国際情勢の不安定化に警鐘

まとめ
  • トランプ前大統領は、中国の南シナ海での行動が原因で日本が再軍備を始めており、米国の国際的威信の低下が世界的な紛争リスクを高めていると警告し、第三次世界大戦の可能性があると述べた。
  • ロシアとウクライナの戦争を終結させるための「緻密な計画」があると主張し、中国との紛争回避策についても言及したが、詳細は明かさなかった。
  • 日本の再軍備は防衛費の増額や自衛隊の反撃能力の保有に関連していると考えられ、国際情勢の不安定さを強調した。

 トランプ前米大統領は、人気ポッドキャスト番組のホストのレックス・フリードマン氏のインタビューに応じ最近のインタビューで国際情勢の不安定化について警鐘を鳴らした。彼は、中国が南シナ海での行動を強化した結果、日本が再軍備を開始したと指摘し、米国の国際的威信の低下が世界的な紛争リスクを高めていると分析した。その上で、第三次世界大戦の可能性が十分にあると警告した。

 また、トランプ氏はロシアとウクライナの戦争を終結させるための「緻密な計画」が存在すると主張し、中国との紛争回避策についても言及したが、その詳細については明かさなかった。彼は、日本の「再軍備」が防衛費の増額や自衛隊の反撃能力の保有に関連していると考えられ、全体として現在の国際情勢を非常に不安定さを強調した。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプ陣営の対中・対ウクライナ戦略と日本の対応:AFPIが示す国際情勢への提言

まとめ
  • トランプ陣営のシンクタンク「米国第一政策研究所(AFPI)」は、バイデン政権の外交政策を批判し、アメリカの利益を最優先にした迅速な停戦や和平交渉を提案している。特にウクライナ戦争では、武器供与の見直しと和平交渉の推進を求めている。
  • AFPIは中国を最大の脅威と位置付け、経済的デカップリングやアメリカ農地の取得禁止などの厳格な対中政策を提案。米国、日本、台湾の合同軍事司令部設置など、対中抑止の強化を推進すべきと主張している。
  •  AFPIは、ウクライナ戦争の消耗戦を回避するため、停戦と和平交渉を強く求めている。トランプ陣営の具体的な提案には、ウクライナのNATO加盟の延期やロシアとの交渉促進策が含まれている。
  • ウクライナ戦争に関しては、必ずしも一致していないトランプ陣営は、中国への対策を最優先課題とし、対中貿易・投資規制の強化を示唆している。これはバイデン政権とも一貫した厳しい対中姿勢を持つ点で共通しており、これは米国のステートクラフトになりつつあることを示している
  • 日本は、米国の利益に盲従するのではなく、自律的かつ戦略的な外交と防衛力強化すべき。そのため日本の主権と利益を守る強いリーダーシップが必要であり、それを実現できるのは現在の自民党総裁候補の中では高市早苗氏以外にない。

上記の記事に登場する人気ポッドキャスト番組は、「レックス・フリードマン・ポッドキャスト(Lex Fridman Podcast)」です。この番組は、科学、技術、歴史、哲学、知性、意識、愛、権力など、多岐にわたるテーマを取り上げ、深い対話を展開しています。ホストのレックス・フリードマンはMITのAI研究者で、長時間のインタビュー形式で知られています。

各エピソードは通常2~4時間にわたり、著名なゲストとの深い議論が展開されます。政治的立場に偏ることなく、中立的な視点で多様なトピックとゲストを取り上げることが特徴です。

さて、記事に出てくる第三次世界大戦の可能性や、ロシアとウクライナの戦争終結、中国の紛争回避案などについて、トランプ陣営はどのように考えているのでしょうか。

ヒントとなるのが、トランプ前大統領陣営のシンクタンク「米国第一政策研究所(AFPI)」です。

AFPIは、国際情勢の不安定化と第三次世界大戦の可能性に懸念を示し、バイデン政権の外交政策が世界中で戦争と不安定を増大させたと批判しています。特に対中政策では、中国との経済的デカップリングや中国によるアメリカ農地取得の禁止などを提案しています。

日本に対しては、より自律的かつ協力的な同盟国として、アメリカとの関係強化を期待しています。また、中国の軍事的脅威に対抗するため、米国、日本、台湾の合同軍事司令部設置も提案しています。

ウクライナ戦争について、AFPIはバイデン政権の段階的な武器供与と明確な目標設定の欠如が、アメリカを終わりなき戦争に巻き込んでいると批判。迅速な停戦と和平交渉への移行を求める「アメリカ・ファースト」のリーダーシップを主張しています。

具体的には、ウクライナ軍の戦況が厳しくなる可能性を予測し、アメリカが武器供与を続けることに疑問を投げかけています。ウクライナのNATO加盟を無期限に延期することを、ロシアとの合意に含めるよう提案しています。

AFPIは、消耗戦の回避とアメリカの利益を最優先しつつ、欧州最大の戦争終結に貢献するべきだと主張しています。ただし、この提案がNATO同盟国との分裂を引き起こす可能性も認識しています。

全体として、AFPIはアメリカの国益を最優先し、無用な戦争への関与を避け、同盟国との協力を通じて地域の安全保障を促進することを掲げています。彼らは、強力な軍事力の維持と慎重な軍事行使のバランスを重視し、具体的な政策提言を行っています。

AFPIのロゴ

ウクライナ戦争の終結について、トランプ前大統領の国家安全保障顧問であるキース・ケロッグとフレッド・フライツが提案した計画は、迅速な戦争終結を目指しています。アメリカが和平交渉への参加を条件にウクライナに武器供与を続ける一方、ロシアには交渉拒否時の支援増強を警告する二面的な戦略を採用しています。

和平交渉中は前線に基づく停戦を実施し、ウクライナのNATO加盟を長期的に延期することで、ロシアを交渉に引き込む狙いがあります。ウクライナに正式な領土放棄を求めることはありませんが、完全な領土支配の回復は困難と認識しています。若い世代の犠牲を防ぐため、迅速な交渉開始を重視しています。

一方、ポンペオ元国務長官とトランプ陣営のアーバン氏は「ウォールストリートジャーナル」に寄稿し、2024年2月29日に「A Trump Peace Plan for Ukraine(ウクライナのためのトランプ和平計画)」という記事を発表しました。彼らはトランプ再選時のウクライナ支援強化と、ロシアに勝利を諦めさせる方針を示し、制裁強化、5000億ドルの武器貸与計画、ウクライナへの武器供給制限解除などを提案しています。また、ウクライナのNATO加盟の迅速化と経済発展支援も主張しています。この寄稿は、トランプ氏がプーチン大統領に有利な候補だという見方に対する反論となっています。

トランプ陣営は、中国を米国にとって最大の脅威と位置付けています。元大統領副補佐官のアレクサンダー・グレイ氏は、中国を国家安全保障上の最大の脅威と強調し、トランプ政権時代に中国の選挙介入の脅威を重大視していました。エルブリッジ・コルビー氏も、トランプ氏がウクライナよりも中国への対応を重視すると指摘しています。

一方、トランプ陣営は、中国に対する強硬姿勢を強調し、対中貿易・投資規制の強化を示唆しています。AFPIも中国共産党の影響力を抑え、アメリカ人の生活を守ることを目指しています。経済的繁栄、安全なサプライチェーン、エネルギー独立、文化的回復力、軍事的抑止力を通じた脅威の無力化を提唱しています。

米国ではステートクラフトはボードゲームにもなっている

対中政策における米国の厳しい姿勢は、もはや党派を超えてステートクラフトとして定着しつつあります。ステートクラフトとは、国家の利益を追求し、国際関係を管理するための戦略で、外交、経済、軍事を含む包括的な国家の取り組みです。トランプ政権からバイデン政権に至るまで、対中強硬姿勢が一貫して維持されています。

この継続性は、経済界も含めた国家戦略の一貫性を示しています。米国は、日本に対しても同様の姿勢を求めており、日本が米国と共に中国に対峙することを期待しています。

しかし、この期待に日本が応える過程において、米国の利益を優先しようとする動きには、日本は冷静に対応することが求められます。

高市氏は防衛力強化と自主防衛を強く訴え、防衛費の増額やサプライチェーンの多様化など、日本が中国に依存しない経済体制を構築する政策を提案しています。また、米国との同盟を維持しつつも、日本の独自性を重視した戦略的外交を推進しています。

これにより、米国の政策に左右されることなく、日本の主権と利益を守る強いリーダーシップを発揮できると考えられます。したがって、現総裁候補の中で高市早苗氏が最も適任であるといえます。

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2024年3月5日


2024年9月3日火曜日

習近平の中国で「消費崩壊」の驚くべき実態…!上海、北京ですら、外食産業利益9割減の衝撃!―【私の論評】中国経済のデフレ圧力と国際金融のトリレンマ:崩壊の危機に直面する理由

習近平の中国で「消費崩壊」の驚くべき実態…!上海、北京ですら、外食産業利益9割減の衝撃!

まとめ
  • 上海と北京で消費が深刻に低迷しており、特に上海では6月の小売総額が前年同期比で9.4%減少した。
  • 上海の宿泊・外食関連売上は6.5%減、日用品は13.5%減少し、市民の生活が「縮衣節食」に変わっている。
  • 北京でも上半期の小売総額が0.8%減少し、外食産業の一定規模以上の飲食店の利益が88.8%減少した。
  • 消費低迷は政府関係者や富裕層を含む市民全体の金銭的余裕の欠如を示しており、未曾有の大不況が進行している。
  • 上海と北京の消費崩壊は、中国全体の経済に深刻な影響を与える可能性があり、今後の経済政策に注目が必要。
上海の目抜き通り

上海と北京という中国の主要な経済都市で、深刻な消費低迷が発生している。これらの都市はかつて「中国の繁栄」の象徴とされていましたが、現在は「消費崩壊」とも言える状況に直面している。

上海では、2024年6月の小売総額が前年同期比で9.4%減少した。特に、宿泊や外食関連の売上は6.5%減、食料品は1.7%減、衣料品は5.0%減、日用品に至っては13.5%も減少している。このような数字は、上海の市民が外食を控え、日常生活においても節約志向が強まっていることを示している。市民は「縮衣節食」の生活に入り、消費活動が大幅に縮小している。

一方、北京でも同様の傾向が見られます。2024年上半期の北京市の小売総額は前年同期比で0.8%減少したが、外食産業に関するデータは特に衝撃的だ。一定規模以上の飲食店の利益が前年同期比で88.8%も減少し、これは業界全体にとって深刻な問題を示している。外食産業全体の売上は637.1億元で前年同期比3.5%減に留まっているが、利益の大幅減少は、激しい価格競争に巻き込まれていることを意味している。飲食店は、最低限の売上を維持するために価格を抑え、利益を削るしかない状況に追い込まれている。

このような消費の低迷は、政府関係者や企業の経営者、富裕層を含む市民全体が金銭的な余裕を失っていることを示している。特に、北京は中央官庁や大企業の本社が集まる場所であり、ここでの消費低迷は驚くべき現象だ。飲食を重視する文化を持つ北京っ子が、外食を控えるほどの節約を強いられていることは、未曾有の大不況が進行している証拠だ。

上海と北京での消費崩壊は、これらの都市の経済に大きな打撃を与えるだけでなく、中国全体の経済にも深刻な影響を及ぼすだろう。これらの都市でさえ消費が低迷しているとなれば、全国の消費市場がどれほどの不況に陥っているかは明白だ。さらに、不動産開発という中国経済の支柱産業が崩壊している中で、消費の低迷が続く場合、中国経済はさらに厳しい状況に直面することが予想される。

このように、上海と北京の消費低迷は単なる一時的な現象ではなく、深刻な経済問題を反映しています。これらの都市での消費の縮小は、中国全体の経済に対する警鐘であり、今後の経済政策や市場の動向に注目が必要です。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国経済のデフレ圧力と国際金融のトリレンマ:崩壊の危機に直面する理由

まとめ
  • 中国政府が公表する公式のGDP統計は信頼できないが、消費動向や物価指数から中国経済がデフレ圧力に直面していることが明らかである。
  • 消費の低迷や不動産市場の低迷が進行しており、デフレ圧力が拡大しているため、政府は内需刺激策を検討しているが、人民元安への懸念から大規模な金融緩和には踏み切れない。
  • 中国経済は国際金融のトリレンマに直面しており、独立した金融政策、為替相場の安定、自由な資本移動の3つを同時に達成することができない状況にある。
  • 中国共産党は統治の正当性を維持するため、経済成長や社会の安定を重視しており、変動相場制や資本自由化の根本的な制度改革を躊躇している。
  • トリレンマから脱出できない場合、経済成長の鈍化や不動産市場の崩壊、金融システムの機能不全が進行し、最終的には経済崩壊に至る可能性がある。
中国の経済状況について、中国政府が公表する公式のGDP統計は信頼できないと、このブログでは何度か述べてきました。しかし、これだけでなく、消費動向などの実態からも中国経済の状況を把握することができます。消費の低迷は、中国経済がデフレ傾向にあることを示唆しています。例えば、6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で+0.2%とほぼゼロに近い水準であり、コアCPIも+0.6%と低い水準が続いています。


また、景気減速を背景に消費が低迷しており、特に上海や北京などの主要都市でも消費の落ち込みが顕著です。さらに、消費者の低価格志向が強まり、小売業では値下げ競争が激化しています。このような状況では、需要が低迷する一方で生産が続いているため、需給ギャップが拡大し、デフレ圧力を招いていると判断できます。

加えて、不動産市場の低迷も影響を与えています。不動産価格の下落は資産デフレを引き起こし、さらなるデフレ圧力となっています。これらの要因から、中国経済はディスインフレ段階を経て、デフレ圧力に直面しているといえます。

政府もこの事態に危機感を強めており、内需刺激策を検討していますが、人民元安への懸念から大規模な金融緩和には踏み切れない状況です。したがって、公式のGDP統計の信頼性に疑問があるとしても、消費動向や物価指数などの実態的な指標から、中国経済がデフレ圧力に直面していることは明らかだと考えられます。

中国経済がデフレ圧力に直面していることは明白ですが、金融緩和に踏み切れない主な理由は以下のとおりです。

第一に、人民元安への懸念があります。中国当局は人民元の為替レートを非常に重視しており、過度な人民元安を避けたいと考えています。金融緩和を行えば、金利差から資金流出が加速し、人民元安が進行する可能性が高まります。昨年は人民元安により米ドル建てGDPが29年ぶりに減少し、世界経済における中国の存在感低下につながりました。このような事態の再発を当局は恐れています。

第二に、国際金融市場の動向があります。米国ではインフレの粘り強さが意識され、FRBの金融政策に対する見方が変化しています。これにより米ドル高圧力が生じており、中国が金融緩和に動けば、金融政策の方向性の違いから更なる資金流出と人民元安を招く恐れがあります。

第三に、不動産市場や家計債務への懸念があります。金融緩和は不動産市場の過熱や家計債務の拡大につながる可能性があり、これらのリスクを当局は警戒しています。

これらの要因により、中国当局は金融緩和に慎重にならざるを得ず、景気下支えのための対応は「小出し」に留まる可能性が高いと考えられます。デフレ圧力に直面しながらも、人民元安や金融リスクを恐れて大規模な金融緩和に踏み切れない状況が続いているのです。

以上は、現象面を指摘してきましたが、このような現象を招いているのには根本的な要因があります。

中国経済は随分前から、国際金融のトリレンマ(三すくみ)に直面しています。このトリレンマとは、一国が「独立した金融政策」「為替相場の安定」「自由な資本移動」の3つを同時に達成することができず、2つしか選択できないという理論です。この理論は、経験則的にも数学的にも証明されているものです。


中国の場合、独立した金融政策を維持したいという意向がある一方で、人民元の急激な変動を避けるために為替相場の安定も重視しています。そのため、資本移動を部分的に制限しています。

しかし、近年の段階的な資本自由化により、人民元相場と内外金利差の相互影響が強まっており、中国はトリレンマの制約を強く受けるようになっています。金融緩和を行おうとすると、資本流出と人民元安の圧力が生じ、人民元安を防ぐためには外貨準備の取り崩しが必要になります。

また、資本規制を強化すると国際化が後退するリスクもあります。これらの要因により、中国当局は大規模な金融緩和に踏み切れない状況にあります。

トリレンマの制約が強まる中で、金融政策の独立性、為替相場の安定、資本移動の自由化のバランスを取ることがますます難しくなっています。結論として、中国はデフレ圧力に直面しながらも、国際金融のトリレンマゆえに大規模な金融緩和に踏み切れない状況に陥っているのです。この問題を解決するには、長期的には変動相場制への移行など、より根本的な制度改革が必要になると考えられます。

以上のようなことは、経済理論から言って明らかといえるのですが、中国共産党が変動相場制への移行や資本自由化などの根本的な制度改革を躊躇しています。その根本原因は、党の統治の正当性に深く関わっています。

中国共産党の統治の正当性は、主に以下の要素に基づいています:
1. 経済成長の維持と国民生活の向上
2. 社会の安定性の確保
3. 国家主権と領土保全の維持
4. ナショナリズムの高揚
変動相場制への移行や資本自由化は、これらの要素を直接的に脅かす可能性があります。

まず、経済成長の維持について、変動相場制への移行は人民元の急激な変動をもたらす可能性があり、輸出主導の経済構造を持つ中国にとって、経済の不安定化を招くリスクがあります。これは党の経済運営能力への信頼を損なう可能性があります。

次に、社会の安定性に関して、資本自由化は大規模な資本流出のリスクを高めます。中国の富裕層を中心に、「自国内に全財産を置くことに政治的リスクを感じる人は少なくない」とされており、資本移動が完全に自由になれば、海外資産の保有割合を大きく増やす可能性があります。これは国内経済の不安定化につながり、社会の安定を脅かす可能性があります。

さらに、国家主権の観点から、資本自由化は外国資本の影響力を増大させ、中国共産党の経済政策の自主性を弱める可能性があります。党は「独立した金融政策」と「為替相場の安定」を重視しており、これらを犠牲にすることは党の統治能力への疑念を生む可能性があります。

中国の政治体制における「正統性」の問題は、経済社会の変容に適応しながら、いかに党の統治を正当化するかという課題と密接に関連しています。急激な制度改革は、党が長年かけて構築してきた正統性の基盤を揺るがす可能性があるため、慎重にならざるを得ないのです。

加えて、資本規制は経済的理由だけでなく、情報統制や社会管理の手段としても機能しています。資本の自由化は、これらの統制手段を弱める可能性があります。

また、近年の米中対立の激化や、COVID-19パンデミック後の世界経済の不確実性の増大により、中国政府はより慎重な姿勢を取っています。これらの国際情勢の変化も、根本的な制度改革を躊躇させる要因となっています。

一方で、中国の金融政策は必ずしも完全に閉鎖的ではなく、徐々に開放を進めている面もあります。例えば、人民元の国際化や、外国投資家向けの債券市場の開放などが挙げられます。これらの段階的な改革は、急激な変化を避けつつ、国際的な要請に応える試みと見ることができます。

北京 天安門

結論として、中国共産党は経済の安定と成長、社会の安定、国家主権の維持、ナショナリズムの高揚を通じて統治の正当性を確保しています。変動相場制への移行や資本自由化などの根本的な制度改革は、これらの要素を脅かす可能性があるため、党はこれらの改革を慎重に進めざるを得ない状況にあると言えます。同時に、国際的な要請に応えるため、段階的な開放政策も進めており、中国共産党はこの複雑なバランスの中で制限をうけながら、政策決定を行っています。

中国が国際金融のトリレンマから脱出できない場合、長期的には深刻な経済問題に直面し、最終的には経済崩壊に至る可能性があります。具体的には、経済成長の鈍化と停滞が予想されます。資本移動の制限により、海外からの投資が減少し、国内の資金調達コストが上昇することで、企業の投資意欲が低下し、経済成長が著しく鈍化する恐れがあります。

最悪の場合、経済の完全な崩壊と政治体制の崩壊につながるリスクも否定できません。中国政府は段階的な改革を進めていますが、根本的な制度改革を先送りし続ければ、長期的には経済崩壊のリスクが高まることは避けられないでしょう。

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2024年9月2日月曜日

反移民のドイツ右派AfDが第1党の見通し、東部州議会選―【私の論評】ドイツ政治の転換点:AfDの台頭、経済課題と東西格差の影響 - 変わりゆく欧州の中心国家

反移民のドイツ右派AfDが第1党の見通し、東部州議会選

まとめ
  • ドイツ東部のテューリンゲン州では、反移民の右派政党AfDが33.2%の得票率で州議会レベルで初めて第1党になる見込みである。
  • ザクセン州では保守派が31.5%でAfDを僅差でリードしているが、国政与党3党は苦戦しており、社会民主党(SPD)だけが議席獲得に必要な5%を上回った。
  • 左派新党BSWが両州で3位につけ、今後の政権樹立において重要な役割を果たす可能性があり、各政党はAfDとの協力を否定している。

 ドイツ東部の旧東ドイツ地域テューリンゲン、ザクセン両州で1日、州議会選が行われた。テューリンゲン州では反移民を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が州議会レベルで初めて第1党になる勢いだ。

 公共放送ZDFの予測によると、AfDは同州で33.2%の票を獲得する見通しで、保守派の23.6%を大きく上回っている。

 ザクセン州では保守が31.5%で、AfDを1.1%ポイントの僅差でリードしている。
国政与党3党はさえず、議席獲得に必要な5%を明確に上回っているのはショルツ首相の中道左派「社会民主党(SPD)」のみ。総選挙を1年後に控える中、連立政権にとって厳しい結果となっている。

 移民抑制やウクライナへの武器供与停止を訴える左派新党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」が両州で3位につける。

 いずれの政党もAfDとの協力を否定しており、BSWが両州で安定的な政権を樹立する鍵を握る可能性がある。


【私の論評】ドイツ政治の転換点:AfDの台頭、経済課題と東西格差の影響 - 変わりゆく欧州の中心国家

まとめ
  • AfDは2013年に設立された右派ポピュリスト政党で、最近の州議会選挙で大きな躍進を見せている。
  • AfDの支持基盤拡大の背景には、与党の経済政策、エネルギー政策、移民政策への不満がある。
  • AfDはSNSを効果的に活用しているが、若者層の支持率は全年齢層平均と同程度である。
  • ドイツの名目GDPが日本を追い越したが、これは高インフレや為替変動の影響であり、実質的な経済成長を示すものではない。
  • AfDは特に旧東ドイツ地域で強い支持を集めているが、その背景には経済格差や文化的要因がある。
州議会選が行われたドイツ東部チューリンゲン州都エアフルトで、親指をあげるAfD同州支部のヘッケ共同代表

AfD(ドイツのための選択肢)は、2013年に設立された右派ポピュリスト政党で、当初はユーロ圏政策に反対する立場から始まり、その後、移民政策や欧州連合に対する批判的な姿勢を強めました。最近の州議会選挙では、テューリンゲン州で32.8%、ザクセン州で30.6%の支持を得て、大きな躍進を見せています。

多くの日本のメディアは、AfDを単純に「極右」と呼んでいますが、これは適切ではありません。党内には様々な思想的立場があり、民主的プロセスに参加し、経済政策では自由主義的な立場を取るなど、単純に「極右」とは分類できない側面があります。AfDの支持層は、比較的収入が高い中上層の社会階層出身者が多く、高学歴の傾向を示しています。

AfDの躍進の背景には、与党の経済政策、エネルギー政策、移民政策のまずさがあります。経済面では、インフレや生活費の上昇に対する不満が高まっています。ドイツのインフレ率は2024年1月に3.1%まで鈍化しましたが、2024年5月にはさらに2.8%にまで鈍化しました。これは、ECB(欧州中央銀行)の目標である2%をまだ上回っており、ドイツ経済に課題を突きつけています。

エネルギー政策においては、脱原発政策による電力価格の上昇や、ロシアからのガス輸入停止による影響が国民の不安を煽っています。ドイツの電力価格は、日本と比較して高い水準にあります。2023年のデータによると、ドイツの家庭用電力料金は1kWhあたり約0.46ユーロ(約60円)で、日本の約0.25ユーロ(約33円)を大きく上回っています。

移民政策では、2015年以降の難民受け入れ政策に対する反発が根強く残っています。2024年の調査では、ドイツの若者の46%が「移民・難民」を重要なテーマと考えており、これは他の欧州諸国と比べても高い割合です。

AfDはSNSを効果的に活用しており、若者層にも支持を広げています。しかし、若者の支持に関しては、16歳から24歳の年齢層のAfD支持率は16%で、全年齢層平均と同じ割合であり、特に若者が右傾化しているわけではありません。

ドイツの若者が不安を感じている問題は、インフレーション(65%)、ヨーロッパおよび中東における戦争(60%)、住宅問題(54%)、社会の分断(49%)、気候変動(49%)となっています。

Afdの支持者

AfDの躍進は、ショルツ政権にとって大きな打撃となっており、来年秋の総選挙に向けて重要な意味を持っています。一方で、環境重視の小政党Voltが若者層で支持を集めるなど、政治的な多様性も見られます。

Voltは、2017年に設立された汎ヨーロッパの社会自由主義政党で、EUの改革、気候危機への取り組み、公正で持続可能な経済、デジタル化を主要なテーマとしています。Voltは科学的根拠に基づくアプローチを重視し、ベストプラクティスの導入に高い関心を持っています。2019年の欧州議会選挙では、ドイツで0.7%の得票率を獲得し、1議席を得ました。

しかし、Voltの政治手法には批判もあります。テクノポピュリズムの傾向があり、既存の政治手法を否定しつつ、技術的な問題解決アプローチを採用しています。また、イデオロギーを超越した立場を主張していますが、これは有権者が政党の優先順位を理解することを困難にする可能性があります。

Voltの台頭は、ドイツの政治的多様性を示す一方で、EUの民主主義の課題も浮き彫りにしています。AfDとVoltという対照的な新興政党の存在は、ドイツの政治風景の変化と、有権者の既存政党への不満を反映しているといえるでしょう。

最近、ドイツの名目GDPが日本を追い越し、世界第3位の経済大国となったことが話題になっています。しかし、これは必ずしもドイツ経済が好調であることを示しているわけではありません。名目GDPが膨らんだ主な要因は、ドイツの物価高と為替の影響であり、実際の経済成長はマイナスとなっています。2023年のドイツの実質GDPは前年比0.3%減で、経済成長自体は停滞しています。

名目GDPとは、現在の市場価格で計算されたGDPであり、インフレや物価変動の影響を受けます。一方、実質GDPは物価変動を考慮して調整されたGDPで、経済成長の実態をより正確に反映します。したがって、名目GDPが増加しても、それが実質的な経済成長を意味するわけではありません。

ドイツの名目GDPが膨らんだ背景には、高インフレがあり、これが物価を押し上げた結果、名目GDPが増加しました。また、ユーロ高ドル安の為替変動も名目GDPを膨らませる要因となっています。一方、日本では円安が進行しており、ドル建てでのGDPが目減りする結果となりました。これらの要因が重なり、ドイツの名目GDPが日本を上回る結果となったのです。

ドイツのエネルギー価格の高騰も経済に影響を与えています。ロシアからのガス供給停止や脱原発政策によって電力価格が上昇し、これは日本の電力価格と比較しても高い水準にあります。2023年のデータによれば、ドイツの家庭用電力料金は1kWhあたり約0.46ユーロ(約60円)で、日本の約0.25ユーロ(約33円)を大きく上回っています。

このように、ドイツの名目GDPが日本を追い越したことは、ドイツ経済の好調を示すものではなく、むしろ高インフレや為替変動といった一時的な要因によるものです。名目GDPと実質GDPの違いを理解することは、経済の実態を正確に把握するために重要です。

AfDがかつての東ドイツ地域で特に強い支持を集めている背景には、複数の要因があります。

旧東ドイツの軍隊

まず、東西ドイツ統一後の経済格差が挙げられます。旧東ドイツ地域は統一後も経済的に西側に遅れをとり、失業率が高く、賃金水準も低い状態が続いています。これにより、多くの東ドイツ出身者が社会的な周縁化を感じており、AfDはこうした不満を巧みに取り込んでいます。

また、文化的な要因も重要です。旧東ドイツ地域の人々は、社会主義の権威主義的な体制下で育った経験から、AfDのポピュリスト的で反エリート的なレトリックを受け入れやすいという傾向があります。さらに、この地域では文化的多様性の経験が少ないため、AfDの反移民・反イスラムの主張が比較的受け入れられやすい土壌があります。

さらに、メディアや政治における東ドイツ出身者の過小代表も、AfDの支持拡大に寄与しています。多くの東部地域の新聞さえも西ドイツ出身の編集者によって運営されており、これが東ドイツ出身者の疎外感を強めています。

AfDはこうした状況を巧みに利用し、「東部が立ち上がる!」といったスローガンを掲げて地域のアイデンティティに訴えかけています。また、地域レベルでの草の根活動に力を入れ、パブでの集会や講演会などを通じて有権者と直接的な関わりを持つことで支持を拡大しています。

これらの要因が複合的に作用し、AfDは旧東ドイツ地域で特に強い支持基盤を築いています。しかし、AfDの支持は東部に限定されたものではなく、現在では全16州の議会に議席を持っており、全国的な現象となっています。

このように、ドイツの政治情勢は複雑化しており、AfDの躍進は既存の政党システムに大きな影響を与えています。今後の選挙や政策決定において、AfDの動向が重要な要因となることは間違いないでしょう。

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