2025年5月16日金曜日

弱体化するアメリカを支えよ:日本の戦略的選択—【私の論評】歴史の警告と日本の覚悟:アメリカ衰退と保守の逆襲が未来を決める

弱体化するアメリカを支えよ:日本の戦略的選択

まとめ
  • 歴史の不確かさと繰り返し:歴史は現在の視点で切り取られた不確かなもので、過去の出来事は一義的ではなく、マーク・トウェインの「歴史は韻を踏む」に象徴されるように、似た状況が繰り返される可能性がある。
  • 地政学的危機とアメリカの衰退:EUがドイツの再軍備を支持する背景には、アメリカのNATOやEU防衛からの離脱懸念があり、パクス・アメリカーナの崩壊と国際秩序の欠如が貿易戦争や世界戦争のリスクを高めている。
  • 日本の危機と対応:日本はロシアや中国などの脅威に囲まれ、国内政治の不安定化リスク(与党の議席喪失)が内部崩壊を招く可能性があり、アメリカの再建に協力しつつ経済・防衛で必要とされる国を目指す必要がある。

マーク・トウェイン

歴史を学ぶ意義は、過去の出来事や立場を知ることにあるが、過去は現在の視点で切り取られた不確かなものにすぎない。マーク・トウェインの「History doesn’t repeat itself, but it often rhymes.”(歴史は繰り返さないが韻を踏む)」という言葉は、歴史は同じではないが、似た状況が繰り返されることを示唆する。

EUがドイツの再軍備を支持する驚くべき動きは、トランプ政権下でアメリカがNATOやEU防衛から距離を置く可能性が高まり、ロシアの脅威に対抗するためドイツに頼る必要が生じたためだ。アメリカの影響力低下はオバマ時代から続き、かつての「パクス・アメリカーナ」は崩壊した。

歴史学者のハラリ氏は、トランプ氏の政策が貿易戦争や軍拡競争を招き、世界戦争や生態系崩壊に繋がると警告し、国際法がない中での平和的紛争解決の難しさを指摘する。日本もロシア、中国、北朝鮮に囲まれ、平和が脅かされる危機に直面している。

アメリカの再建に協力し、経済と防衛で必要とされる国になることが求められる。しかし、日本の国内政治にも危機が迫る。自民党と公明党の与党が参議院選挙で過半数を失う可能性があり、国民民主党と組めば一時的に凌げるかもしれないが、次の衆議院選挙で安定した与党が消滅すれば、日本は内部から崩壊する恐れがある。

この政治的動揺は、外部の地政学的危機と並ぶ差し迫った脅威だ。問題はトランプ氏ではなく、アメリカの弱体化と国際秩序の崩壊にある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】歴史の警告と日本の覚悟:アメリカ衰退と保守の逆襲が未来を決める

まとめ
  • 歴史の教訓と危機の繰り返し:マーク・トウェインの「歴史は韻を踏む」に象徴されるように、過去の危機は形を変えて繰り返される。歴史を学ぶ意義は、現代の地政学的危機を見抜くことにある。
  • アメリカの弱体化と国際秩序の崩壊:「パクス・アメリカーナ」の崩壊とアメリカの軍事・製造業の衰退(DVA約75%)が、EUのドイツ再軍備支持やハラリの警告する貿易戦争・世界戦争リスクを招く。
  • 日本の地政学的脆弱性と強み:日本はロシア・中国・北朝鮮に囲まれる中、製造業のDVA80%(世界トップ)や造船技術を活かし、防衛力強化とアメリカとの協力で自立を目指すべきだ。
  • 国内政治の危機と過剰な悲観:石破政権の再エネ偏重や曖昧な外交はショルツ政権の失敗(ドイツ経済マイナス0.2%)を想起させるが、「崩壊」論は過剰で、ドイツの政権交代成功例と矛盾する。
  • 保守派の台頭と日本の希望:ドイツのメルツ政権(原発回帰・防衛強化)や日本の保守派(高市早苗氏ら)、連立の柔軟性(維新・国民民主党)が危機克服の鍵。日本の社会的結束力とDVAの高さが強み。
ドイツが数十年ぶりに再軍備を進めている

歴史は容赦ない。過去を学ぶのは、繰り返される危機を見抜くためだ。マーク・トウェインの「歴史は繰り返さないが韻を踏む」という言葉は、似た危機が形を変えて襲う現実を突きつける。今、世界は激動する。アメリカの力が衰え、国際秩序は崩れる。EUはトランプ政権下でアメリカがNATOや防衛から手を引く懸念から、ドイツの再軍備を支持した。「パクス・アメリカーナ」はオバマ時代から崩壊しつつある。

歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは、トランプの政策が貿易戦争、軍拡競争、世界戦争、生態系崩壊、AIの暴走を招くと警告する。国際法など幻想にすぎない。日本はロシア、中国、北朝鮮という権威主義国家に囲まれ、2023年の中国の台湾周辺軍事演習のような緊張に直面している。経済と防衛の自立、アメリカとの協力は生き残るための必須条件だ。だが、国内政治の動揺が新たな火種となる。自民党・公明党の与党が参議院選挙で過半数を失うリスク、衆議院選挙での不安定化が懸念される。これが地政学的危機と並ぶ脅威である。核心はトランプではない。アメリカの弱体化と国際秩序の崩壊だ。

私のブログ「Funny Restaurant 犬とレストランとイタリア料理」(https://yutakarlson.blogspot.com/)では、2007年以来、純正保守の立場から日本の伝統と文化を守る議論を展開してきた。近年はアメリカの軍事力と製造業の衰退を問題視する。米国の製造業はITと金融に偏り、造船能力は中国の1/10以下、軍艦建造は遅延続きだ。米軍は肥満による兵士不足や装備の内製化率低下で弱体化。戦闘機以外の兵器生産は脆弱である。この現実が「世界の警察官」の終焉を告げ、日本に自立した防衛力強化を迫る。経済と軍事の自給自足、自由貿易や安全保障の見直しが急務だ。

アメリカの弱体化と日本の底力

圧倒的な日本のものづくり

アメリカの衰退は数字で裏付けられる。2023年の米国防総省報告によれば、米国の造船能力は中国に遠く及ばず、軍艦建造は数年遅れる。新兵募集は肥満や健康問題で2022年に25%不足した。特に深刻なのは国内付加価値(DVA:Domestic Value Added)の低さだ。DVAは輸出製品の国内生産割合を示し、米国の製造業はグローバルサプライチェーンへの依存でDVAが低い。2025年5月のブログ記事『日米関税交渉、切り札は「日本の造船技術」か 米国が“造船大国”から転落の理由 海軍の艦艇にも影響が—【私の論評】日本の造船業が世界を圧倒!DVA85%の内製化力で米国・中国を凌駕する秘密』で指摘したように、米国の造船業のDVAは約70%に落ち込み、部品や技術の海外依存が顕著だ。

一方、日本の製造業全体のDVAは80%だ。米国75%、EU78%、中国70%を軽く超える、世界トップクラスの水準を誇る(OECD貿易付加価値データベース、2023年)。三菱重工業や川崎重工業は、潜水艦や護衛艦の設計から組み立てまで国内で完結する。2024年の日米共同演習で日本の艦艇が米海軍を凌駕したエピソードは、この技術力を象徴する。

日本の製造業全体のDVA高さは、戦後から続く「ものづくり」の伝統と、1990年代の金融危機を乗り越えた産業再編の成果だ。2011年の東日本大震災後、トヨタやホンダはサプライチェーンを国内回帰させ、DVAをさらに強化した。米国は中国製部品やレアアースに依存し、2022年のウクライナ危機でサプライチェーンの脆弱性が露呈した。日本の米中を凌ぐDVAの高さは経済と安全保障の自立を支える。私のブログでは、この強みを活かし、米国との関税交渉や技術協力で主導権を握るべきと主張してきた。

上の記事の地政学的分析は正鵠を射ている。2022年のロシアのウクライナ侵攻、2018年のNATOサミットでのトランプの負担軽減要求は、アメリカの後退を物語る。ハラリの警告は現実だ。貿易戦争や軍拡競争は、2024年の米中関税対立や中国の南シナ海での軍事拡張で兆候が見える。日本は地政学的に脆弱だ。2023年の中国の台湾侵攻演習は、日本近海での脅威を浮き彫りにした。防衛力強化は待ったなしだ。日本の造船技術や航空産業は、ドイツの再軍備をモデルに、アメリカに技術供与しつつ自立を強める鍵となる。2025年5月の日米首脳会談で、日本の造船技術が議題に上ったのはその証だ。

国内政治の危機と保守の覚悟

石破政権の本質は、ショルツ政権と同じ左翼政権

上の記事は国内政治の動揺を「崩壊」と表現するが、これは過剰だ。ドイツの例が矛盾を露呈する。2024年11月、ショルツの「信号連合」が 崩壊し、2025年2月の選挙でCDUのフリードリヒ・メルツが首相に就任した。経済改革や難民政策に挑む新たな安定が生まれた。崩壊などなかった。

日本も2009年の民主党政権交代で混乱したが、東日本大震災を乗り越え、2012年に自民党が復帰して安定を取り戻した。2023年の世論調査では、政治不信は強いが民主主義への信頼は揺らいでいない(日本経済新聞、2023年10月)。自民党が議席を減らしても、国民民主党や維新との連立で政権は続く。ドイツの戦後政治も、CDUやSPDの連立交代で安定を保ってきた。日本の民主主義は試練を跳ね返す力を持つ。

だが、現状維持は危険だ。石破政権はドイツのショルツ政権と酷似する。ショルツは再エネ偏重と2023年の原発全廃でエネルギー危機を招いた。2024年のドイツ経済はマイナス0.2%に沈み、産業は競争力を失った。軍事ではNATOの2%目標達成が遅れ、外交ではウクライナ支援の指導力不足が批判された。極右のAfDが2025年選挙で第2党に躍進したのは、こうした弱体化の結果だ。

岸田政権に続き石破政権も再エネ偏重と原発再稼働の慎重姿勢を続けたが、2025年3月に原発フル活用へ転換(時事通信、2025年3月11日)。しかし、2024年のGDP成長率は1.1%と低迷し、防衛費増額は遅れ、米中間の曖昧な外交は中国依存のリスクを高める。2024年10月の日中首脳会談で、石破首相が経済協力を優先したのは、保守層の失望を招いた(一般知識)。

このままでは日本はショルツのドイツの二の舞だ。希望は保守派の台頭にある。ドイツはメルツ政権が原発回帰と防衛強化を掲げ、SPDとの連立で安定を取り戻した(Wedge、2025年2月14日)。日本も自民党内の高市早苗氏らが防衛費倍増や原発再稼働を主張し、2024年の総裁選で存在感を示した。

連立なら国民民主党や維新が選択肢となるだろう。国政政党となった日本保守党も視野に入る。日本はドイツより柔軟だ。ドイツは原発廃止でロシアのガスに頼り、2022年のウクライナ危機で苦しんだ。日本はメルツのように再エネを推し進めたものの、原発再稼働とLNG輸入で電力価格をドイツの半分以下に抑えている。移民問題で分裂したドイツと異なり、日本の社会的結束力は未だドイツほどには弱体化していない(2023年世論調査)。2020年のコロナ危機で、日本は迅速なマスク生産体制を構築し、DVAの高さを証明した。

日本の未来を決める選択

記事の「崩壊」論は過剰だ。石破政権の現状維持は危険だが、保守派の主導や連立再構築で危機は乗り越えられる。ドイツの成功は道標だ。日本の製造業はDVA80%で主要国ではトップであり、造船や防衛産業での強みは揺るがない。2024年の日米共同演習で、日本の護衛艦が米海軍を凌駕したのは、技術と結束の証だ。防衛と経済を強化し、アメリカと手を組む。歴史が韻を踏むなら、それは破滅ではなく、再生の物語だ。日本の民主主義は試練を跳ね返す力を持つ。今、保守の覚悟が未来を決める。

【関連記事】

日米関税交渉、切り札は「日本の造船技術」か 米国が“造船大国”から転落の理由 海軍の艦艇にも影響が—【私の論評】日本の造船業が世界を圧倒!DVA85%の内製化力で米国・中国を凌駕する秘密 2025年5月6日

自衛隊以下かよ! 米軍の「空飛ぶレーダーサイト」数が過去最低に いつになったら新型とどく?—【私の論評】米軍の危機と日本のAWACS優位性:グローバル化の代償とトランプの逆襲 2025年5月5日

中国車にエコカー補助金も問題だが一番は不当な為替レート 元安は世界経済混乱の元凶—【私の論評】元安の裏に隠された中国の為替操作とは? 世界経済混乱の真相 2025年5月3日

「荒唐無稽」「乱暴すぎる」トランプ関税が世界中から総スカン!それでも強行する「トランプのある危機感と狙い」―【私の論評】トランプ関税の裏に隠れた真意とは?エネルギー政策と内需強化で米国は再び覇権を握るのか 2025年4月5日

「手術は終了 アメリカ好景気に」トランプ大統領が関税政策を正当化 NY株価大幅下落も強気姿勢崩さず 新関税も正式発表か―【私の論評】トランプ関税の衝撃と逆転劇!短期的世界不況から米エネルギー革命で長期的には発展か 2025年4月4日

2025年5月15日木曜日

減税財源、赤字国債に言及 公明幹部「選択肢に入る」—【私の論評】国債の真実を暴く!経済成長を導く力と政治の過ち

減税財源、赤字国債に言及 公明幹部「選択肢に入る」


 公明党の岡本三成政調会長は14日の記者会見で、与党として夏の参院選前の策定を目指す経済対策に同党が盛り込むよう求めている減税や給付の財源に関し、赤字国債発行の可能性に言及した。「赤字国債を出さなければ実現できないけれどもどうしても必要な政策であれば、(財源の)選択肢として当然入ってくる」と述べた。

【私の論評】国債の真実を暴く!経済成長を導く力と政治の過ち

まとめ
  • 国債の本質:国債は借金ではなく、経済を支える資産。英国のナポレオン戦争国債、日露戦争の外債、日本の戦時国債(1941~45年、約400億円)、コロナ対策国債(2020~21年、約100兆円)は、借り換えと経済成長で負担を軽減し、経済の血流として機能。
  • 歴史と現代の証明:英国は200年以上ナポレオン戦争国債を返済せず大国を維持。日本は高度経済成長(1950~60年代、名目GDP年10%以上)で戦時国債を、2023~25年の成長(年3~4%)でコロナ国債を管理。短期の経済停滞は避けられないが、長期成長で吸収できる。
  • 政治の過ち:短期のGDP鈍化や財政赤字を恐れ、国債発行を縛る政治家が経済を窒息。2023~25年の予算編成で財政健全化優先、インフラ投資不足。企業経営なら破綻の視野狭窄な指導者は、選挙で排除すべき。
  • 企業と国の対比:企業は借り換え失敗で破滅(例:エルピーダメモリ2012年破綻、負債4500億円;そごう2000年民事再生、負債6300億円)。政府は円建て国債でデフォルトリスクゼロ、2025年も負債はあるが資産もあり低金利と国内信任で安定。
  • 結論:「赤字国債」の呼称は誤解を招き、経済を縛る。国債は企業が借入で飛躍するように、国家の成長を導く。短期志向を捨て、賢明な国債活用で未来を切り開くべき。
上の記事など読むと、多くの政治家や官僚は、国債の本質を理解していなようなので、暗澹たる気持ちになる。消費税減税は結構だが、その財源として国債を発行することが、あたかも禁じ手であるかのような発言である。日本では、他国では当たり前なのに国債を発行することが、「清水の舞台から飛び降りる」ようなとてつもないことのように見なされるようになってしまっている。

ナポレオン戦争(1796年から1815年)において、英国はフランスを倒すための連合軍の一員として重要な役割を果たした。絵は、ナポレオン戦争における、イングランドとスコットランド軍。

そもそも国債は借金ではない。経済を支える資産であり、未来を切り開く道具だ。英国がナポレオン戦争の国債を200年以上完済せず現在でも大国であり続ける事実。日本の日露戦争や大東亜戦争の戦費やコロナ対策で発行した巨額国債が経済を救った事実。これらは、単純な収支を超え、経済の動態を理解する重要性を突きつける。

コロナ対策、日露、大東亜戦争の戦時国債、企業で普通に行われている借り換えを事例として「赤字国債」の誤解を解き明かし、国債の本質を明らかにする。借り換えに失敗すれば、民間企業は倒産で終わるが、政府はそうならない。この違いが、国債の力を際立たせる。経済の波は当然だ。短期の停滞を恐れ、国債発行を縛る政治家は、国家の方向性を誤り、企業経営すら危うい。そんな指導者は国民の手で排除すべきだ。

 国債と経済成長:歴史と現代の証明

国債は借り換えと成長で動く。英国は19世紀初頭のナポレオン戦争で発行した国債を、200年以上経ても全額返済していない。新たな国債で満期を返し、産業革命以降の経済拡大で負担を軽減した。

日本も同じだ。日本が日露戦争(1904~1905年)で発行した外債の負債を完済したのは、1986年(昭和61年)とされている。具体的には、戦費調達のために発行された外債(主にイギリスやアメリカで発行されたもの)が長期間にわたり償還され、最終的に1980年代中盤にすべての関連債務が清算された。

大東亜戦争(1941~1945年)の戦費は、約400億円(当時、現在の数兆円規模)の国債で賄われた。戦後の混乱期でも即時返済せず、借り換えで対応。高度経済成長期(1950~60年代、名目GDP年平均10%以上)の爆発的成長で、戦時国債の負担は経済規模に対し微々たるものに。2025年現在、戦時国債の残高はほぼ消滅だ。

最近の例は安倍・菅政権だ。2020~2021年のコロナ対策で、両政権合計で、約100兆円の補正予算が国債で賄われた。満期国債は新発行で借り換えられ、2025年、国内投資家(日銀や金融機関)が国債の9割を保有し、市場は盤石だ。名目GDPの成長(2023~2025年、年3~4%推定)が債務負担(債務残高÷GDP比)を軽くする。経済の好不況は避けられない。日本の1960年代以降の名目成長(平均3~5%)は、リーマンショック(2008年)やコロナ禍(2020年、GDP4.5%減)の短期鈍化を吸収した。短期の停滞を恐れ、国債発行や投資をためらえば、経済は縮こまる。

 国債の力と政治の過ち:資産か、誤解か

国債は政府の負債だが、民間や日銀の資産だ。コロナ対策国債は、国内投資家の需要を支えた。戦時国債も、日露戦争の時は、多くを米英が購入、大東亜戦争の時は、大部分を国民や金融機関が購入し、戦時経済を動かした。日銀の金融政策(戦後の復興金融金庫、現代の量的緩和)が低金利を維持し、借り換えをスムーズにする。

コロナ対策の100兆円は、特別定額給付金(1人10万円)や事業者支援で経済の急落を防ぎ、2020~2021年のGDP減少を4.5%に抑えた(米国は8%減)。これが2022~2023年の税収増(70兆円超、過去最高)につながった。戦時国債は戦後復興のインフラ投資を支え、経済再建の土台を築いた。国債は経済の血流だ。需要を呼び、成長を導く。

だが、「赤字国債」という呼称が誤解を招く。国債は政府の資金調達であり、需要喚起や安全資産の役割を持つ。「赤字国債」は「財政の失敗」のイメージを押しつけ、成長や借り換えの力を隠す。戦時国債もコロナ対策国債も、経済を支えた。この誤解が、財政規律を過度に求める政治を煽る。2025年、負債はあるが、それは先日の当ブログでも説明したように、資産を加味したり、統合政府ベースで見れば、さほどではない。コロナ対策国債は国内の信任、日銀の金融政策(2023~2025年緩和的)、低金利(10年国債利回り0.5~1%)で問題なく借り換えられる。2023年度の利払い負担は約10兆円(歳出10%)、税収は70兆円超だ。円建て国債は日銀の通貨供給でデフォルトリスクゼロ。国債の95%以上が国内消化され、市場は揺るがない。

新川財務次官

問題は政治だ。短期のGDP鈍化や赤字を恐れ、国債発行を縛る政治家や官僚が経済を窒息させる。2023~2025年の予算編成では、財務省の財政健全化目標(プライマリーバランス黒字化)が幅を利かせ、インフラやデジタル化への投資が不足。経済同友会やエコノミストが警鐘を鳴らす。こんな政治家は、企業経営なら即破綻だ。短期赤字を恐れず、借入で成長を追うのが経営の常識。国家も同じだ。視野の狭い指導者は国民の未来を奪う。選挙で叩き出すべきだ。

 企業と国:借り換えの成功と失敗の分岐点

企業は借入で成長する。満期社債を新発行で返し、収益拡大で債務を軽くする。国も同じだ。コロナ対策国債や戦時国債は、満期ごとに借り換えられ、成長で管理される。企業が借入を投資に変え、市場を切り開くように、国債は経済の「緊急投資」だ。コロナ禍での雇用維持、戦時での経済基盤維持は、国債の力による。

だが、借り換え戦略を怠る企業は破滅する。例として、半導体メーカーのエルピーダメモリだ。2000年代に世界シェアを誇ったが、2008年のリーマンショックで市場が縮小。巨額の借入金を抱え、借り換えや新たな融資を確保できず、2012年に破綻。負債総額は約4500億円。資金繰りが悪化し、信用が崩壊した。もう一つの例は、老舗百貨店のそごうだ。2000年、過剰な店舗投資による借入が重荷となり、借り換えに失敗。約6300億円の負債を抱え、民事再生法を申請。地域経済に打撃を与えた。借り換えの失敗は、資金枯渇、信用崩壊、破産への一本道だ。

2020年8月末閉店したそごう徳島店

企業が借り換えに失敗すれば、倒産で終わる。だが、政府はそうならない。日露戦争の時発行した外債は主に米英が購入したが、それでも長期にわたって返済することで債務を軽減することができたが、デフォルトのリスクはあった。しかし、円建て国債は日銀の通貨供給でデフォルトリスクがゼロだ。市場の信任を一時的に失っても、新たな国債発行や日銀の買い入れでしのげる。

この「破綻しない」性質が、国債の力を際立たせる。政府の債務は、経済成長や低金利で管理されているが、短期の停滞を過度に恐れず、賢明に国債を発行し続けることで、経済は安定を保つ。企業なら倒産で清算されるが、政府は通貨発行権と国内投資家の信任で、経済の舵取りを続けられる。政治家は、この強みを最大限に活かし、長期的な成長戦略を追求すべきだ。そうしなければ、政府は倒産しないので、逆に国民を長期にわたって苦しめ続けることになる。

結論:国債を恐れず、未来を掴め

英国のナポレオン戦争、日本の戦時国債、コロナ対策国債は、国債の真実を教えてくれる。借り換えと経済成長で、巨額債務は管理される。日露戦争の外債は、長期にわたる返済と、日本の経済成長で消え、大東亜戦争の戦時国債は高度経済成長で消え、コロナ対策国債は税収増と低金利で問題なし。企業が借り換えに失敗すれば、エルピーダやそごうのように破綻だ。政府は破綻しない。この強みが、経済を支える。英国が、戦費を借り換えなしに早急に返済していたとしたら、今頃英国という国はなかったかもしれない。日本も同じだ。

「赤字国債」の呼称は誤解を招き、経済を縛る。短期志向の政治家や官僚は、国家の行く末を見誤り。企業経営すらできない。こんな大馬鹿者は国民の手で排除すべきだ。国債は経済の命綱だ。止めたら国が死ぬ!。企業が借入、借り換えで飛躍するように、国家は国債で成長を掴む。このブログでは、経済の動態と長期視点の力を訴えてきた。日本は国債発行を恐れず、未来を切り開くべきだ。

【関連記事】

国の借金1323兆円、9年連続過去最高 24年度末時点—【私の論評】政府の借金1300兆円の真実:日本経済を惑わす誤解を解く 2025年5月10日

食料品の消費税減税に慎重姿勢「高所得者や高額消費も負担軽減」石破首相 1年限定も「事務負担どうかの問題」—【私の論評】石破首相の経済政策を斬る!消費税減税と物価高対策の真実
 2025年5月1日

<主張>東日本大震災14年 教訓を次に生かす決意を 早期避難が津波防災の鉄則だ―【私の論評】マスコミが報道しない復興税の闇!財務省が被災者と国民を踏みにじった衝撃の事実 2025年3月11日

財務省OB・高橋洋一氏が喝破する“新年度予算衆院通過の内幕” 減税を阻止すべく暗躍する財務省に操られた「9人の与野党政治家」の名前―【私の論評】政治家が操られた背景:不倶戴天の敵財務省には党派を超えた協働を! 2025年3月10日

安倍元首相「日銀は政府の子会社」発言は完全に正しい…批判するマスコミと野党は無知―【私の論評】「政府の借金」という言葉は間違いだが「政府の小会社」は、政府と日銀の関係を適切に表している 2022年5月13日

2025年5月14日水曜日

トランプ大統領「対シリア制裁」解除、サウジの要請で...シャラア暫定大統領との面会控え、政策転換—【私の論評】トランプのシリア戦略:トルコとサウジ拮抗で中国を狙う賭け

トランプ大統領「対シリア制裁」解除、サウジの要請で...シャラア暫定大統領との面会控え、政策転換

まとめ
  • トランプのシリア制裁解除表明:トランプ大統領がサウジアラビアでシリア制裁の全面解除を発表、サウジ皇太子の要請で政策を転換。14日にシリア暫定大統領とリヤドで会談予定。
  • シリア復興と国際的反応:シリア暫定政府が復興の転換点と歓迎、国連も紛争回復支援として支持。トランプ氏は和平合意を強調も詳細は未公表。

トランプ米大統領は5月13日、サウジアラビアの首都リヤドで演説し、シリアに対する制裁の解除を指示する方針を発表した。この決定はサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の要請を受けたもので、米国の対シリア政策の大幅な転換となる。

トランプ氏は、シリアに前進の機会を与えるため制裁を全面解除すると強調。シリア暫定政府のシェイバニ外相は、これが国民の復興の転換点になると歓迎した。国連もこの動きを支持し、シリアの紛争からの回復を助けると評価。トランプ氏は14日にシリアのシャラア暫定大統領とリヤドで会談予定。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプのシリア戦略:トルコとサウジ拮抗で中国を狙う賭け

まとめ
  • トランプの二つの決断:2025年5月13日、サウジの要請でシリア制裁を解除し、6000億ドルの投資を確保。2024年12月16日、「トルコがシリアの鍵」と発言。両者は中東を安定させ、中国との対峙に備える戦略だ。
  • トルコとサウジの拮抗:トルコの軍事力でシリアの治安を、サウジの資金で復興を担う。両者の対立(例:2018年カショギ事件)は綻びだが、トランプは意図的に競わせ、牽制すると見られる。
  • 中国対峙の狙い:シリアの安定で米軍撤退を可能にし、経済を強化。2019年の撤退や2020年のアブラハム合意の経験を活かし、中国との戦いに集中する。
  • 戦略の綻びとリスク:トルコの曖昧さ(ロシア・中国との関係)、トルコとサウジの対立、サウジ経済の不安定さがリスク。2017年、サウジがトランプのホテル(インターナショナル・ホテル、非トランプタワー)に支払い、利益相反が指摘された。
  • 日本の視点:シリアの安定はエネルギーや投資の好機だが、戦略の崩壊は日本にも影響。トランプの拮抗戦略の成否が中国との戦いを左右する。

トランプの巧妙な賭け

エルドアン トルコ大統領とトランプ米大統領

トランプ次期米大統領が大胆に動く。2025年5月13日、サウジアラビアのリヤドで、シリアへの長年の制裁を解除。サウジから6000億ドルの巨額投資を米国に引き出した。2024年12月16日、フロリダの私邸「マール・ア・ラーゴ」で、アサド政権崩壊後のシリアについて「トルコが鍵だ」と言い切った(本ブログ:『トランプ氏「シリアでトルコが鍵握る」、強力な軍隊保有―【私の論評】トランプ政権トルコのシリア介入許容:中東地政学の新たな局面』より)

二つの動きは繋がっている。トランプの狙いは中東を安定させ、中国との全面対決に備えることだ。トルコの軍事力とサウジの資金力を意図的に拮抗させ、米国が中東の泥沼に足を取られないようにする。戦略は鮮やかだが、綻びがある。だからこそ、トランプは両者を競わせる。この巧妙な賭けの全貌を、読者に明らかにする。

トルコとサウジ:拮抗による中東の安定


トルコ国旗(左)とサウジ国旗( 右)

トランプの戦略は、トルコとサウジを拮抗させることで中東を固める。サウジアラビアでの決断は衝撃的だ。シリアへの制裁を解除。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の要請に応じたこの一手は、シリア経済に息を吹き込む。シリア暫定政府のシェイバニ外相は「復興の転換点」と喝采を送り、国連も「10年以上の紛争からの回復に不可欠」と支持する(Reuters, 2025年5月14日)。

2018年、トランプがシリア復興への巨額拠出を求めた際、サウジは即座に応じる姿勢を見せた(Bloomberg, 2018年12月)。今、6000億ドルの投資で米国の経済とエネルギー安全保障を強化し、中国への依存を断つ。シリア内戦は難民危機やテロを撒き散らし、イランの台頭を許した。サウジの資金はシリアのインフラやエネルギー再建に注がれ、中東を安定させる。

トランプはトルコにも視線を向ける。2024年12月16日、「トルコがシリアの鍵だ」と断言。エルドアン大統領との絆とトルコ軍の力を称賛した。トルコはシリアと900キロの国境を接し、2016年以降の軍事作戦で北部を支配。「戦争で疲弊していない」トルコ軍は、過激派を抑え、シリアの治安を担う。2019年、トランプがシリアから米軍を一部引き揚げ、トルコにクルド対応を任せた実績が信頼の根拠だ(NYT, 2019年10月)。

2018年、トルコ人牧師の釈放をエルドアンと交渉し、経済制裁で成功させた絆も生きる(Washington Post, 2018年10月)。米国はシリア東部に900人の部隊を置くが、トランプは撤退を匂わせ、トルコに任せる。

トルコとサウジはライバルだ。スンニ派の主導権を争い、トルコはムスリム同胞団を支え、サウジは抑える(Al Jazeera, 2020年)。この対立は戦略の綻びだ。2018年のカショギ事件で両国はEducational history: 火花を散らし、中東の協力を乱した(Guardian, 2018年10月)。

トランプはこれを逆手に取る。トルコで治安を固め、サウジで復興を進める。両者を競わせ、どちらか一方が暴走すれば他方で牽制する。Xで、トランプが両国の指導者と協議して制裁解除を決めたと話題だ(
@chutononanika
, 2025年5月14日)。2017年、カタール危機でサウジとUAEをカタールにぶつけ、裏で軍事協力を維持した手法が、ここでも生きる(Reuters, 2017年6月)。この拮抗は、米国の負担を減らし、中国との戦いに備える。

中国対峙:トランプの真の狙い


トランプの視線は中東を越える。中国だ。米中対立は、貿易、技術、軍事、外交で火花を散らす。2025年5月14日、米中貿易協定が進んだが、トランプは圧力を緩めない(Reuters)。中東の混乱は、米軍や予算を吸い取り、中国との戦いで足を引っ張る。シリアの安定は、難民やテロのリスクを抑え、米軍の撤退を可能にする。

2019年、トランプはシリアからの撤退を「アメリカ・ファースト」と叫んだが、真の狙いは中東の負担を減らし、中国に集中することだった(Foreign Policy, 2019年12月)。サウジの6000億ドルは、米国の経済を強化し、中国からの資源依存を断つ。

トルコの軍事力は、NATOを固め、中国とロシアを牽制する。2020年、アブラハム合意で中東の和平を進め、国連で中国のウイグル問題を叩いた二正面作戦が、シリアで再現される(State Department, 2020年9月)。トランプの賭けは、中国との戦いの準備を整えることだ。

リスクと日本の視線

トランプの戦略は鮮やかだ。だが、綻びがあるからこそ、トルコとサウジを拮抗させる。トルコの曖昧さは大きな綻びだ。NATO加盟国だが、エルドアンはロシアのミサイルを買い、中国の一帯一路に色目を使う(Carnegie Endowment, 2024年)。2019年、トルコのシリア侵攻が米国との関係を冷やした(BBC, 2019年10月)。トルコが裏切れば、サウジの資金力で牽制する。

だが、トルコとサウジの対立が再燃すれば、シリアは混迷し、米国は中東に引き戻される。サウジの投資も盤石ではない。2023年のOPEC減産で揺れたサウジ経済は、資金の持続性を問う(IEA, 2023年)。Xでは、トランプの経済的動機を疑う声が上がる。2017年、サウジアラビア政府がトランプ・インターナショナル・ホテルに宿泊費などで多額の支払いを行い、利益相反が指摘された。これはトランプタワーへの投資ではなく、トランプのホテル事業への支出だ(Forbes, 2017年8月)。信頼が揺らげば、中国との戦いで米国の指導力は鈍る。

トランプはシリアで大きな賭けに出た。トルコとサウジの拮抗で中東を固め、中国との対決に全力を注ぐ。綻びを逆手に取り、両者を競わせる戦略は鮮やかだ。だが、トルコの裏切りやサウジとの対立、経済の揺らぎは計画を狂わせる火種だ。

日本にとって、シリアの安定はエネルギーや投資の好機だ。だが、トランプの戦略が崩れれば、その波は日本にも及ぶ。トランプは中国との戦いに勝てるのか。シリアの行方が、その答えを握る。

トランプの拮抗戦略は中国との戦いを制すると思うか。日本はどう動くべきか。あなたの考えをコメントで聞かせてほしい。

【関連記事】

米中、追加関税引き下げで合意 トランプ氏「中国が完全に国を開放した」—【私の論評】米中貿易合意の真相:トランプの爆弾発言で資本取引自由化を巡る熾烈な攻防戦が始まった 2025年5月13日

アサド氏失脚、イランに「歴史的規模」の打撃―【私の論評】イランの影響力低下とトルコの台頭:シリアの復興とトルコのエネルギー戦略 2024年12月12日

シリア、アサド政権崩壊で流動化 戦況混迷、収拾めど立たず―存在感高めるトルコ―【私の論評】シリア内戦とトルコの戦略:秋篠宮両殿下のトルコ訪問が示す新たな展望 2024年12月11日

トランプ氏「シリアでトルコが鍵握る」、強力な軍隊保有―【私の論評】トランプ政権トルコのシリア介入許容:中東地政学の新たな局面 2024年12月18日

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も―【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開 2024年5月2日

「石破vs保守本流」勃発!自民党を揺るがす構造的党内抗争と参院選の衝撃シナリオ

まとめ 自民党内で石破派とFOIP戦略本部の間に、政策・国家観を巡る深刻な構造的対立が進行中。これは単なる派閥抗争ではなく、党の再編を伴う可能性がある。 FOIP戦略本部は対中抑止を軸とした安倍路線を継承し、保守派の再結集の中心として機能している。麻生・高市・旧安倍派が連携しつつ...