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2024年1月13日土曜日

ウクライナ・イスラエルでのバイデンの苦境 ―背景に民主党の分裂―【私の論評】ウクライがロシアのGDPを凌駕するロードマップを描け

 アメリカ現状モニター

ウクライナ・イスラエルでのバイデンの苦境
―背景に民主党の分裂
 

渡部 恒雄
笹川平和財団上席研究員

まとめ
  • ニューヨーク・タイムズとシエナ大学の共同世論調査により、イスラエル・パレスチナ衝突におけるバイデン政権の支持が33%、不支持が57%となり、トランプとの比較でもトランプが優位とされた。
  • 同調査では大統領候補としての支持でもトランプが優位であり、共和党優位の選挙人団制度を考慮すると、バイデン陣営にとって厳しい状況となった。
  • ウクライナ支援に関しても共和党との交渉が難航し、ウクライナ支援の予算に対する民主党左派の反発が生じている。
  • イスラエル情勢においても左派が政権に圧力をかけ、外交政策での難航が左派の不満の対象となっている。
  • バイデン政権がこれらの矛盾を脱却し、支持を得るためには、イスラエル・パレスチナ紛争とウクライナ戦争に対する左派と有権者の認識を変える必要がある。
バイデン

12月10日から14日にかけて行われたニューヨーク・タイムズとシエナ大学の共同世論調査によると、イスラエル・パレスチナ衝突におけるバイデン政権の政策に対する支持は33%で、不支持が57%となった。トランプとの比較では、イスラエル・パレスチナ衝突をどちらがうまく処理できるかについて、バイデン38%、トランプ46%となり、トランプが優位だった。また、大統領候補としての支持もトランプが49%、バイデンが43%で、共和党候補が優位とされている。これが共和党優位の選挙人団制度を考慮すると、バイデン陣営にとっては艱難な状況となっている。

同調査によれば、回答者の44%はガザの死者が既に2万人を超えている状況で、イスラエルはハマスに対する軍事作戦を停止すべきだと考えており、48%はイスラエル軍が十分な配慮をしていないと回答している。

バイデン政権はウクライナ支援のために共和党議会の支持を得ようとしているが、ウクライナ支援の予算に対する厳しい交渉が続いている。ウクライナ大統領のゼレンスキー氏はバイデン大統領や議員らと面会し、ウクライナへの支援継続を訴えた。一方で、共和党はウクライナ支援の条件として国境対策を求め、これが民主党左派の反発を招いている。

中東政策でもトランプ支持が増え、特にイスラエル情勢においては左派が政権に圧力をかけている。これにより、バイデン政権は外交政策での難航が左派の不満の対象となり、米国内外のストロングマンたちが優位に立つ状況となっている。これらの矛盾から脱却するためには、バイデン政権がイスラエル・パレスチナ紛争とウクライナ戦争に対する左派と有権者の認識を変え、支持を獲得する必要がある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライがロシアのGDPを凌駕するロードマップを描け

まとめ
  •  共和党と民主党内の左派がウクライナ支援に反対していると報じられ、トランプ政権成立時には支援の削減が懸念されている。
  • 大統領が誰になっても、ウクライナへの強力な支援が必要。ウクライナの主権支持や、プーチンのロシアに対抗する必要性が党派を超えたものである。
  •  ウクライナが戦後復興やEU加盟により経済的に大きく成長する可能性があり、ロシアを経済的に凌駕することもあり得る。
  • ウクライナが過去に経済成長できなかったのは、ソビエト連邦崩壊後の腐敗した民営化や、中央集権的統制の影響、汚職との腐敗の蔓延によるものである。
  •  ウクライナがEUに加盟することができれば、脅威の経済発展しロシアを凌駕することも夢ではなく、これをウクライナと支援国がロードマップに描くべき

ウクライナ支援に関しては、共和党も民主党内の左派も反対なようですが、もしトランプ政権が成立した場合、トランプ氏はウクライナへの支援を減らすか取りやめる可能性も取りざたされています。

私自身は、誰が大統領になったとしても、ウクライナへの強力な支援を維持してほしいです。プーチンのロシアに立ち向かい、ウクライナの主権を支持することは党派を超えて行われるべきだと思います。

ウクライナの自由と民主主義は米国の国益にかなうものです。米国はウクライナに対する見方を変えるべきと思います。

現状のウクライナに対する、共和党や民主党内の左派の見方は、民主主義の砦を守るための費用という見方しかしていないと思われます。しかし、これを費用としてだけとらえるのではなく、投資として見方を変えるべきと思います。現在は、発展途上国なみのウクライナですが、見方を変えれば、ウクライナには大きな洗剤可能性があります。

ウクライナ経済がロシア経済を凌駕する可能性

ウクライナの自由と民主主義が維持発展されれば、ウクライナはかなりの経済発展をする可能性があります。その根拠は、以下の表をご覧いただければ、ご理解いただけるものと思います。なお、以下の表は2021年のウクライナ戦争開戦の前年のデータです。

戦争中のデータは、特殊であるのと、正確性にも欠ける場合もあるので、2021年のデータを用いています。

まずは、一人当たりのGDPです。
GDP(ドル)一人当たりのGDP(ドル)
ウクライナ1,557億ドル3,745ドル
ロシア連邦1.7兆ドル10,610ドル
ウクライナのGDPは、ロシアの約10分の1であり、一人当たりのGDPも約3分の1でした。ウクライナは、ロシアに比べて経済規模が小さく、経済水準も低い国でした。これは、発展途上国の部類に入ると言って良い水準です。しかし、これは逆にいえば、かなりの伸びしろがあるということです。

次は、人口です。
人口
ウクライナ4,159万人(クリミア半島を除く)
ロシア連邦1億4,623万人

ロシア連邦と比較すれば、ウクライナの人口はロシアの1/3しかありません。それに、中国、インドの人口は14億人で、ロシア連邦の10倍です。このような国と比較すれば、確かにしウクライナの人口は少ないです。

しかし、ヨーロッパの他国と比較すれば、この人口は少ないとはいえません。また、モスクワ周辺に位置する、ロシア共和国の人口は、1000万人程度です。これを考えると、ロシアとウクライナの人口差は、絶望的に異なるという次元ではありません。

一人当たりのGDPと、人口から、ウクライナがロシア連邦のGDPを超えるには、一人当たりのGDPをどの程度にすれば良いのかを計算します。

2021年のウクライナとロシア連邦の人口は、ウクライナが約4,400万人、ロシア連邦が約1億4,600万人でした。

この人口差を考慮した計算式は、以下のようになります。
(ロシア連邦のGDP) / (ウクライナの人口) = 一人当たりのGDP

これを計算すると、以下のようになります。
1.7兆ドル / 4,400万人 = 38,636ドル

つまり、ウクライナがロシア連邦のGDPを追い越すためには、一人当たりのGDPが38,636ドル以上になる必要があります。

一人あたりの、GDPが38,636ドル付近の国を以下にあげます。比較の対象として日本、米国、ロシアも含めます。
一人当たりのGDP(ドル)
韓国38,740
台湾39,030
ポーランド32,250
スロバキア31,830
ロシア11,370
日本42,820
米国63,540

この表から、ウクライナは、一人当たりのGDPが韓国並になれば、ロシアのGDPと並ぶ水準になり、台湾並になれば、ロシアのGDPを追い越すことになることがわかります。

無論、これは戦争前の比較ですから、ウクライナが戦後復興して、それからの経済成長によりこうなるということになりますが、それにしても、一人あたりのGDPが台湾位の水準になれば、ロシアの GDPを完璧に追い越すというのですから、これはまったく不可能であり得ないということとは言えません。

もし、これが、日本やドイツ、フランス並とか、それ以上というなら、かなり難しいです。さらに、人口面でも、ウクライナとロシアの人口が、10倍以上もあれば、これもかなり難しいです。

しかし、ロシアとウクライナとの比較ということであれば、これは全く不可能とはいいきれないです。

ただし、これは数年ではなく数十年のスパンで達成できるということになると思います。ただ、日本の高度成長のような成長が可能となれば、10年くらいで達成できるかもしれません。

そのような目でみると、なぜウクライナは過去には経済発展できなかったのかという疑問がわきます。

ウクライナはなせ経済成長できなかったのか

ウクライナが過去に経済成長できなかった理由はいくつあります。

まず、ソビエト連邦の崩壊は、ウクライナの工業生産高、特に鉄鋼や鉱業のような重工業の急激な減少につながりました。これは雇用、輸出、全体的な経済成長に大きな影響を与えました。

ソ連時代には他の部門を犠牲にして重工業に重点を置いたため、ウクライナの産業基盤は時代遅れで硬直化し、変化する世界的な需要に対応するのに苦労しました。その結果、経済の多様化と競争力の欠如を招いてしまいました。

ソビエト連邦崩壊

次に、ウクライナがロシアの干渉を受け続けてきたことです。ロシアはウクライナの政治に関与してきた長い歴史があり、しばしば影響力を行使し、ウクライナの軌道を形成しようとしてきました。これには、クリミア併合やウクライナ東部で進行中の紛争に見られるように、特定の政治派閥を支援したり、誤った情報キャンペーンを行ったり、さらには軍事介入に訴えたりすることも含まれます。

ウクライナの犠牲の上にロシアが利益を得ているとされる不公正な貿易慣行や資源操作への懸念が提起され、経済的搾取への非難もあります。さらに、ソ連時代のホロドモール飢饉のような歴史的な出来事は、ロシア国家による意図的な搾取の例とみなされています。

さらに、ウクライナ国内の汚職や腐敗です。ソビエト体制は、ウクライナの社会とビジネスの多くの側面に浸透し続けているビジネス主体に対する後援と縁故主義の文化を育みました。これが公正な競争を妨げ、外国からの投資を抑制し、生産活動から資源を遠ざけています。

インフォーマルなネットワークと官僚主義 複雑な官僚制度を利用した経験から、ビジネスを行うための複雑なインフォーマル・ネットワークが発達してしまったのです。こうしたネットワークは近道を提供してくれるかもしれないですが、法的枠組みの外で運営されていることが多く、不透明で不公正なビジネス環境を助長しています。

1990年代の民営化 ソビエト連邦崩壊後、ウクライナは国有資産の大規模な民営化を実施しました。しかし、このプロセスは汚職にまみれ、価値ある企業が政治的につながりのある人物に割安な価格で売却されました。その結果、富と経済力が一部の人間に集中し、経済全体が投資と競争の欠如に苦しむことになりました。

ウクライナでは汚職との戦いが続いており、近年はさまざまな改革やイニシアチブが実施されています。

計画経済から市場システムへの移行は、法的・制度的枠組みの不備により困難なものとなっています。このことが企業や投資家に不確実性をもたらし、リスクの増大と経済活動の低下を招いています。

 数十年にわたる中央集権的な統制が、個人の自発性やリスクテイクを抑制し、起業家精神の欠如を助長し、活力ある民間セクターの発展を妨げてきました。

しかし、この複雑な問題に完全に対処し、ウクライナの経済的潜在力を最大限に引き出すには、まだ多くの課題が残されています。

ウクライナのソ連時代からの負の遺産は、根深いものがあるのです。こうした負の遺産を解消すれば、ウクライナの経済がのびる余地はかなりあります。

ウクライナ

計り知れないウクライの急速な経済発展の可能性

戦争終結、汚職撲滅、EU加盟などの条件が満たされれば、ウクライナの急速な経済発展の可能性は計り知れないです。

強固な基盤

ウクライナは、強固な基盤(インフラ)を持っており、これは他の発展途上国等にはないものです。

多様な産業基盤: ウクライナには、農業、鉱業、冶金、化学、機械、IT、宇宙、軍事など、確立された産業部門があります。宇宙産業に関しては、ロシアがウクライナから部品を輸入しており、これが絶たれると、ロシアの宇宙開発に支障がでるかもしれないとい割れるほどの水準にあります。また、これはあまり知られていませんが、中国の軍事技術の母体となったのは、ウクライナの技術です。 

この多様な基盤は、さらなる経済成長と新市場への進出を可能にする強力な土台となります。

高学歴の労働力: ウクライナは識字率99.4%という高い教育水準を誇っています。ヨーロッパの大学教育の統一基準・水準は、「バチェラー・マスター・ドクター(Bologna Process)」と呼ばれています。これは、1999年にイタリアのボローニャで開催された欧州高等教育会議で採択された「ボローニャ宣言」に基づき、欧州の大学教育の質と国際競争力を向上させるために制定されたものです。

ウクライナの大学・院にもBologna Processが適用されています。ウクライナは教育という面でヨーロッパと変わらず、物価も安いということから、戦前は、中国人の手頃な留学先として人気がありました。

また、人口あたりのエンジニアの数は、世界でトップクラスにあります。工学、科学、技術などさまざまな分野に長けた人材が容易に確保できることは、海外からの投資を誘致し、イノベーションを促進する上で貴重な資産となります。

戦略的立地: EUとロシアの間に位置し、中東のトルコと黒海を経て接するウクライナは、重要な貿易・中継拠点となりうる地理的優位性を享受しています。インフラとロジスティクスの改善により、この優位性を活かして市場を結びつけ、地域の経済活動を活性化させることができます。

これらの基盤は、他の発展途上国等には見られないものであり、ウクライナの高い潜在可能性を示しています。 

EU加盟

単一市場へのアクセス: EUに加盟すれば、4億5,000万人以上の消費者を抱える世界最大の単一市場へのシームレスなアクセスがウクライナにもたらされます。これにより、ウクライナの企業が商品やサービスを輸出する機会が大きく広がり、海外からの投資を呼び込み、経済成長を促すことができます。

金融・技術支援: EU加盟には、インフラ整備、制度改革、事業開発を目的とした多額の資金・技術支援プログラムが付随しています。これらの資源は、ウクライナの経済的進歩と近代化を加速させる上で有益です。

ガバナンスと法の支配の改善: EUの基準に合わせるためには、制度を強化し、法の支配を堅持し、腐敗と闘うことが必要である。これにより、より予測可能で透明性の高いビジネス環境が構築され、信頼が醸成され、海外からの投資が誘致されるでしょう。

その他の要因

豊富な天然資源: ウクライナは肥沃な農地、鉱物資源、黒海へのアクセスに恵まれています。これらの資源を持続的に管理することで、環境を保全しながら大きな経済的利益を生み出すことができます。

起業家精神: ウクライナ人は回復力があり、機知に富み、起業家精神に富むことで知られています。こうした資質は、長年のロシアの軛から開放され、支援的な環境と相まって、イノベーションと新規事業の創出を促進し、経済のダイナミズムに貢献することができます。

技術的潜在力: ウクライナには、熟練した労働力と活発な新興企業エコシステムを擁する成長著しいIT分野があります。このセクターを育成し、AIや再生可能エネルギーなどの新興技術への投資を呼び込むことで、ウクライナ経済を将来に向けて推進することができます。

もちろん、現在はロシアの侵攻を受けており、様々なインフラが破壊されていますし、先にあげたような課題も残っています。しかし、潜在的な見返りは大きいです。戦争が終わり、適切な条件と継続的な決意さえあれば、ウクライナは独自の強みと戦略的優位性を活かして急速な経済発展を遂げ、豊かで繁栄する国家としての地位を確立することができるでしょう。そうして、それはEU諸国にとって、ロシアの隣国にEUの味方である、強力な国ができあがることを意味します。これは、EUの安全保障にとっても良いことです。

そうした観点で、ウクライナ支援をとらえるべきです。ウクライナ支援はこうしたことを見据えて行うべきですし、ウクライナ側もこうした視点を支援国に示すべきです。

米国、日本、EUもウクライナと協同で、叡智を絞り、ウクライナがいずれロシアのGDPを追い越し、経済発展をつづけ、西側諸国とともに栄えるパートナーとなり、ロシアに対する強力な防波堤になることをロードマップに落とし込み、その上で支援をするようにすべきです。

これによって、米国は誰が、大統領になっても支援はやりやすくなるでしょう。それは、日本もふくむ、西側諸国も同じです。

イスラエルに関しても、イスラエル、ガザ地区(パレスチナ)の双方が経済発展し、テロリストを一掃し、安全保障での中東の要となれるようなロードマップを描くべきです。

日本こそ、このようなことに関してリーダーシップを発揮すべきと思います。

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2023年6月17日土曜日

プーチン大統領が〝孤立〟 旧ソ連カザフスタンなど離脱、周辺からも支持失う  「反ロシア・反プーチン連合も」 中村逸郎氏が指摘―【私の論評】ウクライナ戦争が旧ソ連地域におけるロシアの立場を弱め、その影響力を維持することをより困難にした(゚д゚)!

プーチン大統領が〝孤立〟 旧ソ連カザフスタンなど離脱、周辺からも支持失う  「反ロシア・反プーチン連合も」 中村逸郎氏が指摘

プーチン大統領の「ソ連回帰」が周辺国に警戒されているのか


 ウクライナ侵略をきっかけに、旧ソ連諸国の中で「プーチン離れ」が進んでいる。

 ロシア指導部への支持率が急落し、ウクライナやモルドバを含む他の旧構成国でもロシアとの関係に疑問符がつくようになっている。

 ロシアのウクライナ侵略に対して批判的な態度を示してきたカザフスタンのトカエフ大統領は、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムでの会議を欠席し、ロシアとの一線を画した態度を明確にした。

 一方、ウクライナのゼレンスキー大統領はモルドバで開催された首脳会合に出席し、欧州との結束を確認した。

 ロシアの支持率の急落は、モルドバ、アルメニア、カザフスタン、アゼルバイジャンなどの旧ソ連諸国で顕著であり、プーチン大統領の「ソ連回帰」の試みに対しては懐疑的な声も上がっている。

 中村逸郎名誉教授は、ロシアが埋没していることを嫌い、プーチン大統領が「ロシアの栄光」を復活させようとしていると指摘し、旧構成国間で「反露・反プーチン連合」が形成される可能性もあると述べている。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は是非元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナ戦争が旧ソ連地域におけるロシアの立場を弱め、その影響力を維持することをより困難にした(゚д゚)!

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、長い間、ソビエト連邦を復活させようとしていると非難されてきました。彼はソビエト時代を懐かしむように語り、ロシアのメディアや経済に対する権力と支配力を強化するための措置をとってきました。また、異論や反対意見を取り締まり、クリミアを併合し、ウクライナ東部の分離独立派を支援してきました。

ソビエト連邦の復活を目論むプーチンだが・・・・・

プーチンのウクライナでの行動は、東ヨーロッパにおけるソビエト連邦の勢力圏を再現しようとする試みであると多くの人が見ています。ウクライナはかつてソビエト連邦の一部であり、ロシア語を話す人口も多いです。プーチンは、ウクライナへの侵攻を「非武装化・非ナチス化」のために必要だと主張し、正当化しています。しかし、プーチンの真の狙いは、ウクライナのNATO加盟を阻止し、ロシアの勢力圏に留めることにあるとする見方が多いです。

プーチンの思いとは裏腹に、ウクライナ戦争は、プーチンのソビエト連邦復活の野望を大きく後退させるものになりました。ウクライナ国民は独立のために戦う意思を示し、ロシア軍に多大な犠牲をもたらしましたた。

また、この戦争は、ロシアの経済と世界舞台での評判にダメージを与えました。プーチンがソビエト連邦の復活という目標を達成できる可能性は低いですが、今後も旧ソ連共和国に対する支配力を行使し、東ヨーロッパにおけるロシアの影響圏を拡大しようとしていた可能性は高いです。

プーチンのウクライナでの行動が、ソ連復活の試みとどのように関連しているのか、具体的な例をいくつか挙げます。

クリミアの併合 2014年、ロシアはウクライナからクリミア半島を併合しました。これは明らかな国際法違反であり、プーチンがソビエト連邦の国境を復活させようとしている兆候であると多くの人が見なしました。

 ロシアは2014年以降、ウクライナ東部の分離主義者を支援してきました。これらの分離主義者はウクライナ政府と戦っており、多大な死と破壊を引き起こしています。ロシアの分離主義者への支援は、ウクライナを不安定化させ、NATOへの加盟を阻止するための試みであると多くの人が見ています。

さらに、プーチンは2000年に政権に就いて以来、ロシアにおける反対意見を取り締まってきました。野党指導者を投獄し、言論の自由を制限し、メディアを統制してきました。このような反対意見の取り締まりは、ソビエト連邦に似た全体主義国家を作ろうとしていると多くの人が見ています。

ただ、プーチンは、ソビエト連邦を復活させようとしていると明言したことはないことに注意する必要があります。しかし、ウクライナなどにおける彼の行動は、それが彼の目標であることを示唆しています。ウクライナ戦争はプーチンにとって大きな後退だが、プーチンがその野望をあきらめることはないでしょう。

ただ、この考えは、一種妄想に近いともいえると思います。そもそも、ロシアがウクライナに侵攻し、キエフを占領し、ゼレンスキー政権を追放し、傀儡政権を作ることは、最初から不可能だったと考えられます。ウクライナ侵攻直前でさえ、ロシアのGDPは韓国をわずかに下回る程度であり、軍事力もNATOの連合軍ほど強力ではありません。

軍事費も一般に思わているほど大きくはありません。日本が軍事費を倍にすると、ロシアの軍事費をかなり上回ることになります。それでも、なぜロシアが軍事大国と思われてきたかといえば、旧ソ連の核兵器と、軍事技術を継承した国がロシアだからです。

無論、これを侮ることはできませんが、自ずと限界はあります。できることは限られています。ウクライナ侵攻は当初から絶望的に困難なことだったといえます。
IMFデータをもとにした世界の名目GDP国別ランキング

ロシアのウクライナ侵攻が成功しなかった理由をいくつか挙げてみます。

まず、ウクライナ国民は自国のために戦う意志を持っていることです。ウクライナ国民は国のために戦う意思を示し、ロシア軍に多くの犠牲者を出している。そのため、ロシアは目的を達成することが難しくなりました。

国際社会はロシアに厳しい制裁を課しています。米国とその同盟国は、ロシアがウクライナに侵攻したことを受けて、ロシアに厳しい制裁を課しています。これらの制裁はロシア経済を麻痺させ、ロシアが軍事活動を維持することを困難にしています。

ロシアは多くの戦略的誤りを犯してきたことです。ロシアはウクライナ侵攻において、多くの戦略的誤りを犯しました。ウクライナの抵抗力を過小評価したこと、ウクライナ上空の制空権を確保できなかったこと、目的を迅速に達成できなかったことなどです。

ウクライナ戦争が長期的にどのような結果をもたらすかについては、まだ時期尚早です。しかし、ロシアが大きな後退を喫し、世界におけるロシアの地位が弱体化したことは確かです。また、この戦争は、ウクライナの人々が自国を守る決意を固め、戦わずしてあきらめないということを示しました。

キエフ郊外のアントノフ空港で、ウクライナの女性兵士とともにたたずむオレナ・ゼレンスカ(青色のコートの女性)。

ウクライナ侵攻をきっかけに、旧ソ連諸国の間でプーチンからの「離反」が進んでいることは、上の記事に示されていますが、これには、以下のような要因があります。

まず、ウクライナ戦争は、ロシアが信頼できるパートナーでないことを示したことです。ウクライナへの侵攻は明らかな国際法違反であり、多くの死者と破壊をもたらしました。このため、多くの旧ソ連諸国は、ロシアが約束を守ってくれるかどうかを疑問視するようになりました。

ウクライナでの戦争は、ロシアの経済にダメージを与えました。米国とその同盟国が課した制裁は、ロシア経済に大きな影響を与えました。そのため、ロシア国内の生活水準が低下し、旧ソ連諸国への経済支援も難しくなっています。

ウクライナ戦争は、プーチンに対する信頼の失墜を招きました。ウクライナへの侵攻は、プーチンが自分の目的を達成するために軍事力を行使することを厭わないことを示しました。このため、多くの旧ソ連諸国は、プーチンが自分たちの最善の利益のために行動することを信頼できるかどうかに疑問を持つようになりました。

こうした要因の結果、多くの旧ソ連諸国がロシアから距離を置くための措置をとっています。例えば、グルジアとモルドバはNATOへの加盟を申請し、アルメニアは集団安全保障条約機構(CSTO)への加盟を停止しています。これらの国々は欧米との緊密な関係を求めており、安全保障や経済的支援をNATOや欧州連合に求めている。

旧ソ連諸国の間でプーチンからの「離反」が進んでいることは、ロシアにとって大きな後退です。この地域におけるロシアの影響力が衰えていることを示すものであり、プーチンが目指すソビエト連邦の復活への挑戦でもあります。ロシアがこの課題にどう対応するかは不明ですが、ロシアはこの地域での影響力を維持する方法を模索する可能性があります。

たとえば、ロシアはその経済力を利用して、旧ソ連諸国に圧力をかけ、自国に従わせることができます。例えば、貿易や投資を遮断したり、エネルギー輸出の価格を引き上げたりすることが考えられます。

ロシアは、旧ソ連諸国が西側諸国と協調することを阻止するために、軍事力を行使することができます。例えば、旧ソ連諸国との国境付近で軍事演習を行ったり、旧ソ連諸国のうちロシアと同盟を結んでいる国に軍隊を派遣したりすることです。

さらに、ロシアは、偽情報やプロパガンダを用いて、旧ソ連諸国の住民の間に不和や不信感を植え付けることができます。これにより、旧ソ連諸国がロシアに対して団結することをより困難にすることができます。

そうして、ロシアは、旧ソ連諸国において自国の価値や利益を促進するために、文化的影響力を行使することができる。これは、ロシアのメディア、教育、スポーツを利用することで可能です。

重要なのは、ロシアがこれらの方法を一度にすべて使う可能性はないということです。むしろ、国や地域によって、いくつかの方法を組み合わせて使う可能性が高いです。

ロシアが旧ソ連地域で影響力を維持しようとする努力が成功するかどうかは、以下のような多くの要因に左右されます。

①旧ソ連諸国の経済力と軍事力、②欧米との関係強化に対する国民の支持の程度、③欧米の対ロシア制裁の有効性等です。

ウクライナ戦争が旧ソ連地域におけるロシアの影響力に長期的にどのような影響を与えるかについて結論を出すのは時期尚早です。しかし、この戦争がこの地域におけるロシアの立場を弱め、ロシアがその影響力を維持することをより困難にしたことは明らかです。

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2023年5月13日土曜日

中国、NATO日本事務所に反発 「歴史の教訓くみ取れ」―【私の論評】中国は、将来「インド太平洋諸国同盟」が出来上がることを恐れている(゚д゚)!

中国、NATO日本事務所に反発 「歴史の教訓くみ取れ」

中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官

 中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は12日の記者会見で、北大西洋条約機構(NATO)が日本に連絡事務所開設を検討していることについて「日本が真剣に歴史の教訓をくみ取って、地域の国家間の相互信頼や、平和と安定を損なうことをしないよう求める」と反発した。

 汪氏は、アジア太平洋地域はNATOの地理的範囲には入っておらず、アジア版NATO創設も必要ないとした上で「NATOはアジア太平洋国家との関係を強化し、地域に干渉し続けている」と批判した。

 日本政府に対しては「本当にNATOアジア化の急先鋒になりたいのか」と対応に強い疑問を呈し、日本が平和発展の道を堅持するよう求めると強調した。

【私の論評】中国は、将来「インド太平洋同盟」が出来上がることを恐れている(゚д゚)!

北大西洋条約機構(NATO)は、1949年にソビエト連邦に対抗するために設立された軍事同盟です。本部はベルギーのブリュッセルにあり、現在、30か国が加盟しています。NATOは攻撃された場合、加盟国の防衛を約束する集団安全保障体制です。

4月25日、 ディエラNATO国際軍事幕僚部国際安全保障局長 (イタリア陸軍中将)の表敬を受けた吉田統合統幕長

中国は、NATOが東アジアに進出することで、自国の安全保障上の利益に影響を及ぼすことを懸念しています。中国は、米国との緊張関係が高まっている中で、NATOが東アジアに進出することで、米国との連携を強化し、中国に対する圧力を増大させることを危惧していると考えられます。

さらに、中国は、日本がNATOと協力することで、日本が自国に対してより強硬な姿勢を取る可能性があると見ています。日本がより積極的に自衛隊の装備や兵力を増強することで、中国にとっては軍事的脅威になると考えているようです。

最後に、中国は、NATOが日本に事務所を開設することで、アジア太平洋地域の地政学的バランスが変化することを懸念しているのでしょう。NATOが日本に進出することで、米国や日本を中心とした新たな安全保障体制が形成される可能性があり、中国の影響力が低下することを恐れているためです。

歴史的にも、同盟が離合した例は数多くあります。以下にいくつかの例を挙げます。

1.第一次世界大戦中の中央同盟国

第一次世界大戦中、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、イタリア、オスマン帝国は「中央同盟国」として同盟を結びました。しかし、戦争が長引くにつれ、同盟国の間で緊張が高まり、イタリアは1915年に同盟から離脱し、連合国側に参戦しました。

2.第二次世界大戦中の枢軸国

第二次世界大戦中、ドイツ、イタリア、日本は「枢軸国」として同盟を結び、戦争に参戦しました。しかし、同盟国の間での意見の相違や利害の対立などが生じ、枢軸国内部でも分裂が生じました。イタリアは1943年に連合国に負け、連合国側に与し参戦、ドイツは1945年5月に降伏、三国同盟は崩壊しました。

3.冷戦期の東西陣営

冷戦期には、米国とその同盟国が「西側陣営」、ソ連とその同盟国が「東側陣営」として、それぞれ同盟関係を結びました。しかし、同盟国の間での意見の相違や利害の対立が生じ、同盟内部でも分裂が生じました。例えば、ソ連と中国は意見が合わず、1960年代後半には対立が深まり、両国間での軍事衝突も発生しました。

以上のように、同盟が離散例は歴史的にも多く存在します。同盟は国家の利益や関心事が一致する場合に結ばれますが、同盟内部での意見の相違や利害の対立が生じることもあるため、必ずしも同盟が結束を維持することはできません。

一方、集散の例も多々あります

1.ヨーロッパ連合(EU)

ヨーロッパ連合は、かつてのヨーロッパ共同体を発展させて結成された同盟です。EUは加盟国が増え、経済・政治的な統合が進んでいます。EUは経済面や外交面などで、一定の成果を上げています。

2.アフリカ連合(AU)

アフリカ連合は、アフリカ諸国の統合を目指して結成された同盟です。AUは、アフリカ大陸の平和・安全保障や経済発展の促進を目的としています。AUは、加盟国が増え、地域的な協力や統合が進んでいます。

3.東南アジア諸国連合(ASEAN)

東南アジア諸国連合は、東南アジア地域の統合を目指して結成された同盟です。ASEANは、東南アジア地域の平和・安定・繁栄の促進を目的としています。ASEANは、加盟国が増え、地域的な協力や統合が進んでいます。

インド太平洋地域

AUKUS、QUAD、CPTPPはすべて、インド太平洋地域の安全保障を強化することを目的とした新しいイニシアチブです。これらの同盟はすべて、中国の台頭に対抗することを目的としています。

中国はインド太平洋地域でますます積極的な役割を果たしており、米国とその同盟国にとって脅威と見なされています。これらの同盟は、中国の野心を抑制し、地域の安定を維持するために設計されています。

AUKUS、QUAD、CPTPP、それらはやがて一つにまとまり、作り替えられて、将来、「インド太平洋諸国同盟(仮称)」として花開く可能性を秘めています。それは、NATOのような加盟国の防衛を約束する集団安全保障体制をも内包するものになるかもしれません。それには、NATOは貢献できるかもしれません。

NATOとしては、中国の動きはロシアの動きなどとも無関係ではないので、情報共有という意味合いで、インド太平洋諸国同盟と関係を持つことになるかもしれません。場合によっては、強調することもあるかもしれません。これは、中国にとってのみならず、ロシア、北朝鮮、イランなどに対しても強い牽制になります。


インド太平洋戦略の生みの親である、亡くなられた安倍元総理も、「インド太平洋諸国同盟」の可能性を夢見ておられたと思います。

今、われわれが目にしているのはその始まりにすぎないのです。そうして、まさに中国はこれを恐れていると見られます。

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2023年5月3日水曜日

ロシア 爆発で2日連続の列車脱線「破壊工作」とみて捜査―【私の論評】あらゆる兆候が、ウクライナ軍の反転大攻勢が近く始まることを示している(゚д゚)!

ロシア 爆発で2日連続の列車脱線「破壊工作」とみて捜査


 ウクライナと国境を接するロシア・ブリャンスク州で2日夜、爆発が起こり、貨物列車が脱線しました。ブリャンスク州では前日も爆発による列車の脱線が起きたばかりでした。


 タス通信などによりますと、ブリャンスクの州都に近い駅の付近で2日夜、爆発が起き、貨物列車およそ20両が脱線したということです。けが人はいませんでしたが、当局は何者かが意図的に爆発物を仕掛けたものとみて、調べています。

 ブリャンスク州では前日も爆発により、ベラルーシから石油製品などを運んでいた貨物列車が脱線していて、ロシア当局は破壊工作とみて調べています。

 ブリャンスクでは今年3月、ウクライナから侵入したとみられるグループが、市民2人を殺害する事件が起きていて、プーチン大統領は、テロとの見方を示していました。

【私の論評】あらゆる兆候が、ウクライナ軍の反転大攻勢が近く始まることを示している(゚д゚)!

ウクライナのロシア侵攻は、現状では東部と南部に限定されています。であれば、こちらの地域の鉄道を破壊するならわかりますが、なせブリャンスク州なのでしょうか。

3月には武装集団がウクライナから国境を越えてブリャンスク州西部の村を襲撃。直後にロシアからウクライナに移住した極右活動家が率いる組織が犯行声明を出すなど、不穏な事態が相次いでいます。これをロシア側は「ウクライナ側」の仕業としましたが、ウクライナ側は否定しています。

上の記事にもあるように、前日の1日にも、ブリャンスク州で同様の爆発が起きていました。ボゴマズ州知事は1日、テレグラムを通じて「ブリャンスクとウネーチャをつなぐ線路の136キロ地点で午前10時17分頃、正体不明の爆発装置が炸裂し、貨物列車が脱線した」と伝えました。

この事故でも人命被害はありませんでしたが、事故現場の写真を見ると、線路脇の草むらに倒れた列車に火がつき、煙が立ち上る様子が確認できる。この列車は石油と建築資材を運んでいたといいます。

同日、ロシアの第2の都市サンクトペテルブルクから南に60キロ離れたスサニノ村の近くでは、送電塔が破壊された。レニングラード州のアレクサンドル・ドロスデンコ州知事は、一晩の間に送電塔1基が爆破され、他の送電塔近くでも爆発装置が発見されたと明らかにした。ロシア当局はソーシャルメディアとマスコミを通じてこのニュースを伝えたが、誰の仕業かについては言及しなかった。


ブリャンスク州は、ロシア西部に位置し、ベラルーシ、ウクライナと国境を接する地域である。モスクワと西ヨーロッパ、ロシアとウクライナを結ぶ主要な交通路に位置し、戦略的な立地です。

ソ連時代、ブリャンスク州は軍事兵站の重要な拠点として、西部戦線への兵員や物資の輸送の拠点となっていました。ソビエト連邦崩壊後、この地域の軍事的プレゼンスは低下しましたが、輸送インフラは維持されたままでした。

近年、ロシア軍はブリャンスク州のインフラに投資し、物流能力を向上させているとの報告があります。鉄道や道路網の拡張、保管施設や物流センターの新設などです。

ロシアのウクライナ侵攻において、ブリャンスク州が兵員や物資を前線に輸送するための物流拠点として機能する可能性はあります。ただ、先にも述べたように、現状の戦線はウクライナ東部、南部に集中しています。

ただ、懸念されるのは、ロシアのプーチン大統領は昨年12月、ベラルーシのルカシェンコ大統領との会談で両国軍の合同演習の継続で一致するなど、ベラルーシとの結束を誇示しました。ベラルーシ国防省は6日、新たに露軍部隊が到着したとして、鉄道で運ばれてきたとみられる多数の軍用車の写真を公開しました。ベラルーシ大統領府は同日、ルカシェンコ氏が露軍部隊も駐留するウクライナ国境近くの演習場を視察したと発表しました。

ロシア軍が再度、キーフへの侵攻をする可能性も捨てきれません。その場合、ブリャンスク州がロシア軍の兵站基地になることが考えられます。しかも、ブリャンスク州はベラルーシとも国境を接しています。

ベラルーシの軍隊や軍事物資等、ブリャンスク州を経由して運ばれることも懸念されます。そのため、今回のテロはこれに対する牽制であるとも受け取れます。

ただ、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は1日の記者会見で、情報機関の分析として、ウクライナに侵攻するロシア側の兵士・戦闘員の昨年12月以降の死者数が2万人以上、負傷者数が8万人以上にのぼるとの見方を示していました。

ロシアはウクライナ東部ドネツク州バフムトの攻略を目指しており、ここ数カ月で死傷者数が加速度的に増加しているとみられます。これでは、ロシアにはもうすでに、ウクライナ東部・南部戦線と、キーウを狙う北部戦線のすべで攻勢に出るのはかなり難しいでしょう。

カービー氏は、ウクライナ側の死傷者数は明らかにしませんでした。ロシア側の死傷者の多くは、民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員といいます。刑務所からリクルートされた受刑者らが、十分な戦闘訓練や指導もないままバフムトなどに投入されているとしました。

この状況だと、ブリャンスク州やクルスク州などは軍事的にはかなり手薄になっていると考えられます。これは、ロシアもしくはウクライナの武装グループが仕掛けたものでしょう。あるいは、両方かもしれません。

武装グループにとっては、まずは攻撃しやすいということがあるのでしょう。さらに、今後のウクライナ軍による大反抗が予想されるなか、ブリャンスク州で頻繁にテロを起こして、こちらのほうにロシア軍をひきつけて、少しでもウクライナに有利になるようにするという意図もあるとみえます。

先月29日には、2014年3月にロシアが合併を宣言したクリミア半島のロシア黒海艦隊の拠点であるセバストポリの油類貯蔵庫で、ドローンによるものとみられる攻撃で爆発が発生しました。ウクライナ軍はこれに対して、異例にもウクライナ軍の大規模反撃攻勢のための「準備過程」だったと発表しました。

軍ではない、武装グループもこれに呼応して、自分たちの裁量で、破壊活動をしている可能性があります。

モスクワの軍事政治研究センターで責任者を務めるアンドレイ・クリンチェビッチ氏は「敵軍(ウクライナ軍)は今月9日(戦勝記念日)にロシア領土深くに入る込む大規模な挑発を準備している」と述べました。

モスクワで、戦勝記念日に行う軍事パレードのリハーサルをするロシア軍(4月28日)

同メディアは「(ウクライナは彼らの)勝利について欧米など世間の耳目を惹く動きを必要としている」と伝え、反撃の時期を戦勝記念日と予測した理由について説明しました。

同メディアは「ウクライナの反転攻勢によりロシアの都市を狙った小規模なテロ攻撃が数十回行われる可能性がある」とも予測しているとも伝えています。

旧ソ連による対独戦勝記念日である5月9日にモスクワの「赤の広場」で行う軍事パレードに、外国の首脳が一人も出席しない見通しとなりました。露大統領報道官が4月末、ロシア通信などに明らかにしました。

参加者や登場する兵器も減らす予定で、ウクライナ侵攻の影響が、プーチン大統領が特に重視する行事にも及んでいます。

報道官は、戦勝記念日は「我々ロシア人にとっての祝日だ」と述べ、「外国首脳を招待しなかった」と説明しました。戦勝75年の節目だった2020年には米欧や日本の首脳も招待してました。

やはり、ロシアはウクライナ反転攻勢を警戒しているでしょう。さらに、軍事パレードなどもテロの対象になる可能性を懸念しているのでしょう。

米ニューヨーク・タイムズも1日付で「ウクライナによる反転攻勢が近い徴候が相次いで捕捉された」と報じました。

ニューヨーク・タイムズは「この徴候には双方の軍事攻撃強化、ロシア軍による防衛陣地の移動、ウクライナと接するロシア西部の都市で発生した爆発による列車脱線事故なども含まれる」と伝えています。

ウクライナのレズニコフ国防相も先月28日に国営テレビに出演し「反撃の準備は最後の段階に入った」「その方法や位置、時期については指揮官たちが決めるだろう」と述べ、反転攻勢を予告しました。

これに対してロシア軍もウクライナの反転攻勢に備えるため、南部の防衛陣地に部隊を移動させています。英国の国防情報参謀部はロシアが最前線近くだけでなく、現在統制している地域でも「最も広範囲な軍事防衛システムを構築した」と説明しました。

米カペラ・スペース社の衛星写真に映し出された、ウクライナ・ザポロジエ州のロシア占領地域に築かれた3層構造の防衛線=4月11日 クリックすると拡大します

実際露側は進軍を妨害する約800キロメートルにも及ぶ防衛線(塹壕)の構築を急ぎ、完成間近か、完成されいることが分かっています。露軍は、占領地域の防衛に徹することに戦術を切り替え、持久戦に持ち込む狙いとみられます。

しかし、防衛線を保つには、乱れのない指揮系統や空中戦での優位が必須条件とされ、時代がかった長大な塹壕は無用の長物と化す可能性もあります。

さらにロシアはミサイルによる奇襲攻撃を行うことで大攻勢を阻む意図を伝えるとみられるシグナルを送っています。 ロシア軍は1日未明、ウクライナ全土に3日間で2回目となるミサイル攻撃を行いました。 東部の地区で大規模な火災が発生し、当局者によると34人が負傷、住宅数十棟が損害を受けました。 ウクライナ軍は、防空部隊がロシア軍のミサイル18発のうち15発を破壊したと発表しました。

これらは、本当に今月9日(戦勝記念日)に反転大構成があるかどうかは別にしてウクライナ軍の反転大攻勢を近いことを示している兆候であると考えられます。

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2022年10月2日日曜日

東部要衝リマン奪還 併合宣言直後、露に打撃―【私の論評】ロシア軍、ウクライナ軍ともに鉄道の要衝がなぜ軍事上の要衝になるのか(゚д゚)!

東部要衝リマン奪還 併合宣言直後、露に打撃


 ウクライナメディアは1日、ロシア軍が陣取ってきた東部ドネツク州の要衝リマンをウクライナ軍が奪還したと伝えた。ロシア国防省も1日、包囲を逃れるためリマンから部隊が撤退したと発表。前日にドネツク州を含む東南部4州の併合を一方的に宣言したばかりのロシアにとって、打撃となる。

 リマンはドネツク州北部の交通の拠点。リマン攻略で、東部ルガンスク州西部の人口約9万人のリシチャンスクを奪還できる可能性が高まった。

 ウクライナのティモシェンコ大統領府副長官は1日、軍兵士がリマン中心部で奪還を宣言する動画を通信アプリに投稿。動画で兵士らはロシア国旗を行政庁舎の屋上から投げ捨て、ウクライナ国旗を掲げた。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は1日の動画声明で、ドネツク、ルガンスク両州で構成する東部ドンバス地域に、ウクライナ国旗を「1週間のうちに」さらに立てると述べ、攻勢を続ける考えを示した。

【私の論評】ロシア軍、ウクライナ軍ともに鉄道の要衝がなぜ軍事上の要衝になるのか(゚д゚)!

報道では、東部要衝リマンとされていますが、なせリマンが要衝なのかはほとんど語られていません。

なぜ、リマンが要衝なのかを理解するには、まずはロシア、ウクライナともに輸送のかなり大きな部分を鉄道に頼っていることを理解しなければならないです。

以下のグラフは、ロシア・ウクライナの輸送モード別貨物輸送量の推移です。比較対象として、ポーランドおよび英独仏伊の合計も掲載してあります。

クリックすると拡大します

上のグラフでは、ロシア、ウクライナの輸送モード別のトンキロ・ベース輸送量の推移を掲げ、ソ連解体と各国独立国化の後に、どう変化してきたのかを示しました。同時にポーランドや西欧の動きとも比較しました。

ロシア、ウクライナともに、1991年のソ連解体とその後の経済瓦解、社会の大混乱によって、物流量は大きく落ち込んだことがデータから明らかです。

1990年代のボトム輸送量は、ロシアの場合、ソ連時代のピークと比較して、鉄道、道路では約4割、パイプラインでは5割弱にまでに落ち込んでいます。今以上に鉄道輸送への依存度が高かったウクライナでは鉄道貨物の輸送量が対1990年対比で3割近くにまで落ち込んでいます。

これは、かなり激しい経済の崩壊状態に見舞われたことを示しています。

しかし最悪の状態はそう長くは続かなかった。その後、だんだんとロシアの物流量は回復し、2009年のリーマンショック後の世界的な経済低迷の時期の一時的な落ち込みを経て、現在は、少なくとも鉄道とパイプラインに関しては、ソ連時代のピークにまで回復して来ています。

ところが道路に関しては、なおピーク時の86%に止まっています。つまり、鉄道とパイプラインに過度に依存し、道路輸送のシェアが極端に低いという物流構造の特徴がさらに強まっているのです。

ウクライナでは、パイプラインが減り、道路による輸送は、若干増えていますが、鉄道輸送はピークのときと比較すると回復しておらず、現状でも経済的に厳しい状況に置かれていたことがわかります。ウクライナの場合も、まだ道路輸送のシェアが極端に低くと鉄道に頼る物流構造であることがわかります。

同時期に西欧(英独仏伊の計)やポーランドでは鉄道は横ばいか低下傾向をたどっているのに対して、道路輸送が大きく伸長しており、ロシア、ウクライナの動きをそれ以外の地域の動きと比較すると余りに対照的です。ちなみに、日本も西欧と同様、鉄道は低下傾向をたどっています。

ロシア経済は回復してきているとはいえ、石油や天然ガスといった資源の輸出への依存体質からの脱却が難しいことがこうした状況を生んでいると言えます。

ロシアもウクライナも物資郵送は、未だに鉄道にかなりを依存しているのです。

そのうえで、以下にリマンを含むウクライナの地図を掲載します。


この地図から、イジュームからリマン、シヴェリスクまで鉄道が伸びていて、スラビャンスクとも接続できることがわかります。リマン奪還により、ポーランドからキーウ経由でクピャンスク、リマンまで鉄道の補給線がつながり、東部でウクライナは圧倒的に有利になったと思います。 逆にロシアは補給線を3/4失いました。

ロシア鉄道のゲージ(線路幅)はいわゆる標準軌(1435mm)よりも幅の広い広軌(1520mmまたは1524mm)で、ヨーロッパではウクライナを含む旧ソビエト連邦内とフィンランドでしか使われていません。スペインも広軌ですが、ゲージのサイズがロシアとは違います。

このゲージの違いが、ロシア軍の作戦行動に大きく影響します。バルト三国、ウクライナを含む旧ソビエト連邦内なら広軌で統一されており、鉄道でスムーズな兵站線が引けます。一方ポーランドには、ロシアからウクライナのキエフを経由して南部のスワフクフまで、1本だけ広軌の鉄道が通っていますが、ほかは国境のごく一部を除き標準軌であり兵站線を連続できません。

ゲージが違えば鉄道を使った兵站線はそのまま連続することができず、積み替えかゲージの変更(いわゆる改軌)工事を行わなければなりません。台車交換や軌間を変更できるフリーゲージ方式もありますが、しかし結節点には設備が必要でスムーズな物流を妨げますし、ロシアの貨物列車はほとんど対応していません。

積替えすれば良いという話しなるかもしれませんが、莫大な物資を全部積み替えるのはとてつもない労力を必要とします。トラックを使えば良いという話しにもなるかもしれませんか、ロシア、ウクライナとももともと鉄道に頼っているということから、道路網も西側諸国などから比較すれば、発達しておらず、トラックも十分とはいえません。

原油パイプラインについては、欧州向けパイプラインはウクライナ東部を通らず、ベラルーシからウクライナ西部を抜けて、スロヴァキア及びハンガリーにぬけるものがメインとなっています。ロシア側としては、パイプラインを軍事転用することもできません。やはり物資、燃料ともに鉄道に頼るしかないのです。

この兵站線の特徴からロシア軍は、ウクライナ等の旧ソビエト連邦領域内で「積極的作戦」は行えますが、領域外で持続的な作戦行動を行う能力は限定的です。鉄道による兵站線が引けるかどうかのゲージの違いが、ポーランドとウクライナの安全保障上のリスクに違いを生んでいるといえます。しかしロシアがウクライナを抑えればまた状況は変わります。キエフ経由の広軌が利用でき、ポーランドのリスクは格段に高まります。 

国境付近に集結した兵力を数えるだけではなく、軍用列車を観察することでロシア軍がどう動くつもりなのか占うことができます。SNSに投稿される鉄道で運ばれる戦車の動画は「ミリ鉄」「撮り鉄」趣味どころではありません。中欧の人たちにとっては死活問題なのです。

ロシアも、ウクライナも兵站を鉄道に頼っているせいでしょうか、鉄道を破壊するようなことはほとんどしていません。例外的に、ロシア軍は5月4日に首都キーウや西部リビウなど8地域に向けて発射し、ウクライナが迎撃できなかった一部は着弾し、駅舎や電力施設が被害を受け、輸送インフラの破壊を狙った攻撃とみらました。

ただ、キーウなどは、すでにロシアは侵攻をあきらめていると考えられます。リビウには、当初から侵攻するつもりなどなかったでしょう。そうして、これ以降はロシアによる目立った大規模な鉄道の要衝に対する攻撃はみられません。

東部・南部の鉄道はロシア軍も使っているでしょうから、これを破壊することはしないでしょうが、民間人を巻き込むような都市部へのミサイル攻撃ではなく、今後ロシアが使う見込みのない西部等では鉄道網を徹底的に破壊する物流を阻害する効果的なミサイル攻撃をするべきだったと思うのですが、ロシアはそうしませんでした。

一方は、ウクライナは今回鉄道の要衝である、リマンを奪還しました。この奪還は、リマン市がロシア連邦に所属したとされてから、24時間以下で行われました。これは、史上最短の「併合」かもしれません。ギネスブックに登録されるかもしれません。

リマン駅は、鉄道の要所ということで、駅付近の路線図。さすがに複雑で、駅の前後にループ線が2か所あります。(下地図)


リマンは、ロシア軍がドネツク州北部への軍事作戦や物流の拠点としていました。ウクライナ軍報道官は1日、リマンの解放は、ロシアが大部分を支配する東部ルガンスク州への進軍を可能とし、「心理的にもとても重要だ」と述べました。

ウクライナ軍は9月上旬に北東部ハリコフ州の広域でロシア軍を撤収させることに成功しました。更に隣接するドネツク州でも要衝リマンを奪還し、東部で反転攻勢を続けている形になりました。

以上のような状況を考えれば、ロシア軍にとってもウクライナ軍にとっても、いかにリマンが鉄道の要衝、すなわち軍事上の要衝であるのか理解できます。

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2022年8月12日金曜日

エストニアとラトビア、中国との経済枠組みを離脱 リトアニアに続く―【私の論評】国内投資で失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきっていた(゚д゚)!

エストニアとラトビア、中国との経済枠組みを離脱 リトアニアに続く

バルト三国

バルト3国のエストニアとラトビアは11日、中国との経済的な協力枠組みからの離脱を決めたと発表した。枠組みにはかつて中東欧などの17カ国と中国が参加していたが、リトアニアが昨年離脱を宣言しており、これでバルト3国全てが離脱することになった。

 枠組みは2012年に始まり、巨大経済圏構想に関する経済協力などを掲げていた。エストニアとラトビアの外務省は「中国とは今後、国際ルールに基づく秩序と人権を尊重した協力を通じ、建設的で実利的な関係を築く努力を続ける」との声明を出した。ラトビアは「現在の外交、通商政策の優先順位を考慮して決定した」としている。

【私の論評】国内投資で失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきっていた(゚д゚)!

昨年リトアニアが、中国との経済枠組から離脱したことは、このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
リトアニアでも動き出した台湾の国際的地位向上―【私の論評】国際社会からの共感とNATOによる兵力配備がリトアニアの安全保障の根幹(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事からリトアニアが離脱した経緯に関わる部分を引用します。

リトアニアは先にも掲載したように、2012年に開始された「中・東欧サミット」、いわゆる「17+1」の参加国でした。同サミットは、EU加盟国のポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア、スロベニア、リトアニア、ラトビア、エストニアの11か国とEU非加盟国のセルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、アルバニア、モンテネグロの5か国の合計16か国でスタートし、2019年にギリシアが加わり17か国となりました。

中国が一帯一路の一環として、これら諸国との貿易、投資を増大させることが期待されていました。しかしながら、今年5月にリトアニアは、「期待していたほどの経済的メリットを得られない」として、「17+1」の枠組みからの離脱を明らかにしました。台湾代表処の設置は、これに引き続くものであり、単純に、台湾からの経済メリットのほうが中国より大きいと判断したかのように見えますがそうではありません。

リトアニア国防省は、今後10年間を対象とする「脅威評価2019」という文書を公表しています。旧ソビエト連邦の共和国として、長年独立運動を実施していた歴史から、脅威評価のほとんどはロシアで占められています。

しかしながら、脅威として名指しされていた国は、ロシアの他は中国のみです。ロシアの脅威が政治、経済、軍事と幅広く述べられているのに対し、中国からの脅威は、情報活動の拡大ででした。中国は、香港や台湾に対する中国の主張を正当化する勢力の拡大を図っており、今後このような活動がリトアニアを含むEU諸国で広がってくるであろうという評価です。

「17+1」が経済的繁栄を目指すものではなく、中国の影響力拡大に使われているというのがリトアニアの見方です。今年5月リトアニア議会は中国のウィグル人に対する扱いを「ジェノサイド」として、国連の調査を要求する決議を行いました。リトアニアでは1990年の独立に際し、ソ連軍により市民が虐殺されるという事件が起こっており、共産党に対する嫌悪感も相まって、反中国に傾いたという事ができます。
今回は、リトアニアに続き、エストニアとラトビアも離脱ということで、全バルト三国が離脱したのです。

リトアニアの首都ヴィリニュス ゴシック建築と近代的ビルが混在して立ち並ぶ

こうした背景には、上で述べたようなものもありますが、それ以外にもやはり経済的な背景もあると考えられます。それについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中東欧が台湾への接近を推し進める―【私の論評】中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしている(゚д゚)!
世界各国地域の一人当たりGDPのトップ30を見ると、米国は約6.3万ドルで世界第9位、西側に属した日本は約3.9万ドルで第26位、同じくドイツは第18位、フランスは第21位、英国は第22位、イタリアは第27位、カナダも第20位と、米ソ冷戦で資本主義陣営(西側)に属した主要先進国(G7)はすべて30位以内にランクインしています。

一方、米ソ冷戦で共産主義陣営(東側)の盟主だったロシアは約1.1万ドルで第65位、東側に属していたハンガリーは約1.6万ドルで第54位、ポーランドは約1.5万ドルで第59位とランク外に甘んじている。また、世界第2位の経済大国である中国は約9,600ドルで第72位に位置しており、人口が13億人を超える巨大なインドも約2,000ドルで第144位に留まっています。

中国は人口が多いので、国全体ではGDPは世界第二位ですが、一人あたりということになると未だこの程度なのです。このような国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無でしょう。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

「16+1」は、中国と中東欧の16ヵ国の対話・協調を促進するための枠組みであり、年に1度の首脳会合を通じて様々な合意を生み出すものとされていました。元々は「17+1」でした。ギリシャは遅れて入ったので、「+1」されています。後にチェコが離脱したので現在は「16+1」とされています。
しかし「16+1」を通じた中国の対中・東欧投資は、多額のコミットがなされたものの、その多くが実現されず、実現されても大幅に遅れたり、当初の想定を遙かに超える莫大な費用がかかることが明らかとなったりしてきました。

インフラ工事のための労働力も全て中国から調達したため、中・東欧現地の雇用も促進されませんでした。「16+1」の枠組みを用いて中国と協議を行い、中国の市場開放を促すことを試みていたバルト諸国なども、頑なに市場開放に応じない中国の態度に失望を隠さなくなりました。
そもそも、一人あたりのGDPの低く国際投資のノウハウに乏しい中国が、中国よりは一人あたりのGDPが高いバルト三国に投資したとしても、バルト三国の国民が豊になることなどありません。

ちなみに、以下に中国とバルト三国の一人あたりのGDP の比較を掲載します。単位はドルです。
中国 12,359 ラトビア 20,581 エストニア 27,282     リトアニア 23,473
中国というと経済大国というイメージが強いですが、一人あたりのGDPではこの程度(世界65位)なのです。人口が 14億人もいるので、国単位としては、大きい経済であるというだけです。

中央東欧諸国では、一人あたりのGDPでは、中国を凌ぐ国も多くあります。このような国々では、  今後もバルト三国のように枠組みから抜ける国も続くでしょう。

今後は、中東欧だけではなく、世界中の中国から投資を受けている国のうち、まずは一人あたりのGDPが中国との経済枠組みから抜け出ていくことでしょう。

そうなると、いわゆる貧乏国だけが、一帯一路などの枠組みに残ることになります。そうなると、中国は投資をしても、元をとることすらできなくなる可能性があります。

中国は、国内投資でも失敗続きです。不動産バブルの崩壊はすでに報じられているところですが、高速鉄道の投資においても、大失敗しています。

2月に開かれた北京冬季五輪のために中国が整備した高速鉄道(中国版新幹線)の新路線が、需要不足で1日1往復だけの運行になっています。駅前の商業施設は閉鎖中。国家の威信をかけたプロジェクトが有効活用されていません。

 中国は北京と河北省張家口に分散する五輪会場を約1時間で結ぶ新路線を建設。中国メディアによると総投資額は580億元(約1兆2千億円)。「万里の長城」の地下深くを通る全長約12キロのトンネルを貫通させ、「ハイテク五輪」の象徴として自動運転システムも導入しました。

 大会中は1日17往復ほど運行。最高時速350キロで大会関係者や報道陣を運び、国際的に注目されました。

中国版新幹線「高速鉄道」を運営する国有企業、中国国家鉄路集団の路線延伸がとまりません。景気底上げを目指す政府の意向をくみ、2035年に路線を現在より7割増やす方針だというのです。

ただ、無軌道な拡大で不採算路線が増え、足元の負債総額は120兆円の大台に達しました。今後さらに70兆円超の建設費がかかるとみられます。

中国の高速鉄道の借金が120兆円を超える!事業は赤字続き

さらに恐ろしいのは、これが高速鉄道ばかりでなく、高速道路や国際空港でも同じように債務を増やしていることです。
 
中国の道路は、一般道はもちろん高速道路が実に立派です。貧困地域である河南、貴州や、人より羊が圧倒的に多いウイグルであっても片側3車線という立派さです。

また、発着が1日に1便のみだったり、人影さえ見ない国際空港が300を超えるとも言われています。その1つは、江沢民元国家主席が妾に会うために建設させたと噂になっているものまであります。それぐらい、中国は“隠れ不良債権”が山となっているのが実情です。

中国の「過剰債務」が表ざたになれば、世界経済はパニックを起こしかねないです。

巨大国有企業が抱える「国の隠れ債務」が、中国経済のリスク要因となる懸念があります。

国内投資でも失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきったことだったといえると思います。


巨額貸し倒れリスクに怯える中国、これが「第二のスリランカ候補国リスト」だ―【私の論評】中国は民主化しなければ、閉塞感に苛まされるだけになる(゚д゚)!


2022年7月27日水曜日

〝宇宙大国〟崩壊の危機 ロシア、ISS計画から離脱 独自のステーション建設優先「西側の制裁が相当効いている…本格的な衰退見えてきた」識者―【私の論評】ソ連崩壊時のように現在のロシア連邦は、宇宙開発どころではなくなった(゚д゚)!

〝宇宙大国〟崩壊の危機 ロシア、ISS計画から離脱 独自のステーション建設優先「西側の制裁が相当効いている…本格的な衰退見えてきた」識者

国際協調の象徴とされるISS

 ロシアの国営宇宙開発企業、ロスコスモスのボリソフ新社長は26日、2024年で国際宇宙ステーション(ISS)の計画から離脱することを決めたとプーチン大統領に報告した。欧米の制裁や民間企業の成長でロシアの宇宙ビジネスは斜陽化が指摘されており、プーチン氏が掲げた「宇宙大国」の地位は崩壊しようとしている。


 15日に社長に任命されたボリソフ氏はモスクワのクレムリンでプーチン氏と会談し、共同運用期間が終わる24年での離脱が「決定された」と説明。地球の軌道を周回するロシア独自のステーション建設が当面の最優先課題になると述べた。

 日米欧露など各国の飛行士が滞在するISSは国際協調の象徴とされ、ロシアが14年にクリミア半島を強制編入した際も関係は保たれてきた。

 ISSの運用期限は24年で、米航空宇宙局(NASA)は30年まで延長する方針を示していたが、2月のロシアによるウクライナ侵攻で延長の交渉は事実上中断した。

 ISSへの有人輸送は、長年ロシアの宇宙船ソユーズが担ってきた。昨年12月、ISSに滞在したZOZO(ゾゾ)創業者、前澤友作氏を運んだのもソユーズだった。

 だが、イーロン・マスク氏が立ち上げた米スペースXなど民間企業が相次いで宇宙事業参入している。21年のロケットの打ち上げ回数でロシアは中国と米国に大きく水をあけられた3位だ。

 ロシアの宇宙開発企業、エネルギヤのソロビヨフ主任設計士は26日、ロシアが独自の宇宙ステーションを開発する場合、最初のモジュール打ち上げは早くても28年になるとの見方を示した。ステーション建設とISSへの参加を並行しないと、ロシアは数年間、有人宇宙飛行を中断することになり「新たに再開するのは、かなりの困難が伴う」と危機感をあらわにしている。

 筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「ロシアにとって宇宙ビジネスは、米国に負けない技術力を持っていると誇示するプーチン氏の愛国主義と国威発揚の手段だった。重要な資金源でもあったが、ISSを放棄せざるをえないのは西側の制裁が相当効いているのだろう。技術力を欧米や中国にどんどん水を開けられ、ロシアの本格的な衰退が見えてきた形だ」と語った。

【私の論評】ソ連崩壊時のように現在のロシア連邦は、宇宙開発どころではなくなった(゚д゚)!

ロシアの宇宙開発というと、どうしても思い出すのは、ソ連崩壊時に宇宙飛行士が宇宙ステーションに、しばらくの間放置されことです。

1991年5月18日にミール宇宙ステーションに搭乗したセルゲイ・クリカレフが帰還したのは1992年3月でした。表向きの理由は、1991年12月26日、ソビエト連邦が解体され、クリカレフは国を持たない宇宙飛行士となったからだとされています。彼は、今でも最後のソビエト連邦市民とロシアでは呼ばれています。

セルゲイ・クリカレフ氏

ただ、本当の理由は、ソ連崩壊し、ロシア連邦がソ連の核兵器、軍事技術、宇宙技術などを継承したのですが、経済が極度に低迷し、宇宙ステーションどころではなくなったというのが実情でしょう。

実際、核兵器のメンテナンスなどでも、膨大な資金が必要です。実際、ソ連が崩壊に伴い独立した、ウクライナは、国内にソ連邦時代の核兵器が多数残っており、当時一時的に米露に続く世界第三位の核保有国になったくらいです。

ロシア連邦と同じく経済が低迷していたウクライナは、核兵器の破棄を決めました。そうして、ロシアも西側諸国もこの決定を歓迎し、核兵器の廃棄が進められることになりました。

ただ、ロシア連邦にはウクライナの核兵器を廃棄する余力すらなく、実際にウクライナの核兵器を無力化して廃棄したのは、米国をはじめとする西側諸国でした。

これだけ、経済が低迷していたロシア連邦が、宇宙開発に回せる資金はほとんどなく、ミールをしばらく放置せざるを得なかったのでしょう。

クリカレフは、現在ロスコスモス所属の宇宙飛行士です。1958年8月生まれの彼は現在63 歳、健在です。

さて今回、ロシアの宇宙開発の本格的衰退がみえてきた形ですが、今回はそれがはっきりしたということで、ロシアの宇宙開発は随分前から衰退傾向にありました。

米スペースシャトルが2011年に退役して以降、地球と国際宇宙ステーション(ISS)を往復する手段は露宇宙船「ソユーズ」だけとなりました。安定感を誇ってきたソユーズでしたが、その信頼は揺らぎました。

2018年8月にはISSに接続していたソユーズの穴が原因でISSの気圧低下が発生。同年10月に行われたソユーズ打ち上げも組み立てミスが原因で失敗し、米露の飛行士2人が緊急カプセルで脱出しました。米スペースX社は有人型ドラゴン宇宙船の実用化に成功した現在、ソユーズの独壇場は終わりました。

1950年~60年代、旧ソ連は世界に先駆けて人工衛星「スプートニク」の打ち上げやガガーリンによる有人宇宙飛行に成功。初の有人月面着陸(69年)では米国の後塵(こうじん)を拝しjましたが、71年には世界初の宇宙ステーション「サリュート1」の打ち上げを実現しました。

しかし、91年のソ連崩壊を境にロシアの宇宙開発は大きく停滞しました。90年代には国家資金が宇宙分野に回らず、人材も大量に流出。2000年発足のプーチン政権は宇宙大国再興を掲げましたが、明るい展望はありませんでした。

米科学者団体によると、19年3月末時点で稼働中の人工衛星は米国901基、中国299基に対し、ロシアは153基。昨年1月~12月中旬のロケット発射成功回数も中国の35回、米国の30回に対し、ロシアは15回にとどまりました。

ロシアは現在、ソ連崩壊後で初の純国産ロケット「アンガラ」の開発を進めています。汎用(はんよう)ロケットモジュール(URM)を組み合わせ、軽量級から重量級まで各種のロケットを造る構想です。ただ、技術不足から試験発射が2度行われたのみで、23年までの有人飛行という目標にはほど遠いです。

極東アムール州では12年から、アンガラの射場設備も備えたボストーチヌイ宇宙基地の建設が進んでいます。ところが、給与未払いや建設費の横領、作業員のストライキと醜聞続きで、やはり計画は大幅に遅れています。

ボストーチヌイ宇宙基地の建設現場

ちなみに、基地建設に関連して総額約110億ルーブルを超える規模の不正支出事件が摘発されて2019年に58人が有罪判決を受けました。

そもそも、現在のロシア連邦のGDPは、韓国を若干下回る程度あり、東京都と同規模です。一人あたりのGDP は10000ドルを若干超える程度であり、このような国が宇宙開発するのは、そもそも最初から無理筋というものです。中国の一人あたりのGDPもロシアを若干上回る程度ですが、人口がロシアの10倍ですから、国あたりのGDPでは、10倍あります。

しかし、中国ですら宇宙開発は難しいと思います。ソ連は、米国と宇宙開発競争と、軍拡競争を繰り広げた結果、国力が衰退し、結局崩壊しました。実際、このブログでも、中国が米国と宇宙開発競争と軍拡競争を繰り広げれば、旧ソ連のように経済が衰退し、旧ソ連のように崩壊する可能性があることを主張したことがあります。

中露がこのようになってしまうのには、もう一つ理由があります。それは、非常に非効率な官僚主義です。米国の宇宙開発でも、この官僚主義がはびこっています。特にNASAのそれは、非常に評判が悪いです。

実際ISSの運用管理は、NASAが管理すると、非常に非効率であり、採算を度外視した管理をするため、現在では、民間企業が行っています。民間企業が行うと利益が出るのですが、NASAが直接管理すると、信じがたいほど低効率で、利益が出るどころか、大赤字になるそうです。

中露とも、宇宙開発には民間企業を関わらせていますが、それでも官僚主義による弊害は免れないでしょう。

米国が、米スペースXなど民間企業などに委託するのも、官僚主義による弊害を避けるためです。

スペースX Crew-2 ISSへ接近するエンデバー

現在のロシアは、ウクライナ侵攻と、西側諸国による制裁で、宇宙開発どころではありません。ロシアは今後宇宙開発から脱落する可能性が高いでしょう。

ただし、ソ連崩壊後でも宇宙開発を完璧に捨て去らずに、何とか温存し、復活させたロシアです。何かの形で、将来復活してくる可能性は、わずからながら残されていると思います。ただ、しばらくの間表舞台から姿を消すのは間違いないでしょう。

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2022年7月24日日曜日

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[スキャナー]ロシア産業界にじわり打撃、制裁で機械も原材料も不足…「一番怖いのは機械の故障」

ロシア銀行大手ズベルバンクから預金を引き出すために列をつくる人々=2月25日、チェコ・プラハ

 ロシアがウクライナ侵略を始めてから24日で5か月となる。プーチン露大統領は、侵略に伴って米欧や日本が科してきた対露制裁を、ロシア経済を発展させる機会にすると強弁してきたものの、産業界の基礎体力はじわじわと奪われている。
  「一番怖いのは機械の故障だ。ここの製本機はドイツ製で、企業が撤退したので保守サービスが受けられない。いざとなったら自力での修理も考えている」

 モスクワ北東部で印刷工場を経営するアルチョム・ジュジャコフさん(51)は深いため息をついた。工場にある印刷機器はすべて外国製だ。今年4月に欧州連合(EU)が発動した、精密機器の輸出を禁じる制裁の直撃を受けた。

 ジュジャコフさんの工場では、ほぼ全量を欧州製に頼っていたインクも輸入できなくなった。侵略前からロシアでは製造していなかった厚手の上質紙も手に入らない。それ以外の紙やインクは中国製などで代替しているが、調達コストは2割ほど上がり、最近はロシア製の紙も品薄だという。

対応に奇策次々

 プーチン政権は制裁の打撃を緩和し、自国経済の機能を維持するため、国際ルールも無視して様々な奇策を繰り出している。

 最も制裁の影響が顕著だとされる自動車産業の「生産を維持し、雇用を守る」(副首相)ため、政府は5月、新車を認可する際の安全基準などを引き下げた。

 ロシアの自動車大手アフトバスが6月に発表した「新型モデル」は、ブレーキ時にタイヤがロックしないようにするアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)やエアバッグといった装備が付いておらず、排ガス性能も最新の基準には適合しない。アフトバスを傘下に置いていたフランスのルノーが保有株を売却して撤退したため、いずれも自前の技術では調達できなくなったのだ。

【随時更新】ロシア軍、ウクライナを侵略…最新ニュース・速報まとめ

 アフトバスは、ソ連時代に生産していた車種の復刻版も相次いで発表し始めた。ロシアの自動車業界は、急速に懐古色が強まっている。


 露政府は3月には、対露制裁で輸入が禁止された品目について、商標権者の許可なく輸入して流通させても合法とみなす「並行輸入」制度を導入した。産業貿易省が、スマートフォンや自動車、精密機器から医療品まで広範なリストを発表しており、国が率先して違法行為を推奨している格好だ。

 外国のリース会社から借りている航空機を返却せず、所有権をロシアの航空会社に移すことを認める法律も発効している。

物流混乱

 制裁対象の品目以外でも原材料の調達は課題になっている。モスクワでクラフトビールの醸造会社を経営するアレクサンドル・グロモフさん(32)は、欧州の仲介業者から輸入しているモルト(麦芽)やホップの供給が途絶える事態を心配し、精神安定剤を服用している。侵略の影響で物流が混乱したため、国境の税関も大混雑しており、原料を運ぶトラックの通関に1週間以上かかることもあるという。

 人材流出も加速している模様だ。米紙ニューヨーク・タイムズは、侵略開始から1か月で5万~7万人のIT技術者がロシアから出国したとの推計を伝えた。周辺国などで人材の囲い込みが起きており、侵略は長期的にもロシア経済に深い傷を残しそうだ。

【私の論評】対露経済制裁は確実に効いており、3年後くらいにはソ連崩壊時並になるのは間違いない(゚д゚)!

ロシア制裁については、すぐには効果がないとか、抜け穴があるので効かないなどの意見もありますが、どの意見も明確な定量的な裏付けがないままになさてれいます。

ただ、わかっていることもあります。ロシア経済発展省は24日までに、今年上半期に破産宣告あるいは債務返済のための資産整理を申告した同国国民の人数は前年同期比で37.8%増を記録したとの報告書を公表しました。

これらロシア国民の総数は12万1313人で、破産宣告が最多の地域は首都モスクワの6000人以上でしたた。首都近辺の地域がこれに続き5600人以上となりました。

同省当局者は今年上半期の数字に触れ、破産に見舞われた国民の人数は既に相当な高水準に達していると認めました。

報告書によると、個人の破産は2019年には6万8980人だったが、21年には19万2833人とほぼ3倍に膨れ上がっていました。

個人的な破産宣告の件数とロシアによるウクライナ侵攻との明白な因果関係を示す材料はないが、ロシアは侵攻以降、多数の国際的企業が同国市場から撤収するなどの影響を受けています。ロシアは日米欧やほかの諸国から資産凍結などの制裁も科されました。これは、やはり制裁の強化によるものとみるべきでしょう。

さらに、米ソ冷戦も参考になります。第二次世界大戦の終結直前の1945年2月から1989年12月までの44年間続き、連合国としては味方同士であったアメリカ合衆国とソビエト連邦が軍事力で直接戦う戦争は起こらなかったので、軍事力(火力)で直接戦う「熱戦」「熱い戦争」に対して、「冷戦」「冷たい戦争」と呼ばれました。

ソビエト連邦の崩壊(1988年 - 1991年)とは、ソビエト連邦(USSR)が内部分裂を起こし、主権国家としての存続を断念した出来事です。

冷戦が始まってから、ソビエトが崩壊するまでは、 45年もかっているのです。ソ連は崩壊しましたが、新たにできたロシア連邦が、ソ連の軍事技術、宇宙開発技術、核兵器などを継承しました。

ただ、経済は著しく低迷しており、その窮状は、想像を超えており、当時のロシア連邦空軍は燃料すら十分ではなく、国内のパトロールさえままならぬ状態で、見るに見かねた米空軍がロシア連邦空軍がパトロールできるように燃料などの支援を行ったとの記録があります。

このような状態にあってもロシア連邦は、核兵器や軍事技術を継承し維持したのてす。1991年ウクライナは独立しましたが、ウクライナはこのとき世界第三位の核保有国となりましたが、核兵器を廃棄することを決めました。もし、ウクライナが核兵器を廃棄しなければ、今日ロシアに侵攻されることはなかったかもしれません。

米シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)は、1914年の第1次世界大戦勃発から約100年間の経済制裁、204ケースを分析した。対象国の政策変更を実現させたか、制裁の効果はどの程度あったか、などを1~16点で評価しました。その結果、制裁が「成功」とされる9点以上だったケースは、34%でした。

ジェフリー・ショット氏

分析を担ったPIIEのジェフリー・ショット氏(73)は、「中でも軍事行動に対する制裁の成功ケースは約20%にとどまった。いまのロシアに対する輸出制裁は武器を製造できなくし、徐々に兵力を弱めるだろうが、制裁でただちに軍事行動を止めることはできない」と説明しています。

だからといって、「さらに厳しい制裁を科して対象国を追い込むことは、激しい対抗行動を引き起こす」として、ショット氏は太平洋戦争前の日本に対する米国の制裁を例にあげています。1941年夏に米国が打ち出した石油輸出禁止によって追い込まれた日本は、真珠湾を攻撃し対米開戦に踏み切りました。「石油禁輸が日本に多大な圧力となり、不幸な結果を招いた」

ショット氏によると、最古の経済制裁は紀元前432年の古代アテネによる経済封鎖にさかのぼります。それがスパルタとの「ペロポネソス戦争」につながったといい、制裁が戦争の理由の一つになるのは昔から変わらないようです。

制裁が失敗に終わる原因について、ショット氏は「抜け穴」となる支援国の存在をあげる。「21世紀に入りグローバル化が加速し、モノやサービスを供給するさまざまな経路ができたため、制裁対象国を支援する国がでてくる」。実際、制裁を科せられたロシアも中国やインドに原油などを輸出することで、経済が下支えされています。

ショット氏は、ロシアの軍事行動に武力ではなく経済制裁で対抗するのは「やむをえない」といいますが、「歴史からの教訓の一つは、制裁は始めるよりやめるのが難しいことだ」と長期化を予測しています。

制裁には別の意味合いもあります。「制裁側が同盟関係を広げて、包囲網をつくることが重要だ。一致して制裁を科すことは、ロシアに対してだけでなく、他の国が将来とる可能性のある行動、たとえば中国が台湾に対して軍事行動をとることを牽する効果もある」
としています。

ただ、以上は具体的数値に基づくものですが、実際にロシア経済が戦争継続が不可能になるまで、どのくらいの年月を必要とするかの答えにはなっていません。

それに対する答え出した人もいます。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
対露経済制裁は効果出ている 3年続けばソ連崩壊級の打撃も…短期的な戦争遂行不能は期待薄―【私の論評】制裁でロシア経済がソ連崩壊時並みになるのは3年後だが、経済的尺度からいえばこれは長い期間ではない(゚д゚)!
販売できる商品が何もない魚介類専門店で店員に詰め寄る市民たち(1990年11月22日、モスクワ)

この記事の元記事で、高橋洋一氏はロシア経済について具体的に数字を出しながら推測しています。その部分を以下に引用します。
 5月13日の英エコノミスト誌によれば、ウクライナ侵攻以降、ロシアの輸入は44%減少、輸出は8%減少した。輸出の減少が抑えられているのは、エネルギー価格の上昇にも支えられているという。

 これらからロシアの国内総生産(GDP)の動きを推計すると、年率10%程度の減少になるだろう。これは、リーマン・ショック並みの影響だといえ、これが3年間程度継続すると、ソ連邦崩壊並みになる。

ロシアが公表するGDPなどの資料は、昔から信用できないことが多く、だから髙橋洋一氏は輸入、輸出に着目したのだと思います。GDPに関しては、ロシア政府が公表するものですが、輸出入に関しては、相手国があることですし、あまりごまかすことはできません。

GDPと、輸出入に関してはある程度の相関関係があります。経済が良くなると、輸入が増える傾向にあります。輸出は、GDPに直接影響を与えます。これらから推測すると、ロシアのGDPの事実額までは推定できないかもしれませんが、GDP伸び率などは、当たらずとも遠からずの予測はできます。

これらの推測から、現状の制裁が3年続けば、ソ連邦崩壊時並の経済状況になると高橋洋一氏は予測しているのです。

経済制裁だけで、こうなるのですから、ロシアのへの経済制裁は相当効いているといえます。冷戦が始まってから、ソ連邦が崩壊するまでには45年もかかっていることを考えると、3年でこれほどの成果を出せる現状の経済制裁はかなり有効だということがいえると思います。

第二次世界大戦後、ソビエト連邦のGDPは米国についで世界第二位だったこともあります。その後日本に追いつかれて、世界第三位に落ちましたが、その後は冷戦を経て、ソ連が崩壊し、ロシア連邦がその後を引き継いだのですが、経済は落ちる一方でしたが、プーチンになってからエネルギー戦略でいっとき多少持ち直したものの、また落ち始め、現在のGDPは韓国を若干下回るまでに落ち込んでいます。

そうして、韓国の人口は、5千万人であり、ロシアの人口は1億4千万人ですから、一人あたりのGDPではロシアは1万ドル(日本円で100万円くらい)に過ぎず、これは途上国並です。一人あたりのGDPは、一人あたりの年収に近似できますから、いかに低いかが理解できます。

もともとの水準低いからこそ、3年間現在の水準の経済制裁が続けば、ソ連崩壊並になるのでしょう。

これを期間が長いとか、効き目がないという人は、一体何をを標準としているのか、聞きたいです。

先にあげた、ブログ記事にも述べましたが、もし戦争がエスカレートして、NATOとロシアとの直接戦争になってしまったとしたら、ロシアは核兵器数だけは世界一ですから、これは大変なことになります。

通常兵力では、現在のロシア連邦軍は米国を抜いたNATO軍よりも遥かに脆弱であり、まともに対峙することもできません。

核兵器についても、数は多いものの、旧式なものが多く、新型を開発しているとはいっても実数は多くはないです。さらに、防空能力でも米EUにはとても及びません。核兵器を用いても何をしてもロシアには全く勝ち目はありません。

ただ、両陣営が本格的に武力で対立して、核ミサイルを打ち合えば、世界は第二次世界大戦よりもはるかに甚大な被害を被ることになります。そこから、復興するには数十年の年月を要することでしょう。

これと、経済制裁の3年とどちらが良いかということになれば、経済制裁のほうが良いに決まっています。

ただ、これは思ったよりは長いと感じてしまうのかもしれません。それに、たしかに直接被害を被っているいるウクライナの人にとっては、大変なことです。

経済制裁でロシアの国力を削ぎ、軍事的にも弱体化させ、3年間でロシア連邦の戦力を削いで戦争継続を不能にするには、現在はない新たな手立てが必要だと思います。

現状では、NATOはウクライナ軍がロシア領内に侵攻することがないように、兵器も制限をつけているようですが、これはそのままでも良いのですが、ウクライナの都市などが、ロシア軍のミサイルによって徹底的に破壊されている状況にあります。

この状況を変えるために、防御型の兵器を強化すべきです。特に、ロシアからのミサイルを迎え撃つ兵器が必要です。たとえば、イスラエルのアイアンフィストのようなミサイル兵器です。


この装置は、RADAエレクトリック・インダストリーズが開発した固定式のレーダーセンサー、およびエルビット・システムズ(英語版)の子会社であるエリスラ(英語版)社が開発した付属の受動型赤外線検知器により、飛来する脅威を探知します。脅威が差し迫っている際には、炸裂する投射迎撃体がその前方へ撃ち出されます。

迎撃体は脅威となるものの非常に近くで炸裂し、破壊もしくはこれを逸らして、弾頭を起爆させることなしに安定を失わせます。このためには炸裂の爆風効果のみが用いられます。迎撃体のケーシングは可燃性の素材で製造されており、そこで炸裂によって生成される破片は存在せず、副次的な損害を最低限にする助けとなっています。

このような防空システムは様々なものがあります。有効なものを配備して、ロシアからのミサイル攻撃による被害をなるべく減らしつつ、経済政策を継続するという方式が良いと思います。

そうすれば、ロシアからのミサイル攻撃を受けつつも、ウクライナの復興ができるでしょうし、現在国外に退去していた人たちが、ウクライナに戻ることも増えているといいます。防御兵器が充実すれば、これも加速すると思います。

いずれにしても、ロシアへの経済制裁が効いていないということはありません。そうして、私自身は3年間という期間は長いとは思いません。


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