2019年11月20日水曜日

香港人権法案、米上院が全会一致で可決 中国が反発―【私の論評】かつてのソ連のように、米国の敵となった中国に香港での選択肢はなくなった(゚д゚)!

香港人権法案、米上院が全会一致で可決 中国が反発

米上院は19日、中国が香港に高度の自治を保障する「一国二制度」を守っているかどうか米政府に毎年検証を求める「香港人権・民主主義法案」を全会一致で可決した。

香港香港理工大学に立てこもるデモ隊に対する賛同の意を表すため、スマートフォンを
     掲げる人々の意を表すため、スマートフォンを掲げる人々
下院では既に可決されており、今後上下両院の調整を経た上で、トランプ大統領に送付される。

上院はまた、香港警察に催涙ガスや催涙スプレー、ゴム弾、スタンガンなど特定の軍用品を輸出することを禁じる法案も全会一致で可決した。

ホワイトハウスはトランプ大統領が香港人権法案に署名する意向かどうかをまだ明らかにしていない。ある米政府当局者は最近、決定はまだ下されていないと述べたほか、トランプ氏側近には対中通商交渉への悪影響を懸念する向きと、人権や香港問題を巡り中国に明確な態度を示すべきと主張する向きがあるため、激しい議論が交わされるだろうと予想した。

共和党のルビオ上院議員は「香港の人々は何が待ち構えているかを分かっている。自治権と自由を損なおうとする着実な動きがあることを理解している」と述べた。

法案は、香港への優遇措置継続の是非を判断するため、一国二制度に基づく高度な自治を維持しているかどうか、米国務長官に毎年検証することを義務付ける内容となっている。

民主党のシューマー上院院内総務は「習近平国家主席に対してわれわれはメッセージを送った。あなたの自由を弾圧する行為は、香港であれ、中国北西部であれ、どこであれ容認されない。自由を妨害し、香港の人々、若者や年配者、抗議を行っている人々に対してこんなに残虐な行為を行えば、あなたは偉大な指導者ではなく、中国も偉大な国にはなれない」と強調した。


<中国は反発>

中国外務省は20日、同法案の上院可決を非難し、国家の主権と安全保障を守るために必要な措置を取ると表明した。

外務省は声明で、米政府は香港と中国の問題への介入をやめ、香港関連法案の成立を阻止する必要があると主張した。

外務省報道官は声明で「事実と真実を無視している。ダブルスタンダードが適用されており、香港情勢をはじめとする中国の内政に露骨に干渉している」と表明。

「国際法と国際関係に関する基本的な規範に深刻に違反している。中国は非難し、断固として反対する」と述べた。

米国が香港情勢など中国の内政への介入を直ちに中止しなければ「悪い結果が跳ね返ってくるだろう」とも述べた。

ポンペオ米国務長官は18日、米政府は香港情勢を深く懸念しているとし、香港当局に対し市民の懸念に対応するための明確な措置を打ち出すよう呼び掛けた

【私の論評】かつてのソ連のように、米国の敵となった中国に香港での選択肢はなくなった(゚д゚)!

これからの香港情勢に決定的な影響を与えるのは、米国の「香港人権・民主主義法案」です。

「香港人権法案」の発端は香港政府の「逃亡犯条例」改正案にあり、条例の施行によって香港の自由や人権、自治が侵害され、米国を含む他国の香港における安全や利益が脅かされるから、何とかしないといけないという背景がありました。

ところが、9月4日に香港政府が条例の完全撤回を発表しました。「香港人権法案」が立脚する基盤がこれで崩れたわけですから、米国も法案を取り下げるのが筋ではないか、という理屈ですが、米国はそう思っていないようです。

言ってみれば、このたびの動乱を目の当たりにした国際社会はすでに香港に対する信頼を失ったのです。今後もいつそういう恐ろしいことになるか分からないので、何かしらの担保がないとみんなが安心できません。だから、「香港人権法案」はやはり必要だ、という文脈になっているのです。


法案のベースとなっているのは、「米国・香港政策法」(United States–Hong Kong Policy Act、合衆国法典第22編第66条 22 U.S.C.§66)です。「香港政策法」は香港の扱い方を規定する法律として、1992年に米国議会を通過し、1997年7月1日、香港が中国に返還されると同時に効力が発生しました。

この「香港政策法」をベースとし昨今の情況を盛り込んで作り上げた「香港人権法案」は米国議会の超党派議員が共同提出した法案で、ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)の支持も得られ、いわゆる共和・民主の与野党合意事項として注目されています。

結論からいうと、たとえ、トランプ大統領が来年(2020年)の選挙で落ち、民主党の誰かが新大統領になり、政権交代になったとしても、「香港人権法」だけはしっかり継承し、いわゆる対中強硬路線を踏襲せざるを得ないのです。

トランプ氏の落選を切望している中国に冷水をかけ、諦めさせる必殺の法律なのです。では、「香港人権法案」とはどういうものなのでしょうか。以下に、要点だけ抜粋して紹介します。

まず、香港返還後の高度な自治を保障する「中英連合声明」の担保という意味合いがあります。声明は国際条約同等とされる地位を有している以上、中国だけでなく、国際社会が香港の自治を認めなければならないです。

なぜならば、香港は世界屈指の国際都市であり、いろいろな国が香港に事業を展開し資産を保有しており、米国民だけでも8万人以上居住しているのですから、全員の利益が絡んでいるからであるのです。

香港返還式典 1997年6月30日

次に、香港の特別待遇の問題に関連するものです。社会制度の異なる中国本土と違って香港は西側自由社会の一員として、植民地時代から法の支配や自由経済といった分野でいずれも国際基準に達していたことから、「香港政策法」の下で米国は香港に通商や投資、出入国、海運等の諸方面において特別待遇を提供するという約束がなされました。

しかし「香港政策法」には不備がありました。つまり、香港が特別待遇を受ける際に、十分な自治が与えられているかどうかを判断する基準が明確ではなかったのです。中国は香港をコントロールしながらも、米国が香港に付与した特別待遇を濫用・悪用していないか、これを監督し、牽制する機能が必要だったのです。「香港人権法案」には「香港政策法」の強化版としてこの機能が盛り込まれました。

さらに、上記の監督・監査権に加え、罰則も用意されました。香港の自治権の毀損が認められた場合、米国は香港に与えてきた特別待遇を打ち切ることができるようになります。

香港の人権や民主・自治を侵害した者に対して、米国における資産を凍結したり、米国入国を拒否したり制裁することも可能になります。この制裁措置の意義が非常に大きいのです。たとえば、今回のような市民抗議活動に対して当局が武力を動員して鎮圧したりすると、その関係する当局者らが制裁対象とされる可能性が出てきます。

「香港人権法案」の下で、米国国務長官は香港が「中英連合声明」や「基本法」、「国際人権規約」等に基づき、人権や自由ないし自治をきちんと保障しているかどうか、人権侵害で制裁対象となる人物がいるかどうかを検証し、毎年レポートにまとめて米国議会に提出しなければならなくなります。

分かりやすくいえば、香港は上場企業のようなもので、経営の透明性が必要であり、それを検証する監査役を米国が引き受け、毎年監査報告書を作成し、開示し、そこで国際社会の信頼を得るということです。

中国がこの法案に激しく反発している理由としては、これで香港独立の機運が高まるのではないかという懸念が挙げられています。米国は、それは違うと反論するでしょう。民主と人権はいずれも一国二制度、基本法によって保障されている権利なのですから、これらについて国際社会の監督を受け、問題なく太鼓判を押されれば、逆に香港の信頼度の向上につながるのではないかという論理です。

詰まるところ、香港は国際都市であり、オープン、透明でなければ、国際社会は困ります。もし、中国がどうしても独自のルールで香港をコントロールし、「私物化」するのであれば、やがて香港が中国の一地方都市と何ら変わりのない存在になります。

そうした状況になって、中国が一方的に香港は自由だと主張しても、誰も信用しません。ましてや米国が特別待遇を与え続けるなど、そんな虫のいい話はありません。

9月3日付けのワシントン・ポストは、マルコ・ルビオ上院議員(共和党)の「中国は香港で本性露呈、米国は傍観できぬ(China is showing its true nature in Hong Kong. The U.S. must not watch from the sidelines)」と題した寄稿を掲載しました。その一節を以下に抜粋します。
香港の特殊な地位に注目してほしい。それはつまり、独立関税区域として開放的な国際金融システムや、米ドルペッグ制(連動制)の香港ドルがあって、北京はこれらの仕組みを利用して利益を得ていることだ。だから、米国は行政的に外交的にこれらの条件を制限しなければならない。さらに、マグニツキー法を生かす方法もある。人権侵害にかかわる当局者の個人を制裁することだ。マグニツキー法は外国の個人や組織を制裁することを認めている。
マグニツキー法という枠組みがあるなか、香港にフォーカスした「香港人権法案」で条件を具体化し、監督・監査機能と罰則を強化するという緻密なアプローチです。

もっと驚いたことに、ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)だけでなく、民主党上院議員のチャック・シューマー氏まで法案賛成に回っています。

氏は9月5日、翌週に開かれる議会で「香港人権法」の審議と議決を目指すことは民主党議員にとって最優先任務の1つであるとし、「香港市民が言論の自由をはじめ、その他基本的権利を行使するにあたって、われわれは中国共産党の取った行動に対して姿勢を示さないといけない。これは大変重要なことだ。われわれは習主席に、『米国議会は香港市民側に立っている』という姿勢を示す必要がある」と述べました(9月4日付けボイス・オブ・アメリカ)。

ペロシ下院議長とシューマー上院議員といえば、誰もが知っている通り、トランプ大統領の2大天敵です。この2大天敵が対中姿勢、殊に香港問題においてはトランプ大統領側に立っているだけでなく、ある意味でトランプ氏よりも強硬姿勢を示しているのです。

ペロシ下院議長(左)とシューマー上院議員(右)

中国にとってもはや選択肢は残されていません。「香港人権法」が可決されたため
、中国は苦境に陥るでしよう。

このブログでも以前、この法律について述べたことがあります。以下にその結論部分を掲載します。
そもそも、トランプ大統領の意図など全く別にして、習近平国家主席が中国の誇りであるべき自由都市、そして、台湾に安心をもたらす自治政府の一例である香港に不必要なダメージを与えようとしているのなら、米国は中国政府を信用することなどできません。 
これは、トランプ大統領の意思がどうのこうのと言う前に、米国の意思であることを理解すべきと思います。
 はっきり言えば、トランプ政権がどうのこうのということは別にして、中国はかつてのソ連のような米国の敵となったということです。

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2019年11月19日火曜日

日米貿易協定承認案が衆院通過―【私の論評】日米FTAが「沢尻エリカ問題」よりもニュースバリューがない理由はこれだ(゚д゚)!

日米貿易協定承認案が衆院通過

日米貿易協定承認案が賛成多数で可決された衆院本会議=19日午後 

衆院は19日の本会議で、今国会の最重要課題となっている日米貿易協定の承認案を与党などの賛成多数で可決した。承認案は米国産農産物への関税を撤廃・削減する一方、米国が日本車への追加関税を課さないことなどを確認する内容で、日米両政府は来年1月1日の発効を目指している。

 日米貿易協定では、米国の牛肉や豚肉、小麦、乳製品の一部などで現在の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)並みに関税を引き下げる。米側は日本車への追加関税や数量規制を発動しないことを約束した。

 政府・与党は当初、衆院通過後30日で自然承認される憲法の衆院優越規定と12月9日までの今国会会期を念頭に、今月8日の衆院通過を目指していた。しかし、閣僚の相次ぐ辞任などの影響で衆院外務委員会での審議が停滞し、予定よりも衆院通過がずれ込んだ。

 承認案をめぐる与野党の攻防の舞台は参院に移るが、会期末までに参院外務防衛委員会で審議できる日数は限られており、政府・与党は会期内の承認に向けて万全を尽くす考えだ。

【私の論評】日米FTAが「沢尻エリカ問題」よりもニュースバリューがない理由はこれだ(゚д゚)!

このニュース「桜を見る会」や「沢尻事件」に埋没してしまい、テレビ・新聞などではほとんど報道されませんでしたが、これは重要なニュースであることには違いありません。

沢尻エリカ

ただし、ここまで埋没したのには、それなりの理由があります。それは、日米はこの協定を結ぶまでもなく、もともと貿易をしており、さらには新たな貿易協定を結ぼうとしたのは、米国のほうからだからです。

それ以前に、米国からはオバマ時代にTPPを提案してきたのですが、トランプ氏が離脱を決めました。

そうして、新たに日米FTAを結ぼうと提案してきたのは、トランプ大統領のほうです。日本から言い出したことではありません。

米国が自分の言い分だけを言い立てて、日米FTAの交渉を困難なものにしてしまえば、日本側としては断れば良いだけです。断った上で、TPPへの加入を提案すれば良いだけです。

トランプ政権としては、このような対応をされれば、TPPに入るか入らないかの選択をするしかなくなります。米国にとってだけ、都合の良い日米FTAを強要するようなことはできません。どうしても、日米FTAでなければ嫌だというのなら、日本にとっては新たな貿易協定を結ばず、今まで通り貿易をすれば良いだけです。

まさに、現在日本は世界の自由貿易をリードしていると行っても良い状況です。以前から、このブログで日本が世界の貿易をリードしていると主張してきており、半信半疑の人もいたかもしませんが、今回の日米FTAが「さくら」「沢尻」でかき消されるほどの出来事になっていること自体が、日本が世界の自由貿易をリードしていることの証左であると考えます。

もし、そうでなければ、直近のテレビでは、TPPの時にTPP芸人(TPPで日本が絶望的に不利なると手中していた人々のこと)が大勢出てきたように、FTA芸人がテレビなどを連日賑わせていたことでしょう。

現在テレビ・新聞報道には、ほぼFTA芸人はでていませんが、サイトでは多少見かけます。そもそも、国会でFTAがほとんど扱われないということが、事実を物語っているようです。そうでなければ、蓮舫さん等が、国会で「FTAがー、FTAがー」とー金切り声をあげているはずです。

本日国会を通った、日米FTAは、米FTAのうちの一部分をなすものなので交渉は今後も継続されるものです。いわゆる「為替条項」「ISD条項」といったものは今回は入っていません。

さらに、これらの条項が今後取り入れられたとしても、「財政政策が不可能になる」可能性は限りなくゼロに近く、「公的医療保険が廃止される」可能性も明確な根拠がありません。

とはいいながら、日米FTAは、域内の人口を合わせると、4億人を超える規模ですし、さらには、自由貿易圏内では、第一と第二位の大きな経済国を含む経済的には、大きな協定ですので、以下のその概要を掲載しておきます。

日米間で協議・会合が行われてきた日米貿易協定が2019年10月7日ワシントンDCにて署名されました(両国の国内手続完了通知後30日、または別途合意する日に発効)。年明けにも発効される見込みであり、世界のGDPの3割を占める経済大国である両国間の貿易協定として大きな経済効果がもたらされます。

デジタル貿易に関する協定を除き、日米貿易協定の内容としては現状物品貿易に限定されたもので、他のFTAと比べてサービス等は含みません。日米貿易協定の内容については各方面から発表されており、すでにご存じの内容を含みますが、本ブログでも改めて協定内容を確認していきます。

品目の税率について

品目の税率について、日本と米国それぞれ関税撤廃・引き下げする品目を定めています。

(1) 日本への輸入

日米貿易協定においては、農林水産品に係る日本側の関税について、TPPの範囲内となるよう税率が設定されました。例を挙げると、牛肉、豚肉、ホエイ、チーズなどになります。

TPPとの違いとしましては、コメは本協定から除外されており、日本のコメ農業界保護がとられました。また、脱脂粉乳・バターなど、TPPで関税割当枠が設定された品目について、新たな米国枠を設けないことになりました。

日米貿易協定では、取り決めがされた品目のうち、即時撤廃のもの、段階的関税撤廃・引き下げのものがありますが、そのほとんどは段階的関税撤廃・引き下げとなります。ただし、牛肉、豚肉、ホエイ等の特定の農産品に対し、輸入合計数量が一定の発動水準を超えた場合はセーフガード措置をとることができます。

また、グリセリン、ペプトン、ステアリン酸など化学製品についても関税引き下げされています。

鉄鋼製品、卑金属製品など有税工業品については、日本側は譲許していません。

(2) 米国への輸入

日本からの米国の乗用自動車の輸入については、現状の関税2.5%となりました。ただし、自動車・自動車部品について、米国譲許表にさらなる交渉による関税撤廃の取り組みがされることが明記されており、今後交渉される余地は残されています。また、首相大統領間の確認として日米貿易協定の履行中は米国通商拡大法232条の自動車・自動車部品への追加関税がされないこととされています。

日本が米国に輸出するその他工業製品では、幅広い品目で関税が撤廃・引き下げされることになります。

例えば、高性能機械・部品等として・マシニングセンタ、工具、旋盤、鍛造機、ゴム・プラスチック加工機械、鉄製のねじ、ボルト等や、日本企業による米国現地事業が必要とする関連資機材(エアコン部品、鉄道部品等)、今後市場規模が大きくなる可能性のある先端技術の品目(3Dプリンタ)、そのほかカラーテレビなどが関税即時撤廃・引き下げとなります。これらの品目について、今後関税無税となっていくものも多いため、工業製品を扱う日本企業についてはビジネスチャンスといえます。

原産地規則

日米貿易協定は原産地規則について規定しています(日本においては協定附属書Ⅰ、米国は協定附属書Ⅱによりそれぞれ規定されています)。関税撤廃や引き下げの恩恵を受けるため、この原産地規則上、日本原産または米国原産と認められなければなりません。

それぞれの附属書において、原産地規則の細かな定義付けがされていますが、実質的変更基準を満たす産品として、関税分類変更基準が両国でとられています。いずれかの類の非原産材料からの生産または産品が該当する類、項もしくは号への、他の類からの変更(CC)や、同様にいずれかの項から他の項への変更(CTH)、いずれかの号から他の号への変更(CTSH)がそれぞれの品目別に定められています。

この実質的変更基準を満たすかどうか判断するため、産品や一次材料のHSコードを都度確認し確定していく作業が重要です。また、原産地についての申告内容が正しいことを担保するため、根拠資料を保管しておくことも大切です。

その他、関税分類変更基準を満たさない非原産材料を含む場合であっても、酪農調製品など一部の例外を除き、全ての当該非原産材料の価額が当該産品の価額の10パーセントを越えず、他の要件を満たす場合は当該産品を原産品とする僅少の規定がされています。

今後の動向・企業への影響について


日米貿易協定の内容としては現状物品貿易に限定されたものであり、また譲許された品目については日本向けについては主に農産品、米国では主に工業品であり、すべての品目をカバーしていません。

インドタイFTAのように、アーリーハーベスト(あらかじめ交渉項目が本妥結に至る枠組みを決めたうえで、先行して自由化を進める品目を決めていくもの)の制度は設けてられていないため、将来的にさらに取り決めがされていくか不透明なところがあります。一般最恵国待遇(MFN税率)の例外としてGATT24条により、FTAを結ぶことが認められていますが、FTAといえるためには構成地域の原産の産品の構成地域間における実質上のすべての貿易について廃止がされることが要求されています。

日米貿易協定上、将来の関税削減に向けた交渉を予期される記載 (日本へ向けた農産品、米国へ向けた自動車及び自動車部品の関税削減のための交渉) がありますし、それ以外の品目についても交渉により、さらなる関税撤廃・引下げが行われていくのか注目されます。

以上のような今後の日米交渉の動向に目を向けつつ、米国が主要マーケットである多くの日系企業にとって、グローバルサプライチェーンの構築について、改めて検討していくことが有益です。原産地規則やコンプライアンス体制も考慮しつつ、日米貿易協定で関税が引き下げられた工業製品について、海外原産から日本原産へシフトしたサプライチェーンへの変更を検討したり、自動車・自動車部品について、当面追加関税のされない日本原産を主として米国へ輸出する体制を構築することも考えられます。以上は例示にすぎませんが、適用可能な関税プランニングを適切に見極め、実行することが関税削減ひいてはコスト削減につながります。

(日米貿易協定)税率引き下げ例

日本への輸入
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米国への輸入
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現在、「沢尻」問題を、「桜疑惑」を隠蔽するために、安倍政権が画策したなどという、突拍子もないことを言う人がネットを賑わしているようですが、さすがにTPPのときのように、「FTA隠し」と騒ぐ人はほとんどいないようです。

桜を見る会

それは、そのようなことをしても、マスコミ等が取り上げないからです。そうして、これはマスコミの報道の自由などというものではなく、ニュースバリューが少ないからにすぎません。

それにしても、「沢尻問題」はまだわかるような気がしますが、「桜を見る会」が問題となり、日米FTAがニュースにならないというのも、なんだかなぁと思ってしまいます。

ただし、TPPの時のように、多くの人々に無用な心配をさせることがなかったということは、良かったのかもしれません。

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2019年11月18日月曜日

【映画】「一人っ子の国 (原題 – One Child Nation)」が中国共産党の正体と中国社会の闇を詳かにする―【私の論評】一人っ子政策は、民衆レベルでどのように実行されたのか?戦慄の事実(゚д゚)!




中国共産党が人口抑制策として、1979年から「一人っ子政策」を行ってきたことはあまりに有名だ。その効果が発揮され、中国の少子高齢化が急速に進んできたため、2015年にはこの政策を廃止し、2016年に「二人っ子政策」へと転換している。

また、何十年も実施してきた「一人っ子政策」の弊害として、中国では女性の数が圧倒的に少なく、結婚できいない男性が3000万人にも上ると報じられている

中国人口のアンバランスな男女比が原因で、今後30年内に、約3000万人の男性が数の上で結婚相手がいない状況に置かれると中国主要メディアが報じた。中国人男性の結婚難はすでに深刻な社会問題となっているが、今後も多くの「剰男」(余った男性、売れ残った男性)が出続けるとの見通しに、多くのネットユーザーの関心が集まった。 
 中国共産党機関紙、人民日報(電子版)がバレンタインデーを前にした13日、最近の人口に関する政府の計画や統計などを基に報じた。 
 それによると、2015年末の時点の中国の男性人口は7億414万人、女性人口は6億7048万人で、男性が女性より3366万人多かった。 
 男女別の出生比は、113・51(女児100に対して男児が113・51)。国際的にこの値は通常103~107とされるが、中国のケースは、これを軽く上回っている。
 別の統計によれば、80年代生まれの未婚の男女の比率は女性100に対して男性が136。70年代生まれでは女性100に対して男性が206と著しくバランスを欠いていた。 
 いびつな男女構成比は、1980年代半ばから見られるようになったとされる。1979年から36年間にわたって続いた「一人っ子政策」が大きく関わっているのは間違いない。−産経ニュース(2017.2.24)
しかし、「一人っ子政策」については聞いたことがあっても、そして中国で男女の人口比がいびつな状態であるというニュースを読んでも、それがどのように具体的に起きたのか、日本人そして世界のほとんどの人たちは知らない。

この疑問に答えたドキュメンタリー映画『一人っ子の国 (原題 – One Child Nation)』が、中国人映画監督のナンフー・ワンとジアリン・チャンによって制作された。監督の1人であるナンフー・ワンは、中国からアメリカに移住し、そこで男児を出産したことをきっかけに、母国中国で行われてきた「一人っ子政策」に興味を抱いたと映画の中で語っている。

中国で「一人っ子政策」が厳格に守られてきたのは、避妊具が普及していたからではない。また、男児が女児をはるかに上回る比率で生まれたのは、産み分けが行われたからでも早期の堕胎が行われたからでもない。「一人っ子政策」を厳格に守らせるため、そして人民の間では男児を強く望むあまり、ありとあらゆる非人道的な行為が行われてきた。この映画は、中国社会そして中国共産党の闇を白日の下にさらしている。

さらにこの映画が明らかにしている衝撃的な事実は、中国の孤児を引き取って養子にしてきた欧米人の多くが、実は中国による壮大な人身売買ビジネスに「多額の手数料を払う顧客」という形で加担してしまっていたということだ。

「不幸にも親から見捨てられた中国人孤児の里親になる」という良心から行なっていた行為が、実は中国国内で赤子を無理やり両親から引き剥がすという人身売買に加担する行為だったことをこの映画は明らかにしている。

とある孤児院は、中国人孤児を引き取りに来た欧米の里親のほとんどに対して、「この子は段ボール箱に入れられて捨てられていたのです」という同じ作り話を何十年も続けていたと、実際に中国人孤児を引き取ったアメリカ人男性が映画の中で語っている。彼はアメリカ人の里親に引き取られた中国人孤児について追跡調査を行なっており、孤児たちとその中国人の母親たちのDNAのデータベースを構築し彼らを引き合わせる活動を行なっている人物。

この映画はアマゾン・プライムが配信している

【映画の予告編】





(あいにく日本語字幕がついた予告編は見当たらなかった)


【私の論評】一人っ子政策は、民衆レベルでどのように実行されたのか?戦慄の事実(゚д゚)!

この映画、かなり背筋が寒くなる映画でした。はっきり言って、スティーブン・キングのホラー小説など霞んでしまうくらいの、恐ろしさでした。

これは、ドキュメンタリー映画なのですが。この『ワン・チャイルド・ネイション』、…邦題は「一人っ子の国」ですが、これは中国のことです。この映画は一般に封切りされたのかどうかはわかりませんが、現在アマゾンプライムでご覧になることができます。


このドキュメンタリー映画の監督は中国の田舎で生まれて後に、米国の大学を卒業して、現在はドキュメンタリー映画の作成をされている、1985年生まれのワン・ナンフー(Wang Nanfu)さんという人が作成したものです。

この映画の作成にあたり、この方は1人で中国に行って。自分でカメラを持ってたった1人で撮影をしたものをもとにドキュメンタリー映画を作成しているのてす。

この映画は、たった1人で撮影せずに、普通のドキュメンタリー映画として撮影されていたとしたら、その内容が中国当局の知るところとなり、絶対日の目をみなかったと思います。


この映画では、ワン・ナンフーさんに子供が生まれます。その赤ん坊が2ヶ月になったころ、その子連れて、米国から中国の田舎の親戚に見せに行くのです。

そうして、中国で自分が生まれた頃の話を聞いて回るんですが、そのワン監督が生まれた頃、ちょうど中国では一人っ子政策をずっと続けていたのです。

このドキュメンタリー映画は、ワンさん自身は、当時一人っ子政策がどのように実施していたのかということは、知りませんから、それを聞いて回るっていう内容なのです。ご自身の母親や祖父などに、聞いて回るという粗筋なのです。

中国の「一人っ子政策」推進のポスター

中国の一人っ子政策は、1980年から2015年までの35年間実施されました。中国の一人っ子政策そのものは、多くの人が聞いて知っていることですが、実際にどのようにして実行されていたのかを知っている人は少ないと思います。

映画の中で、ワンさんは、それを具体的に実行した人たちである、彼女の母親、祖父等に聞いて回っているのです。ちなみに、彼女の父親はすでに亡くなっています。

このドキュメンタリーの撮影では対象者を緊張をさせないように、通常のドキュメンタリーのスタッフである、照明係や、音声係などの人員はあえて使わずに、彼女自身が民生用のホームビデオのカメラで撮影しているのです。

映画の中で、ワンさんは、それで「私が生まれたときは、どうだった?」という質問をしてまわると、「女の子だから困った」って言われたのです。

ワンさんは、「ナンフー」っていう名前なのですが、「ワン・ナンフー」を漢字で書くと「王男栿」なのですが、これはつまり、「男の大黒柱がほしかった」ということでそのような名前にしたそうです。
ワンさんが生まれたのは都市部ではなく田舎でしたから(都市部と田舎では戸籍も異なる)、お金を支払って。あとは1人目が生まれた後に5年たてばもう1人、生んでも良いということになっていたそうです。田舎は農家多いですから、人手がないと農家の運営が大変だからっていうことで、特別な措置が取られていたようです。

その後ワンさんには弟が生まれたそうですが、祖父の話を聞いていたら、弟以外にも「女の子が生まれたが捨てた」っていう話が出てきたのです。

そこでワンさんが、「どうして?」って聞くと、「女の子が2人、生まれたりしたら、男の子を持てないから」という返事をしたというのです。

中国は韓国や日本と同じで男が家を継いでいくっていう、考え方があります。中国は特にその名字の問題がありね名字は夫婦別姓で女性の方が結婚をしても名字がもらえないのです。そういう差別があります。

ワンさんが、「どうして捨てたのか?」と母親に尋ねると、おじいさんに、「『捨てないと村八分にされるから、非国民になるから、捨ててくれ。もしあなたがその女の子を捨てないなら、私が殺すか、私が自殺する』という風にプレッシャーをかけられた」というのです。

つまり、男の子が生まれないと後も継げないから。自分自身が女性なのに、「男が生まれないから悲しい」って言うのです。

そうして、男である弟が生まれるまで、女の子ば殺し続けられたということなのです。

このワンさんは、地域のお産婆さんに会いに行くシーンもありました。ワンさんが自分を取り上げたお産婆さんに「覚えてますか?」と聞くと、「覚えているよ」と応えていました。

さらに、ワンさんが「何人ぐらい取り上げたんですか?」と聞くと「それは覚えてないけども、5万人殺したことは覚えている」って言われのです。

では、実際にどういうことが行われていたかというのは写真も残っていて今でも見ることができます。当時は、不妊手術ゃ中絶が国家によって奨励されていましたから、写真に撮って記録していたのです。

しかし、無論多くの女性にとつて、これは嫌なことでした。どんな子でも育てたいから、拒否しようとすると、産科でその場で縛り付けて強制的に手術をしちゃうなどのことが行われていたのです。

子供が、1人生まれて、2人生まれて、3人目は生まれないようにする手術とか、強制中絶とか、それを写真に撮って国家が奨励していたのです。言ってみれば、地獄のような世界だったのです。これが、ついこの間2015年あたりまでまで横行していたということです。

ドキュメンタリー映画には、カメラマンが1人、出てきます。その人は1980年代ジャーナリスティックなアート写真を撮っていて。中国ではその当時、ゴミがそこら中に捨てられていて。産業廃棄物とかの不法投棄がひどかったんです。


その実態を撮影しようとして、ゴミ捨て場の写真を撮っていたら、そこに人形みたいなものがあることに気がついて、よく見たら普通に出生した赤ん坊の死体だったというのです。

そのカメラマンは、さらに、いろんなゴミ捨て場を撮って回ったのですが。そこいら中のゴミ捨て場に、赤ん坊の死体が遺棄されていたというのです。

一人子政策を実行したがため、中国社会ではこのような酷いことがまかり通っていたのでする。また、子供が生まれたことを隠している人もいました。妊娠を隠していたり、子供が生まれたことを隠して、匿っていたりする親とかもいたのですが、官憲がその家に強制的に入って、子供をさらっていくなどのことが行われていました。。

ワン監督はそういうことを聞いて回るんですが。何でみんながそのような悍ましいとを話してくれるかっていうと、当時ははそれが国家に奨励されていたことで、そのことをしていたことは誇りと思っているようです。

これは、到底信じがたい話かもしれません。2012年『アクト・オブ・キリング』というインドネシアを題材としたドキュメンタリー映画がありました。あれはインドネシアで共産党員の人たちとか、中国系の人たちを虐殺した当事者たちにインタビューをしていくっていう筋でした。

当時インドネシアでは100万人以上が殺されました。ちょうどデヴィ夫人がインドネシアにいた頃に重なります。映画の中のインタビューて殺した人たちは国家の英雄になっていましたから、最初は自慢げに話していました。

中国を題材としたこのドキュメンタリー映画でも、このようなシーンがありました。中国計画出産協会という組織があり、そこが不妊手術や強制中絶を実施した主体です。そこで金賞をもらって表彰を受けた人で、それこそ10万人等というおびただしい数の処理をしたという女の人が出てきます。その女の人が、「勲章をもらって褒められたことをいまでも誇りに思う」って語るのです。

そのため多くの人は、残虐行為を悪びれずに語るのですが。ただ言いながら、だんだんと自分のやったことに耐えられなくなってくるようです。先にでてきた、お産婆さんはもう本当に罪の意識でいまも手が震えると語っています。

いまは中絶等は全部やめて、不妊治療の相談役をやっているそうです。「罪滅ぼしをしているんだ」ってその人は語っています。80歳ぐらいのお産婆さんなのですが、「私は子供が好きで産婆を始めたのに、なんでこんなことをさせられたんだ」というのです。

さらに、当時は中絶だけではなく、女の子が生まれると、カゴに入れて路上に放置というようなことが行われていたそうです。

その頃は中国の田舎に行くと、路上にいっぱいカゴがあって、そこいら中に赤ん坊が放置されているような状態だったそうです。そのまま餓死したり、動物に食われちゃったりするんです。それが、2015年までの、中国なのです。


40年間で道に捨てられてた35人もの子供を拾い救ってきた女性

このようなことが横行していたのは、政府が奨励をしていたからです。当時は、1958年から61年に毛沢東が「大躍進」という名前の工業とか農業の改革をやって大失敗ばかりで、3000万人から7000万人が餓死するという事態が起こったので、このまま人口が増えれば中国人が大勢餓死をしてしまうという危機感がありました。


だから政府が人口を減らそうとしたので。ただし、これ自体はもともとは、中国の考え方ではなく、18世紀のイギリスでロバート・マルサスという人が「このままだと食料がどんどんと足りなくなって餓死者が出るから人口自体を減らせ」ということを提唱したことがあったのです。

これは、本来なら実際の農産物などの生産量を増やせば済むことなのですが、いまだにそのマルサス主義が時々、噴出することがあります。「人口を減らせ!」っていう考え方はは、それが中国で噴出したのですが、最近も「人口を半分に減らせ!」みたいな人がいました。これは、映画『アベンジャーズ』の中にでてくるサノスという宇宙の帝王です。

しかし、時々こういう考えが現実世界に噴出することがあるのです。「経済が落ち込んでいるから人口を減らせば良い」などという形で出てくることがあるのです。そうして、堅実に中国はそれを徹底的に実施して、実際にその1980年から2015年までの35年間に4億人の人口を抑制したとしているのです。

中国の一人っ子政策の時代にう待たれた年代の人々は圧倒的に男性が多いです。男性は女性よりも3000万人以上多いと言われています。そのため、3結婚ができない男性が増えています。

この映画には、道端に捨てられている赤ん坊を見て「これはひどい」と思った人がいて、その子たちを拾って回って都会の孤児院に売っていた人も出てきます。

中国では孤児院が1992年ぐらいから外国に養子縁組をして、というかはっきり言うと赤ん坊を売り始めたのです。10万人以上が中国から米国等に売られていったそうです。

その金額もかなり高いものでした。値段はまちまちでしたけども、それが中国という国自体の大きな収入にもなっていたのです。

ところが、道端で拾った赤ん坊を孤児院に売っている人たちは結局、逮捕をさたのです。家業としてやっていたようですが、これらのトビとが10年ぐらいの刑を受けたりしているのです。この映画の中にもそのような人が出てきてインタビューを受けているのです。しかし、彼らは赤ん坊を助けていたのに、刑務所に入れられて、一方で赤ん坊を殺していた人たちは国家から奨励されていたのです。

この映画、このように、すさまじい内容でした。この監督は本当にカメラ1台で中国国内をインタビューして回っていました。ただ、下手すると中国当局に拘束をされるかもしれないいうことで、いつもGPSを携行していて、ニューヨークにいた共同監督が彼女の居場所を常にサーチしながら、拉致されたり拘禁されたりしていないかどうかを調べながら撮影したとされています。

この映画では、当時の中国当局がどのくらいのプロパガンダをやっていたかもわかります。当時は、子供を減らすということがどれだけ国にとって貢献をすることなのかっていうことを徹底的にテレビやドラマ、CM、芝居、歌などありとあらゆる形で政府がプロパガンダをしていました。そうして、多くの人々が完全に洗脳されたことも明らかにしています。

その結果、いまどうなっているのかというと、先日上海に行った人が聞いたのですが、1人小さい子が歩いていると、その後ろに6人ついていく光景を見たそうです。お父さんとお母さんとそれぞれの祖父母が。6人の親と祖父母の面倒をその1人が見るっていうことです。ね。

子供のときには、「小皇帝」などといわれ、可愛がられているのでしょうが、他の6人が高齢化したら、それを1人で介護しなければならなくなるということです。中国はすでに超高齢化社会に突入をしていて、中国という国自体の存続も非常に危うくなっています。


現在の中国はもうギリギリになって2人っ子政策を始めているのですが、もう遅すぎるかもしれません。一人っ子政策で、殺された子供たちとは一体何だったのでしょうか。それでも、当時母親だった人たちは、「私たちは間違っていない。政府に言われた通りにやっていたんだ。他にどうしようもなかった。それが正しいことだと思わされていたし、思っていた」って答えるのです。

このドキュメンタリー映画で、自分の小さな子、赤ちゃんをその監督は中国に連れて行きます。その子たちを見たインタビューをされる相手はみんな、「ああ、かわいい、かわいい!」って本当に子供を愛する普通の人たちなのです。

本当に善男善女の素晴らしい国民たちだからこそ、あのようなことをしてしまったのかもしれません。彼らは中国では模範的な人民であり、愛国者なのです。良い人たちなのです。

素晴らしい人たちだからこそ、政府が狂った時には全部恐ろしいことをやってしまうのです。ナチスドイツの時代では「良い国民、素晴らしい人」と言われていた人たちはユダヤ人を密告する人たちでした。ユダヤ人をかばう人たちは非国民と言われたのです。

いつまでたっても、世界中どこでもそんなことを繰り返し続けているのです。本当に、恐ろしい映画でしたね。見終わった後には、すぐには立てなくなるくらい衝撃を受けました。

以下に、TEDでナンフー・ワンさんが、中国の一人っ子政策について語っている動画を掲載します。これも是非ご覧になってください。TEDのサイトからご覧になると、日本語のスクリプトもごらんになることができます。




この映画、たった1人の女性が、がこの映画を撮影しているというところが、圧巻です。彼女は「中国を出て、米国に留学をするまでこんなことだとはまるで思わなかった。外に出てみないとわからない」って言っていました。

プロパガンダの対象にされているということは、日々淡々と送っているだけでは認識できないのです。『ワン・チャイルド・ネイション』、すさまじい映画でしたが、日本でもおアマゾンプライムでご覧になることができます。ご覧になっていない方は、是非ご覧になってください。


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2019年11月17日日曜日

弾劾世論調査:トランプ支持率が50%に回復―【私の論評】日本の腑抜け野党によく似てきた米民主党だが、それでも日本の野党よりはましだ(゚д゚)!

弾劾世論調査:トランプ支持率が50%に回復

<引用元:ワシントン・エグザミナー 2019.11.15

ラスムセンレポートによる毎日の大統領追跡調査によると、トランプ大統領の支持率が弾劾で上昇している。

大統領に対する毎日の評価は、下院弾劾公聴会の初日の13日以降、4ポイント上昇した。



ラスムセンの調査分析によると、「大統領の総合支持率は、下院弾劾公聴会初日の13日以降上昇をたどっている。13日朝は46パーセントだったが翌日には48パーセントに上がり、現在50パーセントとなっている。現在の調査の3晩分のうち2晩分は大々的に報道された公聴会後のものである」。

バラク・オバマ大統領は1期目のこの時点で49パーセントの支持率だった。

調査結果ではトランプの仕事ぶりに49パーセントが不支持を示している。

※なお、RealClearPoliticsによる各世論調査平均でも同様の傾向が見られる。



【私の論評】日本の腑抜け野党によく似てきた米民主党だが、それでも日本の野党よりはましだ(゚д゚)!

米民主党が問題視しているトランプ大統領の言動とは、「ウクライナが必要とする武器の供与を餌に、バイデン候補が副大統領当時に同氏の息子がウクライナ企業から多額の報酬を受け取っていたかどうかを調べることを強要した」というものです。

この話の最大の弱点は、トランプ大統領がウクライナの要求する武器の供与を、ウクライナからの調査結果を受け取っていないにもかかわらず既に実行していたことです。

次に、内部告発にあった7月25日の電話会議を始点として考えると、武器の供与が9月下旬で2カ月のタイムラグがあります。

つまり、ゼレンスキー大統領が合理的人間で、トランプ大統領が明確に要求していたとするならば、ゼレンスキー大統領が2カ月間も調査を放置していたにもかかわらず、ということは、トランプ大統領の要求を無視したにもかかわらず、武器が供与されたことになります。

ここで重要なのは、米国の外交官やCIA職員、大使などが大統領の意思をどう忖度(そんたく)したか、また彼らがトランプ大統領の意思としてゼレンスキー大統領に調査を求めようとしていたと感じていたか、ということではありません。トランプ大統領が実際に調査依頼を自分で考え、具体的に指示したかです。頭で考えていたかもしれない、ということではありません。

トランプ大統領が民主党の申し立て通りに調査報告を交換条件としていたとするならば、その条件が満たされないうちに武器を供与したことの理由づけが難しいです。いまのところこの点で、トランプ大統領に不利となるような証言が出てはいるものの、決定的な証拠は出てきていません。

トランプ大統領に「フェイク・ニュースを流すフェイク・メディア」とばかにされてきた大方の米メディアはトランプ大統領について、自分の利益を最優先し、何でも自分で一度に実現できると考え、しかも自分の意見を頻繁に変える気まぐれ屋と批判してきました。また、衝動的で自分の希望が通らなければ取引を中止する傲慢さを持っているとも批判しています。

トランプ大統領(下端)と支持者ら

ティラーソン前国務長官を筆頭に、トランプ政権を去った人々の多くは大統領の頭は小学生レベルで、アイデアを彼らに語っても次の瞬間にはそれを覆して別のことを言う、またはなかったことにするいい加減な人間だと批判しました。

一方、日本文学研究者のロバート・キャンベル氏によれば、トランプ大統領は就任から現在までに300回、ウクライナ疑惑の内部告発がなされてからの1カ月ほどで45回、「魔女狩りだ」と連呼したとのことです。同時に彼は人々はことの真偽にかかわらず、メッセージの反復発信で信用するという研究結果も付け加えています。トランプ陣営からすれば、トランプの「魔女狩り」ツイートこそがリスク回避戦術なのです。 

一般に伝えられているトランプ大統領の性格を考えれば、民主党が主張しているような思惑を持ち、それを周囲に漏らした可能性はあります。ただ、しばらくしてその考えを変えて、指示はせず、行動にも移さなかったのかもしれないです。

また、ゼレンスキー大統領に調査の見返りという条件を提示していたならば、多くの米国メディアが報道するように、トランプ大統領が偏執的な性格というのが本当であれば、から2カ月も黙って待っていることはできないでしょうし、要求を無視されてプライドを傷つけられた大統領がウクライナに武器を売る判断をすることはあり得ないでしょう。

結局のところ、現段階でトランプ大統領の弾劾が成功すると考えるのは、かなり困難だという結論に落ち着きます。

さらに、以前このブログでも掲載したように、米国では大統領の弾劾そのものがもともと難しいのです。その記事のリンクを以下に掲載します。

民主党へのしっぺ返しもあるトランプ弾劾調査―【私の論評】トランプ弾劾は不可能、禁じ手を複数回繰り出す民主党は相当追い詰められている(゚д゚)!

ニクソン大統領
詳細は、この記事をご覧いただく
民主的な選挙で選ばれた大統領を政治的な動機で糾弾し解任しようとする弾劾措置への反発は、米国民の間で従来から根強いものがありました。だからこそ民主党のペロシ議員は、昨年11月の中間選挙前も、「ロシア疑惑」が高まったそれ以前の時期でも、弾劾への動きには一貫して反対してきたのです。
さらに、この記事では、かつてニクソン大統領が弾劾されそうになって辞任したときのことも掲載しています。
ニクソン大統領のウォーターゲート事件がありましたが、あのときニクソン氏は、弾劾されそうになったため自ら辞任しました。 
なぜ弾劾されそうになったかと言うと、当時の共和党の議員が彼を見捨てたからです。そこで、これはもう万事休すだということで辞任したのです。
現状のトランプ大統領は、とてもそのようなことにはなりそうもありません。

これは、過去にもこのブログで述べたことですが、トランプ大統領を、ロシア疑惑と、ウクライナ疑惑の二回にわたって、弾劾しようとした米民主党は、相当追い詰められているるとみるべきです。

そうして、最近の米民主党は日本の野党に良く似てきたと思います。

トランプ政権の経済差政策は、特に雇用政策がうまくいっているし他の経済指標も悪くはありません。この点で、民主党はトランプ政権を批判できることはあまりありません。

さらに、安全保障に関しても同様です。 むしろ、オバマ政権では軍縮してきたため、米軍に負の遺産を残したのですが、トランプ政権がそれを立て直しつつある状況です。この点でも、民主党は共和党を批判できません。

さらには、中国への対峙は超党派で行われていることなので、民主党はこれを批判できません。

要するに、現状では米民主党は、あまり米共和党を批判することができないです。だから、トランプ氏個人の資質を問題としているのです。

米民主党ならびに米リベラルメディアは、トランプ氏は政治家としての資質がないことを喧伝してきましたが、彼らの忘れていることがあります。

それは、多くの米国民はオバマやクリントンなどの、既存の政治家には失望したからこそ、生粋の政治家ではない実業家のトランプ氏を選んだのです。

生粋の実業家であれば、既存の政治家や、政治家とは反りが合わないのは当然のことです。実業家では、いわゆる朝令暮改は当たり前のことです。朝に正しいと考えていたことを、夕方には改めることは良くあることです。そうでなければ、企業は厳しい環境を生き抜いていけません。既存の政治家や、官僚にはできない芸当です。

このような資質は、ティラーソン前国務長官を筆頭に、トランプ政権を去った人々の多くには、いい加減な人間だと写ったのかもしれません。さらに、このような資質は、民主党や米リベラル・メディアにとっても、格好の攻撃材料だったに違いありません。

しかし、いくらトランプ氏の資質を煽ったところで、トランプ氏は一向に動じる気配がないため、米民主党はとうとう禁じ手ともいえる、大統領弾劾に動き出したのです。それも、二度もです。

この動きは、日本の野党にも似たところがあります。日本の野党は、「もりかけ」問題に拘泥しましたが、これは最初から、倒閣に結びつけようというのは、無理筋というものでした。

現在は、「桜を見る会」をやり玉にあげていますが、これも無理筋でしょう。しかし、日本のリベラル・メディアはここぞとばかり、安倍政権を批判していますが、これも倒閣には結びつけようもありません。「桜を見る会」を野党とメディアが糾弾しはじめてから、安倍政権の支持率があがるという始末です。



これは、米民主党が、トランプ氏への弾劾の動きを強めた途端にトランプ大統領の支持率が上がったことと、良く似ています。

それでも、米民主党のほうが、まだましかもしれません。なぜなら、安倍政権は、トランプ政権と比較すると、増税するなど経済政策はトランプ政権の逆をやっており、安全保障、外交でも習近平を国賓として招くというような米国と比べると信じがたいことをしています。

言ってみれば、現在の安倍政権は、残念ながらつつきどころは満載です。もし、米民主党が日本の野党だとしたら、勢いづき、安倍政権を批判するだけでなく、様々な政策論争を展開してるでしょう。特に、米国と比較するとまるで、一大政治集団のように振る舞う財務省を徹底的に批判することでしょう。

しかし、日本の野党はそのようなことはせずに、「桜を見る会」をやり玉にあげています。これでは、万年野党の地位を打開することなど、永遠にできないでしょう。情けない限りです。

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2019年11月16日土曜日

文在寅、北の亡命希望者を「強制送還」で地獄送りに―【私の論評】GSOMIA破棄と人権問題で、米国は超党派で韓国を制裁するようになる(゚д゚)!


金正恩への阿りか?秘密裏の強制送還が露見し内外から非難囂々

11月4日、ASEAN首脳会議・関連会合での文在寅大統領

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は11月7日、海上で拿捕していた北朝鮮船員2人を北朝鮮に強制送還した。この韓国政府の対応について今、韓国内からはもちろん、国際社会からの非難が殺到している。

 7日、韓国統一部がある発表を行った。

 「11月2日、東海(日本海)上でNLLを越えて南下した北朝鮮住民2人を拿捕した。関係機関合同調査の結果、彼らが同僚の船員らを殺害して逃走したことが分かった」

 「開城工業連絡事務所を通じて2人を北朝鮮へ追放する意思を伝え、北朝鮮側が受け入れる意思を明らかにしたので、本日午後3時10分ごろ、板門店を通じて彼らを北朝鮮に追放した」

 というものだ。ちなみにNLLとは「北方限界線」の略称で、海洋上の韓国と北朝鮮の境界線のことだ。


偶然によって発覚した「強制送還」

 この日の発表によると、追放された2人の乗組員はともに20代の男性。2人はイカ釣漁船の乗組員だったが、もう1名の同僚と共謀して日本海での操業中に洋上で16人の同僚を殺害、逃走資金を調達するためいったん北朝鮮の金策港に戻った後、NLL付近まで逃走していたが、そこで韓国海軍によって拿捕されたという。韓国政府は、彼らが殺人など重大な非政治的犯罪によって「北朝鮮離脱住民法」上の保護対象ではない点、韓国国民の生命と安全に脅威となる凶悪犯罪者であり国際法上の難民として認められない点などから判断し、関連省庁間の協議結果によって追放を決定したのだという。

 ところが、この追放過程における数々の疑惑がメディアの取材によって浮かび上がり、文在寅政権が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権の機嫌を取るために、脱北者の人権を蹂躙したのではないかと、韓国中が騒然となっているのだ。


 韓国メディアが疑いを向ける第一点目は、韓国政府が今回の事件を隠蔽しようとしていたことだ。

 「強制送還」が発覚したのは、7日午前、国会予算決算委員会全体会議に出席していた金有根(キム・ユグン)国家安保室第1次長が共同警備区域(JSA)の大隊長である某中佐から受け取った文字メッセージを、報道機関のカメラに撮られたことがきっかけだった。「本日15時、北朝鮮住民2人を板門店で送還する」という内容だった。記事が公開され、国会でこの事件をめぐって大きな騒ぎが起きると、統一部が急いでブリーフィングを準備、当日午後3時40分に「強制送還」の事実を公表したのだった。

 その一方で、鄭京斗(チョン・キョンドゥ)国防部長官が国会で「報道を見て追放を知った」と証言したことで、大統領府が国防長官をスルーして報告を受けている実態も明らかになり、職権乱用の問題も指摘されている。


統一部長官による「死んでも北朝鮮に戻る」の説明は虚偽?

 疑惑の第二点は金錬鐵(キム・ヨンチョル)統一部長官の「うそ疑惑」だ。国会に出席した金長官は、事件の経緯を説明する中、「(彼らは)調査を受ける過程で様々な相反する供述をしていたが、確かに『死んでも(北朝鮮に)戻る』と陳述した」「これらの行動などを総合的に判断し、亡命の意思はないという最終結論を下した」と答えていた。

 しかしその後、韓国メディアが匿名の統一部担当者の証言をもとに、「『死んでも北朝鮮に戻る』という発言は、海上殺人事件後にいったん(北朝鮮の)金策港へ戻る途中で出た言葉で、逃避資金を用意するために金策港に戻るという意味だった」と暴露。さらに、2人が合同調査における供述書に自筆で「亡命する」という明白な意思を示していたことも明らかになった。

 そして最大の疑惑は、全長15mほどの17t級の小型木造船の上で、わずか3人(統一部によると共犯のもう1人はすでに北朝鮮で逮捕されたという)で16人もの同僚乗組員を殺害することが可能かという点だ。しかも殺害の道具は斧とハンマーだけというから、犯行の規模と釣り合いがとれない。

 韓国政府は、事件の実相をこう説明している。

「船長の過酷行為に不満を抱いた彼らは斧1本とハンマー2本だけで16人を殺した。まず、共犯の1人が40分間隔で就寝中の船員を2人ずつ起こして甲板の上に誘導する。すると船頭と船尾で待っていた2人の共犯が、甲板に上がってくる船員の頭をハンマーなどで殴り殺す。殺害後は死体を海に遺棄し、40分後、再び2人ずつ起こして甲板上に誘導した。結局、4時間で16人が殺害された」

 しかし、いくら就寝時間だったとしても、小さな船の中で長時間にわたり殺人が繰り返されていることを同僚の船員が全く気づかなかった点、「特殊要員」でもない一般の船員が「虐殺」に近い犯行をたった4時間で実行したという点、虐殺現場である船を血痕鑑識もせずに急いで消毒してしまった点など、不可解な点がいくつも残されているのだ。


目隠しされ縛られたまま板門店に連れていかれた漁船員

 また送還過程における問題点も提起されている。東亜日報は送還過程について、政府関係者から聞いた話を次のように報じた。

 「呉某氏(22)と金某氏(23)の北朝鮮住民2人は7日、中央合同調査本部で目隠しをされ、縛られたまま車に乗せられて、板門店の自由の家に直行した。彼らが強制送還の事実を知ると自害などの突発行動を起こす恐れがあるので、目的地を隠して、警察特攻隊が車両を護衛した。彼らの抵抗に備え、猿ぐつわも準備していた。

 彼らは、板門店の軍事境界線に到達して目隠しを取られて、初めて自分たちが北朝鮮に追放されることを知った。送還は、まず呉氏が軍事境界線から北朝鮮軍に引き渡され、次いで待機室で隔離されていた金氏が引き渡される形で進められた。目隠しを外した呉氏は、境界線の向こう側に北朝鮮軍3人が立っているのを見て、思わず腰を抜かして座り込んでしまった。その後に外へ出てきた金氏は、北朝鮮軍兵士を見るや愕然とし、軍事境界線を越えていった」

 北朝鮮に強制送還された脱北者は、その後、想像を絶する拷問を受けることになる。例外はない。板門店で北朝鮮軍の兵士に引き渡された彼らの絶望は察するに余りある。

批判浴びる「人権派弁護士」の人権感覚

 韓国の主要メディアは、韓国憲法3条に基づき、「北朝鮮住民も韓国国民の範囲に属する」と強調している。つまり、亡命意思を表明した北朝鮮住民に対しては、彼らがたとえ凶悪な殺人犯としても、韓国司法当局の裁判によって処罰を受けるべきだと主張しているのだ。さらに、文在寅政権がたったの5日間の調査によって、亡命を希望した北朝鮮住民を、残酷な拷問や極刑が予想される北朝鮮に送り返したことは「国際人権法違反」と非難している。

 国際社会からも非難が絶えない。英BBC放送は、「デービッド・アルトン英国上院議員が自身のホームページに、『韓国は一体どういう考えで、難民を北朝鮮に送ったのか』というタイトルの文章を掲載して、韓国政府が難民に対する義務を果たしていないと批判した」と伝えた。

 国際人権団体のアムネスティは、「今回の事件を国際人権規範違反と見なす」という立場を示した。米国の人権監視機関のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)も声明を発表し、「韓国政府の措置に違法の素地がある」「(韓国政府の)迅速な送還措置は、拷問等禁止条約を黙殺(disregard)した」と批判した。

 国連の人権業務を総括する国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)も「2人が、送還によって拷問と処刑をうける深刻な危険に直面していることを懸念する」と明らかにした。朝鮮日報は、「今月末に訪韓予定のトマス・オヘア・キンタナ国連北朝鮮人権特別報告官は、『(今後の)措置について、関連(南北)政府と接触中』と明らかにした」と伝え、国連が近々韓国外交部に今回の送還事件についての懸念メッセージを伝え、事実関係を問い合わせる見通しだと解説した。まさに国際社会や人権団体から非難囂々なのだ。

 「人権ファースト」を掲げた公約で政権を握った「人権弁護士」出身の文在寅大統領、OHCHR副代表の経歴を自慢する康京和(カン・ギョンファ)外交部長官は、「反人権的な送還」という国際社会の非難をどう受け止めるだろうか。


【私の論評】GSOMIA破棄と人権問題で、米国は超党派で韓国を制裁するようになる(゚д゚)!

韓国政府が、北の亡命希望者を「強制送還」したことは、完全な違法行為です。そもそも、韓国は北朝鮮と犯罪者引き渡し条約を結んでいません。

引き渡し条約がなくても、引き渡しできる場合もありますが、それには幾つかの手続きが定められています。

まず、相手国から韓国に逃避してきた犯罪者の引き渡し要請があった場合、外交部からの要請によりソウル高等検察が、ソウル高等法院において審理します。この手続きが完全に抜け落ちていたのです。

教戦争缶された二人北朝鮮籍の男らが乗船していた船

韓国の脱北者に対する、人権侵害は今に始まったことではありません。米国はこれに対してすでに警告を発していました。

トランプ米政権が、「従北」の文在寅(ムン・ジェイン)大統領率いる韓国の「人権侵害」問題に警告を発していました。米国務省が発表した人権報告書で、「脱北者への圧力」を明記していました。米国では、韓国の政権与党による米記者への非難を、リベラル系の有力紙まで問題視し始めました。米国全体が韓国に厳しい目を向けているとの指摘もあります。

「われわれの友好国、同盟国、パートナー諸国ですら、人権侵害を行っている」

マイク・ポンペオ国務長官は今年3月月13日、こう述べました。国務省が公表した2018年の「各国の人権報告書」に関する記者会見での発言でした。

マイク・ポンペオ長官

報告書では、同盟国の1つである韓国・文政権による脱北者への圧力を取り上げ、「北朝鮮との対話に乗り出すと、北朝鮮への批判を抑制するよう求める直接的、間接的な圧力が脱北者組織にかけられたとの報告があった」と指摘しました。

具体的圧力としては、20年続いていた脱北者団体への資金援助打ち切りや、風船を使った北朝鮮へのビラ散布阻止、警察が団体を訪れて財務情報などを出すよう要請した-ことが挙げられました。

2月にベトナムの首都ハノイで行われた米朝首脳会談が決裂し、米朝の「仲介者」を自任していた文政権へのトランプ政権の不信は高まっていました。そのなかで、人権侵害までが問題となったのです。

外国メディアの視線も厳しくなっていました。

文大統領を「金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の首席報道官」と報じた米ブルームバーグ通信の記者を、与党「共に民主党」の報道官が非難したことに、各国メディアが猛反発したのです。

報道官が同月13日、記者を名指しして「米国国籍の通信社を隠れみのにして国家元首を侮辱した売国に近い内容」との論評を出したところ、批判が相次ぎました。同党は同月19日、論評から実名を削除すると発表しました。


まさに、ポンペオ長官の警告を正鵠を射たものになったようです。今回の、北の亡命希望者を「強制送還」するようなことは、起こるべくして起こったのかもしれません。

米国の保守系メディアには以前から、文政権を懐疑的にみる報道がありましたが、ブルームバーグの問題では、ワシントン・ポストや、ニューヨーク・タイムズといったリベラル系の主流メディアも「言論弾圧ではないか」と批判しました。米国では「韓国が民主国家といえるのか?」という議論になってきており、オールアメリカで文政権への問題意識が高まっています。


いずれ、韓国も米国内で中国等と同列の扱いを受ける日が刻々と近づいているような気がします。

文大統領は15日、マーク・エスパー米国防長官とソウルの大統領府(青瓦台)で会談し、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の維持を拒否しました。23日午前0時の失効期限を前に、同盟国・米国の要請を拒んだのは、事実上、共産党独裁の中国寄りの姿勢(=レッドチーム入り)を宣言したも同然といえます。

5日午後、青瓦台本館接見室でマーク・エスパー米国防長官(左)と握手する文在寅(右)

このまま、文政権がGSOMIAを破棄すれば、政府高官や軍幹部を大量に送り込んで説得したトランプ大統領はバカにされたことになります。今後、トランプ氏の逆襲が注目されることになるでしょう。

韓国は日米にとっては、かつて中国・北朝鮮に対する反共の砦でした。しかし、韓国がGSOMIAを破棄したとなると、もう反共の砦をやめてしまったと観るのは当然のことです。

韓国がGSOMIAを破棄した場合、人権問題ともあいまって、米国内では韓国に対する批判、それも超党派による批判がかなり高まることでしょう。いずれ、中国等と同列の扱いを受けることになるかもしれません。

韓国が中国寄りの政策を鮮明にとるようになったにしても、これはうまくいかない可能性がかなり高いです。そもそも、金正恩は中国の干渉を極度に嫌っています。結果として、北朝鮮とその核が中国の朝鮮半島への浸透を防いでいます。

韓国が中国寄りの姿勢を顕にすれば、北朝鮮もこれを黙って見過ごすことはないでしょう。中国と韓国に挟まれた北朝鮮は、危機感を募らせることになります。

中国は、米国と冷戦の真っ最中です。先日もこのブログに掲載したように、今後米国は対中国貿易戦争から、中国共産党そのものを弱体化させる方向に軸足を移していくことになるでしょう。

そのような最中に、韓国が中国にすり寄ってきたところで、地政学的にも韓国の前に、核武装をした北朝鮮が立ちはだかっていて、文は北に親和的でもあります。このような状況で、自己保身に必死な中国が韓国にどれだけのことをできるのか、疑問です。あからさまに、中国が韓国を取り込むような姿勢をみせれば、米国の対中国冷戦はますます苛烈なものになることでしょう。

韓国は、日米は無論のこと、北からも中国からも疎まれる存在になるだけです。そうして、米国からは超党派で批判され、直接制裁にさらされることになります。そのことを文は全く認識していないようです。愚かだとしか言いようがありません。

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2019年11月15日金曜日

ウイグル人学者へのサハロフ賞授与の意義―【私の論評】大陸中国は、民主化に成功したもう一つの中国台湾を参考にすべき(゚д゚)!


岡崎研究所

 10月24日、欧州議会は、今年の「サハロフ賞」の受賞者として、中国で無期懲役の判決を受け服役中のウイグル人経済学者で人権活動家のイリハム・トフティ氏を指名した。正式には、12月18日に、仏ストラスブールの欧州議会で受賞式が開催される。

ウイグル人経済学者で人権活動家のイリハム・トフティ氏

 「サハロフ賞」とは、旧ソ連(現ロシア)の反体制派の物理学者、サハロフ博士にちなみ、欧州議会が1988年に創設した賞である。自由や人権、民主主義の擁護のために尽くした人に贈られ、これまで、南アフリカのマンデラ元大統領やミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相らが受賞した。
 受賞者の発表に際し、サッソリ欧州議会議長は、声明を発出し、「中国におけるウイグル人の権利を擁護するために人生を捧げた」と、トフティ氏の活動を評価した。トフティ氏は、インターネット等を通じ、新疆ウイグル地区の現状を伝えたり、中国で大多数を占め共産党を支配する漢族と、少数民族ウイグルとの和解や融和を説いたりしていた。
 欧州議会は、サハロフ賞の受賞者の発表と同時に、中国政府に、トフティ氏を釈放するよう強く要請した。これに対して、中国共産党政府は、欧州議会が中国の内政事項に介入し、「国家分裂罪」の判決を受けた「犯罪者」に賞を与えたことを非難した。 
 今回のヨーロッパ議会のトフティ氏へのサハロフ賞授与は、歓迎されることである。中国のトフティ氏の処遇がこれで変わるとは思えないが、こういうことについては、間断なく、問題提起を続けていくことが望ましい。 
 中国は、ウイグルなどの人権問題は中国の国内問題であり、内政干渉は許さないという立場をとるが、戦後の国際政治においては、人権問題は国際的関心事項として確立している。南アフリカのアパルトヘイト政策は、国内問題であるとの主張は認められてこなかった。国連憲章は、国内事項に干渉してはならないとしているが、他方で、国連は人権理事会を作っている。これは、人権が国際関心事項として確立していることを示している。
 香港人の人権も、ウイグル人の人権も、チベット人の人権も、国内問題として片付けることはできないことを、中国は認めるべきである。中国は人権規約については、A規約は批准しているが、B規約は批准していないと承知する。だが、そのことと人権問題が国内事項とは言えないというのとは別の話である。 
 先般、習近平は、ネパールを訪問中に、分離主義者はその骨まで打ち砕くと恐ろしい脅しを発したが、トフティも分離主義者とされている。こういうことは問題にしていくべきであろうし、そうすることが中国をルールに基づく国際社会の一員にすることに資すると思われる。
【私の論評】大陸中国こそ、民主化に成功したもう一つの中国台湾を参考にすべき(゚д゚)!
サハロフ氏や、トフティ氏については、日本で知らない人もいると思いますので、本日はそれについて掲載しようと思います。

最初にサハロフ氏とは、冷戦下のソ連の社会主義下での共産党一党支配や人権抑圧を批判し、抵抗した知識人たちの一人です。

フルシチョフによるスターリン批判が始まり、「雪どけ」といわれる一定の言論の自由も認められる中で、知識人の政治的な発言も見られるようになったのですが、1964年にフルシチョフが失脚しブレジネフ政権になると再び政府を批判したり、社会主義の現実を問題視する言論は厳しく取り締まられることとなりました。

そのような言論の封殺に抵抗して、なお反体制知識人(異論派ともいう)は危険を冒して発言したり、地下出版(サミズダートという)で政府と体制に対する批判をつづけました。その代表的な人物が、原子物理学者のサハロフ博士、作家のソルジェニーツィンです。

アンドレイ・サハロフ氏

70年代のデタント時代には西側の文化も一部解禁されたため、人権問題や環境問題、国際平和に関する発言が出始めたのですが、80年代前半はソ連のブレジネフ政権と米国のレーガン政権との対決色が強まり、再び冷戦の緊張が戻って新冷戦という状況になりました。

一方で体制批判は厳しく取り締まられて国内監禁や国外追放などの弾圧が行われました。また反体制知識人の中には国外に亡命する人々も多くなりました。1980年代後半のゴルバチョフ政権のもとでグラスノスチペレストロイカが始まったことで自由な反体制発言が可能となり、多くの知識人が名誉を回復しました。

思想の自由のためのサハロフ賞(しそうのじゆうのためのサハロフしょう)とは、人権思想の自由を守るために献身的な活動をしてきた個人や団体をたたえる賞です。1988年12月に欧州議会が創設しました。

賞の名称はこのアンドレイ・サハロフに由来します。欧州議会の外交委員会と開発委員会が授賞候補者を選定し、毎年10月に受賞者を発表しています。2010年の時点では、副賞として50,000ユーロが贈呈されています。

初の受賞者となったのは南アフリカ共和国ネルソン・マンデラとロシア人のアナトリー・マルチェンコ英語版)でした。2011年には「アラブの春の活動家達」名義で、4カ国5名の活動家が受賞しました。サハロフ賞は個人のほかに団体にも授賞しており、1992年にはアルゼンチン5月広場の母たち英語版)に、最近では2009年にロシアの市民運動団体メモリアル英語版)が受賞しました。

サハロフ賞の授賞式は毎年12月10日に行われていますが、この日は国際連合総会で1948年に世界人権宣言が採択された日であり、世界人権デーに制定されています。

2013年、フランス・ストラスブールでのサハロフ賞授賞式。受賞者はマララ・ユスフザイ

では、今年の受賞者、トフティ氏とはどのような人なのか、以下に掲載します。

2014年に投獄される以前、トフティ氏は
中央民族大学(北京)の准教授教であり、ウイグル族と漢族との関係を扱った研究で知られる一方、新疆ウイグル自治区における中国政府の民族政策に対して厳しい批判を展開していました。

資源の豊富な同自治区にはチュルク系言語を話すウイグル族が長年にわたり居住していたのですが、過去数十年間で漢族が流入すると両者の関係は緊迫化。中国の治安部隊によるウイグル族への厳しい処遇やイスラム教の宗教行事の規制などが問題として浮上するようになりました。


                        新疆ウイグル自治区ホータンにあるショッピングモールの外で
                        警備に当たる武装警察部隊の隊員(2015年4月16日)
トフティ氏は、20年以上もの間、ウイグル族と漢族との対話と理解を促進してきました。分離主義や暴力を拒絶し、ウイグル文化の尊重を基礎とした和解を模索し続けてきました。「ウイグル・オンライン」が暴動を扇動したという疑いをかけられ、公安当局に現在も拘束されています。

トフティ氏のような穏健な声を排除することで、中国政府は自らが防ぎたいとする本物の過激主義の台頭に向けた基礎固めを行っているのが実情です。

サハロフ賞の授賞式の12月10日には、トフティ氏は授賞式に参加できないでしょう。誰か代理の人が受賞することになると考えられますが、それにしても、その異様な風景が世界に配信されることになります。劉暁波氏が、ノーベル賞受賞会場にいなかったのと同じです。

さて中国では、ウィグル人への弾圧も随分前から、問題となっていましたが、最近では香港への弾圧も過激になってきました。

しかし、万が一、共産主義中国が武力でデモ隊を鎮圧した場合には、天安門事件をはるかに上回る厄災が共産主義中国に降りかかることが予想されます。

歴史的経緯から、香港には英国のパスポートを持った人間が多数いますし、カナダ人、米国人も相当数滞在しています。彼らは白人であるとは限らない。ですむしろアジア系・東洋系の顔立ちの者が多いのではないかと推測されます。

総人口700万人のうち170万人、あるいは200万人といえば、香港の3~4人に1人は、デモに参加しているということですが、その中に二重国籍者も含めてアジア系英国人、カナダ人、米国人がどの程度含まれているのかは、見た目ではまったくわからないです。私はかなりの数が参加していると思います。

武力鎮圧の結果、それらの「外国人」に死者でも出ようものなら、それらの国々に宣戦布告をしたのも同然の困難状況に陥ることになるでしょう。

逆に、香港人たちの要求を飲めば、共産党の長老たちから習近平氏が「弱腰」と非難されるだけではなく、年間に少なくとも10万件は起こっているとされる共産主義中国各地の暴動を強権的に弾圧する大義名分も失われます。

中国がいくら豊かになっても民主化できないのは、共産主義が共産党のために存在し、民主化によってその利権を失うことを恐れているからですが、ロシアはウラジーミル・プーチン氏の独裁が続く中でも、一応普通選挙は行われています。

重要なのは、歴史的に「御恩と奉公=封建制度」という「契約に基づく社会を経験」しているかどうかということです。中国はそれを経験していません。1人が牛耳る絶対王制が基盤である社会に、いきなり民主主義を導入しても根付かないということです。

もうすぐ米国を追い抜くと驕り高ぶり、反対派を、汚職などを口実に次々と蹴落とし、アドルフ・ヒトラーを超える大虐殺者である毛沢東(大躍進と文化大革命での人為的飢饉も含む死者は、西側推計で約8000万人)政治の復活を目指してきた習近平氏は、党内に敵が多いです。

トランプ氏の仕掛けた「貿易戦争」で経済面でも大打撃を受け、天井の無いアウシュビッツと呼ばれるウイグル問題もクローズアップされる中で、習近平氏の中国は今まさに正念場を迎えています。


ただし、民主化に成功している中国が他にもう一つあります。それは、台湾です。大陸中国こそ、台湾を参考にすべきなのです。ただし、今のままの大陸中国では無理でしょう。分裂して現在の一つの省が、一つの国になるようなことでもなければ、困難かもしれません。

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