2020年2月14日金曜日

米国「通貨安関税」の狙いは、中国を本気で追い詰めること 変動相場制の日本は対象外に ―【私の論評】米国の本気度を見誤れば、中国は自滅する(゚д゚)!

米国「通貨安関税」の狙いは、中国を本気で追い詰めること 変動相場制の日本は対象外に 
高橋洋一 日本の解き方

トランプ大統領

 米商務省は、自国通貨を割安に誘導する国からの輸入品に対し、相殺関税をかけるルールを決定したと発表した。中国などを牽制(けんせい)する狙いと報じられている。

 米国が中国製品に関税をかけた場合、その製品のドル建て価格が変わらなければ、米国内の価格が上昇する。その場合、関税を負担するのは米国の消費者になる。

 しかし、現実には、中国製品の米国内での価格はあまり上昇していない。中国製品のドル建て価格が低下しているからだ。これは、米国へ輸出している中国企業が輸出価格を下げたことと、中国人民元が安くなったことによるものだ。

 米中貿易戦争が報復関税により激化した2018年以降、人民元の対ドルレートは1割程度(平均的にはその半分)安くなり、米国による関税引き上げの一部を相殺している。

 ここで、中国は為替について、変動相場制でなく、管理制であることに留意する必要がある。

 変動相場制であるためには、内外の資本取引が自由化されていることが最低条件であるが、生産手段の国有を核心政策とする共産主義中国では、資本取引の自由化は国の根幹に触れるので、到底できない。これは、中国が共産党体制である限り、まともな為替自由化はあり得ないことを意味する。

 本コラムでは、この点が中国のアキレス腱(けん)となっていることを繰り返してきたが、今回の米国による通貨安関税は中国の弱点をしっかり把握していることを示している。

 もちろん標準的な為替理論では、変動相場制において為替は二国間の金融政策の差で決まる。つまり、一国が国内事情により金融緩和すると、当該国の通貨が増加し、他国通貨に比して相対的に増えるので、希少性が減り通貨が安くなる。

 米国も変動相場制であり、国内がデフレになれば金融緩和を行うだろう。その時にはドル安になる。だから、この標準理論を承知していないはずないので、「通貨安」の条件として、政府が為替介入に関与していることなどとともに、「独立した中央銀行の金融政策は通常、含まれない」と明確化した。

 なお、「通貨安」の基準として、特定通貨がドルや主要通貨で構成する通貨バスケット相場に対して安くなったこととしている。この新ルールは、4日に公布され、60日後に施行される予定だ。

 こうした措置は、制度的にも為替介入せざるを得ない中国が主たるターゲットであることは明らかだ。

 変動相場制である日本などが通貨安になっても、インフレ目標があらかじめ設定され、金融政策が独立したものとして行われた結果であれば、原則として相殺関税が課されることはないだろう。

 11月の大統領選を控えた今の時期に、体制のアキレス腱である為替まで踏み込んだ米国は、本気で中国を追い詰めるようだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】米国の本気度を見誤れば、中国は自滅する(゚д゚)!

米国としては、中国が人民元を操作して元安になると、政治目的である対中貿易赤字の削減を達成できなくなります。となると、人民元操作をやめさせるような手段にでるかもしれない。それは、人民元の自由化です。


経済学の教科書では「固定相場制では金融政策が無効で財政政策が有効」「変動相場制では金融政策が有効で財政政策無効」と単純化されていますが、その真意は、変動相場制では金融政策を十分緩和していないと、財政政策の効果が阻害されるという意味です。つまり、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先する方が、マクロ経済政策は効果的になるというものです。

これを発展させたものとして、国際金融のトリレンマ(三すくみ)があります。この結論をざっくりいうと、(1)自由な資本移動(2)固定相場制(3)独立した金融政策-の全てを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べないというものです。

これらの理論から、先進国は2つのタイプに分かれます。1つは日本や米国のような変動相場制です。自由な資本移動は必須なので、固定相場制をとるか独立した金融政策をとるかの選択になりますが、金融政策を選択し、固定相場制を放棄となっています。

もう1つはユーロ圏のように域内は固定相場制で、域外に対して変動相場制というタイプです。自由な資本移動は必要ですが域内では固定相場制のメリットを生かし、独立した金融政策を放棄します。域外に対しては変動相場制なので、域内を1つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえます。

現在、中国は公式上、管理変動制を採用していることになっていますが、中央銀行が公表する対ドルレートは日々の動きがほとんどなく、人民元は事実上ドルにペッグされています。ドルペッグ制( - せい)とは、自国の貨幣相場を米ドルと連動させるペッグ制(固定相場制)をさします。

資本取引が厳しく制限されているため、資本が即座に中国に流入したり流出したりできず、多くのアジア通貨が通貨危機の際に急激な切り下げを経験した時でさえ、対ドルで安定を維持していました。

しかし、中国が資本取引の自由化を進めるにしたがって資本移動が活発になり、現在の実質上のドルペッグ制を維持することが難しくなり、無理に維持しようとしても、内外の金利裁定取引により金融政策が大幅に制約されることになります。

実際、最近の中国は、国内の金融政策が大幅に制限されることになりました。現状の中国では金融緩和を実施すれば、投資効率の低下、資産負債比率の上昇という構造問題が深刻化することが見込まれているからです。債務の株式化も低調であるため、政府はリスクに配慮した慎重な金融政策をせざるを得ないのです。

このように、為替制度を選択する際、中国も他の国々と同様、為替の安定と独立した金融政策、更には自由な資本移動、この三つを同時に達成することはあり得ないという国際金融のトリレンマに制約されているのです(図)。

つまり、その3つの選択肢からどの2つを選ぶのか、言い換えればどれを放棄するのかという選択に直面しているのです。中国は自由な資本移動を放棄する形で独立した金融政策と為替の安定(固定レート)を選んでいるのですが、今後政策的に資本移動が自由化されてくると、独立した金融政策を維持するためには為替レートの安定をある程度犠牲にしなければならなくります。

日本のように完全なフロート制になることはないでしょうが、少しずつ変動の幅を広げていくということは十分あり得るのです。今回の米国の「通貨安関税」は、その誘引となるものと考えられます。

図 国際金融のトリレンマ


10年ほど前、中国では人民元改革と称して、変動相場制に移行すると思われた時期もあったのですが、結局資本移動の自由に立ち入ることはできませんでした。

人民元の自由化は、中国にとっては触れられたくないところです。しかも、それを誘発する人民元安は、中国にとっても資本流出の引き金になりかねないです。コレに関しては、トランプ政権が中国の弱点をついてくるのか、それとも、中国がその前に折れて、何らかの妥協策を打ち出すのか、なかなか興味深いところだったのですが、とうとう結論を出したようです。

その結論が、今回の通貨安関税です。これによって、米国は中国の人民元が変動相場制に移行しようが、しまいが米国にとってはどちらでも良い状況を作り出し、いずれ人民元を変動相場制に移行させる腹でしょう。

米国は、中国を本気で追い詰めその体制を根底から変えさせようとしているのです。それを実行しないなら、米国は「通貨安関税」をかけ続け、中国経済を弱体化させるということです。

北京市内の施設を視察し、マスク姿で手を振る中国の習近平国家主席(右手前)=10日

しかし、昨日のこのブログの記事にも掲載したように、習近平は経済に明るくないため、実質的に最悪かつ解決不能の景気悪化、人民元激安、株価暴落、不動産市場の崩壊という、目の前にある危機への認識が低いようです。たとえば、銀行倒産が中国経済に死活的な凶器となることを習近平は重視していないようです。

金融政策など国内経済も理解できない、習近平には、国際金融も理解できないようです。これでは、何をどうして良いかもわからず、崩壊の道を突っ走るしかないようです。

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2020年2月13日木曜日

新型肺炎が中国経済を崩壊させる…中小企業の3分の1が1カ月以内に倒産の危機に―【私の論評】新型肺炎が中国経済を滅ぼすのではない、自ら滅びる運命だったのだ(゚д゚)!

新型肺炎が中国経済を崩壊させる…中小企業の3分の1が1カ月以内に倒産の危機に
文=渡邉哲也/経済評論

新型コロナウイルスによる肺炎の感染が拡大しており、中国本土の死者数は1000人を超えたことがわかった。また、感染者数は累計4万2638人にまで増えたという。



中国では、春節明けの2月10日から一部の企業が操業を再開しているが、国際的なサプライチェーン停止の影響は各地に波及している。また、操業再開に伴い感染者が拡大するリスクも高まることになり、今後も予断を許さない状況が続くだろう。

今回の新型肺炎は当初の想定よりも感染力が強く、しばらくは自覚症状がない感染者も多い。そのため、潜伏期間中に他者に感染させるリスクもはらんでおり、ひとつの工場が操業を再開したことで工場全体に感染が拡大する事態も考えられる。つまり、工場や学校などが新たに大規模な感染源になる可能性も高いわけだ。

また、サプライチェーンの麻痺は物流の麻痺へと拡大している。たとえば、工場が止まれば工場に入るはずの資材の搬入も止まり、倉庫に荷物があふれていく。結果的に、上流の物流が止まり、モノは身動きが取れなくなってしまう。中国近海には、そのような貨物船が多数停泊中で、輸出のための荷物も動かなくなっている状況だ。一部の税関も機能が停止したままであるため、モノの出入国ができなくなっている。

そして、モノが止まれば金も止まる。中国では感染拡大を防ぐために人が集まったり会食したりすることを制限する動きが出ており、その影響が飲食業やサービス業を直撃しているのだ。すでに、北京市の有名カラオケ店が破産手続きに入ることが報じられているほどである。

清華大学と北京大学が中小企業995社を対象に行った調査によると、手持ちの現金で会社を維持できる時間について「1カ月以内」とした企業が34%で、85%が「3カ月以下」と回答したという。また、新型肺炎の2020年の営業収入に対する影響は「50%以上の低下」が30%、「20~50%の低下」は28%となっている。これらの結果に鑑みるに、今後の企業活動は壊滅的な状況が続き、資金ショートによる倒産や解雇が頻発するものと思われる。

中国の場合、給料日が日本ほどは統一されておらず、企業によってさまざまだ。そのため、今後は各社の給料日ごとに破綻の動きが出てくると思われる。そして、従業員に給料が支払われなくなれば各自のローンなども払えるはずがなく、企業への打撃は個人の住宅ローンなどのデフォルトも誘発させることになる。新型肺炎による経済停滞は、膨れ上がった中国の不動産バブル崩壊を加速させることになるかもしれない。

中国を襲う消費急落と金融不安

中国政府は、非常処置として国有銀行に緊急融資を行い、国有銀行を通じた緊急資金支援を行っているが、その対象は都市部を中心とした銀行のみであり、今後は地方銀行や農業貯蓄銀行などの破綻が相次ぐ可能性もある。この問題がいつ収束するか、影響がいつまで残るかもわからない状況であり、これは単なる延命処置にすぎないのが現実だ。原因こそ違うが、いわばかつての日本と同じように、消費の急激な落ち込みと金融不安が一気にバブルを崩壊させることになるのだろう。

一方で、株式市場は比較的好調に推移している。これは、現時点では新型肺炎は中国の問題であり、アメリカの市場への影響は限定的とみられているからであろう。

中国の人民元は国際化されたものの、いまだ国際決済に使用される割合は低く、米中貿易戦争の影響もあり、中国国内の生産は中国向けが中心というふうに変化している。スマートフォンなど中国への依存度が高い製品も一部あるが、それも関税の問題でサプライチェーンを変更する過程であった。また、アメリカは華為技術(ファーウェイ)をはじめとする中国製通信機器の排除に向けて動いているが、今回の問題は、この動きに対しては追い風となるだろう。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

【私の論評】新型肺炎が中国経済を滅ぼすのではない、自ら滅びる運命だったのだ(゚д゚)!

中国の経済が近いうちに、崩壊するであろうことは、新型肺炎が明るみに出る前から、いわれていました。新型肺炎の前の中国経済を振り返ってみます。

米中貿易戦争に臨む米国は、「経済繁栄よりも国家安全保障を最優先させる」と不退転の決意です。その一端は、2回にわたるマイク・ペンス副大統領の演説で露呈しました。

演説するペンス副大統領

米国の対中冷戦は、貿易戦争の次元を超えて、国防権限法、並びに付随した諸法律、さらには非常事態宣言により、中国の経済、金融、そして軍事力の拡大阻止という「総合戦」に移行しました。

特に枢要部品の輸出禁止は効果的でした。インテルがZTE(中興通訊)への半導体供給をやめた途端、同社は倒産しかけました。米国が中枢部品の供給をやめれば次に何が起きるかは、目に見えています。

米商務省が発表したエンティティ・リスト(EL:米国にとって貿易を行うには好ましくない相手と判断された、米国外の個人・団体などが登録されたリスト)には、以下の中国企業が掲載されました。

ハイクビジョン(杭州海康威視数字技術)は監視カメラ企業。ダーファテクノロジー(浙江大華技術)は同じく監視カメラで世界シェア2位。センスタイム(商湯科技)はAI、特に自動運転の画像と認識技術の企業。メグビー(曠視科技)は顔認識技術。そして、アイフライテック(科大訊飛)はAIと音声認識と自動翻訳の最大手です。これら中国のハイテク企業を封じ込めることは、米中関係が後戻りのできない冷戦に入ったことを意味します。

また、中国の国内経済を見ても、不動産バブルが崩壊しかけていることがわかります。中国でいうところの「鬼城」である、人の住まないマンション群、ゴーストタウン、ゴーストシティは、いずれ「ゴースト・チャイナ」になることでしょう。

鬼城化した中国の高層アパート群、中国には全国各地にこのような施設が散在する

習近平外交の目玉「シルクロード経済圏構想」(一帯一路)は、鄭和艦隊の二の舞になりそうです。皇帝・習近平を悩ます難題は幾重にも複合してきました。日本から見て最悪の問題と思われる米中貿易戦争は習近平にとってそれほど深刻なことではなく、日夜頭が痛いのは国内の権力闘争、そして「香港問題」そうして「台湾問題」の決着です。

そのため、4中全会(第19期中央委員会第4回全体会議)を2019年10月末まで2年近く開催できなかったのです。

習近平は経済に明るくないため、実質的に最悪かつ解決不能の景気悪化、人民元激安、株価暴落、不動産市場の崩壊という、目の前にある危機への認識が低いようです。たとえば、銀行倒産が中国経済に死活的な凶器となることを習近平は重視していません。

側近や中央銀行(中国人民銀行)は嘘の数字で過大な報告をしているに違いなく、また人民銀行が近く予定している「デジタル人民元」の発行で問題はクリアできると、イエスマンと茶坊主しかいない側近らに吹き込まれているようです。

真実の数字は驚くべきもので、「ジニ係数は0.62、GDP成長率は1.67%、負債総額は6500兆円前後ある」とエコノミストの向松祚が警告したのですが、習近平の耳には届いていないようです。

米国企業の経理を監査する米国の監査法人が中国に進出し、企業税務を担当したのですが、あまりのずさんな報告に悲鳴を上げて、そのまま沈黙しています。情報の透明性などまったくないため、米国は「中国企業のニューヨーク(NY)市場上場を拒絶するべきだ」と言うのです。

昨年10月初旬に発表されたゴールドマンサックスの推計では、香港から「外貨預金」かなり流出して、シンガポールの外貨預金口座に40億ドルが流れ込みました。19年6~8月の速報だけの金額です。

過去1年分を見ると、163億米ドルがシンガポールの非居住者の外貨預金口座となっていました。米中貿易戦争に嫌気した外貨流出で、香港住民だけではなく香港に預金してきた中国共産党幹部らのカネも移動しました。香港の騒擾により将来へ不安を抱き、とりあえず余裕資金を外国に、それも香港と同じ国際金融都市であるシンガポールに移管したり、マレーシアやタイの不動産購入に走っています。

日本の論議では、香港がダメになると国際金融都市は深センに移行すると推定する軽率なエコノミストがいます。しかし、情報に透明性のない市場に世界の投資資金は流れることはありません。

中国経済が抱える債務膨張は天文学的数字で、企業破産は18年上半期だけで504万社でした。国有企業は別名「ゾンビ」です。巨大債務のなかでも中国企業がドル建てで外国銀行、投資家から調達した借金の年内償還は350億ドル。20年末までが320億ドル。償還が危ぶまれ、欧米金融機関は貸し出しに極めて慎重な姿勢に転じました。


19年8月段階で、希望した中国国有企業の起債は20%に達しませんでした。すでに2年前からドル建ての中国企業の社債にはNY、ロンドン、そして香港で2%以上の「チャイナ・プレミアム」が付いていることは周知の事実で、不動産関連企業の中には14%の高利でもドルを調達してきたところがあります。

デフォルト(債務不履行)の金額もすごいです。18年だけでも1200億元(170億ドル)。19年は9月までの速報でも900億元(128億ドル)。とりわけ注目されたのは、最大最強の投資集団といわれた「民投」(中国民生投資)が債権者を緊急に集めて1年間の償還延期を承諾してもらったことです。

日の出の勢いだったスマートフォン、自動車の販売にも陰りが見え、5Gの先行商品発売にもブームは起こらず、製造業はすでにベトナム、カンボジアなどに移転しています。産業別ではすでに空洞化が起こっています。

19年5月24日、中国は内蒙古省が拠点で倒産寸前だった「包商銀行」を国家管理にするため89%の株式を取得、国有化しました。金融パニック誘発前の予防措置です。中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)が「公的管理」し、債務は元本の30%削減という措置をとりました。心理恐慌の拡大を懸念した中央銀行は6月2日になって「これは単独の案件であり、金融不安は何もない」と発表しました。

投資家の不安はかえって広がりました。包商銀行の実体は不動産バブル、株投機の裏金処理、インサイダー取引の“ATM”でした。当該銀行を倒産させないで救済したのは、リーマン・ショックの前兆に酷似してきたと金融界が認識することを怖れたからです。

しかし、信用組合レベルの金融機関は倒産が続き、7月には遼寧省の錦州銀行が管理下に置かれました。ほか420の金融機関が不良債権のリスクを抱えていました。こうした矛盾は、全体主義システムの欠陥から来る宿命なのです。

例年、中国は3月の全人代(全国人民代表大会)で、その年のGDP成長率の目標を発表します。行政単位の市、県、村、鎮は、その数字(ちなみに19年は6~6.5%)を守るばかりか、それ以上の数字をはじき出すために無理を重ねます。

でたらめな計画の元に借金を増やし、何がなんでも目標達成がノルマになり、誰も乗らない地下鉄、クルマが通らない橋、人より熊の交通が多いハイウェイや事故が頻発するトンネル、テナントが入らないショッピングモール、そしてムジナとタヌキの住み家となった高層マンションが集合して、ゴーストタウンの乱立となっていたのです。

砂上の楼閣、蜃気楼の繁栄は、やがて泡沫のように消滅するでしょう。残るのは史上空前の借金です。成長率が落ちて、ゴーストタウン化が進み、工場が閉鎖され、潜在的失業は数百万人にのぼります。窮余の一策としての「一帯一路」は、余剰在庫と余剰労働力の処理のためのプロジェクトでした。それも、世界中から「借金の罠」と非難を浴びて世界各地で頓挫しています。

毎年チベットで開催される除霊祭。その願いは近いうちかなうかもしれない・・・・
近未来の姿は「ゴースト・チャイナ」です。これが、昨年の新型肺炎が起こる前の、中国の姿です。

まさに、中国経済は元々、自ら破綻するのは決まっていたのです。新型肺炎騒動は、それを若干はやめるだけのことです。

中国人民銀行(中銀)は今月3日、公開市場操作(オペ)で銀行など金融市場に1兆2000億元(約18兆6000億円)を供給しました。新型コロナウイルスによる肺炎の拡大が経済に与える影響を緩和する狙いがあるようです。しかし、この程度の規模では焼け石に水でしょう。結局何もしない、できないと言っているに等しいです。

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2020年2月12日水曜日

2020年も引き続き予測を破る米雇用市場―【私の論評】日韓の政治家は、真摯にトランプ大統領の金融政策に対する姿勢を学ぶべき(゚д゚)!


<引用元:ホワイトハウス 2020.2.7>大統領経済諮問委員会

労働統計局(BLS)の毎月雇用状況の最新データから、歴史的に見て強い米国労働市場が2020年も継続して拡大していることが確認できる。

一般教書演説で雇用の良さを強調したトランプ大統領
報告書の事業所統計によると、1月は22万5千人の雇用が増加し、15万8千人の雇用という市場予測を破った。11月と12月の上方修正を含めて、過去1年の月平均雇用増加は17万1千人という健全なものとなった。先月最も増加した分野は教育と医療サービス(+72,000)、建設(+44,000)、そしてレジャー・サービス業(+36,000)だった。

今月の報告書には事業所統計に対するBLSの年間修正も含まれていた。この修正によって、2019年3月の年度末の間に以前報告されたよりも51万4千人少ない雇用増加だったことが分かった。この修正は雇用が失われたという意味ではなく、むしろ以前は過大に見積もり過ぎていたという意味だ。だが1月の強い雇用増加によって、それでもトランプ大統領の選出以来700万人の雇用が増加している。選挙から38カ月、そのうち34の月で少なくとも10万人の雇用を創出しており、毎月雇用が増加している。

長期化した雇用創出は米国人の賃金を引き上げている。過去1年半では景気後退以来で最大の賃金上昇となった。平均時給は前年比で3.1パーセント増加し、18カ月連続で3パーセント以上の上昇率となっている。賃金上昇は製造・非管理職労働者でさらに速く、前年比で3.3パーセントとなった。トランプ大統領の下で、労働者の賃金は管理職の賃金よりも速いペースで増加している――前政権とは逆の結果である。

別の世帯調査では1月に失業率が3.6パーセントに上昇したことが分かっているが、1969年以来最低のレベル近辺に留まっている。1月には23カ月連続で失業率が4パーセント以下となった――50年で最長の記録だ。失業率は、連邦議会予算事務局の選挙前の最終予測である5.0を依然として大きく下回っており、トランプ大統領が2016年11月に選出された時のレベルより1.1パーセント低い。

歴史的に見て恵まれないグループは、現在のひっ迫した労働市場から利益を受けている。2019年にアフリカ系米国人、ヒスパニック系米国人、アジア系米国人の失業率は全て過去最低となった(テーブル参照)。高校卒業資格を持たない人々と障害者も昨年は過去最低の失業率となった。


1月のわずかな失業率上昇の主要原因は、傍観者の立場にいた労働者が仕事を探そうと労働人口に加わることが増えたためだった。この3カ月で労働市場外から来た新たな労働者の平均割合は73.2パーセントだった。1月に就労率は63.4パーセントにまで上昇した――2013年以来で最高のレベルだ。重要なこととして、働き盛り世代(25歳から54歳)の就労率も1月に83.1パーセントに上昇したが、2016年11月の数字を1.8パーセント上回るものだ。

重要性が小さく見える就労率の変化は雇用市場に重大な影響を持っている。例えば、トランプ大統領の下で働き盛り世代の就労率が上昇したということは、労働力として220万人の働き盛り世代労働者が加わったということになる。就労率の増加以上に、働き盛り世代労働者の労働力人口比率は1月に0.2パーセント上昇して80.6パーセントとなった――2001年5月以来最高レベルだ。

労働者の流入は経済に対する自信増大と就職見通しの改善を示している。全米産業審議会の消費者信頼感は1月に131.6に上昇し、トランプ大統領の選出前月から31パーセントの増加となった。その上仕事が「得難い」と答えた人に比較して、仕事が「十分にある」と答えた人の割合は4対1以上だ。

過去最高の2019年の後、2020年の米国経済は再び強い雇用報告で始まった。昨年起きたように、1月の雇用増加は予測を破り、賃金は3パーセント以上上昇し、失業率は歴史的な低さかそれに近い数字を保った。

【私の論評】日韓の政治家は、真摯にトランプ大統領の金融政策に対する姿勢を学ぶべき(゚д゚)!

本ブログの読者であれば、金融政策が雇用政策であることを私が繰り返し書いてきたことを知っているでしょう。その意味では、米国で金融緩和により失業率が低下し、有効求人倍率が上昇してきたのは、私にとっては想定内のことです。

失業率の定義は、労働力人口に対する完全失業者の占める割合です。完全失業者は労働力人口から就業者を引いたものなので、失業率は、1から就業者数の労働力人口に対する割合を引いた数になります。

トランプ大統領は金融政策と為替の関係を理解しているようです。これは考えてみれば、簡単なことなのですが、これを理解しない人は結構多いようです。

金融緩和にはいくつかの方法がありますが、この世界に緩和の方法がお札を刷り増すことしかなかったとします。そうすると、ドルを徹底的に刷ります、すなわち金融緩和を徹底的に行うと、ドルが相対的に増え、ドル安になります。

逆に、米国が大規模な金融緩和をしていないにもかかわらず、日本や、EUが円やユーロを徹底滝に刷り増せば、相対的に円やユーロがドルよりも増えて、ドルの価値が下がり、ドル安になります。

為替の動きは、短期的には様々な要因がありなかなか正確にあてることはできないですが、長期的には米国と他国の金融緩和政策の方向性で6割型は、予想できます。長期では、結局金融政策の方向性でほとんどか決まります。これは、小学生でもわかる理屈です。お金も、相対的に他国、特にドルと比較して多ければ、安くなりますし、少なければば、高くなります。それだけの話です。

トランプ大統領は、金融政策が雇用と、為替に大きく影響することを、どの政治家よりも理解しているようです。それは、不動産業をやってきた実績から、学んだことなのでしょう。

実際トランプ大統領は昨年3月2、共和党関連の行事で演説し、中央銀行の金融引き締め策がドル高を招き、米経済に悪影響を及ぼしているとして米連邦準備理事会(FRB)を再び批判しています。FRBは1月、2019年に2回想定していた追加利上げを見送って「当面は様子見する」方針を示していたのですが、トランプ氏は改めてけん制した格好でした。
トランプ氏は「米国にとって好ましいドル(の水準)を求めている。外国と事業取引するのを妨げるような強すぎるドルは求めていない」と主張しました。名指しを避けつつも「利上げを好み、量的引き締めを好み、非常に強いドルを好む紳士がFRB内に1人いる」と述べ、パウエル議長を暗に批判した。

不動産業はその時々のFRBの政策に大きく影響されます。だから、いつが儲け時なのか、耐え時なのかを判断するには、FRBの金融政策に大きく影響されます。そのため、実践的に金融政策の重要性を学んだのでしょう。

米国経済を見るときのポイントは、失業率とインフレ率です。それに応じて、マクロ経済政策がどのようになるのか、ほとんど予測できます。

実際の金融政策は「テーラー・ルール」によって行われているといわれています。テーラー・ルールとは、1933年にスタンフォード大学のテーラー教授が提唱したもので、オリジナルな形は、インフレ率と実質国内総生産(GDP)水準の2つから、実際に行うべき金利政策がほとんど説明できるというものです。

実質GDP水準は、失業率と密接な関係があるので、インフレ率と失業率から決まるといっても良いです。具体的にいえば、インフレ率がインフレ目標の2%より高い時に利上げ、低い時に利下げとなり、失業率がNAIRU(インフレを加速しない失業率)といわれる4%より高い時に利下げ、低い時には利上げということが多いとされてきました。

昨年の4月の米国のインフレ率は2%、失業率は3.6%でした。この時点で過去1年くらい、失業率は4%以下となっており、従来のテーラー・ルールからみれば利上げになるという状況でした。

米経済で、失業率が4%を下回ることは極めて珍しいです。戦後を見ても、1960年代後半の4年間程度に見られただけの「超人手不足」状態でした。

これまでであれば、インフレ率がかなり高くなっているはずでしたが、まだ高くなっていませんでした。まさにインフレ目標2%の範囲内になっていました。

当時は、じわりとインフレ率が高まりつつありましたが、より重要な将来のインフレ予想はそうでもありませんでした。

インフレ予想は、物価連動国債と通常国債の金利差である「ブレークイーブン・インフレ率」によって測ることができます。そのデータを見ると、2017年以降、2%の上下0.2ポイント程度で安定していました(5年物)。

従来のデータでは、米国のNAIRUは4%程度というのが定説ですが、ここ1年くらい失業率が4%を下回りながらも、インフレ率が上がっていないということは、NAIRUが3%台半ばになっているのかもしれないことが認識できました。

「超完全雇用」であっても、雇用のミスマッチや、避けられない失業があるためにゼロにはならない。ただ、最近は、インターネットの発達などにより、雇用のミスマッチが少なくなっていることも考えられます。

このブログでは、失業率を事実上の最低ラインのNAIRU(インフレを加速しない失業率)になるように、一方で経済が過熱しないようにインフレ目標があると説明してきました。もし、NAIRUが3%台半ばであれば、それに対応するインフレ目標は2%台半ばになっている可能性もありました。その場合、当時のインフレ率や失業率であれば、利下げの可能性もありえました。結局は、FRBはトランプ大統領の圧力もあって、利下げはしませんでした。

その結果として、上の記事でも示されるいるように、米国の雇用は過去最高の2019年の後、2020年の米国経済は再び強い雇用報告で始まったのです。昨年起きたように、1月の雇用増加は予測を破り、賃金は3パーセント以上上昇し、失業率は歴史的な低さかそれに近い数字を保ったのです。

日銀はNAIRUを無視して事実上の利上げである「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)」を行っています。米国の動きは、円高を加速させる可能性はかなりありました。そうして、実際そうなっています。

以下は、マクロ政策・フイリップス曲線といわれるものです。数値は日本のものです。日本では、NAIRU最近まで、3%台と思われてきたのですが、3%切ってもインフレ目標が達成されないため、2%台であると認識されるようになりました。米国の場合はNAIRUは従来は4%台であると認識されていたのですが、米国でも失業率が3%台になっても、目立った物価上昇はみられず、NAIRUが3%台であると認識されるようになりました。

マクロ政策・フィリップス曲線

さらに、財務省は昨年10月に消費税増税を実行してしまいました。2014年の増税のときも、それまで積み上げてきた、日銀による金融緩和の成果をぶち壊しにしました。特に、インフレ目標(物価目標)の実現はさらに遠のきました。ただし、緩和は継続されてきたので、雇用の良さはすぐに戻ってきました。

しかし、イールドカーブ・コントロールが実施され、消費税が10%に増税された後はどうなるのでしょうか。日銀が今のまま、抑制気味の金融緩和政策を継続し続ければ、せっかくの金融緩和の成果である、雇用はまた悪化し、インフレ目標実現もさらに遠のいてしまうでしょう。

韓国に至っては、金融緩和をしないで最低賃金だけを機械的にあげたので、大方のエコノミストの予想通り、雇用が激減してとんでもないことになりました。


トランプ大統領は、先の述べたように、金融政策と雇用、為替の関係を理解しているようで、そのせいでしょうが、上の記事にも示されているように空前の雇用の良さを実現しています。

しかし、日本では未だにインフレ目標も達成できず、それでも安倍総理は日銀をトランプ大統領がFRBを批判したようには、批判していません。韓国では、金融緩和をせずに機械的に最低賃金を上げて、雇用が激減する有様です。

安倍総理に関しては、少なくとも文韓国大統領よりは、金融政策に関しては理解があるようですが、それにしても、現在はまさに大規模な緩和のやりどきなのにもかかわらず、実際には日銀を動かせていません。文韓国大統領は、なりふり構わぬ、親北姿勢を崩しませんが、そのようなことの前に、まずは正しい金融緩和政策を実施して、韓国の雇用市場を立て直すべきです。

これは、総理や大統領だけではなく、両国の他の与野党の政治家にも言えることです。親北や「もりかけ桜」は、政治家のメインの仕事ではありません。まともな政治家は、まずは政府だけが実行できるまともなマクロ経済政策を理解し、まともな政策を実行できるように動くべきです。それができない政治家は、政治家とはいえません。単なる政治屋です。

両国とも、米国を見習って、まともな金融政策を実施すべきです。それによって、雇用がよくなり、さらに経済にも良い影響を及ぼすのは確実です。特に、トランプ大統領の金融政策に対する姿勢を学ぶべきです。

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2020年2月11日火曜日

政治色濃いアカデミー賞の視聴率が過去最低、視聴者は前年から約600万減少―【私の論評】『パラサイト』で韓国社会の実体を鋭く抉っても、韓国政府が正しい政策を実行しなければ社会は変わらない(゚д゚)!

政治色濃いアカデミー賞の視聴率が過去最低、視聴者は前年から約600万減少

<引用元:FOXニュース 2020.2.10

ハリウッド・リポーター紙(THR)によると、ABCの政治色の濃いアカデミー賞テレビ中継は、日曜日の夜の平均視聴者数が2,360万人と過去最低となった。

THRは、全体で「昨年の授賞式の2,956万人・7.7パーセントをはるかに下回」り、前年比で視聴者数が20パーセント減少したと指摘した。アカデミー賞はメインターゲット層の18から49歳の成人でなんとか5.3パーセントを達成したが、昨年の7.7パーセントから31パーセント減少した。

司会のいない長時間の放送は、2018年に平均2,654万人の視聴者数で史上最低となった時からすると約200万人視聴者が減少した。

第91回アカデミー賞

「なんとか希望の兆しを見出す必要があるというなら、第92回アカデミー賞は第91回アカデミー賞以降ではテレビで最も視聴されたエンターテイメント番組だった。いうまでもなく、それも全く予想通りだった」とザ・ラップの視聴率の権威、トニー・マグリオは書いた。

アカデミー賞の主役となった受賞者の中には、授賞式に政治を差しはさむ者がいた。皮切りとなったのはテレビ放送された最初の受賞者、ブラッド・ピットで、トランプ大統領の弾劾裁判で証人喚問に反対した共和党上院議員を狙い撃ちにした。

「私には45秒しかここで話す時間がないと言われているが、それはジョン・ボルトンに今週上院が与えた時間よりも長い時間だ。クエンティン(タランティーノ)がそれに関する映画をやるかもしれないと思っている。最後に大人が正しいことをするんだ」とピットは語った。

ピットだけがコメントに政治色を着けた役者ではなく、ホアキン・フェニックスは主演男優賞の長く、感情的な受賞スピーチで、中でも人間性の状況と牛の置かれた窮状について話した。

「我々は牛を人工受精させる権利があると感じている。そして生まれたら母牛が紛れもなく苦悩の叫びを上げているのにその子供を盗み、それから我々は子牛のためのミルクを取り上げてコーヒーやシリアルに入れている」とフェニックスは語った。

バラク・オバマ、ミシェル・オバマ夫妻がプロデュースし長編ドキュメンタリー賞を受賞した「アメリカン・ファクトリー」の共同監督、ジュリア・ライカートの演説では、社会主義革命論者のカール・マルクスまで引用された。

【私の論評】『パラサイト』で韓国社会の実体を鋭く抉っても、韓国政府が正しい政策を実行しなければ社会は変わらない(゚д゚)!

今回、作品賞を争っていたのは『パラサイト』と、(作品賞、監督賞など10部門でノミネートされた)『1917』(サム・メンデンス監督)ですが、格差社会や分断という政治的メッセージの強い前者に比べ、後者は政治色の全く感じさせない作品です。

作品賞を受賞した『パラサイト』のポン・ジュノ監督

古い体質のアカデミーはこれまで、大統領選が行われる年の作品賞にはミュージカルや歴史作品を選出してきたのですが、それが今回は政治色の強い映画を選んだわけです。

しかも、かつて韓国右派政権から反政府的な作風などと難癖をつけられ、国家情報院のブラックリストに入れられた経験のあるポン・ジュノ監督にも監督賞です。

これらが意味することといえば、米国内で“分断の象徴”と位置付けられているトランプ大統領に対する痛烈な批判ではないでしょうか。格差拡大、人種差別、分断という、トランプ的なものされる空気を、アカデミーが相当、嫌っているのは間違いないです。

イランなどイスラム教国7カ国の市民の入国を90日間禁止したトランプ大統領に対し、抗議声明を出したこともある映画芸術科学アカデミーです。今回も痛烈なメッセージをトランプ大統領に出したつもりなのでしょうか、おそらくトランプ大統領はまったく気にもとめないでしょう。

そうして、ここがすでに勘違いです。米国社会は昔から分断されていたのです。ざっくり言ってしまうと、元々米国はいわゆるリベラル・左派と、保守派に分断されていたのです。

そうして、テレビ・新聞等のマスコミ、学校、職場、役所等、そうして映画界などエンターティンメント業界もリベラル・左派が牛耳っていて、米国の保守派は、何かを主張してもリベラル・左派の大きな声にかき消されてしまっていたというのが実情でした。

リベラル・左派の声があまりに大きくて、保守派はますます口をつぐまず負えなくなっていたというのが実情だったと思います。とにかく自分の身の回りは、どこに行っても、保守派が主張しても、否定されるか、非難されるしかなかったのです。

リベラル・左派一色の状態は米国映画界も同じです。この業界では保守の居場所はあまりありません。生粋のリベラル・左派でないと、うまく世渡りができません。

だからでしょうか、米国のテレビ番組などでは、ハリウッド俳優が「自分は昔は生粋の共和党員」だったことを告白するものも結構みられました。しかも、若い頃ヤンチャをしていたような語り口のものがほとんどです。しかし、それは「自分は現在は生粋のリベラル・左派」であることを強調することでもあります。

このような状況の米国ですが、米国ではリベラル・左派がメインストリームのようにみられてきたのですが、トランプ氏が大統領になってからは、風向きが変わってきました。保守派が巻き返してきているのです。そうして、保守派の声が必ずしもかき消されるばかりではなくなってきたのです。

考えてみれば、当たり前です、リベラル・左派は自分たちが世の中の大部分を占めてきたのが、トランプ登場でそうではなくなったと言いたいのてしょうが、現実は違ったのです。実はもともと、米国には半数近くの保守派が存在していたのですが、その声がかき消されていただけだったのです。

それが、トランプ大統領が登場してから、明らかになっただけの話なのです。無論、米国の社会の分裂はもっと複雑で深刻ですが、大括りで煎じつめればそういうことになります。

そのことを理解せず、日本のマスコミなども、米国のリベラル・左派マスコミの情報を垂れ流すだけで、日本の多くの人々は、米国の半分リベラル・左派の主張だけを耳にし、保守派の主張は耳に入らず、米国の半分しか知らないというのが実情でした。

最近のハリウッド映画を観ていて、よく感じるのは、フィクションであるはずの映画の世界にまでいわゆるリベラル・左派による、ポリティカル・コレクトネス(以下「ポリ・コレ」)の影響が及んでいるということです。

3年前には、アカデミー賞で黒人俳優が全くノミネートされず、「白人ばかりのアカデミー賞」と揶揄した批判が問題になり騒がれたことがありました。

「ポリ・コレ」のことを知らない人がこんな話を聞くと、条件反射的に「黒人差別だ!」と憤るのかもしれないですが、公平な判断の上で本当に黒人俳優にノミネート者がいない場合はどうするのか、ということも併せて考える必要があります。

ハリウッド映画に出演している俳優の比率は黒人よりも白人の方が圧倒的に多いわけですから、たまには黒人が受賞できない年度があっても、それはそれで仕方がないことだとも言えます。実際、出演比率の低い黄色人種もアカデミー賞にノミネートされるようなことは全くと言っていいほど無いですが、誰も文句は言っていません。

この騒ぎがあったこととも関係しているのかもしれないですが、現在のハリウッド映画(海外ドラマも同様)には、どんな映画にも一定数の白人以外のキャストが出演する場合が多くなっています。

同時に、同性愛者を演じる俳優が多く登場するようになりました。マイノリティの認知度を上げるという目的でそのようなことが行われているのかもしれないですが、実社会における同性愛者の割合を考慮すれば、明らかに過剰な扱いになっているという違和感は拭えないです。

こういった特別扱いをすること自体が、実は差別そのものであると思われるのですが、「ポリ・コレ」を厚く信奉する人々には、そのことが見えなくなっているのかもしれないです。

どれだけ建前を飾ったところで、特別扱いしなければならない存在を自ら作り出し、腫れ物に触るかの如くタブーを作り出すことが、差別をより根深いものにするということが解らないというのは悲劇そのものです。

ハリウッド映画の内容ではなく、ハリウッド映画界そのものが壮大な悲劇を演じているということが多くの人々に理解される日は訪れるのでしょうか。もし、その日が来れば、それはアカデミー賞ものの栄誉ある瞬間でしょう。

さて、話を韓国に戻します。この映画「パラサイト」に描かれるような、本格的に韓国が格差社会へと突入したのは、1997年の年末に韓国を襲った「IMF危機」がきっかけでした。「IMF危機」とは、アジア金融危機に伴い財政破綻の危機に直面した韓国政府が、IMFから多額の資金援助を受けるため、国家財政の「主権」をIMFに譲り渡したものです。

金大中大統領

翌1998年2月に就任した金大中大統領は、「民主主義と市場経済の並行発展」をモットーとする「DJノミクス」を提唱し、IMF体制からの早期脱却を目指しました。

「DJノミクス」とは、経済危機を招いた原因を、これまで30年余りにわたって続けられてきた政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なし、その改善のため、自由放任ではなく政府が積極的な役割を果たすとする経済政策でした。

つまり、公正な競争が行われるように市場のルールを定めて、市場を監視し、個人の努力や能力によって正当な報酬がもらえるシステムを作るというのが政策の核心でした。

しかし、実際に金大中政権が実施した戦略は、資本市場の開放、国家規制の緩和、公企業の民営化、そして労働市場の柔軟化およびリストラ強行など、新自由主義的な政策ばかりでした。こうした金大中政権の「劇薬療法」によって、3年8ヵ月後の2001年8月23日、韓国はIMFから借り入れた資金を早期に返済し、経済主権を取り戻しました。

しかし皮肉なことに、その過程で中産階級が崩壊し、二極化と所得の不平等がさらに深刻化してしまったのです。

韓国を代表する「進歩派」(韓国では左派をこう呼ぶ)の経済学者である柳鍾一(ユ・ジョンイル)韓国開発研究院(KDI)国際政策大学院院長は、進歩系(左派系)メディアである「プレシアン」に次のような文章を寄稿しています。
約20年前に韓国を襲ったIMF危機以降、韓国社会における最大のイシューは、二極化による「格差社会」である。 
現在の韓国社会は、単に不平等なことが問題なのではなく、富と貧困が世代を超えて継承される点が際立った特徴となっている。 
すなわち、世代間の階層の移動性が低下し、機会の不平等が深まり、いくら努力しても階層の上昇が難しい社会、すなわち「障壁社会」へと移行したのだ
たしかに、2018年に韓国の有力シンクタンクの一つである現代経済研究院が発表したアンケート調査の結果を見ると、「いくら熱心に努力しても、自分の階層が上昇していく可能性は低い」と考えている韓国人は、2013年が75.2%、2015年が81.0%、2017年が83.4%と、毎年上昇しています。

柳鍾一院長が主張した「障壁社会」について、韓国人の8割以上が同意していると見ることができるでしょう。

また、2018年6月に韓国保健社会研究院が発表した「社会統合の実態診断及び対応策研究」報告書によると 韓国人の85.4%が「所得の格差が大きすぎる」と思っており、80.8%が「人生で成功するには、裕福な家で生まれることが重要だ」と考えています。

深刻な不平等や格差は映画の中だけの話ではなく、韓国社会の現実そのものなのです。

しかしながら、韓国においてはこのような不平等や格差がなぜ起こるのかという議論については、活発な議論が行われおらず、その結果不平等・格差を是正する政策がおこなれてきませんでした。

韓国の経済政策は結局「DJノミクス」の延長線上にあり、経済危機を招いた原因を、長期にわたって続けられてきた政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なし、その改善のため、自由放任ではなく政府が積極的な役割を果たすとする経済政策をとってたように思われます。

文政権による、金融緩和をしないで、最低賃金だけをあげるという結局大失敗して雇用が激減しました。

韓国では、DJのミクス後から、雇用を改善するために、金融緩和をするという政策はとられてきませんでした。そのため、かなり前より雇用は悪く、最近では最悪という事態になっています。数年前から、若者の間で雇用が最悪ということで、「朝鮮ヘル」という言葉が合言葉になっています。

これと似たようにことは、過去に日本でも行われてきました。それはいわゆる構造改革というものです。結局、構造改革をしないからいつまでたっても、日本は経済成長できないのだという論議ばかりで、政府だけが実行できるまともな財政政策や、金融緩和政策がなおざりにされました。

そのため、日本は平成年間には、デフレであるにも関わらず、財務省は増税を繰り返し、日銀は金融引き締めを繰り返し、日本経済は低迷しデフレがさらに進化し、超円高で産業界は苦しみました。

しかし、安倍内閣が誕生してから、構造改革一辺倒だった、経済議論も変わり、日銀は異次元の金融緩和に踏み切りました。そのため、雇用はかなり改善されました。ところが、財政政策は、二度も増税するという過ちをおかしたため、経済は伸びませんでした。

そのため、日本の経済成長率は韓国以下です。韓国の成長率は従来よりは、落ちているのですが、それでも、韓国は2.0%増、日本は1.0%増。2019年の経済成長率は、韓国が日本より1%ポイント以上高いという結果となっています。

しかし、それでも金融緩和は、日銀がイールドカーブコントロールを導入して以来、抑制気味ながら、継続しているので、増税で緩和の効果が削がれているとはいえ、雇用は韓国よりは随分まともです。

一般教書演説をするトランプ大統領

米国は、トランプ氏が最近一般教書演説を行ったばかりですが、雇用なども含め堅調な経済を訴求していました。さらに、新たな減税政策も打ち出していました。

結局韓国は、雇用を良くするといいながら、雇用と密接な関係があるといわれている、金融緩和を実行せずに、最低賃金だけをあげるという愚挙によって、雇用が最悪となり、とんでもない状況をつくりだしています。

このような状況は、大規模な金融緩和をしないと是正できないです。韓国が金融緩和をすると、キャピタル・フライトが起こるとか、ハイパーインフレがおこるという人もいますが、物価目標の範囲内で実行していれば、そのようなことは考えにくいです。

実際過去にキャピタル・フライトが起きたアイスランドと比較しても、韓国では家計の借金は多いとはいつつも、当時のアイスランドの家計の借金が莫大であり、しかも借金の先がほとんど海外であったことを考えると、韓国ですぐにキャピタル・フライトが起こるとは考えにくいです。

我が国においても、2012年あたりまでは、金融緩和すると、ハイパーインフレが起こるとか、キャピタル・フライトが起こるなどとする識者もいましたが、実際に金融緩和をしてもそのようなことは起こりませんてした。

であれば、韓国銀はすぐにでも、大規模な金融緩和をすべきでしょう。しかし、文大統領の頭にはそのような考えはまったくないようです。

結局、米国ではリベラル・左翼によるポリテカル・コレクトネスが提唱され、実行されていたり、韓国では政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なし、その改善ばかり叫ばれたりしているわけですが、そのようなことだけをしても全く無駄であり、無意味であり、そのことに多くの米国人が気づいたからこそ、政治色濃いアカデミー賞のテレビでの視聴率が過去最低になったのかもしれません。

結局極端なポリティカル・コレクトネスを実行するばかりで、政府が本来実行すべきまともなマクロ経済政策を実行しなければ、世の中、特に社会は何も変わらないということを多くの米国民は気づきつつあるのかもしれません。

無論、正しい経済対策をすることだけで、社会が改善されるわけではありませんが、正しい経済対策をしなければ、社会を良くする緒にもなりません。これなしに、小手先で何かを実行したとしても、砂上の楼閣になるだけです。

生産能力の低い発展途上国であれば、財政政策や金融政策の実行にも限りがありますが、韓国や日本は、まだまだできる余地があります。それを実行せずに、構造改革や社会の歪をえぐってばかりいても、何も変わりません。ましてや、韓国のように金融緩和しないとか、日本のように増税するなどのことをしても無意味です。やはり、米国のように政府としてできるマクロ経済政策は間違いのないように実行すべきなのです。

結局韓国も、「バラサイト」という映画等で、政経癒着と不正腐敗、モラルハザードの実体を鋭くえぐったとしても、それに対する具体的な解決策を韓国政府が実行しなければ、社会は何も変わらないということです。日本も同じことです。

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2020年2月10日月曜日

連邦議員が、ニューヨーク・タイムズ、ワシント・ポストで公開された中国プロパガンダに対する捜査を要求―【私の論評】我が国でもFARA(外国代理人登録法)を成立させよ(゚д゚)!

連邦議員が、ニューヨーク・タイムズ、ワシント・ポストで公開された中国プロパガンダに対する捜査を要求

<引用元:ワシントン・フリービーコン 2020.2.6

ワシントン・フリービーコンのロゴ

「チャイナデイリー」が連邦法を無視していることをワシントン・フリービーコンが発見してから、連邦議員は司法省にプロパガンダメディアに対する「本格的捜査」に着手するよう求めている。

チャイナデイリーは外国代理人の開示要件に従わずに、数百万ドルをかけて国の認可を受けたプロパガンダを米国の主要新聞に掲載しており、ジム・バンクス下院議員(共和党、インディアナ州)、トム・コットン上院議員(共和党、アーカンソー州)とその他33人の議員が同メディアの活動に対する捜査を要求することに至った。13日に一同はウィリアム・バー司法長官に書簡を送り、連邦開示法を「チャイナデイリーが遵守しているかに関して審査し報告書を作成する」よう司法省に求めた。

ジム・バンクス下院議員(共和党、インディアナ州)

「共産主義者の残虐行為を曖昧にしようとするプロパガンダには、対抗措置を講じてしかるべきだ。外国代理人登録法(FARA)ではすでに連邦政府に有害な外国の影響力と戦うための武器が提供されている。司法省はそれらを使用して中国のプロパガンダを取り締まるべきだ」と書簡には書かれている。

本紙は以前、チャイナデイリーがニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、ワシントン・ポストの紙面で、信頼できるニュース記事に似せて作られた何百というプロパガンダ記事を掲載しているのを発見した。

バンクス議員は本紙へのメールの中で中国との緊張を冷戦と比較した。「我々は民主主義が共産主義独裁体制に勝るということを世界に納得させた。どうやらその戦いをもう一度やらなければならないようだ――今度ははるかに裕福で同じように断固とした敵が相手だ。連邦政府は我々の価値観の勝利を確保するために、持てる全ての武器を使用しなければならない――失敗した場合の結果は言語に絶する」と彼は述べた。

8人の上院議員と27人の下院議員が署名した書簡は、中国の国家的存在がFARAの義務に違反していることに対して措置を講じるよう議会が初めて司法省に強く求めたものではない。2019年には、上院の超党派グループが中国プロパガンダメディアの新華社通信とCGTNアメリカの活動に対する捜査を要求してから、同省は彼らに外国代理人として登録するよう命じた。

CGTNアメリカは連邦命令に従ったが、新華社通信はまだ外国代理人として登録していない。バンクスは1月、司法省に新華社通信の登録状況を調査するよう司法省に要求した

チャイナデイリーは初め1983年に外国代理人として登録し、それ以来米国で親中国プロパガンダを発行してきた。中国の代弁人は近年大々的に活動を拡大しており、2017年以来3,500万ドル以上を費やしている。チャイナデイリーは2012年以来、6つの米紙で500以上の記事体広告と700のオンライン記事を流してきた。

米国の主流媒体で流した記事体広告には中国の圧政を取り繕ったものもあった。ウォールストリート・ジャーナルに掲載されたプロパガンダ記事では、中国が100万人以上のウイグル人イスラム教徒を拘留していることを、「法に基づく急進化低下活動」と呼んでいた。チャイナデイリーはコメントの要求に応じなかった。

「無害な記事もある――中国政府の健康構想のような話題を売り込むものもある――が、そうでないものもある。そうした記事は中国の残虐行為を隠ぺいする役割を果たしている。それには新疆地区でのウイグル人に対する非人道的犯罪や、香港での取り締まりに対する支持が含まれる」と書簡はしている。

中国本土以外で合計60万部を発行するチャイナデイリーは、国の最高機関に浸透している。バンクスは以前、プロパガンダメディアが議会のほぼ全員に新聞を配布していると知って、連邦議会での同紙の配布を制限しようと試みた。

司法省はコメントの要求に応じなかった。

【私の論評】我が国でもFARA(外国代理人登録法)を成立させよ(゚д゚)!

2月5日、35人の米連邦議会議員が、中国官製英字紙・チャイナデイリー(China Daily)の調査を要請する書簡を司法省および法務省に送った。議員たちは、すでに米国外国代理人登録法(FARA)に登録されている同紙が、法律に違反している可能性があると指摘しています。

チャイナ・デイリーの紙面

チャイナデイリーは過去30年間、米主流紙や地方紙の広告枠を購入して、記事を「折り込み広告」として、あたかも新聞紙面の一部にみえるかのように挿入していることは、従来から指摘されていたことです。

FARA(外国代理人登録法)登録媒体はこの法律に基づき、2年ごとに広告購入や財務諸表の詳細を米当局に報告する義務が課されています。しかし、議員たちは同紙が報告を怠ったと指摘しています。

中国共産党機関紙であるチャイナデイリーは、1983年に外国代理店登録法に記録されました。

「チャイナデイリーは、中国共産党が進行中の残虐行為を隠ぺいするために利用する悪質なプロパガンダに過ぎない」と、ジム・バニング上院議員は書簡のなかで書いています。

「私たちが勝利した冷戦から得た教訓とは、自由な民主主義は共産主義の独裁よりも優れていると世界が確信したことだ」と議員は続けました。

議員は司法省に対して、チャイナデイリーの財務諸表および法的評価の提出を要求するよう求めました。また、法務省に対して、同紙にFARA遵守に関する報告書の提出を要請するよう求めました。

米国の場合は、FARA(外国代理人登録法)があるので、中国などの外国のメディアが悪さをしようとしても、上記のように連邦議員は司法省に対して疑義を申し立てることができます。

しかし、このような法律のない我が国においては、中国、ロシア、イスラエル、米国など世界の工作機関は、我が国の影響力のある人物を代理人に仕立て上げ、その国益にあうような発言をさせています。報道界、政財界、官界、学会、宗教界などにその代理人をひそかに埋め込み、有利な情報または虚偽情報を流させ、わが国の世論を誘導しています。

また、これらの代理人をつかって政財官界にロビー活動を展開し外国に有利な政策を講じさせたり、企業の技術者を引き抜いて先端技術情報を取り込んでいます。

たとえば、中国の場合、共産党中央宣伝部、対外連絡部の指揮のもとに、国家安全部や人民軍が、工作員を放ち、我が国の記者や有名人に、沖縄の米軍基地に反対させ、集団安全保障法案に反対させ、あるいは靖国参拝に反対させるなどの活動を執拗に展開しています。

それら代理人は、多くの場合、「中国の古い友人」、「友好人士」と呼ばれ、自尊心をくすぐられているのが実態です。中には、共産主義イデオロギーに洗脳されたものやハニートラップに引っかかって脅迫されたものもいますが、大部分は多額の報酬や有利な便宜供与をえて活動している者たちです。

日中友好協会 丹羽宇一郎会長

また、朝鮮総連や在日科学技術協会のメンバーは、わが国から核技術などを窃取することを目的に京都大学などに対して秘密工作をすすめていることも暴露されました。

<米国の制度>
法治国家、米国は、こうした内側から国論を誘導したり、先端技術を窃取しようとする外国代理人の活動を監視するため、外国代理人登録法(22.USC.611)とロビー活動公開法(2.USC.1601)を制定しています。

外国の政府、政党や企業、団体の利益のために政治活動や宣伝活動を行い、あるいは官庁や議会に対して働きかけを行うものを「外国代理人」と位置づけ、外国代理人には司法省に登録し、半年ごとに活動報告を行うことを義務づけています。これに違反した場合は、5年以下の禁固または1万ドル以下の罰金を課されます。

そのため、米国人の広報コンサルタントも外国の利益になる広報を行う場合は、登録しておかねばなりません。そして、半年ごとに、誰に金銭や報酬をいくら支払いその他便宜供与を与えたか、司法省に届け出なければなりません。

ただし、米国の報道機関は登録義務から免除されています。届けられた情報はだれでも閲覧できるように公開されますので、これによって誰が外国の利益代表であるかを国民に広く知らせ、注意を喚起することができるのです。どのような個人や組織が外国の利益のために働いているかを知ることは、民主主義に不可欠な要素であると米国は考えているのです。

我が国も、これにならったものを早く制定しなければ、内部から間接侵略され、世論を操作され、先端技術とノウハウ等盗まれ放題です。すでに、かなり国家防衛の基礎が掘り崩されているとみるべきです。

以下は、その要綱です。
〈外国代理人登録法〉
1 外国の政府、政党もしくは外国の企業、団体の利益のために、我が国の公職にあるもの(議員、公務員、国立大学教授など)または公職にあったものに対し、ある行為をとるよう、もしくは取らないように働きかけまたはその意見に影響を及ぼそうと試みるものは、国家公安委員会に外国代理人として登録しなければならない。 
2  外国の政府、政党もしくは外国の企業、団体の利益のために、日本国民に対し広報活動を行い、または国民から取材しようとする者(個人または組織)は、外国代理人として登録しなければならない。(ただし、日本人または日本の組織が実質的に支配する報道機関は、この登録義務をまぬかれることとする。外国人または外国の組織が実質的に支配する報道機関は、登録義務がある。) 
3 外国の政府、政党もしくは外国の企業、団体の利益のために、官公庁または日本企業に在職する職員を採用し、または採用のあっせんを行おうとする者は、外国代理人として登録しなければならない。 
4 登録した外国代理人は、半年ごとに、その行った活動の内容(接触相手、接触の内容、報酬の支払い、便宜供与、資金源など)について国家公安委員会に報告しなければならない。外国代理人が雇用しまたは業務を委託する者についても、その異動の都度、国家公安委員会に報告しなければならない。 
5 報告の内容は、官報に公示するとともに、国民が容易に閲覧することができるようインターネット上に公開しなければならない。 
6 登録義務、報告義務に違反した場合、5年以下の禁固または300万円以下の罰金を科すこととする。 
7 公職にある者またはあった者が、その職務内容に関し、登録された外国代理人から陳情、請託などの働きかけを受け、または報酬、便宜供与を受けた場合は、遅滞なく、国家公安委員会に届けるともに、その所属組織にその内容を報告しなければならない。
日本では、憲法改正ばかりが強調されていますが、それ以前にこのような法律が必要です。憲法を改正しなくても、このような法理を成立させるのこと等できることは多くあります。

まずは、このような法律の整備や防衛費の増加などから実行していき、その先に日本国憲法の改正があると、私は考えます。

なお、このような法律が成立したとしても、日本で普通に生活している人にとっては、全く関係ありません。審議の過程であからさまにこれに反対するような議員や識者などがいたとすれば、いずれかの国の代理人であるとみて間違いないでしょう。

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米国の財政赤字をどう見るか


日経新聞は財務省の広報誌

1月19日の日本経済新聞朝刊に、米政府の財政拡張に関する記事が掲載された。財政赤字額は年1兆ドル(約110兆円)を超え、世界を見ても断トツの数字だ。

債務残高は国内総生産(GDP)の約100%と第2次世界大戦の直後以来の水準となり、利払いは年43兆円に膨らんでいる。日経としては、このまま債務が増え続けるのは危険だという論調を貫きたいようだ。



このような財政緊縮路線の記事ばかりを書いているので、日経新聞は財務省の広報誌、御用新聞と呼ばれるのだ。米政府の数字をどう捉えるのが正しいのか、改めて見ていこう。

米国の金利は1%以上と高く、そのため世界からマネーが集まり、米国の財政赤字を賄っている。目先の金利で投資家を釣り、財政リスクに目をつぶっているというのが日経新聞の解説だ。

米国債の名目金利1%以上を高いと見るのは、あくまで日本やドイツなど例外的な国と比較した場合だ。米国より名目金利の高い国は数多くあり、そうした国の投資家も米国債を購入している。

海外投資家は名目金利のみを理由に投資していない。米国は世界の多くの国に対し経常赤字になっている。つまり多くの国は対米ドル債権を有しているわけだが、その債権の代わりに米国債を購入している。

その際には、為替など他の経済的なファクターも当然考慮されている。金融機関の担当者取材を鵜呑みにして記事を書いていると、こうした誤解が出てくる。

そもそも、政府にしろ民間にしろ、債務残高だけで経済の健全性を語るのは誤っている。企業の財務状況を見るとき、債務残高ではなくバランスシートで資産と負債の両方を見るのはファイナンスの基本中の基本だ。

どんな企業でも負債はあるが、それがどのように活用されているかは資産を見ればわかる。ただ実態がよくわからない部分も多い国の財政に関し、財務省は「由らしむべし、知らしむべからず」のスタンスを貫く。

民間企業の場合、財務状況は企業単体ではなく、グループ企業全体の連結ベースで見る必要がある。国も同様で、国の「子会社」である中央銀行を含めた「統合政府」で見なければいけない。

米国政府を統合政府で見ると、ネット債務残高はGDP比の1割にも満たない程度だ。この数字は英仏独より低く、債務残高で言うのならばこれらの諸国よりよほど健全性が高い。

このように米国政府の健全性は、市場で取り引きされるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)レートを見てもわかる。簡単に言うと、各国国債が破綻した時に保証される保険(料)であり、財政状況を客観的に表すものだ。そして、米国債のCDSレートは0・15%と、先進国でもトップクラスで低い水準である。

市場のプロは、米国政府の破綻などまったく現実味のない話と見ている。それにもかかわらず、米国政府の財政危機を煽って、誰も耳を貸すはずがない。地政学リスクや上がり続けるダウ平均株価に疑念を持つ人もいるかもしれないが、雰囲気だけで語るのは危うい。きちんとした数量的なエビデンスがあるものを信じたほうがいい。

『週刊現代』2020年2月1・8日号より

【私の論評】数量的なエビデンスでものを考えないと馬鹿になる(゚д゚)!

国の経済の黒字・赤字を企業のそれと同一視するのは間違いです。経常収支の黒字は、国内の需要不振や自国経済の先行きに対する自信喪失の裏返しである場合も少なくないのです。

日本では、一昨年度の国際収支統計は、経常収支が大幅な黒字でした。経常収支というのは、日本国全体としての海外との取引を家計簿のように記録したものです。
我々はマスコミ等で「国は赤字で、国の借金は巨額にのぼる」という話を頻繁に聞かされているので、混乱するかもしれませんが、このマスコミが頻繁に使う「国の赤字」という言葉は「地方公共団体ではなく中央政府の財政収支は赤字だ」という意味ですので、「日本国」が赤字であるわけではありません。

日本の経常収支は下のグラフでも明らかに、黒字が続いていますが、それではこれは黒字だから良いことと単純にいえるわけではありません。それは、中身を精査してみないとわからないことです。

私自身、過去の日本はデフレが続き、現在でも完璧に抜けきっていないですから、やはり国内では、めぼしい直接・間接投資案件がないですから、大企業が海外に投資をしたことが、このような結果になっているものと思います。



貿易収支や経常収支は、「黒字を目指す、赤字を避ける」という、目標として使うのではなく、「いまの自分の国の経済の状況を知る指標」として考えるのが、正しい使い方なのです。たとえば「国内の景気対策がうまく効いたから、経常収支が赤字になった」というふうにです。

米国の財政赤字と経常収支赤字といういわゆる「双子の赤字」は、米国および国際経済上の懸案事項としてしばしば挙げられるものでした。

基本的な問題意識としては、経常収支赤字の解消のために財政赤字の縮小を目指すべきだとされたり、逆に主な貿易相手国(それこそ、日本など)に内需拡大政策を取らせて、貿易相手国の経常収支黒字を縮小させようと画策したりしていました。

日経新聞は米国の双子の赤字を煽っているが・・・。日経新聞より

しかし、ここで注意しなければならないのは、米国は基軸通貨国であり、国際貿易決済手段として、世界中に基軸通貨・ドルを供給する立場であるということです。

世界貿易が小さいうちはまだ良かったのですが、現在のように貿易が拡大を続けていくにあたって、貿易国は決済手段としてのドルやドル建て資産を貯蓄する傾向を持つようになります。

となれば、貿易額が大きくなればなるほど、各国は取引及び貯蓄手段としてのドル(およびドル建て資産)の”純粋”な供給が必要になってきます。

ドルおよびドル建て資産の純粋な供給のためには、米国の財政赤字および経常収支赤字が必要になってくるというか、そうならざるをえなくなるのです。

実際、アジア通貨危機、ロシア通貨危機(1997)、アルゼンチン通貨危機(2001)後において経常収支赤字すなわち世界へのドル・ドル建て資産供給の拡大を余儀なくされています。

もし米国が経常収支赤字に抵抗し、その縮小を目指したら、世界貿易は崩壊を余儀なくされるでしょう。なぜなら世界貿易は、米国の基軸通貨供給に依存しているからです。

もし一時的に経常収支改善と世界貿易堅調が見かけ上維持されていたように見えても、それは途上国等の借入過剰による不安定化を意味する可能性が高いです。アジア通貨危機やアルゼンチン通貨危機はその意味で、基軸通貨の過少供給に遠因があると考えることが出来ます。だからこそ、通貨危機から世界貿易を守るには基軸通貨の追加供給が必要となったのです。

一連の議論で気づいた人がいるかもしれないですが、これは世界を一国と考え、基軸通貨を自国通貨と考えた場合でもまったく同じ議論が出来ます。

自国通貨は、(中央銀行で紙幣や当座預金が”負債”として扱われていることからもわかるように)厳密には政府債務です。信用創造によって通貨を供給し、それ自体が貯蓄手段となる通常の政府債務も同質です。

民間債務も、信用創造によって通貨を供給し、同時に貯蓄手段となっています。こうした経済全体の債務(および債務としての通貨)は、経済全体の貯蓄欲求を満たし、それ以上の通貨が流通することを助けています。もし経済全体で債務不足になれば、通貨流通とそれによる財取引は滞ることになります。

こう考えると、基軸通貨国のアメリカは、財政金融的に見て、世界に対する中央銀行・財務省として機能していることがわかる。アメリカの財政赤字(ベースマネーの供給原資であり、信用創造によるマネーサプライ供給手段でもある)、および経常収支赤字は、世界貿易のために十分な赤字である必要があるというわけです。

ただし、米国の経済は、かなり大きいです。何しろ、以前このブログでも指摘したように、サウジアラビアのGDP(国内総生産)は、世界で18番目です。ところが、米国のペンシルベニア州よりも少ないです。2017年のサウジアラビアのGDPは約6830億ドル、ペンシルベニア州のGDPは7520億ドルでした。そして、ペンシルベニア州のGDPはアメリカ50州のうち6位です。

だからこそ、米ドルは基軸通貨にも成り得るわけです。ちなみに、サウジアラビアのGDPは日本では福岡県と同レベルです。このような事実をあげると、日本経済もまんざらではないと思われる方も多いのではないでしょうか。

サウジアラビアの1人当たり年間所得は、アメリカの約半分に過ぎない

米国が経常収支を黒字にしたいなら、極言すれば、基軸通貨国であることをやめるしかないということになります。それは、ほとんど不可能に近いでしょう。これをトランプ大統領は、理解していないようです。

本来は、中国との貿易が赤字であること自体を問題にするのではなく、中国が国内のプラック的な状況を是正することなく、それで安い労働力や政府による補助金により、米国に低価格の商品を輸出していることにより、米国の雇用を奪ったり、米国の知的財産を剽窃して、不当に利益を得ていることを問題にすべきなのです。

実際、米国はその方向に向かっているようですが、それにしても昨年の米中貿易交渉では、経常収支などを問題にしているようで、この点では、やはりトランプ大統領は、国内経済に関してはまともなのですが、国際経済には疎いようです。しかし、これは何とか是正して欲しいものです。

これでもまだ、米国の双子の赤字を不安に感じる人がいるかもしれませんが、冒頭の記事にもあるように、米国政府を統合政府で見ると、ネット債務残高はGDP比の1割にも満たない程度なのです。いかに米国の経済が大きいのか理解できます。

一方日本は、2017年にはすでに統合政府を含めた、ネットの債務残高はゼロ円になったとされています。2018年以降は、借金どころか、黒字になっています。これは、高橋洋一氏が試算していますし、私自身も日銀や政府が出している統計資料などから、高橋洋一氏の試算が正しいことを、確認し、その結果をこのブログにも掲載したことがあります。この計算はさほど難しいものではありません。足し算、引き算が正確にできれば、誰にでもできると思います。

上の記事でも、「雰囲気だけで語るのは危うい。きちんとした数量的なエビデンスがあるものを信じたほうがいい」と主張されていますが、それは全く正しいと思います。

日経などを含む日本の大手新聞の記者などは、このような確認もしないで、日本の財政が破綻するとか、米国の財政が破綻すると、騒ぎ立てているのでしょう。全く情けないかぎりです。

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2020年2月8日土曜日

【田村秀男のお金は知っている】「新型ウイルス、経済への衝撃」にだまされるな! 災厄自体は一過性、騒ぎが収まると個人消費は上昇に転じる―【私の論評】今のままだと、新型肺炎が日本で終息しても、個人消費は落ち込み続ける(゚д゚)!


 中国湖北省武漢市で発生した新型肺炎による中国本土の死者数は、2002年11月から03年7月にかけて中国広東省と香港を中心に広がった重症急性呼吸器症候群(SARS)による中国本土の死者数349人を上回った。本土以外ではフィリピンに続いて香港でも死者が出た。

 思い出すのは、SARS流行時の香港のパニックぶりだ。筆者はSARS発生時、親しくしていた香港人家族の子供を約1カ月間、預かった。それ以上の規模で本土人が持ち込む、より強力なウイルスは、かつてない脅威となると察する。

 本コラムの趣旨からすれば、新型ウイルス流行が及ぼす経済への悪影響について触れざるをえないが、もとより人の命はカネよりも重い。連日のように訪日中国人の旅行消費が減ったり、中国の現地工場の生産に支障をきたすと騒ぎ立てる国内メディアとは一線を画したい。景気上の懸念がちらついてか、米トランプ政権のように中国人の入国禁止など思い切った隔離政策に逡巡(しゅんじゅん)しているように見える安倍晋三政権の対応に違和感を覚える。その前提で、経済への衝撃を考えてみよう。


 参考になるのは、SARS流行時の香港と広東省の経済動向だ。グラフはSARSの流行前から消滅時にかけての香港の個人消費と広東省の省内総生産(GDP)の前年同期比の増減率推移である。香港では、ふだんは喧騒に包まれている繁華街に出かける人の数が少なくなったと聞いた。広東省は上海など長江下流域と並ぶ「世界の工場」地帯で、生産基地が集積している。

 香港の個人消費は、SARS発症前の01年後半から前年比マイナスに落ち込んでいる。これは米国発のドットコム・バブル崩壊の余波と9・11米中枢同時テロを受けた米国のカネ、モノ、人への移動制限による影響のようだ。

 低調な消費トレンドが、SARSの衝撃で03年半ばにかけて下落に加速がかかった。しかし、SARS騒ぎが収まると、個人消費は猛烈な勢いで上昇に転じた。

 対照的に広東省の生産はSARSの影響が皆無のように見える。むしろ、流行時の02年秋以降から生産は目覚ましい上昇基調に転じている。

 今回への教訓はシンプルだ。本来、景気は循環軌道を描くわけで、基調が問題なのだ。弱くなっているときに新型ウイルスという経済外の災厄に国民や市民、企業が巻き込まれても、災厄自体は一過性で、基本的な景気のサイクル軌道が破壊されることはない。

 もちろん、新型ウイルスが猛威を振るう期間が長期化すれば話は別だ。置くべき焦点は経済政策の失敗だ。日本の場合、デフレ下での消費税増税を繰り返し、新型ウイルス以前から個人消費を押し下げている。この災厄は人災なのだ。今後確実視されるマイナス成長を新型ウイルスのせいにするような政府御用の論調にだまされるな。(産経新聞特別記者・田村秀男)

【私の論評】今のままだと、新型肺炎が日本で終息しても、個人消費は落ち込み続ける(゚д゚)!

マイナス成長を新型ウイルスのせいというか、増税のせいでなくて他のせいにするような政府御用の論調はすでにありました。

内閣府が昨年11月11日発表した10月の景気ウオッチャー調査で、景気の現状判断DIが前月から10.0ポイントの大幅低下となりました。その原因として、消費増税と台風の影響で家計関連の落ち込みが大きかったとしています。

さすがに、消費税増税の直後だったので、この落ち込みの原因として、台風だけにするにはどう考えても無理があるので、台風以外に消費税増税もあげたのでしょう。

ちなみに、このときには企業部門も雇用部門もいずれも低下した。現状判断DI指数の水準は36.7と東日本大震災後の2011年5月以来の低水準となりました。

台風は確かに一時的に、経済に悪影響を与えます。一時経済が停滞するでしょうが、台風被害からの復興で、工事が増え、経済は上向きます。それで、帳消しになってしまうか、場合によっては台風がなかったときよりも景気が良くなったりします。台風のせいにするのは、無理があります。

2014年の4月の増税の悪影響は2015年にも続いていましたが、これを猛暑による野菜高騰のせいにする、愚鈍な経済学者や民間エコノミストらが大勢いました。

野菜も含めた生鮮食品の価格が、天候の影響を受けやすいのは事実です。野菜不足による価格の高騰は、日々スーパーなどで買い物を行う人たちにとっては大きな関心事でしょう。ただ、これが一国の経済全体にどれくらいのインパクトを持つかを考えてみてほしいものです。

レタスの価格指数

2015年の日本の個人消費は年間約300兆円。そのうちに生鮮野菜が占める割合は、6兆円、つまりおよそ2%ほどです。さらにこれは、GDP全体からすれば約1%の割合でしかありません。その程度の範囲内で消費が減ったとしても、GDPに及ぼす影響はマイナス0.1%ポイント未満でしょう。

野菜価格の高騰は、家計への影響度が大きいし、普段からスーパーなどで買い物をしている主婦などの実感にも訴えやすいです。「猛暑日が続いているため」といったロジックも、実際に肌身で猛暑を感じていると、「たしかに今年の夏は暑いからな…」などと思わず頷いてしまいそうになります。

しかし、誰にでもアクセスできるデータを見るだけでも、「天候不順により、食品の価格が高騰して消費が低迷した。だから景気が停滞しているのだ」という議論がいかにメチャクチャなものであるかは簡単にわかります。

経済のごく一部を占めるだけの野菜価格の議論を経済全体の議論にすり替える経済学者、そして、それをもっともらしく報じるメディア―こうした滑稽な構図は、おそらく日本でしかお目にかかることができないのではないでしょうか。

それにもかかわらず、このようなバカげたニュースが恥ずかしげもなく報じられたのは、「消費増税のせいで景気が停滞した」と思われたくない人々がいるからなのかもしれないです。

「個人消費が落ち込んだのは天候不順という不可測の事態によるものであり、消費増税の影響ではない。したがって、10%への増税もスケジュールどおりに進めるべきだ」―そんな世論をつくるために流されたデマ情報なのではなかったのか、そう勘ぐりたくなるほどでした。

私たちの庶民感覚を利用し、消費増税の負の影響から目を逸らすための情報操作があるのだとしたら、それは悲しむべきことです。そうした情報に流されないためには、一人ひとりが最低限のリテラシーを身につけるほかないでしょう。

これと似たような話が、2016年夏場にも登場していたのをご存知でしょうか。日本の国内総生産(GDP)をめぐるちょっとした騒動でした。

事の発端は同年7月20日、日銀のエコノミストが示唆に富んだあるレポートを公表したことでした。同レポートの試算によれば、2014年度のGDPは、政府公表値よりも30兆円多く、1.0%減の大幅なマイナス成長とされていた経済成長率は、実際にはプラス2.4%だったのではないかとされていました。

現行GDP統計と日銀の試算による実質GDP(兆円,年度)
GDP統計は経済官庁である内閣府が公表する、いわば「経済の通信簿」であり、経済政策にとっては最も基本的な判断材料になります。その数値が正確でない可能性を指摘する論文が、金融政策を担う日本銀行から公表されたわけです。

GDPとは、日本全体で生み出されたモノやサービスなどの経済的な付加価値の合計であるが、「そもそも日本経済全体の付加価値を測定することなど、どうすればできるのか?」と思う人もいるかもしれないです。その疑問は部分的には正しいです。

ニュースなどで報じられるGDPは、たいていの場合、さまざまな基礎統計に基づいた推計値です。四半期のGDP速報値が出るのはおよそ1ヵ月半後ですが、そもそもこの時点では十分な基礎統計データが揃っているわけではない。すべてのデータが揃うまでには約2年、場合によってはそれ以上の時間がかかるのです。

GDPに推計値を使うのはどの国でも同じような事情なのですが、以前から日本では、GDP統計の作成プロセスに問題が指摘されています。基礎統計の使い方や推計方法、また、Eコマースのような新形態のサービス業の動向を把握できていないことなどが言われており、実際、日本のGDP推計には大きな測定誤差があるのです。

このような事情は、プロの投資家や経済政策の担い手たちにとっては「常識」です。件の論文も、いわゆるその道のプロが読めば、純粋にGDP統計の問題点を整理するために書かれたものに過ぎないことはすぐにわかる内容でした。

しかし、これを取り上げた経済メディアは、「内閣府のGDP統計を日銀が批判。さらに内閣府側も日銀に再反論」といったセンセーショナルな対立構図を前面に出して報じたのです。

これも経済メディアのかなり恣意的な歪曲だと言わざるを得ないです。2014年の実質GDP成長率が公式統計のマイナス1.0%ではなくプラス2.4%だったのだとすれば、やはり消費増税のマイナス影響は皆無であり、日本経済は盤石な成長を示していたことになるからです。

これもまた、さらなる増税を望む一部の人々には「非常に都合がいい材料」ですが、それを考えると、あの報道の異常なセンセーショナリズムには、どこか奇妙な違和感を覚えずにはいられませんでした。

ただしこれには後日談があります。2016年12月8日に再度、新たな推計方法に基づいた数値が発表されたのです。それによれば、2014年度の実質GDP成長率はマイナス0.4%だったのです。

やはり消費増税があった2014年に、日本経済はマイナス成長を示していたのです。GDP統計のフレームワークについて見直しが必要なことは私も認めますし、その改善が急がれるのは事実ですが、まずはおかしな議論に惑わされないことが先決です。

ちなみに、このブログでは過去に何度かとりあげたように、リーマン・ショック時に、日本銀行以外の世界の他の中央銀行は、景気の低迷に直面し、それに対処するため、大規模な金融緩和政策を実行しました。

ところが、日銀は実行しませんでした。そのため何が起こったかというと、リーマン・ショックの震源地である米国や、その悪影響を多大に被った英国は無論のこと、EUや中国なども速く経済を立ち直らせることができたのですが、本来リーマン・ショックにはあまり関係のなかった日本は、一人負けの状態となり、長い間超デフレと超円高に悩まされました。

基軸通貨国である、米国が大規模な金融緩和をし、日銀が金融緩和をしなければ、相対的に円が少なくなり、円の価値が上昇して、超円高になるのは当然のことでした。それに、デフレであるにもかかわらず、金融緩和をしなかったのですから、デフレが続くのも当たり前のことでした。

当時、私はリーマン・ショックのことを、このブロクでは日銀ショックと呼んでいたくらいです。実際、日本以外の国々では、いわゆる日本のリーマン・ショックのように、景気が長い間落ち込むことはなかったので、「リーマン・ショック」なる言葉は存在しません。これは、和製英語です。他国では、これを「リーマンブラザース破綻に伴う経済の落ち込み」等と称しています。

以下のグラフは、FRBとECB、日銀それぞれのリーマンショック以前と以後の実際にバランスシートの規模の推移を示しているもので、中央銀行のバランスシートの規模とは、まさに各国の中央銀行が行っている金融緩和政策の“規模感”を如実に確認できるものです。


このグラフからは、リーマンショック後、FRBとECBがそれぞれ自行のバランスシートを一気に3倍と2.5倍に増やしているのに対し、日本銀行は1.4 倍しかバランスシートを拡大させていないということがわかります。

しかし、これに関しては日本のメディアはほとんど報道していません。消費税増税による悪影響や、日銀の金融政策の大失敗に関しては、日本ではなぜかまともに報道されません。

なぜこのようなことがまかり通りるのでしょうか。新型ウィルスの悪影響は相当大きいとは思います。しかし、第二次世界大戦と比較すれば、そこまで酷くないとは思うでしょう。

ただ、あの第二次世界大戦であってさえ、統計上は年度ペースでみていれば、多くの国々で後の歴史学者は第二次世界大戦があったことさえ気づかないだろうと、あの経営学の大家ドラッカー氏が述べていました。

簡単にいうと戦争中は、各国が戦争のために、兵器などを大量に製造し、戦後は復興、復旧のためものすごい勢いで、生活物資などを増産するため、年度ベースでみると戦争の形跡など見当たらなくなってしまうのです。

日本も例外ではありませんでした。日本は確かに、原爆を2発も落とされ、主要都市はことごとく爆撃され、とんでもない状態になりましたが、それでも統計上は終戦直後には、国富の70%が残り、そこからスタートしたのであり、良くいわれているように戦後のやけのヶ原でのゼロからのスタートではなかったのです。

大都市や中核都市は焼け野原になっていても、地方での農産物や、製造の基盤は残っており、そこからのスタートであり、決してゼロではなかったのです。そのような物資や基盤を求めて、終戦後しばらくの間は北海道への他地区からの移入が続きました。

しかし、日本の場合は他の先進国では見られなかった特殊な現象がありました。それは、軍部による様々な物資の莫大な隠匿でした。それは、金塊から、米、小麦粉、砂糖、塩、医療品、衣服など様々な膨大な隠匿物資があったことです。

NHKスペシャル「東京ブラックホール」で紹介された、旧日本軍による隠匿物資

これらは、戦争中は戦争継続という意味合いで、まだ理解できますが、戦争が終わっても隠匿していたのは理解できないところです。これは、はっきり言うと犯罪です。

このように、様々な物資が隠匿されたため、終戦直後の多くの国民の生活はかなり貧しいものでしたが、それら隠匿物資も、米軍に摘発されたり、闇市で売られるようになったり、その闇市が日本の警察によって摘発されるなどして、市場に出回るようになりました。そうして、ご存知のように日本は驚異の高度成長を遂げることになるのです。

日本の軍人というか、陸軍省等実体は役人ですから、何やら日本の役人には、物資を隠匿するような習性が元々あったようです。そのような習性は、現在の財務省の官僚や、日銀の官僚などに今でも色濃く受け継がれているようです。

特に財務省は、増税しないと財政破綻するなどとしながら、日本国政府は膨大な金融資産を抱えています。その金融資産の大きな部分は複雑怪奇な特別予算として組まれており、これは従来から財務省による埋蔵金といわれています。

昨年の、消費税10%への引きあげの大失敗もマスコミは報道せずに、景気の落ち込みのほとんどを新型肺炎のせいにすることでしょう。まさに、財務省の走狗です。

しかし、そのようなことをしても、事実は変わりません。日本で、新型肺炎が終息してもなお、急激に消費が上向くことなく、経済は悪くなります。それは日本の財政政策である増税が間違っているということです。そのこと自体は変えようがないのです。

そのことが、日銀ショックや戦後の隠匿物資のように、明々白々になる前に、日本政府としては、増税による悪影響を取り除くべく、何らかの対処をしなければならなのです。

無論政府は、増税による景気の悪化が予め予想されたため、特別予算を組みましたが、その施行は4月からです。さらに、規模的に小さすぎます。秋には、オリンピックが終了し、ポイント還元セールも終了することからこのブログでも、指摘したように確実に景気が落ち込みます。

それに、プラスさらに新型肺炎です。その他、米中貿易戦争も継続中ですし、ブレグジットなどもあります。中東の危機も再び勃発することもあり得ます。現状のままでは、新型肺炎が日本で終息しても、個人消費は増えず、景気が落ち込み続けることになるのは確実です。

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2020年2月7日金曜日

【有本香の以読制毒】新型肺炎、中国の感染者は「10万人超」か 安倍首相「渡航制限の拡大を躊躇なく行う」に安堵も…政府は果断な対応を―【私の論評】中国の都市封鎖という壮大な社会実験は共産主義と同じく失敗する(゚д゚)!

【有本香の以読制毒】新型肺炎、中国の感染者は「10万人超」か 安倍首相「渡航制限の拡大を躊躇なく行う」に安堵も…政府は果断な対応を

中国発「新型肺炎」

日本の防疫体制は大丈夫か=成田空港

3週連続ではあるが、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスについて今週も寄稿したい。

 5日現在、わが国での感染者は35人。一方、中国の保健当局、国家衛生健康委員会が5日発表したところでは、中国本土の患者数が2万4324人となったという。前日の発表から新たに3887人増えている。この増え方だけを見ても収束が程遠いことは明白だが、世界の研究者からは、さらに憂慮すべき数字が示されている。

 日本の北海道大学医学研究院で、理論疫学(流行データの分析)を専門とする西浦博教授は4日、「現時点で中国の感染者は10万人に上る」との推計を明らかにした。

 脅かすわけではないが、さらに恐ろしい別の数字も紹介すると、先月24日、英米2カ国の大学の研究者からなるチームは、2月4日までに武漢市だけで感染者数が25万人以上、最大で35万人に達する可能性がある-と警告していた。

 これらを見るだけでも、新型コロナウイルスについては依然、未知の部分が大きいことに加え、中国政府の発表が真実とかけ離れたものであろうことが分かる。

 これに関連し、筆者には一つ引っかかることがある。西浦教授の会見内容を報じた日本の特定メディアのある論調だ。

 「中国での感染者10万人」という衝撃的な数字を見出しやリードに取るマスメディアが多いなか、なぜか毎日新聞(ネット版)はこの数字を本文でも一切伝えていない。何処への忖度(そんたく)か、「恐れるに足らず」の論調が際立っていた。

 西浦教授の発表に話を戻すと、教授は感染者数の他にも、次の推計を公表している。

 (1)一般的な潜伏期は5日間(2)平均1人の患者が潜伏期間中に1人、発症後に1人に感染させている(3)感染者の半数は最後まで症状が表れない「無症候性感染」の可能性あり(=無症候性でも他人に感染させるかは不明)(4)感染者全体の死亡率は現時点で0・3~0・6%。これはSARS(重症急性呼吸器症候群)の約10%と比べると大幅に低いが、季節性インフルエンザと比べると10倍以上だという。

 結論として、西浦教授は「健康な成人なら適切な治療を受ければ亡くなる人はほぼいないと考えられる致死率だ。基礎疾患があるなどリスクの高い人への対応が必要になってくる」と延べている。

 日本政府には西浦教授の推計含む、国内外の研究者らからの膨大な情報が上がっているだろうが、それらをもって適切な判断を下すのが政治家の仕事。ただし、この際に重要となるのがスピードだ。情報に振り回されタイミングが遅れれば、「良き決断」も水の泡となる。

 安倍晋三首相は5日午後、「渡航制限の拡大を躊躇(ちゅうちょ)なく行う」と衆院予算委員会で言明した。筆者は「ようやく」という安堵(あんど)の思いを抱きながら、同日午後、同じくこの答弁に胸をなで下ろしている一人のインフルエンサーを訪ねた。

 夕刊フジでもコラム「Yes! 高須のこれはNo!だぜ」(月曜掲載)を連載中の高須クリニック院長、高須克弥氏だ。

 高須氏は先月、中国政府が武漢市を封鎖する前から自身のツイッターで、「渡航制限を」と懸命に訴えてきた。医療関係者を名乗る匿名アカウントから慎重論が多く出ていたこともあり、高須氏には誹謗(ひぼう)中傷も寄せられた。しかし、氏は意気軒高そのもの、翌朝にがんの手術を控えているとは思えない「元気」な様子で語った。

 「古いことわざで、『上医は国を医し、中医は人を医し、下医は病を医す』と言うでしょう。政治家の皆さんには『国を治す』という意識、防疫は国防だという視点で動いてもらいたい」と切り出し、日本の行政に苦言を呈した。

 「僕は国を守ることを訴え続けたんだけど、残念なことに全然動いてもらえなかった。『広がる前に早く』と必死に訴えたけど。動きが遅いよね」

 まったく同感だ。

 一方、高須氏は安倍首相の「躊躇なく行う」との発言を評価し応援するともツイートした。果たして今後、日本政府が、前例にとらわれ過ぎない果断な対応を見せるか。筆者も期待半分で厳しく見つめてまいりたい。

 ■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

【私の論評】中国の都市封鎖という壮大な社会実験は共産主義と同じく失敗する(゚д゚)!

中国の新コロナウィルスの猛威は依然、強まるばかりです。台湾紙「自由時報」(6日付)などによると、中国では現在、浙江省杭州や、河南省鄭州、江蘇省南京などで住民の移動を制限する「封鎖式管理」が実施されており、少なくとも34都市に上るという。

 中国の各都市の正確な人口を把握するのは難しいですが、メディアや金融機関の資料をもとに加算すると、計約1億5695万人(推計)となりました。日本の総人口(約1億2600万人)より多いです。ロシアの人口は約1億4000万人ですから、ロシアの人口よりも多いです。

中国の人口は約14億人(中国国家統計局調べ)だけに、約11%が封じ込められていることになります。

新型ウイルスの潜伏期間は最長2週間とみられていることですから、これまでに類を見ない大規模な隔離が奏功したのか、それともひそかに感染が広がり、さらなる拡大を引き起こすかが間もなく分かる見通しです。

人口1100万人の湖北省武漢市の移動規制は1月23日に始まり、同市発着の国内便の運航や列車の運行、バスや地下鉄などの公共交通機関も停止しました。

英国のシンクタンク、王立国際問題研究所の世界保健安全保障センター長、デービッド・ヘイマン氏は4日、ロンドンでの記者会見で、「中国は国内外の感染拡大を阻止できるかどうかを試す壮大な実験を行っている」とした上で、「状況を監視・評価するシステムを設け、有効かどうかを見極める必要がある」と語りました。

現在の封鎖された都市のある省は、下の赤く塗られた省です。


以下に、新型肺炎により封鎖された封鎖都市と人口をまとめた表を掲載します。


伝染病に対処するための、都市封鎖は過去に例をみません。まさに、これは中国の壮大な実験です。共産主義そのものが、壮大な社会実験だっともいわれています。

そもそも何故、レーニンが唱えた共産主義が成功しなかったか、という根源的な問題を考えてみると、それは、資産の平等化という経済的観点ではなく、個人の権力志向、他人への優越感、エゴ、妬みなど、理性ではなく情念が社会制度とは無関係にいつも社会を混乱に陥れる原因となっていたことです。

社会主義の70年にわたる実運用は何十億人もの人間を巻き込んだ壮大な社会実験であり、結果的に人間の卑しい情念がある限り、社会は本質的に変わらないことが分かったに過ぎません。しかし一面では、この情念こそが人を駆り立て、社会や経済を発展させる原動力でもあるのも事実です。

共産主義の失敗は明らかに成り、現在の中国の体制は国家資本主義という全体主義体制です。現在共産主義体制の国はこの世界にはなくなりました。しかし、どのように体裁を繕ってみても、中国の体制は共産党1党独裁の全体主義体制です。

さて、封鎖措置について、北京の医療関係者は「人道的には問題があるが、感染拡大阻止の面では効果がある」と期待を示しています。一方でサウスチャイナ紙は「予防策としてはすでに遅すぎるかもしれない」という伝染病専門家の見方を伝えています。

今回の中国共産党による都市封じ込めの壮大な社会実験は、吉とでるのでしようか、それとも凶とでるのでしょうか。

封鎖された武漢市

私としては、凶とでる確率のほうが高いのではないかと思います。武漢市の封鎖は1月23日10時から始まったのですが、通告時刻は同日午前2時5分でした。その間数十万の武漢市民が脱出しました。多くの自覚症状のない保菌者が脱出したとみられます。この時点で、この実験は失敗している可能性が高いです。

さらに、最初にこの新型肺炎が発見されたのが、昨年の12月ということも災いしていると思います。この時点で中国当局が最初の手を打たなかったことで、新型コロナウィルスがすでに多くの人を媒介に全国に伝播しているはずです。

このような状況になってから、都市を封鎖したとしても、その後の二次感染、三次感染を防ぐことはできません。

結局全体主義体制による、隠蔽などの初動のまずさが、その後いくら都市封鎖などという全体主義ならではの、とてつもない大胆なことを実行しても失敗することを、示すだけに終わるのではないでしょか。その時には、現体制の中国は崩壊することになるでしょう。

そうなれば、共産主義に続き、全体主義体制も結局失敗することが実証されることになります。

私達は、まさに生きているうちに、全体主義の失敗過程を見た歴史の生き証人になるかもしれません。

ただし、これは杞憂に終われば良いとは思います。多くの人々が病に倒れることがないことを祈ります。私自身は、全体主義は新型肺炎などとは関係なく、現在では結局滅ぶと思っているからです。

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