上岡 龍次
これまでは中国の外交・軍事で攻勢が見られていた。渤海・黄海・東シナ海・南シナ海で、人民解放軍による同時大規模な演習が行われていた。ところが、段階的に規模が小さくなり、最近では人民解放軍に軍事演習は見られない。
それに対して、アメリカ・イギリス・フランスなどは、定期的な合同軍事演習を継続。しかも太平洋・インド洋・地中海で合同軍事演習が行われている。アメリカと中国の対立が激化すると、台湾が危険地帯となった。
中国当局、米軍機の台湾入りに沈黙 かつて「米中開戦」と威嚇
https://www.youtube.com/watch?v=3fxqZoVN4t4
中国が台湾に侵攻する動きを見せると、アメリカは台湾支援を露骨に見せつける。中国は過去に、「アメリカ軍機が台湾に入ると米中開戦になる」と威嚇したことが有る。以前のアメリカは中国との対立を回避していたが、今ではアメリカ軍機を堂々と台湾に入れる。
中国はアメリカ軍機が台湾に入ると開戦すると脅したが、外交・軍事で反論も報復も無い。過去の中国は攻勢でアメリカは防勢だった、だが今では、中国は防勢でアメリカが攻勢に転じている。
■人民解放軍は張子の虎
人民解放軍の軍事演習が目立たなくなった。軍事演習の目的は、表向きは軍隊の練度向上と練度維持。何故なら、軍事演習は敵が居ないだけの実戦で、指揮命令と物資消費は実戦に近い。だから練度向上と練度維持に使われる。
軍事演習の裏の意味は、軍事力を背景に外交をする。国際社会で多用されるので、仮想敵国が軍事演習を行えば、返答として自国も軍事演習をすることが多い。軍事力を見せ付け、相手国に譲歩させる。そして、言葉で相手国を従わせる。覇権とは言葉による指導力だから、軍事演習で相手国を脅し従わせる。
だが最近の人民解放軍は軍事演習が目立たない。しかも台湾侵攻を見せ付けたが、人民解放軍の動きは止まってしまう。アメリカ軍は人民解放軍の実状を見抜いたようで、台湾にアメリカ軍機を入れた。これはアメリカが中国を確認するための派遣だと思われる。
おそらく、人民解放軍は物資不足で動けないのだ。陸軍2万人規模の一個師団であれば、1日で2000トン消費する。空軍が陸軍の一個師団を火力支援するなら、一日で4000トン消費する。つまり、セットで6000トン消費する。
作戦規模が大きくなれば、5倍や10倍の消費になるのは当たり前。この消費に耐えるように、各国は常に生産・輸送・備蓄・補給を行う。消費と同時に備蓄も進めるから、生産ができなければ対応困難。
人民解放軍は航空機を何度も台湾に接近させた。これで台湾空軍の対応を見ると同時に、消耗させる動きを見せた。台湾空軍の指揮命令に穴が有れば、そこから人民解放軍を突入させれば良い。さらに、度重なる領空侵犯で台湾空軍が消耗すれば、台湾政府が下ると考えたのだろう。
だが台湾の政治と軍事は耐えた。台湾への脅しが長期化すると、今度は人民解放軍に疲弊が見られた。そんな時にアメリカは、アメリカ軍機を台湾に入れている。つまりアメリカは、中国は脅しだけで、人民解放軍は張子の虎だと見抜いたのだ。
■軍事無き脅し
中国の強気の姿勢は継続しているが、外交も攻勢から防勢に変わっている。中国主導の外交ではなく、仮想敵国の外交に合わせた防勢に変更している。アメリカが中国の政治家・企業に制裁を行うならば、中国も報復として人物・企業に制裁を行うことを採用。
中国、「反外国制裁法」を可決 専門家は「実力を過信」と効果疑問視
https://www.epochtimes.jp/p/2021/06/74421.html
これは状況戦術であり、相手の動きに対応するだけ。戦略が無く、今できることだけに終始している。つまり中国は、主導権を握る戦略が外交から失われている。だから中国は、強気の姿勢で自国を大きく見せている。
しかも中国は、アメリカによる策に落ちた可能性が有る。18世紀のナポレオン戦争の時代、フランスとイギリスは対立。この時にイギリスは、フランスの商船を拿捕。次にイギリスは、フランス商船の積荷を奪い船員を帰国させた。
フランスは怒り、フランス領内で生活するイギリス人を拘束して報復。先に手を出したのはイギリスだが、国際社会はフランスを批判した。その理由は、フランスが人間の自由を奪ったから。人間から自由を奪い、拘束することは殺人の次に重いとされる。だから刑務所で自由を奪い、罪を償わせる。
フランスは被害者であり後手。それは明らかだが、人間の自由を奪ったことで国際社会から批判を浴びた。これはイギリスがフランスに仕掛けた間接的な戦争で、フランスはイギリスの罠に嵌ったのだ。
アメリカが中国に仕掛けた間接的な戦争に、中国は嵌った可能性が有る。中国も外国人・企業への制裁を行うことで対抗するが、自国内で実行すれば、国際社会から批判される可能性が有る。さらに外国人を拘束し自由を奪えば、国際社会からの軍事的な先制攻撃を正当化させる可能性が有る。
何故なら無実の外国人が拘束され自由を奪われた。ならば救出作戦を実行しても正当。自国民救出の戦闘は正義だから、批判する国は無いも同然。さらに、支援するための連合軍を編成しても正当化できる。
■イギリス空母打撃群の接近
イギリスでG7が開催されたが、過去のヤルタ会談を思わせる。G7は中国の覇権拡大と支配を拒絶。さらに東シナ海・南シナ海・太平洋の今後の安全を確認する内容。さらに中国の一帯一路構想を拒絶したから、明らかに戦後を前提とした会談。
G7、途上国へのインフラ支援で合意 中国「一帯一路」に対抗
https://www.afpbb.com/articles/-/3351405
これがアメリカとイギリスのシナリオだと仮定すれば、アメリカはアドバイザーになり、イギリスを主役にした英中戦争への切り替えになる。この動きは既に実行されており、イギリス空母打撃群は、イギリス・オランダ・アメリカの海軍艦艇で編成されている。
表向きはイギリス空母打撃群だが、中身は連合軍。アメリカ海軍も参加するが、主役ではなく脇役。これはイギリス空母打撃群をアドバイザーとして支援していることになる。これはイギリスには都合が良く、しかもアメリカにも都合が良い。
何故ならイギリスは、香港人の救出を目的とした戦争を行う大義名分が有る。しかも中国は、イギリスと交わした一国二制度を破棄した。中国はイギリスとの約束を破り、しかも香港人の人権を弾圧。これらはイギリスを怒らせるには十分で、イギリスが中国と戦争すれば、正義はイギリス側になる。
ならばアメリカは米中戦争よりも、イギリスを支援して英中戦争にする方が良い。自国の消耗を回避できると同時に、正義の戦争が手に入る。その結果として、仮想敵国である中国に勝てるなら美味しい話。
■想定される戦域
米中戦争から英中戦争に変更した場合は、アメリカ海軍はイギリス軍の支援に回る。公には日本を母港とする空母がインド洋に派遣される。交代するかのように、イギリス空母打撃群が日本に寄港する。航空戦力は低下するが、イギリス空母打撃群を中核とした戦力が有るなら、人民解放軍と対抗可能。しかも海上自衛隊も参加すれば、十分な戦力になる。
想定される戦域は南シナ海。それも香港・マカオを奪取することが目的だと思われる。何故なら、香港とマカオには有力な空港が存在する。しかも海岸に存在するから、攻撃と防御が容易。さらに少ない戦力で実行するなら、香港とマカオが有力になる。
イギリス空母打撃群が香港とマカオを奪取すれば、人権弾圧を受ける香港人を解放できる。さらに空港を使うことで、人民解放軍を南北に分断することが可能。しかも内陸部の人民解放軍を空爆することも可能なので、奪取後の長期戦にも耐えられる。
アメリカとイギリスは人権を武器に戦争を行え、しかも中国を弱体化させることができる。戦後のアジアの安定を獲得し、しかも一帯一路構想で奪われた市場を取り戻すことも可能。そのためのG7だったならば、中国はG7連合軍との戦争に怯えている。
軍事力には、一定の地域に展開しその地域や国家に向けて自分の国の意思をメッセージとして発信する機能もあります。これを私は政治的メッセージであるとこのブログでは語っています。特に中国海軍はその側面が強いです。中国海軍は、対潜哨戒能力が極度に低いので、実際中国海軍が日本の海上自衛隊と戦えば、そのほとんどが瞬時に海の藻屑となります。
中国海軍は元々「政治的メッセージ」 |
2017年8月下旬、英国のメイ首相(当時)が来日し、日本の安倍首相(当時)の間で「日英安全保障協力宣言」ともいうべき4つの合意文書を取りまとめました。
英国政府は日本が安倍政権であった2015年11月に新たな国家安全保障戦略を採用したのですが、そのなかで米国以外の国々との安全保障関係を拡大することを強調し、欧州以外の相手国として、唯一日本を「同盟国」と指定していました。その後、自衛隊と英国軍との交流がかつてとは比較にならないほど活発になったのですが、クイーン・エリザべスのアジア展開は、2017年に合意した日英安全保障共同宣言に盛り込まれているのです。
印象的だったのはメイ首相が日英首脳会談後のNHKの単独インタビューの中で「英国と日本は両国とも海洋国家です。私たちは民主主義や法の支配、人権を尊重します。私たちは自然なパートナーであり、自然な同盟国だと思います」と語ったことです。この呼びかけに対して日本側も前向きに応じたことで、日英両国の関係は「パートナー」から「同盟」の段階へと劇的に強化されたのです。
このことは日本ではあまり認識されていないのですが、日英のリーダーが互いを「同盟国」と公式に呼び合ったのは1923年に日英同盟が解消されて以来、初めてのことでした。クリーン・エリザベスの派遣は新たな日英同盟誕生の証を内外に示すものだといっても過言ではありません。
1902年に日英同盟が締結された当時の日英両国にとっての共通の脅威はロシアであり、日本は英国の支援を受けて日露戦争で勝利しました。新たな日英同盟の脅威の対象は中国ですが、100年前のように軍事同盟である必要はないかもしれません。むしろ軍事的な協力を含む安全保障のあらゆる分野で協力し合う包括なもののほうが望ましく、有事よりもむしろ平和時に機能するものでなくてはならないでしょう。
クイーン・エリザベスは、2017年に就役した英海軍史上最大級の艦艇です。第二次世界大戦後、日本を訪問する外国の大型艦船といえば米軍であり、米軍以外の大型艦船が日本の近海に立ち寄ることなど想像もできませんでした。英国の空母がはるばる日本にまでやってくることは、時代の大きなうねりを感じさせる出来事です。
英国との間でACSA(物品役務相互提供協定)を締結している日本は、クイーン・エリザベスが率いる艦隊に不足しているとされる補給艦の役割を自衛隊が肩代わりし、早期警戒機やイージス型護衛艦を派遣することもできます。英国からすれば日本の港湾施設は空母への支援を受けることができる理想的な場所にあります。
海自は2018年12月の防衛大綱でも定められた潜水艦22隻体制を確立 |
このように新たな日英同盟は時宜にかなったものですが、かつてのように日英同盟が単独で機能するものではありません。新たな日英同盟とともに日本と英国がすでに有する米国との同盟を深化させることで日米英の事実上の三国同盟の誕生を目指すべきです。これにより、日本は第二次世界大戦後初めて米国一辺倒から脱し、戦略的に自立できるのではないでしょうか。
いつまで「弱小国の振り」を続けるのか? 日本が“再軍備”できない本当の理由―【私の論評】日本はQuadでも安全保障条約の締結をし、東アジア・太平洋地域の平和維持に貢献すべき(゚д゚)!