- 米国とロシアがウクライナ戦争の和平交渉を開始したが、ウクライナや欧州を除外した形に警戒の声があがっている。
- 戦争は3年目に入り、人命の損耗を止めることが最優先とすべき。
- ロシアの侵略は非難されるべきだが、現実には「完全勝利」は困難で、核の存在が抑止力と難しさを示めしている。
- 米国は最終的にウクライナを交渉に参加させる意向だが、和平交渉は「ディール」の場となる。
- 侵略国が最大の悪だが、被害国の政府もまた国民の生命財産を守る責務を負う以上、戦争を抑止できなかった結果責任は甘受しなくてはならない。
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18日、サウジアラビア・リヤドで顔を合わせたロシアのラブロフ外相(手前左から2人目)とルビオ米国務長官(同4人目)ら |
ウクライナ戦争はロシアの侵略行為が100%非難されるべきだが、現実には正義が必ずしも勝つわけではない。両国とも「完全勝利」は難しく、欧米諸国が直接参戦しない中途半端な支援しかできない現状がある。ロシアが核の使用をちらつかせることで、欧米の動きを牽制している。
「核なき世界」は理想だが、ウクライナ戦争は核を持たない国が核保有国に攻撃されるリスクを示している。和平交渉がウクライナや欧州抜きで進めば、ロシアが何らかの実利を得る懸念があり、その内容がロシアの犠牲と孤立に見合うかは疑問だ。しかし、停戦合意には国内向けのアピールも必要で、ウクライナも早急に停戦を望んでいる。
米国は最終的にウクライナを交渉に参加させる意向を示しており、これから両国が互いの利益を最大化する「ディール」が始まるだろう。日本にとって、この戦争は中国の動向を見る上で重要であり、戦争の教訓は事前の抑止力が何より大切であること。侵略国が最大の悪であるとしても、被害国の政府もまた国民の生命財産を守る責務を負う以上、戦争を抑止できなかった結果責任は甘受しなくてはならない。どの国の政府であれ、抑止力の強化に全力を挙げるのは当然である。
- ウクライナは、兵員不足と兵士の疲弊が深刻で、戦争継続が困難。西側の軍事支援に依存するが、補給が不安定。インフラ攻撃により補給線が脅かされ、国民の士気も低下。
- ロシアは、経済制裁により国庫が枯渇しつつあり、戦争経済も持続困難。兵士の士気が低く、技術面でもウクライナに後れを取る。国際社会から孤立し、長期戦に耐えられない可能性。
- ウクライナは全領土奪還が困難、ロシアはウクライナ完全支配が不可能。いまのままだと、戦争の長期化は避けられず、一方的な突然の崩壊の可能性も低い。停戦の交渉が唯一の解決策。
- ミンスク協定の履行や軍備増強がウクライナの抑止策となり得た。ロシアは外交交渉や軍事集結の抑制で回避できた可能性。EUや米国が早期に強力な制裁や安全保障協定を実施していれば抑止できたかもしれない。
- 戦争犯罪の追及よりも人的被害の最小化を優先すべき。現代戦争ではどの国も「真の勝者」にはなれず、中国との対決にもこの教訓を生かすべき。
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ウクライナの絶望的状況 AI生成画像 |
ウクライナは深刻な人的資源の枯渇に直面している。戦争が続く中、新たな兵士の募集は困難で、現役の兵士たちは疲弊している。例えば、ウクライナ政府は2023年初頭に兵役年齢を18歳から60歳までだったものを、18歳から70歳までに引き上げた。それでも兵員不足は解消されていない。また、ウクライナの防衛は西側からの軍事支援に依存しているが、米国議会が2023年に新たなウクライナ支援パッケージを承認するまでに長時間を要し、補給が不安定になることがある。
さらに、ロシア軍によるインフラへの攻撃は、ウクライナの補給線を脅かし、復旧作業が追いつかない状況を生み出している。領土問題では、クリミアやドンバス地域の奪還は軍事的に難しく、2023年のバフムト攻防戦ではウクライナ軍が大きな人的損失を被った。これらの要因が精神的な疲弊を招き、国民全体が戦争のストレスにさらされている。
一方、ロシアも絶望的な状況にある。経済制裁により国庫は枯渇しつつあるが、戦争経済の影響で短期的なGDPの伸びが見られる。しかし、この成長は軍事支出の増加によるものであり、持続可能ではない。長期的には経済の構造的な問題や制裁の影響により、成長は抑制されると予想されている。国際的にはロシアは孤立しており、2022年の国連総会でロシアのウクライナ侵攻を非難する決議が圧倒的多数で採択されたことは、その象徴と言える。
兵士の士気低下も顕著だ。動員によって集められた兵士たちの間では、戦闘意欲の欠如や脱走の事例が報告されている。技術面では、ロシアはウクライナの対空防衛システムや無人機の活用に追いつけていない。2022年9月のクリミア橋攻撃や2023年の無人機によるロシア国内への攻撃は、その技術的劣位を浮き彫りにした。兵士自体の高齢化も見逃せない。契約兵の平均年齢が上昇しており、モスクワの契約兵の半数以上が45歳以上、平均年齢が50歳に近づいているという情報があり、60歳以上の男性も新兵として応募しているとの報告もある。
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ロシア軍は高齢化しつつある |
さらに、国際的な影響を考慮すると、ロシアの勝利は西側とのさらなる対立を招き、ウクライナの勝利はロシア内部の不安定化を進める可能性がある。したがって、現状では和平交渉による妥協こそが唯一の解決策であり、完全な勝利は現実的ではない。
ウクライナ、ロシア、EU、そして米国には、ウクライナ戦争を抑止する機会が何度もあった。
ウクライナに関しては、2014年と2015年のミンスク協定が大きな抑止のチャンスだった。これはウクライナ東部の紛争を解決するための和平協定であり、ウクライナがこれに完全に従い、自治権を認めるなどの措置を履行していれば、戦争の拡大を防げた可能性がある。
さらに、ウクライナはソ連崩壊後に核兵器を保有していたが、1994年のブダペスト覚書により放棄した。もし核を保有し続けていたならば、ロシアの侵攻を抑止する強力な手段となったかもしれない。少なくとも、防衛力を強化し、軍事予算を大幅に増やしていれば、ロシアの侵攻を防ぐ可能性は高かった。ウクライナは2014年以降、NATOとの協力を強化したが、正式加盟が遅れたことで抑止力は限定的だった。
ロシアも何度も外交的解決の機会を逃した。例えば、2021年12月にロシアが提案した安全保障案では、NATOの東方拡大を停止することを求めていた。この要求が受け入れられれば戦争を回避できた可能性があるが、ロシアは最終的に軍事行動を選択した。また、2021年末から2022年初頭にかけての軍事集結を抑制できれば、戦争は避けられただろう。
EUは経済制裁の早期強化を通じて、ロシアへの圧力を強めることができた。実際に制裁が強化されたのは侵攻後であり、もしそれ以前に厳格な制裁が課されていれば、ロシアの侵攻に対するコストが増し、抑止効果を発揮した可能性がある。また、EUが早くからロシアへのエネルギー依存を脱却していれば、経済的影響力が強まり、抑止力として機能したかもしれない。
バイデン大統領はロシアの侵攻を抑止するどころか、2022年1月のCNNインタビューで「小規模侵攻なら対応は限定的」と発言し、結果としてロシアに侵攻を認めるシグナルを送ったとの批判もある。
これらの事実から、ウクライナ戦争を抑止する可能性は十分にあったと言える。各国がより積極的かつ迅速に対応していれば、現在の紛争を回避できたかもしれない。
ただし、今さら「もしも」を語っても意味はない。現実には、いまもウクライナとロシア双方で人的被害が発生している。一刻も早く停戦または休戦の道を探るべきだ。戦争犯罪の追及は後回しにし、まずは人的被害を最小限に抑えるべきである。
そして、現代の戦争においては、いずれの国にも真の勝利はない。この教訓を、中国との対決に生かすべきである。
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