まとめ
- 高市首相の「台湾有事=日本の存立危機」発言に対し、中国が外交暴言・威嚇・渡航自粛など異常な反応を示し、日本を戦略的脅威と見なしていることが浮き彫りになった。
- 中国は地政学の大家フリードマンの見解を研究しており、日本列島が中国の外洋進出を封じる“地政学的な壁”であるという現実を深刻に捉えているため、対日威嚇が強まっている。
- 中国軍の強硬行動は一見攻勢に見えるが、その根底には日本が主体的に安全保障を語り始めたことへの焦りがあり、日本の変化に神経質になっている。
- フリードマンの分析では、日本は第一列島線の核心を占め、技術力と地理的位置によって中国の軍事拡張に最も大きな制約を与える国とされ、中国側の研究者もこれを認識している。
- 日本が取るべき道は、海洋国家としての防衛強化、主体性ある日米同盟の活用、そして技術・経済力を戦略資産として最大限に生かすことであり、中国が日本を恐れるのは日本にはそれを実現できる力があるからである。
この一言に、最も過敏に反応したのが中国だった。大阪の中国総領事・薛剣はXに「勝手に突っ込んできたその汚い首は斬ってやるしかない」と投稿し、我が国政府はただちに抗議した。外交官が一国の首相に向けて「首を斬る」と公言するなど、常識では考えられない暴言である。(毎日新聞)
さらに、中国外務省報道官は記者会見で「日本が台湾海峡情勢に武力介入すれば侵略行為となる」「台湾問題で火遊びをするな」と強い言葉で牽制した。(FNNプライムオンライン)
追い打ちをかけるように、中国政府は自国民に対し「当面、日本への渡航を控えるように」とする旅行警告を出し、中国の航空会社は日本行き航空券の払い戻し・変更に応じ始めた。日本政府は直ちに抗議し、「適切な対応を取るよう求めた」と発表している。(Reuters)
外交上の暴言、火に油を注ぐような会見、そして渡航自粛の呼びかけ──ここまで重ねてくるということは、中国が日本を「ただの隣国」ではなく、はっきりとした戦略上の脅威として見ている証拠である。
しかも重要なのは、中国がこうした反応を、その場の感情だけでやっているわけではない、という点だ。中国の戦略・外交の研究者たちは、アメリカの地政学者ジョージ・フリードマンの議論を長年検討してきた。フリードマンは『The Coming War With Japan(日本との次なる戦争)』などで、「日本列島は中国にとって海への出口を塞ぐ“壁”になる」と繰り返し書いてきた人物である。(gongfa.com)
中国側の論文の中には、フリードマンの著作を参考文献として挙げ、日本列島・第一列島線・日米同盟の意味を分析しているものもある。つまり中国の戦略エリートは、「フリードマンが描いた最悪のシナリオ」が現実になりかねないと分かっている。その不安が、いま日本への威嚇として噴き出しているのである。
一見すると、中国は強気一辺倒に見える。南西諸島周辺や台湾近海で軍事演習を繰り返し、海と空でプレッシャーをかけ続けている。しかし、その振る舞いの底にある感情は、むしろ焦りに近い。
かつての日本は、台湾や安全保障の問題になると口をつぐみ、「あいまいな同盟国」として扱われてきた。ところが今、高市首相は国会という公の場で、「台湾有事=日本の存立危機」と明言した。これで日本は、台湾問題を「他人事」ではなく「自分に直接かかわる問題」として位置づけ直したことになる。
中国にとって、これは面倒どころではない。台湾の背後に「本気の日本」が立つ構図が浮かび上がるからだ。だからこそ、総領事の暴言や外務省の「火遊び」発言といった、品位を欠いた言葉が次々と飛び出したのである。言い換えれば、日本が黙っていた時代の方が、中国にとっては都合が良かったのだ。
そこへ、渡航自粛という形の“世論戦”も重ねてきた。日本を「危ない国」と印象づけ、中国国内で反日感情を煽れば、日本側の発言力を削ぐことができると踏んでいるのだろう。だが、この種の宣伝は、裏を返せば「日本の言葉が効いている」「日本の動きが怖い」と白状しているようなものでもある。
中国は今、日本が“沈黙するアジアの大国”から、“主張する海洋国家”へ変わりつつあることを肌で感じている。その変化が、中国をいら立たせているのである。
かつての日本は、台湾や安全保障の問題になると口をつぐみ、「あいまいな同盟国」として扱われてきた。ところが今、高市首相は国会という公の場で、「台湾有事=日本の存立危機」と明言した。これで日本は、台湾問題を「他人事」ではなく「自分に直接かかわる問題」として位置づけ直したことになる。
中国にとって、これは面倒どころではない。台湾の背後に「本気の日本」が立つ構図が浮かび上がるからだ。だからこそ、総領事の暴言や外務省の「火遊び」発言といった、品位を欠いた言葉が次々と飛び出したのである。言い換えれば、日本が黙っていた時代の方が、中国にとっては都合が良かったのだ。
そこへ、渡航自粛という形の“世論戦”も重ねてきた。日本を「危ない国」と印象づけ、中国国内で反日感情を煽れば、日本側の発言力を削ぐことができると踏んでいるのだろう。だが、この種の宣伝は、裏を返せば「日本の言葉が効いている」「日本の動きが怖い」と白状しているようなものでもある。
中国は今、日本が“沈黙するアジアの大国”から、“主張する海洋国家”へ変わりつつあることを肌で感じている。その変化が、中国をいら立たせているのである。
2️⃣フリードマン地政学から見た「日本という壁」
| ジョージ・フリードマン |
ジョージ・フリードマンの地政学は、難しい理論ではない。要はこういうことだ。
- 中国は大陸国家であり、四方を山と砂漠とジャングルに囲まれた「半ば閉じた大国」である。
- 外へ出ようとすれば、東の海に頼るしかない。
- しかし、その東側の出口を日本列島と第一列島線がふさいでいる。
フリードマンは、この構造をはっきりと言葉にした。「日本は海から中国を封じ込めることのできる位置にある」「日本列島は米国の海洋覇権を支える支点だ」と。中国側の研究者たちがこの本を読み、引用しているのは当然だろう。彼らにとって、これは悪夢の設計図そのものだからだ。(gongfa.com)
軍事面でも事情は似ている。中国は量では圧倒的だが、対潜戦や機雷戦、島嶼防衛など、日本と米国が得意とする分野では、優位とは言えない。日本が本気で海と空の防衛力を高めれば、中国は簡単には手出しできない。
さらに、中国が恐れているのは日本の技術力だ。半導体、精密機械、素材、造船、海洋技術──日本が持つこうした力は、そのまま中国の軍事的野心に対する「見えない鎖」になる。日本が供給を絞り、欧米と歩調を合わせれば、中国の軍事近代化の足はたちまち重くなる。
だからこそ、中国の威嚇は止まらない。劣勢を自覚する国ほど、大声で相手を脅す。フリードマンが描いたこのパターンどおりに、いまの中国は動いているのである。
3️⃣日本が取るべき道――「海洋国家としての覚悟」を固める
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| 赤線で囲われた部分が日本の排他的経済水域 |
ここまで見てくると、日本が進むべき道ははっきりしてくる。
第一に、日本は海洋国家としての本分を思い出すべきだ。海上自衛隊と航空自衛隊を中心に、島嶼防衛とシーレーン防衛を徹底的に強化する。長射程のスタンド・オフミサイル、潜水艦、対潜哨戒機、衛星・無人機など、海空の「目」と「牙」を磨き上げることが抑止力そのものである。
第二に、日米同盟を軸にしつつも、日本自身の判断軸をしっかり持つことだ。アメリカに全面的におんぶされるのでもなく、反米に走るのでもなく、「我が国の利益は何か」をはっきりさせたうえで同盟を使いこなす。この姿勢が、中国にとって最も厄介であり、同時に日本にとって最も安全な道である。(Nippon)
第三に、日本の技術と経済を「安全保障の柱」として扱うことである。サプライチェーンの多角化、重要技術の管理、インフラ投資──これらは単なる経済政策ではない。中国が最も恐れているのは、日本が本気で「技術と経済で中国を締める」局面である。ならば、そこをこそ強めればよい。
中国の日本に対する威嚇は、日本の弱さの証明ではない。むしろ、日本が目を覚ましつつあることへの悲鳴だと言ってよい。フリードマン地政学が教えるのは、「日本こそが中国の前に立ちはだかる海の壁であり、東アジアの均衡を決める鍵だ」という冷厳な事実である。
我が国はその現実から逃げるべきではない。むしろ、その役割を自覚し、海洋国家としての覚悟を固める時だ。中国が日本を恐れているのは、日本にはそれを実現できる力があるからだ。
ならば、その力をさらに鍛え上げればよいのである。
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