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2020年4月14日火曜日

新型コロナが証明した「独立国家」台湾―【私の論評】台湾が独力で中国ウイルス封じ込めに成功したことは、その後の世界に大きな影響を与える(゚д゚)!



flickerより Robin Huang 台湾国旗柄のビキニの女性 写真はブログ管理人挿入 以下同じ 

 今回の新型コロナウイルス禍をめぐる世界の反応を見れば、台湾が中国の一部でないことを世界の人々に認識せしめた意味は極めて大きい。

 台湾においては、2003年のSARS禍の際、84人の死者を出したことが教訓として残されていることもあり、今回の新型コロナウィルス禍の対策においては、初期対応、検査、隔離、治療などの諸措置が透明性を以て極めて効率的に行われた。これによって、諸外国に比べ、感染者数、死者数とも、今のところ、抑えられた状況にある。台湾は、中国、欧州、米国などに比べて、この災禍を見事なまでに制御していると言える。

 これまでのこの台湾の制御策は世界的にも評価されており、この状況から見れば、台湾と中国の違いは一目瞭然である。

 最近、中国外交部の報道官は、自らのツイッターに、この新型コロナウィルス禍の発生源として、米国軍人がウイルスを武漢に持ち込んだ可能性がある、と投稿した。これに対し、米国は、新型コロナウィルス禍の発生源が中国であることは疑いのない事実であり、初期段階における中国の隠ぺい工作の結果、世界各国が犠牲を払わざるをえなくなった、としてこの投稿内容を非難した。トランプ大統領は、これを新型コロナウイルスではなく、「CHINESE VIRUS」(中国ウィルス)と呼んだ。ポンペオ国務長官は「武漢ウイルス」と呼んだ。

 ごく最近、米国下院においても、この中国報道官のツイッター内容を「偽情報」であると非難して、超党派の決議案がまとめられた。

 中国共産党の習近平政権としては、自分たちの過ちを米国に転嫁する必要から、このようなやり方をとったのであろうが、これは米国の識者を憤慨させるものとなっている。中国としては、新型コロナウィルスを拡散したことの責任を曖昧にし、中国自身が被害者であるかのような印象を与えようと躍起になっているように見える。

 台湾の住民たちにとっては、中国における新型コロナウィルス禍の感染拡大、その後の様々な処置を見ていて、中国の一党独裁体制がいかに新型コロナウィルス対策において限界を有するかを改めて認識させられたに違いない。

 日本はこれまで台湾をWHO(世界保健機関)のメンバーに入れるよう支持してきた。しかし、今回のWHOの動きを見れば、中国の実質的な影響下にあるためであろうが、台湾の存在を無視するような態度を取り続けている。そのため、台湾が新型コロナウィルス禍を如何に抑え込んでいるかについての知識、経験が世界に直ちに共有される状況になっていないのは残念なことと言わねばならない。

 では、台湾がいかに、この新型コロナウィルスの危機に対応してきたかを、改めて、ここで共有しておきたい。日本にとっても参考になるはずである。

 台湾は、早い段階で、国境を閉め、中国との行き来を制限した。学校を2週間閉め、その間に消毒を徹底した。学校の再開時には、徹底した検温検査等を行なった。学校の入り口に、テントの待機所を設け、微熱等で感染可能性のある人はそこで控えるようにしてもらった。台湾の保険証のチップには、渡航歴が分かるようになっていて、診察した段階で、中国や日本に行っていた人かが一目でわかる仕組みが出来ていた。病院はもちろん、レストラン、ホテル等の入り口でも、入館者にはアルコール消毒液を噴射して対処した。そうしない人は、中に入れない。マスクは、早い段階で輸出を禁止し、国内で購入する人は、数を制限し、保険証等のチップで管理する。こうする事で、価格の急騰や品不足、買いだめを防止できた。

 これらの国内的対処のみではない。台湾は、小さい国ながら、世界第3の経済大国である日本に、救いの手を差し伸べてくれた。新型コロナウィルスによって国境が封鎖された南米ペルーで足止めされた日本人観光客29人を、台湾政府のチャーター便に乗せてくれた。104人の日本人観光客は旅行会社が手配したチャーター機で出国した。台湾政府は、自ら、遠いペルーまでチャーター機を手配して自国民の出国を助けたが、その恩恵に、日本も預からせてもらった格好だ。

 3月下旬、トランプ大統領は、超党派の支持で成立した「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ法(TAIPEI法)」に署名した。この法律は、台湾の外交関係強化についての施策を、国務省が議会に報告することを義務付けるとともに、台湾の安全保障に脅威となる国との係わりを再検討することを政府に義務付けている。

 日本も、米国の同盟国として、そして台湾への感謝も含め、今後、台湾との関係をより一層強化すべきであろう。将来的には、日米両国がリードして、国際社会の世論を喚起し、台湾の国際的地位の向上を推進できれば良い。今回の新型コロナウィルスの危機は、台湾が実体として独立した国家であることを証明したのだから。

岡崎研究所

【私の論評】台湾が独力で中国ウイルス封じ込めに成功したことは、その後の世界に大きな影響を与える(゚д゚)!

本年1月11日の台湾総統選で史上最多得票で再選された台湾の蔡英文総統は英BBC放送のインタビューに応じ、台湾の地位について「独立国家だと宣言する必要性はない。既に独立国家であり、われわれは自らを中華民国、台湾と呼んでいる」と述べました。インタビューは英国時間の14日に公表されました。

台湾蔡英文総統

これに対し、中国外務省の耿爽副報道局長は15日の記者会見で、「中華人民共和国が中国を代表する唯一の合法政府であり、台湾は中国の分割できない一部分だ。『一つの中国』原則は国際社会の普遍的な共通認識だ」と不快感を表明しました。

蔡氏はBBCのインタビューで「台湾独立」に対する見方を問われ、与党・民進党の立場を改めて強調。中台統一のためなら武力行使も辞さない方針を示す中国に対し、「われわれは多大な努力をし、能力を高めてきた。台湾を侵略すれば、非常に大きな代償を払うことになるだろう」とけん制しました。

そうして、現在台湾は、中国の助けを一切借りることなく、独力で中国ウイルス対策を実施し、名実ともに独立国であることを世界に向かって、示すことができました。中国は現在国内の中国ウイルスは終息傾向にあるとして、イタリアなどに医療チームを送る等のいわゆる微笑外交をしていますが、台湾には全くその必要がありません。

新型中国ウイルスへのWHO=世界保健機関の初期対応をめぐり、台湾当局は、去年12月にWHOに送った文書を公表し、中国でヒトからヒトへの感染が疑われる事案が起きていると警告していたと強調しました。

WHOの対応を批判する米国に歩調をあわせた形です。

米国国務省は10日、WHOについて「台湾から早期に受けた通知を国際社会に示さなかった。公衆衛生より政治を優先した」などと批判しましたが、AFP通信の取材に対しWHOは「台湾からの通知にヒトからヒトへの感染について言及はなかった」と否定しました。

これについて台湾当局は11日、WHOに対して去年12月末に送った通知の全文を公表しました。

文書には「中国の武漢で非定型の肺炎が少なくとも7例出ていると報道されている。現地当局はSARSとはみられないとしているが、患者は隔離治療を受けている」などと書かれています。

台湾の陳時中衛生福利部長は会見で「隔離治療がどのような状況で必要となるかは公共衛生の専門家や医師であれば誰でもわかる。これを警告と呼ばず、何を警告と呼ぶのか」と述べ、文書はヒトからヒトへの感染が疑われる事案が起きていると警告していたと強調しました。

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が台湾から人種差別攻撃があったと主張している問題で、台湾人がインターネット投稿で謝罪しているように中国側が見せかけていると台湾当局が指摘している。

台湾法務部(法務省)調査局は10日の記者会見で、中国のネットユーザーが台湾人を装い、テドロス氏に対する人種差別攻撃について謝っているように見せていると説明。同局情報セキュリティー部門の張尤仁主任によれば、こうした投稿は全て同じ言葉遣いのためフェイク(偽)だと容易に分かるとしています。

投稿は全て「台湾人として、このような悪意のあるやり方でテドロス氏を攻撃したことを極めて恥ずかしく思う。台湾人を代表してテドロス氏に謝り、許しを乞う」というものですが、いずれも中国に拠点を置くアカウントから発せられたようだとしています。

テドロス氏は8日、新型中国ウイルス感染症(COVID19)の対応を巡りオンライン上で3カ月にわたり台湾からの攻撃の標的になっていると述べましたが、台湾の関与を示す証拠は何も示しませんでした。これに対し、台湾の蔡英文総統はテドロス氏の主張に「強い抗議」を表明するとともに、同氏に台湾訪問を呼び掛けました。

台湾はWHOなど国連機関への加盟を長く求めていますが、台湾を領土の一部と見なしている中国が反対し続けています。米ジョンズ・ホプキンス大学によると、台湾は新型中国ウイルスの感染拡大を他のアジア諸国・地域よりうまく封じ込めており、10日時点で確認症例数は約380件です。ちなみに、これを10万人あたりの感染者数でみると,1.59人です。驚異的な少なさです。

中国国務院台湾事務弁公室はウェブサイトに同日掲載した声明で、蔡政権は「うそを並べ憎悪をあおる」ことをやめ、ウイルスとの闘いに焦点を絞るべきだとコメントしました。

これでは、先程も述べたように、中国が台湾に対してマスクや、防護服の提供、医療チームの派遣などで台湾に微笑外交を展開しようとしても全く無理です。逆に「自分の頭の上の蝿を追え」といわれてしまいそうです。

ちなみに、日本も台湾よりは、感染者数の数は多いですが、それでも10万人あたりに換算(感染者数➗人口✖10万)すると、5.6人(4/11現在)です。台湾は、1.59人です。これは、米中や他の先進国と比較すれば、極端に少ないです。中国は人口も約14億人と多いので、10万人あたりでは、一応6人程度ですが、中国統計は全くあてにならないので、この数字は無意味です。

韓国もひところは、感染者数が拡大してしまいましたが、それでも最近は収束しつつあり、11日時点では、10万人あたりの感染者数は19.4人です。これも、他の先進国から比較するとかなり少ないほうです。

ちなみに、なぜ10万人あたりでみるかといえば、無論人口の多い少ないで、その深刻度は異なってくるからです。10万人あたりでみると、感染者が一番多い都道府県は東京ではなく、福井県です(下表参照)。


北朝鮮はどうなのかは、わかりませんが、いずれにしても、台湾、韓国、日本に関しては、中国は「消防士のふりをする放火犯」のように、中国ウィルス関連で、微笑外交を展開するわけにもいきません。

中国自身は、自国の被害の程度を熟知しているでしょうから、近隣の国々では微笑外交もままならないのです。だかこそ、被害がかなり大きかったEU等で微笑外交を展開しているのでしょう。

もし、台湾や日本がヨーロッパや、米国なみに被害が大きかったとすれば、今頃微笑外交で、台湾、日本、韓国などで、存在感を増していたかもしれません。その後には、様々な方法を駆使して、台湾、日本、韓国を取り込みに走ったかもしれません。恐ろしいことです。

今回の中国ウイルス禍で、台湾がウイルスの封じ込めに成功したことは、台湾国内のみではなく、世界に対して大きな貢献になりました。

もし、台湾が封じ込めに失敗し、中国に助けられるような事態になっていれば、そうして日本も大失敗していれば、何しろ、現状では米国が深刻な感染に悩まされている状況ですから、中国はアジアで大攻勢にでて、中国ウイルス後の新たな世界秩序は大きく中国側に有利なものに傾く可能性がありました。

しかし、台湾は、日米の支援などではなく、独力で封じ込めに成功しました。これは、その後の世界に大きな影響をもたらすことでしょう。

冒頭の記事では、「新型中国ウィルスによって国境が封鎖された南米ペルーで足止めされた日本人観光客29人を、台湾政府のチャーター便に乗せてくれた」とありますが、これは3月29日のことです。

日本もすかさず、台湾におかえしをしています。

新型ウイルスの感染拡大防止のため都市封鎖を実施しているインドから、台湾人12人が現地時間4月1日夜、日本航空(JAL)の臨時便で出国し、2日早朝に東京に到着したことを台湾の外交部が2日、明らかにしました。

  都市封鎖を実施しているインドから、台湾人12人が現地時間4月1日夜、
  日本航空(JAL)の臨時便で出国し、2日早朝に東京に到着

会見を行った欧江安報道によると、現地に滞在する台湾人から、駐インド代表処(大使館に相当)に対し帰国支援を求める問い合わせがあり、代表処が在インド日本国大使館、日本航空などと調整を行い、日本政府が手配する臨時便に同乗できるようになったとのことで、「外交部として心から感謝する」と日本や関係者に謝意を表明しています。なお、東京に到着した12人は、すでに台湾に帰国されています。

日台が、それぞれ独力で、現時点では中国ウイルスの囲い込みに成功していること、日台のこうした友情が、これからの世界を良い方向に変える原動力になるかもしれません。

後は、米国が一日もはやく中国ウイルスから立ち直り、台湾を強力にサポートし、EUに手を伸ばそうとする中国を牽制していただきたいものです。

そうして、このブログにも何度か掲載したように、米国と比較して、日本の経済対策があまりにお粗末です。今のままでは、リーマン・ショック時に、震源地の米国や、その悪影響を直に被った英国が素早く回復したにもかかわらず、日本だけが一人負けになった状況を繰り返すことになりかねません。

この状況では、中国ウイルス後の世界秩序の大きな変更の先頭に米台と同じスタート地点に立つことができないかもしれません。それは、日本だけの損失ではなく、中国を有利してしまうという大きな損失を招く恐れがあります。

そのようなことにならないように、安倍総理は、減税、追加経済対策、憲法改正などを公約にして、はやく解散総選挙を実施して、大勝利をして、維新の党とともに、中国ウイルス収束後におこる、世界秩序の大変更にリーダーシップを発揮できる体制を築くべきです。そうして、台湾なみに、はやく日本も中国ウイルスを収束させるべきです。

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2020年1月24日金曜日

歴史も証明。中国という国を滅ぼしかねぬ新型肺炎という「疫病」―【私の論評】新型肺炎の感染拡大で、習近平の国賓待遇での日本訪問は難しくなった(゚д゚)!

歴史も証明。中国という国を滅ぼしかねぬ新型肺炎という「疫病」

体温検査を受ける武漢を出て列車で移動する乗客。1月23日、杭州市

中国の武漢市を中心に猛威を振るう新型肺炎。1月25日の春節を含む大型連休には億単位の中国人が移動するとも言われ、パンデミックの可能性も囁かれていますが、過去にも中国から多くの疫病が世界に広がったとするのは、台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、中国の「疫病史」を紹介するとともに、現在も複数存在する「中国発の疫病」が世界に広がる要因を記しています。

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年1月22日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【中国】「中国発パンデミック」はなぜ厄介なのか

新型肺炎、発症者540人超に拡大 死者は17人

中国湖北省武漢市を中心として広がる新型肺炎の感染が止まりません。ついに死者は17人、発症者540人超にも拡大しました。ついにアメリカでも武漢を訪れていた男性1人の感染者が確認されました。中国以外では、アメリカ、日本、韓国、タイで発症者が出ています。WHO(世界保健機関)が緊急事態宣言を出す可能性も出てきました。

死亡率は現在のところ2%でまだ低いですが、これから上昇していく可能性もあります。ちなみに、SARS(重症急性呼吸器症候群)も中国の広東省を発端として各国に広がりましたが、このときは発症者8,096人のうち774人が死亡しています(致死率9.6%)。

Summary of probable SARS cases with onset of illness from 1 November 2002 to 31 July 2003

また、2012年から中東やヨーロッパで発症例が報告され、2015年には韓国でも流行したMERS(中東呼吸器症候群)は、2,494人が発症し、そのうち死者は858人(致死率34.4%)でした。

Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV)

これに比べれば、まだまだ致死率は低いものの、前回のメルマガでも書いたように、これから旧正月によって一気に拡大する可能性があります。

また、かつてユーラシア大陸で流行った疫病は、必ずといっていいほど日本に入ってきています。江戸時代には天然痘(疫病)、麻疹(はしか)、赤痢が見られ、このうち天然痘は18世紀前期に大流行。麻疹も同時期に2~3回大流行し、赤痢は18世紀から19世紀にかけて大流行しました。いうまでもなく、中国からの伝染です。

中国では、1880年に広東と寧波でコレラが大流行。翌81年には北京でも大流行しました。この感染経路は、発源地を広東とする2003年のSARS流行とそっくりです。そして、中国でのコレラ大流行直後の1882年10月~11月の中旬、日本でもコレラが大流行することになります。北里柴三郎や初代内務省衛生局長であった長与専斉によれば、その日本侵入経路の起点は中国で、これがまず長崎に入り、そうして日本全国へ広がったといいます。

日本では、これに対処するため、1885年に函館、新潟、横浜、神戸、下関、長崎の港に常設の消毒所を設置。その後、1899年に「海港検疫法」が公布されるなどして、検疫制度が確立していきます。こうした取り組みが中国からの疫病侵入を防ぐ力となったのは言うまでもありません。しかし、一方の中国は、現在に至るまで根本的な対策は取られないままできているのです。

この日本と中国の衛生観念や防疫意識の違いは、台湾にも如実に見て取れます。日本植民地時代の台湾には、疫病の大々的な流行がほとんど見られませんでした。というのも、総督府は1900年代に入ってすぐに、都市計画に始まって衛生教育に至るまでを徹底して実施。北里柴三郎に依頼して、その一番弟子を台湾に呼んでまで、防疫をはじめとする公衆衛生に取り組んできたからです。

それが終戦で一変しました。日本が台湾から引き上げ、かわりに中国軍が台湾に進駐したとたん、すでに絶滅していたはずのコレラ、天然痘、ペスト、チフス、マラリアといった疫病の大流行が台湾全島を急襲したのです。1946年にはペストとコレラの、翌47年には天然痘の大流行に見舞われています。台湾から見た中国人とは、まさに疫病神以外の何者でもありませんでした。

中国でも日本軍が進出した際、地方の農民が大歓迎するケースも少なくありませんでした。それは、日本軍が通過した地方は、かならず伝染病が消えていき、衛生の問題と課題が消えるからでした。

中国の疫病流行は、すでに史前から甲骨文に刻まれています。現在、その甲骨文から確認できる殷周時代の古代人の疫病は約16~20種類もあります。そして、周初から漢代に至る「大疫」(疫病大流行)の記録では、しきりに「死者万数」「人多死」「士卒多死」「其死亡者三分有─」と、多くの死者を出したことを示す文言が繰り返し出ているのです。

中華帝国以後の中国は二千余年間、周期的、加速的に水害、旱魃等の天災に見舞われてきました。そして、旱魃の後に大飢饉が、水害の後に大疫病が発生するというのが、いわば「定番」になっています。歴代王朝の「正史」には疫病の大流行が数年ごとに、時には連年で記録されていることが、それを証明しています。

中国の歴代王朝は、実際には「大飢」や「大疫」によって滅ぼされた場合が多くあります。「大飢」によって生まれた流民が「大疫」の媒介や運び役となって世界へ拡散していくのです。

たとえば明の滅亡については、政治腐敗と、それに蜂起した農民反乱軍によって滅亡したと語られていますが、実は、それだけが要因ではありません。明末には「大疫」や「大飢」が間断なく襲い、餓死者や疫死者が続出。流民、流賊、流寇もあふれていたのです。これもまた、農民が反乱する要因にもなっていました。

ことに明末の万暦、崇禎年間(1573~1644年)には、華北地方で疫病が猛威をふるい、少なくとも1,000万人の死者が出ました。主にペストや天然痘です。明王朝は、実はこの大疫によって倒れたのであり、清に滅ぼされたわけではないのです。

また、黒死病(ペスト)といえば、中世のヨーロッパを襲った恐るべき流行が、史上でもっとも有名で、1348~51年の3年間で、人口の3分の1を死に至らしめています。その伝染経路については諸説があありますが、もっとも有力なのは中国大陸を発源地とするものです。

下の版画はパウル・フュルスト(Paul Fürst)の『Doktor Schnabel vonRom(ローマの嘴の医者)』(1656年)です。

当時はペストの原因として瘴気(悪性の空気)が考えれており、ハーブやスパイスが詰められた この独特のマスクは、ガスマスクの役割を果たしていました。ちなみに、当時の主な治療法は蛭(ヒル)による瀉血でした。


最初に大流行したのは南宋王朝です。この時、南征中だったモンケ・カーン(チンギス・カーンの孫、フビライ・カーンの兄)が病死していますが、その病気がペストだったとも指摘されています。南宋と戦っている間にモンゴル軍に伝染したのです。

このモンゴル軍の遠征を通じて、ペストは西アジア、クリミア、ベネチア、北アルプスを経て北上し、やがて全ヨーロッパに伝わっていきました。

元末の至正年間(1344~62年)の間には、「大疫」だけでも11回も起こっています。中華帝国の人口は、1200年には1億3,000万人いたとも推定されていますが、ペストの大流行によって、すでに1331年の時点で3分の2が死んでいます。ユーラシア大陸の東西ともにペストに襲われ、人口が大量に減ったのです。

また、それより以前、隋の煬帝末期の610年から唐初の648年の約40年間には、7回も疫病が大流行。隋も瘟疫で倒れています。

その他、インフルエンザ系の疫病はSARSに限らず、その発源地はほとんどが中国です。たとえば、1918年の秋に全世界で猛威を振るったインフルエンザ。感染者は地球人口の20~40%にも及び、感染からわずか4ヵ月で2,000万人が死亡し、その死亡率は約2.5%でした。日本でも2,000万人以上が感染し、死者は約40万人に上っています。

これが「スペイン風邪」と呼ばれるインフルエンザで、名称からスペインが発源地であると誤解する人が多いですが、実は、これも中国が発生源でした。そもそもは、1917年に中国の南方で発生したものが、船便を通じて世界各国へと拡散したのです。

中国で医療衛生が制度化されたのは、なんと20世紀になってからのこと。義和団事件後に変法派官僚によって、やっと天津に衛生総局が設立(1902年)されたのです。それも、中国から世界にペストがばら撒かれることを危惧した列強からの強い要請があって、ようやく重い腰を上げたというのが本当のところです。外国人を排斥する大事件が引き金になって、その外国の圧力によってようやく医療衛生が制度化されるという、皮肉な話です。

一方、儒教の影響が現在も色濃い中国では、医師の社会的地位は非常に低いものです。たとえば日本と台湾では、通常、成績がいい学生が大学の医学部へ進みますが、中華の世界ではまったく逆で、成績の悪い学生が医師になるのです。だから、中国では現在も医者は軽んじられる存在なのです。

たとえば、中国では医者に対する患者の暴力行為が頻発しており、「医閙(イナオ)「医傷」などと呼ばれています。その件数は年間数万件にも及ぶため、中国政府は2018年に、毎年8月19日を「中国医師の日」にすることを定め、医者を尊重するよう呼びかけているほどです。

また、2012年の調査によると、臨床医の初任給は1カ月あたり平均2,339元ですが、中国の新卒の平均的な初任給は1カ月あたり3,051元であり、医師と看護師がもっとも低水準なのです(「中国網」2013年10月8日付)。このような状態であるため、誰も医師になりたがらないし、医療体制も低いままなのです。

また、日本のような医療保険制度がほとんど普及していない中国では、高額な医療費のために、病気になっても医者にかからない人民も多い。そのため、疫病が拡大してしまうのです。

もちろん、中国は言論統制の国であり、また、WHOまでもカネの力で牛耳っているため、事実隠蔽が平然と行われ、そのために被害が大きくなってしまうという点も重要です。

このように、中国発の疫病が世界に広がる要因は複数存在しています。日本人にとって、これからもっとも注意すべきは、パンデミックの流行です。中国への渡航、あるいは中国人観光客が多く集まる場所へ出かけていく場合には、十分に気をつける必要があります。

【私の論評】感染拡大で、習近平の国賓待遇での日本訪問は難しくなった(゚д゚)!

約20年前に流行したSARSは当初、ハクビシンが感染源と疑われましたが、現在はキクガシラコウモリが感染源であると考えられています。今回の新型肺炎の感染源は竹ネズミかアナグマ、蛇と説が分かれています。いずれもジビエ(野生の鳥獣食)として食されており、市場での取引を通じて人間に伝染したとの見方が強いです。

キクガシラコウモリのスープ
無論、他国の食文化を単純に否定するつもりはないですが、こうした食文化にも、病気を蔓延させる原因がある可能性ず大きいです。日本では、欧米では食べないクジラや、魚の刺し身を食すという食習慣がありますが、そもそも海産物であること、さらに細心の注意をはらった調理などにより、それが大規模な感染症の原因になったということは聞いたことがありません。

いくら食文化といっても、それが大規模な感染症を招くというリスクがあるなら、中国としてもそのような食文化は廃するか、それが不可能なら感染症を防ぐ方向で議論をすすめるべきです。


      竹ネズミの調理の動画。このくらいの衛生的な環境で調理されるなら
      問題はないのかもしれないが、劣悪な環境下での調理もあり得る

それに中共政府の対応も悪すぎです。もともと中国では、2019年12月の時点で、武漢で原因不明の肺炎患者が出ているとの情報がSNS上で出回っていました。その後も「海外で患者が出ているのに、国内の他地域にいないわけがない」との声があがっていました。

それから1カ月あまりで情報公開が始まったのは遅きに失した感が否めないです。中国の報道機関「財新メディア」は、現地からの報道として「複数の医師が最終的な感染者は6000人を超える可能性があると推計している」と報じました。財新はかつて当局によるSARS情報隠ぺいをスクープして名を馳せたジャーナリストの胡舒立氏が率いる独立系メディアです。

一方で当局寄りの論調が強い「環球時報」も、「武漢の対応の遅さを教訓とし、その他の地方での対応を急げ」という社説を掲げました。「早くから患者の全面隔離を実施し、伝染の経路をふさぐべきだった」と主張し、武漢当局を厳しく批判する内容ですが、こちらは責任を地方政府に押しつけ、中央への波及を防ぐ算段と見えなくもありません。

中国では24日から、春節に合わせた大型連休が始まりました。延べ約30億人が大移動する見込みで、日本など海外への旅行客も700万人を超える見通しです。

中国共産党機関紙、人民日報(電子版)によると、新型肺炎の発症者は24日朝までに31の省・自治区・直轄市のうち29で確認されており、武漢市だけ封鎖しても、新型肺炎が一気に国内外に拡散する危険性があります。

習近平は「(感染防止の取り組みが)非常に差し迫って重要だ」「(感染に関する情報は)直ちに発表しなければならない」と指示していますが、「社会全体の安定を断固として守らなければならない」とも述べており、パニックを阻止するための情報統制を示唆しました。

今後、日本国内で感染拡大・死者発生という事態になれば、初期の封じ込めに失敗した中国のトップ、習氏を「国賓」として歓迎できるのでしょうか。特に、仮に日本でも多くの人々がなくなることがあった場合、その責任者ともいえる人物を国賓として迎え入れるということは、国民感情が許さないと思います。

習近平

これ以外にも、元々中国は尖閣諸島付近の艦船による示威行動がますます過激になっているということもあります。これらをやめたというなら、国賓として迎えるということも筋が通りますが、そうでなければ、日本政府がいかに、丁寧に説明してもどう考えても無理筋です。

安倍首相は22日、衆院本会議での代表質問で、習氏の「国賓」招聘(しょうへい)について「日本と中国は地域や世界の平和と繁栄に大きな責任を有しており、その責任を果たす意思を内外に示す機会としたい」「同時に、中国との間には懸案が存在している。主張すべきは主張し、中国側の前向きな対応を強く求めていく」と語っています。

新型肺炎の拡大は、習氏の「国賓」来日に直撃するのでしょうか。もしそうなれば、無論習近平は国内の疫病の問題を放置して、来日することは許されないでしょう。やはり、常識的に国内に陣取り、疫病対策の陣頭指揮をとるべきです。

仮に、日本で同じようなことがおこったとして、総理大臣がそれを無視して外遊ということになれば、とんでもないことになります。

日本としても、新型肺炎が蔓延している中、その当事者であり責任者でもある元首を国賓として迎え入れるなどということは、常識的にあり得ないです。

新型肺炎をめぐる中国の情報統制のような対応を見る限り、中国は発生国として国際的責任を果たしているとは思えません。習近平が国賓として来日すれば、天皇陛下も含めて日本全体で歓迎しなければならないですが、これまでの経緯もあり、祝賀ムードで迎えることを国民が許すとは考えにくいです。新型肺炎の感染拡大で、さらに習近平の国賓待遇での日本訪問は難しくなったのではないでしょうか。

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2017年1月14日土曜日

「汚い言葉を使う人ほど正直者」であることが研究で判明―【私の論評】なぜトランプ氏は大統領選で敢えて「汚い言葉」を用いて成功したのか?



悪口やののしりなどの「汚い言葉」を使うのは一般的にタブーとされていますが、「口の悪い人ほど根が正直」であるという研究結果が発表されました。

Frankly, we do give a damn: The relationship between profanity and honesty | Gilad Feldman - Academia.edu

http://www.academia.edu/29725191/Frankly_we_do_give_a_damn_The_relationship_between_profanity_and_honesty



A new study linking profanity to honesty shows people who curse are more authentic — Quartz
https://qz.com/881289/a-new-study-linking-profanity-to-honesty-shows-people-who-curse-are-more-authentic/

一般的に汚い言葉を使う人は社会規範を破りやすい傾向にあり、誰かをののしることは不道徳な行為と考えられています。一方で、無実の罪で逮捕された人は、罪を犯した自覚を持つ人より、取り調べの際に汚い言葉を使う傾向にあることも過去の研究で示されています。そこで、マーストリヒト大学心理学部のジラド・フェルドマン氏率いる国際研究チームは、「汚い言葉」と「率直さ」の関係性を、個人および社会レベルで分析するべく3つの研究を行ないました。


By Neil Girling

1つ目の研究は個人レベルの汚い言葉の分析が目的で、276人の男女に「一般的に人は悪い言葉を使っている」という事実を伝えた上で、「人気の汚い言葉リスト」から、それぞれの汚い言葉から連想する怒り・恥などの感情を答えてもらいました。その後、被験者に1985年に発案された「アイゼンク性格検査(EPQ)」を受けてもらい、汚い言葉に対して話したことの信頼性が調査されました。EPQの結果により、一部の人間がうそをついていることがわかるとのこと。

2つ目の研究は世界中から集めた7万人の被験者を集め、Facebookの更新内容から汚い言葉の使用頻度を割り出し、抽出された内容はオンラインユーザーの正直度を計測する「Linguistic Inquiry and Word Count(LIWC)」という分析にかけられました。この2つの研究はいずれも、「汚い言葉を使う人の方が正直である」という結果を残しており、研究チームは「特にFacebookでは、より多くの汚い言葉を使う人の方が、より正直な人であることを示していました」と話しています。

3つ目の研究では社会レベルの傾向を調べるため、アメリカの48の州で2012年にセンター・フォー・パブリック・インテグリティによって公的に行なわれた「Integrity Analyses(誠実性分析)」のデータが使われました。また、2万9701人のFacebookユーザーを集めて「汚い言葉がよく使われる州」と「汚い言葉をあまり使わない州」が調べられ、2つのデータを比較した結果、汚い言葉をよく使う州ほど、誠実性分析の点数も高いという相関が見られたとのこと。

研究チームは「3つの研究により、個人および社会レベルで汚い言葉の使用頻度に比例して正直度が高くなることがわかりました」と話しています。一方でこの件を取り上げたQuartzは「この研究は倫理的な部分は追求しておらず、口の悪い人が罪を犯さないというわけではない」と警告しています。なお、この研究結果は学術誌・Social Psychological and Personality Scienceで発表される予定です。

【私の論評】なぜトランプ氏は大統領選で敢えて「汚い言葉」を用いて成功したのか?

トランプ氏(左)とオバマ氏(右)
悪口やののしりなどの「汚い言葉」というと、最近では米国新大統領のトランプ氏と、前オバマ大統領を思い浮かべてしまいます。この二人対照的でした。

トランプ氏はいわゆる「汚い言葉」を語るということで、選挙戦当初は泡沫候補とされていましたが、最終的には大統領選挙に勝利しました。

一方オバマ氏はといえば、大統領選中も、大統領になってからも「汚い言葉」はほとんど使いませんでした。オバマ氏の占拠での合言葉は"Yes, we can."でした。

トランプ氏の大統領としての最後の演説の締めくくりは、"Yes We Can. Yes We Did. Yes We Can."でした。最後の演説は自画自賛で終わりました。外交においては、あれほど大失敗を繰り返し、アメリカの世界における存在感を毀損したにもかかわらず、全く反省がありませんでした。

上の心理学の研究の結果からすると、トランプ氏のほうがよりオバマ氏より正直ものであるということがいえそうです。

さて、トランプ氏の「汚い言葉」については、このブログでも以前とりあげたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
テロリスト扱い?軍人はこんなにヒラリーが嫌い 大詰めの大統領選、軍人票がトランプを押し上げる―【私の論評】トランプの暴言は軍人・保守派に対する強烈なメッセージだった(゚д゚)!
米フロリダ州オーランドで開かれた選挙集会で演説する米大統領選民主党
候補のヒラリー・クリントン前国務長官(2016年9月21日撮影、資料写真)
この記事は、米国大統領選挙前の10月5日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくもとして、以下に一部分を引用します。

"
そうして、これがトランプ氏のあの暴言の謎を解く鍵になるかもしれません。アメリカの軍人は日本人の感覚からすると、かなり口が汚いです。特に新兵に対する訓練時の教育での教官は口が汚いです。

アメリカの軍人は口が汚い
たとえば、「フルメタルジャケット」という映画に出てくる、ハートマン先任軍曹の訓練兵に対する口のききかたは、以下のようなものです。

「口でクソたれる前と後に『サー』と言え! 分かったかウジ虫ども!」
Sir,Yes Sir!

「ふざけるな! 大だせ! タマ落としたか!」

Sir,Yes Sir
貴様らは厳しいを嫌う!だが憎めば、それだけ学ぶ!

は厳しいがだ!人種差別許さん黒豚ユダ、イタを、は見下さん!
すべて―
等に―     
―価値がない!
以下にフルメタルジャケットのハートマン先任軍曹の動画を掲載します


この軍曹の口のききかたからすれば、トランプの暴言など霞んでしまうほどです。私は、トランプ氏は、軍人や保守層に訴えるため、あのような暴言をはいたのだと思います。これは、軟なリベラル・左派には出来ない芸当です。あれこそ、軍人に受ける言葉遣いなのです。

トランプ氏は数々のいわゆる暴言で、アメリカの軍人や保守層に以下のようなメッセージを発信したのです。
「てめぇら、アメリカがリベラル・左翼に乗っ取られてもいいのか、俺は厳しいが公平だ!人種差別は許さん!黒豚、ユダ豚、イタ豚を、俺は見下さん!すべて―平等に―リベラル・左派に屈するようでは価値がない!」
無論、周到に計算した上で、場合によっては、ネガティブに受け取られないというリスクをおかしてまで、強力に訴えたのです。そうして、自分はリベラル・左派とは全く異なる保守派であることを強烈にアピールしたのです。
"

ハートマン軍曹は映画に出てくるキャラクターであり、現実のものではないので、本当は違うのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。以下に、アメリカの最近のブート・キャンプの初日の動画を掲載しておきます。


字幕が出ていないので、はっきりとはわかりませんが、これは実際の海兵隊の訓練ですが、当に指導教官の罵声がひっきりなしに飛び交い、ファッキン、ガッデームが頻繁に聞こえ、かなり汚い言葉の連続のようです。確かに、リアル・ハートマン軍曹です。

アメリカでは新兵訓練は叩き上げのベテラン下士官が担当します。たいていは実戦経験豊かな鬼軍曹が担当し、絶対に手を上げないかわりに、これでもかっ、というくらい屈辱的な罵詈雑言で罵倒が行われます。新兵はどんなに罵倒されても絶対服従です。

映画『愛と青春の旅立ち』では新兵がバスで基地に到着すると、L.ゴセットjr演ずる鬼軍曹の、次のようなシーンがありました。

鬼軍曹がある新兵に出身を尋ねた。

鬼軍曹 「貴様の出身はどこだ?」
新兵  「サー、オクラホマであります!」
鬼軍曹 「何、オクラホマだと?いいかよく聞け、オクラホマには牛とホモしかいない、
貴様は角がないからホモだなっwww」
新兵  「いいえ、違います、サッー」
鬼軍曹 「ホモでも牛でもなければ貴様は牛の糞だっ、いや糞以下だ、覚えとけwww」
新兵  「ノー、サー」

このシーンが含まれている動画を以下に掲載します。



実際にアメリカの軍隊の新兵訓練はこのようです。多民族移民国家で個人主義のアメリカの学校教育では、自分の考えを持ち、はっきりと意見を言い、議論することが大切だと教わります。

それにしても、なぜ米軍の新兵訓練でここまで凄まじい罵詈雑言を浴びせかけるかといえば、それはやはり、より緊密なコミュニケーション能力を身につけさせるためであると思われます。ここでいう、コミュニケーションとはいわゆる、どうでもいい「ノミニケーション」や、「ホウレンソウ」の次元のものではなく、真の意味でのコミュニケーションです。

多くの新兵は、頭では軍隊とはどういうものかという解ったつもりでいるのでしょうが、その実解ってはいません。

軍隊において兵士とはまずは、『戦闘マシーン』であり、まずは上位下達の縦社会で、規則と命令のみで動く機械にならなければならないのです。まず必要なことは命令を実行し、任務遂行の為のチームワークです。

兵士の任務はいろいろありますが、戦争は基本的に殺人が前提条件です。これはきれいごとでなく現実です。

兵士は軍隊の規則に従い、敵の殺害も含めてまずは命令されたことを場合によっては、命をかけても忠実に実行する『規格品』でなければならないのです。

このことを頭や理屈ではなく、体で覚えさせるため、このような罵詈雑言を浴びせかける訓練が行われているのです。

経営学の大家であるドラッカー氏は、コミュニケーションについて以下のように語っています。
「上司の言動、些細な言葉じり、癖や習慣までが、計算され意図されたものと受け取られる」(『エッセンシャル・マネジメント』) 
 階層ごとに、ものの見方があって当然である。さもなければ仕事は行なわれない。だが、階層ごとにものの見方があまりに違うため、同じことを話していても気づかないことや、逆に反対のことを話していながら、同じことを話していると錯覚することがあまりに多い。 
 コミュニケーションを成立させるのは受け手である。コミュニケーションの内容を発する者ではない。彼は発するだけである。聞く者がいなければコミュニケーションは成立しない。 
 ドラッカーは「大工と話すときは、大工の言葉を使え」とのソクラテスの言葉を引用する。コミュニケーションは受け手の言葉を使わなければ成立しない。受け手の経験に基づいた言葉を使わなければならない。 
 コミュニケーションを成立させるには受け手が何を見ているかを知らなければならない。その原因を知らなければならない。 
 人の心は期待していないものを知覚することに抵抗し、期待しているものを知覚できないことに抵抗する。 
「受け手が期待しているものを知ることなく、コミュニケーションを行うことはできない。期待を知って初めてその期待を利用できる。あるいはまた、受け手の期待を破壊し、予期せぬことが起こりつつあることを認めさせるためのショックの必要を知る」(『エッセンシャル・マネジメント』)
さて、海兵隊などに入った新兵は、海兵隊という軍隊についても、一般社会常識や、自分たちがそれまで属してきた人種、地域、職場、コミュニティーと同じような価値感や、尺度が通用すると無意識に考えているところがあります。新兵たちは、そうであることをまさに期待しているのです。

しかし、軍隊は場合によっては敵を殺害しなければならないこともあり、一般社会とは全く異なる理念や組織風土があります。新兵はまずは、これを理解しないと、自らも危険ですし、これに関わる人々を危険に陥れかねません。

新兵訓練にあたる教官は、これを新兵に 周知徹底させるために、新兵の期待を破壊し、新兵が予期せぬことが起こりつつあることを認めさせるためのショツクとして、このような罵詈雑言を用いているのです。

多民族国家ではない、単一民族で言葉も日本語だけで十分通じる日本の自衛隊などでは、新人に対してここまで罵詈雑言を浴びせかけなくても、コミュニケーションは成り立つので、十分自衛隊員を養成できるのでしょう。実際、日本の自衛隊は米軍との共同訓練を行っても、米軍が驚嘆するほどかなり良い成績を収めています。ただし、自衛隊でも罵詈雑言は浴びせかけないものの、何か間違ったことをしたり失敗したときには、その場で腕立て伏せをさせるというような罰則はあるようです。

以上のようなことを考えると「汚い言葉」を使う人にも、いろいろいて、本来の意味でのコミュニケーションを深めるために敢えて「汚い言葉」を使う人と、そうではなくてそれが習慣になっている人や病気の人もいるのだと思います。

病気と診断されるものして、汚言症があります。常に汚い言葉を発するのが特徴です。英語では、コプロラリア(Coprolalia)といいます。

社会に受け入れられないわいせつで卑猥な単語を言ってしまう人のことです。YouTube でCoprolaliaと検索すると患者さんの映像が映し出されます。特徴としては、性的なものを単語やフレーズにしてしまう場所や状況などお構いなしにです。

文章のつながりのないところで社会的に許されない場所で大声で言ってしまうため周囲から嫌われます。共通点は止めようと思っても止められない点です。

トゥレット症候群の重篤な多発性チックの症状である汚言症ですが、実際に、汚言症があらわれるのは、3分の1以下です。トゥレット症候群 と診断されたからといって汚言症というわけではありません。

また子どもがふざけて発することばや、わざと言っている場合コプロラリア(汚言症)とは呼びません。
丁寧な言葉では相手に本当の意味が伝わらないときがある
そうして、ブログ冒頭の記事で心理学者が発見した「口の悪い人ほど根が正直」というのは、無論「汚い言葉」を本来の意味でのコミュニケーションを深めるために敢えて意図して意識して使う人なのでしょう。そうして、敢えてこのようなことをしようとする人は、そうでない人と比較して正直者であるであろうことは、容易に納得がいきます。

無論、昨年物議を醸した「日本死ね」などという汚い言葉は、コミュニケーションを深めるためではなく、それこそ政治利用のために用いられたということですから、この言葉を用いた人は正直者ということはあてはまらないでしょう。

もしトランプ氏が、「汚い言葉」を単にリベラル・左派を攻撃するための政治利用のためだけに用いたとしたら今頃大統領にはなっていなかったでしょう。

周りの人とコミュニケーションなど取れなくても良いという人は、うわべではいつも慇懃に丁寧な言葉をつかいますが、その実腹の中では何を考えているのかわからないところがあります。

さて、トランプ氏は、大統領選のとき敢えて「汚い言葉」も有権者とコミュニケーションを深めるために用いたのだとと考えられます。

以前にも掲載したように、米国のマスコミの90%はリベラル・左派で占められていて、本当は米国にも全体の半分くらいは保守層が存在しているはずなのですが、それらの声はかき消され、リベラル・左派の考えが世の中の本筋であるかのように思う人が多いです。それは、今も基本的に変わっていません。

トランプ氏は、大統領選にあたって、まともなことをしていては、自分の味方になってくれる保守派の人々に自分の声や、自分の考えが届かずコミュニケーションを深めることもできないと考え、敢えて「汚い言葉」をつかったり、ポリティカル・コレクトネスなど無視したような話かたをしたのだと思います。

保守派の人々に対して、自分は今までの大統領候補者とは違うということを周知徹底するために、敢えて「汚い言葉」用いて、覚醒のためのショックを与えて、コミュニケーションを深めようとしたのです。

そうして、この試みは、トランプ氏が大統領選挙に勝利したということで、十分に報いられたのです。

もし、トランプ氏がオバマ氏のように"Yes, we can."のような生ぬるいメッセージを発したとしても、大統領選に勝つことはできなかったことでしょう。オバマの場合は、米国リベラル・左派が大挙してオバマを応援して、初の黒人大統領が誕生することを拒むような人は、人種差別主義者であるかのように思われてしまうような状況をつくりだしてしまったため、トランプ氏のようにコミュニケーションを深める必要性もなかったのでしょう。

もしトランプ氏が登場していなかったとしたら、アメリカのメディアは、大挙してクリントンを応援して、初の女性大統領が誕生することを拒むような人は、女性差別主義者であるかのよう思われてしまうかのような状況をつくりだし、クリントンが圧勝したことでしょう。

しかし、有権者とコミュニケーションを深めなくても、当選できたオバマ大統領は、当然のことながら、最初から良い仕事ができるわけもなく、実際オバマは及び腰外交で、在任中に米国の存在感を毀損してしまいました。

そうして、このことは私たちも肝に命じておかなければなりません。パワハラなどになることを恐れて、日々いつも丁寧な言葉を使い続け、本来コミュニケーションを深めなければならない人に対しても、苦言を呈したり、叱ったりするようなことができない人は、人の上に立つことはできません。

そのような人は、いつまでも一番最下位の職位に甘んじるべきです。企業なのどの組織の中で、今よりももっと大きな仕事をしようとか、進歩しようとか、向上しようとすれば、それを自分だけではなく、周りの人にも周知徹底しなければなりません。そんなときに、オバマのような生ぬるい言葉しか発することができなければ、何も成就できません。

組織の中でイノベーションをおこそうとか、周りの大事な人たちに少しでも良くなってもらいたいと思えば、場合によっては「汚い言葉」もつかう勇気も必要なのです。

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