2018年5月10日木曜日

トランプ氏、解放米国人を出迎え 米朝首脳会談を前に北朝鮮が解放―【私の論評】政府は憲法解釈を変えてでも拉致被害者を奪還せよ(゚д゚)!

トランプ氏、解放米国人を出迎え 米朝首脳会談を前に北朝鮮が解放


北朝鮮から解放された米国人3人が10日未明、米ワシントンのアンドリューズ空軍基地に到着した。ドナルド・トランプ米大統領は基地で3人を出迎えた。

トランプ氏は3人の基地到着を受け、「この本当に最高の人たちにとって特別な夜だ」と述べた。

ホワイトハウスは3人の解放が、予定されているトランプ氏と北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との首脳会談を前にした友好の意思表示だとしている。

トランプ氏は首脳会談の開催地が「3日以内に」発表されるだろうと述べた。

3人を乗せた米空軍機は、午後2時45分ごろ到着した。トランプ氏とメラニア夫人は機内に入り、数分後に3人の男性と共に姿を現し報道陣に手を振った。

トランプ氏は記者団を前に、金委員長が首脳会談前に3人を解放してくれたことを喜び、「正直言って、会談前に実現するとは思っていなかった」と明らかにした。

3人の解放が自分にとって最高に誇らしい業績かと聞かれると、「それは(朝鮮)半島の完全非核化だ」と答えた。

「(3人の解放実現は)素晴らしい名誉だ。しかし、本当の名誉は、核兵器をなくす勝利の実現だ」とトランプ氏は述べた。

トランプ氏はさらに、北朝鮮に旅行できるようになる日を期待すると話し、さらに金委員長が自分の国を「本当の世界」の一員にしたがっていると、自分は確信していると強調した。

解放されたキム・ハクソン氏、トニー・キム氏、キム・ドンチョル氏の3人は帰国に先立ち発表した声明で「米政府、トランプ大統領、(マイク・)ポンペオ米国務長官、そして我々を家へと連れ戻してくれた米国の人々に深い感謝を伝えたい」と述べた。

「神と、我々と我々の帰国を祈ってくれた全ての家族や友人に感謝する」

トランプ氏は9日、「北朝鮮から飛行機で帰国中のマイク・ポンペオ国務長官に、皆がとても会いたがっている素晴らしい紳士3人が同乗中だと報告できて嬉しい。元気なようだ。そして金正恩と良い会談だった。日取りと場所が決まった」とツイートし、3人の解放を明かしていた。



3人は反政府行為罪などで拘束され、労働収容所に勾留されていた。

解放はトランプ氏と金氏との会談の詳細を調整するためにポンペオ氏が平壌を訪問している最中に起きた。

トランプ氏は「金正恩の行動と3人の帰国を許してくれたことに感謝する」と話した。

左からキム・ハクソン氏、キム・ドンチョル氏、トニー・キム氏

解放された3人はポンペオ氏と共に、米空軍の飛行機で北朝鮮を離れた。4人は帰国途中、東京近郊の横田空軍基地で、より良い医療設備を備えた飛行機に乗り換えたという。

ポンペオ氏は「全ての数値は現在のところ、彼らの健康状態がありうる限り最高に良いと示している」と述べた。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)によると、金正恩氏は同氏が3人の拘束米国人の恩赦を求める米国の申し出を承認したとし、自身とトランプ大統領の会談が朝鮮半島の状況を前進させる「素晴らしい最初の一歩」になるだろうと述べたという。

拘束された3人のうち1人は2015年に労働収容所に収容され、残りの2人は1年余りを収容所で過ごした。3人に対する有罪判決は政治的なもので、人権侵害だと広く非難されている。

解放された3人は
  • キム・ハクソン氏は2017年5月、「敵対行為」の疑いで拘束された。同氏は自分をキリスト教伝道師だとし、平壌科学技術大学(PUST)で実験的な農場を始めようとしていると説明していた。
  • トニー・キム氏はキム・サンドクという名前でも知られ、キム・ハクソン氏と同じくPUSTで勤務していた。トニー・キム氏は2017年4月にスパイ容疑で拘束された。韓国メディアによると、同氏は北朝鮮の人道支援にかかわっていたという。
  • キム・ドンチョル氏は60代前半の牧師。2015年にスパイ容疑で拘束され、その後10年の重労働刑を言い渡されていた。

解放への反応は

韓国大統領府の青瓦台は米国人の解放を歓迎し、今後の交渉に「前向きな影響」があるだろうと述べた。

青瓦台の尹永燦(ユン・ヨンチャン)国民疎通首席秘書官はまた北朝鮮に対し、同様に拘束されている韓国人6人の解放も求めた。

尹氏は「韓国と北朝鮮の融和を促進し、朝鮮半島に平和を広めるため、拘束韓国人の速やかな送還を望む」と述べた。

トニー・キム氏の家族はBBCに提供された声明で、「彼の帰還に向けて取り組み、貢献してくれた全ての人々に感謝したい」と述べた。また家族は「北朝鮮と直接やり取りしたことについて、大統領にも感謝したい」と話した。

米国の外交責任者マイク・ポンペオ国務長官は、6週間で2回、北朝鮮の指導者である金正恩氏と会談

北朝鮮の強制収容所はどんな場所なのか

米国の人権団体「北朝鮮人権委員会」(HRNK)によると、北朝鮮では約12万人が適正な手続きなしに収監されていると考えられている。

韓国製DVD観賞から亡命未遂に至るまで、住民はあらゆる罪状で政府に拘束される恐れがあるという。

そのなかでも政治犯は、専用に収容所に送られることが多い。大抵は過酷な労働収容所で、鉱山採掘や木材伐採など厳しい肉体労働が課される。

米大学生だったオットー・ワームビア氏は、平壌での涙の告白会見から1年もせずに亡くなった

重労働罪を課されていた米国人宣教師のケネス・ベ氏は、悪い健康状態にもかかわらず牧場で週6日の労働を強制されたという。

一番最近解放された米国人、ホテルの政治宣伝ポスターを盗もうとした罪で拘束されていたオットー・ワームビア氏は、昨年解放されたが致命的な健康状態で、帰国後ほどなくして死亡した。

両親のフレッド・ワームビア氏とシンディ・ワームビア氏は、「解放された拘束者やその家族と共に喜んでいる。オットーが恋しい」と話した。

(英語記事 North Korea summit: Trump greets freed US detainees

【私の論評】政府は憲法解釈を変えてでも拉致被害者を奪還せよ(゚д゚)!

安倍首相は10日朝、アメリカのトランプ大統領と電話で会談し、北朝鮮からアメリカ人3人が解放されたことについて「大きな成果だ」と伝えました。 安倍首相「私からは、拘束されていた3名の米国人が解放されたことについて、大きな成果であるとお祝いを申し上げました。

この解放については北朝鮮の前向きな姿勢であり歓迎したい」 また、安倍首相は拉致問題について「日米韓、あるいは中国の協力も得て解決に全力を尽くしていきたい」と改めて強調しました。

さらに、トランプ大統領から、北朝鮮の金正恩委員長とアメリカのポンペオ国務長官との会談について、詳細な説明を受け、米朝首脳会談での対応についてすりあわせを行ったといいます。

 この中でトランプ大統領が「日米で緊密に連携していきたい。日本はビッグプレーヤーだ」と述べたのに対し、安倍首相は「日本の立場を共有していただいていることを感謝する」と応じました。


トランプ大統領が「日本はビッグプレイヤー」だと述べたのは、日本が米国と協同でかなりの圧力を北朝鮮にかけてきたこと、さらには安倍総理の北朝鮮と長期間にわたる交渉の経験による、トランプ大統領に対するアドバイスなどを評価したものと考えられます。

さて、米国人三人の救出と比較すると、日本の拉致被害者問題がいつまでも解決されないのが気にかかります。

拉致犯人はすでにわかっています。被害者が監禁されている国もわかっています。それなのになぜ取り戻せなかったのでしょうか。

その最大の原因として、日本には、その中でもとりわけ外務省には、国家の責任で国民を救出するという考え方自体がなかったからです。現在では事情は多少変化しているとはいえ、海外で被害に遭った国民に対しては、国家としての日本は無関心であり続ける構造になっています。

なぜそうなるかといえば、憲法前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」させられ、そしてそれをいつの間にか後生大事に抱えて現実を直視しなくなった戦後日本国民の意識が変わっていなかったからです。「平和を愛する諸国民」は自明な存在ではありません。

拉致被害者問題が明らかになったり、5人の被害者が日本に戻ってきた時あたりまでは、この国民の意識がほとんど変わっていませんでした。当時の政府の中には、北朝鮮は日本人を一時帰国させたという考え方なので、5人の被害者を北朝鮮に返そうと考えた人もいたというのですから、驚きです。これでは、日本という国は国家の意思もないといわれても、仕方ないような状況でした。

結局、安倍氏の判断で5人は政府の意思で日本に残すと発表したのですが、当時の日本は明らかに異常でした。

横田めぐみさん
 
国際社会では当り前の「国家」という言葉さえ使えない風潮の中で、政府は非常に注意深く、タブー視されていることや言葉には、触れないできたのです。日本全体の価値観が信じ難い程、おかしくなっていたのです。国家の意思、或いは責任について語ること自体が現行憲法下ではあってはならない事柄だという国に、日本はなってしまっていたのです。であれば、外務省も当然、国民を守るために動くことなどしてはならないと考えるわけです。

しかし、現在では帰国した拉致被害者を北朝鮮に返せなどといえば、そのようなことを言い出した人は袋叩きにあうのは確実です。国民の意識も最近はかわりつつあり、この国のあり方も変わってきています。それに、世界には日本のように平和をうたう憲法典を持っている国で、軍隊を持ち自衛戦争を認めている国々もあります。

そうして、この憲法の前文だとて、決して金科玉条ではなく解釈など変えられるはずです。平和を愛する諸国民に対しては、公正と信義に信頼するのは当然です。しかし、北朝鮮の諸国民とくにその中でも支配層の公正と信義は信頼できず、わられの安全と生存を保持しようと決意などできないです。よって、この前文は平和を愛する諸国民に対するものであり、そうではない国に対してはあてはまらないという解釈も十分成り立つと思います。

そうして、内閣法制局も1960年代のはじめころまでは、憲法解釈を何度も変えていました。日本の憲法典は決して、金科玉条ではないのです。

であれば、今回は拉致被害者奪還の最後のチャンスであるとも思われますので、政府としてはギリギリの選択を迫られた場合には、憲法解釈を変えてでも拉致被害者を奪還して欲しいです。米国が三人の米国市民を奪還できた背景には、米軍の強大な軍事力があったことを忘れるべきではありません。

そうして、政府は憲法解釈の変更後に、解散総選挙を実施し国民の信を問えば良いと思います。それで、与党側が負けるような国であれば、国民が馬鹿だということです。それは、それで仕方ないです。しかし、私自身は日本国民はそれほど馬鹿ではないと思います。そのくらいのことをしてでも、今回は、拉致被害者を奪還すべきと私は思います。

そうして、我が国は新たに拉致被害者が出た場合には、自衛隊を派遣してでも自国民を救出できる当たり前の国になるべきです。

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2018年5月9日水曜日

トランプ大統領、イラン核合意からの離脱を発表 欧州説得実らず―【私の論評】米のイラン核合意からの離脱の発表で、正念場を迎えた金正恩(゚д゚)!


核合意離脱を発表するトランプ大統領(ホワイトハウス、8日)

ドナルド・トランプ米大統領は8日、オバマ前政権が締結したイラクとの核合意から離脱すると発表した。合意は「衰えて腐って」おり、「市民」として「恥ずかしいものだ」と語った。

2015年に米国と共にこの合意を結んだ欧州各国からの忠告に反し、トランプ大統領は合意の見返りとして解除していた経済制裁を再び実行すると明らかにした。

これに対してイランは、ウラン濃縮再開に向けて準備を始めていると明らかにした。濃縮ウランは原子力発電だけでなく、核兵器開発の要となり得る。

イランのハッサン・ロウハニ大統領は、「米国は約束を守らないつもりだとを明らかにした」と批判した。

「イラン原子力機構(AEO)に対して、必要となれば工業水準のウラン濃縮を無制限で再開できるように、待機するよう命じた」と大統領は明らかにした。

ただし、まずは他の締結国や同盟国と核合意について話すため、「数週間待つ」としている。

「もし他の締結国との協力で核合意の目的が達成されるなら、現状を維持する」


ロウハニ大統領は「イラン核合意離脱なら米国は後悔する」と警告していた

包括的共同作業計画(JCPOA)と呼ばれるこの合意は、イランが核計画を制限することと引き換えに、国連と米国、欧州連合(EU)が同国に科していた経済制裁の解除を定めた。

トランプ氏はかねてから、この合意がイランの核計画を期限付きでしか制限しないことや、弾道ミサイル開発を制止しないを批判してきた。さらに合意によって、中東地域全体に「武器と恐怖と抑圧」をもたらすために使われた1000億ドルの臨時収入を、イランに与えてしまったなどと非難してきた。

「この衰えて腐った合意内容では、イランの核兵器を阻止できないことは自明だ」とトランプ氏は説明した。

「イランとの合意は根本から不完全だ」

核合意を結んだバラク・オバマ前大統領は、トランプ氏の発表を「不見識」と表現した。

経済制裁はいつ始まるのか

米財務省は、イランへの経済制裁はすぐには再開されないものの、90~180日ほどかかるとしている。

ウェブサイトに掲載された声明によると、制裁は2015年の合意に示された業界で再開される予定で、イランの石油産業、航空機輸出、レアメタル貿易、そしてイラン政府の米ドル獲得政策が含まれる。

ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、イランと取引関係のある欧州企も6カ月以内に取引を停止しなければ、米国の制裁を受けることになると述べたという。

世界各国の反応は?

核合意締結国のフランスとドイツ、英国の各首脳は、これまでトランプ氏を説得しようとしてきたが、今回の決定を受けて遺憾の意を表している。同じく締結国のロシアの外務省も、「深く失望した」と述べている。

EUのフェデリカ・モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表は、EUはこの合意を「断固として維持する」と語った。

オバマ前大統領はフェイスブックに、核合意は現在も機能しており、米国の国益にかなっていると投稿した。

「JCPOA離脱は、米国に最も近しい同盟国と、この国の一流の外交官、科学者、そして情報専門家たちがまとめた協定に背を向けることだ」

「対北朝鮮外交を成功させるために全力を尽くしているこの時にJCPOAから離脱することで、まさに北朝鮮と共に目指す結果実現につながる合意に至れない恐れがある」

アントニオ・グテーレス国連事務総長は米国の発表を受けて「深刻な懸念」を表明し、他の締結国に責務を全うするよう求めた。

一方、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は、トランプ氏が「悲惨な」合意から「思い切って」離脱したことを「全面的に支援する」と述べた。

イランのライバル国サウジアラビアもトランプ大統領の決定を「支援し、歓迎する」としている。

核合意の内容は?

ウラン濃縮作業が行われたイラン・イスファハンの施設(2005年3月30日撮影)

JCPOAはイランと国連安全保障常任理事国の米国、英国、フランス、中国、ロシアにドイツを加えた6カ国で結ばれた。

合意ではイランに対し、核燃料や核兵器に使用される濃縮ウランの在庫を15年間、10年間ウラン濃縮に使われる遠心分離機の設置台数を10年間、それぞれ制限することを定めた。

また、核爆弾に使用できるプルトニウムの製造ができないよう、重水設備を変えることでも合意。見返りとして、イラン経済を苦しめていた国連と米国、EUによる経済制裁が解除された。

イランは同国の核計画が完全に平和的なもので、核合意での取り決めを守っているかどうかも、国際原子力機関(IAEA)によって確認されていると主張している。

<分析>衝突軌道へ――ジョナサン・マーカスBBC防衛・外交編集委員

イランの核兵器開発抑止を目指す唯一の合意を、ドナルド・トランプ米大統領はあっさりと危機にさらした。合意の善し悪しは別にしても。

大統領は核合意とその欠点について容赦ない批判を浴びせた。しかし、代案は示さず、最も緊密な同盟関係にある国々と米国の外交政策を対立させる道を選んだ。

さらに一部では、中東が破滅的な地域戦争に陥る危険性を大幅に高めたと懸念されている。

(英語記事 Trump pulls US out of Iran deal

【私の論評】トランプ大統領のイラン核合意からの離脱の発表で、正念場を迎えた金正恩(゚д゚)!

昨日このブログで予測したとおり、やはりトランプ大統領はイラン核合意からの離脱を発表しました。

昨日の記事を読んでいない方のために、以下にリンクを掲載します。
イラン核合意問題 専門家はこう見る―【私の論評】トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用している(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分のみ以下に引用します。
私は、今回はトランプ氏が「合意から離脱」を発表をすると見ています。そうして、本当にそうするかどうかはわかりませんが、いずれイランへの武力行使の可能性もちらつかせると思います。そうして金正恩を極限まで追い詰めて、米朝会談をかなり有利にすすめるか、金正恩が会談をキャンセルするように仕向け、米軍が武力攻撃をしやすい状況にもっていくものと考えます。 
トランプ氏は元々は実業家です。実業家の場合、常に使える資源は限られていることを自覚しています。だから、優先順位をつけます。現在優先度が一番高いのは、北朝鮮です。優先順位をはっきりつけることと、定めた目標に対しては活用できるものは何でも活用するというのが、優れた実業家の真骨頂です。そうして、本当は米国でさえも、使える資源は限られています。 
イラクの問題と北朝鮮の問題に関して、どちらを優先するかということを考えれば、北朝鮮に軍配があがるのは当然のことです。 
イラン問題は多少複雑になったり、解決が長引いたにしても、イランが北朝鮮のように核ミサイルを米国に発射することはできません。11月の選挙の中間選挙のことを考えても、多少イラン問題が複雑化しようとも、北朝鮮問題の決着への見通しをこのあたりまでにはっきりと、国民に示したいというトランプ氏のしたたかな思惑が透けて見えます。 
これは、政治の専門家や、中東の専門家などにはかえって見えにくい局面だと思います。 
私は、トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用していると考えるのが妥当な見方であると考えます。
このような見方は、日本のメディアは無論のこと、欧米のメディアでもないようです。しかし、私はこの見方に関してある事実を知った後で、さらに確信を深めました。

それは、以下のような事実です。

トランプ大統領は8日に欧米など6カ国とイランが結んだ核合意からの離脱をホワイトハウスで発表した際、ポンペオ長官の4月訪朝に触れ、「北朝鮮と良い関係が構築されつつある」と語っています。

ポンペオ長官は4月に金委員長と会談したことで「良い関係」が生まれたと語った

トランプ大統領は米朝首脳会談について、「会談の予定は決まった。場所も選んである。日にちや時間、全部決まった」と述べました。

トランプ氏はさらに、「結局どうなるのか、見てみよう。うまくいかないかもしれない。しかし北朝鮮や韓国、世界全体にとって素晴らしいものになる可能性がある」と語りました。

トランプ大統領は3月に、北朝鮮からの首脳会談の提案を受け入れると表明し、国際社会に大きな衝撃が広がりました。米国の現職大統領が北朝鮮の最高指導者と会談したことは過去にありません。

トランプ氏は、首脳会談が6月初旬あるいは「それより少し早く」開かれるとし、いくつかの場所が検討されているが米国内ではないと述べていた。

8日には、金委員長が再び中国を訪問し、習近平国家主席と会談したことが明らかになっています。中国のメディアは、金委員長が、朝鮮半島の非核化を実現するため「段階的で同時進行的な」措置を望む、と語ったと報じました。

このポンペオ米国務長官は9日、再び北朝鮮の平壌に到着しました。北朝鮮の核問題をめぐる米朝首脳会談に備え、調整を行います。聯合ニュース(Yonhap News)は韓国の当局者の話として、北朝鮮で拘束されている米国人3人が解放され、ポンペオ氏と共に帰国するとの見通しを伝えました。

ポンペオ氏の平壌入りは同行している代表取材団が明らかにしました。現在は協議を行う柳京ホテル(Ryugyong Hotel)」に滞在しています。

聯合ニュースによると、韓国大統領府の関係者は、ポンペオ氏が「米朝首脳会談の日時を持ち帰るほか、拘束されている人たちを連れて帰るとみている」と語ったそうです。

ポンペオ氏は今月か来月に予定される米朝首脳会談の準備に当たっているほか、北朝鮮側に対し、拘束している米国人3人を解放するよう圧力をかけてきました。


私は4月ポンペオ・金正恩の会談の段階では、イランの原子力開発などを引き合いに出して、段階的で同時進行的な非核化を望んていたのでしょうが、おそらくポンペオ氏は、金正恩に対して米国はイラン核合意からの離脱する旨を伝えて、金正恩の段階的・同時進行的な非核化を断念し、あくまでもリビア方式で完璧に速やかに破棄するように迫ったのだと考えられます。

その後金正恩はすみやかに習近平と会談しています。8日も大連で会談しています。もし、北朝鮮が核を放棄した場合に備えて、北朝鮮が中国の核の傘の下に入ることなどを相談したものと思われます。それとともに、米朝会談が決裂した場合に備えて、制裁が強化された場合の中国が制裁を破る可能性についても、話しいをしたことでしょう。

いよいよ、北朝鮮は米朝会談で、リビア方式の核と核関連施設を完璧に破棄するか、米朝会談で決裂するか、そもそも米朝会談をキャンセルしかなくなりました。

米朝会談が決裂したり、キャンセルすれば、米の制裁はさらにきつくなり、その後に軍事力の行使ということにもなりかねません。

まさに、金正恩とっては正念場です。少しでも対応を間違えれば、米軍に斬首されかねません。

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2018年5月8日火曜日

イラン核合意問題 専門家はこう見る―【私の論評】トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用している(゚д゚)!

イラン核合意問題 専門家はこう見る


アメリカのトランプ大統領が、イラン核合意についての判断を日本時間の9日発表することについて、日本とサウジアラビアの専門家に聞きました。

トランプ政権の悪あがき イランはNPT離脱も

イラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授は、中東のレバノンでの総選挙で、イランの支援を受けるイスラム教シーア派組織、ヒズボラの陣営が躍進したことなどが背景にあるとしたうえで、「イランの影響力が地域に広がるのを止めることに躍起になっているトランプ政権の悪あがきではないか」と分析しています。

そのうえで、「イランの核合意から離脱か、破棄するという内容になると思う」と述べ、合意から離脱すると発表する可能性が高いという見方を示しました。

また、アメリカが核合意から離脱した場合、「イラン側の責任ある立場の人から、核合意を履行することと、イランがNPT=核拡散防止条約にとどまることを条件付ける発言が出てきた。かつての北朝鮮と同じようにNPT離脱というカードを振りかざしてくる可能性がある」と述べ、イランが、強硬路線に踏み切る可能性もあると指摘しました。

そのうえで、「IAEA=国際原子力機関が、現在、世界で最も厳しい査察態勢のもとで、イランを監視しているが、これがなくなるため、イラン国内で何が行われているのか一切情報が見えなくなり、核兵器を開発しているとの疑いが生まれてしまう。こうした状態をイスラエルやサウジアラビア、それに、アメリカやヨーロッパが放置するとは考えにくく、イランの核施設に対する限定的な軍事攻撃か、イランの現体制を崩壊させるために、大規模な軍事介入をする可能性もある」との見方を示しました。

合意の見直しは不可欠 一層混乱が深まるおそれも

ムハンマド・スラミ博士

中東のアラブ諸国の盟主を自認するサウジアラビアは、おととしからイランと国交を断絶したほか、イランが内戦が続くイエメンの反体制派を支援するなどして、地域を不安定化させていると激しく非難し、アメリカのトランプ政権にイランへの包囲網を強めるよう働きかけてきました。

サウジアラビアのイラン研究機関の代表を務めるムハンマド・スラミ博士は、NHKのインタビューに対し、「核合意はイランの核兵器開発の阻止につながったが、包括的ではなかった。重要なのはイランのアラブ諸国に対する内政干渉をやめさせることを、核合意に含めることだ」と述べ、サウジアラビアにとって合意の見直しは、不可欠だとの立場を強調しました。

一方、「サウジアラビアは、直接戦争を望んでいない。ただ、イスラエルやアメリカがイランの支援を受けた中東各地の民兵を攻撃する可能性はある」と分析し、イランが影響力を拡大するシリアなどで、軍事的緊張が高まり、一層混乱が深まるおそれがあると指摘しました。

また、イランとの経済取引について、「もし湾岸諸国とビジネスの継続を望むならば、イランとビジネスをするべきでない。ビジネスの継続は、イランのネガティブな行動を支援していることにほかならないからだ」と警告しました。

【私の論評】トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用している(゚д゚)!

上記のニュース、イランの核問題について知らないと理解できないと思いますので、まずはそれについて掲載しておきます。

イランの核開発問題(イランのかくかいはつもんだい)とは、イランが自国の核関連施設で高濃縮ウランの製造を企画していた、またはしている、という疑惑がかけられている問題のこと。

イランは医療用アイソトープの生産を行うテヘラン原子炉の稼働のため、20%高濃縮ウランの自国製造を進めています。通常の原子力発電では低濃縮ウランで十分であり、高濃縮ウランを用いるのは原子爆弾の製造を狙っているからではないか、とアメリカなどから疑いをかけられました。

ただし原子爆弾には90%以上の高濃縮ウランが必要であるため、意見が分かれました。イランは自ら加盟する核不拡散条約(NPT)の正当な権利を行使しているのであり、核兵器は作らないと主張した。当時の第6代イラン大統領マフムード・アフマディーネジャードは『Newsweek』2009年10月7日号の取材に対して「核爆弾は持ってはならないものだ。」と否定する発言をしています。

これに対し核保有国アメリカは、イランの主張に疑念を持ち、核兵器保有に向けての高濃縮ウランであると主張して、国際的にイランを孤立化させようとする政策を取ってました。これらには政治的思惑が見え隠れしており、疑惑段階でイランに経済制裁をとる一方で、既に核兵器を保有しているパキスタンやインドなどにはイランのようなボイコット(制裁)を行いませんでした。

イランの政権は、2013年の大統領選挙によって、憲法規定による任期で退任したアフマディーネジャードからハサン・ロウハーニーに交代しました。

2015年にイランは米英仏独中露6か国協議「P5プラス1」との間で、核開発施設の縮小や条件付き軍事施設査察などの履行を含む最終合意を締結し、核兵器の保有に必要な核物質の製造・蓄積を制限することとなりました。

2016年1月16日、国際原子力機関(IAEA)はイランが核濃縮に必要な遠心分離器などを大幅に削減したことを確認したと発表。これを受けてイランとP5プラス1は同日、合意の履行を宣言し、米欧諸国はイランに対する経済制裁を解除する手続きに入りました。

国連常任理事国であり核保有国である5カ国に加えドイツがメンバーとなっている背景には、ドイツとイランの密接な経済的結びつき―とりわけ原子力分野における―があります。イランの核開発はかなりの程度ドイツの原子力技術に依存しており、シーメンスを始めとするドイツの主要企業がイランとの深いつながりを持っています。

バラク・オバマ前大統領時代の2015年に締結されたこの合意は、イランが核開発を制限するのと引き換えに、欧米諸国がイランに対する経済制裁を解除するという「包括的共同作業計画」です。

これに伴いアメリカでは国内手続きとして、イランの合意遵守状況に基づき、大統領が制裁解除を維持するかどうかを定期的に判断することになっています。今度の期限は5月12日です。

トランプは選挙戦のときから、イランとの核合意はアメリカが締結した「最も愚かな」合意の1つだとして、その「解体」を約束してきました。それでもジェームズ・マティス国防長官ら閣僚に説得されて、これまでは離脱を思いとどまってきたようです。

トランプ米大統領は7日、P5プラス1とイランの核合意に関し、「8日午後2時(日本時間9日午前3時)に私の決定を発表する」とツイッターに書いており、おそらく合意から離脱すると発表すると考えられています。

トランプ大統領のこの動きは北朝鮮問題とも関係があるものと考えられます。北朝鮮がイランのように原子力分野の開発を継続し、潜在的な核の脅威を温存することを事前に防止するための措置ではないかと考えられます。

実際、これに対応したものかどうかはわかりませんが、中国国営メディアは8日、北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が7日から8日まで遼寧省大連を訪問し、習近平国家主席と会談したと報じました。金氏の訪中が確認されたのは3月下旬以来、2回目です。つい最近会ったばかなのに、これは何か新しい動きに対応していると考えられます。

金正恩としては、トランプ氏のこの動きを察知して、これに対応するために習近平と対応を協議するために面談したということも十分考えられます。

中国国営通信 新華社が8日に配信した、中国遼寧省大連で会談する習近平主席(右)と金正恩委員長

金正恩としては、核のリビア方式による完全廃棄は何とか避けたい、最低でもイランのように原子力分野の開発を継続し、いつでも核兵器を開発できる体制を整えたいと目論んでいたのでしょうが、それも封じられる可能性がでてきたわけです。

イラン産石油の最大の「お得意様」は中国です。金正恩としては、その中国が輸入量を減らす可能性は低いとみて。中国がイラン制裁に踏み切るかどうか探りにでたものと考えられます。

12年にアメリカとEUが対イラン経済・金融制裁を強化したとき、国際市場におけるイランの石油販売量は半減しました。そしてこのことが、イランを交渉のテーブルに引き戻す重要な役割を果たしました。

しかし、今度の制裁に中国が参加しなければ、前回ほどの経済的打撃をイランに与えることはできません。そうなればイランを交渉のテーブルに引き戻すことは難しいし、ましてや、より厳しい条件の「新合意」を結ぶことなど不可能です。

そうして、イランが交渉のテーブルにつかなければ、北朝鮮にとっては有利になります。金正恩は、米朝会談で比較的優位に交渉をすすめられることにもなります。しかし、もし米国がイランに軍事攻撃という事態にでもなれば、金正恩は嫌がおうでも、リビア方式以外に生き残る道はないことになります。


いずれにしても、今回のイラン核合意問題の趨勢が米朝会談にも大きな影響を及ぼすことになりそうです。

私は、今回はトランプ氏が「合意から離脱」を発表をすると見ています。そうして、本当にそうするかどうかはわかりませんが、いずれイランへの武力行使の可能性もちらつかせると思います。そうして金正恩を極限まで追い詰めて、米朝会談をかなり有利にすすめるか、金正恩が会談をキャンセルするように仕向け、米軍が武力攻撃をしやすい状況にもっていくものと考えます。

トランプ氏は元々は実業家です。実業家の場合、常に使える資源は限られていることを自覚しています。だから、優先順位をつけます。現在優先度が一番高いのは、北朝鮮です。優先順位をはっきりつけることと、定めた目標に対しては活用できるものは何でも活用するというのが、優れた実業家の真骨頂です。そうして、本当は米国でさえも、使える資源は限られています。

イラクの問題と北朝鮮の問題に関して、どちらを優先するかということを考えれば、北朝鮮に軍配があがるのは当然のことです。

イラン問題は多少複雑になったり、解決が長引いたにしても、イランが北朝鮮のように核ミサイルを米国に発射することはできません。11月の選挙の中間選挙のことを考えても、多少イラン問題が複雑化しようとも、北朝鮮問題の決着への見通しをこのあたりまでにはっきりと、国民に示したいというトランプ氏のしたたかな思惑が透けて見えます。

これは、政治の専門家や、中東の専門家などにはかえって見えにくい局面だと思います。

私は、トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用していると考えるのが妥当な見方であると考えます。

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2018年5月7日月曜日

高橋洋一 日本の解き方 物価目標2%は実現できる 黒田日銀の壁は消費再増税、財政出動で景気過熱が必要だ―【私の論評】次の総理はやはり安倍晋三氏しか考えられない(゚д゚)!


2期目に入った日銀の黒田東彦総裁

 日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁体制は2期目がスタートした。今度こそ2%のインフレ目標(物価目標)達成はできるのか。2014年4月の消費税率8%への引き上げは悪影響をもたらしたが、19年10月に予定されている10%への再増税はその二の舞いにならないのか。

金融政策の基本は、インフレ率を設定した目標(現在は2%)に、失業率をこれ以上は下がらない水準のNAIRU(インフレを加速しない失業率。筆者は2%代半ばと推計)にコントロールするというものだ。

インフレ率について、消費者物価指数(総合)は黒田日銀スタート時の13年4月は▲0・7%だったが、18年2月には1・5%にまでなった。目標の2%まで2・7ポイント改善すべきところが直近では2・2ポイント。これは100点満点で80点と評価できる。

失業率についてみると、13年4月は4・1%だったが、18年2月には2・5%まで改善した。目標2・5%を達成できたので100点である。インフレ率と失業率を合わせてみれば90点といえる。これは、間違いなく及第点である。

もちろん、インフレ率については、生鮮食品を除く指数が1・0%、生鮮食品及びエネルギーを除く指数は0・5%にとどまっており、まだインフレは弱いと見ることもできる。

失業率も一時的に良くなっている可能性を否定できず、もう少し様子を見るべきだとも思える。

統計として、良い数字であることは事実だが、問題は引き続き及第点が取れるかどうかである。個別価格の変動がなければ、消費者物価は総合指数に収束していく。失業率がNAIRU、インフレ率がインフレ目標になると、おのずとそうなる。そこでポイントはNAIRUがいくらかということになる。

日銀は、正式にはNAIRUについて言及していない。物価リポートでは、構造失業率という言葉を使っている。かつては、NAIRUと構造失業率の関係を聞くと、口頭では似たようなものと答えていたが、今や物価リポートでは「違う」と明確に否定している。それでは、NAIRUはいくらと思っているかと聞くと、答えない。

これは、世界の中央銀行から見れば奇妙なことだ。筆者のように、2%台半ばといえば、一応2・5%くらい、統計の誤差を考えると2・3%でもおかしくないとなるが、答えないのは、中央銀行としての説明責任を果たしていないだろう。少なくとも、物価リポートで公表している「構造失業率が3%台」というのは、ミスリーディングである。

インフレ目標2%はこのままなら達成できるだろう。問題は消費増税が予定されている19年10月までに、失業率がNAIRUとなり、インフレ率がインフレ目標を超えるくらいの過熱状態になっているかどうかだ。

過熱していれば、消費増税が冷やし玉になるかもしれない。過熱していなければ、インフレ目標の達成は遠のくだろう。過熱するかどうかは、今後の財政政策次第である。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】次の総理はやはり安倍晋三氏しか考えられない(゚д゚)!

NAIRUとインフレ目標、失業率の関係は、以下のようになっています。インフレ目標の数値、NAIRUの数値は高橋洋一氏が計算したものです。


この関係がはっきり頭に入っていれば、ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事を良く理解できるでしょうし、そもそも金融政策や財政政策がその時々でどうあるべきかなどもはっきりと理解できるでしょう。これを知っていれば、金融政策や財政政策に関して、かなり理解が深まります。知らなかった人是非この際、頭の中に入れて、ことあるごとに利用すると良いと思います。

上の記事で、インフレ率、失業率に関しては、現状の日銀は90点であり、及第点であるとしています。私もそう思います。

しかし、このグラフが頭に入っていないと、高橋洋一氏の言うように、日銀が今のまま量的緩和の姿勢を崩さない限り、インフレ目標2%はこのまま日銀が量的緩和を継続するならいずれ達成できるであろうことも、消費増税が予定されている19年10月までに、失業率がNAIRUとなり、インフレ率がインフレ目標を超えるくらいの過熱状態になっているかどうかが大問題であるということなど理も解できないです。

そうして、インフレ率が完璧に2%を完璧に超える状態になれば、消費税の増税をしても問題はないことや、そのような状態にもっていくのは、今後の財政政策次第であることも理解できないでしょう。

まずは、これが頭に入っている前提で、以下に金融政策と財政政策の違いなど掲載します。これは、経済政策のラグ(ズレ、タイムラグ)を理解するとその違いがより鮮明になります。

経済政策には以下のようラグがあります。

1)内部ラグ
経済情勢の把握から経済政策の実行迄
1-1)認知ラグ
経済現象を認知する迄
1-2)決定ラグ
政策当局が経済情勢を判断し経済政策の発動の決定を行う迄
1-3)実行ラグ
決定した政策を実行に移す迄
2)外部ラグ
 政策実行から経済に効果が生じる迄

金融政策は決定ラグ、実行ラグが財政政策に比べて短く、外部ラグが長くなります。これは、日銀の9人が金融政策決定会合(時には緊急開催もあり)で、即座に決定、実行することができます。過半数の5票を取ることが出来れば良いので、追加緩和が必要であれば、その政策提案に5人の賛成で決定・実行できます。

財政政策は、与党内の調整や国会での議論などを通じて法制化しないと実行できず、決定から実行までに時間がかかります。安倍晋三総理が消費増税延期のために(修正法案提出・可決に必須ではない)衆院解散したことを見ても、財政政策の決定から実行に時間とコストがかかることが分かります。

外部ラグですが、財政政策はどの部分にいくら、と直接的にお金を使うため効果が早く出ますが、金融政策は様々な波及経路を通じて経済に効果を及ぼすため、半年〜1,2年程度のラグがあります。


以上のようなラグがあるからこそ、金融政策と財政政策をうまく組み合わせる必要があるのです。世の中には、財政政策と金融政策を比較してどちらが良いとか悪いとか語る人もいますが、医療の分野では同じ病気を治療するにしても、患者のその時々の状況にあわせて、複数の薬を使い分けるのが普通です。金融政策と財政政策も同じようなものであり、どちらか一方というのでは、経済を速やかに立て直すことはできません。

これには、世界恐慌のときに当時の大蔵大臣であった、高橋是清が財政政策と金融政策を組み合わせて世界で一番はやく恐慌から脱出したという事例があります。世界恐慌の原因は、長らく明らかにされてきませんでしたが、1990年代の研究でその原因はデフレであったことが解明されています。

昭和恐慌からの早期の脱出をみると、デフレ脱却には金融政策が有効であることが実証されました、特に昭和恐慌のような深刻な不況においては財政政策と金融政策のポリシーミックスが有効であることが明らかになりました。

そしてこれらの政策により人々の期待を上向きに変えることが必要であるということです。高橋是清の経済政策はまさにこれを狙ったものでした。

高橋是清

現代日本において「デフレは構造問題」「資金需要がない中で日銀がいくら資金供給しても無駄」というかつての「日銀理論」から、「デフレは日本銀行の責任で解決する問題」で、「断固としてデフレに立ち向かう」という能動的なレジームへの転換を意味するのです。

そしてこの転換こそが、日本に先駆けてリーマンショック時の金融危機において実際に各国が行ってきたことなのです。

山崎元氏が、日銀について以下のようなTweetをしていました。


山崎元氏は「人々の期待を上向きに変える」というのを恋愛にたとえたわけです。そうして、私は同僚の助けということで、財務省の積極財政も必要としたのです。

金融政策と財政政策は対立するものではなく、それぞれの特徴(政策決定に関わる人数やプロセスの多寡、ラグなど)を考慮して、適切な政策割り当てが必要なのです。

いずれにせよ、現状では日本がデフレから完璧に脱却して、緩やかなインフレにもっていくためには、金融政策だけでも何とかなるかもしれませんが、それでは時間がかかりすぎるし、2%のインフレ目標を達してもいないうちに、10%増税などしてしまえば、2%の達成はかなり先に伸びてしまうのは明らかです。

そうして、速やかに2%を達成するためには、財政出動が必要不可欠なのです。というより、10%増税を実行するのであれば、今こそ大規模な財政出動をし経済を加熱させておかないと、また個人消費が落ち込み、デフレになり、2%のインフレ目標はまた先延ばしになってしまいます。増税を先延ばしするなら、金融政策だけでも何とかインフレ目標が達成できるかもしれません。このいずれかの選択肢しかないということです。

これを理解しているのは、政治家では安倍総理とその側近だけです。後は、誰も理解していません。マスコミも理解していません。財務省の官僚は知らないふりをしているだけです。この状況だと、やはり現状ではポスト安倍は安倍総理しかないという結論になります。

【私の論評】

米国インサイド情報紙が「安倍3選は確実」と分析した理由―【私の論評】東京新聞ですら安倍氏3選確実と予想する自民総裁選の行方(゚д゚)!

2018年5月6日日曜日

米国インサイド情報紙が「安倍3選は確実」と分析した理由―【私の論評】東京新聞ですら安倍氏3選確実と予想する自民総裁選の行方(゚д゚)!

米国インサイド情報紙が「安倍3選は確実」と分析した理由

中東歴訪中の安倍総理

米財務省最高幹部が示した「あるコピー」

安倍晋三首相は5月3日午後、中東歴訪(アラブ首長国連邦=UAE、ヨルダン、イスラエル、パレスチナ自治区の4ヵ国・地域)を終えて、帰国した。

いよいよ大型連休明けの7日から政局が本格化する。そうした中、筆者は連休中に会食した財務省の最高幹部から米国のニューズレター「OBSERVATORY VIEW」(4月26日号)のコピーを頂いた。

同紙を発行するOBSERVATORY GROUP社は金融・財政政策、米議会の動きなど、マクロ経済に与える政治経済動向をモニターし、債券、為替、株式市場に参加する機関投資家を対象に、市場価格に影響を与える可能性がある政策決定や政治情勢に関する分析・情報を事前に提供する。

ニューヨークの本社、首都ワシントン、スペインのビスケー湾に臨むビルバオ、インドの首都ニューデリー、中国の首都北京、そして東京にもオフィスを置く。

同紙は月3~4回、場合によっては週2回発行される。4月26日号はA4版13頁、その内容は「欧州中央銀行(ECB)の会合ポストビュー」と「日本政治―更なる疑惑の影響は?」であった。

興味深く読んだのは、「日本政治」のなかにあった以下の件である。

<安倍総理を引き摺り下ろすことを望む勢力が大声で騒ぎたてているにも拘わらず、最新の世論調査によると、安倍内閣の支持率は30%台前中半でそれなりのフロアを形成しているようだ。この水準だと、9月の総裁選でチャレンジャーが安倍総理に勝利するシナリオを描くのは難しい。我々の使う支持率は11の主要メディアの毎月の世論調査結果の平均値である。NHK、大手新聞5社(朝日、産経、日経、毎日、読売)、大手通信社2社(共同、時事)、民放3社(日本テレビ、TBS、テレビ朝日)の11社だ>

「世論はメディアと逆に動いている」と指摘

上記は、新聞記事でいう「リード」である。

そのリードに続いて、分析のポイントが3点記述され、補足のファクトが3点記されている。ポイント(1)は、こうだ。

<安倍内閣の支持率は4月、(財務省文書改竄問題発覚後の)3月中旬対比でみると、僅かだが上昇している。3月全体で見た支持率平均は39.2%だが、文書改竄問題後に実施された世論調査を平均すると、34.6%に下落している。これまで我々は改竄問題への有権者の反応を把握するため、34.6%の数字を使ってきたが、4月になると、支持率は35.3%に僅かに回復している>

その上でポイント(3)は次のように続いているのだ。

<より興味深いのは、福田財務次官のセクハラ疑惑発覚後、麻生大臣の辞任を要求する声が激しさを増していないことだ。実際、メディアの連日の報道にも拘わらず、そうした意見は(誤差の範囲だが)弱まっている>

事実、「日本経済新聞」の最新世論調査(4月27~29日実施)を見てみると、麻生太郎財務相は「辞任すべきだ」は49%で「辞任する必要ない」の43%を上回ったが、「辞任すべきだ」は前月比7%低下している。

それだけではない。野党6党が麻生財務相の辞任など求めて国会審議を拒否していることについて「適切ではない」は64%で「適切だ」の25%を大幅に上回った。上述の「大声で騒ぎ立てている」のは野党6党と一部メディアだと、同紙は分析しているのだ。

4月末の外遊中も満面の笑みを見せた麻生財務大臣

4月末の外遊中も満面の笑みを見せた麻生財務大臣(Photo by GettyImages)4月末の外遊中も満面の笑みを見せた麻生財務大臣(Photo by GettyImages)

アメリカは「3選濃厚」と見ている

重要なことは、このニューズレターが米国の視座から日本政治を分析していることである。ニューズレターと言えば、米国にはかつて「Smick & Medley International Report」があった。有名な1985年の「プラザ合意」をお膳立てした共和党のジャック・ケンプ下院議員首席補佐官のデビッド・スミック、民主党のビル・ブラッドレー上院議員経済首席顧問のリチャード・メドレー両氏が設立したものだ。

両氏は歴代の米政権の金融・通貨政策立案者に非常に近いインサイダーであり、その分析や予測の正確さもさることながら、同紙の真骨頂は、なんといっても情報の「深さ」であった。当時、同紙と契約していたのは世界で約50社(金融関連企業や各国金融当局)、年間購読料が18万ドル(約2500万円)からしても、その価値が理解できるはずだ。

これと同様に世界的に高い評価を得ている冒頭のニューズレターが、「結論」として<麻生攻撃を経由した安倍批判はヒステリックなレベルに達し、過去の例で言えば政権が近未来に瓦解してもおかしくない状況になるかと思いきや、一般有権者、特に若い世代の有権者がそうした風に乗る気はない>と断じているのだ。

今後の政局は荒れ模様になることは間違いないが、どうやら9月の安倍首相自民党総裁3選の可能性は高いと言っていいだろう。

【私の論評】東京新聞ですら安倍氏3選確実と予想する自民総裁選の行方(゚д゚)!

現在の世界情勢をみると、安倍総理が総裁選で負けて、一議員になれば、安倍総理が日本として着任以来、続けてきた全方位外交により、世界中の首脳と築いた強力な信頼関係という大きな資産を投げ出すことになります。

これは、日本にとっては、現状では大きな損失です。特に、北朝鮮情勢が急変している現状ではそうです。まともな国会議員ならこのくらいの認識はあると思います。国民の多くもこれを認識していると思います。

にもかかわらず、安倍おろしに走るような議員にはまともな国会議員や、多くの国民も賛同はしないでしょう。世界情勢が急変していて自国もその影響多大に被りそうな時、政権交代や首相や大統領の交代を望むような政治家や国民が多数を占めるような国はほとんどないでしょう。それが、常識というものです。

ブログ冒頭の記事では、米国インサイド情報紙が「安倍3選は確実」と分析していますが、自民党の衆議院議員、和田政宗氏はも以下のような分析をしています。

安倍総裁三選は確定的 あとは気を引き締めてやるだけ
和田政宗氏

メディアは、安倍総裁三選「黄信号」とか「正念場」とか書くがしっかり取材しているのだろうか。 
一部メディアは三選が確実なので、それを阻止しようとバイアスをかけた報道をしているのだろうか。 
国会議員票405票のうち、細田派94人、麻生派59人、二階派44人を足すと197人。 
これに加え、派閥無所属で安倍総裁を支持し、菅官房長官をはじめとする方々にご指導いただいているグループが30人。 
この人数を足すと全員で227人となり過半数を20人以上超える。 
党員票405票についても、全国では安倍総裁支持の声が圧倒的に強い。 
豊かで平和で誇りある我が国を守り抜くためにも安倍総理・総裁の力が必要。 
外交による平和構築、アベノミクスによる経済成長。 
国民が安心し、生活が豊かになるよう我々は政策を打ち邁進していく。
気を引き締めてやっていく。 
『自民党総裁選 高村正彦副総裁、安倍晋三首相3選支持』(産経新聞) 
https://www.sankei.com/politics/news/180504/plt1805040011-n1.html
私は、和田氏の見方は正しいと思います。

各種スキャンダルで、日本国内で最悪の政治的危機を迎えている安倍総理ですが、安倍内閣の支持率はまだ「政権を譲り渡すべき水準」までは落ちていません。

通常、内閣支持率が30%を下回れば「危険な状況」とみなされます。実際、2000年代以降に執権した首相のうち、大部分が支持率30%を下回ったことで、最終的に政権を譲ることになりました。2007年第1次安倍内閣は支持率25.3%で、2008年福田内閣は23.5%で、2009年麻生内閣は14.2%で、2012年民主党の野田内閣は23.0%で頓挫しました。

現在の安倍首相の場合、26.7%(日本テレビ4月13~15日)、29.0%(テレビ朝日4月21~22日)など、20%後半を二度記録したこともありましたが、他の多くの調査では30%以上を記録しています。


調査機関によりやや違いは見られますが、安倍内閣の支持率は概ね30%を維持しています。一体どのような人々が安倍内閣を支えているのかを分析してみまし。岩盤のように堅固な30%の固定支持層の正体は誰かということです。

東京新聞によると、安倍首相の強力な後援者は若年層です。4月14~15日に実施された共同通信の調査では、安倍内閣の支持率は37%でした。ところが60代以上の支持率は31.3%、40~50代は33.2%だった反面、18~39歳の支持率は49.3%に達しました。アベノミクスの金融緩和によって、雇用が増て実際に恩恵にあずかった若年層がそれだけ多いということです。

東京新聞は、最近実施された企業関連の世論調査を根拠に「若者層とともに企業が安倍内閣を支えている」と分析しました。524社を対象に4月4~17日に実施された「ロイター企業調査」によると、回答した220社のうち「貴社の事業活動にとって安倍首相の自民党総裁3選は望ましいことですか」との質問に「はい」と回答した会社が73%にのぼりました。「政策が大きく変わらないことが経済の安定をもたらす」という理由を挙げる会社が多かったのです。

安倍首相が今年1月の施政方針演説をはじめ、機会があるごとに「日本経済が28年ぶりに7四分期連続のプラス成長を実現した」「正規社員の有効求人倍率(求職者数に対する求人数の比率)が1を越えた」と強調していることも固定支持層の指示をつなぎとめたとみられます。

しかし、同紙は「求人倍率は2012年12月第二次安倍内閣発足以前からすでに改善され始めており、(株式市場の)日経平均指数上昇も公的資金の投入による効果が大きく、実際の景気とは別物」と強調しました。

これに関連して、同紙は「若年層や経済界だけなく、本当に安倍首相を支えるグループは何が起きても野党を支持せず、ただ慣習的に自民党とそのリーダーを支持する層」という駒沢大学の山崎望教授の分析も合わせて伝えました。

反安倍派の東京新聞としては、安倍総理が次の総裁選で落ちることを願っているのでしょうが、どう考えてみても、それはあり得ないということで悔しさを滲ませているのでしょう。

実際には、「慣習的に自民党とそのリーダーを支持している」のではありません。実際に経済は上向き、雇用は現在も引きつづき改善されています。これは、消費税増税は明らかに失敗でしたが、一方では金融緩和は継続してきたからに他なりません。

そうして、この政策の最大の受益者は、すでに就職した若者と、就活中と、その準備をする学生である若者たちです。就職は若者の人生を左右する一大事であり、雇用状況を良くした安倍総理を若者が指示することは当然といえば当然です。

外交、雇用ならびに経済でも、安倍政権は、過去20年間では最も良いパフォーマンスを出しています。安全保障でも高度な議論をしています。

もし、次の総裁選で安倍総理が落選するようなことにでもなれば、外交では安倍総理ほど良い成果を挙げられかどうかは疑問です。

雇用・経済に関しては、ポスト安倍の首相候補者はいずれも、マクロ経済音痴であり、特に金融政策に関してはまともな見識がありません。そのため、ポスト安倍政権は満足な雇用・経済対策を打ち出せず、雇用は悪化、日本は再びデフレ・スパイラルのどん底に沈み、円高によって再び国内の産業が空洞化することになります。

そういうことになれば、ポスト安倍の自民党政権の支持率は、誰が首相になってもまた支持率が30%未満ということになり、短期政権が続くことになります。それどころか、短期政権が何回か続き、過去のように下野することも考えられます。

このような事実もさりながら、「反安倍派」の急先鋒である、東京新聞が「安倍3選」を予測しているわけです。選挙というものは、実際に蓋をあけてみないとわからないといわれていますから、今後どのような不確定要素が出てこないとも限りませんが、今のところ安倍3選は余程のことがない限り確実でしょう。

【私の論評】

2018年5月5日土曜日

【石平のChina Watch】中国製造業のアキレス腱―【私の論評】集積回路、ネジ・ボルトを製造できない国の身の丈知らず(゚д゚)!

【石平のChina Watch】中国製造業のアキレス腱

深セン市にある「中興通訊」の本社 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 中国に「中興通訊」という大手の通信機器メーカーがある。深センに本社をおき、従業員は9万人以上、通信設備・通信端末の開発および生産を事業としている。中興通訊の主力製品の一つであるスマートフォンは、中国と世界市場で大きなシェアを占めている。世界160カ国、地域でスマートフォンなどの携帯電話端末を発売しており、日本でも大手の3社に携帯電話端末を供給している。

 世界市場における「Made in China」の大半が低付加価値の「安かろう悪かろう」である中で、中興通訊の電子機器が世界市場を席巻している現象は、まさに奇跡的であり、このような先端企業こそが中国製造業の希望の星であろう。

ZTE(中興通訊)の携帯電話端末


 しかし今、中国の誇るこの代表的な先端企業が突如、存亡の機に立たされている。米商務省が中興通訊に対して米国製品の禁輸措置に踏み切ったからである。

 米商務省は4月16日、米企業に対し、中興通訊への部品輸出などの取引を7年間禁じる措置を発表した。イランと北朝鮮への禁輸措置に対する中興通訊の違反が、ことの発端だが、このタイミングで中国企業への禁輸措置が発表された背景には当然、今展開中の米中貿易戦争があろう。

 それを受け、中興通訊の殷一民会長は同20日に緊急の記者会見を行い、「このままでは中興通訊は生産機能停止の状態となり、9万人の従業員の仕事が奪われる」と訴えた。その一方で同21日付の「経済観察報」は中興通訊傘下の一部企業で生産ラインの停止、従業員の「臨時休暇」は既に始まったと報じている。

 つまり、米国製品の禁輸が発表されると、中国の代表的な先端企業が直ちに「生産機能停止」の危機に立たされてしまうという話なのだが、ここでキーワードとなっているのは、高度な工業製品である集積回路のことである。

 普段は「チップ」と呼ばれる集積回路は多くの電子機器の心臓部分としての役割を果たしており、ラジオ、テレビ、通信機、コンピューターなど、あらゆる電子機器に用いられている。中興通訊が主力製品のスマートフォンなどの末端機器を作るのにも当然、ハイレベルの集積回路を大量に必要としているが、中国国内企業はそれが作れない。中興通訊が使用する集積回路のほとんどはアメリカのメーカーから調達している。

 従って米商務省が中興通訊への米国企業の製品輸出を禁ずると、中興通訊の主力製品も作れなくなるのである。

 それは中興通訊だけの問題ではなく、中国製造業全体の抱える問題である。中国は今、海外から大量の集積回路を輸入しており、2017年の集積回路輸入数は3770億枚に上っている。中国製のラジオ、テレビ、通信機、コンピューターなどのあらゆる電子機器の心臓部分の集積回路は海外からの輸入に頼っているのである。輸入が一旦途切れてしまうと、中国企業はスマートフォンの一つも作れない。それがすなわち、先端領域における中国製造業の「寒い」現状である。

 しかし中国国内企業は今まではどうして、自国産の集積回路の開発と製造に力を入れてこなかったのか。

 集積回路の開発には莫大(ばくだい)な資金と時間が必要とされるが、金もうけ主義一辺倒の中国企業からすれば、それなら海外から部品を調達した方が早いし、知的財産権がきちんと保護されていない中国の状況下では、自力で開発した製品も競合業者によって簡単にコピーされてしまう。

 だから中国国内企業の誰もが自力開発に力を入れたくないのだが、その結果、集積回路のような、製造業が必要とする最も肝心な部品は外国企業に頼らざるをえない。中国製造業の最大のアキレス腱(けん)は、まさにこういうところにあるのである。



【プロフィル】石平

 せき・へい 1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。

【私の論評】集積回路、ネジ・ボルトを製造できない中国の身の丈知らず(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事にあるように、中国は集積回路を製造することが出来ません。その中国が、南シナ海で暴挙に出たり、米国に貿易戦争を挑もうとしている姿は、滑稽であるとしか言いようがありません。

中国が製造できないのは集積回路だけではありません、多少とも先端技術などを要するものは製造できません。たとえば、中国はネジやボルトに関しては日本からの輸入に頼っています。

中国メディアの捜狐は昨年11月10日、空母や戦闘機、高速鉄道に使われているボルトはどれも輸入品という「直視しなければならない現実」に関する記事を掲載しました。

中国の機械工業の進歩は目覚ましく、利益率・輸出額ともに増加しているといいますが、戦闘機などに使用されるねじ・ボルトなどの部品は「ほぼ100%輸入」に頼っているというのです。記事は、中国で生産されている部品はいずれも精度の低いものばかりで、高速鉄道などに求められる精度や耐久性の高い部品は、日本や他国に頼るしかないと指摘しました。

日本製のネジ

例えば、中国の戦闘機「Jー20」のボルトはどうしても最高級の水準が求められ、ねじはすべて高温・腐食にも耐えるチタン製でなければならないといいます。しかし、中国にはこうした高いレベルのねじの生産技術も生産ラインもないと嘆きました。軍事分野以外でも、高速鉄道、長征7号ロケットにも海外から輸入した高品質のボルトが大量に使われているといいます。

では、なぜ中国国内では生産できないのでしょうか。記事は、化学工業、冶金、鍛造の技術が遅れていることが原因だと分析。日本などのように「専門分業」ができておらず、製品システムや品質が不健全で、専門分野での研究が不足しており経験も足りないため、製造能力が低いのだとしました。

こうした現状に、中国のネット上では「作れないのではなく作りたくないだけ」、「ボルトなどの部品は買えば良い」などの意見があると紹介。しかし、これらの意見はいずれも現実を直視していないと切り捨てました。

以上のように、中国の基礎工業が弱いのは確かであり、中国製品が精緻さに欠けるのは事実です。量から質への転換は時間がかかりますが、いずれは日本の部品を使用せず、すべて中国産を使用する日を目指すべきだと伝えています。

日本からネジ・ボルトを輸入しないとジエット戦闘機も製造できず、高速鉄道も走らせることができないというのが現在の中国の実体なのです。このような中国が米国に貿易戦争を挑んだにしても、全く勝ち目はありません。

米国の対中貿易の輸入額は輸出額の約4倍です。その赤字額は2016年実績で3470億ドル(約38兆円)に上ります。ちなみに米国の対日貿易赤字額は同じく2016年実績で689億ドル(約7.6兆円)です。

米中貿易の中身を見ると中国の対米輸出品が労働集約型製品なのに対して、米国の対中輸出品は集積回路などの技術集約型製品です。

米国が対中輸入品に高関税を課して輸入が途絶えたとしても、米国内で生産するのは可能です。その場合、中国の労働力と米国の労働力の格差がそのまま製品価格にスライドして製品価格高騰に繋がると考えるのは早計です。

なぜなら米国内で労働集約型の生産を行う場合、かなりの部分で機械化され省力化された生産ラインで製造するからです。米国の製造業における製造に占める人件費の割合はかなり落ちています。これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
アメリカでの製造コストが中国と同レベルに減少、その理由とアメリカが持つ「強み」とは?―【私の論評】中国もう終わりました!中国幻想はきっぱり捨て去ろう(゚д゚)!

この記事は、2015年8月3日のものです。以下から一部を引用します。
世界的なコンサルティング企業であるボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の調査によると、アメリカ国内で製品製造コストは減少を続けていることが明らかになっています。以下のグラフのように、アメリカを100とした場合の製造コストは中国が95とほぼ変わりなく、さらに主なEU各国と比較するとすでに10%から20%程度も低い状態であることがわかったとのこと。さらにBCGの予測では、2018年ごろにはアメリカの製造コストは中国よりも2%~3%も低くなるだろうとみられています。
これにはいくつかの要因が考えられており、中国国内での人件費の高騰やアメリカでの生産効率が向上していることなどが考えられていますが、BCGによると最も大きく関与しているのが新たに開発されたシェールガスによるエネルギーコストの減少とのこと。BCGの試算によると、アメリカ国内での産業用電力価格は他国に比べて30%から50%も低いとみられており、特に鉄やアルミニウム、製紙や石油化学製品など多くのエネルギーや石油を必要とする産業分野への影響が大きく現れているといいます。
 ただし、ご存知のように米国のシェールガス産業は衰退しています。しかし、それはなぜかといえば、原油価格がかなり低くなったからです。したがって、米国のシェールガス産業が衰退したにしても、2015年頃のこの構造は変わっていないわけです。

とはいいながら、米国製造業が生産コストを低下する努力を行ったにしても、中国の場合は、以前よりは賃金が上がったものの、社会構造そのものが、米国や日本などの先進国と比較すれば、ブラックなので、米国よりは安く製造できるのです。

とはいいながら、その差は中国の賃金上昇と米国製造業のコスト削減努力によりかなり縮まっているのです。

このような状況のなか、中国が米国輸入製品に関税制裁を発動して輸入が途絶えた場合、技術集約型製品を中国内で製造できません。いや上記でも述べたように、中国内で製造出来ないから米国から輸入していたという方が正しいです。当然、制裁する米国製品に代替する製品をやや割高になっても、日本や欧州から輸入するしかなくなります。

関税戦争によって打撃をこうむるのは中国側です。労働集約型製品製造には多くの労働者雇用によって成り立っています。その製品輸出が途絶えることは多くの失業者が出ることを中国政府は覚悟しなければならないです。

それに対して米国は中国からの輸入が途絶えても、国内生産できるものばかりですから、やや価格が上昇したところで国内労働雇用が改善されるプラス効果の方が遥かに大きいです。

とはいいながら、中国の対米制裁により中国内で展開している米国企業の現地生産部門が打撃を受けるとみるむきもあるかもしれませんが、中国内に展開する外国企業は必ず中国企業との合弁でなければならず、その場合外国人経営者は49%以上の株式を保有できない決まりになっています。

確かに中国で展開している企業から米国内の投資家たちに配当される利益が減少するでしょうが、外国投資企業といっても厳密には中国企業ですから、この場合でもより損失を被るのは中国の割合の方が大きいです。

中国皇帝を目指す習近平

従来なら中国政府は「米国債を報復として売却するゾ」と脅すことが可能だったかもしれません。それは中国が保有する米国債が世界一だった当時の話です。現在では中国は国内金融の悪化から既に米国債を売却して、中国政府は外貨不足に陥っています。対米輸出が激減して外貨(ドル)が入って来なくなるデメリットは中国経済を打ちのめすことになるでしょう。

現在、中国政府はバブル崩壊を押し止めるために死力を尽くしています。財政赤字を表面化させないために全国に百を超える巨大な鬼城(ゴーストタウン)を「棚卸資産」として放置し、赤字垂れ流しの新幹線をさらに延伸せざるを得ない状態です。

そこに外賀が払底して海外投資した事業の1000を超える現場で休止している状態が、ついに撤退する事態となれば対外債務の赤字が確定して中国の国家予算を食い潰すことになります。それらを支払う外貨は既に中国政府にありません。そうすればどうなるのか、結果は火を見るよりも明らかです。デフォルトするしかありません。

習近平氏は現代中国の皇帝に即位しました。しかし、それは盤石な政権を背景にしたものではなく、崩壊する経済・金融を一手に掌握して、一日でも先延ばしするためのものでしかありません。米中貿易戦争は始まる前から勝敗は決しています。

集積回路が作れない、戦闘機や高速鉄道のネジやボルトも作れない国が、背伸びに背伸びを重ねて、南シナ海や尖閣諸島、中印国境で挑発をしてみたり、米国に貿易戦争を挑もうとしたりする姿は滑稽としかいいようがありません。いつから、中国はこのような身の丈知らずの国になってしまったのでしょうか。

【私の論評】


「事実上の皇帝」習近平とプーチンに、トランプは対抗できるのか―【私の論評】19世紀の皇帝たちの無謀な試みを阻止せよ(゚д゚)!

2018年5月4日金曜日

歴史が教える「朝鮮半島に深入りすると日本は必ず失敗する」―【私の論評】日・米の戦略の間違いが、冷戦、北朝鮮問題、中国問題を生み出した(゚д゚)!

歴史が教える「朝鮮半島に深入りすると日本は必ず失敗する」

東京通信大学教授、早稲田大学名誉教授の重村智計氏

 「今こそ日本には、朝鮮半島に関わらない戦略が必要」--朝鮮半島を長きにわたり取材・分析してきた東京通信大学教授の重村智計氏は、こう断言する。

 * * *

 電撃的な米朝首脳会談の決定を受けて、日本の「乗り遅れ」や「置き去り」を危惧する論調が目立つ。しかし、そうした声は日本と朝鮮半島の歴史を全く理解していないゆえのものといえる。

 歴史が教えるのは、「朝鮮半島に軍事的、政治的に深入りすると、日本は必ず大失敗する」という事実だ。中国が必ず介入するからだ。

 古くは660年、百済が滅びた後に朝鮮半島に介入した倭国(日本)は、白村江の戦いで唐・新羅連合軍に大敗を喫した。近世においては豊臣秀吉の朝鮮出兵が大失敗に終わったこともよく知られる。いずれも、中国の介入で大敗北した。

白村江の戦いの絵画 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 近代になり、“朝鮮半島は日本の生命線”との覚悟で臨んだ日清、日露戦争では勝利を収めたが、戦争は列強の干渉を招き、日本が国際社会から孤立する一因となった。その後の植民地支配もうまくいかず、日本は韓国と北朝鮮からいまも恨まれている。

 逆に日本が参戦しなかった朝鮮戦争では、戦中も戦後も「朝鮮特需」という大きな果実で経済が潤った。この戦争も中国の介入で膠着状態に陥り、米国の実質的な敗北で終わった。半島国家である南北朝鮮はともに小国であり、常に周辺国を巻き込んで利益を得ようとする。

 冷戦時代、北朝鮮は文化大革命下の中国から独裁体制を批判されるとソ連に接近し、デタント(緊張緩和)で米ソ関係が改善すると中国にすり寄った。冷戦終結後の1990年代も、南北対話が上手くいかないと米朝交渉に向かい、それがダメなら日本に秋波を送った。

 こうした「振り子外交」は北朝鮮のお家芸だ。周辺国に「乗り遅れ懸念」をまき散らし、自国に有利な状況をつくろうとする。

1990年9月の訪朝時。金丸信氏(左)、金日成主席(中)、田辺誠社会党副委員長

 かつての日本は「乗り遅れ」と「置き去り」を怖れ、1990年の「金丸訪朝団」をはじめ、渡辺美智雄氏(1995年)、森喜朗氏(1997年)らが競って北朝鮮を訪問したが、“援助”としてコメなどを奪われただけで日朝関係は一向に改善しなかった。これもまた大きな教訓である。

 【PROFILE】重村智計(しげむら・としみつ)/1945年、中国・遼寧省生まれ。毎日新聞記者としてソウル特派員、ワシントン特派員、論説委員などを歴任。朝鮮半島情勢や米国のアジア政策を専門に研究している。『金正恩が消える日』(朝日新書)、『外交敗北』(講談社刊)など著書多数。

【私の論評】日・米の戦略の間違いが、冷戦、北朝鮮問題、中国問題を生み出した(゚д゚)!(゚д゚)!

日本が、朝鮮半島や中国に関わると、ろくなことがないということは、ジャーナリストの西村幸祐氏も同じようなことを語っていました。それどころか、あの福沢諭吉氏が、日本が中国、朝鮮にかかわるとろくなことがないとして、「脱亜入欧論」(後進世界であるアジアを脱し、ヨーロッパ列強の一員となることを目的とした思想)を唱えていました。

福沢諭吉

確かに、過去の世界史を紐解いてみるとそういうことがいえそうです。特に歴史上はっきりしているのは、「大国は小国に勝てない」という現実です。

日露戦争で、ロシアは当時小国であった日本に勝てず、フィンランドにも勝てませんでした。中国はベトナムに勝てず、アメリカすらベトナムに敗北しています。このような事例は多く存在します。

これについては、米国の戦略家であるルトワック氏も同じようなことを語っています。

ルトワックは「戦略的バランシングが発生するので大国は小国に勝てない」と語っていました。例えば中国がフィリピンに圧力をかけても、アメリカや日本がフィリピンのバックアップに回るのでフィリピンが屈することはありません。

ベトナムもしかりです。大国であるアメリカがベトナムと戦争をした時も、中国やソ連、ラオスなどがベトナム側について、アメリカはベトナムから撤退するしかありませんでした。

ロシアもそうでした。日露戦争ではイギリス、アメリカの支援を受けた日本に敗れています。

勝利のための戦略を立て、それを推進すれば必ず勝利できるというのは間違いであり、自分たちが行動をすれば、必ず相手のリアクションがあって、戦略の修正や見直しを余儀なくされます。これをルトワック氏は逆説的論理と呼んでいます。

ルトワック氏

この前提を無視すると逆説的論理(パラドキシカル・ロジック)が発動して大国は小国に勝てなくなるのです。真珠湾攻撃で対米戦を始めた日本も戦略的には大きな間違いを犯しており、逆説的論理に苦しめられることになりました。

では当時の日本にとってベターな戦略は何だったかと言えば、真珠湾攻撃の直後に降伏することだったとルトワックは述べています。確かにそうすれば、良かったのかもしれません。

私としては、日本としてはルトワック氏のやり方以外にも方法はあったと思います。そもそも、真珠湾攻撃などせずに、日本が1943年に定めた絶対国防圏を守り抜き、朝鮮半島と満州はあくまでソ連が侵攻してくるのを防ぐためとして統治し、中国大陸にはかかわらず、ソ連とだけ対峙していれば、いずれ米英と和平の講話することもできたと思います。


講話の条件は、連合国側が石油の禁輸などを解くかわりに、絶対国防圏に含まれる国々を独立させると確約すれば確実に和平が成り立ったと思います。

そうなると、冷戦もなかったかもしれません。北方領土もソ連にとられることはなかったかもしれません。

そうして、ナチスドイツは消え、軍事大国の日本が残れば、それにソ連はこれに備えなければならず、ソ連の台頭により東欧がソ連に蹂躙されることもなかったかもしれません。

実際、スターリンは日本の関東軍が関東軍特種演習(当時ソ連と対峙していた日本の関東軍による軍事演習)が開催されるたびにいつ攻め込まれるかと恐れおののいていたそうです。

ノモンハン事件に関しては、過去においては日本の一方的な負けとされていましたが、ソ連崩壊後のロシアが様々な文書が公開され、それによれば、ノモンハン事件ではソ連側もかなりの大打撃を受けており、実際にはどちらかというとソ連側の負けであると考えたほうがふさわしかったということがわかっています。

日本がそのように動いていれば、今日世界は北朝鮮問題や、中国の問題にさらされることもなかったかもしれません。

これは、夢物語のように聞こえるかもしれませんが、米国の保守系の歴史学者らも同じようなことを語っています。ルーズベルトがスターリンのソ連に接近し、ソ連に対峙していた日本を攻撃したことは間違いだったとしています。

結局、日本と米国の戦略の間違いが、冷戦、そうして今日の北朝鮮問題、中国問題を生み出しているのです。

そうして、今日過去の間違いを正すことはできませんが、これを反省材料として未来を考え、良い方向に導くことはできます。

福沢諭吉は脱亜入欧論を主張していましたが、今日のアジアをみてもその考えを変えなかったたでしょう。

日米は今度こそ間違えることなく、一時的に安全保障などで朝鮮半島や中国に関わることはあっても、本格的に関わりを持つようなことはすべきではありません。

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2018年5月3日木曜日

米専門家の緊急警告「東京、大阪に北朝鮮のミサイル攻撃」―【私の論評】北は国家崩壊の淵で「あらゆる手段」を使う、これに日本が対処しなければ世界から爪弾きされる(゚д゚)!

米専門家の緊急警告「東京、大阪に北朝鮮のミサイル攻撃」

融和ムードに騙されたのか、日本メディアは朝鮮半島有事について真剣に論じようとしない。平和ボケ日本とは逆に、アメリカの専門家は緻密な情報分析に基づいて危機的状況に警告を発している。ジャーナリストの古森義久氏が報告する。

 * * *

 北朝鮮をめぐる軍事衝突が起きたとき、日本への軍事攻撃が考えられる。この想定は決して過剰反応ではない。日本の安全のため、戦争を防ぐためにはその戦争をも想定せねばならない。安全保障での抑止の鉄則だ。

 北朝鮮の日本への軍事攻撃シナリオはこれまでも各方面で研究されてきた。当事国の日本でよりもアメリカでの研究が多かった。いま私が取材活動を続ける首都ワシントンでは北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルの脅威に対する懸念がかつてなく高まり、朝鮮半島での戦争という事態についても論議は盛んである。

 そんな中、北朝鮮のミサイルによる日本攻撃の危険について警告を発する書が3月に刊行された。『迫りくる北朝鮮の核の悪夢(The Coming North Korea Nuclear Nightmare)』と題した本の著者は、中央情報局(CIA)や国務、国防両省、さらには連邦議会で25年以上、北朝鮮の核兵器や弾道ミサイルの動きを追ってきたフレッド・フライツ氏である。

フレッド・ライツ氏 写真・チャートはブログ管理人挿入 以下同じ

 同氏はいま民間研究機関「安全保障政策センター」の副所長を務めるが、トランプ政権の国家安全保障担当の大統領補佐官に新たに就任したジョン・ボルトン氏の国務次官時代に首席補佐官を務めたフライツ氏も政権入りが予想される。だからこの書もトランプ政権の政策を予測するうえで注目されるわけだ。

同書は北朝鮮のミサイルによる日本攻撃についてどう触れているのだろうか。

The Coming North Korea Nuclear Nightmareの表紙

 まず日本を射程内におさめ、しかもすでに照準を合わせているとみられるミサイルは次の通りだという。呼称はアメリカなど西側の国際基準を優先する。

 ▽短距離弾道ミサイル(SRBM)スカッド=射程300~800km。保有約100基(*)。

 ▽準中距離弾道ミサイル(MRBM)ノドン=射程1300km。保有約50基。

 ▽中距離弾道ミサイル(IRBM)ムスダン=射程3500km。保有約50基。

 ▽潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)ハンチャ=射程900km。開発中。

 【*各ミサイルの基数についてはフライツ氏は具体的にあげることを避けており、他の出所による。】

 このほかにアメリカにまで届くとされる長距離弾道ミサイルのテポドンなどがあるが、日本への脅威はこの4種類だという。

チャート上のBCのミサイルは日本に到達、DEは米国に到達する


 ◆「あらゆる手段をとるだろう」

 フライツ氏は北朝鮮が日本を激しく敵視する実態を北当局の「日本列島を核爆弾で海に沈める」という昨年9月の言明を強調し、攻撃がありうるとしている。最悪の場合、核攻撃の可能性も排除できないという。

 北朝鮮と日本は首都間の距離でも1200kmほど、九州となると平壌からわずか700kmである。日本海に自衛隊の艦艇が出動すれば、北の短距離ミサイルの射程にまで入ってしまう。

北朝鮮はミサイルを日本のどこに、どう撃ち込んでくるのか。日本国内の具体的な攻撃目標についてアジア安全保障の専門家である国防大学国家戦略研究所のジム・プリシュタップ上級研究員は、在日米軍基地がまず狙われるだろうと指摘する。

 「最も現実的なシナリオはアメリカと北朝鮮の間で戦闘が起き、北側が米軍の戦闘、兵站両面での後方基地となる日本国内の基地をミサイル攻撃で破壊しようとする可能性だろう」

 であれば米朝開戦へ介入度合いの高い米空軍や海兵隊の基地がある三沢、横田、岩国、沖縄が標的となる。

 歴代政権の国防総省高官だったブルース・ワインロッド氏は北朝鮮の行動は合理性に欠けることも多く、東京や大阪といった大都市をミサイル攻撃するという悪夢のようなシナリオも想像はできると述べた。

 この点、プリシュタップ氏も「北朝鮮が日本を攻撃するときは、米軍の全面反撃により北の国家が滅びるときだから、あらゆる手段をとるだろう」と論評した。

 北朝鮮が米軍と戦闘状態になく、日本だけを攻撃する可能性は極めて低い。そんな事態になれば日米安保条約により米軍が参戦する。いずれにせよ米軍の激しい攻撃が北に加えられるのだ。

 北朝鮮が国家崩壊の淵で「あらゆる手段」を使うとなると、ミサイルに化学兵器や細菌兵器の弾頭をつけて攻撃してくる危険さえ否定できない。米軍当局は北の核以外のこの2種の大量殺戮兵器の存在にも再三、警告を発している。

 ●こもり・よしひさ/慶應義塾大学経済学部卒業。毎日新聞を経て、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長などを経て、2013年から現職。2015年より麗澤大学特別教授を兼務。著書に『戦争がイヤなら憲法を変えなさい』(飛鳥新社)、『トランプは中国の膨張を許さない!』(PHP研究所)などがある。

 ※SAPIO2018年5・6月号

【私の論評】北は国家崩壊の淵で「あらゆる手段」を使う、これに日本が対処しなければ世界から爪弾きされる(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事に掲載されている、フライツ氏は"The Coming North Korea Nuclear Nightmare"の中で、いまの日本が北朝鮮のこれほどのミサイルの脅威に対しても有効な自衛手段をまったく持たないことへの懸念を表明しています。以下に一部を引用します。
日本の現憲法は日本に向けての発射が切迫した北朝鮮のミサイル基地を予防攻撃することを許さない。アメリカに向けて発射されたミサイルを日本上空で撃墜することも認めない。憲法9条の規定により、日本領土外の敵は攻撃できず、同盟国を守るための軍事行動もとれないというのだ。日本は自国の防衛を正常化する必要がある。
憲法9条に根拠をおく専守防衛、そして集団的自衛権禁止という年来の日本の防衛態勢の自縄自縛が北朝鮮のミサイルの脅威によって明らかな欠陥をさらしているということです。

いまの日本では政府・自民党は北朝鮮のミサイルに対して敵基地攻撃能力の保持は憲法に違反しないという主張を表明し始めました。だが憲法9条の戦力の禁止や交戦権の禁止という明記を一読するとき、日本がいかに自衛のためとはいえ、外国への攻撃能力を持つことは禁止という意味にしか解釈できない。なにしろ憲法9条の不戦の精神をそのまま体現したような「専守防衛」という基本政策はなお健在なのです。

ただし、憲法学の京都学派の佐々木惣一氏は「憲法9条は自衛戦争まではは禁じていない」という見方をしていましたが、残念ながらこの見解は日本国内ではそもそも存在しなかったかのように、かき消されていしまっています。保守系の人でも知らない人も多いようです。そもそも、日本国内で現在ほとんど顧みられていません。

佐々木惣一

集団的自衛権の行使についても同様です。平和安保法制の発効で集団的自衛権はその一部が特定の条件下では行使できるというようになりました。しかしまだまだ二重三重の縛りがかかり、全世界の他の諸国が主権国家の自衛では自明の理とする自由な集団的自衛権の行使とは異なるのです。日本は憲法によって自国を守るという国運をかけた活動にさえ、厳しい制約を課しているのです。

日本の現憲法はいまから72年前の1946(昭和21)年、占領米軍によって書かれたものです。この当時、憲法9条が課題とした日本の防衛といえば、敵の地上軍が日本領土に上陸してきて初めて活動開始というのが前提の概念でした。現在のように遠方から飛んでくるミサイルが日本の防衛を一気に崩壊させうるという常識は夢想だにされていませんでした。

だから72年前の戦争や防衛という概念から生まれた規制をいまの国際安全保障情勢に当てはめることは、アナクロニズム(時代錯誤)の極致です。日本の憲法と防衛のそんな時代錯誤はいまワシントンで刊行された書によっても裏づけられたといえます。

今日は憲法記念日です。全国で、護憲派と改憲派が集会など開いていて、それぞれの主張をしています。

しかし、北朝鮮という国や、金正恩という独裁者の正体を知れば知るほど、いつ現行の日本国憲法の想定を超えた事態が始まってもおかしくないということは容易に想定できます。叔父を処刑したり、実の兄を殺害したり、

高射砲による処刑は金正恩委員長が最も気に入っているという

ブログ冒頭の記事にもあるように、北朝鮮が国家崩壊の淵で「あらゆる手段」を使うとなると、ミサイルに化学兵器や細菌兵器の弾頭をつけて攻撃してくる危険さえ否定できないです。

そのような時に、政府が緊急に国民の命と財産を守ろうとして何かの行動を起こした場合、それに対して合憲だ、違憲だと言っても、事態を変えることはできません。事態をかるには行動するしかありません。

政府としては、国民の命や財産が重大な危機にさらされるようなとき、憲法解釈を変えてでも、行動すべきと思います。それで、国民の命や財産を何もしなかったよりは、まもられればそれで良いと思います。

その後に憲法解釈をこのように政府が変えて行動したと表明して、危機が去った後に憲法解釈を巡って解散総選挙を行えば良いと思います。そのときに国民が妥当だと思えば、与党が勝つでしょうし、そうではないと判断すれば、与党側が負けることになります。

それよりも、何よりも、日本に向けての発射が切迫した北朝鮮のミサイル基地を予防攻撃することをしないで攻撃を許してしまうとか、同盟国アメリカに向けて発射されたミサイルを日本上空で撃墜することも認めないとか、憲法9条の規定により、日本領土外の敵は攻撃できず、同盟国を守るための軍事行動もとらないなどというような馬鹿な真似はするべきではありません。

そんなことをすれば、日本は世界から爪弾きにあいます。特に米国から爪弾きにあいます。

北朝鮮の特殊部隊

しかしそうなれば、米国の軍事力に頼れなくなった日本は、中国、ロシアが日本を格好の餌食とします。いずれ日本は米国・中国・ロシア等によって分割統治されることになります。まかり間違って北朝鮮が残っていたとしたら、北朝鮮も分割統治に加わるかもしれません。そうして、各国は日本の富を簒奪できるだけ簒奪します。

そうなってしまってから、護憲派が憲法を守れとか、憲法解釈を変えるななどと主張しようにも、その時には日本という国家は実質的になくなっています。国があってこその憲法なのです。

リベラル・左翼が「安倍辞めろ」ではなく、「金正恩辞めろ」、「習近平辞めろ」、「プーチン辞めろ」などと叫び声をあげれば、すぐに拘束されて、その後は命の保証など、当然のことながらありません。十中八九斬首されることになるでしょう。

そうならないためには、私たちは政府が憲法解釈を変えざるを得ない局面もあり得ることを認識しておくべきです。

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