2018年12月3日月曜日

G20「各国の力関係の変化」と共同宣言の本当の読み方を教えよう―【私の論評】トランプが目の敵にしている日本の消費税引き上げを安倍総理は本当に実行できるのか(゚д゚)!

G20「各国の力関係の変化」と共同宣言の本当の読み方を教えよう

この変化に気付けるか…それが重要だ

 アルゼンチンで開催されていたG20が終わった。「保護主義と闘う」との言葉が、アメリカの反対で無いものとされた、といったことが中心に報道されているが、米中首脳会談で互いの追加関税が猶予され、一時的な休戦になったことにもっと注目すべきだろう。

 G20を経て、世界情勢はどうなるのか。その中では日本は立ち位置をどこに定めるべきなのか。また、G20首脳会合に合わせて行われる、日米、日中、日ロなどの首脳会談は、どのような成果があったのか。今回はそれを見ていきたい。

立ち位置に関する、シンプルなルール

 まず、G20などの国際的な首脳会議での一つの楽しみ方は、「集合写真での各国首脳の立ち位置」である。

 今回のG20、前列の中心にいるのはアルゼンチンのマクリ大統領だ。向かって左に、マクリ大統領から、安倍首相、トランプ米大統領、マクロン仏大統領などが並び、向かって右に、習近平中国主席、プーチン・ロシア大統領らが並んだ。

 中心が議長国であるアルゼンチンのマクリ大統領なのは当然だが、その隣にいるのが安倍首相だ。

G20での各国首脳の立ち位

    実は、国際会議の立ち位置については各国首脳が競い合うのではなく、次のようなシンプルなルールがある。

①議長国の首脳が中央、
②首相よりも大統領が内側、
③在任期間の長い首脳が内側

というものだ。

    もちろん立ち位置は議長国がその都度決めてよいのだが、大体この原則になっている。このルールにより、各国首脳の位置は事前に決められているのが通例だ(もっとも、アルゼンチンはお国柄なのか、マクロン大統領の到着時に、その出迎えに遅れた国なので、どこまでこうした通例が意識されたのかはわからないが)。

    さて、G20では、次期議長国の首脳が開催国首脳の隣に来るのが慣例なのだが、それを割り引いたとしても、安倍首相の立ち位置は目立っていた。写真にはメルケル独首相が写っていない。これは専用機のトラブルで、G20の開催に間に合わなかったためだ。それによって、安倍首相は写真に写る中で、先進国の首脳として最も在任期間の長い首脳になった。

    議長国の右側を見ても興味深い。議長国の隣に習主席、シェンロン・シンガポール首相、プーチン大統領と並んでいる。シェンロン首相の位置は通例で考えればちょっとありえないのだが、同氏は英語のほか中国語もロシア語もできるらしいので、それで中ロの間に呼ばれたのかもしれない。

    そのほかにも、集合写真を見ると面白いことがわかる。G20 には、サウジアラビアからサルマン皇太子が参加した。同氏はジャーナリストのカショギ氏暗殺を指示した人物だ、と国際社会から断定されている。

    その根拠となった情報はトルコから提供された。トルコは、オスマン帝国時代からサウジアラビアとは長年の因縁の関係があるので、カショギ氏の事件はトルコとサウジアラビアの間で非常に敏感なテーマとなっている。

   それを頭に入れて写真を見ると、トルコのエルドアン大統領は向かって前列の左端、サルマン皇太子は後列の右端に位置している。これは両国の関係から、無難にことが進むように、事前にそう決めたのだろう。そういったことも写真からは読み取れるので、眺めているだけでも結構面白いのだ。

G20の認識も随分変わった…?

   さて、今回のG20の集合写真における安倍首相の立ち位置は、今の日本の世界における位置を表している、と言っていい。

   安倍首相は今回のG20で、トランプ大統領、習主席、プーチン大統領と会談した。またトランプ大統領、インドのモディ首相と日米印三者による初の首脳会談も行った。中ロも、これに対抗するために、インドを取り込む中ロ印首脳会談を行った。まさに、G20の場で国際政治が動いているのだ。

    日中首脳会談を行いながら、中国の一帯一路に懸念を表する米印と日米印首脳会談を同時に行う、という動きは、これまでの日本の指導者にみられなかったものだ。こういう国際舞台では、誰と会談できたか、がいちばん重要だ。安倍首相は、米中ロという主要3ヵ国と会談したのだから、世界のトップリーダーとして存在感を見せたと言っていいだろう。

     その一方で、韓国の文在寅大統領との首脳会談は行なわれなかった。日韓関係は、日韓合意に基づいて設立した「和解・癒やし財団」の解散や元徴用工訴訟の韓国最高裁判決など、韓国が一方的に国家間の約束を破る暴挙に出ているので、最悪の状況にある。

    その韓国は、国際的に孤立を深めつつある。米韓関係において、トランプ政権は非核化協議をしないまま北朝鮮との協力関係の構築に前のめりになる文政権を信頼していない。文大統領はトランプ大統領との本格的な会談を望んだが、トランプ大統領は文氏との会談は簡単に済ませていた。どうやら、安倍首相との差をつけたようだ。

    さて、冒頭述べたように、アメリカの反対もあって今回のG20では共同宣言がまとめられるかどうか、危ないところであったが、なんとか共同宣言はまとめられた。自由貿易に関する記述は、前回のハンブルグG20と比較しても少ない。しかし、経済政策に関する部分は、概ね前回と同じである。その中で、財政政策に関する記述は「よくなっている」と筆者にはみえる。


    これをみると、従来の財政再建重視という路線から、財政政策の役割を重視するように、と少し考え方が変化しているようだ。「債務残高対GDP比」を絶対視しその水準に着目するよりも、「債務残高が持続可能かどうか」を問題としているのはいい。というのは、10月5日の本コラム(<IMFが公表した日本の財政「衝撃レポート」の中身を分析する> https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57978)で指摘したように、債務残高対GDP比より、資産も考慮した純債務残高対GDP比のほうが、財政の実情を表すのに適切だからだ。

    つまり、債務残高が持続可能かどうか、というのは、債務残高対GDP比が大きくても、日本のように純債務残高対GDP比が低ければ問題ない、ともいえるのだ。

やっぱり消費増税、なんですね

    G20内でも少しずつ意識の変化が現れているが、こうした観点から日本国内の状況をみると、相変わらず、財務省が発信源と思われる酷い情報が流布されている。

たとえば12月1日の夜に放送された、日本テレビの「世界一受けたい授業」(http://www.ntv.co.jp/sekaju/onair/181201/03.html)で、<このまま日本の借金が増え続けると、実は、「未達」という問題が起きます。一体この、「未達」とは、どういう問題のことでしょうか?> という問いが流れていた。

     解説をしていたのは、元財務官僚で、ニュースゼロのキャスターだった村尾信尚氏だ。筆者は同氏を個人的に知っているが、熱血漢でナイスガイであるものの、ある意味で財務省の広告塔として、財務省の意見を忠実に述べる人でもある。日本テレビは、最近は財務省事務次官が天下る組織でもある。財務省の意向が反映しやすのはやむを得ないだろう。

財務省の広告塔として、財務省の意見を忠実に述べる人村尾信尚氏
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

     この放送内容については大いに違和感があったと言わざるを得ないだろう。財政危機についての村尾氏の説明は財務省と寸分違わぬもので、ストックでは、バランスシートの右側の債務だけに着目し、その大きさを強調していた。またフローでは、政府の一部にすぎない「一般会計」の収支についてだけを説明していた。まさに財務省的な手口である。

    日本が財政危機でないことは、本コラムで何回も述べている。つまり、民間企業でいうところのグループ決算に相当する「統合政府のバランスシート」では、実質債務がゼロになっている。ストックで実質債務ゼロというのは、グループ決算で収支が均衡していることをほぼ意味している。

     財務省のように、一般会計だけのフローは赤字にして、グループ会社で利益を「資産化」して隠すことは、会計の専門家であれば容易にできる。しかしこれは見破るのも容易だ。いわゆる「埋蔵金」がそれにあたるのだが、筆者(をはじめ専門家ら)が「埋蔵金」を探し出せるということをまだ財務省はわからないみたいだ。

    また、番組で扱われていた「未達」とは、国債入札において、目標とする国債発行収入が得られない場合をいうが、そもそもいまの日本は国債が「品不足」となっている状態で、もっと政府は国債を発行すべきとき、なのだ(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/51394)。

     「未達」がたいした問題でないことを理解するために、筆者と金融機関勤務経験のある民間投資家のぐっちーさんとの対談(2017年7月20日付け「消費増税なんて必要ナシ!?日本経済の本当の話をしよう」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/52109)を読んでほしい。日本が財政危機でないことを簡潔に説明しており、一般読者にも有益だろう。

     なお、「未達」の問題を世に広めた作家の幸田真音氏は、財務省のお気に入りらしく、政府の各種審議会委員を歴任して、財務省の天下り会社であるJTの社会取締役をやっている(https://www.jti.co.jp/corporate/outline/officer/index.html)。

 いずれにしても、こういう話題がメディアで取り上げられるのは、財務省が必死になって、財政危機キャンペーンを続けている、ということの表れだろう。背景には、是非とも消費増税を進めたいという彼らの意地と焦りがあるのだ。

 さて、先進国と大国が参加するG20は、いまや国際政治の大舞台になっている。来年6月28日及び29日には大阪で開催されるので、これは日本の存在感を世界に示す絶好のチャンスである。その一方で、国内では消費増税に向けた動きが進行中である。来年、G20の後に行われる参院選挙が、国際政治にとっても国内政治にとっても、天王山であるのは間違いない。

【私の論評】トランプが目の敵にしている日本の消費税引き上げを安倍総理は本当に実行できるのか(゚д゚)!

上の高橋洋一氏の記事にもあり、国際的評価が高まる安倍総理ですが、高橋洋一氏が結論ではっきり言わないことがあります。

それは、安倍総理が消費税増税を再延期する可能性です。私自身は、おそらく安倍総理は再延期すると思っています。増税すれば、8%増税のときと同じように、個人消費が再び落ち込み経済が低迷することになるのは明らかです。

そうなると、今後安倍内閣はレイムダックになり、安倍総理の残りの任期中には、憲法改正どころではなくなる可能性がかなり高いです。安倍総理は任期中に憲法改正を実施したいと考えています。いや考えるどころか、それを至上命題としています。

私は、そのような安倍総理が安易に増税するとは、とうてい思えないのです。

憲法改正を別にしても、私は安倍総理は増税しないと思います。

それには、主に3つの理由かあります。まずは、2019年には、4月に統一地方選挙、7月に参議院議員選挙という、2つの大きな選挙があります。これは、消費税を上げることを確約した状態で臨めばかなり不利になるのはわかりきっています。

それと、安倍政権が掲げる軽減税率制度は、頭の悪い財務省が考えたせいでしょうか、とても現実的ではなく、これは各方面からかな不興を買っています。これを本当に実行すれば、嫌がおうでも、安倍政権の評判は落ちることになります。

しかし、これらは、安倍総理が消費税増税を延期する理由の最大のものではありません。最大の理由は、「消費税引き上げには、アメリカのドナルド・トランプ大統領が大反対する」というものです。

トランプ大統領は、日本の消費税は輸出産業への補助金だと見なしています。アメリカが日本に対して貿易赤字を抱えているのは、日本が輸出産業に消費税という名の補助金を出し、消費税のないアメリカで有利にクルマなどを売るからであって、日本はダンピングしているとさえ言っています。

日本では、輸出業者に消費税が還付される「消費税還付制度」があります。たとえば、自動車を1台生産する場合、部品をつくる会社は部品を売ったときの消費税を国に納め、その部品を買って組み立てて製品にした会社は、それを親会社に売るときに消費税を納めます。そうやって、いくつもの会社が払ってきた消費税が、最終的に製品を輸出する企業に還付される仕組みになっています。


本来なら、部品をつくる会社、それを組み立てる会社と、消費税を払うそれぞれの業者にも出されてしかるべきですが、最終的に輸出されるときには輸出業者は免税で、そこにまとめて還付されることになっています。

この輸出業者に還付されるお金は、全国商工新聞によると約6兆円。つまり、消費税徴収額約19兆円のなかで、主に輸出業者に戻される還付金が約6兆円もあるということです。みんなから集めた消費税の約3割は、輸出企業に戻されているのです。

これに対してトランプ大統領は、アメリカに輸出する日本の企業は政府から多額の補助金をもらっていると怒っていて、だからダンピングでクルマなどが売れるのだと考えているようです。消費税を「輸出を促すための不当な補助金」だと非難しているわけです。

そもそも、米国には消費税がありません。州単位では「小売売上税」という消費税に似たような税金を徴収していますが、国としてはないのです。1960年代から何度も消費税導入の議論はされていますが、ことごとく却下されています。

なぜ米国の議会が消費税導入を却下するのかといえば、彼らは消費税というのは不公平な税制だと思っているからです。アメリカには、儲かった企業がそのぶんの税金を払うのが正当で、設備投資にお金がかかるので儲けが出にくい中小企業やベンチャー企業からは税金を取らないという考え方があります。儲かっていない中小企業の経営を底支えし、ベンチャー企業を育てて、将来的に税金を払ってくれる金の卵にしていく。それが正しい企業育成だというのです。

しかし、消費税は、儲かっていても儲かっていなくても誰もが支払わなくてはいけない性質の税金です。さらにいえば、儲かっているところほど相対的に安くなる逆進性を持っているので、アメリカでは不公平な税制だというのが議会や経済学者のコンセンサスになっています。

そのため、これまで米国では儲かっている企業が支払う法人税率が38.91%とバカ高かったのです。ただし、この高かった税金をトランプ大統領は選挙公約通りに下げ、現在は21%程度になっています。

一方で、トランプ大統領は、新たに「国境税調整」を税制改革要素のひとつとして盛り込みました。これは、輸入品には20%の関税がかかり、アメリカ企業が輸出して得た利益は無税になるというもの。貿易面だけで見れば、日本の消費税に当たる要素を持っており、これで日欧などの消費税や付加価値税に対抗しようと考えたのでしょう。

しかし、議会では、公平な税制の機能が不十分で国内消費に低迷をもたらすということで見送られてしまいました。そんななか、日本がさらに消費税を引き上げるということになれば、許せないと思うのは当然でしょう。

9月26日(日本時間27日未明)、ニューヨークでトランプ大統領と安倍首相が会談し、2国間の貿易交渉を始めるという共同声明を発表しました。

9月の日米首脳会談

これについて、安倍首相は「アメリカから要求された自由貿易協定(FTA)ではない」と言い切り、マスコミでは「物品貿易協定(TAG)の締結に向けた交渉」という文字が躍りました。しかし、出された共同声明を見ると、これはFTA以外の何物でもありません。

しかし、政府はあくまで「TAGだ」と言い張り、外務省のホームページでも「日米両国は、所要の国内調整を経た後に、日米物品貿易協定 (TAG)について、また、他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する」という日本語訳を出しています。

ところが、アメリカ大使館の日本語訳を見ると、「米国と日本は、必要な国内手続が完了した後、早期に成果が生じる可能性のある物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する」とあります。さらに、物とサービスの交渉が成立したら「投資に関する他の項目についても交渉を開始する」というのですから、これがFTAでなくてなんなのでしょう。

加えて、アメリカ側は、マイク・ペンス副大統領が「日本と歴史的な自由貿易交渉(Free trade deal)を始める」と明言しています。折しも、この共同声明が出た後に、アメリカ政府は、新しい北米自由貿易協定(NAFTA)で通貨安誘導への報復措置を認める「為替条項」を盛り込んだと公表しました。これは、貿易相手国が為替介入で不当に自国通貨を安くした場合、米国が報復しても文句は言わせないという条項です。

ペンス副大統領は、FTAをの交渉を始めると名言

当然ながら、この「為替条項」は日本とのFTA交渉にも入るはずです。そうなれば、トランプ大統領から「為替操作国」の疑惑をかけられている日本は、「為替条項」で徹底的に痛めつけられる可能性もあります。

トランプ大統領は1日、メキシコ、カナダの首脳と北米自由貿易協定(NAFTA)に替わる新協定に署名しました。大統領はこの協定を「手本」だと自賛。「国有企業への巨額の補助金と為替操作に、3カ国全ての労働者は痛めつけられている。こうした不公正な貿易慣行と闘うための基準を劇的に上げることができた」と述べています。

仮に安倍総理が消費税をあげたとして、トランプ大統領がこれにより輸出企業への補助金が増えたとみなした場合、日本は何らかの形で報復される可能性もあります。

そうなった場合、消費税増税で、個人消費が低迷し、日本国経済はふるわず、国民からの支持が低迷するでしょう。そこに米国による報復措置が日本の輸出企業に課せられた場合、まさに安倍政権は泣き面に蜂で、レイムダック化します。

安倍総理が、トランプ大統領が目の敵にしている日本の消費税の引き上げを断行できるのかどうかは、はなはだ疑問です。

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2018年12月2日日曜日

米、新たな対中関税を90日延期 首脳会談 不公正取引の改善へ協議継続―【私の論評】90日後にトランプは一気に本丸に攻め込み、中国に内部改革と長年の悪行の放棄を迫る(゚д゚)!

米、新たな対中関税を90日延期 首脳会談 不公正取引の改善へ協議継続

中国の習近平主席(左端)との会談に臨むトランプ大統領(右端)=1日

 トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が1日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで会談した。焦点の貿易分野では、米国が来年1月に予定した制裁関税の引き上げを90日延期。中国による知的財産権侵害の改善策に関する協議の継続で合意した。中国は農産物を中心に米国からの輸入拡大も進める。米国は90日以内に中国の改善策に合意できなければ、関税引き上げを実施するとしている。

 トランプ氏は会談後、ホワイトハウスが発表した声明の中で、「米中双方に無限の可能性をもたらす生産的な会談になった」と評価した。会談は20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて実施された。

 声明によると、米中は最大90日間、中国の知財侵害や外国企業に対する技術移転の強要、サイバー攻撃などの改善策を集中的に協議。貿易不均衡の是正に向けて、農産物やエネルギーなど、中国が購入を増やす具体的品目についても詰める。

 米国は知財侵害などの不公正貿易を問題視。中国からの輸入品に高関税を課す制裁を段階的に発動し、これまで中国からの輸入額のほぼ半分に当たる計2500億ドル(約28兆円)分に関税を適用。このうち2千億ドル分の税率を来年1月から現行の10%から25%に引き上げる予定だった。

 米政府は、中国の不公正取引が改善されていないとして、さらに2670億ドル分に対する新たな制裁関税を実施する準備があると表明し、圧力をかけていた。

 外交・安全保障分野では、北朝鮮の非核化問題に関し「大きな進展があった」との認識で米中が一致したとした。また、トランプ氏と習氏が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と朝鮮半島の非核化実現に向けて一緒に取り組んでいくことで合意したとしている。

 トランプ氏はさらに、金氏に対する「友情と敬意」を表明したという。

 一方、トランプ政権が掲げる「インド太平洋戦略」の推進に向けた最大懸案の一つとなっている、中国による南シナ海の軍事拠点化に関しては、声明では言及はなかった。

【私の論評】90日後にトランプは一気に本丸に攻め込み、中国に内部改革と長年の悪行の放棄を迫る(゚д゚)!

2018年G20にあわせて設定されたトランプ大統領と習近平国家主席との米中首脳会談が終わりました。結論としては、上の記事にもある通り、米国側が追加関税導入を90日間猶予するというものです。

中国側はこの期間に、知財保護、技術移転の強要問題、サイバー攻撃などの分野で改善策を示す必要があるとのことです。しかし、これはほとんど無理というものでしょう。

今回の米中首脳会談では、米国側から
トランプ大統領、ナバロ大統領補佐官(通商担当)、ライトハイザー通商代表、ムニューシン財務長官、カドロー国家経済会議議長、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)、ポンペオ国務長官、ケリー大統領首席補佐官、クシュナー大統領上級顧問
中国側から
習近平・国家主席、劉鶴・副首相、楊潔篪・共産党政治局員(外交担当)、王毅・国務委員兼外相、何立峰・国家発展改革委員会主任、丁薛祥・共産党中央弁公庁主任、鐘山・商務相、崔天凱・駐米大使、王受文・商務次官
が出席しました。

今回の会議で注目すべきは、ライトハイザーとナヴァロという超強硬派が出席し、そのうえで協議が一応成立したということです。

対中タカ派のライトハイザーUSTR代表(左)とナバロ国家通商会議委員長

この二人が出席することから、市場ではそもそも協議が成立しない可能性もあるのではないかと懸念されていました。

中国側は90日以内に、知的財産権保護、技術移転の強要、サイバー攻撃、非関税障壁、サービスと農業の市場開放の分野でさらなる改善策を示す必要があります。

90日間で合意できない場合、米国側は中国からの輸入品2000億円分にの関税を25%に引き上げるとしています。

中国は米国から農産物(大豆など)やエネルギー(原油、LNG)、工業製品(航空機など)を輸入することで対米貿易黒字を減らす必要があります。

今回の米中首脳会談の最重要ポイントは、「中国製造2025」への言及がなかったことです。中国製造2025は、中国が国を挙げて産業を保護、育成する政策で、その根幹にあるのが「自前で用意できるものは何でも自前で用意しよう」という思想です。

『中国製造2025』の5大プロジェクト


中国は半導体分野で大幅な貿易赤字を抱えており、これはエネルギー分野における貿易赤字よりも大きいのが実情です。

中国は大量の最新鋭半導体露光装置を導入することで、この輸入に頼り切った状況を打破しようとしています。

中国の半導体メーカー合肥長鑫(睿力集成電路/イノトロン)が、オランダのALMSから7nmプロセス用EUV(極端紫外線)露光装置の調達めざして交渉中とのことです。

ASMLは欧州、オランダの半導体製造装置メーカーです。ASMLが強みとするのは半導体製造装置でも上流部にあたる部分、とくに半導体露光装置(ステッパー、フォトリソグラフィ装置)の業界において世界の最先端を走る企業です。

このことが、米国側の利害と非常に大きな衝突をもたらしています。


今回、この中国製造2025への言及がなかったのは、米国は「製造2025」の根底にある中国が「自前で用意できるものは何でも自前で用意しよう」という考え自体には反対ではないということを示しているのだと思います。

確かに、このような考え方自体は、中国であろうが、他の国であろうが、それは当該国の任意で実施すべきことであり、それに対して反対することは、内政干渉です。

ただし、自前で用意するときに、窃盗とか強制技術移転、その他の不公正な方法で実行することに対しては、米国は断じてこれを許さないとしているのです。

米国側は論点を明確にするために、敢えて「中国製造2025」という言葉を使わなかったのでしょう。

中国側としても中国製造2025の破棄だけは、絶対に応じるわけにいかない部分でした。もし米国側が破棄を要求すれば、首脳会談は決裂していたことでしょう。

それにしても、中国は米国からの工業製品の輸入拡大や農産品の即時輸入開始を約束してやっと、米国から追加関税引き上げの90日猶予を得ました。しかし今から約3ヶ月間、米国の要求に応じて構造改革を断行しなければならないのは中国です。これはほとんど不可能だと思います。

習近平の首の皮の一枚はこれで、一応繋がったようですが、彼に与えられた猶予時間はわずか90日、90日以内に今までの悪行 を改めて米国の要求を受け入れなければ今度こそは「斬首」ということでしょうか。

これは、全く対等の交渉ではありません。まるで戦勝国と敗戦国との暫定的休戦協定のようです。米国の絶対的優位です。

今度の米中合意は貿易戦争の収束や緩和などではなく、前哨戦に次ぐ本戦の開始を意味するものでしょう。中国に追加関税引き上げの90日猶予を与えたことで、トランプ大統領は、この90日間で中国がどのように出るのか見極める腹です。

90日間は短いですが、この期間にすべてはできないものの、どのくらいの期間で何をどのように変えるかとなどは決定することができるはずです。90日後に中国は米国にこれらを、すぐにできることとともに回答することになるでしょう。

トランプ大統領としては、この反応をみてから、一気に本丸に攻め込む勢いで、中国に内部改革と長年の悪行の放棄を迫っていくことになるとみられます。トランプ大統領の戦いはこれからです。

【私の論評】

2018年12月1日土曜日

日米印で中国牽制! 初の3カ国首脳会談で「自由で開かれた太平洋」打ち出す―【私の論評】日米印壕英仏はインド太平洋で中国を迎え撃つ(゚д゚)!

日米印で中国牽制! 初の3カ国首脳会談で「自由で開かれた太平洋」打ち出す

首脳会談に臨む(左から)安倍晋三首相、トランプ米大統領、インドのモディ首相

 日本と米国、インドが「対中包囲網」強化をアピールした。11月30日にアルゼンチンで開幕したG20(20カ国・地域)に合わせて、安倍晋三首相と、ドナルド・トランプ米大統領、インドのナレンドラ・モディ首相は3者会談に臨み、「自由で開かれたインド太平洋」の重要性を確認したのだ。日米印3カ国の首脳会談は史上初で、海洋での覇権拡大を狙う中国への対抗姿勢を打ち出した。

 「日本と米国、インドは(自由、民主主義、人権、法の支配といった)普遍的価値と戦略的利益を共有している。われわれ3人が協力することで、この地域(インド太平洋)と世界にさらなる繁栄と安定をもたらすことができるだろう」

 安倍首相は会談冒頭、こう述べた。

 モディ氏は、日米印3カ国(Japan、America、India)の頭文字を合わせた「JAI」が、インドで「成功」を意味する言葉だと紹介し、緊密連携の重要性を強調した。

 日本と米国、インドの3カ国は最近、協力関係を深めている。

 日本の航空自衛隊は今月、インドのアグラ空軍基地で、同国空軍と初めてとなる共同訓練を予定している。派遣される空自隊員は、同時期に行われる米印両空軍の共同訓練「コープ・インディア」にもオブザーバー初参加する。

3カ国が協力を深める背景には、習近平国家主席率いる共産党一党独裁の中国の存在がある。中国は東シナ海の沖縄・尖閣諸島の周辺海域に公船を連日侵入させ、南シナ海では軍事拠点化を進めている。さらに、スリランカやパキスタンなどインド洋各国で港湾建設を支援し、海軍の寄港地を確保している。ウイグルやチベットでは人権弾圧を続けている。

 自由・民主主義陣営の日米印3カ国としては、放置できないのだ。

 史上初の日米印首脳会談が行われる前には、トランプ政権が行動で、「自由で開かれたインド太平洋」の重要性を示した。

 米海軍のイージス巡洋艦「チャンセラーズビル」が11月26日、中国が軍事拠点化を進める南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島の付近を通過する「航行の自由」作戦を実施したのだ。さらに、米海軍は28日にも、イージス駆逐艦と補給艦の2隻に台湾海峡を通過させた。

 中国は「貿易戦争」中の米国だけでなく、日本とインドからも追い詰められようとしている。

【私の論評】日米印壕英仏はインド太平洋で中国を迎え撃つ(゚д゚)!

この記事の冒頭の記事にもあるように、「自由で開かれたインド太平洋」など、最近「インド太平洋」という言葉が、脚光を浴びています。本日は、なぜそのように脚光を浴びるようになったのか、その背景を掲載します。

5月30日、ハワイの真珠湾で行われた米太平洋軍の司令官交代式  胸に手を当てるマティス国防長官

ジェームズ・マティス米国防長官は2018年5月30日、ハワイの真珠湾で行われた米太平洋軍の司令官交代式に出席し、太平洋軍(PACOM)の名称を同日付で「インド太平洋軍」(INDOPACOM)に変更したと発表しました。

米太平洋軍は、1947年に創設され、米軍が有する9つの統合軍(うち6つの地域別統合軍を含む)の中でも最も古い地域別統合軍で、ハワイ州・オアフ島の海兵隊キャンプ・H・M・スミスに司令部を置いています。

太平洋軍は、当初、アフリカ最南端の喜望峰から米本土の西沿岸までを担任区域としていました。

その後、1983年に中央軍(CENTCOM)、1995年にアラビア海を中心に中東を担当する第5艦隊(5F)、そして2008年にアフリカ軍(AFRICOM)が、それぞれ創設・編成されたことに伴い、関係地域別統合軍との間で担任範囲が調整されました。

現在は、インドとパキスタンの国境から真南に引いた線以東から米本土の西沿岸までを担任区域とし、ほぼインド洋から太平洋全域の北東アジア(5+1地域)、東南アジア(11)、オセアニア(14)、南アジア(6)の36カ国1地域をカバーしています。

このように、太平洋軍は、創設当初から、インド洋を含めて管轄しており、かねてインド太平洋軍への改称が取り沙汰されていました。

マティス長官が演説で、「インド太平洋軍は米西岸からインドまでの広大な地域と密接なかかわりを持つ主要な戦闘部隊である」と述べたように、この改称はまず、太平洋軍の担任地域をより正確に反映する狙いがありました。

さらに、マティス長官は、「インド洋と太平洋の連結性が増していることに鑑み、今日、米太平洋軍をインド太平洋軍に改名する」とも述べました。

米国は、中国が東シナ海、特に尖閣諸島周辺での不法行動を活発化させ、南シナ海を軍事拠点化し、インド洋に向けてシルクロード経済圏構想「一帯一路」を強力に進めているのに対抗するため、日本やインド、オーストラリアなどとともに「自由で開かれたインド太平洋構想」を推進する考えを打ち出しています。

つまり、インド太平洋地域では、今後、中国の覇権的拡大の動きが強まって対立の危険性が増大するとの認識のもと、それに対し地域の連結性をもって対処する必要性が高まったことを受けた措置です。

もともと、アジア太平洋諸国がインド洋から太平洋に至る地域を相互に結びつけて概念化する「インド太平洋」という用語は、2007年にインド国家海洋財団(NMF)会長で海洋戦略家のGurpreet S. Khurana氏が提示したのが初めてとされます。

インド国家海洋財団(NMF)会長で海洋戦略家のGurpreet S. Khurana氏

オーストラリアも、2016年の「国防白書」で「Indo-Pacific region」という用語を使い、自国がインド洋と南太平洋の間に位置し両海洋に跨る「インド太平洋」国家であるとの認識を示し、直近のシーレーンと両海洋へのアクセスが国益に直結することを明示しています。

また、中国の海洋覇権の野望を念頭に、安倍晋三首相が発表した「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、そのようなインド太平洋を維持することにより、地域全体の安定と繁栄を促進することを目標とした戦略指針です。

日本、米国、インドおよびオーストラリアを戦略構築の4本柱(Quadrilateral)として、中国の東シナ海・南シナ海~インド太平洋への侵出抑止に主眼を置いています。

マティス長官は「太平洋とインド洋にわたる同盟国や友好国との関係は、同地域の安定を維持する上で極めて重要だ」と強調しました。

その言葉の通り、米国はかねて、上述の考えを持つ日本やインド、オーストラリアなどと防衛協力などの分野で連携を強化してきました。

このたびの改称は、そうした方針に沿ったものと見ることができ、これからのインド太平洋地域における安全保障取組みのあり方を裏付ける出来事なのです。

伝統的な大陸志向を修正し「海洋国家」を目指すインド

NATO軍最高司令官を務めた経験を持つ、米海軍提督ジェイムズ・スタヴリディスの書籍『海の地政学/Sea Power』では、インド洋を「未来の海洋」と表現しています。これには歴史的意味が込められています。

米海軍提督ジェイムズ・スタヴリディス  TEDより

インド洋は、紀元前3000年以来の長い交易や交流の歴史があり、その間に略奪や襲撃があったのも事実ですが、概して平和な「交易の海」でした。

欧州とインドとの交易が本格化したのは、いわゆる15~16世紀にかけた大航海時代に、ポルトガルの国王マヌエル1世(幸運王) の命でバスコ・ダ・ガマが喜望峰を回り、アラビア人の水先案内人に導かれて 1498年5月インド西岸のカリカットに達し、インド航路が開かれて以来です。

インドが政治的実体としての国の形を成したのは、16世紀の「ムガル帝国」以降とされていますが、安全保障上の脅威は、中央アジアのステップ地帯や現在のイランとアフガニスタンの高原地帯からもたらされました。
 
その脅威が、伝統的にインドを大陸に釘づけにしてきたのです。

今日に至っても、カシミール問題を巡るパキスタンおよび中国との領土紛争や、マクマホンライン(インド東北の辺境地区)を巡る中国との国境紛争が続いています。

そのように、インドは、近年まで外洋に囲まれ陸地に縛られた国でした。しかし、中国が経済力を高め、大規模な艦隊を建設し、インド洋へ侵出するに及んで、インド洋周辺の事情は様変わりしたのです。

中国は、単にインド洋沿岸の友好国に最新式の港湾を作って自国の海上交通路を保護しようとしていると主張するかもしれないですが、インドは「真珠の首飾り」によって包囲されたように感じています。



中印国境紛争などによる脅迫観念と台頭する中国への対抗意識などがその感覚を一層鋭くさせています。

そればかりか、中印は、共に核兵器保有国であり、重複するミサイル射程圏という新しい地政戦略的環境、強いて言えば、「恐怖の均衡」の中に投げ込まれているのです。

インドは、2004(および2009)年に「海洋ドクトリン」(2015年改訂)、2007年に「海洋軍事戦略」、そして2015年に「海洋安全保障戦略」を立て続けに発表しました。

その中で、中国(海軍)は「インド洋地域に戦略的足掛かりを獲得」し、インド洋への進出と域内におけるプレゼンスを拡大しているとの脅威認識を示しています。

そしてインドは、伝統的な大陸志向を修正しつつ、自らを「歴史的に海洋国家」と規定し、インドの安全と繁栄のために「インド洋が死活的に重要である」との立場を明確に打ち出しました。

インドは、海洋安全保障への取り組みの出遅れを取り戻そうと懸命に努力しています。

また、2014年に発足したモディ政権は、南アジア諸国との近隣諸国優先政策を維持しつつ、 「アクト・イースト」政策に基づき関係強化の焦点をアジア太平洋地域へと拡大し、ベトナムや日米との協力関係を強化しています。

インド洋は、西は湾岸諸国からアフリカ東岸、中央はインド亜大陸、東は島嶼部東南アジアからオーストラリアを含む地域で世界の海の5分の1を占めます。

中東には石油の主要供給元があり、ペルシャ湾~アラビア海~インド洋を経て世界へ供給されます。

また、インド洋は世界貿易の東西航路(大きな通商路)となっており、世界のコンテナ輸送の半分、世界の石油関連製品の70%が運ばれています。

さらに海上交通路(シーレーン)を制するマラッカ海峡、ホルムズ海峡、バブエル・マンデブ(マンダブ)海峡、喜望峰などのチョークポイントがあり、まさに世界を動かし、左右する「未来の海洋」と呼ぶに相応しいのです。

今後、ユーラシアやインド太平洋地域の経済の最も強力な牽引役となるのは、台頭著しい中国とインドでしょう。

なおそのうえ、中国とインドの経済圏や勢力圏は、次第に重なり始めています。さらに、富の創造と戦争技術の向上には密接な関係があり、また、軍事ハードウェアとソフトウェアの技術進歩によって地政学的距離が接近します。

そのため、両国の「恐怖」意識はいやが上にも高まり、今後、特にインド洋を舞台にした摩擦や対立の危険性は増大することはあっても、減少することはないと見ておかなければならないです。

「4+2」構想を支える「基地ネットワーク・システム」の構築を急げ!

いま、東シナ海、南シナ海そしてインド洋の帰趨が、インド太平洋地域における安全保障確保の上で最大の課題となっています。

米国は、2010年の「4年ごとの国防計画の見直し」(QDR)において、インドに「安全保障提供者」(net provider of security)としての役割を期待し、インドもこれを引き受けました。

安全保障提供者には、国際的規範と法を遵守し、海軍力に裏打ちされた強い協力関係を維持して「航行の自由」の確保と海洋における国際法レジームの強化が求められています。

その具体的な行動は、プレゼンスと即応、関与、能力構築支援、海洋状況把握(MDA)、海上安全保障行動、排他的経済水域(EEZ)哨戒、共同パトロール、 海賊対処、人道支援・災害救助活動(HA/DR)、 非戦闘員退避活動(NEO)、海上阻止、平和作戦、捜索・救難などです。

インド洋で、インドがその役割を果たすのであれば、東シナ海は日本、南シナ海はオーストラリアと米国が同じ役割を果たさなければならないです。

そして、世界の海を守る意思と能力のある米国のプレゼンスをもってインド太平洋全域をカバーするのです。

南シナ海にオーストラリアとともに米国を加えたのは、「力の空白」地帯である南シナ海に空母機動打撃群を中心とする大きな戦力を展開できるのは米国だけであるからです。

この際、米国は、南シナ海で軍事同盟を結ぶ台湾とフィリピンとの関係を再調整し、また相互基地アクセス協定を締結して、台湾(高雄)、フィリピン(スービック湾)、ベトナム(カムラン湾)そしてシンガポール(チャンギ海軍基地)に基地を確保し、各基地のネットワークを構築すれば、自由に活動できます。

同じように、基地ネットワーク・システムをインド太平洋地域の同盟国・友好国間にも拡大する必要があります。

英南部のポーツマスで、入港した空母「クイーン・エリザベス」を見物に訪れた人々

それもって日米印豪を4本柱とした安全保障体制にインド太平洋地域に重大な利害関係を有する英仏を加えた「4+2」構想の活動を支えれば、この地域における安全保障確保のための課題を解決する有力な応えとなり得るのです。

まさに、日米印壕英仏はインド太平洋で中国を迎え撃つ体制を整えつつあるのです。

一国の外交は、広く国民世論の理解に支えられなければならないです。日本にとって望まし  いインド太平洋像を現実のものとし、将来のアジア戦略の柱としていくためには、日本国 民の間に自らの日本国が「インド太平洋地域」に属しているとの理解と感覚を醸成してい くことも不可欠です。

そのためには、首相をはじめとする政治指導者が、この新しい地 域概念の日本にとっての必要性や妥当性について、国民に語りかけていく努力を強化しな ければならないです。

 政府は、これからの日本にとって、なぜこの新しい地域秩序像が必要とされ、インド洋 方面諸国との関係強化が求められているのかについて、首相による施政方針演説や所信表明演説の機会、さらにはメディアへの積極的な啓蒙活動も利用しつつ、国民に丁寧に説明 し、説得していくべきです。

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2018年11月30日金曜日

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日印関係が実現させる「自由で開かれた」インド太平洋

岡崎研究所

11月12日付のProject Syndicateのサイトに、ニュー・デリーの政策研究センターで戦略研究の教授を務めるブラーマ・チェラニー氏が「インド太平洋民主主義諸国の協和」と題する記事を寄稿している。その要旨を紹介する。

ブラーマ・チェラニー氏

・米国のペンス副大統領のアジア歴訪が始まった。彼は、「自由で開かれた」インド太平洋地域を提唱する。では、自由で開かれたインド太平洋は実現可能なのだろうか。それを実現しようとしているのが、日本である。「自由で開かれたインド太平洋」は、トランプ政権の戦略となったが、もともとは安倍総理に起源がある。

・日本は、中国の力の台頭に対して、地域での存在感を高めて応じている。日本は世界第3の経済大国であり、先端技術を有し、軍事的制限も緩和し、地政学的影響力を強化している。

・海上自衛隊は、領海を超え地域で活動している。例えば、今年9月には、中国が領有権を主張している南シナ海で、日本の潜水艦1隻と駆逐艦3隻が訓練をした。「アジアの安全保障への日本の参加は、域内で益々重要になっている。」とアシュトン・カーター元米国国防長官は述べた。

・しかし、自由で開かれたインド太平洋の実現は、一国でなせるものではない。地域の主要な民主主義国、日本、インド、インドネシア及び豪州の協力が必要である。

・良いことに、安倍総理は、アジアの民主主義諸国が協力する重要性を認識している。例えば、域内の最も豊かな民主主義国と最大の民主主義国との自然な同盟に触れ、「強いインドは日本に利益をもたらし、強い日本はインドに利益をもたらす。」と述べた。最近の日印首脳会談では、物品役務提供協定への道が開かれ、「2+2」の設定や海洋安全保障協力で合意がなされた。また、ミャンマー、バングラデシュ、スリランカを含む第三国でも日印両国が連携することになった。

・日印首脳会談では、「共有された安全保障、共有された繁栄、共有された運命」との新たなモット―が掲げられた。富士山近辺の安倍総理の別荘で歓迎されたモディ首相、その温かな友情の関係は、その2日前に行われた習近平との日中首脳会談とは対照的だった。

・日印関係は、日米印三国の「マラバール」海軍演習でも築かれている。マラバールは、インド太平洋地域の自由航行を守るのに重要なものとなっている。

・幸いに、インド太平洋の主要な海洋民主主義国家、豪州、インド、日本及び米国の関係は、かつてないほど強固である。域内での協力拡大を図るために、「4か国」の構想は、制度化すべきだろう。

・域内の協力に関して、障害もある。1つは、米国の同盟国でもある韓国と日本との歴史問題である。「慰安婦」問題では、2015年の日韓の「不可逆的」合意を現在の文大統領が拒否した。「徴用工」問題でも、1965年の「完全かつ最終的」合意があるにかかわらず、最近、最高裁が日本の企業へ支払いを命じる判決をした。韓国は、歴史を軽視するのではなく、インド、台湾、フィリピンやインドネシアがかつての宗主国とそうしたように、日本と相互利益となる新たな関係を築くべきである。

・インド太平洋地域の民主主義諸国の協和においてもう1つの潜在的障害は、鍵となる諸国の内政の不安定化である。例えば、戦略的な位置にあるスリランカでは、大統領が憲法にない権限を行使して、首相を解任した。

・いずれにしても、日印関係の緊密化は、中国中心のアジアの出現を制止するのに役立つだろう。日本とインドの関係が、域内の民主主義諸国の連携を強化する方向に働けば、自由で開かれたインド太平洋の実現も不可能ではない。

出典:Brahma Chellaney ‘A Concert of Indo-Pacific Democracies’ Project Syndicate, November 12, 2018

 チェラニー氏は、2009年からProject Syndicateに寄稿している。概して、親日的、民主的な論調で、今回の記事は、東京から寄稿している。

 戦略研究家としてのチェラニー氏は、上記記事の中で、幾つか重要なことを指摘している。1つ目は、安倍総理のイニシアティヴである。安倍政権は、上記の日印関係以外にも、日米、日米豪、日米英仏、日英、日仏等とも積極的に共同軍事演習、軍事訓練を行っている。また、今回APEC首脳会談が開催されたパプア・ニューギニアを含むインド太平洋諸国に、能力構築支援を行っている。

 2つ目は、主要な海洋国家、日米印豪の連携を提唱している点である。これは、かつて安倍総理が「ダイヤモンド構想」として、これら4か国の連携を挙げたのと一致する。インド太平洋地域の主要な拠点で、これらの海洋国家が協力できれば、自由で開かれた地域の実現に向けて大きな力になるだろう。

 3つ目は、域内の主要な民主主義国として、日印豪の他、インドネシアを挙げていたことである。インドネシアは、ASEAN諸国の中でも最大の人口を有し、面積も、シンガポールから豪州までにわたる諸島を領土とする。世界最大のイスラム教国家でもあり、共に行動できれば、地域の安定に資するだろう。

 4つ目は、問題点として韓国とスリランカを挙げたことである。現政権ないし大統領が中国寄りなのを懸念しているのが分かる。

 チェラニー氏が特に指摘はしなかったが、地域で重要なのがASEAN諸国である。シンガポール、フィリピン、タイ、ベトナムしかりである。このことは、安倍総理も、モディ首相も、トランプ大統領等も理解している。

【私の論評】共産主義の文明実験を終わらせ、「自由・民主・信仰」をもとにした新しい繁栄の時代を開け(゚д゚)!

トランプ政権主導の下、「自由で開かれたインド太平洋戦略」が着々と進みつつあります。

 「自由で開かれたインド太平洋戦略」とは、太平洋に位置する民主主義国家の連携を強めるという外交戦略で、米国が日本や印度、豪州と協力して推進しています。2016年に安倍晋三首相が提唱した構想を、翌年に発足したトランプ政権が「中国封じ込め」の意図を明確にして大々的に打ち出しました。安倍首相の16日〜17日の豪州訪問も、この一端に位置付けられます。

こうした外交戦略を背景に、米国が本格的に印度を戦略的パートナーに位置づけようとしています。9月初旬には、マティス米国防長官とポンペオ米国務長官がインドを訪れ会談を行いました。

「印度太平洋軍」と名称を変更した「太平洋軍」

これに先立ち5月、米国は、太平洋から東アジア、東南アジア、オセアニア、南アジア、インド洋までを担当するアメリカの「太平洋軍」を「インド太平洋軍」に改称しました。

さらに7月には、インド太平洋地域のインフラ整備などを支援するファンドを設立すると表明しました。1億1300万ドルを拠出し、順次増額する方針を示しています。莫大な投資によって発展途上国への経済的・政治的影響を強める中国に対抗するためのものだと言えます。

こうした流れの中、ブッシュ政権で二期にわたって国務次官を務め、民主・共和両党で政策立案に携わったポーラ・ジョン・ドブリアンスキー氏の寄稿が、8月21日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載さました。

ポーラ・ジョン・ドブリアンスキー氏

同氏は、中国を封じ込めるには米印関係のさらなる強化が急務だとし、印度を次のように評価しました。

「世界で最も人口が多い民主主義国は、中国の覇権主義をとどめる力となり得る」

「真の戦略的パートナーシップは、米国と印度の両国に、とてつもなく大きな利益をもたらす。印度は真に国際社会におけるパワーになる機会を手に入れる。米国は、世界の安全保障の問題に対して一層の協力関係を築き得るような、地域における巨大な同盟国、そして中国への対抗勢力を手にすることができる。永続的な米印のパートナーシップを確立することは、トランプ政権と米国の大きな戦略にとって、形勢を一変するような成功になり得る」

ただ、ドブリアンスキー氏も寄稿で指摘したように、米印関係強化や米印同盟の締結にはいくつかの課題があります。

その中でも特に大きいのが中東諸国との関係です。例えば、イランとの関係が挙げられます。トランプ政権はイランに強硬姿勢を示していますが、インドにとってイランは石油の供給源。米国と手を結ぶことによるイランとの関係悪化は避けたいところです。米印同盟の締結には、"地ならし"が必要となります。

一方、日本は敵対国が少ないため、インドとの関係強化を妨げる障害がほとんどありません。米印の関係強化に時間がかかるのであれば、先に日本と印度で同盟を結び、日本を介して日米印3国の連結を強めるということも視野に入れるべきです。

対中国ネットワークの確立において、日本が果たせる役割は大きいです。トランプ政権と足並みをそろえながら、印度やマレーシア、台湾などアジアの民主主義国家と積極的に関係を強めることが求められます。安倍総理は、実際にそれを目指して、その方向で全方位外交を実践しています。日本では、それをマスコミが報道しないので、多くの人々に知られていないだけです。

そうして、これが成就すれば、中国、特に中国共産党の崩壊は意外とはやいかもしれません。

現在は習近平氏の「終身独裁」体制が中国国内の言論の自由を抑圧している状態ですが、それがどこまで続くかは分からないです。

ソ連のゴルバチョフは85年、3人の党書記長の死を受けて彗星のように登場しました。その後のソ連崩壊までわずか6年。紀元前3世紀の秦の始皇帝の独裁体制がわずか10年余りで打倒されたようなことは十分起こり得ることです。

ミハイル・ゴルバチョフ氏

今は鳴りを潜めている改革者が中国内から出て来て、香港の民主派やチベット、ウイグル、内モンゴルの独立派が呼応し、「一党独裁の放棄」へと動く時機がくることになるでしょう。かつて辛亥革命(1911年)の指導者・孫文を助けたように、日本が次の中国の国家モデルを提案しつつ、支援する準備が今から必要です。

ソ連と同様、「富の力」と「神と自由を求める人々の心」が中国の共産党体制を葬り去るでしょう。トランプ大統領の外交・安全保障政策は「自国ファースト」と見えながらも、全体をつなぎ合わせて見ると、世界新秩序づくりへと向かっています。170年におよぶ共産主義の文明実験を終わらせ、これから数百年の「自由・民主・信仰」をもとにした新しい繁栄の時代を開くビジョンを固めるべきです。

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2018年11月29日木曜日

【石平のChina Watch】中国経済の「10月ショック」 自動車販売台数も落ち込み、「半死半生」に―【私の論評】米国の対中国「冷戦Ⅱ」は確実にボディブローのように効きつつある(゚д゚)!


広州国際モーターショー2018  16日 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

今年10月の中国経済状況を示す、いくつかの重要数字が今月中旬から続々と発表された。そのいずれもが衝撃的なものである。

 1つは、自動車の販売台数に関する数字だ。中国自動車工業協会によると、10月の全国の自動車販売台数は238万台で、前年同月比で11・7%も減った。今年6月以来、自動車販売台数は5カ月連続の前年同月比減となったが、それは、1992年以来初めての異常事態である。

 大型商品である自動車販売台数の激減は当然、中国における消費の萎縮と消費心理の冷え込みを意味する。

 今月11日に行われた恒例の「独身の日セール」は、開始2分で売り上げが100億元(約1630億円)を突破したことで世界中を驚かせた。だが、それは単に、独身者などの消費者が普段買わなければならない生活必需品をセールに合わせてまとめ買いしただけのことであって、消費の拡大や消費意欲の堅調を意味するものではない。

 人々が以前のように自動車を買わなくなったこと、それこそが消費意欲の低減と、将来の経済状況に対する不安の拡大を確実に表しているのである。

 自動車が以前のように売れなくなると、産業全体が受ける悪影響は計りきれない。自動車産業の関連産業の裾野があまりにも広いからである。

 さらに、中国の産業全体の萎縮を表す、もう1つの重要数字も出てきた。

 中国の中央銀行である人民銀行が今月13日に公表した統計によると、10月中に各金融機関から貸し出された新規融資の総額は、6970億元で、9月の1兆3800億元と比べれば、半分程度に減った。

 一国の経済の中で、新規融資減少の理由が、国の行う金融引き締めであることは多いが、今回の場合はそうではない。アメリカとの貿易戦争開始以来、中国政府はむしろ経済刺激のための積極的な金融緩和政策を実施してきている。それにもかかわらず、10月の新規融資が半分以上も激減したことは、まさに異常事態である。

 さらに問題となっているのは、10月の新規融資の内訳である。貸し出された6970億元の新規融資のうち、80%以上は個人向けの融資であって、企業向けの融資は約2割でしかない。

 このことが意味するところは実に大きい。要するに中国国内企業の大半は、銀行からお金を借りて生産拡大や設備投資を行おうとは、まったくしていない、ということである。

 政府が金融緩和を断行しても、銀行が「お金はいくらでも貸すよ」と言っても、企業は興味を全然示さない。それでは中国の産業が停滞しているというよりも、もはや「半死半生」のような状態となっていることを示している。

 産業の停滞と関連して、中国の税収も大幅減となった。中国財務省(財政部)が15日に公表した数字によると、10月の全国一般公共予算収入は前年同月比で3・1%減り、そのうち、一般公共予算収入の大半を占める税収入は前年同月比で5・1%減ったという。

 税収の大幅減は中国政府にとっての深刻問題であると同時に、税収源となる企業活動と個人の消費活動の低迷を意味している。

 以上のように、今の中国で、個人消費と企業活動の両方が急速に冷え込んでいることは明らかだ。

 今後、消費の低迷はより一層の企業活動の萎縮を招き、企業活動の萎縮は失業の拡大や賃下げを生むことによって消費のさらなる低迷を招くという悪循環が生じてくるのであろう。中国経済のますますの沈み込みは、もはや避けられない。

【私の論評】米国の対中国「冷戦Ⅱ」は確実にボディブローのように効きつつある(゚д゚)!

ブログ冒頭の石平氏の記事は、10月の統計数値をもとに分析を行っています。ここでは、上半期の数字から読み取れることを掲載しようと思います。

中国国家統計局のデータによると、2018年上半期の全国社会消費品小売総額は18兆18億元(約300兆円)、前年同期比9.4%のプラスでした。この数値はこれまで、ほとんど10%から12%の間におさまり、失業率と並び、最も動きの少ないデータでした。しかし昨年の12月以降は下落基調となり、2ケタに届かなくなってきました。消費は減速しているようです。項目別に動向を見てみます。
伸長率トップ5化粧品14.2%、日用品類12.6%、石油及び製品類11.9% 家用電器・音像器材類10.6%、通信機材類10.6% 
伸長率ワースト5自動車類2.7%、文化事務用品6.6%、金銀宝石類7.4%、建築及び内装材料8.1%、酒煙草類8.9%
どれをとっても大差なく、消費のダイナミズムは伝わってこないです。ただ実物商品ネット通販売上だけは、3兆1277億元、29.8%の大幅増です。ただしこれも、ここ数年30%台前半で推移し、ほとんど変わっていません。

このように、上半期からすでに、中国の個人消費は落ち込んでいました。中国国内の一部の専門家は、個人消費の低迷を示す「リップスティック効果」現象が、中国で現れているとの見解を示しました。

「リップスティック効果」とは、経済が厳しい時代になると女性は「安価な贅沢品」、とくに口紅に代表される化粧品を好んで消費する、という説のことです。

アメリカの学者たちは、進化心理学的な観点から「女性は厳しい環境におかれると、優秀な男性を手に入れるために自分の容姿を飾り、魅力をアップさせるようなアイテムを求める傾向がある」とこの現象を説明しています。



中国国家統計局の公表によると、18年上半期の社会消費財小売総額は18兆18億元で、前年同期比9.4%増となりました。2004年以来の低水準だ。また、物価上昇要因を除いた実質の上半期社会消費財小売総額の伸び率は7.7%にとどまりました。1995年以来の最低水準となった。

項目別の消費動向をみると、上半期において消費が最も拡大したのは化粧品です。同14.2%増となりました。伸び率の2位は日用品類で、同12.6%増。石油および石油製品類は同11.9%増と3位になりました。

一方、自動車の消費は不振となりました。伸び率はわずか同2.7%増です。

ここで、一つ注意しておきたいのは、日本の感覚では2.7%増は決して悪くないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、経済成長が著しかった中国では二桁成長も珍しくなく、2.7%の伸びは、伸びがあまりに少なく成長したとは捉えられないのです。

経済成長そのものも、従来は「保八」という言葉があり、これは政府が保証するGDPの伸び率でした。発展途上の中国においては、少なくともGDPの伸びが8%くらいないと、雇用を吸収しきれず、政府としては8%の経済成長を人民に約束するという意味合いで「保八」という言葉が生まれてたのです。

現在の中国は、ここ数年「保八」を守れていません。

過去の中国では経済成長8%を約束し、実際に守ってきたがここ数年は守れていない


中国金融情報サイト「金融界」は8月12日、証券会社「海通証券」チーフアナリストの姜超氏の評論記事を掲載しました。姜氏は、6月中国の選択的消費の縮小と必需的消費の拡大が、リップスティック効果の現象だと指摘しました。

自動車や家電、家具、外食など、生活上に必ずしも必要ではない選択的消費の6月の伸び率はマイナス0.3%で、2002年以来の低水準。一方、食品や日用品などの生活上で必要不可欠な商品、必需的消費の伸び率は11.9%で、14年以来の高水準となりました。

また、リップスティック効果の恩恵を受ける中国映画市場の興行収入額では、8月5日に400億元(約6500億円)の大台を突破しました。中国メディアは「過去最速だ」としました。

中国の映画興行収入の推移

専門家は、現在中国株式市場が低迷している一方で、漬物やインスタントラーメンの生産企業の業績は拡大していると指摘しました。

前述の姜氏は、現在元安・株安、当局の住宅価格抑制政策で個人資産が減少したことと、国内経済失速による所得減少の見通しが、消費低迷の主因との見解を示しました。

この記事の、冒頭の石平氏の記事では、「アメリカとの貿易戦争開始以来、中国政府はむしろ経済刺激のための積極的な金融緩和政策を実施してきている」と述べていますが、これはそうでもないところがあります。

中国人民銀行(中央銀行)は10月7日、金融機関から預金の一定割合を強制的にあずかる預金準備率を15日から1・0%引き下げると発表しました。大型商業銀行の預金準備率は15・5%から14・5%に下がる。引き下げは今年に入り3回目。人民銀は7500億元(約12兆4千億円)を市場に供給する効果があるとしています。

中国では米国との貿易摩擦が激化するなか、景気の先行き不透明感が強まり、上海の株式市場は年初から15%下落。人民元の対ドルレートも9%程度下がっています。人民銀は準備率引き下げで零細企業などへの貸し出しを強化し、実体経済を下支えする狙いです。

ただし準備率引き下げが金融緩和とみなされれば、人民元の売り圧力が強まり、資金流出が加速する恐れもあります。このため人民銀は「金融は穏健で中立的であり、通貨政策の方向性に変更はない」と説明。「今回の措置は流動性の不足を補うもので、金融緩和ではない」としています。

中国当局は7月の共産党政治局会議などで、「穏健で中立」としてきた金融政策について「中立」を削除するなど緩和方向に修正しましたが、過度な元安への警戒感も高めているといいます。

本当は、このような状況であれば、量的緩和をすれば良いのでしょうが、それを実行すると海外への資金流出が加速してしまう恐れがあるので、預金準備率を下げるという、あまり効果の期待できない方法しか実施できないというのが実体です。

今後も、大規模な金融緩和ができない状況が続くことが予想されます。そうなると、やはり個人消費の伸びは期待できないです。

さらに、財政政策に関しても、中国国内の公共投資によるインフラ整備は一巡して、国内の整備は終わったため、中国は一帯一路で海外に投資しようとしていますが、このブログでも掲載しているように、これはうまく行っていません。

そうなると、国内の消費低迷に関して、大規模なマクロ政策を打つことはできず、今後も個人消費が回復する見込みはありません。

上半期は、米国の貿易戦争による悪影響はまだ少なかったと考えられます。上の記事で石平氏が示すように、10月の数値も良くなかったということですから、今後ますます個人消費が低迷していくのは必至のようです。

やはり、米国の冷戦Ⅱは、じわりじりとボディーブローのように効き始めているようです。

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2018年11月28日水曜日

今も残る「ロスジェネ」の苦境…正社員比率や賃金に世代格差 90年代の政策は非難に値する―【私の論評】本当の愛国者は、子どもは私達の未来であることを片時も忘れない(゚д゚)!




 このところ雇用は急速に改善しているが、デフレやバブル崩壊後の不況で、「就職氷河期世代」と呼ばれた1970年~82年ごろに生まれた人たちの雇用や給与なども改善しているのか。そして、個別の政策的な手当は必要なのだろうか。

 池井戸潤氏の経済小説には、「バブル世代」の半沢直樹と「ロスジェネ(ロスト・ジェネレーション)」の森山雅弘が登場する。そこではロスジェネは厳しい就職戦線を勝ち抜いてきたので、有能な社員として描かれている。

 ただし、就職できなかった人の物語はほとんどないのではないか。筆者の知っているロスジェネには、就職に苦労して非正規の渡りを繰り返して現在に至っている人もいる。

 一般的な人は、日本企業に正規社員で採用されると、当初の給料は低いが、40歳ごろにはそこその水準に上昇することが多い。ところが前述のロスジェネのように最初の就職に失敗すると、この賃金上昇カーブの恩恵を受けられない。

 40代になると、中途採用を受け入れる企業も少ない。一般的な日本企業では、50代前半で賃金はピークになるので、40代は人件費コスト高なのだ。

 ロスジェネの後には、「ゆとり世代」がくる。2002年から10年に改訂されるまでの学習指導要領に基づく「ゆとり教育」を受けた1987~2004年生まれを指す。

 ゆとり世代の前半部分は、リーマン・ショックと民主党時代の雇用政策の無策を受けて、就職はやはり困難だった。しかし、アベノミクスの雇用環境の改善から、かなり救済されている。この点で、ロスジェネとは好対照だ。

 労働力調査で各年齢階級の正社員比率をみると、25~34歳は17年が74・16%で、18年(9月まで)が74・97%。35~44歳が71・45%と71・11%、45~54歳が67・73%と67・81%だ。

 ロスジェネにあたる35~44歳では正社員比率が低下しているが、その前後の世代は上昇しているという状況だ。たしかに、ロスジェネは苦しい。

 次に賃金構造基本統計をもとに各年令階級の正社員賃金をみると、25~34歳は16年が26万2100円、17年が26万2700円、35~44歳は32万9000円と32万8100円、45~54歳が38万9900円と38万6300円だった。25~34歳は上昇しているがが、35~44歳と45~54歳は低下している。ここでも、ロスジェネは苦しい。

 一方で、データを見る限り、他の年齢階級と顕著な差があるわけではないことも分かる。となると、個別の政策的な手当が必要かというと、疑問である。ロスジェネの実例を挙げて苦境をリポートすることは難しくないが、それが統計データとしてひどい格差とはいいがたいからだ。

 とはいえ、1990年代の就職困難な状況を招いたマクロ経済政策の不在、特に引き締め基調の金融政策は、十分に非難するに値する。雇用の確保は政府として当然の責務だと筆者は考えているからだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】本当の愛国者は、子どもは私達の未来であることを片時も忘れない(゚д゚)!

ロスジェネについては、上記の高橋洋一氏の記事ではあまり説明していないので、ここでその意味や特徴等について掲載しておきます。

ロスジェネ」は「ロスト・ジェネレーション」の略です。つまり失われた世代という意味になります。

この「ロスジェネ世代」にあてはまるのはバブル崩壊後から約10年間の期間に就職活動をした人たちのことです。つまり、1970年~1982年頃に生まれた世代がそう呼ばれているのです。年齢でいうと、現在48歳〜36歳くらいです。


「バブル景気」と呼ばれた好景気の急激な後退が起こったのが1980年代後半になります。それまで高騰し続けていた株価や地価が下落に転じたのです。

そもそもバブルが崩壊する前に日本がバブル景気に入ったのには円安を武器に輸出産業で大幅な黒字をあげるのに対し、自国の製品が売れず大幅な貿易赤字に陥っていた米国が円高に誘導するべくプラザ合意を締結したことにありました。

プラザ合意によって1ドルが約250円から1年後には約150円まで円高が進んだのです。輸出産業にとって大きな打撃となり一時的な不況に日本はみまわれました。

この状況を打破するために当時、日銀が行ったのが金融緩和政策で、企業にお金を貸し出す時の金利を下げたのです。企業はこぞってお金を借り、株や土地に投資するようになりました。当時は「土地を買えば必ず儲かる」といういわゆる土地神話が信じられており、不動産をみんなが欲しがりました。結果、不動産価格は上昇し続けたのです。

また、金利が安いうちに買っておこうという考えから株価も高騰します。消費が活発なこの状態がバブル景気です。ただし、この頃土地や株などの資産価格は上昇していましたが、一般物価はさほどでもなく、インフレとはいえない状況でした。

ところが、日銀の官僚があまりに馬鹿で、統計のまともな見方すら理解せず、このバブル景気は一般物価を下げないと収まりがつかないと信じ込み、あろうことか金融引き締めに走ります。

また、この時期にど愚かな財務官僚も、経済統計などまともにみることができずに、何かと緊縮財政に走りました。

そのため、金利が上がったことでお金が借りづらくなり不動産は買い手がつかなくなり、株価も急速に下がっていきました。

多額の資金を借り入れていた企業が続々倒産し、不良債権の山となり銀行の経営すら危うくなりますした。一般社会にもボーナス減少、リストラなどの影響を及ぼし急激に景気は後退しました。これが「バブル崩壊」です。

このような状態であれば、通常ならば財務省は積極財政、日銀は金融緩和をするのが正しい対応ですが、なぜか日銀と財務省の無能官僚どもは、緊縮財政、金融引締めにあけくれました。

この誤謬も数年ですめば良かったのですが、それ以降日本はデフレ状況に陥り、愚かな官僚どもは、本来なすべきことをなさず、緊縮、引き締めを20年にもわたって繰り広げ「失われた20年」と呼ばれる長い経済停滞の時代に突入しました。中でも、バブル崩壊から10年間は特に景気が悪く、企業における新入社員の採用意欲も下がりました。

この就職氷河期という厳しいタイミングで就職活動をすることとなった人たちが「ロスジェネ世代」なのです。

バブル崩壊後の不景気の最中に就職活動をしたロスジェネ世代の正社員には他の世代にはない特徴があるとされています。

まずは、仕事に対する姿勢についてです。当時の社会的な背景から厳しい戦いになることを分かった上で就職活動に臨んだ彼らはより専門的な知識であるとかスキルといった自分の強みになるものを身に着けることに対して一生懸命である傾向があります。

仕事にありつけることの難しさを知っているからか、仕事に対してとても前向きな人が多いのです。指示に対しても忠実な世代であると言われています。

もちろん個人差はありますが、考え方にも特徴があります。バブル世代という浮ついた雰囲気が一変する瞬間を目の当たりにしてきたロスジェネ世代には将来を悲観的に考えてしまう傾向が強いようです。

将来への不安から収入を貯蓄に多く回す人が多いのもその考え方によるものであると言えるでしょう。結婚に消極的な人が増えたのもロスジェネ世代以降です。

考え方についてはネガティブな印象が強いようですが、一方でロスジェネ世代は優秀な人材が多い世代でもあります。非正規雇用で働き続けなければならなくなった人も少なくないタイミングで正規採用を勝ち抜いたという事実はその実力の高さを証明していると言うことも可能です。

また、希望する企業よりもワンランク落として就職活動をした人が多いのも優秀な人材が多いと感じさせる要因の1つと言えます。

これらの事からロスジェネ世代は、考え方はやや慎重すぎることがあるのですが、仕事に熱く、スキルも確かな人が多い世代と考えられます。

ただし、これはあくまで正社員として雇用された人たちのことです。普通に大学を卒業して、普通に就職活動をしてもなかなか正社員になれなかった人が多いというのもこの世代の特徴です。

しかし、以上は私の感覚のようなものです。実際に数字はどうなっているのか、確認してみます。これには、田中秀臣氏の以下の記事が大いに参考になります。
雇用大崩壊を経験した「ロスジェネ」はあれからどうなったか
田中秀臣氏


この記事から下に一部を引用します。
 非正規雇用の増加とそれに伴う経済格差拡大の「象徴」としてロスジェネ世代が取り上げられることを、今日でもしばしば見かける。40代の給与減少の報道もその関連で行われたのかもしれない。

 だが、10年前に比べると、ロスジェネ世代の雇用状況はかなり改善している。失業率の低下はすでに説明した通りだ。ここでは正規雇用者数と非正規雇用者数の変化をみてみよう。

 まず、筆者が『雇用大崩壊』を出版した2009年、ロスジェネ世代の雇用状況をみると、男性の正規雇用は599万人、非正規は90万人だった。女性の正規は303万人、非正規は219万人であった
 ロスジェネ世代は、今やだいたい35歳から44歳になっている。この世代を2018年4月と5月の平均値で考えると、男性の正規は649万人で、09年に比べて50万人増加し、非正規は24万人減少して66万人になっている。一方、女性の正規は290万人で、09年に比べて13万人減少し、非正規は88万人増加して306万人となっている。

 女性の非正規雇用の大幅増加は、主婦層がアルバイトやパートなどを始めたことで、求職意欲喪失者層から非正規層に流入したことが主因だろう。この場合、家計の所得補助となる可能性が大きく、世帯的にはむしろ所得の安定に寄与する。それゆえ、非正規の増加がそのまま所得の不安定化をもたらすと考えるのは間違いである。

 さらに注目すべきなのは、ロスジェネ世代で正規雇用が10年前に比べ、男女合計で31万人増、率でいうと3・3%大きく増加したことだ。増加に伴って、男性の非正規雇用も大幅に減少し、10年前と比べて約27%減少している。

 この正規雇用の増加により、いわゆる「ニューカマー効果」を生み出すだろう。非正規層や求職意欲喪失者層にいた人たちが正規層に入っても、そこで同じ世代の人たちが従来手にしていた待遇と同レベルのものを得ることは難しいだろう。要するに、給与が抑えられる可能性が大きいのである。この雇用改善と平均賃金の低下の関係性をニューカマー効果という。

 ただし、経済の安定化が継続すれば、やがて平均賃金も上昇していくことを注意しなくてはいけない。このニューカマー効果が、冒頭で言及した40歳代の給与が5年前と低下した可能性を、ある程度は説明できているかもしれない。いずれにせよ、ロスジェネ世代の雇用環境は大幅に改善していることだけは確かなのである。

 それでは、ロスジェネ世代の象徴といわれた経済格差はどうだろうか。経済格差を示す指標である「ジニ係数」をみてみると、2009年と比べれば、世帯主が40歳代の世帯でも、30歳から49歳までの世代でも低下している。つまり、経済格差は改善しているのである。

 これがさらに継続しているかどうかは今後の調査をみなければいけない。だが、拙著でも言明したが、ロスジェネ世代による経済格差が雇用改善とともに縮小するのは大いにあり得る事態である。
 もちろんロスジェネ世代が生み出されたのはこの世代の人たちのせいではない。すでに指摘したように、政府と日銀の責任である。そして、さらなる改善もこの二つの政策に大きく依存しているのである。 
 また、ロスジェネ世代が、マクロ経済政策だけでは改善できないほど生涯所得が落ち込んだり、所得の落ち込みが将来の年金など社会保障の劣化を招くとしたら、今まさに積極的な社会保障政策を先行してこのロスジェネ世代に活用することも必要だろう。あくまで、まだ議論されている最中だが、ロスジェネ限定のベーシックインカム(最低所得保障)の早期導入も考えられるのではないか。
今後、雇用が改善されていくという時期に、入管法が改正されました。これによって、どの程度ロスジェネ世代に影響がでるか未知数なところがあります。

いずれにしても、ロズジェネの障害所得が落ち込んだり、所得の落ち込みにより、将来大きな影響があると予測される場合は、やはり田中秀臣氏が主張するように、抜本的な手を打つ必要があるでしょう。

無論、資金的手当だけではなく、雇用のミスマッチの是正策も実施すべきです。人は、経済的に満たされればそれで満足というわけではありません。尊厳というものがあります。それは、働いて人の役に立っているという実感がなけば、なかなか満たせるものではありません。

今後弊害がでてきたとき、これをそのまま放置しておけば、ロスジェネだけの問題ではなく、他の年齢層の人々も大きな悪影響を及ぼすことは必至です。

それに、高橋洋一氏が語るように、確保は政府として当然の責務であり、雇用面で著しく不利益を被った層への救済もそうであると思います。ある世代だけが、著しく不利益を被るということは許されることではありません。

最後に、以前このブログにも掲載した。ルトワックの言葉を掲載します。これまでで述べたこととはちょっと趣が違いますが、日本にとって大切なメッセージでもあると思います。
私は日本の右派の人々に問いたい。あなたが真の愛国者かどうかは、チャイルドケアを支持するかどうかでわかる。民族主義者は国旗を大事にするが、愛国者は国にとって最も大事なのが子どもたちであることを知っているのだ。
愛国者は国とってもっとも大事なのが子どもたちであることを知っている

全くそのとおりだと思います。無論国旗を大事するなと言っているわけではありません。子どもとは、私達の未来であるということを言っているのです。それも、間近な未来なのです。たとえ、どのような仕事をしていたとしても、何に興味があろうと、政治信条がどのようなものであれ、子どもたちにとって良い国、社会をつくることこそが、私達大人の最大の任務なのです。 

もう、すでに起こってしまったことは、消すことはできません。そのため、ロスジェネ世代の人たちが、マクロ経済の改善だけでは生涯賃金において他世代よりもかなり低くなるということでもあれば、何らかの形で埋め合わせをすべきです。

そうして、現在の子どもたちが、大人にになって就職する頃には、「就職氷河期」などがあってはならないです。そのようなことをなくすのが、私達大人の責務です。それは、無論経済面はもちろん、安全保障面でも、尊厳の面についても、私達のせいで将来の子どもたちの住む社会が毀損されることがあってはならないのです。

そのために、私たちは日々働いているのだということを片時も忘れるべきではないのです。それを大半の人が忘れたとき、国の衰退、衰亡が始まるのです。

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2018年11月27日火曜日

「いずも」空母化やF35B導入、防衛大綱に明記へ=関係者―【私の論評】日本は「いずも」空母化で、中国の尖閣奪取の野望をくじき、南シナ海での航海の自由を守る(゚д゚)!

「いずも」空母化やF35B導入、防衛大綱に明記へ=関係者

空母化が予定されている「いずも」 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

政府は12月中にまとめる新たな「防衛計画の大綱」に、海上自衛隊の「いずも」型護衛艦の事実上の空母化や搭載する最新鋭のステルス戦闘機「F35B」の導入を明記する方向だ。政府関係者が明らかにした。

 与党内では、航空自衛隊が保有するF15戦闘機の後継として次世代ステルス戦闘機F35のA・B型を計100機、計1兆円程度購入する案も浮上。財政支出膨張に歯止めをかけたい財務省などとの綱引きが激しくなりそうだ。

 岩屋毅防衛相は27日の閣議後会見で、いずも型護衛艦について「せっかくある装備なので、できるだけ多用途に使っていくことが望ましい」と表明。F35Bの導入についても「短い滑走路で離陸できる性能を持った航空機だ。航空機体系全体をどうするかの一つとして検討している」と述べた。

 自民党が5月に示した防衛大綱に向けた提言では、いずも型護衛艦を空母化改修する「多用途運用母艦」とF35Bの導入が盛り込まれ、大綱および同時に策定される、今後5年間に自衛隊がそろえる装備品や費用を示す中期防衛力整備計画(中期防)での焦点となっている。

F35B

 従来の政府見解では、遠方に攻撃型の戦力を投入できる空母の保有は日本が掲げる専守防衛との整合性を問われる可能性があるとされていたが、今回の防衛大綱の作成時に論点を整理する。

<次世代ステルス機100機・1兆円購入案、与党内で浮上>

 自衛隊は現在200機保有するF15の半分を改修する予定だが、改修に適さない残り100機の取り扱いも焦点となっている。

 与党議員の中では、中国、ロシアの航空戦力が拡充される中で「F35のA型であれば60機程度でF15・100機相当の防空能力がある」として、A型を60機、垂直着陸が可能で空母搭載に対応したB型を40機の計100機の購入が望ましいと主張する声がある。

 政府が100機購入を決定した場合、来年1月から始まる日米通商交渉での有力な交渉カードになる可能性があるとの声が政府・与党内にはある。

 トランプ大統領は今年9月の日米首脳会談直後に「私が『巨額の貿易赤字は嫌だ』と安倍首相に言うと、日本がすごい量の防衛装備品を買ってくれることになった」と表明。日本の防衛装備品購入に期待している。

 トランプ政権は年間7兆円の対日貿易赤字削減を繰り返し主張しており、日本に対して「(赤字削減には)自動車輸出削減や自動車の米国生産拡大、米国からの輸入拡大の全てが必要」(ハガティ駐日米大使)と明言している。

【私の論評】日本は「いずも」空母化で、中国の尖閣奪取の野望をくじき、南シナ海での航海の自由を守る(゚д゚)!

なぜ、日本は「いずも」を空母化して、軽空母を作ろうとするのでしょうか。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【アジアを先導する日本】台湾海峡を中国から守る“主役”は日本 日台、中国共産党の野望を打ち砕くソフトパワーに―【私の論評】「いずも」の空母化は、中共の野望を粉微塵に打ち砕く(゚д゚)!
中国初の国産空母。昨年4月26日水曜日に中国・大連で行われた進水式にて
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では日本がなぜ軽空母を持とうとする理由を以下の三点に絞って説明しました。
1中国空母を陳腐化 
2中国艦隊戦力の更新強要 
3中国潜水艦戦力の更新遅滞
さらにこの記事では、結論として以下のように掲載しました。
日本が軽空母を数隻持ち、交代で台湾海峡を航行するようになれば、どういうことになるでしょうか。中国共産党の野望を打ち砕くソフトパワーとともに有効なハードパワーにもなります。 
さらに、米国の空母も台湾海峡を不定期なが、航行させ、さらに日本の軽空母とともに、5隻程度の空母とともに、台湾海峡で大規模な軍事演習など行えば、中国は極度のプレッシャーにされされることになり、対抗上空母開発とともに海軍力の再構築に追い込まれることになります。 
だからこそ、中国は「いずも」の空母化を極度に恐れているのです。「いずも」の空母化と、さらなる親密な日台関係が、中国共産党の野望を打ち砕く巨大パワーとなるのです。
さて、今回は「いずも」空母化で、日本は何ができるようになるのかをまた別の角度から掲載しようと思います。

安倍晋三首相は、「今までの憲法の枠内で何ができるか」という発想を持っていますが、「トータルの日本の防衛力はどうあるべきか」という戦略も考えているようです。いずもの空母化は、筋の通った話だと思います。というのも、自衛隊は、陸海空の統合運用を目指しています。これを統合戦闘能力と言います。

この統合戦闘能力において、いずもの空母化は、どういう意義があるかといえば、まず「尖閣諸島を守るため」という意義があります。

現在、沖縄の那覇基地にあるF15戦闘機が、尖閣諸島上空の防空に当たっています。しかし、尖閣諸島上空到達までに30分かかります。燃料の搭載量には限界があり、1時間強ほどしか防空任務に就けません。往復1時間かかるとなると、実際の戦闘時間は極めて短いわけです。戦闘時には燃料を最大限に使うので、5~10分しかもちません。

そこで、戦闘機を載せた「いずも」が、尖閣付近にまで近づくというわけです。そこから、発艦すれば、戦闘機の防空任務にさける時間が大幅に増すことになります。

陸上自衛隊の水陸機動団が今年3月27日に、佐賀県で発足したばかりですが、これはアメリカの海兵隊を見習ったものです。水陸機動団は、尖閣が奪われたら、艦船やオスプレイで上陸部隊を運び、逆上陸して奪い返します。

水陸機動団

しかし、上空の安全が確保されてないと、オスプレイはすぐに撃ち落されるので、海と空が一体となった作戦を実施できなければ、尖閣は守れません。統合戦闘能力を向上させる一環として、「いずも」の空母化が持ち上がったわけです。

また長崎県佐世保には、海兵隊が運用している「ワスプ級強襲揚陸艦」という軽空母が配備されました。これは、いずもと似ていて、F35Bが搭載でき、海兵隊の作戦を上空から支援する目的があります。日本は、これを真似ているわけです。

いずもに搭載できるF35Bは、ステルス戦闘機であり、攻撃機です。F35Bには、導入が検討されている空対地・対艦ミサイル「JSM」を搭載できます。

日本はすでに類似したミサイルを持っていますが、射程は120~130キロの範囲です。F35Bに、それよりも遠くから発射できるJSMを搭載することで、攻撃の「長射程化」を図り、尖閣をガッチリと守るつもりです。あくまでも、日本周辺に侵出してくる艦艇やミサイル発射台などを叩くことが目的です。

将来的には、尖閣防衛のためだけでなく、北朝鮮や中国などの脅威を取り除くために、F35Bを投入することもありえます。

さらには、南シナ海での航海の自由を守ることも、想定できるとは思います。つまり、シーレーンの防衛です。しかし、いずも自体に自分を守る防御能力はないので、イージス艦のような盾になる艦艇とセットでないと、南シナ海に行かせることはできません。

ただ、いずもは改修しても、戦闘機を最大14機しか運用できません。アメリカのワスプは20機くらい載りますので、それと比べると能力は落ちます。相手の戦力によりますが、いずも1隻では足りません。いずれは、2~4隻体制になるでしょう。

私は政府はもともと、いずもを空母化しようと考えていたのでしょう。少しずつ進めて、いつの間にか空母をつくるという、なにやら中国のサラミ戦術のようなやり方です。いきなり空母を建造するというより、小出しにして少しずつ実施すれば、マスコミなどから叩かれないという考えなのでしょう。政府は、空母の必要性について、正面から国民に説明すべきです。

米国は、11隻の原子力空母を保有していますが、日本もいずれは、原子力空母を持つべきです。ただし、原子力空母の建造には、日本は一切手をつけていないので、かなり時間がかかるでしょう。

おそらく、米国から買った方が早いです。持つべきだとは思いますが、10年~20年かかることでしょう。原子力空母は、燃料を入れなくて良いのですが、5~10年ごとにオーバーホールして核燃料の交換をしないといけませんので、経費も相当かかります。金と時間の面で融通が利きづらいです。

それに、原子力空母は一度燃料を入れると、その後は廃艦になるまで、燃料を入れなくもすむという利点はありますが、乗員は乗りっぱなしというわけにはいかず、交代する必要があるのと、水・食料補給、装備品の補給などで、原子力空母といえども、定期的にいずれかの港に寄港しなければなりません。

それを考えると、日本は原子力以外の既存のエネルギーを用いた省エネ型の空母をつくり、原子力空母の寄港頻度と同じくらいの頻度ですむような空母をつくることができるかもしれません。なにしろ、日本は省エネ技術では世界トップクラスなのですから。

しかし、まずは「いずもクラス」の軽空母を持つことで、当面の中国を含む周辺国への存在感はかなり高まります。

特に、中国に対するインパクトは相当のものになるでしょう。まずは、当面尖閣奪取の野望をくじくことになるでしょう。そうして、南シナ海での航海の自由を守ることにも寄与することになるでしょう。

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2018年11月26日月曜日

グローバル企業時代の終焉!? 加速する「自国第一主義」の流れとは? 国際投資アナリスト・大原浩氏が緊急寄稿―【私の論評】今後の世界は、自由で公平な貿易をしつつも、国民国家を主体とした体制に戻る(゚д゚)!


カルロス・ゴーン

カルロス・ゴーン容疑者(64)の逮捕で表面化した日産自動車と仏ルノーの主導権争いは、グローバル企業にも越えられない「国境の壁」が存在することを明らかにした。一方、韓国の自称・元徴用工の異常判決は、国家間の約束も反故にされることを示す。国際投資アナリストの大原浩氏は寄稿で、グローバリズムのひずみが生じているとして、「自国第一主義(国民ファースト)」の流れが強まると指摘する。

 ゴーン容疑者逮捕のニュースは世間を騒がせた。色々な憶測が飛び交うが、ことは個人の脱税問題などにとどまらず、場合によっては日仏の覇権争いにまで及ぶのではないだろうか。ゴーン容疑者がフランス(国民)の利権を擁護し、日本(国民)の国益を害する行動をとったと日本政府が判断したことが、今回の事件の背後に見え隠れする。

 これまで「国境など関係ない」というような顔で、国家(国民)をないがしろにしてきたグローバル企業に対する国家(国民)の反撃が始まったのだ。

 現代の国家のあるべき姿として、「民主主義」を否定するのは極端な偏向思想を持った人物だけだろうが、民主主義の基本概念はジョン・ロックの名著『市民政府論』(1689年発刊)にまでさかのぼる。「政府は国民の委託を受けているからこそ、統治を行う権利がある」ということが最も重要な概念である。

 左派のマスコミなどから「自国第一主義」と呼ばれ、批判的に語られるトランプ米大統領が掲げる自国民を大事にする政策は、正しくは「国民ファースト」政策である。

米国の大統領は、中間選挙も含め膨大な費用と労力をかけた国民の審判によって選ばれるのだから、「国民第一」の政策を行うのが当然だ。オバマ政権のように外国や外国人を優先するかのようなやり方こそ「反民主主義的」な全体主義政策だといえる。

 トランプ大統領が、国境を越えようとする「移民」たちを「侵略者」と呼び、軍隊や「壁」で対抗する施策にも批判は強いが、これこそ「民主主義」を守る闘いだとみることもできる。

 ジャーナリスト、安田純平氏の事件もさまざまな議論を巻き起こしたが、日本政府が多大な費用と労力をかけて彼を救ったのも、彼が「日本国民」だからである。

 「二重国籍」についても、いったいどちらの政府が彼らを守るべきなのかという問題が生じる。外国政府に守ってもらえるのなら、わざわざ日本国民の血税(場合によっては救助担当者の命の危険)を使って二重国籍保有者を守る必要はないという議論が当然起こる。

 これは二重国籍企業、すなわちグローバル企業も構図は同じだ。税金を逃れるためだけに本社を海外に移転することなど許されなくなる。国民が税金として得るはずであった資金を盗む行為だからだ。今後、グローバル企業が最終的にどこの国に帰属するのか、大問題になるだろう。

現在の「自称・徴用工」問題にも同じ構図がある。日本政府は韓国政府に対し、はるか昔に問題解決のため多額の費用を支払った。韓国政府がその事実を国民に知らせなかったのなら、韓国の国民が攻撃すべきは韓国政府であり、ひどい政府だというのなら韓国政府を打ち倒す権利がある。これが前述したロックの「自然権」だ。虚偽の事実をもって日本国民や政府を誹謗(ひぼう)・中傷する権利など、これっぽっちもない。

 日本、そして日本企業は日本人のものであり、国益を害したり不法行為を行ったりする国や企業については拒絶すべきである。

 おおはら・ひろし 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」を連載中。

【私の論評】今後の世界は、自由で公平な貿易をしつつも、国民国家を主体とした体制に戻る(゚д゚)!

世界の新たな枠組みづくりが進んでいます。トランプ米大統領が仕掛けた米中貿易戦争は、そのきっかけであり、グローバルサプライチェーン(世界的供給網)の再構築を招き、グローバリズムの終焉を加速させるものになります。

グローバリズムとは、ヒト・モノ・カネの移動の自由化であり、これは東西冷戦の終結により成立したものです。1980年代後半、資本主義・自由主義陣営の西側と、社会主義・共産主義陣営の東側との価値観の戦いは東側陣営の敗北で終わりました。

東側陣営の象徴であったソビエト連邦は崩壊し、ベルリンの壁は壊れ、中国は改革開放路線に切り替えました。これにより、世界は一つになるかと思われました。

平成元年(1989年) ベルリンの壁崩

そして、冷戦の最大の勝者である米国のルールで世界は動くかに見えました。日本も米国発のグローバルスタンダード(世界標準)の掛け声に踊り、会計基準の変更や金融ビッグバンによる金融市場の開放に動きました。

グローバリズムの最も大切な成立要件は世界が一つのルールで動くことであり、ルール違反を許さないことであります。これは、スポーツに例えれば分かりやすいです。一つの大会で複数のルールの採用は許されていません。中国は改革開放の名の下に、段階的な自由化を行い、最終的には西側陣営のルールに従うとして、自由主義市場への参入を許されました。

しかし、中国はこの約束を守りませんでした。為替一つをとってみても、中国は為替の自由化を約束し、人民元がドル、ユーロ、円、ポンドと並ぶ国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)構成通貨となりましたが、いまだそれが実現されず、今後も実現する見込みはたっていません。

市場開放も同様であり、中国資本による米国企業の買収や他国市場への投資は行われていますが、中国市場にはいくつもの規制がかかっています。土地売買も同様であり、中国人が日本の土地を買うことはできるのですが、中国人にすら土地の所有を許していないのです。これは著しく不公正であるといえます。

そうして、グローバリズムによる恩恵を受けて発展した中国は、「新時代の中国の特色ある社会主義」をうたい、「中華民族の偉大なる復興」と「中国の夢」の名の下に、中国が支配する新たな秩序を生み出そうとしています。当然、これは米国のみならず、資本主義・自由主義への挑戦であり、今の世界秩序の破壊行為にほかなりません。そして、米国はこれを阻止するために動き出したのです。

中国の夢

繰り返しになりますが、グローバリズムの成立要件は、世界が自由主義に基づく一つのルールで動くことであり、ルールを守れないのであれば退場してもらうしかないのです。これが米中貿易戦争の本質であり、ある意味では価値観の対立であるとも言えます。

昨今、米国は自由貿易ではなく、自由で公平な貿易という言葉を多用していますが、これは単なる貿易赤字等の数字の問題ではなく、ルール違反を許さないという意味が込められているものと考えられます。そして、これはまだ始まりに過ぎないのです。米中貿易戦争、これは単なる貿易摩擦ではなく、大きな価値観の対立の側面が大きいのです。

グローバリズムにともなう人の自由な移動に関しても、国民国家が制限するのは当然のことです。トランプ大統領が掲げる「自国第一主義」に対する非難をよく聞きますが、「自国第一主義」は民主主義の原則に従った行為です。

民主主義の基本は主権者と被支配者(国民)が一致することです。したがって、国民から選ばれた代表が統治するのが民主主義ですが、この国民の中には外国人はもちろんグローバル企業も含まれていません。一部で「外国人参政権」などという奇妙な運動が行われていますが、これはもちろん、反民主主義的行為です。

「国家は国民のものである」という民主主義の大原則に立ち戻っているのがトランプ大統領の「自国第一主義」です。

この流れで言えば、受け入れを拒否しているのに押し寄せる人々を「移民」と呼ぶことはできないです。

例えば、独立後間もない時期の米国や一時期の欧州などのように「どうぞ来てください」と宣言すれば、移民と呼ぶことができますが、国境に壁を作ったり軍隊を配備して流入を阻止しようとする国に不法に侵入する人々が犯罪者であることは言うまでもないです。ましてや、数千人単位でグループを作れば「侵略者」とでも呼ぶしかないことは、トランプ氏の言葉を待つまでもないです。

個人レベルで言えば、パーティーに招待されて家を訪問するのは合法だが、呼ばれてもいないのに、家のドアをこじ開けて入るのは「強盗」であり撃ち殺されても仕方が無いということです。

現在、人手不足だと騒いでいるのに、日本の若者(労働者)の賃金はさほど上がらないです。グローバル化によって広がった市場において、多くの発展途上国(後進国)が「人間の安売り」=低賃金労働力の供給を行っているからです。

この「低コスト」の恩恵を受けているのは、もちろんグローバル企業です。彼らはどこの国に人間であれ、コストが安いほうが都合がよいのです。「高い賃金を払ってみんなで幸せになろうね!」などという古き良き日本(古き良き米国も・・・)の国民国家の哲学は全く通用しません。

安倍政権の「移民政策」が色々議論されていますが、介護、建設、飲食などの人材が不足しているのは給料が安いからです。だから給料をあげれば(例えば倍にするとか極端なことをすれば・・・)、人手不足などすぐに解消します。

実際、米国においては米アマゾン・ドット・コムは10 月2日、米国内の従業員の最低賃金を時給15ドル(約1700円)に引き上げると発表しました。平時から雇用している25万人に加え、年末商戦向けに短期で雇う10万人も対象とします。急成長を続けるアマゾンに対しては、一部で「利益を従業員や社会に還元していない」「倉庫での労働環境が劣悪」などの批判が高まっていました。

実施は11月1日からです。15ドルは連邦政府が定める最低賃金(7.25ドル)の2倍超にあたります。アマゾンは現在の最低賃金を公表していないですが、ネット上では時給10ドル程度の求人も出ています。アマゾンによると、すでに時給15ドルに達している従業員の賃金も上げるといいます。

これによって、アマゾンは今年の人手不足の年末商戦を、乗り切る予定です。



そもそも、外国人が日本人が敬遠する仕事を自ら進んで行うのは、本国の貨幣価値に換算すれば高給であるからに過ぎないです。彼らも、(本国換算で)給料が安ければそのような仕事に見向きもしません。

長期的には、移民(外国人労働者)政策よりも少子化対策に国民の血税を使うべきだし、より短期的には、そのような業種の企業の経営者が業務の生産性をあげる努力をすべきです。

最近、居酒屋などの飲食店でタブレットによる注文が標準となりつつありますが、介護、建設、飲食などの業種ではこのような生産性向上のタネがいくらでもあるはずです。これまでカイゼンされなかったのは、低賃金労働者が十分供給されてきたからです。

したがって、このような業種の経営者は甘えを捨てて、移民(外国人労働者)などをあてにせず、生産性の向上等による従業員給与の引き上げに努力すべきです。

実際、日本の高度成長期には、中学卒業生が「金の卵」と呼ばれるほどの人手不足が生じましたが、当時(基本的に)移民や外国人労働者を受け入れていなかった日本は、「自動化」「機械化」で乗り切りました。逆にそのことが、日本の機械産業やロボット産業を刺激し「高度成長」を牽引したのです。

逆に欧州では安くて豊富な(少なくとも当時はそう見えた)移民(外国人労働者)を潤沢に使えたため、機械産業やロボット産業で日本の後塵を拝し、しかも「移民問題」という、現在の欧州における最大級の問題の原因を作ってしまいました。

日本政府は、このような歴史に学ぶべきです。

グローバリズムは、ルールを守らない拝金主義の中国という怪物を生み出し、人の移動の自由の美名のもとに様々な混乱をもたらしました。

トランプ氏の戦いは、「アメリカファースト」と言いながら、やはり国民国家をもう一度見直すということを提起しているのだと思います。

関税のない「自由貿易」は、グローバリズムという資本主義の発展形に見えました。しかし、現実は、庶民と労働者を貧しくし、代わりに、中国に莫大な貿易黒字を許したのです。

トランプ大統領は、この反省に基づき、反グローバリズムへ、そして、中国の覇権阻止、自由で公平な貿易を尊重しながらも、ナショナリズムの回帰へと、国家戦略を大転換しているのです。これは、トランプ政権が終わった後にも、大部分が継承されるでしょう。

無論完璧なナショナリズムへの回帰という事はあり得ないですし、できないです。ただ、今まで、世界の多くの人々がグローバリズムこそ理想と無邪気に考えてきたことは、間違いであることが認識され、再度世界はナショナリズムに振れることになるということです。

今後の世界は、自由で公平な貿易をしつつも、国民国家を主体とした体制に戻っていくことになります。EUもいずれ崩壊することになります。国民国家の富を簒奪するための装置でもあるタックス・ヘイブンもこの世から消えることになるでしょう。そうして、国民国家の富を簒奪するごうつくばりの中国共産党の幹部や、カルロス・ゴーンのような人物は居場所を失うことになります。

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