2020年1月13日月曜日

【日本の解き方】韓国・文政権が「反日」を強めるしかない事情 経済失政で苦境続き…中国・北朝鮮に頭上がらず―【私の論評】経済悪化や、社会構造まで日本のせいにする韓国とは関係を避けよ(゚д゚)!


日本製品不買運動など「反日」はエスカレートするのか

2017年5月に就任した文在寅(ムン・ジェイン)大統領は任期5年の折り返しを過ぎた。任期の残りで悪化した経済を立て直せるのか。そして対日関係を改善させる可能性はあるのだろうか。

 結論からいえば、反日政策が強まる可能性が高い。

 文政権の本質は典型的な左派だ。雇用を作るより賃金にこだわり最低賃金を過度に引き上げ、結果として失業を増大させたことなどは日本の左派政党と極めて似ている。

 左派政党の常として共産主義への憧憬がある。これは左派の理論基盤であるので仕方ない。そのため中国や北朝鮮に対して精神的に頭が上がらない。文政権の韓国は形式的には民主主義・資本主義の西側諸国の一員であるが、実質は中国・北朝鮮の友好国なのだ。

 もともと韓国は半島国家として中国の大きな影響を受けてきた。「事大主義」といわれるように、強い中国と争わないことが国益にもなっていた。こうした複雑な歴史や地政学的な半島国家の宿命から、保守政権であっても、「反日」は常に韓国政府の有効な逃げ道だった。

 特に左派の文政権にとって、中国と北朝鮮への配慮は必要だ。中国に対しては経済依存度が高いからやむを得ないという側面もあるが、北朝鮮に対しては、はたから見ても異様だ。

 北朝鮮から全く相手にされていないのにかかわらず、文大統領は金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長にラブコールを送り続けている。正恩氏は直接トランプ米大統領との対話チャンネルを持ったので文氏の仲介は必要ないのだが、仲介したいと言う。これでは押し売りだ。これに対し、日本は気兼ねなくはけ口として批判できるので便利な存在だろう。

 文政権は、経済政策を失敗して苦境に陥っている。対日政策でも、日本側の輸出管理見直しへ適切な対応ができず、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を言い出しては撤回するなど独り相撲を行い、日本製品ボイコットを黙認したあげく、韓国観光業への大打撃を与えて自爆状態になっている。

 米中貿易戦争で中国経済がダメージを受けていることも、中国依存の韓国経済には痛手だ。そうした経済苦境により、文政権への支持率は就任以降、総じて低下傾向だ。よほどのファンを除くと、経済がよければ支持するが経済が悪ければ支持しないというライトな層が離れる。経済政策の巧拙によって支持率は動くのだ。

 それでもコアな層は支持し続ける。そしてこうした時に、政治対応としてはコアの支持者固めをする。となると、文政権のコアな支持者は中国と北朝鮮にシンパシーを持つ人が多いので、反日政策は強くなることはあっても決して弱まることはないだろう。

 むしろ、経済苦境の原因を日本に求めて、日本に責任転嫁する可能性が高い。そもそも政治的に考えると、これまでの反日を方向転換することは有り得ない。そうなると、コアの支持者まで失ってしまい、文政権の崩壊になるからだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】経済悪化や、社会構造まで日本のせいにする韓国とは関係を避けよ(゚д゚)!
上の高橋洋一氏の記事には「経済苦境の原因を日本に求めて、日本に責任転嫁する可能性が高い」としていますが、まさにそのとおりです。実際韓国はすでにそれを実行しています。

たとえば、韓国の経済悪化の原因の一つとして、日本による韓国への「輸出管理の強化」が挙げられていますが、これは完璧な誤りまです。

輸出管理が強化されたにしても、
輸出不可ということでは全くない

「韓国に対する輸出規制」に関しては、韓国メディアは『半導体材料を“事実上の禁輸”』『対韓輸出規制を発動』などと、勇ましく報道しています。それと同時に、記事では、『自由貿易を掲げてきた日本へ各国から批判が集まる懸念もある』『各国に恣意的なルール変更ともとられかねない』といった指摘もしています。

果たしてそうなのでしょうか。

まずそもそもこれは、韓国に対して新たに「輸出規制を発動」するものではありません。韓国向けの輸出について、2004年から特別に優遇して簡略化していた手続きを、2003年までの普通の手続きに戻すものです。

簡略化した手続きとは、3年間有効な「包括許可」を得れば、いつでも輸出できるというものです。本来は、輸出の契約ごとに「個別許可」が必要です。2003年当時は、韓国への輸出は個別許可が必要でしたた。まさにこの時の手続きに戻したというだけのことです。

また、輸出に際して「個別許可」が必要なのは、輸出管理の世界では国際的な原則で、特別に信頼できる相手国についてのみ、「包括許可」による手続きの簡略化が認められていました。この対象国を、日本の制度では「ホワイト国」と呼んでいます。2004年にこの「ホワイト国」に韓国が追加されたのです。

なお、この個別許可について、一部の報道では「出荷ごと」に許可が必要となり、日々、工場から韓国に製品を出荷しているようなビジネスが停滞してしまうというような報道によって、輸出企業の現場は混乱しているようです。

これは誤解で、個別許可は”契約ごと”に必要で、一契約で何回にも出荷を分ける通常のビジネスは当然、一度個別許可を得ていれば出荷ごとに許可を得る必要はありません。
特別に信頼できる「ホワイト国」とは、あくまでも輸出管理の観点で信頼できるかどうかです。国際的には欧米主導で長い歴史を有する輸出管理の枠組みが、分野ごとに4つあります。詳細は省きますが、ホワイト国の対象にするには、相手国がこれらに参加していて、しかも国内で厳格に輸出管理をしていることが必要となります。

1990年代、韓国はまだ国際的な輸出管理の枠組みのメンバーではありませんでした。日本は韓国がそのメンバーに参加できるよう、各国に働きかけ、韓国にも関係者が再三足を運んで、韓国が輸出管理をしっかりできるように全面的に支援していました。

その結果、韓国も国際枠組みのメンバーになることができ、韓国からも日本のそれまでの協力、働きかけに感謝されていました。それが2004年に、韓国をホワイト国に追加して特別に優遇することにつながっていったのです。
ホワイト国として特別優遇するためには、相手国が厳格に輸出管理をしているかどうかを確認するための協議をするのが通常です。

そうした協議を、日本は欧州など他のホワイト国と実施してきています。しかし近年、韓国だけはどういうわけか、日本との輸出管理の協議に応じていませんでした。

政府が、「優遇した手続きの前提になる輸出管理の信頼関係が崩れている」としていることから想像するに難くないです。しかし、これを「安全保障の友好国でなくなった」と理解するのは、明らかに行き過ぎです。

安全保障の友好国が「ホワイト国」であると解説している報道もありますが、そうではありません。例えば、インド太平洋戦略を共有するインドや海上共同訓練をするインドネシアなどもホワイト国ではなく、個別許可が必要です。

また欧州連合(EU)が輸出管理のうえで特別優遇しているのは日本を含めて8カ国で、これに韓国は入っていません。多少の細かい点を無視すれば、EU並みの手続きに戻したとも言えます。それでどうして「自由貿易に逆行する」との批判が各国から出るのでしょうか。

この措置の背景に、対韓強硬の声があるのは事実でしょう。韓国人元徴用工の訴訟問題を巡る韓国の対応に、韓国への強硬措置を求める声が自民党内や官邸内で高まっていました。事態打開のために対抗措置を模索していたのも事実です。そうした中で、打ち出された措置を「事実上の対抗措置」と受け止めるのも自然な成り行きです。

しかし中国によるレアアースの禁輸措置と同列に論じるのは的外れです。日本は法治国家だ。政治的な道具として法律運用を自由に利用できるものではありません。

報道の中には個別許可について、「基本的に輸出を許可しない方針で、事実上の禁輸措置」だとするものもあります。しかし、法治国家としてこうした恣意的運用はあり得ず、明らかに間違いです。

仮にそうした運用をすれば、国が輸出者から訴えられたら負けるのは明らかです。韓国への対抗措置を強く求める立場からは、そうした運用を強く期待したいのは分からないでもないですが、法制度としては無理があります。それにもかかわらず、そうした声に引きずられて報道するのはいただけません。

あくまでこの措置は、手続きを「包括許可から個別許可へ」と、元に戻す変更を行うものです。基準を原則不許可にするよう変えるものではありません。それでは対抗措置として生ぬるい、不十分だというのならば、米国のような原則不許可にするような法律を議員立法で作るしかありません。

また、逆に反対の立場から対抗措置の連鎖になると懸念する向きもありますが、この措置の中身を見れば、およそ対抗措置と言えるものではなく、そうした懸念は的外れであることも分かるでしょう。

「世界貿易機関(WTO)協定違反の疑いもあるグレーな措置」とする、ある日本の識者のコメントまであります。であれば、2003年まで日本はWTO違反をしていたとでも言うのでしょうか。

とても日本の輸出管理法制を理解してコメントしているとは思えません。EU並みの手続きにすること、対インドネシア並みの手続きにすることが、どうしてWTO協定違反になりえるのでしょうか。韓国側の過剰反応に引っ張られ過ぎではないでしょうか。

いずれの立場であっても、まずは冷静に事実に基づいて論じるべきです。

ただし、韓国は、あくまでこの措置により、韓国は経済的不振に陥っていると強弁するでしょう。しかし、その真の原因は、日本の貿易などとは全く関係なく、韓国政府の近年経済対策に問題があるのです。


最も悪化させたのは、金融緩和をしないで最低賃金を単純にあげたことです。韓国の文政権が最低賃金引上げと時短を実施したため、失業率が上がったのです。金融緩和で先に雇用を作らず賃金を上げると雇用が失われる典型的な失敗政策で、これは日本の民主党時代の政策と瓜二つです。

立憲民主党の枝野氏など、韓国でこの政策が完璧に大失敗であることがはっきりしたにも関わらず、金融緩和はせずに再分配をすぺきと主張しています。

さらに、韓国経済は典型的な輸出依存型で、国内総生産(GDP)の約37%を輸出が占めます。半導体は輸出の20%余りに上り、韓国経済を牽引(けんいん)する数少ない分野です。これも、輸出に依存しすぎであり、昨今の韓国経済を悪化させている原因の一つでもあります。


さらに、GDPに占める個人消費の割合は、1970年代はじめは70%台だったのが、2000年に53.8%に低下し、2015年に初めて50%を割り込んだあと3年連続で低下しています。2017年のGDPに占める個人消費の割合は48.1%と、前年に比べて0.6ポイント低下し、韓国銀行が統計を取り始めた1970年以降ではもっとも低くなっています。

ちなみに、日米のGDPに占める個人消費の割合は、米国70%を超え、日本は60%を超えます。このように内需が大きければ、国際経済から受ける悪影響は、比較的少ないですが、韓国のように内需が小さければ、国際経済の影響をもろにうけてしまいます。

このような経済構造にしてしまったのは、あくまで韓国の責任であり、日本とは全く関係ありません。

     統計庁が先月31日発表した「12月及び年間消費者物価動向」によると、
     昨年の消費者物価指数は前年より0.4%上昇に止まった。

昨今の韓国の経済の悪化は、もともと韓国経済が脆弱であったことに加え、金融緩和をせずに、最低賃金をあげるという、まるで日本の民主党政権のときのようなトンデモ経済理論を実行したことによるものです。

さらに、最近の韓国情勢を見ていると、文大統領の政策で韓国国内が二分されていることがわかるります。GSOMIAに関する世論調査を見ても、文政権の当初の廃止の決定に対する賛否は割れていた。その後の政府の姿勢転換についても、国民の意識は大きく割れているように見えます。

国内世論が大きく割れる背景の一つに、韓国の経済環境が悪化する中、文在寅(ムン・ジェイン)大統領がしゃにむに“南北統一”を目指していることがありそうです。

南北統一に関して、一部の世論調査では約53%が賛成でした。それは見方を変えると、約半数の国民は南北統一に慎重であることの裏返しともいえます。特に、シニア世代と若年層では、南北統一への見解が大きく異なっているといわれています。

世代間で世論が分かれる要因として、朝鮮戦争による家族離散などの要因があるとみられます。動乱を経験したシニア世代が、家族がともに生活できる環境を希望することは想像に難くないです。韓国映画でもそうしたシーンが描かれています。

一方、若年層は、冷静に経済環境を直視しているケースが多いのでしょう。中国経済の減速などによって韓国の所得・雇用環境は悪化し、将来をあきらめる若者もいるといわれています。その中で南北統一が目指されれば、韓国は北朝鮮に資金援助などを行わなければならなくなります。

「これ以上の生活環境の悪化には耐えられない」というのが彼らの本音なのでしょう。

ただ、南北統一を期待する市民団体などの支持を得てきた文大統領は、これまでの政策理念を撤回することはできない。そうした状況が続くと、韓国の世論は分断された状況が続き、社会・経済の不安定感は高まりやすいと懸念されます。

こうした社会の変容にともない、当然のことながら、国民の中には不満が鬱積しています。本来なら、韓国政府がこの不満の鬱積を解消すべきなのですが、これに対して韓国政府は何もせず、国民の爆発寸前の憤怒のマグマを反日により、日本に向けて爆発させようと画策するばかりです。

日本としては、何でも日本のせいにする韓国はまともに相手にしても仕方ないので、国際社会に丁寧に説明して、韓国とはなるべく関わり合いにならないすることが得策だと思います。

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2020年1月12日日曜日

【台湾・総統選】トランプ政権 軍事・経済の両面で台湾支援へ―【私の論評】日本も軍事・経済で台湾を支援せよ(゚д゚)!

【台湾・総統選】トランプ政権 軍事・経済の両面で台湾支援へ

台湾総統選で再選を果たし、集まった支持者の声援に応える民進党の蔡英文総統(右)=11日

トランプ米政権は台湾総統選での蔡英文氏の再選に関し、中国の脅威をにらんだ米台連携を円滑に継続できるとして歓迎する立場を明確に打ち出した。今後は、米国が世界における自国の「抑止力の源泉」と位置づける軍事と経済の両分野で、中国の覇権的な攻勢の最前線に立つ台湾を積極支援していく考えだ。

 ポンペオ国務長官は11日に発表した声明で、蔡氏について「(中国からの)容赦ない圧力にさらされる中、中台関係の安定維持に取り組んできたことを称賛する」と強調。さらに「台湾が蔡氏の下、自由、繁栄、国民のためのより良き道を希求する国々の輝かしい手本となり続けることを期待する」と表明した。

 米国では2018年、米高官の台湾訪問や定期的な武器売却を求める「アジア再保証イニシアチブ法」がトランプ大統領の署名で成立し、「自由で開かれたインド太平洋地域」の推進に向けた台湾支援が着実に進められてきた。

 中国問題に詳しい政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)のボニー・グレイザー研究員は今後の中国の出方について「当面は米台の動向を見極め、台湾に圧力をかける機会を模索するだろう」と分析。近い将来に中台が武力衝突する可能性は否定しつつも、「米国は台湾の抑止力強化に向け一層の協力を図るべきだ」と訴えた。

 トランプ政権は一方で、台湾経済が中国への依存度を急速に強めていることに危機感を募らせている。議会や政府内部では、米国と台湾との経済関係の緊密化に向けた自由貿易協定(FTA)の締結を提唱する声が広がりつつある。

 政策研究機関「ヘリテージ財団」のライリー・ウォルターズ研究員は、米台がFTA交渉に向けた「高官級の経済対話」の枠組みを構築すべきだと指摘する。同財団のウォルター・ローマン氏も「トランプ政権が中国や日本などと貿易合意に達し、蔡氏が再選した今こそが米台FTAに向けた好機だ」と強調した。

【私の論評】日本も軍事・経済で台湾を支援せよ(゚д゚)!

今回の選挙、蔡英文氏の圧勝に終わりました。この圧勝を可能にしたのは、無論習近平による台湾への圧力だったと思います。あれだけ圧力を加えれば、多くの人々が危機感を抱くのは当然です。中国の圧力に屈すればも台湾も、香港やウイグルのように将来弾圧を受けるのではないか考えるのは当然のことだと思います。

蔡英文勝利を導いた習近平
さらに習近平の誤算は、大陸中国が台湾に圧力をかけたとしても、米国が軍事面で台湾に兵器を提供したり、台湾旅行法を施行したりしてまで、支援するようなことはないだろうと踏んでいたことです。

もし、米国が様々な支援を表明していなければ、今回の選挙は逆の結果になっていたかもしれません。

台湾では、本日は、民進党前はお祭り騒ぎだったようです。一方、国民党前は戦犯探しで殺伐とした怒鳴り合いだったようです。日本では、あまり知られていないようで、国民党にも本土派と呼ばれる独立派も存在します。全部が、親中派と言うわけではありません。一番の親中派は、宋楚瑜率いる親民党ですが、今回の獲得議席0でした。


民進党としては、前回の地方選挙で失った本来の地盤である高雄、台南を取り戻した形となりました。国民党総統候補の韓国瑜が市長を務める高雄で全議席8を失いました。民進党は高雄市長韓国瑜のリコールを進めるとしています。リコールされれば政治生命は終わります。

多くの日本人の誤解している国民党は世俗政党であり、元々は反共です。親中派もいれば本土派(民族派)も存在します。但し、まだ一つの中国原則を掲げています。国民党は、中国本土の正当な当事者であるとしています。ちなみに、民進党は一つの中国が二つあるとしています。

一方、多くの日本人は、民進党も語階している人が多いです。民進党は歴史的に独立派が多いですが、政策的にはリベラル、同性婚や反原発などアンチ経済政策が多いです。イデオロギー的にはナショナリズムですが、政策的にはリベラルです。

このような、台湾に、大陸中国の習近平が様々な圧力を加えたため、党派を超えて、多くの人々が、蔡英文氏に票を入れたのでしょう。だからこそ、蔡英文氏の大勝利となったのでしょう。

日本としては、米国と同様に、台湾旅行法を施行させ、日台間で、高官が相互に行き来できるようにすべきです、その上で台湾を軍事的にも、経済的にも支援すべきです。

まずは軍事的には、米国がF16Vを提供したり、戦車を売却を決めたように、潜水艦などを売却すべきです。

さらに、経済的にはこのブログでもかねてから手中してきたように、台湾をTPPに加入できるように支援すべきです。

今回の総統選で、TPP加盟を求める蔡氏が再選されたため、日台間の通商拡大でトゲとなっている5県産食品の輸入禁止問題は、解決のメドが立ちました。

TPP11

TPPで新たな加盟を認めるには、原加盟11カ国すべての承認が必要となりますが、台湾による国際社会での動きを阻害する中国の動きが懸念材料です。メキシコやペルー、チリなどのTPP加盟国は、中国から経済的な恩恵を受けているケースも多いです。中国が政治経済の両面で、これらの国に圧力をかける恐れがあります。

日本はもちろん、台湾内部の問題には関与できないですが、TPP加盟国に台湾加盟のメリットを説くとともに、中国の干渉を排除するために、リーダーシップを発揮することは可能です。

さらに、『自由で開かれたインド太平洋』構想を進める日本には、米国のTPP復帰と台湾加盟を同時に進めることが国益にかなうはずです。米国も今年は大統領選を控えています。TPP拡大とアジア太平洋地域の安全保障問題をリンクさせる議論が加速することを望みたいところです。

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2020年1月11日土曜日

【米イラン緊迫】開戦回避でロシアは安堵 「漁夫の利」得るとの見方も―【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!


年末恒例の記者会見を行うロシアのプーチン大統領=昨年12月19日、モスクワ

イランの米国への報復攻撃後、両国の全面対決が回避される見通しとなり、ロシアは安堵(あんど)している。イランと米国が開戦に至った場合、ロシアは、米国やイラン、他の中東諸国との関係上、イランを支持するかどうかで進退に窮する恐れがあったためだ。一方、今回の事態はロシアに「漁夫の利」をもたらすとの見方も出ている。

 露上院のコサチョフ国際問題委員長は9日、フェイスブック上で「戦争は回避された。安堵の息を吐ける」との見解を示した。

 ロシアは米国のシリア撤兵や、米国とトルコやサウジアラビアとの関係悪化などを背景に、中東での米国の影響力を排除しつつ自身の勢力圏を拡大する戦略を進めてきた。こうした中でロシアは、地域の主導権争いなど潜在的対立を抱えるイランとも、「米国の覇権への対抗」という旗印の下で共同歩調を取ってきた。

 両国はシリア内戦でアサド政権を支援。イランのウラン濃縮再開問題でも、ロシアは「米国がイランを追い詰めた」と同情を示した。昨年12月には、両国は中国とともにオマーン湾などで海上合同演習を実施。周辺海域で「有志連合」を主導する米国を牽制(けんせい)した。

 ただ、ロシアは、非欧米的な価値観を持つ諸国の“盟主”として影響力を確保することを狙う一方、国力上、米国との決定的な対立は避けたいのが本音だ。

 米国とイランが開戦していた場合、ロシアはイランを支持しなければ、イランとの関係ばかりか、米国に拒否感を持つ各国からの求心力も失いかねなかった。

首脳会談に臨むイランのロウハニ大統領(左)とロシアのプーチン大統領

 しかし、イランを支持すれば、対米関係の決定的な悪化は避けられない。さらにロシアは、イランと敵対するサウジやイスラエルとも協調関係を築いている。イランを支持した場合、これらの国々との関係も損なわれた可能性が高い。

 こうした立場にあったロシアには開戦の回避は最善の結果となった。また、一連の事態でロシアが利益を得るとの見方も出ている。

 コサチョフ氏は「米国の行動に批判的な立場を取った欧州やイラクと、米国との溝が深まった」と指摘。米国とは対照的に、ロシアは中東各国と良好な関係を維持しつつ、米国・イラン双方に自制を求めて存在感を高めたと評価した。

 イタル・タス通信も9日、「米国は今後、報復テロの危険や国際的信頼・評価の喪失など、戦略的な損失を受ける」とする欧州の政治学者の見方を伝えた。

【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!

従来、中東の対立軸と言えば、イスラエル対アラブの対立が主で、「中東和平」は、イスラエルとパレスチナ(PLO:パレスチナ解放機構)の和平合意を意味しました。

ところが、近年、「アラブの春」以降、中東諸国の様相が劇的に変化すると、中東力学の構図も大きく変化しました。特に、中東の大国の一つイラクが、サダム・フセイン後、安定した統治が出来ず、ISISの台頭を許し弱体化した後、隣国のもう一つの大国イランが、中東地域で存在感を増すようになりました。

イランには、かねてから核兵器開発の疑惑もあり、中東の核兵器保有国と言われているイスラエルは、その優位性を失うことに神経を尖らせています。

そんな中東地域の中でも、レバノン、シリア、イラクでは、長く内戦が続き、安定した統治が行われていません。それら諸国において、実は、イスラエルとイランの対決が深まっています。レバノン、シリア、イラクは国家が正統な力の行使を独占しておらず、国家の体をなしておらず、この 3か国がイラン=イスラエルの「戦争」の舞台になっているのです。このイランとイスラエルとの国家間の紛争には、イスラエル軍やイランの革命防衛隊も関わり、もはや「戦争状態」と言っても良い状況になっています。

イスラエル対イラン

イランとイスラエルの国家間対立がますます深まっていくというのが最もありうるシナリオです。この対立では、今のところ、イスラエルの軍事能力がイランを圧倒しているのですが、戦略的には、攻勢に出ているのはイランであり、イランの方が明確な目的を持っているので、イランがますます強くなる可能性があります。

いまの状況を改善していくためには、レバノンとイラクについては、現在の政府が主権国家としての実質を備えるように努力することを助けていくということでしょう。シリアについては、アサド政権の下での国家再建を支援する気に西側諸国がなることはあり得ません。

アサド政権の生き残りを可能にしたイランとロシアが何とかすべきですが、彼らは今の状況が続くことをそれほど問題とは思っていない節があります。

そうなると、シリアにおけるイランとイスラエルとの紛争は止みにくいでしょう。また、広大なイラクを治めるのに、シーア派、スンニ派、クルド族との共存も欠かせないですが、民主主義で最大の人口を有するシーア派は、同じシーア派が大多数を占めるイランに親近感を持つし、イランの革命防衛隊や情報機関も、これらシーア派にアプローチしています。

一方、スンニ派は、サダム・フセイン時代のエリート達であり、なかなか現イラク政権の中枢を占めるシーア派と上手くやって行けるかわからないです。また、中東では、イランに対して、スンニ派の大国サウジの影響力もあります。

レバノンについては、宗派間のバランスをとって統治しているところ、イランが支援する武装勢力ヒズボラが、レバノン国内のシーア派に影響力を与え、スンニ派のハリーリ率いる政権を脅かしています。

こうした複雑化した中東地域では、暫く、イスラエルとイランの国家間対立を含む紛争は続くとみておくべきです。

さて、上の記事で今回ロシアが、米国とイランが本格的戦争になることを回避したことで、漁夫の利を得る可能性もあるとしていますが、本当にそうなるのでしょうか。結論からいうと、得られたにしても、大きなものにはなりえないです。

確かに、シリアにおいてイランとイスラエルが直接衝突する事態はなんとしても避けなければならないものでした。そこでロシアは、両者の間に入って衝突を避けようとする動きを盛んに見せていました。

たとえば、イスラエルが一昨年5月にシリア領内のイラン革命防衛隊を空爆したのち、ロシアのラヴロフ外相は、「シリア南部にはシリア共和国軍の部隊だけが展開すべきである」と述べ、イラン革命防衛隊の撤退が望ましいことを示唆したことがあります。ただし、ラヴロフ外相は「これは双方向の措置でなければならない」として、イスラエルによる空爆も暗に非難しました。

また、この日、レバノン上空でロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機がイスラエル空軍のF-16戦闘機に接近したと報じられています。イスラエル側の報道によると、ロシアは5月初めからレバノン上空に軍用機を侵入させ始めていたとされ、レバノンを拠点とするイスラエルのシリア領内での活動(偵察及び爆撃)をけん制する狙いがあったと見られます。

このラヴロフ発言に続き、英国に本拠を置くシリア人権監視団は、イラン革命防衛隊及びヒズボラはゴラン高原から撤退する用意があるようだと述べており、ロシアの調停による兵力の引き離しが実を結ぶかに見えました。

しかし、現実にはロシアの調停が機能しているとは言い難いものでした。結局、ロシアのけん制にもかかわらずイラン革命防衛隊はシリア南部から撤退していないと見られており、イスラエルによるシリア領内での空爆も継続されました。

一昨年7月16日にフィンランドのヘルシンキで開催された米露首脳会談でもシリア問題は大きく取り上げられたようです。ボルトン米安保補佐官(当時)によると、この際、イランをシリアから撤退させるべきであるとの見解で両国首脳は一致したものの、現実的には難しいという結論に達したといいます。

さらに同年同月23日、イスラエルを訪問したラヴロフ外相が、ゴラン高原のイスラエル国境から100km以内にイラン部隊を立ち入らせないようにするとの提案を行ったのですが、イスラエルは不十分であるとして拒絶したとも報じられました。

ラブロフ ロシア外相

イランが一度固めたシリア領内の地歩を完全に放棄させることはロシアにとっても困難であり、かといって部分的撤退ではイスラエルも納得しないという状況が見て取れました。

それでも、ロシアとしてはシリアにおけるイラン・イスラエル対立を放置することはできません。こうした中で一昨年8月、ロシアは、国連平和維持部隊の一部としてゴラン高原にロシア軍憲兵隊を展開させ始めました。

同国南部において反体制派の掃討が進み、同地域にイラン革命防衛隊が展開してくることを懸念するイスラエルを宥める意図があると見られました。ロシア軍の哨所は最終的に8カ所が設置される予定とされ、ロシアによるゴラン高原への展開としては過去にない大規模なものとなる見込みでした。

とはいえ、ラヴロフ外相の訪露で提案されたシリア南部からのイラン部隊撤退が「不十分」とされたことからも明らかなように、ロシアの措置はイスラエルの対イラン脅威認識を抜本的に払拭するものとはならないでしょう。

以上のように、ロシアは中東において圧倒的な力を持つ「調停者」として振舞うことはできておらず、近い将来にそのような振る舞いが可能となる見込みは薄いです。煎じ詰めるならば、これはロシアが中東において発揮しうる力の限界に帰結できるでしょう。秩序を乱す者に対して受け入れがたい懲罰をもたらす存在でなければ「調停者」になることはできません。

確かにロシアは旧ソ連近隣地域(ロシアが「勢力圏」とみなす地域)においては圧倒的な軍事大国であり、政治的にも経済的にも強い影響力を発揮し得るのですが、中東はその限りではないです。

もともと外征軍ではない米軍の持つ巨大な空輸・海上輸送力を欠いているロシア軍が中東に展開できる軍事力には限りがあり、そのような大規模作戦を支える経済力となるとさらに小さいです。米CNNテレビ(電子版)によると、ロシア軍の艦船が9日、アラビア海北部で活動中の米駆逐艦に異常接近しました。米海軍が10日、明らかにしたといいます。

CNNは国防総省の当局者の話として、アラビア海において、ロシア艦は米駆逐艦「ファラガット」に約55メートルの距離まで接近した後、針路を変えたと伝えました。ファラガットは空母「ハリー・S・トルーマン」を中心とする艦隊の一部。敵の艦船の接近を阻止する役割を担っています。

ロシア国防省は同日、危険な動きをしたのはファラガットの方だと主張しました。これは、ロシア側による中東に展開する米海軍対する偵察と、牽制を兼ねた行動であると考えられますが、牽制としてはあまりにスケールが小さすぎます。かつて、経済的にも大国だった当時のソ連ならば、もっと大掛かりな行動をしたことでしょう。

ちなみに、現在のロシアのGDPは、世界10位にすら入っておらず、東京都と同レベルです。仮に、東京都が中東で何かしようと企てることができたとしても、できることは本当に限られたものになるでしょう。とはいいつつも、ロシアはソ連の核兵器と軍事技術の継承者であり、その点は無論侮ることはできません。しかし、明らかに限界はあります。

エネルギーや経済をテコとしてイスラエルやイランを従わせるというオプションもロシアにはありません。2015年のシリア介入以降、ロシアが中東情勢における影響力をかつてなく高めたことは事実ですが、その限界は正しく認識されるべきです。

同じことは、中東全体の秩序についても言えます。米国が中東へのコミットメントを低下させるなか、ロシアが米国に代わる新たな「警察官」になりつつあるとの論調が国内外には見られますが、これは明らかに過大評価であると言わざるを得ないです。

そのような限界のなかでロシアが何をしようとしており、どこまでできるのか。中東に復帰してきたロシアの役割を見通す上で必要なのは、こうした過不足ない等身大のロシア像だと思います。

近年ロシアは中東でプレゼンス高めたことは事実ですが、その限界は正しく認識されるべきだと思います。

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2020年1月10日金曜日

経済優遇とフェイクニュースで台湾侵食を図る中国―【私の論評】台湾のレバノン化を企む中国の試みは失敗する(゚д゚)!


中国の対台湾政策の手段は、アメとムチ、つまり経済的利益の約束と軍事的威圧の両方を使い分けることにある。1月11日の台湾における総統選挙と立法委員選挙(台湾の国会は一院制)を控え、中国は硬軟両様の手段を使い分けようとしている。


この半年間の香港情勢は、世界に対し、中国の言う「一国二制度」の実態が如何なるものかを暴露した。台湾では、蔡英文総統下の民進党政権はもともと「一国二制度」なるものを中台関係を律するものとして受け入れたことはない。

 しかし、中国の側では、香港統治に適用されている「一国二制度」は、将来、台湾を「統一」する際のモデルになるもの、と位置付けてきた。2019年に入ってからの習近平主席の1月の発言(台湾を「一国二制度」によって統一したいとの趣旨の発言)、さらには2019年6月以来続いている香港の大規模デモによる混乱ぶりは、皮肉にも、2018年11月の統一地方選挙で大敗した蔡英文の支持率を大きく押し上げる結果となった。蔡の支持率は国民党候補の韓国瑜に大差をつける状況となっているが、それは中国側の意図が一般の台湾選挙民の警戒感や危機意識を高めたことを示している。今日の状況は、中国との距離がより近いと見られている国民党にとって不利に働いているということである。

 このような中台関係全体の状況の中においても、中国としては、対台湾工作を硬軟両様の種々の手段を通じて行っている。

 中国が経済的梃を使って、台湾人を引き付けようとしていることは、咋年11月に中国政府が台湾の企業と台湾人を対象にして表明した「26項目の優遇措置」がよく示している。たとえば、台湾人が中国で就職したり、就業したりするときに、便宜を与えるというような点は若い台湾人にとっては、依然として一つの魅力になっているといわれている。蔡英文は、「26項目の優遇措置は台湾に一国二制度を強いるためのより大きな企ての一環」と言っているが、その通りであろう。

 また、フェイクニュース、偽情報を台湾内部に広く拡散し、台湾社会を分断させようとの意図も明確である。昨年4月、人民日報系の「環球時報」は、「台湾問題を解決するのに我々は本当の戦争を必要としない。中国は民進党政権下の台湾を、台湾独立勢力にとって意味のない、レバノンのような状況にすることが出来る」と述べている。これは単なる虚勢といえるだろうか。

 台湾の地方政治が深く関係する立法委員選挙においては、中国が各地の後援者のネットワークを利用し、旧来からのコミュニティーの指導者、農民団体などの票を買うことも考えられる。さらに台湾の特定メディアを引き込むため、中国政府の代理人が台湾の通信社にカネを払い、親中国の記事を書かせる、ということは一般によく知られている。

 2018年には、大阪駐在の台湾代表所の代表が、台風第21号による関西空港の閉鎖への対処をめぐる問題で非難を浴び自殺するという事件があった。実態は必ずしも明白ではないが、中国からのサイバー攻撃やフェイクニュースの流布が基になっている、と言われたことがある。

 これらのケースを見れば、今日、台湾は香港に並び、中国からの種々の浸透工作の最前線に立たされている、といっても間違いではないだろう。最近、米国と台湾がサイバー防衛強化のための安全保障訓練を主催したと報じられた。この演習には日本からも参加があったが、今後、このような機会を増やしていくことが強く望まれる。

【私の論評】台湾のレバノン化を企む中国の試みは失敗する(゚д゚)!

上の記事で、『昨年4月、人民日報系の「環球時報」は、「台湾問題を解決するのに我々は本当の戦争を必要としない。中国は民進党政権下の台湾を、台湾独立勢力にとって意味のない、レバノンのような状況にすることが出来る」と述べている』とありますが、ではレバノンのような状況とはどのような状況なのでしょうか。

ゴーン被告が無断出国 レバノンで会見
レバノンといえば、最近ではカルロス・ゴーンの逃亡で一躍有名となりましたが、レバノンについては、日本でもあまり知られているとはいえません。

レバノンは、地中海東岸に位置する、面積約1万平方キロメートル、人口420万人(推定)の国で、日本の書籍類ではしばしば岐阜県のような規模と称されます。同国では、自由な経済体制と比較的自由な言論環境の下、かつては「中東のパリ」と称されるほどの経済・文化活動が営まれていました。

また、狭い国土の中にキリスト教、イスラームの諸宗派が混在し、それぞれが地元のボスの下で自立性の高い社会を営んできたのもレバノンの特徴です。その結果、レバノンにはあまり力の強くない中央政府と、比較的自立性の高い地元の政治主体や共同体が存在することとなりました。

「あまり強くないレバノン」は、東隣にシリア、南隣にイスラエルという、地域の政治・軍事・外交上の重要国に囲まれ、その影響や軍事侵攻に悩まされてきました。さらに、かつてはパレスチナ、現在はシリアからの難民・避難民の存在は、レバノンの経済だけでなく、政治にも深刻な影響を与えています。


と、いうのも、レバノンでは国内に多数存在する宗教・宗派共同体のうち18を「公認」し、それを単位に政治的役職や権益を配分する「宗派制度」と呼ばれる不文律に沿って政治や社会が運営されているからです。

つまり、ひとたび決まった権益の配分の量・質を変更しようとすれば、「損をする宗派」やその仲間から猛反発を受けるし、パレスチナ人やシリア人のように配分の割合が「決まった後で」やってきた者たちをレバノン社会の構成員として迎え入れることも至難となったのです。

その結果、レバノンは複数の内戦と幾多の政情不安を経験してきた。そうした中、辛うじて安定や内外の情勢との均衡を維持してきたのが、「決められない政治」と「決めない政治」(『「アラブの心臓」に何が起きているのか』(岩波書店) 第4章「レバノン」立命館大学末近浩太教授)とも称されるレバノンの政治エリートたちの処世術でした。

彼らは、レバノン国内の力関係だけでなく、シリア紛争や地域の国際関係の中で生き残りを図るべく、レバノンの政治や社会の運営で「重要な決定を可能な限り先送り」してきました。

このような体制や運営手法においては、政治エリートたちは自らに配分された権益を、今度は「子分」にあたる自分と同じ「宗派」の構成員と有権者に配分するボスとなるのです。有権者は、利益誘導への返礼、或いはボスへの忠誠表明として、ボスが率いる党派への投票に動員されます。

一般のレバノン人民にとっては、こうした人間関係こそがあらゆる機会を得る上でのカギとなるし、ボスたちは「子分」が自分よりも華々しく成功するような権益の配分は絶対にしません。

従って、当然のことながら、そこには公正で中立で透明な司法も行政も立法もありません。だからこそレバノンでは2019年10月から「革命」とも称される人民の抗議行動が起きているのです。抗議行動に参加するレバノンの人々から見れば、ゴーン氏はレバノンの政治・経済・社会の運営や、様々な社会的上昇の機会を独占してきた特権階級の一人ということになるのです。

商才にたけ、世界をまたにかけて活躍する移民や経済人というのが、レバノン人について世界的に持たれているイメージであり、一部のレバノン人も「フェニキア人の末裔」と称してこうしたイメージを強調しています。

実際、そのようにして活躍するレバノン起源の経済人・芸能人も少なくありません。また、彼らの一部は、本当に「シャレにならない」経済活動(≒犯罪や陰謀)の場で名前が挙がることも少なくありません。

ただし、これは本当に世界をまたにかけて活躍しているレバノン人の自己表象の一端であり、実際にレバノンに住んでいるレバノン人が全員そういう活躍をしているわけではありません。

積極的に越境移動をし、なおかつそれを繰り返す、つまり世界をまたにかけて活躍しているレバノン人は、一定以上の所得を得ているごく少数の人々のようです。つまり、レバノンに住んでいる人々の大多数にあたる、所得が一定水準に達しないレバノン人は、出稼ぎやビジネスに限らず越境移動の経験も乏しければ、越境移動に積極的なわけでもありません。

ゴーン氏の経歴や行動様式は、現在レバノンに住んでいる一般のレバノン人の姿を体現・代表しているわけではなさそうです。では、世界をまたにかけて活躍する(つまり経済的機会や社会的上昇の機会を独占している)レバノン人とはどのような人々なのでしょうか。

それは同地で「ザイーム(アラビア語でリーダーという意味)」と呼ばれる指導的な階層に属する人々のようです。レバノンには多くの人々を惹きつける華やかさや魅力がある一方で、その内部には容易には解決・克服できない格差があるようです。

レバノン首都ベイルートの中心部で行われた増税と汚職に対する抗議集会(2019年10月21日)

さて、ここで台湾に話を戻そうと思います。中国共産党は、台湾でもレバノンのように、一部の特権階級が「決められない政治」と「決めない政治」を実行させるというのが、目標なのでしょうか。そうして特権階級の他に、分断された多くの断片に属する貧困層の人々が大勢いる社会を築こうとしているのでしょうか。

中国に支配されれば、中国自体がそのような社会を築いているので、台湾もそうなってしまうでしょう。

咋年11月に中国政府が台湾の企業と台湾人を対象にして表明した「26項目の優遇措置」発表したのは、もともと中台間において準公的と呼んでよい蔡英文政権と中国政府の間での対話のチャネルが開店休業の状況にあることにも関係があります。台湾当局から見ると、今回の優遇策は「一国二制度による統一方針」と受け取るのも無理はないのです。
台湾のメディアは香港のデモの状況を逐一報道していますが、「今日の香港は明日の台湾」になるのではないかとの危機意識を一部で呼び起こしています。目の前に迫ってきた総統選挙については、民進党・蔡英文、国民党・韓国瑜の一騎打ちになりそうな雲行きですが、中国の意図に反して、蔡英文の支持率が目に見えて上昇しているのは、やはり今日の香港情勢が大きく影響しているものと考えられます。
台湾としては、蔡英文氏が勝利した後にも、さらに民主化、政治と経済の分離、法治国家化を鮮明に打ち出し、これをもって、かつての西洋列強や日本のように大陸中国やレバノン等よりもはるかに進んだ社会を構築すべきです。さらに繁栄し、中国は大失敗し、台湾は大成功したと世界に印象づけるべきです。
世界の人々が、大陸中国やレバノンこそが社会的にとてつもなく遅れた存在であり、経済的にも社会的にもはるかに進んだ台湾のようになるべきだと納得させるべきです。
そうすれば、大陸中国の台湾レバノン化は、失敗することになります。
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再選意識!?トランプ大統領、イランと“手打ち”の真相 世界最強米軍への太刀打ちはやっぱり無理…あえて人的被害ない場所を標的にしたイラン―【私の論評】米国は中国への最後通牒の準備のため、イランとの係争を長引かせたくなかった(゚д゚)!



2020年1月9日木曜日

再選意識!?トランプ大統領、イランと“手打ち”の真相 世界最強米軍への太刀打ちはやっぱり無理…あえて人的被害ない場所を標的にしたイラン―【私の論評】米国は中国への最後通牒の準備のため、イランとの係争を長引かせたくなかった(゚д゚)!




ドナルド・トランプ米大統領は8日午前(日本時間9日未明)、イランによる米軍が拠点とするイラク駐留基地へのミサイル攻撃を受けて、演説した。米軍将兵に死者がいなかったことを明言し、イランに厳しい追加経済制裁を科すと表明した。ただ、軍事的報復は否定した。今後も、民兵組織との散発的な戦闘はありそうだが、ひとまず国家と国家による全面戦争は回避された。背景には、国内向けに強硬姿勢を示すものの、世界最強の米軍との戦争は避けたいイラン指導部と、大統領再選を意識して、好調な米国経済へのダメージを避けたいトランプ氏の意向があるようだ。


 「わが国の兵士は全員、無事で、われわれの軍事基地での被害は最小限にとどまった」「イランは今のところ、身を引いているようだ。これは全当事者にとって、いいことだ」

 トランプ氏は8日、ホワイトハウスで、マイク・ペンス副大統領や、こわもてのマーク・ミリー統合参謀本部議長らを引き連れ、こう演説した。

 米軍が、「テロの首謀者」としてイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のガーセム・ソレイマニ司令官を殺害したことを受け、イランは喪が明けた7日(日本時間8日午前)、報復攻撃に出た。作戦名は「殉教者ソレイマニ」だった。

 米FOXニュースなどによると、イラン側は米軍が駐留するイラクの基地に弾道ミサイルを計15発発射し、中西部アンバル州のアル・アサド空軍基地に10発、北部アルビルの基地に1発が着弾した。

 国営イラン放送は一連の報復攻撃で、米側の多数の無人機やヘリコプターを破壊し、米国人に80人の死者が出たと伝えた。

 最高指導者のアリ・ハメネイ師は首都テヘランで演説し、「われわれは彼ら(米国)の顔に、平手打ちを食らわせた」と述べた。

 表向き強硬なイランだが、実は事前に攻撃を通告していた。

 イラクのアーディル・アブドルマハディ暫定首相は、イラン側から口頭で攻撃を知らされていた。この情報を米国側に伝えた結果、米兵や軍用機などはミサイルが着弾する前に安全な場所に逃れ、死者はなかった。

 ミサイル攻撃で破壊されたのは軍用機の格納庫などで、イランが米軍に人的被害が出ないように、あえて標的を選んだとの指摘もある。

 さらに、イランは攻撃直後、米国の利益代表を務めるスイスを通じて、「(米国が)反撃しなければ、対米攻撃は続けない」との書簡も送っていた。

 背景には、世界最強の米軍の存在と、経済制裁で全面戦争などできないイランの事情がある。

 米軍は、インド洋のほぼ中央に浮かび、イランにも近いディエゴガルシア島の米軍基地に、「死の鳥」の異名を取る戦略爆撃機B52「ストラトフォートレス」6機の派遣を決定した。同機は、全長約49メートルで、全幅は約56メートルと巨大で、核兵器や巡航ミサイル、空対地ミサイルなどを大量に搭載できる。

 イラク戦争でも活躍した米原子力空母「エイブラハム・リンカーン」を中心とする空母打撃群も、中東海域に展開しているとみられる。空母の艦載機だけでなく、イージス艦や原子力潜水艦などで構成される最強の軍事ユニットに、イランはとても太刀打ちできない。


 ■トランプ「再選」意識

 米国にも事情がある。

 トランプ氏は大統領再選を目指しており、好調な米国経済を維持したい。米国は中東の原油に依存していないが、中東で本格戦争が起これば、世界経済は甚大なダメージを受ける。

 双方の思惑もあり、対立のエスカレーションは避けられた。いわゆる、国際政治上の「プロレス」だったともいえそうだ。

 ただ、国家と国家の戦争は避けられても、中東には、イランの支援する「反米」の民兵勢力が暗躍している。今後、散発的な戦闘が起きる可能性は捨てきれない。

 現に、イラクの首都バグダッドでは8日夜(日本時間午前)、米国など各国大使館などがある「グリーンゾーン」と呼ばれる地区に複数回にわたり、ロケット弾が撃ち込まれた。ロイター通信は、イラク治安当局の話として「爆発で火災は起きたが、死傷者は出ていない」という。

 今後、中東情勢はどうなるのか。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「ソレイマニ氏殺害で、米・イラン間では一時的に緊張が高まったが、いずれ関係修復に向かうだろう。イラン指導部の中にも、数々のテロを起こすソレイマニ氏を排除して、米国と手打ちをしたいと考える勢力がある。米国は『(ソレイマニ氏殺害によって)イランからの大規模な報復はない』と先読みしていたのではないか。報復の形をとらせ、イランのメンツを立てた。今後、第3次世界大戦は起きることはないだろう」と語っている。

【私の論評】米国は中国への最後通牒の準備のため、イランとの係争を長引かせたくなかった(゚д゚)!

イランと米国の対立は、やはり早期に終了しそうです。この背景には、上の記事では、トランプ氏の「再選」意識として世界経済のことが述べられていますが、それだけではないでしょう。

まずは、トランプ大統領の支持基盤である、米国福音派の存在が大きいでしょう。米国福音派は、米国にはイスラエルを守る使命があると韓変えているようですから、トランプ氏が増長するイランをそのままにしておけば、信頼を失う可能性もありましたが、本年年初からイランへの攻勢を実行したトランプ氏に対する信頼は絶大なものになったことでしょう。

米フロリダ州マイアミにある教会、キング・ジーザス・インターナショナル・ミニストリーで
ドナルド・トランプ米大統領(中央)に祈りを捧げる宗教指導者たち(2020年1月3日撮影)。
さらに、以前にもこのブログに述べたように、中国に対する最終警告として、北朝鮮への軍事攻撃を準備するため、イランとの全面戦争は極力避けたいということもあると思います。

昨年の米中貿易協議の第一段階目では、中国は米国に対して全面的な譲歩をしたことはこのブログにも掲載しました。この中国に対して協議内容を守らせることも、トランプ氏の再選には必要不可欠です。さらに、イラクよりも中国のほうが、米国にとって経済的にも安全保障にとってもはるかに脅威です。

この協議では7つの合意事項があります。この7つの合意事項のうち、7つ目は、わかりやすくいうと、6つの合意事項を中国が実施するか否かを米国が監視するというものです。これには、期限があります。協議してより3ヶ月以内です。3月中に中国は米国側に対して、中国が協議内容を履行しつつあることを米国に納得させなければなりません。

なかなか進展しなかった米中貿易協議だったが…… 
米国は、この履行が不十分であれば、中国に対してさらに制裁を強化することになるでしょう。それでも、中国が履行しなかった場合には、さらに制裁を強化することになるでしょう。

最後の最後に、どうしても、中国が履行する姿勢を見せない場合、米国としてはさらに厳しく、場合よっては軍事行動に出る場合もあるでしょう。

ただし、それは直接中国に対するものではなく、北朝鮮に対する軍事攻撃です。これについては、すでにこのブログにも掲載しているのですが、再度掲載します。

北朝鮮の金正恩の本当の望みは、金王朝の存続です。そのためには、核を手放すことはないでしょう。皮肉なことにこれが、結果として中国の朝鮮半島全体への浸透を防いでいます。

金正恩は、中国の干渉を極度に嫌っています。なぜなら、共産中国の北への浸透が強まれば、金王朝の存続が危うくなるからです。このことは、彼が実の兄金正男氏や実の叔父張成沢を殺害していることでも、良く理解できます。彼らは、中国と親しい関係にあり、金正恩は、彼らが中国の支援のもとに北朝鮮に新体制を築こうと目論んでいるという疑念を抱いていたようです。

このように、北が中国の朝鮮半島全体への浸透を結果として阻んでいるうちは、38度線も動くことなく、現状維持が継続される可能性が高いです。北朝鮮のミサイルは、日本や韓国や米国だけを狙っているのではなく、中国も標的にしているのは間違いないです。だからこそ、トランプ大統領も、北が短中距離ミサイルを発射しても、あまり問題にしなかったようです。

しかし最近の韓国の動きなどは、北と中国に接近して、現状維持を崩す動きに出ていますから、これはトランプ氏としては到底許容できないものでしょう。もしも、こうした動きに呼応して、中国・北朝鮮・韓国が協同する動きを見せた場合、現状が崩れてしまう可能性が大きいです。

そうなった場合、米国としては、北は無論のこと、韓国や中国に対して厳しい制裁を課すことになるでしょう。それでも、中北韓国がその動きを止めない場合は、米国は北朝鮮に軍事攻撃を加える可能性は否定できません。

《目の前で見た米国の「ドローン斬首作戦」…「金正恩委員長は衝撃大きいはず」》

韓国・中央日報(日本語版)は6日、こんなタイトルの記事を掲載しました。

トランプ氏の命令を受けた米軍が、中東で数々のテロを引き起こしてきたソレイマニ氏を、ドローン(小型無人機)攻撃で「除去(殺害)」したことで、北朝鮮の対米外交が変化しそうだと分析・解説した記事です。

韓国政府当局者は「米国は、外交的に解決しなければ軍事的オプションを使用する可能性があることを明確に示した」「北朝鮮は自国にも似た状況が発生する可能性がないか懸念しているはず」と語っています。記事では、正恩氏の身辺警護が強化され、当面、公の場から姿をくらますことにも言及しました。

韓国・朝鮮日報(同)も同日、《米国の斬首作戦に沈黙する北、金正恩委員長は5日間外出せず》との記事を掲載しました。

確かに、北朝鮮の反応は異様といえます。

朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は、ソレイマニ氏の殺害について、発生から4日後の6日、やっと報ました。

通常なら、米国の行動に罵詈(ばり)雑言を浴びせるのでしょうが、中国の王毅外相と、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相の電話会談を報じるなかで、「中ロ外相が(米国の)攻撃は違法行為で、中東の地域情勢が著しく悪化したことへの憂慮を表明した」と伝えるだけでした。直接、トランプ氏や米軍を批判・論評することは避けました。

正恩氏は昨年末の党中央委員会総会で、米国の対北政策を批判したうえで、「世界は遠からず、共和国(北朝鮮)が保有することになる新たな戦略兵器を目撃するだろう」と強がっていました。8日の誕生日に合わせた挑発行為も警戒されていたのですが、あの勢いとは大違いです。

北朝鮮メディアが7日に報じた中部の肥料工場の建設現場を視察した金正恩

米国はかつて、北朝鮮とイラン、イラクを「悪の枢軸」と呼び、唾棄してきました。歴代米政権が、正恩氏や、父の金正日(キム・ジョンイル)総書記の「斬首作戦」を立案・検討してきたのは周知の事実です。

トランプ氏の言動にも変化が見られます。

昨年末まで、トランプ氏は「彼(正恩氏)は非核化の合意文書に署名した。約束を守る男だ」と擁護してきたが、大統領専用機内で5日、「正恩氏は私との約束を破らないと思うが、破るかもしれない」と語ったのです。

正恩氏や朝鮮人民軍の動向を監視するためか、米空軍の偵察機RC135Wが6日、韓国上空を飛行したと、朝鮮日報が民間の航空追跡サイト「エアクラフト・スポット」の情報として報じました。

実は、トランプ政権が、北朝鮮が非核化に応じない場合の極秘作戦を準備していたという指摘もあります。

このように、米軍によるソレイマニ殺害は、北にとっは米国による大きな牽制となっているようです。この警告が、功を奏して、年内に中国・北朝鮮・韓国が不穏な動きをみせなければ、米国は軍事的な手を打つことはないでしょうが、なにか動けば、米国が北に対して軍事行動をとることになると思います。

これが実行され、北朝鮮の金正恩ならびに幹部の殺害ということになれば、中国や韓国は大パニックに至ることは必定です。

ただし、軍事攻撃とはいっても、米国が北を攻めて、陸上部隊も大量に派遣して、完璧に滅ぼすまでのことはしないでしょう。あくまで、長距離ミサイルと中距離ミサイルの一部を破壊し、後は金正恩と幹部を殺害することになると思います。その後は北に体制変換を促すことになるでしょう。

これは、中国に対する米国による、最終警告になるものと思います。

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イラン報復、米軍基地攻撃 イラク2カ所にミサイル十数発―トランプ大統領演説へ―【私の論評】米イともに、きわめて抑制的に対処し戦争拡大を防いでいる(゚д゚)!

2020年1月8日水曜日

イラン報復、米軍基地攻撃 イラク2カ所にミサイル十数発―トランプ大統領演説へ―【私の論評】米イともに、きわめて抑制的に対処し戦争拡大を防いでいる(゚д゚)!


ソレイマニ司令官の遺族を弔問するイラン最高指導者
ハメネイ師=テヘラン、最高指導者事務所が3日提供

 イランは8日、革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官が米軍に殺害されたことに対する報復として、イラクにある駐留米軍基地2カ所を弾道ミサイル十数発で攻撃した。米側によると、米兵に死者はいなかったとみられるが、米兵の死傷者の有無によっては、米国によるイラン本土攻撃も考えられる。トランプ米大統領は8日朝(日本時間同日夜)に演説し、イランへの対応策を表明する見通し。

 トランプ氏はこれまで「米軍基地や米国人を攻撃すれば、ためらうことなく美しい最新鋭兵器をイランに投入する」などと警告してきた。それにもかかわらず、イランが弾道ミサイル発射という直接的な攻撃に踏み切ったことで、報復合戦の激化は避けられない。トランプ政権の一方的な核合意離脱から悪化の一途をたどる米イラン関係は、より危険な段階に入った。

 イランの革命防衛隊も、多数の地対地ミサイルを発射したと明らかにした。作戦名は「殉教者ソレイマニ」。声明では、米軍が駐留する国々に対し、米軍に協力すれば「標的となり得る」と警告した。最高指導者ハメネイ師は8日、「軍事行動では不十分だ。米国は戦争や分断、破壊を引き起こしており、この地域は米国の存在を受け入れない」とけん制した。

 イランのメディアは、攻撃で「米部隊側の80人が死亡、200人が負傷した」と伝えたが、真相は不明だ。

【私の論評】米イともに、きわめて抑制的に対処し戦争拡大を防いでいる(゚д゚)!

上の記事は、イラン側の声明を一方的に掲載しているだけですので、真偽の程は確かではありません。

トランプ政権関係者によると、イランが発射したミサイル15発のうち4発は標的に届かず、イラク人の負傷が確認されています。イラクで軍事行動をとるイランの部隊が、米国への報復攻撃を意図しつつイラク人を殺してしまったということです。このイランからの攻撃はわざと標的を外した可能性が高いと分析しているようです。

イランのSima Newsが伝えたアサド基地に向けた発射されたミサイルとされる画像

イラン は華々しく米軍を攻撃した映像をばらまいて反撃したという事実と、「米部隊側の80人が死亡、200人が負傷した」という情報で、国民を納得させた上で、事態を収拾終させたいのかもしれません。

イラン国内でナショナリズムを盛り上げ過ぎてたので米軍に対して何もしないでいれば、逆に国民から批判されることになります。しかし米国と全面戦争すると軍が壊滅することになります。 イランとしても、適当なところで鉾を収めたがっているようです。

CNN報道によると、今回のイラン軍によるイラン領内の米軍基地攻撃は事前にイラン側から予告があり、そのために米兵が適切に避難できた可能性があります。実に抑制された報復です。

イランは米国がこの攻撃に報復しなければ、攻撃を止めると言っているようです。ボールは今、トランプの側にあり、もし今回の攻撃に過剰な報復をすれば戦争は青天井でエスカレートするでしょうが、常識的な釣り合いの取れた対応であればここで収まる可能性があります。

マスコミや識者の人たちの中には、「第三次世界大戦になる!」とか「米国ガー!」と煽っている人たちもいますが、彼らはロシアがウクライナのクリミア地域に侵攻していた事実は忘れているようです。 軍事大国のロシアが侵攻していても第三次世界大戦にはなっていませんし、ましてやイラン程度で第三次世界大戦にはならないと考えるのが普通です。

世界レベルで「第三次世界大戦」がトレンド入、Siriに「第三次世界大戦はいつ始まりますか」と
  質問すると恐ろしい答がかえってくるとか

にもかかわらず、なにやらマスコミ等は「イランは何もしてないのに米国が突然要人を暗殺した」かのような話に無理やり持っていこうとしていて、歴史の書き換えとやらをまさにこの瞬間リアルタイムで目撃しているような気さえします。

マスコミなどは毎日の実施されているシリアのアサド政権の空爆に憤らないで、米国が絡んだ時だけ憤るのは何か変な思考のくせがあるようです。マスコミにも問題がありますが、解説する中東イスラム研究者や国際政治学者のほぼ全員が反米(反共和党)左派の視点しか提供しないことも問題です。反米なので親イランゆえにイランの公式発表を右から左に流すだけで、広く中東や世界から俯瞰して今回の問題を論じる人が誰もいないのは異常です。


立憲民主党枝野氏は「イラン司令官の殺害は(略)中東の安定を損なうリスクが非常に高い」と述べ、スレイマーニーの存在自体が20年以上にわたり中東の安定を大きく損なわせてきた事実に対する無知を露呈させています。知りもしない中東情勢を政権批判に利用するのは不逞不遜です。

米国もイランも本格的な総力戦をしたいわけではありません。 だからこそ、両サイドが極めて政治的で抑制的な手段を取り部分的な戦争に終始させているのに、マスコミなどが戦争だ、それも世界大戦だと煽るのは、何がしたいのか意味不明です。これは、トランプ政権への攻撃なのでしょうか。日本では、安倍総理への攻撃なのでしょうか。 この短絡思考はどうにかならないものでしょうか。

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2020年1月7日火曜日

日本と世界を取り巻く“不透明感” 東京五輪後に景気落ち込みの懸念…2次補正予算通過後に解散の選択肢も―【私の論評】安倍政権が憲法改正を推進したいなら、秋に異次元のサプライズを演出しなければならない(゚д゚)!


高橋洋一 日本の解き方

東京五輪の開会式の舞台となる国立競技場

2020年の日本は、経済指標が悪化するなかで東京五輪・パラリンピックを迎える。米大統領選や米中貿易戦争、英国の欧州連合(EU)離脱、中東情勢など、世界の政治や経済に影響を及ぼす事案はどう動くだろうか。

 まず国内の政治スケジュールでは、1月から通常国会が開かれる。召集日は1月20日を軸に検討されており、150日間で6月中旬までの会期となる。冒頭に補正予算が審議され、3月いっぱいまで来年度予算が審議される。中国の習近平国家主席の来日は、国会開会中の春に予定されている。

 東京都知事選は6月18日告示、7月5日投開票だ。そして東京五輪は7月24日に開幕し、8月9日に閉幕する。そして11月上旬には大阪都構想の住民投票が行われる予定だ。

 世界を見ると、1月にトランプ米大統領の弾劾裁判が上院で開かれる。2月から各州で大統領選の予備選が実施され、11月に本選が行われる。

 EUでは1月31日に英国の離脱期限が到来する。昨年の英総選挙の結果を受けて、いよいよブレグジットが実現する。

 その他の地域では、1月11日、台湾総統・立法委員選挙がある。3月には中国で全国人民代表大会(全人代)が開かれる。6月10~12日に先進7カ国(G7)首脳会議が米ワシントン郊外のキャンプデービッドで、G20首脳会議は11月21、22日にサウジアラビアでそれぞれ開催される。



 安倍晋三首相の自民党総裁としての任期は21年9月までだ。今の衆院議員は17年10月の総選挙で選ばれたので任期はやはり21年9月までとなる。衆院解散については21年に入ると「追い込まれ解散」となって不利だとみられており、20年中の可能性が高いだろう。

 通常国会で補正予算を通してから解散総選挙という選択肢も一時、話題になっていたが、実務上の制約があるうえ、秋元司衆院議員がIR(カジノを含む統合リゾート)関連で逮捕されたので、その線は薄くなった。なにしろ、現職国会議員の逮捕は、10年1月の陸山会事件における石川知裕議員以来だ。

 当面、政府と与党は、補正予算と来年度予算の成立を図り、昨年10月の消費増税による景気の落ち込みを避けたいところだ。補正予算が通れば、当面の景気の下支えになる。

 しかし、世界経済は不透明だ。米中貿易戦争は11月の米大統領選頃まで本格的な解決は期待できない。というのは、これが経済だけではなく安全保障や人権問題にも関わってくるので、議会は共和党も民主党も中国に対し強硬姿勢を取っているためだ。トランプ大統領は選挙対策としても安易な妥協はできない。

 ブレグジットによる欧州の景気後退や不透明感も気になるところだ。

 となると五輪後の20年秋に景気の落ち込みがありうるので、再び臨時国会で補正予算という議論になるだろう。そこで解散総選挙という選択肢も出てくるのではないか。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】安倍政権が憲法改正を推進したいなら、秋に異次元のサプライズを演出しなければならない(゚д゚)!

私も、高橋洋一氏のように、通常国会で補正予算を通してから解散総選挙と睨んでいました。それについては、以前このブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】IMFの「消費税引き上げ論」と真水「10兆円」の補正予算浮上…財務省の“絶妙”な対応―【私の論評】いまのところ、1月解散,2月選挙という可能性が最も高い(゚д゚)!
消費税は時の与党に国政選挙での苦戦を強いてきました。導入直後の1989年の参院選で自民党は大敗。10%までの引き上げを決めた旧民主党は2012年の衆院選で壊滅的敗北を喫しました。その後を受けた安倍内閣が連勝したことは、2度の増税延期と無縁ではありません。 
そこで有力視されるのが来年秋以降です。「増税直後の選挙は負ける」とみて、東京五輪・パラリンピックを間に挟み、増税の影響を薄める狙いがあります。年明けからは五輪準備が本格化し、物理的にも解散が難しくなります。公明党が要請した軽減税率の仕組みは複雑で、「混乱が生じれば支持者が離れる」(同党関係者)との懸念もあり、こうした見方を後押ししています。 
ただし、増税の影響が表れる10~12月期の国内総生産(GDP)の速報値が発表されるのは来年の2月17日です。このため「数字が出る前に解散を打った方がいいのではないか」(自民党関係者)との声もあります。野党側は立憲民主、国民民主両党が会派合流を決めたものの、離党の動きが出るなど臨戦態勢が整わず、与党にとっては好条件です。

1月解散となると、まさに選挙戦の最中にGDPの速報値が発表されることになるわけですが、その時に何の経済対策も打っていなければ、与党が大敗北となることが予想されます。
総選挙の開票開始後間もなく、自民党大敗の趨勢が判明、当選者もまばらな
ボードをバックに質問を受ける同党の麻生太郎総裁=2009年8月31日

しかし、そのときに真水の10兆円の対策を打つことを公約とすれば、話は随分と変わってきます。特に、先日もこのブログでも説明したように、現状では国債の金利はマイナスであり、国債を大量に刷ったとしても何の問題もありません。これは、多くの人に理解しやすいです。10兆円どころか、もっと多くを刷れる可能性もあります。 
この対策とともに、日銀がイールドカーブ・コントロールによる現状の引き締め気味の金融政策をやめ、従来の姿勢に戻ることになれば、このブログにも以前掲載したように、マクロ経済的には増税の悪影響を取り除くこともできます。

安倍政権がこれを公約として、丁寧に政策を説明すれば、十分勝てる可能性はあります。来年秋以降ということになると、経済がかなり悪くなっていることが予想され、自民党の勝ち目は半減する可能性が大です。秋以降でなくても、選挙が後になれば、なるほど増税の悪影響がでてきます。 
そうなると、いまのところ、1月解散,2月選挙という可能性が最も高いのではないでしょうか。
 ただしこの見立ては、実務上の制約があるうえ、秋元司衆院議員がIR(カジノを含む統合リゾート)関連で逮捕されたので、その線は薄くなりました。

こうなると、やはり高橋洋一氏が主張するように、オリンピック終了後の秋に解散総選挙という可能性がかなり高まったと考えられます。

ただし、今回補正予算が実施されるのは、4月からということで、増税してから半年ということで、秋口にはかなり経済が悪化している可能性が大きいというより、何か特別なことがない限りかなり悪化します。そうなると、選挙では経済関連でかなりの対策を打つことを公約としなければ、自民党にはかなり不利です。

上にも述べたように、消費税導入直後の1989年の参院選で自民党は大敗。10%までの引き上げを決めた旧民主党は2012年の衆院選で壊滅的敗北を喫しました。その後を受けた安倍内閣が連勝したことは、2度の増税延期と無縁ではありません。

 安倍総理は、アベノミクスで、大きな支持を得たという経緯があります。特に雇用面では若い世代などからは圧倒的な支持を受けています。多くの国民は、憲法や安保よりもまずは、自分たちの暮らし向きが大事なのです。これはどの国でも変わりません。

安倍政権が宿願である憲法改正を実現するためには、何が何でも次の選挙では、大勝し改憲勢力を2/3以上にしなければならないはずです。さらに、今後安倍政権下で、憲法改正をするつもりなら、昨年「桜を見る会問題」などで、憲法改正論議がなされなかったことから、時間の壁があり、その壁を破るためには、安倍四選が不可欠です。

そのためにも、衆院選で大勝利しなければ、四選はかなり不利です。やはり、選挙で大勝利するためには、凡庸な公約ではかなり不利になります。これを打開するためには、やはり経済面等でたとえば、異次元の金融緩和に匹敵するような目新しいサプライズでありながら、誰にでも最初から簡単に納得できるか、わかりやすく説明すれば誰もが納得できて、強く訴求できるサプライズを演出しなければなりません。

私自身は、以前考えていた1月解散、2月総選挙よりは、秋に解散総選挙のほうが、このようなサプライズが期待できると思います。



そのサプライズに関しては、このブログにいくつか掲載してきました。たとえば消費税を5%に戻すこと。国債の金利がマイナスであるため、マイナス分の金利は、発行した政府の儲けとなることから、国債を100兆円刷って、政府が金利分を設けて、その他は基金にして、国土強靭化などにも用いるとか・・・・。

さらには、日銀法を改正して、日本国の金融政策の目標は政府が定め、日銀はその目標を専門家的立場から実行する方法を選ぶことができるようにするとか・・・・。これによって、日銀の独立性は世界水準の中央銀行の独立性と同等になるわけです。

考えれば、他にもあります。たとえば、習近平を国賓としして招くことをやめるとか、防衛費のGDP1%枠を破るとか・・・・。ちなみに、防衛費を上昇させ、国内でその面に投資すれば、当然ながら景気にも良い影響を及ぼします。他にもあるかもしれませんが、まずはこれらだけでも、かなり支持率がアップすると思います。

全部とはいわなくても、このうち2つくらいでも実行すれば、大サプライズになります。これにより、次回の衆院選は自民党の大勝利となり、安倍四選も可能となり、さらには憲法改正も可能になります。

安倍政権には、秋のサプラズに期待したいです。

【私の論評】

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2020年1月6日月曜日

中国の軍事脅威を再びけん制したベトナム国防白書―【私の論評】これからの伸びしろが大きいベトナムに日本は貢献できる(゚д゚)!

中国の軍事脅威を再びけん制したベトナム国防白書

岡崎研究所

 11月25日、ベトナムの国防省は「2019年ベトナム国防白書」を公表した。ベトナムの国防白書の発表は、2009年以来、10年振りになる。これにより、ベトナムの国防政策の透明化が図られた。軍事予算も公表され、2018年のベトナムの国防費は58億ドル(約6300億円)とされ、これは国内総生産(GDP)比では2.36%にあたる。

 今回公表されたベトナムの国防白書に記述された南シナ海に関するベトナムの立場、考え方には、全体として特に目新しいことはない。ただ、10年ぶりに国防白書を公表し、その中で南シナ海問題を詳細に論じることにより、ベトナムの基本的考えを改めて強調し、世界にアピールすることが目的であったと言えよう。それは、この問題についてのベトナムの危機感を表すものである。アピール先の世界とは、第一に、ベトナムの立場を理解する米国、日本などの西側諸国である。第二には、紛争相手国の中国である。第三は、本来はベトナムの仲間ながら、カンボジアのように中国の代弁者のような国もいて、なかなかベトナム支持でまとまってくれない ASEAN(東南アジア諸国連合)であろう。

 南シナ海におけるベトナムと中国の紛争の歴史は古い。例えば、西沙諸島(別名パラセル諸島)では以前より中越間の武力衝突があり、1974年には中国が最後のベトナム軍を追放し、中国軍の駐屯地を設営している。一方、ベトナムは、2018年に総工費180万ドル(約1億9000万円)をかけてパラセル博物館を建設し、パラセルがベトナム領であることをアピールしている。 

中国・ベトナム間で衝突が起こった西沙諸島(別名パラセル諸島)

 2007年には、中国艦船がベトナム漁船を銃撃する事件が起きた。2017年には、ベトナムがスペインの石油大手レプソルに南シナ海での石油開発権を与えたが、中国の圧力で開発を断念している。本年2019年7月、中国の海洋調査船が海警局の艦船を引き連れてベトナムのEEZ(排他的経済水域)に入り、ベトナムが抗議したところ、10月に作業が終了したとして退去した。

 南シナ海の紛争に対処するため、ASEANと中国はかねてより南シナ海の行動規範を作るべく話し合いを行い、本年11月の首脳会議で行動規範の今後2年以内の策定を目指す方針で一致した。ただしASEANが国際海洋条約に基づいた規範を求めているのに対し、中国は法的規制のないものを目指しているなど、両者の見解がどこまで一致しているかは定かでなく、行動規範が合意されるとしても同床異夢的なものになる恐れがある。

 ベトナムは、南シナ海をはじめとして中国の軍事的脅威を受けている。国防白書が「ベトナムは海軍、沿岸警備隊、国境警備隊、国際機関の艦船がベトナムの港を訪問したり、修繕、必要物資の調達のためベトナムの港に立ち寄ったりすることを歓迎する」と述べているのは、中国の脅威に対する一つの牽制とみてよいだろう。

 日本にとってベトナムは国際海洋の法的原則の遵守で利害を同じくするなど、東南アジアで重要な友邦国であり、ベトナムとの戦略的関係の強化は必要であろう。本コラムの2018年6月15日付「中国と粘り強く戦うベトナム、日本ができること」でも触れたが、日本とベトナムは共に「自由で開かれたインド太平洋地域」を推進する海洋国家である。既に日本は、ベトナムに対して海上保安庁やJICA等様々な機関を通じて、海洋の安全保障に関する国際協力を行なってきた。能力構築支援等、中長期的に継続することによって成果があがるものもある。今後もこれらの支援を維持、発展させることが、インド太平洋地域の平和と繁栄につながるだろう。

【私の論評】これからの伸びしろが大きいベトナムに日本は貢献できる(゚д゚)!

米中貿易対立の行方には世界が注目しています。5Gに代表されるように、中国ファーウェイの進める技術覇権戦略に対し、トランプ政権は全面戦争もいとわない姿勢を見せています。そのような米中対立の激化から「漁夫の利」を得ようとしているのがベトナムです。

ベトナム人の耐久力の強さは歴史が証明しています。フランスの植民地から脱却し、中国との国境戦争にも負けず、ベトナム戦争では「世界最強」とうたわれた米軍を追い出し、独立を勝ち取ったことは記憶に新しいです。

米中貿易戦争の煽りで、米国から中国製品が締め出される恐れが日に日に大きくなっているため、中国に進出していた外国企業や米国市場で大儲けしていた中国や香港の企業が相次いでベトナムに製造拠点を移し始めています。

サプライチェーンが大きく変動するなかで、「チャイナ・プラス・ワン」の代名詞ともなったベトナムの占める役割は拡大の一途をたどっています。


ベトナムの強みは政権の安定と経済成長路線にほかありません。2019年のGDP予測は6.7%と高く、インフレ率も失業率も4%を下回っています。しかも、地方の少数民族の貧困は問題はありますが、国全体で見れば貧困率は1.5%にすぎず、周辺の東南アジア諸国とは大違いです。

特に注目株といわれるのがビン・グループです。ベトナム最大手の不動産開発やショッピングモール、病院、学校経営で知られる企業ですが、昨年、ベトナム初の国産自動車製造会社ビン・ファストを立ち上げ、2019年から販売を開始しました。また、同社はスマホ製造も開始し、韓国のサムスンへの最大の供給メーカーの座を獲得し、自前のブランドで国際市場へ打って出る準備を着々と進めています。

そんな活気溢れる若い国に魅せられ、米国のトランプ大統領はすでに2度も足を運んでいます。 日本は昨年、ベトナムとの国交樹立45周年を祝ったばかりで、安倍首相も「トランプ大統領に負けてはならぬ」と2度の訪問を実現させています。

また、年明け早々茂木外務大臣はASEAN=東南アジア諸国連合の議長国、ベトナムを訪問してミン外相と会談し、中国が南シナ海で海洋進出を強めていることへの懸念を共有し、海洋安全保障で緊密に連携していくことで一致しました。

ことし最初の外国訪問として東南アジア4か国を歴訪している茂木外務大臣は日本時間の6日午後、ベトナムの首都ハノイでミン外相と会談しました。

会談で茂木大臣がことしベトナムがASEANの議長国と国連安全保障理事会の非常任理事国であることから「国際的なパートナーとして特に重要視している」と述べたのに対し、ミン外相は「日本の主導的で積極的な役割を歓迎する」と応じました。

そして両外相は中国が南シナ海で海洋進出を強めていることへの懸念を共有したうえで、海洋安全保障の分野で緊密に連携していくことで一致しました。

また北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返していることを踏まえ、完全な非核化に向けた連携を確認しました。

さらにベトナムも参加するTPP=環太平洋パートナーシップ協定の参加国拡大や、両国のほか、インドや中国など合わせて16か国によるRCEP=東アジア地域包括的経済連携の早期妥結に向けた協力も確認しました。

日本ではあまり知られていませんが、ベトナムの外交手腕はしたたかというか、小国の常として、そうせざるを得ない部分があります。日本にとっては拉致問題が未解決のために国交正常化交渉が進まない北朝鮮とも、親密な関係を構築しています。

金正恩労働党委員長自らが「ベトナムに学べ」と大号令をかけているほど、北朝鮮におけるベトナムの存在は大きくなる一方です。昨年2月に開催された2度目の米朝首脳会談も、ベトナムのハノイが舞台となりました。

要は、米国とも、中国、北朝鮮とも、はたまたロシアや日本ともがっちりと手を握っています。それが未来の大国ベトナムの真骨頂でもあり、欠点でもあるところです。

そのようなベトナムが今、もっとも力を注いでいるのがIT産業の育成です。2012年に「科学技術に関する国家戦略」を策定したベトナム。そこで掲げられた目標は「2020年までにGDPの45%をハイテク産業で生み出す」という野心的なものです。この方針の下、情報技術省が中心となり、国内のIT関連企業の育成が始まりました。

もともと「新しいもの好き」の国民性で知られるベトナム人です。国内6000万人のネット利用者の大半にとって、フェイスブックとユーチューブが欠かせません。特にフェイスブックの利用者は急速に伸びており、5800万人に達し、世界では7番目となったといいます。

また、メッセージ送信アプリのザロはベトナムでは3500万人が利用しており、中国のテンセントの傘下にあるWeChatやフェイスブックが運用するWhatsAppより人気が高いです。

そうした外国のアプリに依存するのではなく、ベトナム独自のソーシャルメディアを広める方向をベトナム政府は打ち出しました。「2022年を目標に国産のIT技術でソーシャルメディア市場の70%を押さえる」ことが決定されました。
今後ビジネスの主流に躍り出るに違いないネット販売の分野でも、自国企業を支援する考えを鮮明に打ち出しています。そのため、この分野では圧倒的なシェアを誇る中国のJD.comが、ベトナムのローカル企業のティキへの投資を決めたほどです。

そうしたなか、ベトナム最大の民営企業であるビン・グループも新たな動きを見せ始めました。人工知能(AI)とソフトウェア開発を専門にする新会社を立ち上げるというのです。

ビン・グループ会長 ファム・ニャット・ブオン氏

その名は「ビンテック」。米国のシリコンバレーのベトナム版を目指すという触れ込みです。ビッグデータの活用を主眼とし、関連するハイテク分野を先導するとの方針が発表されました。

こうした動きは明らかにベトナム政府の標榜する「2020年国家戦略」に沿ったものです。実は、こうした国家戦略を立案、推進する要役を果たすのが情報技術省であり、そのトップに就任したのが元ビエッテルの社長のフン氏。ビエッテルといえばベトナム最大のテレコム会社で、その影響力はミャンマーなど周辺の途上国に広く及んでいます。

彼らの意図する戦略はグーグルやフェイスブックに流れている莫大な広告収入を、ベトナム企業に引っ張ろうとするものです。SNSが急速に拡大するベトナムでは毎年、3億7000万ドルの広告収入が発生しています。しかし、現状では、これらの収入はすべ米て国企業に流れているため、なんとしてもその流れを変えたいということです。

とはいいながら、これはベトナムが国家を挙げて推進するIT革命の一端にすぎません。まだまだ新たな新規事業が目白押しです。医療や教育の分野もしかり、農業や観光の分野もしかりです。そんな実験国家でもあるベトナム。どこまで未来への夢が実現できるのでしょうか。また、そのなかで日本がどのような役割を担えるのでしょうか。

日本はベトナム産の農産物の輸出拡大に欠かせない検疫や食の安全検査を改善するために、12億円の資金援助も約束しました。それでなくとも、経済的に豊かになったベトナムでは消費者の健康志向が強まっています。

農薬や化学肥料を使わない日本式の無農薬、有機栽培の食材への関心と需要は今後、大きく伸びるに違いありません。安全安心を売り物とする日本の食材は現地消費者の間では高い評価を得ています。

ベトナムでは一昨年末に実施された世論調査で、消費者の82%が「2018年は個人所得が増えた」と回答し、63%が「2019年はお金を使うには良い時期だ」と述べていました。それだけ、懐具合に自信を抱いているというわけです。

もっともお金を使う予定の品目は何かと聞くと、40%の回答は「健康増進に役立つもの」といいます。ベトナムでも日本人の健康長寿ぶりはよく知れ渡っています。日本製の健康食材や健康グッズは化粧品と並んで売れ筋です。この分野での日本ブランドは圧倒的な強みを発揮し続けるでしょう。
日本への熱い期待と信頼を寄せるベトナム。2018年には新規株式上場による資金調達額でシンガポールを抜くという快挙を達成しました。この「未来の大国」との関係をより深化させることが、日本の未来を大きく左右するに違いありません。ベトナム航空では日本路線にボーイングの最新鋭大型機を投入し、人的・経済的結びつきを強める上で一役買っています。

機を見るに敏なベトナム人。日本と共に「第4次産業革命」を進める計画も明らかにしました。頼もしいパートナーといえます。急成長を遂げるアジア市場のダイナミズムを取り入れる上でも親日国ベトナムとの連携は欠かせないです。
日本は、自由で開かれ、国際法秩序に基づく海洋を維持するという普遍的価値を米豪英仏等と共有している。そして今、この価値観とヴィジョンを、ベトナムとも共有する。
南シナ海で中国と領有権を争っているベトナムであるが、中国は一方的に人工島を建設し、そこを「防衛」という名目で軍事化している。中国を刺激しないように、「中国」という固有名詞こそ上げないが、中国を意識して、日本がベトナムを支援し、ベトナムも日本に感謝していることは、明らかです。
ベトナム・中国国境

ベトナムは海洋のみならず、陸でも中国と国境を接しています。かつて中越国境紛争もありました。山にある中越国境線上に「平和の門」が設置されています。これは1998年頃の話ですが、中国とベトナムそれぞれの兵士が監視していたのですが、中国は、毎日、その「平和の門」を少しずつベトナム側に移動させたそうです。
すなわち、中国は、徐々に徐々に自国の領土を広げてきたのです。ベトナム側は、負けじと毎日、その「平和の門」を元の位置に戻したと言います。ベトナム人は辛抱強いのでしょう。そして、おそらく、ベトナム戦争で大国の米国を「名誉の撤退」に追いやったように、大国に対しても毅然と戦う粘り強さを持ち合わせているのでしょう。

日本は、そのベトナムを様々な角度から支援しています。特に、南シナ海をめぐる海洋安全保障の分野では、すぐに軍事衝突にならないように、海上保安庁の役割が大きくなっています。

以前、ベトナムの海上警察はベトナム海軍に入っていましたが、それを別組織にして海上保安庁のような組織を創設することは、日本が知見を与えたものです。巡視艇供与はハード面の支援ですが、こういうアイデアを出すというのは、目に見えにくい日本のソフト・パワーでしょう。

今後も、日本の海洋大国としての知見や経験は、インド太平洋地域の中小諸国に、多々役立つでしょう。そうすることで、国際社会が求める「自由で開かれた海洋」が保たれることになるのでしょう。日本は経済だけではなく、安全保証の面でも、これからの伸びしろの大きいベトナムに貢献することができます。

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