- トランプ大統領、世論調査では経済政策の面でバイデンを抜く
- 規制は「目に見えない税金」
- 菅首相の構造改革と最低賃金は矛盾 あべこべな政策では経済の浮上は期待できない
「民主党は黒人の暴動ばかり論じていて、経済について語っていない。これではトランプが勝利してしまう──」。CNNのインタビューに答えたある黒人男性は、こう語った。
米フォックスニュースが9月中旬に行った世論調査では、経済政策ではバイデン元副大統領の支持率が46%であるのに対して、トランプ大統領は51%と、5ポイントも差をつけてリードしている。
しかも「失業」「新型コロナウィルス」「暴動」の3つのうち、何が最も心配かという質問に対して、「失業」と答えた人は、10人中9人にも上った。全体としてはバイデン氏がリードしているが、コロナで失業問題を心配する国民にとって、経済で実績のある大統領を求める声は根強くあるというこ とを示す世論調査となった。
オバマ時代より所得の増額分は50%も増えた
トランプ政権下では、具体的にどのような実績があったのか。9月17日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙が詳細に報じているので、確認しておきたい。
まず所得である。昨年のアメリカの平均世帯の収入は4379ドル(約45万5416円)上がって、6万8709ドル(約714万5736円)になったという。この増加額は8年間のオバマ政権より、50%も増えたことになる。
とりわけ中・低所得者の所得上昇率は高い。その数値は人種別に見た場合、白人が5.7%であるのに対し、ヒスパニックは7.9%、黒人は7.9%、アジア人は10.6%にも上る。その理由は、教育レベルの低い人々がより多く働くようになったからである。
ジェンダー別に見た時の数値も注目に値する。男性の中間所得者の賃金の伸び率は2.5%であるのに対して、女性は7.8%アップした。
面白いのが、失業手当の給付による経済効果である。
2008年から2009年のリーマンショック後、政府は99週間の失業手当を給付したが、これによって、アメリカ人の働くインセンティブが低下。25歳から52歳の労働参加率も、82.7%から80.7%と2%も低下した。一方で、トランプ政権になってブルーカラーの仕事の賃金が上昇したため、労働参加率は、2020年の第一四半期までに82.9%に戻った。
その結果、貧困層の割合は1.3%下がり、10.5%となった。この数字は1959年から最も低い数字である。子供の貧困率は、オバマ政権時代と比べると2倍も下がる。
給付金が増えるにしたがって貧困層は増大した
しかも2012年に政府が給付金の額を増やしたのにもかかわらず、所得は減り続け貧困層が増えた。政府による所得移転は、一時的には景気低迷時の減給分を相殺するよう提供されるが、多くのアメリカ人が働かなくてもお金がもらえるので、給付金に依存するようになったのだ。それは2015年に政府が給付金の額を引き締めた後に、アメリカ国民は働き始め世帯所得は上昇を始めたという統計結果にも表れている。
オバマ政権は取り憑かれたようにバラマキ政策や規制の導入をしていたが、経済成長や投資を阻害し、低成長をもたらした。一方、トランプ政権の規制緩和と2017年末の大型減税は起業家の旺盛な投資活動や企業活動を刺激した。新規事業登録の申請件数だけでも、オバマ政権の最後の2年間の2倍になったのだ。その結果、人手不足に陥り、障害者や低学歴の層の雇用が増えただけでなく、犯罪歴のある者まで雇われるようになった。
規制によるコストは「見えない税金」
バイデン氏の政策は、オバマ政権の政策を引き継ぐものとなる。看過できないのは「規制によるコスト」である。
この「見えない税金」のコストを考慮しなければならないと説くのは、2018年から2019年までホワイト・ハウスの経済諮問委員会のトップを務め、現在はシカゴ大学教授であるケイシー・B. ムリガン氏である。ムリガン氏は9月17日付のWSJ氏に寄稿した「バイデンのプランの本当のコスト(The Real Cost of Biden's Plan)」の中で、以下の趣旨を述べている。
バイデン氏は確かに40万ドル(約4000万円)以下の所得者には、増税はないと断言する。だがクリーン・エネルギー政策を推進するバイデン氏の政策は、「見えない税金」で満載だ。
車一つ買うにしても、数千ドル(数十万円)も高くつくようになる。
またバイデン氏は「2035年までに100%クリーン・エネルギーにする」政策を掲げている。それに伴いアメリカの石油の採掘を禁じれば、電気代などに跳ね返ってくる。
私(ムリガン氏)の計算によると、一番下の所得層は、規制によって所得の15.3%にもあたる「見えない税金」を払わなくてはならない(所得が300万だとしたら、45万円にも上る)。これに対し、高所得者にとって、「見えない税金」は所得の2.2%しか占めない。
環境規制は、貧しい人たちを直撃することになる。そんな大事なことを有権者に伝えないのが、民主党政権である。
トランプ政権が続けば、減税や好景気で所得が上昇するだろう。一方、バイデン政権が誕生すれば、2017年の大型減税政策もなくなるだけでなく、電気代などのために支払うコストや、生活必需品の車を買うにも高いコストを強いられる。
「再配分」と「規制大国」を目指したオバマ政権は、結局、低成長だけでなく不平等を助長した。経済成長を目指したトランプの一期目の政策は、すべての人の賃金を押し上げ、不平等を是正したと言えるのだ。
菅首相の構造改革と最低賃金は矛盾 あべこべな政策では経済の浮上は期待できない
一方、日本では菅義偉首相が「構造改革」を掲げる。アベノミクスでは、金融面や財政面での景気の浮上を狙った政策に特化され、当初、第三の矢として掲げられていた「規制緩和・構造改革」は、結局ほとんど実行されなかった。
80年代のレーガン政権に行われた規制緩和が、アメリカの長期的繁栄を築いたように、サプライサイド(供給面)の制度・規制改革に着手するのは、非常に重要である。日本が規制大国から抜け出すためにも、一刻も早い構造改革が期待される。
一方で菅氏は、「最低賃金」のさらなる引き上げに取り組むという。賃金は市場で決まるもので、社会主義的に国家が命令すべきものではない。このような「あべこべ」な政策で、経済は浮上するのか。冒頭で紹介したように、国民からトランプ氏は経済面で信頼が厚い。そのあたりの事情をつぶさに学ばなければならないのではないか。
トランプとバイデンの経済対策を比較すると、総じてトランプの政策が正しいことは、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
トランプが最初から正しかったとFRBが認める―【私の論評】トランプの経済対策はまとも、バイデンは異常、日本は未だ準備段階(゚д゚)!
バイデン前副大統領は7月9日、新型コロナウイルス危機に見舞われた米製造業の復活に向け、4年間で総額7000億ドル(約75兆円)の公共投資計画を発表しました。投資額は「第2次世界大戦以来で最大規模」と強調。財源確保のため将来の増税に言及し、減税を掲げるトランプ大統領との違いを鮮明にしました。
トランプ氏の狙いは、給付を減らして失業者の就労を促し、大統領選に合わせて雇用改善の実績を強調するつもりのようです。クドロー国家経済会議(NEC)委員長は4日、雇用情勢の改善を受け、民主党が主張する大規模な経済対策が「なくてもやっていける」と明言しました。これに対し、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、経済は回復途上であり、失業給付を含む「追加財政策が必要だ」と警告しています。政府支援の大幅削減は「消費と景気回復を圧迫する」(エコノミスト)との分析もあり、雇用改善を急ぐトランプ氏のもくろみは綱渡りともみられています。
これに対して、マンデル・フレミング効果の観点から、私は以下のように結論を出しました。
8月の米雇用統計では、雇用の伸びは前月の173万4000人から鈍化したほか、予想の140万人を下回っています。これは、財政政策による景気回復の限界を示しているのかもしれません。であれば、金融緩和に力を入れるというのは当然の措置です。現在FRBが、もっとドルの流動性を経済にもたらすためにより高い目標を設定することを約束するのは当然のことと思います。
上の記事では、オバマの給付金政策の失敗についても触れられています。給付金を出し続けるという政策はかえって、雇用を阻害する面あるということです。であれば、さらにFRBがさらに高い目標を設定するほうが、はるかに効果があると思います。
梶山経済産業大臣は、これに関連して、「引き上げありきではなく、上げられる環境作りが第一だ」と述べました。
これに関連して梶山経済産業大臣は閣議のあとの記者会見で、「引き上げありきではなく、上げられる環境作りが第一だ」と述べました。
そのうえで、「コロナ禍で落ち込んだ企業の業績を引き上げ、生産性を上げていくために、さまざまな制度を使って会社のスキルや能力をあげることが重要だ。そういう環境があれば、しっかりと最低賃金を上げていくということになるのでどういう流れになるか考えながらしっかり取り組んでいきたい」と述べました。
昭和恐慌は、1930年から31年にかけて起こった戦前日本の最も深刻な恐慌で、第一次世界大戦による戦時バブルの崩壊を契機としています。20年代、世界の主要国は金本位制へ復帰していましたが、今ではその結果として20年代末期から世界大恐慌が起こったと分析されています。
このような状況下、29年7月に成立した立憲民政党の濱口雄幸内閣は、金解禁・緊縮財政と軍縮促進を掲げました。
当時、金本位制に復帰することは現在でいえば金融引き締めであり、緊縮財政とセットで国民を「シバキ上げ」る政策は、失業を増加させマクロ経済運営としては、非常に問題にある政策でした。
このマクロ政策としては、間違った金融引き締めと緊縮財政政策は政変によって終わりました。31年12月、立憲政友会の犬養毅内閣となったのですが、高橋是清蔵相はただちに金輸出を再禁止し金本位制から離脱、積極財政に転じました。
昭和恐慌は、世界恐慌とともに需要ショックによって引き起こされました。それは、日銀引受を伴う金融緩和と積極財政が最も有効な処方箋です。
コロナ・ショックも、世界的なサプライチェーンの寸断という供給ショックもありますが、人の移動制限の伴うビジネス停止により一気に需要が喪失する需要ショックの面が強く、昭和恐慌と同様の経済対策が必要です。
今回のコロナ・ショックは12年前のリーマン・ショックを超えるようです。
リーマン時に比べ、今回のほうが景気の弱さは際立ちます。一致指数の水準をみると、08年6月の102.1に対し、19年8月は98.4。この時点で景況感判断の目安である100を割り込んでいた。輸出や生産に関する指標は18年初めをピークに低下傾向にあり、内閣府の景気動向指数は19年3~4月にも一時「悪化」判断を示しました。
コロナの影響があきらかになった今年3月以降、日本は輸出や生産に加え、個人消費も急減した。小売販売額は前年同月比で4月に13.9%減、5月に12.5%減と2カ月連続で2桁減となりました。リーマン時には最大でも5%程度の落ち込みでした。
コロナショックで外需・内需が総崩れとなった結果、今年4月に一致指数は前月比10.5ポイント低下し、低下幅は比較可能な1985年1月以降で最大となりました。