2020年10月9日金曜日

立場の違いが明確に、埋められないEUと中国の溝―【私の論評】EUは、米国が仕掛けた“対中包囲網”に深く関与すべき(゚д゚)!

 立場の違いが明確に、埋められないEUと中国の溝

EUが対中包囲網に加わる流れが濃厚に

EU首脳と習近平・中国国家主席の間で行われたビデオ会議(2020年9月14日)


(澁谷 司:日本戦略研究フォーラム政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長)

 今年(2020年)9月14日、習近平主席は、メルケル・ドイツ首相や他の欧州連合(以下、EU)首脳らとビデオサミットを開催した。メルケル首相に加えて、ウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(ドイツキリスト教民主同盟所属)とシャルル・イヴ・ジャン・ギスレーヌ・ミシェル欧州理事会議長(元ベルギー首相)も出席した。

 このサミットでは、中国とEUの立場の違いが鮮明になっている。周知の如く、中国は米国との関係が悪化した。そこで、北京はEUとの良好な関係維持を模索している。他方、EUは中国の香港やウイグル等での人権抑圧を批判しながらも、同国との経済関係維持を望んでいた。

人権問題に関して異なる見解

 アメリカの国営放送局のサイト『美国之音(VOA:ボイス・オブ・アメリカ)』(2020年9月15日付)に掲載された趙婉成の「EU-中国首脳会議は多くの困難な問題に直面」という記事が興味深いので紹介したい。

 同会議前、参加各国は相手国の輸出品を保護するため、地理的表示が明らかな食品・飲料に関する協定に署名した。

 例えば、スパークリングワインについて、中国はフランス・旧シャンパーニュ地方産のみ、その名の使用を許可する。協定で保護された他の製品には、アイリッシュウイスキー、イタリアのパルメザンハム、ギリシャのフィタチーズ、中国四川省成都市郫都区の豆板醤(とうばんじゃん)、同浙江省湖州市安吉県の白茶、同遼寧省盤錦市の米などがある。

 昨2019年、中国はEU内で第3位の農産物・食品輸出国だった。その輸出額は145億ユーロ(約1.8兆円)に達する。

 今回の会談では、人権問題が最も扱いにくいテーマだった。目下、香港・新疆等をめぐり、中国と欧州の見解の相違が日増しに深まっている。そのため、EU諸国の北京への対応が強硬になった。

 例えば、今年8月26日、EUは香港の警察が林卓廷(Lam Cheuk Ting)民主党議員など民主活動家数十人を逮捕したことを指弾した。また、EUは新疆ウイグル自治区のイスラム教徒に対する中国の弾圧に抗議している。

 他方、中国は世界最大の温室効果ガス排出国である。そこで、EUは中国が温室効果ガス削減に関して、さらに大きな国際公約を宣言し、遵守することを望んだ。

 なお、EU委員会は今年6月に発表した報告書では、新型インフルエンザが武漢で発生した際、中国共産党がソーシャルメディアを利用して嘘の情報を流したと論難した。確かに、習近平政権は、偽情報で中国のイメージを改善しようと試みている。

 以上が概要である。

 農産品については、中国とEUともに、一定の成果を上げたと考えられよう。しかし、人権問題に関しては、両者の溝が埋まることはなかった。

EUが米中間で中立を維持することは不可能

 次に、同じく『美国之音(VOA)』に掲載された樊冬寧の「話題の対話:習近平の“連欧で米を制す”に対し、トランプは中東カードを使用か?」(2020年9月18日付)という記事も面白いので、紹介しよう。

 まず、上海の復旦大学中国研究所研究員、宋魯鄭は「中国はEUにとって軍事的脅威とはなり得ないので、双方に地政学的な対立はないだろう。もしEUが中立を維持すれば、米国と中国の両方から利益を得ることができる」と主張した。

 一方、政治評論家の陳破空は、今度の中国・EU首脳会議は北京政府にとって思惑通りに事が運ばなかったと指摘している。EUの指導者たちは北京に対し、人権・ウイグル・香港問題などを非難した。だが、習近平主席はEUにとって肯定的な反応を示さなかったのである。

 また、陳はEUが米中の間で中立を維持することは不可能だと喝破した。同首脳会議では人権問題以外、他の主要議題でも、EUと米国の立場が一致している。

 例えば、市場アクセス、市場開放など、欧州は中国商品に常に門戸を開いているが、中国は欧州の資金と商品に制限を設けている、と陳は指摘した。

 さらに、陳は、欧州は会談直後、新疆とチベットの問題を取り上げた。ドイツの外相らは、米国と類似した方式で、「ドイツ版インテリジェンス戦略」を提示したと述べた。

 以上が概略の一部である。

さらに深まったEUと中国の溝

 今回のビデオサミットで、習近平主席はEUを利用して中国の“四面楚歌”状況を打破したいという狙いがあった。けれども、香港を含む中国国内の人権問題で、中国とEUは鋭く対立し、両者の溝はさらに深まった観がある。

 「新型コロナ」後、習近平政権は「戦狼外交」を展開したが、外交的手詰まり状態に陥った。そこで、今年9月下旬から10月初めにかけ、王毅外相が外交的突破口を開くため、欧州5カ国を訪問した。だが、王が香港での市民弾圧やウイグルの人権抑圧等で仏独から弾劾されている。

 今後、習近平政権が人権問題で政策転換をしなければ、EU諸国は、米国が仕掛けた“対中包囲網”に深く関与するに違いない。

[筆者プロフィール] 澁谷 司(しぶや・つかさ)
 1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。2020年3月まで同大学海外事情研究所教授。現在、JFSS政策提言委員、アジア太平洋交流学会会長。
 専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等多数。

【私の論評】EUは、米国が仕掛けた“対中包囲網”に深く関与すべき(゚д゚)!

中国との対決をずっと拒否し政治的に無作為だった欧州の指導者たちが、ついに立ち上がり始めたようです。ここ数年、ニュースの見出しを飾ってきたのは圧倒的にトランプ大統領と米中貿易戦争でした。

しかし、世界最大の貿易ブロックである欧州連合(EU)も米国と同様、中国には数々の不満を抱いており、欧州のモノやサービスに対して中国は非常にねじ曲がった貿易慣行や制限を課しています。新型コロナウイルスで欧州諸国が高い犠牲を払っていること、そして中国が欧州の不運につけ入り利益を得ようしていることが、多数の欧州指導者に行動を促すきっかけとなりました。

在中国の欧州企業関係者にとって、中国市場の競争条件の不公平さは周知のことで、企業グループやシンクタンクによる多くの報告書は何度となくこの問題を強調してきたのですが、欧州は従来、米国と比べて対決的な役割はあまり演じない道を選んできました。

EUは昨年から中国を「体制上のライバル」と呼び始めましたが、積極的な反発は限られたものでした。

その理由の一つは、EUのガバナンス構造に内在する弱点にあります。欧州は国ではなく地理上の圏域であり、EUも国家ではなく、英国離脱前は28、現在は27の加盟国をまとめている超国家的な組織です。

何事も全加盟国のコンセンサスがなければ実効性を持たないのです。共通通貨ユーロを使わない国もまだあります。全加盟国に国境を開放する国もあれば、そうでない国もあります。経済的に重要であることは確かですが、意見が一致した組織ではなく、実際のところ中国に関しては一致していませんでした。

中国については、積年の経済問題や市場アクセスに加えて、政府による人権侵害の拡大が欧州にとって無視できないほど深刻になってきています。チベットおよび東トルキスタンとして知られる新疆ウイグル自治区での文化的虐殺、台湾を国際舞台で孤立させようとする理不尽な要求、香港での厳しい弾圧と国家安全維持法の導入は目に余るものとなり、欧州の指導者たちは声を上げるようにりました。

これらの懸念に加えて、欧州の政策の中心である気候変動や持続可能なエネルギーの分野でも、かつて重要なパートナーと思われていた中国は約束を守らず、国内外で石炭ベースのエネルギー生産を拡大し続けています。

そして、最近の出来事により欧州の対中認識が一段と硬化しました。欧州の中国に対する政策が徐々に米国に歩み寄る中で、この8月には中国の王毅外相が欧州各地を歴訪して、「ご機嫌取り」の攻勢をかけ、一定の親善関係を形成しようとしたためです。

王毅氏は、ご機嫌を取ることには失敗したのですが、その攻勢は非常に強力でした。王毅氏のやり方は、意に沿わないことに直面するとホスト国を脅すことでした。ノルウェーでは、香港に関連した抗議活動家や抗議グループへのノーベル平和賞の授与が脅しの対象になりましたた。

中国の王毅外相は欧州5カ国を歴訪し、ノルウェーのスールアイデ外相(右女性)らと会談

ドイツではハイコ・マース外相との共同記者会見で、チェコ上院議長の台湾訪問について、チェコは「高い代償」を払うことになると語りました。これは即座にマース氏の非難を招き、マース氏は王毅氏に対し、「脅しはここにふさわしくない」と述べ、欧州では国家間の関係についてそのような振る舞いはしないと指摘しました。

フォルクスワーゲンのヘルベルト・ディース最高経営責任者が、新疆ウイグル自治区の収容所について知らないと発言した18か月前とは様変わりです。こうした欧州の新しい雰囲気は新鮮な息吹です。

これまで欧州の指導者たちが政治面や経済面で中国に対抗しようとしたときでさえ、足並みの乱れがあったため、その内容は限られていました。EUの枠組みの性格上、中国はドイツの産業界の首脳らにエネルギーを集中しました。

これは昨日もこのブログに掲載したばかりですが、ドイツも対中輸出への依存度が高く、最大の顧客である中国を批判することには消極的でした。中国はまた、中・東欧17か国と中国からなる経済協力の枠組み である「17+1」 のような、より小さな欧州諸国グループの同盟を構築しようとしています。

このグループは最近ギリシャを加えて拡大されましたが、ギリシャへの大規模な港湾投資以外は投資や大規模プロジェクトに関してこれといった見るべきものはありません。しかし、こうした諸国へのアプローチが友人を増やし、ハンガリーとギリシャの両国は中国を批判しようとしたEUの声明の表現を弱めさせる役割に回りました。

しかし、そのような「友情」ははかないものかもしれないです。これらの欧州諸国は、中国への真の親近感からというより、EU主要国による扱われ方への不満を示す手段として中国を見ている可能性がありまか。

欧州内部の足並みを乱す上での中国の最大の成果は、中国流のグローバリゼーションである「一帯一路構想」にイタリアが参加したことです。イタリアはEUの創設メンバーであり、「一帯一路構想」に参加した唯一の欧州先進国であることからみれば、確かに中国にとっては成功ではあります。しかし長続きはしないでしょう。

欧州の指導者は「体制上のライバル」である中国の脅威への対処は遅れたかもしれないです。しかし、イタリアの「一帯一路構想」への参加や、ギリシャの海運と港湾インフラへの大規模な投資、それに今年の新型コロナウイルス発生後の誤った情報やあからさまな嘘によって、欧州は中国と対処するに当たって疑念を抱かざるを得なくなりました。

英国のEUからの離脱も、中国対欧州の構図の上で複雑な問題です。10年前、英国のデービッド・キャメロン首相とジョージ・オズボーン財務相は経済と投資を中国政策の中心に据え、中英関係の黄金時代の幕開けを両国は歓迎しました。

EU離脱派の見解は異なりますが、現実には英国はEU内において特に単一市場確立の推進役であり、EU内部の議論の際には多くの国、特に北欧諸国が英国によって追い詰められました。英国はもはやEUのメンバーではなく政策に直接影響を与えることもできないです、今は中国に対して批判の急先鋒です。

英国 ボリス・ジョンソン首相

5G導入を巡るファーウェイに対する英国の態度の急変は中国にショックを与えましたが、それだけでなく英国は香港の保護についても驚くほど強硬な立場を取りました。300万人にも上るかもしれない香港市民に英国市民権の道を開こうとする英国の姿勢は、中国を激怒させています。

欧州が対中行動に消極的なのは、多くの欧州人、特に政治エリートがドナルド・トランプ氏を嫌っているからです。中国に関して欧州と米国は共通の不満を抱えているが、「アメリカ・ファースト」の政策は、欧州にもトランプ大統領の怒りの矛先が向いていることを意味します。

中国に対抗しようとすれば、トランプ大統領やポンペオ国務長官の側についたとみなされがちで、これはほとんどの欧州指導者が望んでいませんでした。彼らは国家レベルの懸念は理解していたものの、トランプ氏のアプローチのレトリックと態度が不愉快だったのです。

欧州の指導者は、訪欧したポンペオ国務長官から自国ネットワークでのファーウェイ使用を禁止しないなら米国の情報・軍事の協力から外されると言われた際に、脅しに応じて動いたと思われたくはなかったのです。たとえファーウェイを巡る安全保障上の懸念に加え、競合関係にある欧州のエリクソンやノキアの中国市場へのアクセスが非常に制限されていることは認めるにしてもです。

米国とEU(英国を含む)の対中政策が近づきつつある中で、両者にはなお大きく相違する部分があります。米中の第1段階の貿易合意で欧州は動揺しました。合意は開かれた自由貿易の考え方に逆行し、米国が中国の膨大な需要を囲い込むことにより、欧州の企業や産業にとって不利になると受け止めたからです。

これと同様に重要なことがある。米中間のいかなる貿易合意とも矛盾しているように見えるものですが、それは両国経済を切り離すデカップリングの問題です。

王毅外相の訪欧は、ここ数か月にわたる欧州での中国への反発を受けて、親善関係を回復するとともに、中国共産党の習近平総書記とEU議長国であるドイツのアンゲラ・メルケル首相とのオンライン形式の会議を前に、その土台づくりをするのが狙いでした。

メルケル首相の6か月間の輪番制EU議長国職は間もなく任期が終わります。習氏はまた、欧州理事会のシャルル・ミシェル議長や欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長ともビデオ会談をしました。習氏は王毅氏のように反感を引き起こすことはありませんでしたが、ほとんど成果はありませんでした。

貿易と投資環境の改善を重視したい人たちもいますが、長期にわたって未決着の包括的投資協定(CAI)については、中国側になすべき大きな課題があります。中国は経済の在り方を根本的に変える必要がありますが、それが実現すると考えている人はまずいないでしょう。

 習氏の厳格な支配の下で、国家と党は経済のあらゆる分野にその力を押し付けてきました。これに関して習氏の立場を変えるものは何もありません。彼は相互利益や共有された未来などについて立派な発言をするかもしれないいですが、実態は何も変わらないでしょう。

習氏は国際社会が望んだものを何も提供できないですが、彼は、世界は変化しており、その変化は中国にとって好ましい方向でないことを知っておかなければならないです。欧州は、中国による国際規範を踏みにじる行為についてようやく口にし始めましたが、言葉の変化は始まりにすぎないです。

昨年末に就任したばかりのジョセフ・ボレルEU外務・安全保障上級代表は、世界で独裁的な政権が増えている中、米国とEUの対話の必要性と、同じ志を持つ民主主義国と協力する必要性を提案しています。ボレル氏はロシア、トルコ、中国に明示的に言及しています。

ジョセフ・ボレルEU外務・安全保障上級代表

問題は、EUがそのようなグループをつくり、大統領であるトランプ氏とともに意味のある政策を策定できるかどうかです。 それとも、中国に対するEUと米国の姿勢の歩み寄りは、欧州指導者の個人的な好みにより近いバイデン氏の大統領就任にかかっているのでしょうか。

 今の段階では誰にも分かりません。 欧州が直面している問題は、中国との対決の必要性はあと4年も待っていられないということです。欧州は早急に行動を起こす必要があり、米国と行動を共にすべきです。

新型コロナウイルスの世界的大流行は、今後何年にもわたって経済的、政治的ショックをもたらすでしょう。志を同じくする民主主義諸国の協力が不可欠です。中国はもはや欧州で自由に振る舞えず歓迎もされないでしょう。時代は変わったのです。

しかし、特定の取引や個別の発言を制限したり、国際社会での悪弊を非難したりすることは、世界最大の貿易ブロックにふさわしい対中政策ではありません。欧州は中国に関してこれまでとは異なるスタイルで関わったり対抗したりできるはずですが、現状はそうした動きとほど遠いです。

欧州はボレル氏の提案を実行に移し、米国との間で分断ではなく一層の団結を実現しなければならないです。特に中国の台頭に対応するためにはそれが必要です。

特にEU内でも、ドイツ、フランス等にとっては、中国は大きな脅威にはならないかもしれないです。きっと自ら防ぐことができるでしょう。しかし一方で、中国は欧州の東欧や中欧等の比較的経済に恵まれない国々の独立を一段と脅かす恐れがあります。これらの国は経済・軍時的にも弱く、市民社会も比較的弱く、他国に介入されやすいからです。それこそがEUにおける大きな危機です。

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2020年10月8日木曜日

メルケルも熱意を示さぬドイツの脱中国依存政策―【私の論評】名相の誉れが高かったメルケル首相の最大の置き土産が、ドイツの黄昏になりかねない(゚д゚)!

メルケルも熱意を示さぬドイツの脱中国依存政策

岡崎研究所

 9月2日、ドイツ政府は「アジア太平洋ガイドライン」を採択した。それによれば、今後の国際秩序をアジア太平洋の諸国とともに形作るべく、ドイツをより幅広く位置づけることを目指したいという。それには、関係を多様化して、ドイツの最も重要な貿易パートナーである中国への依存を低めることも含む。そういうわけで、一部報道では、「ドイツのインド太平洋戦略」が採択されたと持ち上げられているが、いくつかの意味で留保が必要かもしれない。まず、これは「戦略」ではなく、あくまで「ガイドライン」である。さらに、一応は閣議決定されたとは言え、あくまで外務省がまとめたガイドラインであり、多分に社民党(SPD)所属のハイコ・マース外相のアジェンダであるからだ。



 確かにドイツは、英仏がインド太平洋へのコミットメントを急速に深めつつあるのを見て、多少の焦りもあり、ここ数年急に「インド太平洋」概念に関心を示し始めた。長らくアジアの中でも中国、それもドイツ車の輸出市場としての中国にしか関心がなかったのだが、米中関係の悪化もあり、また東欧やバルカン、南欧などに中国が進出してきたことへの警戒感もあり、日本のインド太平洋概念に、少し関心を示し始めていた。

 中でもハイコ・マース外相は、昨年、一昨年と連続して訪日しており、2018年7月の訪日の際は、政策研究大学院大学で、「日独関係および変化する世界秩序におけるアジアの役割」と題して講演を行った。
(https://japan.diplo.de/ja-ja/themen/politik/-/2121328) 

 マース外相は、以前から日独が協調して世界の多国間主義、自由主義、ルールに基づく国際社会を守って行くべきであるという持論であり、今回の「ガイドライン」にもその考えが色濃く出ている。重視する原則として、多国間主義、ルールに基づく秩序、SDGs、人権、包括性、現地目線のパートナーシップなどがあげられている。

 もともとドイツは日本同様、安全保障政策概念を広く定義する国であり、今回も平和と安全保障をあげてはいるものの、アプローチは経済から文化まで含む包括的アプローチであり、取るべきイニシアチブも、環境や経済発展を重視したものが多い。

 ドイツは来年9月に総選挙が行われることになっており、すでに事実上選挙戦入りしている。今回のマース外相のイニシアチブも、価値観を前面に押し出し、中国との距離を相対化しようという点において、メルケル政権のこれまでの外交と少し距離を置こうとしている。この点は評価されるべきことであり、日本としても歓迎できる内容なのだが、問題はこれに対してメルケル首相がそれほど熱意を示していない点である。そのため、ガイドラインには具体的目標は余り盛り込まれていない。むしろこれは、来年の選挙に向けて、CDU(ブログ管理人注:ドイツキリスト教民主同盟)の経済重視の対中政策に対して、SPD(ブログ管理人注:ドイツ社会民主党)はより価値観重視の対中政策基軸を打ち出した、とアピールするための伏線とも見ることができる。したがって、今回の「ガイドライン」をもって、ドイツがアジア太平洋政策において急速に舵を切ったと見るのは、時期尚早のように思われる。

【私の論評】名相の誉れが高かったメルケル首相の最大の置き土産が、ドイツの黄昏になりかねない(゚д゚)!

ドイツの政党などに詳しくない方のために、以下に若干の説明をさせていただきます。

CDUは、2005年11月からはアンゲラ・メルケル党首が連邦首相となって以来、政権与党となっています。このキリスト教民主同盟と社会民主党(SPD)がドイツにおける二大政党です。

連邦議会では、バイエルン州のみを地盤とするキリスト教社会同盟(CSU)とともに統一会派(CDU/CSU)を組み、ドイツ社会民主党(SPD)とともに、議会内で二大勢力をなしています。なお、CDUはバイエルン州では活動していないため、CSUとCDUが競合することもなく、実質的にはCSUはCDUのバイエルン支部となっています。

さて、2016年に中国はドイツにとって最大の貿易相手国となりました。それ以降メルケル首相は公の場で、「中国はドイツにとって一番大切な国」と明言しています。つまりメルケル氏は政治信条だけで媚中なのではなく経済的にも中国を重視せざるを得ない立場にあるということです。

ちなみに前年に最大の貿易相手国だった米国は3位に転落、フランスは前年に続き2位でした。

ドイツにとっての米国の経済的重要性は低下しているのに、上得意である中国をトランプ氏(米国)が攻撃しているというのが、メルケル氏の本音でしょう。両者が犬猿の仲であるのは、政治信条の違いだけではなく経済的利害の対立も大きく影響しているようです。

象徴的なのはドイツ産業の中心とも言える自動車産業の状況です。

例えば、フォルクスワーゲンの2019年の中国販売は約423万台。全世界販売台数約1097万台(顧客ベース)のうち40%近くを占めます。 トヨタは米国依存度が高いと言われますが、2019年の販売台数約1074万台のうち米国市場は約238万台であり、22%ほどにしか過ぎません。

ちなみに、ワーゲンの米国市場での販売台数は65万台程度しかありません。また、トヨタの中国市場での販売台数は162万台(約15%)と決して少なくはないですが、ワーゲンの3分の1を少し上回った程度です。

また、中国との結びつきが強かったこと以上に構造的な問題をドイツは抱えています。それは依然として国内が輸出拠点としてのパワーを持ってしまっていることです。ドイツの輸出依存度(輸出÷実質GDP)は40%弱と日本の20%弱に比較してかなり高いです。ちなみに米国は数パーセントに過ぎません。


韓国もこうした傾向が強いですが、米国や日本のように、輸出依存度が低いということは、内需が大きいということです。これを国際競争力がないとみるのは間違いです。そうではなくて、国際環境の悪化しても影響が少ないということです。日本では、なぜか日本は輸出立国であり、輸出に大きく頼っていると信じて疑わない人がいるようですが、それは間違いです。

世界輸出に占めるドイツの存在感は中国の台頭と共に日本が小さくなっていたことに比べると、しっかりと維持されています。これは日本が対中依存を弱めたということであり、逆にドイツは対中依存を高めたということです。

コロナ禍になれば、輸出依存度が低ければ、海外の影響を被ることは少ないです。日本は、さらに対中依存度を低めようとして、中国から撤退する企業に対して補助金を提供することを実施しています。

一方ドイツのアンゲラ・メルケル首相は2005年11月に就任して以降、4期約15年間にわたって政権を担ってきました。しかし17年の総選挙や翌18年の地方選で敗北を重ねたことで、21年の任期をもって政界を引退する意向を示し、与党キリスト教民主同盟(CDU)の党首を辞任しました。

このようにメルケル政権は着実にレームダック化してきました。さらに悪いことにメルケル首相に代わってCDU党首に就任し、事実上の後継候補と目されてきたアンネグレート・クランプ=カレンバウアー(AKK)国防相が2月10日に党首を辞任する考えを示したことで、メルケル首相後のドイツ政治に対する不透明感が強まる事態となりました。

メルケル首相は、自らの求心力の低下を受けて党首を辞任し、そのポストを事実上の後継者に禅譲することで、権力のスムーズな移行を図ろうとしたのです。しかしそうしたメルケル首相の期待を、カレンバウアー党首は裏切ってしまったことになります。

カレンバウアー党首にとって致命的だったのが、19年5月の欧州議会選後の発言です。欧州議会選で与党CDUは連立を組む最大野党で中道左派の社会民主党(SPD)とともに議席を大きく減らしました。その際にカレンバウアー党首は、選挙期間中にオンラインメディアに対する規制を設ける必要性について言及しました。

一部オンラインメディアのインフルエンサーによる扇動的な政治活動に対する警鐘の意味を込めたカレンバウアー党首の発言は、言論の自由を阻害するものとして多くの有権者がこれに反発する事態を招きました。カレンバウアー党首では次期21年の総選挙は戦えないという機運が、CDU内に高まることになりましたた。

結局のところ、カレンバウアー党首はドイツを率いるだけの能力を有していません。メルケル首相をはじめとするCDU指導部がそう判断したことが今回の辞任劇につながりました。カレンバウアー党首はしばらくその職にとどまる見込みですが、ポストメルケルのレースは振り出しへ戻ったことになります。

アンネグレート・クランプ=カレンバウアー(左)とメルケル(右)


新党首の候補としてはラシェット副党首のほか、メルツ元院内総務、シュパーン保健相などの名前が挙がっています。とはいえどの候補もCDUが単独与党に返り咲くよう能力を持っているとは言い難く、2021年10月までに予定される次期総選挙では、ドイツ政治の多極化が進むものと考えられます。

ドイツ経済は今、2つの大きな課題を抱えています。1つが上でも解説したように、過度に輸出に依存した経済モデルを是正しなければならないという点です。メルケル政権下でドイツは、特に中国への輸出依存度を高めましたが、中国経済の構造的な成長鈍化を受け、このモデルは徐々に立ち行かなくなってきています。さらに、足元では新型コロナウイルス騒動の悪影響も加わりました。

もう1つが、東西ドイツ間に存在する格差問題への対応です。今年10月で東西ドイツ統一から30年が経ちますが、東西間には引き続き3割程度の所得格差があり、雇用格差もあります。そうした格差がメルケル政権下であまり改善しなかったことが、旧東独地域でAfDが台頭する事態につながっていることは紛れもない事実です。

この2つの課題のほかに、構造的な問題もあります。長らく、ドイツはEUあるいは世界経済の優等生だと言われてきました。しかし実のところドイツ経済の好調さは、第1に統一通貨ユーロを採用したことにより「為替調整」がなくなったことによるものです。

そうして、第2に中国市場へのシフトという危うい「一本足打法」に頼ったことによるものです。

これは、相当 いびつなものであり、その化けの皮がはがれてきたように見えます。もちろん、ドイツ銀行に代表されるようにリーマンショックの負の遺産を先送りして、ほとんど解決していないこともドイツ経済のアキレス腱です。

「為替調整」に関しては日本では聞きなれない言葉かもしないですが、要するに、ユーロの場合は、ドイツと他の加盟国の間で、ドルと円の間のような為替レートの変動によって黒字国の輸出額が調整されることがないから、ドイツが独り勝ちを続けられるということです。

しかし、ドイツが独り勝ちを続けても、他の加盟国が貿易赤字を垂れ流していれば、全体としてユーロの価値が下がりますから、ドイツの対EU貿易黒字は絵に描いた餅に過ぎないのです。

この問題点をトランプ大統領も指摘していたのですが、前述のように2016年に最大の貿易相手が中国となったことで「EUで稼いでいるわけではありませんよ!」とメルケル氏が言い返すことができるようになったわけです。

しかし、「中国シフト」は「東西ドイツ統一」と同じくらい愚かな判断だったかもしれないことは、今の世界情勢がはっきりと示しています。

これらの大きな課題を克服するためには、強いリーダーシップの発揮゛望まれます。しかし政治が多極化しつつある現在のドイツで、そうしたリーダーが生まれる展望は描き難いです。政治の多極化と表現すれば聞こえはいいですが、それは要するに、ドイツが抱える課題の改善を遠のかせる「決められない政治」の誕生に他ならないです。

長期政権に安住し適切な後継候補を育まず、ドイツ経済の構造的な課題にも切り込めなかったCDU指導部の罪は決して軽くないです。少なくとも先の任期の頃までは名相の誉れが高かったメルケル首相の最大の置き土産がドイツの黄昏(たそがれ)であるとしたら、これほど皮肉なものはないと言えます。そうなれば、メルケルの名相の誉は地に落ち、愚相と呼ばれることになるかもしれません。

アンゲラ・メルケル独首相


これに比較すると、日本は与党内に二階派などの親中・媚中派をかかえて、マスコミのほとんどは親中派ですが、そもそも輸出依存度が少なく、その少ないなかで中国の占める割合はさらに低く、さらには前安倍首相は、安全保障のダイヤモンド構想を提唱し、現在の日米のインド太平洋戦略の原型を提唱し、それに沿って安倍元首相が外交を展開したという実績もあります。

中国が台頭して、米国による世界秩序に対抗するようになった現在、従来みられた米国の日本に対する日本から理不尽ともみえる要請や過大な要求などはなくなり、それはすべて中国に振り向けられるようになりました。従来の米国の反日は、すべて反中に振り向けられたような状況です。

しかし、これは考えてみれば、当然といえば、当然です。

日本は、あくまで米国による世界秩序の中で、ルールを守った上で発展してきたのであって、中国やドイツとは根本的に異なります。

中国がこけるとドイツもこけますが、日本はそのようなことにはなりません。それどころか、日本がさらに安保で世界に貢献すれば、中国・ドイツがこけた後の新たな世界秩序において、米国とならんで世界でリーダーシップを発揮することになるかもしれません。

そのような傾向はすでにみえています。その格好の事例が、先日の日米豪印外相会議の日本での開催です。かつて、日本はドイツやイタリアと同盟をくんでいたことがありますが、その時には、このような会談はありませんでした。

合同幕僚長会議などを設置し緊密に連絡を取り合っていた連合国に対し、枢軸国では戦略に対する協議はほとんど行われませんでした。対ソ宣戦、対米宣戦の事前通知も行われず、一枚岩の同盟とは言えませんでした。

独伊は別にして、日本とドイツ・イタリアは特に戦略を共有するわけでもなく、バラバラに戦っていました。それどころか、ドイツは日独伊同盟が締結された後でさえ、当時の中華民国に対する軍事支援をやめませんでした。

ましてや今回のようにコロナ禍のようなパンデミック最中であってさえ、4カ国外相会談のような会談が開催される、それも日本で開催されるというようなことはありませんてした。

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2020年10月7日水曜日

中国念頭に連携強化、日米豪印外相が会談 ポンペオ米国務長官「中国共産党の腐敗、威圧から守らないといけない」―【私の論評】本当の脅威は、経済・軍時的にも市民社会も弱く他国に介入されやすい国々の独立を脅かす中国の行動(゚д゚)!

中国念頭に連携強化、日米豪印外相が会談 ポンペオ米国務長官「中国共産党の腐敗、威圧から守らないといけない」

   日米豪印外相会合に臨む茂木敏充外相(右から2人目)、ポンペオ米国務長官
   (左から2人目)、ペイン豪外相(左端)、ジャイシャンカル印外相(右端)
   =6日午後

 日本、米国、オーストラリア、インド4カ国の外相は6日、東京都内で会談した。新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を引き起こしながら、軍事的覇権拡大を進める中国共産党政権を念頭に、ルールに基づく国際秩序の構築など「自由で開かれたインド太平洋」の推進に向け、4カ国が連携を強化することで一致。同会談を定例化し、毎年1回開くことも確認した。

 「(新型コロナの感染拡大は)中国共産党が隠蔽したことで事態が悪化した」「連携して中国共産党の腐敗、威圧から守らないといけない」

 マイク・ポンペオ米国務長官は外相会談でこう語り、中国への“徹底抗戦”を呼び掛けた。

 ポンペオ氏はこれに先立つNHKのインタビューで、「これは米国vs中国という問題ではない。『自由』と『専制政治』のどちらを選ぶかの問題だ」「次の世紀が、ルールにのっとった国際的秩序による支配になるか、中国のような威圧的な全体主義国家による支配になるのか、という話だ」と指摘した。

 注目の会談には、茂木敏充外相とポンペオ氏、オーストラリアのマリーズ・ペイン外相、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相が出席した。

 茂木氏は「さまざまな分野で既存の国際秩序は挑戦を受けている」「4カ国は(『自由・民主』『人権』『法の支配』など)基本的価値観を共有し、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序を強化していく目的を共有している」と述べた。

 4カ国外相は、地域の秩序確保へ、より多くの国と連携していく方針で一致した。東シナ海、南シナ海、台湾海峡情勢をめぐって議論し、中国による一方的な現状変更の試みに対する懸念の声が上がった。

 「中国ベッタリ」と揶揄(やゆ)されるテドロス・アダノム事務局長率いる世界保健機関(WHO)の新型コロナ対応を検証すべきだとの意見も出た。

【私の論評】本当の脅威は、経済・軍時的にも市民社会も弱く他国に介入されやすい国々の独立を脅かす中国の行動(゚д゚)!

マイク・ポンペオ米国務長官は10月6日、中国共産党政権に対抗するため、米国・日本・オーストラリア・インドによる4カ国安保対話(Quad、クアッド)を公式化し、拡大する意思を示しました。

クアッドとは、非公式な同盟を結んでいる米日豪印の4カ国間の会合で、第一次政権時の安倍前首相が2007年に提唱し実現させたのです。安倍首相はその後、間もなく退陣してしまうことになりましたが、この方針は後を受けた麻生政権にも引き継がれ、そして民主党政権を経た後の第二次安倍政権でもこの4カ国の枠組みの維持が図られてきました。

クアッドの生みの親 安倍前首相

QUADは、自由で開かれたインド太平洋戦略のための「4カ国イニシアティブ」とも呼ばれ、安全保障における協力関係を強化することを目的にしており、これらの国による海軍合同演習も行なわれてきました。

言うまでもないことですが、この枠組みは中国を意識した連携です。そのため、これまで各国もそのときどきの政権によっては、この枠組みとの距離を置こうとする動きもありました。そのため本格的な連携関係にはなってこなかったのが実情です。

それが今日、再び注目されています。きっかけは、8月31日の米印戦略フォーラムにおける、米国務省のスティーブン・ビーガン副長官によるQUADについての踏み込んだ言及です。


ビーガン国務副長官の発言は以下のようなものでした。

「トランプ政権が続こうが、トランプ大統領が敗れようが、新しい大統領の新しい政権だろうが、QUADを4カ国ではじめることは非常に重要なきっかけになるだろうし、この連携の行方を探っていくのは非常に価値があることだ。ただこのイニシアティブを、中国に対する防衛のため、または、中国を封じ込めるためだけの目的にしないように気をつけるべきだ。それ以上のものにしたほうがいい」

要するに、ビーガン国務副長官が米政府として今後のQUADの連携強化を求めたのです。

「中国を封じ込めるためだけではない」と言ったのは、参加国がそれぞれの事情で中国との関係性があることを踏まえたからだと考えられます。安倍首相が提唱してから現在まで、QUADと距離を置く国があった背景には、中国との2国間関係が作用したという経験があります。それはインドも同じであり、もともと同盟を重視しない非同盟主義を貫いてきたインドへのメッセージであるとも取れます。

ビーガンはさらにこう続けました。

「同時に、あまりに野心的になりすぎないようにもしたほうがいいだろう。インド洋・西太平洋地域のNATO(北大西洋条約機構)なんて声も聞いている。だが忘れてはいけないのが、NATOですら、最初は比較的に期待感は大きくなかったし、第二次大戦後の欧州でNATO加盟について多くの国が中立を選んだ。NATOの加盟国は現在では27カ国だが、もともとは12カ国だけだった。つまり、少ない規模ではじめて、加盟国を増やしてゆくゆくは大きくなることができる」

要は、NATOのような枠組みで結束して中国に対抗していこうという牽制でもあります。米国には、対抗意識を隠そうとしない中国の姿を見て、インドも仲間に呼び込みたいという思惑が見えます。

米国務省のスティーブン・ビーガン副長官

そしてこの動きはこの秋以降、一気に活性化することになりそうです。今回の日米豪印外相会談にポンペオ長官が参加したのに続き、ロバート・オブライエン米国家安全保障担当大統領補佐官も、10月にはハワイでQUADの安全保障担当の高官らと会う予定のようです。

さらに年末には、QUADの本格化に向けた地ならしの意味で、インドが日本と米国と共に毎年行っている海上軍事演習「マラバル」に、オーストラリアが招待されると言われています。

このQUADが、ビーガンが言うように、NATOのような軍事的同盟関係強化だけでなく、経済にもその範囲を広げれば、中国の広域経済圏構想「一帯一路」も牽制できるとの声も上がっています。

日本は最近インドとの2国間関係も強化しています。9月9日には、自衛隊とインド軍の物品や役務の相互提供を円滑に行う日・インド物品役務相互提供協定(日印ACSA)が締結されたばかりだし、11月には日印2プラス2が行われる予定です。

QUADにはさらに参加国が増えることもありえます。米国務省の関係者によれば、日米豪印に加えて、まずは韓国とベトナム、ニュージーランド(QUAD+3)を参加させるという目論見があるといいます。

もともとインドは非同盟主義の国だ。そのインドがQUADに興味を示している理由の一つには、やはり国境問題などで中国との関係悪化があります。2020年6月、ヒマラヤ山脈地帯の中印国境沿いで、インド軍と中国軍が素手での殴り合いや投石という形で衝突し、死者まで出る事態になりました。

そしてその後にインド政府は2度に分けて、180近い中国製モバイルアプリの使用を禁止すると発表し、世界が両国関係の行方を固唾を呑んで見守りました。

こうした動きを受け、中国はロシアを巻き込んだ「牽制」の動きを見せています。9月11日、ロシアが仲介するという形で、インドと中国が国境での紛争において、「信頼醸成措置を推進する」と合意したと発表。明らかにインドが西側と関係強化していることを意識した動きです。

現時点では、国境沿いの争いは小康状態が続いていますが、一触即発の状態は変りません。今後インドでは、前述のアプリ禁止措置のようにさらなる経済的な対中措置が取られる可能性もあり、中印関係はさらに悪化するという見方もあります。

そのインドも、中国の台頭を目の当たりにし、共闘する国が必要だと感じているというこでしょう。今後、さらにQUADとの連携強化を進めることになると見られます。

QUADが4カ国に留まるにせよ、さらに参加国を増やしていくにせよ、この対中国の多国間に渡る共同戦線が実効性を備えてくれば、やはり「安倍首相の外交レガシー」がもう一つ増えることになるでしょう。

今回のクアッド会合では、中国の海洋進出や5G(次世代移動通信網)構築などが話し合われました。また、中共ウイルス(新型コロナウイルス)の世界的大流行も議題となりました。

日経アジア・レビュー6日付によると、関係者らは非公式のクアッドでは、4カ国間の具体的な連携が難しく、連携も長く継続できないと指摘しました。最近、中国当局は、米国だけでなく、日・印との領海や国境で挑発行為を繰り返し、中共ウイルスの発生源に関する独立調査を求める豪政府との関係もぎくしゃくしています。

ポンペオ長官

ポンペオ長官は日経アジア・レビューの取材に対して、クアッドを「制度化すれば、真の安全保障枠組みを構築できる」と話し、「この枠組みは、中国共産党政権がもたらしたわれわれへの課題に対処できる」としました。

また、長官は、クアッドが今後さらに拡大し、他の国も「適切な時期に参加できる」と述べました。

長官は、クアッドでは安全保障上の課題だけでなく、「経済的能力、法治、知的財産権保護の能力、貿易協定、外交関係、安全保障の枠組みを構成するすべての要素を議論している。これは軍事よりも深い話だ」とし、「これは民主主義国家が持つ力であり、権威主義体制では決して実現できないものだ」と強調しました。

さらに、長官は「われわれは紛争ではなく、平和をもたらすことを目指している」としながらも、「(対中)宥和政策は解決策ではない」との見解を示しました。

米国務省が発表した情報によると、ポンペオ氏訪日の主なトピックは、軍事的覇権の拡大を進める中国共産党政権へのけん制を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現に向けた連携の確認と、米国とアジアの同盟国との関係強化を目指したいとの考えだといいます。

デービッド・スティルウェル(David Stilwell)米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は2日、メディアに対し、ポンペオ氏は訪日中にクアッドに出席し、インド太平洋地域の安全保障、サイバーインフラおよびセキュリティ、参加国が直面する共通課題への具体的な協力方法の議論をする予定であると明らかにしました。

クアッドの目的は、インド太平洋地域でのセキュリティの確立および促進です。

その実現に対する外界の期待感は高まっています。米ワシントン・タイムズ紙の最近の報道によると、「中国からの脅威が増大するにつれ、クアッドの創設条件がより成熟してきている」と見ている米当局者が増えているといいます。

同報道は、米国のシンクタンクであるウッドロー・ウィルソン国際学術センターに所属する南アジア専門家マイケル・クーゲルマン(Michael Kugelman)氏の発言を引用して、「過去には一国だけが特定の時期に中国からの脅威に直面していたが、現在はそうではない。中国のアジアでの攻撃的な活動は、世界の安定をますます脅かすようになった。クアッドの設立に現在、同地域の他の国々も非常に関心が高まっている」と報じました。

また、米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は1日、米国は中国の膨張的な行動を抑制するため、南シナ海での主権紛争問題を提起し、太平洋地域の同盟国への武器販売を増やしたと報じました。 これらの行動戦略は、「価値観を共有する国と同盟関係を構築する」というポンペオ氏の提案と一致しています。

こうした最中にあり、カンボジアで新たな動きがありました。カンボジア政府は7日までに、同国南部のリアム海軍基地で、米国の支援によって建設された施設を取り壊しました。カンボジア側は「老朽化のため」と説明したが、施設の破壊後には中国が基地の利用を始める可能性が指摘されています。

同基地はタイ湾に面し、艦船が配備されれば、領有権をめぐって各国の摩擦が続く南シナ海進出の拠点ともなりうるだけに、米国は神経をとがらせています。

このような中国の拡張主義に対抗し得るQUAD諸国には、大きな脅威にはならないかもしれないです。きっと自ら防ぐことができるでしょう。しかし一方で、カンボジア等のインド太平洋地域や近隣の貧困国の独立を一段と脅かす恐れがあります。これらの国は経済・軍時的にも弱く、市民社会も比較的弱く、他国に介入されやすいからです。それこそがインド太平洋地域における大きな危機です。

このような国々の多くが中国の傘下に収まった場合、この地域で中国の主張は通りやすくなり、国連でも中国の意見が多数派を占めることになり、それを翻すことは困難になります。中共は無論、それを狙っています。

QUADの存在意義は、日米豪印の4カ国の提携というだけでなく、こうした脅威からインド太平洋地域をまもるためにも、発展させていく必要があります。

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2020年10月6日火曜日

アゼルバイジャンとアルメニアで因縁の戦いが再燃した訳―【私の論評】周辺諸国や米国がこの紛争に中途半端に介入し続ければ、混乱を増すだけ(゚д゚)!

 アゼルバイジャンとアルメニアで因縁の戦いが再燃した訳

A War Reheats in the Caucasus

<ナゴルノカラバフの帰属をめぐる長年の紛争が解決されぬまま暴発を繰り返す背景と歴史>

9月下旬に始まった軍事衝突は沈静化の糸口が見えない(写真は29日、砲撃するアルメニア軍)

アルメニアが実効支配するアゼルバイジャンのナゴルノカラバフ自治州で両国の軍隊が衝突し、にわかに緊張が高まっている。

両国はいずれも旧ソ連の共和国だが、ナゴルノカラバフの帰属をめぐってソ連崩壊前から対立。ここ数年も小競り合いが多発していた。ただ、今回の衝突は1990年代のような全面戦争に発展しかねない。詳しい背景を探った。

過去の全面戦争とは?

同自治州の独立宣言に伴い、1992年から94年まで続いたナゴルノカラバフ戦争のことだ。欧米ではあまり知られていないが、この戦争では民族浄化の嵐が吹き荒れ、約3万人の死者と100万人の難民が出た。うちざっと7割はアルメニアの占領地から逃れたアゼルバイジャン人だ。


ナゴルノカラバフは現地語で「山岳地帯の黒い庭」を意味する。その名のとおり美しい高原地帯で、アルメニア人、アゼルバイジャン人双方がこの地に愛着を抱いている。

アルメニア人がこの地域の住民の多数を占めるが、ロシア革命後、後にソ連共産党となるボリシェビキがこの地域をアゼルバイジャン共和国に編入した。アルメニアとアゼルバイジャンがソ連の共和国だった時代には、そのことはあまり問題にならなかった。アゼルバイジャン共和国内には多くのアルメニア人が住み、逆にアルメニア共和国にも多くのアゼルバイジャン人が住んでいたからだ。

アルメニア人の多くはキリスト教の正教徒で、アゼルバイジャン人の多くはイスラム教シーア派だが、ソ連時代には宗教は公認されていなかったため、信仰の違いもさほど問題にならなかった。だが1980年代にソ連の統制が緩むと、ナゴルノカラバフにいるアルメニア人がアゼルバイジャンの支配に抗議の声を上げ、アルメニアへの編入を求めるようになった。

1988年には民族的な対立が激化。アゼルバイジャンの首都バクー北部の都市スムガイトでアゼルバイジャン人がアルメニア人を襲撃し、多数の死者が出る事件も起きた。

1991年にソ連が崩壊すると、ナゴルノカラバフは一方的にアゼルバイジャンからの独立を宣言。アゼルバイジャン、アルメニア共にこの地域の領有権を主張して譲らず、世論は主戦論にあおられ、戦争突入は不可避の事態となった。

悲惨を極めた戦争は時には喜劇の様相も見せた。ソ連軍が解体されたため、膨大な数のロシア人の傭兵が生まれ、アゼルバイジャン側とアルメニア側に分かれて戦った。一夜にして敵側に寝返る者もいた。

当初は劣勢だったアルメニアが終盤で優位に立ち、1994年にロシアの仲介で停戦が成立。ナゴルノカラバフはアルメニアの実効支配下に置かれた。

アゼルバイジャンはすんなり負けを認めたのか

その逆だ。敗戦は深いトラウマを残した。自治州を失い、そこに住んでいた同胞がアルメニア軍に追い出されたからだけではない。アゼルバイジャンの人口はアルメニアの約3倍。国の大きさでも国力でも格下の相手に負けたのは耐え難い屈辱だった。

そのためさまざまな陰謀論が飛び交い、アメリカがひそかにアルメニアを支援したという説まで流れた。実際には、徴集された兵士から成るアゼルバイジャン軍は志願兵で構成されたアルメニア軍に比べ士気が低かったことが大きな敗因だ。加えてロシアもアルメニア側へのテコ入れを強め、武器を提供し、軍事訓練を行っていた。

アゼルバイジャン人の遺恨の深さを物語る悪名高い事件がある。2004年にNATOがハンガリーの首都ブダペストに非加盟国の将校を集めて英語訓練セミナーを行った。アルメニアとアゼルバイジャンもこれに参加。夜に参加者が宿舎で寝ているとき、アゼルバイジャンの将校ラミル・サファロフがアルメニアの将校をおので殺し、ほかのアルメニア人も殺そうとした。

これだけなら常軌を逸した個人の犯行にすぎなかっただろう。だがアゼルバイジャンはハンガリーで終身刑になったサファロフの身柄引き渡しを要求。8年後に連れ戻すと大統領が即座に恩赦を与え、少佐に昇格させて住居と未払いの給与を与えた。アゼルバイジャン大統領府の外交部トップはサファロフを「母国の名誉と国民の尊厳を守って投獄された」英雄とたたえた。

なぜ何も解決しないのか?

交渉でより強い立場を維持して、武力侵攻という疑惑をかわすために、アルメニアはナゴルノカラバフを自国の領土に組み込むのではなく、名目上の独立共和国としてきた。ただし、「アルツァフ共和国」を名乗る傀儡国家は、国際的にほとんど承認されていない。

アメリカとロシアは、恒久的な解決策を探る上で重要な役割を演じてきたが、長年の努力も無益なままだ。アメリカに関しては、アルメニア系アメリカ人のロビー団体がそれなりに影響力を持っているが、アゼルバイジャンもアメリカの石油会社との関係に多額の投資をしている。

公式には、2000年代半ばから「マドリード原則」に基づく交渉が進んでいる。アルメニアが占領地を放棄して、難民は故郷に戻り、紛争地域の住民の権利が保障されて、最終的に領土の帰属問題が解決されることを目指す。

ただし、双方とも主張を曲げるつもりはない。特に、いずれの国も指導者が権力を維持する上でナショナリズムが非常に重要な役割を果たしており、妥協には国民が強く反対している。

「アルツァフ共和国」の首都ステパナケルトのシェルター

今年に入って事態が悪化した原因は?

具体的な要素はいくつかある。夏から国境付近で小競り合いが続き、互いに相手が先に仕掛けてきたと非難している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で社会のストレスが高まり、経済は破綻しかけていて、政治家はいつも以上に愛国心を前面に押し出している。

新たな戦争が起きれば事態は変わるのか?

アゼルバイジャンがナゴルノカラバフを奪還することはなさそうだ。最初の交戦では双方に犠牲者が出たが、アルメニアが発表した映像を信じるなら、物理的な破壊の被害はアゼルバイジャンのほうがはるかに大きい。

独立機関の評価では、アゼルバイジャンの軍備はいまだに貧弱だ。兵士の士気は低く、腐敗し、非効率的で、脱走率は20%近くに達する。

2008~14年は石油収入で新しい装備に巨額の資金を投入したが、原油価格が暴落。政治の混乱と残忍な弾圧が続くなか、アゼルバイジャンは財政的な苦境に立たされている。

アゼルバイジャンが予想外の猛攻撃に出ても、ロシアによる直接的な介入を招き、短期間で停戦を余儀なくされる可能性が高い。ロシアと、両国と国境を接するイランなどは仲介を申し出ている。

一方で、紛争の拡大も懸念される。特に、トルコはアゼルバイジャンを強く支持している。トルコ人はアゼルバイジャン人と文化や経済など結び付きが強く、アルメニア人とは長年対立してきた。1915年にオスマン帝国で起きたアルメニア人のジェノサイド(大量虐殺)をトルコは今なお否定しており、両国の関係は険悪だ。

当初の紛争に見られた宗教的側面は、民族主義的な熱狂に比べると控えめで、ナゴルノカラバフがチェチェンのようなジハード(聖戦)の大義になったことはない。過去には約2000人の元ムジャヒディン(アフガニスタンのイスラム・ゲリラ組織)がアゼルバイジャン側で戦ったが、主に経済的な理由からだった。しかし、それも今回は変わるかもしれない。

とはいえ、最も可能性が高いのは、小規模かつ痛みを伴う戦争の後に、未解決の停戦状態が続く筋書きだろう。今回の戦闘の犠牲者の大半は、紛争が始まったときは生まれてさえいなかったのだが。

From Foreign Policy Magazine

【私の論評】周辺諸国や米国がこの紛争に中途半端に介入し続ければ、混乱を増すだけ(゚д゚)!

アゼルバイジャンとアルメニアはともにコーカサス地域に属する国々です。日本にいると、コーカサス地域のニュースを聞く機会はめったにないです。「コーカサス」で思いつくのはジョージア出身の力士や、長寿にいいと言われるヨーグルトなど、ごく限られたものではないでしょうか。


ところが、陸路でアジアからヨーロッパをつなぐ要衝にあるコーカサスの3か国には近年、日本も関与を深めています。アゼルバイジャンのエネルギー開発には日本企業も投資しているほか、アゼルバイジャンからジョージアを通り黒海に抜ける約460㎞の国際幹線道路の整備事業にも日本が参加しています。


コーカサス地方


2018年には河野太郎外相がコーカサス3か国を歴訪、「コーカサス・イニシアチブ」を発表して人材育成やインフラ整備分野での支援を促進する方針を表明しました。


中国が広域経済圏構想「一帯一路」を推進するべくコーカサスでの存在感を増している中、この地域で歴史的に負の遺産を持たない日本は、いずれの国からも信頼できる友として歓迎され、良好な関係を保っています。


これら3か国との友好関係の深化は、ユーラシア全体の平和と安定にも影響するため、日本の存在感を示す好機にもなります。


また、日本のエネルギー自給率は1割程度にとどまっています。石油、天然ガス、石炭の化石燃料が全体の8割を占めており、エネルギーの安定供給が喫緊の課題です。エネルギー安全保障に必要な供給源の多角化の観点からも、この地域の重要性は無視できません。


ナゴルノ・カラバフ紛争の和平に関与してきた米露両国は、今回の交戦を受け、即座に停戦を呼びかけましたた。米国が懸念しているのは、二か国間の緊張やエネルギー資源そのものよりも、EUにおいてロシアの影響力が拡大することです。

EUの天然ガス総輸入量の約4割はロシアからです。ロシアのエネルギー輸出は、「純粋なビジネス」という見方もある一方で、米国は「エネルギーの政治利用」を強調します。コーカサスの緊張でこの地が不安定化し、パイプラインのオペレーションにも悪影響が出れば、EUのさらなるロシア依存を招きかねないという強い懸念があります。

当のEUは、米国と異なり、地理的にも歴史的にも関係の深いロシアをEU経済から排除することはできないのが現実です。特にドイツでは、脱原発に向け安価なガスの供給源確保が課題となっており、現に、ロシアからの天然ガスをバルト海経由でドイツに運ぶパイプラインの完成が間近に迫っています。

米国はこうした動きに対し、2017年に成立した対露制裁法に基づき、段階的に制裁を発動。今回の武力衝突と時を同じくし、ポンペオ米国務長官は「米欧の安全保障の脅威に対し、我々はあらゆる措置を講じる」と述べ、同パイプライン計画への更なる制裁強化を警告しました。ロシアへのけん制とEUへの圧力と取れますが、その裏には、米国内でだぶついている液化天然ガスをEUに輸出したい思惑もあるようです。

アゼルバイジャン人はトルコ系で言葉が通じ、ソ連崩壊後、関係を強化してきました。最近も7~8月、アゼルバイジャンでトルコ軍は合同演習を行っていました。9月27日の開戦直後からトルコはアルメニアを非難しており、アゼルバイジャンを背後から支援しているとみられています。

ロシアとトルコはすでに、シリアとリビアの内戦で対立する立場を取っており、アゼルバイジャンとアルメニアが本格的な紛争に巻き込まれれば、コーカサス地方で新たな代理戦争が起きる可能性も排除できません。

イスラエルは、最大の敵であるイランを封じ込めるためにアゼルバイジャンとの良好な関係を維持したがっています。

同じ理由で、米国は2016~17年の約300万ドルだったアゼルバイジャンへの安全保障関連投資を、2018~19年には約1億ドルに引き上げた。アルメニアが2018会計年度にアメリカから受け取った安全保障支援金は420万ドルだけです。

そのため、ナゴルノ・カラバフの状況は、アメリカとイランの対立に関わってきます。イラン政府は冷静さを求め、和平交渉の仲介役を申し出ました。イスラエルと米国があらゆる手を使ってイランの外交的影響力を弱体化しようとしているなか、イランにしてみればこの紛争は、自国の影響力を拡大する格好の手段となるでしょう。

このように、アゼルバイジャンとアルメニアの紛争には、米国や近隣諸国の様々な思惑がからんでいるのです。

以前述べたように、ロシアのGDPは今や東京都なみであり、米国抜きのEUとも本格的に対峙することはできません。しかし、コーカサス地域は、経済的に豊かな国はなく、ロシアにとっては比較的に関与しやすいです。ただし、本格的な介入はできないでしょう。その上、現在の米国は中国との対峙を最優先しているので、この地域にはあまり関わりたくはないでしょう。

現在の米国、ロシア、トルコ、イスラエルなどがこの紛争に関われば、中途半端な介入しかできません。それを継続すれば、以前もこのブログに掲載したように、この地域の混乱を増すばかりになります。

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2020年10月5日月曜日

【日本の選択】菅首相に求めたい解散総選挙の決断 日本国憲法に「首相の専権事項」の明記なし―【私の論評】安倍政権が、金融政策をセオリー通りに実行できるようにし、菅政権が財政政策をセオリー通りにできるようにすれば、日本は盤石で菅政権は安定(゚д゚)!

【日本の選択】菅首相に求めたい解散総選挙の決断 日本国憲法に「首相の専権事項」の明記なし

 菅新政権誕生! 

衆院本会議場

 「解散は首相の専権事項」。衆院解散について語られる際に、必ずといってよいほど繰り返される台詞(セリフ)である。だが、意外な事実として、日本国憲法において衆院の解散が、首相の専権事項であるとは明記されていない。

 衆院の解散について明確に記されているのは日本国憲法の第69条だ。「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」と定められている。

 この憲法を読むと、解散は首相の専権事項というよりも、不信任案が可決し、追い込まれた形でのみ解散ができることになっている。首相自身が時機をうかがって、解散権を行使することにはなっていない。

 首相自身が解散権を行使する根拠とされるのが憲法第7条である。第7条では「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」と定められ、この「国事に関する行為」の中に「衆院を解散すること」が掲げられているのだ。解散の際に「7条解散」などと称されるのは、こうした解散権について曖昧な憲法に由来する。日本国憲法の改正が必要なのは、首相の解散権が曖昧な点にも求められるといってよい。

 憲法上、さまざまな解釈があるのは事実だが、現実には、時の首相が衆院の解散を決断する。戦後、自らの手で解散の時期を定められず衆院議員の任期満了選挙に追い込まれたのは、三木武夫首相だけである。当時は中選挙区制で派閥の領袖(りょうしゅう)の影響力が現在とは比較にならぬほど大きかった時代だ。三木首相は派閥の領袖たちの同意を得られずに解散することができなかった。

 首相たるもの、解散を自らの手で定められぬとあっては恥だとする文化が存在する。現在の衆院議員の任期は来年の10月。必ず、任期の満了前に菅首相は解散を仕掛けるだろう。多くの衆院議員が関心を寄せているのは、いつ解散が行われるかだ。これは菅首相以外の誰にも分からない。

 だが、菅首相がこの選挙を乗り切れなければ菅内閣は瓦解(がかい)し、自民党は弱体化するだろう。数合わせに終始する野党は、目の前の内閣を打倒することに関心を寄せるのみで、自らの具体的な政権構想を提示するには至っていない。仮に自民党が大敗し、菅内閣が崩壊すれば、日本政治は混沌(こんとん)状態に陥るだろう。

 大阪都構想を問う住民投票、連立内閣を組む公明党の意向、9月の自民党総裁選…。解散を遅らせ、全ての問題を一気に解決したいとの気持ちは理解できる。だが、一度下がり始めた支持率を戻すのは困難なことも事実だ。

 菅首相には早期解散を決断していただき、長期政権への地盤を築き上げていただきたい。国難の時代、野合する野党が跋扈(ばっこ)するのは日本の悲劇に他ならない。 =おわり

 ■岩田温(いわた・あつし) 1983年、静岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、同大学院修士課程修了。拓殖大学客員研究員などを経て、現在、大和大学政治経済学部准教授。専攻は政治哲学。著書・共著に『「リベラル」という病』(彩図社)、『偽善者の見破り方 リベラル・メディアの「おかしな議論」を斬る』(イースト・プレス)、『なぜ彼らは北朝鮮の「チュチェ思想」に従うのか』(扶桑社)など。ユーチューブで「岩田温チャンネル」を配信中。

【私の論評】安倍政権が、金融政策をセオリー通りに実行できるようにし、菅政権が財政政策をセオリー通りにできるようにすれば、日本は盤石で菅政権は安定(゚д゚)!

私自身は、ブログ冒頭の記事のように菅首相が早期解散に踏み切ることには大賛成です。現在菅政権の支持率は70%と高いです。健在解散総選挙をすれば、余程の番狂わせでもない限り、大勝利でしょう。


そうすれば、確かに菅政権は、長期政権への地盤を築き上げることになるでしょう。ただ、それだけでは不十分です。それに加えて、安倍政権にもみられたように、経済や雇用を良くすることです。

これができない限り、菅罫線は安定政権にはなりえません。安倍政権が長期安定政権になりえたのは、財政政策は増税などで結局失敗しましたが、日銀の金融政策を転換し、大規模な金融緩和政策に踏切り、継続したことによる、雇用の劇的な改善です。

これなくして、憲法論議や安保問題のみに取り組んでいたとしたら、第一次安倍内閣のように第二次安倍内閣も短命に終わったことでしょう。

なぜ、そのようなことがいえるかといえば、国民にとっては、憲法や安保も大事なのですが、まずは日々の暮らし向きが安定しなければ、政権を支持することはできないということがあります。

特に、その中でも雇用は重要です。まずは、雇用がある程度安定していなければ憲法論議、安保論議ということにはならないのです。

安倍晋三氏は、総理大臣になる前から、アベノミックスを強く打ち出しました。その内容は、皆さんご存知のように、積極財政、金融緩和政策、成長戦略です。積極財政は二度にわたる増税で結局はうまくいかず、成長戦略もほとんど手つかずでしたが、それでも金融緩和は継続したため、雇用が劇的に改善しました。これこそが、安倍政権の長期化の原動力だったと言って良いです。

金融政策に関しては、日銀がイールドカープコントロールを実行するようになってから、抑制的な緩和に転じましたが、それでも緩和を継続していたので、雇用はかなり改善されました。


そうして、何よりもコロナの第二次補正予算のときに、政府と日銀がタッグを組み、政府が国債を発行し、日銀がそれを全額買い取る方式を実行して、補正予算は他国に比較しても遜色がないというか、かなりの対策を打つことができ、大成功でした。これで、当初の日本のコロナ対策は「世界に類例のない規模の経済対策」となり、合格点をつけられる状況になりました。

さらに、日本のマスコミは不安を煽り、日本のコロナ対策が失敗したとの印象操作をしていましたが、日本のコロナの感染者数や死者数は桁違いに少なく、世界の中では成功した部類ですし、しかも人口が1億人を超える国家としては、最も成功しています。

今後も日銀・政府の連合軍は、危機的状況における経済政策にも用いられる枠組みとなる可能性が出てきました。これこそが、安倍政権の貴重なレガシーといえます。

安倍晋三氏が、金融政策をセオリー通りに実行できるようにし、菅氏が次の段階で、財政政策をセオリー通りにできるようにすれば、日本は安泰です。日本経済は最近安定傾向ですが、それにしても未だに韓国よりも経済成長率が低いとか、一人あたりのGDPが韓国並というような、ありえない状況(2019年、韓国は2%成長、日本は1%以下になる見込み)を改善できると思います。

この緊縮財政の転換を実現すれば、菅政権は長期政権になるでしょう。ただし、菅氏の年齢は71歳であり、安倍総理の年齢は65歳ということもあり、安倍政権のような長期政権にはならないでしょうが、それにしても一期で終わりということではなく、それ以上の長期になる可能性が大です。

菅政権

具体的には、菅政権が長期政権を目指すというのなら、まずやるべきことは消費税減税でしょう。持続化給付金では、最近詐欺が横行していますが、消費税減税では詐欺が横行することもなく、役所もほとんど何もせずに、対策を打つことができます。

菅政権は、いまのところ携帯電話の通信料引き下げなどの規制緩和に関する政策を打ち出してていますが、規制見直しを実現するには、経済全体の安定成長そして雇用の機会を増やして世論の支持を得なければ、大きな抵抗に直面して実現が難しくなります。

菅政権が、規制緩和をスムーズに実現するために、当面は、コロナ禍の後の経済状況をしっかり立て直して、2%インフレを実現させて経済活動正常化を最優先にすべきです。

このため、菅政権が長期政権になるかどうかは、今後繰り出す政策の優先順位、そして繰り出すタイミングや順番が重要でしす。仮に経済安定化政策が不十分にしか行われず失業率が高止まる経済状況が長期化すれば、世論の支持を失い政権基盤が弱まるので、政治的な抵抗によって目指す改革の実現が困難になります。

菅政権が、優先すべき政策の順番を間違えたり、財政政策を柔軟に行使せず経済安定化政策が不十分に留まれば、大手メディアや多くの政治家の背後にいる権益者の抵抗がより強まり、そうした中で改革を断行すると政権基盤が大きく揺らぐでしょう。これが、改革を志す菅政権が抱えるリスクシナリオです。

やはり、菅総理は、安倍政権の政策継続と、財政政策をマクロ経済的にセオリー通りにできるようにすること(これも立派な規制改革)を公約として、選挙に打っでて、大勝利しその後にまずは経済を良くすることに専念すべきです。そのようにして、盤石な基盤を固めた上で、様々な改革に取り組んでいくべきです。

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2020年10月4日日曜日

菅首相、行革で10億円切り込む!? 日本学術会議任命見送り、朝日「学問の自由脅かす暴挙」産経「侵害には当たらない」―【私の論評】人事の本質を理解しない野党は、ますます勢力を弱める(゚д゚)!

 菅首相、行革で10億円切り込む!? 日本学術会議任命見送り、朝日「学問の自由脅かす暴挙」産経「侵害には当たらない」

 菅義偉首相が、科学者で構成する政府機関「日本学術会議」が推薦した新会員候補のうち、6人の任命を見送った問題が注目されている。会議の梶田隆章会長は近く、任命しなかった理由の説明と6人任命の要望書を政府に提出する方針だが、菅首相は「法に基づいて適切に対応した結果だ」と明言した。年間10億円以上の税金が投入される同会議の存在意義とは。

 新聞各紙は3日朝刊で、この問題を取り上げた。

 東京新聞は前日に続き1面トップで「任命拒否へ解釈変更の可能性」と報じるなど、大々的に取り上げている。あの望月衣塑子記者も「広がる批判」との記事を担当。社説では「任命拒否の撤回求める」との見出しで、「憲法が保障する学問の自由に権力が土足で踏み込む暴挙だ」と訴えた。

学術会議 任命に関する東京新聞の記事 クリックすると拡大します

 朝日新聞と毎日新聞も1面トップや政治面で報じ、朝日新聞は社説で「学問の自由 脅かす暴挙」、毎日新聞は「看過できない政治介入だ」などと菅政権を批判した。

 これに対し、産経新聞は「人事を機に抜本改革せよ」との見出しの主張(社説)で、「学問の自由の侵害には当たらない」「任命権は菅義偉首相にあるのだから当然だ」「学術会議が推薦した会員をそのまま任命する従来のやり方こそ、改めるべきだ」と記したうえで、同会議について以下のように踏み込んだ。

 「学術会議は平成29(2017)年、科学者は軍事研究は行わないとする声明を出した」「技術的優位を確保する日本の取り組みを阻害しかねない内容だ」「(欧米諸国でも)防衛当局と産業界が協力して先端技術を開発するのは当たり前」「一方で、海外から集めた先端技術の軍事利用を図る中国から、多数の科学者を受け入れている事実には目を伏せたままだ」

 読売新聞は政治面で、「首相『法に基づき適切に対応』…学術会議候補6人の任命見送り」とのタイトルで報じた。

 日本学術会議は戦後間もない1949年に設立。民間のシンクタンクが自由闊達(かったつ)に政策研究や提言をしている現在、菅首相は「行政改革」の一環として同会議に切り込むのだろうか。

【私の論評】人事の本質を理解しない野党は、ますます勢力を弱める(゚д゚)!

日本学術会議任命見送に関しての、大手新聞の報道は産経新聞を除いて、常軌を逸しています。他の新聞も概ね異常です。

これは、下の岩田温氏の動画をご覧いただけると、なお一層御理解いただけるものと思います。


会議の梶田隆章会長は近く、任命しなかった理由の説明と6人任命の要望書を政府に提出する方針だそうですが、この方社会常識に著しく欠けています。そもそも、人事の基本がわかっていないようです。

そもそも拒否の理由や登用の理由は人事である以上言えないし、言うべきでもありません。人事でその理由をいちいち対象者に語るようなことをすれば、まともな組織運営ができなくなります。

人事の理由をオープンにしなければならなというのなら、学術会議を政府機関としておくことが不適切ということになり、学術会議を政府機関でなくするような組織改変をせざるをえなくなります。

そもそも、そのようなことは社会常識であり、学術会議のメンバーもほとんどの人が大学などの組織に属しているはずであり、大学の人事で、その理由を対象者に話すことなどありえないということは知っているはずです。また、まともな社会人で、会社の人事に疑問をいだき、人事の理由を問いただすような人はいません。

会社の採用でも、対象者に採用の是非の理由を公表することはありません。入試だってそうです。対象者に合否の理由を公表することはありません。対象者はそれを自分で推量するしかないのです。

こんな、当たり前の社会常識が、梶田隆章会長には欠けているようです。そもそも、人事とはすべての組織において何ものにもまさる真のコントロール手段です。

これについては、以前このブログにも何度か掲載したことがあります。その記事の最新のもののリンクを以下に掲載します。

この方には、人事がどのようなものであるかも理解していないのかもしれません。このブログでは、人事に関しては何度か掲載したことがあります。

その最新の記事のリンクを以下に掲載します。
菅政権の政策シナリオを完全予想!改革を実現するために最も必要なこととは?―【私の論評】菅総理の政策は、継続と改革!半端な政治家・官僚・マスコミには理解できない(゚д゚)! 


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に人事に関する部分を引用します。

"
経営学の大家ドラッカー氏も、人事こそ他のコントロール手段と比較して、組織において最も効果のある真のコントロール手段であるとしています。
貢献させたいのならば、貢献する人たちに報いなければならない。つまるところ、企業の精神は、どのような人たちを昇進させるかによって決まる。(『創造する経営者』)
ドラッカーは、組織において真に力のあるコントロール手段は、人事の意思決定、特に昇進の決定だといいます。それは当然です。いかに数値などによる精緻なコントロールシステムを構築したとしても、人事によるコントロールにまさるものはありません。

それは組織が信じているもの、望んでいるもの、大事にしているものを明らかにします。

人事は、いかなる言葉よりも雄弁に語り、いかなる数字よりも明確に真意を明らかにします。

組織内の全員が、息を潜めて人事を見ています。小さな人事の意味まで理解しています。意味のないものにまで意味を付けます。この組織では、上司に気に入られることが大事なのか、それとも真に組織に貢献することを求められているのか。

“業績への貢献”を企業の精神とするためには、誤ると致命的になりかねない“重要な昇進”(平たくいえば各部の昇進)の決定において、真摯さとともに、経済的な業績(民間企業の場合)、を上げる能力を重視しなければならないのです。
"
ドラッカーは、民間営利企業の人事を例にとって話していますが、それは日本学術会議任命人事でも同じことです。日本学術会議のメンバーは選挙によって、国民から選ばれるわけではないので、任命権者が真のコントロール手段として用いるのは、当然のことです。それができない組織は崩壊します。新聞や、野党はそれを狙っているのかもしれません。

この問題で、立憲民主党など野党は7、8両日開かれる衆参両院の内閣委員会で、菅政権への追及を強める方針だ。26日召集で調整中の臨時国会前に、菅義偉首相が出席する予算委集中審議の開催を迫ることも検討するそうです。


立憲民主党などの野党も、党内人事というものがあります。この党内人事の理由を立憲民主党などは過去に公表したことがあったでしょうか。当然ありません。いや、自民党や他の党でも、それは公表しません。そんなことをしていれば、党運営などできなくなります。

民間企業でも、正当でも、学術会議も組織の人事の理由を公表しないのは当然のことです。それを学術会議のみ違えるのは、ダブルスタンダードということになります。

日本学術会議は、人文・社会科学や生命科学、理工など国内約87万人の科学者を代表し、科学政策について政府に提言したり、科学の啓発活動をしたりするために1949年に設立されました。。210人の会員は非常勤特別職の国家公務員で、任期は6年間。3年ごとに半数が交代します。

中曽根政権下(1983年)では政府高官が「実質的に首相の任命で会員の任命を左右するということは考えていない」と国会で答弁していますが、これは学術会議はまともな活動するのが前提での答弁であると考えられます。実際学術会議はまともな活動をしてないことが以前からもいわれており、最近も明らかになりつつあります。

この国会での政府答弁を根拠として、任命にあたって会議推薦を拒否できないという法律論は無意味です。そのような議論がまかりとおるのであれば、憲法9条を唱えておけば世界平和になるというお花畑論のような議論もまかりとおることになります。

このことを野党がいくら追求したとしても、無意味です。野党が追求したとしても、菅総理はこのことに関しては、型通りの答弁を繰り返すだけで、埒が明かなくなる野党は得意の審議拒否をするでしょうが、それでも何も変わらず、また国会をサボっていると多くの有権者に批判されることでしょう。

これでは、全く民主主義的とはいえません。野党は、倒閣をしたいなら、非常識な人事のダブルスタンダードで政府を批判するのでなく、民意をくみとり、有権者に納得される政策を打ち出し、選挙で勝負すべきなのです。

このようなことに精力を費やす野党は、国会の審議時間を無駄づかいするだけですし、今後党内人事に関して党員にいちいち説明しなければならないことにもなりかねず組織運営に支障をきたし、ますます勢力を弱めることになります。

これは、表には出てこないでしょうが、人事の説明がないことに反発する野党議員がでてくるのは想像に難くないです。

考え見てください、たとえばあなたの会社の社長や幹部が、他の会社で人事の説明がないことを舌鋒鋭く激しく批判したとして、自分の会社で人事の説明をしないというのであれば、当然多くの社員はそのことに反発するか、それ以前に自社の社長は常識なしだと思うでしょう。

これは、多くの新聞社でも同じことになりかねません。

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2020年10月3日土曜日

トランプ氏、コロナ感染は「逆風」か「追い風」か 最先端「抗体カクテル療法」実施、軽症&早期回復なら大逆転再選も―【私の論評】トランプが2週間の隔離プロセスが終了直後の第二回討論会に出られれば、完璧な「オクトーバーサプライズ」になる(゚д゚)!

 トランプ氏、コロナ感染は「逆風」か「追い風」か 最先端「抗体カクテル療法」実施、軽症&早期回復なら大逆転再選も


マスク姿でホワイトハウスを出るトランプ大統領

 米国が非常事態だ。新型コロナウイルスに感染したドナルド・トランプ大統領(74)は米国時間2日、首都ワシントン郊外の軍の医療施設に搬送された。発熱や倦怠(けんたい)感などの症状があり、臨床試験中の人工抗体薬で治療している。米軍の最高司令官でもあるトランプ氏の容体が今後、重症化する事態となれば、世界の安全保障体制に与える影響も大きく、1カ月後の大統領選にも大打撃だ。一方、軽症で回復すれば、大逆転再選の目も出てくる。 

 「これから病院に行く。私は元気だと思うが、念のための措置だ」

 トランプ氏は2日、ツイッターに動画を投稿、健在ぶりを強調した。

 スーツにマスク姿でホワイトハウスの庭に駐機した大統領専用ヘリコプター「マリーンワン」に歩いて乗り込み、ウォルター・リード国立軍事医療センターに入院。予防的措置としており、数日間、同施設内で執務に当たる。

 CNNは、トランプ氏に2日朝から発熱の症状があると報じた。同日昼の電話会合に出席せず、マイク・ペンス副大統領(61)が代わりを務めた。

 ホワイトハウスはトランプ氏の同日午後の状態について「倦怠感がある」とする専属医の記録を公表。米製薬企業リジェネロンが開発し、臨床試験中の人工的な抗体による薬の投与を受けていると明らかにした。

 リジェネロン社は、2つの抗体を組み合わせた「抗体カクテル療法」の臨床試験で、患者のウイルス量が減り、症状が軽減されたとの結果を発表している。

 西武学園医学技術専門学校東京校校長で医学博士の中原英臣氏は、「抗体カクテル療法は、2つのモノクローナル抗体を組み合わせて用いる治療法だ。1つの抗体よりも2つを組み合わせた方が治療効果があると見込まれている。米国では最近認められた治療法で、最先端の治療の一つを利用するということだろう」と解説する。

 最大の関心事が1カ月後の大統領選への影響だ。トランプ氏の選対本部は2日、11月の大統領選に向け計画している集会やイベントはオンラインで実施するか延期すると発表した。

 これに対し、9月29日の第1回候補者討論会でトランプ氏と激論を交わした民主党のジョー・バイデン前副大統領(77)は2日、検査を受けた結果、陰性だったと明らかにした。

 拓殖大海外事情研究所の川上高司教授は、トランプ氏の容体について「重症化や死亡といった万一の事態も想定しうる。その場合、ペンス副大統領が大統領候補になり、副大統領候補を再度選出するため共和党大会が開催されるが、間に合うか分からない」と指摘する。

 トランプ陣営にとって危機的な状況に陥ったことは間違いないが、トランプ氏が軽症で早期に回復した場合は、別のシナリオも浮上する。

 「トランプ氏が体力的に回復して、健康な姿を見せることができれば、国民や共和党員の支持を集めるだろう。バイデン氏がコロナ対策の追撃をためらうようなことがあれば、トランプ氏が有利になることも考えられる」と川上氏は語る。

 バイデン氏は2日、激戦州の一つ、中西部ミシガン州のイベントに参加し、トランプ夫妻の早期回復を祈っていると表明した。バイデン陣営は、トランプ氏を攻撃するネガティブキャンペーンも取りやめた。

 米カリフォルニア州弁護士のケント・ギルバート氏は、トランプ氏の入院が、かえって存在感を高めるのではないかと強調する。

 「トランプ氏が激戦区を訪れることができないのは確かに痛いが、経済では2日に発表された雇用統計でも、失業率が7・9%と5カ月連続で改善しているという実績もある。民主党やメディアに攻撃され続けてきたトランプ氏だが、今回のコロナ感染によって、『もう4年続けてもらわないと困る』と国民が目を覚ますことになるだろう。メディアの報道もトランプ氏の容体に時間を割いており、バイデン氏が何かを発言したところで国民には響かない」

【私の論評】トランプが2週間の隔離プロセスが終了直後の第二回討論会に出られれば、完璧な「オクトーバーサプライズ」になる(゚д゚)!

米国主要メディアは火曜日の夜に行われた討論会を「史上最悪の討論会」などとトランプ大統領をこき下ろして報道していますが、日本のメディアもそれを鵜呑みにして一緒にこき下ろして報道していて滑稽です。

米メディアがトランプ氏をこき下ろしている理由は次回の討論会までに討論会のルールを変更しようという魂胆があるからです。そうしないとバイデン氏が残り2回も討論会を生き残れないからです。

討論会でのバイデン

そのようなことも理解せずに日本のメディアはそのまま米メディアの翻訳して報道していて本当に情けない限りです。何やら司会者が討論者のマイクの電源を切れるような「サイレント・ボタン」を設置するのはどうか?などといった話も出てきています。

そんな機能が司会者側に設置されれば、機関銃のように喋れるトランプ大統領には不利になります。バイデン氏は討論の途中、やはり単語が出にくい場面がありました。やはり認知症の疑いがあるのではないかと私は感じました。

NBCの人気ドラマ「The Blacklist ブラックリスト」(日本ではNetflixでみられます)に出てきたモサドのエージェントでFBIに潜入したサマルという捜査官が任務中の事故で血管性認知症に冒されて失語症や記憶を失い始めるシーンがありましたが、あのようなな感じでした。

サマル・ナヴァービ役のモズハン・マーノ

ホワイトハウスはフロリダ州での集会など大統領が2日計画していた政治イベントをキャンセルしました。トランプ氏の隔離が続くことから、ウィスコンシン、ペンシルベニア、ネバダなど重要州への訪問を含む今後数日の予定も中止されるでしょう。

集会に姿を見せ有権者と触れ合うことで、資金を集めるとともに支持者の熱狂をあおるのがトランプ氏のスタイルです。また、選挙戦の最終盤で焦点を新型コロナから移し、最高裁判事指名や景気回復、暴動などに向けたい考えでした。しかし今や、今後数週間の話題はトランプ氏の健康状態に集中するでしょう。

得意の政治集会や、選挙の焦点をずらす作戦が不可能ならば、民主党候補バイデン氏の世論調査でのリードを覆すのは難しくなる公算も大きいです。

ただ、トランプ氏の陽性判定のわずか72時間程度前に討論を行っているバイデン氏も、自主隔離に入るかどうかを決めなければならないでしょう。バイデン氏陣営は今のところトランプ氏の感染についてコメントしていないですが、対立候補の病気を喜んでいるような様子は決して見せずにトランプ氏の新型コロナ対応への批判を続けるという適度な姿勢を保つことが必要になります。

今後の米大統領戦のポイントは以下の2つです。 

(1)症状の重さ 
(2)回復の早さ 

症状が重ければ、現職の大統領としての実務が続けられなくなります。ホワイトハウスというかなり厳重に感染対策が行われているはずの場所で、側近に続いて大統領夫妻が感染したとなれば、ホワイトハウスの統治機能そのものに大きな疑問符がつきます。 

これまでトランプ氏のコロナ政策を批判してきた野党・民主党は、ここぞとばかりに、『自業自得』だと批判の声を高めることが予想され、トランプ支持者から見てもトランプ氏がこれまで主張してきたことの信ぴょう性が崩れることになります。ただ、その一方で重症化すれば同情の声もあがり、病気の人への批判はやりづらくなるという面もあります。 

一方で、症状が治まって比較的回復も早かった場合は、逆にトランプ氏に『有利』に働く可能性もあります。 

支持者らはトランプ氏自身が言っていたように「やはりコロナは大したことなく、大統領は強い人だ」と再認識することになりますし、選挙集会なども予定通り行われれば、トランプにとっては、自分はコロナから回復した「強い指導者」であるとアピールする場となるので、追い風になる可能性もあります。

米国で開催されたコロナパーティー

さらに、トランプ氏の容態が良かろうが、悪かろうが、トランプ支持派にはかなりの危機感が芽生えたと思います。共和党内も、トランプ支持で結束を固めることになるでしょう。米国内の保守派もそうなるでしょう。

そういう意味では、今回の感染判明が一方的にトランプに不利になるわけではありません。今後の最大の注目点はトランプ氏が重症化するか、比較的早く回復するかというところです。

次に予定されている二回目の大統領候補者の討論会は10月15日ですからちょうどトランプ大統領の2週間の隔離プロセスが終了するときです。なんというタイミングなのでしょう。しかも討論会の舞台をトランプ大統領の第2の庭であるフロリダ州に変更したのは6月ごろでした。

このタイミングで、トランプ氏が、二回目の討論会に出ることができれば、トランプ氏にとっては、かなり有利な展開になります。それにしても、まるで最初から図ったようなタイミングです。それにトランプ氏としても、多少体調が悪くても、他者に感染させる可能性がなければ、無理をしてでも出るでしょう。

米国では選挙の直前に驚くべきことが起きて選挙情勢を大きくひっくり返すことを「オクトーバーサプライズ」と言いますが、まさに文字通り、10月に入ったばかりでの感染確認は、最大のオクトーバーサプライズになったと言えるかもしれません。

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2020年10月2日金曜日

10万の兵がにらみ合う中印国境、一触即発の恐れも―【私の論評】総力戦になれば長期化し、両国だけの問題では済まず、周辺国を巻き込むのは必至(゚д゚)!

10万の兵がにらみ合う中印国境、一触即発の恐れも

岡崎研究所

 中印の国境紛争は単なる小競り合いなのか、それとも、軍事衝突のリスクが現実のものとなっているのか。今や、軍事衝突のリスクが無視できなくなってきているように見える。


 構図としては中国が攻勢を強めており、インドがこれに強く反発している。中国が攻勢を強めている動機は明らかでないが、ジョンスホプキンス大学SAISのアジア計画責任者Devesh Kapurは、9月13日付けフィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説‘India and China are edging towards a more serious conflict’で、一つの仮説として、中国はチベット情勢を憂慮しているのではないかと言っている。なるほど、6月15日に発生し、インド兵士が20名死亡したと報じられている衝突は、中国チベット自治区に接するインド、ラダック地方にあるガルワン渓谷で起きている。渓谷ではインドが実効支配線のインド側で道路を建設中で、中国はそれを一方的な現状変更とみなし、約8000名の部隊を展開させていたという。インドはダライラマとチベットの亡命政府を受け入れており、中国が圧力を加えようとしたのかもしれない。

 中国が攻勢を強めている第二の理由として考えられるのは、中国が新型コロナをめぐる情勢に乗じて強めている対外攻勢の一環ではないかということである。中国はいち早くコロナ情勢を終息させ、各国がコロナ対策に追われているすきに対外攻勢を強めている。南シナ海における実効支配の強化がその一つとして挙げられている。香港に対する強硬策もそうではないかと見られている。ただこれは推測の域を出ない。

 第三の理由は、インド側による刺激である。インドは実効支配線のインド側で滑走路や道路建設などを進め、軍備増強の布石としている。6月15日のガルワン渓谷での衝突も、中国側が、インド側が道路建設で現状を一方的に変更したとみなし、大規模な軍を動員したことが背景にある。中印いずれも相手が国境の現状を変更しようとしていると考えている。

 ただ、両国政府とも事態の悪化は避けたいと考えており、6月15日の事件以前にも6月6日の中将級会談を初め、高位級実務者会談を数回開いている。6月15日の事件を受けて、9月に入りモスクワで開催された上海協力機構の場を利用して、4日には中印の国防相会談、10日には外相会談が行われ、係争地域の軍事的緊張を緩めるため対話を続け、現地部隊の接触を避けるべきであるとの認識で一致した。しかし、効果は望まれない。それは中印両国が、係争地のラダック地方に両国を合わせ10万人と言われる大規模な軍を集結させていると見られるためである。

 インドでは6月15日の衝突でインド兵20名が死亡したことに対し、対中世論が硬化し、モディ首相に中国に対ししっぺ返しをするよう圧力を加えているという。国境地帯からの撤兵は考えられない。他方、中国も、緊張の原因はインドにあると主張し続けているので進んで撤兵することは考えられない。モディ首相のしっぺ返しがどのような形をとるか分からないが、もししっぺ返しが行われたら中国側は黙ってはいないだろう。

 中印の軍事衝突を避けるために介入するとしたら米国であろうが、いま米国では大統領選挙の最中で、介入どころではない。仮に大統領選挙中でなかったとしても、米国が火中の栗を拾うような介入をするか疑問である。それに現在米中は激しく対立しており、他方でインドとの関係を強化している。米国は米印の間で中立的な立場はとれず、中国が米国の介入を受け入れないのではないか。

 中印併せて10万の兵が係争地帯で目と鼻の先でにらみ合っているのはまさに一色触発の状況であり、誤算が起こりうる。中印の軍事対決は危機的状況にあると言わざるを得ない。

【私の論評】総力戦になれば長期化し、両国だけの問題では済まず、周辺国を巻き込むのは必至(゚д゚)!

今回の紛争の端緒は、中国側によるものであることを示唆する衛星写真が公開されています。

衛星写真は地球の画像を手掛ける企業Planet Labsが衝突翌日の6月16日に撮影。ロイターが入手した写真によると、1週間前と比べ衝突の起きたガルワン渓谷で活動が活発化した様子が見て取れます。樹木のない山沿いとガルワン川の中に機械類設置されているのが見られます。

米カリフォルニアのミドルベリー国際大学院で東アジア不拡散プログラム担当ディレクターを務めるジェフリー・ルイス氏は「写真は中国が渓谷で道路を建設しているほか、川をせき止めている可能性もあるように見える」と指摘。「多くの車両が実効支配線(LAC)の両側にあるが、中国側がはるかに多いようだ。インド側が30─40台で中国側が100台を優に超えている」と述べました。

中国外務省の趙立堅報道官は、現地の状況を詳細に把握していないとしつつ、インド軍が最近の数日間に複数の場所で中国領に侵入したと強調。インド軍は撤退すべきだと述べました。

インド軍は、中国との紛争地域で6月15日夜に起きた同国軍との衝突により、兵士ら少なくとも20人が死亡したと発表しました。死者数は数十年ぶりの規模。中国側は死傷者の詳細を明らかにしていません。

中印の軍事力を比較した表を以下にけいさいしておきます。多少古い資料です。人口は現在は中国がほぼ14億に近く、インドが13.5億です。


グローバル・ファイヤーパワー(Global Firepower)の「2020年軍事力ランキング(2019 Military Strength Ranking)」によると、中国の軍事力は世界3位、そしてインドは4位と肉薄していますが、実際の両国の軍事力の差は大きいです。

両国の人口は他の国を大きく引き離しています。その分、両国とも兵力も多いですが、インド軍の方が兵員は多いです。

航空戦力は3位と4位になりますが、その差は1000機以上もあり、戦闘機の数は中国が倍と航空戦力は中国が勝っています。さらに中国は第5世代のステルス戦闘機(実際は第4世代であると軍事評論家も多い)を保有しており、インドは旧式のMig戦闘機が多く性能的にも分が悪いです。

戦車に関してはインドが多いです。中国の最新は99式、インドはT-90になり、どちらも第3世代戦車です。現在先進国の戦車は3.5世代です。次世代の第4世代戦車は、未だいずれの国も開発に成功していません。

しかし、世界一地形が険しいヒマラヤの山岳地帯では戦車の運用率は下がります。山岳地帯ではヘリが効果を発揮するのですが、中国の方が数は多いです。

艦艇の数は中国が圧倒的に多いです。しかし、両国は国境こそ接していますが、洋上の距離は非常に遠いです。海上戦闘は起こらなそうですが、中国はミャンマー、カンボジア、パキスタンの港の建設支援をしており、これは軍港としての利用を目的としている考えられ、インド洋まで作戦展開できる能力があります。

さらに、先日もこのブログに掲載したように、中国はタイに運河を建設しようと目論んていますが、これができあがれば、中国の艦艇は、マラッカ海峡を通らずに、インド洋に進出できます。こうなれば、中印の海上戦闘も十分起こりうる可能性があります。

軍事予算に関しては中国が圧倒的に上回っています。人件費の違いこそありますが、中国はここ最近、最新の兵器を揃えており、軍事費は年々増加している。その点、インドの兵器は旧式化するなど性能差は大きいです。


インドは中国と合わせパキスタンともカシミールで領有権問題を抱えています。Googleマップでもこの地点の国境線は点線などでぼやかされています。パキスタンとは中国以上に火種を抱えており、過去に4度の大規模な武力衝突を起こしています。

紛争の際、中国はパキスタンを支援しており、もし中印間で衝突が起こった場合はパキスタンが中国に加勢すること明らかです。パキスタンの軍事力は世界15位になり、力は小さくはなく、インドからしてみれば挟撃される形になります。周辺国ではネパール、ブータンはインド寄りですが、両国とも軍事力は貧弱でお世辞にも力にはなりません。

中印で紛争が起こった場合に一番懸念すべきは両国ともに核兵器を持っている点です。そもそも、インドが核兵器を持った理由は1962年の中印国境紛争にあります。この紛争でインドは中国に敗れ、核武装に至ったのです。

そうして、インドに対抗する形でパキスタンも続いて核武装に至っています。このような戦略兵器の点では、中国は米国、ロシアに次ぐ3番目の戦力を誇り、短距離、中距離、潜水艦発射、大陸間弾道ミサイル(ICBM)などのさまざまな弾道ミサイルを生産および配備しています。 

20,000 kmの射程超える東風41は地球上のあらゆる場所を射程に収めています。インドに関しては最も射程が長いBlaze 5ミサイルで範囲は5000〜8000 kmです。こちらもインド北端からであれば中国全土を射程に収めています。戦局によっては戦略核兵器の行使も辞さない可能性は絶対ないとはいえないです。

インド政府は今のところ静観の構えですが、インド国内で中国への反発が急速に高まっているのは確かです。 インド政府が今後米国の動きに応じるようなことになれば、腹を立てた中国がインドに対して懲罰のための軍事行動に出る可能性は十分にあります。

1979年のベトナムへの軍事介入の再来です。 鄧小平は「ベトナムを懲らしめる」と息巻いていたようですが、ベトナムの抵抗に遭い苦い敗北を喫しました。ところが国内では、大規模な戦争を主導したことで確固たる権力基盤を固めたと言われています。

この経緯を習近平が知らないはずはありません。 新型コロナウイルスの蔓延により、米軍の活動が停滞している隙を突くかのように、中国は南シナ海の実効支配の既成事実を図るなど「火事場泥棒」的な動きを強めています。

「新型コロナウイルスと今年夏のスーパーサイクロンのダメージでインド軍は弱体化している」と判断し、兵員を投入すれば、1962年以来の大規模紛争になってしまうかもしれないです。 一方、物理的な衝突によって、インドのモディ首相は中国の影響力抑止に向け国民のさらなる支持を得ることになるでしょう。

インド モディ首相(左)と習近平

人口で世界第1位、アジアでの経済規模第1位の中国と、人口で世界第2位、アジアでの経済規模第3位のインド。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が4月27日に明らかにした報告によれば、昨年の軍事費世界第2位は中国(2610億ドル)、第3位はインド(711億ドル)です。 

日本では台湾や香港、朝鮮半島などに対する中国の動向に関心が高いですが、核兵器を共に有する中パキスタンとインド間の大規模な軍事紛争の勃発リスクについても警戒が必要ではないでしょうか。

結論としては軍事力に関しては中国の方が上で地政学的にも有利です。しかし、両国とも大国なだけに膨大な戦力を擁しており、総力戦になれば長期化し、両国だけの問題では済まず、周辺国を巻き込むのは必至です。このまま、何もないことを願うばかりです。

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