2022年5月28日土曜日

中国の申し入れ「受け入れられず」 日本大使館が反論、クアッド巡り―【私の論評】中国がインド太平洋で新たな枠組みを作っても大きな脅威にはならないが、習に勘違いだけはさせるな(゚д゚)!

中国の申し入れ「受け入れられず」 日本大使館が反論、クアッド巡り

 日米豪印首脳会合に臨む(左から)オーストラリアのアルバニージー首相、バイデン米大統領、
 岸田文雄首相、インドのモディ首相=24日午前、首相官邸

 中国外務省は24日、東京で開かれた日米首脳会談や日米豪印による協力枠組み「クアッド」首脳会合で中国に関する後ろ向きで間違った言動があったとして、日本側に厳正な申し入れを行い強烈な不満と重大な懸念を表明したと発表した。北京の日本大使館は「中国側の申し入れは受け入れられないと反論した」と25日未明に公表した。

 中国外務省アジア局長が24日夜、日本の駐中国特命全権公使を呼び出した。

 日本側は「一方的な中国側の行動に対して懸念を表明し、適切な行動を強く求めた」と明らかにした。また中国とロシアの爆撃機が24日に日本周辺を共同飛行したことに対し重大な懸念も伝えた。中国側は「正常な活動で、どの国も対象にしていない」と応じたという。

【私の論評】中国がインド太平洋で新たな枠組みを作っても大きな脅威にはならないが、習に勘違いだけはさせるな(゚д゚)!

今回のQuadの共同声明に対する、中国側の発言は、日本に対する「内政干渉」以外の何ものでもなく、日本側の駐中国特命全権公使が、上記のような反応をしたのは当然のことです。

それに、この共同声明では中国を名指しもしていませんでした。なかったのは問題だと思います。また、クアッドの枠組みができてから数年経ちます。そろそろNATOのような、安全保障の枠組みに具体的に進めるべきです。このままでは形式的なもので終わる恐れもあります。

にもかかわらず、これに対して中国がなぜこのような反応を示すのでしょうか。

それは、中国がQuadがいずれNATOのような軍事同盟になることを恐れているからでしょう。一方で中国は、バイデン大統領が日本に来てからの一連の動きや、台湾問題も含めて、クアッドに対しては神経を使っています。 

中国は、バイデン大統領の台湾問題に対する発言に関して、中国はそれほど激しく反応しませんでしたが、クアッド首脳会合の開催当日にロシアと爆撃機の共同飛行をしたり、日本大使館に対して異議を申し立てるなど、かなり過剰に反応しています。クアッドという枠組みがNATO的な軍事連携に発展していくことを、中国が恐れているからです。

中国と共同飛行した爆撃機と同型のロシアのTU95爆撃機

中国は、以前は日本を見下していました。実際に、1994 年中国の当時の李鵬首相が、オーストラリアを訪問した時に、当時の オーストラリアのジョン・ハワード首相に向かって 「い まの日本の繁栄は一時的なものであだ花です。 その繁栄を創ってきた世代の日本人がもう すぐこの世からいなくなりますから、20 年もしたら国として存在していないのではないで しょうか。 中国か韓国、 あるいは朝鮮の属国にでもなっているかもしれません」 という 発言をしました。 

ところが安倍政権が誕生して以降、気がつけば日本が中国包囲網の中心になっていたのです。 
安倍総理大臣が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を2016年8月の第6回アフリカ開発会議(TICADVI)の場で提唱してから5年以上が経過し、アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至るインド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を実現することの重要性が、国際社会で広く共有されてきています。

当時の安倍首相がこの構想を出したとき、中国はほとんど気にしていませんでした。しかし、その枠組みが目の前にでき上がってしまったということが、彼らの誤算でした。しかも「AUKUS(オーカス)」、「ファイブ・アイズ」という2つ枠組みがあり、アジアのなかでは日本だけが枠組みの一部に入るような事態も招いたともいえます。

しかし、習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、このようなことを招いてしまったということに彼らは気が付いていなようです。

 そもそもわずか数年前まではオーストラリアもインドも、中国との関係は悪くありませんでした。 中国は戦狼外交や覇権主義戦略を進めてしまったのために、インドもオーストラリアも、自分たちの方から敵に回してしまったのです。クアッドができ上がったいちばんの功労者は習近平といえるかもしれません。

米戦略問題研究所(CSIS)の上級顧問であるエドワード・ルトワック氏は、著書『ラストエンペラー 習近平』の中で「大国は小国に勝てない」と主張しています。この論理の重要な点は、「1対1では戦わない」という点です。

1対1では大国が勝利するのは当然です。片方が大国の場合、周辺諸国は、次は自分かも知れないと恐怖を感じ小国に肩入れするであろうことから、大国が目的を達することが難しくなるという理屈です。理屈としては理解しても、実際の国際情勢ではどうだろうかという疑問があらりましたが、まさにその通りの状況が展開されています。それは、中国と台湾の関係です。

習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、当の台湾がこれを脅威に感じ、周辺諸国の日本、オーストラリア、インドが台湾に肩入れするようになったのです。それ以外の英米等もそうするようになったのです。

最近では、オーストラリアは政権が変わりました。労働党になっても、中国に対しての反応は変わりはないようです。 新たな首相が就任してからクアッドに参加しています。オーストラリアの新首相が就任してすぐに、李克強首相が祝電を送ったのですが、何の反応も示していません。

ただ、インド太平洋地域には、懸念材料もあります。

中国の王毅外相は、4月に安全保障協定を締結した南太平洋のソロモン諸島を訪問し、両国関係を強化し「中国と島しょ国との協力の手本にしたい」と強調しました。

王毅外相は今月26日、8カ国歴訪の最初の訪問国となるソロモン諸島でソガバレ首相らと会談し「ソロモン諸島の主権と安全、領土保全を断固支持する」と述べ、「できる限りのあらゆる支援を行う」とアピールしました。

また、マネレ外相との会談では両国関係を「中国と島しょ国との協力の手本にしたい」と強調し、ソロモンとの協力関係を他の南太平洋の島しょ国にも広げる考えを示しました。「中国の軍事基地を建設する意図はない」と強調しました。また、協定はソロモン諸島の治安能力を高めるのが目的で、他の国と対抗するためのものではないと説明しました。

ソガバレ首相は中国国営テレビのインタビューで、安全保障協定は暴動鎮圧などのためで基地建設の意思はなく、中国側からも提案はないと強調しました。

周辺国などからの中国の軍事拠点化が進むとの懸念をあえて否定した形です。

ソガバレ首相はまた、「一つの中国」原則を堅持すると述べ、台湾問題で中国政府の立場を指示する姿勢を示しました。


オーストラリアやインドが中国から離れて、クアッドやAUKUSもできました。中国はそれに対抗する新たな枠組みをつくらなければなりません。しかし、ついてくる国が少ないので、結局、中国の経済援助なしでは成り立たないような国々を束ねて対抗することになります。

中国の経済援助なしで成り立たない国々というところに注目していただきたいです。中国がいくら大国になったからといって、一人あたりのGDPは未だに10000ドル前後(日本円で約100万円前後)です。その中国がクアッドなどに対抗するために新たな枠組みを作るのには限界があります。

これについては、以前もこのブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ソロモン諸島、中国が治安支援 警察関係者受け入れ―【私の論評】一人ひとりの国民が豊かになるために、ソロモン諸島は、民主的な道を歩むべき(゚д゚)!

ソロモン諸島の海岸

中国は、国全体では、GDPは世界第二といわれていますが、個人ベース(個人所得≒一人あたりのGDP)ではこの程度(10000ドル、日本円で100万円程度) です。そのため、以前このブログで中東欧諸国と中国の関係に関して述べたように、中国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無なのです。
そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

ただ、中国は独裁者やそれに追随する一部の富裕層が儲けるノウハウを持っているのは確かであり、ソロモン諸島の為政者が、独裁者となり自分とこれに追随する富裕層が大儲けするという道を選ぶ可能性はあります。

ただ、一人ひとりの国民が豊かになる道を選びたいなら、やはり民主的な国家を目指すべきです。その場合は、急速に民主化をすすめた台湾が参考になります。このブログにも何回か掲載したように、先進国が豊かになったのは、民主化をすすめたからです。民主化をすすめなかった国は、たとえ経済発展しても、10000万ドル前後あたりで頭打ちになります。これは、中進国の罠と呼ばれています。

Quadが今より軍事的な色合いを深めたり、日豪印などが、NATOに加入するようなことがあったとすれば、中国もソロモン諸島などと構築する枠組みを軍事的なものにして、ソロモン諸島に中国の軍事基地をつくるかもしれません。

しかし、考えてみてください。Quadに比較すれば、中国がたとえこれに対抗するするためにインド太平洋で新たな枠組みを作ったとします。それにいくつかの国が加入するかもしれません。たとえば、仏領ニューカレドニアが独立して、この枠組みに参加するかもしれません。しかし、ニューカレドニアの一人あたりのGDPは中国を超えており、東欧諸国がそうであったように、結局中国からはなれていくことでしょう。

そうして、残るは一人あたりのGDPが10000万ドル前後以下の貧乏国にばかりになります。これはロシアなど旧ソ連6カ国でつくる軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)に所属している国々を想起させます。これらの国々の首脳会議が16日、モスクワで開かれました。

ザシ事務局長によると、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻について説明したのですが、CSTOの侵攻への参加は議論されなかったといいます。同盟強化を目指すロシアに対し、加盟国間の思惑の違いも取りざたされており、ロシアの孤立が浮き彫りになりました。

ちなみに、CSTOの加盟国はロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アルメニアです。これらの国々の共通点は、ロシアも含めて一人あたりのGDPが10000万ドル前後よりも低いということです。ロシアだけが、10,126.72ドルですが、それにしてもこれからは、これを下回ることはあっても伸びる見込みはありません。

結局貧乏国の集まりでは、いざ戦争になってすら、協力することすらままならないですし、したくてもできないというのが本音でしょう。中国の新たな枠組みもそういうことになるでしょう。有利な点としては、国連などの国際会議の決議で、貧乏国であっても、国連加盟国であれば投票する権利があり、一票の重みとしては大国とは変わらないというくらいなものです。

ロシアの人口は1億4千万人であり、中国の人口はその10倍の14億人です。ただ、人口が10倍なので、国単位としてのGDPでは中国はロシアの10倍です。ロシアは国単位では、GDPは韓国や東京都なみです。

ただ一人あたりのGDPでは、ロシアも中国も10000ドル(100万円)台なので、両国とも一人ひとりの国民を豊かにするノウハウなど持ち合わせていません。

中国が仮に、Quadに対抗できるような新たな枠組みを作ったにしても、CSTOくらいのものしか作れません。

しかし、中国は、先に述べたように、習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、このようなことを招いてしまったということに彼らは気が付いていなようです。

であれば、中国が何らかの新しい枠組みをつくれば、Quadに対抗できるると思い込む可能性はあります。その挙げ句の果に、プーチンのように、勘違いして、NATOに対抗するためにウクライナに侵攻すれば、短期間で制圧できると思い込んだように、中国も勘違いし、台湾などを含むインド太平洋地域の国々に侵攻しないという保証はありません。

そうなっても、結局習近平は、プーチンが明らかにウクライナで失敗したように、インド太平洋で簡単に軍事作戦を遂行しても具体的な成果をあげることはできないでしょう。結局失敗するでしょう。

それに、ソ連は中東欧諸国まで衛星国や属国にしていたことはありますが、中国はインド太平洋地域全域を一度たりともそのようにしたことはありません。台湾に関しても、清朝が一時的に統治したことがあるのみです。

ムスリム系出身の鄭和がインド太平洋地域に大航海をしたという記録がありますが、それは古代の話ですし、鄭和艦隊は後のヨーロッパ人による大航海時代とは対照的に、基本的には平和的な修好と通商を目的とし、到着した土地で軍事行動を起こすことはあまりありませんでした。

中国がインド太平洋地域に侵攻する大義は、ほとんどありません。現代の中国が、これらの地域に武力攻撃を行えば、ロシアのウクライナ侵攻と同じく、国際法違反になるのは間違いありません。しかし、南シナ海を実行支配したことを国際司法裁判所で不当なものと判決されても、中国はそれを無視しました。

習近平が誇大妄想に陥りこの地域で軍事作戦を遂行すれば、取り返しはつきません。結局その中国のその試みは失敗する可能性が高いですが、甚大な被害を受ける国がでてくる可能性は否定できません。それが日本ではないという確実な保証もありません。

このようなことは絶対避けるべきです。そのためにも、Quadは、これからも習近平にプーチンのような勘違いをさせないように、緊密に連携し、中国に対応していくべきですし、ロシアのウクライナ侵攻に対しては、習近平に勘違いさせないためにも、厳しい対処を継続すべきです。


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就任490日目:バイデン支持率が現代の全大統領を下回る―【私の論評】 バイデンの支持率の低さの本質は、大統領としての行動がより「戦略的曖昧さ」を強調するものだから(゚д゚)!

就任490日目:バイデン支持率が現代の全大統領を下回る


<引用元:ワシントン・エグザミナー 2022.5.25>ポール・ベダード氏によるワシントン・シークレット論説
ジョー・バイデン大統領がついにやった。精彩を欠く指導者の支持率は、現代のどの大統領の政権の同時期よりも低下した。

ファイブサーティエイトは1945年のハリー・S・トルーマンにまで遡った支持率を引用し、政権490日目の支持率がバイデンの平均40.9パーセントを下回る大統領はおらず、それに並ぶ大統領もいなかったと述べた。

歴代大統領の中でドナルド・トランプ、ビル・クリントン、ジェラルド・フォードは、政権初期にもっと低い平均支持率だったこともあったが、バイデンは追い上げて、現在の平均支持率がトルーマン以降の全ての大統領を初めて下回っており、民主党が中間選挙を控える中で厄介な傾向となっている。

また同日、ロイター世論調査会社のイプソスは、バイデンの支持率が過去最低の36パーセントとなったと判定した。

「民主党ではまだ72パーセントがバイデン大統領を支持しているが、共和党では10パーセントのみ、無党派では28パーセントが支持している。だが民主党の中でバイデンの支持率は2週間前の82パーセントから10ポイント低下しており、総合支持率低下の主要な要因となっている」とイプソスは分析結果を説明した。

有権者にバイデン離れを起こす要因となったのは、インフレ、ガソリン価格の高騰、壊滅的な株式市場に対する無策のようだ。

例えばイプソスは、70パーセントもの人が米国は間違った方向に向かっていると考えていると述べた。


「10人に7人(70%)の米国人は、この国の状況は間違った方向に向かっていると考えており、正しい方向に向かっていると考えている米国人は5人に1人(20%)のみだ。これは、26パーセントの米国人が正しい方向に向かっていると答えた2週間前から6ポイント低下したことを意味している。共和党(90%)と無党派(70%)の圧倒的多数は、状況は間違った方向に向かっていると考えており、民主党の約半分(49%)もその感情に同意している」と調査会社は述べた。

もちろん長い4年間の中の1日に過ぎないが、バイデンの支持率は大統領就任からこれまでの中間点以降、着実に低下している。

ファイブサーティエイトによる490日目の大統領支持率のリスト:
ジョー・バイデン 40.9%
ドナルド・トランプ 42.7%
バラク・オバマ 48%
ジョージ・W・ブッシュ 72%
ビル・クリントン 50.9%
ジョージ・H・W・ブッシュ 65%
ロナルド・レーガン 45%
ジミー・カーター 43.1%
ジェラルド・フォード 44.2%
リチャード・ニクソン 57.1%
リンドン・B・ジョンソン 68.7%
ジョン・F・ケネディ 74%
ドワイト・アイゼンハワー 61.3%
ハリー・S・トルーマン 43.1%

【私の論評】 バイデンの支持率の低さの本質は、大統領としての行動がより「戦略的曖昧さ」を強調するものだから(゚д゚)!

バイデン大統領がTwitterで公開した映像には、“兵士”が積み荷を飛行機の中へ運び込む姿が映し出されていた。 

まるで軍事作戦のような名前がついた「空飛ぶミルク作戦」。その正体は、航空機を海外に送り、粉ミルクを受け取るというものです。 


実は今、米国では深刻な「赤ちゃん用の粉ミルク不足」に陥っているのです。粉ミルクが置かれたスーパーの棚は空っぽに。人々が粉ミルクに殺到する事態に発展しています。 

粉ミルク不足のきっかけは今年2月、国内最大手メーカーの粉ミルクを飲んだ乳児2人が細菌感染症で死亡したことです。これにより工場が長期間閉鎖となりました。ミルクの不足は、バイデン政権の支持率低下の要因になっていて、事態の打開に躍起になっています。 

バイデン政権はこの外遊中も連日対応に追われています。日本に協力を求める、いわば「ミルク外交」もあるのでしょうか。 

テレビ朝日は粉ミルクを製造する日本の複数のメーカーに取材。すると、政府から粉ミルクを輸出できる状況か問い合わせがあったことがわかったそうです。 

明治ホールディングスとアサヒグループ食品は「前向きに支援する方針」で、森永乳業もどんな支援が必要か社内で確認中だといいます。

バイデン大統領は、イラン人質救出作戦を強行して失敗したカーター政権が、2期目の選挙で惨敗したようなケースに陥るかもしれません。また、それ以前に、現職大統領でありながら出馬断念に追い込まれたジョンソンのような状況に追い詰められる可能性もあります。

とにかく、現在のバイデン政権の苦境は、アメリカの世論に渦巻いている不満が爆発しそうになっているからです。そして、その不満のほとんどは異常なまでの物価高から来ています。

「ガソリンが以前の倍になった」

「ベビー用のミルクが品不足で、親たちは気が狂いそう」

「中古車が値上がりして新車並みに。新車も手に入りにくい」

「卵が暴騰して、最低でも1ダース3ドル40セント(440円)」

「外食が暴騰して、ファストフードに毛が生えた程度でも一食20ドル」

「衣料品も生活用品も、人気商品に限って品不足」

とにかく、アメリカの世論は怒っています。そして、こうした問題のほとんどが中国との経済関係、そしてウクライナでの戦火から来ています。

ウクライナもそうですが、中国は現在ゼロコロナ政策の失敗でとんでもないことになっている上に、米国との対峙は続いています。この2つの問題はすぐには収まりそうにもありません。

そうして、バイデン政権の人気のなさは、台湾に対する米国の戦略のように、やはり曖昧さからきているのではないでしょうか。

台湾防衛は潜水艦隊が決め手

台湾有事になると、米国の反撃を止めるため、沖縄本島から西を中国は、自ら軍事影響下に入れようとするでしょう。すなわち台湾有事は日本有事なのです。

「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」のいずれをとるにせよ、台湾有事のリスクがゼロになるわけではありません。バイデンの「台湾防衛発言」真意がどこにあるのか、多くの人がその真意がどこにあるのか結局判然としていないようです。

バイデン発言の後に、米ホワイトハウスは即座に「われわれの政策は変わっていない」とバイデン発言のトーンを弱めました。例によってバイデン氏のアドリブ発言か否か、意図は何か、真相は藪の中です。

ロシアとの核戦争にエスカレートするのを避けるため「米軍をウクライナに派兵するつもりは全くない」と早々と宣言したバイデン氏はロシア軍のウクライナ侵攻にお墨付きを与える格好となりました。台湾問題でも直接の軍事介入を頭から否定すれば、同じ間違いを繰り返すことになります。バイデン氏は少なくとも口先では「戦略的曖昧さ」から「戦略的明確さ」に舵を切ったようにみえます。

バイデン氏は昨年10月、米ボルチモアでのタウンホールイベントでも、中国から攻撃された場合、アメリカは台湾を防衛するのかと問われ、「イエス。われわれはその約束をしている」と発言しました。中国は台湾を祖国にとって欠かすことのできない一部とみなしており、そこに米国が安全保障を拡大することは不必要な挑発と訝る声もありました。

 英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のマイケル・クラーク前所長は当時、「台湾の将来を決めるのは台湾の人々だけだという理由で米国が台湾の防衛に尽力していると明確に表明することは道徳的に正しいことだが、中国に対するアメリカの抑止力の信頼性を高めることにはならない」という道徳的な正義とリアルポリティクスのジレンマに言及しています。

道徳とリアルポリティクスの間には大きな隔たりがあるのです。その隔たりがあることを忘れて、失敗する政治家はバイデン以外にも大勢います。

トランプ氏もその例外ではありません。実際選挙戦では「アメリカ・ファースト」などと言って、世界中を困惑させましたが、実際に大統領になってからは、国際政治や外交にも様々な関与をしました。

トランプ氏は、様々な公約や発言をしつつ、決して現実からは目をそらさなかったようです。現実とは、実際に目の前で起こっている事柄です。現実に対処するには、様々な原理を適用する必要があります。無論、現実の中には、原理を適用することでは解決できないものもあります。

しかし、実はそれはわずかです。多くの人が、組織に属していて、そうして組織を巡って様々な問題に出会うことになります。そうして、そうした問題のほとんどは、先達がすでに経験しており、その対処法は原理・原則として継承されています。

経営学の大家、ドラッカー氏が記した言葉に「現実に原理を適用する」というものがあります。

例えば、組織は実は道具にすぎません。人が社会に何らかの役割を果たすために組織は存在し、個人が成長し成果を上げるための道具だというのです。

まずは目の前で起きていることが、いったいどういうことかを認識すべきです。それができないと、対処するのにどういう道具(原理)を使うべきかが分からないからです。自分の中にどれだけたくさんの道具があるかというのは、成果を上げるためには重要な要素となります。

これは、例えば自動車が動く原理を知らなくても、方法を知っていれば自動車は運転できます。しかし、自動車の原理を知っているほうが、よりうまく運転ができるのです。F1のドライバーは当然自動車が動く原理を知っていて、あのような運転ができることになります。

それは大統領の執務でも同じで、閣僚やブレーンの中には、How Toと原理を知るものも多数いますが、それらを利用しつつも、最終的には大統領が現実を把握して、どのノウハウや原理を適用するのか判断しなければなりません。

原理を踏まえた実践こそが難しいのです。ノウハウ・原理を学ぶだけでなく、あるいはそれらを他者から聴いたにしても、それを正しく実践してこそ初めて成果を得られるのです。原理・原則を誰よりも多く知ったからといって、それだけで、それらを実践して具体的な成果を得られなければ、学者としては一流になれるかもしれませんが、優れた大統領にはなれません。

この点においては、バイデンよりはトランプのほうが優れていると思います。バイデンもトランプも数々の失敗をしていますが、トランプはより現実的、バイデンは理想主義的であると私は思います。

対照的なトランプ氏とバイデン氏


ここが、両者の分かれ目になっていると思います。バイデンは現実とじっくりと対峙する前に、まずは理想、理念、原理、ノウハウなどに着目し、それをすぐに現実に適用しようとします。ただ、大きな失敗をすれば、これらを見直すということをします。

トランプ氏の場合は、最初に主義主張をしながらも、現実と対峙して、主義主張や、適応した原理、ノウハウが現実に即していないと判断した場合には、すみやかにこれを変えます。

この違いはどこからでてくるかといえば、やはりバイデン氏は生粋の政治家であり、トランプ氏はそうではなく、企業経営者であるという違いでしょう。

経営者は、民間企業で日々現実世界と対峙して、様々なノウハウや原理を現実に適用します。それが、成功すれば良いですが、失敗すればすぐに売上や利益は激減して、失敗が白日の元にさらされます。いくら、善良であり、道徳的であり、理想を語ったにしても、経済的な利益を出さなければ、経営者は無能の烙印を押されてしまいます。

そのため、嫌がおうでも現実的にならなければなりません。

こうした経験を積んできたトランプ氏は、既存の政治家にはみられないような型破りな大統領になりました。

そうして、結果としてバイデン氏の大統領としての行動は、より「戦略的曖昧さ」が強いものとなり、トランプ氏の大統領としての行動は、より「戦略的明確さ」がより強いものになったのでしょう。

無論、バイデンもトランプも多くの失敗を重ねています。両者とも、曖昧な部分も、明確な部分もあります。ただ、失敗を重ねたにしても、その失敗の背景は両者で全く異なります。

そうして、「戦略的明確さ」がより強いほうが、失敗を重ねたとしても、相対的により国民の支持は高くなるのだと思います。

バイデンの支持率の低さは、大統領としての行動がより「戦略的曖昧さ」を強調するものになっているからだと思います。

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2022年5月26日木曜日

河瀬直美監督に今度は殴打パワハラ疑惑 撮影助手への腹蹴りに続き…優秀な男性職員の退職申し出に「怒りをぶつけたよう」 週刊文春報道―【私の論評】仕事等で激しいストレスに見舞われ他者に暴力を働くようになれば、仕事を辞めよ(゚д゚)!

河瀬直美監督に今度は殴打パワハラ疑惑 撮影助手への腹蹴りに続き…優秀な男性職員の退職申し出に「怒りをぶつけたよう」 週刊文春報道

河瀨直美監督

 映画スタッフへの暴行が報じられた河瀨直美監督(52)に新たなパワハラ疑惑か。2015年10月に奈良市内の所属事務所内で、男性職員の顔面を殴打したと、26日発売の「週刊文春」が報じたのだ。

 河瀨監督は映画の撮影中だった19年5月、激怒して撮影助手の腹を蹴ったと同誌で報道されていた。この件については、事務所の公式サイトで「当事者間で解決をしている」とコメント。

 現在開催中のカンヌ国際映画祭で、総監督を務めた東京五輪の公式記録映画が公式上映されるために現地入りしており、どのようなコメントを出すかが注目される。

 同誌では、英語が堪能で優秀な男性職員が退職を申し出たため、殴りつけたと伝えており、「怒りをぶつけたようです」という関係者の証言も掲載している。殴られた男性職員の顔ははれ上がり、二度と事務所に戻ることはなかったという。

【私の論評】仕事等で激しいストレスに見舞われ他者に暴力を働くようになれば、仕事を辞めよ(゚д゚)!

上の記事では、映画スタッフへの暴行が報じられた河瀨直美監督とされていますが、それはどういう事件だったのか以下に掲載します。

4月27日、映画監督の河瀬直美氏(52)に暴行疑惑が「文春オンライン」によって報じられました。

記事によると暴行があった時期は’19年5月、永作博美(51)主演の映画『朝が来る』の撮影現場でのこと。河瀬監督は出演者の蒔田彩珠(19)が浅田美代子(66)と広島駅前で落ち合うシーンを撮影していたといいます。

映画「朝が来る」のポスター

そのシーンを撮り終えた後、カメラをカチンコに向けるべきところを河瀬監督は方向を見失っていた様子。その際、後ろに控えていた撮影助手のAさんが、方向修正を伝える意図で河瀬監督の体に触れたといいます。ところが、その瞬間に河瀬監督が「何するの!」と激高し、Aさんの腹を蹴り上げたと伝えられています。その後、Aさんが所属していた撮影チームは降板したといいます。

河瀬監督は「週刊文春」の取材に、トラブルはすでに解決済みとした上で、「当事者同士、および組のスタッフが問題にしていない出来事についての取材に対して、お答えする必要はないと考えます」と回答しています。

河瀨直美氏といえば、今年の東京大学の入学式で、祝辞を述べており、その内容が物議を醸していました。


典型的なリベラルメディアであるハフィントンポストさえこれについて報じていました。

河瀬監督はウクライナ侵攻について「ロシアという国を悪者にすることは簡単」「悪を存在させることで安心していないだろうか?」と新入生に問いかけたそうです。 この祝辞について、国際政治学者から批判の声が相次いでいました。

東京大学の池内恵(いけうち・さとし)教授は「侵略戦争を悪と言えない大学なんて必要ないでしょう」と大学の存在意義への疑問を呈するほどでした。

河瀬監督の祝辞は、東京大学公式サイトに全文が掲載されています。それによると河瀬監督は、奈良県吉野町の金峯山寺(きんぷせんじ)の管長と対話した際のエピソードを紹介。管長が本堂の蔵王堂を去る際に「僕は、この中であれらの国の名前を言わへんようにしとんや」とつぶやいたと明かしました。

この言葉の真意を正したわけではないとした上で、河瀬監督は菅長の思いについて以下のように想像していると話しました。 

<例えば「ロシア」という国を悪者にすることは簡単である。けれどもその国の正義がウクライナの正義とぶつかり合っているのだとしたら、それを止めるにはどうすればいいのか。なぜこのようなことが起こってしまっているのか。一方的な側からの意見に左右されてものの本質を見誤ってはいないだろうか?誤解を恐れずに言うと「悪」を存在させることで、私は安心していないだろうか?> 

こうした見方を紹介した上で「自分たちの国がどこかの国を侵攻する可能性があるということを自覚しておく必要がある」と新入生たちに訴えた。「自制心を持って」侵攻を拒否することを促していました。

この祝辞に関して国際政治学者からは批判の声が相次いでいる。 慶應義塾大学の細谷雄一教授は、ロシア軍がウクライナの一般市民を殺戮している一方で、ウクライナ軍は自国の国土で侵略軍を撃退していると解説。 

河瀬監督の祝辞を念頭に「この違いを見分けられない人は、人間としての重要な感性の何かが欠けているか、ウクライナ戦争について無知か、そのどちらかでは」と厳しく批判しました。

 今回の祝辞があった東京大学の池内恵教授も「通俗的な理解するとこうなるという例。新しい学生が変えていってください」とTwitter上で批判。

「侵略戦争を悪と言えない大学なんて必要ないでしょう」と、東京大学の入学式のあり方にも疑問を投げかけました。 東京外国語大学の篠田英朗教授は、前述の池内教授のツイートを引用した上で「『どっちもどっち』論を、超越的な正義として押し付けようとする人々が、この社会で力を持っている」とTwitterで警告を発しました。

こうした川瀬監督の不可解な行動に関して、評論家の上念司氏は、川瀬監督が「ナチュラル・オーガニック系陰謀論にはまっている可能性を指摘しました。


まずは、ナチュナル・オーガニック系陰謀論とはなにかというと、思い浮かぶのは、「世田谷自然左翼」というネットスラングです。なんで世田谷?と思う人も多いでしょうが、世田谷区は東京きっての豊かな住宅街。ここに住んでいる裕福な人が社会主義に賛同したり、豪勢な生活をしてるのに環境問題に関心があるかのように語ったりすることを揶揄するスラングです。これは、最初は上念司氏が言い出したものだと思います。

実際に世田谷区に住んでいるかどうかは別として、環境問題に関心を持つ裕福な人がやたらとオーガニック野菜にこだわる傾向というのは、前世紀の終わりごろから確かにありました。

しかしこのオーガニック信仰というのも、20世紀の神話です。神話であるだけでなく、陰謀論やエリート主義に容易に結びつきやすいという厄介な問題も抱えています。これについて、詳細は以下の記事をご覧ください。
特集 なぜオーガニック信仰の人たちは容易に陰謀論を信じてしまうのか
〜〜「20世紀の神話」は今こそ終わらせるとき(第4回)
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、まさに、日本映画界の重鎮的存在河瀨直美氏は、東大を卒業しただけではなく、2009年、第62回カンヌ国際映画祭で、映画祭に貢献した監督に贈られる「黄金の馬車賞(フランス語版)」を、女性、アジア人として初めて受賞したエリート中のエリートと言っても良いくらいの人です。

しかし、陰謀論にはまってしまうと、このような人が、先の東大での祝辞のような発言をしてしまうのです。

現在は様々な陰謀論があります。陰謀論にはまってしまった人たちは、人格が変わったようになり、周囲の人を困惑させることになることが多いようです。誰にでも陰謀論にはまる危険性はあります。

もちろん、陰謀論であろうとなかろうと、どの情報を「正しい」と信じるかは個人の自由です。人に話すのも問題はないとは思います。しかし、自分が陰謀論を眉唾ものだと思っている場合に、身近な人が陰謀論にのめり込んでしまうと、どう接していいか困惑するでしょう。家族や友人が陰謀論にハマっている場合、どのように接したら良いのでしょうか。

結論からいうと、話をしてくるだけなら、否定も肯定もせずにただ聞いてあげるべきと思います。突き放してしまうと、主張を受け入れてくれる仲間同士でしか話せなくなり、ますます思考が偏ってしまいます。話を聞きつつ、ときどき「だけど、こういう意見もあるみたいだよ」と陰謀論以外の話を差し向けると、相手も極端な思考に偏りにくくなるのではないでしょうか。

注意すべきは「あなたも陰謀論を信じないとダメ」と、強要してくる人です。陰謀論にのめり込みすぎるあまり、個人の自由を無視して陰謀論を信じるよう周囲に強制する人は、最終的にカルトに近い存在になってしまいます。

今は様々な報道がなされるととも、ロシア擁護派に対する厳しい批判がなされるようになり、親露的発言をしていた人も思考が切り替わってきています。少数派になってきた今、ウクライナ戦争の陰謀論を吹聴する人は、より自分の論を強固にしていかないと立場が保てなくなってきています。そうして中には、どんどん先鋭化していく人もいるのです。

その発露が河瀨直美氏の東大の祝辞だったという可能性は高いです。そもそも、「ナチュナル・オーガニック系陰謀論」を信奉したことにより、ストレスがたまり、一緒に働く人達に対して殴る蹴るの乱暴狼藉を働いたとすれば、これは許されるることではありません。

これに近いことは、最近もありました。それは、財務省総括審議官の小野平八郎容疑者(56歳)が、5月20日逮捕された事件です。小野氏も次の次官候補であり、財務省の中ではエリート中のエリートでした。


《20日午前0時すぎ、東京都内を走行中の東急田園都市線の車内で他の乗客を殴ったり蹴ったりしたなどとして、暴行の疑いがある》(NHKニュース)

ただ、小野平八郎氏は、河瀨直美氏のように陰謀論にはまっていたわけではありません。ただ、陰謀論に近いことを主張していたのは間違いありません。これについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
財務省の超エリート「次官候補」は何に追い込まれたのか?逮捕劇までに財務省で起こっていたこと―【私の論評】柔軟性がなくなった異様な日本の財政論議に、岸田政権の闇が透けて見える(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、財務省が財政破綻を長い間主張してきたこと、岸田政権においては、財政再建派と積極財政派の対立を意図的に作り出し、両者の言い分をききつつ、財政政策を決めようとしていることを批判しました。

無論財務省は財政再建をすべきと主張しているのですが、積極財政派もかなり理論武装をしており、しかもこちらのほうが、世界的にみれば標準的でまともな政策です。マクロ経済を理解した上で、様々な統計値などを根拠に理詰めで反論されると、反論のしようがありません。それ故、小野平八郎氏は相当のストレスに晒されていたことは間違いないです。

財務省の主張する財政が破綻するから財政再建すべきという主張にはかなり無理があります。このまま主張し続けていれば、それこそ、陰謀論どこかカルトと言われても仕方ない状況になりかねません。

このような状況に対して、高橋洋一氏は財務省に対して警告しています。詳細は以下の記事をご覧ください。
独断的に財政危機をあおる財務省の論法は通用しない 省益より国民の利益重視を
この記事において、高橋洋一氏は以下のような結論を述べています。
 財政健全化推進本部は19日、従来の財務省方針どおりの「財政健全化の旗を降ろさず」という提言案としたが、異論が出たこともあって、決定には至らなかった。その後、本部長預かりとなって、政府の骨太の方針に取り込まれる予定だという。

 財政健全化推進本部が19日示した案のドラフトは、どうやら小野氏がとりまとめの事務責任者だったようだ。

 自分が作った案が財政政策検討本部の提言とならなかったことは、かなりのストレスになったとしてもおかしくない。ただ、現時点では事件の詳細は不明で、暴力は言語道断であることは強調しておきたい。
 いずれにせよ、財務省は、会計に関する無知に基づく、独断的な財政危機をあおるのをやめるべきだろう。でないと、本当の財政の姿を国民は理解できない。

 財務省職員に言っておきたいが、財務省論法を通用させるのはもう無理だ。それでも省益のために働けと言われたら、仕事を考え直すのが、国民のためになるのではないだろうか。
小野氏も仕事を考え直すべきなのです。それがどうしても財務省内でできないというのなら、辞めるべきなのです。無論他の財務官僚もそうするべきなのです。このまま、陰謀論やカルトになるような組織は、その仕事内容を改めさせるか、それがかなわないというのなら、辞めるしかないのです。それは、ブラック会社など辞めるべきであるのと同じ理屈です。

そうして、河瀬直美氏のように何が原因であろうが、ストレスを抱えて、仕事関係で暴力を振るうようになった場合も辞めるべきと思いますし、一時休止してても良いと思います。ただし、回復し、それだけではなくストレスの本当の原因がわかり、今後ストレスを起こすことがないという自信があれば、また仕事を再開しても良いと思います。

ただ、その原因がナチュナル・オーガニック系陰謀論であれば、回復するのは相当難しいと思います。

いずれにしても、陰謀論にはまったり、陰謀論で人を騙して、激しいストレスで他者に暴力を働くようになれば、まずは仕事を辞めるべきです。そのような人に、まともな仕事はできません。

ドラッカーは仕事を辞めるべきタイミングについて以下のように語っています。
組織が腐っているとき、自分がところを得ていないとき、あるいは成果が認められないときには、辞めることが正しい選択である。出世は大した問題ではない。
― P.F.ドラッカー『非営利組織の経営』

 小野氏は、そもそも財務省という組織が腐っているのですか、やめるべきです。組織が腐っているのてに辞めなかったから、今回のような暴力沙汰に繋がったともいえます。河瀬監督の場合は、ドラッカーの語る原則はどれもあてはまらないですが、それにしても、仕事上のストレスで他者に暴力を働くというのなら、これは他者と仕事することなどできません。辞めるべきです。

ドラッカー氏もこれには反対しないでしょう。そもそも、仕事上のストレスか陰謀論が原因なのか、あるいはその両方で激しいストレスを抱えた挙げ句に他者に暴力を働くというのは、仕事人である前に、社会人として失格です。

そうして、これは何もこの二人だけにあてはまるのではなく、社会人がわきまえておくべき基本的な原則であると思います。この原則に従っていれば、この二人は暴力沙汰をおこさなくてもすんたかもしれません。

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2022年5月25日水曜日

中国の台湾侵攻を阻止する4つの手段―【私の論評】海洋国家台湾の防衛は、潜水艦隊が決め手(゚д゚)!

中国の台湾侵攻を阻止する4つの手段

岡崎研究所

 ロシアのウクライナ侵略を受け、中国による台湾侵攻の可能性について種々の論議が戦わされるようになっている。4月23日付の英Economist誌の社説は、ウクライナ情勢から得られる最も重要な「教訓」は、中国の台湾への「脅威は現実のもの」であり、今すぐにこれに対応するための準備が必要であるとし、台湾がより良い準備をすればするほど、中国が台湾へ侵攻するという危険を冒す可能性は低くなる、と述べている。


 ロシア軍のウクライナ侵略は目下進行中であり、それが如何なる終結を迎えるのか、いまだ予断を許さない状況にある。ただ、はっきりしてきたことは、プーチンの当初の思惑通り事態は進行していない、ということだろう。そのような状況下で、エコノミスト誌の社説も、中国の将来考え得る台湾への侵攻がそれほど容易であるとは見ていないようであり、特に中国が「台湾統一」への行動をとることには、二つの大きな障害がある、と述べている。

 一つは、幅180キロメートルに及ぶ台湾海峡の存在であり、ロシアと地続きであるウクライナの場合と大きく異なっていることである。二つ目は、「台湾関係法」という国内法を持ち、台湾に防禦用の武器を供与し、台湾の安全にコミットしている米国が有する軍事力である。

 なお、ウクライナの場合には、バイデン政権はロシアが核兵器を使用し、「第三次世界大戦になる可能性がある」として、ウクライナへの武器支援を限定したことがある。将来、台湾海峡をめぐって、中国が台湾に対し、いかなる恫喝を行うか、それに対し、米国が如何に対応するかいまだ予想することが困難な点はある。

 現在までのところ、習近平指導部はウクライナ情勢から「教訓」を得るために状況を子細に観察しているものと見られ、ロシア側の度重なる誤算、ウクライナ国民の強固な抵抗力や欧米諸国の反応などに衝撃を受けているものと見られる。そして、将来有りうべき中国の台湾侵攻のハードルは、これまで一般に考えられていたよりもはるかに高くなった、と見てよいのではなかろうか。

やはりいつ来てもおかしくない台湾侵攻

 中国の台湾侵攻がいつ頃になるのか、予断を許さないが、エコノミスト誌の社説の主張するとおり、台湾側としては、いざという時のために警戒心を緩めることなく準備を進め、中国の侵攻を思いとどまらせる方策を講じることは、理にかなっているといえよう。

 エコノミスト誌の述べる台湾防衛の手段には、次のようなものがある。

(1)徴兵制に頼らず、より専門的な部隊を創設する。

(2)防衛費を現在の国民総生産(GNP)比2%は低すぎるので、増額する。

(3)台湾にはいたるところに「ハリネズミ戦法」が必要である。特に、敵の戦艦、軍用機に対する精度の高いミサイル攻撃が出来る武器が必要になる。

(4)台湾は、米国や日本を含むパートナー国との間で合同軍事演習を行う必要がある。中国による台湾海峡封鎖や有りうべき侵攻に対抗できるように準備を整える。

 ロシアのウクライナ侵略前には、数年以内にも中国が台湾に限定的な軍事侵攻をする可能性があるのではないか、との見方が米国の専門家の間で強まったことがある。しかし、ウクライナ危機以降は、中国としても、そう簡単に台湾に対し、軍事行動をとりにくくなったように思われる。しかしながら、習近平指導部にとって、台湾問題の重要性が基本的に変わらない以上、台湾としては警戒心を弱めることなく、準備できるものから準備するという覚悟が必要であろう。

【私の論評】海洋国家台湾の防衛は、潜水艦隊が決め手(゚д゚)!

台湾情勢となると、多くの人が思考停止したように、潜水艦の話題はたくみに避けることか多いです。上の記事もその例外ではありません。潜水艦の行動は昔からどこの国でも隠密にするが普通であり、それ故になかなか公開されることもないので、このようになってしまう傾向は否めないのですが、それにしてもバランスを欠いていると思います。

エコノミスト誌の述べる台湾防衛の手段には、上記の4つですが、その中には潜水艦という言葉が一つでできません。(1)〜(4)の台湾防衛手段は、悪くはないですし、そうすべきとは思いますが、もっと具体性を増すなら、特に(3)は以下のようにすべきです。

(3)台湾にはいたるところに「ハリネズミ戦法」が必要である。特に、敵の戦艦、軍用機に対する精度の高いミサイル攻撃が出来る武器として潜水艦が必要になる。

潜水艦は、海の下に潜り、なかなか発見できない「ハリネズミ」になりえます。

なぜこのようなことをいうかといえば、中国海軍には明らかな弱みがあるからです。中国海軍のASW(対潜水艦戦闘)能力は、日米に比較するとかなり弱いです。まずは、対潜哨戒能力がかなり弱いです。そうして、潜水艦の能力でも、ステルス性(静寂性)では日本にはかなり劣ります。

攻撃能力は米国の原潜と比較すると弱いです。その結果どうなるかといえば、中国の潜水艦は日米にとってはかなり発見しやすく、中国はそうではないので、中国の潜水艦は日米の潜水艦には歯が立ちません。

現代海戦についてルトワックも語っていた、昔から言われていることがあります。それは艦艇には2種類しかないということです。一つは空母やイージス艦のような、水上艦です。もう一つは、海の中に潜む、潜水艦です。

現代海戦においては、水上艦は空母でなんであれ、大きな目標でしかありません。これらは、すぐにミサイルや魚雷で撃沈されてしまいます。実際ロシアのバルチック艦隊の旗艦でもあってミサイル巡洋艦「モスクワ」は脆弱な海軍しか持たないウクライナ軍のミサイルによつて撃沈されてしまいました。

一方潜水艦は、水中に潜み、敵を攻撃することができます。すぐにミサイルや魚雷で撃沈されることはありません。だからこそ現代の海戦における本当の戦力は潜水艦なのです。ただ、これも対潜哨戒能力などによるASWが物を言う時代になっています。これが弱ければ、いくら潜水艦を多く持っていても、海戦において勝利することはできません。

これは、すでにフォークランド紛争(1982年)で実証されていたことです。この紛争では、ASWに長けていた英軍が結局勝利しています。

現代海戦においては、日米のほうがはるかにASWでは中国に勝っているため、中国が多数の水上艦艇を持っていたにしても、それは日米にとっては「政治的メッセージ」に過ぎず、海戦では日米の敵ではありません。

だからこそ、台湾は最新型の潜水艦をもつことにしたのです。これについては、以前このブログでも紹介しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
台湾が建造開始の潜水艦隊、中国の侵攻を数十年阻止できる可能性―【私の論評】中国の侵攻を数十年阻止できる国が台湾の直ぐ傍にある!それは我が国日本(゚д゚)!

自前の潜水艦の着工式に出席した蔡英文総統=2021年11月24日、高雄市

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、専門家は、台湾がもし高性能潜水艦の製造に成功すれば、台湾は中国の侵攻を今後数十年にわたって防ぐことができるとしています。

実際そうなのだと思います。先にあげたルトワック氏は、台湾有事になりそうになったら、米国は台湾に大型攻撃型原潜を2〜3隻派遣すれば良いとしています。なにしろ米国の攻撃型原潜の攻撃力は凄まじいですから、トマホークを数百発も発射できますし、対空・対艦ミサイルもかなり搭載できますから、2〜3隻のこれらの潜水艦で台湾を包囲してしまえば、そもそ中国海軍は台湾に近づくこともできません。

それでも無理やり近づき、仮に人民解放軍を台湾に上陸させたとしても、補給ができず、上陸部隊はお手上げになります。

日本の潜水艦も貢献できるでしょう。何しろステルス性に優れていますから、中国海軍に発見することなく、台湾の近海を自由に航行して、情報収集にあたり、その情報を米台と共有することができます。

台湾が最新鋭の潜水艦8隻を就航させることができれば、自前でこれができることになります。これに、日米が加勢すれば、中国海軍が台湾向けて事を起こせば、壊滅することになります。

2021年11月29日、ロイターは「As China menaces Taiwan, island’s friends aid its secretive submarine project」という記事を配信しました。その内容は、2017年から開始された台湾の潜水艦建造に、米国、英国が主たる役割を果たしていることに加え、オーストラリア、韓国、インド、スペイン及びカナダが関わっているとするものです。

米国は、戦闘システムやソーナー等の核心技術を、イギリスは潜水艦用の部品や関連するソフトウェアを提供し、その他の5カ国は技術者募集に応じたものであると伝えています。

それぞれは、台湾海軍及び潜水艦建造を請け負っている台湾国営企業「台湾国際造船」に、政府の許可を得て技術的支援を行っているとしています。韓国大統領府は、この記事に関し政府の関与を否定した上で、個人のレベルで情報を提供しているかどうかは調査中であると述べていました

記事では、米国の同盟国であり最も進んだ通常型潜水艦を保有する日本の関与について、防衛省関係者の発言として、非公式に検討したものの中国との関係悪化を懸念し、検討を中止したと伝えていました。また、日本企業は中国との取引を失うことを懸念し、台湾への関与は消極的であるとの海上自衛隊退職将官の発言を紹介していました。

台湾海軍は現在4隻の潜水艦を保有しています。2隻は第2次世界大戦中に米海軍が建造したグッピー級であり、もう2隻はオランダのスバールトフィス級潜水艦を元に1980年代に建造され、海龍級と呼称されています。

当初、海龍級は6隻取得する計画であったのですが、中国がオランダに圧力をかけ、残り4隻の建造は取りやめられました。グッピー級は言うに及ばず、海龍級も旧式化しており、台湾海軍はその更新を希望していました。

しかしながら、潜水艦建造能力を持つ各国は、中国の反発を恐れ台湾の潜水艦取得に協力することには消極的でした。米国は、2001年にブッシュ政権が、台湾関係法に基づき通常型潜水艦の提供を決定したのですが、米国国内には通常型潜水艦建造のノウハウが無く、宙に浮いた形となっていました。

これらの状況から、台湾の蔡政権は潜水艦国産化の方針を決定、2017年から建造が開始されました。1番艦の就役は2025年に予定されており、8隻が建造される計画です。

国産化にあたっては、米国を始めとした潜水艦保有国の技術協力が不可欠と見なされていましたが、それまで具体的な名前は明らかにされていませんでした。現時点で、韓国政府以外の反応は報道されていないですが、各国の協力を得て台湾潜水艦建造が進みつつあることが確認できたと言えます。

台湾の潜水艦勢力が充実することは、日本周辺の安全保障環境にも大きな影響を与えますが、軍事的観点から見ると、それにはプラスの側面とマイナスの側面があります。

プラスの側面としては、中国の台湾軍事侵攻に対する大きな抑止力となることです。当時、中国は台湾周辺における活動を活発化しつつありました。爆撃機がバシー海峡を経由し台湾南東部を飛行することに加え、同年11月中旬には中国海軍揚陸艦2隻が台湾と与那国島の間を南下し、台湾東部沖で活動したことが確認されています。

台湾は南北にわたって3,000m級の山脈が連なっていることから、その攻略には台湾海峡正面からの攻撃では不十分との指摘があります。当時からの中国艦艇及び航空機の活動は、台湾海峡方面からの侵攻に加え、太平洋方面からの侵攻能力を検証しているものと推定できます。

3,000m級の山脈が連なっている台湾

台湾潜水艦がバシー海峡周辺及び台湾東部海域で行動することにより、これら中国艦艇の台湾東部への進出を抑制することができます。潜水艦が行動しているという情報だけで、その脅威を排除するために行わなければならない作戦の負担や艦艇へのリスクを意識させ、最終的に中国が台湾への軍事侵攻というオプションを選択する可能性を低下させることが期待できます。

一方、マイナス面、懸念事項としては次の2点があげられます。

潜水艦の最大の特徴は、隠密裏に海中を行動することである。これを捜索するためのセンサーとして、現時点では音波が主流です。音波による捜索は、自ら音を出すアクティブ、相手の音を聞くパッシブともに、潜水艦であるかどうかの類別、そしてそれが潜水艦であった場合の識別(どこの国の潜水艦か)に多大の労力が必要です。

バシー海峡から西太平洋にわたる海域では、日米、状況によっては韓国、そして将来的にはオーストラリア潜水艦が活動し、これに台湾海軍潜水艦が加わった場合、潜水艦らしい目標を探知した場合の識別は非常に困難なものとなります。台湾を巡る紛争が生起した場合、台湾海軍潜水艦の存在は、日米艦艇の作戦を阻害する可能性があります。

次に、台湾の潜水艦の事故に対する備えが不十分であることが指摘できます。2021年4月、インドネシア海軍潜水艦がロンボク海峡付近で沈没しました。更には同年10月、米海軍原子力潜水艦が南シナ海において、海山と推定される海中物体と衝突し損傷しています。

潜水艦を運用する国が増加するにつれ、このような潜水艦の事故が増加すると考えられ、潜水艦を運用する国には捜索救難体制の整備が必須と言えます。他国との訓練が実施できない台湾は、潜水艦救難のノウハウが十分とは言えない状況にあります。

インドネシア潜水艦が消息を絶ってから発見されるまで4日間を要したことから分かるように、沈没潜水艦の位置特定には時間を要します。沈没潜水艦の救難は時間との勝負であり、距離的に近い日本はこれに積極的に協力すべきでしょう。

懸念事項を解消するためには、台湾潜水艦の運用状況に関する日台間の情報共有が不可欠です。潜水艦運用に係る情報の全てを共有する必要はないですが、少なくとも、事故の発生の通知や、探知した潜水艦が台湾所属である可能性があるかないかという判断を速やかに下せる程度の情報交換は必要です。これは、台湾の対潜戦兵力が日本の潜水艦を探知した場合も同様です。

日本の各企業が中国との取引を重視し、台湾の潜水艦建造に消極的であることは、民間企業として当然のリスク管理です。しかしながら、実際に台湾潜水艦の絶対数が増加し、活動海域が重複した場合のリスク管理は国の責任です。台湾の国産潜水艦が就役する2025年までに、日本政府としてリスク管理の体制を整えておく必要があります。関係国との調整を考慮すれば、残された期間は長いとは言えないです。

ただ、日米ともに以上のようなことを実施すべきです。台湾が自前で潜水艦を8隻持ち、シフトを組んで、24時間、台湾を包囲する体制を築いた場合、中国は台湾侵攻を断念せざるを得ないでしょう。

だから、2025年より前に、中国が台湾を武力侵攻する可能性は捨てきれません。そもそも、このブログでは、中国軍の兵員海上輸送能力は現在でも低く、台湾に一度に数万の陸上部隊しか送れないこと解説しました。そうなると、台湾に上陸した中国は侵攻部隊は、何度かに分けて輸送せざるを得ないことになります。そうなると、その度に台湾軍に個別撃破されることになります。

これを考えると、中国が台湾を武力侵攻することはあり得ないと考えるのが普通だと思います。もし、中国が台湾に侵攻した場合、台湾は当然戦うでしょうが、ロシアがウクライナに攻め入るのとは違い、圧倒的台湾のほうが有利であり、侵攻する中国はウクライナのロシア軍よりも、さらに破滅的な損害を被ることになります。

しかし、ロシア軍もウクライナに侵攻すれば、破滅的な損害を被るのは目にみえていました。しかも、侵入軍が当初19万人ともいわれ、これではとてもウクライナを制圧できないのは明らかでした。それでも、プーチンは明らかに勘違いをしてすぐに制圧できると高を括って侵攻したわけですから、中国が台湾に侵攻しないという保証はありません。

台湾を第二のウクライナにしてはならない

ただ、そうすれば、中国軍は破滅的な被害を受け、いずれ退却しなければならくなるでしょう。習近平はプーチンのように大赤恥をかくことになります。いや、それ以上かもしれません。しかし、それでも台湾は大きな被害を被る可能性があります。それだけは絶対に避けなければなりません。

そうならないためにも、台湾は潜水艦の建造を急ぐべきですし、日米としては、台湾有事は日米有事であることを中国に知らしめるべきでしょう。

その意味では、23日の日米首脳会談後の共同記者会見で、バイデン大統領が「台湾防衛への軍事的関与」を明言したのは時宜にかなった適切な措置だったと思います。

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2022年5月24日火曜日

習主席が墓穴!空母威嚇が裏目に バイデン大統領「台湾防衛」を明言 「『第2のウクライナにはさせない』決意の現れ」識者―【私の論評】バイデン大統領の意図的発言は、安倍論文にも配慮した可能性が高いことを報道しないあきれた日本メディア(゚д゚)!

習主席が墓穴!空母威嚇が裏目に バイデン大統領「台湾防衛」を明言 「『第2のウクライナにはさせない』決意の現れ」識者


 中国の習近平国家主席が「墓穴」を掘ったようだ。就任以来、台湾を「核心的利益」と言い続け、今月に入って沖縄県南方の太平洋で、空母「遼寧」の艦載機の発着艦などを繰り返し、軍事的圧力を強めていたが、ジョー・バイデン米大統領は23日の日米首脳会談後の共同記者会見で、「台湾防衛への軍事的関与」を明言したのだ。習氏は今年秋の共産党大会で「政権3期目」を狙っているが、余裕とはいえなくなった。


 女性記者「台湾防衛のために軍事的に関与するのか?」

 バイデン氏「イエス(はい)」

 女性記者「関与する?」

 バイデン氏「それが、われわれのコミットメント(約束)だ」

 注目の記者会見で、バイデン氏は明言した。

 台湾外交部(外務省)の報道官は同日、「歓迎と感謝」を表明し、台湾自身の防衛力を高めるとともに日米などと協力して「インド太平洋地域の平和と安定を守っていく」とした。

 一方、中国外務省の汪文斌報道官は同日、「強烈な不満と断固たる反対」を表明した。

 中国は、日米首脳会談や、日本と米国、オーストラリア、インドによる戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の首脳会合(24日)を見据えて、軍事的威圧を強めていた。

 5月上旬以降、中国海軍の空母「遼寧」は、沖縄南方の太平洋で艦載戦闘機やヘリコプターの発着艦を行っており、その回数は18日までに300回を超えた。20日には、中国軍の戦闘機や爆撃機など計14機が、台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入した。

 習氏は今秋、5年に1度の党大会で「政権3期目」を目指すが、国内での新型コロナ拡大や経済停滞に加え、米国が台湾防衛への軍事的関与を明確にしたとなれば、3選も盤石とはいえない。

 中国事情に詳しい評論家の石平氏は「バイデン氏の発言は意図的で、暴走を続ける中国を牽制(けんせい)する狙いがあるとみている。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、『台湾を第2のウクライナにはさせない』という決意が現れている。米国の姿勢は、中国国内の『反習派』を勢いづける。3選目を目指す習氏を、米国が揺さぶっている」と指摘した。

【私の論評】バイデン大統領の意図的発言は、安倍論文にも配慮した可能性が高いことを報道しないあきれた日本メディア(゚д゚)!


上の記事にもある通り、バイデン米大統領の23日の日米首脳会談後の協同記者会見での、中国が台湾に侵攻した場合、米国が軍事的に関与する考えを表明しました。台湾有事に米国がどう対応するかは「意図的に不透明にしておく」という長らく堅持してきた外交戦略と一線を画する姿勢を見せました。

これについて米政府は即座に、米政府の政策に変更はないとして火消しに走ったことから、発言は失言と受け止められました。 しかし、専門家の一部は、これは決して失言ではないと指摘しています。私もそう思います。

バイデン氏は、中国に対して融和的発言はできないのでしょう。米国内では、そうしてしまえば、共和党やトランプ元大統領から徹底的に批判されるでしょうし、それどころか党内からも突き上げを食うことになるのでしょう。

米国においては、もはや中国に対峙する姿勢は、上下左右から支持され、米国の意思となったといって過言ではありません。現在米国では中国に融和的発言をすれば、米国に対する裏切り行為だと指弾されかねません。

台湾を巡っても、中国に融和的な発言をすれば、ウクライナ侵攻直前にロシアのウクライナ侵攻に米軍を派遣することはないと名言したときのように、大反発をくらい、それこそ中間選挙では大敗確実になるのでしょう。

そうしてこれには、4月12日にチェコ・プラハに所在地がある言論サイト「ブロジェクト・シンジケート」に安倍元総理が発表した、米国は台湾防衛に曖昧戦略はやめよと主張した英語論文の影響もあることでしょう。


同論文は瞬く間に反響を呼び、「ロサンゼルス・タイムズ」や仏紙「ルモンド」など、米国をはじめ30カ国・地域近くのメディアで掲載されました。

同論文では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を台湾有事と重ねたうえで、米国がこれまで続けてきた「曖昧戦略」を改め、中国が台湾を侵攻した場合に防衛の意思を明確にすべきだと主張しています。

1979年、米国は中国と国交を結んで台湾と断交し、台湾に防御兵器を提供することを定めた「台湾関係法」を制定しました。しかし、中国が台湾へ軍事侵攻した場合、米国が軍事介入するかどうかについては明らかになっていません。安倍氏は、この「曖昧戦略」を見直すべきだと主張しています。

安倍氏はかねてより「台湾有事は日本有事」だと主張してきました。


ロシアによるウクライナ侵攻において、バイデン米大統領は早い段階から「米軍は軍事介入しない」と明言しました。それがロシア軍の侵攻を加速させたことは間違いないです。台湾に関しても、米国が防衛の意思を明確にしなければ中国が実際に台湾へ侵攻することは容易に想像できます。

同じ価値観を共有する周辺諸国に対する軍事侵攻は、日本の国家安全保障にも大きく影響します。尖閣諸島への領海侵犯が連日行われている以上、日本も対岸の火事ではないです。多くの日本人が傍観しないことを祈ります。

そうしてこの安倍論文は、ただ公表されただけではなく、引用という形で報道され世界を駆け巡りました。その事実を前に、バイデン大統領としても、曖昧戦略をこれからもはっきりと継続するとは言えなかったのでしょう。まさに、この論文は絶妙なタイミングで出されたと思います。

この論文はさらに国際政治に今後も影響を与える可能性があります。しかし、この論文に関しては日本のメデイアはほとんど報道しません。

マスコミは2012年暮れにやはりプロジェクト・シンジケートに公表された、当時総理になることが決まっていた安倍氏の論文「安全保障のダイアモンド」を無視しました。この論文は非常に重要なもので、その後のインド太平洋戦略構想やQUADにも結びついたものでした。そうして、これも世界各国の多数のメディアに掲載されたにもかかわらず、日本のメデイアは無視しました。

そのため、日本ではその存在そにものも知らない人が多いようです。特に、情報源がテレビや新聞などに限られている人はその傾向が強いです。

米国では、トランプ元大統領が大統領でなくなってしまってから、CNNなどの反トランプメディアは凋落しつつあるそうです。それは以下の動画をご覧いただければおわかりいただけると思います。


日本の反安倍メディアも同じような運命をたどりつつあるといえると思います。そうして、トランプ氏もバイデン批判、米民主党批判だけではなく、安倍元総理が間接的にバイデンを批判したように、岸田総理や林外務大臣に対する批判をしていただきたいものです。

無論、安倍氏のように、理詰めで、誰にも表立って反対できないような理性的で、実際に国際政治を変えるような形で実施していただきたいです。

安倍元総理の今回の論文は、直接トランプ氏や共和党を応援するものではないですが、バイデン大統領の行動を変えた可能性は十分にあります。

トランプ氏

そのような形で、日本の岸田総理や林外務大臣と自民党の行動を変えるような提言をして欲しいです。特に経済面やエネルギー政策では、そのようなことをしていただきたいです。

そのようなことができれば、トランプ氏が大統領に返り咲く可能性が高まると思います。

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2022年5月23日月曜日

財務省の超エリート「次官候補」は何に追い込まれたのか?逮捕劇までに財務省で起こっていたこと―【私の論評】柔軟性がなくなった異様な日本の財政論議に、岸田政権の闇が透けて見える(゚д゚)!

財務省の超エリート「次官候補」は何に追い込まれたのか?逮捕劇までに財務省で起こっていたこと

自民党内で「ご説明」行脚

 財務省総括審議官の小野平八郎容疑者(56歳)が、5月20日逮捕された。
 《20日午前0時すぎ、東京都内を走行中の東急田園都市線の車内で他の乗客を殴ったり蹴ったりしたなどとして、暴行の疑いがある》(NHKニュース)


 財務省の総括審議官とは、財務事務次官(あるいは、対外的には次官級である財務官)へのコースだ。統括審議官を経た官僚は、たとえ事務次官になれなくても、国税庁長官か他省庁の事務次官になっている。財務官僚の中でも「超エリートポスト」だ。


 しかし今回の逮捕劇により、小野氏は20日付で総括審議官から大臣官房付に降格された。

 総括審議官の担当は国内経済一般である。表向き、日銀との調整事務もあり、かつては事実上公定歩合を「決めて」いたこともあったポジションだ。1998年の日銀法改正以降は形式・実質ともに日銀が金融政策を決めている。

 実をいえば、筆者は日銀法改正以前の総括審議官の下で働いていたこともある。その当時、日米経済摩擦が問題になっていた。アメリカ政府が日本に内需拡大を要求するときの経済理論的根拠になっていた「ISバランス論」を論破せよ──もし出来たらノーベル賞級という、そんな難題を課せられたこともあった。

 統括審議官は、最近では政府の経済財政諮問会議関連の仕事が多い。5月16日に諮問会議で「骨太の方針」の骨子案が出された。これは、骨子つまり項目だけであり、5月中に原案をつくり、6月上旬に閣議決定される予定だ。

 「骨太の方針」の策定に当たっては、当然のことながら、自民党との調整も必要だ。この7月に参院選を控える自民党は、6月までに公約を固める必要がある。高市早苗政調会長が自民党内で政策の取りまとめは行うものの、自民党内の各所に「ご説明」という名目で接近し、財務省の意向をできるだけ通りやすくするのも、総括審議官に課せられた仕事のようだった。

積極財政派の仕掛け?

 特に、自民党内では、財政に対する路線対立がある。岸田首相に近い財政健全化推進本部(本部長:額賀福志郎、最高顧問:麻生太郎)と、安倍元首相に近い財政政策検討本部(本部長:西田昌司、最高顧問:安倍晋三)がある。前者は財政再建路線、後者は積極財政路線であり、両者は基本的な方向が異なってる。自民党内で二つの本部があるのはかなり異様である。

 もっとも、7月の参院選を控えて党内対立・政局になるのは自民党のためにならないので、両本部とも、政局にすることなく「大人」の妥協の方向で基本方針は固まっている。

 両者の争点は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を2025年度に黒字化するという政府目標の取り扱いだ。

 「積極財政派」の財政政策検討本部は、17日、「財政再建派」の財政健全化推進本部に配慮した提言を出した。一方の財政健全化推進本部は19日、従来の財務省方針どおりの「財政健全化の旗を降ろさず」という提言をまとめる予定だったが、それでは財政積極派の議員が収まらず、19日の決定には至らなかった。その後、本部長預かりとなって、政府の「骨太の方針」に取り込まれる予定だという。

 財政健全化推進本部が19日示した案のドラフトは、どうやら小野氏がとりまとめの事務責任者だったようだ。

 小野氏は自分の案が提言として決定されなかったことで、かなりのストレスがあったと思われる。その19日の深夜に「事件」は起こった。

 それにしても、電車での暴行と聞いて驚いた。総括審議官は局長級なので、仕事なら公用車も使えるし、でなくても電車ではなくタクシーなどを使うのが普通だ。よほど腹が立って深酒をしたのだろうが、それであればなおさら電車に乗るべきでなかった。いずれにしても、どれだけストレスがあったとしても、他人に暴行をふるってはいけないのはいうまでもない。

 先週の本コラムで書いたが、安倍元首相の発言(「日銀は政府の子会社」)に対するマスコミ報道は、自民党内の対立において、有利の立場を築きたい財務省の思惑が透けてみえる。

 そういうと、今回の逮捕についても「積極財政派の仕掛け」という陰謀論も出てきそうだが、小野氏以外の人が総括審議官になっても、財務省の再建至上主義は財務省のDNAともいうべきモノで変わりはないので、仕掛ける意味がないだろう。
 
 デタラメな「財政危機」論

 この間筆者は、財政問題について意見を求められることは多かったものの、あまり表には出ていない。ある人から言われたが、筆者の見解はかなり「危険」だというのだ。会計や金融工学手法を使った筆者の説明は定量的なので、反論するなら定量的に行う必要はある。だがそれができないらしい。反論を許さない論法が「危険」といわれている。

 それでも筆者は、11日に行われた自民党若手の積極財政議連の勉強会で、マスコミを含めフルオープンで話をしている。

 そこで話したのはこういうことだ。

 今のプライマリーバランスは、狭義の政府のみに焦点をあてているので不適切である。政府・日銀の統合政府のネット債務残高対GDPを大きくさせないためには、政府・日銀のプライマリーバランスを新しい指標として、それをインフレ目標の範囲内で考慮すべきだ──興味のあるかたは、動画で示した数式を参照されたい。

 21日、大阪朝日放送「正義のミカタ」でも、財政問題を解説する機会があった。東京の地上波でこうした話はできないが、大阪では比較的自由だ。話した内容は、本コラムで何度も繰り返してきた「政府連結BSでは事実上資産超過」だ。

 もちろん簿外の徴税権を含めれば、資産超過は常に確実だ。筆者は、およそ30年前に世界に先がけて政府連結BSを作っているが、その当時から政府は当分破綻しないことを知っていた。


 これは世界ではあたり前で、IMFでも分析していることだ。安倍政権時代、ノーベル経済学者受賞者のスティグリッツ教授が経済財政諮問会議で話したことからも裏付けられる。

 財務省やマスコミのやってきたことは、そうした世界の「真実の声」を報じないことだ。だが先週の安倍元首相の発言をはじめ、自民党若手の積極財政議連のメンバーでも、財務省が債務だけでデタラメの議論をしていることについて、かなり理解が広がっている。

 昨年矢野康治財務事務次官が『文藝春秋』11月号に書いた内容も、債務だけで財政危機を論じるなど、会計的にあまりに幼稚なので失笑を買ったものだ。

 こうした過程で、一部の自民党議員の動きは、小野氏をかなり悩ませたに違いない。

 小野氏は財務省の省益を守るために努力したが、それが報われずに、そのストレスで暴行に及んだとしたならば──。もちろん、この話はあくまで筆者の邪推であり、確たる証拠はない。だがこれが正しければ、財務省のデタラメな財政危機論は、とんだところにも悪影響を及ぼしてしまったのかもしれない。

 財務省は、会計に無知で独断的な財政危機の扇動をやめるべきだ。でないと、本当の財政の姿を国民は理解しなくなり、財務省職員にとってもいいことではない。

 財務省職員に言っておきたいが、財務省論法はもう無理だということ。それでも省益のために働けと言われたら、国民のためにも辞めたほうがいい。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】柔軟性がなくなった異様な日本の財政論議に岸田政権の闇が透けて見える(゚д゚)!

上の記事にもあるように、自民党内では、財政に対する路線対立があります。岸田首相に近い財政健全化推進本部(本部長:額賀福志郎、最高顧問:麻生太郎)と、安倍元首相に近い財政政策検討本部(本部長:西田昌司、最高顧問:安倍晋三)があります。前者は財政再建路線、後者は積極財政路線であり、両者は基本的な方向が異なっています。自民党内で二つの本部があるのはかなり異様です。

両者の争点は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を2025年度に黒字化するという政府目標の取り扱いです。

ただ、こうした状況には根本的な間違いがあります。それについては、このブログでも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
自民に“財政”2組織が発足 財政再建派と積極財政派が攻防―【私の論評】「○○主義」で財政を考えるなどという愚かなことはやめるべき(゚д゚)!
財政政策検討本部役員会で発言する安倍晋三元首相=1日午後、東京・永田町の自民党本部

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、結局この記事で何を言いたかったかと言う部分を長めですが、この記事から引用します。
「財政再建派と積極財政派の攻防」とは一体どういうことなのかと考えてしまいます。財政再建派といわれる人々は、どんな時でも財政再建を主張するのでしょうか。そうして、積極再生派の人々はどんなときでも積極財政をするというのでしょうか。

現状の財政が危機なのか、そうでないのか、あるいは現状は積極財政すべきなのかという「事実判断」をまず検討すべきです。それから再建すべきなのか、積極でいけるかのがわかるはずです。「主義」として議論する人は最初から間違えています。

デフレになっても、それでも財政再建ばかりしていれば、いずれさらに酷いデフレになるのは必定です。平成年間のほとんどの期間にわたり、このようなことを実施し続けたのと日銀が金融引締を続けたので、現在の日本はデフレ傾向にが続いています。積極財政主義にも確かに問題があります。積極財政を主義としていつまでも行いつづければ、いつかは超インフレになってしまいます。

日本は、財政再建主義を長い間続けてきた結果平成年間のほとんどの期間がデフレだったという、大失敗をやらかしたのですから、いい加減「主義」で財政を考えるという愚かな、馬鹿真似はやめるべきです。必要なのは、実体経済を分析した上で、積極財政すべきときは、積極財政をして、緊縮財政すべきときは積極財政をするという柔軟な姿勢てす。

安倍氏や高市氏などこのようなことは、重々承知なのでしょうが、岸田政権の枠組みの中で、このような二つの組織ができているので、「財政政策検討本部」の中で財政を検討するよりないのでしょう。

「財政健全化推進本部」と「財政政策検討本部」の二つの組織を立ち上げる岸田政権ではまともな経済対策は期待できないです。

岸田氏としては、財政健全化主義者の組織と、財政政策を検討する組織の二つの組織の意見を聴いたうえで、財政政策を実施することになるのでしょう。これは、どちらがわの意見も聴いたということをアピールするためとしか考えられません。

このようなことを実施すれば、財政政策としては、両者の意見を折衷したものとなり、不十分なものしかできないでしょう。無論先日もこのブログで述べたような米国における「高圧経済」など望むべくもないでしょう。

経済の問題、特にその時々でどのような経済対策を打つべきかに関しては、本来その時々の経済に対応して柔軟に実施すべきものです。

にも かかわらず、積極財政派と財政再建派という派閥をつくって議論をするとそこには暗黙の了解というか、暗黙の前提ができてしまいます。

それは、積極財政派はいついかなるとき、それこそ超インフレのときにも積極財政を行い続ける、財政再建派は、超デフレであっても、積極財政など考えもせずに、財政再建を続けるというような暗黙の前提です。

無論、上にも示したように、安倍元総理、高市政調会長、西田議員などそのように考えてはおらず、その時々の経済に対応した柔軟な対応をすべきと考えているでしょう。ただ、デフレが長く続いた日本では、今は積極財政をすべきと考えていることでしょう。

しかし、財政再建派の人々の多くは、どんなときでも財政再建、緊縮財政を実施するのが正しいと信じているのでしょう。この考えが間違いであり、日本は長い間デフレに見舞われ、賃金も上がらず、長期停滞を続けました。

本来経済対策は、柔軟に実施すべき筋のものであり、財政再建派のように「どんなときでも財政再建」などと考えていれば、まともな経済対策などできません。

その時々の経済状況を把握するのは大して難しいことではありません。以前にも述べたように、積極財政を行った結果、インフレ率は上がるものの、失業率が下がらない状況が続けば、積極財政はやめて、緊縮財政によって財政再建をすれば良いです。

緊縮財政を実施し、財政再建をした場合、デフレ傾向になり、失業率が上がり続ければ、財政再建など中止して、積極財政に転じるべきです。現在の日本では、デフレがあまりに長い間続いてしまい、それが当たり前のようになっていますが、デフレは正常な経済循環から逸脱した状況であり、これは必ず是正しなければなりません。

以上のように財政政策の方向性を探るのはさほど難しいことではありません。そうして岸田政権が財政政策の目標を決めて、財務省は専門家的立場から、その目標を実現するために、様々な手法を駆使するべきなのです。

財政再建派からみれば、積極財政などとんてもないし、派閥(主義)で政策を考えているのですから、積極財政派には負けられないし、なんとしても自分たちを考えを通そうというほうに流れるのは当然といえるでしょう。

20日には、岸田総理大臣直轄の機関で自民党内の財政再建派が中心の会合が開かれ、政府が6月に閣議決定する「骨太の方針」を念頭に提言案をまとめました。

20日行われた自民党財政再建派の会合

提言案には、2025年度にプライマリーバランス=基礎的財政収支の黒字化を目指す政府目標について、「財政健全化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む。」と明記されました。

一方で黒字化目標の時期については「内外の経済情勢等を常に注視しつつ、状況に応じ必要な検証を行っていく。」との表現にとどめました。

提言案を巡っては、19日の会合で、積極財政派を中心に「アベノミクスの成果を入れるべき」といった批判が相次ぎました。

今後は、参議院選挙が迫るなか、党内での対立を避けるため両会合で連携して財政政策を検討していく方針としされていますが、これでまともな財政政策が出来上がるとはとても思えません。

結局、岸田総理は無用な対立を助長するようなことをしてしまったとしか言いようがありません。本来は岸田総理が、官僚の出す統計数値などから、判断し、積極財政をするか財政再建をするかその方向性を明らかにするとともに、財政の目標値を定めるべきです。

いずれの方向に進むにしても、党内で一致して、その方向に進むのが筋です。そうして、財政政策に成功すれば、そのまま政権を継続し、大失敗すれば、辞任すれば良いてのです。そうしないのは、本当に無責任の極みとしか言いようがありませ。

それをしないで、積極財政派、財政再建派を対立させるようなことをしてしまったのは、全く罪作りとしかいいようがありません。

財務省総括審議官の小野平八郎氏の直近の仕事内容は、日本銀行との政策調整や国会対応などで、かなりハードだっちようです。しかも今は自民党内で『積極財政派』と『財政再建派』が激しく対立し、会合では怒号が飛び交うほどです。そうした最中にあって、小野氏は財務省の省益を追求しなればならないという使命が課されていたのです。

『財政再建派』は軽くいなせたものの、『積極財政派』には、そうとう手こずらされたに違いありません。理論武装した『積極財政派』に対して稚拙な財務省論法は通じなかったでしょう。時によっては、強く叱責され、罵声を浴びせられたこともあったかもしれません。

小野氏は、調整役として奔走していました。かなりのストレスが溜まっていただろうことは、想像に難くありません。

とはいえ、電車内で乱暴狼藉を働くことはとても許されることではありません。ただ、通常ならあり得ないような今回のような事件が起こってしまったことに、岸田政権の闇が透けて見えます。

岸田政権によって、従来から異常だった日本の財政論議はますます歪められることになりそうです。

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2022年5月22日日曜日

高いロシア依存で苦境に 綱渡り状態の台湾の電力問題―【私の論評】日本はエネルギー分野で独走し、エネルギーで世界を翻弄する国々から世界を開放すべき(゚д゚)!

高いロシア依存で苦境に 綱渡り状態の台湾の電力問題


 ロシアが4月末、ポーランドとブルガリアへの天然ガス供給停止を通告したことは、台湾を震撼させた。台湾が輸入する天然ガスの10%はロシア産。万一、供給が止まれば、慢性的な電力の需給逼迫に悩む台湾は、一気に危機を迎えることになる。

 台湾経済部(経済省)エネルギー局によると、2021年の電源構成は83.4%が火力発電。うち石炭が44.3%、天然ガスが37.2%だ。天然ガスのうち9.7%を占めるロシアは、台湾にとって豪州、カタールに次ぐ第3位の供給国。石炭も14.6%がロシア産で、豪州、インドネシアに次ぐ第3位。エネルギーの対露依存度は高い。

 台湾政府は2月のウクライナ侵攻後、直ちにロシアへの制裁を発表。4月には経済部が、対露輸出を禁止する電子製品などハイテク57品目のリストを公表した。ポーランドなどと同様、ロシアから「非友好国・地域」に指定されており、天然ガスなどの供給停止の「資格」は十分だ。

 元々、台湾は近年、電力逼迫に苦しんでいる。高い経済成長率や、半導体工場の増設、米中対立を背景とした台湾企業の域内回帰が、本来はめでたい話だが、電力状況をさらに厳しくしている。

 台湾では昨年5月と12月に計3回の大停電が発生。今年3月にも、発電所の事故をきっかけに全国規模の停電が起きた。停電の頻発は、送電網の脆弱さや管理の杜撰さのほか、蔡英文政権が、脱原発にこだわり原子力発電を縮小する一方、頼みとする再生可能エネルギーのシェアが伸び悩んでいることも原因とみられている。

 蔡政権は、25年に原発稼働ゼロ実現の目標を変えておらず、この年の目標電源構成のうち再エネの比率は20%。経済部エネルギー局は今年初め、25年の再エネのシェアが目標を下回る15.2%になるとの見通しを示したが、専門家からは「絵に描いた餅。多くて13%」の指摘もある。

 政府は、再エネの不足分を天然ガス火力で補う計画だが、台湾に2カ所ある液化天然ガス(LNG)の陸揚げ施設は、既に能力が限界。3カ所目は海藻類を繁殖させるための「藻礁」保護を理由とする反対運動で建設が遅れ、完成は早くて25年となる。

 しかも天然ガスは、価格急騰のほか、ロシアの供給中断リスクが加わった。経済部は、台湾のLNG調達は長期契約が主体で、短期的な価格変動の影響はなく、調達先の多角化を進めており、問題ないと説明しているが、企業などの不安は拭えていない。

 台湾の電力の安定供給は、原子力発電の活用が最も現実的で、経済界からは、既存の原発2カ所の稼働延長が必要との声が高まっている。さらに、完成間際で建設が止まっている第4原発(新北市)が稼働すれば、電力逼迫は一挙に解決する。しかし、国民の原発アレルギーは強く、昨年12月の住民投票で第4原発の工事再開は否決されており、実現は当面ありえない。電力供給は、天然ガス頼みの危ない綱渡りが続きそうだ。

【私の論評】日本はエネルギー分野で独走し、エネルギーで世界を翻弄する国々から世界を開放すべき(゚д゚)!

経済産業省の資料によると、2021年の日本の天然ガス供給は運搬船による輸入LNGであり、ロシア依存度の8.8%です。

同じく、日本の原油輸入量でロシア産が占める割合は3.6%にすぎません。日本への原油はサウジアラビアが約40%、UAE=アラブ首長国連邦が約35%と中東依存度が高く、もともとロシアでの権益確保は、エネルギーの中東依存度を下げることが目的でした。

この数字を見る限り、日本も台湾もエネルギーのロシア依存度は似たりよったりという事ができると思います。

しかし、ウクライナでの惨状を受けて、各国や企業が次々とロシアからの撤退を進める中、「3.6%」が本当に国益上「極めて重要」なのか。

「サハリン1」の事業主体を見ると、その背景も透けて見えます。撤退の方針を表明した米エクソンが30%、そして日本のサハリン石油ガス開発(SODECO)が30%を保有。さらに、このSODECOの内訳を詳しくみると、経済産業大臣(日本政府)が50%、国が筆頭株主のJAPEX(石油資源開発)が15%、伊藤忠14%、丸紅12%と、ほぼ国策会社です。

日本政府が関わるロシアでの資源開発はほかにもあります。

その一つが、2023年の稼働を目指す北極海の「アークティックLNG2プロジェクト」です。安倍元総理大臣が肝いりで進めたLNG開発事業です。日本勢では、三井物産や石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などが参画します。2019年、G20大阪サミットでのプーチン大統領と当時の安倍総理との首脳会談にあわせて契約が署名された国策プロジェクトといえます。

プーチン大統領肝いりの巨大なプロジェクト・ヤマルLNGプラント

ところが、「アークティック2」をめぐっては、権益の10%を保有するフランスのエネルギー大手トタルエナジーズが3月22日、権益は手放さないものの資金提供はしないと凍結を表明するなど、今後の資金調達が危ぶまれています。

それでも、4月1日、萩生田大臣は「アークティック2」からも撤退しない方針を明言しました

紛争において、エネルギーがいかに大きな武器となりうるのか、ロシアのウクライナ侵攻は改めて世界に突き付けました。ロシア依存からの脱却を表明したヨーロッパだが、経済への一層の打撃など困難が予想されます。

それでも、EUのフォンデアライエン委員長は3月8日、「我々を露骨に脅す供給元に頼ることはできない。今行動が必要だ」と、結束を呼び掛けました。迅速な意思決定と行動は、危機を乗り越えようとする国際社会への強いメッセージとともに、ロシアへのプレッシャーにもなります。

国際社会の動きに押されるように、萩生田大臣は3月15日、「ロシアへのエネルギー依存度の低減をはかる」として、再生可能エネルギーも含めたエネルギー源や調達先の多様化を進める方針を示しました。そして、侵攻から1か月以上経過して、日本政府は初めて、「戦略物資やエネルギーの安定的な確保を検討する会合」を開き、対策を発表しました。しかし、ここでもロシアでの権益をどうするのか、具体的な方針は示していません。

日本のエネルギー業界のある重鎮は、「簡単に権益を手放す判断をすべきではない」と日本政府の対応を評価しながら、「ウクライナでの状況が悪化すれば、人道的な観点から撤退も考えざるを得ないだろう」と語っています。

資源のない日本にとって、エネルギーの権益確保と調達の多様化は最重要ともいえる課題であることは疑いないです。しかし、「戦争犯罪」も問われるロシアに、欧米各国らが結束して対応しようとしている中で、すべてのロシア権益を一様に、「極めて重要」として固執し続けるのでしょうか。

日本政府の対応はしたたかな戦略的「忍耐」なのか、それとも単に危機対応の遅れなのでしょうか。その「忍耐」は責任ある主要国の一員として容認されうるのでしょうか。国民、そして国際社会への説明はあまりに乏しいようです。それは、台湾も似たようなところがあると思います。


日本は、このブログでも以前から主張しているように、動かせる原発は安全を確保した上で、なるべく多く稼働させるべきでしょう。それで、浮いたエネルギーをEUや台湾などにも提供すば、EUや台湾に歓迎されるとともに、ロシアへの制裁の強化ともなります。

米国は、シェールオイル・ガスなどの増産を実施すべきでしょう。そうして、ロシアにかわってEUや台湾などにも輸出すべきです。そうすれば、国内のエネルギー価格の高騰を抑え、EU、台湾に歓迎されることになります。

そうして、台湾は新たな原発開発に踏み切るべきでしょう。結局日本も台湾も、これから原発に力をいれていくべきなのです。

これから、日台ともに暑い夏を迎えます。そうなると電力が不足しがちになります。そうして、日台ともに根本的な改善策、それも再生エネルギーなどの不安定なものなど除外して、エネルギーの安定供給を目指さなければならないです。

それを目指さなければ、いずれ国民の原発アレルギーよりも、エネルギー価格の高騰への不満のほうが確実に上回ることになります。エネルギー不足や高騰が顕著になれば、再生可能エネルギーに賛成、原発廃炉に賛成などとは言いにくくなるのは目に見えています。

このようなことは、自分の生活が直接エネルギー不足等にさらされていないから言えることです。命の危険や、経済的な脅威などに直接さらされる、さらされることを否定できなくなれば、ごく一部の例外的な人を除いて、安全が確保された原発の稼働を望むようになることでしょう。

やはり原子力発電の活用が最も現実的であり、これを当面実施しつつ、より安全な小形原発、さらに安全な核融合炉の開発を目指すべきです。

台湾では、日本よりも国民の原子力アレルギーが強く、これらについては、ほとんど手つかずです。

しかし、日本ではこの開発が進んでいます。とくに、超高温下で海水に含まれる重水素など1グラムで石油8トン分のエネルギーを生む「夢のエネルギー」といわれる核融合発電の開発は日本の独壇場ともいえる状況になりそうです。

日本は核融合炉で重要な部品・材料を開発する力があります。核融合炉というと核融合反応ばかりに注目が集まりますが、その周囲を固める技術がなければ核融合炉は実現しません。核融合産業が誕生すれば、その中心地にはきっと日本がいることでしょう。現在、世界中の核融合炉のスタートアップ企業は安さよりも性能を追い求めていますから、日本にとって追い風となるはずです。

日本がこれらの分野で独走すべきです。そうして、日本のエネルギー問題を解消し、そうして世界のエネルギー問題を解消し、ロシアのようにエネルギーを脅しに使ったり、エネルギー価格を自分の都合で調整したりする国々の軛から世界の国々を開放すべきです。

これはエネルギー不足に悩まされてきた日本だからこそできる貢献です。他の国ではそれはできないでしょう。戦後経済大国になり技術大国になりながらも、世界のいかなる紛争や戦争に直接介入してこなかった日本こそがすべき貢献です。

岸田文雄首相は19日、脱炭素社会の実現に向け、政府が今後10年間で20兆円を投じる方針を表明しました。新たな国債を発行し、脱炭素に取り組む企業への補助金などに充てることを検討します。民間企業の投資を引き出すために、長期にわたる前例のない規模の支援を行うとしています。

10年間で20兆円とは、1年間で2兆円とあまりにもショボいですが、この使い道は小形原発と核融合発電にむけられるべきと思います。そうして、財務省管理内閣の岸田政権以降の政権はこの分野に果敢に緒戦して、年間で10兆円くらいの投資をしていただきたいものです。

それも、政府が国債を発行し日銀がそれを引き受ける形で、資金を得ていただきたいです。その他の投資も行いつつ、こちらの国内投資も毎年必ず行うようになれば、日本はデフレから完璧に脱却できます。その上にエネルギー革命もできるのです。そうしてこれが実現すれば、環境派の人たちもこれに対して面と向かって批判はできないでしょう。

なぜなら、核融合発電は原子力発電に比べて極めて安全性が高いからです。原子力発電は核分裂反応で発生する熱を利用して発電を行うものです。原子炉の中では核分裂反応が連鎖的に起こるため、制御棒などを用いて、暴走しないよう制御しながら運転をしていく必要があります。原子炉内には数年分の燃料が入っており、それを制御しながら少しずつ発電を行っていきます。

一方核融合発電の場合は、炉の中にある燃料は核融合反応を持続させるのに必要な量だけで、供給を止めればすぐに反応は止まってしまいます。また、たとえ大量の燃料が炉内に導入されたとしても、燃料自体がプラズマを急激に冷却することで自発的に反応が止まるため、核分裂のような連鎖的な反応は起こりません。核融合発電は、原理的に暴走が起こらない仕組みになっているのです。

ロシアは問題外として、米中が世界でエネルギー問題を根本から解決する役割を果たそうとすれば、反発する国も多いでしょう。これは、エネルギーで苦しめられてきて、その痛みがわかる日本が担うべき役割です。

21世紀は、エネルギーを持つ国とそうではない国との差別は撤廃されなければならないのです。そうならない限り、世界はいつまでもロシアのような野蛮な国々によって、翻弄され続けることになります。

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