衆議院本会議で2022年度補正予算案が可決され、一礼する岸田文雄首相(手前)と政権幹部たち |
● 参院選後の増税は既定路線? 何の税金が「標的」になるか検証
岸田政権への高い支持率が続き、参議院選挙は自公勝利が確実視される状況になってきた。今夏の参院選が終われば、岸田文雄首相が衆議院を解散しないかぎり、3年間は大きな国政選挙がない。与党と中央省庁、特に財務省の関心は、参院選後に移りつつある。つまり、増税だ。財務省は今、どの税金を上げようとしているのだろうか。
これまで岸田政権では増税議論を慎重に避けてきた。昨秋に行われた自民党総裁選挙で、岸田首相は「今後10年程度は消費税増税が不要」と明言。一方、ライバル候補だった河野太郎氏は「長期にわたって年々小刻みに年金の実質価値を下げていくマクロ経済スライドによって、基礎年金の最低保障機能が果たせなくなる」と訴え、補強のために消費税財源を充てる」として、消費税増税を主張した。
ここで全国紙政治部記者に総裁選を振り返ってもらおう。
「河野氏が消費税の増税を考えているのが分かった途端、選挙を前に党内の仲間がサーッと離れていった。序盤優勢だった同氏が中盤で失速したタイミングと一致する。安倍晋三元首相の電話攻勢ばかりが語り継がれているが、河野氏の失速はそれでは説明がつかない。河野氏以外の候補もそんな失速を見て、増税を否定し続けた」のだという。
3年間のフリーハンドを握るとはいえ、岸田首相がその3年で何をしようとしているのかは全く分からないままだ。金融資産課税、新しい資本主義など、マーケットに打撃を確実に与えるとおぼしき主要政策は、選挙を前に棚上げをしてしまった。
そして、消費税減税の可能性を問われると「消費税は社会保障の安定財源に位置づけられており、いま触ることは考えていない」と否定した。「触れない」ということは増税もしないということなのか、真意は不明だ。
物価高対策を盛り込んだ2022年度補正予算案、総額は2兆7000億円規模で、財源を全額赤字国債で賄う。さらに、先日のジョー・バイデン米大統領の初来日時に岸田首相が「相当な増額」を伝えた防衛費も今後かさんでくる。安倍元首相は来年度の当初予算について6兆円台後半から7兆円が必要との認識を示している。1年かぎりで日本の防衛危機が去るとも思えず、毎年の予算となるのだろう。
防衛費以外にも子育て支援政策の大幅増額を掲げているが、それらの財源について岸田首相は明言を避けている。ただ、岸田首相の周辺の考えは固まっているようだ。前出の政治部記者はこう解説する。
「そもそも岸田首相が所属する宏池会は、財務省の影響力が特に強い派閥。そして、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を25年度に黒字化する目標を変更していない。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)にも『安定財源が不可欠』と強調させている」
「聞く力」を掲げて、全員にいい顔をし続ける岸田首相だが、メリハリなく政府支出を増やしている実態の中、選挙後に大増税を決断するのは既定路線のようだ。では、「消費税には触れない」と強く断言する岸田首相は、「何税」を上げるつもりなのか。マーケットの関心もここに集まるだろう。
財務省が「増税の標的」として狙うポイントを基に、検証してみよう。
● 財務省が狙う増税の標的は 「野党の公約」
財務省が狙うポイントの一つは野党の公約だ。野党が容認している「増税」については批判が集まりにくいというこれまでの経験則があるからだ。
思えば、安倍政権時代に2度も行われた消費税増税も、野党時代の自民党と当時の民主党政権(現在の立憲民主党と国民民主党)が合意したことがベースだった。与党が強引に増税をしたとすれば国民の反発は一挙に与党にきてしまう。共産党・れいわと組むことは決してないが、日本維新の会や国民民主党、立憲民主党が容認している増税策が狙われるのは間違いがない。
では、今年の参院選を前にして、主要野党が政策として掲げている増税案はなんだろうか。見ていこう。
● (1)立憲民主党の増税案
・「金融所得課税の強化などを進めます」
・「グリーン税制全体の中での負担を見据えつつ炭素税の導入を検討します」
「立憲民主党基本政策」で増税に触れているのは、以上だ。直近では日本維新の会に追い上げられているとはいえ、立憲は野党第一党の位置を占めている。政権、財務省としても最も狙いをつけていることだろう。
● (2)日本維新の会の増税案
増税政策として、一番困るのが維新だ。先だっての衆院選では「減税で経済成長」と掲げていた。ところが、最近の幹部の発言では「維新は減税政党ではない」と事実上の公約の撤回を主張。実際に同党の政務調査会では増税議論を繰り返してきた。
しかし、参院選を前にしてインターネット上で「貯金税」とやゆされている「日本の資産全てに1%を課税する」という増税プランは、現状撤回したと言い張っている。現在地が不透明だ。
先立って、維新の藤田文武幹事長がTwitterで「政策方針について論点整理」したとつぶやいて、突如提示した1枚紙の資料を見ても疑問は深まるばかりだ。維新の政策集「日本大改革プラン」に関する資料のようだが、税制の個別政策の例として「消費税、所得税、法人税、相続税、固定資産税、金融所得課税、金融資産課税、総合課税、租税特別処置、マイナンバー制度、行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)、徴税権の3層構造、歳入庁、など」と税制とは関係ないことまで含めた謎めいた項目が羅列してある。資料の表題には「コンセプトプレイヤーの整理」とある。これから整理をするというのだろうか。
「フロー活性化」という文言もあるので、増税の優先順位があるとすれば「金融資産課税」辺りが狙われるのではないか。…そう言いたいところだが、国政の維新は、地域政党である大阪維新の会と違って、よりポピュラリズム(世論の動きでフラフラする大衆迎合主義、「ポピュリズム〈民衆主義〉」とは一線を画する)的指向の強い政党であり、正体が全くわからない状態だ。
また、参院選に向けて維新が政策を分かりやすく伝えるために作った漫画冊子「日本大改革プラン」では、「金融取引で所得を増やしている人の税率は累進課税ではない」とあり、その横のイラストと共に現状のフラットタックスを批判している(27ページ)。ところが、その次の次のページ(29ページ)では、「『フラットタックス』とも呼ばれるシンプルでわかりやすいチャレンジ推奨型の課税制度を導入することで『頑張った人が報われる』」と主張している。
その漫画の基である日本大改革プランでは「高額所得者ほど総所得に占める金融所得の割合が高く、所得税負担率に逆累進性が働いている」とも指摘。合計所得金額が1億円超になると所得税の負担率が右肩下がりになる現行制度を批判している。これらを踏まえると、金融所得には増税したい意向なのではないかと推測する。
● (3)国民民主党の増税案
・「格差是正の観点から、富裕層への課税を強化します」
・「推計を踏まえ、法人課税、金融課税、富裕層課税も含め、財政の持続可能性を高めます」
参院選後の与党入りが確実視される国民民主党は、「国民民主党重点政策」の中で減税・ばらまき色の強い公約をうたっているが、増税に触れた箇所が二つあった。どちらも富裕層には課税するということだが、「法人課税・金融課税」という聞きなれない増税を容認するようだ。
調べてみると、法人課税は法人税のことを指しているようだ。なぜ、別の言葉に変えたのか不明だ。金融課税は、金融所得課税(株投資などで得た利益に課税)のことか、金融資産課税(貯金、国債などの持っている金融資産に課税)のことなのかが分からないが、いずれにしても金融に関する項目について課税をするようだ。
● 3党の公約から考える 実現可能性が高い「増税案」は?
以上、3党の増税に関する公約を並べたが、最大公約数を考えると、金融所得課税の強化がまず狙われるのは間違いがない。5月27日の衆院予算委員会で、岸田首相は金融所得課税の見直しについて「決して終わったわけではない」と述べていることも、その説の信ぴょう性を高めている。
次に、立憲が掲げていた炭素税についても、増税はすでに既定路線になりつつある。
岸田首相は20兆円規模の「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債(仮称)」の発行を表明している。そしてこの債券は、「炭素税による収入が入るまでの「つなぎ」の役割」(前出の政治部記者)とされているからだ。
国民民主が掲げる法人課税も動く可能性がある。これらの増税案は、野党も選挙で掲げた以上、法案に反対しないだろう。この三つの増税は、マーケットをますます冷え込ませ、日本経済を傷つける可能性が高い。
しかし一番の心配は、岸田首相の軽過ぎる言葉だろう。これまで、政策を掲げておいて動かないと言うことが繰り返されているからだ。消費税は触れないと言ったが、防衛費の大幅増額を理由に、「やっぱり上げざるを得ない」と判断する可能性は当然ある。
岸田首相が掲げる政策と維新の公約は、後になってコロコロ変わってしまうので、何一つ、信用できない。
岸田政権の参院選圧勝で、日本のプレゼンスはまた落ちていくことになりそうだ。
小倉健一
トランプ米大統領(当時:以下同じ)は2017年12月22日、レーガン政権以来約30年ぶりとなる抜本的な税制改革法案に署名し、同法は成立しました。減税規模は10年間で約1兆5000億ドル(約170兆円)。トランプ氏はホワイトハウスでの署名に際し、「歴史的」な減税だと意義を強調しました。
税制改革は、1月に発足したトランプ政権が実現させた初めての主要公約。柱となる法人税の税率は来年に現行の35%から21%に下がり、主要先進国では最低水準に近くなります。米国に進出する日本企業も減税のメリットを受けます。法案は20日に議会を通過していました。
トランプ大統領は記者団に、来年1月に大がかりな署名式を行う考えだったが「(年内成立の)約束を守らなかったと報道されたくないので、きょう署名する」と語りました。また、別の公約として掲げたインフラ投資は「最も簡単だ」と明言。税制改革後の政策課題に位置付け、超党派で実現すると表明しました。
政府機関閉鎖を回避する来年1月19日までのつなぎ予算案も署名され、成立しました。
ホワイトハウスの執務室で自らが署名し成立した税制改革法を掲げるトランプ米大統領2017年12月22日 |
さて、この大減税どうなったでしょうか。
連邦議会予算事務局の2022年5月の予測で、2017年の「トランプ減税」後10年で、政府の税収が2017年12月の税制改革法案の可決前に予測されていたより、増加する見込みであることが判明しました。減税―当時の政府の記録係たちは10年で1兆5千億ドルの負担になると話していた―は、左派の一部が信じるように仕向ける財政の悪夢のようなものにはなっていないようです。
3月にナンシー・ペロシ下院議長(民主党、カリフォルニア)は、2017年のトランプ減税を2兆ドルの「共和党税金詐欺」と呼びました。
バーニー・サンダース上院議員(無党派、バーモント)は、減税を支持しながら議会のやり放題な巨額支出に反対するのは偽善だとして共和党を非難しました。
バイデン政権ホワイトハウスは、「トランプ減税は10年で2兆ドルの赤字を付加した」と主張するプレスリリースを発表しました。
だが数字は別の物語を語っています。政治的な巧言にもかかわらず、税収は上がっているのです。
予測を2022年のドル相場に調整すると、減税前に政府は2018年から2027年の間の所得税、法人税、給与税の税収として40兆7千億ドルを見込んでいました。最新の予算予測では、同じ期間の税収として41兆3千億ドルを見込んでいます。1兆5千億ドルの税収減少どころか、最新の予測では税収が予想より5700億ドルの増加となることを示しているのです。
法人税減税についてはどうでしょうか?間違いなく法人税を35パーセントから21パーセントに減税したので、法人税収は劇的に減少したのでしょうか。
政府の予算の数字によるとそうではありません。
政府は現在、2018年から2027年までの間に3兆8千億ドルの法人税収を見込んでいます。減税前に予測していた3兆9千億ドルとほぼ等しいです。その上、税金は真空中には存在しないので―そして法人税改革はさらなる所得の増加を推進することで所得税と給与税が増加するので―法人税改革は採算が取れる可能性が高いです。
連邦議会予算事務局(CBO)は、単に減税前の予測で税収を少なく見積もっていたのでしょうか?
そうかもしれないです。ところが予算事務局は、歴史的に見て税収を過大に見積もることのほうが多かったとしています。政府の予測によると、「CBOの税収見積もりは、この数十年平均すると高すぎであり、景気停滞のタイミングと特質を予測するのが困難であることがおもな理由」であるとしています。
では、10年間にはパンデミック関連の世界的な活動停止が含まれることを考慮すると、なぜ予測された税収の低下が起きなかったのでしょうか?予算事務局の予測は、税収の「説明のつかない強さ」に対して少なくとも5つの点を引き合いに出しています。
経済学者のタイラー・グッドスピードとケビン・ハセットによると、2017年の減税以後、設備投資は減税前に比べて9.4パーセント上昇しました。企業にとって実際の投資は14.2パーセント増加しました。同様に2021年のヘリテージ財団報告書によると、投資と賃金の劇的な上昇が減税後に起きたことが分かりましたた。投資増加を引き起こした重要な要素は、オフショアではなく米国市場に再投資することを選択した多国籍企業でした。
【日本の解き方】日本の賃金はなぜ上がらない? 原因は「生産性」や「非正規」でなく、ここ30年のマネーの伸び率だ!!―【私の論評】日本人の賃金が低いのはすべて日銀だけのせい、他は関係ない(゚д゚)!
立民が主張する「金利引き上げ論」 実施すれば失業率上昇、円高進みGDPが減少 安保は「お花畑論」経済政策も真逆…的外れの野党―【私の論評】参院選では自民が勝利するが、その後には積極財政派に転向するよう緊縮派議員に丁寧に陳情しよう(゚д゚)!