2022年12月6日火曜日

台湾、公的機関でのTikTok使用を禁止=国家安全保障上の懸念で―【私の論評】中華アプリの使用は「自己責任」でどうぞ(゚д゚)!

台湾、公的機関でのTikTok使用を禁止=国家安全保障上の懸念で


中国の動画投稿アプリ「TikTok」に対して国家安全保障上の懸念が指摘される中、数位発展部(デジタル発展省)の官僚は5日、台湾では公的機関の情報通信設備や管轄区域でのTikTokや中国の写真投稿アプリ「小紅書」のダウンロード・使用を禁止していると明らかにした。

行政院(内閣)は2019年5月、各機関を対象に、サイバー分野の国家安全保障に危害を与える企業の製品の使用を禁止する規則を公布した。使用を禁止されたアプリにはTikTokや小紅書の他、TikTokの中国版「抖音」などが含まれている。同部の官僚は中央社の取材に対し、これらのアプリは以前から公的機関での使用を禁じられていると説明した。

官僚は、企業に対してこれらのアプリの提供を制限するべきかとの問題については、適法性や実施可能性などの影響要因評価に関わるため、関連部会(省庁)と連携して他国のやり方を参考に検討していくと語った。

【私の論評】中華アプリの使用は「自己責任」でどうぞ(゚д゚)!

TikTokの危険性については以前から言われていました。にもかかわらず、日本でも台湾においてさえも使われていたのです。上の記事にもあるように、台湾は、公的機関での、TikTok使用を禁止しました。

日本においては、デジタル庁が、米政府から安全保障上の懸念を指摘されてるTikTokと連携して、マイナンバー制度の普及啓発を目的としたショートムービーを9月8日から公開しています。


政府は、我が国の安全保障そっちのけで、若者に媚びてマイナンバーの普及のために、TikTokを活用しています。これは、日本におけるTikTokの普及に貢献しているともいえます。あまりに、危機意識が低すぎるといえます。

米国においては、ドナルド・トランプ前大統領が、とりわけ若者のユーザーに人気のソーシャルメディア・アプリ、TikTok(ティックトック)について国家安全保障上の問題を提起してから数年経った今、FBIは同アプリが、「我々の(米国の)価値観を共有していない」中国政府の利益になる活動をしていることを認めました。結局トランプ前大統領が正しかったことを認めたのです。


米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は15日、バイトダンス(字節跳動)が運営する動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」について、FBIに以前からある国家安全保障上の懸念をあらためて表明しました。また、米国内の運営継続を可能にする取引を審査している当局者と見解は一致していると述べました。

米下院国土安全保障委員会で証言したレイ長官は、数百万人に上るユーザーのデータやソフトウエアを管理する目的で中国政府がこのアプリを利用する恐れがあり、 ユーザーが次にどの動画を視聴するかを決める推薦アルゴリズムは、「中国政府が影響力作戦を選択した場合に利用されかねない」と述べました。

「簡潔に言えば、中国の法律では中国企業は基本的に、情報共有や政府の手段になるという点で政府の要望を果たす義務がある」とした上で、「主にそれが理由で極めて懸念される」としました。

FBIはこうした問題を審査している対米外国投資委員会(CFIUS)に懸念を伝えました。

ティックトックの広報担当ブルック・オバーウェッター氏は「レイ長官が指摘したように、FBIの見解は米政府との間で進められている交渉の一部で考慮されつつある」とした上で、「機密協議の詳細について語ることはできないが、米安全保障上のあらゆる妥当な懸念に全面的に対応する方向にあると自信を持っている」とコメントしました。

TikTokがユーザーの入力している内容を盗み取っているとも指摘されていたことがあります。

TikTokがユーザーの入力している内容を盗み取っている

TikTokに限らず、いわゆる中華アプリに関しては、知っておくべきことがあります。

2017 年 6 月 27 日、中国においては、国の情報活動の基本方針、実施体制、情報機関の職権、法的責任等 について定める国家情報法が制定され、同年 6 月 28 日から施行させ、中国の企業や個人に北京の命令があれば情報収集することを義務づけました。

これにより、中華アプリの開発企業すべてに対して、中国は政府は中華アプリ開発会社の経営陣の意思とは関係なく、従業員にアクセスすることを要求できるのです。


ましてや、中国政府は、TikTokの親会社であるByteDanceの出資者でもあります。その結果、中国政府は、米国人のユーザーデータがどこに保存されているかにかかわらず、中国にいるTikTokの従業員にアクセスを要求することができるのです。

TikTokは、閲覧履歴、地理データ、ファイナンシャルデータ、電話番号、連絡先、クリップボードデータ、生体データ、ドラフトのビデオなどをことごとく飲み込んでいます。


そもそも、中国の技術には、データへの不正アクセスを可能にするバックドアが仕込まれているという指摘は、TikTokが雇った外部監査人からもなされています。

このデータは人工知能(AI)技術を用いて集約され、ユーザーを情報操作や脅迫にさらせる高度なプロフィールが作成できるのです。たとえば、自分の代わりに不正な税の申告が行われることを想像してみてください。中国共産党は、いざとなったら躊躇しません。

TikTokなどの中華アプリを使う人は、このような危機にさらされていることを忘れるべきではありません。いざというときには、中共によって何をされるかわかったものではありません。日本政府のこれに対する危機意識は上で述べたように、かなり低く、現状では、中華アプリの使用は「自己責任でどうぞ」というしかありません。

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2022年12月5日月曜日

防衛費増額の財源に、ついに「埋蔵金」活用か…財務省の「増税悪あがき」の行方―【私の論評】防衛費は当面国債で歳出カットで対応と新聞報道されれば、財務省勝利!逆転には岸田退陣でまともな政権が必要(゚д゚)!

防衛費増額の財源に、ついに「埋蔵金」活用か…財務省の「増税悪あがき」の行方



もともとは「防衛国債」が有力

 政府は防衛費増額について、2023年度の一時的な財源確保策として、新型コロナ対策で厚労省所管の独立行政法人に積み上がった剰余金や外国為替介入に備えて管理している特別会計の剰余金の転用案の活用が浮上したと報じられている。

 一方で安定財源として増税策も年末に向け議論し、赤字国債の一種である「つなぎ国債」で、増税実施までの財源不足を穴埋めすることを視野に入れると報じられている。

 この問題の経緯をまとめておこう。今年2月に、ロシアによるウクライナ侵攻があり、世界情勢が緊迫した。一方、中国の習近平体制は台湾統一を公言しており、場合によっては武力行使の可能性も排除していない。

 台湾有事となれば、日本有事になる。自民党内の保守勢力から日本の防衛力強化が主張され、7月の参院選で自民党は「5年以内でGDP比2%」を公約とした。ただし、そのときには財源論はなかった。安倍元首相が主張していた「防衛国債」が有力視されていたからだ。

 ところが安倍元首相が暗殺されると、財務省は官邸に有識者会議を作った。そこで財源問題が議論され、増税の方向性が出されている。

 そこで、来2023年度予算にも防衛費増額の方向性が出てくるので、冒頭のように岸田政権は11月29日、23年度予算への検討を始めた。

さすがに財務省も抵抗できなくなった

 予算作りの一般論として、新規予算があるときには、(1)他の歳出カット、(2)建設国債対象、(3)その他収入(埋蔵金)、(4)自然増収、(5)増税で対応する必要がある。

 検討される順番は、それぞれの番号通りだ。

 (1)は言うは易く行うは難し。カットされる省庁の反発が強いし財源として巨額なものは出にくい。

 (2)の建設国債対象経費にできれば、有力な選択肢だ。これは、安倍元首相が生前に主張していた「防衛国債」である。財政法第4条第1項ただし書きでは、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については国債発行を認めている。一般会計予算総則で海上保安庁の船舶建造費が公共事業費として認められているので、海上保安庁の巡視船は建設国債で作られている。

 同じように防衛省予算を一般会計予算総則で規定するというのも有力案だ。実は、かつて人工衛星も建設国債の対象経費だった。人工衛星は衛星を打ち上げるのはロケットだが、爆弾を乗せればミサイルだ。この前例を踏襲すれば、ミサイルを国債発行対象経費とするのも、できない話ではない。

 (3)その他収入増というのが、筆者がかねてから主張していた埋蔵金である。特に外為特会(外国為替資金特別会計)では円安による儲け「評価益」があるのでこれを使わない手はない。

 筆者のところに多くの与野党議員が問い合わせて来たので、これまでの小泉政権以来の経緯、その際財務省の問題となっていた法解釈などを忌憚なく話をさせてもらった。そして、本コラムでもそれらを公開してきた。

 いくら岸田首相に否定させたところで、さすがに財務省も抵抗できなくなったのだろう。とうとう検討せざるを得なくなった。

すべては岸田首相にかかっている

 ただし、狡猾な財務省はダメージコントロールも上手く、最小限度のダメージに止めるだろう。各紙の報道では、外為特会「剰余金」や外為特会「余剰金」などと書かれている。会計知識のあやふやなマスコミなので仕方ないが、どのような概念であり、筆者のいうところの「評価益」とは違う。

 今の為替水準だと、少なくともとも30兆円程度の「評価益」があるが、剰余金だと、財務省が会計操作を行った後であるので、評価益そのものが剰余金になるわけではない。いずれにしても、筆者から見れば少なくとも30兆円くらい捻出できるが、複数年でその半分くらいになれば御の字だろう。

 (4)自然増収は、もっとも真っ当な方法だ。来年度を見れば、円安でGDP増なので、法人税、所得税はかなり増収になる。その後も経済成長すれは、名目成長を4%程度にできれば、その自然増収で防衛費増をかなり賄える。もっとも、財務省は成長はあてにならないとこの議論には乗らないだろう。

 (2)と組み合わせれば、建設国債の償還年数は60年なので、今の防衛費増に対して、自然増収が0.1兆円程度あれば十分なので、(2)ができるのならば、増税を考える必要はない。

 (5)増税は、最後の手だが、財務省はこれが本命だ。いきなり増税とはせずに、「つなぎ国債」で当面泳いで、特別会計を設置するなどして増税に結びつけるのが、財務省の戦略だろう。東日本大震災のときに、復興費用を復興増税に持っていたときのやりかただ。

 いずれにしても、実質的に(2)建設国債対象、(3)その他収入(埋蔵金)がポイントで、当面これで決着が付けば、(5)増税とは政治的にはならない。かつて小泉政権の時、埋蔵金が多額にあったので、小泉首相は自分の在任期間中は増税しないと言わざるを得なかった。

 いま、サッカーワールドカップで国民は盛り上がっているが、それにたとえると、(2)は右サイドからの攻めであり、(3)は左サイドからの攻めだ。ただし、財務省からは強烈なディフェンスがあり、これら(2)と(3)をできるかぎり少額にして、(5)に持っていこうとしている。

 いずれにしても防衛費増額は2023年度予算で方向性を出す必要があり、年末の予算編成の重要事項だ。支持率が低下して政権運営がままならない岸田政権はどのような道筋を描けるか。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】防衛費は当面国債で歳出カットで対応と新聞報道されれば、財務省勝利!逆転には岸田退陣でまともな政権が必要(゚д゚)!

以前にもこのブログの記事で主張したように、防衛費に関して、岸田首相は、財務省や財務大臣の意向を聞きすぎているように思われます。財務省が防衛費の増額に反対するのは当たり前です。そのようなことはわかりきっているので、英国では戦争中の戦略会議などには、財務大臣は出席させないそうです。


現在日本は戦争中ではありませんが、それにしても今年は年末までに防衛三文書の書き換えを行う時期であり、岸田総理は、財務省などの防衛費に関する主張などは、話半分に聞いて留めるべきです。そうでないと、判断を誤ります。

財務相や現在の官邸サイドは、防衛費増を増税の方向に持っていこうとしているようです。

有識者会議などでも増税の話ばかりが出てきて、具体的には東日本大震災の復興増税のようなスキームでどうか、というような話も出ています。

ただ、この有識者会議は内閣官房の有識者会議です。内閣官房は、間違いなく財務省の仕切りです。財務省のひも付きの有識者会議であることは、政府・与党のなかではわかってしまっています。

特に大反発しているのは自民党サイドで、増税など容認できるわけがないということでまとまっています。防衛3文書の議論と税制改正の議論が並行して進んでいたので、官邸が増税というところで結論付けてしまい、自民党税調に回されてしまえば、自民党税調の宮沢洋一会長は財務省のひも付きですから、そこで増税を決められてしまうのではないかという相当な危機感があったようです。


税調は、反対しそうなところの議論を迂回し、増税に賛成するところばかりに諮り、「皆さんに諮りました」という形に増税を強力に推進していこうというのが見え見えでしたから、自民党が怒るのも当然です。

増税の議論は、政権や首相に相当なパワーがなければ党内の反対を押さえつけられませんし、世論の協力も得られません。ここに関して言えば、岸田政権が弱体化していて良かったかもしれません。

ただ、不思議なのは、このような重要なことが報道で出てこないのでしょうか。特に新聞では、自民党のなかでかなり激しい議論が行われていることがほとんど報道されません。8%税率で軽減税率の恩恵を受けているというのが原因かもしれませんが、こういう議論が封印されているのは異常です。

増税に関しては、与党からも反対の話が出ていますし、野党も国民民主党などはいろいろな形で提言しています。そういうことも大きくは扱われません。政局絡みで「国民民主党が連立に入るのか」などという話ばかりが伝えられています。

この狙いは、野党の分断にあるのかもしれません。国民民主党の玉木代表は密室政治を否定しており、国対政治の否定論者なのです。国対政治とは、日本の国会において与野党の国会対策委員長同士が本来の議論の場である国会の本会議や委員会(理事会を含む)をさしおいて、円滑な国会運営を図る為に裏面での話し合いを行って国会運営の実権を握る事をさす言葉です。

それにもかかわらず密室に集ってこれが行われています。国対においての話し合いです、議事録が残りませんん。それをいいことに与野党が馴れ合い、そこでいろいろなことを決めていくのです。

内閣支持率が下がり、求心力がなくなってくると、すぐに連立組み替えのような話が出てくるものです。自民党は非常にしたたかな政党で、連立を組んだ相手をどんどん吸収していき、それによって延命を図ることを得意技としてきた政党です。現状でも、そういうことも考えているのかもしれません。

ただ、確かに国民民主党は、予算案や補正予算案には賛成しましたが、これは是々非々の形の表れだと考えるべきではないでしょうか。ただし、国民民主は、補正予算や被害者救済法で賛成なのですでに「与党」ともいえなくないです。

代表の玉木氏も私から見るとなぜ民主党に入ったのか不思議なくらいでした。岸田政権としても、公明党だけより牽制ができることから、国民民主の与党入りは願ったり叶ったりではないかと思います。


財源についてもオープンな形で国会で議論が出てくれば、そしてそれが報道されればと思います。しかし、なかなかそうなりません。それこそ敵基地攻撃能力なども、必要最小限という文言でいいのかどうか、もっと検討すべきです。維新の青柳議員などは質問に立っていたのですけれども、あまり報じられませんでした。

元々日本維新の会や国民民主党などは、何でも与党に反対ということではなく、是々非々の政党です。立憲民主党などの、何でも反対しているわりには国対政治を用いて密室で物事を決めていくという不透明な政治よりも、オープンな場で議論していくことが必要です。

現在はっきりしているのは、防衛費は当面国債で歳出カットで対応という新聞報道がされれば、建設国債と埋蔵金を封じた財務省が増税含みのつなぎ赤字国債で前半1点リードとみて良いでしょう。これを逆転するには岸田首相退陣でまともな政権が必要となるでしょう。

当然、財務省に屈した、岸田総理に多数の自民党議員は激怒し、政局が大きく動くことになります。増税以外で決着すれば、自民党保守派の勝ちで、政局は動かない可能性が高いです。防衛増税は、それだけ、自民党の保守派の怒りを買ったのは間違いないです。

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2022年12月4日日曜日

スイス、ロシアの金融資産1兆円超を凍結―【私の論評】ロシア凍結資産のウクライナ復興への活用は、新たな国際的枠組みの中で考えるべき(゚д゚)!

スイス、ロシアの金融資産1兆円超を凍結

スイスの経済省経済事務局(SECO)

スイスの経済省経済事務局(SECO)は1日、先月25日時点でロシアの金融資産78億9000万ドル(約1兆700億円)を凍結したと発表した。

SECOは1日付の報道発表によると、金融資産のほか、制裁対象のロシア人がスイスに所有する不動産15物件が差し押さえられた。

ロシア人が所有する総額485億ドルがSECOの調査対象になっているという。

スイスではロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、連邦会議(内閣に相当)が中立の伝統を破り、欧州連合(EU)の対ロシア制裁を採択した。

また、「防衛力」強化のため、スイスは北大西洋条約機構(NATO)やEUとのより緊密な関係を模索する方針を明らかにしている。

【私の論評】ロシア凍結資産のウクライナ復興への活用は、新たな国際的枠組みの中で考えるべき(゚д゚)!

スイスのカシス大統領兼外相

スイスのカシス大統領兼外相は記者会見で、7月同国ルガノで開かれた「ウクライナ復興会議」でウクライナのシュミハリ首相が各国に、凍結しているロシア新興財閥らの資産の没収とウクライナ復興への利用を求めたことについて、問題への対処にはバランスが必要だとの冷ややかな反応を示していました。

復興会議はロシアの侵攻で甚大な社会・経済的被害を受けたウクライナを支援するため各国が参集。シュミハリ氏は会議終了後の記者会見で、米国や欧州連合(EU)や英国が凍結した総額3000億─5000億ドルの資産はウクライナの破壊された学校や病院や住宅の再建資金に充てることができるはずだと主張しました。

これに対してカシス氏は「大部分の民主主義国家のルールに従えば、われわれは資産の出どころを明らかにするための資産凍結はできる」と発言。ただ、資産とウクライナ情勢との関係が不透明な場合や、取るべき措置のバランスの問題などをスイスとしては解決しないといけないと距離を置く姿勢をにじませました。ちなみに、スイスはEU非加盟国です。

また、"「所有権、財産権は基本的権利、人権」であり、適切な法的基礎が作られた場合(例えば、第一次大戦で敗北したドイツに膨大な金額の賠償を貸す条約をドイツが受け入れたケースや1951年の対日平和条約)にのみ侵害が許されるというのは、国際的に確立した原則です。条約法条約も「条約は、第三国の義務又は権利を当該第三国の同意なしに創設することはない」(第34条)と定めています"とも発言しています。

永世中立国のスイスは、EUの対ロシア制裁に同調。5月には国内に凍結したロシア資産が63億フラン(65億ドル)あることを報告しています。ただ、この自動的な接収には抵抗。スイスはロシアのエリート層に以前から人気の土地で、ロシア富裕層の資産の置き場所にもなってきました。

このスイスが、金融資産78億9000万ドル(約1兆700億円)を凍結したのです。これは、累計なのでしょうが、かなりの額になります。5月から、さら13億ドル多く凍結したことになります。

ブリンケン米国務長官は4月末に、バイデン政権がアメリカ国内で凍結しているロシア政府資産をウクライナ再建に向けるという選択肢を検討していると発言しました。

また欧州連合外務・安全保障政策上級代表ボレル氏はフィナンシャル・タイムズとのインタビューの中で、タリバンがアフガニスタンを支配した後、アメリカがアフガニスタン中央銀行資産について行ったことをEUも(ロシア凍結資産について)行うことは論理的なことだと主張し、ロシアがウクライナ侵略に対する「戦争賠償」として、ロシア凍結資産を充てることを肯定しました(5月9日)。

欧州連合外務・安全保障政策上級代表ボレル氏

カナダでは5月下旬、ロシアの凍結資産の「没収」を可能にする法案を成立させており、フリーランド副首相兼財務相は、「我々の法的権限を拡大することは非常に重要だ。なぜならウクライナを再建する資金を見つけることが大事だからだ。ロシアの資産の没収こそが考えられる最も適切な財源だ」と述べています。

この問題はG7首脳会議でも議論され、カナダで法案が成立したのを受けて他の国でも法整備の動きが広がるかが焦点でしたが、共同声明では「国内法に合致してロシアの凍結資産をどう活用するかを含め、復興支援の選択肢を模索する」という慎重な言い回しとなりました。

これはG7の間で考え方に違いがあることが、その背景にあると見られていますが、辞任した英国のトラス首相が外相時代に「英国政府はこの恐ろしい戦争に関わった人たちの資産を没収するための法整備を検討している。ウクライナ再建のために極めて重要だ」と発言し、カナダに続いて法整備に前向きな考えを示しました。ただ、その後英国ではこの法整備はされていません。

カナダ トルドー首相

欧州連合(EU)欧州委員会は11月30日、ウクライナ侵攻に伴う制裁で凍結したロシアの資産を没収する計画を提案したと表明しました。

フォンデアライエン委員長は「われわれはロシア中央銀行の準備金3000億ユーロを阻止し、ロシアの新興財閥の資金190億ユーロを凍結した」との声明を発表。短期的にはEUとパートナーが凍結資金を管理し、投資することが可能であり、収益金はウクライナに供与し、国内の損害賠償に充てると説明しました。

委員長は「これを可能にするため、パートナーとの国際合意に向けた作業を進める。実現に向けて法的な手段をともに模索する」と述べました。

凍結した資産を「没収」して「売却」し、その資金を復興資金にあてる案には多くの賛成意見がある一方で、強権的に所有者が変更されるため、国際法上認められない恐れもあるという否定的な意見も根強いです。

ロシア政府の報復措置も予想される中、G7や欧米が足並みを揃えた行動に出られるのかが課題となっています。日本も無論、ロシアの資産を凍結していますが、ただ、それをウクライナ復興に転用すべきなどの発言はしていません。

この問題に関しては、国際的な枠組みを作った上で、慎重に議論していくべきでしょう。確かにロシアのウクライナ侵攻自体は、いかなる理由があれ、許されるものではありませんが、それにしても、凍結資産をウクライナ復興に転用してしまえば、第一次大戦で敗北したドイツに膨大な金額の賠償が、ドイツに暗い影を落とし、それが第二次世界大戦の誘因の一つにもなったことを考えると、慎重にならざるを得ないです。

ただ、これはロシアに与するものではありません。ラブロフが語った、凍結資産を西側諸国がウクライナ復興にあてることを「盗人」と語っていましたが、ではロシアによるクリミア併合こそ、「盗人猛々しい」と言わざるを得ません。さらに、ウクライナに侵攻したのですから、ロシアの現政権がこのようなことを語る資格などないです。

ただ、いずれロシアやウクライナの代表を含めた、国際的枠組を構築して、この問題を検討すべきと思います。

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2022年12月3日土曜日

米空軍 核兵器搭載できる新型爆撃機公開 “中国けん制の中核”―【私の論評】米国の抑止の拡大は、さらに中露北の脅威に(゚д゚)!

米空軍 核兵器搭載できる新型爆撃機公開 “中国けん制の中核”


アメリカ空軍などは核兵器を搭載可能な新型の戦略爆撃機を公開し、核戦力の増強を続ける中国を念頭に抑止力を高めるねらいがあるとみられます。

アメリカ西部・カリフォルニア州で2日、戦略爆撃機B21の機体が公開されました。

戦略爆撃機B21を開発したのは、すでに実戦配備されているステルス戦略爆撃機B2を製造した企業です。

この企業によりますと新たな爆撃機は核兵器も搭載することができ、高性能なレーダーでも捉えられにくい次世代のステルス技術を備えるほか、無人での飛行なども可能になるということです。

式典でオースティン国防長官はアメリカ軍が新たな戦略爆撃機を導入するのは30年以上ぶりだとしたうえで「抑止力を強化し、維持することはわれわれの防衛戦略の中心だ」と述べました。

バイデン政権は中国が核戦力の増強を続けているとして警戒を強めていて、核戦力の近代化を進める方針を維持しています。

アメリカ空軍は新たな爆撃機について2020年代半ばの実戦配備を目指し、少なくとも100機保有するとしていて、アメリカのメディアは「中国をけん制するアメリカの取り組みの中核を担うものだ」と伝えています。

【私の論評】新型戦略爆撃による米国の拡大抑止は、さらに中露北の脅威に(゚д゚)!

B21は、21世紀に入ってから初めて登場した爆撃機であり、高いステルス性能と高度なネットワーク能力、オープンアーキテクチャを有しているのが特徴です。アメリカ空軍の計画では、将来的には非ステルス型のB-52と 最新のB-21の2機種で爆撃機部隊のバックボーンを形成するとしています。

なお、愛称の「レイダー(Raider)」は、第2次世界大戦中の1942(昭和17)年4月に日本本土への初空襲、いわゆる「ドーリットル空襲」を行った「ドーリットル爆撃隊(Doolittle Raids)」にちなんだものだといいます。

日本本土を初めて爆撃したドーリットル爆撃隊
式典にはオースティン国防長官やクリストファー・グレイディ統合参謀本部副議長も列席しており、初飛行は2023年5月を予定、すでに6機のB-21がパームデールで最終組み立ての段階にあるそうです。

米国ではB21導入に対する期待が大きいようです。老朽化が深刻な既存の爆撃機を置き換えるだけでなく、戦略的な効率性、予算節減効果まで狙えるためです。

実際に1980年代から生産したB1の場合、昨年9月までに17機を退役させ現在45機を運用中です。1993年に米国とロシアが結んだ第2次戦略兵器削減条約(START2)に基づきB1は核兵器を搭載できません。その上ステルス性能も備えていません。

米空軍はステルス戦略爆撃機のB2を1990年代後半から20機ほどだけ導入しました。冷戦が終わり追加生産をしなかったためです。結局開発費用を合わせた量産費用は雪だるま式に増え1機当たり20億ドルに迫りました。30年前に開発された旧型ステルス機のためメンテナンス費用も少なくないというのが専門家らの評価です。

B21は外見はB2と似た全翼機です。ノースロップ・グラマンが両機種ともに開発しました。

B21は、B2より機体が小さく、武装搭載量は半分の約13.5トン水準です。専門家らは機体が小さくなった分だけステルス性能に優れ運用がさらに効率的だと予想しています。

精密誘導爆撃が可能な各種スマート爆弾を搭載するためであえて武装搭載量に執着する必要もなくなったのです。武装搭載量は減ったのですが、地下施設を破壊する超大型在来式爆弾である「スーパーバンカーバスター」も1発搭載できます。

バンカーバスターとは、地面に突入して地中で炸裂する地中貫通爆弾の総称です。その中でも、スーパーバンカーバスターはかなり強力です。(下図参照)


習近平、プーチン、金正恩ともに、戦時になれば、地下壕に避難して、そこから指揮をとるでしょうが、スーパーバンカーバスターは、それを破壊して、避難している指導層と、その取り巻き全員と、コミュニケーション手段を根こそぎ破壊してしまいます。

いざとなれば、ステルス性の高い、米軍B21が自国の防空網をくぐり抜けて、自分の頭の真上に飛来して、スーパーパンカーバスターをお見舞いされれば、確実に殺されます。この可能性は否定できません。これは、彼らにとって、精神衛生上あまり良いことはないでしょう。

無論このミサイルは、既存のB1、B2、B52などにも搭載できます。北朝鮮の防空システムは、60年代のものであり、米国の爆撃機の侵入を防ぐ能力はありません。

金正恩など、ミサイルを発射するたびに、これで攻撃されるのではと、そこはかとない恐怖に見舞われていると思います。米軍としても、北朝鮮があまりに無茶なことをすれば、本当にこれを実行する腹積もりでいるでしょう。

B21の導入によって、その恐怖はさらに深まるわけです。これは、習近平やプーチンにとっても他人事ではないでしょう。

B21は戦術核だけでなく現在開発最終段階である極超音速ミサイル(AGM-183A ARRW)を搭載するものとみられます。このミサイルはマッハ5以上の速度で飛んで行きますが、射程距離が1600キロメートルに達します。

米空軍は、2022年5月16日、戦略爆撃機「B-52H」からの極超音速ミサイル「AGM-183A(写真下)」空中発射型即応兵器(ARRW)発射に成功したと発表しました。2022年5月14日に実施された試射で、ARRWは爆撃機から投下された後に、点火されたブースターが想定時間どおり燃焼し続け、その速度はマッハ5以上に達しました。


100機以上を生産し1機当たりの導入価格が下がり5億5000万ドル水準と予想されています。

B21戦力化がある程度進めば韓半島への展開だけでなく場合によって暫定的または循環配備も可能になるでしょう。中国、ロシア、北朝鮮にとっては、ステルス性能がないB1、B52爆撃機よりはるかに脅威です。

中露には、新たな戦略爆撃機の開発計画はなく、米国がこれを随時展開すれば米国の抑止の拡大は、彼らにとってさらに大きな脅威になります。

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2022年12月2日金曜日

中国「白紙革命」の行方―【私の論評】バラバラだった中国国民にはじめて共通の念が生まれた。それは、中共に対する恐怖と憎悪(゚д゚)!

中国「白紙革命」の行方


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・彭載舟が10月30日「PCR検査は不要、習近平を罷免せよ」等のスローガンを掲げ、「北京四通橋横断幕事件」を起こした。

・習近平政権のロックダウンやPCR検査に対し、学生達は白紙を掲げて抗議の意志を示した。

・習近平政権が「第2次天安門事件」を起こせば、米国を中心とする世界が中国に対する制裁が更に厳しくなるのではないか。


周知の如く、今年(2022年)10月13日、突如、彭載舟による「北京四通橋横断幕事件」が起きている。中国共産党第20回全国代表大会開催3日前だった。

彭載舟の掲げた内容こそ、たぶん“民意”を代表していたのではないだろうか。第20回党大会では、習近平主席の「第3期目続投」が決定し、“民意”とは逆の結果となった。

彭載舟は裁判にかけられ、死刑になると思われた。けれども、裁判所で審議する際、判事・検事らが、彭の罪状として彼が「国賊、習近平を罷免せよ」と抗議したなどと言えるはずがない。そのためか、彭載舟は精神病院送りになる可能性が高い(a)という。

これで「北京四通橋横断幕事件」は一件落着、そして、事件は“風化”するかと思われた。しかし、同事件はSNSで拡散されていたのである。

さて、11月24日、新疆ウイグル自治区ウルムチ市の高層マンション15階から出火した。火は17階まで昇り、煙は21階まで上がった。

消防車がマンション付近へやって来た。ところが、当地では、厳格な「ゼロコロナ政策」が実施されていたので、約2時間も消火活動が遅れている。そのため、10人が死亡、9人が負傷した。だが、怪我人らが救急車で運ばれた病院の当直の医師の話では、死者は44人もいた(b)という。

ウルムチ市の火災を契機に、同市、北京市、上海市、南京市、広州市、武漢市等で、まず学生が立ち上がった。そこに、市民らが加わったのである。

習近平政権は、約3年近くも、厳しいロックダウンやPCR検査を行い、人民の自由を奪って来た。そこで、学生達は(A4の)白紙を掲げて、抗議の意志を示した。

彭載舟の命を賭けたパフォーマンス(「PCR検査は不要、習近平を罷免せよ」等のスローガン)は、人々に知れ渡っていたのである。抗議者が「白紙」を掲げるだけで彭の主張は十分伝わった。他方、警察当局は「白紙」を掲げただけの学生らを起訴するのが難しかったのである(c)。

実は、各地の集会で、学生や市民らが「共産党退陣」や「習近平退陣」を連呼した。おそらく、1989年の「民主化運動」以来、このような共産党トップの辞任要求はなかったのではないか。

デモ隊らの習近平主席の退陣要求は理解できる。しかし、万が一、共産党が「退陣」した場合、一体どうなるのか。

よく知られているように、中国は普通の民主主義国家とは異なり、共産党に代わる合法的野党が存在しない。中国民主党という非合法な政党が、地下に潜伏している。だが、同党が突然、現れても政権を担当できるとも思えない。

一方、共産党の8友党が共産党に代わって政権を担えるだろうか。所詮、弱小翼賛政党である。したがって、それも極めて考えにくい。

だとしたら、やはり人民解放軍が全面的に表に出て、軍事政権を樹立するのではないか。あるいは、清末民初のように、軍閥が跋扈する公算が大きい。

ところで、武漢市の抗議デモでは、警察、あるいは武装警察がデモ隊を蹴散らすため、発砲した(d)疑いが持たれている。

また、上海市では、すでにデモ鎮圧用車両が用意されている(e)という。明らかに、習近平政権は、人民弾圧の準備を始めたようである。

元来、習近平政権は、人民を徹底的に抑圧して管理するのをモットーとしている。「ゼロコロナ政策」もその一環である。だから、これ以上、各地でデモが激しくなれば「第2次天安門事件」(武力による人民の弾圧)が起こる可能性を排除できないだろう。

実際、習近平政策は、すでにこれを香港で行って来ている。けれども、仮に、習近平政権が「第2次天安門事件」を起こせば、米国(f)を中心とする世界(g)が中国に対する制裁が更に厳しくなるのではないか。すでに、中国経済はかなり悪化している。近い将来、経済破綻を起こしてもおかしくないだろう。

ただ、中国の政治的経済的混乱は、世界へ与えるインパクトが大きい。したがって、中国の「ソフトランディング」を期待したいのは我々だけではないだろう。

〔注〕

(a)『万維ビデオ』「勇士・彭立発の消息あり」(2022年11月12日付)

(https://video.creaders.net/2022/11/12/2546200.html)

(b)『中国瞭望』「新疆ウイグル自治区の火災、ネットでは死者44人と噂される 民衆が政府庁舎を取り囲み、市党書記を罵倒する」(2022年11月25日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/25/2550784.html)

(c)『中国瞭望』「『白紙革命』に参加しても罪は問えない?ネットが武装警察拘束の詳細を暴露」(2022年11月28日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/28/2551677.html)

(d)『中国瞭望』「武漢、銃声を聞いて驚く! 民衆はパニックになって逃げ出す…。」(2022年11月27日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/27/2551361.html)

(e)『中国瞭望』「当局に『大きな動き』? 上海市街中に暴動鎮圧用車両が出現」(2022年11月27日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/27/2551383.html)

(f)『中国瞭望』「中国での抗議行動発生を受け、ホワイトハウスが声明を発表」(2022年11月28日付)

(https://news.creaders.net/us/2022/11/28/2551608.html)

(g)『中国瞭望』「白紙革命は瞬く間に世界に伝わる 国連人権機関が声を上げる」(2022年11月28日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/28/2551587.html)

トップ写真:ゼロコロナ政策への抗議を行う民衆(2022年11月28日 中国・北京) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images

【私の論評】バラバラだった中国国民にはじめて共通の念が生まれた。それは、中共に対する恐怖と憎悪(゚д゚)!

彭載舟とされる人物の写真

中国のゼロコロナ政策は、中国共産党が人間を家畜なみに扱い、封じ込めることによって、感染を封じ込めようとしたことが、国民の大きな反感を招いたというのが、真相だと思います。

これに対する反感と憎悪は、社会階層を越え地域を越えて、元々は人工的に無理やりにつくられた中国という国の多くの中国国民が初めて共感できた共有の念かもしれません。

中国とは言っても、地方地方によって、民族も違えば、言葉も違ったり、生活習慣や風俗や物の考え方がや価値観が違っており、これまでは、中国共産党が共産党の理念で中国を一つにまとめようと思っても、なかなかうまくはいきませんでした。それが、今回ゼロコロナ政策の失敗で、中国人に共通の念が生まれたというのですから、皮肉です。

そもそも、中国という国には、普通の国民国家にみられる全国民共通の歴史上の英雄というものが存在しません。無論、豪傑や、知恵に優れた人は存在してはいて、尊敬を集めてはいましたが、特に現在の中国を一つにまとめるという意味での英雄や大人物は存在しません。

無論毛沢東を建国の父として、英雄化する試みはありましたが、これもかなり無理があります。なぜなら、毛沢東は大躍進政策の失敗で結果として、想像を絶するほどの人々を死に追いやっているからです。中国人のうち、親戚の誰かや知人の誰かがこの犠牲になっていない人はほとんどいないでしょう。

だから、本当の意味で毛沢東は、国民国家の英雄とはなり得ないのです。そのためもあってか、鄧小平は鄭和を英雄にしようとしました。習近平もこれを、一帯一路に結びつけて、持ち上げようとしました。

鄭和の像

鄭和は約600年前の明の永楽帝の時代、大艦隊を率いて七回のインド洋を横断し何度かは遠くアフリカ東海岸に至る大航海を行いました。彼の艦隊の航路とその寄港地は、東南アジア、インド亜大陸、中東、アフリカ諸国といった現在の中国の経済投資国や外交上の友好国家とも一
致します。

そこには、経済力で圧倒しつつ政治的プレゼンスを強め、同時に文化的ソフトパワーで世界を席捲したい中国が、鄭和という歴史的人物とその業績を利用したいという意図も透けて見えます。

ただ、鄭和は宦官であり、少数民族出身者であり、イスラム教徒でもありました。これを中国統一の統合の象徴にしたり、一帯一路の思想的背景にするには相当無理があります。

国民国家には、その要となる英雄や大人物が必要です。その役割は、日本では天皇が担っています。天皇の他にも日本では、様々な英雄や人物が存在します。他国にも、現在の国民国家の統合の象徴としての英雄や大人物か必ず存在します。

なぜ存在するのでしょうか。国民は一つの国に属していますが、当然のことながら、個々の国民には様々な考えや思惑があり、同じ国の国民であるからといって、利害は必ずしも一致しません。そのため、国民国家は常に分裂の方向に向かわざるを得ないところがあります。

ただ、その利害を乗り越えて、国民を一つにまとめるために、その要としての英雄や人物が必要なのです。そうして、その英雄は国家の理想や理念を体現しているのです。これによって、国家は一つにまとまるのです。

ところが、中国にはそのような英雄は存在しないのです。そのため、中国は強固に一つにまとまっているわけではありません。驚くほど様々な利害が衝突しているのが、実体です。これを警察組織や、軍事力などによって、無理やりまとめているというのが実状です。

そのためか中国では、年間20万〜30万件の暴動が起こっているとされているものの、それは各々の地域での特別な事情や様々な社会階層の思惑が複雑にからんでおり、多くの場合は散発的なものでした。そのため、中共は暴動が異常に多くても、これを何とか鎮圧することができました。

国民の統合の象徴のない中国でしたが、多くの中国国民に共通する理念の前段階ともいえる考えが今中国にできあがりつつあります。それが、中国共産党のゼロコロナ対策に対する、反感と憎悪の念です。


中国共産党が人間を家畜並に扱うとすれば、いずれ行き着く先は、鳥インフルエンザが発生した時に、これが蔓延しないように、鶏を殺処分するように、豚コロナが発生したときに、豚を殺処分するように共産党の都合で、人間も殺処分しかないという、恐怖を多くの国民が感じたことでしょう。

そのような懸念は、過去の毛沢東の大躍進政策や、ウイグル人を閉じ込め虐待して、挙句の果てに殺したり、臓器売買のために人を殺したりなどで、薄々多くの中国人も気づいていたのでしょうが、ただこれまでは、そのように殺戮される人たちは、少数民族であるとか、運の悪い人、異教徒などであり、自分とはあまり関係ないと、自らに言い聞かせ、そう信じ込もうとしてきたのでしょう。

ただ、その恐怖は潜在意識の中には埋め込まれていて、何かのきっかけで、顕在化する状態にあったものと思われます。

それが、今回のゼロコロナ政策によって、顕在化してきたのだと考えられます。今回の全国的なデモを単純なゼロコロナ政策への反対であるとみるべきではありません。

今回の「白紙革命」によって、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えができあがりつつあります。

ただ、これを理念と呼ぶには、まだ次元の低いものです。恐怖・憎悪の念は一時的には、多くの人の共感を呼びますが、それだけでは、一時的にも恐怖や憎悪が収まれば、消えてしまいかねません。プーチンは、NATOに対する恐怖や憎悪の念で、国民をまとめ、高支持率を獲得しましたが、その目論見はウクライナ侵攻では、裏目にでています。

「理念」は「物事に対して“理想“とする”概念“」のことで、「こうあるべき」というベースの考え方を指すものです。 企業では、会社の方針や社員に求める行動指針などを表現する時によく使われます。

中国においても、この恐怖・憎悪の念がいずれ誰かによって昇華され、中国国民であれば、誰もが共感できる「理念」に変わっていくかもしれません。国民国家には、「こうあるべき」という規範が必要なのです。

その誰かは、まだ見えてきません。ただ、この共通の理念となるかもしれない中国共産党に対する多くの中国国民の恐怖・憎悪の念は、容易なことでは覆されることはないでしょう。なせせなら、これは従来とは異なり、立場や社会的地位を乗り越えてかなり多くの中国人に共有されることになったからです。

今回も中国共産党は、必要があれば、天安門事件のように弾圧して、情報統制をして、何もなかったかのように取り繕うでしょう。

しかし、今回の中国共産党に対する恐怖・憎悪の念は、これからも長くくすぶり続けるでしょう。そうして、いずれは、誰かが、新たな理念を生み出し、それによって新たな中国が生まれるかもしれません。

その誰かは複数人で、中国は複数の国家に分裂するかもしれません。また、新たな中国は、単純な西欧化ではないかもしれません。日本のように、単純な西欧化ではなく、中国独自の体制をとるかもしれません。ちなみに、経営学の大家ドラッカー氏は、日本は単純な西洋化をしなかったからこそ成功したと評価しています。

ドラッカー氏は次のように語っています。歴史上、ほとんどあらゆる非西洋の国が、自らの西洋化を試みて失敗した。ところが日本は、明治維新では、西洋化を試みなかった。ドラッカー氏は「日本が行ったのは西洋の日本化だった」と語っています。だから成功したというのです。

その先はまだ見えませんが、今回の出来事によって、中国に変革の火種が生まれたことは間違いないと思います。5年〜10年では無理かもしれませんが、それ以上の期間では、大変革を成し遂げるかもしれません。これから先も、この動きに着目し、何かあれば、このブログに掲載しようと思います。

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2022年12月1日木曜日

法人企業統計、経常益18.3%増 7~9月で過去最高―【私の論評】通貨安は近隣窮乏化策であり、「悪い円安」は間違いであったことが日本でも実証された(゚д゚)!

法人企業統計、経常益18.3%増 7~9月で過去最高

財務省が1日発表した7~9月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は前年同期比18.3%増の19兆8098億円だった。前年を7期連続で上回り、7~9月期としては利益額が過去最高を更新した。資源高などの影響が事業の重荷になっているが、部品など供給制約の緩和や新型コロナウイルス禍からの社会活動の回復が企業業績の改善を後押しした。

財務省は「緩やかに持ち直している景気の状況を反映した」と説明した。経常利益の金額はすべての四半期で過去15番目だった。

業種別の経常利益を見ると、製造業は35.4%増で全体の伸びをけん引した。中国・上海市の都市封鎖(ロックダウン)が6月に解除されたこともあって部品不足の状況が緩和され、自動車関連などで増産が進み、輸送用機械部門の経常利益は2.7倍になった。電気機械も73.4%増えた。円安で輸出関連の押し上げ効果もあった。

非製造業は前年同期比5.6%増だった。サービス業で59.8%増、運輸・郵便業では8.4倍に伸びた。コロナ禍からの社会活動の正常化で、前年に比べて人流が極端に増えたことが影響したもようだ。


設備投資は9.8%伸びた。企業は部品不足などで先送りにしていた投資を再開しており、2桁増に迫った。2018年4~6月期の12.8%以来、4年余りぶりの高い増加率だった。

製造業は8.2%増だった。情報通信機械が27.2%、化学が16.3%投資額を増やした。自動車関連などで半導体の需要が増え、半導体製造装置などへの投資額が増えた。非製造業は10.7%増。都市開発などにかかる設備投資をした不動産業で77.1%増加した。

売上高は8.3%増の350兆3671億円だった。業種別では製造業が12.1%増。石油・石炭は原油価格の高騰などで65.8%増えた。非製造業は6.7%増で、電気料金の高騰を背景に電気業の伸びが目立った。

【私の論評】通貨安は近隣窮乏化策であり、「悪い円安」は間違いであったことが日本でも実証された(゚д゚)!

上の記事は、日経の記事なのですが、さすが「日経クオリティー」です。なぜ、これだけ経常利益が増えたのか、その原因を些末なことは語っているものの、その本質を語っていません。

その本質は、ズバリ「円安」です。日経新聞としては、さんざん「悪い円安」を煽ってきたので、いまさら「円安」で企業の経常利益が伸びたなどといえないのでしょう。円安で日本経済絶好調であり、日本経済新聞も認めざるを得ない好況になっています。

なぜ円安だとこのようになるかは、すでにこのブログでも何度か掲載しています。その代表的なものを以下にあげておきます。
円安の方が「日本経済全体のGDP押し上げ効果がある」理由―【私の論評】「悪い円安」を理由に金融引締をすれば、いつか来た道、この先数十年日本人の賃金は上がらない(゚д゚)!

この記事の元記事の高橋洋一氏の記事より、一部を引用します。

 為替動向は輸出入や海外投資を行う業者にとって死活問題だ。円安は輸出企業にとってはメリットだが輸入企業にとってはデメリットだ。また、これから海外進出を考えている企業にとってはデメリットであるが、すでに海外進出して投資回収している企業にとってはメリットだ。

 まず中小企業への為替の影響を考えてみよう。中小企業は大企業に比して輸出が少なく、輸入が多く、円安によるデメリットを受けやすいのだ。三村会頭の意見は、中小企業を代弁している。

 一方、黒田総裁の意見は経済全体のものだ。輸出企業は大企業であるとともに、世界市場で期していけるエクセレント企業だ。一方、輸入企業は平均的な企業だ。この場合、エクセレント企業に恩恵のある円安の方が日本経済全体のGDPを押し上げる効果がある。

 これは、日本に限らず世界のどこの国でも見られる普遍的な現象だ。輸出の多寡により効果は異なるが、いずれも自国通貨安はGDPへプラス効果がある。例えば、国際機関が現在行っているマクロ経済モデルでも確認されている。
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 こうした指摘はこれまでも言われてきた。自国通貨安はしばしば近隣窮乏化策とも言われるが、それは逆にいえば自国経済はよくなることを意味している。この意味で、「円高は国益」は誤りだ。

このようなことは、2012年まで日銀が金融引締ばかり実施したがために、円高だった時代を思い浮かべれば、「円安は国益」などとはとてもいえないことが誰にでも理解できると思います。

円高のときには、日経新聞をはじめとするマスコミは「円高大変だー」と大合唱していました。これは、わずか10年前くらいのことなのですが、小鳥脳のマスコミはすぐに忘れてしまうようです。

小鳥脳

通貨安が国益にかなうなら、いずれの国も金融緩和して、近隣窮乏化策をやれば良いではないと思う人いるかもしれませんが、これも間違いです。この間違いを信じて、世界の国々は、互いに通貨戦争をやっていると思い込む人もいますが、これもさらに大きな間違いです。

そんなことをして、金融緩和を続けていれば、いずれハイパーインフレになってしまいます。そのため、いずれの国もいい加減なところでやめるのです。だから、通貨戦争などという考えは、単なる妄想に過ぎないです。

一方日銀は、2012年の白川総裁までは、何があってもとにかく金融引締をするというとんでもない金融政策を実行してしまいました。そのため日本人の賃金は三十年間も上がりませんでした。これについても、摩訶不思議、奇妙奇天烈な報道をしてきました。

日本の賃金が上がらなかったのは、日銀が金融引締を長期にわたって、実行したことが主たる原因です。他にも理由があったにしても、些末なことに過ぎません。

マスコミは、為替≒世界全体に流通している円総額÷世界全体に流通しているドル総額( 円/
ドル)
であることも知らないようです。

この式は、短期では様々な要素があるので、当てはまらないこともありますが、中長期ではこの方向に収斂していきます。

マスコミは、これを知らないから、円安の原因についても、頓珍漢なことばかり言っています。マスコミの経済記者は、足し算、引き算はできても、掛け算、割り算ができないから、奇妙奇天烈、摩訶不思議なことをいうのではないかと疑ってしまいます。

さて、話は変わって、今年のユーキャンが選んだ流行語大勝は、東京ヤクルトスワローズ・村上宗隆選手の呼称「村神様」だそうですが、皆さんピンときますか?

私自身は、一回も「村神様」を使ったことがないですし周りの話題にも出たことがありません。もしプロ野球世界で流通しているのが主であるとするならば、年間の大賞というのは違うのではと思います。

以下に、「2022ユーキャン新語・流行語大賞」トップテンとその他を五十音順を掲載します。


何と、「悪い円安」が入っています。これは、今年「悪い円安」論が日本国内で横行したことを示しています。

円安が良いのか悪いのか、円高の方が良いのか悪いのかなどといった議論は不要で、もはや「円安は悪」というのは前提であって、その上でそれがいかに悪いのか、それをどのように是正すべきかを問うといった論調が支配的になっていたともいえると思います。

いかに、マスコミの経済報道がいい加減であるのかを示す格好の事例だと思います。

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2022年11月30日水曜日

“ゼロコロナ”中国デモが飛び火も 「外国勢力ではない」参加者訴えの訳は…―【私の論評】今までみられなかった、都市部の新中間層と農村部の利害の一致が中共を追い詰めることに(゚д゚)!

“ゼロコロナ”中国デモが飛び火も 「外国勢力ではない」参加者訴えの訳は…

中国だけではなく海外にも飛び火しているゼロコロナ政策に対する抗議活動。当局が取り締まり強化に乗り出すなか、デモの参加者たちが「外国勢力ではない」と訴えている訳とは。


 抗議の声は国境を越え、広がり続けています。

 アメリカでは中国人留学生らがハーバード大で、そしてオーストラリアでは最大都市・シドニーで…。

 そのなかにいたのは「くまのプーさん」。

 姿形が似ているとして中国のネット上では習近平国家主席を表す隠語になっていましたが…。そのため今では検閲対象です。

 各地のデモで人々が掲げるプラカードが白紙なのも、まさに中国の検閲を表しています。

 デモ参加者:「少なくとも中国の学生の多くは30年前に起きたことを知りません。彼らの自由が政府に奪われないか心配です」「33年前、中国共産党は戦車を出動させて学生と市民を鎮圧しました。そして33年後の今、中国共産党はまたもや大きな罪を犯しています」

 人々が懸念するのは天安門事件の再来です。

 締め付けが強まるなかでも、香港大学では抗議が行われました。

 女性が掲げた白紙の裏に書かれた「境外勢力」という言葉。「外国勢力」という意味ですが、「外」の字にバッテンが付けられ、「内」と書き添えられています。

 この「外国勢力」という言葉。政府への批判が起きた際に中国当局が使ってきたものです。

 批判は市民の自発的なものではなく、敵対的な外国勢力によって扇動されていると印象付けるためです。

 抗議する市民は、そのことを見越しています。

 デモ参加者:「今、一部の人が外国勢力にそそのかされていると言ったが、そうだろうか?我々は中国国民であって外国勢力ではない!」

 外国勢力という言葉で中国共産党を皮肉る場面もありました。

 デモ参加者:「外国勢力であるマルクス、エンゲルスに気を付けろ!外国勢力であるレーニンに気を付けろ!スターリンに気を付けろ!」

 一方、中国の治安当局のトップ。

 29日付の国営・新華社通信によると、「敵対勢力の浸透、破壊活動に打撃を与える」としたうえで、「社会秩序を乱す違法な犯罪行為を断固取り締まる」と強調しました。

【私の論評】今までみられなかった、都市部の新中間層と農村部の利害の一致が中共を追い詰めることに(゚д゚)!

中国共産党のゼロコロナ政策への反対デモは、日本国内でも行われていました。何日か前に、テレビで報道されていました。本日そのニュースをサイトで探したのですが、見当たりません。

中国共産党の友達である、日本メディアは中国に忖度したか、あるいは中国共産党の司令があったのかもしれません。

きっかけの一つは11月24日に新疆ウイグル自治区で起きた火事でその際にコロナ規制があだとなり、相当数の死者が出たとされます。相当数の死者とは公になっている10名より実際ははるかに多いのではないかという情報の不確定さ故に断言できないのです。

以下に、その火事とされる、動画を含んだツイートを掲載します。
助けを求める女性の悲痛な叫び声がはっきり聞こえます。ウイグル人のイスラム教徒と、都市部の新中間層とは、なかなか理解しあえないところがあると思いますが、この動画はさすがに、多くの漢人の怒りにも火をつけたとみられます。

これは国民の不満が相当溜まっていて、きっかけがあればすぐに反応する状態だったともいえ、今後、似たような「惨劇」が起きれば一気に事態が悪化する公算はあります。

中国のコロナ対策は当初は素晴らしいものとされました。感染者を徹底的に追い込んだからです。平たく言えば「力づく」での対策です。一時は、パンデミック対策は中国のような先生主義国家のほうが、撲滅しやすいなどともてはやされた時期もありました。

これは、中国の威信を高める結果となり、中国は得意満面で、マスク外交や、コロナ支援外交を大々的にはじめました。

得意満面で始められた中国のマスク外交だったが・・・・・

ただこれは考えるまでもなく、中国全体を一種の無菌状態にしようとしたわけです。ですが、抑え込みという発想そのものが、荒唐無稽としか言いようがありません。100歩譲ってそれが出来たとして数年後、多くの無感染の中国人が諸外国の人と接点を持った時、中国人は自分を守る免疫がないので高いリスクを負うことになりかねません。

これでは中国発のコロナ無免疫者災害になりかねません。そんな事が起きればそれは人災という声すら上がるでしょう。

結局はゼロコロナ政策こそが中国の最大のリスクであると考えられます。ユーラシア・グループのイアンブレマー氏が2022年の最大のリスクはゼロコロナの失敗と年初に指摘していたのですが、本当にそういうことになりそうです。イアン・ブレマー氏は、今年最大の地政学的リスクとしして、ゼロ・コロナ政策の失敗を挙げ、中国は新型コロナウイルスの完全な封じ込めに失敗して世界経済が混乱に陥る事態を予測していました。

今回の大規模デモに先立ち、中国では様々な異変が起こっていました。

10月末には、河南省鄭州市にある、iphoneを受託製造するフォックスコンの工場で、新型コロナの感染者が確認されたということで、外部との接触を遮断する「バブル方式」を導入しましたが、家に帰れず、生活環境が悪化するばかりの状況に嫌気が差した従業員たちの不満が爆発、多くの従業員が工場のフェンスを乗り越え脱出、家までの道を延々と歩く姿がニュースでも報じられました。

アイフォンなどを生産している工場から、労働者が“大量脱走”。残されたのは建物の周囲に残る、2階部分まで届くような大量のゴミ

10月31日には、上海のディズニーリゾートが、ゼロコロナ政策のためとして、突然、出入り口ゲートを封鎖、来場者が園内に閉じ込められるという事態が発生しました。これにより場内にいた2万人が足止めされました。このように中国では突然の封鎖が何の前触れもなく発令されるため、上海のイケアなどでは、店舗や職場から人々が逃げ出しているといいます。

そのイケアは8月13日に、突然封鎖されたことで、一部の客が外に出ようと、ドアや窓を無理やりこじ開けて逃げ出していく姿が多く見られました。

チベットでも、異例の大規模デモが発生しました。参加者の多くは、漢人だと言われています。

このように、中国では一部の都市でパニックが起こっていました。情報統制の国であるだけに、市民は当局発表を信じず、それが荒唐無稽な噂を信じ込む原因となっています。

たとえば、河北省の当局が、石家荘市での集団検査中止を発表したところ、ネットでは「新型ウイルスの感染拡大を放置することで、住民になにが起こるのか」を当局が人体実験しようとしているという憶測が出回り、薬局から検査キットが消えたということがあったそうです。

情報統制という「愚民政策」を行っているだけに、ひとたび疑心暗鬼が広がってしまうと、これを修正することは非常に難しくなります。政府当局に対する信頼がほとんどないからです。

しかし、中国では習近平が自ら「ゼロコロナ政策」を推進してきただけに、そう簡単にやめることはできないでしょう。これから感染者が増えるにつれ、ますます厳しい対策を取らねばならくなっていくと思います。しかし、それだと市民の心がさらに抑圧されて、いつか暴発する可能性が高まっていくでしょう。

これから中国国内で動乱が頻発してくる可能性が高いです。そうして、動乱から内乱へ発展していく可能性も高まりました。

中国共産党が今、最も恐れているのは内乱だと考えられます。

現在、中国国内では経済発展に取り残された民衆による暴動が年間20~30万件ほど発生しているとも言われています。そうして、中国共産党は内乱を鎮圧するために人民武装警察(武警)を150万人配備しているとされています。

ただ、中国共産党が厳しい情報統制をしているので、目立たないだけです。しかし、ここ数年は、日々中国の暴動の様子が、SNNなどに動画が配信されています。動画によっては、どの都市なのか説明があったりするものもあります。

2020年6月20日、李克強首相は中国人口14億人程の内の6億人が貧民層だと発言しました。最近では貧富の格差に絶望した中国人はキリスト教へ入信しているといわれ、中国政府が認めていない「地下教会」で活動する信者も加えると、キリスト教人口は1億人を突破しています。

中国共産党が宗教に対して不寛容であり、キリスト教徒を激しく弾圧しているのは、まさに「太平天国の乱」の様な歴史が繰り返されるリスクを恐れているからだと考えられます。

経済的に豊かな沿海部都市と比較して、格段に貧しい内陸部農村地区の人々の間では、中国共産党に対する不平不満がフツフツと煮詰まっており、いつキリスト教と結びついて大反乱が起こっても不思議ではない、まさに一触即発状態であるという見方もあります。

中国の「人民」は経済発展で自分たちの生活水準が上昇するならと、一党独裁体制をこれまでのところは許容してきました。実際、中国は鄧小平時代から強靭な経済発展を続けてきました。

1990年の中国のGDPは、日本のGDPの7分の1程度に過ぎなかったのですが、2010年には日本を超え、今や日本のGDPの2.5倍以上となっており、年々米国との差を縮める傾向にあります。ただ、一人あたりのGDP(≒一人あたりの所得)ということになると、一万ドル(日本で約100万円)を少し越えた程度であり、これは米国をはじめ、日本にも全く及びません。

ただその成長は近年鈍化しており、新型コロナウイルスの影響によって世界経済が停滞する中、中国経済もまた停滞期に入ると思われます。

経済が好調であるから共産党に対して黙っていた都市住民も、今後生活水準が悪化する可能性があります。

そうして、中国にとって別の大きな脅威は、どんな発展途上国も通らなければならない社会の階層化です。中国の経済成長は新しい中間層を生み出しました。彼らの要求は、貧困から抜け出そうとしている農村部の望みとは全く違います。


いずれ中国政府は、新中間層と農村部という異質な2つの層を調和させなくてはならないです。これは、長期的に取り組むべき問題ですが、手つかずのまま放置されれきたといえます。それ故、中国はもともと社会不安が高まっていました。

だかこそ、習近平は共同富裕という概念を打ち出したのですが、経済発展が停滞している現状では、これは下手をすると、新中間層を貧乏にし、農村部もあまり豊にせずに終わってしまうかもしれません。

今までは、新中間層と農村部は、全く異質であり、これらが互いに理解しあうことはありませんでした。ただ、今回のコロナ政策に対する批判では利害が一致しています。裕福であるとか、貧乏であるかにかかわらず、中共のゼロコロナ政策で、苦しめられていることには変わりありません。

実際、これを示す実例があります。先にも述べたように、上海や南京など中国各地で26日夜、政府が進める厳しい新型コロナウイルス対策に対する抗議行動が起こりました。

きっかけは、24日夜に新疆ウイグル自治区ウルムチ市で起きた10人が死亡したマンション火災です。同マンションはコロナ対策で長期間封鎖され、“部屋のドアや非常口扉が封鎖されたために逃げ遅れて亡くなった”、“封鎖で消防車がマンションに近づくことができなかった”などの批判がSNSに次々に投稿され、怒りが広がりました

今回、中国での大規模なデモが話題となっていますが、中国では元々このようなことが起こる素地が十分にあったわけで、ゼロコロナ政策への反対や憎悪ということで、社会階層を越えた一致点が出来上がったわけです。

これが過去のデモとの大きな違いです。先にも、述べたように中国においては、暴動そのものは珍しくはないのですが、それにしても、それぞれの地方で単発的に起こっていました。今回は明らかに違います。

新中間層らがこれからも、体制に対して大規模なデモを起こし、それが農村部の大規模な暴動と連動するようなことになれば、中国全土で大動乱に拡大し9200万人の共産党一党支配は崩壊してしまうかもしれません。現在中国共産党は、これを最も恐れているでしょう。

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2022年11月29日火曜日

岸田首相、防衛費「GDP比2%」に達する予算措置を講じるようを指示 「見せかけ」「増税」に警戒感―【私の論評】「つなぎ国債」は今後の岸田政権を占う最重要キーワード(゚д゚)!

岸田首相、防衛費「GDP比2%」に達する予算措置を講じるようを指示 「見せかけ」「増税」に警戒感

鈴木俊一財務相(左)、浜田靖一防衛相=28日、首相官邸

 岸田文雄首相は28日、防衛費増額をめぐり浜田靖一防衛相と鈴木俊一財務相を官邸に呼び、2027年度に防衛費と補完する他省庁の関連予算を合わせ、「GDP(国内総生産)比2%」に達する予算措置を講じるよう指示した。岸田首相は防衛力強化に向け、歳出、歳入両面での財源確保の措置を年末に一体的に決定するとも述べた。他省庁の予算を含むため、「見せかけの防衛費増額」との批判もありそうだ。

 岸田首相が防衛費の具体的な水準に言及するのは初めて。今後、増税も含めた調整が、政府・与党内で本格化することになる。

 関連予算は、研究開発や公共インフラ、サイバー、海上保安庁といった他省庁予算を念頭に置いている。防衛省だけの予算から、安全保障の強化に政府全体で対応する体制に変える構えだ。

 自民内には他省庁予算を含めた「見せかけ」「水増し」や、財務省主導の「増税」で財源を捻出する手法に警戒感があり、反発も出そうだ。

【私の論評】財務省の危険な罠「つなぎ国債」は、今後の岸田政権を占う最重要キーワード(゚д゚)!


防衛費の水増しに関しては、私も反対ですが、ただ算定方法を変えるのであれば、現在の防衛費算定方法も変えて、それを100%として、2%増やすという考え方もできると思います。

それは、当然のことです。経済指標で計算方法などを変えれば、過去に遡って、すべて現在の算定基準で算定しなおして、改定値を発表しなければ、統計資料が役に立たなくなります。

最も良いのは、上の表でいえば、従来の防衛費を2%増やし、海上保安庁、PKOの予算も2%増やすという方式にすれば、すべて丸く収まり反対する省庁もいないでしょう。反対するのは、財務省だけということになり、何よりも財務省を出し抜くことができます。それで、はやく決着をつけるべきと思います。

次に、財務省主導型の「増税」も無論反対です。防衛費増額の財源として、増税を含めた国民負担が必要だとした、政府の有識者会議の報告書に対し、29日開かれた自民党の安全保障関連の合同会議で、出席者からは「増税を念頭においた議論が出てくるのは唐突だ」とか「税収の上振れ分を活用できないかなどの議論が先だ」などと批判的な意見が相次ぎました。

これに関しては、従来から言っているように警戒が必要です。共同通信は以下のような報道をしています。
 政府は29日、防衛費増額の財源捻出に向けた調整を本格的に始めた。23年度の一時的な財源確保策として、新型コロナ対策で厚労省所管の独立行政法人に積み上がった剰余金の活用を検討。外国為替介入に備えて管理している特別会計の剰余金の転用案も浮上した。防衛関連予算を5年間で段階的に増やして27年度にGDP比2%とするための安定財源として、増税策も年末に向け議論する。赤字国債の一種である「つなぎ国債」で、増税実施までの財源不足を穴埋めすることを視野に入れる

  鈴木財務相は29日、加藤厚労相と会談し、国立病院機構など2独立行政法人に利益剰余金を国庫返納するよう求めた。
太字でない部分は、現状を報告するものでしょうが、太字の部分は完璧に財務省の広報でしょう。

特に、「つなぎ国債」は曲者です。つなぎ国債は、将来見込まれる特定の歳入を償還財源として発行される国債をいいます。

赤字国債の一種ですが、財務省は「将来世代にツケを先送りする一般的な赤字国債とは区別できる」との見解を示しており、償還期間も通常より短く設定されます。また、その呼称については、償還財源を確保するまで資金繰りを「つなぐ」という意味に由来します。

現在、つなぎ国債の発行については、増税の実施を法律レベルで担保することが前提となっています。

「将来見込まれる特定の歳入を償還財源とする」とは、わかりやすくいえば、増税を財源としてということです。

「つなぎ国債」は増税で償還をすることを前提として、発行するものです。「つなぎ国債」を発行することになれば、いずれすぐに増税するということを意味します。


岸田総理大臣は国会予算委員会で、消費税を当面、上げる考えはないと改めて強調しました。

立憲民主党・泉代表:「総理は昨年の総裁選の時ですね。消費税率を10年程度上げることは考えないというふうに名言されていますが、それは変わってないか」

岸田総理大臣:「消費税については申し上げたように変わっておりません。上げることは考えていない」

岸田総理:衆院・予算委員会 25日

また、先月26日に政府税制調査会で議論された自動車の走行距離に応じて課税する「走行距離課税」について、岸田総理は「政府として具体的な検討をしているということはない」と述べ、導入に否定的な考えを示しました。

走行距離課税については「電気自動車普及の妨げになる」などとして、日本自動車工業会が反対を表明しています。

消費税は当面あげないことを表明した岸田総理ですが、「つなぎ国債」を発行することになれば、何らかの増税を数年以内には必ず行うということです。

そうではなく長期国債を発行するとか、特別会計の剰余金を活用するということになれば、当面増税することはないでしょう。

それにしても、防衛費に関して、財務省や財務大臣の意向を聞きすぎているように思われます。財務省が防衛費の増額に反対するのは当たり前です。そのようなことはわかりきっているので、英国では戦争中の戦略会議などには、財務大臣は出席させないそうです。

現在日本は戦争中ではありませんが、それにしても今年は年末までに防衛三文書の書き換えを行う時期であり、岸田総理は、財務省などの防衛費に関する主張などは、話半分に聞いて留めるべきです。そうでないと、判断を誤ります。

まさに、「つなぎ国債」は重要なキーワードです。要注意であるとともに、岸田政権を評価するキーワードにもなります。

「つなぎ国債」以外にも、財務省の罠が他にもあちらこちらに巡らせてあるかもしれません。これについては、発見しだいこのブログで解説させていただくつもりです。

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2022年11月28日月曜日

中国「台湾侵攻」の“大嘘”…! 日本で報じられない「米軍トップ」の“意外すぎる発言”の中身と、日本人の“低すぎる防衛意識”…!―【私の論評】少し調べれば、中国が台湾に侵攻するのはかなり難しいことがすぐわかる(゚д゚)!

中国「台湾侵攻」の“大嘘”…! 日本で報じられない「米軍トップ」の“意外すぎる発言”の中身と、日本人の“低すぎる防衛意識”…!

小川 和久氏

 ロシアのウクライナ侵攻以後、「中国の台湾侵攻も現実味を帯びた」と叫ばれることも多いが、本当のところはどうなのか。国防意識は高まりを見せるなか、事実とデータをリアルにとらえ、冷静に分析・評価はなされているのか―ー。

 陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校を修了し、外交・安全保障・危機管理の分野で政府の政策立案にも関わってきた軍事アナリストで静岡県立大学特任教授の小川和久氏の新刊『メディアが報じない戦争のリアル』(SB新書)より一部を再編集してお届けする。

軍事的合理性のない「台湾有事論」
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 Q:ロシアのウクライナ侵攻で、「次は中国の台湾侵攻では」とおそれる台湾有事論が広がっています。どう考えますか? ----------

 A.『メディアが報じない戦争のリアル』でもっとも強調したい、と私が考えていることを最初に申し上げます。それは、日本で取り沙汰されている「台湾有事論」には“科学的な視点”が欠け、 軍事的合理性もない、ということです。

 「軍事を語る際に必要な合理的でリアルな視点」 や「軍事に関する常識」が欠如している、と言い換えてもよいでしょう。

 2021年春、そんな視点に欠けた台湾有事論を、インド太平洋軍司令官を務めるアメリカの海軍大将が公言して波紋を広げました。日本では、自衛隊の将官OBの多くが「そのとおり」と、その発言に同調しました。「専門家である軍の高官が?」と思うでしょうが、困ったことに事実だったのです。

台湾をめぐる中国の「リアルな狙い」

 しかも、無責任なことに日本のマスコミは、科学的な視点に欠ける台湾有事論をきちんと検証しないまま、大々的に報道しました。その結果、「近い将来のある日、中国人民解放軍が台湾に攻め込んで軍事占領し、武力による台湾統一をはたすに違いない」という、単純な中国脅威論が拡散しました。

 SNSはじめインターネットでも荒唐無稽な議論が繰り返される。社会のリーダーたる政治家までもが、テレビに出ては「中国の台湾侵攻が近い。日本はどうする?」と危機感を煽りたてる。国政に関わる政治家や自衛隊の将官OBが社会をミスリードすれば、日本の国益を大きく損ないかねない事態です。これは捨てておけません。

 そこで、まず2021年の台湾有事論を紹介し、どこがどのように非科学的なのか、お話しします。

 この点は、ロシアのウクライナ侵攻でますます広がった台湾有事論でも、基本的に変わりません。

 そのあと中国軍の実態はどうなっているか、台湾をめぐる中国のリアルな狙いとは何か、中国の戦い方とはどんなものか、みていくことにします。

デビッドソン海軍大将の「証言」

 2021年3月、台湾有事の問題に火がついたきっかけは、インド太平洋軍司令官だったデビッドソン海軍大将が上院軍事委員会の公聴会で「中国の脅威は6年以内に明らかになる」と証言したことでした。こんな内容です。

 「彼ら(中国)は、ルールにのっとった国際秩序におけるアメリカのリーダーとしての役割に、取って代わろうという野心を強めている、と私は憂慮している。2050年までにである」

「台湾は、それ以前に実現させたい野望の一つであることは間違いない。その脅威はむこう10年、実際には今後6年で明らかになると思う」

「中国は、資源の豊富な南シナ海大半の領有権を主張するだけでなく、アメリカ領のグアムを奪う構えすら見せている」

「インド洋のディエゴガルシア島やグアム島にある米軍基地に酷似した基地への模擬攻撃の動画も公表している」

 デビッドソン大将はこう指摘し、中国のミサイルを防御する「イージス・アショア」(地上配備型イージス・システム)のグアムへの配備を求めたほか、「やろうとしていることの代償は高くつく、と中国に知らしめるため」に、攻撃兵器の予算の拡充を議会に求めました。

米軍トップのミリー統合参謀本部議長の「発言」

 なにしろインド洋と太平洋を担当する米統合軍のトップが、中国は台湾を狙っており、 6年後、つまり2027年までに脅威が現実となる、と期限付きで明言したのです。デビッドソン証言は、日本でも大きく取り上げられ、各方面に波紋が広がりました。

 ところが、火元のアメリカでは証言3か月後の2021年6月17日、米軍トップのミリー統合参謀本部議長が、上院歳出委員会の公聴会で次のように発言します。

 「中国が台湾全体を掌握する軍事作戦を遂行するだけの本当の能力を持つまでには、まだ道のりは長い」

「中国には現時点で(武力統一の)意図や動機もほとんどないし、理由もない」

「近い将来、起こる可能性は低い」

 つまり、米軍のトップがデビッドソン証言をはっきりと否定したわけです。

 このデビッドソン証言については、アメリカでは海軍予算を増やすためのアピール、中国の脅威への警鐘という評価だけでなく、上陸作戦に無知だったという酷評さえ出ています。

 意外かもしれませんが、米軍でも上陸作戦のことを教育されるのは海兵隊と陸軍のエリートだけで、海軍と空軍の大部分には知識がないのです。

思い出す「北方脅威論」

 しかし、不思議なことに日本のマスコミの多くは、デビッドソン証言のトーンを変えないまま台湾有事を報道し続け、ミリー証言に目を向けようとはしませんでした。ミリー統合参謀本部議長は軍事的な根拠を持って証言したわけですが、マスコミはもとより、研究者や自衛隊OBまでもが、その根拠を知ろうとはせず、関心を払わなかったのです。

 この状況を見て私が思い出したのは、1970年代後半の「北方脅威論」です。米ソ冷戦が激しさを増した当時、日本国内では「何十個師団ものソ連軍が北海道に上陸侵攻してくる」という危機感が高まり、マスコミも煽るような報道を繰り返しました。

 ここでいう「師団」とは、戦闘のほか補給・管理・衛生などを含む総合的な機能があり、独立して作戦を遂行できる陸軍の基本単位で、1個師団は数千~2万人くらい(国や時代で異なる)です。とにかく、半世紀近く前の日本では、何十万人かのソ連兵が海を渡って攻めてくる、と叫ばれていたのです。

 ところが現実には、ソ連の海上輸送能力には明らかな限界がありました。リアルな姿をとらえれば、ソ連が北海道に投入できるのは3個自動車化狙撃師団(注 機械化歩兵師団のソ連側の呼称。狙撃兵の部隊ではない)、1個空挺師団、1個海軍歩兵旅団(ソ連版の海兵隊)、1個空中機動旅団にすぎません。

 まだ弱体だった自衛隊ですが、米軍と力を合わせれば、攻めてくるソ連軍の半数を海に沈めるだけの能力はありました。そんなことはソ連側も自覚していますから、全滅を覚悟しない限り作戦が発動される可能性はありませんでした。

防衛大学校の1期生が「教えてくれたこと」

 意外に思われるかもしれませんが、軍事はそんな角度から科学的にとらえる必要があると私に教えてくれたのは、当時一等陸佐になったばかりの防衛大学校の1期生たちです。

 結局、当時の騒ぎはアメリカのワシントン発、さらには東京・永田町発のきわめて“政治的な”ソ連脅威論にすぎませんでした。空騒ぎから醒めたあと、日本人にまともな防衛意識が高まるまでに長い年月がかかりました。

 今回の台湾有事論にも同じ側面が色濃く出ている、と私は考えています。

小川 和久(軍事アナリスト)

【私の論評】少し調べれば、中国が台湾に侵攻するのはかなり難しいことがすぐわかる(゚д゚)!

このブログでは、中国の台湾への武力侵攻は、簡単ではないことを何度か掲載してきました。そのため、上の小川氏の記事はまさに我が意を得たりと感じるものでした。

上の記事のようなこと、分析も何もしないで、中国が簡単に台湾に侵攻できると思い込むのは、明らかな間違いですし、中国を利することにもなりかねません。

多くの国の国民が中国の台湾侵攻は必ずあるだろうし、そうなれば中国が確実に勝つなどと思いこめば、まさに中国の思うつぼです。

まずは、中国は兵員や物資を運ぶための、海上輸送能力が足りません。その輸送能力が足りない中国が、台湾に武装侵攻すれば、一度に数万の兵員とそれに伴う物資しか運べず、ウクライナ軍よりも、はるかに強力で現代的な軍隊である、台湾軍に個別撃破されてしまいます。

一度に数万しか運べないなら、中国の軍隊の人員が百万だとしても、運ぶ都度撃破されてしまうことになります。

台湾の東海岸

しかも、台湾に上陸しようとした場合、台湾の中央部は急峻な山であり、最高峰の玉山は標高3,952 mであり富士山よりはるかに高いですし、海岸の際まで山が連なっており、東側に上陸するのはかなり難しいです。上陸するとすれば、平坦な西側からであり、しかも西側の海岸も大部隊が上陸できる場所は限られています。

そうなると、中国軍は台湾軍が周到に準備して、待ち構えているところで、敵前上陸しなければならないのです。

仮に将来、中国が多くの兵員を一度に運べるようになったにしても、ウクライナ軍よりはるかに現代化された、台湾軍は独自開発した強力な対艦ミサイルも配備していますし、対空ミサイルもありますし、北京を狙うことができる長距離ミサイルも存在します。

台湾が開発した超音速対艦ミサイル

上陸する前に、兵員を輸送する多くの艦艇や支援の艦隊や航空機がこれらに攻撃され、台湾に到達する前に、かなりが沈み上陸できる兵員はわずかということになるでしょう。これでは、勝負になりません。

たとえ、日米が加勢しなかったにしても、中国が台湾に侵攻するのはかなり難しいでしょうし、日米が加勢すれば、ほとんど不可能です。

台湾の弱点をあげるとすれば、現代的な潜水艦を持っていないことです。あるにはあるのですが、4隻であり、この4隻はどれも古く、一番古いものは第二次世界大戦に建造されたものです。

蔡政権は潜水艦国産化の方針を決定、2017年から建造が開始されました。1番艦の就役は2025年に予定されており、8隻が建造される計画です。そうなれば、中国の台湾侵攻はますます難しくなることでしょう。

台湾は、日本と同じ島国ではあるものの、地勢的には大きく異なっています。同国の場合、潜在的脅威の対象である中国との間に横たわる台湾海峡は、もっとも狭い地点で幅わずかに約130km。水深は、その大半の水域で約50mと浅いものです。


つまり、もし中国が台湾への侵攻を企図して輸送船団で台湾海峡を渡ろうとしても、水深が浅いせいで、潜水艦を運用するのは東シナ海や南シナ海などと比べて困難だといえます。

ただ、太平洋側の海は深いですが、海岸からすぐに急峻な山々がそびえており、ここから大群が上陸するのは困難です。陸上部隊が上陸したとしても、急峻なもののあまり高くはない山を越えたとたんに、今度は富士山よりも高い玉山などの高山がそびえ立っています。

西側も、大部隊が上陸できるほど開けた場所は限られていますし、平らな部分も多くはなく、すぐに高地に連なり、上陸した中国軍は、見晴らしの良い高所に陣取る台湾軍から狙いうちされることになります。陸の戦いでは、標高がより高いところから、低いところに攻撃するほうが、圧倒的に有利です。

それは軍事上の常識なのですが、インド・中国紛争やウクライナ戦争でもそれが改めて実証されています。補給船なども、狙い撃ちされ、上陸した中国軍は、補給を絶たれお手上げになってしまうでしょう。

台湾の地理を知り尽くした台湾軍は、上陸した中国軍を四方八方から効果的に攻撃し、中国軍を多いに悩ますことになるでしょう。このような地形はウクライナの奥行きはかなり深いものの、比較的平坦な地形とは、全く異なります。台湾よりもはるかに面積が広い、ウクライナ最高峰のホヴェールラ山の標高は、2,061 mに過ぎません。いかに、台湾よりも平坦であることがわかると思います。

しかも、台湾は島嶼であり、面積も広くありませんから、上陸した中国軍は、まずは低地の平らな場所に密集して布陣せざるを得ません。これを台湾軍はより効率的に撃破できます。急峻な山に分散して布陣する台湾軍には隠れ場所も多くあり、かなり有利に戦闘を継続することができます。

また、高地に布陣する台湾軍を攻撃するためには、中国軍は多くの兵員をトラックなどで輸送することになるでしょうが、それは高地の多い台湾では、道路を用いて行われることになるでしょう。道路なしの急斜面を車や戦車がまっすぐに登ることはできません。台湾軍は、中国軍から不意打ちをくらうことは滅多になく、予め想定される道路を走る兵員輸送車等を容易に攻撃できます。

そうして、台湾軍は上陸した中国軍を攻撃して、撃破すれば良いだけに比して、中国軍は台湾軍と戦闘して、これを打ち負かし、さらに捕らえて武装解除し、中国軍に従わせる必要があります。さらに、一般市民も中国軍に従わせ、その後に中国は台湾を統治しなければなりません。

無論、中国が台湾を破壊すれば良いだけというのなら、上記のようなことは全く考慮せず、ただミサイルをたくさん打ち込んだり航空機で爆撃すれば良いだけです。そうではなく、侵攻して占拠するということになれば、上記のようなことを考慮しなければなりません。以前にも述べたように、武力による破壊と、侵攻とは全く別次元のことなのです。

台湾に攻め込んだ、中国軍はウクライナに攻め込んだロシア軍よりも、なお甚大な被害を被るのは必定です。

 少し台湾の地理や軍事力を調べてみれば、中国が台湾に侵攻するのは、生易しいことではないことが良く理解できます。

何でも、マスコミ報道だけを鵜呑みにしていれば、間違った判断をすることになります。

中国が台湾侵攻ということになれば、ウクライナでそうしたように、日米豪加等をはじめとして、多くの国々が、台湾に加勢することになるでしょう。そうなれば、さらに中国の台湾侵攻は難しくなります。習近平はプーチン以上に八方塞がりになります。

以上のようなことをいえば、台湾有事はないから何もしなくて良いと主張しているように受け取る方もいるかもしれません。そうではありません。確かに中国が台湾に侵攻すること自体は、困難を極めますが、それでも中国は、武力で脅しをかけたり、場合によっては台湾の領土を破壊したりして、言うことを聞かせようとするかもしれません。

台湾が、中国の侵攻を防ぎ、いくら事実上は、独立を維持できたにしても、理不尽に武力等で脅され屈したり、台湾人の命や財産が危険にさらされるようなことがあっては無意味です。

だからこそ、これに備える必要があるのです。これが、リアルな台湾の安全保障なのです。

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