なぜ台湾を守る必要があるのか、その三つの理由■岡崎研究所
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台湾有事は米国にも大きな損失をもたらす |
4月10日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙外交問題コメンテーターのギデオン・ラックマンが「なぜ台湾が世界にとって重要なのか。北京との緊張の危険な増大は、繁栄するアジアの民主主義を保護するために支払う価値のある代償である」との論説を書いている。
台湾への軍事圧力の増大に対し、バイデン大統領は4回、米国は中国の攻撃から台湾を守ると約束した。米国の一部の人は、なぜ米国が人口2400万人の台湾を守るために、もう一つの核兵器国中国と戦うのかと疑問に持つ。
台湾を守ることへの懐疑論は欧州の一部ではもっと強い。訪中から帰ったマクロンは台湾を守るためにフランスは指一本あげないと含意した。
台湾にこだわる三つの主たる議論がある。第1は世界での政治的自由の未来について、第2は世界的なパワーバランスについて、第3は世界経済についてである。これらは台湾を北京の手から離しておく説得力のある議論になる。
北京は既に香港での民主主義を粉砕した。習近平が台湾で同じことをすれば、世界は暗い政治的意味を持つ。
もし中国が台湾の自律を侵攻により、または台湾が欲しない政治連合の強制で粉砕すれば、地域における米国のパワーは大きな打撃を受けるだろう。
中国によるインド太平洋の支配は世界的意味をもつだろう。この地域は世界の人口と国内総生産(GDP)の約3分の2を占める。もし中国がこの地域を支配すれば、中国は最強国として米国にとって代わるだろう。
台湾は世界の半導体の60%以上、最も先進的なものの90%を生産する。電話や車から工業機械まで台湾のチップで動いている。もし台湾の半導体工場が中国の支配下に入れば、中国が世界経済を牛耳ることを可能にする。
これら経済的、戦略的、政治的考慮は、米国とその同盟国が台湾を守る説得力ある議論となる。戦争に備えることが平和を維持するために時には必要である。
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この台湾の重要性に関するラックマン論説は、よく考えられた論説であり、賛成できる。
台湾は、米ソ冷戦時代のベルリンのような役割を米中冷戦においては果たすと考えられる。自由民主主義体制陣営と専制主義陣営に分断されつつある世界において、台湾は最前線に立つと言って過言ではない。マクロンの台湾に対する認識は相当問題があり、主要7カ国(G7)広島サミットの際には、彼に台湾の重要性を印象付ける必要があるだろう。この論説の議論はそのために使い得ると思われる。
人権問題は国際関心事項
中国は台湾問題を中国の内政問題としているが、これはそうではない。中国はチベット、ウイグル地区で酷い人権侵害をしている。香港でもそうである。人権問題は、南アフリカのアパルトへイトのように、戦後の国際秩序の中では国際関心事項とされており、台湾を中国が併合した後には2400万人の台湾人の人権が侵害されることが目に見えている。台湾問題はそういう観点から内政問題とされるべき問題ではない。国際的関心事項と言える。
中国は、世界は発展しようとしている国とそれを封じ込めようとする米国をはじめとする勢力との間で分断されているのであって、自由民主主義と専制主義との間で分断されているのではない、われわれ(中国)も民主主義であるという論理を展開している。しかし人権尊重をしない民主主義はあり得ないのであり、この点を強く主張していくことが中国に対抗する上でも必要なように思われる。
【私の論評】台湾有事に備えて、日本は台湾への軍事支援ができる体制を整えるべき(゚д゚)!
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台湾軍 |
台湾は、その地政学的優位性、民主主義、経済力など、いくつかの理由で世界にとって重要です。
台湾は、東シナ海に位置する島国です。この島は、中国本土の南東約1,000キロメートル、フィリピンの西約1,800キロメートルに位置しています。台湾は、東シナ海の戦略的に重要な位置にあり、この地域の貿易と航行を支配する可能性があります。
台湾は、繁栄した民主主義国家でもあります。台湾は、1988年から自由で公正な選挙を実施しており、民主的な統治の長い歴史があります。台湾は、アジアで最も成功した民主主義国の1つであり、その成功は、他の国々にとっての模範となっています。
台湾は、強力な経済力を持っています。台湾は、半導体や電子機器の主要な生産国であり、世界の貿易と経済において重要な役割を果たしています。台湾は、アジアで最も成功した経済国の1つであり、その成功は、他の国々にとっての模範となっています。
中国は、台湾を自国の領土の一部と主張しており、武力を使って台湾を「統一」することを辞さない姿勢を示しています。中国の台湾に対する脅威は、アジアの平和と安定に対する深刻な脅威です。台湾を守ることは、アジアの平和と安定を守るために不可欠です。
北京との緊張の危険な増大は、繁栄するアジアの民主主義を保護するために支払う価値のある代償です。台湾は、自由で開かれたアジアを支えるために不可欠な民主主義国家です。台湾を守ることは、自由と民主主義の価値観を守るために不可欠です。
中国は強大な軍事力を持つといわれなが、今まで台湾に侵攻しませんでした。これは、なぜなのでしょう。まずは、これを正確に捉える必要があると思います。
中国が過去に台湾に侵攻しなかった理由は多岐にわたりますが、主要な理由は以下の通りと考えられます。
国際社会からの批判:中国が台湾に侵攻する場合、世界中の国々から批判を浴びることになります。中国は国際的な信頼を失うことになり、外交的な影響力を損なうことになるため、侵攻を躊躇する理由の1つとなっていると考えられます。これに関しては、最近の中国は腹をくくったようで、国際社会の批判などものともせず、香港を中国に併合しました。
経済的な損失:台湾はアジア太平洋地域で経済的に重要な役割を担っており、中国にとって台湾を併合することは莫大な経済的損失をもたらすことになると考えられています。
上の記事では、
「中国が台湾の自律を侵攻により、または台湾が欲しない政治連合の強制で粉砕すれば、地域における米国のパワーは大きな打撃を受けるだろう。
中国によるインド太平洋の支配は世界的意味をもつだろう。この地域は世界の人口と国内総生産(GDP)の約3分の2を占める。もし中国がこの地域を支配すれば、中国は最強国として米国にとって代わるだろう」
としていますが、それほどうまくいくのでしょうか。
中国が台湾を併合することが、その経済的な利益を獲得するための最適な手段であるかどうかは議論が分かれます。例えば、併合によって中国が得るであろう経済的な利益は、長期的には政治的な不安定さや国際的な孤立などのリスクを伴う可能性があるため、実際のところ得られる利益は限られるという指摘もあります。
加えて、中国が台湾を併合することによって、台湾に対する輸出制限や投資制限が生じ、台湾企業が海外展開することが困難になることから、中国と台湾の経済的な結びつきが弱まることも懸念されています。このような理由から、中国が台湾を併合することが、必ずしも経済的な利益を獲得する最適な手段であるとは限りません。
それは、半導体について考えれば、良く理解できます。台湾の半導体製造業は、最終工程においては、世界1ともいわれています。台湾の半導体製造会社(ファウンドリー)であるTSMCは、世界で最も先端の半導体製造技術を持ち、世界の半導体受託生産の60%以上を占めています。TSMCの半導体は、スマートフォン、コンピューター、自動車など、あらゆる電子機器に使用されています。
しかし、その半導体産業も、日本、米国、オランダなどの半導体製造装置がなけば成り立ちません。日本からの、半導体製造原材料の供給がなくなれば、歩留まりがかなり悪くなります。米国等の設計技術がなければ、最先端の半導体は製造できません。
このようなことを考えれば、中国が台湾の半導体産業を手に入れたとたん、半導体産業で世界一になるとはとても思えません。それどころか、中国に併合された台湾は半導体製造ができなくなる可能性のほうが高いです。他の産業も似たところがあります。
よって英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)のギデオン・ラックマンの記事は、飛躍しすぎていると思います。ただし、習近平がこうした考えを持たないという保証はありません。
軍事力のバランス:中国が台湾に侵攻する場合、米国をはじめとする多くの国々が介入することが予想されます。これにより、軍事力のバランスが大きく崩れることになり、中国の国内安定に影響を与えることが懸念されます。
台湾国民の反発:台湾は独自の政治・社会・文化を持ち、自由な価値観を持つ人々が多数居住しています。中国が台湾を併合することは、台湾国民の反発を招き、中国による支配に対する抵抗運動が起こる可能性が高いとされています。
これはかなり厄介な問題になるでしょう。中国はアフガニスタンで米国が長い間、米軍を駐留させたようにかなりの軍隊を駐留させなけばなりません。数十万人の軍隊を50年くらいは駐留させ、体制をつくりかえす必要があります。中途半端をすれば、アフガニスタンの二の舞いになりかねません。台湾は小さな島ながら、山岳地帯が多いので、抵抗勢力の潜伏先は多くあります。
さらに、台湾を守備する方が台湾に侵攻するよりもはるかに有利であると考えられています。
第一に、台湾は島国であり、中国本土から約100マイル離れています。これは、中国軍が台湾に侵攻するためには、大規模な海上輸送作戦を行う必要があることを意味します。海上輸送作戦は非常に複雑で費用がかかり、台湾海峡には多くの機雷があることを考えると、中国軍にとって非常に困難となるでしょう。
第二に、台湾は山岳地帯が多く、防御がしやすい地形です。これは、中国軍が台湾に上陸したとしても、台湾軍に阻止される可能性があることを意味します。台湾軍は、近年、強力な軍事力を構築してきました。台湾は、米国から最新の武器や装備を輸入しており、多くの兵士が訓練を受けています。
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台湾最高峰 玉山(3,952m) 富士山より高い |
第三に、米国は台湾の防衛にコミットしており、中国が台湾に侵攻した場合は米国が介入する可能性があります。これは、中国軍が台湾に侵攻するリスクを高めます。米国は世界最強の軍隊を有しており、中国軍と戦う準備ができています。
第四に、台湾は世界の半導体サプライチェーンの重要な部分であり、台湾への攻撃は世界経済に大きな影響を及ぼす可能性があります。これは、中国政府が台湾への攻撃を躊躇させる要因となる可能性があります。台湾は、世界最大の半導体製造国の1つであり、半導体はスマートフォン、コンピューター、その他の電子機器に不可欠です。台湾への攻撃は、世界の半導体供給に混乱を引き起こし、経済に壊滅的な影響を及ぼす可能性があります。
これらの要因により、中国の台湾侵攻は非常に困難でリスクの高いものとなります。中国政府は、侵攻の潜在的なコストと利益を慎重に検討する必要があるでしょう。
ただし、だからといって、中国による台湾に対する武力侵攻がないという結論にはなりません。中国による台湾併合は、習近平にとって政治的に大きな意味を持つ可能性があります。習近平は、中国共産党の最高指導者であり、2012年から中国を統治しています。習近平は、中国を復活させ、世界の主要な強国にすることを約束しています。
中国が台湾を併合すれば、習近平の政治的野心を達成する上で大きな前進となるでしょう。台湾は、人口2,300万人を超える、豊かで民主的な島国です。台湾の併合は、中国に大きな領土と経済的利益をもたらすでしょう。また、中国の軍事力と影響力を世界に示すこともできます。
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習近平 |
ウクライナ戦争も、プーチンの政治的野心を満たすという側面も大きかったとみられます。政治的野心のほうが、侵攻の難しさを上回れば、習近平も侵攻を決断するかもしれません。台湾は、中国の侵攻をくいとめることができるかもしれませんが、それにしても現在のウクライナのように、甚大な被害を受けることは免れないでしょう。
それは、できるなら避けるべきです。戦争によって、大きな被害を受ければ、建物やインフラなどは復旧できますが、戦争で亡くなった人々は戻ってきません。
いかなる国も軍事力なしに独立を維持することは困難です。軍事力は、攻撃から身を守り、領土と国民を保護するために必要です。また、他の国との交渉の強みにもなります。
台湾は、中国の脅威に直面しているため、強力な軍隊を維持することが不可欠です。中国は台湾を自国の領土の一部と主張しており、武力を使って台湾を「統一」することを辞さない姿勢を示しています。台湾は武力で自国を守る準備をする必要があります。
台湾はまた、他の国との関係を強化する必要があります。台湾は米国、日本、オーストラリアなどの国と緊密な関係を築いています。これらの関係は、台湾を中国からの侵略から守るのに役立ちます。
軍事力と強力な外交関係は、台湾が独立を維持するために不可欠です。日台は外交面では、連携を強めつつありますが、台湾への防衛装備品の供与や軍事訓練などはあまり進展していません。
日本の防衛装備品の輸出には、制約があります。日本の輸出管理制度である「戦略物資等の輸出 管理」に基づき、日本政府は、輸出品目や輸入国によって厳しい輸出許可の審査を行っています。
さらに、日本の憲法9条によって、自衛隊は自衛のために存在するとされており、他国に対する攻撃を行うことはできません。そのため、軍事訓練なども自衛隊の能力を向上させるためのものであり、他国に対する攻撃のためのものではありません。このような制約があるため、日本の軍事協力は慎重な審査や手続きを経ることになり、進展が遅れがちです。
台湾が軍事危機に直面した場合、日本に直接的な影響が及ぶ可能性があります。その影響には、次のようなものがあります。
- 地理的に近いため、日本の領土や国民が攻撃を受ける可能性があります。
- 台湾の海峡は、日本のエネルギーや物資の輸送にとって重要なルートです。海峡が封鎖されると、日本の経済に大きな影響を与える可能性があります。
- 台湾危機は、東アジアの安全保障環境に大きな影響を与える可能性があり、日本はこれに巻き込まれざるを得なくなる可能性があります。
日本政府は、このような事態に備えて、台湾と防衛協力を強化しています。また、台湾海峡の平和と安定を維持するために、国際社会と協力していく姿勢を表明しています。ただ、まだまだ十分ではありません。
自衛隊は、憲法第9条によって、他国に対する攻撃を禁止されています。しかし、自衛隊は、日本の領土、領海、領空を攻撃された場合にのみ、武力による反撃を行うことができます。これは、個別的自衛権と呼ばれています。また、日本が攻撃されていない場合でも、同盟国が攻撃された場合に、同盟国を守るために武力行使を行うこともできます。これは、集団的自衛権と呼ばれています。
2014年、日本政府は集団的自衛権の行使を容認する解釈を変更しました。これにより、自衛隊は、同盟国が攻撃された場合、より積極的に武力行使を行うことができるようになりました。しかし、自衛隊は、攻撃の必要性、攻撃の手段の相当性、攻撃の目的の正当性という3つの要件を満たす必要があります。
こういう制約はありますが、法律の解釈を変更したり、運用を弾力化するなどして、日本から、台湾への武器や装備を輸出を容易にし、台湾軍兵士を訓練できる体制を整えるべきです。
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