2023年5月22日月曜日

米パプアが防衛協力協定 中国念頭、南太平洋で巻き返しへ―【私の論評】米・パプアニューギニア、ソロモン諸島が中国と安全保障関係を強める動きに対抗(゚д゚)!

米パプアが防衛協力協定 中国念頭、南太平洋で巻き返しへ


 ブリンケン米国務長官は22日、南太平洋のパプアニューギニアを訪問し、同国との防衛協力協定に署名した。地元メディアなどによると、協定によって米軍がパプア国内の港や空港などを利用できるようになり、双方の訓練実施も容易となる。太平洋島嶼(とうしょ)国進出を狙う中国を牽制(けんせい)する思惑がある。

 ブリンケン氏は、パプアの首都ポートモレスビーでのマラぺ首相との会談で「未来を形成するために私たちが一緒に行っている仕事はこれ以上ないほど重要だ」と述べ、関係強化に意欲を示した。当初はバイデン大統領が先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)後にパプア訪問を予定していたが、債務上限問題を巡る対応のため中止し、ブリンケン氏が派遣された。

 両国は外務・防衛閣僚協議(2プラス2)も開始する。米沿岸警備隊がパプアの排他的経済水域(EEZ)をパトロールする協定も締結するなど、幅広い分野で連携が強化された。

 中国は昨年、ソロモン諸島と軍の駐留を可能とする安全保障協定を結ぶなど、島嶼国での影響力拡大を狙っている。米国はソロモンに大使館を開設するなどして巻き返しを図っており、島嶼国最大の人口を抱えるパプアでさらなる浸透を図る考えだ。

 またインドのモディ首相も22日、ポートモレスビーで島嶼国首脳と会議を行い、支援強化を表明した。インドは今年、20カ国・地域(G20)の議長国を務める。

【私の論評】米・パプアニューギニア、ソロモン諸島が中国と安全保障関係を強める動きに対抗(゚д゚)!

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米国はパプアニューギニアと防衛協力協定を締結する方向でした。5月19~21日のG7への出席後、現職米大統領として初めてパプアニューギニアへ訪問し太平洋島しょ国への関与を明確に打ち出す予定でしたが、上の記事にもあるように、バイデン大統領は債務上限問題に対処するため、帰米し、かわりにブリンケン国務長官が訪問したものてす。この動きは隣国ソロモン諸島が中国と安全保障関係を強める動きに対抗するものです。


米国は、中国に対して日本(那覇)、台湾、フィリピンを結ぶ第一列島線に加え、日本(横須賀)グアム、パプアニューギニアを結ぶ第二列島線を意識しており、有事の際の後方支援、戦闘任務の拠点となりえます。

中国は、さまざまな取り組みや関与戦略を通じて、太平洋島嶼国との関係を積極的に構築しています。

外交的承認: 外交的承認:中国は、太平洋島嶼国での存在感と影響力を高めるために、太平洋島嶼国からの外交的承認を求めてきました。2019年にはソロモン諸島とキリバスなど、いくつかの国から承認を得ることに成功しています。

援助と開発プロジェクト: 中国は、太平洋島嶼国に対して実質的な援助と開発援助を提供しています。これらのプロジェクトには、港湾、道路、建物などのインフラ整備のほか、観光や農業などの分野への投資も含まれています。

経済的パートナーシップ: 中国は、貿易協定や投資機会を通じて、経済関係の強化を図っています。例えば、中国は2006年に中国太平洋島嶼国経済発展協力フォーラムを設立し、両国の経済協力を促進しています。

地域イニシアティブ: 中国は、太平洋諸島フォーラム(PIF)や南太平洋観光機関(SPTO)など、太平洋の地域イニシアティブに積極的に参加している。これらの組織と関わり、対話、協力、協調を促進しています。

戦略的重要性 : 太平洋の島々は、その地理的位置と天然資源から戦略的重要性を持っています。中国はこれらの国々と関わることで、重要な資源へのアクセスを確保し、海洋での影響力を拡大し、他の地域の大国の影響力に対抗することができます。

南太平洋を航行する中国の艦艇

南太平洋の島々は、日米豪印にとって戦略的に重要です。重要なシーレーンや空域を支配し、天然資源の供給源でもあります。もし中国がこれらの島々との関係を深めるならば、これらの国々に多くの懸念をもたらす可能性があります。以下にその懸念を列挙します。

中国がその経済力を利用して、これらの国々に貿易や安全保障上の問題で譲歩するよう圧力をかける可能性があります。

中国はその経済力を使って、これらの国々に貿易や安全保障上の問題で譲歩するよう圧力をかけることができます。中国はその軍事力を使ってこれらの国々を威嚇し、この地域の資源へのアクセスを阻止することができます。

中国は、この地域における自国の利益を促進するために影響力を行使する可能性があり、それは日米豪印の利益と対立する可能性があります。

全体として、中国と南太平洋の島々との関係の深化は、これらの国々に多くの懸念をもたらす可能性があります。これらの懸念を認識し、それを軽減するための措置を講じることが重要です。その一環が、今回の米パプア防衛協力協定です。

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2023年5月21日日曜日

「総理、逃げるのですか?」 首相、終了後も追加質問応じる―【私の論評】ウクライナの現実も反映し核廃絶に向けて動いた「広島ビジョン」は日本外交の大成果(゚д゚)!

G7議長国会見

G7終了後記者会見する岸田首相 バックは原爆ドーム

 岸田文雄首相が21日の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)閉幕後の記者会見をいったん終えて立ち去ろうとした際、会見に出席した男性から「1問だけでよいので。総理、逃げるのですか」と追加の質問を投げかけられ、演壇に戻り、答える一幕があった。

 質問は、首相が昨年8月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で発表した核軍縮に向けた行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」についてだった。

 首相は「核兵器国が現在どれだけの核兵器を持っているのか明らかにすることこそが、核兵器国と非核兵器国の信頼の基盤になる」と指摘した。その上で、「透明性を追求することもアクション・プランに明記した」などと説明した。

 会場ではこの質疑が終わってもなお、首相に対し「総理、逃げるのですか」「海外メディアからもお願いします」などと声が飛んだ。

【私の論評】ウクライナの現実も反映し核廃絶に向けて動いた「広島ビジョン」は日本外交の大成果(゚д゚)!

G7閉幕の首相記者会見で最初に指名されたのは、時事通信の記者でしたが、質問の一つが内閣不信任案への対応云々等、国内問題に偏重しすぎており愕然としました。このような質問は、せめて質疑の中盤以降にし欲しいと思います。 これは、内閣記者会の幹事社質問なのでしょうが、横にいる外国人記者たちに聞かれているのが気恥ずかしく感じました。

そうして、最後に「総理、逃げるのですか」と発言し、さら「海外メディアからもお願いします」との発言です。本当にこのやり取りにはうんざりしました。

安倍元総理や菅前総理らが総理だったときの記者会見などでも、事前に決められた時間を過ぎても質問を続けようとしたり、首相が回答後も「逃げないでください」などと投げかけたりする一部の取材方法に、有識者や新聞記者OBから批判が上がっていました

「国民の知る権利」に応えるための追及は必要ですが、手法を誤れば逆にメディアは国民の信を失いかねないです。

元朝日新聞記者で作家の長谷川煕氏は「首相をたたくのが正義と思い込み、政治活動をしている。首相を矮小(わいしょう)なものに見せかけることを目的としている」と批判的に語っていました。

元東京新聞論説副主幹でジャーナリストの長谷川幸洋氏も、会見終了時に質問を投げかける姿勢について「そういうタイミングで声をかけることで、国民に首相が逃げているような印象を与える狙いがあるような気さえする」と指摘しました。

私もそう思います。上の記事を書いた記者はどういうつもりでこのような記事を書いたのかはわかりませんが、首相を矮小化するなどのつもりで書いているなら、非常に問題です。

今回の「核軍縮のための広島ビジョン」に対しては、様々な批判もあります。その批判の中心は「広島ビジョン」が核兵器の即時廃絶求めず、核抑止を認めた上でのビジョンになっていることに批判が集中しているようです。以下にその例をあげます。

「広島ビジョンは機会を逸した。核兵器の即時廃絶を求めず、むしろ核抑止力を認めている。これは危険で無責任な立場である。」- 核軍縮の活動で2017年のノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の事務局長、ベアトリス・ファイン氏。

「"広島ビジョン "は、広島と長崎の犠牲者への裏切りです。核の脅威の緊急性を認めず、核兵器廃絶のために必要な措置を講じない」 - 広島市長の松井一實氏。

「広島ビジョンは、核軍縮に逆行するものである。核兵器の保有を正当化し、その廃絶をより困難にするものです。」- 核兵器廃絶に取り組む医師や医療関係者の世界的組織「国境なき医師団(PSR)」。

2023年5月に広島で開催されたG7首脳会議の最後に、「広島ビジョン」が発表されました。このビジョンは、核兵器のない世界を目指すものですが、核兵器廃絶の期限は定めていません。また、戦争を防ぐための核抑止力の役割も認めている。

広島ビジョン」に対する批判は、核軍縮活動家や広島・長崎の被爆者、医療関係者など、さまざまなところから寄せられている。核兵器の廃絶を求めるには不十分であり、核兵器の保有を正当化するものであるとしています。

ここで、「広島アクションプラン」と、「核軍縮のための広島ビジョン」について掲載します。


広島アクションプランは、2022年のNPT再検討会議で岸田文雄首相が発表した核軍縮のための5つの柱からなる計画である。この計画は、核兵器のない世界は可能であり、その目標に向かって努力することはすべての国の責任であるという信念に根ざしています。

広島アクションプランの5つの柱は以下の通りです。
  • NPTの重要性を再確認する。NPTは、世界の核軍縮・不拡散体制の礎である。すべての国がNPTを強化し、維持するために努力することが不可欠である。
  • 核軍縮に向けた具体的なステップを推進する。世界の核兵器の数を減らすために、取ることのできる具体的なステップが数多くある。これらのステップには、核分裂性物質カットオフ条約の交渉、包括的核実験禁止条約の発効、核兵器の能力や政策に関する透明性の向上が含まれる。
  • 核兵器に対する国際規範を強化する。核兵器の使用を防止するためには、核兵器に対する国際規範が不可欠である。核兵器の危険性に対する認識を高め、核軍縮に関する教育や研究を促進することにより、この規範を強化することが重要である。
  • 平和と対話の文化を築く 核兵器のない世界には、平和と対話の文化が必要である。紛争を平和的に解決し、理解と寛容を促進し、核軍縮のために活動する市民団体の活動を支援することによって、この文化を築くことが重要である。
  • 若者のエンパワーメント 青少年は世界の未来であり、核兵器のない世界を実現するために重要な役割を果たす。核兵器の危険性について教育し、核軍縮の活動に参加する機会を提供することで、青少年に力を与えることが重要である。
広島アクションプランは、核軍縮のための包括的かつ野心的な計画です。核兵器のない世界を実現するためのロードマップであり、この目標を実現するためにすべての国が協力して行動することを求めるものです。

先進7カ国(G7)の首脳は19日、「核軍縮のための広島ビジョン」を発表しました。これは、広島アクションブランの強化版ともいえる内容です。安全保障を損なわない現実的な方法で、核兵器のない世界という「究極の目標」を目指すというG7の姿勢を確認しました。

「核軍縮のための広島ビジョン」は、核兵器のない世界を目指すというG7首脳の意思表明である。このビジョンは、核兵器が世界の平和と安全に対する脅威であり、その存続は容認できないことを認識している。しかし、核兵器が抑止力として重要な役割を果たし、安全保障を損なわない形で軍縮を進めなければならないことも認めています。

ビジョンは、G7諸国が核軍縮を推進するために取るべき具体的なステップを数多く示している。これらのステップには以下が含まれます。
  • 核兵器用の核分裂性物質の生産を禁止する条約に関する交渉の即時開始を呼びかける。
  • 包括的核実験禁止条約(Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty)の発効に向けた取り組み。
  • 核兵器の能力および政策に関する透明性を高める。
  • 原子力の平和利用を促進する。
G7首脳はまた、核兵器のない世界を実現するために、他の国々と協力することを約束しています。ビジョンでは、G7諸国は "核兵器のない世界を促進するために、核兵器を保有する国を含むすべての国と関わりを持ち続ける "と述べています。

核軍縮のための広島ビジョンは、核兵器廃絶に向けた世界的な取り組みにおいて、重要な一歩を踏み出すものです。このビジョンは、軍縮のための明確な道筋を示し、核兵器に対する見解の異なる国々が協力するための枠組みを提供するものです。このビジョンは、核兵器のない世界が可能であることを示す希望の兆しともいえます。

重要なのは、「広島ビジョン」が核兵器の即時廃絶を求めていないことです。その代わり、すべての国の安全保障上の懸念を考慮した「現実的」な軍縮アプローチを求めています。つまり、核抑止力は当分の間、国際安全保障の中で役割を果たし続けることになります。しかし、ビジョンでは、核兵器廃絶という明確な目標を掲げ、その達成に向けたロードマップを提示しています。

核による抑止は認めた上で、核軍縮を求めるというて現実的なアプローチをしたからこそ、G7で合意がなされ「ビジョン」として公表されたのです。

核抑止など考えずに、一方的にG7が核軍縮を進めた、中露北などが核開発を進めた場合、日本を含むG7の国々は、かえって大きな危険にさらされることになります。

旧ソ連邦が崩壊したときに、ウクライナには旧ソ連の核兵器が残されていました。そのため、1991年のソ連崩壊後、ウクライナは世界で3番目に大きな核兵器を保有することになりました。1994年、ウクライナはブダペスト覚書に署名し、米国、ロシア、英国の安全保障の保証と引き換えに、ウクライナの非核化を約束をしました。


ウクライナの核兵器廃棄のために取られた主要なステップは以下のようなものでした。
  • ウクライナ領内にあるすべての核兵器の目録の作成。
  • 核兵器を解体するためにロシアに輸送する。
  • 核兵器の解体
  • 核廃棄物の安全な処理。
ロシアは近隣諸国への侵略の歴史が長く、他国からの介入に対する抑止力として核兵器を使用してきまし。ウクライナの場合も、ウクライナに核兵器による報復能力があれば、ロシアは侵攻しにくくなったかもしれないです。

平和記念公園に立つ、ゼレンスキー大統領と岸田首相

もちろん、ウクライナの政治状況、ロシアにおけるナショナリズムの台頭、NATOの拡張による脅威の認識など、ロシアがウクライナ侵攻に踏み切った要因は他にもあるでしょう。しかし、ウクライナの核軍縮がロシアの侵攻の決断に一役買ったことは明らかです。

ロシアのウクライナへの侵攻は悲劇であり、核兵器の危険性を再認識させるものです。世界は核軍縮の実現に努め、ウクライナが再び侵略されることのないようにしなければならないです。

核抑止については、朝鮮半島の現状をみても理解できます。北朝鮮が核兵器を保有していなければ、中国は朝鮮半島浸透し、今頃中国の属国になっていた可能性もあります。北朝鮮に核兵器がなければ、中国は北朝鮮に圧力をかけて要求を呑ませることができ、より強い立場にあったはずです。

しかし、違った展開になった可能性もあります。米国と韓国はこの地域に強力な軍事的プレゼンスを有しており、中国が北朝鮮を武力で支配しようとした場合、介入する可能性があったでしょう。

結局のところ、北朝鮮が核兵器を持たなければどうなっていたかを断言することはできなです。しかし、核兵器が現在の朝鮮半島情勢を形成する上で大きな役割を果たしたことは間違いないです。無論これは何が良いとか、何が悪いなどの価値判断を示しているわけではありません。あくまで現状分析をしているだけです。

朝鮮半島の現状、ウクライナの運命を知れば、核による抑止を認めた上で、核軍縮を求めるというのはより現実的なアプローチであることが理解できると思います。

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【速報】ウクライナ・ゼレンスキー大統領がG7広島サミット会場に到着

【午後3時50分】 広島に到着したウクライナの ゼレンスキー 大統領がツイッターに投稿しました。「平和がより近づく」と記しました。

 20日午後、広島市で開催中のG7広島サミットに出席するため、ウクライナのゼレンスキー大統領が元宇品地区にあるサミットのメイン会場に入りました。

 ゼレンスキー大統領は午後3時半ごろ、専用機で広島空港に到着。

 午後3時45分すぎ、専用機のタラップを降りると専用車両に乗り換え、高速道路を経由して午後4時40分ごろ、サミット主会場のグランドプリンスホテル広島に到着しました。

 外務省によると、ゼレンスキー大統領は、あす21日にG7広島サミットに参加し、G7首脳との間でウクライナに関するセッションを開催する予定です。ほかの招待国首脳も交えたセッションにもゲストとして参加する予定で、岸田総理との首脳会談も行われる予定だということです。

 広島滞在中、アメリカのバイデン大統領とも首脳会談を行い、原爆資料館にも訪れる方向で最終調整が進められているということです。

【私の論評】ゼレンスキー氏G7広島サミットは参加、ウクライナの情報戦の一環(゚д゚)!

ゼレンスキー大統領がG7広島サミットに参加するため訪日したことで、プーチンはますます世界から孤立することになるでしょう。その理由は次のとおりです。
  • ゼレンスキー大統領は、ウクライナへの侵攻でロシアを非難し続ける主要国の指導者の1人です。彼はG7首脳に、ロシアにさらなる制裁を課し、ウクライナにさらなる軍事支援を提供するよう求めることになります。
  • G7は、世界経済の約4割を占める7か国のグループです。ゼレンスキー大統領がG7首脳と会談することは、ロシアに対して大きな影響力を持つことになります。
  • G7は、ロシアに対する圧力を高める決意を示しています。彼らはロシアに対する制裁を強化し、ウクライナにさらなる軍事支援を提供することを約束しました。
  • G7は、ロシアに対して世界的な孤立を作り出すことに成功しています。ロシアはすでに多くの国から孤立しており、G7の行動は、ロシアをさらに孤立させるでしょう。
これらすべての理由から、ゼレンスキー大統領がG7広島サミットに参加することは、プーチンにとって大きな打撃となるでしょう。それは、彼がますます世界から孤立し、彼の行動に対する責任を問われることになることを意味します。

G7広島サミットの拡大会合に出席したインドのモディ首相は本日、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談しました。首相官邸のツイッターは、両首脳が握手を交わす写真を投稿しました(写真下)。会談内容は明らかにしていません。


消息筋によれば、ゼレンスキー大統領は地雷の除去や移動式病院などにおける支援の必要性についてモディ首相に説明したということです。

一方インドメディアによりますと、モディ首相が「ウクライナ問題は全世界に影響を与える大きな問題だ」と指摘したほか、「ウクライナの市民が感じている痛みを理解している」と語ったということです。

ロシアのウクライナ侵略開始後、G7各国がロシアへの制裁を強める中、インドはロシア産原油の輸入量を増やすなど対露融和姿勢を維持しています。ゼレンスキー氏は対露制裁への協力を求めた可能性もあります。

全体として、G7におけるモディ首相とゼレンスキー大統領の会談は、その影響は、ロシアにとって複雑なものになる可能性があります。

今回のサミットにはインドやブラジルなど対ロシアで中立の立場を維持している新興・途上国「グローバルサウス」を代表する首脳が参加していて、ゼレンスキー大統領はこうした国々にも直接ウクライナへの支援を訴える方針です。

ゼレンスキー氏は同日午後3時半ごろフランス政府機で広島県に到着。広島市でイタリアのメローニ氏や英国のスナク氏らとも首脳会談を行いました。

ゼレンスキー氏は広島訪問前日の19日には、サウジアラビア西部ジッダでアラブ連盟の首脳会議に出席。一部の指導者が「戦争を見て見ぬふりをしている」と中東各国に支持を求めていました。

サウジ・アラビアを訪れたゼレンスキー

ウクライナのゼレンスキー大統領が最近盛んに行っている海外訪問は、一種の情報戦と見ることができます。各国を訪問し、世界のリーダーたちと会談することで、ゼレンスキーはウクライナの苦境を常に注目させ、ロシアに戦争終結の圧力をかけることができます。

また、ゼレンスキー氏の訪問は、ウクライナへの支持を高めるための手段にもなっています。講演や会合で、国際社会に対し、ウクライナへの軍事・財政支援の強化を訴えてきました。また、ウクライナの欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)への加盟を強く訴えています。

ゼレンスキー氏の努力は、多くの国から好意的に受け止められています。米国、欧州連合(EU)、NATOはいずれも、ウクライナへのさらなる支援を約束しました。また、多くの国がロシアに制裁を課し、戦争終結の圧力をかけようとしています。

ゼレンスキーの情報戦がどの程度有効かはまだ分からないですが、彼があらゆる手段を駆使して戦争に勝とうとしていることは明らかです。今回の海外訪問は、その戦略の一環に過ぎません。

ゼレンスキーが最終目標である戦争に勝つことができるかどうかはまだわからないですが、彼の情報戦キャンペーンが影響を及ぼしていることは確かです。

一方、プーチンはどうかといえば、ゼレンスキー氏のような有効な情報戦は展開できていないようです。

ロシア内務省は、ロシアのウクライナ侵略を巡ってプーチン露大統領らに戦争犯罪の疑いで逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)のカリム・カーン主任検察官を指名手配した。プーチン政権はICCに激しく反発しており、報復の一環てあり、無論プーチンの情報戦の一環でしょう。

内務省はカーン氏を指名手配対象者のデータベースに掲載しました。独立系ニュースサイト「メディアゾーナ」は19日、プーチン氏に対する逮捕状の発出に関わったとされる日本の赤根智子氏らICCの裁判官3人の氏名をデータベースで確認できなかったと報じました。

露連邦捜査委員会は3月、カーン氏とICC裁判官3人に対する捜査を始めると発表していました。ロシアでは4月末、ICCの逮捕状執行に協力した場合、刑事罰を科す法律が発効しています。

ただし、ロシア内務省がカリム・カーンを指名手配したことは、ウクライナで行われた戦争犯罪に関するICCの捜査に大きな影響を与えるとは考えにくいです。ICCは独立した国際裁判所であり、どこかの国の気まぐれに左右されることはありません。ロシアが何をしようと、ICCは調査を継続するでしょう。

それにカリム・カーン氏がロシア内務省に指名手配をされたとしても、他国に対してそれを強制するだけの権限はありません。一方、ICCの指名手配は、他国に強制力があります。

国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程の締約国は、国際刑事裁判所ローマ規程(ローマ規程)を批准し、またはその他の方法により同規程に加盟した国家のことです。

  締約国   未批准の署名国   後に脱退した締約国   後に署名を撤回した署名国   非加盟国

ローマ規程は、締約国の国民によって、あるいは締約国の領域内で犯された、集団殺害犯罪や人道に対する犯罪、戦争犯罪を含む一定の国際犯罪について管轄権を有する国際裁判所である国際刑事裁判所(ICC)を設立するための条約です。

締約国は、同裁判所から要請された際には、訴追された者の逮捕および引渡しや、証拠や証人を利用できるようにするといった協力を行うことが、法的に義務づけられています。

よって、プーチンがローマ規程締約国に訪問した場合、当該国はプーチンを逮捕する義務を負いますが、ロシア内務省はそのようなことはできません。

ロシア内務省がカリム・カーンを指名手配しても、ロシアを訪問しない限り、逮捕されることはありません。親ロシア国であったとしても、ロシア内務省が指名手配した人物を逮捕してロシアにおくらなければならない等という義務も法的根拠もありません。

これでは、情報戦としても、ほとんど効き目はないでしょう。クリミア侵攻では、功を奏したロシアの情報戦は、最近ではめぼしい成果をあげていないようです。



一方、ゼレンスキーが最近頻繁に海外を訪れていることは、先にもあげたように非常に効果的です。

ゼレンスキー氏の努力は、多くの国から好意的に受け止められています。米国、欧州連合(EU)、NATOはいずれも、ウクライナへのさらなる支援を約束しました。さらに、多くの国がロシアに制裁を科し、戦争終結の圧力をかけようとしています。

G7は、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の7か国で構成されています。これらはすべてNATOのメンバーであり、ロシアとウクライナの戦争に反対しています。ゼレンスキー大統領がG7サミットに出席することは、日本がNATOとより緊密な関係を築き、ロシアに対する姿勢を強めていることを示すものです。これは、ロシアにとって日本が事実上の敵国であることを意味します。

ゼレンスキー氏の今回のG7広島サミットへの参加は、最近のゼレンスキー氏の矢継ぎ早の海外訪問の総仕上げともいえるべきものであり、間近で行われるであろう、ウクライナによる大反攻を少しでも有利に導こうとの、熱意のあらわれであるとみられます。

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2023年5月19日金曜日

「フランス政府の専用機で日本に」 ゼレンスキー大統領がG7広島サミット出席のため ロイター通信が報じる―【私の論評】国際的行動に制限のあるプーチンを尻目に、ウクライナ存在感を世界に再び強く訴求するゼレンスキー(゚д゚)!

「フランス政府の専用機で日本に」 ゼレンスキー大統領がG7広島サミット出席のため ロイター通信が報じる

ゼレンスキー大統領

ロイター通信は関係者の話として、ウクライナのゼレンスキー大統領がG7広島サミットに出席するため、サウジアラビアのジッダからフランス政府の専用機で日本に向かう予定だと報じました。

ゼレンスキー氏は現在、19日に開かれるアラブ連盟の首脳会議に出席するため、サウジアラビアに向かっているということです。

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日本は、ゼレンスキー大統領がG7広島サミット出席のため、来日するというニュースでわいていますが、私自身は、これにはさほど驚きはしませんでした。

なぜなら、岸田文雄首相は今年3月、ウクライナの首都キーウでゼレンスキー氏と会談した際、広島サミットへの出席を要請し、ゼレンスキー氏はオンライン参加の意向を示していたとされています。(産経新聞)

岸田首相は、広島サミットへの出席を要請していたわけですから、元々来日する可能性はあったといえます。

ゼレンスキー氏は14日、前日のイタリア訪問に続いて、ロシアの侵略開始後初めてベルリンを訪れた。会談したショルツ首相との共同記者会見で、ドイツが13日に発表した過去最大規模となる4000億円相当の追加軍事支援などに謝意を示した。

反転攻勢に関し、「成功への準備がほぼ整った」と述べつつも、兵器が不足しているとの認識もにじませた。ショルツ氏は「必要な限り支援を続ける」と応じた。

14日にはフランスに移動し、マクロン大統領と会談した。共同宣言でマクロン氏は、数週間以内に「軽戦車」と呼ばれる「AMX―10RC」を含む装甲車数十台を提供し、兵器供与を継続する方針を示した。

この会談のときに、ゼレンスキー大統領とマクロン大統領は、ゼレンスキー大統領が、訪日してG7に参加するなら、フランスの航空機を手配する旨を約束したかもしれません。

その目的は何といっても、いわゆるマクロン大統領の「台湾発言」による失地回復だと考えられます。

マクロン仏大統領は、4月上旬に中国を国賓として訪問した後、フランスへの帰国の飛行機の中で一部メディアとのインタビューに応じ問題発言をしていた

訪仏後の15日には、ロンドン郊外で英国のスナク首相と会談しました。スナク氏は、ウクライナが求める米国製F16戦闘機の供与実現に向けた協力を約束し、ウクライナ空軍パイロットへの飛行訓練を今年夏に開始すると伝えました。

伊独仏英は北大西洋条約機構(NATO)の主要国で、先進7か国(G7)のメンバーでもある。ゼレンスキー氏の訪問は、広島でのG7首脳会議を前に各国と認識を共有する狙いもありそうです。

そうして、さらにゼレンスキー大統領は、先進7か国首脳会議(G7サミット)に出席するため、来日することが伝えらました。ゼレンスキー氏の来日は、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、初めてのアジア訪問となります。

ゼレンスキー氏の来日が決まった経緯については、まだ詳細は明らかにされていません。しかし、G7首脳がロシアによるウクライナ侵攻への対応を協議する中で、ゼレンスキー氏の出席が重要と判断されたと考えられます。

ゼレンスキー氏は、これまでもオンラインでG7首脳会議に出席し、ロシアによるウクライナ侵攻への支援を求めてきました。今回の来日では、G7首脳に直接会って、ウクライナへのさらなる支援を訴えるものとみられます。

昨年10月G7のオンライン会議に参加したゼレンスキー大統領

また、ゼレンスキー氏は、被爆地である広島を訪問することも伝えられています。広島は、1945年にアメリカが原子爆弾を投下した都市であり、核兵器の恐ろしさを世界に訴える場所です。ゼレンスキー氏の広島訪問は、核兵器のない世界への思いを示すものとみられます。さらに、ロシアが核を使うことを牽制する意図もあるとみられます。

ゼレンスキー大統領は、核兵器の惨禍を目の当たりにした広島で演説を行うことで、ウクライナの人々がロシアの侵略に苦しんでいることを世界に訴える機会を得ることができます。また、G7首脳にウクライナへのさらなる支援を求めることもできます。

G7首脳会議は、ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアに対する制裁やウクライナへの支援について協議する予定です。ゼレンスキー大統領の演説は、G7首脳にウクライナへの関与を継続するよう促す重要な機会となるでしょう。

また、ゼレンスキー大統領のG7首脳会議への出席は、ウクライナに対する国際社会の連帯を示すことも意味します。G7首脳はゼレンスキー大統領の演説を聞いて、ウクライナを支援し続けることを約束するでしょう。

ゼレンスキー大統領のG7首脳会議への出席は、ウクライナにとってもG7首脳にとっても重要な機会となります。ゼレンスキー大統領は世界にウクライナの人々の声を届けることができ、G7首脳はウクライナへの支援を継続することを約束することができます。

ゼレンスキー大統領の日本訪問は初めてではありません。19年10月にも来日。天皇陛下の即位礼正殿の儀に参列し、当時首相の安倍晋三氏とも会談しました。

安倍総理(当時)とゼレンスキー大統領

安倍晋三元首相の訃報を受け、ウクライナのゼレンスキー大統領は昨年7月8日、「残忍な暗殺事件だ。この憎むべき暴力行為にはいかなる口実もつけられない」とし、遺族と日本国民に心からの哀悼をささげるとツイッターを通じて表明しました。

プーチンは以前このブログにも示したように、国際司法裁判所から指名手配を受けており、日本は、プーチンが来日した場合、逮捕して引き渡す義務を負っています。プーチンは日本にはもうこれません。ゼレンスキー氏はこれも意識したかもしれません。

国際的な行動には制限があるプーチン氏を尻目に、ゼレンスキー国際的な檜舞台であるG7で歴史に残るような大演説し、長引く戦争により忘れ去られがちになりつつあったウクライナの存在感を世界に再びアピールすることができます。考えてみれば、抜け目のないゼレンスキー氏がこの機会を逃すはずがありません。

岸田政権によっても、今回G7はゼレンスキー大統領の参加ということで、さらに注目を浴びるものになるでしょう。



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2023年5月18日木曜日

GDP、3期ぶりプラス 年1.6%増、消費けん引―海外減速に不安・1~3月期―【私の論評】安倍・菅両政権における100兆円の補正予算がもっと使われていれば、経済はさらに伸びたはず(゚д゚)!

GDP、3期ぶりプラス 年1.6%増、消費けん引―海外減速に不安・1~3月期


 内閣府が17日発表した2023年1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.4%増、この成長が1年続いた場合の年率換算で1.6%増となった。22年10~12月期がマイナスに改定されたため、プラス成長は3期ぶり。コロナ禍からの経済活動の正常化に伴う個人消費の増加が景気の持ち直しを支えたが、海外経済減速の影響もみられ、回復の持続には課題が残る。

 1~3月期のGDPの増減に与える影響(寄与度)は内需がプラス0.7%だったのに対し、外需はマイナス0.3%だった。内需の柱である個人消費は前期比0.6%増と4期連続のプラス。外出の増加で外食や宿泊などサービス消費が好調だったことに加え、供給制約の緩和で、自動車の販売が回復した。設備投資も0.9%増と2期ぶりのプラス。国内販売が好調だった自動車への投資支出の増加が寄与した。

 一方、輸出は4.2%減と6期ぶりのマイナス。統計上は輸出に分類するインバウンド(訪日外国人)消費が伸びたが、世界的な半導体市況の悪化を受けた半導体製造装置の落ち込みや自動車の減少などが響いた。

 同時発表した22年度の実質GDP成長率は前年度比1.2%増と2年連続のプラスを確保した。金額は、名目ベースでは物価上昇の影響で561兆円と比較可能な1994年度以降で最高となったが、実質では547兆円とコロナ前の19年度(550兆円)を下回った。

【私の論評】安倍・菅両政権における100兆円の補正予算がもっと使われていれば、経済はさらに伸びた(゚д゚)!

このGDPの速報に関して、高橋洋一氏が動画で説明しています。その動画を下に掲載します。

高橋洋一氏は、動画の中で、GDPが伸びていることは評価すると述べています。これは、安倍・菅政権合わせて100兆円の補正予算が組まれ、経済対策が行われたものによるとしています。

ただ、目詰まりがあり、100兆円がフルに使われていないため、本来もっと伸びているはずがさほとでもないことになっていると考えられるとも語っています。

それには、具体的な根拠があります。

100兆円の補正予算のうち、2022年10月末までに消化されたのは約45兆円にとどまっています。岸田政権が成立したのは、2021年(令和3年)10月4日ですから、岸田政権が成立して1年近くたってもこの程度しか消化されていなかったことになります。

2023年5月18日現在では、100兆円の補正予算のうち約87兆円が消化されました。(出典:財務省「令和3年度第3次補正予算の執行状況について」)。それでも、まだ13兆円が未消化です。

これは、財務省が財政規律をを重視し、補正予算の使い方に慎重になっていることが一因と考えられます。高橋洋一氏流にいえば、まさに「姑息な手段で財政出動をさせないZ?のやり口」ということです。

また、補正予算の対象となる事業が、受注者や実施団体などの調整に時間がかかっていることも、消化の遅れにつながっていると考えられます。

例えば、2021年度補正予算で計上された「デジタル田園都市国家構想推進交付金」は、2022年10月末時点でまだ10%程度しか消化されていませんでし。これは、交付金の対象となる事業が、まだ具体的に決まっていないことが一因と考えられます。

デジタル田園都市国家構想推の概念図

高橋洋一の氏語る、目詰まりとは何なのでしょうか、無論財務省による財政重視の姿勢があることはいうまでもないですが、その具体的な現れの一つとして、日本の経済対策のほとんどが補助金・助成金によることがあげられます。

補助金、助成金は、申請から交付までに時間がかかることがあり、また、交付後も事業の実施状況の確認や検査など、多くの事務が発生します。そのため、地方自治体などの事務が追いつかず、未消化となっている可能性があります。

政府の経済対策における補助金・助成金のほぼすべてが、主管は中央省庁ですが、実際に交付するのは地方自治体の事務ということになります。となると、100兆円分の補助金・助成金の事務処理は地方自治体の事務処理量をかなり増やすことになります。これは、コロナ対策の初期のクラスターの把握で、各地の保健所の事務量がとてつもなく増えたことでも、ご理解いただけると思います。


無論、到底地方自治体だけでは、処理仕切りれない事務の場合は、外部に委託しますが、外部に委託にするのにも時間がかかります。

また、補助金、助成金は、事業の実施に一定の条件が設けられている場合が多く、これらの条件を満たす事業者がいないことも、未消化の一因となっている可能性があります。

このように、100兆円の補正予算の消化が遅れている原因は、補助金、助成金などの事務が追いつかず、未消化の原因となっている可能性は十分にあると思います。

経済対策の柱を補助金・助成金ではなく、減税にすれば、対策を素早く行える可能性は十分にあると思います。減税は、補助金・助成金のように、申請や審査などの手続きが不要なため、すぐに効果を発揮することができます。また、減税は、国民のすべての人に行き渡る可能性があるため、補助金・助成金のように、特定の層に偏った効果をもたらす可能性は低くなります。

無論、政策によっては、補助金・助成金も必要ですが、日本では例外はあるものの、ほとど減税策はとられず、補助金・助成金によって実施されます。この体質はいずれ、変えるべきでしょう。そうでないと、せっかく補正予算を組んでも、経済対策が滞ることになります。

ジョン・メイナード・ケインズなどの経済学者が提唱した有効需要論は、経済生産と雇用の水準を決定する総需要の重要性を強調するものです。この理論によれば、減税措置と補助金・助成金のいずれを景気刺激策として用いるにしても、最終的な目的は総需要を高め、経済活動を活性化させることになります。

これを考えれば、やはり地方自治体の事務量を減らし、対策を速やかに行うためには、政府の経済対策における減税の比率を高めたほうが良いと思います。

日本のようにデフレが続いている場合には、減税によって消費を喚起し、景気回復を促すことが期待できます。また、減税は、企業の設備投資や研究開発を促進し、経済成長につながる効果もあります。

このように、減税には、財政赤字を拡大するリスクと、景気回復や経済成長につながる効果の両方があります。

もし、経済対策でもっと減税策が用いられ、すみやかに行われていれば、今回の速報値でももっとGDPが伸びていた可能性が十分にあります。特に、消費税減税などが行われていれば、かなり効き目があり、かなり伸びていた可能性があります。

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2023年5月17日水曜日

ウクライナが「キンジャール」6発撃墜と発表、ロシアが迎撃不可能とうたう極超音速兵器―【私の論評】全ての防空システムを貫通できるとロシアが豪語していたキンジャールの性能は否定された(゚д゚)!

 ウクライナが「キンジャール」6発撃墜と発表、ロシアが迎撃不可能とうたう極超音速兵器



 ウクライナ軍は、極超音速ミサイル「キンジャール」6発を含むロシアのミサイル18発を迎撃したと発表した。この発表が事実なら、ロシアがかつて迎撃は不可能な「超兵器」と豪語していたキンジャール(ロシア語で「短剣」の意)ミサイルに対する、新たに配備された西側の防空網の有効性を示すことになる。

 キンジャールミサイルとはどんな兵器で、その撃墜は何を意味するのだろうか。

 これは、ミサイルの残骸が落下した現場を撮影したとされる写真。残骸落下に伴い3人が負傷したという。


 キンジャールは音速の10倍で飛行できるとされ、それゆえ極超音速ミサイルと呼ばれている。一方ロシア国防省はキンジャールが、ウクライナに最近配備された米国製のパトリオット防空システムを破壊したと主張している。

 ロシアのプーチン大統領は、キンジャールを北大西洋条約機構(NATO)に対抗できる「次世代兵器」だとたびたび述べている。射程は2000マイルで、核弾頭または通常弾頭を搭載することが可能だ。

 キンジャールが初めて公開されたのは2018年。ロシア国防省が公開したこの映像は、戦闘機から発射される様子を写したものだ。ロシアは、昨年ウクライナで初めて使用したとしているが、使用を認めたのは数回しかない。

 ウクライナ側は今月、パトリオットを使ってキンジャール1発を初めてキーウ上空で迎撃したと発表していた。これまでパトリオットによるキンジャールの迎撃は理論上のものでしかなかった。一度に6機を撃墜したことは、単にまぐれではなく、信頼できる防衛手段になり得ることを示唆している。

 ロシアが保有する極超音速兵器はキンジャールだけではない。海軍の艦船に搭載可能なツィルコンと呼ばれる極超音速巡航ミサイルも保有している。

【私の論評】全ての防空システムを貫通できるとロシアが豪語していたキンジャールの性能は否定された(゚д゚)!

ウクライナが「キンジャール」6発撃墜が事実ならパトリオットによる迎撃は「まぐれ」ではなく、全ての防空システムを貫通できると豪語していたキンジャールの性能は否定されたことになります。

ロシアがキンジャールは全ての防空システムを貫通できると豪語したことに対して、疑義を挟む人々はたくさんいます。代表的な人物をいくつか挙げます。

スウェーデンの防衛研究所の研究員であるミカエル・ペルソンは、「キンジャールは複雑なミサイルであり、迎撃が難しいことは事実です。しかし、不可能ではない」と述べています。

英国の王立国際問題研究所の研究員であるマーク・ガノンは、「キンジャールは非常に高速で機動性の高いミサイルですが、無敵ではありません。迎撃できる防御システムは存在します」と述べています。

米国の戦略国際問題研究所の研究員であるジェフリー・ルイスは、「キンジャールは脅威には違いありませんが、壊滅的な兵器ではありません。迎撃できる防御システムは存在します」と述べています。

これらの専門家は、キンジャールは確かに脅威ではありますが、無敵ではないと考えています。キンジャールは迎撃が難しいミサイルですが、不可能ではないし、壊滅的な兵器でもありません。キンジャールを迎撃できる防御システムは存在し、ウクライナ軍はキンジャールを撃墜できることを今回証明したのです。

キンジャールミサイルと従来の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の主な違いは、その推進システムと運用特性にあります。

キンジャールを搭載したMIG31

推進装置: 従来のICBMが液体燃料または固体燃料エンジンを使用しているのに対し、キンジャールミサイルは固体燃料ロケットエンジンを搭載しています。

発射プラットフォーム: キンジャールミサイルはMiG-31のようなロシアの戦闘機から空中で発射されるのに対し、従来のICBMは地上のサイロや移動式発射台から発射されます。

作戦範囲 :キンジャールは、従来のICBMに比べ、比較的短い運用距離です。従来のICBMが数千キロメートルの大陸間射程を持つのに対し、キンジョールは数百キロメートルまでの短距離精密攻撃用として設計されています。

速度:キンジャールも従来のICBMも超音速に達することができますが、具体的な速度はミサイルの種類と設計によって異なります。

ロシア北西部のプレセツク宇宙基地から発射される大陸間弾道ミサイル「サルマト」=2022年4月20日

つまり、キンジャールミサイルは空から発射され、射程が短く、精密な攻撃を目的とし、従来のICBMは地上から発射され、射程が長く、主に戦略的抑止のために使用されます。

キンジャールははるかに高速で飛行するため、従来の防空システムでは迎撃が困難とされてきました。また、キンジャールのもう1つの特徴は、非常に機動性が高いことです。キンジャールは、急旋回や急降下などの複雑な機動を行うことができるとされ。これにより、迎撃がさらに困難とされました。

ウクライナ軍がロシア軍のキンジャールを撃墜したことは、ウクライナ軍がロシア軍の最新兵器に対する防御力を備えていることを示しています。無論、これには米軍などの協力もあるでしょう。米軍などの哨戒機は日々ポーランドの上空などを飛行しウクライナの情報を収集しているでしょうし、監視衛星も情報収集し、これらをウクライナ側に伝えていることでしょう。

今回の撃墜はこうした米国などの支援も含めた結果によるものでしょうが、ウクライナがロシアの侵略に抵抗する能力を高めるという意味で、軍事的に大きな意味があります。

ウクライナ軍がキンジャールを撃墜できたことは、ウクライナ軍の士気の向上にもつながる可能性があります。ウクライナ軍は、ロシアの侵略に対して大きな苦戦を強いられており、兵士の士気が低下しているという報告もあります。キンジャールを撃墜できたことは、ウクライナ軍がロシア軍に立ち向かうことができることを示しており、士気の向上につながる可能性があります。

さらに、ウクライナ軍がキンジャールを撃墜できたことは、ロシアがウクライナに対して核兵器を使用できない可能性、使用したとしても撃墜される可能性を示しています。これは、ロシアがウクライナに核兵器を使用することを思いとどまらせるのに役立つ可能性があります。

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2023年5月16日火曜日

電気料金、6月から14~42%値上げへ…平均家庭で月1000円超の負担増―【私の論評】電気料高騰は、誰にとっても身近な問題。岸田政権が真摯にむきあわなければ、これが政権のアキレス腱に(゚д゚)!

電気料金、6月から14~42%値上げへ…平均家庭で月1000円超の負担増

 経済産業省は16日、電力大手7社が申請した家庭向け電気料金の値上げについて14~42%の引き上げを認可する方針を固めた。各社は6月1日から料金を見直す見通しだ。平均的な使用量の家庭で7月請求分の電気料金は、6月分に比べて1000円を超える負担増となる見込みだ。

 政府が16日朝の物価問題を議論する関係閣僚会議で、東京電力など7社が申請した、家庭向け契約の多くを占める「規制料金」の値上げ幅を決める査定方針案を了承した。査定方針に基づき、西村経産相が今週にも値上げを正式に認可する。


 値上げは、中部、関西、九州の3電力を除く大手7電力が申請していた。経産省によると、値上げ率は、各社が当初申請した28~48%から4~14ポイント縮小した。経産省が有識者会議で値上げ幅の査定方法を議論した結果、燃料費や修繕費、業務委託費などを切り詰めた。また、申請当初に比べて値下がりした燃料価格も考慮した。

 西村経産相は16日の閣議後記者会見で、「前例にとらわれず極めて厳格な査定を行った」と述べた。

 実際の電気料金の値上げ幅は、各社が今後詰めるが、月1000円を超える見込みだ。

 一方、経産省は、電力各社が値上げを申請した昨年11月に比べると、料金負担は軽くなるケースが多いとしている。今年に入って以降、政府が電気料金を抑える負担軽減策などを講じているためだ。具体的には、平均的な使用量の家庭の7月請求分の電気料金は、北陸電力と沖縄電力を除く5社で、申請前の時点に比べて値下がりとなる。

 電力大手は、燃料費の高騰などに伴う経営環境の悪化を受けて、昨年11月以降、東北、北陸、中国、四国、沖縄が今年4月から、北海道、東京が同6月からの値上げを申請した。しかし、申請前後で、電力大手の間で顧客情報の不正閲覧問題や事業者向け電力販売でのカルテル問題など不祥事が相次ぎ発覚した。不信感の高まりを踏まえ、政府が電力会社に値上げ幅の再検討を要請したほか、消費者庁が経産省に厳しくチェックするよう求めていた。

【私の論評】電気料高騰は、誰にとっても身近な問題。岸田政権が真摯にむきあわなければ、これが政権のアキレス腱に(゚д゚)!。

東京電力など電力大手7社の家庭向け規制料金の値上げ申請を巡り、有識者が経済産業省に説明を求める会合が10日、消費者庁で開かれた。経産省側は、カルテルなどの不祥事が電力業界の高コスト体質に影響した可能性があるとの認識を示しました。

会合は3回目。有識者はこれまで、電力業界のカルテル問題や顧客情報の不正閲覧などの不祥事が値上げ幅に影響した可能性を指摘し、経産省に説明を求めていました。

この日の会合では、経産省側が、不正の影響があったとした上で「厳しい査定が必要」と説明しました。有識者は、認可後もコストの効率化や不正が電気料金へ与えた影響を検証するよう求めました。

経産省がカルテルなどの不祥事が電力業界の高コスト体質に影響した可能性があると認識した根拠は、以下のようなものです。

  • 2012年に発覚した電力小売業者の燃料費調整制度に関するカルテル事件。この事件では、電力小売業者9社が燃料費調整制度のルールを操作し、不当に利益を得ていたことが発覚しました。
  • 2013年に発覚した電力会社による顧客情報の不正閲覧事件。この事件では、東京電力を含む複数の電力会社が、顧客の個人情報を不正に閲覧していたことが発覚しました。
  • 2016年に発覚した電力会社による原子力発電所の安全対策費の不正計上事件。この事件では、東京電力を含む複数の電力会社が、原子力発電所の安全対策費を不正に計上していたことが発覚しました。
これらの不祥事は、電力業界における競争の不公正や、コストの不透明化につながり、電力料金の高騰の一因となったと考えられます。

また、電力業界は規制産業であり、新規参入が難しいことも、高コスト体質の一因となっています。

電力業界の高コスト体質を改善するためには、競争を促進し、コストの透明化を図ることが重要です。また、新規参入の規制緩和も必要です。

以下に主要国の電力料金の国際比較のグラフを掲載します。

クリックすると拡大します

グラフでみてもわかるように、日本の電気料金は、世界でも高い水準にあります。

電気料金の高さは、日本経済に様々な影響を及ぼしています。まず、電気料金の高騰は企業のコスト増につながり、企業の収益を圧迫しています。また、電気料金の高騰は家計の負担も増やしており、消費の低迷につながる可能性があります。さらに、電気料金の高騰は、脱炭素化への移行を困難にする可能性もあります。

今後も日本の電気料金は高止まりが予想されています。これは、世界的なエネルギー価格の高騰や、再生可能エネルギーの導入コストの上昇などが原因です。電気料金の高騰は、日本経済に大きな影響を及ぼす可能性があるため、政府は対策を講じる必要があります。

また、原発の稼働が進んでいないことにも原因があると考えられるでしょう。

2011年の福島第一原子力発電所事故以降、日本では原発の稼働が停止し、電力供給の一部を補うことができなくなりました。そのため、電力会社は石炭や天然ガスなどの他の燃料に切り替えざるを得なくなり、電気料金が上昇しました。

福島第一原発の制御室

また、原発は安定した電力供給源であるため、原発の稼働が停止したことで、電力供給の安定が悪化しました。これにより、電力会社は電力不足に備えて、電気料金に余裕を持たせざるを得なくなり、電気料金が上昇しました。

近年、日本では原発の再稼働が進められていますが、それでも原発が震災前の稼働率に戻るには時間がかかるでしょう。そのため、今後も日本の電気料金は高止まりが続く可能性があります。

具体的な稼働の遅れに関して事例をいくつかあげます。

  • 東北電力女川原発2号機:2012年に再稼働の申請を行ったものの、2023年現在も再稼働の目処が立っていません。
  • 関西電力高浜原発1号機:2015年に再稼働の申請を行ったものの、2023年現在も再稼働の目処が立っていません。
  • 九州電力玄海原発3号機:2016年に再稼働の申請を行ったものの、2023年現在も再稼働の目処が立っていません。
  • 泊原発には、3基の原子炉があります。2013年7月に再稼働の申請を行ったものの、2023年現在も再稼働の目処がたっていません。

泊原発、再稼働すれば、北海道の電力供給の逼迫は確実に解消される

これらの原発は、いずれも新規制基準に適合していると認定されていますが、地元自治体の同意を得ることができず、再稼働が遅れています。また、原子力規制委員会による審査も厳格化されており、再稼働までに時間がかかっています。

岸田政権は、2021年にエネルギー基本計画を改定し、原発の再稼働を進める姿勢を打ち出しました。しかし、その後の状況を見ると、計画通りに進んでいるとは言い難い状況です。

まず、再稼働の申請が進んでいる原発の数は、計画した数を下回っています。計画では、2030年までに30基の原発を再稼働させるとしていました。しかし、現在、再稼働の申請が進んでいる原発は19基にとどまっています。これは、原発の再稼働に反対する声が根強く、地元の同意が得られないことが原因です。

また、再稼働が進んでいる原発についても、計画通りに再稼働できるかどうかは不透明です。例えば、関西電力高浜原発の再稼働は、2022年11月に地元の同意が得られました。しかし、原子力規制委員会の審査は遅れており、2023年中の再稼働は難しいと見られています。

このように、岸田政権の原発再稼働計画は、計画通りに進んでいるとは言い難い状況です。これは、原発の再稼働に反対する声が根強く、地元の同意が得られないことが原因です。また、原子力規制委員会の審査も遅れているため、原発の再稼働が遅れる可能性もあります。

これらの原発が再稼働すれば、日本の電力供給の安定に大きく貢献する可能性がありますが、現時点では再稼働の目処は立っていません。

私自身は、原発反対派が新しく既存のタイプの原子力発電所を設置することに反対することに関しては、ある程度理解できなくもありません。

しかし、すでに稼働していて、それを地震や津波などの被害で、一時的に稼働を廃止した原子炉についても、全部廃炉にしろというような意見には、とても同意できません。

なぜなら、原子力発電所は、廃炉を決定したとたんに安全になるわけではないからです。原子力発電所の廃炉を決定することは、施設の安全な閉鎖と解体を確実にするために、慎重に計画され管理されたプロセスの最初のステップに過ぎません。

放射性物質の存在に関連するリスクを軽減し、安全上の懸念に対処するための一連の行動や対策が含まれます。廃炉は複雑で時間のかかるプロセスであり、慎重な計画、実施、規制要件の遵守が必要です。作業員、公衆、環境を守るため、廃止措置の全過程において安全への配慮が重要であることに変わりはありません。

経済合理性から考えると、廃炉にしようが、しまいが危険であることには変わりなく、であれば、安全性が確保できたとみられる原発に限ってはすみやかに稼働させるべきと思います。電気料が高騰し続ければ、産業界からも国民からもこういう声が大きくなっていくことでしょう。

さらに日本は地震や台風などの自然災害が多い国です。このような自然災害が発生した場合、電力供給が不足し、停電が発生する可能性があります。あるいは、電力需要が大きい時間帯には計画停電をせざるを得ない状況に追い込まれことも十分にあります。

2018年の北海道胆振東部地震では、北海道全域で停電が発生しました。この停電は、東大日本震災により原発の危険が認識され、安全点検などのため停止しされていたため、電力供給が不足したことが原因です。

もし、このまま原発の再稼働がされず、自然災害が発生した場合、全国各地で停電が発生する可能性があります。これは、日本は火力発電に依存しているため、自然災害によって発電所が停止すると、電力供給が不足するからです。

また、日本は人口密度が高く、送電線の整備が進んでいないため、停電が広範囲に及ぶ可能性があります。

全国各地で停電が発生すると、交通機関が停止し、生活に必要な物資が行き渡らなくなる可能性があります。また、病院や学校も停止する可能性があるため、人命にも危険が及ぶ可能性があります。

このような危機を回避するためには、原発の再稼働を進め、電力供給の安定化を図る必要があります。また、送電線の整備を進め、停電の拡大を防ぐ必要があります。

さらに、停電に備えて、家庭や企業が自家発電設備を導入することも重要です。自家発電設備があれば、停電時でも電気を供給することができるため、生活に大きな支障をきたすことを防ぐことができます。ただ、これも一時しのぎにすぎす、やはり安定的な電力供給をしていく必要があります。

岸田政権には、これらの課題に真正面から取り組み、電気料の問題をなるべくはやく解決していただきたいです。電気料に関しては、誰にとっても身近な問題であり、これに対して岸田政権が真摯にむきあわなければ、これが政権のアキレス腱になりかねないと思います。

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2023年5月15日月曜日

ウクライナ復興100兆円超必要―【私の論評】海外支援は気前よく、国内で何かするとなると、「財源=増税」というのは変という感覚は正しい(゚д゚)!

ウクライナ復興100兆円超必要

シュミハリウクライナ首相

 ウクライナのシュミハリ首相は4日、同国がロシアの侵攻で受けた被害の復興計画に必要な資金が「既に7500億ドル(約101兆7千億円)に上ると見積もられている」とし、資金源として各国が凍結したロシア政府や同国の新興財閥オリガルヒの資産を没収し、これを充当するよう訴えた。スイス南部ルガノで開かれた「ウクライナ復興会議」での演説で述べた。

 凍結したロシア資産をウクライナ復興に利用する案は、各国の法制度上の取り扱いなど解決すべき課題が多く、実現に向けたハードルは高い。

【私の論評】海外支援は気前よく、国内で何かするとなると「財源=増税」というのは変という感覚は全く正しい(゚д゚)!

岸田首相

政府は15日、ロシアの侵攻が続くウクライナの経済復興に向けた関係省庁による準備会議(議長・木原誠二官房副長官)の初会合を首相官邸で開いた。19~21日の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に先立ち、ウクライナ復興を重視する姿勢を内外に示す狙いがあります。

交通機関や電気、通信などのインフラ復旧、産業振興の具体策を検討。岸田文雄首相は冒頭あいさつで「復興は日本ならではの貢献の柱だ。ウクライナ復興には、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の未来が懸かっている」と強調しました。

岸田政権は、ウクライナ復興にかなりの額の支援もすることになるでしょう。100兆円を世界中の国々で分割して支援するしても、おそらく日本は数兆円程度の支援が求められることになるでしょう。

実際、岸田文雄首相は、就任以来、多くの国に支援を表明してきました。以下は、その一例です。
  • 2021年10月、岸田首相は、インド洋・太平洋地域における気候変動対策のために、5年間で1兆円を拠出すると発表しました。
  • 2021年11月、岸田首相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国への支援強化を表明し、5年間で1兆円を拠出すると発表しました。
  • 2022年1月、岸田首相は、ウクライナへの人道支援として、1億ドル(約110億円)を拠出すると発表しました。
  • 2022年2月、岸田首相は、フィリピンへの支援強化を表明し、5年間で2,000億円を拠出すると発表しました。
これらの支援は、岸田首相の「自由で開かれたインド太平洋」構想の一環として行われるものであり、日本が地域の安定と繁栄に貢献する姿勢を示すものです。また、岸田首相は、これらの支援を通じて、日本が世界的なリーダーとして発信力を高めていきたいと考えていることも明らかです。

しかし、これらの支援は、国内の課題を解決するために使われるべきだという批判もあります。実際、日本では、物価高騰や少子高齢化など、多くの課題が山積しています。そのため、岸田首相は、これらの支援をどのように説明していくのか、難しいかじ取りを迫られることになるでしょう。

私自身は、こうした支援自体を否定するつもりはありません。ただ、こうした海外への支援への拠出に関しては、気前よく行うのに、なぜか国内では、防衛増税とか子育て支援ということになると、すぐに「安定財源=増税」という言葉がでてくることには疑問を感じます。

「今後の海外支援をスムーズに行うため、増税を行うべきだ」という言葉等聞いたことがありませんし、もしそのようなことを言えば、さすがに国内から大バッシングを受けるのは必定でしょう。とこが国内の施策となると、必ずといっていいほど「財源はどうする」「財源は増税」ということになります。

無論海外支援と、子育て支援や防衛費の増額など国内の施策に用いられる資金を比較すれば、国内の施策のほうが金額は大きいです。しかし、海外に拠出する資金はドル建で行うでしょうし、拠出した資金は、海外にでていくわけですから、日本国内で行う防衛費増や子育て支援などのように、日本国内に還元されそれがまた税金として政府に戻ってくることはありません。

海外支援そのものは、直接的に日本に経済的メリットをもたらすものではありません。そのため、海外支援に関しては、たとえ少額であっても、負担は大きいはずです。

私が言いたいのは、海外支援に関しては、政府も野党なども「財源は」ということにはならないのに、子育て支援とか、防衛費増額となど国内のことになるとすぐにいわゆる「財源論」がでてきて、結局消費税の増税などが論議されることになります。

はなはだしい例は、あの復興税です。復興のための資金を、増税で賄ったなどというのは、古今東西を調べても、日本の復興税だけです。岸田首相は、「復興は日本ならではの貢献の柱だ」だと語っており、これには東日本大震災の復興が念頭にあるのでしょうが、復興を増税で賄ったという点では、これはウクライナ復興の参考にはなりません。

日本の復興税のように「ウクライナ復興」は増税で賄うべきなどと主張したら、世界中から失笑され、不興を買うのは目にみえています。ウクライナも当然反発するでしょう。世界では不興を買うようなことが、日本国内では平然と行われてきたといえます。

海外に対して岸田政権が気前よく拠出金を支出できるのには、それなりの背景があります。これは、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
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これは、今年4月29日の記事です。2022年度の税収は確実に予定より上ブレしそうです。しかも、6.8兆円の上ブレになりそうです。それに関する内容とグラフを以下に掲載します。
期防衛力整備計画の財源を毎年度予算で対処することは可能であり、しかも、国の一般会計税収が大幅に増加していることからこれは確実にできます。

さらに足元の月次税収の趨勢を踏まえ、2022 年度は 72 兆円程 度への着地を予想されています。22 年度税収は当初予算時点で 65.2 兆円のところ、昨年 11 月の補正予算時点 で 68.4 兆円と上方修正がなされましたが、ここから更なる上振れ着地が予想されます。 
一般会計税収(4~翌 2 月の累計値)
背景にはインフレ・円安、賃金・雇用の回復などがあります。足元で特徴的なのが景気の振幅に影響 されにくい消費税が大きく伸びている点です。およそ 40 年ぶりの物価急上昇は、税収にもこれまでに ない変化をもたらしています。
しかも、これは今年だけのことではなく、このブログの他の記事にも示したように、2018年に一般会計税収がバブル期を超え、2021年に過去最高となり、2022年にはさらにこれを更新するのです。

この潤沢な税収により、岸田政権は気前よく海外支援金を拠出できるわけです。ただ、こうした状況ですから、増税などはしぱらくすべきではないです。

そもそも、高橋洋一氏の試算によれば、日本では、需給ギャップが20兆円はあるとされています。これは、内閣府の試算よりは、若干大きいですが、それにはカラクリがあります。ただ、ここでは、それは説明しません。興味のある方は、高橋洋一氏の記事などに当たって下さい。

需給ギャップ20兆円、今の日本は20兆円の需要不足があるわけですから、このギャップを埋める必要があるわけです。ということは、政府が20兆円の国債を発行し、それを日銀が買い取れば、政府は20兆円の資金を得ることができ、さらにそれを子育て支援や防衛費増税にあてたとしても、インフレになることはないのてす。

普通の感覚の人だと、海外支援は気前よくやって、国内で何かするというとすぐに「財源=増税」となるのはおかしいと思うに違いありません。この感覚は、全く正しいです。

破壊されたウクライナの建物

岸田政権が正しい政策をすれば、ウクライナに対して支援をしても国民から不満が出ることないでしょうが、国内で増税、ウクライナには気前よく支援ということになれば、国民の怒りは頂点に達することになるでしょう。

岸田政権は正しい経済運営を行い、ウクライナにも支援をして、日本が世界的なリーダーとしての発信力を高めていくようにすべきです。

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2023年5月14日日曜日

EU・インド太平洋が対中露で結束 閣僚会合―【私の論評】死してなお世界を動かす安倍晋三元首相に感謝(゚д゚)!

EU・インド太平洋が対中露で結束 閣僚会合

インド太平洋閣僚会合

 欧州連合(EU)は13日、議長国スウェーデンのストックホルムで「インド太平洋閣僚会合」を開いた。EU加盟国と日韓や東南アジア、ウクライナなどのパートナー国を合わせ、約60カ国が参加した。19日に開幕する先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を前に、林芳正外相はロシアと中国の連携に警鐘を鳴らした。

 会合はロシアと中国に対抗し、安全保障や貿易などで幅広い協力関係を探る狙いがある。

 EUのボレル外交安全保障上級代表は会合の冒頭に演説し、ロシアのウクライナ侵略でインド太平洋の自由主義国との連携は重要性を増したと強調した。「侵略の影響は食料、エネルギーなど世界中に広がった。これは欧州だけの戦争ではない」と訴えた。

 林氏は「中国は台湾周辺で、軍事行為を強めている。中国とロシアは軍事協力を強め、日本の周辺で軍事演習を行った」と訴えた。広島サミットは、法に基づく国際秩序への決意を示す場になると述べた。また、インドネシアのルトノ外相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)はインド太平洋の中心に位置すると指摘し、「われわれは、国際法を尊重するすべての国を受け入れる」と主張。地元メディアによると、中国は会合に招かれなかった。

 EUがインド太平洋閣僚会合を開くのは、昨年に続き2度目。12日のEU外相会議では、重要物資の供給で、中国への過剰な依存を脱却することで合意した。

 林氏は「中国は台湾周辺で、軍事行為を強めている。中国とロシアは軍事協力を強め、日本の周辺で軍事演習を行った」と訴えた。広島サミットは、法に基づく国際秩序への決意を示す場になると述べた。また、インドネシアのルトノ外相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)はインド太平洋の中心に位置すると指摘し、「われわれは、国際法を尊重するすべての国を受け入れる」と主張。地元メディアによると、中国は会合に招かれなかった。

 EUがインド太平洋閣僚会合を開くのは、昨年に続き2度目。12日のEU外相会議では、重要物資の供給で、中国への過剰な依存を脱却することで合意した。

【私の論評】死してなお世界を、動かす安倍晋三元首相に感謝(゚д゚)!

EUは上記のように「インド太平洋閣僚会合」を開催し、EUとインド太平洋地域の結束を深めるほか、覇権主義的な行動を強める中国を巡り、欧州連合(EU)が見直しを進めている対中国戦略文書の原案に、台湾有事への危機感が盛り込まれ、緊張が高まらないよう関係国と関与していく方針が初めて明記されたことが13日、分かっています。


この文書の正式名称は「The EU's Revised Strategic Guidelines on China」です。日本語に訳すと「中国との戦略的関係に関するEUの見直しされた行動指針」です。2022年9月に承認されました。

この文書は、EUの中国に関する改訂された戦略的ガイドラインであり、2022年9月にEUの外務・安全保障政策担当高官の集まりである欧州理事会によって採択されました。この文書は、中国の台頭に直面してEUがより積極的な役割を果たすことを目的としています。

文書は、EUは中国と協力する分野と、中国に立ち向かう分野を明らかにしています。

EUは、経済、貿易、気候変動などの分野で中国と協力することを望んでいます。これらの分野では、EUは中国と協力して、より開放的で包括的な国際秩序を構築したいと考えています。

ただし、EUはまた、人権、台湾、南シナ海などの分野で中国に立ち向かうことも望んでいます。これらの分野では、EUは中国の行動が国際法や国際規範に違反していると考えています。

この文書は、EUが中国の台頭に直面してよりバランスの取れたアプローチを取ろうとしていることを示しています。EUは中国と協力することを求めていますが、中国に立ち向かうことも恐れていません。

この文書はまた、EUが中国を単一の脅威とは見なしていないことを示しています。むしろ、EUは中国が複雑な国であり、協力と対立の両方の機会を提供すると考えています。

EUは現在、この文書を見直しています。その原案には、台湾有事に対する懸念が盛り込まれており、EUは関係国と協力して緊張を緩和するよう努める方針を初めて明確に示しています。

文書は、台湾海峡で紛争が発生した場合の影響は「深刻で不安定なもの」になると述べています。また、EUは「台湾の平和と安定を支持し、台湾海峡の緊張を緩和するために関係国と協力する」としています。

上記の一連の動きは、まさにインド・太平洋地域の国々の同盟、「インド太平洋諸国同盟」が出来上がり、これとEU、NATOが協力していく方向に向かう一里塚とも捉えることができます。

昨日の記事で、「インド太平洋戦略」の生みの親である、亡くなられた安倍元総理は、「インド太平洋諸国同盟」の可能性を夢見ておられたに違いないだろうことを掲載しました。

今、われわれが目にしているのはその始まりにすぎないのです。そうして、まさに中国はこれを恐れていると見られます。

このような動きは、安倍元首相がいなければ、なかったかもしれないです。また、あったにしても極めて進展が遅かったかもしれません。

ボストン・グローバル・フォーラムは、マイケル・デュカキス元マサチューセッツ州知事が主宰するシンクタンクですが、同フォーラムは、2023年4月7日、安倍晋三元首相を追悼する国際会議をオンラインで開催しました。会議には、日米やインドの有識者ら約30人が出席しました。

戦車に搭乗するデュカキス氏 1988年

デュカキス氏は会議で、安倍氏について「世界を平和と安定に導くリーダーシップを発揮した」と悼み、安倍氏の遺志を継いで日米同盟を強化していく必要があると訴えました。

また、林芳正外務大臣もビデオメッセージで出席し、「安倍氏は自由で開かれたインド太平洋地域の実現に尽力した」と述べ、安倍氏の遺志を継いで同地域の平和と安定に貢献していくことを表明しました。

会議では、安倍氏の外交政策や日米同盟の重要性などについて議論が行われました。参加者からは、安倍氏のリーダーシップを称賛するとともに、安倍氏の遺志を継いで日米同盟をさらに強化していく必要があるとの意見が相次ぎました。

安倍元首相の国葬儀

安倍氏は、2022年7月8日、奈良市で演説中に銃撃され、亡くなられました。安倍氏は、1993年から2006年まで、そして2012年から2020年まで、日本の首相を務めました。安倍氏は、日米同盟の強化や自由で開かれたインド太平洋地域の実現など、日本の外交政策に大きな影響を与えました。

世界は、安倍元首相の描いた理想の世界秩序に向けて今も模索を続けています。まさに、死してなお世界を動かす安倍晋三氏といえると思います。私達は安倍晋三氏の遺志を引き継ぐことができます。世界中でも多くの人がそれを引き継いでいるからこそ、世界は新たな秩序づくり向かって日々前進しているのだと思います。

このような人は安倍晋三氏をおいて他に、現代の日本にはいません。過去にはいました。それは安倍元総理と同郷の吉田松陰先生です。吉田松陰先生は、安倍元総理よりさらに短命で、享年29歳(満)で亡くなりましたが、その後の日本の礎となる人たちを育てました。

吉田先生の思想は、先生の育てた弟子たち等により、日本の秩序を変えることになりました。吉田先生が、弟子たちらに大きな影響を及ぼしていなければ、日本は、当時の列強にのみこまれていたかもしれません。

安倍晋三氏の思想は、その遺志を引き継ぐ世界中の人々によって、世界の秩序を変えることになるでしょう。そのような思想が安倍氏から世界に向けて発信されたことを、私達は、感謝すべきです。そうでなければ、世界は行き先を見失い混乱に陥っていたかもしれないです。

有難うございます。吉田先生、安倍先生。そうして安らかにお休み下さい。


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2023年5月13日土曜日

中国、NATO日本事務所に反発 「歴史の教訓くみ取れ」―【私の論評】中国は、将来「インド太平洋諸国同盟」が出来上がることを恐れている(゚д゚)!

中国、NATO日本事務所に反発 「歴史の教訓くみ取れ」

中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官

 中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は12日の記者会見で、北大西洋条約機構(NATO)が日本に連絡事務所開設を検討していることについて「日本が真剣に歴史の教訓をくみ取って、地域の国家間の相互信頼や、平和と安定を損なうことをしないよう求める」と反発した。

 汪氏は、アジア太平洋地域はNATOの地理的範囲には入っておらず、アジア版NATO創設も必要ないとした上で「NATOはアジア太平洋国家との関係を強化し、地域に干渉し続けている」と批判した。

 日本政府に対しては「本当にNATOアジア化の急先鋒になりたいのか」と対応に強い疑問を呈し、日本が平和発展の道を堅持するよう求めると強調した。

【私の論評】中国は、将来「インド太平洋同盟」が出来上がることを恐れている(゚д゚)!

北大西洋条約機構(NATO)は、1949年にソビエト連邦に対抗するために設立された軍事同盟です。本部はベルギーのブリュッセルにあり、現在、30か国が加盟しています。NATOは攻撃された場合、加盟国の防衛を約束する集団安全保障体制です。

4月25日、 ディエラNATO国際軍事幕僚部国際安全保障局長 (イタリア陸軍中将)の表敬を受けた吉田統合統幕長

中国は、NATOが東アジアに進出することで、自国の安全保障上の利益に影響を及ぼすことを懸念しています。中国は、米国との緊張関係が高まっている中で、NATOが東アジアに進出することで、米国との連携を強化し、中国に対する圧力を増大させることを危惧していると考えられます。

さらに、中国は、日本がNATOと協力することで、日本が自国に対してより強硬な姿勢を取る可能性があると見ています。日本がより積極的に自衛隊の装備や兵力を増強することで、中国にとっては軍事的脅威になると考えているようです。

最後に、中国は、NATOが日本に事務所を開設することで、アジア太平洋地域の地政学的バランスが変化することを懸念しているのでしょう。NATOが日本に進出することで、米国や日本を中心とした新たな安全保障体制が形成される可能性があり、中国の影響力が低下することを恐れているためです。

歴史的にも、同盟が離合した例は数多くあります。以下にいくつかの例を挙げます。

1.第一次世界大戦中の中央同盟国

第一次世界大戦中、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、イタリア、オスマン帝国は「中央同盟国」として同盟を結びました。しかし、戦争が長引くにつれ、同盟国の間で緊張が高まり、イタリアは1915年に同盟から離脱し、連合国側に参戦しました。

2.第二次世界大戦中の枢軸国

第二次世界大戦中、ドイツ、イタリア、日本は「枢軸国」として同盟を結び、戦争に参戦しました。しかし、同盟国の間での意見の相違や利害の対立などが生じ、枢軸国内部でも分裂が生じました。イタリアは1943年に連合国に負け、連合国側に与し参戦、ドイツは1945年5月に降伏、三国同盟は崩壊しました。

3.冷戦期の東西陣営

冷戦期には、米国とその同盟国が「西側陣営」、ソ連とその同盟国が「東側陣営」として、それぞれ同盟関係を結びました。しかし、同盟国の間での意見の相違や利害の対立が生じ、同盟内部でも分裂が生じました。例えば、ソ連と中国は意見が合わず、1960年代後半には対立が深まり、両国間での軍事衝突も発生しました。

以上のように、同盟が離散例は歴史的にも多く存在します。同盟は国家の利益や関心事が一致する場合に結ばれますが、同盟内部での意見の相違や利害の対立が生じることもあるため、必ずしも同盟が結束を維持することはできません。

一方、集散の例も多々あります

1.ヨーロッパ連合(EU)

ヨーロッパ連合は、かつてのヨーロッパ共同体を発展させて結成された同盟です。EUは加盟国が増え、経済・政治的な統合が進んでいます。EUは経済面や外交面などで、一定の成果を上げています。

2.アフリカ連合(AU)

アフリカ連合は、アフリカ諸国の統合を目指して結成された同盟です。AUは、アフリカ大陸の平和・安全保障や経済発展の促進を目的としています。AUは、加盟国が増え、地域的な協力や統合が進んでいます。

3.東南アジア諸国連合(ASEAN)

東南アジア諸国連合は、東南アジア地域の統合を目指して結成された同盟です。ASEANは、東南アジア地域の平和・安定・繁栄の促進を目的としています。ASEANは、加盟国が増え、地域的な協力や統合が進んでいます。

インド太平洋地域

AUKUS、QUAD、CPTPPはすべて、インド太平洋地域の安全保障を強化することを目的とした新しいイニシアチブです。これらの同盟はすべて、中国の台頭に対抗することを目的としています。

中国はインド太平洋地域でますます積極的な役割を果たしており、米国とその同盟国にとって脅威と見なされています。これらの同盟は、中国の野心を抑制し、地域の安定を維持するために設計されています。

AUKUS、QUAD、CPTPP、それらはやがて一つにまとまり、作り替えられて、将来、「インド太平洋諸国同盟(仮称)」として花開く可能性を秘めています。それは、NATOのような加盟国の防衛を約束する集団安全保障体制をも内包するものになるかもしれません。それには、NATOは貢献できるかもしれません。

NATOとしては、中国の動きはロシアの動きなどとも無関係ではないので、情報共有という意味合いで、インド太平洋諸国同盟と関係を持つことになるかもしれません。場合によっては、強調することもあるかもしれません。これは、中国にとってのみならず、ロシア、北朝鮮、イランなどに対しても強い牽制になります。


インド太平洋戦略の生みの親である、亡くなられた安倍元総理も、「インド太平洋諸国同盟」の可能性を夢見ておられたと思います。

今、われわれが目にしているのはその始まりにすぎないのです。そうして、まさに中国はこれを恐れていると見られます。

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