2024年7月3日水曜日

菅前首相と麻生副総裁、自民総裁選は首相経験者2人によるキングメーカー争いの様相―【私の論評】高市早苗氏の可能性と麻生太郎氏の影響力 - 党支持率回復への道

菅前首相と麻生副総裁、自民総裁選は首相経験者2人によるキングメーカー争いの様相

まとめ
  • 9月の自民党総裁選は、菅義偉前首相と麻生太郎副総裁によるキングメーカー争いの様相を呈している。
  • 菅氏は「非主流派」「脱派閥」の立場から、石破茂、加藤勝信、小泉進次郎らの中から次期総裁候補を検討している。
  • 麻生氏は岸田政権の「主流派」として、岸田首相の再選を支持する可能性が高いが、状況次第で茂木敏充や河野太郎を推す可能性もある。
  • 今回は「派閥なき総裁選」となるため情勢が読みにくいが、菅氏と麻生氏が大きな影響力を持つと見られている。
  • 党内には、総裁選による政局イメージを懸念する声もある。


 9月の自民党総裁選は、菅義偉前首相と麻生太郎副総裁という2人の元首相によるキングメーカー争いの様相を呈している。

 菅氏は「非主流派」の中核として反岸田の姿勢を鮮明にし、石破茂、加藤勝信、小泉進次郎らの中から次期総裁候補を見定めている。菅氏は「非主流派」「脱派閥」を条件に候補者を検討しており、派閥パーティー収入不記載事件の責任を岸田首相に求めている。

 一方、麻生氏は岸田政権の「主流派」の要として、まず岸田首相の再選を支持する可能性が高い。ただし、麻生氏と岸田首相の関係にはすきま風も吹いており、岸田首相が出馬を断念した場合は茂木敏充幹事長や河野太郎デジタル相を推す可能性もある。

 今回の総裁選は「派閥なき総裁選」となるため情勢が読みにくいが、菅氏と麻生氏が大きな固まりを動かせる唯一の人物とされている。菅氏には無派閥議員を中心とした支持者がおり、麻生氏は麻生派の一定数を動かすことができる。

 この状況下で、党内からは政局に走る自民党のイメージを懸念する声も上がっている。

【私の論評】高市早苗氏の可能性と麻生太郎氏の影響力 - 党支持率回復への道

まとめ
  • 菅氏は加藤勝信氏を、麻生氏は岸田首相を推す可能性が高い。
  • 岸田氏や加藤氏が総裁になっても、政治資金問題や現政権との連続性から支持率回復は難しい。
  • 高市早苗氏は総裁選に向けて活動を活発化させているが、「高市つぶし」を警戒している。
  • 高市氏が総裁になれば、保守層の支持回復や女性首相としての象徴性から支持率上昇の可能性がある。
  • 高市氏の総裁就任には麻生氏の支持が重要で、両者の政策スタンスの類似性から支持の可能性はなきにしもあらずと言う状況にあるといえる。


上の記事の中で、菅氏が次期総裁として検討しているとみられる人物のうち、石破茂氏は時々の政権をマスコミなどで批判し続けてきたため、多くの自民党議員から蛇蝎のごとく嫌われており、そもそも総裁選に必要な推薦人を集められない可能性が高いです。

小泉進次郎氏、自民党内ではその能力に疑問符をつけられることが多いこと、さらに父親の元首相小泉純一郎氏が息子の小泉進次郎氏に対して、50歳を過ぎてから首相を目指すよう助言していることから、進次郎氏は出馬しない可能性が高いです。

そのようなことから、菅氏が実際に推すのは、加藤勝信氏になるとみられます。

加藤勝信

麻生氏が検討しているとみられる人物は、岸田首相、茂木氏、河野太郎氏です。まず、茂木敏充氏は、写真的記憶力を持ち、政策通として高い能力を評価されています。しかし、党内での人望に課題があるとされ、その例として2022年の小渕優子氏の茂木派離脱が挙げられます。

「冷たい」「人間味に欠ける」といった評価もあり、これが党内での人間関係構築を難しくしているとされます。政策面での能力は高く評価されるものの、対人関係のスキルや党内での調整力、合意形成能力には批判的な見方が支配的です。

一方、麻生太郎氏が河野太郎氏を総裁候補として推す可能性は低いと考えられます。河野氏のファミリー企業の中国との関係や、内閣府のタスクフォースでの中国企業関連の資料問題は、安全保障や経済安全保障の観点から重大な懸念事項となっています。

麻生氏は対中政策に慎重な立場を取ることが多く、台湾有事は日本有事という発言もしています。これらの問題は河野氏の適性に疑問を投げかけるものです。また、麻生氏は岸田政権の「主流派」の要であり、現状の党内バランスを維持することを重視する可能性が高いです。

さらに、これらの中国関連の問題は政治的リスクが大きく、総裁選や将来の総選挙での攻撃材料となる可能性があります。これらの要因を考慮すると、麻生氏は河野氏を総裁候補として推すことを避ける可能性が高いと言えるでしょう。

そうなると、岸田氏を再び推すということになる可能性があります。しかし、岸田氏ということになれば、全く新味もなく、支持率が低下し続けることが予想されます。

岸田氏と加藤氏のいずれが総裁になっても、自民党政権の支持率回復は難しい可能性があります。その主な理由として、政治資金問題による党全体の信頼低下が挙げられます。

また、両氏とも現政権との連続性が強く、抜本的な変革を期待することは難しいでしょう。経済政策や社会保障改革などの重要課題で目立った成果が上がっていないことも、支持率回復の障害となるでしょう。

さらに、有権者の間では政治の世代交代を求める声が強まっていますが、両氏は既存の政治体制の中核にいる人物であり、この期待に応えるのは難しいでしょう。複雑化する国際情勢への対応も課題です。これらの要因により、単なる総裁交代では支持率の大幅な回復は見込みにくいと考えられます。

岸田首相

一方高市早苗経済安全保障担当相は、9月の自民党総裁選に向けて活動を活発化させていますが、同時に「高市早苗つぶし」を強く意識しています。朝日新聞が高市氏の総裁選出馬の意向を報じたことに対し、高市氏は未だ総裁選出馬を正式には表明しておらず、X(旧ツイッター)で「『高市早苗つぶし』が目的」と猛反発しました。

これは、当然のことといえます。岸田首相の進退が決まらないと、その次のアクションは起こしにくい状況です。自民党には総理を支える立場にある現職閣僚と党役員は総裁選に出馬しないという不文律があり、これに反する行為は総裁選での自らの立場を危うくする可能性があるからです。

岸田首相が辞任を決めた場合、高市氏は現職のまま総裁選に出馬できる可能性が高まります。岸田首相が辞任しない場合で、高市氏が総裁選に出馬する意向ならば、総裁選の前に大臣を辞任することで、出馬の道が開けます。

高市氏が総裁になった場合、他の候補と比較して自民党の支持率上昇につながる可能性が高いと考えられます。高市氏の保守的な政策スタンスは、自民党が失った保守岩盤層の支持を取り戻す強力な武器となるでしょう。また、日本初の女性首相となる可能性は、新鮮さと象徴性をもたらし、幅広い層からの支持を集める可能性があります。

さらに、高市氏のマクロ経済への深い理解は、日本経済の回復を導く可能性があります。これは、経済政策の明確さと実効性という点で、他の候補との差別化につながるでしょう。高市氏の経済安全保障や外交政策での明確な立場と相まって、有権者の期待に応える可能性が高まります。

現政権との一定の距離感から、高市氏の総裁就任は政治の刷新を求める有権者の期待に応える可能性も高く、これらの要因が複合的に作用して、他の候補よりも効果的に自民党支持率の上昇につながると予想されます。特に、経済回復への期待が高まれば、より広範な支持を集める可能性があります。

高市氏が総裁になった場合、自民党の支持率上昇につながる可能性が他の候補と比較して高いと考えられます。高市氏の保守的な政策スタンスは、失われた保守岩盤層の支持回復に寄与するでしょう。また、日本初の女性首相となる可能性は、新鮮さと象徴性をもたらし、幅広い層からの支持を集める可能性があります。

高市氏のマクロ経済への深い理解は、日本経済の回復を導く可能性があり、これは経済政策の明確さと実効性という点で他の候補との差別化につながります。さらに、高市氏の経済安全保障や外交政策での明確な立場は、有権者の期待に応える可能性が高いでしょう。

高市早苗氏

特筆すべきは、高市氏が政局に走る自民党のイメージを払拭できる可能性が高いことです。高市氏の政策重視の姿勢と、経済回復や安全保障強化などの具体的な課題への取り組みは、党内外から政策本位の政治への回帰として評価される可能性があります。これにより、自民党が政局よりも国民生活の向上に注力しているという印象を強めることができるでしょう。

現政権との一定の距離感も相まって、高市氏の総裁就任は政治の刷新を求める有権者の期待に応える可能性が高く、これらの要因が複合的に作用して、他の候補よりも効果的に自民党支持率の上昇につながると予想されます。経済回復への期待と政策重視の姿勢が明確になれば、より広範な支持を集める可能性が高まるでしょう。

高市氏が総裁になれる可能性は、麻生氏もしくは菅氏の支持が重要な要素となります。両氏は自民党内で大きな影響力を持つ重要な政治家であり、その支持は高市氏の総裁選での立場を大きく強化する可能性があります。

特に、現状では麻生氏のほうが、高市氏を指示する可能性が高いと考えられます。両者は保守的な政策スタンス、特に経済政策や安全保障政策において類似した見解を持っており、これが支持の基盤となる可能性があります。

麻生氏は自民党内で大きな影響力を持つ重要な政治家であり、高市氏を支持することで現状の党内バランスを維持しつつ、自身の影響力を保持できる可能性があります。また、麻生氏は世代交代や党のイメージ刷新の必要性を感じており、高市氏の支持はこれらの課題に対応する手段となり得ます。

さらに、女性リーダーの登用が課題となっている中、高市氏への支持は党の多様性推進をアピールする機会にもなるでしょう。これらの要因が複合的に作用し、麻生氏が高市氏を支持する可能性は無きにしもあらずの状況だと思われます。

麻生太郎氏には、自民党の将来と日本の政治の方向性を見据えた賢明な判断を期待します。高市早苗氏への支持を検討する際には、党内の力学だけでなく、国民の期待や国際情勢も考慮に入れるべきです。

麻生氏の豊富な政治経験と先見性を活かし、自民党の刷新と国益に資する選択をすることが望まれます。この判断が、政治の信頼回復と日本の持続的な発展につながることを期待します。麻生氏の決断は、単なる党内の人事を超えて、日本の未来を左右する重要な意味を持つことを強調したいと思います。

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2024年7月2日火曜日

フィリピンの女性市長に「中国のスパイ」疑惑 指紋で別人と判明、中国人の可能性が高く―【私の論評】日本の国家安全保障危機:高市早苗氏の総裁選出が鍵となる理由と課題

フィリピンの女性市長に「中国のスパイ」疑惑 指紋で別人と判明、中国人の可能性が高く

まとめ
  • フィリピン北部バンバン市のアリス・グォ市長が「中国のスパイ」である疑惑が浮上し、捜査当局は市長が実際には中国人である可能性が高いと指摘している。
  • 市長の指紋が別の中国人女性のものと一致し、その女性は2003年にフィリピンに入国した1990年生まれの福建省出身者とされている。
  • バンバン市のカジノ賭博組織による女性の監禁が発覚し、市長は違法なオンライン賭博や人身売買への関与の疑いで告発され、職務停止命令を受けている。

フィリピン・バンバン市 アリス・グォ市長

 バンバン市のアリス・グォ市長が「中国のスパイ」である疑惑が浮上した。捜査当局は、グォ市長が実際には中国人である可能性が高いと指摘している。この疑惑は、市内のカジノ賭博場の摘発をきっかけに発生した。

 グォ市長は、父が中国人で母がフィリピン人メイドだったと主張し、非嫡出子として育てられたため証明書がないと釈明した。しかし、捜査当局は市長の指紋が別の中国人女性のものと一致したと発表。その女性は2003年にフィリピンに入国し、1990年に福建省で生まれたとされている。

 さらに、バンバン市のカジノ賭博組織が数百人の女性を監禁していたことも発覚。大統領府直轄の組織犯罪対策委員会は、市長らが違法なオンライン賭博や人身売買に関与した疑いがあるとして告発した。グォ市長は現在、職務停止命令を受けている。

 この事件は、南シナ海の領有権問題で中国と対立を深めるフィリピンの政治的緊張の中で起きており、国家安全保障の観点からも注目されている。

【私の論評】日本の国家安全保障危機:高市早苗氏の総裁選出が鍵となる理由と課題

まとめ
  • フィリピンと中国の対立は南シナ海の領有権と海洋権益をめぐる争いが主因であり、中国の軍事拠点化や威圧的行動が緊張を高めている。その最中におきたスパイ疑惑事件は、安保の観点から多くの懸念をひきおこしている。
  • 日本の国家安全保障は中国、ロシア、北朝鮮、イランなどからの深刻な脅威に直面しており、これまでの個人の権利重視の姿勢が国家の安全を脆弱にしている。
  • 高市早苗氏は日本の安全保障強化に向けた包括的な対策を主張しており、スパイ防止法の制定や外国の影響力排除のための法整備、国民の安全保障意識向上を推進している。
  • 現行のセキュリティ・クリアランス制度には適用範囲の限定や性行動規定の欠如、定期的再審査の不十分さなどの欠点があり、これらは日本の安全保障に対する認識の甘さから生じている。
  • 今秋の自民党総裁選は日本の安全保障政策の分岐点となる可能性が高く、高市氏の選出が日本の独立国家としての地位回復と国際的発言力強化につながる可能性がある。

フィリピンと中国の対立は主に南シナ海における領有権と海洋権益の争いに起因しています。中国が南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張し、フィリピンの排他的経済水域も含む広範な海域を自国の勢力圏としようとしていることが、対立の核心です。

この海域には豊かな漁場があり、石油や天然ガスなどの資源も存在する可能性があるため、両国の利害が衝突しています。さらに、中国が島々や岩礁を軍事拠点化していることや、フィリピン船に対する威圧的な行動を取っていることも、緊張を高めています。

フィリピンは国際法に基づいて自国の権利を主張していますが、中国はこれを無視する姿勢を示しており、両国の対立は深刻化しています。

こうした中で、発生したこの事件は、国家安全保障の観点から複数の懸念を引き起こしています。フィリピンの地方政治への外国の影響力浸透、機密情報の流出リスク、そして組織犯罪との関連など、国家の意思決定や治安に対する重大な脅威となり得ます。

多くの民主国家がスパイ対策を強化していますが、その効果は一様ではありません。例えば、オーストラリアは2018年に外国干渉透明性スキーム法(FITS)を制定し、外国の影響力活動に対する透明性を高めようとしました。この法律では、外国政府や政治組織のために活動する個人や団体に登録を義務付け、その活動を公開することを求めています。

しかし、最近の議会審査によると、FITSは「意図した目的を達成できなかった」と結論づけられています。登録サイトへのアクセスは少なく、多くのオーストラリア人がその存在を知らないという問題があります。さらに、複雑な登録要件が言論の自由を抑制し、通常の国際交流を妨げる可能性も指摘されています。

一方で、FITSとは別に、オーストラリアが2020年に設立した国家情報局(ONI)は、情報機関間の連携強化に一定の成果を上げています。ONIは、複数の情報源からの情報を統合し、より包括的な脅威評価を可能にしています。これにより、外国の影響力活動をより効果的に特定し、対応する能力が向上したと言えます。

このように、スパイ対策の強化は複雑な課題であり、単一の法律や機関で完全に解決することは困難です。オーストラリアの経験は、透明性を高めるだけでなく、情報機関の能力強化や、国民の認識向上など、多面的なアプローチの必要性を示唆しています。フィリピンを含む他の国々も、これらの教訓を踏まえつつ、自国の状況に適した対策を検討する必要があるでしょう。

日本の国家安全保障は今、極めて深刻な危機に直面しています。中国、ロシア、北朝鮮、イランなどの敵対的国家からの脅威は、もはや看過できないレベルに達しています。これまで日本は、個人の権利や報道の自由を過度に重視するあまり、国家の存続と国民の安全を軽視してきました。この結果、我が国は外国のスパイ活動や影響力行使に対して極めて脆弱な状態に陥っています。

日本の国家安全保障は、実際には深刻な脅威に直面しています。蓮舫氏の事例は氷山の一角に過ぎず、政治家の二重国籍問題は、外国の影響力が日本の政策決定に直接介入する経路となり得ます。

蓮舫氏

帰化した政治家も、長期的な忠誠心を保証することは難しく、外国政府の影響下で重要な意思決定に関与する危険性があります。

さらに、外国資本や影響力がメディアに浸透することで、世論操作や情報操作のリスクが高まっています。地方自治体は中央政府ほどの厳格なセキュリティ対策を取れていないため、外国の影響力が浸透しやすい弱点となっています。

また、政府機関や重要インフラのデジタル化が進む中、外国籍者や二重国籍者がこれらのシステムにアクセスできる立場にいる場合、サイバー攻撃や情報漏洩のリスクが著しく高まります。

これらの問題は日本の国家安全保障に対する深刻な脅威となっており、現状の法制度や管理体制では十分に対応できていない可能性が高いため、スパイ防止法を制定するなどの早急な対策が必要です。

このような危機的状況を打開し、日本の安全保障を抜本的に強化できる政治家は、現在の総裁候補と目される人の中では高市早苗氏しかいないと言えます。高市氏は、国家安全保障を最優先課題として位置づけ、包括的かつ厳格なスパイ防止法の制定、外国の影響力排除のための強力な法整備、そして国民の安全保障意識の向上を強く主張しています。

特筆すべきは、高市氏が本年導入が決まったセキュリティ・クリアランス制度の実現に尽力したことです。この制度は、機密情報にアクセスする人物の背景チェックを強化し、政府機関や重要インフラにおける人員の信頼性確認に大きく寄与しています。

ただ、現行のセキュリティ・クリアランス制度には重要な欠点があります。適用範囲が政府機関の一部と防衛産業に限定されており、重要インフラや地方自治体、メディアなどが含まれていません。

また、性行動に関する規定が欠如しており、「ハニートラップ」などのスパイ活動に対して脆弱です。さらに、定期的な再審査の仕組みも不十分です。これらの欠点が見逃された背景には、日本の安全保障に対する認識の甘さがあります。

これに関しては、岸田内閣の閣僚の一人でもある高市氏としては岸田首相や他の閣僚などの考えを無視するわけにもいかず、いかんともしがたかったのでしょう。長年、深刻な脅威に直面してこなかったという誤った認識や、プライバシーへの過度な配慮、組織文化などが影響しています。

高市早苗氏

しかし、元々日本には存在しなかった制度ができたということでは、間違いなく一歩前進です。その面では、高市氏を評価することができるでしょう。

高市氏が総裁に選出されれば、これらの欠点を早期に解消し、より包括的で実効性の高い制度を構築する可能性が高いと期待されます。これは日本の国家安全保障の強化につながるでしょう。

今秋の自民党総裁選は、日本の安全保障政策の分岐点となる可能性が極めて高いです。高市氏が総裁に選出されれば、日本は真に独立国家としての地位を取り戻し、国際社会における発言力を強化できる可能性があります。一方、他の候補者が選出された場合、これまでの脆弱な安全保障体制が継続し、日本の主権と安全が著しく損なわれる危険性が高まります。

国家の存続と国民の安全を守るため、今こそ高市氏のような強い意志と実績を持つリーダーが必要不可欠です。今秋の総裁選の結果が、日本の未来を大きく左右することは間違いありません。

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2024年7月1日月曜日

実質GDP、年2.9%減に下方修正 1~3月期、基礎統計の訂正で 内閣府―【私の論評】2024年日本経済の岐路:高圧経済とNAIRUから見る積極的財政・金融緩和政策の必要性

実質GDP、年2.9%減に下方修正 1~3月期、基礎統計の訂正で 内閣府


 内閣府は1日、2024年1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)を下方修正し、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.7%減(従来0.5%減)、この成長が1年続いた場合の年率換算で2.9%減(同1.8%減)と発表した。  GDPの基礎統計である「建設総合統計」を国土交通省が訂正したことを反映した。

  修正の結果、公共投資は前期比1.9%減(同3.0%増)の下落。住宅投資は2.9%減(同2.5%減)となった。 

【私の論評】2024年日本経済の岐路:高圧経済とNAIRUから見る積極的財政・金融緩和政策の必要性

まとめ
  • 2024年1~3月期のGDPマイナス成長は金融政策の後退と財政政策の緊縮化が主因
  • 安倍・菅政権時の100兆円規模の財政出動(国債発行と日銀引受)により日本経済はコロナ禍でも毀損されなかった。
  • しかし、岸田政権下での財政緊縮化が経済成長を妨げている
  • 積極的な金融緩和と財政出動の継続が経済改善に必要不可欠
  • 次期自民党総裁選は日本の経済政策の方向性を決める重要な分岐点となる

2024年1~3月期のGDPマイナス成長の主な原因は、金融政策の後退と財政政策の緊縮化によるものといえます。
安倍政権と菅政権時代に実施された大規模な財政出動、特に100兆円規模の補正予算は、リフレ派から高く評価されています。この100兆円の内訳は、安倍政権下で60兆円、菅政権下で40兆円となっています。この大規模な財政出動の特筆すべき点は、その財源として増税ではなく、国債発行を選択したことです。さらに、発行された国債を日本銀行が引き受けるという形で実施されました。これは、金融政策と財政政策の協調を体現した大胆な政治決断でした。

この政策は、経済に対して即効性のある刺激を与え、デフレマインドの払拭に貢献したといえます。特に、コロナ禍による経済的打撃を緩和し、雇用の維持や企業の存続を支援する上で重要な役割を果たしました。また、この大規模な財政出動は、単なる景気対策にとどまらず、将来の経済成長の基盤を整備する投資的な側面も持っていたといえます。
岸田政権下では財政政策の方向性が変化し、緊縮的な姿勢が強まりました。公共投資の減少や増税への懸念が、経済成長を妨げる要因となっています。ただし、岸田政権の初期には、先の100兆円の補正予算の効果が継続していたため、経済は悪化していなかったものが、その効果はなくなり、最近では経済が悪化したといえます。
現在の経済状況を改善するために、積極的な金融緩和の継続と拡大、大規模な財政出動、特に公共投資の増加、増税ではなく経済成長による税収増加を目指す政策、規制緩和や成長戦略の加速をすべきです。これらの政策を通じてデフレマインドを払拭し、企業や個人の期待を改善することで、経済成長を促進できるでしょう。

これは、高橋洋一氏かよく用いる、マクロ政策・フィリップス曲線を用いて分析するとより良く理解できます。フィリップス曲線とは、インフレ率と失業率の間の逆相関関係を示す経済理論です。適度なインフレーションは、雇用を増加させ、経済成長を促進します。



NAIRU(インフレを加速しない失業率)がマクロ経済政策、とりわけ金融政策において重要です。一般的に、インフレ率と失業率は逆相関であり、NAIRUを達成する最小のインフレ率をインフレ目標に設定するからだ。ここから導かれる金融政策は、失業率がNAIRUに達するほど低くない場合、インフレ率もインフレ目標に達しないので金融緩和、失業率がNAIRUに達すると、その後はインフレ率がインフレ目標よりも高くなれば金融引き締めというのが基本動作といえます。

現在、インフレ目標物価より物価高ではあるものの、その原因は海外由来のエネルギー価格や資源価格の高騰によるものです。直近の2024年5月のコアCPIは前年比+2.5%、電気代などが押し上げているものとされています。コアコアCPIの数値だけをみれば、インフレ目標は達成しているようにもみえます。しかし、ここでこの数値だけでは、金融政策をどうするのか判断するのは難しいです。

であれば、ここでは失業率に着目すべきでしょう。労働力調査(詳細集計)2024年(令和6年)1~3月期平均 日本全国での就業者数が前年同期に比べて38万人増加し、6723万人となりました。 一方で完全失業者数は175万人と前年同期から2万人減少し、完全失業率は2.5%と0.1ポイントの低下を見せています。現在2%半ばの水準を保っているわけですが、ここで緊縮財政や金融引き締めをすれば、失業率が上がる懸念があるのです。

そのため、積極的な財政・金融政策を継続すべき状況にあるといえます。インフレ率が高めでも、雇用が安定していれば、このような政策をとることを経済理論では「高圧経済」と呼びます。いまはまさに、高圧経済を実施すべきといえます。現時点で、インフレ率が2.5%だから、すぐに金融引き締めということになれば、失業率があがることになるでしょう。インフレ率が4%を超え、失業率が上がり始めた場合は、金融引き締めのサインとみなすべきでしょう。

ただし、円安で輸出産業は業績が良く、輸出産業は優良大企業が多いため、円安で国全体では、経済が成長することになります。ただし、国内産業、輸入産業は苦戦をしいられている状況です。であれば、積極財政として国内・輸入産業を支援する政策や、消費税減税を含む減税や、物価高対策などをすべきです。

安倍・菅政権のときのように財政赤字を恐れずに積極的な経済政策を展開することが、国民生活の豊かさと税収の増加、さらには科学技術や教育、国防、福祉国家の強化・発展につながることになります。このような政策転換によって、日本経済が再び成長軌道に乗り、国民所得の増加や完全雇用の達成が可能になります。

また、経済政策を歴史から学ぶことも重要です。過去の成功事例や失敗事例を分析し、現在の経済状況に適用することで、より効果的な政策立案が可能です。過去には、現状のように需給ギャップが存在し、需要が低迷しているときに、金融引き締めや緊縮財政をして成功した事例はありません。あれば、財務省はこれを華々しく喧伝し、緊縮財政すべきことの根拠としていることでしょう。このような歴史的視点も含め、現在の経済政策の転換をすべきなのです。

上で述べたようなことを理解しているのは、現在総裁候補者といわれる政治家の中では高市早苗氏くらいです。高市氏は、大規模な金融緩和や積極的な財政政策、さらには「高圧経済」の考え方などを支持しています。


次の自民党総裁選は、このような経済政策の方向性を決める上で極めて重要な意味を持ちます。金融政策の方向性、財政政策の規模、構造改革の推進、インフレ目標の扱い、NAIRUに基づく政策運営など、多くの重要な経済課題が争点となる可能性があります。

高市氏のような政治家が総裁に選出されれば、積極的な経済政策が継続される可能性が高くなります。一方、異なる経済観を持つ政治家が選出された場合、政策の方向性が大きく変わる可能性があります。

このように、次の総裁選の結果は、日本の経済政策の方向性を決定し、ひいては日本経済の将来に大きな影響を与えることになります。したがって、この総裁選は単なる政治的イベントではなく、日本の経済の行く末を左右する重要な分岐点となります。

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2024年6月30日日曜日

フランス国民議会選挙1回目投票 極右政党が最大勢力になる勢い―【私の論評】フランス国民連合の躍進:移民政策の失敗と保守派台頭の真相

フランス国民議会選挙1回目投票 極右政党が最大勢力になる勢い

まとめ
  • マクロン大統領が国民議会を解散し、6月30日と7月7日に選挙を実施。
  • 与党連合、極右の国民連合、左派連合「新人民戦線」の三つどもえの争い。
  • 世論調査では国民連合が最大勢力になる可能性があり、マクロン大統領に厳しい見通し。
  •  国民議会選挙は577議席の小選挙区制で、2回投票制を採用。
  • 各政党は購買力向上、年金制度改革、移民政策などの公約を掲げ、選挙結果次第では政治構造に大きな変化の可能性。

マクロン仏大統領

 フランスの政治情勢が大きな転換点を迎えようとしています。マクロン大統領は、欧州議会選挙での与党連合の敗北を受け、国民議会(下院)を電撃的に解散し、6月30日に第1回投票、7月7日に決選投票を行う選挙を実施することを決定しました。この選挙は、マクロン大統領の与党連合、極右政党の国民連合、そして新たに結成された左派連合「新人民戦線」の三つどもえの激しい争いとなっています。

 世論調査の結果は、マクロン大統領にとって厳しい見通しを示しています。国民連合が最大265議席を獲得し最大勢力になる可能性があり、新人民戦線が第2勢力、与党連合は議席を半数以上減らす可能性があるとされています。国民議会選挙は577議席の小選挙区制で行われ、1回目の投票で過半数かつ有権者の4分の1以上の票を獲得した候補者が当選します。当選者がいない場合は1週間後に決選投票が行われる仕組みです。

 この選挙結果次第では、フランス政治に大きな変化が起こる可能性があります。極右政党から首相が選出される可能性や、議会に「ねじれ現象」が生じる可能性も指摘されており、これまでのフランスの政治構造が大きく変わる可能性があります。各政党は購買力向上や年金制度改革、移民政策などの重要な課題について異なる公約を掲げており、選挙後の政権運営や政策実現が国内外から注目されています。

 特に国民連合の躍進は、フランスの政治的立場や欧州連合(EU)との関係に大きな影響を与える可能性があります。一方で、左派連合の「新人民戦線」も急速に勢力を拡大しており、従来の二大政党制から多極化する政治構造への移行が進んでいます。このような状況下で、マクロン大統領がどのようにリーダーシップを発揮し、国政を運営していくかが問われています。

 フランスの今後の方向性を左右するこの重要な選挙の結果は、フランス国内だけでなく、EU全体や国際社会にも大きな影響を与える可能性があり、世界中が注目しています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になってください。

【私の論評】フランス国民連合の躍進:移民政策の失敗と保守派台頭の真相

まとめ
  • 国民連合を「極右政党」と呼ぶのは不適切であり、「保守派政党」または「右派政党」と表現すべきである。
  • マクロン政権の移民の大量受け入れ政策が、フランス社会に深刻な問題(治安悪化、社会保障負担増、文化的摩擦)をもたらした。
  • 国民連合は移民規制強化や国家主権保護を訴え、具体的な対策(市民権取得厳格化、社会保障給付制限など)を提示し、支持を集めた。
  • 2023年の暴動事件は移民政策の失敗を象徴し、国民の不満を顕在化させ、保守派政党の主張を強める契機となった。
  • マクロン政権の移民政策失敗と社会問題の顕在化が、国民連合など保守派政党の躍進を後押しした。
上の元記事は、NHKニュースのものですが、国民連合を「極右政党」と形容することは不適切であり、不当であると言えます。国民連合の主張は、実際には伝統的な保守派の価値観や政策に沿ったものが多く、国家主権、文化的アイデンティティの保護、移民政策の厳格化などは典型的な保守的立場です。「極右」という言葉は、ファシズムや人種差別主義を連想させがちですが、国民連合の現在の政策はそのようなイデオロギーとは異なります。

さらに、「極右」という表現を安易に使用することで、政治的スペクトラムが歪められ、中道右派や穏健な保守派との区別が曖昧になってしまいます。国民連合を支持する多くの有権者は、自身を極右とは考えておらず、むしろ伝統的な保守的価値観を持つ市民です。「極右」というラベルは、これらの有権者の意見や懸念を不当に軽視することになります。

メディアには、政党を公平に報道する責任があります。「極右」という偏った表現を使用することは、この責任を果たしていないと言えるでしょう。したがって、国民連合を「極右政党」ではなく「保守派政党」あるいは「右派政党」と表現し、その具体的な政策や主張を詳細に報道することが、より正確で公平な情報提供につながります。これにより、有権者は偏見にとらわれることなく、政党の実際の立場や政策を理解し、判断することができるようになるでしょう。

これは日本の有権者も同様であり、世界の政治の潮流を正しく理解する助けになるはずです。その意味では、NHKは政党を公平に報道する責任を果たしているとは言い難いです。

国民連合第2代党首現在議員団長のルペン氏

フランスで保守派政党が躍進した背景には、マクロン政権による移民の大量受け入れが社会に大きな混乱をもたらしたことが重要な要因として挙げられます。

マクロン政権は当初、人材不足の分野での外国人労働者の受け入れ拡大を目指していましたが、この政策は結果として無秩序な移民の流入を招き、フランス社会に深刻な問題をもたらしました。特に、治安の悪化や社会保障制度への負担増加、文化的摩擦の拡大などが顕著となり、多くのフランス国民の不満を高めることとなりました。

この状況下で、保守派政党、特に国民連合(RN)は、移民規制の強化や国家主権の保護を訴え、多くの有権者の支持を集めることに成功しました。彼らは、マクロン政権の移民政策が国の安全と伝統的な価値観を脅かしていると主張し、具体的な対策を提示しました。

国民連合(RN)が提示した具体的な移民政策対策には以下のようなものがあります:
1. 市民権取得の厳格化:少なくとも一方の親がフランス人である場合にのみ市民権を付与する方針を提案しました。
2. 不法移民の正規化手続きの厳格化:不法移民を正規の移民とする手続きをより厳しくすることを提案しました。
3. 移民への社会保障給付の制限:移民に対する住宅や医療などの手厚い手当を厳格化する内容を含む修正法案を提出しました。
4. 長期滞在許可証発行の条件付け:フランス語の習得と共和国の価値観の尊重を条件とすることを提案しています。
5. 犯罪歴のある外国人の強制送還:犯罪を犯した外国人や公共の秩序を脅かす過激化した外国人を国外退去させる方針を示しました。
6. 家族呼び寄せビザの廃止:家族再結合のためのビザ発給を停止する提案をしています。
7. 亡命申請の国外処理:亡命申請をフランス国外で処理する制度の導入を提案しています。
8. 移民クォータ制の導入:固定的な移民受け入れ数の設定を提案しましたが、憲法違反とされました。
9. 「国民優先」制度の導入:フランス国民に住宅や雇用へのアクセスで優先権を与え、一連の社会保障給付をフランス国民に限定する法制度を提案しています。
これらの提案は、移民の流入を厳しく制限し、フランス国民の利益を優先する方針を反映しています。国民連合は、これらの政策がフランスの国家主権を守り、伝統的な価値観を保護すると主張しています。

さらに、2023年に起きた暴動事件(写真下)は、移民政策の失敗を象徴する出来事として国民の記憶に深く刻まれました。この事件は2023年6月、パリ郊外で警察官による17歳の若者射殺事件をきっかけに、フランス全土で大規模な暴動が約1週間続いたものです。射殺された17歳の若者ナエル・M氏は、フランス国籍を持っていましたが、アルジェリア系の移民の子孫でした。


この暴動では、多数の車両や公共施設が破壊され、略奪行為も発生しました。この暴動の参加者は主に、移民の背景を持つフランス国籍の若者たちでした。この事件は、フランスの移民政策の失敗と社会の分断を象徴するものとなり、特に移民や移民の子孫が多く住む郊外地域の若者の不満や社会的疎外感を顕在化させました。

マクロン政権は警察力の動員や夜間外出禁止令などで対応しましたが、根本的な社会問題の解決には至りませんでした。この暴動は、フランスの移民・社会統合政策の見直しの必要性を強く認識させ、政治的議論を活発化させるとともに、極右政党の主張を強める契機ともなりました。

国民連合のルペン議員団長は、この暴動の原因を「無秩序な移民受け入れ」に求め、政府の政策を厳しく批判しました。

このような社会的背景の中、マクロン政権は移民規制を強化する法案を提出せざるを得なくなりましたが、これは逆説的に保守派政党の主張の正当性を裏付ける結果となりました。

法案の可決過程では、与党内でも亀裂が生じ、マクロン大統領の求心力低下が鮮明になりました。

9日、パリで、欧州議会選の投票終了後に集まるフランスの保守政党「国民連合」の支持者ら

一方で、保守派政党は購買力の向上や年金制度の見直しなど、経済面でも具体的な政策を提示し、幅広い層からの支持を獲得しました。彼らは、移民問題だけでなく、フランス国民の日常生活に直結する課題にも焦点を当てることで、より包括的な政策パッケージを提示することに成功しました。

結果として、マクロン政権の移民政策の失敗と、それに伴う社会問題の顕在化が、保守派政党、特に国民連合の躍進を後押しする形となりました。フランス国民の間で、自国の伝統的な価値観や生活様式を守りたいという意識が高まり、それが保守派政党への支持拡大につながったと言えるでしょう。

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2024年6月29日土曜日

死亡の警備員、車道に出た抗議女性を止めようとしたか 辺野古ダンプ事故―【私の論評】沖縄辺野古で違法抗議活動が招いた悲劇:法秩序と国家安全保障の重要性

死亡の警備員、車道に出た抗議女性を止めようとしたか 辺野古ダンプ事故


 沖縄県名護市安和(あわ)の国道で28日午前、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設に対する抗議活動をしていた女性がけがを負い、警備中の男性が死亡した事故で、県警名護署は同日夜、亡くなったのは名護市の警備員、宇佐美芳和(よしかず)さん(47)だったと明らかにした。抗議活動をしていた那覇市の無職女性(72)は足の骨を折る重傷だった。

 捜査関係者によると、現場は辺野古移設工事に使う土砂を搬出する安和港の近く。土砂を搬入するダンプカーに抗議するため車道に出た女性を宇佐美さんが止めに入り、その際、左折したダンプに2人とも巻き込まれた可能性もあるとみて、事故に至る詳しい経緯を調べている。

 土砂の搬出港付近では、プラカードを持ってダンプカーの前をゆっくりと横断する「牛歩」を行い、土砂の搬入を遅らせようとする市民もいる。ダンプカーにはねられた女性が「牛歩」を行っていた可能性もあり、名護署が周辺の防犯カメラの確認を進めている。

【私の論評】沖縄辺野古で違法抗議活動が招いた悲劇:法秩序と国家安全保障の重要性

まとめ
  • 沖縄県名護市で辺野古移設工事関連の抗議活動中に事故が発生し、警備員1名が死亡、抗議者1名が重傷を負った。
  • 事故の背景には長年の辺野古移設問題があり、「牛歩」などの抗議活動が日常的に行われている。
  • 事故の原因として、抗議活動の影響、安全管理の不備、関係者の判断ミスなど複数の要因が考えられる。
  • 基地反対運動には危険な側面があり、法治国家としての秩序を乱す過激な抗議活動が公共の安全を脅かしている。
  • 安全性の確保と表現の自由の両立のため、全ての関係者が法令を遵守し、建設的な対話を行う必要がある。
事故現場の沖縄県名護市の安和港の出口付近

まず初めに、この痛ましい事故でお亡くなりになった宇佐美芳和さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。突然の出来事で、ご家族やご友人の皆様の悲しみはいかばかりかと思います。

また、負傷された方の一日も早いご回復をお祈りいたします。このような悲劇が二度と繰り返されないよう、私たちは今一度、社会の在り方を見つめ直す必要があります。

2024年6月28日午前10時15分頃、沖縄県名護市安和の国道449号で、米軍普天間飛行場の辺野古移設工事に関連する痛ましい事故が発生しました。この事故では、辺野古新基地建設に使用する土砂を搬出する安和港の近くで、ダンプカーが左折する際に、抗議活動中の72歳の女性と47歳の警備員の宇佐美芳和さんと接触しました。

事故の結果、宇佐美さんは頭部を強く打ち、搬送先の病院で死亡が確認されました。抗議活動に参加していた那覇市在住の女性は足の骨を折る重傷を負いましたが、意識はあるとのことです。

この事故の背景には、長年続く辺野古移設問題があります。安和港周辺では日常的に抗議活動が行われており、「牛歩」と呼ばれる戦術も使用されています。これは、プラカードを持ってダンプカーの前をゆっくりと横断することで、土砂の搬入を遅らせようとする方法です。

目撃者の証言によると、事故直前に82歳の女性が「牛歩」による抗議を行おうとしたところ、宇佐美さんがそれを止めようとし、それを見た72歳の女性が抗議したという状況があったようです。この時、出入り口付近で停止していたダンプが発進し、2人と衝突したとされています。

牛歩戦術でダンプの前をかなりゆっくり歩いて横断する活動家たち

事故を受けて、玉城デニー沖縄県知事は防衛局に対して土砂搬出作業の中止を求めるとともに、事故の原因究明と安全対策の実施を要求しました。また、沖縄県警名護署が事故の詳しい経緯を調査中で、周辺の防犯カメラの確認を進めています。

この事故は、辺野古移設問題をめぐる緊張状態を反映しており、工事の安全性と抗議活動のあり方について、さらなる議論を呼び起こす可能性があります。現場では規制線が張られ、機動隊が警戒に当たっており、地域社会に大きな影響を与えています。

この事故の原因を推測するには、複数の要因を考慮する必要があります。事故現場の状況、抗議活動の影響、人的要因、環境要因、そして組織的要因が複雑に絡み合っていると考えられます。

具体的には、ダンプカーの運転手の判断ミスや注意不足、「牛歩」などの抗議活動による通常とは異なる道路状況、警備員と抗議者の予期せぬ動き、工事現場周辺の安全管理体制の不備、そして抗議活動と工事の両立に関する対策の不足などが考えられます。

沖縄の基地反対運動は、戦後長年にわたる過重な米軍基地負担、辺野古の豊かな生態系を守る環境保護の観点、そして新基地建設が地域の平和と安全を脅かすという懸念から生まれています。しかし、この運動には危険な側面もあります。

今回の事故の原因となった「牛歩」戦術のような抗議行動は交通事故のリスクを高め、工事関係者と抗議者の対立による緊張状態は双方の判断力を低下させる可能性があります。さらに、日常的な抗議活動により工事現場周辺の安全管理が複雑化し、予期せぬ事態が発生するリスクも高まっています。これらの要因が絡み合って今回のような痛ましい事故につながったと考えられ、今後は安全性の確保と表現の自由の両立が課題となるでしょう。

沖縄の基地問題をめぐる状況は複雑で、長年の課題が積み重なっています。一部の過激な抗議活動は、法治国家としての秩序を乱し、公共の安全を脅かす結果となっています。「牛歩」戦術や危険な場所での座り込みなどの行為は、これからも今回のような痛ましい事故を引き起こす原因となり得ます。

危険な場所での座り込み

沖縄県には、こうした危険な抗議活動を適切に管理し、市民の安全を確保する責任があります。同時に、活動家たちも自らの行動が及ぼす影響を十分に認識し、法令を遵守しながら平和的な方法で主張を表現すべきです。

政府は、地域の安全と法秩序の維持のため、より積極的に介入し、必要な措置を講じる必要があります。これには、違法な抗議活動に対する厳格な法執行や、安全な抗議の場の提供などが含まれます。

今回の事故を契機に、全ての関係者が自らの役割と責任を再認識し、法と秩序の枠内で対話を進めることが重要です。そうしなければ、同様の事故が繰り返される危険性は高いままです。

安全性の確保と民主主義的な表現の自由の両立は可能です。しかし、それには全ての当事者が法令を遵守し、互いの立場を尊重しながら、建設的な対話を行う姿勢が不可欠です。この事故を教訓に、より安全で秩序ある社会の実現に向けて、具体的な改善策を講じていくべきです。

さらに、この事故は、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさが増す中、国内での安全保障政策の実施における課題を浮き彫りにしています。政府は、国家安全保障戦略に基づき、地域の理解を得ながら安全保障政策を進める必要があります。

この事故を契機に、国家安全保障と地域社会の安全の両立、そして「法の支配」の確立について、より深い議論と具体的な対策をすべきです。

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2024年6月28日金曜日

KADOKAWAサイバー攻撃 ハッカー集団「BlackSuit」犯行声明 ニコ動いまだ利用できず―【私の論評】この攻撃から学ぶ企業・個人・政府の包括的セキュリティ戦略

KADOKAWAサイバー攻撃 ハッカー集団「BlackSuit」犯行声明 ニコ動いまだ利用できず


 インターネット上の脅威をモニタリングしている会社がSNSに投稿した画面は、「BlackSuit(ブラック・スーツ)」を名乗るハッカー集団が闇サイトに公開した犯行声明だといいます。

 犯行声明には「私たちは1.5TBのデータをダウンロードした」と書かれてありました。

 ハッカー集団は出版大手・KADOKAWAに「サイバー攻撃を行い、会社の事業計画や様々な機密データを盗み取った」と主張。さらに「金銭を支払わなければ、来月1日にもすべてのデータを公開する」と述べています。

 犯行声明の真偽は分かっていませんが、KADOKAWAではサイバー攻撃によって「ニコニコ動画」などのサービスが利用できない状態が続いています。

(「グッド!モーニング」2024年6月28日放送分より)

【私の論評】この攻撃から学ぶ企業・個人・政府の包括的セキュリティ戦略

まとめ
  •  KADOKAWAへのサイバー攻撃はランサムウェアによるもので、ニコニコ動画などのサービスが停止している。
  • 企業のランサムウェア対策には、オンプレミスとクラウドを組み合わせたハイブリッドバックアップが効果的。
  • 個人向けの対策には、定期的なバックアップ、セキュリティソフトの使用、OSの更新、不審なメールやリンクへの注意が重要。
  • Chrome OSはサンドボックス化された環境などにより、ランサムウェアの感染リスクを大幅に低減するが、完全には防げない。
  • 政府は基幹インフラのサイバーセキュリティ強化を最優先課題とし、常時モニタリングや能動的サイバー防御などの対策を講じるべき。


今回のKADOKAWAに対するサイバー攻撃は、ランサムウェアによるものと考えられます。ランサムウェアは、コンピュータシステムに侵入し、重要なデータやファイルを暗号化して使用不能にする悪意のあるソフトウェアです。

攻撃者は、暗号化されたデータの復号キーと引き換えに身代金を要求します。KADOKAWAの事例では、ハッカー集団「BlackSuit」が犯行声明を出しており、ニコニコ動画などのサービスが利用できなくなっています。これは典型的なランサムウェア攻撃のパターンで、企業のシステムやデータが暗号化され、業務に深刻な影響を与えています。

企業のランサムウェア対策として、オンプレミスバックアップとクラウドバックアップの両方を組み合わせることが非常に効果的です。この「ハイブリッドバックアップ」アプローチにより、データの安全性と復旧の柔軟性が大幅に向上します。

ランサムウェアの、ランサムとは「人質」の意味

オンプレミスバックアップでは、ローカルサーバーや外付けハードディスクにデータを保存します。これにより、インターネット接続に依存せずに迅速なデータ復旧が可能になります。一方、クラウドバックアップは、地理的に離れた場所にデータを保管することで、自然災害やランサムウェア攻撃などのローカルな脅威からデータを保護します。

企業は以下のような方法でハイブリッドバックアップを実施できます:
  1. 重要なデータを日次でオンプレミスのストレージにバックアップし、同時にクラウドストレージにも同期させる。
  2. 定期的に(例えば週に1回)完全バックアップをオンプレミスで行い、そのコピーをクラウドにアップロードする。
  3. 特に重要なデータや設定ファイルは、複数のクラウドサービスと複数のオンプレミスデバイスにバックアップする。
  4. バックアップデータの整合性を定期的に確認し、必要に応じて更新や修正を行う。
  5. オフラインバックアップも定期的に作成し、物理的に隔離された場所に保管する。
このハイブリッドアプローチにより、企業はローカルでの迅速なデータアクセスと復旧、そしてクラウドによる長期的なデータ保護と災害復旧の両方のメリットを享受できます。また、一方のバックアップシステムがのセキュリティが侵害された状態 された場合でも、もう一方から安全にデータを復元できるため、ランサムウェア攻撃に対する耐性が大幅に向上します。

さらに、バックアップだけでなく、従業員教育、多層防御の実施、アクセス制御の強化、異常検知システムの導入など、包括的なセキュリティ戦略の一部としてこのバックアップ方法を位置づけることが重要です。

これらの対策を組み合わせることで、企業はランサムウェアのリスクを大幅に軽減し、万が一攻撃を受けた場合でも迅速かつ効果的に復旧できる体制を整えることができます。

個人がランサムウェアなどのサイバー攻撃から身を守るための対処法は以下の通りです:
  1. 定期的なバックアップ:重要なデータを外付けハードディスクやクラウドストレージに定期的にバックアップします。バックアップはオフラインで保管するか、自動同期を無効にしておくことが重要です。
  2. セキュリティソフトの使用:信頼できるアンチウイルスソフトをインストールし、常に最新の状態に保ちます。
  3. OSとソフトウェアの更新:オペレーティングシステムやアプリケーションを最新の状態に保ち、セキュリティパッチを適用します。
  4. 不審なメールやリンクに注意:見知らぬ送信者からのメールや添付ファイル、不審なリンクをクリックしないよう注意します。
  5. 強力なパスワードの使用:複雑で推測しにくいパスワードを使用し、可能な限り二段階認証を設定します。
  6. 公共Wi-Fiの利用に注意:公共のWi-Fiネットワークでは機密情報のやり取りを避け、必要な場合はVPNを使用します。
  7. ファイル共有の制限:P2Pファイル共有ソフトの使用は避け、信頼できるソースからのみファイルをダウンロードします。
  8. USBデバイスの取り扱いに注意:出所不明のUSBデバイスは使用せず、自分のデバイスも定期的にスキャンします。
  9. ソーシャルエンジニアリングへの警戒:個人情報の取り扱いに注意し、不審な電話やメッセージに対して慎重に対応します。
  10. 教育と意識向上:サイバーセキュリティに関する最新の情報を学び、常に警戒心を持ちます。
これらの対策を日常的に実践することで、個人ユーザーもランサムウェアなどのサイバー攻撃のリスクを大幅に軽減することができます。特に、定期的なバックアップの実施は、万が一攻撃を受けた場合でもデータを守る最後の砦となります。

私は普段は、Chrome OSを用いています。それは、Chrom OSによりランサムウェアの感染リスクが大幅に低減されるからです。

ただし、完全にゼロにはなりません。Chrome OSは、サンドボックス化された環境、読み取り専用のシステム領域、自動更新機能、クラウドベースのストレージ利用、承認済みファームウェアの使用など、複数の層でセキュリティを確保しています。

サンドボックス化された環境とは、プログラムやアプリケーションを隔離された空間で実行する仕組みです。この環境では、実行されるプログラムはシステムの他の部分やデータにアクセスできないよう制限されています。これにより、悪意のあるソフトウェアがシステム全体に影響を与えることを防ぎ、セキュリティを向上させます。Chrome OSでは、すべてのウェブページとアプリケーションがこのサンドボックス環境で動作するため、一つのアプリが感染しても他のアプリやシステム全体への影響を最小限に抑えることができます。

これらの特徴により、多くの一般的なランサムウェア攻撃から保護されます。しかし、クラウドサービスの脆弱性、ブラウザベースの攻撃、ユーザーの不注意によるフィッシング被害など、完全に排除できないリスクも存在します。

そのため、Chrome OS利用者も基本的なセキュリティ対策を怠らず、不審なリンクや添付ファイルに注意を払い、重要なデータの定期的なバックアップを行うことが重要です。Chrome OSの自動更新機能を活用し、常に最新の状態を保つことで、さらにリスクを軽減できます。

今回のような事件が国民生活に影響がある基幹インフラで起きたら大変なことになります。政府としては、基幹インフラで今回の事態にならないようにすべきです。政府のセキュリティ部門による攻撃国への能動的サイバー防御や政府内や基幹インフラへの常時モニタリングも必要でしょう。

ランサムウェア攻撃は、KADOKAWAの事例が示すように、企業の事業継続に深刻な影響を与える可能性があります。しかし、この問題が国民生活に直結する基幹インフラで発生した場合、その影響は計り知れません。政府は、基幹インフラのサイバーセキュリティ強化を最優先課題として取り組むべきです。具体的には、以下の対策が必要不可欠です:
  • 基幹インフラへの常時モニタリングシステムの導入
  • 政府のセキュリティ部門による能動的サイバー防御の実施
  • 攻撃元国に対する外交的・法的対応の強化
  • 基幹インフラ事業者へのセキュリティ対策支援と指導の徹底
  • サイバーセキュリティ人材の育成と配置
これらの対策を総合的に実施することで、基幹インフラのレジリエンスを高め、国民生活への影響を最小限に抑えることができます。また、官民連携を強化し、最新の脅威情報や対策技術を共有する体制を構築することも重要です。ランサムウェア攻撃は日々進化しており、対策も常に更新していく必要があります。政府は、国家安全保障の観点からも、サイバーセキュリティ対策に継続的に投資し、基幹インフラを守る体制を強化していくべきです。

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2024年6月27日木曜日

天皇皇后両陛下 英国の豪華絢爛晩餐会のおもてなしにネット感動「感激です」「ゴージャス〜!」―【私の論評】天皇皇后両陛下の英国訪問:150年の絆と新時代の日英関係を象徴する歴史的ご訪問

天皇皇后両陛下 英国の豪華絢爛晩餐会のおもてなしにネット感動「感激です」「ゴージャス〜!」

まとめ
  • 天皇皇后両陛下が英国を訪問し、6月25日に歓迎式典とパレードに参加した。
  • 夜にはバッキンガム宮殿でチャールズ国王主催の晩餐会に出席。晩餐会の装飾や料理は日本への配慮が見られた。
  • チャールズ国王は日本語を交えたスピーチで、両国の関係強化を強調し、ユーモアも交えた。
  • 天皇陛下も英語でスピーチを行い、日英関係の歴史と友好親善の深化を願った。
  • この晩餐会の様子はライブ配信され、ネット上では温かいおもてなしに感激の声が上がった。
天皇皇后両陛下馬車でパレード 国王夫妻と再会 国賓歓迎行事始まる

天皇皇后両陛下の英国訪問は、6月25日に華やかな歓迎行事で幕を開けました。両陛下は歓迎式典に出席された後、ロンドン市内をパレードし、沿道の熱烈な歓迎に手を振って応えられました。この日の夜には、バッキンガム宮殿でチャールズ国王とカミラ王妃主催の晩餐会が開かれ、両陛下は正装で臨まれました。

晩餐会の会場となった宮殿の舞踏室は、色とりどりの花や金色のカトラリーで豪華に装飾され、日本への配慮も随所に見られました。テーブルフラワーには英国の庭園で育てられたバラやイロハモミジが使用され、皿には桜のような花が飾られるなど、細やかな心遣いが感じられました。

チャールズ国王は晩餐会の冒頭、日本語を交えたスピーチを行い、両国の親密な関係を強調しました。世界情勢が困難に直面する中で両国の絆がより強固になることへの期待を述べるとともに、ハローキティやポケモンに言及するなど、ユーモアを交えた温かい歓迎の言葉を贈りました。

豪華絢爛な晩餐会

これに応じて天皇陛下も英語でスピーチを行い、日英両国の歴史を振り返りつつ、友好関係のさらなる深化への願いを表明されました。過去の苦難を乗り越えて築かれた現在の友好関係に触れ、両国の絆の重要性を強調されました。

この晩餐会の様子はライブ配信され、多くの人々がその模様を見守りました。ネット上では、英国王室による心のこもったおもてなしに感激の声が多数上がり、両国の友好関係を象徴する出来事として大きな注目を集めました。華やかな歓迎行事と温かいもてなしは、日英両国の絆の深さを改めて印象づける機会となりました。

この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。「まとめ」は元記事の要点をまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】天皇皇后両陛下の英国訪問:150年の絆と新時代の日英関係を象徴する歴史的ご訪問

まとめ
  • 天皇皇后両陛下の英国訪問は、コロナ禍による延期を経て、チャールズ国王の正式招待により実現した。
  • 天皇陛下とチャールズ国王の40年以上にわたる個人的な友情が、両国の外交関係にも良い影響を与えている。
  • この訪問は3代にわたる天皇の国賓訪問となり、150年以上の歴史を持つ日英両国の皇室・王室交流を象徴している。
  • 文化交流、経済協力、環境問題など幅広いテーマについての意見交換が行われる予定。
  • 伝統的な儀式や行事を通じて両国の絆を深め、国家の威厳と歴史を尊重する機会となっている。
天皇皇后両陛下の現在の英国訪問は、長年の準備と複雑な経緯を経て実現しました。この訪問は、もともと故エリザベス女王からの招待に基づくものでした。エリザベス女王は、天皇陛下の即位後最初の訪問国として日本を招待していましたが、新型コロナウイルスの世界的流行により、当初の予定から約5年もの延期を余儀なくされました。

この間、世界は大きな変化を経験しました。最も注目すべき出来事の一つは、70年以上にわたり英国王室の象徴であったエリザベス女王の逝去でした。これに伴い、長年皇太子として日本の皇室と親交を深めてきたチャールズ皇太子が国王に即位しました。天皇陛下は、エリザベス女王の国葬に参列するため英国を訪問されましたが、これが即位後初の外国訪問となりました。

エリザベス女王

今回の訪問は、チャールズ国王からの正式な招待を受けて実現したものです。天皇陛下とチャールズ国王の関係は、40年以上にわたる深い友情で結ばれています。特に平成の30年間は、互いに皇太子として親密な交流を重ねてきました。この個人的な絆は、両国の外交関係にも良い影響を与えています。

日英両国の皇室・王室の交流は150年以上の歴史があり、今回の訪問で3代にわたり天皇が国賓として英国を訪問することになります。これは両国の長年の友好関係を象徴するだけでなく、現代の国際社会における両国の重要性を再確認する機会ともなっています。

この訪問では、両国の文化交流や経済協力、さらには地球規模の課題に対する共同の取り組みなど、幅広いテーマについて意見交換が行われると予想されています。また、両国の皇室・王室が共有する自然保護や環境問題への関心も、重要な話題の一つとなるでしょう。

さらに、この訪問は日英両国民にとっても特別な意味を持ちます。両国の君主が互いの国を訪問することは、単なる外交行事以上の象徴的な意味を持ち、両国の絆をより一層深める機会となります。

このように、天皇皇后両陛下の英国訪問は、長年の友好関係の集大成であると同時に、新たな時代における日英関係の出発点としても位置づけられる重要な外交イベントなのです。両国の歴史と伝統、そして未来への展望が交差する、まさに歴史的な瞬間と言えるでしょう。

天皇皇后両陛下の英国訪問において、皇太子夫妻が行った行事および今後予定されている行事は、保守派の観点から高く評価されると考えられます。以下にその理由を詳述します。

まず、皇太子夫妻が行った行事の一つとして、ウィリアム皇太子の出迎えを受け、ホースガーズ広場での歓迎式典に参加したことが挙げられます。この式典では、天皇陛下がチャールズ国王とともに閲兵し、日本の童謡「さくらさくら」が演奏されるなど、両国の文化交流が強調されました。保守派にとって、こうした伝統的な儀式は国家の威厳と歴史を尊重する重要な機会と見なされます。


さらに、天皇陛下とチャールズ国王が馬車に乗り込み、バッキンガム宮殿へ向かったパレードも行われました。このような儀式は、両国の君主制の継続性と安定性を象徴し、保守派にとっては国家の伝統と尊厳を再確認する場となりました。

また、天皇陛下はエリザベス女王の墓を訪れ、花を手向けられました。これは、礼節を重んじる日本の皇室の姿勢を示すものであり、保守派にとっては非常に重要な行為でした。このような行動は、過去の歴史に対する理解と敬意を示し、両国の友好関係をさらに深めるものと評価されます。

さらに、天皇陛下と皇后さまが共に留学経験のあるオックスフォード大学を訪問する予定があります。これは、両国の教育と文化の交流を象徴するものであり、保守派にとっては若い世代に対する国際交流の重要性を強調する機会となります。

このように、皇太子夫妻が英国で行った行事および今後予定されている行事は、国家の伝統と尊厳を重視し、両国の友好関係を深める重要な機会として高く評価されるでしょう。

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2024年6月26日水曜日

【急速に深まるロシアと中国の軍事協力】狙いは台湾か、いざという時にどこまで行動に移すのか―【私の論評】ロシアの極東軍事力低下による中露連携強化:日米がすべき現実的対応

【急速に深まるロシアと中国の軍事協力】狙いは台湾か、いざという時にどこまで行動に移すのか

まとめ
  • 中国とロシアの軍事協力関係が深化し、特に台湾周辺での活動が米国の懸念事項となっている。
  • 両国の軍事協力は合同演習、ミサイル防衛協力、情報共有など多岐にわたり、その多くが日本近海で行われている。
  • ロシアのミサイル防衛早期警戒システム技術の中国への移転が重要な要素となっている。
  • 実際の戦闘では共に戦わないまでも、両国は政治的・経済的・軍事的に相互支援を行う可能性が高い。
  • この状況は日本を含む西側諸国にとって脅威となり、警戒を強める必要がある。

ロシア海軍記念日観艦式に参加した中国駆逐艦「西安」2019年7月

 中国とロシアの軍事協力関係が深まっており、特に台湾周辺での活動が米国の懸念を高めている。米国の情報機関長官らは、中露両国が台湾に関して初めて合同軍事演習を行っていると警告した。この協力関係は、緊密な合同演習やミサイル防衛協力にまで発展しており、その多くが日本近辺で行われている

 専門家らは、ロシアが中国の対台湾軍事作戦を支援する可能性があると指摘している。両国は戦闘協力に必要な通信システムの構築や機密データの共有を進めており、特にロシアのミサイル防衛早期警戒システム技術の中国への移転が重要な要素となっている。

 さらに、中国が台湾をめぐって戦争をする場合、ロシアからの物資輸送が米国の海上封鎖の影響を緩和する可能性があるとの見方もある。実際の戦闘では共に戦わないまでも、両国は政治的・経済的・軍事的に相互支援を行う可能性が高いとされている。

 この状況は日本を含む西側諸国にとって脅威となり、警戒を強める必要がある。米国の情報機関は、この新たな軍事協力関係を踏まえて防衛計画の見直しを行っており、潜在的な二正面作戦の可能性も考慮に入れている。

 一方で、中露関係には依然として一定の警戒感も存在していると指摘されている。両国の協力関係が深まる中で、互いの核心的利益を尊重し合うという姿勢が強調されており、これは長年の相手に対する警戒感の表れとも解釈できる。

 このような状況下で、台湾の総統は中国に対して地域の安定に向けた責任の共有を呼びかけており、国際社会も中国の軍事演習に対して懸念を表明している。今後も中露の軍事協力の動向は、アジア太平洋地域の安全保障環境に大きな影響を与える可能性があり、継続的な注視が必要である。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ロシアの極東軍事力低下による中露連携強化:日米がすべき現実的対応

  • ロシアは極東の軍事力が低下しており、台湾に対する直接的または間接的な支援能力は限定的。プーチン大統領の訪朝時のロシア軍行動から、ロシア軍の極東の軍事力低下を認識できる。
  • 米軍の「バリアント・シールド」や北朝鮮の弾道ミサイルの実戦配備は、地域の緊張を高めており、日米はこれに対処するためにサイバーセキュリティや情報戦の強化を進める必要がある。
  • ロシアの海軍演習は規模が小さく、空軍の活動も見られず、その能力低下が露味の連携強化の要因になっている
  • 日米は同盟国との協力を強化し、多国間での安全保障体制を構築することで中露の連携に対抗すべき。また、技術開発や経済制裁の強化、防御力とミサイル防衛システムの増強を通じて脅威に対応すべき。
  • ロシアの太平洋艦隊と極東の軍事基地の課題は深刻だが、日米の対潜水艦戦(ASW)能力の優位性を活かし、戦略的な軍事演習と共同訓練を通じて地域の安定を図ることが重要。

上の記事では、中露の軍事協力の動向に注視が必要と述べていますが、現実にはロシアは中国の武力侵攻に対して直接的にも、間接的にも支援する能力はほとんどないというのが実情です。


これについては、最近プーチンが北朝鮮を訪問したときのロシアの動きをみていると良く理解できます。

プーチン大統領は深夜2時過ぎという異例の時間帯に平壌の空港に到着し、金正恩総書記が直接出迎えました。このような時間帯に一国の首脳が他国を訪問すること自体が極めて異例であり、さらに受け入れ国の首脳が直接空港まで出迎えるというのも尋常ではありません。これは、戦時下の国家元首が警戒心を強めつつ、重要かつ緊急な用件で同盟国を訪れたことを示唆しています。

この訪問の背景には、米軍の大規模な軍事演習「バリアント・シールド」があります。米空軍のステルス戦略爆撃機「B-2スピリット」、ステルス戦闘機「F-22ラプター」、米海兵隊の垂直/短距離離着陸戦闘機「F-35B」などが編隊で飛行し、グアム周辺での演習に参加しました。さらに、この演習には日本の自衛隊も約4,000人が参加し、初めて日本国内の基地で共同訓練を行いました。

米軍の大規模な軍事演習「バリアント・シールド」

一方で、北朝鮮もこのような日米韓の動きに対抗して、弾道ミサイルを実戦配備につけていつでも発射できる態勢をとっていたと考えられます。米空軍の弾道ミサイル追尾専用機「RC-135Sコブラボール」が北朝鮮東方沖の日本海上空で偵察活動を行っていたことから、北朝鮮で弾道ミサイルの発射兆候があることを米軍が探知していた可能性が高いです。

ロシアもまた、米韓の動きに対応して海軍演習を発表しました。ロシア国防省は、約40隻の艦船と約20機の航空機が参加する海軍演習を日本海、オホーツク海及び太平洋の海域で行うと発表しました。しかし、実際に確認されたのは、駆逐艦1隻と戦車揚陸艦2隻の計3隻のみでした。これは、現在の極東ロシア軍にとってできる精一杯の対抗措置であり、ロシア軍の窮状を強く示しています。

さらに注目すべきは、ロシア空軍の活動が全く見られなかったことです。日本海周辺での偵察活動や戦闘機による警戒飛行が行われなかったことは、ロシア空軍の能力が著しく低下していることを示唆しています。これは、ロシア軍の国防力が大幅に低下していることを示すものであり、特に空軍の窮状が深刻です。

今回のプーチン大統領の訪朝は、日米韓の結束の強化やNATOを含む民主主義国間の軍事的連携の強化によって、ロシアや北朝鮮が苦しい立場に立たされていることを示しています。これが露朝の軍事同盟化へと駆り立てている要因であることは間違いありません。金正恩総書記にとっては大きな賭けであり、今後の露朝情勢がどのように展開するかは注視する必要があります。

ロシア太平洋艦隊と極東の軍事基地は、ウクライナ戦争前から、複数の深刻な課題に直面していました。まず、装備の老朽化が顕著な問題となっています。ロシア海軍の専門家であるパベル・リザソフ氏によると、太平洋艦隊の主力艦の多くが1980年代に建造されたものであり、現代の海軍作戦に必要な能力を欠いているとのことです。

さらに、ロシア国防省の公表した予算データによれば、極東地域の軍事施設への投資は他の地域と比べて低い水準にとどまっています。このことは、インフラの更新や新規装備の導入を困難にしています。

人材確保の面でも苦戦しています。ロシア国家統計局の人口移動データによれば、極東地域からの人口流出が続いており、特に若年層の流出が顕著です。これは軍にとっても優秀な人材の確保を難しくする要因となっています。

地理的な課題も無視できません。ロシア太平洋艦隊の管轄範囲は広大で、ウラジオストクからカムチャツカまで約4,000キロメートルに及びます。この広大な範囲をカバーするには多大な労力とコストがかかります。

国際情勢の緊張も艦隊の活動に影響を与えています。例えば、2022年以降、日本政府は対ロシア制裁を強化しており、これによりロシア艦艇の日本寄港が事実上不可能になっています。

これらの問題に対し、ロシア政府は対策を講じようとしていますが、その進展は遅いのが現状です。例えば、2020年に発表された「極東社会経済発展国家プログラム」には軍事インフラの近代化も含まれていますが、その成果はまだ限定的です。というより、ウクライナ戦争により、さらに後退した状況にあります。

ロシア太平洋艦隊旗艦「ワリャーグ」

ロシアの太平洋艦隊と極東の軍事基地の現状を考慮すると、ロシアが中国の台湾侵攻に直接的または間接的に加勢することは現実的ではありません。老朽化したインフラ、予算の制約、装備の更新の遅れ、人員不足、地理的孤立、そして対潜水艦(ASW)戦能力の低さがその主な要因です。これらの要因は、中国とロシアが日米に対抗する際の大きな障害となっており、特にASWにおいては日米の優位性が顕著です。

中露の軍事連携が強化されているものの、ロシアの極東の軍事力が低下しているため、中露県警による台湾を巡る直接的な危機は直ちには生じないと考えられます。しかし、中露の連携強化は依然として脅威となります。

中露の戦略的プレゼンスがアジア太平洋地域で拡大し、日米に対する軍事的圧力が増大する可能性があります。サイバー戦争や情報戦のリスクも高まるため、日米はサイバーセキュリティと情報戦対策を強化する必要があります。

また、中露の経済的および技術的協力により、中国がロシアの軍事技術を活用する可能性があるため、日米は技術開発と経済制裁を強化する必要があります。対潜水艦戦(ASW)能力のさらなる向上や潜水艦活動の監視も重要です。

さらに、日米の基地や戦略的拠点への脅威に対抗するため、防御力とミサイル防衛システムの強化が求められます。中露の連携に対抗するため、同盟国との協力を強化し、多国間での安全保障体制を築く必要があります。外交的な取り組みも重要で、中国およびロシアとの対話を続けるべきです。

総じて、日米は中露の連携強化に対抗するために、中露を等身大で見たうえで戦略的かつ総合的なアプローチが必要です。

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2024年6月25日火曜日

「ポスト岸田」世論調査で〝大異変〟高市氏が2位に急浮上 トップ石破氏「『女系天皇』検討発言」の波紋 菅氏は「新リーダー」に期待―【私の論評】自民党総裁選の行方: 石破茂氏と高市早苗氏の勝算を徹底分析

「ポスト岸田」世論調査で〝大異変〟高市氏が2位に急浮上 トップ石破氏「『女系天皇』検討発言」の波紋 菅氏は「新リーダー」に期待

まとめ
  • 岸田文雄首相の支持率が急速に低下しており、党内外での支持が収縮している。
  • 世論調査では、石破茂元幹事長がリードしているが、高市早苗経済安保相が急浮上し、毎日新聞の調査で2位につけた。
  • 岸田首相のLGBT法制化の拙速な対応が保守層の一部を離反させた。
  • 石破氏の「女系天皇」検討発言が波紋を呼び、保守層の支持を失う可能性がある。
  • 菅義偉前首相が岸田首相の退陣を事実上要求し、次期総裁選での新リーダー登場に期待を示している。

 時事通信社が6月に実施した世論調査の結果、岸田文雄内閣の支持率は16.4%まで低下し、2012年12月の自民党政権復帰以降で最低を記録した。この数字は前月比で2.3ポイント減少しており、岸田政権の苦境が一層深刻化していることを示している。

 政権浮揚の切り札として期待されていた定額減税についても、物価高対策としての効果が乏しいという評価が大勢を占めている。調査では65.3%の回答者が定額減税の効果は「ない」と答えており、政府の経済政策に対する国民の不信感が浮き彫りになった。

 さらに、政治資金規正法改正案についても、7割を超える回答者が評価していないことが明らかになった。この法案は政治とカネをめぐる問題への対応策として政府が打ち出したものだが、国民の期待に応えられていない現状が浮き彫りになっている。

 岸田首相の自民党総裁としての任期が9月末に迫る中、政権の「死に体」化が急速に進んでいるという見方が強まっている。支持率の低迷が続く中、岸田首相が次期総裁選に出馬するかどうかも不透明な状況となっている。

 一方、次期総裁候補として注目されているのが石破茂元幹事長と高市早苗経済安保相だ。毎日新聞の世論調査では、「次の首相にふさわしい人」として石破氏が1位(20%)、高市氏が2位(9%)となっている。石破氏は世論調査で人気がある一方、自民党内では反発もあり、総裁選での勝利が難しい状況にある。

 高市氏は保守派に支持されており、全国各地での講演会も盛況だ。彼女は2021年の自民党総裁選で国会議員票で100票を超え、河野太郎デジタル相を大きく上回る2位に付けた。さらに、安倍晋三元首相の宿題とされていたセキュリティ・クリアランス制度の法制化を実現するなど、外交・内政の諸課題で毅然とした姿勢を示している。

 今後、岸田政権がこの危機的状況をどのように打開していくのか、また自民党がどのような党運営や政策転換を図るのか、政治の動向が注目されている。特に、9月の総裁選を控え、党内での議論や次期リーダーの選出プロセスが重要な焦点となることが予想される。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。「まとめ」は、元記事の要点を5つにまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】自民党総裁選の行方: 石破茂氏と高市早苗氏の勝算を徹底分析

まとめ
  • 石破茂氏は世論調査では人気があるが、党内での支持が弱く、総裁選での勝算は低い。
  • 高市早苗氏は保守層から強い支持を得ており、2021年の総裁選で2位につけるなど一定の支持基盤がある。
  • 高市氏はセキュリティ・クリアランス制度の法制化など具体的な政策実績があり、全国行脚で支持拡大に努めている。
  • 自民党が高市氏を総裁に選出しない場合、保守的支持基盤が弱体化し、連立政権や下野のリスクが高まる可能性がある。
  • 世界的な保守政党躍進の潮流の中、高市氏の強い保守的姿勢は自民党の生存戦略として重要になる可能性がある。
自民党総裁選は党員と党所属国会議員による投票で行われますが、石破茂氏の勝算は極めて低いと見られています。石破氏は世論調査では常に上位に位置し、一般国民からの支持は高いものの、党内、特に国会議員の間での支持基盤が弱く、過去の総裁選でも議員票での得票が少なかった経緯があります。この党内と党外での評価の乖離が、石破氏の総裁選での最大の障壁となっています。


石破氏は岸田政権や過去の安倍政権に対して批判的な立場を取ることが多く、党執行部との関係が良好とは言えません。特に、石破氏は「後ろから鉄砲を撃つ奴」と党内で批判されることがあります。

これは、党の方針や現政権に対して公然と異を唱える姿勢を指しており、例えば、安倍政権時代に憲法改正や経済政策について度々批判的な発言をしたことなどが挙げられます。このような行動は、党の団結を重視する自民党内では、裏切り行為とみなされかねず、石破氏が党内での信頼を得ることを極めて難しくしています。

さらに、自民党を支える「岩盤保守層」の支持を得られていない可能性も高いです。深谷隆司元通商産業相は、この層が約3割存在し、彼らの支持が崩れない限り選挙で勝てると述べています。

深谷氏は「国民の人気と、保守を支持する人気とは若干異質なものがある」とも指摘しており、石破氏の世論調査での人気が必ずしも党内での支持につながらない理由を説明しています。石破氏の政策スタンスが、時として自民党の伝統的な保守層の価値観と合致しないことが、この支持の欠如につながっていると考えられます。

加えて、高市早苗氏のような保守派に強く支持される候補の存在も、石破氏の立場を一層難しくしています。高市氏は2021年の自民党総裁選で国会議員票で100票を超え、河野太郎氏を大きく上回る2位に付けました。また、安倍晋三元首相の宿題とされていたセキュリティ・クリアランス制度の法制化を実現するなど、外交・内政の諸課題で毅然とした姿勢を示しており、保守層からの支持を集めています。

また、茂木敏充氏のような党内実力者の存在も無視できません。茂木氏は党内での人脈が広く、政策通としても知られており、党内からの支持を得やすい立場にあります。このような候補者たちの存在が、石破氏の総裁選での勝算をさらに低くしています。

石破氏自身も、この状況を認識しているようです。最近のインタビューでは、総裁選への出馬について慎重な姿勢を示しており、「党内の空気を読まなければならない」と述べています。これは、自身の党内での立場の難しさを自覚している表れと言えるでしょう。


一方、高市早苗氏の総裁就任の可能性については、状況が変化する余地があると考えられます。高市氏は「保守派のスター」と呼ばれ、保守層からの強い支持を得ています。2021年の自民党総裁選では国会議員票で100票を超え、2位につけるなど、一定の支持基盤があることが示されました。

高市氏は安倍晋三元首相の「宿題」とされたセキュリティ・クリアランス(SC)制度の法制化を実現するなど、具体的な政策実績を積み重ねています。また、自身の政策や考えを訴える「全国行脚」を行うなど、支持拡大に努めています。「保守団結の会」など、高市氏を支持する保守系議員グループも活発に活動しており、これらの動きが高市氏の立場を強化する可能性があります。

高市氏は過去に放送法をめぐる問題で批判を受けたことがありましたが、この件については高市氏の対応に問題がなかったことが明らかになっています。高市氏は国会で強い姿勢で自身の立場を説明し、批判に対して毅然とした態度を示しました。

ただし、自民党内での力学や他の有力候補との競争など、総裁就任には様々な要因が影響します。石破茂元幹事長が党内の結束を呼びかけるなど、高市氏の動きに対して慎重な見方をする声もあります。

しかし自民党が高市氏を総裁に選出しない場合、党の保守的な支持基盤が弱体化し、結果として公明党も含めて他党と連立政権を組まざるを得ない状況に追い込まれる可能性があります。さらに、保守層の支持を失うことで、長期的には下野のリスクも高まります。

30年前に発足した細川連立政権は263日で退陣 中央は細川護煕首相

高市氏の政策や姿勢は、時として論争を呼ぶこともありますが、それは同時に自民党の伝統的な価値観を強く主張できる可能性も示しています。この強い主張は、党の独自性を維持し、他党との差別化を図る上で重要です。

世界的に保守政党が躍進する中、日本の政治においても保守的な価値観を前面に打ち出すことが、自民党の生き残りと発展にとって不可欠となる可能性があります。高市氏はその役割を担える数少ない政治家の一人です。

したがって、高市氏を総裁に選出することは、自民党が単独政権を維持し、下野を回避するための重要な選択肢となり得ます。党の将来を見据えた場合、高市氏の強みを活かすことが、自民党の生存戦略として重要になる可能性が高いと言えます。

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