2018年1月26日金曜日

安倍首相が平昌出席で殴り込み「慰安婦像撤去しろ!」 ペンス米副大統領と圧力かける狙い―【私の論評】トランプ大統領は、韓国の対北融和姿勢を打ち砕くため、踏み込んだ決断をした(゚д゚)!

安倍首相が平昌出席で殴り込み「慰安婦像撤去しろ!」 ペンス米副大統領と圧力かける狙い

平昌に乗り込む安倍総理
 安倍晋三首相が、韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪の開会式(2月9日)出席のため訪韓する決意を固めた。文在寅(ムン・ジェイン)大統領と首脳会談を行い、慰安婦問題をめぐる日韓合意を反故にする「新方針」を示したことを「受け入れることはできない」と断固抗議する。加えて、「核・ミサイル開発」を強行する北朝鮮に対する「日米韓の連携」を確認する。同時期に訪韓するマイク・ペンス米副大統領とともに強い圧力をかける狙いだが、「従北・反日・反米」の文政権は目を覚ますのか。事実上の「日米殴り込み」は、韓国への最後通告ともいえそうだ。

 「五輪は平和とスポーツの祭典であり、日本は2020年に東京五輪を主催する立場だ。諸般の事情が許せば平昌五輪開会式に出席し、日本人選手たちを激励したい」

 安倍首相は23日、産経新聞のインタビューでこう語った。

 新年早々、文政権が「最終的かつ不可逆的に解決」とした日韓合意を蒸し返す新方針を発表して以降、日本では「納得できない」「理解できない」という怒りの声が8、9割に上っている。

 加えて、「従北」の文政権は、平昌五輪を「南北連携の政治ショー」と変貌させつつあり、米国や中国、ロシア、フランスなどの首脳は軒並み開会式欠席を表明した。

 安倍首相も出席見送りを検討していたが、緊迫する北朝鮮情勢などを考慮し、再考したという。前出のインタビューで、次のように語っている。
「(文氏との会談で)慰安婦問題をめぐる日韓合意について、韓国が一方的にさらなる措置を求めることは受け入れることはできない。この考え方を直接伝えるべきだと考えている」「(ソウルの日本大使館前の慰安婦像撤去も)当然強く主張することになる」

 官邸や外務省に慎重意見が強いなか、安倍首相が苦渋の決断を下した背景には、同盟国・米国の意向もあったようだ。

 同紙によると、文政権が行き過ぎた対北融和政策に走らないようクギを刺したい米ホワイトハウスから、「安倍首相に開会式に出てほしいという強い要請があった」(政府高官)という。

 五輪直前には、開会式に出席するペンス氏が来日する。安倍首相は、ペンス氏との会談や夕食会などを通じ、日韓合意の経緯や日本の立場を説明する考えという。強固な日米関係を背景として、ペンス氏とともに、文氏に「対北連携」と「日韓合意履行」を迫る。

 ただ、韓国の「反日」姿勢はまともではない。

 東京五輪誘致の際、韓国は妨害工作を行った。平昌五輪のHPの地図から、日本列島を消したこともある。ドナルド・トランプ米大統領が昨年11月に訪韓したときは、晩餐(ばんさん)会に元慰安婦を招き、「独島エビ」を出した。朝鮮有事に向けた日本人避難の協議にも応じない。

 もはや「敵性国家」に近い存在である。

 自民党内にも不満が高まっている。「日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会」と外交部会の合同会議が24日午前、党本部で開かれ、安倍首相の五輪開会式出席への反対論が続出した。「訪韓すれば(安倍政権の)支持率が下がる」といった声も上がった。首相訪韓への賛成論はなかった。これを受け、同委員長の中曽根弘文元外相らが同日中にも首相官邸を訪れ、「訪韓見送り」を申し入れる方向で調整する動きもあった。

安倍首相の決断を、専門家はどうみるのか。

 作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は「韓国のことは不愉快だが、賢明な判断だ。日韓の懸案である慰安婦問題を理由に、安倍首相が開会式に出席しなければ、国際社会から『日本は大人ではない』とみられる。韓国につけ込むスキを与え、北朝鮮が悪用する可能性もある」と語った。

 これに対し、朝鮮近現代史研究所所長の松木國俊氏は「反対だ。韓国に『日本は日韓合意にこだわっていない』という誤ったメッセージを送ることになる。日本の怒りも伝わらず、慰安婦問題は解決しない。日本は1ミリたりとも動いてはならない。(首脳会談も)韓国から頼んでくるのが筋だ。『ゴネれば、日本は言うことを聞く』とナメられるだけ。腹を割って話しても通じる相手ではない」と懸念を示した。

 国連などで、朝日新聞などが広めた「慰安婦問題のウソ」を修正する活動を続けている「なでしこアクション」代表の山本優美子氏も「訪韓すべきではない」としたうえで、注文を付けた。

 「韓国に行く場合、日韓合意を履行するよう厳しく突きつけなければいけない。米国との連携は不可欠になる。国際社会が韓国を指導し、プレッシャーをかけて追い込んでいく姿勢を見せつけることが必要だ」

 拓殖大学の藤岡信勝客員教授は「安倍首相の訪韓方針にはがっかりだ。なぜ、文氏に『新方針は受け入れられない』と伝えるために、直接会う必要があるのか。理解できない。北朝鮮問題でも(従北の)韓国と連携できないことは明白だ。韓国は約束を破ってきた。日本に対する『甘えと傲慢さ』が根強くあり、これらは究極の侮蔑にほかならない」と批判した。

 安倍首相の決断は、吉と出るか凶と出るか。

【私の論評】トランプ大統領は、韓国の対北融和姿勢を打ち砕くため、踏み込んだ決断をした(゚д゚)!

慰安婦問題の日韓合意については、韓国が”新方針”なるものを一方的に打ち出していました。韓国の康京和外相は今月9日、従軍慰安婦問題をめぐる2015年の日韓合意について、日本側に再交渉を求めない方針を発表しました。

ただ、日本政府が拠出した10億円については、返還すべきとの元慰安婦らの主張を踏まえて韓国政府が同額を負担し、今後、日本側と拠出金の扱いについて協議するとしています。

さらに、康外相は、「被害者の望みは自発的で心のこもった謝罪だ」と述べ、日本政府が新たな措置を講じることを暗に促しました。

新方針を発表した康京和(カン・ギョンファ)外相
そうして、今月24日の産経新聞の朝刊トップに載っていたのは『首相、平昌開会式に出席 日韓合意新方針 文氏に「拒否伝える」』という見出しでした。

その後は「安倍総理は平昌オリンピックの開会式出席を見合わせる」という報道が相次いでいました。 日本政府はすでに韓国の新方針をもちろん「受け入れられない」と言葉の意思表示をしていましたが「オリンピックの開会式に行かない」という”無言の行動”もこれまた韓国の新方針を「受け入れらない」と示すことになります。

ただこういう場合は「相手が道理に合わない」とか「不愉快だから」という理由ではなく「国会日程があるので行けません」などとさらりと無視するようなやり方で、今回はそのようになるのではないかと思っていました。

ところがその後一転して、安倍総理は開会式に行くという決断をしたのです。産経新聞の単独インタビューによると「何をすべきかを熟慮して判断し、実行するのは政権を担う者の責任だ」ということで、背景にあるのは日韓合意を履行して「在ソウル日本大使館前の慰安婦像撤去についても」言う、と述べたとのことです。

9日、2015年12月以来となる正式な南北会談を行った韓国と北朝鮮の政府高官
また南北対話については「五輪は五輪で切り離して考えるべきだ。北朝鮮への圧力を最大化していく方針はいささかもぶれてはならない。この考え方も文大統領に明確に伝えたい」と答えています。

そうして、この記事で一番注目したのは以下の部分です。
「実は、米ホワイトハウスからも、安倍首相に開会式に出てほしいという強い要請があった」 政府高官はこう明かす。(ウェブサイト「産経ニュース」より)
平昌オリンピックにアメリカのペンス副大統領が出席をすることになっています。その時にペンス氏は韓国に行く直前に日本に来ます。これは、すなわち日米で韓国の文在寅大統領に北朝鮮や日韓合意への対応を迫るという意味があるものと考えられます。

追加関税措置を命じる文書に署名するトランプ米大統領 1月23日
このような最中に、ドナルド・トランプ米大統領が、通商法201条に基づく緊急輸入制限(セーフガード)を発動する文書に署名したことが、注目されています。「国内産業の保護」のため、太陽電池製品と家庭用大型洗濯機で競争力の強い、中国と韓国を特にターゲットにしたものです。

両国は「核・ミサイル開発」を強行する北朝鮮への制裁に慎重とされ、発動日(2月7日)は、韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪開会式の前々日です。この動きは、決して偶然ではなく、安倍晋三首相の、突然の訪韓決断との関係があるものと考えられます。

これは、トランプ政権の中韓への懲罰・牽制(けんせい)の可能性が濃厚です。 米通商代表部(USTR)は、低価格の太陽電池と大型洗濯機の輸入量が急増し、米国内のメーカーが被害を受けているという認識を示していました。トランプ氏は、USTRが引き続き調査に取り組むことを強調しました。

 これに対し、中韓両国は強く反発しています。

中韓が反発するのは、セーフガードが発動された場合に、現行の関税のほかに追加関税の支払いを求められるためです。追加関税は、中国が世界的に優位な太陽電池で4年にわたり、最大30%。韓国が強い大型洗濯機は、年間輸入数が120万台までは最大20%、これを超えた分には最大50%もの追加関税を課します。期間は3年間です。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、平昌冬季五輪前に、北朝鮮への露骨なすり寄りを見せいます。カナダ・バンクーバーで16日に開かれた外相会合でも、康京和(カン・ギョンファ)外相が北朝鮮への人道支援再開に強い意欲を表明した。

こうしたなか、安倍首相は24日、平昌五輪の開会式(2月9日)出席のため訪韓する意向を明らかにしたのです。安倍首相がこのような苦渋の決断を下した背景には、文政権が極端な「従北」政策に走らないようクギを刺したい同盟国・米国の意向もあるのでしょう。

「政治と五輪」「五輪と貿易」は一見、無関係にも思えます。しかし、国際政治は冷徹で複雑な計算の上に成り立っています。

文政権に不信感を高めているトランプ政権が、セーフガードを開会式直前に発動する。その開会式には、安倍首相とペンス氏が出席して、文政権に「日米韓の対北連携」を迫ります。これにより、日米は韓国の優柔不断で八方美人的な姿勢をただし北の脅威に本格的に備えようとしているのでしょう。

今思い返すと、2015年末の「日韓合意」そのものについても、日本国内では異論・反論がかなりありました。しかし、その後どうなったか振り返ってみると、安倍総理は無論のこと、岸田・河野外務大臣ともに、韓国側が「慰安婦問題蒸し返し」を言ってきても、ことごとく無視しました。そうできたのは、この合意に当時のオバマ政権が関与していたということがあります。

2015年12月28日の会談で慰安婦問題の解決方法で合意した日韓外相
今回も、ペンス副大統領の目の前で、安倍総理と文在寅が話し合いをして、「日韓合意」について文が色よい返事をしなければ、ペンス副大統領は、さらに懲罰を加えることをほのめかすなどのやりかたで、文に因果を含めることになるのでしよう。

また、実際に武力攻撃などがあった場合に、米国や日本の在韓市民を避難させることなどについても、話し合いが行われるでしょう。いずれにしても、日米により韓国の文在寅に相当な圧力を加えるのは間違いないでしょう。

北朝鮮の後ろ盾である中国と、『従北』姿勢を強める韓国は、『核・ミサイル開発』を放棄させようという国際社会の足並みを乱しています。さらに、「日韓合意」を反故にしようとするなど、日米韓の足並みを乱しています。トランプ大統領としては、韓国に融和姿勢を改めさせるために、踏み込んだ決断に至ったのでしょう。

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2018年1月25日木曜日

安倍首相はなぜ「リフレ派」になったのか―【私の論評】ポスト安倍は金融政策を理解しなければ国民からNOをつきつけられる(゚д゚)!

安倍首相はなぜ「リフレ派」になったのか

第196回国会における施政方針演説を行う安倍首相 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 経済評論家の上念司氏が面白いものを書いていた(“週刊「1億人の平成史」 第19回 上念司さんの「アベさんがアベノミクスにたどり着くまで」”)。

 もっとも、この記事は上念氏らが「リフレ派」に入った経緯を書いているが、安倍首相のことは書かれていない。安倍首相がどのようにリフレ派になっていったのか、筆者はその当時のことを知っている。

 それは2006年3月の日銀の量的緩和解除の「失敗」までさかのぼる。

関心の最初は06年の量的緩和解除の「失敗」

 上念氏が書いたものは、時系列的には、安倍氏が日銀の量的解除失敗で金融政策に関心を強め、安倍氏や自民党が在野の時代に、党内の勉強会などで内々に勉強した後、表に出て行ったときの話である。

 その頃には安倍氏は、日銀政策審議委員として金融政策をしていた当時の経済学者やエコノミストよりもはるかに勉強しており、金融緩和がデフレ脱却、雇用環境の改善に大きな効果があることを確信していた。


 この国会答弁によれば、いわば「指南役」は、山本幸三代議士(前地方創成・規制改革担当相)、イエール大学名誉教授の浜田宏一先生と、筆者となっている。

 安倍氏の国会発言の背景を説明しよう。

 時は、12年前の小泉政権と第一次安倍政権に遡る。小泉政権の末期だったが、2006年3月、福井俊彦総裁時代の日銀が、2001年3月から実施してきたそれまでの量的緩和策を解除した。

量的緩和に解除を受けて会見する福井俊彦・日銀総裁=2006年7月14日午後、日銀本店
 この量的緩和策については、中央銀行の手法として、「量的緩和は効果がない」という声と、逆に「副作用が強過ぎてハイパーインフレになる」という二つの極端な批判的な意見が多かった。

 特に、日本では、著名な学者が批判論者であった。

 実は、量的緩和策の先駆者は先進国でいち早くデフレに陥った日本だ。

 日本では、デフレ解消の策として、速水優総裁時代の2001年3月から実施された。

 筆者は、当時の小泉政権で竹中平蔵・総務相補佐官をしていて、政権内で量的緩和の有効性を説き、弊害がないことを指摘していた。

 当時の日銀の量的緩和の問題点は、量の面で不十分であったことだ。

 ところが、量的緩和そのものに反対している学者やマスコミが多く、日銀は2006年3月に量的緩和を解除してしまった。筆者はこれを批判、デフレ脱却が遠のくことを予測し、それは的中した。

 そのことが誰の目にも明らかになったのは、小泉政権の後の第一次安倍政権になってからだ。

「デフレ状態」なのに金融を引き締めた

 その理由は単純で、形式的なインフレ率が0.5%とすると、物価指数の上方バイアスを考えれば、物価はマイナス0.1%という、「デフレ状態」なのに、量的緩和を解除し金融引き締めをしてしまったからだ。

 筆者は、バーナンキ・元FRB総裁やクルーグマン教授がいたプリンストン大学に留学した経験があり、その関係で各国の中央銀行にも知り合いがいた。念のために彼らの意見を聞いたが、やはり量的緩和解除は「時期尚早」だったと言っていた。

 しかし、当時、筆者の意見に賛同してくれた政治家は、竹中総務相、中川秀直自民党政調会長と山本幸三代議士だけだった。

 この事情をよく覚えていたのが、当時の官房長官だった安倍氏だ。

 安倍氏は2度目の首相になった後でも、2006年の量的緩和の解除は時期尚早で失敗だったと言っている。これが、上に引用した国会発言である。

 それ以外にも、その類いの発言はしばしば行い、2006年3月の量的緩和解除は失敗であり、その失敗を踏まえて、2%のインフレ目標を明確に導入したアベノミクスを作ったと言っている。

 もし、その当時に、2%インフレ目標があれば、量的緩和解除の失敗をしなかったはずだと、筆者も考える。

 安倍氏は、記憶力がいい。誰がどのような意見を言って、誰の予測が正しかったのか、間違っていたのかをよく覚えている。

 これは、政治家に求められる資質である。

 経済見通しなどの予測の当たらないエコノミストの話を聞いても時間の無駄であり、予測の打率の高い人の意見を聞いたほうがいい。

 おそらく、その当時から、いろいろなエコノミストの打率を安倍氏は把握するようになったのだろう。

 筆者は、しばしば安倍氏から個別のエコノミストの評価を聞かれることもあるが、安倍氏の論評はかなり正確である。

首相辞任後、金融政策に改めて関心

 ただし、残念ながら、安倍氏はそうした勉強成果を生かす間もなく、2007年9月に首相を辞任してしまった。

 健康問題とはいえ、突然だった。筆者はその当時、官邸勤務だったが、朝の国会質問答弁の打ち合わせを終え、国会に向かうところで体調不良になって、驚くばかりだった。

 その後、かなり療養していた。しばらくすると政治活動を再開したが、安倍氏自身が国会答弁で話したように、時間がたくさんある。

 そうした中、金融政策に関心を持ち始めたように見えた。

 金融政策については、小泉政権の時は、安倍官房長官、竹中大臣、中川政調会長の間で、筆者が説明役になって、しばしば議論していた。

 例えば、中央銀行の独立性について、日本では単に独立性というが、世界では、目的の独立性と手段の独立性を区別して、中央銀行には手段の独立性はあるが、目標の独立性はない、などである。

 そして、金融政策は、海外では雇用を確保する「雇用政策」の側面があり、例えば、アメリカの中央銀行(FRB)は、「物価の安定」とともに「雇用の確保」という責務を担っているとも説明していた。

 筆者の印象では、このときの安倍氏は、そういうものもあるのかという感じで、それほど確信していたわけではないように見受けられた。

自民在野時代に勉強会浜田イエール大教授とも親交

 その後、安倍氏は、健康を回復し政治活動に復帰後、自民党内で金融政策などについての内々の勉強会を開いていたが、その時の会合の発起人は、安倍氏、山本幸三氏、中川秀直氏だった。そこの事務局で筆者も手伝っていた。

 民主党政権になっていたころだ。

 ちょうどその時、筆者のところに浜田先生が訪ねてきた。

 聞くところによると、浜田先生は、安倍フェローシップから研究助成を受けているという。

 もっとも、安倍フェローシップは、安倍氏の父である安倍晋太郎氏のフェローシップである。それならということで、浜田先生を内々の勉強会に呼び、金融政策を様々な角度から話してもらった。

 山本代議士、浜田先生そして筆者は、2006年3月の量的緩和解除の失敗や、2008年9月のリーマンショック以降の金融緩和不作為の失敗、2011年3月の東日本大震災後の政策の失敗などを話した。

 安倍氏はこうした議論を通じて、国会答弁で明らかにしているように、「リフレ派」になっていったようだ。

 その段階で、自民党の中でも、他党を含めても、有数の「リフレ派」になっていた。なお、上記の政策の失敗についての筆者の意見は、本コラムのバックナンバーを見ればわかる。

「金融政策は雇用政策」との理解深める

 その後は、上念氏が書いているように、派閥、党を超えて、安倍氏は積極的に活動を広げていった。

 筆者は、その中で、安倍氏に、「金融政策は雇用政策なので、海外では左派政策と思われるがいいか」と何度も確認している。

 安倍氏は、まったくかまわないし、そのほうが相手のお株を奪えると、まさに政治家らしい反応だった。

 そういえば、トランプ大統領も共和党なのに雇用重視である。

(嘉悦大学教授 高橋洋一)

【私の論評】ポスト安倍は金融政策を理解しなければ国民からNOをつきつけられる(゚д゚)!

第一次安倍政権のつまづきは、諸説ありますが、やはり最大のものは、小泉政権の末期だったが、2006年3月、福井俊彦総裁時代の日銀が、2001年3月から実施してきたそれまでの量的緩和策を解除したことでしょう。

ここで、解除しないで緩和を続けていれば、数年で日本はデフレから脱却できていたことでしょう。この時点で金融引締めをしてしまったのは、完璧な失敗でした。その後、日本の経済はふるわず、第一次安倍政権は短命に終わりました。

その後2013年まで金融引締めが続き、その煽りを受けて、第一次安倍政権の後の政権も短命に終わり、政権交代によって成立した民主党政権における政権もすべて短命に終わりました。

このようにどの政権もすべて短命に終わったのは、雇用も経済もふるわなかったせいです。少なくとも、金融緩和を維持していれば、雇用は改善されていたので、国民の不満もおさまりこのように短期政権が続くようなことはなかったでしょう。

平成12年には安倍総裁の自民党が衆院選で大勝利し、平成13年4月からようやっと金融緩和に転じました。そのため、現在に至るまで雇用情勢の改善が継続されています。ただし、平成14年春から消費増税をしてしまったため、経済の成長率はあまり伸びていないというのが現状です。

やはり、当時の福井日銀総裁による量的緩和の解除は日本経済に甚大な悪影響を及ぼしました。

そうして、最近当時の日銀の議事録が公表されています。以下にそれに関する新聞記事のリンクを掲載します。
日銀、06年1~6月の議事録公表 量的緩和解除要因に外圧も
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、量的緩和解除要因が外圧であったことをうかがわせる部分のみを引用します。

当時の水野温氏日銀審議委員 
同年1月の会合では、水野温氏審議委員が「(量的緩和による)低金利が他国に迷惑を掛けているという論調が(世界の)中央銀行の中である」と指摘。福井俊彦総裁も量的緩和が招く円安に言及し、「『これを単純にエンジョイするのか』という感覚が(国際会議の)共通の認識」と呼応した。
ただし、この発言は明らかに間違いでした。そもそも、世の中には「通貨戦争」なる考えがありますが、それは全くの虚妄です。

ある国が「通貨戦争」をするつもりで、金融緩和をすれば、どうなるかといえば、確かに通貨安になります。 それは、他国の通貨に比較して、自国の通貨の量を意図的に増やすわけですから、当然そうなります。

しかし、さらに自国の通貨を安くするために、量的金融緩和を継続し続けるとどうなるかといえば、今度は国内が大インフレになります。だから、「通貨安」のために量的緩和を続けることはできず、インフレになる前に「緩和」を打ち切るのが普通です。

ある国が大インフレになっても良いからと、どこまでも「金融緩和」を続けたとしたら、その先はハイパーインフレになり、金融破綻してしまいます。だから、どこか妥当なところで緩和をやめざるを得なくなります。

そもそも、「通貨戦争」など幻想に過ぎないのです。当時「円安」を非難する国があれば、この話をして反論すれば、それですんだと思います。実際、まともな経済学者であれば、「通貨戦争」の幻想など誰も信じていません。水野氏はこのような考えができなかったのでしょう。

それに、本当にそのような圧力があったかどうかも、疑問です。たとえば、話は少し違いますが、8%の消費税増税に関して、麻生財務大臣は「国際公約だ」などと語っていましたが、これは麻生財務大臣が国際会議の席上で「増税」すると語っただけの話であり、いずれの国からも「日本は増税すべきだ」などとの声は上がっていませんでした。

独立国に対して「増税しろ」「金融緩和をやめろ」などということは内政干渉です。

私は、水野氏の外圧という話も、麻生氏の「増税は国際公約」ような程度のものであり、日本に対して「金融緩和をやめろ」とはっきり言った国など存在しなかったと思います。

ただし、これには例外はありました。それは中国人民銀行総裁の周小川です。しかし、それも2012年に自民党安倍総裁が政権交代のあかつきには金融緩和をすると表明した時であり、2006年当時はそのような声はなかったと思います。ネットで検索しても、ヒットしません。どなたか、その事実をご存知の方は教えていただきたいものです。

中国人民銀行行長(日本では総裁)
それに周小川の要求は、虫の良い話でした。当時の円高、元安はとんでもない水準で、日本企業が日本で製品を製造して国内で販売するより、中国に材料を送って、中国で組み立てて、それを日本に輸入して販売たほうが、安く製品を販売できるという異常事態でした。

これは、中国にとってはぬるま湯のようなもので、日本の製造業はこぞって中国に進出していました。このような異常事態がいつまでも続くと考えるほうが異常でした。

そうはいいながら、周小川の懸念はピタリとあたって、日本が金融緩和したあたりから、中国の経済成長は政府によって公表されている信憑性の低い数字ですら、かなり下がっています。しかし、これは日銀の金融引締めにあぐらをかいて、中国が分不相応なことをしていたというだけであって、何ら日本が批判の対象にされるいわれはありません。

実際、中国を除いた国ではほとんどそのような苦言を呈した国はありませんし、周小川もその後は苦言を呈したことはありません。

さて、2006年の金融緩和解除がいかに異常なものであったのかは、以上のことからもご理解いただけるものと思います。

それにしても、今思えば、2006年当時は、安倍晋三氏を含めたほとんどの政治家が金融政策を理解しておらず、たまに理解している人がいたにしても、今日の安倍総理のように、金融政策を理解しつつ、高い地位にいて影響力のがある人はいませんでした。

だからこそ、当時金融緩和解除はすんなりと実現してしまったのです。

しかし、その後安倍晋三氏は金融政策について真摯に学び、再び総理大臣になることができました。もし、安倍晋三氏が金融政策について理解をしていなかったら、総理大臣に返り咲きもできなかったかもしれません。私自身も、安倍総理が金融政策について理解を示したことを知る前までは、失礼ながら「過去の人」と思っていました。

私はここに、現在の政治家、特にポスト安倍と目されている人たちに警告を発しておきます。あなた方は、安倍晋三氏が真摯に学んだように、2006年から2012年までの日本の金融政策の間違いについて真摯に学ぶべきです。


そうでないと、誰が次の総理大臣になったとしても、その政権は短命に終わります。それでも、金融政策を理解せず正しい金融政策を実行しなければ、自民党そのものが衰えていきます。そうして、その果には金融政策を正しく理解する新たな勢力に政権を奪われることになります。

その後自民党が、与党に返り咲くことはかなり困難になります。日本国民はそれほど馬鹿ではありません。一度安倍総理が、金融政策の有効性に関して範を示したにも関わらず、それを反故にするような、総理大臣や与党には、それが自民党であれ他の党であれ、国民の大多数は当然のことながら、NOを突きつけます。国民を馬鹿にしないで下さい。

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2018年1月24日水曜日

原子力潜水艦が尖閣接続水域に侵入、追尾許す中国の失態―【私の論評】今回の事件の真相は、中国原潜の敗走(゚д゚)!

原子力潜水艦が尖閣接続水域に侵入、追尾許す中国の失態

東シナ海公海上で中国国旗を掲げて航行する潜水艦=12日午後
 2018年の幕が明けて間もない1月11日、尖閣諸島沖の接続水域に中国人民解放軍(以下、解放軍)に所属すると思われる原子力潜水艦が侵入したというニュースが日本列島を駆け巡った。

 駆け巡ったというのは、久しぶりのキーワードのそろったニュースで、メディアが張り切っていることが伝わってきたからだ。

 当初、国際面で展開される程度かなと考えていたら、一面トップのニュースとなったので、少し驚いた。

 それほど大騒ぎする話なのかな、というのが私の第一印象だった。

 というのも中国はもとより経済力に見合った海洋への進出を公言していて、宮古沖や津軽海峡を通って西太平洋に向かうことを恒常的に行うとしていた。つまり、日本のメディアが大騒ぎするほとんどの行為を、中国は隠してもいなければ、むしろ国内では「昨年、中国の太平洋への進出はこんなに進みました」と個別事例を挙げて誇っている。

 そして残念ながら空も海も通過が無害通航であれば日本として、それを妨げることもできない。

 そのため当初、私はこれも海洋進出のための一つのデモンストレーションではないかと考えた。

 紛らわしかったのは潜水艦だけではなく海上で中国海軍の軍艦も同時に接続水域へと侵入したこと。

 実は、日本は2015年の秋以降からとくに尖閣諸島への軍艦の接近ということに神経質になってきていた。これは別名「27度線問題」とも呼ばれているが、要するに中国海軍の“南下”にどう対処すべきか--つまり自衛隊をどう向き合わせるのかという課題--を突きつけられる極めて難しい問題であるからだ。

 つまり、後者であれば単に西太平洋への意思ではなくなるので深刻さは一気にエスカレートすることは避けられない。

 だが、その後の中国側の対応からも軍艦は、原潜をとらえて動いた自衛隊艦の動きを追尾したものとみられ、今回の問題はやはり潜水艦をメインにとらえて間違いないと考えた。

 だとすれば、なおさら日本が大騒ぎする話ではない。むしろ焦らなければならないのは中国だろう。

 そもそも原潜の脅威のほとんどは姿の見えない点にある。どこから攻撃してくるのか分からない存在だからこそ敵にとっての脅威になる。

 その原潜が自ら正体をさらして国旗まで掲げたのだから、ありがたい話であろう。写真1枚撮られるだけで、どれだけの情報が流出するかしれないのに、しっかり追尾までされてしまった。

 こんな中国の失態について、「習近平の指示だ」などと堂々書いている記事もあったが、それならば米軍は習近平に感謝状を贈るべきだろう。

 ■富坂聰(とみさか・さとし) 拓殖大学海外事情研究所教授。1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者などを経てジャーナリストとして活動。中国の政・官・財界に豊富な人脈を持つ。『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)など著書多数。近著に『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』(PHP新書)。

【私の論評】今回の事件の真相は、中国原潜の敗走(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事、理解しにくい面があります。特に、軍事面にあまり詳しくない方にとってはそうでしょう。なぜなら、確信的なことをはっきり言わないからです。

中国の潜水艦は日本の海上自衛隊に追尾され、お手上げになってしまったということです。挙句の果てには日本の海上自衛隊に潜水艦撃沈のシミレーション訓練に使われた可能性もあります。

それどころか、潜水艦、航空機、艦船などによって利用され、いろいろな場面で何度か撃沈シミレーションで撃沈されたかもしれません。潜水艦だ、航空機だけ、艦船だけ、あるいは潜水艦と航空機の組み合わせや、他の組み合わせ、あるいは全部の組み合わせなど幾通りものシミレーション訓練が行われたかもしれません。

潜水艦のソナー


しかも、下手をすると中国側にもわかるように、模擬魚雷、模擬爆雷などから、最近では漁船でも魚群探知機としても用いられるソナーで音波を発信させ、ソナーが潜水艦にあたりそれが反射して、海自側で確認したときに撃沈シミレーションで撃沈と判定したかもしれません。



潜水艦の場合、何らかの方式で、強烈なソナーを当てられると、乗組員全員がその音を聴くことができる場合もあります。直接聞けるだけあって、その恐怖は尋常なものではありません。何しろ、敵側の強烈なソナーの音響が響き渡るということは、自分たちは補足されていて、その次には魚雷や爆雷その他で攻撃され撃沈されることもありえるからです。(ただし、このあたりは、どの国でも極秘事項なので憶測の域を超えません)

そこまではしなくても、日本の海自は、中国の潜水艦の位置を示しつつ、何らかの方法で退去するように中国の潜水艦の艦長対し、警告を出したのは間違いないでしょう。

無論、中国の潜水艦はそのような警告に従うつもりはないので、様々な回避行動をとったのでしょうが、その都度探知され、どう頑張っても回避できないことがわかり、パニックに陥り精も根も尽き果ててどうしようもなくなって、浮上して中国の旗を掲げたのでしょう。こうすれば、少なくとも撃沈されることはありません。

039型潜水艦の発令所内部
対潜作戦で、潜水艦が浮上して国旗を掲げることは相手に、こっちは攻撃性がないことを告げていることを意味します。つまり、相手の艦隊により強制送還されること認めていることになります。中国の潜水艦は、ここまで追い詰められたということです。

これは機密事項ですから、日本政府が表に出すことはないでしょうが、これによって、中国の原潜は日本の海上自衛隊に対して手も足もでないことが、前から認識されていたのですが、それがはっきりと白日の下にさらされたということです。

軍事的に、潜水艦のステルス性が非常に重要視されているため、中国国内では潜水艦の公海での浮上・国旗掲げの理由をめぐって、推測が飛び交いました。

小野寺五典・防衛相は15日、中国の潜水艦は「商級」と呼ばれる093型原子力潜水艦だとの分析結果を発表しました。中国海軍の新型の攻撃型原潜で、全長110メートル、水中での排水量は6100トン、最大速力は30ノット。また、射程の長い巡航ミサイルを搭載可能だといいます。そうして、これは戦略型原潜ではなく攻撃型原潜です。

093型原子力潜水艦
海外中国語メディアは、「商級」原潜の浮上・国旗掲げは、日本に対して主権を主張しようとした狙いがあるほか、日本海上自衛隊の対潜作戦でやむ得ず浮上し、身元を明かしたのではないかと分析しました。日本の琉球諸島は、米軍のアジア太平洋地域におけるいわゆる中国がいうところの、第1列島線に位置し日米の軍事重要拠点であり、両軍の対潜戦力が非常に強いといわれています。

今回のような出来事は、過去にもありました。それは、漢級原子力潜水艦領海侵犯事件と呼ばれるものです。2004年(平成16年)11月10日に発生した中国人民解放軍海軍の漢型原子力潜水艦が石垣島周辺海域を領海侵犯した事件です。日本政府は、海上自衛隊創設以来2度目となる海上警備行動を発令しました。

中国海軍の改良型漢級原子力潜水艦
日本は、潜水艦を完璧にマークすることには成功したものの、海上警備行動発令のタイミングが遅れ、潜航したまま30分も領海侵犯されながら、その間必要な対処が出来なかったことが問題になりました。

事前に、海上保安庁単独では対応できない水中航行する潜水艦と判明していたにもかかわらず、国土交通省と防衛庁との間の調整と政治決断に時間がかかり過ぎたためです。本件の経過を受け、潜水艦のように明らかに海上保安庁では対応不能な不審船事案に関しては、最初から海上自衛隊が対処するよう運用が改められました。

また、当初より漢級原子力潜水艦とわかっていても最終的な音紋特定に時間がかかり、正式に抗議したのは事件の数日後になったことから、情報確定の困難さ、有事体制発動遅延の可能性が浮き彫りになりました。

しかし、この時の反省から今回は、海上自衛隊が適切に対応したどころが、その対応ぶりがあまりに迅速だったため中国の潜水艦は、浮上して国旗を掲げて航行し、敗走したということです。中国側は、さぞ肝をつぶしたことでしょう。

日米に追いつけ追い越せとばかりに、装備の近代化に血道をあげる中国海軍ですが、近年は空母を就役させたり、"チャイニーズ・イージス"の異名を取る旅洋Ⅱ型駆逐艦を運用するなど、その陣容は近代海軍そのものようにもみえます。

052C型駆逐艦(ルヤンII型/旅洋II型)
ただし、まだまだ中国の海軍力は、日米のには10年以上遅れています。多くの艦艇が、その実は"どんがら"ともいわれています。どんがらとは、外見は立派でも中身はスカスカという意味です。水上艦艇同士の戦いでは日米の敵ではありません。

そこで中国は、「潜水艦戦力の拡充」に活路を求めているとされてきました。中国が尖閣上空を含む空域に防空識別圏を設定してみせたのも、"鉄クズ"と揶揄(やゆ)された空母を就役させてみせたのも、すべて潜水艦部隊を守るためです。

水上艦艇では日米に敵(かな)わない中国は、潜水艦を"決戦兵器"と考えているようです。その虎の子の潜水艦を守るためには、空と海上をわがものとしなければなりません。尖閣周辺で、領空、領海侵犯が頻発していますが、その下には、必ず潜水艦が潜んでいると考えて間違いありません。

中国海軍は、原子力潜水艦(原潜)と通常動力型潜水艦の2種類の潜水艦を70隻近く保有しています。ただし、なかには旧式で使い物にならない明(ミン)型などが多く含まれているとされ、近代艦と呼べるのは、半数程度というのが実情です。

対して、海自の保有する潜水艦総数は20隻(練習艦を除く)です。中国は現状、数にものを言わせた"飽和攻撃"ができる点が有利です。わが国が警戒するべき"質"を備えた中国の潜水艦は、ロシアから購入したキロ型と、これまたロシアの技術を利用した今回接続水域に入った商(シャン)型(原潜)くらいです。

潜水艦に関する情報を公開すると、その能力が判明してしまうことが多いので、公に報じられることは滅多にありません。しかし、その実中国海軍の潜水艦はしばしば日本領海を侵犯しています。尖閣周辺はもちろん、南沙諸島、房総沖の日本海溝周辺にも頻繁に出没しています。

海自および米軍は、こうした中国潜水艦の動向を逐一、捕捉しているといいます。中国の原潜はとにかく音がデカく、静粛(せいしゅく)性(静けさ)が命の潜水艦にあって、ドラを叩きながら水中を進むようなものです。

潜水艦の位置を特定するには、スクリューやエンジンの雑音を用います。海自は艦種ごとに異なる雑音のデータ(「音紋(おんもん)」という)を日夜収集しているといいます。

潜水艦からも音紋データは収集できますが、空には、P-3C哨戒機やSH- 60K哨戒ヘリが、敵潜水艦が海中に息を殺して潜もうと、空から音波を収集するソノブイを海中に投下、さらには磁気測定機を用いて即座に居場所を特定します。海自の対潜哨戒能力は世界一とされていますから、中国の潜水艦は生きた心地がしないでしょう。

SH- 60K哨戒ヘリ
自衛隊の潜水艦部隊は、2週間から、最大3か月程度の演習を繰り返します。演習とはいえ、重要な水上航路に潜み、絶えず情報収集を行っています。潜水艦の"ホットスポット"は、冷戦時代だとソ連太平洋艦隊の潜水艦や水上艦艇が通過する宗谷、津軽、対馬海峡。現在だと、中国対策で豊後水道や浦賀水道に目を光らせなければなりません。その他、作戦海域は東シナ海全域、台湾海峡、フィリピン沖のバシー海峡にまで及びます。


海自の潜水艦基地は横須賀(神奈川)と呉(広島)の2か所です。各国潜水艦が最も激しく蠢動(しゅんどう)しているのは、水深200メートル前後だと言われています。対潜戦は先手必勝、一撃必沈が大原則です。海中で息を潜め、敵艦の動きを察知し、先に魚雷を打ち込むことが唯一の勝機です。

中国のキロ型や商型は、海自の誇る「そうりゅう」型に肉薄する能力を持つとされますが、今回の接続水域に侵入した商型とみられる原潜が、旗を掲げて航行したということは、海自の前に白旗をあげたのと同じです。

これは中国への大きな牽制(けんせい)になったはずです。我々の知らない海中では、日中両国の"鉄鯨(てつげい)"が絶えず睨み合っているのです。

そうして、我が国の対潜哨戒能力や、潜水艦の能力は今のところ中国を大幅に上回ってはいますが、それでも中国側が必至に近代化に邁進していることからすれば、この優位性もいつまで保てるかわかりません。それに、上の地図をみても作戦領域はかなり広いです。やはり、予算を強化して、これから先も優位を保てるようにすべきでしょう。

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2018年1月23日火曜日

【田村秀男のお金は知っている】外貨準備増は中国自滅のシグナル 習近平氏の野望、外部からの借金なしに進められず―【私の論評】頼みの綱の一帯一路は幻影に過ぎない(゚д゚)!

【田村秀男のお金は知っている】外貨準備増は中国自滅のシグナル 習近平氏の野望、外部からの借金なしに進められず


 新聞各紙は「中国の外貨準備、3年ぶり増加」(日経新聞8日付朝刊)などと報じた。日経新聞は北京の資本規制によるものと解説しているが、それだけでは習近平政権の窮状がわからない。(※1月13日の記事を再掲載しています)

 中国の外準の増加は外部からの外貨による借金で支えられているだけで、外準が増えることは中国経済の強さではなく、脆弱(ぜいじゃく)さを物語るのだ。

 まずはグラフを見よう。習政権発足後の外準、対外負債の推移を追っている。外準の減少が昨年初めに底を打ち、徐々に持ち直してきたのだが、トレンドは2014年後半以来、下向きが続いている。対照的に対外負債は増え続け、昨年9月時点で負債は外準の1・6倍以上に達する。

 1年前と比べた増減を見ると、外準は昨年12月にプラスに転じたものの、15年初めから昨年9月まではマイナス続きだ。負債のほうは16年末から急増し、その一部が外準に流用されている。負債は外国からの直接投資と外債発行や融資に分かれるが、昨年からは外債・融資が急増している。直接投資のほうは外資の撤退が相次いでおり、新規投資から撤退分を差し引いた「純」ベースは黒字を保っているものの急減している。

 外部からの投資と言っても、多くは中国や華僑系企業が香港経由でケイマン諸島などタックスヘイブン(租税回避地)に設立したペーパーカンパニーによるもので、逃げ足が速い。不動産バブル崩壊不安が生じると、途端に引き上げる。しかも、中国系企業は資本逃避の術を心得ているので、当局の規制の網の目をくぐり抜ける。

 そこで、習政権はルールに従う日米欧などの外資系企業に目を付け、さまざまな難癖や規則を持ち出し、あの手この手で外貨の対外送金に待ったをかける。

 他方で、中国人の海外旅行者はアリババなどのスマホ決裁を利用して、日本などでショッピングする。代金は中国国内の銀行口座から引き落とされて対外送金されるので、それも外貨流出要因だ。安心・安全で高品質の日本製品は共産党幹部とその家族も欲しいから、購入を規制しない。おかげで、東京や大阪の百貨店や家電量販店、レストランなどはほくほく顔で、スマホ決済を受け入れる店舗が急速に増えている。

中国の企業が開発したスマホ決済システムの決済画面
 おまけに、トランプ米政権の大型減税や米金利上昇のあおりを受けて、中国からの資金流出圧力は高まる一方だ。思い余った習政権は今月からカードによる海外でのカネの引き出しを制限したようだが、中国人にとって対外送金の抜け道はいくらでもある。

 こうみると、習氏が日本に対し、アジアインフラ投資銀行(AIIB)や広域経済圏構想「一帯一路」への参加を懇願する理由がよくわかるだろう。中国は外部からの借金なしには、習氏の野望を前進させられない。

 人民元国際化は打開策だが、海外で元の自由市場が生まれると、中国本土の元管理相場が脅かされる。習氏の膨張主義は限界に直面している。日本は一帯一路など手助け無用だ。(産経新聞特別記者・田村秀男)

【私の論評】頼みの綱の一帯一路は幻影に過ぎない(゚д゚)!

上の記事簡単にいってしまうと、中国の外貨準備は対外負債によって賄われているということです。トランプ大統領の訪中は、「総額2500億ドル(約28兆円)相当の大型商談」のサプライズで終焉しましたが、この商談も借金によって賄われているということです。

この他にも中国は世界各地で大盤振る舞いをしていますが、それも借金によるものとということです。日本は、対外純金融資産(要するに外国に貸し付けているお金)が、世界一であることからみても、このような状況からは程遠い状況ですし、日本の外貨準備は無論海外からの借金で賄っているものではありません。

そのため、高橋洋一氏などは、円高ではなくなったことから、含み益もでてきたこの外貨準備の含み益分を取り崩して経済対策に使えと主張しています。日本は、そのようなことをやろうと思えばすぐにできます。ただし、とにかく何でも溜め込みたい財務省はなかなか首をたてに振らないので、できないだけです。しかし、日本が本当に金に困れば、これは財務省も使わざるを得ないことになるでしょう。

しかし中国の場合は、これは外国からの借金で賄っているわけですから、他の目的につかうことはなかなかできないわけです。これらの金は、AIIBや一帯一路で用いるのでしょうが、これも限界があります。

過去の中国は、国内のインフラ投資で経済を急速に発展させてきましたが、それも限界です。そのため、海外でインフラ投資をしてそれによって過去のような成長を維持させようというのが、AIIB、一帯一路の最終目的です。


しかし、AIIBも一帯一路もうまくはいかないでしょう。AIIBは結局のところ、アジア開発銀行(ADB)が銀行だとすれば、高利のサラ金のような事業しかできず先細りになるだけです。一帯一路に関しては、すでに世界には最適な航路などの輸送手段が合理的につくられてしまっているところに、今更中国が主導でそれをつくったとしても、さらに最適なものをつくることは不可能です。

そもそも、現在ある物流インフラは、人為的につくられたものではなく、各国の輸送業者などが、長年にわたって死に物狂いの競争を繰り広げた結果できあがったものであり、そこに後から中国が人的に作成してそれを上回るインフラをつくれるはずもありません。

シンガポールをハブとした東南アジアの物流
それでも、中国は無理やり資金を投下して、コストパフォーマンスの良さを演出するかもしれませんが、これも長続きはせず、結局破綻します。もし、これがうまくいくというのなら、社会主義・共産主義もうまくいっていたはずです。

中国は大きな妄想を抱いています。中国国内では、特に優れたノウハウがなくても、金貸しや、インフラの整備に成功したかもしれませんし、失敗して人民の不満が爆発してもそれを抑えることができましたが、外国相手ではそうはいきません。

もう、すでに綻びがではじめています。いつまでも対外負債にたよって、海外に投資を続けることなど不可能です。本来であれば、中国国内で内需を拡大してさらに経済を大きくするなどのことをして、それを実行すべきなのでしょうが、中国にはそのノウハウがないですし、そのためには、民主化、政治と経済の分離、法治国家化は避けて通れないのですが、それを実行すると現中国の体制は崩壊します。

一帯一路で中国主導のインフラ整備を行う、そのための資金提供を行うという中国の目論見は単なる幻影にすぎません。今のままでは、八方塞がりで、自滅するしかありません。

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2018年1月22日月曜日

「財政問題」でまた財務省の言いなりになる、ポチマスコミの情けなさ―【私の論評】日本のマスコミは能力が低すぎてまともな国際・経済報道はできない(゚д゚)!

「財政問題」でまた財務省の言いなりになる、ポチマスコミの情けなさ

いつまで同じことを繰り返すのか…


髙橋 洋一 経済学者 嘉悦大学教授 プロフィール

ICANについてどうしても言っておきたいこと


先週の本コラムで、北朝鮮リスクと国内増税派リスクの内憂外患について書いた。前者に関連するが、ノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長が来日し、安倍晋三首相と面会できなかったことが話題になった。

フィン氏は12日に来日、東京には16、17日と滞在していたという。一方、安倍首相の動静を見ると、12日午前中に羽田空港を出発し、17日まで東欧6カ国を歴訪している。

筆者は官邸勤務の経験があるが、首相の予定はいつもいっぱいであり、外遊日程を見る限り、単に日程の都合で面会できなかっただけだろう。それを「なぜ会わなかったのか」と批判するのは変な話だ。

そもそも首相が会うべき人物でもない。というのは、ICANの主張する核兵器廃絶については、長期的な目標としてはそのとおりであるが、実現させるための手順が問題であるからだ。

まず、今の核兵器保有国を広げないことが先決であるので「核兵器廃絶」の前に「核不拡散」がある。

現時点では「核不拡散」がより重要なので、「核兵器廃絶」だけを叫ぶのは、いまある危機を助長することにもなる。具体的には、北朝鮮が「核不拡散」を破ろうとしており、それを押さえることが優先課題になる。

ベアトリス・フィン氏
北朝鮮を抑制できないまま、ほかの核保有国が核廃絶を進めた場合、戦争確率が高まるというのが国際的な紛争論のセオリーである。この意味で、ICANの行動に日本が賛同すれば、当面の日本の安全保障上の立場を危うくする(まずは北朝鮮の非核化が先、という単純な話だ)。

こうした点については、ICAN事務局長も、訪問した日本の与野党議員との会合で聞かされたはずだ。

ICANは日本が「核兵器廃絶」に賛同しても、日米同盟は揺らがないというが、その確約を日本に来る前にアメリカ政府から取ってきてほしいものだ。欧州では、アメリカとの「核シェアリング」によって守られている国もあるが、そうした国は「核兵器廃絶」には賛同していない。

そうした事実を見ないICANの活動は、日本の一部野党の「お花畑議論」と本質的に同じである。そういえば、国会での与野党議員との会合でICANに賛同していたのは、共産党などの一部野党しかいなかったのは、国会議員の良識であろう。

いずれにしてもICANのいう核兵器廃絶は、現実的な核軍縮にはつながらない。

そもそも核兵器を持たない日本に来て説教するより、現実に核兵器を持っている北朝鮮や中国に行って、核兵器廃絶を訴えたほうがいいだろう。

さてICANの話はこれぐらいにして、今回はいま勢いを強めている「国内増税派」のリスクについて触れておきたい。増税にむけて、早くも攻防が始まったからだ。

財政黒字化についてのヘンな報道

昨年の総選挙において、2019年10月に消費増税を行う方針は固まったが、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度に黒字化する目標は先送りする、とされている。

この点については、今年6月に予定されている「経済財政運営と改革の基本方針2018」(いわゆる骨太の方針)がポイントになる。そこで、新たなプライマリーバランス黒字化達成時期が示されるだろう、というのが大方の予想である。

まず、1月5日の閣議後の記者会見で、茂木敏充経済財政・再生相が中長期の経済財政試算において「金利の動向などを、より現実的に修正する」と発言した。

これに早速噛みついたのが、マスコミである。たとえばテレビ朝日は「安倍政権が税収と歳出が見合う財政の黒字化を2027年度に2年先送りし、しかも、借金が膨らんで見えないような試算を行っていることがANNの取材で分かりました」(http://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000119017.html)と報じている。

いまから行う議論を明確にするためにも、報道の続きを引用しておこう。

<内閣府はこれまで財政が黒字化する前提として、将来の経済成長率を名目で3.9%、金利を4.3%に設定して試算してきました。

しかし、来週に公表される予定の新たな試算では成長率を0.4ポイント下げた一方で、金利は1.1ポイントも引き下げていて、借金が膨らんで見えないよう数字を設定していることが分かりました>

テレビ朝日をはじめとするマスコミは、内閣府が「財政の黒字化を二年間先送りにしたこと」、さらに「その試算をするうえで、金利だけを大きく下げて試算したこと」を批判している。

もっとも、マスコミはこの種の数字の議論には弱いので、その裏には財務省かその影響勢力がいるとみたほうがいい。実際、このテレ朝のニュースは「財務省関係者は『通常、成長率と金利は連動するが、金利だけ大きく下げすぎている』と懸念を示しています。」とご丁寧に財務省関係者の解説を添えて報道している。

しかし、金利を下げて試算することが問題かどうか、彼ら(マスコミ)は本当にわかっているのか。ただ財務省に「これは悪いことだ」と吹き込まれて、それを反射的に報道しているだけのようにしか見えないのだが。

この報道を見て、筆者は12年ほど前のことを思い出した。竹中平蔵総務大臣の補佐官をしていたときのことである。

2006年3月16日に行われた経済財政諮問会議において、竹中総務大臣と吉川洋・東大教授との間で繰り広げられた「金利・成長率」論争がそれである(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/minutes/2006/0316/minutes_s.pdf)。

名目GDP成長率と名目長期国債金利のどちらが高くなるか、を問う論争で、これだけ聞くと、単なる学者の「遊び」のように思われるかもしれないが、中長期の経済財政試算において、金利と成長率をどう置くかによって、財政健全化のために必要なプライマリーバランスの水準が変わってくるのだ。

金利が高く出る「欠陥」

この話は、高校程度の数学知識で簡単に証明できるが、これを、首相が議長を務める経済諮問会議において、短い時間で説明するのは至難の業だ。そこで、最低限の資料を筆者が作った(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/minutes/2006/0316/item3.pdf)。


その資料にも書かれているが、財務省は、必要なプライマリーバランスの黒字幅を大きくするために、とにかく「金利が成長率を必ず上回る」と主張し、それを吉川氏が代弁した。

筆者は、金利が成長率を上回るのは、日本に独特の話であり、日本ではデフレによって名目成長率が低かったり、マイナスになっていたことを知っていた。しかも、日本以外の先進国では、金利と成長率はどちらが大きくなるかは決めがたかった。これを示唆するものとして、名目成長率が名目民間金利より低いという理論はあっても、名目成長率と名目国債金利(これは名目民間金利より低い)の間の大小関係を規定する理論はない。

そこで、竹中大臣には「金利が成長率より大きい、という財務省の決め打ちだけは避けて欲しい」と言った。

結局、経済財政諮問会議では、小泉首相は、金利と成長率の大小関係は決め打ちするなという竹中大臣の方針に軍配を上げた。

実際のデータでも、金利と成長率の関係はにわかには決めがたい。もっとも、最近のデータでは、財務省の当時の主張とは異なり、若干金利は成長率よりわずかに低い可能性がある。「金利が成長率を必ず上回る」と言っていた財務省はやはり経済音痴であり、その見通しは大外れだった。


さて、こんな昔話が、茂木大臣の話とどのように関係するのか。財務省の言い分は、報道にあるとおり、「安倍政権が金利を大きく下げて2027年の試算をしている」ということだろう。その前提として、これまでの中長期の経済財政試算における金利の決め方が正しかったのだろうか、ということを考えなければならない。

若干テクニカルであるが、中長期の経済財政試算は、いろいろな式の塊であり、経済モデルで計算されている。そのモデルの詳細は、内閣府のホームページで公開されている(http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome.html)。

12年前の経済財政諮問会議は大臣間のガチンコ議論だったが、さすがにその前に事務折衝を筆者と内閣府担当者の間で行った。筆者がその当時指摘したのは、金利の決定式において、債務残高対GDP比が説明要素として含まれ、金利が高止まりする仕組みになっているが、その根拠とされる統計量からみて、統計的に説明要素とするのは不適切だ、ということだった。

かなりテクニカルであるが、その証拠も見せよう。以下が金利決定式である(これは上の内閣府サイトを探せば出てくる)が、債務残高対GDP比の項目のt値が、通常では2以上とされているのにあまりに低い(2005年モデルでは1.2711)というものだ。

クリックすると拡大します

これに対する明快な解はなかった。小泉首相の判断後に、この要素を削除したわけでもない。その後も、部分修正は行ったが、金利式の基本的な性格は変更していない。内閣府は、金利が高く出る欠陥を放置したのだ。もちろん、この背後には財務省がいたに違いない。

こんなデタラメやっていると…

今回の茂木大臣の話は、こうした10年来の不始末をこの際きれいにしようとするものだろう。経済分析の専門家として、内閣府は、金利を高止まりさせる(財務省の息のかかった)モデルをそのまま使うのは良心の呵責があるはずだ。

もっとも、財務省はそんなことはどうでも良く、ひたすら増税のために、プライマリーバランスのハードルを高くしたいだけだ。

金利を計算上さげるという茂木大臣の発言に噛みつくマスコミは、財務省のポチであろう。モデル計算も何も知らないで、財務省の走狗になっているようだ。金利が少し下がるのは、本来戻ると言うことであることを、マスコミは理解しなければいけない。

最後に、経済財政諮問会議は、もっとまじめに経済分析をすべきだ、ということを提言しよう。そもそも、財政の状態をどう見るか、これは、本コラムで再三繰り返してきたように、日銀を含めた「統合政府」でのバランスシートとしてみればいいのだ。

現状をみれば、ほぼ資産と負債がバランスしている。これを毎年のフローで見ると、国債の利払費は、資産サイドの金利収入などでほぼ賄えるということだ。

しかし、実際には、資産サイドからの金利収入は、各主体において「準備金化」され、フローの資産収入を少なく見せている。こうした「隠れた準備金」を発掘するのが国民からの期待である。かつて、筆者が発掘した「埋蔵金」と同じである。

昨年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2017」において、「債務残高対GDP比の安定的な引下げ」という項目が入ったのは一歩前進であるが、さらに「統合政府ベースのネット債務残高対GDP比の安定的な引下げ」とすべきである。

実は、統合政府ベースのネット債務残高対GDP比は、プライマリーバランス対GDP比、成長率、金利の関係によって、その動きが決まってくる。この証明も、高校数学程度の知識で可能である。

筆者も、きちんとした財政状況を把握して、そのために、プライマリーバランス対GDP比を管理しようとするのは、まっとうな経済運営であるとおもう。しかし、今のように、バランスシートを見ずに、フローのプライマリーバランスだけで、財政状況を見ようとするのは信頼性に欠けてしまう。

こんなデタラメの財政運営をしていると、いっそのこと「いくら財政赤字でもかまわない」と言い出すような過激分子もでてきてしまうだろう。財政の状態を国民に正確に知らせるためにも、経済財政会議は財務省の提灯持ちではなくもっと専門的な議論をすべきなのである。

【私の論評】日本のマスコミは能力が低すぎてまともな国際・経済報道はできない(゚д゚)!

ベアトリス・フィン氏の発言と、それをそのまま垂れ流す日本のマスコミには私も呆れ果ててしまいした。


ベアトリス・フィン氏はNHKのニュースで、
「核兵器は破壊の均衡によって平和を保つというもので非常に危険で永続性はない。」
と語っていますが、軍事力の均衡が国家間の武力衝突を防ぐことは常識です。抑止力という概念を知らないのでしょうか。核兵器だけを特別視する理由としては、彼女の主張には全く説得力がありません。

また原爆を落とされた被害国である我が国に、何と「道義的責任がある」と彼女は語っています。どこをどう繋げればそういう結論になるのでしょうか。何らかの責任を云々するなら原爆を落としたアメリカに言うべきです。

念のため指摘しておきますが、西洋の価値観に従えば、我が国は米国に対して最低8発の原爆を使用する権利を有します(倍返しが常識であることと、人口は2倍以上、面積はさらに大きいことを考慮)。その権利を行使するかしないかを決めるのは我が国です。日本の価値観に従えばそういうことはしないでしょうが、とにかく決めるのは我が国であるはずです。

これは、無論米国に原爆を落とせと言っているのではありません。権利というよりは、日本が米国に対してそのくらいの貸しがあるというほうが良いかもしれません。

これについては、私は実際複数の米国人に対して話たことがありますが、保守派の人に話せばこれにあからさまに反論する人はいませんでした。「逆の立場に立てば、そうだろう」というのが彼らの判断のようでした。

さらに彼女は、「核兵器の脅威にさらされていない国はなく日本政府も条約に同意しなければならない」と語っています。

しかし、至近距離の隣国の国家元首から、
「核爆弾をぶち込んで日本列島まるごと沈めてやる」
と脅されている現実を知っているとは思えない発言です。


我が国以外のどこの国がこのような脅威にさらされているのか、是非教えていただきたいものです。

そもそも、主権国家である日本に向かって「しなければならない」などの発言は、無礼千万としか言いようがありません。

「決めるのは国民であり国民が『署名してほしい』といえば政府は署名するはずだ」
との発言は、議会制民主主義の何たるかを全く理解していない無知をさらけ出しています。

我が国は選挙によって選ばれた多数派が政権を担い政策を決めて実行します。日本政府が署名しないのは、国民の多数が署名を望んでいないからです。

ベアトリス氏が話を聴いたいわゆる「市民」とは日本国民の中では少数派に過ぎません。彼女は、我が日本国はまともな選挙制度も無い遅れた独裁国家とでも思っているのでしょうか。一部の人達の「アベの独裁を許さないぞ~」を真に受けているのかもしれません。

東京新聞の記事では核の傘に進んで入ることは受け入れられない。長崎、広島の価値観と大きな隔たりがある」と苦言を呈したとありますが、別に彼女に我が国の安全保障政策を受け入れて貰う必要性など全くありません。
貴女が言うところの「長崎、広島の価値観」は観念論・理想論に過ぎず日本国民の多は、きれい事ではない現実を見据えた価値観を共有しているのです。

そうして、彼女の無知が際立ったのは次の発言です。「(長崎への原爆投下以降に)核兵器が使われなかったのは、幸運だったからにすぎない」。

現実には、1945年以後も核実験によって多くの人々が被爆しました。とりわけ中国は、ウィグル人が多く住む新疆ウィグル自治区で核実験を繰り返し多くのウィグル人を被爆させました。

中国政府はいまも核汚染は存在しないと公言しています。中国の被曝実態が世界に知られるようになったのは、1998年8月にイギリスで放映されたドキュメンタリー番組「Death on the silk road」によるものです。同番組で、ウイグル人医師のアニワル・トフティが核実験場周辺で調査した発癌率のデータが以下のグラフです。

この調査から、核実験をした場所の近くの町や村では、1990年には30%以上も発がん率が高くなっていることがうかがえます。

中国の四六回にも及ぶ原爆や水爆の実験で、一説にはウイグル人の被爆者数は一九万人以上、死者は一九万人以上とも言われています。日本で「シルクロード」がブームになった時代にも、この地域での核実験は続いていたので、多くの日本人観光客が何も知らずに被爆したのではないかと言う人もいます。このように、長崎以後も核兵器は使われ続けているのです。


国と国の戦争では使われていないと主張するのなら、それはむしろ核兵器の本当の恐ろしさを理解していないことになります。いまや主権国家ではなく、テロ組織、犯罪組織が核兵器を入手して使うという脅威が現実のものとなりつつあります。

核兵器廃絶国際キャンペーンにはその視点が欠けているのではないでしょうか。それぞれの国には歴史や伝統とそれに根ざした価値観があり刻々と変化する国際情勢の中でそれぞれの事情があります。そうした諸問題への配慮が彼女の発言からは全く感じられません。

無知であるにもかかわらず、彼女の「意識高い系的上から目線発言」に対しては日本人を舐めるなと、怒鳴りつけてやりたい気分になった方々は多かったことでしょう。

彼女の無知と、彼女の発言を何の取捨選択もせず、エビデンスに基づいた解説を加えることもなく垂れ流すマスコミには本当に呆れ果てるばかりです。

そうして、この態度は、経済報道についても同じです。マスコミは財務省の発言を、何の取捨選択も、エビデンスに基づいた解説を加えることなく垂れ流すだけです。これなら、マスコミが報道する意味がありません。財務省のサイトを見れば良いだけです。全く存在価値がありません。

経済に関しては、本来は高校の数学くらいは駆使して、財務省の提供する資料を分析したりすべきでしょうが、そこまでしなくても、分析することは可能です。それは過去の数値や、他の国々の数値を調べることです。

私は、日本の構造的失業率など高橋洋一氏のように様々な数値から、 NAIRU(インフレを加速させない失業率)を計算することはできませんが、それでも日本のNAIRUは2%半ばくらいだろうとみなしています。

そうして、これは高橋洋一氏も同じような結論を出しています。高橋洋一氏のような計算をせずになぜそのようなことがいえるかといえば、それは過去の日本の失業率の数値の推移をみているからです。

残念ながら、日本は長期間デフレだったので、この期間は失業率は3%を超えは普通で、4%を超えているときもありました。これでは参考になりません。ですから、日本がデフレに突入するまえの失業率を見れば、一番さがっていたのは2%台半ばでした。だから、日本のNAIRUは2%半ばであることが直感的に読み取ることができました。

そもそも、経済記事を書くような記者は、最低限このくらいのことはすべきでしょう。ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事では、「金利と成長率」が問題になっています。これも、実際に自分で計算できなければ、過去の事例や海外の事例などを調べてみれば、ある程度のことは理解できます。

マクロ経済学の最適成長論の考え方では確かに長期金利が名目成長率を上回るとされています。ただ、ここで言う長期金利とは、民間企業の発行する長期社債の利回りや株式の資本収益率も含まれており、財政再建に関わる長期国債の利回りは、リスクプレミアム分だけ民間の長期社債の利回りよりも低いことになります。

従って、経済理論によって民間の金利が成長率より高いからといって、国債金利のほうが成長率より高くなるとはいえません。長期的な歴史的事実関係を見ても、多くの主要国について名目成長率が国債金利を上回っています。これをみれば、少なくとも、国債金利のほうが成長率よりも高いという財務省の主張は間違っていることが理解できます。

経済記事を書く記者なら、これくらいのことはして欲しいです。最低限、種々の計算を高橋洋一氏などの複数の専門家にしてもらい、その専門家らから解説を聞き、自分で判断してから、記事にすべきでしょう。

それに、できれば高校数学くらいの計算はしてみて、確認するなどのこともすべきでしょう。なにしろ、仕事で経済記事を書くのですから、読者のためにそのくらいの労は惜しむべきではないと思うのですが、日本にマスコミはそうではありません。

以上のことからも、以前のこのブログで私が主張した、日本のテレビは国際・経済報道はできないという主張は正しいといえると思います。そうして、新聞ですらこの有様ですから、日本のマスコミはまともな国際・経済報道はできないと結論付けても良いと思います。

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2018年1月21日日曜日

トランプ政権のアジア担当要職に反中のベテラン―【私の論評】米国で「強い日本」を志向する勢力が主流になった(゚д゚)!

トランプ政権のアジア担当要職に反中のベテラン

シュライバー氏の起用でトランプ政権は共和党保守本流路線へ


ランディ・シュライバー氏 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
 米国のトランプ政権が、国防総省のアジア担当の要職にランディ・シュライバー氏を任命した。シュライバー氏は歴代政権のアジア専門ポストで活躍してきたベテラン戦略家である。共和党保守本流と位置づけられる同氏の起用によって、トランプ政権の対アジア政策は保守、現実志向へと向かうことが予測される。

中国に対する抑止政策の必要性を主張

 2017年12月、トランプ政権はランディ・シュライバー氏を国防総省のアジア太平洋問題担当の次官補に任命し、この1月、連邦議会に正式に通告した。議会では上院外交委員会が主体となって人事を審議し、そこで承認されれば最終的な就任が確定する。

 現在、民間のアジア安全保障研究機関「プロジェクト2049研究所」の所長を務めるシュライバー氏は、ワシントンのアジア安全保障の関係者の間できわめて知名度が高い。

プロジェクト2049研究所」のサイトのバナー

 シュライバー氏はハーバード大学で中国研究の修士課程を終えて海軍士官となった後、民主党クリントン政権下の国防長官補佐官、国務省中国部員や国防総省中国部長、在北京米国大使館武官などを歴任した。その後、共和党のジョージ・W・ブッシュ政権では、政治任命の次官補代理(東アジア太平洋担当)や国防次官補代理(同)を務めている。

 シュライバー氏は、ブッシュ政権で国務副長官を務めたリチャード・アーミテージ氏との絆が強く、両氏が共同で2005年に創設した民間のアジア関連コンサルタント機関、「アーミテージ・インターナショナル」の副代表も務める。

 政治面では一貫して共和党支持を表明し、共和党議員のアジア政策への助言を続けてきた。自ら創設した「プロジェクト2049研究所」でも、中国の軍拡や領土拡張を主要な研究テーマとして、中国に対する厳しい抑止政策の必要性を主張してきた。同時に対日関係の重要性を強調し、日米同盟の強化を一貫して訴えてきた。また、台湾への支持も顕著だった。こうしたシュライバー氏の基本政策は、共和党保守本流の見解と一致する部分が多い。

それでもシュライバー氏を任命した大統領

 ただし、シュライバー氏が親しいアーミテージ氏は、2016年の大統領選挙中に共和党員であるにもかかわらず、トランプ候補を支持せず民主党候補のヒラリー・クリントン氏に投票する意向を宣言していた。当時、共和党主流派の間ではトランプ氏に反対する動きが顕著だった。また、アーミテージ系の共和党の専門家や活動家の間には、トランプ氏の大統領就任後もトランプ政権への参加を拒む向きが少なくなかった。

 そんな背景の中で、シュライバー氏は反トランプ宣言こそしなかったが、アーミテージ氏とのつながりからトランプ政権への起用が疑問視される時期があった。

 それでもなお、トランプ大統領はシュライバー氏の任命に踏み切った。その背景としては、政権のアジア政策部門を充実する目的に加えて、昨年12月の「国家安全保障戦略」で打ち出した中国への強固な抑止政策の遂行にシュライバー氏のような専門家が必要だったことが挙げられるだろう。

 いずれにせよ、この人事は、トランプ政権の対アジア政策、対中政策が保守本流の方向へ確実に舵を切る動きだといえそうだ。

「歴史を悪用しているのは中国」

 シュライバー氏は、歴史問題を持ち出して日本を非難する中国に対して手厳しい批判を表明してきたことでも知られる。たとえば2015年10月に「プロジェクト2049研究所」がワシントンで開いた、中国の対外戦略についての討論会では、次のような諸点を指摘していた。

・中国の習近平政権は歴史を利用して日本を叩いて悪者とし、日米同盟を骨抜きにしようとしている。だが歴史に関しては中国こそが世界で最大の悪用者なのだ。中国ほど歴史を踏みにじる国はない。

・中国が歴史を利用する際は、1931年から45年までの出来事だけをきわめて選別的に提示し、その後の70年間の日本が関わる歴史はすべて抹殺する。日本の国際貢献、平和主義、対中友好などは見事に消し去るのだ。

・中国の歴史悪用は、戦争の悪のイメージを現在の日本にリンクさせ、国際社会や米国に向けて、日本は今も軍国主義志向がありパートナーとして頼りにならないと印象づけることを意図している。

・中国はそうした宣伝を、中国と親しく頻繁に訪中する一部の政治家らを巻き込んで日本の一般国民にも訴える。だがこの10年間、防衛費をほとんど増やしていない日本が軍国主義のはずはない。中国の訴えは虚偽なのだ。

・中国は日本に「歴史の直視」を求めるが、大躍進、文化大革命、天安門事件での自国政府の残虐行為の歴史は、教科書や博物館ですべて改竄し隠蔽している。朝鮮戦争など対外軍事行動の歴史も同様だ。

 こうした見解を堂々と表明してきた人物が、トランプ政権の国防総省のアジア政策面での実務最高責任者のポストに就く。日本にとって大きな意義があることは明白といえよう。

【私の論評】米国で「強い日本」を志向する勢力が主流になった(゚д゚)!

米国には、「強い日本」を志向する勢力と、「弱い日本」を志向する勢力があります。そうして、強い日本を志向するのは、無論保守派です。そうして、ランディー・シュライバー氏は、その急先鋒でもあります。

なお、ランディ・シュライバー氏は2015年、アメリカの外交専門誌「THE DEPLOMAT(ザ・ディプロマット)」(8月31日号)で、" >China Has Its Own Problems With History(中国は自分自身の歴史問題を抱えている)"として、「中国自身が中国共産党の歴史を捏造している」ことなどを指摘していました。2015年9月3日に軍事パレードを行い、「中国共産党こそが日中戦争時代に日本軍と勇敢に戦った」とする毛沢東神話をでっち上げていることに対する批判もこの論文には含まれていました。

このようなことは、過去の歴史を理解していれば、日本が戦ったのは中華民国(現台湾)であり、日本は戦後に建国した中華人民共和国とは戦いようもないし、いわゆる毛沢東の共産軍は戦中には大陸を逃げ回っていただけということは常識です。

だから、このブログでも現在の大陸中国が「対日記念軍事パレード」を行うことは、噴飯ものであると批判をしました。

米国内での強い日本と、弱い日本を巡る相克についてはこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】安倍政権5年で何が変わったのか 雇用大幅改善、積極的外交で高まる発言権…課題は迫る半島危機―【私の論評】戦後レジームからの脱却は安倍首相にしかできない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から「強い日本」と「弱い日本」の相克に関わる部分を掲載させていただきます。
ルーズヴェルトは大統領に就任すると直ちにソ連と国交を樹立し、反共を唱えるドイツや日本に対して敵対的な外交政策をとるようになりました。 
「強い日本はアジアの脅威であるばかりでなく、アメリカの権益を損なう存在」とみて、「弱い日本」政策を推進する。博士によると、現代米国の保守主義者にとってルーズヴェルトこそ最大の敵であったといいます。 
他方で、「大陸国家(ロシアや中国)の膨張政策の防波堤として日本を活用すべきだ」とする「強い日本」政策を進めようとしたのが保守派の人たちです。 
ミスター共和党と呼ばれたロバート・タフト上院議員たちは「弱く、敗北した日本ではなく、強い日本を維持することがアメリカの利益となる」と主張しました。 
また、「勝者による敗者の裁判は、どれほど司法的な体裁を整えてみても、決して公正なものではあり得ない」し、「日本に対してはドイツと異なり、復讐という名目が立ちにくい」と、東京裁判を批判してきました。 
タフト上院議員が「ヤルタ協定」批判を行い広範囲の支持を得たきっかけは、元ソ連のスパイで「タイム・マガジン」誌編集者あったH・チェンバースが1948年に「ルーズヴェルト大統領の側近としてヤルタ会談に参加した国務省高官のアルジャー・ヒルはソ連のスパイだった」との告発でした。 
1950年以降、ジョセフ・マッカーシー上院議員の赤狩りで自殺者が多く出るようになると、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど代表的なリベラル派マスコミが「魔女狩りだ」と批判を強めていきました。 
戦前戦後を通じて米国にはこうした「草の根保守」が存在してきました。その数は1200万人とも言われ、真珠湾攻撃をめぐる「ルーズヴェルトの陰謀説」を支持してきました。
米の草の根保守の重鎮故フィリス・シュラフリー女史
しかし、新聞・テレビはリベラル派に牛耳られて「草の根保守」の意見はほとんど報じられないため、両国の総合理解を妨げてきたと言われています。
1995年以降、米政府が第2次世界大戦中のソ連諜報機関の交信を米陸軍秘密情報部が傍受・解読した機密のヴェノナ文書を公開し始めました。これにより、チェンバースの告発が正しかったことが論証され、保守派の勢いが盛り返してきたとされます。



ブッシュ大統領(当時)が2005年5月7日、バルト3国の一国、ラトビアの首都リガで行った演説はその延長線上にありました。 
ブッシュ元大統領は「安定のため小国の自由を犠牲にした試みは、反対に欧州を分断し不安定化をもたらす結果を招いた」と述べ、「史上最大の過ちの1つだ」とヤルタ会談を強く非難しました。 
第2次世界大戦の連合国であったルーズヴェルト米大統領、ウィンストン・チャーチル英首相、ヨシフ・スターリンソ連首相は1945年2月クリミヤ半島のヤルタで会談しました。 
この際、国際連合構想にソ連が同意する見返りとして、ポーランドやバルト3国などをソ連の勢力圏と認め、対日参戦と引き換えに満州の権益や南樺太・北方領土をソ連に与える「秘密協定」を当事国である東欧諸国や日本の同意を得ずに結びました。 
中国国共内戦の激化と共産党政権の樹立、朝鮮半島の分割、満州と北方領土の占領などは、その協定がもたらした結果です。 
ヤルタ会談が行われた時点では米国に原爆が完成しておらず、日本本土上陸作戦では50万人の兵士が犠牲になると予測され、大統領はソ連の参戦が必要とみていたとされます。また、大統領は病気で覇気を失っており、スターリンがルーズヴェルトの弱みにつけ込んだとの見方もあります。 
米国の保守派がヤルタ協定を批判するのは、ロシアの参戦は必要なかったとみているからであり、参戦が共産主義帝国構築への道を開き、朝鮮戦争をもたらし、また今日の北朝鮮における金一族の独裁体制へつながったという認識をもっているからです。
ヤルタ会談

以上のような「強い日本」を志向する、ランディ・シュライバー氏が米国国防総省のアジア担当の要職についたことは、日本にとって良いことです。

米国保守派は、ソ連に変わって共産主義帝国構築を目指すようになった中国に対しても、ブログ冒頭の記事にも掲載されているように、警戒心をもちこれに対抗しようとしています。

この動きは前から共和党保守派の中では顕著なものでした。そうして、今回のランディ・シュライバー氏の起用は、ブログ冒頭の記事にもあるように、トランプ政権の対アジア政策、対中政策が保守本流の方向へ確実に舵を切る動きであり、これによって日本の安全保障もかなりやりやすくなるのは目にみえています。

たとえば、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁決議を履行するため、海上自衛隊の護衛艦や哨戒機が昨年12月から日本海や朝鮮半島西側の黄海で、外国船から北朝鮮船舶への石油などの移し替えがないか警戒監視活動に当たっています。


黄海・東シナ海などを常時警戒監視しているP3C哨戒機が不審船を発見した場合、護衛艦を現場に派遣します。政府関係者は「監視活動を顕示することで北朝鮮への石油製品の密輸を抑止することにつながる」としています。

ここで、黄海という言葉がでてきますが、黄海での海自による警戒監視活動は戦後はじめのことです。これは、中国側からすれば脅威だと思います。自分たちは尖閣付近の海域で船舶を航行させたり、最近では潜水艦を航行させたりしていたのが、日本の海自が黄海で監視活動を始めたのですから、彼らにとってみれば、驚天動地の日本の振る舞いと写ったかもしれません。

しかし、黄海初の日本の海自による監視活動に関して、日本のマスコミは当たり前のように報道しています。中国側も非難はしていなようです。中国としては、米国側から北への制裁をするようにと圧力をかけている最中に、監視活動にあたる日本を批判すると、さらに米国からの圧力が大きくなることを恐れているのでしょう。

このようなこと、少し前までのオバマ政権あたりであれば、「弱い日本」を志向する人々が多かったので、批判されたかもしれません。というより、そのようなことを日本に最初からさせなかったかもしれません。そうして、中国は無論のこと、大批判をしたかもしれません。そうして、日本国内では野党やマスコミが大批判をしていたかもしれません。

このようなことが、すんなりと何の摩擦もなくできるのは、やはり米国では「強い日本」を志向する勢力が大きくなっているからであると考えられます。

このような動きこれから、加速すると思われます。

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2018年1月20日土曜日

【主張】トランプ政権1年 「孤立主義」と決別せよ―【私の論評】経済が上々のトランプ政権は「孤立主義」になる心配は全くない(゚д゚)!

【主張】トランプ政権1年 「孤立主義」と決別せよ

トランプ米大統領
 ■真のアジア回帰へ日本も動け

 トランプ大統領が就任演説で掲げた「米国第一主義」は、強いアメリカを取り戻すことに主眼があったはずである。

 本来その源泉は、米国が重視してきた自由と民主主義の普遍的価値、国際秩序を守ることにある。だが、トランプ氏は必ずしも重きを置いていない。

 その結果、南シナ海などで、中国にわが物顔の振る舞いを許してしまった。中国は軍事、経済の両面で、米国が主導し、国際社会が繁栄の基盤としてきた既成秩序の破壊を狙っている。

 《中国の台頭は秩序壊す》

 米国をも脅かそうとする、北朝鮮の核・ミサイル問題への対応という変数もあった。日米が足並みをそろえ、圧力路線を推し進めた点は評価できる。だがそれは、米国が中国を押さえ込み、アジア太平洋地域の安全保障に積極的に関与することを直ちに保証するものにはみえない。

 米政権の行方は同盟国日本の針路を左右する。安倍晋三首相が、緊密な関係をもつトランプ氏に対し、替え難い価値観や秩序の重要性を説き、共有を促し続けていくことは極めて重要だ。

 昨年1月20日に就任したトランプ氏が真っ先に表明したのは、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの離脱だった。

 TPPには、自由主義経済の大国である日米が連携し、中国の覇権主義を押さえ込む戦略性があった。アジア回帰を唱えたオバマ前政権は、実際には中国による南シナ海の人工島建設を看過した。ただ、TPP構想は辛うじて中国を牽制(けんせい)するものだった。

 米国の撤退は、中国の「国家資本主義」という独善性を解き放ってしまった。現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を起爆剤に、中国に都合の良い規制やシステムを各国に押しつける動きに拍車がかかっている。

アジア諸国には、インフラ投資や経済援助をエサに、中国に切り崩される例が出ている。

 中国は昨年1年間で、南シナ海で29万平方メートルの軍事関連施設を整備した。東シナ海では尖閣諸島への領土的野心を募らせている。

 安倍首相が提唱し、トランプ氏が受け入れた「インド太平洋戦略」は、軍事、経済の両面で中国に対抗する狙いがあるが、まだ緒についたばかりだ。

 トランプ政権は昨年12月、国家安全保障戦略報告で「力による平和の維持」を打ち出した。中国をロシアとともに、既存秩序の変更をたくらむ「現状変更国家」と位置づけたのは妥当だ。

 北朝鮮問題では、米国は軍事的手段の選択肢を残し、圧力を強める姿勢を貫いた。国連安全保障理事会では制裁決議採択を主導した。いずれも日本が支持してきた点である。政権内の人事が停滞する中でも、マティス国防長官やマクマスター大統領補佐官ら有能な外交安保チームが仕事をした。

 《自由貿易の価値重視を》

 それでも、北朝鮮包囲網の強化にあたり、中国への依存を強めざるを得なかった。中国が原油の全面禁輸を拒む限り、早急な核放棄の実現は至難である。対北政策の舵(かじ)取りは極めて難しい。

 金正恩政権は平昌五輪を「人質」に、韓国の文在寅政権の懐柔を図っている。それを許容した点で米国に油断はないか。南北融和ムードが醸し出され、米本土を狙う大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させる時間を北朝鮮に与えかねない。トランプ氏が批判した「過去25年間の失敗」を繰り返してはならない。

 価値や秩序の重要性に目を向けず、北朝鮮やその庇護(ひご)者である中国と妥協する懸念も残る。日本はトランプ氏に真のアジア回帰を促すべきだが、それには日本自身の役割拡大を示す必要がある。

 昨年末に成立した大規模減税と好調な景気は政権に追い風となっている。ロシアによる大統領選介入疑惑は、政権中枢まで捜査の手が及ぶ気配だ。危うさが拭えない政権運営を立て直せるか。

 11月の米中間選挙で、共和党が上下両院の過半数を失えば、トランプ氏弾劾の動きが勢いづく。

 そうした事態を避けるため、白人労働者の支持層をつなぎ留めようと「内向き」政策に拍車がかかる懸念は残る。貿易赤字の是正に躍起となって、相手国を恫喝(どうかつ)する通商交渉を激化させれば、米国は孤立し、威信そのものが損なわれよう。

【私の論評】経済が上々のトランプ政権は「孤立主義」になる心配は全くない(゚д゚)!

トランプ政権もはやいもので、もう1年が過ぎました。その間、米国経済はどうなったのか、以下に掲載します。

株価は、下記の通り右肩上がりで上がりました。


以下に、主な経済指標のトランプ氏就任前と、直近の経済指標をあげておきます。


この中で、貿易赤字のみは少し大きくなっています。トランプ氏は貿易赤字を縮小することを公約に掲げたため、これを批判するむきもありますが、これは貿易赤字に対するトランプ氏の認識のほうが間違っているともいえます。

先日もこのブログで掲載したばかりですが、ユーロ圏では日本のように安易に国債発行やはできません。統一通貨の問題点です。特に為替レートにも関係ないので各国間の格差は拡大します。だからユーロ圏では特に「輸出額=輸入額」ということが必要になります。

米国、日本、中国のような国では、自国で自国通貨を擦り増しできるので、そのようなことはありません。本来、貿易黒字がどうの赤字がどうのと騒ぐ必要性など全くないです。

実際、経済が成長していると、輸入が増えて、貿易赤字は増える傾向にあります。この場合、貿易赤字が単純に悪いとはいえません。貿易赤字に関しては、あくまで中身を検討した上で良い悪いを判断すべきなのです。

トランプ政権の過去の1年では、経済成長をしつつ貿易赤字が減らなかったということですから、これはほとんど問題などありません。

むしろ、先程も言ったように、トランプ氏は大統領選挙中に語っていたような、あかも貿易赤字そのものが悪であるような考え方は改めるべきです。

その他、CPI(物価指数)、Civilian Unemployment Rate(失業率)、10-Yr.Treasury Rate(10年国債金利)、IP(鉱工業指数)、Payroll Employment(雇用者増加数)などの指標を以下に掲載します。


米国内でも日本でも、トランプ大統領を批判する人が多いですが、経済パフォーマンスに関しては上記の指標を見る限り文句のつけようがない程良いです。過去の米政権をみると、経済がよければ、他で批判されても結構長持ちすることが多いです。

アメリカのNAIRU(構造的失業率)は4%程度であり、インフレ目標2%はほぼクリアしています。その結果として経済成長率は3%超えています。これは、かなり良いです。これだと今後も、大減税しつつ金融引締めでこの良さを維持できる確率がかなりあります。

そうなれば、11月の米中間選挙で、共和党が上下両院の過半数を失うということもないでしょう。となると、元々ほとんど不可能(米国大統領で弾劾された人はいない)だったトランプ氏弾劾の動きはさらに下火になることでしょう。トランプ大統領弾劾の動きは、トランプ氏を貶めるための印象操作であると考えられます。

このような事態を避けるため、トランプ氏が、白人労働者の支持層をつなぎ留めようと「内向き」政策に拍車がかかる懸念も払拭されると思います。

さらに、国内経済が良いことから、トランプ氏が貿易赤字の是正に躍起となって、相手国を恫喝(どうかつ)する通商交渉を激化させることもないでしょうし、そのため米国は孤立し、威信そのものが損なわれることもないでしょう。

この状況は、たとえると安倍政権が成立してから、増税をする前までの1年間のように良い状況です。今後安倍政権が犯した唯一の誤りである、消費増税のような、マクロ経済的に明らかな間違いを犯さない限り、トランプ政権は安定するでしょう。

ブログ冒頭の記事のように、トランプ政権の政策的態度を「孤立主義」という言葉で描写しようとするコメンテーターが多いように感じます。

トランプはグローバル化に取り残された白人層を支持基盤としたグローバル化に抵抗している大統領だ、というイメージが、「孤立主義」とか「保護貿易」といった言葉のイメージに合致するのでしょう。

しかしこれらの言葉を使ってトランプ政権の政策的方向性を描写するのは、あまり妥当なこととは思えません。むしろこれらの概念は、かえってわれわれのトランプ政権の理解を阻害するように思われる。

「孤立主義」という日本の学校教科書などで19世紀アメリカ外交の描写として使われている概念は、20世紀になってから用いられるようになった概念であり、しかも極めて「ヨーロッパ中心主義的」な概念です。

第一次世界大戦の後、議会の反対で国際連盟に加入しなかったアメリカの外交政策を「孤立主義」と形容したのは、失望したヨーロッパ人たちでした。アメリカ人が「孤立」した状態を望んだということではありません。

そもそも19世紀の「モンロー・ドクトリン」の場合ですら、「孤立」はアメリカ人自身が目指した理念ではありません。19世紀前半にアメリカ合衆国は、ヨーロッパ列強が繰り広げていた「勢力均衡」の権力政治には加担しないことを宣言しました。

その「錯綜関係回避」の原則は、「新世界」に作り上げた「共和主義」の独立国を維持するためには、汚れた「旧世界」の権力闘争から隔絶させておくことが必要だという洞察にもとづいた政策でした。

しかしそれはアメリカ合衆国を国際社会から本当に「孤立」させることを目指した政策などではありませんでした。そもそも当時のアメリカ合衆国はすでに、いわゆる「明白な運命」論にしたがって、領土を拡大させ続けた「拡張主義」国家でした。

トランプ大統領が「孤立主義」的に見えるのは、「アメリカ第一」を唱え、TPP脱退などの政策によって国際協調を軽視しているというイメージがあるからでしょう。しかし、TPPから離脱しただけで「保護主義」者や「孤立主義」者になるかは、はなはだ疑問です。

そもそもTPPは太平洋地域の一部の諸国が加入するだけの地域的自由貿易協定にすぎず、全く「グローバル」なものではありません。中国包囲網としての性格も自明であったので、アメリカを中心とする太平洋地域自由主義諸国による関税同盟としての政治的性格が強かったと言えます。ただし、トランプ氏はこの「中国包囲網」としてTPPを理解して欲しいものとは思います。

トランプ政権は、TPP脱退やNAFTA再交渉の代替策として、カナダ、イギリス、日本などとの二国間貿易協定を結ぶことへの関心を表明しています。為替の自由化を求めてWTOを活用する方法も模索しているトランプ政権が、根本的に反自由貿易主義的だと言えるかは疑問です。

安全保障面では、トランプ政権は、NATO構成諸国にいっそうの防衛費拡大の努力を促しています。日本を含む他の同盟諸国にも同じような態度をとっています。

しかし、それは「テロとの戦争」などをふまえて同盟ネットワークのさらなる活性化を狙っているからであり、決して「孤立」したいからではないことは言うまでもないでしょう。

トランプ政権は「孤立主義」でもなかったし、これからも「孤立主義」に至ることはないでしょう。特に今年1年は現時点で経済が良いこと、さらに特に悪くなる要素もないことから、全くその心配をする必要はありません。

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