2018年12月13日木曜日

露、極東に最新鋭潜水艦を配備へ ラーダ型―【私の論評】日本も当然「ラダー型」への対応を迫られることになる(゚д゚)!

露、極東に最新鋭潜水艦を配備へ ラーダ型

露太平洋艦隊旗艦「ワリャーグ」

ロシアは、極東に拠点を置く露太平洋艦隊に、最新鋭潜水艦「ラーダ型」で構成する新たな潜水艦隊を配備する方針を固めた。露メディアが13日までに報じた。極東のカムチャツカ半島の戦略原潜基地の防衛任務などに当たるという。

 ラーダ型は通常動力型で、原潜に比べて小型で静音性に優れるとされる。

 国営ロシア通信によると、ラーダ型はこれまでに3隻が起工。1番艦「サンクトペテルブルク」は2004年に進水して以降、試験航行を続けている。2番艦「クロンシュタット」は来年に海軍に引き渡される予定のほか、3番艦「ベリキエ・ルキ」は21年以降に配備される見通しという。

 露紙「イズベスチヤ」によると、ラーダ型は乗員35人で、時速は海上10ノット、海中21ノット。潜航深度は300メートル。魚雷や機雷、対艦ミサイルなどを装備する。

【私の論評】日本も当然「ラダー型」への対応を迫られることになる(゚д゚)!

ロシア「ラダー型」潜水艦

ロシア太平洋艦隊にはプロジェクト677「ラーダ」潜水艦の旅団が展開しています。これは、ロシアで最も静かな潜水艦です。

最新潜水艦は嫌気性動力装置を装備し、水中へ一週間以上の滞在が可能となっています。太平洋の「ラーダ」は、戦略ロケット艦及びその駐留場所をカバーします。

最新ディーゼルエレクトリック潜水艦「ラーダ」型は軍備採用されました。これは、ロシアで初めて嫌気性(非大気依存)発電装置を有する潜水艦です。これにより、バッテリーの急速充電の為に常時浮上する必要は無くなりました。

「ラダー」型と、他国の潜水艦などとの比較の詳細は、以下の記事をご覧になってください。
日本のそうりゅう型、ドイツの212型、ロシアのラーダ型を比較-世界の通常動力型潜水艦を徹底比較!(分析編)
詳細、この記事をご覧いただくものとして、この記事ては以下のように締めくくっています。
そうりゅう型、212型、ラーダ型、バージニア型は潜水艦の中でも最高峰の潜水艦です。これらの潜水艦が戦闘を行った場合、どれが勝ってもおかしくありません。ただ、追尾魚雷を使用するような潜水艦同士の戦闘は今まで起こっておらず、今後もまず起こらないだろうと見られています。 
そんな中で潜水艦に求められるのは、ある意味「見えないままでそこに居続けること」かも知れません。
敵から見えない隠密性、水中を縦横無尽に移動する潜水能力、広い海のどこにでも出没出来る行動範囲、いざという時に戦える戦闘能力。これらを有する潜水艦がどこかにいる。その恐怖を敵に与えることこそが、潜水艦の使命とも言えるでしょう。
「ラーダ」型開発の歴史は普通ではありません。過去10年間海軍総司令部は、長期に渡り動力装置を満足すべき状態で製造出来なかったために、この潜水艦の断念を計画していました。

これと同時に、従来のディーゼルエレクトリックシステムを装備したシリーズのトップ艦「サンクトペテルブルク」が受領されました。現在、「サンクトペテルブルク」は航行試験を行なっています。合計で12隻の「ラーダ」型潜水艦の建造が計画されています。

以前に『イズベスチヤ』が伝えたように、これらの一部は北方艦隊で勤務に就き、残りはカムチャツカ沿岸での恒久的駐留をする予定です。

大幅に自動化された「ラーダ」型潜水艦の最大の長所は、騒音が最小限に低減され、通常の電波位置測定探知手段には探知されないことです。

さらに、最新の超水中音響システムセンサーのお陰で、「ラーダ」型は遥かに手前からで、敵の艦よりも先に相手を探知できます。

加えて、この潜水艦は、非常に迅速に多数の目標の撃破が可能です。たとえば、数分で18本の魚雷を発射できます。ロシア海軍は、この潜水艦を水中戦闘機と呼んでいます。

プロジェクト677潜水艦の太平洋艦隊への存在は、特別な意味を持つと軍事歴史家ドミトリー・ボルテンコフは指摘しました。

「太平洋艦隊の戦力原潜は、世界の大洋の様々な部分で戦闘当直に就いており、アヴァチャ湾に駐留しています。

アヴァチャ湾に停泊するロシアの戦略原潜


我々の艦は、無分別な外国のパートナーに探知と補足を試され、湾からの出航にも同行されています」

彼は『イズベスチヤ』に語気を強めていいました。

「そして我々は、原子力潜水艦の展開の為に、様々な手段による重要なカバーを必要とします。

最も効果的なものの1つは、"ラーダ"型ディーゼルエレクトリック潜水艦でなければなりません」

ソヴィエト時代、「戦略型原潜」展開の任務は、ベチェヴィンスク湾に駐留する第182潜水艦旅団により遂行されていました。

しかし、それは(軍)改革中に解散しました。新たな連合部隊が、同じ部隊番号を受け取り、同じ場所に駐留する事は十分に有り得るとドミトリー・ボルテンコフは見ています。

太平洋での任務遂行の為に、プロジェクト「ラーダ」型艦は、通常のディーゼルエレクトリック潜水艦よりも遥かに大きな力を発揮できると、潜水艦船員クラブの代表イーゴリ・クドリン1等海佐は考えています。

大型自動化艦「ラーダ」型が、ここで演じる役割は、敵に察知されにくい事と、遠距離探知手段を有していることです。

黒海及びバルト海といった制限のある海域での行動には、古い世代の潜水艦が充分に対処しています。

基地及び艦船の保護に加え、プロジェクト677潜水艦は、必要に応じて他の任務を遂行できます。

その中には、機雷源の敷設、特殊部隊の移送、重要な水上及び水中目標の捕獲が有ります。

さて、このようなロシアの行動を米国は「ロシアの潜水艦建造能力の復活」の脅威を感じているようです。

米軍のジェームス・フォゴ欧州軍海軍司令官(海軍大将)は今月7日までに、ロシアの海軍戦力に触れ、一部の最新型潜水艦や巡航ミサイルの脅威への懸念を表明しました。

ジェームス・フォゴ欧州軍海軍司令官

米国防総省で記者団に述べた。司令官は老朽化した空母を含むロシア海軍の海上戦力については脅威はほとんどないとし、主力艦の性能についても強固なものはないとも明言しました。

フォゴ司令官はその上で、ロシアは新型のドルゴルーキイ級やセベロドビンスク級の潜水艦の他、キロ級の新たなハイブリッド型潜水艦(ラダー型のこと)も建造したと指摘。キロ級の潜水艦6隻は既に「黒海や地中海東部」に出動しているとし、非常に高性能とする独自開発の巡航ミサイル「カリブル」を発射していると説明しました。このミサイルは欧州諸国の全ての首都を射程内に収めているとの警戒感も示した。

カリブル

この巡航ミサイル「カリブル」は、他に類似するものが無いです。地上目標攻撃用の亜音速ヴァージョンでは、このミサイルの最大飛翔距離は約2500kmになります。

さらに、この「カリブル」には 多様なヴァリエーションを有する戦闘機器である事を確認されました。

ミサイルは、一体型の弾頭を搭載します。従来の弾頭を装備する場合、ミサイルの最大飛翔距離は、およそ2500kmになります。

「カリブル」は高精度兵器であり、数千キロメートル離れた目標へ発射されても、予想される誤差範囲は2-3メートルを超える事は有りません。

「カリブル」の対艦用の超音速ヴァージョンでは、最大飛翔距離は375kmです。

比較の為に、公開情報によると、アメリカが装備する有翼ミサイル「トマホーク」の飛翔距離は、潜水艦搭載用の非核ヴァージョンで約1150kmです。

日本も当然のことながら、「ラダー型」潜水艦への対応が迫られるものとみられます。東シナ海、南シナ海の中国の潜水艦に対応するだけではなく、オホーツク海でロシアに対峙しなければならないです。

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2018年12月12日水曜日

【日本を亡ぼす岩盤規制】天下り斡旋、汚職…文科省は取り潰していい! 「ハッキリ言って、日本に存在してはいけない役所」 ―【私の論評】文科省はこのように解体せよ(゚д゚)!

【日本を亡ぼす岩盤規制】天下り斡旋、汚職…文科省は取り潰していい! 「ハッキリ言って、日本に存在してはいけない役所」 
文科省“腐敗”実態

いらない役所の代表格 文部科学省

 私は「文科省は、日本に存在してはいけない役所だ」と思う。ハッキリ言って、なくても困らない。先進国には文科省がない国がほとんどだ。では、教育行政は誰がやるのか? それは各地方自治体の教育委員会がやっている。そして、十分それで用が足りている。

 なぜ、文科省が日本に存在してはいけないかというと、この役所は「利権の温床」で、トップからして腐りきっているからだ。

前川喜平元次官

 前川喜平元次官を覚えているだろうか? 東京・歌舞伎町の出会い系バーに足しげく通っていたと報じられた。前川氏は天下りの斡旋(あっせん)に自ら関与して、次官を引責辞任した。法令遵守の精神はなかったのか。さすが、「面従腹背」である。

 一体、いつの時代の話かと思っていたら、同省は今年、補助金申請で便宜をはかる見返りに、息子の「裏口入学」のおねだりをしていた佐野太被告(元科学技術・学術政策局長)など、複数の局長級幹部が汚職事件で逮捕・起訴された。




 言語道断である。こんな連中に教育を語る資格はない。文科省は今すぐ取り潰していい。

 事件のキーマン「霞が関ブローカー」(贈賄罪で起訴済み)の関係者として、国民民主党の大西健介衆院議員や羽田雄一郎参院議員、立憲民主党の吉田統彦衆院議員の名前も取り沙汰された。

 文科省側は逆恨みしたのか、安倍晋三政権を攻撃する情報をメディアなどに流した。いわゆる「加計学園」問題である。

 この問題の発端は、文科省のデタラメな「告示」にある。本来、大学や学部の新設は設置要件を満たす限り認可しなければならない。憲法に自由権が保証されている日本では当たり前の話だ。仮に、自由が制限されるなら、役所にはその合理的な理由を説明する責任がある。

 ところが、文科省は獣医学部の新設に限って、この説明を怠り50年にもわたって申請を門前払いするという措置を取ってきた。完全に憲法違反である。ところが、こんな明白な憲法違反でさえ、政治の力でただすのは至難の業だった。

 最初に、この岩盤に挑んだのは民主党政権だった。そして、その挑戦は安倍政権に引き継がれた。

 最終的に、国家戦略特区制度を利用して文科省のデタラメな「告示」を突破し、加計学園は学部新設の申請を提出することができた。それ以降の審査プロセスは、通常の設置認可と変わらない。安倍首相の関与する余地など、最初からないのだ。

 私はこのことを十分承知していたので、今年4月から岡山理科大学(加計学園)の客員教授を引き受けた。何の落ち度もないのに岩盤規制の犠牲となり、2年間も「政争の具」にされた彼らが気の毒だと思ったからだ。

 岩盤規制の最大の問題は、多くの犠牲者を生むことだ。そして、その犠牲の上にあぐらをかいて、甘い汁を吸う連中がいる。国民よ怒れ!!

 ■上念司(じょうねん・つかさ) 経済評論家。1969年、東京都生まれ。中央大法学部卒。経済評論家の勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開。著書に『習近平が隠す本当は世界3位の中国経済』(講談社)、『日本を亡ぼす岩盤規制~既得権者の正体を暴く』(飛鳥新社)など。

【私の論評】文科省はこのように解体せよ(゚д゚)!

意外と知られていませんが、行政の中で規制改革が最も進んでいない分野は教育です。医療や保育などの社会保障については、社会保障支出の増加の抑制という至上命令があるため、ペースが遅いとはいえ、カルテの電子化や保育の規制緩和といった規制改革が徐々に進んでいます。

それと比べると、教育、特に小学校・中学校の義務教育については、学習指導要領や日教組といった強固な障壁が存在するため、規制改革はほとんど進んできませんでした。

諸外国、たとえば米国では、教科横断のプロジェクト学習中心など、新たな教育スタイルを実践する小学校が、企業経営者によって設立されています。また、オランダ、イスラエル、中国などでも同様に、新たなアプローチで教育を行う学校が増えています(参考URL)。

それに対して日本の小中学校では、学習指導要領に基づいた教育しか行なえないので、新たなアプローチの教育を行なう学校の設立は、ニコニコ動画のN高等学校や堀江貴文氏のゼロ高等学院など、高等学校に限定されています。また、そこまで革新的な取り組みでなくても、普通の規制緩和さえ実現できないままとなっています。

現行制度の下では、大学や高校ならば自由に遠隔教育を行うことができますが、小中学校では遠隔教育の受け手の生徒がいる側にその科目の教員免許を持った教師が同席していない限り、遠隔教育はできません。

また、教員免許を持っていない専門家は、小中学校では科目の授業を1人で受け持つことはできません。あくまで補助教員として、教員免許を持つ先生が行う授業の中の一部分しか担当できないのです。

このように、教育、特に小中学校という義務教育については、学習指導要領に認められた教育以外は認めない、教員免許を持った先生以外は科目の授業を持てない、といった厳然たる岩盤規制が存在するのです。

そうした中で、茨城県が特区による教育分野での規制緩和の要望を内閣府に提出しました。提出資料の3、4ページを見ればわかるように、小中学校で教員免許を持った先生が現場にいなくても遠隔教育をできるようにするとともに、茨城県が認めた地域・学校のみで有効な地域限定の新たな教員免許を創設し、外国語やプログラミングの教育で教員以外の専門家が授業を受け持てるようにしようとしています(参考URL)。

しかし、おそらく文科省は国会議員や県の教育委員会などと一緒に、この改革を認めまいとするのではないかと予想されます。それでも、この茨城県の提案が実現する可能性は十分にあると思います。というのは、県のトップである茨城県知事が非常にやる気になっているからです。

茨城県知事 大井川氏

ただ、文科省の改革潰しの執念と力の凄さを考えると、知事だけがやる気では限界があるのも事実であり、提案の実現に向けては特区制度を所管する内閣府はもちろん、官邸の後押しも不可欠となります。

ちなみに茨城県の提案が、安倍政権の経済政策の最重要課題である働き方改革による生産性の向上と整合的であることを考えると、この提案は政権にとって渡りに船であるとも言えます。

そう考えると、官邸が茨城県の提案の実現に向けてどこまで頑張るかは、働き方改革の実現と生産性の向上に向けた安倍政権の本気度を測る絶好の試金石になるのではないでしょうか。

そして、安倍政権の改革姿勢の本気度を測るもう1つの試金石は、文科省解体です。

文科省は、これまで一貫して教育の改革に抵抗してきた一方で、すでに報じられているように、教育全般に関する絶大な権限と多額の予算をテコに、組織的な天下りの斡旋、幹部子弟の裏口入学の依頼、民間ブローカーからの過剰な接待と、やりたい放題やってきました。

報道によれば、7月下旬に文科省の中堅職員らの有志が、信用が失墜した文科省の組織の建て直しに向けた改革案を事務次官に提出したようです。報道ベースでは、若手や専門性の高いベテランが活躍できる環境の整備、人事システムの改善、働き方改革の推進などが提案されたようです。

しかし、この程度の改革とも言えないレベルの改善策程度で、組織が再生できれば苦労しません。これだけ不祥事が短期間の間に頻発したということは、組織の中にそうしたことを是とするDNAが埋め込まれてしまっているのでしょうから、そうした組織は一度解体しない限り、再生は困難です。

文科省の解体のやり方としては、以下のような様々なアプローチが考えられます。
・小中学校の義務教育に関する権限と予算は、地方自治体に完全に移譲。 
・厚労省を旧厚生省と旧労働省に分割した上で、後者に文科省の高校・大学に関する権限と予算を移譲して、人材育成を行なう省を設立。 
・文科省のうち旧科技庁部分は、内閣府の科学技術・イノベーション関連の部門と合併してイノベーション専門の省を設立。
逆に言えば、これくらい徹底的な改革を行わない限り、中堅職員が提言した程度の小手先の改善のみでは、文科省という組織自体や文科省の行政に対する国民の信頼は戻りません。


2018年12月11日火曜日

ルノー支配にこだわる仏政府 高失業率なのに緊縮路線強行…マクロン氏へ国民の怒り爆発! ―【私の論評】来年10%の消費税増税を実施すれば日本でも仏のような「黄巾の乱」が起こる(゚д゚)!

ルノー支配にこだわる仏政府 高失業率なのに緊縮路線強行…マクロン氏へ国民の怒り爆発! 

仏マクロン大統領

 日産自動車をめぐる事件でも話題のフランスのマクロン大統領だが、以前から仏政府は筆頭株主であるルノーへの支配を強めようとしていたことで知られている。最近では支持率の低下や閣僚の辞任、大規模な暴動などで逆風となっている。

 マクロ経済の重要な指標である失業率の推移をみると、フランスは2000年以降8%以上が継続している。07、08年には7%台だったが、リーマン・ショックを経て、09年9月には9・3%まで上がり、13、14年には10%台となった。今年10月時点でも8・9%と高止まりしている。

 このような動きは、欧州連合(EU)諸国ではイタリアでも見られるが、現時点でもリーマン・ショック後と同水準の失業率というのは情けない。EU全体の失業率をみても、リーマン・ショックの1年後の水準は9・3%だが、現状では6・7%まで下がっている。EU内のライバル国であるドイツは、リーマンの1年後が7・8%、現状が3・3%と、フランスとは段違いのパフォーマンスだ。

 ちなみに日本は、リーマン1年後の水準は5・5%だったが、現状は2・4%。米国はリーマン1年後が9・8%、現状は3・7%だ。

 他の先進国ではリーマン・ショック後に上昇した失業率が、金融緩和によって下がったにも関わらず、フランス経済は、失業率が高止まりしているのが最大の問題だ。ユーロ圏では金融政策は欧州中央銀行が行うのでフランスもドイツも同じ立場だ。それでも差が出るのは労働市場の構造問題があるからだ。フランスの労働市場は極めて硬直的であることはよく知られている。

 マクロン大統領は14年8月から16年8月までオランド政権で経済産業大臣を務めた。その当時、マクロン氏は、ルノーに対する政府の発言権を増やすような法律を立案している。

 ルノーは第二次世界大戦後に国有化されたが、1980年代後半から民営化に転じ、政府保有の株式を売却している。ただし、現時点でも、ルノー株の15%を保有する筆頭株主である。民間への介入という点では、中道でも左寄りだった。

 マクロン氏は17年5月の大統領就任直後、企業の解雇手続きの簡素化や解雇補償額の上限設定などの労働市場改革を行った。EUでの主導権を確保するため財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以下にするというEUの財政規律の達成を重視するあまり、予算の一律削減、国有鉄道改革で緊縮路線を実施している。

 また、法人税率の段階的な引き下げ、金融資産にかかわる富裕税の廃止なども行っている。中道左派のフランスの中では、これらの政策は右寄りだ。

 ただし、環境政策では左寄りで、今問題となっている燃料税増税をやろうしていたが、延期に追い込まれた。

 燃料税増税は、低所得層の燃料費の安いディーゼル車を直撃した。失業率の低下が不十分な中で、これまでの不人気政策への怒りが爆発したのだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】来年10%の消費税増税を実施すれば日本でも仏のような「黄巾の乱」が起こる(゚д゚)!

数年前、韓国の首都・ソウルで、朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)の退任を求める市民団体による抗議デモが、土曜日ごとに発生。ロウソク片手に毎週、多いときでは主催者側発表で200万人を超える人々がデモに参加するという、不気味な現象が発生しました。

このデモの結果、韓国の国会は、いまから2年前の2016年12月9日(金)に、朴槿恵氏の弾劾訴追を可決しました。

韓国のろうそくデモ

いわば、市民団体の「ろうそくデモ」が、国政を動かした格好です。韓国国内では「平和的なデモによって政治を動かした!」、あるいは「これは無血革命に等しい!」など、謎の自画自賛が行われているようですが、「韓国の民主主義の未熟さを示す、本当に恥ずべき話だ」、という認識はないようです。

ちなみに、韓国国内では老舗メデイアである『中央日報』(日本語版)にも、以下のような社説が掲載されたほどです。
【社説】朴大統領弾劾以後…憲法と協治で乗り越えよう(2016年12月10日12時46分付 中央日報日本語版より)
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、中央日報は朴槿恵氏が民間人である崔順実(さい・じゅんじつ)氏に国政機密を漏洩していたことなどを「神聖な国家権力を民間人に譲り渡した」「決して許されない反憲法的犯罪」だったと決めつけ、朴槿恵氏が弾劾されたことを「霧に覆われた政治も1つの峠を越えた」と評しています。
どうして急にこんな古い話を持ち出したのかといえば、数日前から出ている、フランスで増税が延期されたという話題を目にしたからです。

すでに複数の内外メディアが大きく取り上げていますが、フランスの首都・パリを初めとする各地で、燃料税の引き上げなどに反発する抗議デモが発生。黄色いチョッキ(gilets jaunes)を着用した者たちが3週間以上にわたり、ときとして過激な暴力を振るうなどして社会問題化しています。この黄色いチョッキで破壊活動をするとは、まさに中国の「黄巾の乱」を彷彿とされます。

gilets jaunes

これを受けて、今週、フランス政府は燃料税の増税を表明。いわば、マクロン氏が暴力的なデモ隊に屈した格好となっています。

これは非常に情けない話であるとともに、極めて深刻な話です。というのも、民主主義国において、大統領としていったん有権者の信任を得ている以上、法の手続きなしに、暴力に屈することがあってはならないからです。

これらの報道によると、マクロン氏は前任のオランド政権が残した富裕税などの負の遺産を撤廃するとともに、労働者に対する手当てを削減し、燃料税を引き上げるなど、「強者に配慮する一方、弱者に厳しい政策」を遂行したことが、今回のデモを招いたとされています。

ただし、フランスもユーロの欠陥の犠牲者であることを忘れてはならない思います。

ユーロには深刻な欠点がいくつもあります。通常、産業競争力が強い国(たとえばドイツやルクセンブルクなど)では、貿易黒字を積み上げれば自国通貨の価値が上昇し、輸出競争力が低下することで、自動的に産業競争力が強くなり過ぎないような調整が働きます。

しかし、ユーロ圏に加盟している国どうしでは、為替レートの調整が働かないため、産業競争力が強い国は強いまま、永遠に貿易黒字を積み上げ続け、産業競争力が弱い南欧諸国などは、無限に貿易赤字を垂れ流し続けることになるのです。

それだけではありません。ユーロ圏加盟国では、各国の中央銀行にユーロを発行する権限がありません。このため、国債を中央銀行に引き受けさせるということができませんし、自国がデフレ状況にあったとしても、自国内で金融緩和を行うこともできないのです。

フランスは国連常任理事国であるとともに核武装国であり、農業大国であり、原発大国でもあります。ユーロ発足前のフランスの通貨・フランは、ドイツ・マルクとともに、「G10通貨」の一角を占めていたほどです。

ところが、欧州通貨統合の結果、マーストリヒト条約により国債発行残高はGDPの6割に抑えることが義務付けられてしまい、財政出動の手段を奪われてしまいました。ちなみにこの「GDP債務比率6割」には、経済学的な根拠はいっさいありません。

フランス経済が破壊されている要因は、ユーロという通貨自体の欠陥以外にも、移民政策の失敗や社会構造改革の失敗など、さまざまなものもあるのですが、経済がうまくいっていないことは確かです。

マリーヌ・ルペン氏が率いる国民連合(Rassemblement National、旧党名は「国民戦線」Front National)のような右翼正当といわれる政党が台頭しているのも、フランス経済がうまく機能していない証左であると考えられます。

マリーヌ・ルペン氏

この10年間、ドイツなどの経済強国と、南欧を中心とする周辺国での格差が無限に開き続けるというユーロ圏独特の問題は、根治されていません。それは、国債の発行主体である各国が通貨を発行する権限を持っていない、という問題です。

これを改善するための処方箋は以下のようなものしかありません。
1.ユーロ圏を解体し、ユーロ採用国19ヵ国はそれぞれの通貨を復活させる
2.ユーロ圏の財政を統合し、「ユーロ国債」を発行する
このいずれかです。

諸悪の根源はユーロという通貨の欠陥にありますし、この根治がされない限り、ユーロ圏危機は何度も再燃することと違いない、と思っていました。それがこんな形で噴出するとは、予想どおりとはいえ、忸怩たる思いがします。

ユーロ圏の話はともかくとして、フランスを「近代民主主義発祥の国」と呼ぶ人もいるようですが、民主主義のプロセスにより成立した政府が実行しようとしている政策を、民主主義の手続きによらずに阻止するのは、民主主義国ではありません。フランスの民主主義は危機的な状況にあると言わざるを得ないです。それも、先に述べたように韓国並みの危機にあるといえます。

日本でも、大規模な国会デモなどがありますが、それでも一向に政権交代に結びつきそうにもありません。

その理由は非常に簡単で、現在の日本の経済政策が、それなりに成果を挙げているからです。

もちろん、私自身は安倍政権の経済政策が100%、うまくいっているとは言いません。2013年4月以降の大規模金融緩和はそれなりに日本経済に恩恵をもたらしていますが、2014年4月の消費増税や、財務省の緊縮財政主義は、日本経済の立ち直りを遅らせています。

こうした財務省の抵抗により、日本経済の浮揚が遅れていることは事実ですが、ただ、それと同時に失業率は史上最低水準、有効求人倍率は史上最高水準にありますし、雇用が確保されれば国民生活が徐々に安定していくことは自明の理でもあります。

したがって、いくら日本共産党や極左メディアなどが焚き付けても、日本では韓国やフランスのような暴力的でもは発生しないのです。

ただし、現在の日本経済も、必ずしも盤石ではありません。

とくに、来年10月に消費税等の税率が引き上げられれば、国民が消費行動をするたびに巻き上げられる税額が上昇することになりますし、消費活動が委縮することは避けられません。そして、それによって経済成長が鈍化すれば、デフレ脱却が遅れ、さらには雇用が損なわれる懸念もあります。

民主主義も民度も未熟な韓国でおかしげなデモや市民運動が発生するのは仕方がない話ですが、「民主主義が成熟している」等といわれているフランスでも、経済が悪化すれば、「黄色いベストを着たデモ隊による破壊活動」、といったおかしげな運動が生じてしまうのです。

それを防ぐためには、民主主義とは非常に脆弱な仕組みであることを、まずはきちんと認識する必要があります。

民主主義が機能するためには、国民の知的水準が高いことと、国民の生活が安定していることの、2つの条件が必要です。日本はもともと国民の知的水準が高い国ですが、不況などによって国民生活が苦境におちいれば、容易に変な政権が誕生してしまいかねません。

2009年8月の悪夢を、私たちはよもや忘れてはなりません。

来年10%の消費税増税を許してしまえば、日本でもフランスのように「黄巾の乱」が起こってしまうかもしれないのです。

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2018年12月10日月曜日

中国の技術窃取に悩まされ続ける米国の対抗措置―【私の論評】「産業スパイ天国」をやめなければ日本先端産業は米国から制裁される(゚д゚)!

中国の技術窃取に悩まされ続ける米国の対抗措置

岡崎研究所 

 米国マイクロン社が、中国の企業に知的財産を盗まれたと非難したことを受けて、米国商務省は、10月29日、中国の福建晋華への米国技術の輸出を規制することを発表した。国有企業の福建晋華は、米国技術と類似の技術を使用し製造を行っているが、司法省によれば、それらは米国の軍事システムでも使用される機微な技術への脅威となる。

米国の技術を盗用して開発された中国のステルス戦闘機J-20

 今回の中国企業による米国技術の窃取は、台湾を舞台に2年前の2016年に端を発する。その年、台湾にあるマイクロン社の子会社UMCが福建晋華と技術協定を結び、DRAM(記憶保持メモリ)へのアクセスを許した。そのDRAMの技術を窃取した2人のマイクロン社のエンジニアは、UMCに雇用されたが、2017年8月、台湾当局によって起訴されている。

 本年11月1日、米国司法省は、UMC、晋華、2人のエンジニア及び追加1人の下マイクロン社社員を、貿易秘密を窃取した疑いで起訴した。ジェフ・セッションズ司法長官は、被害額を、87億5千万ドルと推定する。

参考:Wall Street Journal ‘A Better China Trade Strategy’ November 1, 2018

 技術後発国は多かれ少なかれ技術先進国から技術を窃取しようとするものである。しかし中国による技術窃取のスケールはけた違いに大きい。中国は技術で米国に追いつくことを国策として推進しており、その手段の一つとして不法な窃取も国家主導で行っている。

 中国の近年の技術水準は著しく向上しているが、その少なからざる部分が窃取によるものと推定される。最大の被害者は技術で優位に立つ米国である。米国は以前から中国による技術の窃取に懸念を表明してきたが、最近危機感を強めている。中国の技術水準が急速に高まり、米国を急迫しているからである。

 米国は以前から中国に対し、知的財産権の窃取などに警告を発してきたが、ここにきて具体的な対策を取るようになった。その一つが報復関税で、 6月15日、中国による知的財産権に対する報復として、中国の対米輸出品500億ドルに関税を付加すると発表し、その後2段階に分け、実施した。しかし関税が知的財産権の窃取に対する有効な手段とは思われない。むしろ知的財産権の窃取を口実に関税を付与した感すらある。

 このような状況の中で、告訴がなされた。これは、米国の情報機関と司法省が協力して、米国の先端技術を窃取しようとする中国のスパイやハッカーを逮捕するものである。スパイ行為を法律で取り締まることになると、機微な情報が公にされるおそれがあるが、機密保持もさることながら、窃取を厳しく罰し、少しでもそれを減らすことを優先させるということであろう。そのうえ告訴は、単に違法行為を追及するのにとどまらず、中国のスパイ技術の詳細を明らかにするという。告訴方式は今後ますます強化されていくだろう。

 しかし、技術の窃取の防止は容易ではない。特にサイバーによる技術の窃取に有効に対処することは多くの困難が伴う。サイバー攻撃への対処が進歩すれば、それを回避するようなサイバー技術が開発され、鼬ごっことなる恐れもある。 そのうえ中国は、米国が告訴など技術窃取対策を強化しても、技術窃取は止めないだろう。今後とも長きにわたり技術窃取をめぐる米中の攻防が続くものと思われる。

 中国の技術窃取については、最大の標的である米国のみならず、欧州、日本も大いに関心がある。欧州、日本も米国と協力して、中国による技術窃取を強く非難し、その防止に協力すべきである。

【私の論評】「産業スパイ天国」をやめなければ日本先端産業は米国から制裁される(゚д゚)!

米中貿易戦の激化で、中国当局による外国企業に対する技術移転の強要が批判の的となっています。米企業は、中国当局の技術移転の強要、企業の競争力が低下し、イノベーションの原動力が失ったと訴えています。ホワイトハウスの試算では、強制技術移転によって米企業は毎年500億ドルの損失を被っています。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が9月28日伝えました。

中国当局は現在、化学製品、コンピューター用半導体チップ、電気自動車など各分野の外国企業の技術を狙い、様々な方法を使っています。なかには、脅迫などの強制手段を用いることもあります。

WSJの報道によると、米化学大手デュポンは昨年、提携先の中国企業が同社の技術を盗もうしているとして、技術漏えいを回避するために仲裁を申し立てました。しかし昨年12月、中国独占禁止当局の捜査員20人がデュポンの上海事務所に踏み込み、同社の世界的研究ネットワークのパスワードを要求し、コンピューターを押収しました。当局の捜査員らは、同社の担当者に対して、提携関係にあった中国企業への申し立てを取り下げるよう命じたといいいます。

デュポン社商標

米中両政府と企業の関係者数十人の話と規制に関する文書に基づいて、WSJは中国当局が「組織的かつ手際よく技術を入手しようとして」との見方を示しました。その手法について、「米企業に圧力をかけて技術を手放させること、裁判所を利用して米企業の特許や使用許諾契約を無効にすること、独占禁止当局などの捜査員を出動させること、専門家を当局の規制委員会に送り込ませ、中国の競争相手企業に企業機密を漏らさせること」などがあるといいます。

同紙は、外国企業の中国市場への進出を認可する代わりに、その技術の移転を求めることは、党最高指導者だった鄧小平が考案した戦略だと指摘しました。

鄧小平

また、報道によると、上海にある米商工会議所が今春に行った調査では、5分の1の会員企業が中国当局に技術移転を強要されたことがあると答えました。

いっぽう、欧州企業も同様に、中国当局による強制技術移転を訴えています。9月18日に公表された中国のEU商工会議所2018年年度報告書によれば、中国に進出した1600社の欧州企業のうち、約2割が中国当局に技術移転を迫られたそうです。

EU商工会議所が3カ月前に、532社の欧州企業を対象に行った調査では、同じく2割の会社が中国当局から技術移転を強要されたと訴えたことが分かりました。

25日、トランプ米大統領は国連総会の演説で、中国当局が米企業の知的財産権を侵害していると批判したうえ、中国による貿易・経済面における乱用を容認できないと述べました。同時に、国際貿易体制の改革も呼び掛けました。

同日米ニューヨークで、日本、EU、米国の貿易担当閣僚による第4回三極貿易大臣会合が開催されました。3閣僚は、中国を念頭にした強制技術移転や政府補助金問題に懸念を示し、世界貿易機関(WTO)のルール見直しについて協議しました。

経済産業省によると、世耕経済産業大臣が議長を務めた同会合では、日米欧は強制技術移転や市場志向条件の2つの分野について、第三国による市場歪曲的措置の分析などの情報交換を実施することで合意しました。第三国はとは中国当局とみられます。

中国政府は約30年かけて、国家横断的な「技術略奪」のシステムをつくり上げてきました。シンプル化すれば、以下の3段階に分けることができます。
(1)欧米や日本に留学生を送り込み、先端技術を学ぶ。(2)留学生や海外の企業で働いた技術者を帰国させ、先端技術を持ち帰らせる(多くが非合法)。(3)海外で研究・開発を続けながら、本国に先端技術を流用する(非合法)。
日本のメーカーから「中国人技術者がある日突然いなくなる」のは、(2)のケースです。中国で高待遇で迎えられています。

パナソニックやソフトバンクといった日本を代表する企業が、米市場から排除されようとしているファーウェイなどとの共同開発を今も積極的に進めています。東大はファーウェイと理工系で横断的な共同研究を立ち上げています。

日本の大学と企業が無自覚につくり出している「産業スパイ天国」は、この1~2年で大きな転換を迫られることになるでしょう。

日本の政治指導者も、中国とのビジネスに関わっている多くの企業経営者も、今が約30年ぶりの転換点にあることを認識する必要があります。

90年代以降、アメリカは中国を自由経済体制に引き入れることで、民主的体制への転換を促す戦略をとってきました。しかしトランプ政権は昨年末、「われわれの希望に反した」として中国の共産主義体制と対決する路線に転じまし。トランプ氏は、「中国に都合のいい秩序」の破壊者になろうとしているのです。

中国の高速鉄道の技術は日本の新幹線技術の盗用とされている

日本の政府も企業も、中国の側に立つのか、アメリカの側に立つのか二者択一を迫られています。

トランプ氏は、アメリカが再び世界を引っ張る新しい秩序をつくるため、貿易や技術に関するルールを全面的に見直しています。

日本も足並みをそろえ、中国人留学生を無制限に受け入れる政策や、中国への技術移転を奨励するような政策を全面的に見直すしかないです。

米国のように、日中首脳会談で合弁事業による技術移転強制に抗議し、中国企業の日本への投資を厳格に審査し、ファーウェイやZTEなどを日本市場から排除するしかないでしょう。実際にその方向に進みつつあります。

さらに、これは昨日もこのブログに掲載したことですが、世界で日本にだけないスパイ罪(スパイ防止法)の制定も急ぐ必要があります。産業スパイ事件が起こっても、日本では窃盗罪など一般的な法律での処罰となります。日本国民を安全保障上の脅威にさらすスパイには、重罪を科すのが国際常識です。

世界一ともいえる「産業スパイ天国」を終わらせることが、中国の「技術略奪」の時代を終わらせることに直結します。と同時に、「世界秩序の破壊者」トランプ氏が目指す「米中冷戦」の勝利を一気に引き寄せることになるでしょう。

これをいつまでもグズグズ実行しなければ、日本の先端的な企業は中国への技術移転を防ぐために、米国から制裁をくらうことにもなりかねません。そのことを理解している経営者や研究機関はまだ少ないのではないかと危惧しています。

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2018年12月9日日曜日

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機密戦争勃発! 米英が中国駆逐へ、ファーウェイ&ZTEの5G覇権“徹底排除” 識者「中国通信分野の『終わりの始まり』」

トランプ氏(右)と習近平氏の戦いが本格化してきた   写真はブログ管理人挿入

 ドナルド・トランプ米政権の主導で、世界各国で中国IT企業を締め出す動きが加速化している。背後には、中国製通信機器などを通じて、政府や軍事、企業の機密情報が盗まれ、共産党独裁国家が「軍事・ハイテク分野での覇権」を握ることを阻止する、強い決意がありそうだ。米国で今年8月に成立した「国防権限法」と、機密情報を共有する「ファイブ・アイズ」の存在とは。中国排除の動きは民間企業にも広がりつつある。

 カナダ西部バンクーバーの裁判所は7日、中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の創業者の娘で、同社副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟容疑者の保釈の可否をめぐる審理を開いた。

孟晩舟容疑者

 カナダ検察当局は、孟容疑者が2009~14年に子会社のスカイコムを利用して、米国がイランに科している制裁を逃れた疑いがあると指摘。有罪なら禁錮30年以上の刑が科される可能性があるとした。

 今回の逮捕劇が、単なる「イラン制裁逃れ」で終わらないことは、世界中が認識している。

 ファーウェイの創業者は人民解放軍出身の任正非・最高経営責任者(CEO)であり、同社は「完全否定」しているものの、中国政府や情報当局との密接な関係が指摘されてきたからだ。

任正非

 中国の習近平国家主席は、国家戦略として「中国製造2025」を掲げている。米国の最先端のハイテク技術などを吸収して、25年までに中国を製造強国にするもので、トランプ政権は「中国の軍事的覇権に拍車をかける」と警戒している。

 米国が、この「ハイテク技術吸収の先兵」と受け止めているのが、ファーウェイであり、同じく中国通信機器大手「中興通訊(ZTE)」なのだ。中国が、第5世代(5G)移動通信システムで世界の主導権を握ろうとすることを断固阻止する構えといえる。

 トランプ大統領は今年8月、「近代史において、最も重要な投資だ」と語り、国防権限法案に署名し、同法が成立した。この法律は、ファーウェイやZTEなど、中国IT5社を「米国の安全保障上の脅威」と名指しし、米政府機関や米政府と取引のある企業・団体に対し、5社の製品を使うことを禁止している。

 まさに、「米中新冷戦」の一環であり、孟容疑者の逮捕は、米国による「事実上の宣戦布告」と受け止められなくもない。

 この「中国ハイテク排除」の動きは、米国の同盟国中心に広がっている。特に注目されるのが、米英両国を中心に情報機関の相互協定を結び、最高の機密情報を共有する「ファイブ・アイズ」(米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)の存在と動きだ。

 英秘密情報部(SIS、通称MI6)のアレックス・ヤンガー長官は3日、孟容疑者の逮捕が公表される前に行った講演で、「われわれの仲間が行っているように、中国政府と密接な関係にあるファーウェイの次世代高速通信システム(=5G)に依存すれば、情報網を危機にさらす危険がある。とりわけ軍事関連の通信を傍受されれば、戦略が筒抜けとなって安全保障上の脅威となる」と述べていた。

アレックス・ヤンガー長官

 米国とオーストラリア、ニュージーランドでは、すでにファーウェイ排除の動きが進んでいる。英国の通信大手グループも、5Gについてファーウェイ製品排除の方針を表明した。孟容疑者はカナダで逮捕された。

 日本は2013年に特定秘密保護法が成立したことで、米国などから防衛やスパイ、テロなど、安全保障に関わる機密情報が入るようになってきた。日本政府も7日までに、ファーウェイやZTEの排除方針を決めた。将来の「ファイブ・アイズ+1」もありそうだ。

 中国情報に精通するノンフィクション作家の河添恵子氏は「中国共産党は、ファーウェイとZTEを競争させながら、世界の覇権を握ろうとしている。これに対し、ファイブ・アイズを中心に『中国が、世界の移動通信システムの拠点を握ることを絶対に許さない』という強い方針がある。5Gの覇権を握られたら、政府の機能がダウンするぐらいのことをやられる可能性もある。いまや、『自由主義陣営vs中国共産党』という構図になっている。自由主義陣営は本気になり、不退転の決意で動いているだろう。中国の通信分野での『終わりの始まり』が見えてきたのではないか」と語っている。

【私の論評】現代のコミンテルン、中国の5G世界制覇を阻止せよ(゚д゚)!

すでにアメリカでは、8月の国防権限法の成立によって、米政府機関および米政府と取引がある企業でのファーウェイとZTEの機器の使用が禁じられるようになりした。ファーウェイの携帯にはバックドアが組み込まれ、個人情報が抜かれていることが明らかとなったからです。

トランプ大統領の安全保障チームは、今年1月に3年以内に政府による5Gのネットワークの構築を検討するとしていました。中国の諜報活動に対抗するために、AT &T、ベライゾン、Tモバイルなどのモバイル通信会社の仕事を引き継ぐ形で行うといいます。

危惧されるインフラへのサイバー攻撃

日本政府は、日本の通信インフラに与える影響を考慮して、ファーウェイやZTEを規制すべきだが、対応は後手に回っています。

一方、アメリカは、議会を中心に着実な手を打ってきました。

最終的には外国投資委員会(CFIUS)によって阻止された3Comに対する買収案件に見られるような、ファーウェイの技術獲得を疑問視した米議員は、徹底的な調査を開始。6年前の2012年、米下院情報委員会は、その調査に基づく詳細なレポートを発表しています。

このレポートにおいて、とりわけ危惧されているのが、送電網など重要な社会基盤(インフラ)の通信を握られることです。

海外での事業収益が全体の6割を占めるファーウェイは、アメリカでの国防権限法の成立直前に、ロビー活動を展開。アメリカからファーウェイを排除すれば価格競争の制限となるため、消費者が不利になり、かつ、イノベーションも妨げると主張しました。

ところが、「安ければいいだろう」ということで、送電網にファーウェイの機器が使用されている場合、電気、ガス、金融機関、水道や鉄道など、サイバー攻撃を簡単に仕掛けられる危険と隣り合わせになります。9月に北海道で起きた地震の際の「停電パニック」を、中国は簡単に引き起こせるということです。

アメリカが国防権限法に基づいて成立させた対米投資強化法において、重要なインフラへの投資も規制の対象とするなど、商業の論理より、安全保障を優先したのはこのためです。

国防権限法成立以前の2017年12月、米上下両院の情報委員会のメンバーである議員がFCC(米連邦通信委員会)を通じ、AT&T社がファーウェイの携帯を顧客に提供することを断念させています。私企業の事業計画を、国民の安全保障を理由として変更させた事例として参考になります。

監視カメラ産業に群がる投資家たち

また、次世代の大容量通信を可能にする5Gが、監視カメラの顔認証技術などと結びつけば、監視社会がより一層強化されます。

現在のところ、中国政府は2020年までに6億2600万台の監視カメラを設置する予定です。

監視カメラの技術で有名なのが、中国のハイクビジョンとダーファ・テクノロジー。この2社で世界の監視カメラ市場のシェアの4割を超えます。

ハイクビジョンは、中国の治安当局に対し、「少数民族に属するかどうか」を判定する技術があるとして自社の製品を売り込んできました。新疆ウイグル自治区のウルムチで、3万台の監視カメラを設置する計画を受注するなどし、昨年だけで売上を30%伸ばしています。

ハイクビジョンに関しては、株式の4割を国有の軍需企業のCETCが保有するなど、中国共産党と密接な関係がある企業。2018年4月に米インテロス・ソルーションズが公表したレポートでも、ファーウェイやレノボとともにアメリカが警戒すべき企業の一つとして挙げられています。

しかし金融業界は、倫理的なリスクのある中国のテクノロジー企業を「買い」だと推奨し、間接的に一般の投資家たちを中国の人権弾圧に加担させています。投資家たちも知ってか知らずか、「人種主義」の片棒を担いでしまっているのです。

日本に目を転じれば、ソフトバンクがファーウェイと5Gの実証実験を行い、中国の5Gの規格化に手を貸しています。だがファーウェイが次世代通信規格の開発に成功すれば、ウイグル人等の弾圧、中国人の総監視社会の完成を間接的に支援することになります。

監視カメラと5Gがつくる全世界監視

それだけでないです。中国は、スマートシティを国内で構築し、そのネットワークを巨大経済圏構想「一帯一路」の沿線地域である東南アジアなどに輸出します。つまり中国の5G戦略は、中国の監視モデル体制の世界への輸出でもあるのです。

これは現代版コミンテルンともいえます。1919年にレーニンが発足させた共産党の国際組織であるコミンテルンは、全世界の共産主義化と全世界同時革命をその使命としました。実際大東亜戦争中には、米国の中枢、そうして日本の中枢にもソ連のスパイであるコミンテルンが深く浸透していて、日米戦争のきっかけを工作しました。現代は、それが5Gや監視カメラ、AIの技術によって可能となるのです。

第5回コミンテルン(共産主義インターナショナル)のプラカード。
1924年6月17日-7月8日 モスクワで行われた。

中国のスパイ進出の先進国ともなったオーストラリアでは、ファーウェイに対し、次世代通信規格である5Gを使った同国の無線ネットワークへの参入を禁止しました。第4世代(4G)では、5割超の通信設備にファーウェイを採用しているのにもかかわらず、です。

日本は中国の5G覇権を迎え撃つ戦略を持て

イギリス、オーストラリア、さらにロシアでも規制に向けて動き始めている。

10月12日付のロイター紙のスクープによると、中国の海外投資や国内工作に対抗するために、年初よりアングロサクソンの国際諜報同盟「ファイブ・アイズ」に日本とドイツとを加え、情報が共有されているといいます。

アングロサクソン圏では、早くから対中包囲網の構築の必要性が共有され、そこに日本もドイツも加わってほしいという要請があったと見て良いでしょう。

ところが、日本にはスパイ防止法がないために秘密保全の措置がまだ不十分です。一刻も早くスパイ防止法を制定する必要があります。

さらに中国のサイバー攻撃から国民を守るためにも、中国製の監視カメラや次世代通信規格を日本の産業から排除すべきです。

先にも述べたように米通信大手AT&TはFCCの警告を受け、ファーウェイの携帯を顧客に提供するのを断念しています。日本も、「国民の安全」を守るために、政府が私企業の事業計画を変更させることも視野に入れるべきです。

日本は、来年からポスト5G の研究開発に乗り出すといいます。欧米諸国と協調しつつ、6Gで中国を迎え撃つ戦略が急務となります。

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2018年12月6日木曜日

【コラム】文大統領専用機はなぜ米国で給油できなかったのか―【私の論評】文在寅は、米国による北朝鮮制裁の韓国への厳格な適用の事実を隠蔽しようとした?


朝鮮日報

チェコを訪問した文大統領

文在寅(ムン・ジェイン)大統領はチェコ・アルゼンチン・ニュージーランドの3カ国を訪問し、おととい夜帰国した。8日間にわたる海外歴訪だ。アルゼンチンは韓国のちょうど地球の裏側に当たる位置にある。これを対蹠点という。韓国から地球の中心に向かって井戸を最後まで掘っていくと、アルゼンチンに達する。

 ところが、1つ謎がある。文大統領はなぜチェコに行ったのだろうか。あいにくチェコには同国の大統領もいなかった。あるじのいない家に客が立ち寄ったのだ。あるじのいない家になぜ行ったのか。当初は、文大統領のチェコ訪問目的は「原発セールス」だと言っていたが、後に「原発は議題ではない」と言葉を翻した。苦しいことこの上ない。チェコ大統領はいなかったので当然会えず、代わりに首相に会ったが、それもチェコ側が要請して「非公式面談」として処理された。あるじのいない家に招待状もなく立ち寄ったので、公式の外交記録に残すのはやめようという意味だ。その過程で、文大統領歴訪のニュースを伝える韓国外交部(省に相当)公式英文ツイッターに、チェコを26年前の国名「チェコスロバキア」と誤記する恥までかいた。

 右往左往しながら言葉を翻したあげく、政府はついに「専用機の中間給油のため」と言った。文大統領専用機の空軍1号機は油を入れる場所がなくて、あえてチェコに行かなければならなかったのだろうか。当初は給油地として米ロサンゼルスを検討したが、直前にチェコに変えた。もしそうなら、文大統領が乗った空軍1号機は米国に着陸できない事情でもあるのだろうか。本紙社説も「本当に公表できない極秘の事情でもあったのか非常に気になるところだ」と書いている。

 では、文大統領と空軍1号機はなぜチェコに行ったのか。最大野党「自由韓国党」の洪準杓(ホン・ジュンピョ)前代表は次のように語った。「北朝鮮は首脳会談をタダでしたことがない。DJ(金大中〈キム・デジュン〉元大統領)の時もそうだったし、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の時もそうだった。MB(李明博〈イ。ミョンバク〉元大統領)も2億ドル(現在のレートで226億円)を要求され、MBが首脳会談を断念したことがあった。(文大統領は)先日送ったミカン箱の中に入っているのはミカンだけだろうか? (金正恩〈キム・ジョンウン〉朝鮮労働党委員長の叔父)金平一(キム・ヨンイル)が大使として駐在しているチェコに行ったのはなぜだろうか? 給油が目的だったと言っているが、それは正反対の飛行ルートではないのか?」

 すると、保守系野党・正しい未来党の李俊錫(イ・ジュンソク)最高委員が洪準杓前代表を批判した。「地球が丸いということを理解できていないある政治家が的外れなあら探しをした」というのだ。李俊錫最高委員は、仁川国際空港からチェコのプラハを経由してアルゼンチンのブエノスアイレスに行った場合は距離が2万75キロメートル、仁川空港から直接ブエノスアイレスに行った場合は1万9484キロメートルなので、500キロメートルほどしか差がないと言った。だから、「正反対の飛行ルート」という洪準杓前代表の発言は「的外れ」と言ったのだ。

 それなら、本当に文大統領が乗った空軍1号機はなぜチェコに行ったのか。トランプ大統領が乗る米大統領専用機は米空軍所属だ。管制塔コールサインも「エアフォースワン」だ。機長は空軍大佐で、乗務員も米空軍に所属している。トランプ大統領が乗る米大統領専用機は軍用機なので、海外歴訪時は米空軍基地に着陸する。シンガポールで行われた米朝首脳会談の時、金正恩委員長が乗ったエアチャイナは民間航空機なので民間国際空港のチャンギ空港に着陸し、トランプ大統領が乗ったエアフォースワンは空軍機なので軍事空港のパヤレバー空軍基地に着陸した。

 トランプ大統領が乗るエアフォースワンが米空軍機なのに対し、文大統領が乗る大韓民国空軍1号機は言葉こそ「空軍1号機」だが、実際には軍用機ではなく、民間から賃借したチャーター機だ。文大統領専用機は民間航空機なのだ。朴槿恵(パク・クネ)大統領が2014年末に大韓航空から1421億ウォン(現在のレートで約144億円)で5年間借りたものを文大統領がずっと使っている。ほぼ唯一、積弊(前政権の弊害)清算リストに載っていないのがこの「朴槿恵専用機」だ。文大統領専用機は管制塔コールサインも「エアフォースワン」ではなく、ただの「コードワン」だ。民間航空機だからだ。ならば、今年9月に北朝鮮の平壌に行った民間航空機・文大統領の「コードワン」はそれから6カ月間、米国に入国できない「制裁」に引っかかっているのではないか、という合理的な疑問が生じる。

民間航空機・文大統領の「コードワン」と同型機

 今年7月の南北統一バスケットボール競技大会に参加するため、韓国の選手たちが北朝鮮に行った時、空軍輸送機C-130Hに乗って行った。韓国のバスケットボール選手があえて軍用機に乗って行った理由は、民間機が北朝鮮を往復すればすぐに国際社会の対北朝鮮制裁に引っかかるからだった。

 さあ、韓国の当局者は答えなければならない。文大統領専用機、つまり民間機「コードワン」が米ロサンゼルスで給油せずにチェコで給油したのは、対北朝鮮制裁違反で米国に入国できなかったためではないのか。それとも別の理由があるのか。

キム・グァンイル論説委員

【私の論評】文在寅は、米国による北朝鮮制裁の韓国への厳格な適用の事実を隠蔽しようとした?

文大統領の外遊日程は先月27日から5泊8日でチェコ、アルゼンチンのG20首脳会議、最後にニュージーランド訪問でしたが、文大統領がG20首脳会議前になぜチェコを訪問したかで韓国メディアは騒いでいます。

ちなみに、文大統領がニュージーランドを訪問したときに、迎えたのは、首相でも、長官でもなく「海軍中佐」 だったというおまけもついてしまいました。

ニュージーランドを訪問した文大統領。迎えたのは、
首相でも、長官でもなく「海軍中佐」だった。

韓国中央日報や朝鮮日報は「文在寅大統領はG20首脳会議に出席するためアルゼンチンに向かう途中チェコに立ち寄ったが、これについて疑惑がいまだに収まらない」と報じています。

そこで文大統領のチェコ訪問に関わる疑問点を整理します。
①文大統領の訪問のチェコ側のホストはプロトコール上、ミロシュ・ゼマン大統領だが、同大統領はイスラエルを国賓訪問中で、文大統領がプラハ入りした時は不在だった。そのため、文大統領は28日、チェコではアンドレイ・バビシュ首相と会談している。 
②韓国政府は米ロサンゼルスで大統領専用機の給油をすると発表したが、10月中旬、急きょ変更され、給油目的のためチェコを訪問することになった。 
③韓国側は文大統領とチェコ首相との会談を「会談ではなく、面会」と説明してきたが、チェコ側の要請を受けて「非公式な面会」となった。両国間で訪問の綿密な準備がなかったことが伺える。 
④チェコ訪問の目的は政府の説明では「原発セールス」だったが、韓国大統領府は「原発は全く議題ではなかった」と弁明するなど、関係者の説明がコロコロ変更している。中央日報の先月29日報道では文大統領は韓国の原発の安全性をアピールしたという記事を流している。

韓国外務省は大統領のチェコ訪問を公表する時、チェコを旧名「チェコスロバキア」と表記するなど、初歩的外交ミスを犯しています。この記事の冒頭の朝鮮日報3日付の社説は「文大統領のチェコ訪問は本当に給油が目的だったのか」と報じ、疑惑視しているほどです。

一国の大統領の外国訪問でこれほど杜撰(ずさん)な準備は考えられないです。文大統領のチェコ訪問には「何かある!?」と韓国メディアが考えても可笑しくはないです。

そこで文大統領のチェコ訪問の「ナゾ」を考えてみました。直ぐに頭に浮かぶことは、チェコの首都プラハには文大統領の南北首脳会談の相手、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の叔父、金平一氏が北大使として赴任しているという事実です。

金平一大使(64)は故金日成主席と金聖愛夫人の間の長男で、金正恩氏の父親、故金正日総書記とは異母兄弟です。その上、政敵でもあったため、金大使は平壌の中央政界から追放され、欧州各地を転々とする外交官となりました。金大使の外交官キャリアは1982年、駐ユーゴスラビア武官時代から始まり、駐ハンガリー大使、駐ブルガリア大使、駐フィンランド大使、そして1998年から17年間余り駐ポーランド大使を務めた後、2015年から駐チェコ大使です。

金平一氏

すなわち、文大統領は金正恩氏の親戚が住んでいるチェコを急きょ、訪問したことになります。少なくとも、10月中旬までは予定ではありませんでした。給油地を変更し、ホスト国の大統領不在中という外交上異例の時、チェコを訪問しました。それほどチェコを訪問しなければならない理由が文大統領にあったことになります。

文大統領の金正淑夫人がプラハ城を見学中、文大統領は単独行動を取っています。そこで大胆に推測しました。文大統領は金平一大使とプラハ市内ないしはホテルで密かに会合したのではないでしょうか。目的は、①金正恩氏に依頼され、そのメッセージを伝言するか、②金大使を南北融和路線に加え、朝鮮半島の再統一を話し合うことでした。

①は非現実的ですが、問題は少ない、②は金正恩氏を困惑させるでしょうしし、ひょっとしたら、金正恩氏を激怒させるかもしれないです。

ちなみに、②は金平一大使を北朝鮮の暫定指導者にするといったラジカルなシナリオも考えられます。換言すれば、文大統領は金正恩氏の報道官ではなく、独自の南北再統一構想を描き、その線で動いているということになります。

この記事の冒頭の朝鮮日報の記事で、「今年9月に北朝鮮の平壌に行った民間航空機・文大統領の「コードワン」はそれから6カ月間、米国に入国できない「制裁」に引っかかっているのではないか、という合理的な疑問が生じる」とあります。

そこで、米国の北朝鮮に対する独自制裁について調べてみました。米国版のWikipediaを調べると、以下の記事がありました。
Sanctions against North Korea
この記事の中に以下のような文書がありました。
Also any aircraft or ship upon entering North Korea is banned for 180 days from entering the United States.
これを訳すと、「北朝鮮に入ったいかなる航空機も船舶も、180日間米国に入国できない」です。これによれば、民間であろうが、軍用機であろうが、北朝鮮に入った航空機は、180日間米国に入国できないことになります。

確かに、このような制裁が存在するのです。

平昌オリンピックでの北朝鮮選手団の移動には、韓国の民間航空会社アシアナ航空のチャーター便が使われました。そのためアシアナ航空がアメリカの独自制裁の対象になる恐れが指摘されましたが、韓国政府が側と事前に調整し、今回に限り認められました。

今回の文大統領のチェコ訪問が、米国の制裁にひっかかっためチェコで給油のためと仮定したとして、おそらく韓国政府は今回も米国側と事前に協議して、これを認めて貰おうとしたのですが、直前だったため調整が不可能だったのか、あるいは米国側が意図的にこれを認めなかったのかいずれかだと考えられます。そうして、私は後者のほうが可能性が高いと思います。

私としては、文大統領が金平一大使と密かに面談したという説よりも、こちらのほうがより筋が通ると思います。

現在、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は悪の帝国の一画である北朝鮮の番犬になり下がり、制裁破りともとられかねない言動を繰り返しています。トランプ大統領は北朝鮮を手なずけようとしているのですが、「しつけ」をしている最中に、横からエサを放り投げられたら激怒するのも当然です。韓国の銀行や企業に対して米国が制裁を発動する日も近いのではないでしょうか。これは、その前触れなのではないかと思います。

私は、米国との調整がうまく行かなかったので、焦った文大統領は、代替の他の給油地を探したのでしょうが、その時にチェコが浮かんだのではないかと思います。
他ならぬチェコに行けば、北朝鮮の大使である金平一大使がいるので、何やらそれに関係した動きととられ、まさか米国の制裁にひっかかったとは思われないだろうと、世間体を考えて姑息な皮算用をしたのではないかと思います。そうだとしたら、最悪というか醜悪です。

朝鮮日報の記事も本当は、これを言いたかったのではないでしょうか。ただし、韓国は言論の自由があるようで、ないというのが実情ですから、言えなかったのでしょう。
やはり、米国は意図的に文大統領を米国内に入れなかったのだと思います。北朝鮮制裁を厳格に適用し、いずれこのような制裁が続く可能性を示唆したのだと思います。そうして、このやり方はなかなか良い方法だと思います。日本も、慰安婦問題や徴用工問題で、韓国に対してまずはこのような方式で、韓国に接するべきだと思います。その後徐々に圧力を強めていくという方式が良いと思います。
いずれにしても、文大統領のチェコ訪問の「ナゾ」は、朝鮮半島の政情が動いていく中で次第に解けていくことでしょう。

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2018年12月5日水曜日

米国から飛び込んできた日本人拉致事件への朗報―【私の論評】年明け早々「安倍首相の電撃訪朝」というニュースが飛び込んでくるかもしれない(゚д゚)!

米国から飛び込んできた日本人拉致事件への朗報
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北朝鮮に拉致された米国人青年、トランプ政権が本格調査開始へ



 米国の議会と政府が、北朝鮮による米国人拉致疑惑の解明に動く気配をみせている。日本人拉致の解決に向けて意外な側面支援となりそうな新たな状況が生まれてきた。

 米国議会上院本会議は2018年11月末、中国雲南省で14年前に失踪した米国人男性が北朝鮮に拉致され、平壌で英語の教師をさせられている疑いが強いとして、米国政府機関に徹底調査を求める決議を全会一致で採択した。下院でも同様の趣旨の決議がすでに成立している。今回の上院での決議によって、トランプ政権が北朝鮮による米国人拉致疑惑の解明に本格的に動く見通しが生まれてきた。

デービッド・スネドン氏が消息を絶った中国雲南省の虎跳峡(

 この米国人男性の失踪は、北朝鮮による日本人拉致事件とも関連しているとされる。米国での今回の新たな動きは日米合同の捜査も求めていることから、日本の拉致事件解決への予期せぬ側面支援となる可能性が浮んできた。

スネドン氏は今も拘束されている?

 米国連邦議会上院本会議は11月29日、「デービッド・スネドン氏の失踪への懸念表明」と題する決議案を全会一致で採択した。

 同決議案は上院のマイク・リー議員(共和党)やクーンズ・クリストファー議員(民主党)ら合計9人により共同提案され、今年(2018年)2月に上院外交委員会に提出されていた。今回、その決議案が上院本会議で採決に付され、可決された。

 2004年8月、当時24歳だったスネドン氏は中国の雲南省を旅行中に消息不明となった。同決議によると、スネドン氏は、当時、雲南省内で脱北者や北朝鮮の人権弾圧に抗議する米人活動家を追っていた北朝鮮政府工作員によって身柄を拘束されて平壌に連行され、北朝鮮の軍や情報機関の要員に英語を教えさせられている疑いが濃厚だという。そのうえで同決議は、トランプ政権の国務省や中央情報局(CIA)などの関連機関に、徹底した調査の実施を求めている。

 スネドン氏は韓国に2年ほど留学した後の帰国途中、中国を旅行し、雲南省の名勝の虎跳渓で行方不明となった。当初、中国当局は同氏の家族らからの問い合わせに対し、同氏が渓谷に落ちたと答えていた。だがその後、家族の現地調査でスネドン氏は渓谷を渡り終えていたことが確認された。

 また、日本の拉致問題の「救う会」は、中国側から「当時、雲南省の同地域では北朝鮮工作員が脱北者などの拘束のために暗躍しており、米国人青年も拉致した」という情報を得ていた。その情報をスネドン家などに提供したことで、北朝鮮拉致疑惑が一気に高まった。

 決議案はこの展開を受けて提出されていた。米国務省は決定的な証拠がないと主張してこの案件に消極的だったが、今回の同決議の採択で本格調査を義務づけられることとなる。

 同決議は、スネドン氏が北朝鮮に拉致され、今なお拘束されている公算が高いと断定する。その主な根拠は以下の通りである。

(1)中国領内では同氏の事故や死亡を示す証拠は皆無だった。
(2)失踪当時、北朝鮮工作員の雲南省内同地域での活動が確認された。
(3)日本の「救う会」関係者が「スネドン氏は確実に北朝鮮工作員に拉致され、平壌に連行された」という情報を中国公安筋から得た。
(4)北朝鮮では当時、軍や情報機関の要員に英語を教えていた元米軍人のチャールズ・ジェンキンス氏が出国したばかりで、新しい英語教師を必要としていた──など。

 2016年には、「スネドン氏は平壌で現地女性と結婚して2児の父となり、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を含む要人らに英語を教えている」という証言が韓国から伝えられ、米国のメディアもスネドン氏拉致説を一斉に報道していた。

調査が進まなかったオバマ政権時代

 今回の上院決議は拘束力こそないが、国務省やCIAをはじめとする関係省庁がスネドン氏の行方の本格調査を実施することや、日本や韓国の政府と協力し合って北朝鮮のスネドン氏拉致の可能性について合同調査を始めることを、米国政府に明確に求めていた。

 米国議会ではオバマ政権下の2016年9月に、下院本会議がスネドン氏の北朝鮮拉致説に関連して同趣旨の決議を採択した。しかし、当時はオバマ政権の中国への配慮などからスネドン氏の行方調査が実際には進まなかった。

 この間、日本側では元拉致問題担当相の古屋圭司衆院議員が、米側上下両院に決議案の提出と採択を一貫して訴えてきた。古屋議員は、超大国である米国が自国民の北朝鮮による拉致の可能性を認識し、その行方調査を本格的に始めれば、必ずや日本人の拉致事件の解決にも有力な材料になると主張して、米議会が動くよう働きかけてきた。

 今回の上院での決議採択は、上下両院がそろって同趣旨の決議を採用したこととなる。トランプ政権がついに腰を上げる確率が高くなってきた。

【私の論評】年明け早々「安倍首相の電撃訪朝」というニュースが飛び込んでくるかもしれない(゚д゚)!

8月28日付の米紙ワシントン・ポストは、7月に日本と北朝鮮の当局者がベトナムで極秘会談を行ったと報じました。これに関しては、このブログでもお伝えしました。この会談は米国にも秘密にされていたとのことで、トランプ米大統領は安倍晋三首相に対して非常に立腹しているらしいとされていました。

トランプ氏は米朝首脳会談で日本人拉致問題に言及したと言っているから、「日本が北朝鮮と抜け駆けするのはけしからん」という理屈なのでしょうが、米メディアの報道によると、トランプ氏は金正恩朝鮮労働党委員長に「安倍が『日本人拉致被害者を返してくれるよう、金委員長に言ってください』と私に泣きついているんだ」という程度しか触れていないというのですから、日本が本気で拉致被害者を取り返すには北朝鮮との直接交渉するしかないです。日朝当局者の秘密接触は当然のことです。

問題は首相官邸などごくわずかの人間しか知り得ない極秘情報を、誰がワシントン・ポストの記者に漏らしたかです。同紙の記事を読むと、ニュースソースとして「北朝鮮問題に詳しい人」という漠然とした表現を使っています。また、「米政府高官(複数)」が日朝の秘密協議について「苛立ちをあらわにした」と書いているので、日本側が意図的に複数の米政府高官に情報をリークしたのは間違いないでしょう。

北村滋内閣情報官

日本政府を代表して交渉に臨んだのは、安倍首相の側近中の側近といわれる北村滋内閣情報官ですが、彼は北朝鮮の専門家ではありません。本来ならば、北朝鮮問題のエキスパートである外務省担当者、あるいは高官が北朝鮮当局者と接触すべきところですが、外務省ルートが機能しないことから、北村氏が出てきたとみるべきでしょう。読売新聞は今年6月、外務省が動かないため、安倍首相が北村情報官を主軸とする情報担当者を通じ、北朝鮮との接触を模索していると報じています。

それを裏付けるように、北村氏が接触した相手が北朝鮮の情報機関といわれる朝鮮労働党統一戦線部の金聖恵(キム・ソンヘ)策略室長だったことも、外務省関係者が外された理由とみられます。このため、なんらかのかたちで、この秘密接触の情報を入手した外務省関係者が北村・金接触をつぶそうとして、旧知の米政府高官にリークした可能性も考えられます。



それでは、金聖恵氏とはどのような人物なのでしょうか。

韓国メディアによると、金日成(キム・イルソン)総合大学出身とされる50代のエリート官僚で、南北閣僚級会談など「対南(韓国)交渉」に長く関わっており、「いつも自信満々」「柔らかく落ち着いた言動が普通の人ではない印象」とされています。

金聖恵氏

統一戦線部はCIA(米国中央情報局)とともに、米朝首脳会談への事前交渉を主導した工作機関であり、同部トップの部長はポンぺオ米国務長官のカウンターパートである金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長であることから考えると、金聖恵氏は同部ナンバー2の実務責任者で、金正恩氏の妹の金与正・党副部長の側近ともされます。

金聖恵氏の対外的肩書は党中央員会室長ですが、裏の肩書が統一戦線部策略室長であり、2013年には祖国平和統一委員会書記局部長という肩書で紹介されるなど、これまでは主に対韓、統一部門を担当してきたのですが、ここにきて対米、対日部門にも責任分野が拡大したとみてよさそうです。

いずれにしても、金正恩指導部を支える有力幹部といえ、北朝鮮の女性指導者としては、金氏の妻の李雪主氏、金与正氏、外務官僚としては崔善姫・外務次官とならんで4本柱の一角を占めているといえそうです。

それでは、北村・金接触を受けて日朝関係はどうなるのでしょうか。両者がベトナムで接触したのが7月14日午後から17日午前の間だったとみられます。というのも、北村氏はほぼ毎日、官邸などで安倍首相と会っているのですが、この期間は安倍首相とは接触していないからです。ちなみに、北村氏は17日午後に官邸で安倍首相と会っています。時事通信の首相動静では次のようになっていました。

「午後2時45分、谷内正太郎国家安全保障局長、北村滋内閣情報官、浦田啓一公安調査庁次長が入った。同56分、谷内、浦田両氏が出た。同3時25分、北村氏が出た」

日本の重要な情報関係者3人が雁首をそろえて、安倍首相に会いに行っているのですから、よほど重要な案件であることは間違いないです。つまり、北村氏が上司に当たる谷内氏、部下の浦田氏とともに、北村氏の対北接触の報告を行ったとみることができます。

その後、8月10日に観光ツアーで北京から空路で平壌入りした日本人男性が北朝鮮の秘密警察組織である国家保衛省要員に拘束されましたが、その2週間後に電撃的に釈放されています。わずか2週間で釈放というのはこれまでで最短期間です。以前には日本人男性が2年間も拘束されていたこともあっただけに、極めて異例の措置といえます。

なぜ釈放されたのかを考えると、日朝の秘密接触が今も継続中であり、北朝鮮が「日本側を刺激するとまずい」という判断を下したとの推論が成り立ちます。そう考えると、日朝交渉は水面下で続いているのは間違いないです。

拉致問題に関しては、他にも動きがあります。それは、モンゴルのフレルスフ首相が日本を来週訪れ、安倍晋三首相と会談する方向で調整に入ったことです。

モンゴルの第30代首相フレルスフ氏

モンゴルは北朝鮮と関係が深いです。安倍首相は日本人拉致問題の早期解決に向けた協力を要請する考えです。両国外交筋が5日、明らかにしました。

安倍首相はモンゴルに拉致問題を巡る仲介役を期待。9月にロシアで国際会議に出席した際にはバトトルガ大統領と会談し、連携を確認しました。ハイレベルの対話を重ねることで、北朝鮮への働き掛けや情報収集を強化する狙いがあります。

さて、2019年初頭にも2度目の米朝首脳会談が実現する可能性が高まるなか、拉致問題解決に向けた日朝首脳会談の道筋は見えないままです

それどころか、北朝鮮メディアは相次いで日本批判を展開しており、慰安婦問題などを引き合いに、日本を「拉致王国」呼ばわりするほどです。

北朝鮮がやり玉に上げているのは、日本が国際社会に対し拉致問題解決に向けた協力を求めている点です。朝鮮労働党の機関紙、労働新聞は18年12月2日付の論評記事で、安倍晋三首相が東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議のためにシンガポールを訪問した際、ASEAN首脳に対して協力を求めたことについて、
「日本軍性奴隷犯罪をはじめ、過去の日本の特大反人倫犯罪行為を上書きしようという卑劣な策略」

などと非難。朝鮮出兵として知られる文禄・慶長の役(1592~93、1597~98)、大韓帝国最後の皇太子、李垠(リ・ウン、1897~1970)の訪日、慰安婦問題などを引き合いに、
「世界的に公認された特大型の拉致犯罪国家は、まさに日本だ」
などと主張した。さらに、
「日本の当局者が、すでに解決された拉致問題を持ち出して卑屈な請託外交を繰り広げていることこそ、盗人猛々しい妄動」
だとして、「拉致問題は解決済み」だとするこれまでの立場を繰り返し、
「国際社会は、拉致王国である日本の図々しさに憤怒を感じている」
としました。

12月4日付の論評記事では、15年末の慰安婦合意に基づいて設立された財団の解散について、「南朝鮮の各階層は、これを一斉に歓迎」しているとして、韓国は合意を「完全に廃棄」すべきだと主張。「日本の永遠の罪を決算するための闘争をさらに果敢に展開」すべきだとした。

菅義偉官房長官は12月3日の会見で、米朝首脳会談が日朝首脳会談の実現に与える影響について聞かれ、
「日朝首脳会談については、その時期を含め、決まっていることは何もない。北朝鮮との間では、北京の大使館ルート等、様々な手段を通じてやり取りを行っているが、今後の交渉に影響を及ぼすおそれがあるため、詳細については控えたい」
などと述べるにとどめました。

このようなことは、北朝鮮では良くあることです。第一回米朝会談の直前にもあったことです。トランプ氏はこれに応酬し、「金正恩はチビのロケットマン」などと揶揄していました。このようなことでは、米朝会談が開催されないなどということはありませんでした。

というより、北朝鮮側が日朝首脳会談など全く考えていないというのなら、余計な期待を与えたりしないように、沈黙を保つはすです。北としては、拉致被害者問題を少しでも自らに有利にするため、敢えて罵詈雑言を放っているのでしょう。

ある日突然「安倍首相の電撃訪朝」というニュースが飛び込んでくるかもしれないです。

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2018年12月4日火曜日

国民の理解得られる対中防衛「2つの秘策」 トランプ氏の影響で防衛費GDP1%超―【私の論評】日本のあるべき防衛論を組み立て、それに見合った防衛予算を組め(゚д゚)!

国民の理解得られる対中防衛「2つの秘策」 トランプ氏の影響で防衛費GDP1%超

永田町・霞が関インサイド

海上自衛隊最大のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」

安倍晋三政権は12月中旬、新しい「防衛計画の大綱」(防衛大綱)を閣議決定する。日本を取り巻く東アジア情勢の激変に基づくもので、5年ぶりである。これに伴い、防衛装備品などの導入計画「中期防衛力整備計画」(中期防)も大きく見直される。

 それだけではない。これまで日本政府が防衛費を国内総生産(GDP)比で1%以内に収めてきた「原則」も変更する。防衛費とは、防衛装備品の取得費や自衛隊の人件費など、防衛省が所管する予算のことである。

 これにも、実はドナルド・トランプ米大統領の存在が影響している。トランプ氏はこの間、フランスや英国、ドイツなど、北大西洋条約機構(NATO)の主要加盟国に対し、繰り返し防衛費の増額を求めてきた。

 ちなみに、2017年度の米国の防衛費6100億ドル(約69兆1600億円)はGDP比3・1%に対し、フランスの578億ドル(約6兆5500億円)は同2・3%、英国の472億ドル(約5兆3500億円)は同1・8%、ドイツの443億ドル(約5兆200億円)は同1・2%。

 日本は5兆1911億円の0・92%(18年度)であり、トランプ氏が求める「応分の負担」の対象国になっている。つまり、防衛省所管以外の旧軍人遺族らの恩給費や国連平和維持活動(PKO)分担金などを合算して、NATO基準にするということである。これでGDP比1%超となり、安倍首相はトランプ氏に顔が立つ。

 これだけではない。防衛大綱の閣議決定を経て19~23年度の中期防に超高額な防衛装備品の取得方針を盛り込む。

その目玉が、米ロッキード・マーチン社の最新鋭ステルス戦闘機「F35」の購入だ。それも半端ない数である。これまでに導入が決まった42機に加えて、1機100億円超を100機追加購入するというのだ。総額1兆5000億円に達する。これもまた、トランプ政権が強く求める対日貿易赤字解消を念頭に置いたものだ。

 新防衛大綱と次期中期防は、トランプ氏のために策定するのではと勘繰りたくなる。それはともかく、筆者が注目する防衛装備品が2つある。

 1つは最新の早期警戒機「E2D」(ノースロップ・グラマン社)の9機導入。中国が配備した最新ステルス戦闘機「J20」を意識したものだ。

 2つ目は、産経新聞が報じた「中国空母2020年末にも進水-国産2隻目、電磁式射出機を導入」に関係する。海上自衛隊のヘリ搭載型護衛艦「いずも」の空母化を新防衛大綱に明記することである。この2つは国民の理解が得られるはずだ。(ジャーナリスト・歳川隆雄)

【私の論評】日本のあるべき防衛論を組み立て、それに見合った防衛予算を組め(゚д゚)!

防衛費に関しては、他国との相対的な要素が強い点が大きいことに留意しなければならないです。一国の防衛費が増加したからといって、その周辺国との比較の上で、その増加がどういう意味を持つのかを考える必要があります。そこで防衛費の質的な比較・検討が重要となるが、まずは防衛費の総額そのものを主眼において解説します。

防衛費の総額といっても、各国の防衛費の考え方や組織の違いもあり、単純な比較が難しいです。例えば、中国で公表されている防衛費には、技術開発関連の費用は含まれていないとされている。また、現在の日本では、海上の警備・水路業務は海上保安庁が担当しているが、独自の沿岸警備隊を有さず海軍がその職務を行っている国もあり、そうした国々とは単純に比べることはできないです。

そこで、国際紛争研究で著名なストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が集計・公開しているデータベースを用いて、日本周辺国の防衛費の20年分(1997年~2016年)の推移を見ていこう。SIPRIのデータを元に、日本、中国、韓国、台湾、ロシアといった日本周辺国(北朝鮮はデータ無しなので除外)の防衛費の推移をグラフ化したものを以下に掲載します。

出典:SIPRI Military Expenditure Database

一見して明らかなのは、2000年代に入ってから中国の防衛費が各国を引き離していることと、韓国・ロシアの増加傾向、そして日本・台湾の横ばい傾向です。1990年代の一時期、日本はアメリカに次ぐ世界2位の防衛費であった時期もあったのですが、今や周辺国の間では中程度と言っても良いです。

今や、経済成長を背景に中国の防衛費が周辺国を圧倒している状況にあります。周辺国の増加ペースを遥かに超えており、2016年の段階で日本の防衛費の5倍以上になっています。昨年の防衛費から1%程度増えて過去最大と騒がれる日本の状況とは、天と地ほどの開きがあるかもしれないです。

残念ながら上のグラフでは中国の伸びが他国を引き離しすぎて、中国以外の伸びが分かりにくいです。そこで、中国を除外した各国のグラフを見てみます。

出典:SIPRI Military Expenditure Database

1990年代に防衛費が大きく落ち込んでいたロシアは、原油高を背景とした経済立て直しにより持ち直し、2000年代後期には日本を抜いています。また、韓国も右肩上がりの増加を続けており、日本の防衛費を抜くのは時間の問題です。

韓国の防衛費が日本を上回ることは、多くの人に意外性を持って受け止められるかもしれないです。しかし、これはある意味必然なのです。この20年間、日本のGDPに占める防衛費の割合は1%で推移しており、同じく韓国のGDPに占める防衛費の割合は2%台で推移しています。

その他、韓国とロシアについては、もう一つ意外な側面があります。それは、韓国のGDPは東京都と同程度ということです。ロシアのGDPは韓国を少し下回る程度です。

ロシアは例外としても、GDPが東京都程度の韓国の防衛費が、日本のそれを上回る日も近いかもしれないという事実は多くの人々にとって衝撃的だと思います。

一方、「失われた20年」と呼ばれる経済停滞の真っ只中にあった日本に対し、韓国は経済危機を経たものの成長を続けています。今後、日本の経済が停滞しGDPが伸び悩む中、日本の防衛費の支出割合が変わらない以上、韓国のGDPが日本の4割近くに達した時点で、韓国が日本の防衛費を抜くのは必然なのです。

恐らく、このペースでいけば、10年以内に韓国が日本の防衛費を抜くことは十分に考えられることでしょう。結局のところ、日本が抱える多くの問題と同様に、日本の経済停滞に根本要因があります。「過去最大の防衛費」とはいいつつも、実態としては日本の相対的な退潮を示していると見ることもできます。

日本の防衛費の個々の項目を見てみます。

本年3月28日、参院本会議で平成30年度予算が可決・成立しました。この予算に関するマスメディアの報道を見ると、過去最大の97兆7000億円にものぼる一般会計総額とともに、陸上設置型ミサイル防衛システムのイージス・アショアや長距離巡航ミサイルの取得費が計上され、過去最大となる5兆1911億円となった防衛費に言及がされていることが多いです。

この防衛費の中でも新規に行われる事業として目新しいものは、多様な任務に対応しつつコンパクト化を両立させた3,900トンの新型護衛艦2隻の建造(992億円)、イージス艦に搭載する新型対空ミサイルのスタンダードSM-6の試験弾の購入(21億円)、長距離を飛翔する巡航ミサイルであるスタンド・オフ・ミサイルの導入(22億円)、将来の経空脅威・弾道ミサイルに対応する次期警戒管制レーダ装置の開発(87億円)などがあります。

ここで、新規事業の中で主だったものをリスト化してみます。


こうして改めて新規事業とその費用を見てみると、メディアで注目されたイージス・アショアや長距離巡航ミサイル導入が今年度予算に与えた影響自体は実は小さく、金額だけ見れば新型護衛艦2隻の金額が大きいです。しかし、組織別に見れば海上自衛隊の今年度予算は29年度予算より減額しています。新規事業全体を見ると、今年度以降に大きな出費を伴うものもありますが、今年度予算に与えるインパクトはそれほどでもありません。

今年度の防衛予算を見渡すと、従来からのミサイル防衛・島嶼防衛の重点化が継続していると言えます。イージス・アショアやスタンド・オフ・ミサイルなど、具体的な装備品の名前が出ただけで、実質的には従来路線のままといえるでしょう。

一方で、重要項目とは言われつつも、2年連続で減額された項目があります。それがサイバー関連経費です。29年度に124億円だったサイバー関連経費は、今年度は110億円に減少しています。大幅な増額があった28年度は監視機材・分析装置といった費用のかかる機材整備が行われたのですが、それが落ち着いた29年度の減額はまだ理解できるものでした。しかし、今年度も引き続き減額になった点は解せないです。

今年度はサイバー防衛隊の隊員を110名から150名へ増員する計画である。その一方、北朝鮮でサイバー戦に携わる兵士は2016年の推計で6,800人を超え、近い将来1万人に達するとみられている。実際、北朝鮮が関与しているとみられるサイバー攻撃が世界で相次いで発生している中、日本のサイバーの分野の取り組みが明らかに遅れてはいまいか。

今年度の防衛予算をめぐる報道を見ても、イージス・アショアのような目で見える・実態のあるものに注目が集まりやすい。だが、目に見えない部分での戦いが深刻化している今、目に見えない部分がもっと注目されてもいいと思うのですが・・・・・。

さて、来年以降の防衛予算についても掲載しておきます。

財務省は24日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会を開き、平成31~35年度の5年間の中期防衛力整備計画(中期防)について、調達改革によるコスト削減の推進を提案しました。5年間で最低でも1兆円の削減が可能だとみています。北朝鮮による弾道ミサイルの脅威などを受け、第2次安倍晋三政権発足後の25年度以降、毎年度増加を続けている防衛費ですが、無駄の排除や効率化の徹底でさらなる財源を捻出するとしています。

中期防は防衛力の整備、維持、運用に関する基本指針「防衛大綱」に基づき5年ごとに部隊規模や経費を明示するものです。政府は年末までに、31年度からの計画を策定します。 

26~30年度の中期防でも5年で計7千億円のコスト削減を行う計画で、すでに計画を上回る7710億円が削減できる見通しです。特に防衛装備庁が発足し、調達改革が本格化した29、30年度は年2千億円程度の削減ができていることから、財務省は「(次期中期防でも)この水準は最低限達成したうえで、さらなる上乗せを目指すべきだ」とし、5年で1兆円以上のコスト削減を求めました。

財務省が調達コストの大幅削減を提案するのは、市場価格がなく、原材料費なども不透明な防衛装備品には、まだコストを削減する余地が残されているとみているからのようです。

特に防衛装備品の取得単価をみると、計画段階の価格と比べて高額になっているものも少なくないです。一般的に量産が進めば生産効率が上がるため価格は下がるのが普通ですが、財務省が調査したところ、26~30年度の5年間で87両を購入した機動戦闘車は1両あたり4億8千万円の計画だったのですが30年度に実際に購入した際の単価は7億6千万円と58%も上昇。地対艦誘導弾も計画では85億2千万円だったのですが同年度の取得単価は129億4千万円に上ったといいます。

部品の輸入単価の上昇や原材料費の高騰などが要因と考えられますが、詳細は公表されていません。財務省は「計画単価を公表し、取得単価が計画を上回った場合は優先順位を決め、調達計画を見直すことも必要だ」と提言。世界の防衛産業が大規模化していることを踏まえ、国内防衛関連企業の再編の必要性も指摘しました。

過去の防衛費の推移や、今回の「5年間で最低でも1兆円の削減が可能」という発言からみても、どうも財務省は防衛費を増やしたくないようです。

なぜ財務省主計局は国防費削減に拘るのでしょうか。答えは簡単です。それが仕事だからです。財務省主導の与太話で、財政赤字で日本は破産するのではなどとまことしやかなことが言われています。

そうなると、建前上緊縮財政で少しでも予算を削らなければならないことになります。そうなると国防費を削るのは主計官の仕事になってしまうのです。少なくとも、余程の条件、たとえば戦前の満洲事変以降の事態のようなものがない限り、国防費増額などまともには無理でしょう。主計官にとって「過去につけた予算をいかに削るか、無駄な予算を認めないか」が腕の見せ所になるのです。

なぜ他の予算と違って、防衛予算は一方的に削られやすいのでしょうか。理由は二つあります。一つは額が大きいからです。戦車一台約十億円、戦闘機一機約百億円、軍艦一隻数千億円。分割できない一つの単位でこれなのですから、額が小さい予算を細かく見るより効率の良い査定ができます。

こういうと、しかしダムや道路だって規模が大きいではないか、他にも公共事業など色々あるではないか、という疑問をお持ちの方も居るでしょう。そこで二つ目の理由であり、表題の疑問への解答です。

結局抵抗力が弱いからです。額が大きくて抵抗力が弱い、これほど削りやすい項目が他にあるでしょうか。例えば公共事業費や農林関係費を削ろうとすると、国土交通省や農水省の応援団である族議員があの手この手で圧力をかけたりしつこく陳情に来たり、と説得が大変なのです。

福祉予算を削ろうものなら同じく社労関係族議員が押しかけてきたり、マスコミに人でなし呼ばわりされたり、と大義名分を探すだけでも一苦労になります。あと社労関係は法律が特に難解で、という大変さもあります。

それに引き換え、防衛省はどうでしょうか。経済財政諮問会議に呼ばれていましたか。何を主張していましたか。

官僚はしばしば権限争奪に奔走しすぎると、批判されます。しかしこと防衛省自衛隊に関してはそれは当てはまらないでしょう。

これだけ周辺諸国の脅威がある中で、防衛費の増額を実現できない防衛省自衛隊、官僚機構の論理としては無能者の烙印をおされてしかるべきでしょう。

その代わり、先に再反論しておきます。「今の予算で間に合っているのですか。あなた方がまともな防衛費を獲得できないことで日本の国防は危機に瀕していないと言えますか。99条や国民の無理解無関心は同情に値しますが、それを改善するためにどれだけの努力をしましたか」と。

田母神騒動以来、防衛省自衛隊は、ただでさえ設立以来肩身が狭いのに、ますます萎縮しています。しかしそれに関しては私は納得できません。

内局の背広組はもちろん、将校以上の高級軍人は政治のことも認識していなければならないのは古今東西自明の理です。ましてや官僚機構の論理を知ってしかるべきです。戦前の陸海軍は予算獲得が自己目的化して組織がおかしくなりましたが、戦後の自衛隊はまともな予算を取れずに組織がおかしくなっています。

高速道路を走る自衛隊の車輌

ちなみに、上記の予算の折衝の話の中には、含めませんでしたが、自衛隊では高速道路の料金を削減する努力をしているそうです。そもそも、高速道路の料金を自国防衛の重要機関である自衛隊が支払ってるってことですら呆れてしまいます。

米軍では、公用であるということで、高速代金は無料になっています。当然自衛隊の公用もそのように扱うべきです。

自衛隊が高速道路代をゼロとするとどうなるでしょうか。演習や訓練にいく日程のほとんどが下道を走り、演習場にたどりつくっ時間に費やされ、演習や訓練時間が短縮されてしまいます。何をするにしても迅速に対処したくても移動に時間がかかるので早く対処はできません。

演習や訓練にたどりついたころには長時間の下道移動でクッションのない自衛隊車両での移動で足腰がガタガタになっていて、ふらふらになるわけです。元気いっぱい訓練するということもできないのです。

ちなみに自衛隊の訓練場や演習に使う場所など自衛隊の土地も、予算削減のために売り払われているので演習地もどんどん遠くになり不便になっていっています。それも含めて予算を削減し、安くすませるために自衛隊の能力をどんどん削ってしまうのがこの高速道路代削減です。

デフレ脱却について自民党の「日本の未来を考える勉強会」が提言書を7月6日に出しました。この中には、防衛予算を増やすことも明記されています。

防衛予算については、上記で示した通り、まだまだ足りない状況ですが、それでも増やせることについてきちんと言及してくれる存在は嬉しいです。

消費税増税などとんでもないです。消費税増税をすれば、個人消費が冷え込み、景気が低迷し、税収が減り、ますます防衛予算の削減に拍車がかかりかねません。今、必要なのは財政支出の拡大ですし、最も重要な国の安全についてはしっかりお金をかけるべきです。

中国は全力でありえないほどの防衛予算を費やし、領土拡大に本気で準備しているのに国そのものがなくなったら財務省の大好きな節約もできなくなります。

現状は、中国の脅威、北朝鮮の脅威など、誰にでも理解できる脅威が日本に迫っています。今の自衛隊で、本当に日本を守れるのでしょうか。

安易に核武装論を唱える論者にも一言いいたいです。財務省主計局を説得できる理論武装をしましょう。政治家や国民を煽るのも結構ですが、核を何発か持てば国防は終わり、ではないのです。むしろそこから先が大変なのです。

最後に、クラウゼヴィッツ「戦争は、国民と軍隊と政府が三位一体で行うものである」と語っています。誰かのせいにするのではなく、今後どうあるべきかを禁忌抜きで議論すべきなのです。

「九条への批判は許さない」と同様、「自衛隊は可哀想だから批判するな」も禁忌にしてはいけないでしょう。戦後の特殊事情というあらゆる呪縛から自由な議論こそが求められるでしょう。

そこから、日本のあるべき防衛論を組み立て、それに見合った防衛予算を組むべきなのです。

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