【真・人民日報】世界で沸騰する新型コロナ「中国責任論」 日本の報道からは見えづらい欧米各国の“思惑”
米国に続き、メルケル氏ら欧州首脳からも対中不信の声が上がる
今週は新型コロナ問題で中国「責任論」が世界で沸騰している問題を取り上げたい。
中国の初期対応に過失はあったのか。感染源は武漢のウイルス研究所なのか。謎の解明は科学のアプローチに委ね、本稿では国際的な批判の高まりの裏側に目を向けて行きたい。
3月末まで、習近平のコロナ対策を評価していたドナルド・トランプ大統領が、にわかに攻撃に転じたのは4月上旬のことである。
動機は自国の感染対策で出遅れ、大統領選挙にも不利になったからだ。
中国の隠蔽(いんぺい)体質で米国に必要な情報が得られなかったと怒りを爆発させ、中国に忖度(そんたく)して国際機関の役割を果たせなかったと世界保健機関(WHO)も批判した。新型コロナが武漢の研究所から流出したのでは、との疑惑にも言及した。
地元メディアには「米情報機関」のリークがあふれ、米中間にはきな臭い空気も流れた。本来、疑うに足る情報ならばさっさと公開すべきだが、それもせず、ただ「情報機関」という響きに真実性が与えられて独り歩きする流れは、イラク戦争へと向かっていった過去を彷彿とさせる。
ただ、もちろん中国が被害者であるはずはない。国際的にも中国に厳しい風が吹き始めている。
エマニュエル・マクロン仏大統領は「中国が新型コロナの流行にうまく対処していると『ばか正直』に信じてはいけない」と警告し、ドミニク・ラーブ英外相(首相代講)は、新型コロナがどう発生し、なぜ早期封じ込めに失敗したのか、中国に「厳しい質問をせざるを得ない」と語っている。
アンゲラ・メルケル独首相も中国が「発生源に関する情報をもっと開示していたなら、(中略)より良い結果になったと思う」と隠蔽を疑う発言をし、マリス・ペイン豪外相も、独立調査の必要性を求め、米国に歩調を合わせた。
まさに中国包囲網が形成されているようだ。だが、これには2つの流れがあり、1つは国民感情としての「嫌中」、もう1つが国として中国に厳しい顔を見せる対応だ。
前者は一時的な「中国製」嫌悪を招き中国経済に打撃となるが、前例から見て長続きはしない。
後者も、トランプ氏の中国攻撃でにわかに活気づいた日本人が期待するような話ではない。
第一、日本の報道からは各国の思惑が少しも見えていない。不思議だ。
国のトップが発信する以上、何かを獲得するか、何かを防衛する意図がないはずはない。だが日本人は「やっと世界が中国の問題に気が付いた」という好き嫌い-実は官僚もこのレベル-に落着させて納得するため、各国がどんなカードを手に列に加わったのかを見逃すのだ。まるでパーティーの招待状に「軽装」とあるのを真に受けて出かけるような軽率さだ。この国の人々は、願望をむき出しに国際情勢を分析する恐ろしさを、いつになったら学ぶのだろう。
■富坂聰(とみさか・さとし) 拓殖大学海外事情研究所教授。1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者などを経てジャーナリストとして活動。中国の政・官・財界に豊富な人脈を持つ。『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)など著書多数。近著に『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』(PHP新書)。
【私の論評】米中「ウイルス情報戦」は米国圧勝、中国はチェルノブイリの二の舞を舞うことになる(゚д゚)!
今年に入って、人類史に必ず残るだろう災厄が出現しました。新型コロナウイルスです。一方、2018年からは米中覇権戦争が勃発しました。中国ウイルス(コロナウイルスのこと)は、この米中戦争の情報戦に使える「最高のネタ」になっています。
かつて、チェルノブイリ事故を隠蔽して国際的に非難されたソ連は、5年後に崩壊しました。コロナは中国共産党にとっての「チェルノブイリ」になる可能性が濃厚です。
チェルノブイリの作業員達
2018年、米中覇権戦争が始まりました。米国と中国は、相手国を破壊し尽くせるだけの核兵器を持つため、両国の「戦闘」は起こりにくく、戦争は「別の形態」を取るようになっています。情報戦、外交戦、経済戦、代理戦争などです。
情報戦の目的は、「敵国を悪魔化する」ことです。中国発で、世界を恐怖に陥れ、たくさんの感染者と死者を出している「新型中国ウイルス」は、米国にとって、情報戦に使える最高の材料です。
4月3日時点で、全世界の感染者数は100万人を超えました。死者数は5万3000人。感染者数も死者数も、どこまで増え続けるのか、誰にも予測できません。
ポンペオ国務長官は、新型中国ウイルスを、世界保健機関(WHO)が定めた「COVID-19」とは言わず、「武漢ウイルス」と呼んでいます。初期の段階で、彼が「武漢ウイルスと呼ぶことで、中国を悪魔化しよう」と考えていたかは不明です。しかし、ポンペオ長官を本気にさせる事件が起こりました。
このブログでも以前掲載させていただたように、中国政府が、「新型コロナウイルスを武漢に持ち込んだのは米軍だ」と主張し始めたのです。
これは市井のトンデモ陰謀論者の発言ではありません。中国外務省の趙立堅報道官の言葉であることが重要です。日本人でこのツイートを重要視する人は少ないとでしょう。「また中国政府が、トンデモ主張し始めた」とあきれ、苦笑するぐらいかもしれません。
しかし、事はそう単純ではありません。確かに、日本が属する「米英情報ピラミッド」や「欧州情報ピラミッド」で「米軍起源説」が力を持つことはないです。ところが、世界には「中共情報ピラミッド」や「クレムリン情報ピラミッド」もあります。特に「中共情報ピラミッド」では、「米軍起源説」が「定説」になる可能性すらあります。
なぜでしょうか?中国やロシアなどの独裁国家です、国民を好きに洗脳できるからです。たとえば、ロシアの情報空間内では、2014年3月のクリミア併合が「絶対善」となっています。
2014年7月に起きた「マレーシア機撃墜事件」についても同様です。全世界では、「ウクライナ東部の親ロシア派による誤爆」が定説になっています。しかし、クレムリン情報ピラミッド内では、「ロシアを孤立させたいウクライナ軍が意図的に撃墜した」が「定説」になっています。
つまり、政府がメディアを支配している国では、政府の意図通りの情報を国民に信じさせることができるのです。中国では、ロシア以上に、政府がメディアを完全支配しています。だから、中国政府が国民に「新型コロナウイルスを持ち込んだのは米軍だ」と信じさせることは、十分可能だろう。
これは、すでに南京虐殺でも実証されているところです。20万人、30万人の市民を殺害するということは、想像を絶するほどの労力を必要とします。2千人とか、3千人などであれば、あり得ると思いますが、しかし、中国政府は30万に登る虐殺があったことを国民に信じさせることに見事に成功しています。
中国の南京市にある南京大虐殺記念館の展示を見る訪問者(2015年10月10日)
そして「米軍起源説」は、習近平政権を守る役割も果たします。「習近平政権が隠蔽(いんぺい)したから、新型コロナウイルスが、全中国、全世界に広がった」というネガティブ情報を、中国国民にわざわざ伝える必要はないです。そうではなく、「悪の米軍が中国にウイルスを持ち込んだが、習主席は、この攻撃を食い止めた英雄なのだ」と信じさせれば良いのです。
こういう「中共情報ピラミッド」の事情を知っていれば、米国政府も本気にならざるを得ないです。まず、トランプ大統領自身が、「参戦」してきました。
トランプ米大統領は3月17日、新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んだことに中国が反発しているのに対し「ウイルスは中国から来たのだから全く正しい呼称だと思う」と正当化しました。ホワイトハウスでの記者会見で語りました。
「中国が『ウイルスは米軍が持ち込んだ』と偽情報を流すから来た場所の名前で呼ぶべきだと言った」と反論しました。
中国にレッテルを貼ることにならないかと問われると「そうは思わない。『ウイルスを米軍が持ち込んだ』という方が問題だ」と述べました。
トランプのこの発言、日本人の大部分は、「大人げない」と思ったかもしれません?しかし、情報戦の観点からすると、トランプは正しく行動しているのです。このまま中国の「米軍起源説」を見過ごせば、「気づいたら、米軍起源説が世界の定説になっていた」となりかねないのです(南京30万人大虐殺説や、韓国人慰安婦20万人強制連行説が世界で定説になったように)。
ついで、ポンペオ長官は、「情報戦の味方を増やそう」と画策しました。つまり、「武漢ウイルス」と呼ぶ国を増やすのです。
米紙ワシントン・ポストは25日、主要7カ国(G7)外相がテレビ会議方式で開いた会合で、ポンペオ米国務長官が新型コロナウイルスを「武漢ウイルス」と呼ぶよう訴えたと報じました。
その理由についてポンペオ長官は、以下のように述べている。議長を務めたポンペオ氏は記者会見で中国が偽の情報を流布していると指摘し「G7各国はそれを把握している」と表明しました。
やはり、米国政府は、中国の「トンデモ米軍起源説」を「深刻な脅威」と認識しているのです。
しかし、米国以外の国は、この恐怖を共有していません。それに、中国差別を助長しかねない「武漢ウイルス」という用語は、「ポリティカルコレクトネス」違反と受け取られたようです。結果、他の国々は、ポンペオ提案に同意しませんでした。
現状、世界中の国々が、自国の「コロナ対策」で忙しいです。それで、米中が繰り広げる情報戦に、あまり興味はないでしょう。
しかし、米国と「特別な関係にある」英国は、味方になりそうです。この国では、チャールズ皇太子も、ボリス・ジョンソン首相も、新型コロナウイルスに感染しています。全く「他人事」ではないのです。ジョンソン首相は、中国に激怒しているとい。
イギリスのジョンソン政権は、中国の新型コロナウイルスへの対応に激怒しているようです。3月29日(現地時間)の報道によると、政府関係者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の危機が落ち着いたら、中国は「報い」を受けるだろうと警告しています。
イギリスの政府関係者は、中国が新型コロナウイルスの感染拡大の深刻度について誤った情報を拡散したと考えています。(BUSINESS INSIDER JAPAN 3/31)
「中国ウイルス」「武漢ウイルス」vs「米軍ウイルス」の情報戦は、どうなるのだろうか?
「中国は、米軍起源説を、自国民に信じさせることができる」ということを踏まえても、米国の勝ちでしょう。なんといっても、「新型コロナウイルスは、中国武漢で発生した」のですから。
米国は、いつの間にか、感染者数世界一になってしまいました。4月3日時点で、感染者数は24万人、死者は5000人を超えています。恐ろしいことに、感染者も死者も、どこまで増えていくかわからないです。経済的打撃も、リーマンショック後の08~09年を上回ることは確実です。破産、倒産が日常化し、町は失業者であふれることになります。
米国民の怒りは普通なら、為政者であるトランプに向かうでしょう。しかし、トランプはこう言っています「これは、私の責任ではない。中国政府が、初期の段階で情報を隠蔽したことが今の惨状の原因だ。我々は、中国政府の責任を厳しく追及していく」と。
こうして彼は、見事に責任を中国に転嫁することに成功する(「転嫁する」というか、事実であるが)。ポリティカルコレクトネスが浸透している日本や欧州は、おそらくトランプに追随しないでしょう。しかし、「自分の責任にされたくない」多くの国の指導者たちは、トランプに続くのではないでしょうか。
米中両国はこれまでも、覇権をかけて、さまざまな形の戦いを繰り広げてきました。
<経済戦>
わかりやすいのは、2018年7月からの「関税引き上げ合戦」です。また、米国が、世界中の国々に「中国のファーウェイを5Gから追い出せ」と圧力をかけているのも、「経済戦争」に分類できるでしょう。
<代理戦争>
米国は、中国と対峙する台湾への武器売却を大幅に増やしています。あるいは、香港の民主化勢力を支持しています。昨年世界を揺るがした「香港デモ」は「米国の作品」というのが、中国政府の見解です。
情報戦は、どうだろうか?昨年まで、米国は「ウイグル問題」を情報戦に使っていました。
中国政府が新疆ウイグル自治区でウイグル人を約100万人、テロ取り締まりを「口実」に拘束していると、国連は懸念を強めています。
中国はウイグル人100万人を強制収容しています。この衝撃的な事実は、「敵国悪魔化」という目的にピッタリのテーマです。ペンス副大統領やポンペオ国務長官は、この問題をしばしば取り上げ、中国を厳しく非難してきました。
たとえば、ポンペオ長官は2019年7月18日、「信教の自由に関する閣僚級会合」で演説し、「中国では、現代における最悪の人権危機の1つが起きている。これはまさしく今世紀の汚点である」と述べています。これは、事実であるが故に、強力です。
最近では、「中国共産党は現代のナチス」「習近平は現代のヒトラー」という言葉をしばしばネットで見かけるようになりましたが、その最大の理由は、中国政府がウイグル人100万人を強制収容していることです。
かつて、ソ連という独裁国家が存在しました。この国で1986年4月、「チェルノブイリ原発事故」が起こりました。ソ連は当初、この事実を隠蔽したのですが、スウェーデンが「放射能レベルが上がっている」ことに気づき、ソ連政府に「原発事故があったのではないか?」と問い合わせました。
ソ連は「事故は起こっていない」とシラを切ったのですが、スウェーデン政府が「では、国際原子力機関に報告させてもらう」と脅したところ、一転して事故の事実を認めたのです。
VIDEO
チェルノブイリ事故を当初隠蔽当時のソ連は、武漢ウイルスの発生を隠蔽した 今日の中国にかぶる。ドラマ「チェルノブイリ」の予告編。
中国の武漢で新型コロナウイルスが発生したこと自体は、仕方のないことです。同じようなウイルスが、日本、米国、欧州で発生することも、あり得るかもしれないです。しかし、世界が問題にしているのは、「発生した事実」ではありません。
中国政府が「隠蔽」したことで、全世界にウイルスが拡散されてしまったことです。しかも中国は、反省するどころか「武漢にウイルスを持ち込んだのは米軍だ」と、トンデモ主張をすることで、責任を米国に転嫁しようとしています。
1986年に原発事故を起こしたソ連は、わずか5年後の1991年に崩壊しました。新型コロナウイルス問題は、チェルノブイリ問題をはるかに凌駕する大問題です。この問題が、中国共産党政権にとっての「チェルノブイリ」になる可能性は、かなり高いとみるべきです。
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